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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180834
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/22 20060101AFI20231214BHJP
   H02K 21/14 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
H02K1/22 A
H02K21/14 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094453
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 将徳
【テーマコード(参考)】
5H601
5H621
【Fターム(参考)】
5H601AA22
5H601CC01
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD18
5H601EE03
5H601EE18
5H601EE34
5H601FF04
5H601GA02
5H601GA24
5H601GB05
5H601GB12
5H601GB33
5H601GB49
5H601GC02
5H601GC12
5H621AA02
5H621BB07
5H621BB10
5H621GA11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】出力トルクを低下させることなく、コギングトルクを低減することができる同期型のモータを提供する。
【解決手段】モータであって、ロータコアのマグネット挿入孔24の径方向外方の面は、第1マグネット22及び第2マグネット23のそれぞれの端部と対向する一対のマグネット対向面245と、マグネット対向面245の周方向の端部からロータコアの外周面に沿って延びる一対の周側端面246と、を有し、(0.92≦RT/ST≦0.96)を満たす。
RT:前記マグネット対向面245と前記周側端面246との各交点の中心角度。
ST:ティース32の総数を第1マグネット22及び第2マグネット23で構成される磁極の総数で除して磁極対応数とし、周方向に並んだ磁極対応数のティース32の周方向の両端のティース32のコイル33が取り付けられるティース基部321の径方向内端の周方向内側321a同士の中心角度。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸に沿って延びるシャフトと、
前記シャフトに固定されて前記シャフトとともに中心軸を中心として回転可能なロータと、
前記ロータと径方向に対向するステータと、を有し、
前記ステータは、
前記ロータの径方向外方に配置される環状のステータコアから径方向内方に延びるとともにコイルが取り付けられたティース基部を有する複数のティースを有し、
前記ロータは、
径方向外方に向かうにつれて周方向に離れて配置される第1マグネット及び第2マグネットを有し、周方向に並ぶ複数のマグネットペアと、
一対の前記第1マグネット及び前記第2マグネットが挿入される複数のマグネット挿入孔を有するロータコアと、を有し、
前記マグネット挿入孔の径方向外方の面は、
前記径方向外方に向かうにつれて周方向に拡がり、前記第1マグネット及び前記第2マグネットのそれぞれの径方向外方の端部と対向する一対のマグネット対向面と、
前記マグネット対向面の周方向の端部から前記ロータコアの外周面に沿って延びる一対の周側端面と、を有し、
前記中心軸に沿う方向に見て、前記マグネット対向面と前記周側端面との各交点の前記中心軸を中心とする中心角度をロータ特徴値RTとし、
前記ティースの総数を前記第1マグネット及び前記第2マグネットで構成される磁極の総数で除した値を磁極対応数として、周方向に前記磁極対応数並んだ両端に配置される2つの前記ティースにおける前記ティース基部の周方向内面の径方向内端の前記中心軸を中心とする中心角度をステータ特徴値STとしたとき、
0.92≦RT/ST≦0.96を満たす、モータ。
【請求項2】
前記ティースの総数が48であり、
前記磁極の総数が8である請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記第1マグネットと前記第2マグネットとは、同形の直方体形状であり、
前記マグネット挿入孔に挿入された前記第1マグネットの周方向長さ及び前記第2マグネット周方向の長さが、9mm以上10mm以下である請求項1又は請求項2に記載のモータ。
【請求項4】
前記マグネット挿入孔に挿入された前記第1マグネットの周方向の長さと、前記第2マグネットの周方向の長さと、が等しい請求項3に記載のモータ。
【請求項5】
前記ロータの直径は、90mm以上105mm以下である請求項1又は請求項2に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、同期電動機の回転子は、外周縁に沿って形成された複数の磁石挿入孔に挿入されてそれぞれ磁極を構成する複数の永久磁石を備える。そして、対向配置された2つの永久磁石における対向側端部それぞれに空隙からなるフラックスバリアが形成される。これらフラックスバリアの間に磁路部が形成される。磁路部の対向面の幅を最適化することで、トルクリップルを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-53778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した同期電動機のように、フラックスバリアの間の幅を最適化するだけでは、回転時のトルクリップルの低減が十分ではなく、特に、コギングトルクを低減する効果が低い。
【0005】
そこで本発明は、出力トルクを低下させることなく、コギングトルクを低減することができる同期型のモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の例示的なモータは、中心軸に沿って延びるシャフトと、前記シャフトに固定されて前記シャフトとともに中心軸を中心として回転可能なロータと、前記ロータと径方向に対向するステータと、を有する。前記ステータは、前記ロータの径方向外方に配置される環状のステータコアから径方向内方に延びるとともにコイルが取り付けられたティース基部を有する複数のティースを有する。前記ロータは、径方向外方に向かうにつれて周方向に離れて配置される第1マグネット及び第2マグネットを有し、周方向に並ぶ複数のマグネットペアと、一対の前記第1マグネット及び前記第2マグネットが挿入される複数のマグネット挿入孔を有するロータコアと、を有する。前記マグネット挿入孔の径方向外方の面は、前記径方向外方に向かうにつれて周方向に拡がり、前記第1マグネット及び前記第2マグネットのそれぞれの径方向外方の端部と対向する一対のマグネット対向面と、
前記マグネット対向面の周方向の端部から前記ロータコアの外周面に沿って延びる一対の周側端面と、を有する。前記中心軸に沿う方向に見て、前記マグネット対向面と前記周側端面との各交点の前記中心軸を中心とする中心角度をロータ特徴値RTとし、前記ティースの総数を前記第1マグネット及び前記第2マグネットで構成される磁極の総数で除した値を磁極対応数として、周方向に前記磁極対応数並んだ両端に配置される2つの前記ティースにおける前記ティース基部の周方向内面の径方向内端の前記中心軸を中心とする中心角度をステータ特徴値STとしたとき、0.92≦RT/ST≦0.96を満たす。
【発明の効果】
【0007】
本発明の例示的なモータによれば、同期型のモータであり、コギングトルクを低減することで、円滑な回転が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の例示的なモータの斜視図である。
図2図2は、図1に示す本発明の例示的なモータの軸方向から見た図である。
図3図3は、図2に示す本発明の例示的なモータの部分拡大図である。
図4図4は、本発明の例示的な実験1の結果を示すグラフである。
図5図5は、本発明の例示的な実験2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態にかかる電動車両用モータについて説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
本明細書において、図1に示すモータ100の中心軸Cxと平行な方向を「軸方向」と称する。中心軸Cxと直交する径方向を単に「径方向」と称し、中心軸Cxを中心とする周方向を単に「周方向」と称する。
【0011】
また、本明細書において、「環状」は、中心軸Cxを中心とする周方向の全域に渡って切れ目が無く連続的に一繋がりとなる形状に加えて、中心軸Cxを中心とする全域の一部に1以上の切れ目を有する形状を含む。
【0012】
また、方位、線、及び面のうちのいずれかと他のいずれかとの位置関係において、「平行」は、両者がどこまで延長しても全く交わらない状態のみならず、実質的に平行である状態を含む。また、「直交」はそれぞれ、両者が互いに90度で交わる状態のみならず、実質的に垂直である状態及び実質的に直交する状態を含む。つまり、「平行」及び「直交」はそれぞれ、両者の位置関係に本発明の主旨を逸脱しない程度の角度ずれがある状態を含む。なお、これらは単に説明のために用いられる名称であって、実際の位置関係、方向、及び名称などを限定する意図はない。
【0013】
<モータ100>
図1は、本発明の例示的なモータ100の斜視図である。図2は、図1に示す本発明の例示的なモータ100の軸方向から見た図である。図3は、図2に示す本発明の例示的なモータ100の部分拡大図である。図1図2に示すように、モータ100は、8極48スロットの同期型電動機である。つまり、モータ100は、8個の磁極101を有する。モータ100において、8個の磁極101は、周方向に等間隔で配置される。
【0014】
図1図2に示すように、モータ100は、シャフト10と、ロータ20と、ステータ30と、を有する。モータ100において、ステータ30は、ロータ20の径方向外方に配置される。ステータ30の径方向の内端が、ロータ20の径方向外端と径方向に対向する。すなわち、ステータ30は、ロータ20と径方向に対向する。
【0015】
<シャフト10>
シャフト10は、中心軸Cxに沿って延びる。シャフト10は、円柱状であり、中心軸Cxを中心に回転可能である。シャフト10は、モータ100のケース(不図示)に軸受(不図示)を介して回転可能に支持される。
【0016】
<ロータ20>
ロータ20は、軸方向に延びる中心軸Cxに沿う方向に延びる円筒状である。本実施形態のモータ100において、ロータ20は、シャフト10に固定されてシャフト10とともに中心軸Cxを中心として回転可能である。ロータ20は、ロータコア21と、周方向に並べられる複数のマグネットペアと、を有する。各マグネットペアは、第1マグネット22と、第2マグネット23と、を有する。ロータ20には、一のマグネットペアの第1マグネット22及び第2マグネット23が径方向外方に向かうにつれて周方向に離れて配置される。
【0017】
<ロータコア21>
ロータコア21は、磁性体材料を用いて形成される。本実施形態において、ロータコア21は、電磁鋼板を軸方向に積層した積層体である。ロータコア21は、シャフト孔211と、複数のマグネット挿入孔24と、有する。シャフト孔211は、軸方向に見て中央に配置されて、軸方向に沿って延びる。シャフト孔211は、ロータコア21を軸方向に貫通する。シャフト孔211にはシャフト10が圧入される。これにより、シャフト10がロータコア21に固定される。なお、シャフト10とロータコア21の固定は、圧入に限定されず、溶接、溶着、ねじ止め等、シャフト10とロータコア21との回転バランスを悪化させることなく、強固に固定できる方法を広く採用することができる。
【0018】
各マグネット挿入孔24には、第1マグネット22及び第2マグネット23が挿入される。
【0019】
<第1マグネット22及び第2マグネット23>
第1マグネット22及び第2マグネット23は、いずれも、同形の平板状(直方体形状)の永久磁石である。すなわち、第1マグネット22と第2マグネット23とは、直方体形状である。第1マグネット22及び第2マグネット23は、厚み方向の一方がN極、他方がS極である。ロータ20では、1つのマグネット挿入孔24に挿入された第1マグネット22及び第2マグネット23は、径方向内方にN極又はS極の一方を配置され、径方向外方に他方を配置される。そして、周方向に隣り合うマグネット挿入孔24では、N極とS極の配置が逆になる。
【0020】
なお、第1マグネット22及び第2マグネット23のロータコア21への固定方法は、例えば、接着にて行われる。なお、固定方法は、接着に限定されず、非磁性の別部品による押圧、樹脂等によるインサート成型等、第1マグネット22及び第2マグネット23をロータコア21に強固に固定できる固定方法を広く採用することができる。また、これらの固定方法を複数利用してもよい。
【0021】
<マグネット挿入孔24>
軸方向から見て、マグネット挿入孔24は、径方向外方に向かうにつれて周方向に拡がる。本実施形態のモータ100において、各マグネット挿入孔24は、周方向に一続きの孔であり、周方向の中間部が径方向内方に屈曲するV字状である。第1マグネット22及び第2マグネット23は、ロータコア21の軸方向一方側の端部から中心軸Cxに沿って配置される。このように配置されることで、マグネット挿入孔24に配置された第1マグネット22の周方向の長さと、第2マグネット23の周方向の長さと、が等しい。このように配置することで、第1マグネット22からの磁束と第2マグネット23からの磁束とのバランスが保たれ、コギングトルクを抑制することができる。
【0022】
マグネット挿入孔24は、径方向内面241と、径方向外面242と、を有する。径方向内面241と、径方向外面242とは径方向に対向する。そして、一対の径方向内面241は、それぞれの面が交差する線と中心軸とを含む面を基準とする面対象である。一対の径方向外面242も、一対の径方向内面241と同様の面を基準とする面対象である。
【0023】
また、マグネット挿入孔24は、一対の第1凸部243と、第2凸部244と、を有する。一対の第1凸部243は、径方向内面241の周方向の両端部に設けられ、径方向外方に突出する。第2凸部244は、径方向外面242の周方向の中央部に設けられ、径方向内方に突出する。
【0024】
マグネット挿入孔24の一対の径方向外面242は、それぞれ、マグネット対向面245と、周側端面246と、を有する。一対のマグネット対向面245は、径方向外方に向かうにつれて周方向に拡がり、第1マグネット22及び第2マグネット23のそれぞれの径方向外方の端部と対向する。マグネット対向面245の周方向長さは、第1マグネット22及び第2マグネット23それぞれの周方向長さよりも長い。また、一対の周側端面246は、一対のマグネット対向面245それぞれの周方向の端部からロータコア21の外周面に沿って延びる。なお、本実施形態のモータ100では、一対のマグネット対向面245は、第1マグネット22及び第2マグネット23のそれぞれと接触するが、非接触であってもよい。
【0025】
マグネット挿入孔24に第1マグネット22及び第2マグネット23を挿入する。このとき、第1マグネット22及び第2マグネット23の周方向外側に配置される面は、第1凸部243と接触する。また、第1マグネット22及び第2マグネット23の周方向の対向する面は、第2凸部244に接触する。この状態で、第1マグネット22及び第2マグネット23は、接着により固定される。
【0026】
なお、第1マグネット22及び第2マグネット23の固定は、接着に限定されず、別部品による押圧、樹脂等によるインサート成型等の方法を採用してもよい。またこれら以外にも、ロータ20の回転時のバランスを崩すことなく、第1マグネット22及び第2マグネット23を強固に固定できる固定方法を広く採用できる。これにより、ロータ20が回転するときに、第1マグネット22及び第2マグネット23の周方向のずれが抑制される。
【0027】
図3に示すように、マグネット挿入孔24に、第1マグネット22及び第2マグネット23を挿入して、固定することで、第1マグネット22及び第2マグネット23それぞれの周方向の両端にフラックスバリア247が形成される。
【0028】
より詳細には、第1マグネット22の周方向一方側面と、マグネット対向面245と、周側端面246と、第1凸部243で囲われるマグネット挿入孔24に第1フラックスバリア247aが設けられる。第2マグネット23の周方向他方側面と、マグネット対向面245と、周側端面246と、第1凸部243で囲われるマグネット挿入孔24に第2フラックスバリア247bが設けられる。第1マグネット22の周方向他方側面と、第2凸部244と、第2マグネット23の周方向一方側面と、径方向内面241で囲われるマグネット挿入孔24に第3フラックスバリア247cが設けられる。フラックスバリア247を設けることで、磁束の急激な変化が抑制され、トルクの変動が小さくなる。従って、ロータ20が回転するときのトルクリップルが抑制される。
【0029】
第1マグネット22及び第2マグネット23が、マグネット挿入孔24に挿入されて固定されることで、ロータ20に磁極Mpが形成される。図1図2に示すように、ロータ20は、8個のマグネット挿入孔24を有している。すなわち、本実施形態のモータ100では、磁極Mpの総数が8である。
【0030】
本実施形態のモータ100において、1つのマグネット挿入孔24に第1マグネット22及び第2マグネット23が挿入される構成であるが、これに限定されない。マグネット挿入孔が、2つの独立した孔で構成され、一方に第1マグネット22、他方に第2マグネット23が挿入されてもよい。このような場合であっても、それぞれの孔にマグネット対向面と周側端面とが形成される。
【0031】
<ステータ30>
ステータ30は、ステータコア31と、ティース32と、コイル33(図2図3参照)とを有する。ステータ30は、モータ100のモータケースに固定される。
【0032】
<ステータコア31>
ステータコア31は、磁性体材料を用いて形成される。本実施形態において、ステータコア31は、ロータ20の径方向外方に配置される環状であり、電磁鋼板を軸方向に積層した積層体である。ステータコア31は、中心軸Cxを囲む環状である。ステータコア31は、モータケースの内部に固定される。
【0033】
複数のティース32は、ステータコア31から径方向内方に延びるとともにコイル33が取り付けられる。複数のティース32は、周方向に配列される。各ティース32は、ティース基部321と、ティース先端部322と、を有する。ティース基部321は、ステータコア31から突出している部分である。なお、本実施形態のモータ100において、ティース32の総数が48である。
【0034】
ティース32において、少なくともティース基部321に、不図示のインシュレータが取り付けられる。インシュレータは、樹脂などの電気絶縁性を有する材料で形成される。インシュレータに覆われた各ティース32のティース基部321に導線を巻き付け、コイル33が形成される。すなわち、ティース32は、コイル33が取り付けられるティース基部321を有する。導線は、例えば、エナメル被覆銅線、絶縁部材で被覆された金属線などである。インシュレータが設けられていることで、コイル33からティース32への漏電、放電等が抑制される。
【0035】
ティース先端部322は、ティース基部321の径方向内方の端部と接続されて周方向の両方に延びる。ティース先端部322を設けることで、導線をティース基部321に巻き付けてコイル33を形成するときに導線の径方向内方へのずれが抑制される。なお、インシュレータが、ティース先端部322の少なくともコイル33と接触する可能性がある部分を覆ってもよい。
【0036】
各ティース32に配置されたコイル33は、不図示の渡線で電気的に接続される。なお、本実施形態において、渡線は、導線の一部である。但し、この例示に限定されず、渡線は、導線とは別部材であってよい。各々のコイル33に駆動電流が供給されると、ステータ30は励磁される。ステータ30の励磁によって、ロータ20が回転(駆動)される。
【0037】
<モータ100の最適化>
モータ100は、以上示した構成を有する。使用目的によるが、モータ100では、ロータ20がなるべく滑らかに回転することが要求される。換言すると、ロータ20の回転時に、トルクの変動(トルクリップル)が抑制された回転が要求される。モータ100において、コギングトルクを低減することで、トルクリップルが抑制される。
【0038】
本発明の発明者は、マグネット挿入孔24とティース32との相対的な形状を調整することで、コギングトルクが変化することに気づいた。そこで、モータ100において、マグネット挿入孔24とティース32との形状の関係性を定量的に示すため、ロータ特徴値RT、ステータ特徴値ST及び形状係数RT/STを以下のとおり定義した(図3参照)。
【0039】
図3に示すように、中心軸Cx方向からみて、マグネット対向面245と周側端面246との交点を交点Cpとする。一対のマグネット対向面245と一対の周側端面246との交点Cpも周方向に離れて対をなす。ロータ特徴値RTは、一対の交点Cpの中心軸Cxを中心とする中心角度とする。なお、ロータ特徴値RTは、ロータ20の各磁極Mpにおける磁束が流れる領域である。
【0040】
また、ティース32の総数を第1マグネット22及び第2マグネット23で構成される磁極Mpの総数で除して磁極対応数Mnを算出する。本実施形態のモータ100では、ティース32の総数が48で、磁極Mpの総数が8であるため、磁極対応数Mnは、6である。このように、ティース32の総数を磁極Mpの総数の倍数とすることで、形状係数RT/STの算出が容易であり、形状が最適化されたモータ100の製造が容易である。
【0041】
そして、中心軸Cx方向から見て、周方向に並んだMn個のティース32の周方向の両端に位置するティース32を端部ティース32aとする(図3参照)。ステータ特徴値STは、一対の端部ティース32aのティース基部321の径方向内端の周方向内側321a(図3参照)同士の中心軸Cxを中心とする中心角度とする。なお、ステータ特徴値STは、ロータ20の磁極Mpにおける磁束が流れる領域から、ティース32における磁束を受ける領域(角度)である。
【0042】
そして、形状係数RT/STは、マグネット挿入孔24とティース32との関係を示す変数であり、ロータ特徴値RTをステータ特徴値STで除した値とする。
【0043】
以上のとおり定義した形状係数RT/STとコギングトルクとの関係について、実験を行った。実験の詳細について以下に示す。なお、実験では、上述したモータ100を基本構成として、各部の寸法が異なるモデルを容易し、各モデルにおいて形状係数RT/STが変化したときのコギングトルクについて測定した。なお、形状係数RT/STの調整は、ステータ特徴値STは固定値とし、ロータ特徴値RTを変更することで調整している。さらに詳しく説明すると、マグネット対向面245及び周側端面246の長さを変更することで、形状係数RT/STを調整している。
【0044】
<実験1>
まず、第1マグネット22の周方向の長さL及び第2マグネット23の周方向の長さLが一定で、ロータ20の直径dが異なる3種のモータ100について、形状係数RT/STを変化させたときのコギングトルクを測定した。
【0045】
実験1では、ロータ20の直径dが異なる3種のモデルA、モデルB、モデルCを用いた。モデルAは、ロータ20の直径dが97.4mmである。また、モデルBは、ロータ20の直径dが90mmである。さらに、モデルCは、ロータ20の直径dが105mmである。なお、各モデルにおいて、ステータ30の直径d及び内径は、ロータ20の直径に合わせて、決定されている。また、第1マグネット22及び第2マグネット23の周方向の長さLは、全てのモデルで9.6mmである。
【0046】
実験1の結果を図4に示す。図4は、実験1の結果を示すグラフである。図4のグラフでは、第1マグネット22及び第2マグネットの周方向の長さLを一定とし、ロータ20の直径を変化させたときの形状係数RT/STとコギングトルク比Rcとの関係を示す。図4において、横軸は形状係数RT/STである。縦軸は、コギングトルク比Rcである。ここで、コギングトルク比Rcとは、各モデルにおける最大トルクに対するコギングトルクの比率である。さらに詳しく説明すると、コギングトルク比Rcは、コギングトルク/最大トルクである。そして、モデルAの結果を実線、モデルBの結果を破線、モデルCの結果を一点鎖線で示している。
【0047】
図4に示すように、モデルA、モデルB、モデルCのいずれのコギングトルク比Rcも、極小値があることがわかった。極小値となる形状係数RT/STはモデルによって異なるが、およそ、0.92から0.96の間に極小になっていることがわかった。実験1の結果に基づいて、コギングトルクを小さく抑制することができる形状係数は、0.92≦RT/ST≦0.96である。
【0048】
また、ロータ20の直径dは、90mm以上105mm以下である。このように構成することで、最適化された形状のモータ100を容易に製造できる。
【0049】
<実験2>
次に、ロータ20の直径dが一定で、第1マグネット22及び第2マグネット23との周方向の長さLが異なる3種のモータ100について、形状係数RT/STを変化させたときのコギングトルクを測定した。
【0050】
実験2では、第1マグネット22及び第2マグネット23との周方向の長さLが異なる3種のモデルA、モデルD、モデルEを用いた。モデルAは、実験1のモデルAと同じで、第1マグネット22及び第2マグネット23との周方向の長さLが9.6mmである。モデルDは、第1マグネット22及び第2マグネット23との周方向の長さLが9mmである。第1マグネット22及び第2マグネット23との周方向の長さLが10mmである。また、ロータ20の直径dは、全てのモデルで97.4mmである。
【0051】
実験2の結果を図5に示す。図5は、実験2の結果を示すグラフである。図5のグラフでは、ロータ20の直径を一定とし、第1マグネット22及び第2マグネット23との周方向の長さLを変化させたときの形状係数RT/STとコギングトルク比Rcとの関係を示す。図5において、横軸は形状係数RT/STである。縦軸は、コギングトルク比Rcである。ここで、コギングトルク比Rcは、図4と同じである。そして、モデルAの結果を実線、モデルDの結果を点線、モデルCの結果を二点鎖線で示している。
【0052】
図5に示すように、モデルA、モデルD、モデルEのいずれのコギングトルク比Rcも、極小値があることがわかった。極小値となる形状係数RT/STはモデルによって異なるが、およそ、0.92から0.96の間に極小になっていることがわかった。実験1の結果に基づいて、コギングトルクを小さく抑制することができる形状係数は、0.92≦RT/ST≦0.96である。
【0053】
また、マグネット挿入孔24に挿入された第1マグネット22及び第2マグネット23との周方向の長さLが、9mm以上10mm以下である。
【0054】
以上、実験1及び実験2より、本実施形態のモータ100では、ロータ20の直径d及び第1マグネット22と第2マグネット23との周方向の長さLにかかわらず、0.92≦RT/ST≦0.96を満たすときに、コギングトルクを小さく抑えることができる。
【0055】
すなわち、本実施形態のモータ100は、中心軸Cxに沿う方向に見て、マグネット対向面245と周側端面246との各交点の中心軸Cxを中心とする中心角度をロータ特徴値RTとし、ティース32の総数を前第1マグネット22及び第2マグネット23で構成される磁極Mpの総数で除した値を磁極対応数Mnとして、周方向に磁極対応数Mn並んだ両端に配置される2つのティース32aにおけるティース基部321の周方向内面の径方向内端321aの中心軸Cxを中心とする中心角度をステータ特徴値STとしたとき、0.92≦RT/ST≦0.96を満たす。
【0056】
モータ100において、コギングトルクを小さく抑えることで、ロータ20の回転時のトルクリップルが抑制され、ロータ20を円滑に回転させることができる。これにより、振動及び騒音を低減することができる。また、コギングトルクを小さく抑えることで、モータ100の始動時に必要なトルクを抑えることができる。これにより、始動時に必要な電力を抑制することが可能である。
【0057】
<まとめ>
本発明のモータ100は、以下の構成を有する。
【0058】
(1)中心軸に沿って延びるシャフトと、前記シャフトに固定されて前記シャフトとともに中心軸を中心として回転可能なロータと、前記ロータと径方向に対向するステータと、を有する。
前記ステータは、
前記ロータの径方向外方に配置される環状のステータコアから径方向内方に延びるとともにコイルが取り付けられたティース基部を有する複数のティースを有する。
前記ロータは、
径方向外方に向かうにつれて周方向に離れて配置される第1マグネット及び第2マグネットを有し、周方向に並ぶ複数のマグネットペアと、
一対の前記第1マグネット及び前記第2マグネットが挿入される複数のマグネット挿入孔を有するロータコアと、を有する。
前記マグネット挿入孔の径方向外方の面は、
前記径方向外方に向かうにつれて周方向に拡がり、前記第1マグネット及び前記第2マグネットのそれぞれの径方向外方の端部と対向する一対のマグネット対向面と、
前記マグネット対向面の周方向の端部から前記ロータコアの外周面に沿って延びる一対の周側端面と、を有する。
前記中心軸に沿う方向に見て、前記マグネット対向面と前記周側端面との各交点の前記中心軸を中心とする中心角度をロータ特徴値RTとし、
前記ティースの総数を前記第1マグネット及び前記第2マグネットで構成される磁極の総数で除した値を磁極対応数として、周方向に前記磁極対応数並んだ両端に配置される2つの前記ティースにおける前記ティース基部の周方向内面の径方向内端の前記中心軸を中心とする中心角度をステータ特徴値STとしたとき、0.92≦RT/ST≦0.96を満たす、モータ。
【0059】
(2)前記ティースの総数が48であり、前記磁極の総数が8である(1)に記載のモータ。
【0060】
(3)前記第1マグネットと前記第2マグネットとは、同形の直方体形状であり、前記マグネット挿入孔に挿入された前記第1マグネットの周方向の長さと前記第2マグネットの周方向の長さが、9mm以上10mm以下である(1)又は(2)に記載のモータ。
【0061】
(4)前記マグネット挿入孔に挿入された前記第1マグネットの周方向の長さと、前記第2マグネットの周方向の長さと、が等しい(1)から(3)のいずれかに記載のモータ。
【0062】
(5)前記ロータの直径は、90mm以上105mm以下である(1)から(4)のいずれかに記載のモータ。
【0063】
以上に、本発明の実施形態を説明したが、実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の構成は、電動モータとして利用することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
100 モータ
101 磁極
10 シャフト
20 ロータ
21 ロータコア
211 シャフト孔
22 第1マグネット
23 第2マグネット
24 マグネット挿入孔
241 径方向内面
242 径方向外面
243 第1凸部
244 第2凸部
245 マグネット対向面
246 周側端面
247 フラックスバリア
30 ステータ
31 ステータコア
32 ティース
321 ティース基部
322 ティース先端部
32a 外端ティース
321a 周方向内側
33 コイル
図1
図2
図3
図4
図5