(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180809
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】水田作業機
(51)【国際特許分類】
A01C 11/02 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
A01C11/02 320A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094412
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】目野 鷹博
(72)【発明者】
【氏名】岸岡 雄介
(72)【発明者】
【氏名】内山 大輔
【テーマコード(参考)】
2B062
【Fターム(参考)】
2B062AA02
2B062AB01
2B062BA02
2B062BA62
2B062BA65
2B062CA02
2B062CA14
2B062CB01
(57)【要約】
【課題】制御モータの回転角位置を通じて、植付クラッチの動力遮断や動力伝達および植付装置の上昇や下降を行う制御において、遅れが抑制された制御を実現する。
【解決手段】苗植付装置を上昇操作する上昇制御位置と下降操作する下降制御位置とを有する制御弁4と、動力伝達クラッチ位置と動力遮断クラッチ位置とを有する植付クラッチ23と、制御弁4の制御位置と植付クラッチ23のクラッチ位置とをシーケンシャルに操作するための回転操作軸41を有する制御モータ40とを備え、回転操作軸41の角度に応じて、動力伝達クラッチ位置、動力遮断クラッチ位置、前下降制御位置、上昇制御位置が設定され、動力伝達クラッチ位置の状態での走行中に停車が検知された場合、制御モータ40を制御して、動力遮断クラッチ位置が設定される。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機構と、
昇降シリンダによって昇降可能に機体に支持された苗植付装置と、
前記昇降シリンダを上昇操作する上昇制御位置と前記昇降シリンダを下降操作する下降制御位置とを有する制御弁と、
前記苗植付装置に設けられた植付機構と、
前記植付機構へ動力を伝達する動力伝達クラッチ位置と前記植付機構への動力を遮断する動力遮断クラッチ位置とを有する植付クラッチと、
前記制御弁の制御位置と前記植付クラッチのクラッチ位置とをシーケンシャルに操作するための回転操作軸を有する制御モータと、
前記制御モータの回転角度を制御する制御装置と、を備え、
前記制御モータの回転角度の一端部には、前記植付クラッチの前記動力伝達クラッチ位置が設定され、
前記制御モータの回転角度の他端部には前記制御弁の前記上昇制御位置が設定され、
前記回転操作軸の角度が順次進むごとに、前記植付クラッチの前記動力伝達クラッチ位置と前記制御弁の前記上昇制御位置の一方から、前記植付クラッチの前記動力遮断クラッチ位置、次いで前記制御弁の前記下降制御位置を経た後に、前記植付クラッチの前記動力伝達クラッチ位置と前記制御弁の前記上昇制御位置の他方が設定されるか、あるいは前記植付クラッチの前記動力伝達クラッチ位置と前記制御弁の前記上昇制御位置の一方から、前記制御弁の前記下降制御位置、次いで前記植付クラッチの前記動力遮断クラッチ位置を経た後に、前記植付クラッチの前記動力伝達クラッチ位置と前記制御弁の前記上昇制御位置の他方が設定され、
前記植付クラッチが前記動力伝達クラッチ位置の状態で走行している前記機体が停車する特別停車が検知された場合、前記制御装置は、前記制御モータを制御して、前記植付クラッチを前記動力遮断クラッチ位置に設定する水田作業機。
【請求項2】
前記特別停車が検知された場合、前記制御装置は、さらに前記制御モータを制御して、前記制御弁の制御位置を前記下降制御位置に設定し、次の前記苗植付装置の上昇のために待機する請求項1に記載の水田作業機。
【請求項3】
前記特別停車において、前記機体の前進走行再開が検知された場合、前記制御装置は、前記制御モータを制御して、前記植付クラッチを前記動力伝達クラッチ位置に設定する請求項1または2に記載の水田作業機。
【請求項4】
前記機体の停車は、前記走行機構の駆動回転数が閾値を下回ることで検知され、前記閾値は、エンジンの回転数に依存して変更される請求項1または2に記載の水田作業機。
【請求項5】
前記特別停車において、前記機体の後進走行再開が検知された場合、前記制御装置は、前記制御モータを制御して、前記制御弁の前記上昇制御位置が設定される請求項1または2に記載の水田作業機。
【請求項6】
前記機体の停車は、前記走行機構の駆動回転数が閾値を下回ることで検知される請求項3に記載の水田作業機。
【請求項7】
前記閾値は、エンジンの回転数に依存して変更される請求項6に記載の水田作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植付機構を有する苗植付装置の昇降制御と、植付クラッチを用いた植付機構への動力伝達制御とを、制御モータのシーケンシャルな動作位置によって行う水田作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1による水田作業機では、植付クラッチの動力遮断位置や植付装置の昇降シリンダの下降操作に連係する第1位置と、植付装置の昇降シリンダの中立操作に連係する第2位置と、植付装置の昇降シリンダの上昇操作に連係する第3位置と、植付クラッチの動力伝達位置に対応する第4位置とを、連続する所定回転角によって作り出す電動モータが備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1による水田作業車のように、電動モータ(制御モータ)を用いて、植付クラッチの動力遮断や動力伝達、及び植付装置の昇降シリンダの下降操作や上昇操作を制御するような制御系では、電動モータの回転角度によって植付クラッチや昇降シリンダの確実な制御が可能となる。しかしながら、例えば、植付クラッチの動力遮断や動力伝達と植付装置の上昇や下降とを、ただ一つの電動モータでシーケンシャルに制御するにあたって、例えば、モータの回転角位置に、植付クラッチ入位置、植付クラッチ切位置、昇降制御下降位置、昇降制御中立位置、昇降制御上昇位置が含まれている場合、「植付クラッチ入」から「昇降制御上昇」までに通過する制御位置が多いと、植付制御モータの制御完了までに時間がかかる。そのため、前進から後進に切り替えるとともに植付装置を上昇させる、いわゆるバックアップ後進などの特殊走行では、植付装置の上昇遅れのために植付装置で圃場の泥を押してしまうという不都合が生じる。
【0005】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、制御モータのシーケンシャルな回転角位置を通じて、植付クラッチの動力遮断や動力伝達および植付装置の上昇や下降を行う制御において、遅れが抑制された制御を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による水田作業機は、走行機構と、昇降シリンダによって昇降可能に機体に支持された苗植付装置と、前記昇降シリンダを上昇操作する上昇制御位置と前記昇降シリンダを下降操作する下降制御位置とを有する制御弁と、前記苗植付装置に設けられた植付機構と、前記植付機構へ動力を伝達する動力伝達クラッチ位置と前記植付機構への動力を遮断する動力遮断クラッチ位置とを有する植付クラッチと、前記制御弁の制御位置と前記植付クラッチのクラッチ位置とをシーケンシャルに操作するための回転操作軸を有する制御モータと、前記制御モータの回転角度を制御する制御装置と、を備え、
前記制御モータの回転角度の一端部には、前記植付クラッチの前記動力伝達クラッチ位置が設定され、
前記制御モータの回転角度の他端部には前記制御弁の前記上昇制御位置が設定され、
前記回転操作軸の角度が順次進むごとに、前記植付クラッチの前記動力伝達クラッチ位置と前記制御弁の前記上昇制御位置の一方から、前記植付クラッチの前記動力遮断クラッチ位置、次いで前記制御弁の前記下降制御位置を経た後に、前記植付クラッチの前記動力伝達クラッチ位置と前記制御弁の前記上昇制御位置の他方が設定されるか、あるいは前記植付クラッチの前記動力伝達クラッチ位置と前記制御弁の前記上昇制御位置の一方から、前記制御弁の前記下降制御位置、次いで前記植付クラッチの前記動力遮断クラッチ位置を経た後に、前記植付クラッチの前記動力伝達クラッチ位置と前記制御弁の前記上昇制御位置の他方が設定され、
前記植付クラッチが前記動力伝達クラッチ位置の状態で走行している前記機体が停車する特別停車が検知された場合、前記制御装置は、前記制御モータを制御して、前記植付クラッチを前記動力遮断クラッチ位置に設定する。
【0007】
植付クラッチが動力伝達クラッチ位置の状態で走行している機体が停車するといった特別停車の場合、つぎの動作として、植付クラッチが動力遮断クラッチ位置に切り替えられる可能性が高い。例えば、本発明の1つの構成では、特別停車後に行われる、植付クラッチによる動力遮断を先読みし、植付クラッチを動力遮断クラッチ位置に切り替えられるので、制御弁の制御位置と植付クラッチのクラッチ位置とをシーケンシャルに操作する制御モータが制御系に用いられていても、次の動作への遅れが抑制される。
【0008】
さらに、特別停車後の走行再開のためには、苗植付装置の上昇が行われる可能性が高い。このため、本発明では、苗植付装置の上昇も先読みし、前記特別停車が検知された場合、前記制御装置は、さらに前記制御モータを制御して、前記制御弁の制御位置を前記下降制御位置に設定し、次の苗植付装置の上昇のために待機する。これにより、特別停車後の次の動作が苗植付装置の上昇であれば、その上昇動作は迅速に行われる。
【0009】
本発明では、前記特別停車において、前記機体の前進走行再開が検知された場合、前記制御装置は、前記制御モータを制御して、前記植付クラッチを前記動力伝達クラッチ位置に設定する。この構成では、特別停車後に、機体の前進走行が再開されると、迅速に、植付クラッチが動力伝達クラッチ位置となり、植付機構が駆動するので、運転者による植付クラッチの手動操作を必要とせずに植付作業が再開できる。もちろん、機体の後進走行再開が検知された場合も、同様な効果をもつ制御が行われるように構成することも可能である。後進走行の再開時には、まず、苗植付装置を上昇させることが重要である。したがって、本発明の他の1つでは、前記特別停車において、前記機体の後進走行再開が検知された場合、前記制御装置は、前記制御モータを制御して、前記制御弁の前記上昇制御位置が設定される。この構成では、特別停車後に、機体の後進走行が再開されると、迅速に、制御弁の上昇制御位置が設定されるので、苗植付装置の上昇が迅速に行われる。
【0010】
水田作業機などでは、無段変速装置等の走行変速装置を中立することで、水田の大きな走行抵抗のため、走行機構の駆動回転数は低下し、機体は停止状態になる。このことから、本発明では、前記機体の停車は、前記走行機構の駆動回転数が閾値を下回ることで検知される。その際、走行機構の駆動回転数は、エンジンの回転数に依存するので、機体の停車を判定する閾値は、エンジンの回転数に依存して変更されると、好都合である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】田植機の全体構成を例示する左側面図である。
【
図5】直線経路の走行と自動旋回走行とを説明する図である。
【
図6】作業走行の一例を示すフローチャートである。
【
図8】昇降制御と植付クラッチ制御とにおけるデータの流れを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、作業車の一例として、圃場を作業走行する田植機について説明する。
【0013】
ここで、理解を容易にするために、本実施形態では、特に断りがない限り、「前」(
図1,
図2に示す矢印Fの方向)は機体前後方向(走行方向)における前方を意味し、「後」(
図1,
図2に示す矢印Bの方向)は機体前後方向(走行方向)における後方を意味するものとする。また、左右方向または横方向は、機体前後方向に直交する機体横断方向(機体幅方向)を意味し、「左」(
図2に示す矢印Lの方向)および「右」(
図2に示す矢印Rの方向)は、それぞれ、機体の左方向および右方向を意味するものとする。
【0014】
〔全体構造〕
図1,
図2に示すように、田植機は、乗用型で四輪駆動形式の機体1を備える。機体1は、機体1の後部に昇降揺動可能に連結された平行四連リンク形式のリンク機構13、リンク機構13を揺動駆動する油圧式の昇降シリンダ13a、リンク機構13の後端部領域にローリング可能に連結される苗植付装置3を備える。苗植付装置3は昇降シリンダ13aによって昇降される作業装置の一例であり、他の作業装置として、施肥装置や薬剤散布装置が搭載されてもよい。
【0015】
機体1は、エンジン2と走行機構RMとを備え、走行機構RMは、車輪12および主変速装置である油圧式の無段変速装置9からなる。無段変速装置9は、例えばHST(Hydro-Static Transmission)であり、モータ斜板およびポンプ斜板の角度を調節することにより、エンジン2から出力される駆動力を変速する。車輪12は、操舵可能な左右の前輪12Aと、操舵不能な左右の後輪12Bとを有する。エンジン2および無段変速装置9は、機体1の前部に搭載される。エンジン2からの動力は、無段変速装置9等を介して前輪12A、後輪12B、作業装置等に供給される。
【0016】
苗植付装置3は、一例として8条植え形式に構成される。苗植付装置3は、苗載せ台21、8条分の植付機構22、5つのフロート15等を備える。なお、この苗植付装置3は、各条クラッチ(植付クラッチ23)の制御により、2条植え、4条植え、6条植え等の形式に変更可能である。
【0017】
苗載せ台21は、8条分のマット状苗を載置する台座である。苗載せ台21は、マット状苗の左右幅に対応する一定ストロークで左右方向に往復移動し、苗載せ台21が左右のストローク端に達する毎に、苗載せ台21上の各マット状苗を苗載せ台21の下端に向けて所定ピッチで縦送りする。
【0018】
8個の植付機構22は、ロータリ式で、植え付け条間に対応する一定間隔で左右方向に配置される。そして、各植付機構22は、植付クラッチ23が動力伝達クラッチ位置に移行されることによりエンジン2から駆動力が伝達され、苗載せ台21に載置された各マット状苗の下端から一株分の苗を切り取って、整地後の泥土部に植え付ける。これにより、苗植付装置3は、苗載せ台21に載置されたマット状苗から苗を取り出して水田の泥土部に植え付けることができる。
【0019】
フロート15は苗植付作業の際に圃場を整地する。各フロート15は、2条分の植付機構22と対応付けて設けられる。
【0020】
機体1は、その前後方向中間領域に運転部14を備える。運転部14は、
図3に示すように、前輪操舵用のステアリングホイール10、無段変速装置9の変速操作を行うことで車速を調節する主変速レバー31、苗植付装置3の昇降操作と植付クラッチ23の入切(動力伝達クラッチ位置と動力遮断クラッチ位置との間の切り替え)を操作する作業操作レバー11等を備える。ステアリングホイール10、主変速レバー31、作業操作レバー11、および液晶ディスプレイを含む情報報知部33は、ステアリングホイール10の下方に配置された運転パネル30に設けられる。さらに、ステアリングホイール10の後方には、オペレータ(運転者・作業者)用の運転座席16が配置されている。運転部14の前方に予備苗支持フレーム17が設けられ、予備苗支持フレーム17に予備苗収納装置17Aが支持されている。
【0021】
また、予備苗支持フレーム17には、測位ユニット90が設けられる。測位ユニット90は、機体1の位置および方位を算出するための測位データを出力する。測位ユニット90には、全地球航法衛星システム(GNSS)の衛星からの電波を受信する衛星測位モジュール90Aと、機体1の三軸の傾きや加速度を検出する慣性計測モジュール90Bが含まれている。
【0022】
また、運転パネル30には、開始位置操作具18、終了位置操作具19、旋回準備操作具20が設けられる。開始位置操作具18は、後述するティーチング走行における始点を決定する際に操作される。終了位置操作具19は、ティーチング走行における終点を決定する際に操作される。旋回準備操作具20は後述の自動旋回走行において用いられる操作具である。開始位置操作具18、終了位置操作具19、および旋回準備操作具20は、入力操作が可能な操作具であればよく、例えば、押しボタンである。
【0023】
〔作業走行〕
田植機が圃場を田植作業する作業走行について、
図1,
図2を参照しながら、
図4を用いて説明する。
【0024】
本実施形態における田植機は、手動走行および自動走行を選択的に行うことができる。手動走行は、運転者が手動で、ステアリングホイール10、主変速レバー31、作業操作レバー11等の作業走行操作具を操作して作業走行を行うものである。自動走行は、田植機が自動制御で走行および作業を行うものであり、旋回走行を挟んで、後述の直線経路IPLに沿った往復直進作業走行を行う。この際の旋回走行は、走行経路が生成されず、あらかじめ定められた所定の手順で自動制御される。
【0025】
田植機が田植作業を行う際には、圃場が外周領域OAと内部領域IAに区分けされ、それぞれに応じた作業走行が行われる。
【0026】
内部領域IAでは、圃場の一つの辺に略平行な複数の経路を旋回経路で繋ぐ直線経路(内部往復経路)IPLが生成される。直線経路IPLは、内部領域IAの全体をくまなく走行する走行経路であり、旋回走行が行われる度に、次に走行する直線経路IPLが生成される。
【0027】
外周領域OAで自動作業走行が行われる場合、畦RWによって囲まれた圃場の外周に沿って外周領域OA内を周回する、内側周回経路IRLと外側周回経路ORLの2つの走行経路が生成される。内側周回経路IRLと外側周回経路ORLとを作業走行することにより、外周領域OAの全体の作業走行が行われる。なお、外周領域OA内を周回する走行経路は、内側周回経路IRLと外側周回経路ORLとの2つに限らず、1以上の走行経路であればよい。
【0028】
〔直線経路の自動作業走行〕
次に、
図1~
図4を参照しながら、
図5を用いて直線経路IPLにおける自動作業走行について説明する。
【0029】
まず、内部領域IAの一端から他端に向けて手動走行を行うティーチング走行が行われる。ティーチング走行において、運転者は、作業走行を開始する位置で開始位置操作具18を操作し、ティーチング走行の始点PAを登録する。そして、運転者は、手動操作で直線状の作業走行(手動走行)を行い、作業走行の終了位置に到達すると終了位置操作具19を操作し、ティーチング走行の終点PBを登録する。なお、終点PBは、作業走行の終了位置から、苗植付装置3の上昇される間に直進走行された位置であってもよい。
【0030】
この始点PAと終点PBとを結ぶ直線が基本直線RLであり、基本直線RL、および、基本直線RLに平行な方向である基準方位RDの少なくともいずれかが登録される。
【0031】
次に、往復作業走行を行うために、運転者は所定の操作を行い、後述の自動旋回走行によって、機体1を180°旋回させる。
【0032】
自動旋回走行の終了位置が直進走行の開始位置PSSとなり、開始位置PSSを通り、基本直線RLに平行な(基準方位RDの方向の)直線が次に走行する直線経路IPLとして生成される。
【0033】
そして、運転者は直線経路IPLに沿った自動作業走行を開始させる。その後、直線経路IPLに沿った自動作業走行と自動旋回走行とが繰り返され、自動旋回走行が終了する度に、次の直線経路IPLが生成されて、内部領域IA全体にわたる往復走行が行われる。
【0034】
〔自動旋回走行〕
次に、
図1~
図5を参照しながら、
図6を用いて自動旋回走行について説明する。
【0035】
自動旋回走行は、所定の人為操作が行われることにより開始される。自動旋回走行は外周領域OAで行われるが、特に、畦RWから所定の距離だけ圃場の内側の領域で行われる。自動旋回走行は走行経路に沿って行われるのではなく、車輪12等の走行装置が所定の手順で制御されることにより、あらかじめ定められた所定の手順で行われる。
【0036】
例えば、自動旋回走行は、直線経路IPLでの作業走行が終了し、開始位置PSで所定の人為操作が行われると、まず、前輪12Aがあらかじめ定められた所定の操舵角度、例えば、最大操舵角度に操作されて旋回走行が行われる。
【0037】
〔作業走行の工程〕
次に、
図6を用いて作業走行の工程について説明する。
【0038】
圃場での作業を行う際には、まず、走行切替操作具(非図示)が操作されて、自動走行に切り替えられているか否かが判定される(
図6のステップ#1)。
【0039】
自動走行に切り替えられていない場合(
図6のステップ#1 No)、手動走行が選択されているため、運転者は、手動操作により作業走行を行う。手動作業走行の際に上述のティーチング走行が行われる(
図6のステップ#2)。
【0040】
自動走行に切り替えられている場合(
図6のステップ#1 Yes)、走行制御モードが自動直進モードに設定される(
図6のステップ#3)。これにより、直線経路IPLに沿った自動作業走行(自動直進走行)が行われる(
図6のステップ#4)。
【0041】
自動直進走行中に、旋回準備操作が行われたか否かが判定され(
図6のステップ#5)、旋回準備操作が行われるまで自動直進走行が継続される。旋回準備操作は、レバーやボタン等を用いて行うことができる。
【0042】
旋回準備操作が行われると(
図6のステップ#5 Yes)、走行制御モードは自動直進モードから旋回準備モードに切り替わる(
図6のステップ#6)。そして、旋回準備モードにおける自動直進走行中に、開始位置操作具18または終了位置操作具19が操作されたか否かが判定され(
図6のステップ#7)、開始位置操作具18または終了位置操作具19が操作されるまで旋回準備モードにおける自動直進走行が継続される。
【0043】
そして、開始位置操作具18または終了位置操作具19が操作されると(
図6のステップ#7 Yes)、走行制御モードは、旋回準備モードから自動旋回モードに切り替わり(
図6のステップ#8)、操作された開始位置操作具18または終了位置操作具19に応じた方向に、あらかじめ定められた所定の手順で自動旋回走行が行われる(
図6のステップ#9)。
【0044】
旋回走行が終了すると、走行制御モードは自動直進モードに切り替わり、ステップ#3からステップ#9の工程が繰り返される。そして、内部領域IA(
図4参照)での作業走行が終了すると、自動走行または手動走行で外周領域OA(
図4参照)の作業走行が行われる。
【0045】
次に、
図7と
図8とを用いて、この田植機の制御系を説明する。制御系は、本体制御ユニット5と、自動走行制御ユニット8とを備えている。本体制御ユニット5は、ECUと呼ばれるコンピュータユニットから構成されており、ここではメインECUと称する。自動走行制御ユニット8もECUと呼ばれるコンピュータユニットから構成されているており、ここではメインECUと称する。本体制御ユニット5と、自動走行制御ユニット8とは、車載LANによってデータ交換可能に接続されている。
【0046】
本体制御ユニット5は、作業制御ユニット6、走行制御ユニット7、入出力信号処理部50、報知制御部51を備えている。
【0047】
作業制御ユニット6は、苗植付装置3などの作業装置の動作を制御する機能を有する。本発明に特に関係する機能部として、作業制御ユニット6は、モータ制御部60と昇降制御部62を有する。
【0048】
図8に模式的に示すように、制御モータ40の回転操作軸41の回転角度位置によって、制御弁4の制御位置と植付クラッチ23のクラッチ位置がシーケンシャルに操作される。回転操作軸41の回転角度位置は、回転角検出器91によって検出される。制御弁4の制御位置は、昇降シリンダ13aを上昇操作する上昇制御位置と昇降シリンダ13aを下降操作する下降制御位置とである。植付クラッチ23のクラッチ位置は、植付機構22へ動力を伝達する動力伝達クラッチ位置と植付機構22への動力を遮断する動力遮断クラッチ位置とである。この実施形態では、回転角検出器91が第1回転角を検出すると、動力伝達クラッチ位置への操作指令と見なされ、第2回転角を検出すると、動力遮断クラッチ位置への操作指令と見なされる。さらに、回転角検出器91が第3回転角を検出すると下降制御位置への操作指令と見なされ、第4回転角を検出すると、上昇制御位置への操作指令と見なされる。第1回転角と第2回転角と第3回転角と第4回転角とは、シーケンシャルな回転位相列である。なお、この実施形態の説明では、第1回転角は動力伝達クラッチ位置に対応付けられ、第2回転角は動力遮断クラッチ位置に対応付けられ、第3回転角は下降制御位置に対応付けられ、第4回転角は上昇制御位置に対応付けられているが、このような対応関係に限定されているわけではない。第1回転角、第2回転角、第3回転角、第4回転角の移行順を、逆方向にしてもよい。つまり、制御モータ40の回転角度の一端部には、植付クラッチ23の動力伝達クラッチ位置が設定され、制御モータ40の回転角度の他端部には制御弁4の上昇制御位置が設定される。また、別の実施形態において、この対応付けを部分的に変更することも自在である。例えば、第2回転角が下降制御位置に対応付けられ、第3回転角が動力遮断クラッチ位置に対応付けられてもよい。なお、この実施形態では、回転操作軸41と植付クラッチ23は、機械式のクラッチ操作機構24によって連動連結されている。機械式のクラッチ操作機構24は、例えば、アウター・インナーワイヤ機構やリンクロッド機構によって構成される。これにより、第1回転角に対応する回転変位と第2回転角に対応する回転変位とは、機械式のクラッチ操作機構24によって植付クラッチ23に伝達され、植付クラッチ23のクラッチ位置設定、つまり動力伝達クラッチ位置または動力遮断クラッチ位置への切り替えに用いられる。ここでは、第1回転角と第2回転角とは、第3回転角と第4回転角とは、昇降制御部62において、制御弁4の下降制御位置設定と上昇制御位置設定とに用いられる。昇降制御部62は、弁駆動信号を制御弁4に与えることで、昇降シリンダ13aが昇降する。
【0049】
モータ制御部60は、制御モータ40の回転角度を制御する制御装置として機能する。回転操作軸41の回転角度が順次進むごとに、植付クラッチ23の動力伝達クラッチ位置、植付クラッチ23の動力遮断クラッチ位置、制御弁4の下降制御位置、制御弁4の上昇制御位置が設定される。実際の制御弁4の制御位置の切替操作は昇降制御部62が行い、植付クラッチ23のクラッチ位置の切替は、機械式のクラッチ操作機構24を介して、行われる。
【0050】
このように、1つの制御モータ40の回転角度に応じて、苗植付装置3の昇降、植付クラッチ23の入り切りが行われる構成では、例えば、「植付部下降+植付クラッチ入」の状態から植付部を上昇する場合、モータは「植付クラッチ入→切」動作を経て「苗植付装置3の下降→上昇」動作に移行するため、苗植付装置3に対する上昇指令が出てから実際に苗植付装置3が上昇を始めるまでに時間的遅れが発生する。特に問題となるのは前進植付状態から短時間の停車を経て後進動作をするときであり、主変速レバー31のバック側操作に連動して、苗植付装置3を上昇させるのでは、無視できない時間的遅れが発生する。このような問題を回避するためには、上述のような走行状態での停車(ここでは、特殊停車と称する)の場合、例えば、植付クラッチ23が動力伝達クラッチ位置の状態で作業走行している走行状態で機体1が停車した場合、植付クラッチ23を動力遮断クラッチ位置に設定する。これより、走行再開時における動力伝達クラッチ位置から動力遮断クラッチ位置への移行時間を節約することができる。さらに、その際、制御弁4の制御位置も下降制御位置に設定すれば、特に後進走行再開時に、すぐに苗植付装置3を上昇させることができる。また、特に前進特別停車から走行再開が行われる場合、制御モータ40を制御して、植付クラッチ23を動力伝達クラッチ位置に設定することも可能である。
【0051】
走行制御ユニット7は、走行機構RMに制御信号を与えて、機体1の走行を制御する。走行制御ユニット7は、機体1の停車、特に上述した特殊停車を検知するための停車検知部71を有する。停車検知部71は、走行機構RMの駆動回転数を検出する駆動回転検出器92からの検出信号に基づき、走行機構RMの駆動回転数が閾値を下回るかどうか、判定する。停車検知部71は、走行機構RMの駆動回転数が閾値を下回ることで、機体1の停車を検知する。この閾値は、エンジン2の回転数が低いほど、小さくさるように、回転数に依存する。
【0052】
入出力信号処理部50は、各種操作具からの操作信号や各種センサからの検出信号を入力し、必要な前処理を行って制御系の各機能部に与えるとともに、制御系からの制御指令や制御信号を田植機の動作機器や制御機器に出力する。例えば、作業操作レバー11からの操作信号は、入出力信号処理部50で操作指令に変換され、植付クラッチ制御部61やモータ制御部60に与えられ、苗植付装置3の昇降や植付クラッチ23の入り切りに用いられる。
【0053】
報知制御部51は、本体制御ユニット5や自動走行制御ユニット8などの制御ユニットにおいて生成された報知情報を受け取って、情報報知部33を通じて当該情報の報知を行う。報知情報には、表示情報、文字情報、音声情報が含まれている。表示情報には、動画やコマ画像や静止画像やメッセージ画像などが含まれている。情報報知部33には、報知すべき情報の形態によって使い分けられる異なる複数の報知デバイス、例えば、液晶ディスプレイ、LED、ランプ、スピーカ、ブザーが含まれている。
【0054】
自動走行制御ユニット8は、機体位置算出部81、経路生成部82、自動作業走行管理部83、自動旋回走行管理部85を備える。
【0055】
機体位置算出部81は、測位ユニット90から受信した測位データに基づいて、圃場における機体位置を断続的または連続的に算出する。
【0056】
経路生成部82は、上述のティーチング走行において、基本直線RLおよび基準方位RDの少なくともいずれかを算出する。そして、経路生成部82は、算出された基本直線RLまたは基準方位RDを用いて、旋回走行が行われる度に、次に走行する直線経路IPLを生成する。なお、経路生成部82は、圃場作業の最初に、外周領域OAと内部領域IAに区分けされ圃場に対して、全ての走行経路を生成することも可能である。この場合、機体1は、経路生成部82によって順次設定される走行経路を目標走行経路として、自動走行する。
【0057】
自動作業走行管理部83は、機体位置に基づいて直線経路IPLに沿った自動作業走行を管理する。
【0058】
自動旋回走行管理部85は、旋回準備モードにおいて、開始位置操作具18または終了位置操作具19に対する人為操作されると、自動旋回モードに移行させると共に、開始位置操作具18または終了位置操作具19に対応する方向に、あらかじめ定められた所定の手順で機体1を旋回させる。例えば、開始位置操作具18が操作されると、自動旋回走行管理部85は所定の手順で機体1を右に旋回させ、終了位置操作具19が操作されると、自動旋回走行管理部85は所定の手順で機体1を左に旋回させる。なお、開始位置操作具18または終了位置操作具19の操作に応じた旋回方向は左右逆でもよいが、開始位置操作具18が操作されると左旋回され、終了位置操作具19が操作されると右旋回される場合、旋回準備操作具20に対して、開始位置操作具18を左側に配置させ、終了位置操作具19を右側に配置させることが好ましい。
【0059】
また、自動旋回モードに移行すると、自動旋回走行管理部85は、植付クラッチ23を停止させ、苗植付装置3を上昇させる指令を与える。
【0060】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【0061】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、制御モータ40の回転操作軸41の回転角が、機械式のクラッチ操作機構24によって連動連結され、回転操作軸41の回転変位によって植付クラッチ23の入り切りが行われていた。これに代えて、回転角検出器91によって検出される回転操作軸41の回転角に基づいて駆動制御される、電気式のクラッチ操作機構24によって、植付クラッチ23のクラッチ位置、つまり動力伝達クラッチ位置または動力遮断クラッチ位置が設定される構成が採用されてもよい。
【0062】
(2)上記各実施形態において、本体制御ユニット5や自動走行制御ユニット8は、
図7に示すような機能部から構成されるものに限定されず、任意の機能部の組み合わせから構成されてもよい。例えば、制御ユニットの各機能部はさらに細分化されても良く、逆に、各機能部の一部または全部がまとめられてもよい。また、各制御ユニットの機能は、複数の制御ユニット(タブレットコンピュータなども含む)に分割されてもよい。
【0063】
(3)上記各実施形態において、走行機構RMは、車輪12に限らず、クローラ等で構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、田植機や施肥機など、作業装置の昇降制御や作業装置の動力伝達制御などを行いながら、圃場を作業走行する水田作業機に適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
3 :苗植付装置
4 :制御弁
5 :本体制御ユニット
6 :作業制御ユニット
7 :走行制御ユニット
8 :自動走行制御ユニット
11 :作業操作レバー
13a :昇降シリンダ
22 :植付機構
23 :植付クラッチ
24 :クラッチ操作機構
40 :制御モータ
41 :回転操作軸
60 :モータ制御部
61 :植付クラッチ制御部
62 :昇降制御部
71 :停車検知部
91 :回転角検出器
92 :駆動回転検出器