(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180879
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】出没式筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 24/08 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
B43K24/08 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094544
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】篠原 茜理
【テーマコード(参考)】
2C353
【Fターム(参考)】
2C353HA01
2C353HC04
2C353HG04
(57)【要約】
【課題】新規な出没機構を備えた出没式筆記具を提供する。
【解決手段】出没式筆記具200が、軸筒203と、ノックカム230を有し且つ軸筒203の後端部に嵌合可能なキャップ209と、軸筒203内において後方に付勢された回転子240と、軸筒203の内面に設けられた外カム220と、を具備し、ノックカム230及び外カム220が、回転子240と協働して回転子240を回転させるように構成され、回転子240が外カム220と係合した筆記状態と回転子240が外カム220と係合解除した非筆記状態とを切り替え可能であり、キャップ209内への軸筒203の後端部の挿入に伴いノックカム230が回転子240を押圧して回転子240を前進させて回転させ、回転子240の回転がノックカム230との周方向における当接によって規制されて回転子240が外カム220と係合して筆記状態となるように構成されている。
【選択図】
図26
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、
ノックカムを有し且つ前記軸筒の後端部に嵌合可能なキャップと、
前記軸筒内において後方に付勢された回転子と、
前記軸筒の内面に設けられた外カムと、を具備し、
前記ノックカム及び前記外カムが、前記回転子と協働して前記回転子を回転させるように構成され、前記回転子が前記外カムと係合した筆記状態と前記回転子が前記外カムと係合解除した非筆記状態とを切り替え可能な出没式筆記具であって、
前記キャップ内への前記軸筒の後端部の挿入に伴い前記ノックカムが前記回転子を押圧して前記回転子を前進させて回転させ、前記回転子の回転が前記ノックカムとの周方向における当接によって規制されて前記回転子が前記外カムと係合して筆記状態となるように構成されていることを特徴とする出没式筆記具。
【請求項2】
前記外カムが、前記軸筒の内面において周方向に沿って配置され且つ前端面に第1カム面を備えた複数の第1カム部と、前記複数の第1カム部の間に画成された前後方向に延びる複数のガイド溝とを有し、
前記ノックカムが、前記ガイド溝内を前後方向に移動可能に構成され且つ前端面に第2カム面を備えた第2カム部を有し、
前記回転子が、前記ガイド溝内を前後方向に移動可能に構成され且つ後端面に前記第1カム面及び前記第2カム面と協働するカム受け面を有する第3カム部を有し、
前記キャップ内への前記軸筒の後端部の挿入に伴い前記第2カム面が前記カム受け面を押圧して前記回転子を前進させて回転させ、前記回転子の前記第3カム部の側面が前記ノックカムの前記第2カム部の側面と当接し、前記回転子の回転が規制されるように構成されている請求項1に記載の出没式筆記具。
【請求項3】
前記第1カム部が後端面に第4カム面を備え、前記キャップ内への前記軸筒の後端部の挿入に伴い前記第2カム面と前記第4カム面とが協働し、前記第2カム部が前記ガイド溝内に進入するよう前記キャップを回転させるように構成されている請求項2に記載の出没式筆記具。
【請求項4】
筆記状態において、前記キャップの前記軸筒の後端部からの取り外しに伴い前記ノックカムによる前記回転子の回転の規制が解除されて前記回転子が回転し、前記回転子が前記外カムと係合解除して非筆記状態となるように構成されている請求項1に記載の出没式筆記具。
【請求項5】
前記軸筒の外面には係止部が形成され、前記キャップの内面には被係止部が形成され、前記キャップ内への前記軸筒の後端部の挿入に伴い前記係止部と前記被係止部とが係止したとき、前記回転子が前記ノックカムと周方向において当接するように構成されている請求項1に記載の出没式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出没式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
軸筒の後端部に操作部を有し、軸筒内に配置されたスプリングの付勢力に抗して操作部を前方に押圧するノック操作を行うことによって、インクを収容したリフィル、すなわち筆記体のペン先である筆記部が軸筒の先端から突出した筆記状態に切り替わり、再度のノック操作によって又は操作部とは別の解除部の操作によって筆記部が軸筒内に没入した非筆記状態に切り替えられる、いわゆるノック式である出没式筆記具が公知である(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【0003】
特許文献1に記載の出没式筆記具は、主に未使用時においてリフィル先端の筆記部からのインクの蒸発を防止するため軸筒の前端部に嵌合可能で且つ操作部として機能するキャップを有している。特許文献1に記載の出没式筆記具では、操作部として使用して非筆記状態から筆記状態に切り替えるとき、キャップを軸筒の後端部に嵌合させてノック操作を行う。
【0004】
特許文献2に記載の出没式筆記具は、意図せず操作部が前方に押圧され、非筆記状態から筆記状態となってしまうことを防止するよう操作部として機能するキャップを有している。特許文献2に記載の出没式筆記具は、キャップを軸筒の後端部に嵌合させないとノック操作ができないように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平1-131587号公報
【特許文献2】特開2015-143001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2に記載の出没式筆記具は、筆記部が軸筒から突出した筆記状態のまま、キャップを軸筒の後端部から取り外して前端部に嵌合させることができる。筆記状態において、キャップの軸線が斜めの状態で軸筒の前端部に嵌合しようとすると、キャップの内部が筆記部に当接してインクで汚れる可能性がある。また、筆記状態において軸筒の前端部にキャップを嵌合するとき、誤って筆記部に触れてしまい、インクで手を汚したり、筆記部の尖った先端で怪我をしてしまったりする虞がある。
【0007】
本発明は、新規な出没機構を備えた出没式筆記具を提供することを目的とする。それによって、意図しない筆記部の接触を防止し、汚染又は怪我を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、軸筒と、ノックカムを有し且つ前記軸筒の後端部に嵌合可能なキャップと、前記軸筒内において後方に付勢された回転子と、前記軸筒の内面に設けられた外カムと、を具備し、前記ノックカム及び前記外カムが、前記回転子と協働して前記回転子を回転させるように構成され、前記回転子が前記外カムと係合した筆記状態と前記回転子が前記外カムと係合解除した非筆記状態とを切り替え可能な出没式筆記具であって、前記キャップ内への前記軸筒の後端部の挿入に伴い前記ノックカムが前記回転子を押圧して前記回転子を前進させて回転させ、前記回転子の回転が前記ノックカムとの周方向における当接によって規制されて前記回転子が前記外カムと係合して筆記状態となるように構成されていることを特徴とする出没式筆記具が提供される。
【0009】
前記外カムが、前記軸筒の内面において周方向に沿って配置され且つ前端面に第1カム面を備えた複数の第1カム部と、前記複数の第1カム部の間に画成された前後方向に延びる複数のガイド溝とを有し、前記ノックカムが、前記ガイド溝内を前後方向に移動可能に構成され且つ前端面に第2カム面を備えた第2カム部を有し、前記回転子が、前記ガイド溝内を前後方向に移動可能に構成され且つ後端面に前記第1カム面及び前記第2カム面と協働するカム受け面を有する第3カム部を有し、前記キャップ内への前記軸筒の後端部の挿入に伴い前記第2カム面が前記カム受け面を押圧して前記回転子を前進させて回転させ、前記回転子の前記第3カム部の側面が前記ノックカムの前記第2カム部の側面と当接し、前記回転子の回転が規制されるように構成されていてもよい。前記第1カム部が後端面に第4カム面を備え、前記キャップ内への前記軸筒の後端部の挿入に伴い前記第2カム面と前記第4カム面とが協働し、前記第2カム部が前記ガイド溝内に進入するよう前記キャップを回転させるように構成されていてもよい。筆記状態において、前記キャップの前記軸筒の後端部からの取り外しに伴い前記ノックカムによる前記回転子の回転の規制が解除されて前記回転子が回転し、前記回転子が前記外カムと係合解除して非筆記状態となるように構成されていてもよい。前記軸筒の外面には係止部が形成され、前記キャップの内面には被係止部が形成され、前記キャップ内への前記軸筒の後端部の挿入に伴い前記係止部と前記被係止部とが係止したとき、前記回転子が前記ノックカムと周方向において当接するように構成されていてもよい。前記回転子の後端部が前記軸筒の後端部よりも前方に位置していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、新規な出没機構を備えた出没式筆記具を提供するという共通の効果を奏する。それによって、意図しない筆記部の接触を防止し、汚染又は怪我を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1実施形態による出没式筆記具の非筆記状態の斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の出没式筆記具の筆記状態の斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1の出没式筆記具の非筆記状態の縦断面図である。
【
図4】
図4は、
図1の出没式筆記具の筆記状態の縦断面図である。
【
図5】
図5は、
図1の出没式筆記具の軸筒の後端部の縦断面図である。
【
図6】
図6は、
図1の出没式筆記具のノックカムの斜視図である。
【
図8】
図8は、
図1の出没式筆記具の筆記状態の出没機構の斜視図である。
【
図9】
図9は、
図1の出没式筆記具の非筆記状態から筆記状態への切り替えを示す出没機構の模式図である。
【
図10】
図10は、
図1の出没式筆記具の筆記状態から非筆記状態への切り替えを示す出没機構の模式図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態による出没式筆記具の非筆記状態の縦断面図である。
【
図17】
図17は、
図11の出没式筆記具の非筆記状態から筆記状態への切り替えを示す出没機構の模式図である。
【
図18】
図18は、
図11の出没式筆記具の筆記状態から非筆記状態への切り替えを示す出没機構の模式図である。
【
図19】
図19は、第3実施形態による出没式筆記具の非筆記状態の縦断面図である。
【
図20】
図20は、
図19の出没式筆記具においてキャップを軸筒の後端部に配置した状態の縦断面図である。
【
図26】
図26は、
図19の出没式筆記具の非筆記状態から筆記状態への切り替えを示す出没機構の模式図である。
【
図27】
図27は、
図19の出没式筆記具の筆記状態から非筆記状態への切り替えを示す出没機構の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に亘り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0013】
図1は、第1実施形態による出没式筆記具1の非筆記状態の斜視図であり、
図2は、
図1の出没式筆記具1の筆記状態の斜視図であり、
図3は、
図1の出没式筆記具1の非筆記状態の縦断面図であり、
図4は、
図1の出没式筆記具1の筆記状態の縦断面図である。
【0014】
出没式筆記具1は、筒状に形成され且つ口先部材2を備えた軸筒3と、軸筒3内に配置され且つ一端に筆記部4を備えた筆記体であるリフィル5と、リフィル5を後方へ付勢するスプリング6と、軸筒3の後端部に配置された出没機構10とを有している。リフィル5は、例えばボールペンのリフィルである。出没機構10は、外カム20と、ノックカム30と、回転子40とを有している。軸筒3の前端部に配置された口先部材2は、前方に向かってテーパー状に形成され、リフィル5の筆記部4を突出させるための貫通孔が形成されている。
【0015】
なお、本明細書中では、出没式筆記具の軸線方向において、筆記部側を「前」側と規定し、筆記部とは反対側を「後」側と規定する。出没式筆記具1では、出没機構10によって、リフィル5が軸筒3内を前後方向に移動する。このとき、筆記部4が軸筒3内に没入した状態を非筆記状態(
図1及び
図3)と称し、筆記部4が軸筒3から突出した状態を筆記状態(
図2及び
図4)と称す。
【0016】
出没式筆記具1の後端部、すなわち軸筒3の後端部には操作部7が設けられている。操作部7は、ノックカム30を有している。出没式筆記具1は、操作部7を前方に押圧するノック操作によって筆記状態となる、いわゆるノック式筆記具である。特に
図2に示されるように、軸筒3には、後端から前方に延びる平坦部3aが形成され、平坦部3aには、後端から前方に延びる切り欠き部3bが形成されている。操作部7は、軸筒3の側面に沿って前方に延びるクリップ8を有している。クリップ8は、切り欠き部3bを介して操作部7に連結している。
【0017】
図5は、
図1の出没式筆記具1の軸筒3の後端部の縦断面図である。
図5において、下方が出没式筆記具1の前方である。軸筒3の後端部の内面には、出没機構10の一部を構成する外カム20が設けられている。外カム20は、軸筒3の内面において周方向に沿って等間隔に配置された突起状の4つの第1カム部21を有している。第1カム部21は、前後方向に延び且つ後部は互いに環状に連結している。第1カム部21の前端面には第1カム面22が設けられている。第1カム面22は、周方向に沿って傾斜した面である。4つの第1カム部21の間には、前後方向に延びる4つのガイド溝23が画成されている。したがって、外カム20は、4つの第1カム部21と4つのガイド溝23とを有している。ガイド溝23の後端において第1カム部21が連結した部分には、規制面24が設けられている。
【0018】
図6は、
図1の出没式筆記具1のノックカム30の斜視図である。
図6において、下方が出没式筆記具1の前方である。ノックカム30は、操作部7と一体的に設けられている。操作部7の後部は、円柱状の部材であり、側面にはクリップ8を連結するための取付穴7aが設けられている。操作部7の前部に配置されたノックカム30は、周方向に沿って等間隔に配置され且つ前後方向に延びる突起状の4つの第2カム部31を有している。第2カム部31の各々は、外カム20のガイド溝23内に前後方向に移動可能に配置される。第2カム部31の前端面には第2カム面32が設けられている。第2カム面32は、外カム20の第1カム面22と同様に周方向に沿って傾斜した面である。第2カム部31の周方向における側面には、第1当接面33が設けられている。第2カム部31の後端面には、係止面34が設けられている。
【0019】
図7は、
図1の出没式筆記具1の回転子40の斜視図である。
図7において、下方が出没式筆記具1の前方である。回転子40は、周方向に沿って等間隔に配置され且つ前後方向に延びる突起状の4つの第3カム部41を有している。4つの第3カム部41は内カムを構成する。第3カム部41の各々は、外カム20のガイド溝23内に前後方向に移動可能に配置される。第3カム部41の後端面にはカム受け面42が設けられている。カム受け面42は、外カム20の第1カム面22及びノックカム30の第2カム面32と対向して同様に周方向に沿って傾斜した面である。回転子40の前端面には、スプリング6によって付勢されたリフィル5の後端面が当接する。したがって、回転子40は、スプリング6によってリフィル5を介して常に後方に付勢されている。第3カム部41の周方向における側面には、第2当接面43が設けられている。
【0020】
図8は、
図1の出没式筆記具1の筆記状態の出没機構10の斜視図である。
図8において、外カム20は省略されている。筆記状態では、
図9を参照しながら後述するように、回転子40の第3カム部41が外カム20の第1カム部21と係合している。このとき、回転子40の回転は、回転子40がノックカム30と周方向における当接することによって、具体的には、第2当接面43が第1当接面33と当接することによって規制され、筆記状態を維持している。
【0021】
図9は、
図1の出没式筆記具1の非筆記状態から筆記状態への切り替えを示す出没機構10の模式図である。すなわち、
図9は、外カム20とノックカム30と回転子40との位置関係を示す模式図であり、外カム20を周方向に展開したものに対して、ノックカム30の第2カム部31及び回転子40の第3カム部41の位置を示したものである。図中、下方が出没式筆記具1の前方であり、上方が出没式筆記具1の後方である。回転子40は、外カム20の第1カム面22又はノックカム30の第2カム面32と、回転子40のカム受け面42とが協働することによって回転力を与えられ、中心軸線回りに一方に回転する。そのため、回転子40は、
図9において図の右から左へ移動する。
【0022】
図9(A)は、出没式筆記具1の非筆記状態における出没機構10の模式図である。非筆記状態では、ノックカム30の第2カム部31、及び、リフィル5を介してスプリング6によって後方に付勢された回転子40の第3カム部41は、外カム20間のガイド溝23内の後方に配置されている。ノックカム30及び回転子40の後退は、ノックカム30の係止面34が外カム20の規制面24に係止することによって規制される。したがって、この状態では、筆記部4が軸筒3内に没入している。
【0023】
図9(A)の状態から、スプリング6の付勢力に抗して操作部7を押圧するノック操作を行うことによって、ノックカム30及び回転子40を前進させる。このとき、ノックカム30の第2カム部31及び回転子40の第3カム部41は、ガイド溝23内を前進する。また、ノックカム30及び回転子40は、第2カム面32及びカム受け面42の斜面を介して互いに反対方向の周方向の分力を受けているが、ノックカム30の第2カム部31又は回転子40の第3カム部41と、外カム20の第1カム部21の側面との当接によって、周方向の移動、すなわち回転が規制されている。
【0024】
ノックカム30及び回転子40がさらに前進すると、回転子40の第3カム部41の後端部が前後方向において外カム20の前端部、すなわち第1カム部21を越えて、第1カム面22と第2カム面32とが一致し、外カム20による回転子40の回転の規制は解除される(
図9(B))。それによって、後方に付勢された回転子40は第2カム面32及び第1カム面22から周方向の分力を受け、カム受け面42が第2カム面32及び第1カム面22を順にスライドしながら、回転子40が中心軸線回りに回転する(
図9(C))。
【0025】
回転子40の第3カム部41は、ノックカム30の第2カム面32及び外カム20の第1カム面22の順に沿って、ノックカム30の第2カム部31の側面に当接するまで移動する。すなわち、回転子40の回転は、第2当接面43がノックカム30の第1当接面33と当接することによって停止し、規制される。このとき、後方に付勢された回転子40の後退は、第3カム部41が第1カム部21と係合することによって規制される(
図9(D))。要するに、回転子40は外カム20と係合することによって、回転子40の前方に配置されたリフィル5の筆記部4が軸筒3から突出した状態が維持され、出没式筆記具1は筆記状態となる。
【0026】
なお、スプリング6はリフィル5を介して回転子40を後方に付勢しているが、筆記状態においてその付勢力は、
図9(D)に示されるように外カム20によってのみ支持されている。したがって、筆記状態において、ノックカム30、すなわち操作部7を後退させるような力は作用しない。
【0027】
図10は、
図1の出没式筆記具1の筆記状態から非筆記状態への切り替えを示す出没機構10の模式図である。
図10では、外カム20とノックカム30と回転子40との位置関係について、
図9と同様に示されている。
【0028】
図10(A)は、出没式筆記具1の筆記状態における出没機構10の模式図であり、
図9(D)と同一の模式図である。
図10(A)の状態から、例えばクリップ8を後方にスライドさせることによって操作部7、ひいてはノックカム30を後退させる(
図10(B))。ノックカム30が後退すると、ノックカム30の第2カム部31の前端部が前後方向において回転子40の後端部、すなわち第3カム部41を越えて、第1カム面22と第2カム面32とが一致し、ノックカム30による回転子40の回転の規制は解除される。それによって、後方に付勢された回転子40は第1カム面22から周方向の分力を受け、カム受け面42が第1カム面22及び第2カム面32を順にスライドしながら、回転子40が中心軸線回りにさらに回転する(
図10(C))。
【0029】
回転子40の第3カム部41は、外カム20の第1カム面22及びノックカム30の第2カム面32の順に沿って、外カム20の第1カム部21の側面に当接するまで移動する。それによって、回転子40の回転が、停止し、規制される(
図10(D))。この状態では、回転子40は外カム20と係合解除していることから、スプリング6の付勢力によって回転子40及びノックカム30はガイド溝23内を後退する。ノックカム30及び回転子40の後退は、ノックカム30の係止面34が外カム20の規制面24に係止することによって規制される(
図10(E))。要するに、回転子40は外カム20と係合解除することによって、回転子40の前方に配置されたリフィル5の筆記部4が軸筒3内に没入した状態が維持され、出没式筆記具1は非筆記状態となる。なお、
図10(E)は、
図9(A)と同一の模式図である。
【0030】
上述した第1実施形態によれば、新規な出没機構10を備えた出没式筆記具1を提供することができる。それによって、より単純な構造で操作部7のがたつきを防止し、リフィル5に対する衝撃を防止することができる。
【0031】
すなわち、
図9を参照しながら上述したように、筆記状態では、後方に付勢された回転子40は、外カム20の第1カム面22及びカム受け面42の斜面を介して、ノックカム30を押圧するような周方向の分力を受けている。そのため、筆記状態におけるノックカム30は、外カム20の第1カム部21及び回転子40の第3カム部41に挟持された状態となる。したがって、筆記動作に起因する筆記面と筆記部4との繰り返しの当接によって、操作部7ががたつくことはなく、がたつきに起因する音や振動の発生、筆記感触の低下等が防止される。また、操作部7のがたつきを防止するための付加的な構成、例えば、操作部7を常に後方に付勢するようなスプリングの追加等が不要であり、最低限の部品から構成されていることから、非常に単純な構造で出没機構が実現することができる。
【0032】
一般的なノック式筆記具では、筆記状態から非筆記状態への切り替えのノック操作によって、回転子を筆記状態よりもさらに前進させて外カムと係合解除させる必要があった。それによって、スプリングによって付勢されたリフィルについて、前進位置から非筆記状態の位置への移動量が大きかった。また、クリック音又は衝撃音について、ノック操作によって回転子が前進したときに1回目の音が生じ、回転子が後退して非筆記状態になったときに2回目の音が生じていた。
【0033】
他方、上述した第1実施形態では、筆記状態から非筆記状態への切り替えの際のノック操作によって、回転子40、ひいてはリフィル5を前進させる必要がないことから、リフィル5の移動量を最小にすることができる。それによって、リフィル5に加わる衝撃を防止することができ、衝撃によるリフィル5中の空気の混入を防止し、筆記不良の発生が防止される。また、回転子40が後退して非筆記状態になったときのみクリック音又は衝撃音が発生することから、筆記状態と非筆記状態との切り替えを静かに行うことが可能となる。
【0034】
上述した第1実施形態による出没式筆記具1では、操作部7が軸筒3の後端部から突出するように設けられているが、操作部を軸筒の側面、すなわち外周面に設けてもよい。また、出没式筆記具1がクリップ8を有していたが、クリップ8を有していなくてもよい。
【0035】
図11は、第2実施形態による出没式筆記具100の非筆記状態の縦断面図であり、
図12は、
図11の出没式筆記具10の筆記状態の縦断面図である。
【0036】
出没式筆記具100は、筒状に形成され且つ口先部材2を備えた軸筒103と、軸筒103内に配置され且つ一端に筆記部4を備えた筆記体であるリフィル5と、リフィル5を後方へ付勢するスプリング6と、軸筒103の後端部に配置された出没機構110とを有している。出没機構110は、外カム120と、ノックカム130と、回転子140とを有している。軸筒103の前端部に配置された口先部材2は、前方に向かってテーパー状に形成され、リフィル5の筆記部4を突出させるための貫通孔が形成されている。
【0037】
出没式筆記具100では、出没機構110によって、リフィル5が軸筒103内を前後方向に移動する。このとき、筆記部4が軸筒103内に没入した状態を非筆記状態(
図11)と称し、筆記部4が軸筒103から突出した状態を筆記状態(
図12)と称す。
【0038】
出没式筆記具100の後端部、すなわち軸筒103の後端部には操作部107が設けられている。操作部107は、ノックカム130を有している。出没式筆記具100は、操作部107を前方に押圧するノック操作によって筆記状態となる、いわゆるノック式筆記具である。操作部107は、操作部107を長さ方向に亘ってカバーする円筒状のカバー部材108を有している。カバー部材108は、操作部107と一体的に連結している。
【0039】
図13は、
図11の出没式筆記具100の軸筒103の後端部の縦断面図である。
図13において、下方が出没式筆記具100の前方である。軸筒103の後端部の内面には、出没機構110の一部を構成する外カム120が設けられている。外カム120は、軸筒103の内面において周方向に沿って等間隔に配置された突起状の4つの第1カム部121を有している。第1カム部121は、前後方向に延び且つ後部は互いに環状に連結している。第1カム部121の前端面には第1カム面122が設けられている。第1カム面122は、周方向に沿って傾斜した面である。4つの第1カム部121の間には、前後方向に延びる4つのガイド溝123が画成されている。したがって、外カム120は、4つの第1カム部121と4つのガイド溝123とを有している。ガイド溝123の後端において第1カム部121が連結した部分には、規制面124が設けられている。
【0040】
なお、出没式筆記具100の外カム120の第1カム面122は、第1実施形態による出没式筆記具1の外カム20の第1カム面22とは、周方向に沿って同一の傾きの面であるが、反対方向に傾斜した面である点において異なる。
【0041】
軸筒103の後端面には、操作部107が挿入できるように、貫通孔103aが形成されている。軸筒103の後端部の外周面には、カバー部材108の内径よりも僅かばかり小さい外径を有するガイド部103bが形成されている。カバー部材108、ひいては操作部107の前後方向の移動は、ガイド部103bによって案内される。ガイド部103bの前端部分には、後方に面した段部103cが形成されている。カバー部材108、ひいては操作部107の前方への移動は、カバー部材108の前端面が段部103cに当接することによって規制される。
【0042】
図14は、
図11の出没式筆記具100のノックカム130の斜視図である。
図14において、下方が出没式筆記具100の前方である。ノックカム130は、操作部107と一体的に設けられている。操作部107は、円柱状の部材である。操作部107の前部に配置されたノックカム130は、周方向に沿って等間隔に配置され且つ前後方向に延びる突起状の4つの第2カム部131を有している。第2カム部131の各々は、外カム120のガイド溝123内に前後方向に移動可能に配置される。第2カム部131の前端面には第2カム面132が設けられている。第2カム面132は、外カム120の第1カム面122とは、周方向に沿って同一の傾きの面であるが、反対方向に傾斜した面である点において異なる。第2カム部131の周方向における側面には、第1当接面133が設けられている。第2カム部131の後端面には、係止面134が設けられている。
【0043】
なお、出没式筆記具100のノックカム130の第1当接面133は、第1実施形態による出没式筆記具1のノックカム30の第1当接面33とは、周方向において対応する第2カム部131の反対側の側面である点において異なる。
【0044】
図15は、
図11の出没式筆記具100の回転子140の斜視図である。
図15において、下方が出没式筆記具100の前方である。回転子140は、周方向に沿って等間隔に配置され且つ前後方向に延びる突起状の4つの第3カム部141を有している。4つの第3カム部141は内カムを構成する。第3カム部141の各々は、外カム120のガイド溝123内に前後方向に移動可能に配置される。第3カム部141の後端面にはカム受け面142が設けられている。カム受け面142の各々は、山形に形成され、第1カム受け面144及び第2カム受け面145を有している。第1カム受け面144及び第2カム受け面145は、周方向に沿って互いに逆方向に傾斜した面であり、第3カム部141は対称的に形成されている。第1カム受け面144は、ノックカム130の第2カム面132と対向するように同様に周方向に傾斜した面であり、第2カム受け面145は、外カム120の第1カム面122と対向するように同様に周方向に沿って傾斜した面である。回転子140の前端面には、スプリング6によって付勢されたリフィル5の後端面が当接する。したがって、回転子140は、スプリング6によってリフィル5を介して常に後方に付勢されている。第3カム部141の周方向における側面には、第2当接面143が設けられている。
【0045】
なお、出没式筆記具100の回転子140の第2当接面143は、第1実施形態による出没式筆記具1の回転子40の第2当接面43とは、周方向において対応する第3カム部141の反対側の側面である点において異なる。
【0046】
図16は、
図11の出没式筆記具100の筆記状態の出没機構110の斜視図である。筆記状態では、
図17を参照しながら後述するように、回転子140の第3カム部141が外カム120の第1カム部121と係合している。このとき、回転子140の回転は、回転子140がノックカム130と周方向における当接することによって、具体的には、第2当接面143が第1当接面133と当接することによって規制され、筆記状態を維持している。
【0047】
図17は、
図11の出没式筆記具100の非筆記状態から筆記状態への切り替えを示す出没機構の模式図である。すなわち、
図17は、外カム120とノックカム130と回転子140との位置関係を示す模式図であり、外カム120を周方向に展開したものに対して、ノックカム130の第2カム部131及び回転子140の第3カム部141の位置を示したものである。図中、下方が出没式筆記具100の前方であり、上方が出没式筆記具100の後方である。回転子140は、外カム120の第1カム面122又はノックカム130の第2カム面132と、回転子140のカム受け面142とが協働することによって回転力を与えられ、所定の角度範囲内で、中心軸線回りに一方又は他方に回転する。
【0048】
図17(A)は、出没式筆記具100の非筆記状態における出没機構110の模式図である。非筆記状態では、ノックカム130の第2カム部131、及び、リフィル5を介してスプリング6によって後方に付勢された回転子140の第3カム部141は、外カム120間のガイド溝123内の後方に配置されている。ノックカム130及び回転子140の後退は、ノックカム130の係止面134が外カム120の規制面124に係止することによって規制される。したがって、この状態では、筆記部4が軸筒103内に没入している。
【0049】
図17(A)の状態から、スプリング6の付勢力に抗して操作部107を押圧するノック操作を行うことによって、ノックカム130及び回転子140を前進させる。このとき、ノックカム130の第2カム部131及び回転子140の第3カム部141は、ガイド溝123内を前進する。また、ノックカム130及び回転子140は、第2カム面132及びカム受け面142の斜面、具体的には第2カム面132及び第1カム受け面144の斜面を介して互いに反対方向の周方向の分力を受けている。しかしながら、ノックカム130及び回転子140は、ノックカム130の第2カム部131又は回転子140の第3カム部141と、外カム120の第1カム部121の側面との当接によって、周方向の移動、すなわち回転が規制されている。
【0050】
ノックカム130及び回転子140がさらに前進すると、回転子140の第3カム部141の後端部が前後方向において外カム120の前端部、すなわち第1カム部121を越えて、外カム120による回転子140の回転の規制は解除される(
図17(B))。それによって、後方に付勢された回転子140は第2カム面132から周方向の分力を受け、カム受け面142、具体的には第1カム受け面144が、第2カム面132をスライドしながら、回転子140が中心軸線回りに第1方向である一方に回転する(
図17(C))。第1方向は、図において右から左に向かう方向である。
【0051】
回転子140の第3カム部141がノックカム130の第2カム面132を抜けるまで回転子140が回転すると、ノックカム130の第2カム部131の前端部が前後方向において回転子140の第3カム部141の後端部を越えて前進する。このとき、回転子140のカム受け面142、具体的には第2カム受け面145が、外カム120の第1カム面122に当接する。次いで、スプリング6の付勢力によって、回転子140は、第1カム面122及び第2カム受け面145の斜面を介して周方向の分力を受け、上述した第1方向とは反対方向、すなわち第2方向である他方に回転する。第2方向は、図において左から右に向かう方向である。
【0052】
回転子140の回転は、第2当接面143がノックカム130の第1当接面133と当接することによって停止し、規制される。このとき、後方に付勢された回転子140の後退は、第3カム部141が第1カム部121と係合することによって規制される(
図17(D))。要するに、回転子140は外カム120と係合することによって、回転子140の前方に配置されたリフィル5の筆記部4が軸筒103から突出した状態が維持され、出没式筆記具100は筆記状態となる。
【0053】
なお、スプリング6はリフィル5を介して回転子140を後方に付勢しているが、筆記状態においてその付勢力は、
図17(D)に示されるように外カム120によってのみ支持されている。したがって、筆記状態において、ノックカム130、すなわち操作部107を後退させるような力は作用しない。
【0054】
図18は、
図11の出没式筆記具100の筆記状態から非筆記状態への切り替えを示す出没機構110の模式図である。
図18では、外カム120とノックカム130と回転子140との位置関係について、
図17と同様に示されている。
【0055】
図18(A)は、出没式筆記具100の筆記状態における出没機構110の模式図であり、
図17(D)と同一の模式図である。
図18(A)の状態から、例えば操作部107の外周を摘まむ等によって、操作部107を後方に引っ張ることによって、操作部107、ひいてはノックカム130を後退させる。ノックカム130が後退すると、ノックカム130の第2カム部131の前端部が前後方向において回転子140の後端部、すなわち第3カム部141を越えて、ノックカム130による回転子140の回転の規制が解除される。それによって、後方に付勢された回転子140は第1カム面122から周方向の分力を受け、カム受け面142、具体的には第2カム受け面145が、第1カム面122をスライドしながら、回転子140が中心軸線回りに第2方向に回転する。回転子140の回転は、第1カム受け面144がノックカム130の第2カム面132と当接することによって規制される(
図18(B))。
【0056】
さらにノックカム130が後退すると、回転子140の第3カム部141は、外カム120の第1カム面122に沿って、外カム120の第1カム部121の側面に当接するまで移動する。それによって、回転子140の回転が、停止し、規制される(
図18(C))。この状態では、回転子140は外カム120と係合解除していることから、スプリング6の付勢力によって回転子140及びノックカム130はガイド溝123内を後退する。ノックカム130及び回転子140の後退は、ノックカム130の係止面134が外カム120の規制面124に係止することによって規制される(
図18(E))。要するに、回転子140は外カム120と係合解除することによって、回転子140の前方に配置されたリフィル5の筆記部4が軸筒103内に没入した状態が維持され、出没式筆記具100は非筆記状態となる。なお、
図18(E)は、
図17(A)と同一の模式図である。
【0057】
上述した第2実施形態による出没式筆記具100は、第1実施形態による出没式筆記具1について上述した効果に加え、ノック操作の音がより静かになるという効果を奏する。すなわち、出没式筆記具100では、回転子140が中心軸線周りに一方に回転せず、所定の角度範囲内で一方又は他方に回転することから、一回のノック操作における移動角度もより小さい。そのため、回転子140と、外カム120又はノックカム130との摺動音がより小さくなる。
【0058】
出没式筆記具100の回転子140の山形のカム受け面142の構成、さらには対応する外カム120及びノックカム130の構成は、上述した第1実施形態による出没式筆記具1及び後述する第2実施形態による出没式筆記具200に対しても適用可能である。
【0059】
図19は、第3実施形態による出没式筆記具200の非筆記状態の縦断面図であり、
図20は、
図19の出没式筆記具200においてキャップ209を軸筒203の後端部に配置した状態の縦断面図であり、
図21は、
図19の出没式筆記具200の筆記状態の縦断面図である。
【0060】
出没式筆記具200は、筒状に形成され且つ口先部材2を備えた軸筒203と、軸筒203内に配置され且つ一端に筆記部4を備えた筆記体であるリフィル5と、リフィル5を後方へ付勢するスプリング6と、軸筒203の後端部に配置された出没機構210とを有している。出没機構210は、外カム220と、ノックカム230と、回転子240とを有している。軸筒203の前端部に配置された口先部材2は、前方に向かってテーパー状に形成され、リフィル5の筆記部4を突出させるための貫通孔が形成されている。
【0061】
出没式筆記具200では、出没機構210によって、リフィル5が軸筒203内を前後方向に移動する。このとき、筆記部4が軸筒203内に没入した状態を非筆記状態(
図19)と称し、筆記部4が軸筒203から突出した状態を筆記状態(
図21)と称す。
【0062】
出没式筆記具200の前端部及び後端部、すなわち軸筒203の前端部及び後端部にはキャップ209が嵌合可能である。なお、本明細書中では、キャップ209の軸線方向において、開口端側を「前」側と規定し、閉鎖端側を「後」側と規定する。キャップ209は、ノックカム230を有している。出没式筆記具200は、後述するように、キャップ209を軸筒203の後端部に嵌合させることによって非筆記状態から筆記状態に切り替えられ、キャップ209を軸筒203の後端部から取り外すことによって筆記状態から非筆記状態に切り替えられる。
【0063】
軸筒203の後端面には、貫通孔203aが形成されている。軸筒203の前側の外面には第1係止部203bが形成され、軸筒203の後側の外面には第2係止部203cが形成されている。他方、キャップ209の内面には被係止部209aが形成されている。第1係止部203b及び第2係止部203cは、軸筒203の外面に形成された環状の凸部である。被係止部209aは、キャップ209の内面に形成され且つ第1係止部203b及び第2係止部203cと相補的に形成された環状の凹部である。軸筒203の第1係止部203b又は第2係止部203cとキャップ209の被係止部209aとが嵌合して係止することによって、キャップ209を軸筒203の前端部又は後端部に嵌合させることができる。
【0064】
なお、軸筒203の第1係止部及び第2係止部を凹部として形成し、キャップ209の被係止部を凸部として形成し、キャップ209を軸筒203の前端部又は後端部に嵌合させるようにしてもよい。また、軸筒203の第1係止部及び第2係止部並びにキャップ209の被係止部をいずれも凸部として形成し、キャップ209の被係止部が、軸筒203の第1係止部又は第2係止部を乗り越えて係止することによって、キャップ209を軸筒203の前端部又は後端部に嵌合させるようにしてもよい。
【0065】
図22は、
図19の出没式筆記具200の軸筒203の後端部の縦断面図である。
図22において、下方が出没式筆記具200の前方である。軸筒203の後端部の内面には、出没機構210の一部を構成する外カム220が設けられている。外カム220は、軸筒203の内面において周方向に沿って等間隔に配置された突起状の4つの第1カム部221を有している。第1カム部221は、前後方向に延び、且つ、後部には互いに環状に連結した環状部221aが形成されている。第1カム部221の前端面には第1カム面222が設けられている。第1カム面222は、周方向に沿って傾斜した面である。4つの第1カム部221の間には、前後方向に延びる4つのガイド溝223が画成されている。したがって、外カム220は、4つの第1カム部221と4つのガイド溝223とを有している。ガイド溝223の後端において第1カム部221が連結した環状部221aの前端面には、規制面224が設けられている。
【0066】
軸筒203の後端面には、後述するノックカム230が挿入できるように、上述した貫通孔203aが形成されている。貫通孔203aの入口部分である環状部221aは、他の部分と比べて軸筒203の内周面からの高さが低く形成されている。第1カム部221の後端面、すなわち環状部221aの表面上であって、第1カム面222の後方の対応する位置には、第1カム面222と同一方向に傾斜した第4カム面225が設けられている。
【0067】
図23は、
図19の出没式筆記具200のノックカム230の斜視図である。
図23において、下方が出没式筆記具200の前方である。ノックカム230の後部には、キャップ209の閉鎖端を構成するよう端部に嵌合する嵌合部235が設けられている。ノックカム230は、周方向に沿って等間隔に配置され且つ前後方向に延びる突起状の4つの第2カム部231を有している。第2カム部231の各々は、外カム220のガイド溝223内に前後方向に移動可能に配置される。第2カム部231の前端面には第2カム面232が設けられている。第2カム面232は、外カム220の第1カム面222及び第4カム面225と同様に周方向に沿って傾斜した面である。第2カム部231の周方向における側面には、第1当接面233が設けられている。第2カム部231の後端面には、係止面234が設けられている。
【0068】
なお、第2カム部231の横断面における外接円が外カム220の環状部221aの横断面における内接円よりも小さくなるように、第2カム部231が形成されている。したがって、後述するように、キャップ209を軸筒203の後端部に嵌合するとき、ノックカム230の第2カム部231が、外カム220の環状部221aと干渉することなく、ガイド溝223内に配置される。
【0069】
図24は、
図19の出没式筆記具200の回転子240の斜視図である。
図24において、下方が出没式筆記具200の前方である。回転子240は、周方向に沿って等間隔に配置され且つ前後方向に延びる突起状の4つの第3カム部241を有している。4つの第3カム部241は内カムを構成する。第3カム部241の各々は、外カム220のガイド溝223内に前後方向に移動可能に配置される。第3カム部241の後端面にはカム受け面242が設けられている。カム受け面242は、外カム220の第1カム面222及びノックカム230の第2カム面232と対向して同様に周方向に沿って傾斜した面である。回転子240の前端面には、スプリング6によって付勢されたリフィル5の後端面が当接する。したがって、回転子240は、スプリング6によってリフィル5を介して常に後方に付勢されている。第3カム部241の周方向における側面には、第2当接面243が設けられている。
【0070】
図25は、
図19の出没式筆記具200の筆記状態の出没機構210の斜視図である。筆記状態では、
図9を参照しながら上述したように、回転子240の第3カム部241が外カム220の第1カム部221と係合している。このとき、回転子240の回転は、回転子240がノックカム230と周方向における当接することによって、具体的には、第2当接面243が第1当接面233と当接することによって規制され、筆記状態を維持している。
【0071】
図26は、
図19の出没式筆記具200の非筆記状態から筆記状態への切り替えを示す出没機構210の模式図である。すなわち、
図26は、外カム220とノックカム230と回転子240との位置関係を示す模式図であり、外カム220を周方向に展開したものに対して、ノックカム230の第2カム部231及び回転子240の第3カム部241の位置を示したものである。図中、下方が出没式筆記具200の前方であり、上方が出没式筆記具200の後方である。回転子240は、外カム220の第1カム面222又はノックカム230の第2カム面232と、回転子240のカム受け面242とが協働することによって回転力を与えられ、中心軸線回りに一方に回転する。そのため、回転子240は、
図26において図の右から左へ移動する。
【0072】
ところで、非筆記状態のとき、キャップ209は軸筒203の前端部に嵌合している。キャップ209が軸筒203の前端部に嵌合した状態では、ノックカム230の前端面が軸筒203の前端面と当接している(
図19)。キャップ209を軸筒203の前端部から取り外して後端部に完全に嵌合させることによって、ノックカム230が軸筒203の貫通孔203aを介して内部に挿入され、回転子240と協働して非筆記状態から筆記状態に切り替えられる(
図21)。
図26では、キャップ209を軸筒203の後端部に配置した直後の
図20に示された状態から順を追って説明する。
【0073】
図26(A)は、キャップ209を軸筒203の後端部に配置した直後の非筆記状態における出没機構210の模式図である。非筆記状態では、リフィル5を介してスプリング6によって後方に付勢された回転子240の第3カム部241は、外カム220間のガイド溝223内の後方に配置されている。回転子240の後退は、第3カム部241の後端部が外カム220の規制面224に係止することによって規制される。したがって、この状態では、筆記部4が軸筒203内に没入している。
【0074】
キャップ209は、使用者によって無造作に軸筒203の後端部に配置される。そのため、ノックカム230の第2カム部231が、外カム220のガイド溝223に対応する位置に配置されない場合がある。
図26(A)は、ノックカム230の第2カム部231が、外カム220のガイド溝223から周方向にずれた位置に配置された状態を示している。
【0075】
図26(A)の状態から、キャップ209を軸筒203に対して押圧すると、ノックカム230の第2カム面232と外カム220の第4カム面225とが協働し、ノックカム230の第2カム部231がガイド溝223内に進入するようキャップ209を回転させる。すなわち、前方に押圧されたノックカム230は第4カム面225から周方向の分力を受け、第2カム面232が第4カム面225及びカム受け面242を順にスライドしながら、ノックカム230が中心軸線回りに回転する。ノックカム230の第2カム部231は、外カム220の第4カム面225及び回転子240のカム受け面242の順に沿って、外カム220の第1カム部221の側面に当接するまで移動する。それによって、ノックカム230の第2カム部231は、外カム220のガイド溝223の入口に配置される(
図26(B))。
【0076】
図26(B)の状態から、スプリング6の付勢力に抗してキャップ209を軸筒203に対して押圧することによって、ノックカム230及び回転子240をさらに前進させる。このとき、ノックカム230の第2カム部231及び回転子240の第3カム部241は、ガイド溝223内を前進する。また、ノックカム230及び回転子240は、第2カム面232及びカム受け面242の斜面を介して互いに反対方向の周方向の分力を受けているが、ノックカム230の第2カム部231又は回転子240の第3カム部241と、外カム220の第1カム部221の側面との当接によって、周方向の移動、すなわち回転が規制されている。
【0077】
ノックカム230及び回転子240がさらに前進すると、回転子240の第3カム部241の後端部が前後方向において外カム220の前端部、すなわち第1カム部221を越えて、第1カム面222と第2カム面232とが一致し、外カム220による回転子240の回転の規制は解除される(
図26(C))。それによって、後方に付勢された回転子240は第2カム面232及び第1カム面222から周方向の分力を受け、カム受け面242が第2カム面232及び第1カム面222を順にスライドしながら、回転子240が中心軸線回りに回転する(
図26(D))。
【0078】
回転子240の第3カム部241は、ノックカム230の第2カム面232及び外カム220の第1カム面222の順に沿って、ノックカム230の第2カム部231の側面に当接するまで移動する。すなわち、回転子240の回転は、第2当接面243がノックカム230の第1当接面233と当接することによって停止し、規制される。このとき、後方に付勢された回転子240の後退は、第3カム部241が第1カム部221と係合することによって規制される(
図26(E))。要するに、回転子240は外カム220と係合することによって、回転子240の前方に配置されたリフィル5の筆記部4が軸筒203から突出した状態が維持され、出没式筆記具200は筆記状態となる。またこのとき、軸筒203の第2係止部203cとキャップ209の被係止部209aとが嵌合して係止することによって、キャップ209が軸筒203の後端部に嵌合している。
【0079】
なお、スプリング6はリフィル5を介して回転子240を後方に付勢しているが、筆記状態においてその付勢力は、
図26(E)に示されるように外カム220によってのみ支持されている。したがって、筆記状態において、ノックカム230、すなわちキャップ209を後退させるような力は作用しない。
【0080】
図27は、
図1の出没式筆記具200の筆記状態から非筆記状態への切り替えを示す出没機構210の模式図である。
図27では、外カム220とノックカム230と回転子240との位置関係について、
図26と同様に示されている。
【0081】
図27(A)は、出没式筆記具200の筆記状態における出没機構210の模式図であり、
図26(E)と同一の模式図である。
図27(A)の状態から、キャップ209を把持して軸筒203の後端部から取り外すことによって、ノックカム230を後退させる。ノックカム230が後退すると、ノックカム230の第2カム部231の前端部が前後方向において回転子240の後端部、すなわち第3カム部241を越えて、第1カム面222と第2カム面232とが一致し、ノックカム230による回転子240の回転の規制は解除される(
図27(B))。それによって、後方に付勢された回転子240は第1カム面222から周方向の分力を受け、カム受け面242が第1カム面222及び第2カム面232を順にスライドしながら、回転子240が中心軸線回りにさらに回転する(
図27(C))。
【0082】
回転子240の第3カム部241は、外カム220の第1カム面222及びノックカム230の第2カム面232の順に沿って、外カム220の第1カム部221の側面に当接するまで移動する。それによって、回転子240の回転が、停止し、規制される(
図27(D)。この状態では、回転子240は外カム220と係合解除していることから、スプリング6の付勢力及びキャップ209を取り外す力によって回転子240及びノックカム230はガイド溝223内を後退する。回転子240の後退は、第3カム部241の後端部が外カム220の規制面224に係止することによって規制され、キャップ209は取り外される(
図27(E))。要するに、回転子240は外カム220と係合解除することによって、回転子240の前方に配置されたリフィル5の筆記部4が軸筒203内に没入した状態が維持され、出没式筆記具200は非筆記状態となる。
【0083】
以上より、出没式筆記具200は、キャップ209内への軸筒203の後端部の挿入に伴いノックカム230が回転子240を押圧して回転子240を前進させて回転させ、回転子240の回転がノックカム230との周方向における当接によって規制されて回転子240が外カム220と係合して筆記状態となるように構成されている。具体的には、出没式筆記具200は、キャップ209内への軸筒203の後端部の挿入に伴い第2カム面232がカム受け面242を押圧して回転子240を前進させて回転させ、回転子240の第3カム部241の第2当接面243がノックカム230の第2カム部231の第1当接面233と当接し、回転子240の回転が規制されるように構成されている。
【0084】
また、出没式筆記具200は、キャップ209内への軸筒203の後端部の挿入に伴い第2カム面232と第4カム面225とが協働し、第2カム部231がガイド溝223内に進入するようキャップ209を回転させるように構成されている。また、出没式筆記具200は、筆記状態において、キャップ209の軸筒103の後端部からの取り外しに伴いノックカム230による回転子240の回転の規制が解除されて回転子240がさらに回転し、回転子240が外カム220と係合解除して非筆記状態となるように構成されている。さらに、出没式筆記具200は、軸筒203の外面には第2係止部203cが形成され、キャップ209の内面には被係止部209aが形成され、キャップ209内への軸筒203の後端部の挿入に伴い第2係止部203cと被係止部209aとが係止したとき、回転子240がノックカム230と周方向において当接するように構成されている。
【0085】
上述した第3実施形態によれば、新規な出没機構210を備えた出没式筆記具200を提供することができる。それによって、意図しない筆記部の接触を防止し、汚染又は怪我を防止することができる。
【0086】
すなわち、
図27を参照しながら上述したように、出没式筆記具200では、キャップ209を軸筒203の後端部に嵌合させることによって非筆記状態から筆記状態に切り替えられ、キャップ209を軸筒203の後端部から取り外すことによって筆記状態から非筆記状態に切り替えられる。言い換えると、キャップ209が軸筒203の後端部に嵌合している間のみ筆記部4が軸筒203から突出した状態が維持される。したがって、筆記が終了し、キャップ209を軸筒203の前端部に嵌合させようとするときは、必ず筆記部4は軸筒203内に没入していることから、キャップ209の内部が筆記部4に当接してインクで汚れることがない。また、キャップ209を軸筒203の前端部に嵌合させようとするとき、誤って筆記部4に触れてしまい、インクを手で汚したり、筆記部4の尖った先端で怪我をしてしまったりすることがない。
【0087】
出没式筆記具200では、筆記をするために必ずキャップ209を軸筒203の後端部に嵌合させる必要があることから、キャップ209を外して机上に置いたまま筆記を行い、誤ってキャップ209を机上から落としたり、紛失したりすることも防止される。さらに、キャップ209が軸筒203の前端部に嵌合した非筆記状態において、軸筒203の後端部の貫通孔203aから内部の部品が外方に突出していることもなく、例えば、回転子240の後端部は軸筒203の後端部よりも前方に位置していることから、誤操作を防止することができ且つ意匠性に優れている。
【0088】
出没式筆記具1、出没式筆記具100及び出没式筆記具200はいずれも、外カム、ノックカム及び回転子を有しており、第1カム部、第2カム部及び第3カム部を有している。第1カム部、第2カム部及び第3カム部の各々は、4つ設けられていたが、2つ、3つ又は5つ以上設けられていてもよい。
【0089】
出没式筆記具1において、操作部7又はクリップ8の全部又は一部を当該筆記具による筆跡を消去する消去部材として構成してもよい。出没式筆記具100において、操作部107又はカバー部材108の全部又は一部を当該筆記具による筆跡を消去する消去部材として構成してもよい。出没式筆記具200において、キャップ209の全部又は一部(例えばノックカム230の嵌合部235)を当該筆記具による筆跡を消去する消去部材として構成してもよい。リフィル5は、熱変色性インクを収容してもよい。この場合、当該筆記具は熱変色性筆記具であり、消去部材である摩擦体によって擦過した際に生じる摩擦熱によって、筆記具の筆跡を熱変色可能である。なお、筆記体として、熱変色インクを収容したボールペン、熱変色芯を収容したシャープペンシル、鉛筆ホルダ等を使用することもできる。また、消しゴムで消去可能な消しゴム消去式インクを収容した筆記具としてもよい。
【0090】
ここで、熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば60℃)まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば-5℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクを言う。熱変色性インクを用いた筆記具では上記第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とすることを、ここでは「消去する」ということとする。したがって、描線が筆記された筆記面等に対して消去部としての摩擦体によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化、すなわち消去させる。なお、当然のことながら上記第2色は、無色以外の有色でもよい。
【符号の説明】
【0091】
200 出没式筆記具
203 軸筒
209 キャップ
210 出没機構
220 外カム
221 第1カム部
222 第1カム面
223 ガイド溝
224 規制面
225 第4カム面
230 ノックカム
231 第2カム部
232 第2カム面
233 第1当接面
234 係止面
235 嵌合部
240 回転子
241 第3カム部
242 カム受け面
243 第2当接面