(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180839
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】成膜シミュレーション方法、成膜シミュレーションプログラム、成膜シミュレータおよび成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/52 20060101AFI20231214BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20231214BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C23C16/52
C23C14/34 U
H01L21/31 B
H01L21/31 C
H01L21/31 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094465
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保井 信行
【テーマコード(参考)】
4K029
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4K029CA01
4K029CA05
4K029DA03
4K029EA06
4K030HA12
4K030KA39
4K030KA41
5F045AA04
5F045AA05
5F045AA08
5F045AA15
5F045AA18
5F045AA19
5F045GB17
(57)【要約】
【課題】計算時間の短縮化および計算精度の向上を図ることの可能な成膜シミュレーション方法、成膜シミュレーションプログラムおよび成膜シミュレータと、このような成膜シミュレータを備えた成膜装置を提供する。
【解決手段】本開示の一実施の形態に係る成膜シミュレーション方法は、入射ラジカルフラックスに応じた代表粒子を生成し、確率によって成膜表面での各代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積を計算するステップを含む。この成膜シミュレーション方法は、上記ステップにおいて、代表粒子と成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして堆積を計算することで成膜表面における膜の被覆性および膜質を表現することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射ラジカルフラックスに応じた代表粒子を生成し、確率によって成膜表面での各前記代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積を計算する第1ステップを含み、
前記第1ステップにおいて、前記代表粒子と前記成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして前記堆積を計算することで前記成膜表面における膜の被覆性および膜質を表現することを含む
成膜シミュレーション方法。
【請求項2】
前記成膜表面に隣接する、空気領域のVoxelに対して直接入射してくるガス成分と、前記成膜表面に隣接する、空気領域のVoxelに対して周囲構造に応じて入射してくるガス回り込み成分とにより、前記入射ラジカルフラックスを算出する第2ステップを更に含む
請求項1に記載の成膜シミュレーション方法。
【請求項3】
前記第1ステップにおいて、前記成膜表面に隣接する、空気領域のVoxelに対して入射するイオンのフラックスおよびエネルギーに基づいて、前記代表粒子と前記成膜表面との結合および未結合の判断を行うことを更に含む
請求項1に記載の成膜シミュレーション方法。
【請求項4】
前記第1ステップにおいて、前記状態情報を用いて、膜密度、透水性および前記成膜表面との密着性を計算することを更に含む
請求項1に記載の成膜シミュレーション方法。
【請求項5】
前記第1ステップにおいて、複数種類のガスを用いて成膜を行う場合、同じ時間ステップ内でガスごとの前記代表粒子の生成個数を算出することを更に含む
請求項1に記載の成膜シミュレーション方法。
【請求項6】
前記第1ステップにおいて、複数種類のガスを用いて成膜を行う場合、ガスごとに別々の時間ステップで前記代表粒子の生成個数を算出することを更に含む
請求項1に記載の成膜シミュレーション方法。
【請求項7】
前記第1ステップにおいて、成膜後に、アニールを施した時の膜密度およびブリスターの少なくとも一方を計算することを更に含む
請求項1に記載の成膜シミュレーション方法。
【請求項8】
成膜条件を取得する入力部と、
前記入力部で取得した前記成膜条件に基づいて、入射ラジカルフラックスに応じた代表粒子を生成し、確率によって成膜表面での各前記代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積を計算する演算部と、
前記演算部での演算結果を出力する出力部と
を備え、
前記演算部は、前記代表粒子と前記成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして前記堆積を計算することで前記成膜表面における膜の被覆性および膜質を表現する
成膜シミュレーションプログラム。
【請求項9】
前記入力部は、成膜条件を設定するためのGUI(Graphical User Interface)もしくはCUI(Character-based User Interface)によって構成され、
前記出力部は、前記演算部での演算結果を可視化するためのGUIによって構成されている
請求項8に記載の成膜シミュレーションプログラム。
【請求項10】
成膜条件を取得する入力部と、
前記入力部で取得した前記成膜条件に基づいて、入射ラジカルフラックスに応じた代表粒子を生成し、確率によって成膜表面での各前記代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積計算する演算部と、
前記演算部での演算結果を出力する出力部と
を備え、
前記演算部は、前記代表粒子と前記成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして前記堆積を計算することで前記成膜表面における膜の被覆性および膜質を表現する
成膜シミュレータ。
【請求項11】
前記入力部は、成膜条件を設定するためのGUI(Graphical User Interface)もしくはCUI(Character-based User Interface)によって構成され、
前記出力部は、前記演算部での演算結果を可視化するためのGUIによって構成されている
請求項10に記載の成膜シミュレータ。
【請求項12】
成膜チャンバと、
前記成膜チャンバの動作を制御する制御部と、
入射ラジカルフラックスの値に応じた代表粒子を生成し、確率によって成膜表面での各前記代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積を計算し、それにより得られた計算結果に基づいて、成膜プロセスの最適化条件を探索する最適化演算部と、
前記成膜チャンバの成膜条件が、前記最適化演算部で見つかった前記最適化条件となるのに必要なデータを生成し、前記制御部へ出力する出力部と
を備え、
前記最適化演算部は、前記代表粒子と前記成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして前記堆積を計算することで前記成膜表面における膜の被覆性および膜質を表現する
成膜装置。
【請求項13】
前記成膜チャンバ内の状態をモニタリングするモニタリング装置と、
前記モニタリング装置により得られたモニタリングデータを用いて前記入射ラジカルフラックスを計算するガスフラックス演算部と
を更に備えた
請求項12に記載の成膜装置。
【請求項14】
前記最適化演算部は、データベースを利用して予測した前記入射ラジカルフラックスの値に応じた代表粒子を生成する
請求項12に記載の成膜装置。
【請求項15】
前記最適化演算部は、ウェハ毎、または、ロット毎に、前記最適化条件を探索する
請求項12に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成膜処理の際の加工表面(成膜対象の成膜面)の形状をシミュレーションする成膜シミュレーション方法、この成膜シミュレーション方法を実行する成膜シミュレーションプログラムおよび成膜シミュレータに関する。また、本開示は、成膜シミュレータを備えた成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造のキープロセスの1つとして、パターン上に薄膜(nmオーダー)を形成するないしは埋め込む成膜プロセスがある。近年の半導体デバイスの高機能化の要求の高まりにより、高低アスペクト比が混在する複雑な積層構造を有するようになってきており、成膜プロセスにおけるこれらのパターンの埋め込みの難易度も高くなってきている。そのため、プロセス条件に依存した膜の被覆性(カバレッジ)および膜質(例えば、密度、欠陥密度、透水性、および密着性など)の予測の重要性がますます増加している。このような状況において、予測技術の1つとして、成膜プロセスの数値シミュレーションが有用である。
【0003】
例えば、特許文献1では、モンテカルロ法を用いて、パターン表面へのガス粒子の付着および脱離、基板温度に依存したマイグレーション、ならびに表面凹凸の影響を考慮した粒子の堆積を計算し、膜のモフォロジーを予測する。さらに、あらかじめMD(Molecular Dynamics)計算や第一原理計算で構築しておいたモフォロジーに紐づいた膜質のデータベースを用いて膜質分布を予測する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法では、モンテカルロ法による照射ガス計算のため、モンテカルロ法に用いる粒子数に精度と計算時間が大きく依存してしまう。さらに、膜質計算には、モフォロジーとガスフラックスに依存したデータベースをMD(Molecular Dynamics)計算や第一原理計算によって別途準備する必要がある。そのため、実際にシミュレーションツールとして用いるまでに、その準備にかなりの時間と手間がかかってしまう。従って、計算時間の短縮化および計算精度の向上を図ることの可能な成膜シミュレーション方法、成膜シミュレーションプログラムおよび成膜シミュレータと、このような成膜シミュレータを備えた成膜装置とを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施の形態に係る成膜シミュレーション方法は、入射ラジカルフラックスに応じた代表粒子を生成し、確率によって成膜表面での各代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積を計算するステップを含む。この成膜シミュレーション方法は、上記ステップにおいて、代表粒子と成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして堆積を計算することで成膜表面における膜の被覆性および膜質を表現することを含む。
【0007】
本開示の一実施の形態に係る成膜シミュレーションプログラムは、入力部と、演算部と、出力部とを備えている。入力部は、成膜条件を取得する。演算部は、入力部で取得した成膜条件に基づいて、入射ラジカルフラックスに応じた代表粒子を生成し、確率によって成膜表面での各代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積を計算する。出力部は、演算部での演算結果を出力する。演算部は、代表粒子と成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして堆積を計算することで成膜表面における膜の被覆性および膜質を表現する。
【0008】
本開示の一実施の形態に係る成膜シミュレータは、入力部と、演算部と、出力部とを備えている。入力部は、成膜条件を取得する。演算部は、入力部で取得した成膜条件に基づいて、入射ラジカルフラックスに応じた代表粒子を生成し、確率によって成膜表面での各代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積を計算する。出力部は、演算部での演算結果を出力する。演算部は、代表粒子と成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして堆積を計算することで成膜表面における膜の被覆性および膜質を表現する。
【0009】
本開示の一実施の形態に係る成膜装置は、成膜チャンバと、成膜チャンバの動作を制御する制御部と、最適化演算部と、出力部とを備えている。最適化演算部は、入射ラジカルフラックスの値に応じた代表粒子を生成し、確率によって成膜表面での各代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積を計算する。最適化演算部は、それによって得られた計算結果に基づいて、成膜プロセスの最適化条件を探索する。出力部は、成膜チャンバの成膜条件が、最適化演算部で見つかった最適化条件となるのに必要なデータを生成し、制御部へ出力する。最適化演算部は、代表粒子と成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして堆積を計算することで成膜表面における膜の被覆性および膜質を表現する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施の形態に係る成膜シミュレーション方法における処理手順の一例を表す図である。
【
図3】本開示の一実施の形態に係る成膜シミュレータの構成例を表す図である。
【
図6】
図5の概念をVoxelモデルに落とし込んだ概念を表す図である。
【
図7】1Voxelでの代表粒子の生成について説明するための図である。
【
図8】マイグレーションにおける実際の成膜表面の概念を表す図である。
【
図9】マイグレーションにおけるVoxelモデルの概念を表す図である。
【
図10】Voxel空間内でのCradleの判定方法の一例を表す図である。
【
図11】Voxel空間内でのCradleの判定方法の一例を表す図である。
【
図12】Voxel空間内でのCradleの判定方法の一例を表す図である。
【
図13】Voxel空間内での膜密度および透水性の算出について説明するための図である。
【
図14】Voxel空間内での密着性の算出について説明するための図である。
【
図15】Voxel空間内でのアニール処理について説明するための図である。
【
図16】Voxel空間内でのアニール処理について説明するための図である。
【
図17】Voxel空間内でのブリスターについて説明するための図である。
【
図18】Voxel空間内でのブリスターについて説明するための図である。
【
図19】Voxel空間内でのブリスターについて説明するための図である。
【
図20】Voxel空間内でのブリスターについて説明するための図である。
【
図21】CVDプロセスによるカバレッジと膜密度分布の計算結果を表す図である。
【
図22】Voxelの結合状態/未結合状態の分布、ガスフラックス分布の結果を表す図である。
【
図25】アニール後の膜密度分布の計算結果を表す図である。
【
図26】アニール後の密着性分布の計算結果を表す図である。
【
図27】アニール後の透水性分布の計算結果を表す図である。
【
図30】
図1の処理手順の一変形例を表す図である。
【
図31】本開示の一実施の形態に係る成膜シミュレーションプログラムの一構成例を表す図である。
【
図32】本開示の一実施の形態に係る成膜装置の一構成例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
<実施の形態>
<概略>
まず、本開示の一実施形態に係る成膜シミュレーション方法の概略について説明する。本実施形態に係る成膜シミュレーション方法では、加工表面(成膜表面)に対して、原料粒子を投射し、原料粒子からなる膜を形成する成膜方法を扱う。
【0013】
具体的には、本実施形態に係る成膜シミュレーション方法は、各種蒸着法を扱い、成膜される膜の被覆性および膜質を予測するものである。本実施形態に係る成膜シミュレーション方法で扱うことが可能な成膜方法としては、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、分子線エピタキシー法、イオンプレーティング法、およびスパッタリング法などの物理蒸着法(Physical Vapor Deposition :PVD)ならびに熱またはプラズマ化学気相蒸着法、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition :ADL)、有機金属気相成長法などの化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition :CVD)などを例示することができる。
【0014】
原料粒子は、例えば、原子、分子、またはこれらを電離させたイオンである。原料粒子は、成膜チャンバに導入された原料ガスを熱またはプラズマ等を用いて分解または電離することで形成されてもよく、金属ターゲットに希ガス原子等を衝突させることで形成されてもよい。また、原料粒子は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。すなわち、膜は、単一の原料から形成された膜であってもよく、複数の原料を反応させることで形成された膜であってもよい。
【0015】
成膜対象は、例えば、金属基板、半導体基板、ガラス基板、石英基板、または樹脂基板などである。成膜対象の表面の形状および材質は、特に限定されない。例えば、成膜対象の表面には、薄膜が形成されていてもよく、微細構造が形成されていてもよい。成膜対象に成膜される膜は、例えば、数マイクロメートル程度の膜厚の薄膜である。また、本実施形態に係る成膜シミュレーション方法にて扱うことが可能な領域の大きさは、例えば、一辺の長さが数マイクロメートル程度の領域である。
【0016】
本実施形態に係る成膜シミュレーション方法によれば、上述した成膜方法において、成膜される膜の被覆性(カバレッジ)および膜質を数十nmの範囲にて予測することが可能である。
【0017】
<成膜シミュレーション方法の流れ>
続いて、
図1、
図2を参照して、本実施形態に係る成膜シミュレーション方法の流れの概要について説明する。
図1は、本実施形態に係る成膜シミュレーション方法の流れの概要を示すフローチャート図である。
図2は、
図1に記載の成膜シミュレーション方法の流れをより詳細に示すフローチャート図である。
図3は、この成膜シミュレーション方法を実現するための情報処理装置(成膜シミュレータ)の一構成例を示す図である。
【0018】
(成膜シミュレータの構成)
図3に示した成膜シミュレータ1は、入力部11と、演算部12と、出力部13とを備えている。入力部11は、成膜表面に対して所定の成膜処理を行う際の成膜条件を取得して演算部12に入力するものである。入力部11は、成膜条件を設定するためのGUI(Graphical User Interface)もしくはCUI(Character-based User Interface)によって構成されている。演算部12は、入力部11を介して入力された成膜条件に基づいて、後述する
図1,
図2に示したシミュレーション方法によって、成膜表面の形状進展や膜質の計算を行う。
【0019】
なお、本実施の形態では、演算部12をハードウェアで構成して後述する計算処理を実現してもよいが、所定のシミュレーションプログラム(ソフトウェア)を用いて計算処理を実行してもよい。この場合、演算部12を、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算装置で構成し、シミュレーションプログラムを外部から読み込み、そのプログラムを実行することにより計算を実行する。
【0020】
シミュレーションプログラムは、例えば、図示しないデータベースや、別途設けられる例えばROM(Read Only Memory)等の記憶部などに格納することができる。この際、シミュレーションプログラムを、例えばデータベースや別途設けられた記憶部等に予め実装した構成にしてもよいし、外部から例えばデータベースや別途設けられた記憶部等に実装する構成にしてもよい。なお、外部からシミュレーションプログラムを取得する場合には、シミュレーションプログラムを、光ディスクや半導体メモリなどの媒体から配布するようにしてもよいし、インターネットなどの伝送手段を介してダウンロードするようにしてもよい。
【0021】
出力部13は、演算部12での演算結果(演算部12によって計算された所定の成膜処理のシミュレーション結果)を出力するものである。出力部13は、演算部12での演算結果(演算部12によって計算された所定の成膜処理のシミュレーション結果)可視化するためのGUIによって構成されている。なお、この際、出力部13は、成膜処理のシミュレーション結果と共に、例えば、演算に用いた成膜条件およびパラメータ等の情報も出力してもよい。出力部13は、例えば、シミュレーション結果を表示する表示装置、シミュレーション結果を印刷して出力する印刷装置、シミュレーション結果を記録する記録装置等の装置のいずれか、または、これらの装置を適宜組み合わせて構成される。なお、本実施の形態では、シミュレータが出力部13を備える例を説明するが、本技術はこれに限定されず、出力部13がシミュレータの外部に設けられていてもよい。
【0022】
このシミュレータはさらに、演算部12における計算処理に必要となる各種パラメータを記憶するデータベース部を備えていてもよい。また、このようなデータベース部を、シミュレータの外部に設けてもよい。なお、計算処理に必要となる各種パラメータを外部から随時入力する場合には、データベース部を設けなくてもよい。
【0023】
(成膜シミュレーション方法の詳細)
本シミュレーションでは、成膜処理の予測技術として、フラックス法ベースのVoxelモデルが用いられる。一般にVoxelモデルでは、計算領域内に配置するVoxelは立方体となっている。本実施の形態では、Voxelには、膜がそこに存在するか否かの存在情報だけでなく、膜の被覆性(カバレッジ)および膜質(例えば、密度、欠陥密度、透水性、および密着性など)といった情報も含まれる。さらに、本実施の形態では、Voxelに流入するガスフラックス(入射フラックス)は、直接入射してくるガス成分(直接入射成分)だけでなく、周囲のパターンから廻りこんでくるガス成分(周囲構造に応じたガス廻りこみ成分)も考慮して計算する。さらに、入射フラックスに応じた代表粒子という概念を用いて、膜の存在や、被覆性、さらには膜質を予測する。これにより、モンテカルロ法による流体計算と比べて、少ない計算コストで、膜の存在や、被覆性、さらには膜質を数十nmの範囲にて精度良く予測することが可能である。
【0024】
以下に、
図1、
図2に記載の成膜シミュレーション方法について説明する。
【0025】
まず、演算部12は、成膜の初期条件を設定する(ステップS101、
図1,
図2)。成膜の初期条件とは、具体的には、成膜条件に関する情報、および下地層に関する情報などを含む。例えば、成膜方法がガスを原料とする蒸着方法である場合、ステップS101では、成膜条件に関する情報として、表面反応に関するモデルパラメータ、入射ガスフラックス、イオンの入射エネルギーおよび角度分布等が設定されてもよい。また、下地層に関する情報として、下地層の材質および形状が設定されてもよい。
【0026】
次に、演算部12は、表面Voxelを選択する(ステップS201、
図2)。1つ前の時間ステップで堆積された堆積膜のVoxelに隣接する、空気領域(Air)のVoxel(Air Voxel)が表面Voxelとして定義され、この表面Voxelが入射ラジカルフラックス計算および表面反応計算(付着、脱離、マイグレーション、堆積)の対象となる。
【0027】
次に、演算部12は、入射ラジカルフラックスを計算する(ステップS102、
図1、
図2)。通常の流体計算を逐次行うとすると、計算コストが大きく、半導体プロセスで取り扱うμmオーダーのパターンへの適用は現実的ではない。そこで本実施の形態では、演算部12は、表面Voxelへ直接入射してくるガス成分(直接入射成分)と周囲のパターンから廻りこんでくるガス成分(廻りこみ成分)の2つに分けて計算を行う。
【0028】
ここで、ガス輸送の概念図を
図4に示す。パターンAはパターンBよりも間口の大きいパターンである。C
Bは直接入射成分(密度)である。C
Bは、表面Voxelからパターン間口をながめたときの立体角に依存する。ただし、隣接パターンの立体角寄与は含まない。C
Aは廻りこみ成分(密度)である。演算部12は、以下の式(1)~(3)を用いてC
Aを算出する。連続の式(式(1))とベルヌーイの定理(式(2),(3))から、パターンA(間口の大きいパターン)からパターンB(間口の小さいパターン)へ流入する接続面でのガス量C
Aを求めることができる。
【0029】
【0030】
ここで、SAはパターンAの開口面積である。SBはパターンAとパターンBとの接続面の面積である。VAはパターンAにおけるガス熱速度、VBはパターンBにおけるガス熱速度、VはVAおよびVBの総称、KBはボルツマン定数、TNはガス温度、Mはガス質量、PAは直接入射成分の圧力、PBは廻りこみ成分の圧力である。
【0031】
さらに、演算部12は、CAの該当Voxelへの寄与成分C(z)を下記の式(4)から算出する。接続面SBから、パターンB内の黒丸にかけての領域を近似的に部分的なトレンチ(ドットパターンで表現された領域)ととらえ、下記の式(4)から、近似的にC(z)を求めることができる。ここで、Wはトレンチ幅、Lは接続面から反対側のパターンBの境界までの距離である。該当VoxelでのトータルフラックスFは、下記の式(5)から算出することができる。このトータルフラックスFが、該当Voxelでの入射ラジカルフラックスに相当する。パターンBの周囲に複数のパターン(以下、「周囲パターン」と称する。)が存在する場合には、各周囲パターンについて求めたC(z)に対して1/Lを掛けることにより、C(z)に重み付けを行い、得られた重み付けの値(C(z)×1/L)を足し合わせることにより、該当VoxelでのトータルフラックスFを求めることができる。
【0032】
【0033】
次に、演算部12は、入射ラジカルフラックス(=トータルフラックスF)に応じた代表粒子を生成する(ステップS103、
図1、
図2)。
図4に、実際の成膜表面(例として、ALD-SiO2のBDEASステップ後のO
2ステップ)の概念図を示す。
図6に、
図5の概念図をVoxelモデルに落とし込んだ概念図を示す。
【0034】
実際の表面では、入射粒子1個1個が表面粒子との結合・ポテンシャル変化を引き起こしながら、付着、マイグレーションおよび堆積を繰り返し、膜が形成されていく。本アルゴリズムでは、計算負荷を大きく低減させる工夫として、複数の入射粒子を1つの代表粒子として代表させることで、~1018[/cm2/S]もあるラジカルフラックスの取り扱いを簡便にし、その代表粒子について、確率を用いて、付着、脱離、マイグレーションおよび堆積を取り扱う。これは、いわゆる統計的アンサンブル手法の応用である。
【0035】
演算部12は、Voxelごとに代表粒子の生成個数Nを算出する。代表粒子の生成個数Nについては、堆積膜の仮の密度ρ[個/cm
3]を設定し、体積L
3×10
-21[cm
3]の1Voxel(例えば、
図7の太枠で囲んだVoxel)内に入射するラジカル粒子の個数(F×L
2×10
-14×dt[個])を堆積膜の1Voxel内の粒子の個数(ρ×L
3×10
-21[個])で割ることで算出する(式(6)参照)。代表粒子の生成個数Nは、パターン内での入射ラジカルフラックスF[個/cm
2/s]に応じて変動する。
【数6】
【0036】
例えば、F=1018[個/cm2/s]、dt=0.1[s]、L=5[nm]、ρ=1022[個/cm3]としたとき、代表粒子の生成個数Nは20個となる。複数種類のラジカル粒子が存在する場合には、演算部12は、この計算をラジカル粒子の種類ごとに行う。CVDまたはPVDによって成膜を行う場合には、演算部12は、同じ時間ステップ内でガスごとの代表粒子の生成個数Nを算出する。ALDによって成膜を行う場合には、演算部12は、ガスごとに別々の時間ステップで代表粒子の生成個数Nを算出する。
【0037】
次に、演算部12は、各々の代表粒子に対して、付着および脱離を決定する(ステップS104、
図1、
図2)。具体的には、各々の代表粒子に対して、付着確率Y(0≦Y≦1)で付着するか、確率(1-Y)で脱離するかを、乱数を用いて決定する。代表粒子が下地層と接する場合(成膜のごく初期)には、加工による下地ダメージDaによって付着確率Ysが変動する影響を加味している(式(7))。一方、堆積膜上では付着確率Ydは一定とする(式(8))。ただし、a,b,cはユーザ設定の定数である。Daには、他の成膜シミュレータで計算された結果ないしは実験値が与えられる。脱離と判定された場合は、それ以上の表面反応計算を行わない。
【数7】
【数8】
【0038】
次に、演算部12は、マイグレーションの範囲を決定する(ステップS105、
図1、
図2)。
図8に、マイグレーションおよび堆積時における実際の成膜表面の概念図を示した。
図9に、マイグレーションおよび堆積時におけるVoxelモデルの概念図を示した。
【0039】
基板温度のエネルギーを使って付着したラジカル粒子は表面をマイグレーションする。表面ポテンシャルの安定した領域でラジカル粒子が堆積膜(成膜表面)と結合し、膜が堆積される。この時、一部のラジカル粒子において未結合手も存在する(
図8)。この現象のVoxelモデル化に際して以下を考慮する。
【0040】
まず、基板温度Tと活性化エネルギーEdに依存して算出されるマイグレーション長L
D(式(9))の2L
D立方範囲(マイグレーションの範囲)を決定する(ステップS105、
図1、
図2)。続いて、2L
D立方範囲内でCradle(曲率半径の小さい凹)を探索する(
図9)。ここで、D
0は拡散定数、τは時定数、K
Bはボルツマン定数である。式(9)の右辺の√D
0τおよびEdは、第一原理計算ないしは基板温度と膜密度の実測の相関関係(傾きEd、y切片√D
0τ)等から値を決定するパラメータである。
【数9】
【0041】
表面ポテンシャルμは曲率半径1/Rを用いて式(10)のように示される。表面ポテンシャルμを最小にするように、すなわち、曲率半径1/Rの小さい構造(Cradle)がなくなるようにラジカル粒子はマイグレーションするものとする。ここで、μ
0は平坦膜での化学ポテンシャル、γは表面張力、Ωは原子体積、1/Rは曲率半径である。
【数10】
【0042】
次に、演算部12は、Voxel空間内でのCradleを識別する(ステップS202、
図2)。具体的には、
図10に示したように、太枠で囲ったマイグレーション範囲内(2L
D)で、堆積膜に接するAir Voxel(重心座標は、i,j,k)に着目し、着目したAir Voxelに隣接する上下左右のVoxelの材質を判断する。着目したAir Voxelに隣接するVoxelが堆積膜に該当する場合には、着目したAir Voxelの判定指標:Nv(i,j,k)に1を加算する。着目したAir Voxelを、判定指標Nvの値に応じて次のように判定する。
【0043】
・Nv≧3 →着目したAir VoxelはCradleである判定する。
・Nv=1または2 →着目したAir VoxelはCradleではないと判定する。
フラグ:F(i,j,k)=1とする。
・Nv=0 →着目したAir VoxelはAirのままであると判定する。
【0044】
例えば、
図10の太枠で囲った2つのAir Voxelのうち、一方のAir Voxelでは、Nv=2となり、他方のAir Voxelでは、Nv=3となったとする。このとき、Nv=2のAir VoxelについてはCradleではないと判定される。Nv=3のAir VoxelについてはCradleである判定される。
【0045】
次に、演算部12は、代表粒子を移動させる(ステップS203、
図2)。具体的には、マイグレーション範囲内にNv≧3のAir Voxelがあれば、代表粒子(ガス1、例えば、ALD-SiO
2プロセスにおけるBDEAS)はそのVoxelへマイグレーションするとして、そのVoxelにおいて、結合判定のためのフラグ:F
B(i,j,k)を1とする。マイグレーション範囲内に複数のCradleがあった場合には、代表粒子から最も距離の近いCradleにおいてF
B(i,j,k)を1とする(
図11)。
【0046】
一方、マイグレーション範囲内にNv≧3のAir Voxelがない場合は、乱数を用いて(確率によって)、F(i,j,k)=1のVoxelの中から、代表粒子の移動先Voxelを決定する。その移動先Voxelにおいて、結合判定のためのフラグ:F
B(i,j,k)を1とする。(
図12)。演算部12は、このようにして、代表粒子の堆積位置を選択(決定)する(ステップS106、
図1、
図2)。
【0047】
演算部12は、生成された全ての代表粒子について、堆積位置が確定するまで上記のステップS104~S106を実行する(ステップS204;N)。
【0048】
なお、複数種類のガス(例えば、ガス1,ガス2)を用いて成膜を行う場合には、演算部12は、例えば、ガス1(たとえば、BDEAS)の代表粒子の堆積位置を選択(決定)した後、ガス2(たとえば、O2)の代表粒子の付着・脱離~移動、堆積位置の選択(決定)について実行する(ステップS205,S206)。つまり、ALDによって成膜を行う。その際、演算部12は、ガス1で既にFB(I,J,K)=1となっているVoxelにおいては(ステップS207;Y)、乱数を用いて、堆積時の状態が結合状態(確率YB)なのか、未結合状態(ダングリングボンド系: 確率(1-YB))なのかを決定する。一方、FB(I,J,K)=0のVoxelについては、演算部12は、堆積時の状態が未結合状態であると判定する(ステップS208)。なお、演算部12は、Voxelの状態を決定する際に、そのVoxelにおいて、イオンが入射する場合(つまり、入射イオンフラックスΓiがある場合)には、入射するイオンのフラックスおよびエネルギーに基づいてイオンによる結合増強の影響(結合および未結合の判断)を判断する。
【0049】
具体的な計算方法を以下に示す。すなわち、移動先Voxel内(Voxelサイズ:L)に時間ステップdt内に入射するイオン数は、式(11)で示される。この式(11)と、イオンエネルギー分布(IEDF:Ion Energy Distribution Function)とを用いて、該Voxelへの総入射エネルギーEtotを算出できる。一方、1Voxel内に存在する結合数は堆積膜の仮密度ρを用いると、ρ×L3-1となるので、結合1つにつき、式(12)に示したエネルギーが加わる。
【0050】
【0051】
このようにして求めたエネルギーが、堆積膜の原子同士の結合エネルギーEB(ユーザー設定値)と比較して大きい場合には、代表粒子は確率YBで結合状態として堆積される。また、このようにして求めたエネルギーが、堆積膜の原子同士の結合エネルギーEB(ユーザー設定値)と比較して小さい場合には、確率YB’(ユーザー設定値)の確率として結合状態として堆積される。演算部12は、このようにして、Voxelの膜状態(結合、未結合)を決定する(ステップS209)。つまり、代表粒子と成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態を付与したVoxelとして堆積を計算する。
【0052】
演算部12は、マイグレーション範囲内の全てのVoxelにおいて膜状態(結合、未結合)を決定するまで上記のステップS205~S209を実行する(ステップS210;N)。演算部12は、マイグレーション範囲内の全てのVoxelにおいて膜状態(結合、未結合)を決定した場合には(ステップS210;Y)、形状進展を行う。具体的には、膜状態が結合となっているVoxelを堆積膜として認識し、膜状態が未結合となっているVoxelを未結合膜(欠陥膜)として認識する。このようにして、時間ステップごとに、膜が積まれていき、形状が変化していく。
【0053】
次に、演算部12は、膜質計算を行う(ステップS110、
図1、
図2)。膜質として、膜密度、透水性、密着性の分布の計算を行う。
図12に示した膜モフォロジーに対して、各Voxelに付与した結合状態(B)および未結合状態(UB)ならびにVoid領域の情報を用いて、太枠で示した設定範囲内での平均化した物理量として、膜密度、透水性、成膜表面との密着性を計算する。つまり、代表粒子と成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして堆積を計算することで成膜表面における膜の被覆性および膜質を表現する。設定範囲は、ユーザによって設定されるパラメータであり、たとえば、100nmとなっている。
【0054】
(膜密度)
演算部12は、
図13の設定領域内において、各Voxelの密度重みWを与え、これらの総和平均を局所的な膜密度DL(l,m,n)として定義する(式(13))。密度重みWは、結合VoxelにおいてW
Bとし、未結合VoxelにおいてW
UBとし、Void領域のVoxelにおいてW
Vとする。なお、l,m,nは設定領域の重心座標、Qは設定領域内のVoxel数である。ただし、D
L0は、別途、典型的なプロセス条件によって実測から求められるか、または、MD計算等から求められる。D
L0は、ユーザによって入力されるパラメータである。
【数13】
【0055】
(透水性)
演算部12は、
図13の設定領域内におけるVoid領域の体積V
vと、
図13の設定領域の体積V
totとの比を透水性WP(の指標)として算出する(式(14))。なお、l,m,nは、設定領域の重心座標である。
【数14】
【0056】
(密着性)
演算部12は、
図14に示したように、下地層に接するVoxelを対象とし、
図14の設定領域内における未結合Voxel(UB)の体積V
UBと、
図14の設定領域の体積V
totとの比を密着性Ad(の指標)として算出する(式(15))。l,m,nは、設定領域の重心座標である。
【数15】
【0057】
演算部12は、このようにして膜質計算を行った後、計算中の時間を時間ステップdtだけ進める(ステップS211)。そして、計算時間が所定の処理時間に到達していない場合には(ステップS212;N)、演算部12は、引き続き、上述のステップS201以降の各ステップを実行する。一方、計算時間が所定の処理時間に到達した場合には(ステップS212;Y)、演算部12は、成膜プロセスを終了し、続いて、アニールプロセスによる膜質計算を行う(ステップS111)。
【0058】
(アニール計算)
ここでは、演算部12は、アニールによる膜の熱変性、つまり、アニールを施した時の膜密度を計算する。アニールによる膜モフォロジーと密度の変化の概念図を
図15に示す。まず、基板温度Tに応じた拡散長Laを計算し、
図15において太枠で示した2La範囲内にあるNa個の、Airを含むVoxelへ密度ρ(I,J、K)を等分配する。これにより、
図15中の黒点のあるVoxelから、
図15において太枠で示した2La範囲内にある他のVoxelへ代表粒子を拡散させる(
図16)。なお、拡散長Laの計算には、式(8)と同じ式を用いる。ただし、式(8)におけるパラメータ値は、マイグレーション長L
Dの計算のときのパラメータ値とは異なる。
【0059】
さらに、周囲のVoxel(I’,J’、K’)からも同時に代表粒子が流入してくることを考慮して、アニール後の密度ρ
aを以下のように表現する。
【数16】
【数17】
【0060】
さらに、熱による堆積膜の結晶性の改善を反映させるために、基板温度Tに依存した補正項βを式(18)のρ
aに掛ける。ここで、Aは係数、E
aは活性化エネルギー、K
Bはボルツマン定数である。
【数18】
【0061】
上記の計算後、UB(未結合状態)のVoxelについては、アニール前のB(結合状態)のVoxelの密度よりも大きくなっている場合にはB(結合状態)のVoxelとして状態を変更する。また、AirだったVoxelに関しては、密度設定閾値(ユーザー設定)よりも大きくなった場合には、堆積膜Voxelとし、その結合状態についても同様の処理を行う。以上の計算を、下地Voxelを除く全てのVoxelに対して行う。
【0062】
(ブリスター計算)
演算部12は、成膜プロセスが終わった直後、あるいは、アニール直後(アニールを施した時)のブリスター(膜剥がれ)計算として、堆積膜中のUB(未結合状態)のVoxelに対して以下に述べるVoxel移動の処理を行う。
【0063】
まず、UB内のブリスター要因のガス密度n
Bを算出する。成膜計算時のガス1とガス2のフラックス計算時に要因ガスのフラックスF
Bも導出し(SiO
2成膜であれば、水素(H))、Voxel内に記憶させておく。このF
BとVoxelサイズL、成膜時間t、さらに、超粒子の個数N
Sを用いると、ガス密度n
Bは、以下の式(19)で表される。
【数19】
【0064】
式19を用いて得られたガス密度n
Bのうちの一部(R
B≦1、入射イオンエネルギーの依存)が脱ガスとしてVoxelから出ていくとすると、ガス圧のエネルギーは、以下の式(20)で表される。
【数20】
【0065】
ここで、Tは成膜時の基板温度である。P
B(L
3)と、
図17中の太枠をまたぐ太い実線で示した、Voxel隣接面の結合エネルギーの総和E
Btotとを比較し、P
B(L
3)が総和E
Btotよりも大きい場合には、
図17中の太枠で囲まれた各Voxelを1つ上に移動させ、元の場所はAirとする(
図18)。さらに、P
B(L
3)と、
図19中の太枠(
図17中の太枠の外側に隣接するVoxelを囲む太枠)をまたぐ太い実線で示した、Voxel隣接面の結合エネルギーの総和E
Btotとを比較し、P
B(L
3)が総和E
Btotよりも大きい場合には、
図19中の太枠で囲まれた各Voxelを1つ上に移動させ、元の場所はAirとする(
図20)。総和E
BtotがP
B(L
3)を超えるまで、このようなプロセルを繰り返し実行する。複数のUB起因のAir領域が互いに重なり合う場合には、互いに重なり合う複数のAir領域を含む領域について、上記と同様の大小判定を行う。
【0066】
なお、総和E
Btotについては、隣接Voxelの面密度σと平均の結合エネルギーE
Bを用いて、近似的に次のように示す。また、R
Bについては、膜堆積中の結合形成にイオンが影響していることを反映させるために、イオンエネルギーEに依存した補正項:exp(-E
0/E)×2.718を掛けた値を用いる。ここで、E
0は、基準となるイオンエネルギーである。
【数21】
【0067】
<効果>
本実施の形態に係る成膜シミュレーション方法および成膜シミュレータ1では、入射ラジカルフラックスに応じた代表粒子が生成され、確率によって成膜表面での各代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積の計算が実行される。これにより、精度と計算時間が粒子数に依存しなくなる。また、本実施の形態では、上記計算において、代表粒子と成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして堆積が計算されることで、成膜表面における膜の被覆性および膜質が表現される。これにより、膜質計算のために、モフォロジーとガスフラックスに依存したデータベースを別途準備する必要がない。従って、計算時間の短縮化および計算精度の向上を図ることができる。また、本アルゴリズムの活用までのTAT短縮が期待される。
【0068】
本実施の形態では、成膜表面におけるVoxelに対して直接入射してくるガス成分と、成膜表面におけるVoxelに対して周囲構造に応じて入射してくるガス回り込み成分とにより、入射ラジカルフラックスが算出される。これにより、実構造を反映した計算精度の向上を図ることができる。
【0069】
本実施の形態では、成膜表面におけるVoxelに対して入射するイオンのフラックスおよびエネルギーに基づいて、代表粒子と成膜表面との結合および未結合の判断が行われる。これにより、イオンによる結合増強の影響を考慮した成膜プロセスを実現することができる。
【0070】
本実施の形態では、結合および未結合のいずれかの状態情報を用いて、膜密度、透水性および成膜表面との密着性が計算される。これにより、より精度の高い成膜プロセスを実現することができる。
【0071】
本実施の形態では、複数種類のガスを用いて成膜を行う場合、同じ時間ステップ内でガスごとの代表粒子の生成個数が算出される。これにより、CVDまたはPVDによる成膜プロセスを表現することができる。
【0072】
本実施の形態では、複数種類のガスを用いて成膜を行う場合、ガスごとに別々の時間ステップで代表粒子の生成個数が算出される。これにより、ALDによる成膜プロセスを表現することができる。
【0073】
本実施の形態では、成膜後に、アニールを施した時の膜密度およびブリスターの少なくとも一方が計算される。このように、本実施の形態では、成膜プロセスだけでなく、アニールによる膜の変化を表現することができる。
【0074】
本実施の形態に係る成膜シミュレータ1では、入力部11が成膜条件を設定するためのGUIもしくはCUIによって構成され、出力部13が演算部12での演算結果を可視化するためのGUIによって構成されている。これにより、ユーザは、成膜シミュレータ1を比較的簡単に操作することができ、また、成膜シミュレータ1による演算結果を比較的簡単に把握することができる。
【0075】
<実施例1>
~基本のCVD計算(カバレッジ+膜密度)~
本実施例に係るCVDプロセスによるカバレッジと膜密度分布の計算を
図21に示す。基板温度が800℃、ガス圧力は400Pa、BDEASとO
2のガスによる下地Siトレンチに対する成膜である。下地Siトレンチは、線幅150nm、深さ2μm、奥行き450nmの2つのトレンチが交差した構造となっている。
図21には、トレンチエッチング時の生成された加工ダメージを反映した付着確率(0.5+0.5×Da)と入射イオン(最大50eVのエネルギー)による堆積時のVoxel結合状態の確率(イオン入射がない場合には0.2、ある場合には1)を加味したシミュレーション結果が示されている。活性化エネルギー(マイグレーション、イオン入射による結合状態の判定)は一律0.4eVと設定した。Voxelサイズは5nm、膜質計算で用いる平均化の設定範囲は25nmである。また、パターンへの入射イオンフラックスは4×10
16/cm
2/s、ラジカル(BDEAS、O
2)のフラックスは1×10
18/cm
2/sである。
【0076】
成膜時間が進むにつれて、トレンチのスリット領域が閉塞され、トレンチ内部にはSiO
2が薄く堆積してボイドが形成されている。また、イオン照射の影響を強く受けている(Voxelが結合状態と判定される確率が高い)平坦部での膜密度が高く、より影響の低いトレンチ内部では膜密度は低くなっている。Voxelの結合状態/未結合状態の分布、ガスフラックス分布の結果を合わせて、
図22に示す。
【0077】
<実施例2>
~基本のCVD計算(透水性)~
本実施例に係る透水性分布の計算結果を
図23に示す。実施例1の成膜条件と下地構造を用いた時の計算結果である。平坦部では透水性は低く、トレンチ内部で透水性がより高くなっている。
【0078】
<実施例3>
~基本のCVD計算(密着性)~
本実施例に係る密着性分布の計算結果を
図24に示す。実施例1の成膜条件と下地構造を用いた時の計算結果である。平坦部では密着性は高く、トレンチ内部で密着性がより低くなっている。
【0079】
<実施例4>
~基本のCVD計算(アニール)~
本実施例に係るアニール計算の結果を
図25、
図26、
図27に示す。実施例1の成膜後に、1100℃アニールを施した時の膜密度分布(
図25)、密着性分布(
図26)、透水性分布(
図27)の変化であり、これら膜質がトレンチ内部にかけて改善する計算結果となっている。
【0080】
<実施例5>
~基本のCVD計算(ブリスター)~
本実施例に係るブリスター計算の概念図を
図28に示す。実施例1の成膜後に、ブリスター計算を行ったものである。基板温度は800℃、要因ガスフラックスは1×10
18/cm
2/s、R
B=0.01、結合エネルギーは5eVと設定した場合、平坦部にVoxel2層分のブリスター(膜剥がれ)が形成される結果となった。
【0081】
<実施例6>
~応用CVD計算(線幅が広いパターン+線幅が狭いパターン)
実施例1の計算では2つの同じ線幅のトレンチの交差構造を例にとった計算であった。一方、本アルゴリズムによる計算はそれに限定されるものではなく、線幅が広いパターンと線幅が狭いパターンとが互いに混ざった任意の構造にも応用することができる。
【0082】
例えば、
図29(A)に示したように、円形状のパターンBと、その周囲に連結された4つの方形状のパターンAとによって構成されたパターンについて、本アルゴリズムによる計算を行うことができる。また、例えば、
図29(B)に示したように、方形状のパターンBと、その周囲に連結された4つの方形状のパターンAとによって構成されたパターンについて、本アルゴリズムによる計算を行うことができる。
【0083】
また、例えば、
図29(C)に示したように、円形状のパターンBと、その周囲であって、かつ、その円形状のパターンBを介して互いに対向する位置に連結された2つの方形状のパターンAとによって構成されたパターンについて、本アルゴリズムによる計算を行うことができる。また、例えば、
図29(D)に示したように、方形状のパターンBと、その周囲であって、かつ、その方形状のパターンBを介して互いに対向する位置に連結された2つの方形状のパターンAとによって構成されたパターンについて、本アルゴリズムによる計算を行うことができる。
【0084】
また、例えば、
図29(E)に示したように、円形状のパターンBと、その周囲であって、かつ、互いの延在方向が90°で交差する位置に連結された2つの方形状のパターンAとによって構成されたパターンについて、本アルゴリズムによる計算を行うことができる。また、例えば、
図29(F)に示したように、方形状のパターンBと、その周囲であって、かつ、互いの延在方向が90°で交差する位置に連結された2つの方形状のパターンAとによって構成されたパターンについて、本アルゴリズムによる計算を行うことができる。
【0085】
<実施例7>
~ALD計算~
実施例1~6ではCVDの計算を示した。一方で、本実施例では、
図2でのガス1とガス2に関する計算を成膜終了時間まで設定時間ごと(たとえば、10s)に交互に繰り返すことで、ALDプロセスとしてカバレッジと膜質を計算することができる。
【0086】
<実施例8>
~PVD計算~
実施例1~6ではCVDの計算を示した。一方で、本実施例では、
図2でのガス1のみの計算を行うことで単一元素から構成される金属膜ターゲットのPVD計算とすることができる。また、ガス1とガス2、さらにはガス3以降の計算を追加することで、複数元素からなる化合物ターゲットのPVD計算とすることができる。
【0087】
<実施例9>
~気相計算との連携~
本実施例を
図30に示す。
図1の入射フラックス計算に関して、気相計算を行うことでチャンバ面内でのガス1とガス2の密度分布をシミュレーションする。これら密度分布を入力として、ガスの熱速度を掛けあわせることでフラックスを導出する。気相計算では、上部電極に印加するパワーと周波数、ガス種、ガス流量、ガス圧力、チャンバ壁状態(ガスの付着確率)、チャンバ構成、排気速度をインプットとする。あるいは、実測データベースに基づく補間計算でもよいし、機械学習(たとえば、ガウス過程回帰やディープラーニング等。ただし、手法は限定しない)を用いた計算でもよい。
【0088】
<実施例10>
図1,
図2に示した成膜シミュレーション方法を実現するための情報処理ソフトウェア(成膜シミュレーションプログラム)の一構成例を
図31に示す。
【0089】
(成膜シミュレーションプログラム2の構成)
図31に示した成膜シミュレーションプログラム2は、入力部21と、演算エンジン部22と、シミュレーション結果を可視化するための表示部23とを備えている。演算エンジン部22は、ガスフラックス計算部22a、カバレッジ計算部22bと、膜質計算部22cと、出力部22dとを有している。
【0090】
入力部21は、初期条件を設定するためのGUI(Graphical User Interface)もしくはCUI(Character-based User Interface)によって構成されている。入力部21は、設定された初期条件の値を演算エンジン部22に出力する。表示部23は、出力部22dから得られたデータを可視化するためのGUIによって構成されている。
【0091】
ガスフラックス計算部22aは、入力部21で設定された初期条件の値を用いて、上述のステップS102を実行することにより、表面Voxelへ入射する入射ラジカルフラックスを計算する。カバレッジ計算部22bは、ガスフラックス計算部22aで計算された入射ラジカルフラックスの値を用いて、上述のステップS103~S109を実行することにより、膜の形状や状態を計算する。膜質計算部22cは、カバレッジ計算部22bで得られた膜の形状や状態の下、上述のステップS110、S111を実行することにより、膜質を計算する。出力部22dは、カバレッジ計算部22bおよび膜質計算部22cによって計算された所定の成膜処理のシミュレーション結果を出力する。
【0092】
この成膜シミュレーションプログラム2の実行プラットフォームは、例えば、Windows(登録商標)、Linux(登録商標)、Unix(登録商標)、またはMac(登録商標)のいずれでもよい。また、入力部21および表示部23に用いられるGUIは、OpenGL、Motif、tcl/tkなど構成言語を問わない。演算エンジン部22のプログラミング言語は、C、C++、Fortran、JAVA(登録商標)などその種類を問わない。この成膜シミュレーションプログラム2は、他のシミュレータによる計算結果を取り込み演算エンジン部22に渡す機能を有していてもよい。
【0093】
初期条件としては、例えば、レシピ情報、計算用パラメータ、パターン構造情報が入力される。カバレッジ計算部22bおよび膜質計算部22cでの計算終了後には、出力部22dからは、各Voxelの材質と座標、各Voxelでの結合状態・膜質(膜密度、透水性、密着性)・表面フラックスをファイルないしは一時記憶領域に出力される。GUIによってこれらの結果の可視化が行われる。データ出力や可視化は、計算中にリアルタイムに行われても構わない。
【0094】
本実施例に係る成膜シミュレーションプログラム2では、入射ラジカルフラックスに応じた代表粒子が生成され、確率によって成膜表面での各代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積の計算が実行される。これにより、精度と計算時間が粒子数に依存しなくなる。また、本実施例では、上記計算において、代表粒子と成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして堆積が計算されることで、成膜表面における膜の被覆性および膜質が表現される。これにより、膜質計算のために、モフォロジーとガスフラックスに依存したデータベースを別途準備する必要がない。従って、計算時間の短縮化および計算精度の向上を図ることができる。また、本アルゴリズムの活用までのTAT短縮が期待される。
【0095】
本実施例では、入力部21が成膜条件を設定するためのGUIもしくはCUIによって構成され、出力部22dがカバレッジ計算部22bおよび膜質計算部22cでの演算結果を可視化するためのGUIによって構成されている。これにより、ユーザは、成膜シミュレーションプログラム2を比較的簡単に実行することができ、また、成膜シミュレーションプログラム2による演算結果を比較的簡単に把握することができる。
【0096】
<実施例11>
図1,
図2に示した成膜シミュレーション方法(成膜シミュレーションプログラム2)を適用した成膜装置3の一構成例を
図32に示す。
【0097】
(成膜装置3の構成)
成膜装置3の概念図を
図32に示す。成膜装置3は、成膜チャンバ31、成膜シミュレーションシステム32、制御システム33、およびFDC/EES(Fault Detection and Classification/Equipment Engineering System)システム34を備えている。
【0098】
成膜チャンバ31は、チャンバ内の状態をモニタリングするモニタリング装置31Aを有している。モニタリング装置31Aは、例えば、OES(Optical Emission Spectroscopy)を有している。OESは、チャンバ内のプラズマからの発光をモニタリングする計測装置である。成膜時には、プラズマ中に存在するガス種ごとに特有の波長の光が発せられる。OESは、その光を測定する。OESは、波長ごとの発光強度を測定する。OESは、測定された波長からガス種を特定し、特定したガス種についての情報をモニタリングデータとして出力する。モニタリング装置31Aは、例えば、チャンバ内の状態をモニタリングするシステムを有している。このシステムは、ガス圧力、流量、温度、パワー、バイアス、マッチャー容量、真空ポンプの開度等の時間変動を測定し、測定により得られたデータをモニタリングデータとして出力する。
【0099】
成膜チャンバ31は、モニタリング装置31Aで得られたデータ(モニタリングデータ)を成膜シミュレーションシステム32に送信する。成膜シミュレーションシステム32は、成膜シミュレーションプログラム2を実行する成膜シミュレータ1を含んで構成されている。成膜シミュレーションシステム32は、ガスフラックス演算部32A、最適化演算部32Bおよび補正条件出力部32Cを有している。ガスフラックス演算部32A、最適化演算部32Bおよび補正条件出力部32Cは、集積回路によって構成されていてもよいし、成膜シミュレーションプログラム2がロードされた演算装置によって構成されていてもよい。
【0100】
ガスフラックス演算部32Aは、モニタリング装置31Aから入力されたモニタリングデータを用いて、入射ラジカルフラックスを計算する。最適化演算部32Bは、ガスフラックス演算部32Aで得られた入射ラジカルフラックスの値を用いて、上述のステップS103~S109を実行することにより、入射ラジカルフラックスの値に応じた代表粒子を生成し、確率によって成膜表面での各代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積を計算する。その結果、最適化演算部32Bは、膜の形状や状態を予測することができる。最適化演算部32Bは、さらに、得られた膜の形状や状態の下、上述のステップS110、S111を実行することにより、膜質を計算する。
【0101】
最適化演算部32Bは、このようにして得られた計算値(予測値)と、所望のスペック(例えば、設定された膜厚情報D2)とを比較し、計算値(予測値)が許容範囲外となっている場合には、計算値(予測値)が許容範囲となるような成膜プロセスの最適化条件を探索する。具体的には、最適化演算部32Bは、ガス流量、ガス圧力、基板温度、処理時間を変化させて、所定のアルゴリズムから解を見つけ出す。最適化演算部32Bは、ウェハ毎、または、ロット毎に、最適化条件を探索する。
【0102】
その結果、最適化条件が見つからなかった場合には、最適化演算部32Bは、FDC/EESシステム34に異常信号を送信する。FDC/EESシステム34は、最適化演算部32Bから異常信号を受信したときは、制御システム33に対して、成膜チャンバ31の動作を停止させる信号を出力する。制御システム33は、成膜チャンバ31の動作を停止させる信号を受信すると、成膜チャンバ31の動作を停止させる。
【0103】
一方で、最適化条件が見つかった場合には、最適化演算部32Bは、見つかった最適化条件を補正条件出力部32Cに出力する。補正条件出力部32Cは、最適化条件が入力されると、成膜チャンバ31の成膜条件が最適化条件となるのに必要なデータを生成し、制御システム33に出力する。制御システム33は、最適化条件とするのに必要なデータを受信すると、受信したデータに基づいて成膜チャンバ31の動作を制御する。制御システム33は、受信したデータに基づいてレシピ情報D1を修正する。
【0104】
最適化演算部32Bに関しては、計算時間が実加工時間と同等のスケール以上の場合には、上記のようなオンラインで最適解を見出すのではなく、様々なプロセス条件に対してあらかじめ本アルゴリズムでシミュレーションしたデータベースを作成しておき、そのデータベースを利用して予測した入射ラジカルフラックスの値を用いて、上述のステップS103~S109を実行することにより、入射ラジカルフラックスの値に応じた代表粒子を生成する方法(オフラインによる方法)でも構わない。あるいは、データベースを使って機械学習モデルを構築し、そのモデルをオンラインの最適化演算部32Bとしても構わない。
【0105】
本実施例に係る成膜装置3では、入射ラジカルフラックスに応じた代表粒子が生成され、確率によって成膜表面での各代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積の計算が実行される。これにより、精度と計算時間が粒子数に依存しなくなる。また、本実施例では、上記計算において、代表粒子と成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして堆積が計算されることで、成膜表面における膜の被覆性および膜質が表現される。これにより、膜質計算のために、モフォロジーとガスフラックスに依存したデータベースを別途準備する必要がない。従って、計算時間の短縮化および計算精度の向上を図ることができる。また、本アルゴリズムの活用までのTAT短縮が期待される。
【0106】
また、本実施例に係る成膜装置3では、上記計算によって得られた計算結果に基づいて、成膜プロセスの最適化条件が探索され、成膜チャンバの成膜条件が、見つかった最適化条件となるのに必要なデータが生成され、制御システム33へ出力される。このようなフィードバックによって、より質の高い半導体デバイスを製造することが可能となる。
【0107】
本実施例では、成膜チャンバ内の状態がモニタリング装置31Aによってモニタリングされ、モニタリング装置31Aにより得られたモニタリングデータを用いて入射ラジカルフラックスが計算される。このような実測値を用いた計算を実行することにより、より質の高い半導体デバイスを製造することが可能となる。
【0108】
本実施例では、データベースを利用して予測した入射ラジカルフラックスの値に応じた代表粒子が生成される。これにより、計算時間が実加工時間と同等のスケール以上の場合であっても、より質の高い半導体デバイスを製造することが可能となる。
【0109】
本実施例では、ウェハ毎、または、ロット毎に、最適化条件が探索される。これにより、ウェハ毎、または、ロット毎に、より質の高い半導体デバイスを製造することが可能となる。
【0110】
以上、実施の形態およびその変形例を挙げて本開示を説明したが、本開示は上記実施の形態等に限定されるものではなく、種々変形が可能である。なお、本明細書中に記載された効果は、あくまで例示である。本開示の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されるものではない。本開示が、本明細書中に記載された効果以外の効果を持っていてもよい。
【0111】
また、例えば、本開示は以下のような構成を取ることができる。
(1)
入射ラジカルフラックスに応じた代表粒子を生成し、確率によって成膜表面での各前記代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積を計算する第1ステップを含み、
前記第1ステップにおいて、前記代表粒子と前記成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして前記堆積を計算することで前記成膜表面における膜の被覆性および膜質を表現することを含む
成膜シミュレーション方法。
(2)
前記成膜表面に隣接する、空気領域のVoxelに対して直接入射してくるガス成分と、前記成膜表面に隣接する、空気領域のVoxelに対して周囲構造に応じて入射してくるガス回り込み成分とにより、前記入射ラジカルフラックスを算出する第2ステップを更に含む
(1)に記載の成膜シミュレーション方法。
(3)
前記第1ステップにおいて、前記成膜表面に隣接する、空気領域のVoxelに対して入射するイオンのフラックスおよびエネルギーに基づいて、前記代表粒子と前記成膜表面との結合および未結合の判断を行うことを更に含む
(1)または(2)に記載の成膜シミュレーション方法。
(4)
前記第1ステップにおいて、前記状態情報を用いて、膜密度、透水性および前記成膜表面との密着性を計算することを更に含む
(1)ないし(3)のいずれか1つに記載の成膜シミュレーション方法。
(5)
前記第1ステップにおいて、複数種類のガスを用いて成膜を行う場合、同じ時間ステップ内でガスごとの前記代表粒子の生成個数を算出することを更に含む
(1)ないし(3)のいずれか1つに記載の成膜シミュレーション方法。
(6)
前記第1ステップにおいて、複数種類のガスを用いて成膜を行う場合、ガスごとに別々の時間ステップで前記代表粒子の生成個数を算出することを更に含む
(1)ないし(3)のいずれか1つに記載の成膜シミュレーション方法。
(7)
前記第1ステップにおいて、成膜後に、アニールを施した時の膜密度およびブリスターの少なくとも一方を計算することを更に含む
(1)ないし(6)のいずれか1つに記載の成膜シミュレーション方法。
(8)
成膜条件を取得する入力部と、
前記入力部で取得した前記成膜条件に基づいて、入射ラジカルフラックスに応じた代表粒子を生成し、確率によって成膜表面での各前記代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積を計算する演算部と、
前記演算部での演算結果を出力する出力部と
を備え、
前記演算部は、前記代表粒子と前記成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして前記堆積を計算することで前記成膜表面における膜の被覆性および膜質を表現する
成膜シミュレーションプログラム。
(9)
前記入力部は、成膜条件を設定するためのGUI(Graphical User Interface)もしくはCUI(Character-based User Interface)によって構成され、
前記出力部は、前記演算部での演算結果を可視化するためのGUIによって構成されている
(8)に記載の成膜シミュレーションプログラム。
(10)
成膜条件を取得する入力部と、
前記入力部で取得した前記成膜条件に基づいて、入射ラジカルフラックスに応じた代表粒子を生成し、確率によって成膜表面での各前記代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積計算する演算部と、
前記演算部での演算結果を出力する出力部と
を備え、
前記演算部は、前記代表粒子と前記成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして前記堆積を計算することで前記成膜表面における膜の被覆性および膜質を表現する
成膜シミュレータ。
(11)
前記入力部は、成膜条件を設定するためのGUI(Graphical User Interface)もしくはCUI(Character-based User Interface)によって構成され、
前記出力部は、前記演算部での演算結果を可視化するためのGUIによって構成されている
(10)に記載の成膜シミュレータ。
(12)
成膜チャンバと、
前記成膜チャンバの動作を制御する制御部と、
入射ラジカルフラックスの値に応じた代表粒子を生成し、確率によって成膜表面での各前記代表粒子の付着、脱離、マイグレーションおよび堆積を計算し、それにより得られた計算結果に基づいて、成膜プロセスの最適化条件を探索する最適化演算部と、
前記成膜チャンバの成膜条件が、前記最適化演算部で見つかった前記最適化条件となるのに必要なデータを生成し、前記制御部へ出力する出力部と
を備え、
前記最適化演算部は、前記代表粒子と前記成膜表面との結合および未結合のいずれかの状態情報を付与したVoxelとして前記堆積を計算することで前記成膜表面における膜の被覆性および膜質を表現する
成膜装置。
(13)
前記成膜チャンバ内の状態をモニタリングするモニタリング装置と、
前記モニタリング装置により得られたモニタリングデータを用いて前記入射ラジカルフラックスを計算するガスフラックス演算部と
を更に備えた
(12)に記載の成膜装置。
(14)
前記最適化演算部は、データベースを利用して予測した前記入射ラジカルフラックスの値に応じた代表粒子を生成する
(12)に記載の成膜装置。
(15)
前記最適化演算部は、ウェハ毎、または、ロット毎に、前記最適化条件を探索する
(12)ないし(14)のいずれか1つに記載の成膜装置。
【符号の説明】
【0112】
1…成膜シミュレータ、2…成膜シミュレーションプログラム、3…成膜装置、11…入力部、12…演算部、13…出力部、21…入力部、22…演算エンジン部、22a…ガスフラックス計算部、22b…カバレッジ計算部、22c…膜質計算部、22d…出力部、23…表示部、31…成膜チャンバ、31A…モニタリング装置、32…成膜シミュレーションシステム、32A…ガスフラックス演算部、32B…最適化演算部、32C…補正条件出力部、33…制御システム、34…FDC/EESシステム、D1…レシピ情報、D2…膜厚情報。