(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180828
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】地盤又は岩盤の評価方法
(51)【国際特許分類】
E02D 1/02 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
E02D1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094441
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】甲村 雄一
(72)【発明者】
【氏名】田屋 裕司
(72)【発明者】
【氏名】濱田 純次
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043AA02
2D043AB01
2D043AC01
2D043BC03
2D043EB01
2D043EB06
(57)【要約】
【課題】圧縮試験に適した大きさの供試体を採取し難い地盤や岩盤においても、特殊な機器を用いずに、岩盤の粘着力及びせん断抵抗角を評価する方法を提供する。
【解決手段】地盤又は岩盤の評価方法は、地下水を含んだ地盤又は岩盤(岩盤G)を削孔して孔内載荷試験を実施し、地盤又は岩盤の上載圧及び降伏圧を導出する工程と、プローブ20への上載圧を変えた状態で孔内載荷試験を実施し、地盤や岩盤の上載圧及び降伏圧を導出する工程と、地盤又は岩盤に生じる垂直応力を横軸とし、せん断応力を縦軸とする座標系に、上載圧及び降伏圧から導出される複数の応力円を描画する工程と、複数の応力円に共通する接線を描画する工程と、接線と縦軸との交点から地盤又は岩盤の粘着力を導出し、接線の傾きから地盤又は岩盤のせん断抵抗角を導出する工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水を含んだ地盤又は岩盤を削孔して孔内載荷試験を実施し、前記地盤又は岩盤の上載圧及び降伏圧を導出する工程と、
プローブへの上載圧を変えた状態で孔内載荷試験を実施し、前記地盤や岩盤の上載圧及び降伏圧を導出する工程と、
前記地盤又は岩盤に生じる垂直応力を横軸とし、せん断応力を縦軸とする座標系に、前記上載圧及び前記降伏圧から導出される複数の応力円を描画する工程と、
前記複数の応力円に共通する接線を描画する工程と、
前記接線と縦軸との交点から前記地盤又は岩盤の粘着力を導出し、前記接線の傾きから前記地盤又は岩盤のせん断抵抗角を導出する工程と、
を備えた地盤又は岩盤の評価方法。
【請求項2】
前記上載圧は、前記地盤又は岩盤の地下水位を調整することにより変えられる、
請求項1に記載の地盤又は岩盤の評価方法。
【請求項3】
前記地盤又は岩盤の地下水を揚水することにより地下水位を調整する、
請求項2に記載の地盤又は岩盤の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤又は岩盤の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤又は岩盤の粘着力やせん断抵抗角を評価する場合、一般的には、地盤又は岩盤をボーリングして採取したボーリングコアから供試体を取り出し、一軸圧縮試験や三軸圧縮試験を実施する。しかしながら、地盤や亀裂が多い強風化岩等においては、一軸圧縮試験や三軸圧縮試験に適した大きさの供試体を採取できない場合が多い。
【0003】
そこで、例えば下記特許文献1には、ボーリング削孔と同時に加圧セルや保孔管を地盤へ挿入し、加圧力を順次変えながらせん断試験を行って地盤の摩擦角度や粘着力を求める孔内載荷試験方法が記載されている。これにより、乱さない試料採取が困難な瓦礫地盤や崩壊性地盤において、地盤情報を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された岩盤物性評価方法では、ボーリング削孔用の削孔ビットと水平載荷試験用の加圧セルとを一体化した特殊な削孔ロッドを用いる必要がある。このため、一般的な孔内載荷試験用のプローブを用いることができない。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、圧縮試験に適した大きさの供試体を採取し難い地盤や岩盤においても、特殊な機器を用いずに、地盤又は岩盤の粘着力及びせん断抵抗角を評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の地盤又は岩盤の評価方法は、地下水を含んだ地盤又は岩盤を削孔して孔内載荷試験を実施し、前記地盤又は岩盤の上載圧及び降伏圧を導出する工程と、プローブへの上載圧を変えた状態で孔内載荷試験を実施し、前記地盤や岩盤の上載圧及び降伏圧を導出する工程と、前記地盤又は岩盤に生じる垂直応力を横軸とし、せん断応力を縦軸とする座標系に、前記上載圧及び前記降伏圧から導出される複数の応力円を描画する工程と、前記複数の応力円に共通する接線を描画する工程と、前記接線と縦軸との交点から前記地盤又は岩盤の粘着力を導出し、前記接線の傾きから前記地盤又は岩盤のせん断抵抗角を導出する工程と、を備える。
【0008】
請求項1の地盤又は岩盤の評価方法では、地盤又は岩盤を削孔して孔内載荷試験を実施し、地盤又は岩盤の上載圧及び降伏圧を導出する。また、プローブへの上載圧を変えた状態で孔内載荷試験を実施し、地盤や岩盤の上載圧及び降伏圧を導出する。これにより、プローブへの上載圧が異なる複数の状態における上載圧及び降伏圧の組み合わせが導出される。
【0009】
そして、地盤又は岩盤に生じる垂直応力を横軸とし、せん断応力を縦軸とする座標系に、上載圧及び降伏圧から導出される複数の応力円を描画して、さらに、複数の応力円に共通する接線を描画する。この接線と縦軸との交点は、岩盤の粘着力を示す。また、接線の傾きは、岩盤のせん断抵抗角を示す。
【0010】
この方法によれば、ボーリングコアから採取した供試体を用いなくても、地盤又は岩盤の粘着力及びせん断抵抗角を評価することができる。これにより、圧縮試験に適した大きさの供試体を採取し難い地盤や岩盤においても、特殊な機器を用いずに、地盤又は岩盤の粘着力及びせん断抵抗角を評価することができる。
【0011】
請求項2の地盤又は岩盤の評価方法は、請求項1に記載の地盤又は岩盤の評価方法において、前記上載圧は、前記地盤又は岩盤の地下水位を調整することにより変えられる。
【0012】
請求項2の地盤又は岩盤の評価方法では、プローブへの上載圧が、地盤又は岩盤の地下水位を調整することにより変えられる。
【0013】
地盤又は岩盤の地下水位を調整すると、地盤又は岩盤に作用する浮力が変わる。例えば地下水位を低くすると浮力が小さくなる。これによりプローブへの上載圧が大きくなる。また、地下水位を高くすると浮力が大きくなる。これによりプローブへの上載圧が小さくなる。このように、地下水位を調整すれば容易にプローブへの上載圧を変えることができる。
【0014】
また、この方法ではボーリングによって採取した試料に圧縮試験を実施する必要がないため、ボーリングによって乱さない試料を採取することが難しい地下水を含んだ地盤又は岩盤の粘着力及びせん断抵抗角を評価することができる。
【0015】
請求項3の地盤又は岩盤の評価方法は、請求項2に記載の地盤又は岩盤の評価方法において、前記地盤又は岩盤の地下水を揚水することにより地下水位を調整する。
【0016】
請求項3の地盤又は岩盤の評価方法では、地盤又は岩盤の地下水を揚水することにより地下水位を調整する。地下水を揚水する場合、例えば揚水井戸に設けたポンプの位置までしか水位は下がらない。
【0017】
また、揚水井戸の近傍であれば、地下水位は揚水井戸における水位と近い。このため、例えば地盤又は岩盤へ水を注入して地下水位を高くする場合と比較して、水位管理が容易である。すなわち、プローブへの上載圧の管理が容易である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、圧縮試験に適した大きさの供試体を採取し難い地盤や岩盤においても、特殊な機器を用いずに、岩盤の粘着力及びせん断抵抗角を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】(A)は本発明の実施形態に係る地盤又は岩盤の評価方法において、評価対象の岩盤を削孔してボーリングコアを採取している状態を示す断面図であり、(B)は孔内載荷試験を実施している状態を示す断面図であり、(C)は地下水位を変えた状態で孔内載荷試験を実施している状態を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る地盤又は岩盤の評価方法によって導出されたプレッシャーメータ曲線を示すグラフである。
【
図3】(A)は孔内載荷試験の結果を図示した応力円を示すグラフであり、(B)は複数の孔内載荷試験の結果を図示した応力円に共通する接線を引いた状態を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施形態に係る地盤又は岩盤の評価方法において、揚水井戸を複数形成した変形例を示す断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る地盤又は岩盤の評価方法において、3つ以上の応力円に共通する接線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る地盤又は岩盤の評価方法について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。
【0021】
また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0022】
<地盤又は岩盤の評価方法>
本発明の実施形態に係る地盤又は岩盤の評価方法は、一軸圧縮試験や三軸圧縮試験に適した大きさの供試体を採取することが難しい地盤(例えば砂層や砂礫層)又は岩盤(例えば強風化岩)の粘着力及びせん断抵抗角を評価する方法である。
【0023】
この地盤又は岩盤の評価方法では、評価対象の地盤又は岩盤に複数回の孔内載荷試験(プレッシャーメータ試験)を実施して、岩盤の粘着力及びせん断抵抗角を評価する。また、この地盤又は岩盤の評価方法は、地下水を含んだ地盤又は岩盤に適用される。
【0024】
(孔内載荷試験1)
孔内載荷試験では、まず
図1(A)に示すように、評価対象の地盤又は岩盤(以下、一例として「岩盤G」と称す)を削孔し、試験孔H1を形成する。岩盤Gは一例として強風化岩によって形成された岩盤である。試験孔H1を形成する際には、試験孔H1が形成される部分の内側の岩盤Gをコア抜きする。コア抜きされた岩盤GすなわちボーリングコアC1は、単位体積重量(以下、「岩盤Gの単位体積重量」と称す)が測定される。
【0025】
次に、
図1(B)に示すように、試験孔H1へプローブ20を挿入する。プローブ20は、ゴムチューブで形成された加圧部22を備えている。加圧部22は、装置24と、連結管26で連結されている。装置24は、圧力の制御及び測定と孔径の変位の測定とを実行する装置である。
【0026】
孔内載荷試験では、装置24から加圧部22へ連結管26を介してガスや液体を送出することにより、加圧部22の内部にガスや液体が充填され、試験孔H1の孔壁が押圧される。
【0027】
ここで、岩盤Gは地下水を含んだ岩盤である。地表面から地下水位までの深さ(距離)をL1[m]、地下水位からプローブ20の高さ方向の中心位置までの深さをL2[m]、岩盤Gの単位体積重量をγ[kN/m2]とすると、岩盤Gの上載圧(土かぶり圧)P1[kN/m2]が、浮力の影響を考慮した以下の(1)式で算出される。
【0028】
P1=γ・L1+(γ-9.8)・L2 ・・・(1)
【0029】
また、
図2には、プレッシャーメータ曲線が示されている。プレッシャーメータ曲線は、プレッシャーメータ試験における「孔壁圧力」と「孔径」との関係を示す曲線である。この図においては、縦軸が孔壁圧力、横軸が孔径を示しており、岩盤Gが圧縮破壊される降伏圧P
2[kN/m
2]及びその際の孔径である降伏孔径r
2[m]が示されている。このように、孔内載荷試験(プレッシャーメータ試験)により、岩盤Gの降伏圧P
2[kN/m
2]が導出される。
【0030】
なお、加圧部22による岩盤Gの加圧を続けると、降伏圧P2[kN/m2]を超えた部分から、プレッシャーメータ曲線の形状が直線に沿わない形状となる。この形状変化の発生により、降伏圧P2[kN/m2]が把握される。また、プレッシャーメータ曲線の形状が変化した時点で加圧を中断することにより、岩盤Gの塑性破壊が抑制される。
【0031】
(応力円の描画1)
ここで、孔内載荷試験によって測定された岩盤Gの上載圧P1[kN/m2]は、三軸応力状態における拘束圧に相当する。また、孔内載荷試験によって測定された岩盤Gの降伏圧P2[kN/m2]は、三軸応力状態における最大主応力に相当する。
【0032】
このため、
図3(A)に示す、岩盤Gに生じる垂直応力σ[kN/m
2]を横軸とし、せん断応力τ[kN/m
2]を縦軸とする座標系において、上載圧P
1[kN/m
2]及び降伏圧P
2[kN/m
2]をそれぞれ横軸上に描画し、これらの値P
1及びP
2を結ぶ直線を直径とする円(半円)N1を、岩盤Gの応力状態を示す応力円として描画できる。
【0033】
なお、岩盤Gの上載圧P1[kN/m2]及び降伏圧P2[kN/m2]が、それぞれ三軸応力状態における拘束圧及び最大主応力に相当することは、例えば「孔内載荷試験によって求められるc,φについての考察:応用地質調査事務所年報 No.2 1980」等に示されている。
【0034】
(孔内載荷試験2)
次に、
図1(C)に示すように、試験孔H1の近傍に揚水井戸H2を形成し、この揚水井戸H2から地下水を揚水して、地下水位を調整する。これにより、岩盤G内の浮力が変化するため、プローブ20に作用する上載圧(土かぶり圧)が変化する。なお、揚水井戸H2は、1回目の孔内載荷試験に先立って形成しておいてもよい。
【0035】
なお、本発明における「上載圧を変えた状態」とは、このように、最初に実施した孔内載荷試験1と比較してプローブ20に作用させる上載圧を変えた状態を示す。
【0036】
そして、上述した「孔内載荷試験1」と同様の試験を実施する。このときの地表面から地下水位までの深さ(距離)をL3[m]、地下水位からプローブ20の高さ方向の中心点までの深さをL4[m]とすると、岩盤Gの上載圧(土かぶり圧)P3[kN/m2]が、以下の(2)式で算出される。なお、この際、試験孔H1においてプローブ20の位置は変えない。
【0037】
P3=γ・L3+(γ-9.8)・L4 ・・・(1)
【0038】
また、孔内載荷試験(プレッシャーメータ試験)により導出されるプレッシャーメータ曲線から、地下水位が変化した状態での岩盤Gの降伏圧P4[kN/m2]が導出される。
【0039】
(応力円の描画2)
ここで、
図3(B)に示すように、上述した座標系において、上載圧P
3[kN/m
2]及び降伏圧P
4[kN/m
2]をそれぞれ横軸上に描画し、これらの値P
3及びP
4を結ぶ直線を直径とする円(半円)N2を、岩盤Gの応力状態を示す応力円として描画する。
【0040】
(粘着力及びせん断抵抗角の導出)
岩盤Gの粘着力c[kN/m
2]及びせん断抵抗角φは、応力円N1及びN2を用いて導出することができる。具体的には、
図3(B)に示すように、応力円N1及びN2へ共通する接線N3を描画する。
【0041】
接線N3と縦軸との交点における縦軸の値は、岩盤Gの粘着力c[kN/m2]を示す。また、接線N3の傾きは、岩盤Gのせん断抵抗角φを示す。このように、本実施形態に係る地盤又は岩盤の評価方法では、岩盤Gの粘着力c[kN/m2]及びせん断抵抗角φを、グラフを用いて評価することができる。
【0042】
<作用及び効果>
以上説明したように、本発明の実施形態に係る地盤又は岩盤の評価方法では、
図1(B)に示すように、岩盤Gを削孔して孔内載荷試験を実施し、岩盤Gの上載圧P
1[kN/m
2]及び降伏圧P
2[kN/m
2]を導出する。
【0043】
また、
図1(C)に示すように、プローブ20への上載圧を変えた状態で孔内載荷試験を実施し、岩盤Gの上載圧P
3[kN/m
2]及び降伏圧P
4[kN/m
2]を導出する。これにより、プローブ20への上載圧が異なる複数の状態における上載圧及び降伏圧の組み合わせが導出される。
【0044】
そして、
図3に示すように、岩盤Gに生じる垂直応力σ[kN/m
2]を横軸とし、せん断応力τ[kN/m
2]を縦軸とする座標系に、上載圧P
1、P
3[kN/m
2]及び降伏圧P
2、P
4[kN/m
2]から導出される複数の応力円N1及びN2を描画して、さらに、これらの応力円N1及びN2に共通する接線N3から、岩盤Gの粘着力c[kN/m
2]及びせん断抵抗角φが求められる。
【0045】
この方法によれば、ボーリングコアから採取した供試体を用いなくても、岩盤Gの粘着力c[kN/m2]及びせん断抵抗角φを評価することができる。これにより、圧縮試験に適した大きさの供試体を採取し難い岩盤Gにおいても、特殊な機器を用いずに、岩盤Gの粘着力c[kN/m2]及びせん断抵抗角φを評価することができる。
【0046】
また、本発明の実施形態に係る地盤又は岩盤の評価方法では、プローブ20への上載圧は、岩盤Gの地下水位を調整することにより変えられる。地下水位を調整すれば容易にプローブ20への上載圧を変えることができる。
【0047】
また、この地盤又は岩盤の評価方法では、
図1(C)に示すように、岩盤Gの地下水を「揚水」することにより地下水位を調整する。地下水を揚水する場合、例えば揚水井戸H2に設けたポンプの位置までしか水位は下がらない。
【0048】
そして、揚水井戸H2の近傍であれば、地下水位は揚水井戸H2における水位と近い。このため、例えば岩盤Gへ水を「注入」して地下水位を高くする場合と比較して、水位管理が容易である。すなわち、プローブ20への上載圧の管理が容易である。
【0049】
また、この方法ではボーリングによって採取した試料に圧縮試験を実施する必要がないため、ボーリングによって乱さない試料を採取することが難しい地下水を含んだ岩盤Gの粘着力c[kN/m2]及びせん断抵抗角φを評価することができる。
【0050】
ここで、プローブ20への上載圧を変える方法としては、プローブ20の高さ方向の位置を変えて孔内載荷試験を複数回実施する方法も挙げられる。このような方法において、共通する接線を描画し易い2つの応力円を描画するためには、複数回の孔内載荷試験において、プローブ20の位置を比較的大きく変える必要がある。
【0051】
しかしながら、強風化岩によって形成された岩盤Gでは、一般的に風化の度合いは一様ではない。このため、プローブ20の高さを大きく変えると、評価したい位置とは異なる位置であって、粘着力c[kN/m2]及びせん断抵抗角φも異なる位置の孔内載荷試験を実施することになる場合がある。
【0052】
このため、プローブ20の高さ方向の位置を変えてプローブ20への上載圧を変える方法より、地下水位を変えてプローブ20への上載圧を変える方法のほうが、評価したい位置の粘着力c[kN/m2]及びせん断抵抗角φを確実に評価し易い。
【0053】
なお、例えば
図1(A)に示したボーリングコアC1を観察して、岩盤Gの風化度合いが等しい範囲内であれば、プローブ20の高さ方向の位置を変えてプローブ20への上載圧を変える方法を採用することもできる。
【0054】
<その他の実施形態>
上記実施形態においては、揚水井戸H2を1本のみ形成する場合について説明したが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば
図4に示す揚水井戸H2及びH3のように、試験孔H1の周囲に複数の揚水井戸を形成してもよい。揚水井戸を複数設けることで、試験孔H1の地下水位が定常状態に到達する速度を速めることができる。
【0055】
また、上記実施形態においては、岩盤Gの地下水を揚水することにより地下水位を下げているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば、上述した「孔内載荷試験1」の後、岩盤Gへ注水して地下水位を上げてもよい。すなわち、揚水井戸H2は注水井戸として用いることもできる。
【0056】
地下水位を上げる場合は、岩盤Gに作用する浮力が大きくなるため、プローブ20への上載圧が小さくなる。このため、
図3(B)に破線で示すように、岩盤Gの上載圧P
5[kN/m
2](<P
1)及び降伏圧P
6[kN/m
2](<P
2)から、新たな応力円N4を描画することができる。
【0057】
また、上記実施形態においては、プローブ20への上載圧を変えた2回の孔内載荷試験から、2つの応力円N1及びN2を導出しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。すなわち、プローブ20への上載圧を変えた孔内載荷試験を3回以上実施して、応力円を3つ以上描画してもよい。
【0058】
なお、
図5に示すように、応力円を3つ以上描画する場合、これらの応力円に「共通する接線」が一意的に定まらない場合がある。例えば応力円S1及びS2に共通する接線は接線K12であり、応力円S2及びS3に共通する接線は接線K23であり、応力円S1及びS3に共通する接線は接線K13であり、これらは互いに一致していない。
【0059】
このような場合においては、これらの接線K12、K23及びK13に対する誤差が最小となるような接線K123を、例えば最小二乗法などの任意の近似手法によって導出する。これにより、複数の応力円に共通する接線を導出できる。すなわち、本発明における「複数の応力円に共通する接線」とは、近似された接線を含んでいてもよい。
【0060】
また、上記実施形態においては、複数回の孔内載荷試験において、試験孔H1におけるプローブ20の位置(高さ方向の位置)は変えないものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば1回目の孔内載荷試験と2回目の孔内載荷試験との間で、プローブ20の位置をわずかに変えてもよい。「わずかに」とは、例えばプローブ20における加圧部22の上下方向の寸法である。
【0061】
プローブ20の位置を変えることで、1回目の孔内載荷試験の加圧によって岩盤Gが変化する影響が、2回目の孔内載荷試験に及ぶことを抑制できる。なお、1回目の孔内載荷試験と2回目の孔内載荷試験との間で、プローブ20の位置を変える場合、
図1(A)に示したボーリングコアC1を観察して、岩盤Gの風化度合いが等しい範囲内で変えることが好ましい。
【符号の説明】
【0062】
20 プローブ
c 粘着力
G 岩盤
N1 円(応力円)
N2 円(応力円)
N3 接線
φ せん断抵抗角