(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180857
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】増築工法及び増築構造
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20231214BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20231214BHJP
E04B 1/30 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
E04G23/02 F
E04B1/58 508P
E04B1/30 K
E04G23/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094498
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】奥野 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】澤井 祥晃
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 一斗
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 悠
【テーマコード(参考)】
2E125
2E176
【Fターム(参考)】
2E125AA04
2E125AA14
2E125AB01
2E125AB12
2E125AC01
2E125AC15
2E125AG03
2E125AG04
2E125AG12
2E125AG43
2E125AG45
2E125AG49
2E125BA12
2E125BA22
2E125BB02
2E125BB05
2E125BB22
2E125BD01
2E125BE05
2E125BF08
2E125CA04
2E125CA05
2E125CA13
2E125CA14
2E176AA04
2E176AA07
2E176BB34
(57)【要約】
【課題】コンクリート造の既設構造部に対して鉄骨造の新設構造材を接合するにあたり、既設構造部の強度低下を回避しながら、既設構造部に対する新設構造材の剛接合を実現できる増築工法及び増築構造を提供する。
【解決手段】既存構造部1の外周部にコンクリート造の新設拡幅部10を構築すると共に、新設構造材延在方向Yに直交する貫通ボルト延在方向に沿って新設拡幅部10を貫通する複数の貫通ボルト25を設け、貫通ボルト延在方向に沿って対向配置された状態で新設構造材50に固定された一対の接合プレート20を、貫通ボルト延在方向に沿って新設拡幅部10を挟み込む形態で配置して複数の貫通ボルト25により新設拡幅部10に接合する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の既設構造部延在方向に沿って延在するコンクリート造の既設構造部に対して当該既設構造部側から前記既設構造部延在方向に直交する新設構造材延在方向に沿って延在する新設構造材を接合する増築工法であって、
前記既設構造部の外周部にコンクリート造の新設拡幅部を構築すると共に、前記新設構造材延在方向に直交する貫通ボルト延在方向に沿って前記新設拡幅部を貫通する複数の貫通ボルトを設け、
前記貫通ボルト延在方向に沿って対向配置された状態で前記新設構造材に固定された一対の接合プレートを、前記貫通ボルト延在方向に沿って前記新設拡幅部を挟み込む形態で配置して前記複数の貫通ボルトにより前記新設拡幅部に接合する増築工法。
【請求項2】
前記既設構造部が、前記既設構造部延在方向としての鉛直方向に延在する鉄筋コンクリート造の既設柱の構造部であり、
前記新設構造材が、前記新設構造材延在方向としての水平方向に延在する新設梁の構造材である請求項1に記載の増築工法。
【請求項3】
前記貫通ボルト延在方向が、前記既設構造部延在方向に沿った方向である請求項1又は2に記載の増築工法。
【請求項4】
前記一対の接合プレートの夫々が、前記新設構造材に固定される新設構造材固定片部と、当該新設構造材固定片部から前記既設構造部側に向けて二股に分岐した状態で延出して前記新設拡幅部に接合される一対の新設拡幅部接合片部とを有する二股分岐形状に構成されている請求項3に記載の増築工法。
【請求項5】
前記新設構造材がH形鋼で構成されており、
前記一対の接合プレートを、前記新設構造材の両フランジの夫々に接合する請求項1又は2に記載の増築工法。
【請求項6】
前記新設構造材のウェブの端部に固定されたベースプレートを、前記新設拡幅部の側面に対して当該新設拡幅部に埋設された複数のアンカーボルトにより接合する請求項5に記載の増築工法。
【請求項7】
所定の既設構造部延在方向に沿って延在するコンクリート造の既設構造部に対して当該既設構造部側から前記既設構造部延在方向に直交する新設構造材延在方向に沿って延在する新設構造材を接合してなる増築構造であって、
前記既設構造部の外周部に構築されたコンクリート造の新設拡幅部と、
前記新設構造材延在方向に直交する貫通ボルト延在方向に沿って前記新設拡幅部を貫通する状態で設けられた複数の貫通ボルトと、
前記貫通ボルト延在方向に沿って対向配置された状態で前記新設構造材に固定された一対の接合プレートと、を備え、
前記接合プレートが、前記貫通ボルト延在方向に沿って前記新設拡幅部を挟み込む形態で配置して前記複数の貫通ボルトにより前記新設拡幅部に接合されている増築構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の既設構造部延在方向に沿って延在するコンクリート造の既設構造部に対して当該既設構造部側から前記既設構造部延在方向に直交する新設構造材延在方向に沿って延在する新設構造材を接合する増築工法及び増築構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような増築工法及び増築構造において、コンクリート造の既設柱などの既設構造部に対して鉄骨造の新設梁などの新設構造材を接合するために、既設構造部に埋設されるあと施工アンカーを用いることは、既設構造部の強度低下等を招くために避ける必要がある。そこで、増築に関するものではないが、あと施工アンカーを用いることなく、コンクリート造の構造部に対して鉄骨造の構造材を接合する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
この特許文献1(主に段落0035-0038及び
図1,3,4)記載の技術では、上記構造部としての鉛直方向に沿って延在するプレキャスト柱部材(3)に対して上記構造材としての水平方向に延在する鉄骨梁(2)を接合するにあたり、プレキャスト柱部材(3)の外周部にコンクリート造の拡幅部(6)を構築すると共に、拡幅部(6)を水平方向に沿って貫通する複数の貫通ボルト(8’)を設け、鉄骨梁の端部に固定されたベースプレート(5)を上記複数の貫通ボルト(8’)により拡幅部(6)に接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1記載技術では、鉄骨梁(2)の端部に固定されたベースプレート(5)を、プレキャスト柱部材(3)の拡幅部(6)の鉄骨梁(2)側の側面に添わせた状態とし、それらを水平方向に延在する複数の貫通ボルト(8’)で接合する構造を採用していることから、鉄骨梁(2)に生じる曲げモーメントがプレキャスト柱部材(3)側に伝達されるにあたり、夫々の貫通ボルト(8’)には比較的大きな張力が加わる。特に、これら貫通ボルト(8’)が鉛直方向において鉄骨梁の上下端面よりも内側に配置されることから、貫通ボルト(8’)に加わる張力は大きくなる。そして、このような張力の発生により、比較的断面積が小さく比較的長尺な貫通ボルト(8’)が伸びやすい状態となり、このような貫通ボルト(8’)の伸びによりプレキャスト柱部材(3)に対する鉄骨梁(2)の接合が剛接合ではなくなるという問題があった。
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、コンクリート造の既設柱などの既設構造部に対して鉄骨造の新設梁などの新設構造材を接合するにあたり、既設構造部の強度低下を回避しながら、当該既設構造部に対する新設構造材の剛接合を実現できる増築工法及び増築構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、所定の既設構造部延在方向に沿って延在するコンクリート造の既設構造部に対して当該既設構造部側から前記既設構造部延在方向に直交する新設構造材延在方向に沿って延在する新設構造材を接合する増築工法であって、
前記既設構造部の外周部にコンクリート造の新設拡幅部を構築すると共に、前記新設構造材延在方向に直交する貫通ボルト延在方向に沿って前記新設拡幅部を貫通する複数の貫通ボルトを設け、
前記貫通ボルト延在方向に沿って対向配置された状態で前記新設構造材に固定された一対の接合プレートを、前記貫通ボルト延在方向に沿って前記新設拡幅部を挟み込む形態で配置して前記複数の貫通ボルトにより前記新設拡幅部に接合する点にある。
【0006】
本構成によれば、新設構造材延在方向に直交する貫通ボルト延在方向に沿って対向配置された状態で新設構造材に固定された一対の接合プレートが、既設構造部の周囲に構築された新設拡幅部における貫通ボルト延在方向に沿った両端面に添えられて、貫通ボルト延在方向に沿って当該新設拡幅部を挟み込む状態で配置されて、新設拡幅部を貫通する複数の貫通ボルトにより新設拡幅部に接合される。よって、一対の接合プレートを新設拡幅部へ接合するための複数の貫通ボルトを既設構造部に干渉させずに配置して、既設構造部の強度低下を回避できる。更に、新設構造材に生じる曲げモーメントが既設構造部に伝達されるにあたり、当該曲げモーメントは、一対の接合プレートの夫々に生じる面内方向に沿った応力により抵抗されることになり、その一対の接合プレートの夫々に生じる応力は、新設構造材延在方向に直交する貫通ボルト延在方向に沿った複数の貫通ボルトのせん断力と接合プレートと新設拡幅部の端面との間の摩擦力の両方により抵抗されることになる。よって、上記曲げモーメントによる接合プレートの伸びや変位を好適に抑制できるので、既設構造部に対する新設構造材の接合を剛接合の状態に保つことができる。
従って、本発明により、コンクリート造の既設柱などの既設構造部に対して鉄骨造の新設梁などの新設構造材を接合するにあたり、既設構造部の強度低下を回避しながら、当該既設構造部に対する新設構造材の剛接合を実現できる増築工法を提供することができる。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、前記既設構造部が、前記既設構造部延在方向としての鉛直方向に延在する鉄筋コンクリート造の既設柱の構造部であり、
前記新設構造材が、前記新設構造材延在方向としての水平方向に延在する新設梁の構造材である点にある。
【0008】
本構成によれば、コンクリート造の既設柱の構造部に対して新設梁の構造材を接合するにあたり、上述したように、既設柱の強度低下を回避しながら、当該既設柱に対する新設梁の剛接合を実現できる。
【0009】
本発明の第3特徴構成は、前記貫通ボルト延在方向が、前記既設構造部延在方向に沿った方向である点にある。
【0010】
本構成によれば、既設構造部を既設構造部延在方向と直交する方向に拡幅させる形態で新設拡幅部が構築されて、その新設拡幅部に既設構造部延在方向に沿って延在する複数の貫通ボルトが配置されることになる。よって、新設拡幅部を構築するにあたり既設構造部を既設構造部延在方向に拡幅させる必要がないので、当該新設拡幅部の既設構造部延在方向に沿った幅を極力抑えることができ、例えば新設構造材と同様の幅とすることができる。
【0011】
本発明の第4特徴構成は、前記一対の接合プレートの夫々が、前記新設構造材に固定される新設構造材固定片部と、当該新設構造材固定片部から前記既設構造部側に向けて二股に分岐した状態で延出して前記新設拡幅部に接合される一対の新設拡幅部接合片部とを有する二股分岐形状に構成されている点にある。
【0012】
本構成によれば、新設構造材延在方向視において、一対の接合プレートの夫々が有する一対の新設拡幅部接合片部の間に既設構造部を位置させながら、当該一対の接合プレートの夫々が有する新設構造材固定片部が固定される新設構造材を既設構造部に重畳させて配置することができる。すると、新設構造材から一対の接合プレート及び新設拡幅部を通じた既設構造部への力の伝達を、新設構造材延在方向視での既設構造部の幅方向(既設構造部延在方向及び新設構造材延在方向に直交する方向)において略均質に行って、既設構造部におけるねじり力の発生を抑制することができる。
【0013】
本発明の第5特徴構成は、前記新設構造材がH形鋼で構成されており、
前記一対の接合プレートを、前記新設構造材の両フランジの夫々に接合する点にある。
【0014】
本構成によれば、H形鋼で構成された新設構造材に生じる曲げモーメントを、当該新設構造材の最外に配置された両フランジから、当該両フランジに直接接合された一対の接合プレートに伝達させて、当該一対の接合プレートの夫々に生じる面内方向に沿った応力により好適に抵抗することができる。よって、接合プレートに生じる応力をできるだけ小さくして、当該接合プレートの伸びや変位を一層好適に抑制することができる。
【0015】
本発明の第6特徴構成は、前記新設構造材のウェブの端部に固定されたベースプレートを、前記新設拡幅部の側面に対して当該新設拡幅部に埋設された複数のアンカーボルトにより接合する点にある。
【0016】
本構成によれば、新設構造材において新設構造材延在方向に直交する方向に生じるせん断力を、当該新設構造材のウェブから、当該ウェブに接合されたベースプレート及びそれを新設拡幅部に接合するアンカーボルトを通じて好適に、新設拡幅部並びに既設構造部へ伝達させることができる。また、上記アンカーボルトは、上記貫通ボルトと同様に、既設構造部に干渉することなく新設拡幅部に埋設させることができるので、アンカーボルトの設置による既設構造部の強度低下を回避できる。
【0017】
本発明の第7特徴構成は、所定の既設構造部延在方向に沿って延在するコンクリート造の既設構造部に対して当該既設構造部側から前記既設構造部延在方向に直交する新設構造材延在方向に沿って延在する新設構造材を接合してなる増築構造であって、
前記既設構造部の外周部に構築されたコンクリート造の新設拡幅部と、
前記新設構造材延在方向に直交する貫通ボルト延在方向に沿って前記新設拡幅部を貫通する状態で設けられた複数の貫通ボルトと、
前記貫通ボルト延在方向に沿って対向配置された状態で前記新設構造材に固定された一対の接合プレートと、を備え、
前記接合プレートが、前記貫通ボルト延在方向に沿って前記新設拡幅部を挟み込む形態で配置して前記複数の貫通ボルトにより前記新設拡幅部に接合されている点にある。
【0018】
本構成によれば、新設構造材延在方向に直交する貫通ボルト延在方向に沿って対向配置された状態で新設構造材に固定された一対の接合プレートが、既設構造部の周囲に構築された新設拡幅部における貫通ボルト延在方向に沿った両端面に添えられて、貫通ボルト延在方向に沿って当該新設拡幅部を挟み込む状態で配置されて、新設拡幅部を貫通する複数の貫通ボルトにより新設拡幅部に接合される。よって、一対の接合プレートを新設拡幅部へ接合するための複数の貫通ボルトを既設構造部に干渉させずに配置して、既設構造部の強度低下を回避できる。更に、新設構造材に生じる曲げモーメントが既設構造部に伝達されるにあたり、当該曲げモーメントは、一対の接合プレートの夫々に生じる面内方向に沿った応力により抵抗されることになり、その一対の接合プレートの夫々に生じる応力は、新設構造材延在方向に直交する貫通ボルト延在方向に沿った複数の貫通ボルトのせん断力と接合プレートと新設拡幅部の端面との間の摩擦力の両方により抵抗されることになる。よって、上記曲げモーメントによる接合プレートの伸びや変位を好適に抑制できるので、既設構造部に対する新設構造材の接合を剛接合の状態に保つことができる。
従って、本発明により、コンクリート造の既設柱などの既設構造部に対して鉄骨造の新設梁などの新設構造材を接合するにあたり、既設構造部の強度低下を回避しながら、当該既設構造部に対する新設構造材の剛接合を実現できる増築構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態の増築工法による増築前の既設構造部付近の正面図
【
図2】本実施形態の増築工法による増築前の既設構造部付近の平面図
【
図3】本実施形態の増築工法による増築後の増築構造の正面図
【
図4】本実施形態の増築工法による増築後の増築構造の右側面図
【
図5】本実施形態の増築工法による増築後の増築構造の平面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る増築工法及び増築構造の実施形態について図面に基づいて説明する。
図3、
図4及び
図5に示すように、本実施形態の増築工法(以下「本増築工法」と呼ぶ)及び増築構造(以下「本増築構造」と呼ぶ)は、所定の既設構造部延在方向Xに沿って延在するコンクリート造の既設構造部1に対して当該既設構造部1側から前記既設構造部延在方向Xに直交する新設構造材延在方向Yに沿って延在する新設構造材50を接合する工法及び構造として構成されている。
更に、本増築工法及び本増築構造では、上記既設構造部1が、既設構造部延在方向Xとしての鉛直方向に延在する鉄筋コンクリート造の既設柱2における既設梁5A,5Bが接続された仕口部3とされており、上記新設構造材50が、新設構造材延在方向Yとしての水平方向に延在するH形鋼で構成された鉄骨造の新設梁51とされている。
【0021】
本増築工法が施工される前の既設建物の構造について、
図1及び
図2に基づいて説明する。
この既設建物は、鉄筋コンクリート造の既設柱2の仕口部3に、同じく鉄筋コンクリート造の既設梁5A,5Bが接続されている。具体的に、仕口部3の周囲の4つの側面3a,3b,3c,3dのうちの2つの互いに隣り合う側面3a,3bの夫々に既設梁5A,5Bが接続されている。そして、本増築工法及び本増築構造では、仕口部3の周囲の4つの側面3a,3b,3c,3dのうちの上記既設梁5A,5Bが接続されていない側面3c側に後述する新設梁51(
図3、
図4及び
図5を参照)が接続される。
【0022】
次に、本増築工法及び本増築構造の詳細について、
図3、
図4及び
図5に基づいて説明する。
まず、新設梁51の接続に先立って、既設柱2の仕口部3の外周部には、コンクリート造の新設拡幅部10が構築される。尚、新設拡幅部10は、コンクリート造であればよいが、鉄筋を埋設してなる鉄筋コンクリート造であっても構わない。
【0023】
図3及び
図4に示すように、新設拡幅部10は、既設柱2を既設構造部延在方向X(鉛直方向)と直交する水平方向に拡幅させる形態で構築される。そして、既設構造部延在方向X(鉛直方向)に沿って、新設拡幅部10の幅(高さ)は、新設梁51の幅(せい)と略同じものとされており、その範囲は、少なくとも既設梁5A,5Bの幅(せい)全体を含むものとされている。本実施形態では、新設拡幅部10の上面が既設梁5A,5Bの上面と面一とされており、新設拡幅部10の下面が既設梁5A,5Bの下面よりも若干下方に位置するものとされている。
【0024】
新設拡幅部10は、
図5に示すように、平面視において既設柱2を周囲に略同じ幅分拡大させた状態の矩形に形成されている。よって、既設柱2の側面3aの外方に位置する新設拡幅部10の側面10a側では、既設梁5Aが新設拡幅部10を貫通して外方に突出した状態となる。一方、既設柱2の側面3bの外方に位置する新設拡幅部10の側面10b側では、既設梁5Bが新設拡幅部10を貫通して外方に突出した状態となる。
そして、既設柱2の側面3cの外方に位置する新設拡幅部10の側面10cに対して、後述する新設梁51(
図3、
図4及び
図5を参照)が接続される。
【0025】
図3、
図4及び
図5に示すように、上記新設拡幅部10には、新設構造材延在方向Yに直交する貫通ボルト延在方向Zに沿って新設拡幅部10を貫通する複数の貫通ボルト25が設けられる。更に、貫通ボルト延在方向Zは、前記既設構造部延在方向Xに沿った鉛直方向とされている。よって、既設柱2を既設構造部延在方向Xと直交する水平方向に拡幅させる形態で構築された新設拡幅部10において、設構造部延在方向Xと平行な貫通ボルト延在方向Zに沿って貫通する複数の貫通ボルト25は、既設柱2と干渉することはなく当該既設柱2の周囲に配置される。
新設拡幅部10において貫通ボルト25は、既設梁5A,5Bの強度低下を回避するべく当該既設梁5A,5Bとの干渉を避ける箇所に配置されている。
尚、新設拡幅部10において、貫通ボルト25は、直接コンクリートに埋設する形態や、コンクリートに埋設させたシース管に挿通させる形態などで設けることができる。
【0026】
新設梁51には、上述した貫通ボルト延在方向Z(鉛直方向)に沿って対向配置された状態で一対の接合プレート20が固定される。これら一対の接合プレート20は、新設梁51を構成するH形鋼の上下両フランジ52の夫々に対して複数の高力ボルト26により接合される。そして、新設梁51に固定される一対の接合プレート20は、既設柱2の仕口部3の周囲に構築された新設拡幅部10における貫通ボルト延在方向Z(鉛直方向)の両端面に添えられて、貫通ボルト延在方向Z(鉛直方向)に沿って新設拡幅部10を挟み込む形態で配置され、上述した複数の貫通ボルト25により新設拡幅部10に接合される。
【0027】
以上のような構成により、一対の接合プレート20を、新設拡幅部10へ接合するための複数の貫通ボルト25を既設柱2の仕口部3に干渉させないように配置して、既設構造部1である既設柱2の仕口部3の強度低下を回避できる。更に、新設梁51に生じる曲げモーメントが既設柱2の仕口部3に伝達されるにあたり、当該曲げモーメントが、一対の接合プレート20の夫々に生じる面内方向に沿った応力により抵抗されることになる。そして、その一対の接合プレート20の夫々に生じる応力は、新設構造材延在方向Y(水平方向)に直交する貫通ボルト延在方向Z(鉛直方向)に沿った複数の貫通ボルト25のせん断力と接合プレート20と新設拡幅部10の端面との間の摩擦力の両方により抵抗されることになる。よって、上記曲げモーメントによる接合プレート20の伸びや変位が好適に抑制されるので、既設柱2の仕口部3に対する新設梁51の接合が剛接合の状態に保たれることになる。
更に、新設梁51に生じる曲げモーメントは、新設梁51の最外に配置された両フランジ52から直接一対の接合プレート20に伝達されて、当該一対の接合プレート20の夫々に生じる面内方向に沿った応力により好適に抵抗される。よって、接合プレート20に生じる応力が極力小さくされて、当該接合プレート20の伸びや変位が一層好適に抑制されている。
【0028】
図5に示すように、一対の接合プレート20の夫々は、新設梁51に固定される新設構造材固定片部21と、当該新設構造材固定片部21から既設柱2の仕口部3側に向けて二股に分岐した状態で延出して新設拡幅部10に接合される一対の新設拡幅部接合片部22A,22Bとを有する二股分岐形状に構成されている。そして、新設構造材固定片部21は、新設拡幅部10において新設梁51が接続される側の既設柱2の側面3cに沿う部分の端面に添えられ、一方、一対の新設拡幅部接合片部22A,22Bの夫々は、新設拡幅部10において既設柱2の側面3cに隣接する一対の側面3b,3dに沿う部分の端面に添えられる。そして、これら新設構造材固定片部21及び一対の新設拡幅部接合片部22A,22Bの夫々が、複数の貫通ボルト25により新設拡幅部10に接合される。
【0029】
このような構成により、
図5に示す平面視において、一対の接合プレート20の夫々が有する一対の新設拡幅部接合片部22A,22Bの間に既設柱2の仕口部3を位置させながら、一対の接合プレート20の夫々が有する新設構造材固定片部21が固定される新設梁51を既設柱2の仕口部3に重畳させて配置することができる。すると、新設梁51から一対の接合プレート20及び新設拡幅部10を通じた既設柱2の仕口部3への力の伝達が、
図4に示す新設構造材延在方向Y視での既設柱2の仕口部3の幅方向において略均質に行われることになって、既設柱2の仕口部3におけるねじり力の発生が抑制される。
【0030】
図4に示すように、一対の新設拡幅部接合片部22A,22Bのうち、一方側の第1新設拡幅部接合片部22Aは、仕口部3において既設梁が接続されていない側面3dに添って延出している。他方側の第2新設拡幅部接合片部22Bは、仕口部3において既設梁5Bが接続された側面3bに添って延出している。
よって、一対の接合プレート20の夫々の第1新設拡幅部接合片部22Aを新設拡幅部10に接合するための複数の貫通ボルト25については、既設梁との干渉が問題とならないため新設梁51に近い側に複数配置することができるため、第1新設拡幅部接合片部22Aの延出長さが比較的短いものとされている。一方、一対の接合プレート20の夫々の第2新設拡幅部接合片部22Bを新設拡幅部10に接合するための複数の貫通ボルト25については、既設梁5Bとの干渉を避けて配置する必要があるため、第2新設拡幅部接合片部22Bの延出長さが比較的長いものとされている。
【0031】
図3及び
図4に示すように、新設梁51のウェブ53は接合ブラケット30を介して新設拡幅部10の側面10cにアンカーボルト34により接合されている。
即ち、接合ブラケット30は、新設拡幅部10の側面10cに対してグラウト36を介在させて添わせられるベースプレート31と、当該ベースプレート31に直交して溶接接合されて新設梁51のウェブ53に添わせられるガセットプレート32とからなる。接合ブラケット30のガセットプレート32が新設梁51のウェブ53に高力ボルト33により接合されることで、当該ウェブ53の端部にベースプレート31が固定されることになる。そして、新設梁51のウェブ53の端部に固定されたベースプレート31が、新設拡幅部10の側面10cに対して当該新設拡幅部10に埋設された複数のアンカーボルト34により接合される。
この構成により、新設梁51において新設構造材延在方向Y(鉛直方向)に直交する方向に生じるせん断力は、当該新設梁51のウェブ53から接合ブラケット30及びそれを新設拡幅部10に接合するアンカーボルト34を通じて好適に新設拡幅部10並びに既設柱2の仕口部3へ伝達される。また、アンカーボルト34は、上述した貫通ボルト25と同様に、既設柱2の仕口部3に干渉することなく新設拡幅部10に埋設されているので、アンカーボルト34の設置による既設柱2の仕口部3の強度低下が回避されている。
【0032】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0033】
(1)上記実施形態では、新設構造材50をH形鋼からなる新設梁51としたが、新設構造材50については別の鋼材や材質のものとしても構わない。また、既設柱の上端部における仕口部に対して接続される新設柱を上記新設構造材としても構わない。
【0034】
(2)上記実施形態では、既設構造部1を既設柱2(仕口部3)としたが、既設構造部を既設梁としても構わない。
【0035】
(3)上記実施形態では、新設拡幅部10における複数の貫通ボルト25の延在方向である貫通ボルト延在方向Zを、既設構造部1(既設柱2)の延在方向である既設構造部延在方向Xに沿った方向としたが、貫通ボルト延在方向は、新設構造材(例えば新設梁)の延在方向である新設構造材延在方向に直交する方向であればよく、例えば貫通ボルト延在方向を既設構造部延在方向と直交する方向としても構わない。
【0036】
(4)上記実施形態において、新設梁51のフランジ52に対する接合プレート20接合方法や、新設梁51のウェブ53に対するガセットプレート32の接合方法を、高力ボルト26,33によるボルト接合としたが、溶接接合など他の接合方法を採用しても構わない。
【0037】
(5)一対の接合プレート20の夫々を、新設構造材固定片部21から一対の新設拡幅部接合片部22A,22Bに二股に分岐する二股分岐形状に構成したが、強度上問題がなければ例えば上記一対の新設拡幅部接合片部22A,22Bのうちの一方を省略するなど、接合プレート20の構造を適宜変更しても構わない。
【符号の説明】
【0038】
1 既設構造部
2 既設柱(既設構造部)
3 仕口部(既設構造部)
10 新設拡幅部
10c 側面
20 接合プレート
21 新設構造材固定片部
22A 第1新設拡幅部接合片部(新設拡幅部接合片部)
22B 第2新設拡幅部接合片部(新設拡幅部接合片部)
25 貫通ボルト
31 ベースプレート
34 アンカーボルト
50 新設構造材
51 新設梁(新設構造材)
52 フランジ
53 ウェブ
X 既設構造部延在方向
Y 新設構造材延在方向
Z 貫通ボルト延在方向