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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180804
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】塗布装置および塗布方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/00 20060101AFI20231214BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20231214BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20231214BHJP
   B05C 11/00 20060101ALI20231214BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B05C5/00 101
B05D1/26 Z
B05D3/00 B
B05C11/00
B05C11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094405
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 和利
(72)【発明者】
【氏名】阿部 敬行
【テーマコード(参考)】
4D075
4F041
4F042
【Fターム(参考)】
4D075AC06
4D075AC09
4D075AC84
4D075AC88
4D075AC91
4D075AC92
4D075AC93
4D075AC94
4D075AC95
4D075AC96
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA08
4D075DB14
4D075DC22
4D075EA05
4F041AA01
4F041AB01
4F041BA01
4F041BA10
4F041BA13
4F041BA22
4F041BA34
4F042AA01
4F042AB00
4F042BA05
4F042BA08
4F042BA10
4F042BA12
4F042BA21
4F042BA27
4F042CA01
4F042CB02
4F042CB10
4F042CB20
4F042DF09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】基板に厚さのバラツキが小さい塗布膜を形成する塗布装置および塗布方法を提供する。
【解決手段】塗布装置1は、ステージ11に支持された基板90の塗布面に交差する回転軸周りに回転するシャフト14と、前記塗布面に向けて液体を吐出する少なくとも1つのノズルを有し、前記シャフト14に接続されたヘッド20内において、液体が前記回転軸の遠い位置から前記回転軸に近い位置に向かって流れるように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が塗布される面に交差する回転軸周りに回転するシャフトと、
前記面に向けて前記液体を吐出する少なくとも1つのノズルを有し、前記シャフトに接続されたヘッドと、
を備える塗布装置。
【請求項2】
前記シャフトとともに回転する回転部分と、前記シャフトが回転しても回転しない非回転部分とを備える導電部をさらに備える、
請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記導電部は、前記回転部分として、前記回転軸が延在する方向に沿って配置された複数の環状接触部を有するリング部材を備え、前記非回転部分として、複数の前記環状接触部にそれぞれ接触する複数のブラシを有するブラシ部材を備える、
請求項2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記導電部は、前記回転部分として、前記ヘッドに接続されたケーブルの第1端部を備え、前記非回転部分として、前記ケーブルの第2端部を備える、
請求項2に記載の塗布装置。
【請求項5】
前記シャフトの外周面に固定されており、前記ケーブルの前記第1端部と前記第2端部との間の一部を保持するグリップ部をさらに備える、
請求項4に記載の塗布装置。
【請求項6】
前記ヘッドは、前記液体が前記ヘッド内において前記回転軸から遠い位置から前記回転軸に近い位置に向かって流れるように構成されている、
請求項1から5のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項7】
前記ヘッドに前記液体を供給する供給配管と、
前記ヘッドから前記液体を回収する回収配管と、をさらに備え、
前記供給配管は、前記回収配管が前記ヘッドに接続される位置よりも、前記回転軸から遠い位置において前記ヘッドに接続されている、
請求項6に記載の塗布装置。
【請求項8】
前記タンクを支持する支持部材であって、前記ヘッドに対する前記タンクの相対高さを変更する支持部材、をさらに備える、
請求項7に記載の塗布装置。
【請求項9】
前記相対高さは、前記シャフトが静止し、かつ、前記圧電素子および前記ポンプが作動していない状態で、前記複数のノズルの少なくとも1つから前記液体が出てくる相対高さに設定されており、
前記ポンプの吸込量は、前記シャフトが回転し、かつ、前記圧電素子が作動していない状態で、複数の前記ノズルから前記液体が出てこない吸込量に設定されている、
請求項8に記載の塗布装置。
【請求項10】
前記シャフトの回転速度をN(rpm)とし、前記ノズルから前記回転軸までの距離をrとし、前記ノズルから吐出された液滴が前記面に着弾して形成するドットの直径をdとした場合、前記圧電素子は前記液滴を、前記ノズルから下記式で示される周波数fで吐出するように作動する、請求項6に記載の塗布装置。
f=r×2π×N/(60×d)
【請求項11】
ノズルを有するヘッドを液体が塗布される面に交差する回転軸周りに回転させ、
前記ノズルから前記液体を吐出する、
ことを含む、塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗布装置および塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハー等の円形基板上にレジスト膜または保護膜など各種膜を形成するために、スピンコータ装置が広く用いられている。スピンコータ装置は、基板の中央部に膜となる液体を供給するとともに円形基板を回転させる。円形基板を回転させることによって、液体が遠心力で円形基板の中央部から外周部に拡散し、基板上に均一な膜が形成される。余剰の液体は基板外に飛散する。
【0003】
このとき、遠心力で基板上の液体がどのように拡散するか見極める必要がある。しかしながら、一般的に、スピンコータ装置で形成される膜は、外周部に近づくにつれて厚くなる傾向がある。また、液体の種類によっては、遠心力で均一に拡散させることが難しいものや、不均一に拡散していく特性を持つものがある。これらの液体で膜を形成する場合、円形基板上で均一な厚さの膜を形成することは困難である。また、液体の種類毎に条件を調整することが困難な場合もある。
【0004】
このような問題点を解決すべく、特許文献1には、基板表面に液滴を最適なパターンで付着させ、基板を所要の回転速度で回転させ、最適なパターンで付着させた液滴を基板表面上で広げて均一膜厚の薄膜を形成する薄膜形成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-327912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の方法は、回転する基板表面に液滴を最適なパターンで付着させる必要がある。これを実行するには、基板の表面物性を考慮した液体解析などが必要となる。つまり、特許文献1に開示の方法の実行は容易ではない。また、実行できたとしても、基板上に供給された液体を外周部へ均一に拡散させる必要があることには変わりが無く、塗布膜の均一性の確保は困難であると考えられる。
【0007】
本開示は、基板に厚さのバラツキが小さい塗布膜を形成する塗布装置および塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る塗布装置は、液体が塗布される面に交差する回転軸周りに回転するシャフトと、前記面に向けて前記液体を吐出する少なくとも1つのノズルを有し、前記シャフトに接続されたヘッドと、を備える。
【0009】
本開示に係る塗布方法は、ノズルを有するヘッドを液体が塗布される面に交差する回転軸周りに回転させ、前記ノズルから前記液体を吐出する、ことを含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、基板に厚さのバラツキが小さい塗布膜を形成する塗布装置および塗布方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る塗布装置の斜視図。
図2】ヘッドにおける液体の流れを示す模式図。
図3】ヘッドにおける液体の流れを示す模式図。
図4】液体が塗布される様子を模式的に示す図。
図5】塗布途中の基板およびヘッドを示す平面図。
図6図5中のVI部分の拡大図。
図7】第2設定工程を説明する図。
図8】ヘッド回転速度と吐出不良数の関係を示すグラフ。
図9】ポンプの吸込量が調整された後のヘッド回転速度と吐出不良数の関係を示すグラフ。
図10】ヘッドを4回転させて一様な塗布膜を形成する工程を説明する図。
図11】ヘッドを4回転させて一様な塗布膜を形成する工程を説明する図。
図12】ヘッドを4回転させて一様な塗布膜を形成する工程を説明する図。
図13】ヘッドを4回転させて一様な塗布膜を形成する工程を説明する図。
図14】塗布パターンの例を示す図。
図15】他の塗布パターンの例を示す図。
図16】さらに他の塗布パターンの例を示す図。
図17】第2実施形態に係る塗布装置の斜視図。
図18】第2実施形態に係る塗布装置で液体を塗布する工程を説明する図。
図19】第2実施形態に係る塗布装置で液体を塗布する工程を説明する図。
図20】第2実施形態に係る塗布装置で液体を塗布する工程を説明する図。
図21】第2実施形態に係る塗布装置で液体を塗布する工程を説明する図。
図22】第2実施形態に係る塗布装置で液体を塗布する工程を説明する図。
図23】第2実施形態に係る塗布装置で液体を塗布する工程を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。各図面には、XYZ直交座標系が示されている。液体塗布の対象となる面は、XY平面に沿うように配置される。この面に向けて、Z軸負方向に沿うように液滴が吐出される。本明細書において、上側または上方とは、Z軸に沿った正方向であり、下側または下方とは、Z軸に沿った負方向である。また、回転軸を原点として回転軸から放射状に延びる1つの軸をr軸と定義する。ヘッド20内において、液体はr軸の負方向に(つまり回転軸に向かう方向に)供給される。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本開示の一態様である第1実施形態に係る塗布装置1の斜視図である。塗布装置1は、基板90の面に液体を塗布して膜を形成する装置である。基板90は円形基板である。
【0014】
第1実施形態に係る塗布装置1は、ステージ11、支柱12、モータ13、シャフト14、上部ブラケット15、支持部材16、タンク17、ポンプ18、下部ブラケット19およびヘッド20を備える。また、塗布装置1は、供給配管21、回収配管22、リザーブ配管23、ブラシ部材24、リング部材25、接続端子26、ヘッド用配線27およびポンプ用配線28を備える。また、塗布装置1は、モータ13、ポンプ18およびヘッド20を制御する制御部を備えている。なお、モータ13、ポンプ18およびヘッド20は、塗布装置1が備える制御部ではなく、塗布装置1と通信可能に接続された外部のコンピュータによって制御されてもよい。
【0015】
ステージ11は、液体が塗布される間に基板90が動かないように、例えば真空吸着で固定した状態で、基板90を支持する。ステージ11は、ステージ11の中心と基板90の中心が鉛直方向に並ぶ(つまり、平面視で重なる)ように基板90を支持する。
【0016】
支柱12は、Z軸に平行(つまり鉛直)に延在する柱部分と、水平(例えばX軸に平行)に延在する梁部分とを備える。支柱12の柱部分はステージ11に固定されており、支柱12の梁部分は、柱部分に固定されるとともにステージ11の中心付近に位置している。なお、支柱12は、複数の柱部分と、複数の柱部分の間に掛け渡された梁部分を備えていてもよい。また、支柱12の柱部分は、ステージ11に固定されず、塗布装置1が載置される床面に固定されていてもよい。
【0017】
モータ13は支柱12の梁部分に支持されており、ステージ11の中心とZ軸方向に並ぶように配置されている。モータ13は制御部からの制御信号に従って、回転速度および回転量を変更することができるように構成されている。また、モータ13はエンコーダを備えており、回転量および回転角度を示す信号を制御部に送信することができる。
【0018】
モータ13には中空のシャフト14が取り付けられている。シャフト14はモータ13によって1方向(平面視で時計回り方向または反時計回り方向)に回転させられる。図1中の矢印は、シャフト14の回転方向の例を示している。シャフト14は、シャフト14の中心軸つまり回転軸がステージ11に固定された基板90の面に交差するように配置されている。シャフト14は、具体的には、シャフト14の回転軸が基板90の面に直交するように配置されている。また、シャフト14は、シャフト14の回転軸上にステージ11の中心が位置するように配置されている。よって、基板90は、基板90の中心がシャフト14の回転軸上に位置するように、ステージ11上で位置決めされることになる。
【0019】
シャフト14の上端部と下端部との間には、上部ブラケット15が取り付けられている。上部ブラケット15は、回転軸に沿うシャフト14の任意の位置に固定することができるように構成されている。
【0020】
上部ブラケット15には支持部材16が取り付けられている。支持部材16は、例えば板状の部材であり、タンク17およびポンプ18を支持する。
【0021】
タンク17は、基板90に塗布される液体を貯留する容器である。
【0022】
ポンプ18は、基板90に塗布される液体を吸い込んで送出する装置である。
【0023】
シャフト14の下端部には下部ブラケット19を介してヘッド20が取り付けられている。ヘッド20は、基板90に向けて液体を吹き付ける部材である。ヘッド20は、シャフト14の回転軸と直交する方向に延在するように配置されている。つまり、ヘッド20は、シャフト14に近い位置に配置された端部と、シャフト14から遠い位置に配置された端部を有する。以下、シャフト14に近い位置に配置されたヘッド20の端部を、内端部と記載し、シャフト14から遠い位置に配置されたヘッド20の端部を、外端部と記載する。ヘッド20の延在方向に沿ったヘッド20の長さ、つまり、内端部と外端部との間の距離は、基板90の半径よりも長い。
【0024】
タンク17とヘッド20との間には、供給配管21が配設されている。供給配管21の流出端部は、ヘッド20の外端部に接続される。液体は、重力およびポンプ18による吸引によって、供給配管21を介して、タンク17からヘッド20に流下する。
【0025】
ヘッド20とポンプ18との間には、回収配管22が配設されている。回収配管22の流入端部は、ヘッド20の内端部に接続される。つまり、供給配管21は、回収配管22よりも回転軸から遠い位置でヘッド20に接続されている。液体は、ポンプ18が作動することによって、回収配管22を通って、ヘッド20からポンプ18に流れる。
【0026】
ポンプ18とタンク17との間には、リザーブ配管23が配設されている。液体は、ポンプ18が作動することによって、リザーブ配管23を通って、ポンプ18からタンク17に流れる。
【0027】
つまり、タンク17、供給配管21、ヘッド20、回収配管22、ポンプ18およびリザーブ配管23は、ここに挙げられた順に液体が循環する循環経路を構成する。
【0028】
図2および図3は、ヘッド20における液体の流れを示す模式図である。図2および図3に示される矢印は液体の流れを示している。ヘッド20の内部には、供給流路29および回収流路30が形成されている。供給流路29には供給配管21が接続されており、回収流路30には、回収配管22が接続されている。供給流路29と回収流路30との間には、複数の液室31が配置されている。各液室31には液体が充満している。なお、図3においては、各液室31を仕切る隔壁の図示が省略されている。ヘッド20は、液体が、ヘッド20内において回転軸から遠い位置から回転軸に近い位置に向かって流れるように構成されている。供給配管21は、ヘッド20の半径方向(r軸方向)の正方向端部に接続され、回収配管22は、ヘッド20の半径方向(r軸方向)の負方向端部に接続されていてもよい。また、ヘッド20は、半径方向(r軸方向)に延伸するように形成され、配置されていてもよい。
【0029】
本実施形態において、複数の液室31は、シャフト14の回転軸に直交する1つの直線に沿って並ぶように配置されている。各液室31は、口径が互いに等しいノズル32に連通している。複数のノズル32は、シャフト14の回転軸に直交する1つの直線上に整列していてもよいし、していなくてもよい。つまり、複数のノズル32は、半径方向(r軸方向)に配列されていてもよい。いずれにしても、複数のノズル32は、供給配管21とヘッド20との接続位置よりも回転軸から遠く、かつ、回収配管22とヘッド20との接続位置よりも回転軸に近い位置に位置している。
【0030】
各液室31はそれぞれ圧電素子を備えている。圧電素子に電圧が印加されると、液室31内の液体に圧力が加わり、ノズル32から液体が液滴91として吐出される。各圧電素子に印可される電圧は互いに等しい。また、各ノズル32から吐出される液滴91の大きさは互いに等しい。
【0031】
続いて、圧電素子に電力および制御信号を供給する導電部について、再び図1を参照して説明する。
【0032】
ヘッド20が備える圧電素子には、図1に示されるブラシ部材24、リング部材25、接続端子26およびヘッド用配線27を備える導電部を介して、電力および制御信号が供給される。導電部は、シャフト14の中に配設され、リング部材25と接続端子26とを接続する配線を備えている。
【0033】
ブラシ部材24とリング部材25は、スリップリングを構成する。
【0034】
ブラシ部材24は、支柱12またはモータ13に固定されており、電源から電力供給を受け、制御部から制御信号を受ける。ブラシ部材24は、シャフト14が回転しても回転しない。つまり、ブラシ部材24は導電部の非回転部分を構成する。ブラシ部材24は、シャフト14の回転軸と平行に並ぶ複数のブラシを備える。
【0035】
リング部材25は、シャフト14の外周面に固定されている。リング部材25は、シャフト14の回転軸に沿って並ぶ複数の環状接触部を備える。複数の環状接触部はシャフト14の回転軸と同心となり、かつ、シャフト14の外周面を取り囲むように配置されている。リング部材25はシャフト14と一体的に回転する。つまり、リング部材25は、導電部の回転部分を構成する。また、接続端子26およびヘッド用配線27も導電部の回転部分を構成する。
【0036】
ブラシ部材24の1つのブラシが、リング部材25の1つの環状接触部に接触する。各ブラシは、シャフト14が静止している場合はもちろん回転している場合も、各環状接触部に接触し続ける。よって、リング部材25は、シャフト14が回転している間も、ブラシ部材24から電力および制御信号を受けることができる。
【0037】
ブラシ部材24からリング部材25が受けた電力および制御信号は、シャフト14内に配設された配線、接続端子26およびヘッド用配線27を介して、ヘッド20(具体的には圧電素子)に伝送される。
【0038】
また、接続端子26とポンプ18との間にはポンプ用配線28が配設されている。ブラシ部材24からリング部材25が受けた電力および制御信号の一部は、シャフト14内に配設された配線、接続端子26およびポンプ用配線28を介して、ポンプ18に伝送される。
【0039】
本実施形態に係る塗布装置1は以上のように構成されている。よって、モータ13が回転することによって、シャフト14が回転する。シャフト14が回転すると、シャフト14と一体的に、上部ブラケット15、支持部材16、タンク17、ポンプ18、下部ブラケット19、ヘッド20、供給配管21、回収配管22およびリザーブ配管23が、例えば図1に示される矢印の方向に回転する。また、リング部材25、接続端子26、ヘッド用配線27およびポンプ用配線28が、シャフト14と一体的に、例えば図1に示される矢印の方向に回転する。
【0040】
図1にはヘッド20がX軸と平行に延在している状態が示されている。以降、図1に示されるヘッド20の位置を、初期位置と記載する場合がある。初期位置は、塗布装置1が基板90に液体を塗布し始めるときのヘッド20の位置である。初期位置にある場合、ヘッド20の内端部から外端部に向かう方向は、X軸正方向と等しい。
【0041】
続いて、液体が塗布される様子を模式的に示す図4を参照しながら、塗布装置1が基板90に液体を塗布する動作、つまり、塗布装置1による塗布方法の概要を説明する。図4中の実線矢印はシャフト14の回転方向を示している。また、図4中の白抜きの矢印は、液体の流れを示している。
【0042】
モータ13が作動することによって、シャフト14が回転軸周りに回転する。すると、シャフト14と一体的に、ヘッド20等が回転軸周りに回転する。
【0043】
また、供給配管21を介して、タンク17から液体が重力によってヘッド20に供給される。また、ポンプ18が作動することによって、回収配管22を介して、ヘッド20から液体が吸い込まれ、タンク17に送出される。つまり、液体は循環する。
【0044】
ヘッド20が回転軸周りに回転すると、ヘッド20の中の液体に、回転軸から離れる方向の遠心力が加わる。その遠心力により、回転軸に近い液室31において液体の圧力が低くなりすぎ、回転軸から遠い液室31において液体の圧力が高くなりすぎる可能性がある。つまり、吐出不良が発生する可能性がある。しかしながら、本実施形態に係る塗布装置1においては、ヘッド20内で液体は外端部から内端部に向かって流れる。つまり、ヘッド20内における液体の流通方向は遠心力が加わる方向の逆方向である。よって、遠心力の影響を低減させ、吐出不良の発生を防止することができる。
【0045】
この状態で、ヘッド20が備える圧電素子が、所定の周波数で液室31内の液体を加圧する。すると、各ノズル32から液滴91が所定の周波数で吐出される。液滴91は、基板90の面に着弾すると、基板90の面で広がってドット(着弾痕)92となる。各ドット92は、基板90の面で濡れ広がる。濡れ広がった各ドット92は、隣接する他のドット92とつながり、基板90の面を覆う厚さのバラツキが小さい(つまり略均一な厚さの)塗布膜になる。
【0046】
なお、複数のノズル32のうち、液体が流れる方向の最下流に位置する32は、回転軸上に位置していてもよい。このようなノズル32の配置により、基板90の中心(回転軸と交差する部分)に確実に液滴91を着弾させることができる。また、液体が流れる方向の最下流に位置するノズル32は、回転軸よりも、液体が流れる方向の上流に位置してもよい。換言すれば、複数のノズル32の全てが、回転軸よりも、液体が流れる方向の上流に位置してもよい。このような配置の場合、基板90の中心に液滴91を着弾させることはできないが、ドット92の濡れ広がりにより、基板90の中心にも液体を塗布することができる。また、複数のノズル32の一部が、回転軸よりも、液体が流れる方向の下流に位置し、複数のノズル32の他の一部が、回転軸よりも、液体が流れる方向の上流に位置してもよい。この場合、回転軸に最も近いノズル32およびこのノズル32よりも液体が流れる方向の上流に位置している複数のノズル32から液滴91を吐出するように圧電素子を作動させる。換言すれば、回転軸に最も近いノズル32よりも液体が流れる方向の下流に位置しているノズル32から液滴91を吐出しないように圧電素子が作動させる。圧電素子のこのような作動により、基板90の面を覆う厚さのバラツキが小さい塗布膜を形成することができる。
【0047】
図5は、塗布途中の基板90とヘッド20を示す平面図である。図5には、ヘッド20が回転軸周りに初期位置から角度Θ回転した状態が示されている。ヘッド20の回転開始と同時に塗布が開始され、ヘッド20が回転軸周りに角度Θ回転すると、図5に示されるように扇形の塗布済み領域93が形成される。ヘッド20の回転および塗布が継続されると、基板90の面全域に塗布済み領域93が形成される。
【0048】
図6は、図5中のVI部分の拡大図である。図6中の矢印は、それぞれ、ヘッド20が回転軸周りに回転するときに1つのノズル32が描く軌跡である。図6には5つのノズル32の軌跡が代表として示されている。各軌跡の形状は、回転軸を中心とする円弧である。ノズル32から所定の周波数で液滴91が吐出される間、ヘッド20は回転軸周りに回転しているので、基板90上のドット92は、ノズル32の軌跡である円弧上に並んでいる。
【0049】
なお、タンク17は、液体で完全に満たされておらず、例えば、タンク17の内容積の7割から8割程度の液体を貯留してもよい。つまり、タンク17の内部の上方に液体で満たされていない空間が形成されてもよい。シャフト14とともにタンク17が回転するとき、タンク17内に貯留されている液体に遠心力が加わる。この遠心力は、供給配管21を介してヘッド20内の液体に伝わる可能性がある。しかしながら、タンク17内に空間を形成することにより、タンク内の液体からヘッド20内の液体に加わる力を低減させることができる。ひいては、ノズル32からの液体のしみ出しを低減させることができる。
【0050】
以上の動作により、塗布装置1は基板90の面に厚さのバラつきが小さい塗布膜を形成することができる。また、本実施形態に係る塗布装置1は、導電部にスリップリングを備えている。よって、シャフト14およびヘッド20を任意の回転数にわたって回転させ続けることができる。よって、形成された塗布膜の上にさらに液体を速やかに塗布することができる。したがって、任意の厚さの塗布膜を迅速かつ容易に形成することができる。
【0051】
厚さのバラツキが小さい塗布膜をより確実に形成するために、塗布装置1を構成する各部を、次の第1設定工程から第3設定工程で設定してから、液体の塗布が行われてもよい。
【0052】
(第1設定工程)
第1設定工程においては、ヘッド20が回転していないとき、つまり、静止しているときの液体の循環条件が設定される。具体的には、ヘッド20に対するタンク17の相対高さ、および、ポンプ18の吸込量が設定される。
【0053】
まず、シャフト14およびヘッド20が静止し、かつ、圧電素子およびポンプ18が作動していない状態で、各ノズル32から液体が出てくるように、ヘッド20に対するタンク17の相対高さが設定される。具体的には、シャフト14に対する上部ブラケット15の取付位置が調整される。ヘッド20には、タンク17から重力によって液体が供給される。よって、シャフト14に上部ブラケット15を取り付ける位置が高くなり、ヘッド20に対するタンク17の相対高さが高くなるほど、タンク17内の液体がヘッド20内の液体に加える水頭圧が大きくなる。つまり液室31内部の液体の圧力が大きくなる。タンク17の相対高さを高くし、液室31内の圧力を大きくすることで、各ノズル32から液体を出すこと(例えば、滴下させたり、しみ出させたりすること)ができる。
【0054】
続いて、各ノズル32から液体が出てこなくなる(例えば、滴下またはしみ出しが停止する)ように、ポンプ18の単位時間当たりの吸込量(つまり送液量)が設定される。ポンプ18が作動すると、ポンプ18によって液室31内の液体が吸い込まれるので、液室31内の圧力は低下する。また、ポンプ18の単位時間当たりの吸込量が大きくなるほど、液室31内の圧力はより低下する。よって、ポンプ18の単位時間当たりの吸込量をある程度大きくすることで、各ノズル32から液体が出てこないようにすることができる。
【0055】
以上のようにタンク17の高さおよびポンプ18の吸込量が設定されると、ヘッド20が静止している状態において、液室31内の液体の圧力が適切になる。つまり、液室31は、ノズル32から意図せず液体が出てくることが無く、かつ、圧電素子が作動して液室31内の圧力が変化すると、圧力変動量に応じた大きさの液滴91が吐出される状態になる。
【0056】
(第2設定工程)
第2設定工程においては、液滴91に関する条件が設定される。具体的には、圧電素子に印可される電圧の大きさおよびノズル32からの吐出周波数が設定される。以下、第2設定工程を説明する図である図7を参照する。
【0057】
図7中のOは回転軸を示している。また、破線の円弧は、複数のノズル32の中の回転軸にn(nは自然数)番目に近いノズルである第nノズルの軌跡である。また、実線の円弧は、複数のノズルの中の回転軸にn+1番目に近いノズルである第n+1ノズルの軌跡である。rは、回転軸Oから第nノズルまでの距離であり、rn+1は回転軸Oから第n+1ノズルまでの距離である。Pはrとrn+1との差であり、各ノズル32が描く軌跡のピッチ(径方向ピッチ)である。なお、複数のノズル32が、回転軸に直交する1つの直線上に並ぶ場合は、各ノズル32が描く軌跡のピッチPはノズル32のピッチと等しくなる。また、Pは、1つのノズル32から吐出された液滴91によって形成され、かつ、互いに隣接するドット92のピッチ(周方向ピッチ)である。また、dは、ドット92の直径である。なお、白いドット92は、第nノズルから吐出された液滴91によって形成されたドット92である。また、灰色のドット92は、第n+1ノズルから吐出された液滴91によって形成されたドット92である。
【0058】
第2設定工程では、まず、ドット92の直径dが、各ノズル32が描く軌跡のピッチPと等しくなるように、各圧電素子に印可される電圧が設定される。圧電素子に印可される電圧を調整することで、圧電素子の変動量を調整することができる。また、圧電素子の変動量を調整することで、ノズル32から吐出される液滴91の大きさ、ひいては、ドット92の直径dを調整することができる。ドット92の直径dを各ノズル32が描く軌跡のピッチPと等しくすることで、互いに隣接する各ノズル32から吐出された液滴91によって形成されるドット92同士が重ならずかつ離れない状態にすることができる。
【0059】
続いて、圧電素子に電圧を印加する周波数、つまり、ノズル32から液滴91が吐出される周波数が設定される。1つのノズル32から吐出された液滴91によって形成されるドット92同士が重ならずかつ離れないように、圧電素子に電圧を印加する周波数が設定される。なお、図7には、第n+1ノズルが回転軸O周りに角度θ回転する前後で吐出された液滴91によって形成された2つのドット92が重ならずかつ離れていない状態が示されている。
【0060】
回転軸Oから1つのノズル32までの距離をr、このノズル32から吐出された液滴91によって形成されるドット92のピッチをP、シャフト14の回転速度をN(rpm)、1つの液滴91が吐出されてから次の液滴91が吐出されるまでの経過時間をt(s)とすると、下記式(1)が成り立つ。
=r×(2π/60)×N×t・・・・・・(1)
【0061】
また、1つのノズル32から吐出された液滴91によって形成されるドット92同士が重ならずかつ離れない場合、これらのドット92のピッチPは、ドット92の直径dと等しくなる。
【0062】
よって、このノズル32から液滴91が吐出される周波数fを、下記式(2)で求められるものとすることにより、このノズル32から吐出された液滴91によって形成されるドット92同士が重ならずかつ離れない状態にすることができる。
f=r×2π×N/(60×d)・・・・・・(2)
【0063】
式(2)から明らかなように、周波数fは回転軸からの距離rに比例する。また、ノズル32毎に回転軸からの距離rは異なる。よって、例えば、回転軸からの距離の比が1:2である2つノズル32がある場合、これら2つのノズルから液滴91が吐出される周波数の比は1:2となる。
【0064】
複数の圧電素子それぞれに電圧が印加される周波数fを式(2)によって設定すると、各ノズル32からは周波数fで液滴91が吐出される。よって、1つのノズル32から吐出された液滴91によって形成されるドット92同士が重ならずかつ離れない状態にすることができる。
【0065】
すなわち、第2設定工程を行うことで、基板90の面にドット92を、ノズル32が描く軌跡の方向である周方向にも、各軌跡に直交する方向である径方向にも、隙間なく配置するための準備を行うことができる。
【0066】
(第3設定工程)
第3設定工程においては、ヘッド20が回転しているときの液体の循環条件が設定される。具体的には、ポンプ18の吸込量が設定される。換言すれば、第1設定工程で設定されたポンプ18の吸込量の再調整が行われる。
【0067】
第1設定工程では、ヘッド20が静止している状態において、液室31の圧力が適切となるように各条件が設定された。しかしながら、例えば、第2設定工程で周波数fを設定するために定められた回転速度N(rpm)で、シャフト14とともにヘッド20が回転すると、ヘッド20内の液体に遠心力が作用する。そのため、ヘッド20内での液体の移動状態および圧力分布が、ヘッド20が静止しているときとは異なるものとなる。
【0068】
遠心力が作用する方向は、回転軸から離れる方向、つまり、ヘッド20の内端部から外端部に向かう方向である。そのため、第1設定工程で設定された条件のままでヘッド20を回転させると、外端部の近くに配置されているノズル32から液体がしみ出したり漏れたりするおそれがある。つまり、圧電素子の作動と関係なく、液体がノズル32から出てくるおそれがある。逆に、内端部の近くに配置されているノズル32からは、圧電素子が作動しても液滴91が吐出されないおそれがある。つまり、各ノズル32において吐出不良が発生するおそれがある。
【0069】
図8は、第1設定工程で設定された条件でヘッド20を回転させて塗布を行った場合の、ヘッド20の回転速度と吐出不良数との関係を示すグラフである。回転速度が小さいうちは、第1設定工程で設定された条件であっても、吐出不良は発生しない。よって、ヘッド20の回転速度を大きくする必要がない場合、例えば、第2設定工程で周波数fを設定するために定められた回転速度N(rpm)が比較的小さい場合は、第1設定工程で設定された条件のままで塗布を行ってもよい。換言すれば、第3設定工程を行わなくてもよい。
【0070】
しかしながら、回転速度がある程度大きくなると吐出不良が発生し始め、回転速度の増加とともに吐出不良数は増加する。よって、より短時間で基板90の塗布作業を完了させることなどを目的として、ヘッド20の回転速度を上げても吐出不良が発生しないようにするために、第3設定工程で、ポンプ18の吸込量の再調整が行われる。
【0071】
具体的には、ポンプ18の吸込量が、第1設定工程で設定された値よりも大きな値に設定される。ポンプ18の吸込量を大きくすることで、ヘッド20内の液体に加わる、外端部から内端部に向かう方向の力を大きくすることができる。つまり、遠心力の影響を打ち消す方向の力を大きくすることができる。よって、各液室31の圧力を適切な圧力に戻す、または少なくとも近づけることができる。よって、吐出不良数を減少させることができる。
【0072】
図9は、ポンプ18の吸込量が調整された後のヘッド回転速度と吐出不良数の関係を示す図である。破線は図7に示されるグラフと同じ曲線を示している。つまり、破線は、ポンプ18の吸込量が調整される前のグラフである。
【0073】
回転速度Aおよび回転速度Bは、ポンプの吸込量の調整が行われる前では、吐出不良が発生する比較的大きな回転速度である。しかしながら、ポンプの吸込量を大きくする調整を行うことで、比較的大きな回転速度である回転速度Aおよび回転速度Bであっても、吐出不良をゼロにすることができる。ただし、回転速度Cのように、ある程度大きな回転速度となった場合、遠心力もある程度大きくなる。そのため、ポンプの吸込量を大きくしても、遠心力を相殺しきれず、吐出不良数をゼロにすることができない。
【0074】
第2設定工程で周波数fを設定するために定められた回転速度N(rpm)が、回転速度Cのように、ポンプの吸込量を大きくしても吐出不良数をゼロにできない回転速度である場合、第2設定工程が再度行われる。その際、周波数fを設定するために定める回転速度N(rpm)が、当初設定された値よりも小さな値に修正される。その後、再び第3設定工程が行われ、ポンプ18の吸込量の再調整が行われる。
【0075】
以上の第1設定工程から第3設定工程が行われた後に、基板90の面に液体を塗布する工程を行うことで、吐出不良を発生させることなく、かつ、ドット92間に隙間を生じさせることなく、確実に厚さのバラツキが小さい塗布膜を形成することができる。
【0076】
なお、液体の性状(例えば、密度、粘度、温度)によって、同じ回転速度Nでも、吐出不良の発生状況は変わり得る。よって、基板90に塗布される液体の種類が変更される度に、実際に基板90に液体が塗布される前に、第1設定工程から第3設定工程が行われてもよい。
【0077】
以上の各設定工程を経た後、基板90に液体が塗布される。例えば、ヘッド20が回転軸周りに1周する間に、全てのノズル32が、周波数fで液滴91を吐出させて、塗布膜を形成してもよい。しかしながら、全てのノズル32が周波数fで液滴91を吐出すると、液体の性状およびヘッド20の回転速度によっては、ドット92の濡れ広がりに偏りが発生して、塗布膜の厚さが不均一になることがある。
【0078】
この場合、ヘッド20を回転軸周りに複数回転させ、回転する毎に異なる位置で、各ノズル32に液滴91を吐出させてもよい。つまり、一様な塗布膜を形成するために必要な全ての液滴91の吐出を、1回の回転で行うのではなく、複数回の回転に分割して行ってもよい。一例として、ヘッド20を回転軸周りに4回転させて一様な塗布膜を形成する場合を、図面を参照しながら以下に説明する。
【0079】
図10図11図12および図13は、ヘッド20を4回転させて一様な塗布膜を形成する工程を説明する図である。図10は、ヘッド20が1週目の回転を行った後のドット92の形成状態を示している。図11は、ヘッド20が2週目の回転を行った後のドット92の形成状態を示している。図12は、ヘッド20が3週目の回転を行った後のドット92の形成状態を示している。図13は、ヘッド20が4週目の回転を行った後のドット92の形成状態を示している。
【0080】
これらの図の中の矢印は、それぞれ、ヘッド20が回転軸周りに回転するときに1つのノズル32が描く軌跡である。これらの図には5つのノズル32の軌跡が代表として示されている。各軌跡の形状は、回転軸を中心とする円弧である。各図において、ドット92が形成される予定であるが、まだ形成されていない位置が、ドット形成予定位置94として破線で示されている。
【0081】
各周回において、各ノズル32はランダムに液滴91を吐出する。換言すれば、各ノズル32は、周波数fでの液滴91の吐出をランダムなタイミングでスキップする。ただし、各ノズルは、ヘッド20が4周する間に、全てのドット形成予定位置94でドット92が形成されるように、液滴91を吐出する。
【0082】
よって、ドット92はランダムに形成される。このようにドット92をランダムに形成し、複数回にわたるヘッド20の回転で塗布膜を形成することにより、ドット92の濡れ広がりの偏りを無くすることができる。よって、全てのノズル32が周波数fで液滴91を吐出するとドット92の濡れ広がりに偏りが発生する性状を有する液体を塗布する場合であっても、厚さのバラツキが小さい塗布膜を形成することができる。
【0083】
また、本開示に係る塗布装置1は、圧電素子の作動を制御することにより、基板90に任意のパターンおよび厚さで塗布膜を形成することができる。
【0084】
例えば、塗布パターンの例を示す図14に示されるように、基板90の面の全域に厚さのバラツキが小さい塗布膜95を形成することができる。
【0085】
また、他の塗布パターンの例を示す図15に示されるように、基板90の面に、液体が塗布されない非塗布領域96を残して、他の領域に塗布膜95を形成することができる。ヘッド20が回転する間に各ノズル32から液滴91を吐出するタイミングを調整することで、非塗布領域96を残しつつ、塗布膜95を形成することができる。
【0086】
また、さらに他の塗布パターンの例を示す図16に示されるように、基板90の面に、互いに厚さが異なる4種類の塗布膜95A、95B、95Cおよび95Dを形成することができる。塗布膜95Dが最も厚く、塗布膜95Aが2番目に厚く、塗布膜95Cが3番目に厚く、塗布膜95Bが4番目に厚い場合、図16に示される塗布パターンは例えば以下のような工程で形成することができる。すなわち、ヘッド20を回転軸周りに4周させる。1周目では、基板90の面の全域に液体が塗布される。また、2周目では、塗布膜95A、塗布膜95Cおよび塗布膜95Dが形成される領域に液体が塗布される。また、3周目では、塗布膜95Aおよび塗布膜95Dが形成される領域に液体が塗布される。そして、4周目では、塗布膜95Dが形成される領域のみに液体が塗布される。このような工程を経ることで、図16に示される塗布パターンを形成することができる。
【0087】
(第2実施形態)
図17は、本開示の一態様である第2実施形態に係る塗布装置1の斜視図である。第1実施形態に係る塗布装置1と同じ構成には同じ符号が付されている。第1実施形態に係る塗布装置1と共通する事項については説明を省略する場合がある。
【0088】
塗布装置1は、ステージ11、支柱12、モータ13、シャフト14、支持部材16、タンク17、ポンプ18、下部ブラケット19およびヘッド20を備える。また、塗布装置1は、供給配管21、回収配管22およびリザーブ配管23を備える。また、塗布装置1は、グリップ部33、コネクタ34およびヘッド用ケーブル35を備える。また、塗布装置1は、モータ13、ポンプ18およびヘッド20を制御する制御部を備えている。制御部は支持部材16に支持されていてもよい。なお、モータ13、ポンプ18およびヘッド20は、塗布装置1が備える制御部ではなく、塗布装置1と通信可能に接続された外部のコンピュータによって制御されてもよい。
【0089】
本実施形態において、支持部材16は、支柱12に固定されている。また、タンク17は、支持部材16に形成された貫通孔に挿入された状態で支持部材16に支持されている。支持部材16およびタンク17は、貫通孔へのタンク17の挿入長さを調整することができるように構成されている。つまり、タンク17は、ヘッド20に対する相対高さを調整することができるように構成されている。
【0090】
また、支持部材16は、ステージ11の中心付近を覆うように配置されている。
【0091】
また、モータ13は、ステージ11に支持されており、ステージ11の中心とZ軸方向に並ぶように配置されている。
【0092】
シャフト14の上端部と下端部との間には、グリップ部33が取り付けられている。グリップ部33は、シャフト14の外周面の一部を覆う円筒状の部材である。
【0093】
また、本実施形態において、ヘッド20が備える圧電素子には、コネクタ34およびヘッド用ケーブル35を備える導電部を介して、電力および制御信号が供給される。ヘッド用ケーブル35は、電源から電力供給を受け、制御部から制御信号を受ける。また、ヘッド用ケーブル35は、コネクタ34を介して、電力および制御信号をヘッド20(具体的には圧電素子)に伝送する。
【0094】
供給配管21は、第1端部でヘッド20に接続されており、第2端部でタンク17に接続されている。回収配管22は、第1端部でヘッド20に接続されており、第2端部でポンプ18に接続されている。また、ヘッド用ケーブル35は、第1端部でコネクタ34に接続されており、第2端部で制御部に接続されている。ヘッド用ケーブル35の第1端部およびコネクタ34は、シャフト14とともに回転する回転部分を構成する。また、ヘッド用ケーブル35の第2端部は、シャフト14が回転しても回転しない非回転部分を構成する。
【0095】
グリップ部33には、供給配管21、回収配管22およびヘッド用ケーブル35の第1端部および第2端部以外の一部が巻回されている。グリップ部33は、供給配管21、回収配管22およびヘッド用ケーブル35を、それらが巻回された状態で保持している。また、供給配管21、回収配管22およびヘッド用ケーブル35の長さは、ヘッド20が回転軸周りに1回転するのに必要な最短長さとされている。
【0096】
よって、シャフト14とともにヘッド20が回転しても、供給配管21、回収配管22およびヘッド用ケーブル35は、弛みすぎることも張りすぎることもなく、液体を循環させたり、電力及び制御信号を伝送したりすることができる。また、供給配管21および回収配管22の長さは、必要な最短長さとされているので、管路抵抗も最小化されており、液体をスムーズに循環させることができる。
【0097】
以上のように構成されている本実施形態に係る塗布装置1は、図17に矢印で示されるようにヘッド20を半回転毎の往復移動をさせながら、基板90に液体を塗布する。具体的には、以下のような工程を経て、基板90に液体が塗布される。
【0098】
まず、図18に示されるように、ヘッド20は初期位置にセットされる。
【0099】
続いて、図19に示されるように、ヘッド20を初期位置から正方向(例えば平面視で反時計回り)に回転させる。この間、各ノズル32から液滴91が吐出され、塗布済み領域93が形成される。図19に示される矢印はヘッド20の回転方向を示している。
【0100】
図20に示されるように、ヘッド20が初期位置から正方向に180°回転すると、ヘッド20は停止する。続いて、ヘッド20を逆方向(例えば平面視で時計回り)に180°回転させて、ヘッド20を初期位置に戻す。図21には、ヘッド20が初期位置に戻された状態が示されている。なお、ヘッド20を逆方向に180°回転させて、ヘッド20を初期位置に戻すときにも液体が塗布されてもよい。
【0101】
続いて、図22に示されるように、ヘッド20を初期位置から逆方向に回転させる。この間、各ノズル32から液滴91が吐出される。図22に示される矢印はヘッド20の回転方向を示している。
【0102】
図23に示されるように、ヘッド20が初期位置から逆方向に180°回転すると、ヘッド20は停止する。その後、ヘッド20は初期位置に戻される。以上で、液体の塗布が完了する。なお、ヘッド20を初期位置に戻す時にも液体が塗布され、初期位置に戻した時点で液体の塗布が完了してもよい。
【0103】
第2実施形態に係る塗布装置1も、第1実施形態に係る塗布装置1と同様に、圧電素子の作動を制御することにより、例えば図14図15または図16に示されるような、任意のパターンおよび厚さで基板90に塗布膜を形成することができる。
【0104】
また、第2実施形態に係る塗布装置1に対しても、第1実施形態に係る塗布装置1と同様に、第1設定工程、第2設定工程および第3設定工程が実施されてもよい。
【0105】
第2実施形態においては、シャフト14が回転してもタンク17は回転しないので、タンク17内に貯留されている液体に遠心力が加わることはない。よって、ヘッド20内の液体に、タンク17の回転に伴う圧力変動が伝わることがない。したがって、ヘッド20内の圧力を安定させることができ、ひいては吐出不良の発生を低減させることができる。
【0106】
また、第2実施形態においては、回転するシャフト14の内部に配線を配設する必要がないので、塗布装置1を比較的容易に製造することができる。
【0107】
本開示に係る塗布装置は、これまでに説明された各実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加えることができる。また、各実施形態の具体的な構成を取捨選択することで構成される塗布装置も当然に本開示に含まれる。
【0108】
例えば、第1実施形態に係る塗布装置1において、タンク17は、支持部材16に形成された貫通孔に挿入された状態で支持部材16に支持されていてもよい。つまり、貫通孔へのタンク17の挿入長さを調整することによって、ヘッド20に対するタンク17の相対高さを調整することができるように構成されていてもよい。
【0109】
また、第1実施形態に係る塗布装置1において、ヘッド20が半回転毎の往復移動するようにシャフト14を回転させて、基板90に液体を塗布してもよい。
【0110】
また、第1実施形態に係る塗布装置1において、リング部材25は、中空のシャフト14の内面に配置されており、ブラシ部材24は、シャフト14の中に挿入された状態で配置されていてもよい。
【0111】
また、第2実施形態に係る塗布装置1において、供給配管21,回収配管22およびヘッド用ケーブル35は、グリップ部33に巻回される代わりに、シャフト14の中に配設されていてもよい。
【0112】
本開示について付言すると以下の通りである。
【0113】
本開示に係る塗布装置は、液体が塗布される面に交差する回転軸周りに回転するシャフトと、前記面に向けて前記液体を吐出する少なくとも1つのノズルを有し、前記シャフトに接続されたヘッドと、を備える。
【0114】
よって、液体が塗布された面を回転させて遠心力で液体を拡散させることなく、面に厚さのバラツキが小さい塗布膜を形成することができる。
【0115】
また、本開示に係る塗布装置は、前記シャフトとともに回転する回転部分と、前記シャフトが回転しても回転しない非回転部分とを備える導電部をさらに備えてもよい。
【0116】
このような導電部を備えることで、シャフトが回転しても回転しない位置に配置された電源および制御部から、シャフトとともに回転するヘッドに、確実に電力及び制御信号を伝送することができる。
【0117】
また、前記導電部は、前記回転部分として、前記回転軸が延在する方向に沿って配置された複数の環状接触部を有するリング部材を備え、前記非回転部分として、複数の前記環状接触部にそれぞれ接触する複数のブラシを有するブラシ部材を備えてもよい。
【0118】
導電部をこのように構成することにより、シャフトが回転する間の電力および制御信号の伝送を、途切れさせることなく、確実に行うことができる。また、シャフトおよびヘッドを任意の回転数にわたって回転させ続けることができる。よって、形成された塗布膜の上にさらに液体を速やかに塗布することができる。したがって、任意の厚さの塗布膜を迅速かつ容易に形成することができる。
【0119】
また、前記導電部は、前記回転部分として、前記ヘッドに接続されたケーブルの第1端部を備え、前記非回転部分として、前記ケーブルの第2端部を備えてもよい。
【0120】
導電部をこのように構成することにより、シャフトが回転する間の電力および制御信号の伝送を、途切れさせることなく、確実に行うことができる。
【0121】
また、前記シャフトの外周面に固定されており、前記ケーブルの前記第1端部と前記第2端部との間の一部を保持するグリップ部をさらに備えてもよい。
【0122】
このようなグリップ部でケーブルの一部を保持することにより、シャフトおよびヘッドが回転する間にケーブルが弛みすぎることも張りすぎることも防ぐことができる。また、塗布装置を比較的容易に製造することができる。
【0123】
また、前記ヘッドは、前記液体が前記ヘッド内において前記回転軸から遠い位置から前記回転軸に近い位置に向かって流れるように構成されていてもよい。
【0124】
このような構成により、シャフトおよびヘッドが回転するときにヘッド内の液体に遠心力が加わっても、ヘッド内のノズルが設置されている位置で、遠心力が作用する方向と逆方向に液体を流すことができる。よって、遠心力の影響を相殺し、ノズルからの吐出不良を低減させることができる。
【0125】
また、本開示に係る塗布装置は、前記ヘッドに前記液体を供給する供給配管と、前記ヘッドから前記液体を回収する回収配管と、をさらに備えてもよい。この場合、前記供給配管は、前記回収配管が前記ヘッドに接続される位置よりも、前記回転軸から遠い位置において前記ヘッドに接続されていてもよい。
【0126】
このような構成により、ヘッド内の液体に遠心力が加わっても、より確実に、遠心力が作用する方向と逆方向に液体を流すことができる。
【0127】
また、本開示に係る塗布装置は、前記液体を貯留するタンクと、前記タンクから重力で流下する前記液体を前記ヘッドに供給する供給配管と、前記ヘッドから前記液体を吸い込んで前記タンクに送出するポンプと、前記ヘッドと前記ポンプとを接続する回収配管と、をさらに備え、前記ヘッドは、前記回転軸からの距離が互いに異なる位置に配置された複数の前記ノズルと、複数の前記ノズルに連通する液室と、前記液室内の前記液体を加圧する圧電素子を有し、前記供給配管は、前記回収配管よりも前記回転軸から遠い位置で前記ヘッドに接続されており、複数の前記ノズルは、前記供給配管と前記ヘッドとの接続位置よりも前記回転軸から遠く、かつ、前記回収配管と前記ヘッドとの接続位置よりも前記回転軸に近い位置に位置していてもよい。
【0128】
このような構成により、ヘッド内の液体に遠心力が加わっても、さらにより確実に、遠心力が作用する方向と逆方向に液体を流すことができる。
【0129】
また、本開示に係る塗布装置は、前記タンクを支持する支持部材であって、前記ヘッドに対する前記タンクの相対高さを変更する支持部材、をさらに備えてもよい。
【0130】
ヘッドに対するタンクの相対高さを変更することができるので、ヘッド内の液体の圧力を適切なものにすることができる。
【0131】
また、前記相対高さは、前記シャフトが静止し、かつ、前記圧電素子および前記ポンプが作動していない状態で、前記複数のノズルの少なくとも1つから前記液体が出てくる相対高さに設定されており、前記ポンプの吸込量は、前記シャフトが回転し、かつ、前記圧電素子が作動していない状態で、複数の前記ノズルから前記液体が出てこない吸込量に設定されていてもよい。
【0132】
これらの設定により、液室は、ノズルから意図せず液体が出てくることが無く、かつ、圧電素子が作動して液室内の圧力が変化すると、圧力変動量に応じた大きさの液滴が吐出される状態にすることができる。
【0133】
また、前記シャフトの回転速度をN(rpm)とし、前記ノズルから前記回転軸までの距離をrとし、前記ノズルから吐出された液滴が前記面に着弾して形成するドットの直径をdとした場合、前記圧電素子は前記液滴を、前記ノズルから下記式で示される周波数fで吐出するように作動してもよい。
f=r×2π×N/(60×d)
【0134】
圧電素子がこのような周波数fで作動することにより、隣接するドット同士が重ならず、かつ、ドット間に隙間ができない状態で、液体を塗布することができる。
【0135】
また、本開示に係る塗布方法は、ノズルを有するヘッドを液体が塗布される面に交差する回転軸周りに回転させ、前記ノズルから前記液体を吐出する、ことを含む。
【0136】
よって、液体が塗布された面を回転させて遠心力で液体を拡散させることなく、面に厚さのバラツキが小さい塗布膜を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本開示は、半導体ウェハー等の円形基板上にレジストまたは保護膜を形成したり、各種デバイスにパターニングまたは厚みの異なる塗布膜を形成したり、各種物体に装飾を加えたりする用途に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0138】
1 塗布装置
11 ステージ
12 支柱
13 モータ
14 シャフト
15 上部ブラケット
16 支持部材
17 タンク
18 ポンプ
19 下部ブラケット
20 ヘッド
21 供給配管
22 回収配管
23 リザーブ配管
24 ブラシ部材
25 リング部材
26 接続端子
27 ヘッド用配線
28 ポンプ用配線
29 供給流路
30 回収流路
31 液室
32 ノズル
33 グリップ部
34 コネクタ
35 ヘッド用ケーブル
90 基板
91 液滴
92 ドット
93 塗布済み領域
94 ドット形成予定位置
95、95A、95B、95C、95D 塗布膜
96 非塗布領域
図1
図2
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