(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180890
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20231214BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231214BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20231214BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231214BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20231214BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20231214BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20231214BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20231214BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20231214BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20231214BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20231214BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20231214BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20231214BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20231214BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/131
H01M4/485
H01M4/48
H01M10/0568
H01M4/58
H01M4/136
H01M4/38 Z
H01M4/134
H01G11/62
H01G11/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094564
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(71)【出願人】
【識別番号】515066771
【氏名又は名称】株式会社アイ・エレクトロライト
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】副田 和位
(72)【発明者】
【氏名】石川 正司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 卓矢
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA05
5E078AB06
5E078BA18
5E078BA26
5E078BA27
5E078BA47
5E078BA48
5E078BA52
5E078BA54
5E078BA55
5E078BA56
5E078BB33
5E078CA02
5E078CA06
5E078CA07
5E078CA08
5E078DA04
5E078DA06
5E078DA07
5E078FA02
5E078FA12
5E078FA13
5E078HA02
5E078HA03
5E078HA12
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AM09
5H029HJ02
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050DA09
5H050EA01
5H050EA23
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】 寿命特性が改善された、イオン液体を用いた非水電解質二次電池等の電気化学デバイスを提供する。
【解決手段】 電解質と前記電解質を溶解させる非水溶媒とからなる非水系電解液と、正極と、負極とを少なくとも備え、非水溶媒はイオン液体であり、正極および負極は、アルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な電極活物質と、フッ素樹脂系バインダーを含まないバインダー組成物とを含有する電極であって、正極および負極の少なくとも一方は、さらに中和分散剤を含んでおり、中和分散剤は、周期表第13族元素(B)を含む水溶性化合物(B′)と、アルギン酸、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデンプンまたはカラギナンのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、プルラン、グアガムおよびキサンタンガムからなる群より選ばれる少なくとも1種の水溶性高分子(C)と、を含有していることを特徴とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質と前記電解質を溶解させる非水溶媒とからなる非水系電解液と、正極と、負極とを少なくとも備える電気化学デバイスであって、
前記非水溶媒は、イオン液体であり、
前記正極および前記負極は、アルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な電極活物質(A)と、バインダー組成物とを含有する電気化学デバイス用電極であって、
前記バインダー組成物は、フッ素樹脂系バインダーを含んでおらず、
前記正極および前記負極の少なくとも一方は、さらに中和分散剤を含んでおり、
前記中和分散剤は、
周期表第13族元素(B)を含む水溶性化合物(B′)と、
アルギン酸、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデンプンまたはカラギナンのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、プルラン、グアガムおよびキサンタンガムからなる群より選ばれる少なくとも1種の水溶性高分子(C)と、を含有していることを特徴とする電気化学デバイス。
【請求項2】
前記電解質がリチウム塩であり、前記リチウム塩は、前記イオン液体に対して1.2mol/kg以上含有されている、請求項1記載の電気化学デバイス。
【請求項3】
前記イオン液体は、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンを含む、請求項1記載の電気化学デバイス。
【請求項4】
前記周期表第13族元素(B)がホウ素を含んでいる、請求項1記載の電気化学デバイス。
【請求項5】
前記正極が、前記電極活物質(A)として、LiCoO2、LiFePO4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiMnO4、および組成がLi1+aNi1-b-c-dCobMncMdO2で表される複合酸化物から選ばれる化合物を含有する、請求項1記載の電気化学デバイス:
ただしMは、V,Mg,Al,Ti,Mo,Nb,Zr,およびWからなる群より選ばれる1以上の元素であり、
-0.05≦a≦0.50
0<b≦0.35
0≦c≦0.35
0≦d≦0.1
0<b+c+d≦0.7である。
【請求項6】
前記負極が、前記電極活物質(A)として、Li4+xTi5O12およびLi2+xTi3O7で表される化合物、ニオブ化合物、混合ニオブ化合物、ケイ素系無機化合物および遷移金属酸化物から選ばれる化合物を含有する、請求項1記載の電気化学デバイス:
xは0≦x≦3を満たす実数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池等の電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機器、電気自動車等に搭載される電気化学デバイスとして、例えば、電気化学キャパシタ、非電解質二次電池等の蓄電デバイスが開発されている。これらの中でも、リチウムイオン二次電池は、機器の小型化や軽量化を可能にし、充放電効率がよく、高いエネルギー密度を有しているため、例えば、携帯機器やノート型PC、家電機器、さらにはハイブリッド自動車や電気自動車の電源として使用されている。また、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーシステムと組み合わせ、発電した電力の貯蔵用蓄電デバイスとして新たに注目されている。
【0003】
従来、リチウム二次電池の非水系電解液に使用される非水溶媒としては、リチウム塩を溶解しやすく、かつ電気分解しにくい極性非プロトン性の有機溶媒が使用されているが、これらは引火点が非常に低いために、電池の安全性について懸念があった。特に近年では電子機器の小型・軽量化や電動自動車の開発に伴って、大容量、高出力のリチウム二次電池の開発が急務となり、安全性の問題はますます重要な解決課題となっている。このため、リチウム二次電池の非水系電解液に難燃性の化合物としてイオン液体を使用することが種々検討されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5930290号
【特許文献2】特許第5726707号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまでのイオン液体電池は、電解液をイオン液体に変更したのみの検討が大半であった。特許文献1において開示された技術は、活物質にシリコンと負極バインダーにアルギン酸を用いて耐久性を上げている。しかし、サイクル特性としては、100サイクル程度までの確認で良好であるとされているに過ぎず、また、実電池仕様であるフルセルでの評価についての検討はされていなかった。また、特許文献2においては、添加剤を用いることで耐久性を上げる技術が開示されているが、正極のバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いており、イオン液体電池における正極極板側の検討は不十分であった。これらのように、電極の構成は、従来の有機系電解液で使用されてきたものを転用するに過ぎなかったり、一方の電極主材を変更するだけの検討に留まっており、実電池としてのイオン液体電池の特性は十分に得ることは困難であった。
【0006】
本発明は、前記問題点に鑑みなされたものであって。その目的は、寿命特性が改善された、イオン液体を用いた非水電解質二次電池等の電気化学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、正極極板と負極極板の両方について、電解質となるイオン液体に対する親和性向上をもたらす技術を鋭意検討し、本発明を完成するに至った。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の電気化学デバイスは、電解質と前記電解質を溶解させる非水溶媒とからなる非水系電解液と、正極と、負極とを少なくとも備える電気化学デバイスであって、
前記非水溶媒は、イオン液体であり、
前記正極および前記負極は、アルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な電極活物質(A)と、バインダー組成物とを含有する電気化学デバイス用電極であって、
前記バインダー組成物は、フッ素樹脂系バインダーを含んでおらず、
前記正極および前記負極の少なくとも一方は、さらに中和分散剤を含んでおり、
前記中和分散剤は、
周期表第13族元素(B)を含む水溶性化合物(B′)と、
アルギン酸、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデンプンまたはカラギナンのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、プルラン、グアガムおよびキサンタンガムからなる群より選ばれる少なくとも1種の水溶性高分子(C)と、を含有していることを特徴とする。
【0009】
本発明の電気化学デバイスにおいて、前記電解質がリチウム塩であり、前記リチウム塩は、前記イオン液体に対して1.2mol/kg以上含有されていることが好ましい。
【0010】
本発明の電気化学デバイスにおいて、前記イオン液体は、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(以下、FSIアニオンと表記する場合がある)を含むことが好ましい。
【0011】
本発明の電気化学デバイスにおいて、前記周期表第13族元素(B)がホウ素を含んでいることが好ましい。
【0012】
本発明の電気化学デバイスにおいて、前記正極が、前記電極活物質(A)として、LiCoO2、LiFePO4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiMnO4、および組成がLi1+aNi1-b-c-dCobMncMdO2で表される複合酸化物から選ばれる化合物を含有することが好ましい。ここでMは、V,Mg,Al,Ti,Mo,Nb,Zr,およびWからなる群より選ばれる1以上の元素であり、
-0.05≦a≦0.50
0<b≦0.35
0≦c≦0.35
0≦d≦0.1
0<b+c+d≦0.7である。
【0013】
本発明の電気化学デバイスにおいて、前記負極が、前記電極活物質(A)として、Li4+xTi5O12およびLi2+xTi3O7で表される化合物、ニオブ化合物、混合ニオブ化合物、ケイ素系無機化合物および遷移金属酸化物から選ばれる化合物を含有することが好ましい。ここでxは0≦x≦3を満たす実数である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、寿命特性が改善された、イオン液体を用いた非水電解質二次電池等の電気化学デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更、実施することができる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「質量」と「重量」、「質量%」と「重量%」は同義語として扱う。
【0016】
本発明において、電気化学デバイスは、イオン液体を用いた非水系電解液と、電気化学デバイス用電極である正極および負極とを少なくとも備え、電気化学デバイス用電極は、アルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な電極活物質(A)と、フッ素樹脂系バインダーを含まないバインダー組成物とを含有する。そして、正極および負極の少なくとも一方は中和分散剤を含んでいる。前記中和分散剤は、周期表第13族元素(B)を含む水溶性化合物と水溶性高分子(C)とを含有している。前記周期表第13族元素(B)を含む水溶性化合物は中和剤として作用し、水溶性高分子(C)は分散剤として作用する。
【0017】
<アルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な電極活物質(A)>
アルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な電極活物質(A)(以下、「電極活物質(A)」という)としては、カルコゲン、カルコゲン化合物、シリコン、亜鉛、ビスマス、黒鉛、難黒鉛化炭素、活性炭、および導電性高分子化合物等を用いることができる。カルコゲンは、周期表の16族元素を意味しており、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)が含まれる。例えば、硫黄/炭素複合化合物の場合、アルカリ金属を吸蔵・放出するのはカルコゲン単体である硫黄であり、炭素は導電性確保機能を担っている。カルコゲン化合物としては、TiS2、MoS2、NbSe3等の金属カルコゲン化物、硫黄、硫黄-セレン複合体、硫黄または硫黄-セレン複合体と炭素との複合体、硫黄または硫黄-セレン複合体と変性高分子との複合体等があげられる。前記炭素としては多孔質炭素を用いることが好ましく、鋳型炭素、活性炭等があげられる。また、前記変性高分子としては、変性ポリアクリロニトリル等があげられる。導電性高分子化合物としては、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリピロール、ポリアニリン等があげられる。
【0018】
アルカリ金属イオンがリチウムイオンである場合、電極活物質(A)は、正極の場合、LiCoO2、LiFePO4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiMnO4、および組成がLi1+aNi1-b-c-dCobMncMdO2で表される複合酸化物から選ばれる材料を用いることができる。前記においては、構成する元素の比率が、例示した化学式に記載した比率から多少ずれていても、使用することができる。ここで、Mは、V,Mg,Al,Ti,Mo,Nb,Zr,およびWからなる群より選ばれる1以上の元素であり、
-0.05≦a≦0.50
0<b≦0.35
0≦c≦0.35
0≦d≦0.1
0<b+c+d≦0.7
であることが好ましい。
【0019】
負極の場合、リチウムチタン酸化物であるLi4+xTi5O12およびLi2+xTi3O7で表される化合物から選ばれる材料を用いることができる。ここで、xは0≦x≦3を満たす実数である。また、ニオブ化合物、混合ニオブ化合物、ケイ素系無機化合物、および、CuO、Cu2O、MnO2、MoO3、V2O5、CrO3、MoO3、Fe2O3、Ni2O3、CoO3等の遷移金属酸化物を用いることができる。ニオブ化合物としては、疑似六方晶型Nb2O5、斜方晶系Nb2O5等があげられる。混合ニオブ化合物としては、TiNb2O7、[M1]e[M2]1-e[M3]fNb12-fO33-g等があげられる。ここで、M1は、Mg,Ti,Zr,V,Nb,Ta,Mo,W,Mn,Fe,Co,Ni,CuおよびInからなる群より選ばれる元素、M2は、MoおよびWからなる群より選ばれる元素、M3は、Mg,Ti,Zr,V,Nb,Ta,Mo,W,Mn,Fe,Co,Ni,CuおよびInからなる群より選ばれる元素であり、
0≦e≦0.5、0≦f≦2、0≦g≦1.5である。
【0020】
ケイ素系無機化合物としては、SiOz(0.5≦z≦1.6)、LiSiO2、MqSiOw、(M=Na、Mg、Caであり0.1≦q≦4、0<w≦4)等のケイ素酸化物、もしくは、Si、SiO2、Li2Si2O5、Li2SiO3およびLi4SiO4から選ばれるいずれか2つ以上を含む平衡相からなるケイ素酸化物を例示することができる。
【0021】
ここで、SiOzについてzが0.5以上であれば、サイクル特性が良好となり体積膨張を緩和できて、微粉化も抑制できる。zが1.6以下であれば、ケイ素酸化物の抵抗を低く抑えることができる。サイクル特性の観点では、z=1の時がもっとも良好なサイクル特性を示す。このようなケイ素酸化物は、熱をかけず製造された単相型、もしくは製造時に熱をかけて不均化させ、非晶質のSiO2マトリックスと、そのマトリックス中に分散する微結晶または非晶質のケイ素に分離された分相型のいずれも用いることができる。また、マトリックス中に微量の不純物元素を含んでいても問題ない。
【0022】
ケイ素系無機化合物は、平均粒径(D50)は0.1~20μmが好ましく、1~15μmであることがより好ましい。ケイ素系無機化合物がこのような粒径範囲を有する場合、その微粉化を抑制することが容易となり、かつ比表面積が十分であるため、出力特性の確保に有利である。これらは導電性を高める目的で、炭素材と複合化もしくは炭素材に被覆されていてもよい。複合方法はメカニカルアロイング法、炭化処理、表面の化学蒸着などである。
【0023】
SiOzの粒子は、従来公知の方法により作製できる。例えば、SiOzの製造法の多くは一般的に、加熱炉でSiOzガスを発生させ、それを析出基体に析出させて塊状のSiOzとする。これを粉砕して粒子を製造している。
【0024】
リチウムプレドープの方法としては、リチウム源を直接接触する直接プレドープ法や、電気化学的方法(電気化学プレドープ法)が代表的であるが、その他の方法を利用してもよい。
【0025】
電極活物質(A)は、前記の材料のうちの1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。2種類以上を併用する場合、正極には、前記正極に用いることができる材料から選ばれる少なくとも2種類を、負極には、前記負極に用いることができる材料から選ばれる少なくとも2種類を組み合わせて用いることができる。電極活物質(A)を構成する材料の混合比率は任意であってよい。複数種類のカルコゲン電極活物質(A)を組み合わせて用いる場合、酸化物同士、硫化物同士のように、同種類のカルコゲン化合物同士での組み合わせとすることが好ましい。例えば、酸化物とその他のカルコゲン化合物とでは、動作する電位範囲に大きな解離がある。具体的には、酸化物はLi基準電位に対して約4V領域で反応するが、硫化物は2Vと、両者間には差がある。両者が混在すると、電池の起電力が2つ混在することとなり、安定した電池作動が困難となる。そのため、このような電気化学的な齟齬の発生を回避するために、同種類のカルコゲン間での組み合わせとすることが好ましい。
【0026】
また、複合酸化物(X)にLi含有金属酸化物(Y)を混合して電極活物質(A)として用いることもできる。当該複合酸化物(X)としては、例えば、CuO、Cu2O、MnO2、MoO3、V2O5、CrO3、MoO3、Fe2O3、Ni2O3、CoO3等の遷移金属酸化物があげられる。この場合、複合酸化物(X)にLi含有金属酸化物(Y)の総量に対するLi含有金属酸化物(Y)の混合割合は、通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上、また、通常90重量%以下、好ましくは80重量%以下の範囲である。混合割合が前記範囲を外れると、添加量が少ない方の金属酸化物の添加効果が現れ難い傾向がある。複合酸化物(X)とLi含有金属酸化物(Y)との混合に用いる装置としては、特に制限はないが、例えば、回転型混合機の場合:円筒型混合機、双子円筒型混合機、二重円錐型混合機、正立方型混合機、鍬形混合機、固定型混合機の場合:螺旋型混合機、リボン型混合機、Muller型混合機、HelicalFlight型混合機、Pugmill型混合機、流動化型混合機等を用いることができる。
【0027】
電極活物質(A)は粒形であることが好ましく、その場合、粒子径は、400nm~40μm程度であることが好ましく、200nm~20μmの範囲がより好ましい。粒子径が400nm未満であると、スラリーの分散が困難となりやすく、粒子径が40μmを超えると、極板の割れが発生しやすい。ここで、粒子径とは、一次粒子径もしくは二次粒子径のことを指す。また、粒形以外でも、例えば鱗片状等の形状であることが好ましい。その場合、粒子径は縦または横の短いほうのサイズが40μm以下であることが好ましい。
【0028】
電極活物質(A)として、強いアルカリ性を示す材料を用いる場合には、水系のスラリー作製において、さらに後述の中和分散剤を添加する。中和分散剤を用いることにより、従来の鉄系やマンガン系の電極材料と比べて水との反応性が高く、有機溶媒およびフッ素樹脂系バインダーを用いてスラリーを作製せざるを得なかったより高容量な三元型の正極材や前記高ニッケル系活物質を含有するニッケル含有型の電極材料についても、水系でのスラリー作製を行うことが可能となる。これらの電極材料は、今後、使用量が増加すると見込まれているため、水系のスラリーで電極作製を行うことができることは待ち望まれていたものである。上述の電極活物質(A)のうち、シリコン、亜鉛、ビスマス、黒鉛、難黒鉛化炭素、活性炭、および導電性高分子化合物等は、中和を行うことなく水系で製造することができる。
【0029】
また、電極活物質(A)に対して少量のフッ素、ホウ素、アルミニウム、クロム、ジルコニウム、モリブデン、鉄等の元素をドープしたものや、電極活物質(A)の粒子表面を、炭素、MgO、Al2O3、SiO2等で表面処理したものも使用できる。
【0030】
また、前記電極活物質(A)は、表層部に炭素材を含んでもよい。それにより電極活物質(A)の導電性向上効果を得ることができ、このような電極活物質(A)を正極材あるいは負極材として含むリチウムイオン電池の電池特性を向上させることができる。前記炭素材の平均厚さは、3nm以上5μm以下であることが好ましい。被覆する炭素材の平均厚さが3nm以上であれば導電性向上効果が発揮される。被覆する炭素材の平均厚さが5μm以下であれば電極の密度低下を抑制することができ、電池量の低下を抑制することができる。
【0031】
以上、電極活物質(A)として、リチウム複合酸化物を例示したが、本発明においてはこれに限られるものではなく、適用する電気化学デバイスの種類に応じて適宜変更することが可能である。例えばナトリウム二次電池である場合は、リチウムをナトリウムに,カリウム二次電池、カルシウム二次電池、マグネシウム二次電池である場合は、それぞれカリウム、カルシウム、マグネシウムの各複合酸化物を用いればよい。
【0032】
<周期表第13族元素(B)を含む水溶性化合物>
前記中和分散剤に含有される周期表第13族元素(B)としては、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムが挙げられ、この中でも、ホウ素およびアルミニウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、周期表第13族元素(B)を含む水溶性化合物、すなわち、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびタリウムから選ばれる少なくとも1種を含む水溶性化合物を、以下、「周期表第13族元素含有化合物(B′)」(第13族元素含有化合物(B′)ともいう)という。第13族元素含有化合物(B′)としては、酸化物、硫化物、無機酸、および無機酸塩などが挙げられる。これらの中でも、ホウ素、アルミニウムを含む化合物が入手の簡便さから好ましく用いることができ、ホウ酸、ホウ酸塩、またはこれらの混合物から選択されるホウ素化合物、アルミン酸塩がより好ましい。第13族元素含有化合物(B′)は、中和剤として作用する。
【0033】
ホウ酸、ホウ酸塩、またはこれらの混合物から選択されるホウ素化合物は、工業的に入手し得るものであれば特に限定されない。ホウ素化合物の中でも、ホウ酸(H3BO3)、ホウ砂、五ホウ酸ナトリウムまたはこれらの混合物が特に好ましい。ホウ素化合物がホウ酸とホウ酸のナトリウム塩との混合物である場合には、ホウ素(B)とナトリウム(Na)とのモル比Na/Bが0より大きく0.3以下であることが好ましい。この範囲であれば、水溶液にした際のpHの値を7以下にすることができ、中和分散機能を発揮できる。また、これらホウ酸とホウ酸のナトリウム塩との混合物は、ポリホウ酸イオンを含んだ状態のものでもよい。ポリホウ酸イオンを含んだ状態にするには、前記混合物を熱水へ完全溶解させることで得られる。また、前記完全溶解した水溶液を蒸発乾固することで、粉末としても得られる。
【0034】
上述したようなホウ素を含む化合物は、以下に述べる水溶性高分子(C)と併用した際に複合酸化物を含んだスラリーの粘度安定化とpHの安定化に優れた特性を示すため好ましい。
【0035】
本発明における第13族元素含有化合物(B′)と電極活物質(A)との混合割合は、電極活物質(A)に対して第13族元素含有化合物(B′)の含有量が、0.01重量%以上、好ましくは0.02重量%以上であり、また、10重量%以下、好ましくは4重量%以下である。第13族元素含有化合物(B′)の含有量が少なすぎると、スラリーのpHと粘度安定性が不十分となる。前記含有量が多すぎると、作製した電極の抵抗が高くなり、電池の内部抵抗が大きくなりすぎる。結果電池容量が低下する傾向がある。
【0036】
電極合剤中のホウ素の含有量は、0.001重量%以上5重量%以下の範囲内にあることが好ましく、また、第13族元素含有化合物(B′)の含有量を100重量部としたとき、そのうちホウ素を含む水溶性化合物は51重量部から100重量部の範囲で含まれていることが好ましい。
【0037】
<水溶性高分子(C)>
前記中和分散剤に含有される水溶性高分子(C)は、水に完全に溶解する高分子が好ましいが、非水溶性高分子であっても、親水性成分を導入して一部を水へ可溶化させることにより、水への分散性を付与して用いることができる。すなわち、水溶性高分子(C)は、分散剤として作用する。
【0038】
水溶性高分子(C)は、イオン結合可能なカチオン、もしくはアニオンを含む官能基、および/または水素結合ドナー(水素供与原子)、もしくはアクセプター(水素受容原子)を含む官能基を有することが好ましい。もしくは、化学修飾によってこれらの官能基を付与できる高分子であることが好ましい。具体的には、カルボキシル基、水酸基、カルボニル基、エーテル基、エステル基などの含酸素官能基、スルホ基、スルホニル基、スルフィニル基などの含硫黄官能基、アミノ基やアミド基、イミド基などの含窒素官能基、リン酸基などの含リン官能基、もしくは電気陰性度の高いハロゲンなどを含む置換基が挙げられる。この中でも、カルボキシル基、水酸基、カルボニル基、アミノ基やアミド基、イミド基を有するものが好ましい。具体的には、水溶性増粘多糖類、アクリル樹脂、ビニルアルコール樹脂、ポリエーテルなどが挙げられる。
【0039】
これらの中でも、水溶性増粘多糖類が、水溶性と増粘性を適度に有しており、長期的なスラリーの安定性を発現することができ好ましい。また、電極塗工面の平滑性に優れ、比較的低温度での乾燥が可能であり、さらに電池の高容量化とサイクル特性の向上とを両立させることができるため好ましい。
【0040】
多糖類とは、ポリヒドロキシアルデヒドまたはポリヒドロキシケトンとして表される1種、または2種以上の単糖がグリコシド結合により複数重合してなる化合物である。水溶性増粘多糖類の具体的な化合物としては、アルギン酸、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルデンプンおよびカラギナン等の化合物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩や、プルラン、グアガム、キサンタンガム、等が挙げられる。この中でもカルボキシメチルセルロース、アルギン酸およびカラギナンのいずれかのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、が分散性に優れる観点からより好ましい。
【0041】
水溶性高分子(C)の粘度は、1重量%の水溶液とした場合、250cP~78000cPであることが好ましい。この範囲であれば水への溶解性が容易に確保でき、スラリーの粘度安定性が得られる。粘度が小さすぎると分散状態の長期間保持が難しくなり、活物質の沈降が短時間で発生してしまう。また、粘度が大きすぎると、スラリーの流動性を高めるために多量の水が必要となり、スラリーの固形分濃度を下げる要因となる。結果として乾燥時間の長期化が発生し、生産時の塗布工程のタクトタイムが長期化する原因となる。また、カルボキシメチルセルロースについては、エーテル化度については特に限定はないが、0.4~1.5のものが好ましく用いられる。アルギン酸については、マンヌロン酸とグルロン酸の比率(M/G比と呼ばれる)については特に限定はないが、0.5~1.5のものが好ましく用いられる。
【0042】
本発明における水溶性高分子の含有量は特に制限されないが、塗布を良好に行うためには、電極合剤に対する割合として0.25重量%~8重量%以内に収めることが好ましい。本発明における水溶性高分子(C)と電極活物質(A)との混合割合は、電極活物質(A)に対して水溶性高分子(C)の含有量が0.3重量%以上、好ましくは0.5重量%以上であり、また7重量%以下、好ましくは5重量%以下である。水溶性高分子(C)の割合が多すぎると、活物質となる複合酸化物が減少することにより電池容量が低下する傾向がある。前記割合が少なすぎると、分散性が低下し、スラリーが沈降し長期保存特性が得られ難くなる。
【0043】
周期表第13族元素含有化合物(B′)と水溶性高分子(C)との合計が電極中に2重量%含まれる場合、周期表第13族元素含有化合物(B′)は、0.2重量%以上1.6重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上1.5重量%以下であることがより好ましい。
【0044】
なお、pHの安定化効果が不足する場合や、増粘性によるスラリーの安定性が不足する場合には、本発明における中和分散剤は、中和剤(補助)および分散剤(補助)の少なくとも一方をさらに含んでもよい。中和剤(補助)としては、例えば、リン酸二ナトリウム(NaH2PO4)、Alg-H等が挙げられる。分散剤(補助)としては、例えば、Alg-H、メチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、カラギナン、PVP(ポリビニルピロリドン)、PVA(ポリビニルアルコール)、PAA(ポリアクリル酸ナトリウム)等が挙げられる。中和剤(補助)および/または分散剤(補助)としては、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。中和剤(補助)は、中和剤の含有量を超えない範囲で、また、分散剤(補助)は、分散剤の含有量を超えない範囲で、添加するようにすることが好ましい。
【0045】
<バインダー組成物>
本発明の電気化学デバイスを構成する電極(正極、負極)には、フッ素樹脂系バインダーを含まない電極用バインダー組成物が含有されている。フッ素樹脂系バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やPVDF誘導体等があげられ、これらを含まないことが重要である。バインダー組成物の含有量は特に制限されないが、良好な極板を得るには、電極合剤に対する割合として0.2重量%~5重量%以内に収めることが好ましい。バインダー組成物の含有量が多すぎると、極板抵抗値が上昇して電池特性が低下する。また、バインダー組成物の含有量が少なすぎると極板強度の低下につながる。バインダー組成物には、水溶性高分子(C)をあらかじめ混合して含んでいてもよいし、周期表第13族元素含有化合物(B′)をあらかじめ混合して含んでいてもよい。混合する際の水溶性高分子(C)および周期表第13族元素含有化合物(B′)の種類や組み合わせとしては特に制限はないが、これらをバインダー組成物と混合したときに相溶性が高い種類、または組み合わせが好ましい。
【0046】
混合する際、バインダー組成物と水溶性高分子(C)と周期表第13族元素含有化合物(B′)との混合割合は、バインダー組成物に対する水溶性高分子(C)と周期表第13族元素含有化合物(B′)との合計含有量が10重量%以上、好ましくは25重量%以上である。また、800重量%以下、好ましくは500重量%以下である。前記含有量が少なすぎると、分散性が不十分となり、スラリーの長期保存性が保ちにくくなり、また極板抵抗値が上昇して電池特性が低下するおそれがある。また、前記含有量が多すぎると、極板強度の低下につながる。
【0047】
また、バインダー組成物にはエマルジョンや高分子水分散体を用いることができる。エマルジョンとしては、合成樹脂エマルジョンである「ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョン」、「共役ジエン系重合体エマルジョン」、高分子水分散体としてはシリコン変性ラテックスなどの電池用途に開発された樹脂系のものを好ましく用いることができる。
【0048】
このようなエマルジョンや高分子水分散体を有するバインダー組成物と、前述の水溶性高分子(C)と周期表第13族元素含有化合物(B′)とを組み合わせて用いることにより、極板の強度を高くすることができる。極板の強度が高いと、長期使用にわたる耐久性や充放電による膨張収縮に対する耐久性が高まり、デバイスの寿命を長くすることができる。また、接着強度が高い極板は電池を捲回して製造する際に、集電体から活物質層が剥離するという課題も起こらないと推察される。
【0049】
「ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョン」とは、アクリル酸モノマーおよび他の反応性モノマー等を水中で乳化重合することによって得られる共重合体樹脂のエマルジョンである。前記他の反応性モノマーとしては、スチレンモノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、クロトンニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-シアノアクリレート、シアン化ビニリデン、フマロニトリル等のα、β-不飽和ニトリルモノマー等の、ニトリル基を含むエチレン性不飽和モノマー;メタアクリル酸、アクリル酸等の単官能モノマー、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、3-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、4-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、メチル-3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、エキソ-3,6-エポキシ-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、ハイミック酸等の、カルボン酸を含むエチレン性不飽和モノマー;前記カルボン酸を含むエチレン性不飽和モノマーの無水物;前記無水物のケン化物;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、イソプロピルビニルケトン、イソブチルビニルケトン、t-ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン等の、ケトン基を含むエチレン性不飽和モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、トリメチル酢酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等の、有機酸ビニルエステル基を含むエチレン性不飽和モノマー;等を挙げることができる。他の反応性モノマーは、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
また、ポリアクリル酸共重合体樹脂の末端部を、特定の官能基によって置換することにより、特定のモノマー等と反応することが可能な変性体とすることもできる。変性体としては、エポキシ変性体、カルボキシ変性体、イソシアネート変性体、水素変性体等を挙げることができる。
【0051】
「共役ジエン系重合体エマルジョン」としては、スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョンを好適に用いることができる。スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョンとは、スチレンとブタジエンとの共重合体の粒子であり、スチレンに由来する共重合成分と、ブタジエンに由来する共重合成分とを有する。スチレンに由来する共重合成分の含有量は、スチレンブタジエン共重合体を構成する共重合成分全体を基準として、50~80モル%であることが好ましい。ブタジエンに由来する共重合成分の含有量は、前記共重合成分全体を基準として、20~50モル%であることが好ましい。
【0052】
スチレンブタジエン共重合体は、スチレンに由来する共重合成分およびブタジエンに由来する共重合成分以外の他の反応性モノマーを有していてもよい。他の反応性モノマーとしては、例えば、ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョンの成分として前述したものを用いることができる。
【0053】
スチレンブタジエン共重合体が前記他の反応性モノマーを有する場合、他の反応性モノマーの含有量は、スチレンブタジエン共重合体を構成する共重合成分全体を基準として、1~30モル%であることが好ましい。スチレンブタジエン共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。また、スチレンブタジエン共重合体は、カルボキシ変性されていてもよい。
【0054】
スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョンとは、スチレンのモノマーおよびブタジエンのモノマー、並びに、必要に応じて他の反応性モノマーを水中で乳化重合することによって得られるゴム粒子のエマルジョンであり、ラテックスまたは合成ゴムラテックスと称される場合もある。
【0055】
なお、スチレンブタジエン共重合体ゴムの代わりに、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)等を用いることもできる。
【0056】
ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョンおよび/またはスチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョンの含有量(固形分濃度)としては、0.1~80質量%であることが好ましく、0.5~65質量%であることがより好ましい。
【0057】
バインダー組成物の固形分濃度は、0.5~95質量%であることが好ましく、1.0~85質量%であることがより好ましい。前記固形分濃度とは、バインダー組成物中の質量に対するポリアクリル酸共重合体樹脂および共役ジエン系重合体の合計の質量割合である。
【0058】
本発明においては、従来から溶剤系で用いられているフッ素樹脂系バインダーを用いずに、水系でスラリーを作製することが重要である。フッ素を含有する高分子(フッ素樹脂)は、長時間イオン液体と接触すると、膨潤する。バインダーとして用いられるフッ素樹脂が膨潤すると、電極が膨れるので形状が変わったり、箔と活物質との接点を失ったりする。その結果、電極の抵抗が上昇し、これが電池内部抵抗上昇につながり、電池の寿命が縮まる。膨潤したフッ素樹脂はクッションの役割になり、電池の構成圧を下げることになるので、電解液が潤沢に存在する場所とそうではない場所との間でフッ素樹脂の膨潤率に差が生じると、電池内部で構成圧が強くかかる部分とかかっていない部分とが発生することになる。電池においては、構成圧が十分にかかっているところは内部抵抗が低くなる。したがって、膨潤によって構成圧が下がり抵抗が上がった部分からは電流が逃げ、その逃げ先は構成圧の高い部分になる。そうすると、構成圧の高い部分に電流の過大集中が起きて劣化促進につながる。このように電極内部で劣化率のバラつきが発生することで、サイクル寿命が悪くなる。そのため、イオン液体電池において、従来の溶剤系(PVDFバインダーを使用)で作製された酸化物系の負極を用いると、電池特性が良好ではなかった。酸化物単独負極でも、それと黒鉛や難黒鉛化炭素などの炭素系負極材を併用したものなどであっても、溶剤系では、いずれの場合でもサイクル寿命が短かった。
【0059】
<スラリー>
本発明における電気化学デバイス用電極を作製するためのスラリーは、少なくとも、電極活物質(A)と、バインダー組成物と、水とを含有している。そして、正極および負極を形成するための少なくとも一方のスラリーは、中和分散剤として、第13族元素含有化合物(B′)と、水溶性高分子(C)とを含有している。
【0060】
中和分散剤を含有するスラリーは、周期表第13族元素(B)と水溶性高分子(C)を含むことで、水系であっても活物質の分解が抑制され、pH上昇も抑えることができる。このスラリーは、長期的なpH上昇抑制が可能であり、粘度の長期安定性が実現できる。
【0061】
正極に用いる電極活物質(正極材)は、本来は水への投入は避けるべきとされており、水系のスラリーによる製造工程は、水と接してもpH変化が起こりにくい材料のみで検討されてきた。しかし、本発明の電気化学デバイス用電極においては、電極を作製するためのスラリーを水系にしても、例えばニッケル系材料等の加水分解を受けやすい正極材にも適用可能となった。このスラリーを集電箔等の集電体に塗布した場合には、集電体を腐食させることなく、塗布電極を製造することができる。このため、集電体の耐食性を付与するための処理は不要となる。また、水系であるため、スラリーの乾燥時には水蒸気しか排出されず、安全性、環境への影響の観点からも好ましい。また、設備清掃も水洗いのみで可能であり、簡便である。
【0062】
スラリーの固形分濃度は、65質量%以上100質量%未満であることが好ましい。この範囲外だと水が多すぎて乾燥に時間が掛かったり、粘度が低下しすぎてスラリーが箔の上にとどまらず、塗布量の安定性に懸念が出る。固形分が高すぎても塗布量が安定しない。
【0063】
中和分散剤を含有するスラリーの調製は、例えば以下の2種類の方法で行うことができる。なお、中和分散剤を含有しないスラリーは、中和分散剤の添加を行わずに同様の方法で調製することができる。
[方法1]
電極活物質(A)とホウ素等の第13族元素(B)を含む水溶性化合物(B′)と水溶性高分子(C)とを粉体で混合し、水を加えて混錬する。最後にバインダー組成物を添加し混錬する。
[方法2]
あらかじめ、ホウ素等の第13族元素(B)を含む水溶性化合物(B′)および水溶性高分子(C)を所定の質量%含んだ水溶液を調整する。ついで、電極活物質(A)と前記水溶液とを混合、混錬し、その後、粘度調整のために水を加える。最後にバインダー組成物を添加し混錬する。
【0064】
これらの方法であれば、第13族元素(B)を水溶性高分子(C)の膜中に均一に分散させることができる。また、これらの方法であれば、スラリーの固形分を高めることができ、固形分濃度を80%以上とすることも可能である。固形分濃度が高ければ、pHや分散の安定性も高まる傾向があり、好ましい。また、乾燥時間が速まるので、それにより工程タクトタイムが短縮され、乾燥熱量も低減でき、結果、製造コスト低減につながるという利点もある。
【0065】
上記において、混合や混練の方法は、例えば、各種の粉砕機、混合器、攪拌機等を用いる混合、超音波による分散等の方法を用いることができる。具体的には、ミキサー、高速回転ミキサー、シェアミキサー、ブレンダー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ボールミル等のせん断力或いは衝突による処理方法;ワーリングブレンダー、フラッシュミキサー、タービュライザーなどを用いた方法を挙げることができる。これらの方法は、適宜組み合わせて用いることもできる。
【0066】
スラリーは、導電性確保のために導電助剤を含有していてもよい。導電助剤を加えれば電池の内部抵抗低減につながる。導電助剤としては、特に制限はなく、金属、炭素材料、導電性高分子、導電性ガラスなどが挙げられる。このうち、炭素材料が好ましく、例えばカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、フラーレン、グラフェン、酸化グラフェン等のナノカーボン;アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャネルブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、バルカン、グラフェン、気相成長カーボンファイバー(VGCF)、黒鉛等が挙げられる。より好ましくは、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、VGCF、カーボンナノチューブ、グラフェンである。カーボンナノチューブは、単層、二層、多層のいずれのカーボンナノチューブでもよい。グラフェンは、単層、多層のいずれのグラフェンでもよい。導電助剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、黒鉛は、作動電位の範囲がリチウム基準で0.15Vを下回ることがない活物質の場合に使用することができる。導電助剤は、親水性向上のために、酸処理またはアルカリ処理など行うことで、酸素含有官能基が導入されたものであってもよい。
【0067】
導電助剤のメジアン径(「D50」または「50%粒子径」とも呼ばれる)は、10nm~1μmの範囲にあることが好ましい。この範囲であると、導電助剤をスラリー中に安定かつ均一に分散できる。前記メジアン径は、かさ密度測定器MT-3300(マイクロトラック社製)を用いたレーザー回折法によって粒子径分布を測定し、算出することができる。
【0068】
なお、電極活物質層中には、電極の導電性を向上させるために、導電材を含有させてもよい。導電材としては、活物質に適量混合して導電性を付与できるものであれば特に制限はないが、通常、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などの炭素粉末、各種の金属の繊維、粉末、箔などが挙げられる。さらに、黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、活性炭などの、酸化物でない、リチウムイオン電池で一般的な活物質を併用してもよい。
【0069】
スラリーに用いられる水は特に限定されず、一般的に用いられる水を使用することができる。例えば、水道水、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等を用いることができる。なかでもイオン交換水、純水、超純水が好ましい。
【0070】
前記水には、水と均一に混和可能な有機溶媒(親水性有機溶媒)が含まれていてもよい。親水性有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン;ジメチルスルホキシド;メタノール、エタノール、2-プロパノール(IPA)、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)などのケトン類;1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、酢酸エチルなどが挙げられる。親水性有機溶媒は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。ただし、安全性、環境への影響、取扱い性等の観点から、有機溶媒を用いずに、水だけの方が好ましい。
【0071】
水と有機溶媒との配合比は、有機溶媒の種類、水と有機溶媒との親和性等を考慮して適宜決定すればよい。
【0072】
前記スラリーの固形分中の各成分の比率は、中和分散剤を含まない場合には、例えば、電極活物質(A)、バインダー組成物および導電助剤の合計量を100質量%とした場合、電極活物質が60~99質量%、バインダー組成物が0.1~25質量%、導電助剤が0.1~10質量%であることが好ましい。また、電極活物質が80~95質量%、バインダー組成物が0.5~15質量%、導電助剤が0.5~5質量%であることがより好ましい。中和分散剤を含む場合には、例えば、電極活物質(A)、バインダー組成物、水溶性高分子(C)、周期表第13族元素含有化合物(B′)および導電助剤の合計量を100質量%とした場合、電極活物質が60~99質量%、バインダー組成物、水溶性高分子(C)および周期表第13族元素含有化合物(B′)の合計量が0.1~25質量%、導電助剤が0.1~10質量%であることが好ましい。また、電極活物質が80~95質量%、バインダー組成物、水溶性高分子(C)および周期表第13族元素含有化合物(B′)の合計量が0.5~15質量%、導電助剤が0.5~5質量%であることがより好ましい。
【0073】
<電気化学デバイス用電極の製造方法>
本発明における電気化学デバイス用電極の製造方法としては、例えば、上述のスラリーを電極基材(集電体)の表面に塗布し、乾燥、プレス成型させることによって製造することができる。これにより、電極基材の表面に電極合剤層が存在する電気化学デバイス用電極を製造することができる。前記電極合剤は、スラリーを箔等の電極基材へ塗布した乾燥後の電極における電極層の部分であり、電極活物質(A)、導電助剤、中和分散剤およびバインダーを合わせたものである。
【0074】
前記塗布の方法としては、ドクターブレード、ナイフコーター、コンマコーター、ダイコーター等を用いた方法を挙げることができる。電極基材(集電体)としては、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等を用いることができる。導電性向上の目的で、これらの箔上にカーボンコートされたものを電極基材として用いることもできる。またこれらの集電体は、電解液の浸透性向上の目的のため、貫通孔を持っていてもよい。
【0075】
前記スラリーの電極基材への塗布量は、例えば、乾燥後の電極合剤層の厚みが0.02~0.40mm、好ましくは0.03~0.25mmの範囲となるように設定することができる。
【0076】
乾燥工程の温度は、例えば、35~150℃、好ましくは40~135℃の範囲内で適宜設定することができる。乾燥工程の時間としては、例えば、10~120秒、好ましくは10~80秒の範囲内で適宜設定することができる。また、減圧下にて乾燥工程を行うことも好ましい。この場合の減圧条件は、圧力が10Pa以下であることが好ましく、数時間乾燥させる方法を取ることができる。
【0077】
このようにして得られた電気化学デバイス用電極は、電気化学デバイスの正極として用いてもよいし、負極として用いてもよい。
【0078】
<電気化学デバイス用電極>
得られた電気化学デバイス用電極は、以下のような特性を持つ。周期表第13族元素(B)がホウ素である場合、電極活物質(A)を水溶性高分子(C)が被覆し、水溶性高分子(C)の膜中には特定量のホウ素(B)を含んでいる。そして、前記電極は、ホウ素(B)を含んだ水溶性高分子(C)の被覆によって、電極活物質(A)が保護されている。この保護により、後述のとおり、特に耐熱性に優れた電池特性が得られる。
【0079】
耐熱性向上の理由としては、電解質の熱分解生成物であるフッ酸などから電極活物質(A)に対する攻撃が抑制されていることが考えられる。また、ホウ素(B)を含んだ水溶性高分子(C)の被覆による電極活物質(A)の保護により、電解質の酸化還元分解が抑制され、特にガス発生の抑制効果が得られる。ガス発生の抑制は、電解質の反応過電圧が増大していることによると考えられるが、この効果はホウ素(B)が水溶性高分子(C)の膜に取り込まれることによって発現する。これに対して、ホウ素(B)および水溶性高分子(C)が含有されていない電極は、耐熱性が低く、また、ガス発生、過電圧が出る、容量が低い、金属溶出が抑えられない等の問題が発生する場合がある。
【0080】
電気化学デバイス用電極は、電極合剤中のホウ素の含有量が、0.001重量%以上5重量%以下の範囲内にあることが好ましい。この範囲にあることで、高温での良好な電池特性や、良好なサイクル特性が得られる。本発明におけるホウ素の含有量を満たしているか否かを特定するには、吸光度測定またはXPS(X線光電子分光法)による分析等の方法を用いることができる(国際出願番号PCT/JP2021/44845参照)。ホウ素の含有量がこの範囲よりも多すぎると、電極活物質となる電極活物質(A)の比率が減少することにより電池容量が低下する傾向がある。ホウ素の含有量が少なすぎると、分散性が低下し、電極合剤と水とからなるスラリーで沈降が発生しやすくなり、長期保存特性が得られ難くなる。また高温での良好な電池特性が得られ難くなる。
【0081】
<電気化学デバイス(非水電解質二次電池)>
本発明の電気化学デバイスは、正極および負極を備え、前記正極と前記負極との間に電解質と前記電解質を溶解させる非水溶媒とからなる非水系電解液を含む電気化学デバイスであって、前記非水溶媒は、イオン液体である。そして、前記正極および前記負極が、PVDF等のフッ素系バインダーを含まない、電気化学デバイス用電極である。すなわち、前記正極および前記負極の両方が、水系製造工程で製造され、pHが7~9.5の範囲に調整されたスラリーから製造された極板を有していることが好ましい。
【0082】
電気化学デバイスには、正極と負極との短絡を防止するために、正極と負極との間にセパレーターが配置される。正極および負極にはそれぞれ集電体が備えられており、両集電体は電源に接続されている。この電源の操作によって充放電の切り替えがなされる。
【0083】
電気化学デバイスの例としては、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池、電気化学キャパシタ等が挙げられ、さらには非リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、全固体電池等も包含される。
【0084】
前記電気化学デバイスは、高性能であり、かつ安全性の高い蓄電デバイスとして利用することができる。よって、前記電気化学デバイスは、携帯電話機器、ノートパソコン、携帯情報端末(PDA)、ビデオカメラ、デジタルカメラ等の小型電子機器;電動自転車、電動自動車、電車等の移動用機器(車両);火力発電、風力発電、水力発電、原子力発電、地熱発電等の発電用機器;自然エネルギー蓄電システム等に搭載されてもよい。
【0085】
前記非水電解質二次電池は、リチウムイオン二次電池であることがより好ましい。高ニッケル系活物質は、電極容量を増大させることができるため、リチウムイオン二次電池の電極材料として有力であるが、上述したように、非常に加水分解されやすいという問題がある。
【0086】
そして、非水電解質二次電池は、本発明における電気化学デバイス用電極を備えるため、有機溶媒を用いて調製したスラリーから調製した電極を備える非水電解質二次電池と比べて、特に耐熱性に優れた充放電特性を示す。このことは実施例で実証されている。
【0087】
また、本発明において非水電解質二次電池の形態は、例えば、短冊状の電極とセパレーターとを重ねて巻きとり、巻回体状にした円筒型、電極をセパレーターで包んで積層し、アルミラミネートパウチで包装した積層ラミネート型、電極ペレットとセパレーターを積層したコイン型等が挙げられる。外装ケースは、ステンレス製ケース、アルミ製ケースなどが使用される。
【0088】
<電解質>
電解質としては、非水系溶媒としてイオン液体を用い、イオン液体にリチウム塩を溶解させた非水系電解液、非水系電解液と有機高分子化合物との混合により作製されたゲル状、ゴム状、あるいは固体シート状の電解質、固体リチウムイオン伝導性を持つ固体化合物粒子(例えば硫化物や酸化物等)をプレス等で固めた固体電解質などが用いられる。
【0089】
イオン液体とは、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、室温を含む幅広い温度領域において液体状態で存在する塩を意味する。イオン液体としては、以下のカチオンの少なくとも1種と、以下のアニオンの少なくとも1種とを適宜組み合わせて構成することができる。
【0090】
このイオン液体のカチオンとしては、電解液中におけるリチウムイオンの移動を可能とし、蓄電デバイスの充電および放電を可能とするものであれば、特に制限されず、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、ピラゾリウムおよびテトラアルキルホスホニウム等が挙げられる。
【0091】
前記イミダゾリウムとしては、例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム[EMIm+]、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-アリル-3-メチルイミダゾリウム、1-アリル-3-エチルイミダゾリウム、1-アリル-3-ブチルイミダゾリウムおよび1,3-ジアリルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0092】
前記ピリジニウムとしては、例えば、1-プロピルピリジニウム、1-ブチルピリジニウム、1-アリルピリジニウム、1-エチル-3-(ヒドロキシメチル)ピリジニウムおよび1-エチル-3-メチルピリジニウム等が挙げられる。
【0093】
前記ピロリジニウムとしては、例えば、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム[MPPyr+]、N-メチル-N-ブチルピロリジニウム、N-メチル-N-メトキシメチルピロリジニウム、N-アリル-N-メチルピロリジニウム、およびN-アリル-N-プロピルピロリジニウム等が挙げられる。
【0094】
前記ピペリジニウムとしては、例えば、N-メチル-N-プロピルピペリジニウム、N-メチル-N-ブチルピペリジニウム、N-メチル-N-メトキシメチルピペリジニウム、およびN-アリル-N-プロピルピペリジニウム等が挙げられる。
【0095】
前記テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば、N,N,N-トリメチル-N-プロピルアンモニウム、およびメチルトリオクチルアンモニウム等が挙げられる。
【0096】
前記ピラゾリウムとしては、例えば、1-エチル-2,3,5-トリメチルピラゾリウム、1-プロピル-2,3,5-トリメチルピラゾリウム、1-ブチル-2,3,5-トリメチルピラゾリウム、および1-アリル-2,3,5-トリメチルピラゾリウム等が挙げられる。
【0097】
前記テトラアルキルホスホニウムとしては、例えば、P-ブチル-P,P,P-トリエチルホスホニウム、およびP,P,P-トリエチル-P-(2-メトキシエチル)ホスホニウム等が挙げられる。
【0098】
また、これらのカチオンと組み合わされてイオン液体を構成するアニオンとしては、電解液中におけるリチウムイオンの移動を可能とし、蓄電デバイスの充電および放電を可能とするものであればよい。例えば、BF4
-、PF6
-、SbF6
-、NO3
-、CF3SO3
-、(FSO2)2N-[ビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン;FSI-]、(CF3SO2)2N-[ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド;TFSI-]、(C2F5SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、CF3CO2
-、C3F7CO2
-、CH3CO2
-、(CN)2N-等が挙げられる。これらのアニオンは2種類以上を含んでいてもよい。
【0099】
非水系電解液に使用されるリチウム塩は特に限定されず、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6等のフッ化物系リチウム塩;LiClO4、LiCl、LiBr、LiI等のハロゲン化物系リチウム塩;LiN(CF3SO2)2(LiTFSI)、LiN(FSO2)2(LiFSI)等のスルホン酸塩系リチウム塩が挙げられる。リチウム塩は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。非水系電解液中におけるリチウム塩の濃度は、0.3~2.5mol/kgであるが、前記イオン液体に対して1.2mol/kg以上含有されていると、サイクル特性がより向上するため好ましい。
【0100】
上述の非水系電解液と有機高分子化合物とを混合して、ゲル状、ゴム状、あるいは固体シート状の電解質として使用する場合、有機高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリビニリデンカーボネート、ポリアクリロニトリル等を用いることができる。
【0101】
非水系電解液は、正極での酸化分解、もしくは負極での還元分解を抑制するために、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、エチレンスルフィド、1,3-プロパンスルトン、1,3-プロペンスルトン、リチウムビスオキサレートボレート、リチウムジフルオロオキサレートボレート等が挙げられる。添加剤の含有量は、非水系電解液に対して、10~0.5重量%の範囲とすることが好ましい。含有量が多過ぎると電気化学デバイスの抵抗増大につながり好ましくない。これらの添加物は、電極上に強固な被膜を形成して電極表面を保護する働きがあり、その保護効果によって電極へのサイクルごとのダメージを緩和することで、サイクル特性向上に有効である。
【0102】
なお、本発明における中和分散剤を用いた場合、前記添加剤を含まなくても、サイクル特性を向上させることができる。その理由としては、確定されるものではないが、例えば次のように考えられる。ビニレンカーボネート等は、電極上に強固な被膜を生成し、電極表面を保護する働きがあり、その保護効果によって、電極へのサイクル毎のダメージが緩和され、これがサイクル特性向上につながると考えられる。しかし、前記添加剤は、充電時にそれ自体が分解することで、電極に被膜を形成する。その際に、電極に含まれるリチウムを少量ではあるが消費するため、サイクル特性を阻害しない範囲で、添加量は少ないことが好ましい。本発明における、例えば、ホウ素化合物と天然高分子(水溶性高分子)等との組み合わせによる中和分散剤は、電極活物質をコーティングする被膜を形成する性質があり、ビニレンカーボネート等と同様な保護効果を示すことで、サイクル特性向上につながったと考えられる。本発明によれば、リチウムの消費を抑制しつつ、サイクル特性向上を図ることが可能となる。
【0103】
<セパレーター>
本発明における電気化学デバイスでは、正極と負極との短絡を防止するため、これらの間にセパレーターが備えられる。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、アラミド、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはポリイミド等を含む多孔質フィルム、セルロース不織布、キトサン不織布、アルギン酸不織布等が挙げられる。セパレーターの片面、もしくは両面には、コート層が設けられていてもよい。前記コート層は、アルミナ、ジルコニア、シリカ等からなる数nm~数μmの粒子径の無機微粒子の層、ポリイミド樹脂やアラミドパルプ、セルロースナノファイバー等を数nm~数μmの厚みでセパレーターに塗布して形成された有機物の層、またはこれらの両方を含む層であり、耐熱性向上や、短絡対策に効果的である。
【0104】
なお、本発明の電気化学デバイスは、リサイクル性が向上するというメリットも有する。本発明の電気化学デバイスは、解体セルを有機溶剤で洗浄した場合、イオン液体のみ抽出することができる。極板は水系スラリーから製造されたものであるため、有機溶剤には溶解しない。そこで、有機溶剤での洗浄後は、解体セルは、乾燥によってドライセルの状態(製造工程における注液前段階)に戻すことができる。得られたドライセルは、解体して、正極、負極、セパレーターを分離することができる。その後、電極を水洗すれば、正極極板、負極極板のCMCやアクリルバインダーが溶解し、活物質と導電助剤などが別々に分離される。これを濃縮すれば各電極材料を回収することができる。
【実施例0105】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0106】
<水系製造工程による正極合材スラリーの製造>
正極材(電極活物質(A))を95部、導電助剤としてアセチレンブラックを2部、水溶性分散剤(水溶性高分子(C))としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)を1部、中和剤(周期表第13族元素(B)を含む水溶性化合物)としてホウ酸を0.01部~3部の範囲でpHが所定の値となるようにそれぞれ添加し、バインダーとしてアクリル系エマルジョンを1部混合し、これに水を45部加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス、プライミクス社)を用いて混錬することで、正極合材スラリーを作製した。正極材としては、NCA(ニッケル-コバルト-アルミニウム酸リチウム LiNi0.8Co0.15Al0.05O2)、NMC622(LiNi0.6CO0.2Mn0.2O2)、NMC811(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2)、NMC111(LiNi0.33CO0.33Mn0.33O2)、NMC532(LiNi0.5Co0.3Mn0.2O2)、LFP(LiFePO4)、LCO(LiCoO2)、LNM(LiN0.5Mn1.5O2)、LMFP(LiMnFePO4)の9種類を用いた。
【0107】
<溶剤系製造工程による正極合材スラリーの製造>
CMC-Na(1部)、ホウ酸(0.01部~3部)およびアクリル系エマルジョン(1部)に代えてポリフッ化ビニリデン(EQ-Lib-PVDF、MTI)を3部使用し、水に代えてN-メチル-2-ピロリドンを使用した以外は、水系製造工程と同様にして正極合剤スラリーを作製した。
【0108】
<水系製造工程による負極合材スラリーの製造>
[ニオブ酸化物負極]
負極材としてニオブ酸化物(Nb2O5)を95.7部、導電助剤としてアセチレンブラックを2部、水溶性分散剤としてCMC-Naを1部、中和剤としてホウ酸を0.3部、バインダーとしてアクリル系エマルジョンを1部混合し、これに水を25部加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス、プライミクス社)を用いて混錬することで、ニオブ酸化物負極合材スラリー(pH=7.1)を作製した。
【0109】
[チタン酸リチウム(LTO)負極]
負極材としてチタン酸リチウム(LTO Li4Ti5O12)、を95.7部、導電助剤としてアセチレンブラックを2部、水溶性分散剤としてCMC-Naを1部、中和剤としてホウ酸を0.3部、バインダーとしてアクリル系エマルジョンを1部混合し、これに水を80部加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス、プライミクス社)を用いて混錬することで、チタン酸リチウム負極合材スラリー(pH=7.7)を作製した。
【0110】
[SiO+黒鉛 3:7重量比負極](以下「SiO」負極と呼ぶこともある。)
負極材としてSiOを27部、黒鉛を63部、導電助剤としてアセチレンブラックを1部、水溶性分散剤としてCMC-Naを0.6部、中和剤としてホウ酸を0.4部、バインダーとしてアクリル系エマルジョンを8部混合し、これに水を80部加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス、プライミクス社)を用いて混錬することでSiO+黒鉛負極合剤スラリーを作製した。
【0111】
[SiO-Li+黒鉛 3:7重量比負極](以下「SiO-Li」負極と呼ぶこともある。)
負極材としてSiO-Liを27部、黒鉛を63部、導電助剤としてアセチレンブラックを1部、水溶性分散剤としてCMC-Naを0.6部、中和剤としてホウ酸を0.4部、バインダーとしてアクリル系エマルジョンを8部混合し、これに水を80部加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス、プライミクス社)を用いて混錬することでSiO-Li+黒鉛負極合剤スラリーを作製した。
【0112】
[黒鉛負極]
負極材として黒鉛を97部、導電助剤としてアセチレンブラックを1部、水溶性分散剤としてCMC-Naを1部、バインダーとしてアクリル系エマルジョンを1部混合し、これに水を50部加えてプラネタリミキサー(TKハイビスミックス、プライミクス社)を用いて混錬することで黒鉛負極合剤スラリーを作製した。
【0113】
<溶剤系製造工程による負極合材スラリーの製造>
CMC-Na(1部)およびアクリル系エマルジョン(1部または8部)に代えてポリフッ化ビニリデン(EQ-Lib-PVDF、MTI)を2部または9部使用し、水に代えてN-メチル-2-ピロリドンを使用した以外は、水系製造工程と同様にして負極合剤スラリーを作製した。
【0114】
<室温サイクル特性>溶剤系との比較
得られた正極合材スラリーを、厚み15μmの長尺状のアルミニウム箔(正極集電体)の両面に、片面あたりの目付量が12mg/cm2となるように、ドクターブレード法によって帯状に塗布した。前記目付量は正極活物質基準の値である。すなわち、前記目付量は、正極活物質を片面あたりに12mg/cm2となるように塗布することを意味する。その後、正極合材スラリーを塗布した前記アルミニウム箔を100℃で120秒間乾燥することにより、正極合材層を形成した。この正極合材層をロールプレス機により圧延して、正極充填密度を3.0g/ccに調整することによって、電気化学デバイス用正極を得た。
【0115】
また、得られた負極合材スラリーを、厚み10μmの長尺状の負極集電体の両面に、ドクターブレード法によって帯状に塗布した。負極材としてSiO+黒鉛、SiO-Li+黒鉛、または黒鉛を用いた場合は、負極集電体として銅箔を用い、片面あたりの目付量がSiO+黒鉛またはSiO-Li+黒鉛は3mg/cm2、黒鉛は6mg/cm2となるように塗布した。負極材としてニオブ酸化物またはLTOを用いた場合は、負極集電体としてアルミニウム箔を用い、片面あたりの目付量が10mg/cm2となるように塗布した。前記目付量は負極活物質基準の値である。すなわち、前記目付量は、負極活物質を片面あたりに3mg/cm2あるいは10mg/cm2となるように塗布することを意味する。その後、負極合材スラリーを塗布した前記銅箔または前記アルミニウム箔を100℃で120秒間乾燥することにより、負極合材層を形成した。この負極合材層をロールプレス機により圧延して、負極充填密度を1.5g/cc(SiO,SiO-Li,黒鉛電極)、1.9g/cc(ニオブ酸化物,LTO電極)に調整することによって、電気化学デバイス用負極を得た。
【0116】
前記で得られた電気化学デバイス用正極および電気化学デバイス用負極を用い、次の構成のサイクル特性評価用リチウムイオン二次電池を作製した。負極としては、ニオブ酸化物負極,LTO負極、SiO負極およびSiO-Li負極を使用した。前記正極は12mmφのサイズに、前記負極は13mmφのサイズに、それぞれ切り抜いた。これらをCR2032型サイズのコインセル容器を用いて、グローブボックス中(露点-60℃、アルゴン雰囲気)で組み立てた。使用した材料は以下である。
正極:前記電気化学デバイス用正極
負極:前記電気化学デバイス用負極
電解液:イオン液体EMIFSI(1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルフォニル)イミド)に、支持塩としてLiFSIを1.2mol/kgの濃度となるように溶解させた非水電解液
(以下「1.2M LiFSI+EMIFSI」と記載)
セパレーター:セルロース不織布
【0117】
[測定条件]
まず、サイクル特性評価用リチウムイオン二次電池を、それぞれ定電流-定電圧(CC-CV)充電方式により充電した。なお、CVモードでは、電流値がCCモードでの設定電流値の10分の1になった時点で充電を終了した。次に、25℃にて、1時間率(1.0Cレート)を各種正極を基準として、すなわち正極材がNCAのときは200mA、NMC622のときは190mA、NMC811のときは200mA、NMC111のときは150mA、NMC532のときは170mA、LFPのときは170mA、LCOのときは140mA、LNMのときは130mA、LMFPのときは150mAの条件で定電流で放電を行った。電圧範囲は、正極材と負極材との組み合わせにより表1のとおりであった(水系、溶剤系とも)。この工程を1サイクルとし、負極材がニオブ酸化物またはLTOのときは2000サイクル、負極材がSiOまたはSiO-Liのときは500サイクル繰り返した。
【0118】
【0119】
初期容量値と2000サイクル後または500サイクル後に測定した残存容量値を以下の式に代入し、各電池について容量保持率を算出した。結果を表2に示す。
容量保持率(%)=(サイクル後の残存容量値)/(初期容量値)×100 … (式)
【0120】
【0121】
表2に示した正極材および負極材の組み合わせでは、正極、負極ともに水系プロセスで電極合材スラリーを製造した電極を搭載した電池は、いずれの正極材および負極材を用いた場合でも、長期サイクル寿命が優れていることがわかる。その理由の1つとしては、ホウ酸およびCMC-Naの電極活物質保護効果が考えられるが、他の理由を否定するものではない。正極および負極のいずれか一方の電極合材スラリーを溶剤系プロセス(有機溶剤とPVDFを使用)で製造したものは、サイクル寿命は十分ではなかった。
【0122】
<電解液による比較>
電解液としてイオン液体を用いた場合と、従来のリチウムイオン電池で使用される有機溶媒系電解液を用いた場合での、室温(25℃)でのサイクル特性および高温(60℃)での保存特性を比較した。正極材としてNMC622、負極材としてニオブ酸化物、LTO、SiO、SiO-Li、黒鉛を用い、正負極が両方水系、両方がPVDF系である2パターンについて、特性評価用リチウムイオン二次電池を、上記と同様に作製した。
イオン液体電解液:1.2M LiFSI+EMIFSI
有機溶媒系電解液:1.0M LiPF6+EC/DMC=1:1(体積比)に、1,3-プロパンスルトン(PS)を2%,ビニレンカーボネート(VC)を0.8%添加したもの
セパレーター:セルロース不織布
【0123】
[室温サイクル特性測定条件]
特性評価用リチウムイオン二次電池を、それぞれ定電流-定電圧(CC-CV)充電方式により充電した。なお、CVモードでは、電流値がCCモードでの設定電流値の10分の1になった時点で充電を終了した。次に、25℃にて、1時間率(1.0Cレート)190mAの条件で定電流で放電を行った。この工程を1サイクルとし、負極材がニオブ酸化物、LTOまたは黒鉛のときは2000サイクル、負極材がSiOまたはSiO-Liのときは500サイクル繰り返した。初期容量値と2000サイクル後または500サイクル後に測定した残存容量値を以下の式に代入し、各電池について容量保持率を算出した。結果を表3に示す。
容量保持率(%)=(サイクル後の残存容量値)/(初期容量値)×100 … (式)
【0124】
[高温保存特性測定条件]
特性評価用リチウムイオン二次電池を、室温で、電流値1時間率(1.0Cレート)で充電(CC-CVモード)、放電(CCモード)を行い、得られた放電容量を基準容量とした。次に、特性評価用リチウムイオン二次電池を、室温で上限電圧まで1時間率(1.0 Cレート)で定電流充電した。充電状態を維持したまま、60℃に昇温し、7日間保存した後、室温に戻し、下限電圧まで1時間率(1.0Cレート)で定電流で放電した。得られた容量を測定後容量とし、測定後容量/基準容量×100で容量保持率を算出した。結果を表3に示す。
【0125】
【0126】
有機電解液では、従来の溶剤系プロセス(有機溶剤とPVDFを使用)で製造した電極でも、水系プロセスで製造した電極でも特性は大きくは変わらなかった。そして、溶剤系プロセス(有機溶剤とPVDFを使用)で製造した電極の場合には、電解液としてイオン液体を用いても、有機電解液を用いた場合と特性はほぼ同等であった。一方、正極負極両方が水系プロセスで製造した電極では、電解液がイオン液体の場合に、室温サイクル特性と、高温60℃の保存特性とが、ともに非常に良くなっていることがわかる。なお、上記においては、正極材としてNMC622を用いた場合を示したが、他の正極材でも同様の傾向の結果が得られた。
【0127】
以上の実施例等により、リチウム含有金属酸化物を水系プロセスによって作製したスラリーで作った電極を搭載することで、電解液がイオン液体であり、寿命特性が良好である非水電解質二次電池の提供が期待できることがわかる。
【0128】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。