(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180893
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】カルバメート化セルロース繊維の製造方法及びカルバメート化セルロース微細繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 15/06 20060101AFI20231214BHJP
D21H 11/20 20060101ALI20231214BHJP
D21H 11/18 20060101ALI20231214BHJP
D21H 15/02 20060101ALI20231214BHJP
D06M 11/50 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C08B15/06
D21H11/20
D21H11/18
D21H15/02
D06M11/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094568
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 隆之介
(72)【発明者】
【氏名】松末 一紘
(72)【発明者】
【氏名】今井 貴章
【テーマコード(参考)】
4C090
4L031
4L055
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA34
4C090BB02
4C090BB12
4C090BB33
4C090BB36
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4C090BB84
4C090BB94
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4C090BD24
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4C090DA10
4L031AA02
4L031AB01
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4L055BE08
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4L055EA08
4L055EA10
4L055EA16
4L055EA32
(57)【要約】
【課題】樹脂の補強効果を損なうことなく、白色度の高いカルバメート化セルロース繊維やカルバメート化セルロース微細繊維を製造する方法を提供する。
【解決手段】カルバメート化セルロース繊維に漂白剤を添加して、反応温度90度以下、かつpH7以下の条件下で漂白する。また、この方法によって得たカルバメート基導入量が0.5mmol/g以上のカルバメート化セルロース繊維を微細化し、この微細化を平均繊維幅が0.1~20μm、平均繊維長が0.1~2.0mm、Fine率Aが10~90%となるように行う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルバメート化セルロース繊維に漂白剤を添加して、反応温度90度以下、かつpH7以下の条件下で漂白する、
ことを特徴とするカルバメート化セルロース繊維の製造方法。
【請求項2】
前記漂白剤として、一過硫酸塩を使用する、
請求項1に記載のカルバメート化セルロース繊維の製造方法。
【請求項3】
前記セルロース繊維に対する前記一過硫酸塩の添加量を、1~100kg/ptとする、
請求項2に記載のカルバメート化セルロース繊維の製造方法。
【請求項4】
カルバメート化セルロース繊維を微細化してカルバメート化セルロース微細繊維を製造する方法であり、
前記カルバメート化セルロース繊維として請求項1に記載の方法によって得たカルバメート基導入量が0.5mmol/g以上のカルバメート化セルロース繊維を使用し、
前記微細化を平均繊維幅が0.1~20μm、平均繊維長が0.1~2.0mm、Fine率Aが10~90%となるように行う、
ことを特徴とするカルバメート化セルロース微細繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルバメート化セルロース繊維の製造方法及びカルバメート化セルロース微細繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、セルロースナノファイバー、マイクロ繊維セルロース(ミクロフィブリル化セルロース)等の微細繊維は、樹脂の補強材としての使用が脚光を浴びている。もっとも、微細繊維が親水性であるのに対し、樹脂は疎水性であるため、微細繊維を樹脂の補強材として使用する(複合化)には、当該微細繊維の分散性に問題があった。そこで、本発明者等は、微細繊維のヒドロキシル基をカルバメート基で置換する(カルバメート化)ことを提案した(特許文献1参照)。この提案によると、微細繊維の分散性が向上し、もって樹脂の補強効果が向上する。
【0003】
しかしながら、セルロース繊維をカルバメート化すると、着色(茶褐色)が生じ、樹脂に複合化した際にも、茶褐色が残るという問題がある。この点、着色を防止するには、セルロース繊維を漂白することが考えられるが、単に漂白すると、カルバメート基の導入量が下がり、樹脂の補強効果が損なわれるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、樹脂の補強効果を損なうことなく、白色度の高いカルバメート化セルロース繊維やカルバメート化セルロース微細繊維を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は、カルバメート化セルロース繊維に漂白剤を添加して、反応温度90度以下、かつpH7以下の条件下で漂白する、ことを特徴とするカルバメート化セルロース繊維の製造方法である。また、カルバメート化セルロース繊維を微細化してカルバメート化セルロース微細繊維を製造する方法であり、前記カルバメート化セルロース繊維として上記方法によって得たカルバメート基導入量が0.5mmol/g以上のカルバメート化セルロース繊維を使用し、前記微細化を平均繊維幅が0.1~20μm、平均繊維長が0.1~2.0mm、Fine率Aが10~90%となるように行う、ことを特徴とするカルバメート化セルロース微細繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、樹脂の補強効果を損なうことなく、白色度の高いカルバメート化セルロース繊維やカルバメート化セルロース微細繊維を製造する方法となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0009】
本形態の製造方法は、カルバメート化セルロース繊維に漂白剤を添加して、反応温度90度以下、かつpH7以下の条件下で漂白することを特徴とする。また、このようにして得たカルバメート化セルロース繊維を平均繊維幅が0.1~20μm平均繊維長が0.1~2.0mm、Fine率Aが10~90%となるように微細化してカルバメート化セルロース微細繊維を得ることを特徴とする。この際、カルバメート化セルロース繊維のカルバメート基導入量は、0.5mmol/g以上である。以下、詳細に説明する。
【0010】
(セルロース繊維)
セルロース繊維(繊維状セルロース)は、パルプを原料とする。このパルプ原料としては、例えば、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ・バガス・綿・麻・じん皮繊維等を原料とする非木材パルプ、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。なお、以上の各種原料は、例えば、セルロース系パウダーなどと言われる粉砕物(粉状物)の状態等であってもよい。
【0011】
ただし、不純物の混入を可及的に避けるために、原料パルプとしては、木材パルプを使用するのが好ましい。木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0012】
広葉樹クラフトパルプは、広葉樹晒クラフトパルプであっても、広葉樹未晒クラフトパルプであっても、広葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。同様に、針葉樹クラフトパルプは、針葉樹晒クラフトパルプであっても、針葉樹未晒クラフトパルプであっても、針葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。
【0013】
機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0014】
(カルバメート化)
セルロース繊維は、カルバメート化、つまりカルバメート基を有するものとすることでカルバメート化セルロース繊維とする。
【0015】
なお、カルバメート基を有するとは、繊維状セルロースにカルバメート基(カルバミン酸のエステル)が導入された状態を意味する。カルバメート基は、-O-CO-NH-で表される基であり、例えば、-O-CO-NH2、-O-CONHR、-O-CO-NR2等で表わされる基である。つまり、カルバメート基は、下記の構造式(1)で示すことができる。
【0016】
【0017】
ここでRは、それぞれ独立して、飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基の少なくともいずれかである。
【0018】
飽和直鎖状炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~10の直鎖状のアルキル基を挙げることができる。
【0019】
飽和分岐鎖状炭化水素基としては、例えば、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数3~10の分岐鎖状アルキル基を挙げることができる。
【0020】
飽和環状炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基等のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0021】
不飽和直鎖状炭化水素基としては、例えば、エテニル基、プロペン-1-イル基、プロペン-3-イル基等の炭素数2~10の直鎖状のアルケニル基、エチニル基、プロピン-1-イル基、プロピン-3-イル基等の炭素数2~10の直鎖状のアルキニル基等を挙げることができる。
【0022】
不飽和分岐鎖状炭化水素基としては、例えば、プロペン-2-イル基、ブテン-2-イル基、ブテン-3-イル基等の炭素数3~10の分岐鎖状アルケニル基、ブチン-3-イル基等の炭素数4~10の分岐鎖状アルキニル基等を挙げることができる。
【0023】
芳香族基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等を挙げることができる。
【0024】
誘導基としては、上記飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基及び芳香族基が有する1又は複数の水素原子が、置換基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ハロゲン原子等。)で置換された基を挙げることができる。
【0025】
カルバメート基を有する(カルバメート基が導入された)セルロース繊維においては、極性の高いヒドロキシ基の一部又は全部が、相対的に極性の低いと考えられるカルバメート基に置換されている。結果、極性の低い樹脂等との親和性が高くなる。故に、カルバメート基を有するセルロース繊維は、樹脂との均一分散性に優れる。また、カルバメート基を有するセルロース繊維のスラリーは、粘性が低く、ハンドリング性が良い。
【0026】
セルロース繊維のヒドロキシ基に対するカルバメート基の置換率(カルバメート基導入量)は、好ましくは0.1~5.0mmol/g、より好ましくは0.6~3.0mmol/g、特に好ましくは0.7~2.0mmol/gである。置換率を0.5mmol/g以上にすると、カルバメート基を導入した効果、特に樹脂の曲げ伸び向上効果が確実に奏せられる。他方、置換率が5.0mmol/gを超えると、セルロース繊維が繊維の形状を保てなくなり、樹脂の補強効果が十分得られないおそれがある。また、置換率が5.0mmol/gを超えると、白色度が低下して漂白後も白色度が70%未満と低くなる可能性がある。さらに、カルバメート基の置換率が2.0mmol/gを超えると、パルプ原料の平均繊維長が短くなり、結果として微細繊維の平均繊維長が0.1mm未満となり、十分な樹脂補強効果が出せなくなるおそれがある。
【0027】
また、カルバメート基の導入は、漂白後のカルバメート基導入量の低下率が漂白前のカルバメート基導入量に対して10%未満となるように行うのが好ましい。低下率が10%未満であれば、カルバメート基を有する繊維が著しく低下することがなく、カルバメート基を有する繊維が樹脂中に分散することで、樹脂と繊維の接着性が向上し、樹脂に複合化した際に十分に補強効果が得られる。
【0028】
なお、上記低下率とは、(漂白後のカルバメート基導入量-漂白前のカルバメート基導入量)/漂白後のカルバメート基導入量×100(%)で求まる値である。
【0029】
なお、カルバメート基の置換率(mmol/g)とは、カルバメート基を有するセルロース原料1gあたりに含まれるカルバメート基の物質量をいう。カルバメート基の置換率は、カルバメート化したパルプ内に存在するN原子をケルダール法によって測定し、単位質量当たりのカルバメート化率を算出する。また、セルロースは、無水グルコースを構造単位とする重合体であり、一構造単位当たり3つのヒドロキシ基を有する。
【0030】
セルロース繊維をカルバメート化する工程は、例えば、混合処理、除去処理、及び加熱処理に、主に区分することができる。なお、混合処理及び除去処理は合わせて、加熱処理に供される混合物を調製する調製処理ということもできる。
【0031】
混合処理においては、セルロース繊維と尿素又は尿素の誘導体(以下、単に「尿素等」ともいう。)とを分散媒中で混合する。もしくは、シート状態等のセルロース繊維の乾燥体に尿素等を含浸、塗布等により混合してもよい。
【0032】
尿素や尿素の誘導体としては、例えば、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、尿素の水素原子をアルキル基で置換した化合物等を使用することができる。これらの尿素又は尿素の誘導体は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、尿素を使用するのが好ましい。
【0033】
セルロース繊維に対する尿素等の混合質量比(尿素等/セルロース繊維)の下限は、好ましくは10kg/pt、より好ましくは20kg/ptである。他方、上限は、好ましくは300kg/pt、より好ましくは200kg/ptである。混合質量比を10kg/pt以上にすることで、カルバメート化の効率が向上する。他方、混合質量比が300kg/ptを上回っても、カルバメート化は頭打ちになる。
【0034】
分散媒は、通常、水である。ただし、アルコール、エーテル等の他の分散媒や、水と他の分散媒との混合物を用いてもよい。
【0035】
混合処理においては、例えば、水にセルロース繊維及び尿素等を添加しても、尿素等の水溶液にセルロース繊維を添加しても、セルロース繊維を含むスラリーに尿素等を添加してもよい。また、均一に混合するために、添加後、攪拌してもよい。さらに、セルロース繊維と尿素等とを含む分散液には、その他の成分が含まれていてもよい。他方で、セルロース繊維をシート状態等の乾燥体にし、このシート状態等のセルロース繊維の乾燥体に尿素等を塗布するなどして添加してもよい。なお、この際、シート状態等のセルロース繊維は、巻取の原反の状態であっても、引き出された状態であってもよいが、尿素等を均一に添加できるのは引き出された状態である。
【0036】
除去処理においては、混合処理において得られたセルロース繊維及び尿素等を含む分散液から分散媒を除去する。分散媒を除去することで、これに続く加熱処理において効率的に尿素等を反応させることができる。
【0037】
分散媒の除去は、加熱によって分散媒を揮発させることで行うのが好ましい。この方法によると、尿素等の成分を残したまま分散媒のみを効率的に除去することができる。
【0038】
除去処理における加熱温度の下限は、分散媒が水である場合は、好ましくは50℃、より好ましくは70℃、特に好ましくは90℃である。加熱温度を50℃以上にすることで効率的に分散媒を揮発させる(除去する)ことができる。他方、加熱温度の上限は、好ましくは120℃、より好ましくは100℃である。加熱温度が120℃を上回ると、分散媒と尿素が反応し、尿素が単独分解するおそれがある。
【0039】
除去処理における加熱時間は、分散液の固形分濃度等に応じて適宜調節することができる。具体的には、例えば、6~24時間である。
【0040】
除去処理に続く加熱処理においては、セルロース繊維と尿素等との混合物を加熱処理する。この加熱処理において、セルロース繊維のヒドロキシ基の一部又は全部が尿素等と反応してカルバメート基に置換される。より詳細には、尿素等が加熱されると下記の反応式(1)に示すようにイソシアン酸及びアンモニアに分解される。そして、イソシアン酸はとても反応性が高く、例えば、下記の反応式(2)に示すようにセルロースの水酸基にカルバメート基を形成する。
【0041】
NH2-CO-NH2 → H-N=C=O + NH3 …(1)
【0042】
Cell-OH + H-N=C=O → Cell-O-CO-NH2 …(2)
【0043】
加熱処理における加熱温度の下限は、好ましくは120℃、より好ましくは130℃、特に好ましくは尿素の融点(約134℃)以上、さらに好ましくは150℃、最も好ましくは160℃である。加熱温度を120℃以上にすることで、カルバメート化が効率的に行われる。
【0044】
加熱温度の上限は、好ましくは280℃、より好ましくは260℃である。加熱温度が280℃を上回ると、尿素等が熱分解する可能性があり、また、着色が顕著になる可能性がある。
【0045】
加熱処理における加熱時間は、加熱温度や方法によっても異なるが、好ましくは1秒~5時間、より好ましくは3秒~3時間、特に好ましくは5秒~2時間である。加熱時間が5時間を超えると、着色が顕著になる可能性があり、また、生産性に劣る。
【0046】
加熱処理については、加熱ロールに接触させるなどして接触式で行うこともできる。この場合、加熱処理における加熱温度は180~280℃、より好ましくは200~270℃、特に好ましくは220~260℃で行うことができ、加熱時間は好ましくは1~60秒、より好ましくは1~30秒、特に好ましくは1~20秒である。
【0047】
また、加熱処理は、熱風式加熱や遠赤外線加熱のような非接触の加熱方法で行うこともできる。この場合、反応温度を高くすることでカルバメート化反応を効率よく進めることができる。
【0048】
もっとも、加熱時間の長期化は、セルロース繊維の劣化を招く。そこで、加熱処理におけるpH条件が重要となる。pHは、好ましくはpH9以上、より好ましくはpH9~13、特に好ましくはpH10~12のアルカリ性条件である。また、次善の策として、pH7以下、好ましくはpH3~7、特に好ましくはpH4~7の酸性条件又は中性条件である。pH7~8の中性条件であると、セルロース繊維の平均繊維長が短くなり、樹脂の補強効果に劣る可能性がある。これに対し、pH9以上のアルカリ性条件であると、セルロース繊維が膨潤することで、繊維内部まで分散媒に溶解した尿素が浸透し、効率良くカルバメート化反応するため、セルロース繊維の平均繊維長を十分に確保することができる。他方、pH7以下の酸性条件であると、尿素等からイソシアン酸及びアンモニアに分解する反応が進み、セルロース繊維への反応が促進され、効率良くカルバメート化反応するため、セルロース繊維の平均繊維長を十分に確保することができる。ただし、可能であれば、アルカリ性条件で加熱処理する方が好ましい。酸性条件であるとセルロースの酸加水分解が進行するおそれがあるためである。
【0049】
pHの調整は、混合物に酸性化合物(例えば、酢酸、クエン酸等。)やアルカリ性化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等。)を添加すること等によって行うことができる。
【0050】
加熱処理において加熱する装置としては、例えば、熱風乾燥機、抄紙機、ドライパルプマシン等を使用することができる。
【0051】
加熱処理後の混合物は、脱水・洗浄してもよい。この脱水・洗浄は、水等で行えばよい。この脱水・洗浄によって未反応で残留している尿素等を除去することができる。
【0052】
ここで、洗浄が十分に行われたかどうかは、濾液(スラリー)の窒素濃度や透明度を測定することで確認することができるが、次記で定義される「置換洗浄率」をもって評価するのが好ましい。なお、以下の「初段」とは、脱水前(離解後)のパルプスラリーを脱水工程に供した1回目のことを意味する。また、「2段目以降」とは、上記の初段が全量完了し、希釈水添加、撹拌後に同様の脱水工程を再度行うことを意味する。
【0053】
置換洗浄率D0(初段)=(A0)/(X0+Y0)
X0:脱水前のパルプ中に含まれる水量=脱水前のパルプ水分散液量-脱水前のパルプ濃度×脱水前のパルプ水分散液量
Y0:脱水後のパルプ中に含まれる水量=脱水後のパルプ水分散液量-脱水後のパルプ濃度×脱水後のパルプ水分散液量
A0:脱水後の濾液量
置換洗浄率Dn(2段目以降)=Dn-1+An×(1-Dn-1)/(Xn+Yn)
【0054】
Dn-1:前段の置換洗浄率
Xn:脱水前のパルプ中に含まれる水量=脱水前のパルプ水分散液量-脱水前のパルプ濃度×脱水前のパルプ水分散液量
Yn:脱水後のパルプ中に含まれる水量=脱水後のパルプ水分散液量-脱水後のパルプ濃度×脱水後のパルプ水分散液量
An:脱水後の濾液量
【0055】
本形態において置換洗浄率は、80%以上となることが好ましい。1回の脱水洗浄では洗浄率が80%以上とすることが難しい場合は、80%以上となるまで脱水洗浄を数回繰り返し、希釈脱水洗浄を行うことが好ましい。
【0056】
(漂白)
カルバメート化したセルロース繊維は、漂白剤を添加して漂白する。
【0057】
漂白剤としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、過酸化水素、過炭酸ナトリウム、過ほう酸ナトリウム、オゾン、二酸化塩素、モノ過硫酸、過マンガン酸カリウム、ペルオキソ二過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、モノ過硫酸カリウム(一過硫酸カリウム)等の過硫酸塩、ハイドロサルファイト、二酸化チオ尿素等を使用することができる。ただし、一過硫酸カリウムを使用するのが好ましい。なお、上記の漂白剤を併用してもよい。
【0058】
この点、次亜塩素酸ナトリウムは、残存リグニン等の芳香環を持つ化合物と反応して塩素化ダイオキシンを生じる可能性があるため、環境面でも一過硫酸カリウムの方が好ましい。また、過酸化水素は、酸化力が一過硫酸カリウムよりも低いため、添加量を多くしたり、反応時間を長くしたり、反応温度を上げたりする必要があり、一過硫酸カリウムの方が好ましい。また、過酸化水素は、系内に金属塩が存在すると、不均化してヒドロキシラジカルが生じ、セルロースを攻撃してパルプ粘度に影響を与える可能性がある。セルロースは、加熱により変性し共役二重結合が生成され、可視光を吸収することで変色が見られる他に、カルバメート化反応によって、アミノ酸と還元糖とともにメイラード反応を起こして褐色物質を生成する。次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系漂白剤は、着色の原因である二重結合だけでなく、カルバメート基が脱離し、導入量が低下する恐れがある。過酸化水素を用いて漂白する場合、pH10以上の強アルカリ条件化にする必要があるため、同様にカルバメート基が脱離する恐れがある。つまり、中性から酸性領域で使用できるオゾン、二酸化塩素、モノ過硫酸、過硫酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、ペルオキソ二過硫酸アンモニウムが好ましく、ラジカル反応では望まない副反応が考えられるため、ラジカル反応ではない一過硫酸カリウムが好ましい。
【0059】
漂白剤で漂白するにあたっては、反応温度90度以下、かつpH7以下の条件とするのが好ましく、反応温度10~90度、かつpH2~7の条件とするのがより好ましく、反応温度30~90度、かつpH4~7の条件とするのが特に好ましい。反応温度が90℃を超えると、漂白剤が分解し、漂白効果が低下することで、反応効率が頭打ちとなる恐れがある。加えて、高圧下での反応となるため多大なエネルギーが必要となる。また、反応温度が10度未満だと、漂白剤が溶解せず溶媒中に溶け残る恐れがある。さらに、反応速度が著しく低下するため、多大な反応時間を要する恐れがある。一方で、pH7を超えるとカルバメート基が脱離し、カルバメート基導入量が低下する恐れがあるためである。
【0060】
漂白剤として一過硫酸カリウムを使用する場合、この一過硫酸カリウムの添加量は、1~100kg/ptとするのが好ましく、3~80kg/ptとするのがより好ましく、5~50kg/ptとするのが特に好ましい。一過硫酸カリウムの添加量が1kg/pt未満であると、漂白効果が不十分となる可能性がある。他方、一過硫酸カリウムの添加量が100kg/ptを超えると、添加に見合った効果が得られないばかりでなく、繊維長が短くなり、樹脂の補強効果が低下する可能性がある。
【0061】
(前処理)
漂白したカルバメート化セルロース繊維は、微細化(解繊)するに先立って化学的手法によって前処理することができる。化学的手法による前処理としては、例えば、酸による多糖の加水分解(酸処理)、酵素による多糖の加水分解(酵素処理)、アルカリによる多糖の膨潤(アルカリ処理)、酸化剤による多糖の酸化(酸化処理)、還元剤による多糖の還元(還元処理)等を例示することができる。ただし、化学的手法による前処理としては、酵素処理を施すのが好ましく、加えて酸処理、アルカリ処理、及び酸化処理の中から選択された1又は2以上の処理を施すのがより好ましい。以下、酵素処理について詳細に説明する。
【0062】
なお、前述した漂白は、着色の原因物質(主に共役した二重結合をもつ分子(リグニン、カラメル反応物等))を酸化又は還元して水に溶ける状態とし、ろ液と一緒に系外に排出することで白色化するものである。他方、以下で述べる酵素処理は、微細化を容易にするための処理であり、単にセルロースをグルコースに分解するものである。
【0063】
酵素処理に使用する酵素としては、セルラーゼ系酵素及びヘミセルラーゼ系酵素の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましく、両方を併用するのがより好ましい。これらの酵素を使用すると、セルロース繊維の解繊がより容易になる。なお、セルラーゼ系酵素は、水共存下でセルロースの分解を惹き起こす。また、ヘミセルラーゼ系酵素は、水共存下でヘミセルロースの分解を惹き起こす。
【0064】
セルラーゼ系酵素としては、例えば、トリコデルマ(Trichoderma、糸状菌)属、アクレモニウム(Acremonium、糸状菌)属、アスペルギルス(Aspergillus、糸状菌)属、ファネロケエテ(Phanerochaete、担子菌)属、トラメテス(Trametes、担子菌)属、フーミコラ(Humicola、糸状菌)属、バチルス(Bacillus、細菌)属、スエヒロタケ(Schizophyllum、担子菌)属、ストレプトミセス(Streptomyces、細菌)属、シュードモナス(Pseudomonas、細菌)属などが産生する酵素を使用することができる。これらのセルラーゼ系酵素は、試薬や市販品として購入可能である。市販品としては、例えば、セルロイシンT2(エイチピィアイ社製)、メイセラ-ゼ(明治製菓社製)、ノボザイム188(ノボザイム社製)、マルティフェクトCX10L(ジェネンコア社製)、セルラーゼ系酵素GC220(ジェネンコア社製)等を例示することができる。
【0065】
また、セルラーゼ系酵素としては、EG(エンドグルカナーゼ)及びCBH(セロビオハイドロラーゼ)のいずれかもを使用することもできる。EG及びCBHは、それぞれを単体で使用しても、混合して使用してもよい。また、ヘミセルラーゼ系酵素と混合して使用してもよい。
【0066】
ヘミセルラーゼ系酵素としては、例えば、キシランを分解する酵素であるキシラナーゼ(xylanase)、マンナンを分解する酵素であるマンナーゼ(mannase)、アラバンを分解する酵素であるアラバナーゼ(arabanase)等を使用することができる。また、ペクチンを分解する酵素であるペクチナーゼも使用することができる。
【0067】
ヘミセルロースは、植物細胞壁のセルロースミクロフィブリル間にあるペクチン類を除いた多糖類である。ヘミセルロースは多種多様で木材の種類や細胞壁の壁層間でも異なる。針葉樹の2次壁では、グルコマンナンが主成分であり、広葉樹の2次壁では4-O-メチルグルクロノキシランが主成分である。そこで、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)から微細繊維を得る場合は、マンナーゼを使用するのが好ましい。また、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)から微細繊維を得る場合は、キシラナーゼを使用するのが好ましい。
【0068】
セルロース繊維に対する酵素の添加量は、例えば、酵素の種類、原料となる木材の種類(針葉樹か広葉樹か)、機械パルプの種類等によって決まる。ただし、セルロース繊維に対する酵素の添加量は、好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.3~2.5質量%、特に好ましくは0.5~2質量%である。酵素の添加量が0.1質量%を下回ると、酵素の添加による効果が十分に得られないおそれがある。他方、酵素の添加量が3質量%を上回ると、セルロースが糖化され、微細繊維の収率が低下するおそれがある。また、添加量の増量に見合う効果の向上を認めることができないとの問題もある。
【0069】
酵素としてセルラーゼ系酵素を使用する場合、酵素処理時のpHは、酵素反応の反応性の観点から、弱酸性領域(pH=3.0~6.9)であるのが好ましい。他方、酵素としてヘミセルラーゼ系酵素を使用する場合、酵素処理時のpHは、弱アルカリ性領域(pH=7.1~10.0)であるのが好ましい。
【0070】
酵素処理時の温度は、酵素としてセルラーゼ系酵素及びヘミセルラーゼ系酵素のいずれを使用する場合においても、好ましくは30~70℃、より好ましくは35~65℃、特に好ましくは40~60℃である。酵素処理時の温度が30℃以上であれば、酵素活性が低下し難くなり、処理時間の長期化を防止することができる。他方、酵素処理時の温度が70℃以下であれば、酵素の失活を防止することができる。
【0071】
酵素処理の時間は、例えば、酵素の種類、酵素処理の温度、酵素処理時のpH等によって決まる。ただし、一般的な酵素処理の時間は、0.5~24時間である。
【0072】
酵素処理した後には、酵素を失活させるのが好ましい。酵素を失活させる方法としては、例えば、アルカリ水溶液(好ましくはpH10以上、より好ましくはpH11以上)を添加する方法、80~100℃の熱水を添加する方法等が存在する。
【0073】
次に、アルカリ処理の方法について説明する。
【0074】
解繊に先立ってアルカリ処理すると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの水酸基が一部解離し、分子がアニオン化することで分子内及び分子間水素結合が弱まり、解繊におけるセルロース繊維の分散が促進される。
【0075】
アルカリ処理に使用するアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等の有機アルカリ等を使用することができる。ただし、製造コストの観点からは、水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
【0076】
解繊に先立って酵素処理や酸処理、酸化処理を施すと、セルロース繊維の保水度を低く、結晶化度を高くすることができ、かつ均質性を高くすることができる。この点、セルロース繊維の保水度が低いと脱水し易くなり、セルロース繊維スラリーの脱水性が向上する。
【0077】
セルロース繊維を酵素処理や酸処理、酸化処理すると、セルロース繊維が持つヘミセルロースやセルロースの非晶領域が分解される。結果、解繊のエネルギーを低減することができ、セルロース繊維の均一性や分散性を向上することができる。ただし、前処理は、セルロース繊維のアスペクト比を低下させるため、樹脂の補強材として使用する場合には、過度の前処理を避けるのが好ましい。
【0078】
(微細化)
漂白、前処理等をしたセルロース繊維は、微細化(解繊)する。この微細化は、例えば、ビーター、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、単軸混練機、多軸混練機、ニーダーリファイナー、ジェットミル等を使用してセルロース繊維を叩解することによって行うことができる。ただし、リファイナーやジェットミルを使用して行うのが好ましい。
【0079】
本形態において微細繊維である繊維状セルロース(セルロース繊維)は、平均繊維径が0.1μm以上のマイクロ繊維セルロース(ミクロフィブリル化セルロース)であるのが好ましい。マイクロ繊維セルロースであると、樹脂の補強効果が著しく向上する。
【0080】
より詳細には、マイクロ繊維セルロースは、セルロースナノファイバーよりも平均繊維幅の太い繊維を意味する。具体的には、平均繊維径が、例えば0.1~20μm、好ましくは0.2~15μm、より好ましくは0.5超~10μmである。マイクロ繊維セルロースの平均繊維径が0.1μmを下回ると(未満になると)、セルロースナノファイバーであるのと変わらなくなり、樹脂の強度(特に曲げ弾性率)向上効果が十分に得られないおそれがある。また、解繊時間が長くなり、大きなエネルギーが必要になる。さらに、セルロース繊維スラリーの脱水性が悪化する。脱水性が悪化すると、乾燥に大きなエネルギーが必要になり、乾燥に大きなエネルギーをかけるとマイクロ繊維セルロースが熱劣化して、強度が低下するおそれがある。他方、マイクロ繊維セルロースの平均繊維径が20μmを上回ると(超えると)、パルプであるのと変わらなくなり、補強効果が十分でなくなるおそれがある。
【0081】
微細繊維(マイクロ繊維セルロース及びセルロースナノファイバー)の平均繊維径の測定方法は、次のとおりである。
まず、固形分濃度0.01~0.1質量%の微細繊維の水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて3,000倍~30,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。具体的には、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に三本引く。さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。そして、計測値の中位径を平均繊維径とする。
【0082】
マイクロ繊維セルロースの平均繊維長(単繊維の長さの平均)は、好ましくは0.1~2.0mm、より好ましくは0.2~1.5mm、特に好ましくは0.3~1.2である。平均繊維長が0.1mmを下回ると、繊維同士の三次元ネットワークを形成できず、複合樹脂の補強効果(特に曲げ弾性率)が低下するおそれがある。他方、平均繊維長が2.0mmを上回ると、原料パルプと変わらない長さのため補強効果が不十分となるおそれがある。
【0083】
マイクロ繊維セルロースの原料となるセルロース繊維の平均繊維長は、好ましくは0.50~5.00mm、より好ましくは1.00~3.00mm、特に好ましくは1.50~2.50である。セルロース原料の平均繊維長が0.50mmを下回ると、解繊処理した際の、樹脂の補強効果が十分得られない可能性がある。他方、平均繊維長が5.00mmを上回ると、解繊時の製造コストの面で不利となるおそれがある。
【0084】
なお、漂白前後では、繊維長の低下率が50%以下であるのが好ましいと考えられる。
【0085】
マイクロ繊維セルロースの平均繊維長は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0086】
マイクロ繊維セルロースのFine率A(ファイン率A)は、10~90%であるのが好ましく、20~60%であるのがより好ましく、25~50%であるのが特に好ましい。ファイン率Aが10%以上であると、均質な繊維の割合が多く、複合樹脂の破壊が進行し難くなる。ただし、Fine率Aが90%を超えると、曲げ弾性率が不十分になる可能性がある。
【0087】
以上はマイクロ繊維セルロースのFine率Aであるが、マイクロ繊維セルロースの原料となるセルロース繊維のFine率Aも所定の範囲内としておくとより好ましいものとなる。具体的には、マイクロ繊維セルロースの原料となるセルロース繊維のFine率Aが、1%以上であるのが好ましく、3~25%であるのがより好ましく、5~20%であるのが特に好ましい。解繊前のセルロース原料のFine率Aが上記範囲内であれば、マイクロ繊維セルロースのFine率Aが10%以上になるように解繊したとしても繊維のダメージが少なく、樹脂の補強効果が向上すると考えられる。
【0088】
一方、マイクロ繊維セルロースのFine率B(ファイン率B)は、1~75%であるのが好ましく、10~75%であるのがより好ましく、35~75%であるのが特に好ましい。Fine率Bが1%未満であると、繊維長が短い繊維が多い、又は繊維幅の大きい繊維が多いことから、補強効果が十分でなくなる可能性がある。他方、Fine率Bが75%を超えると、細くて長い繊維が多くなり、繊維同士が絡まってしまい、外部から衝撃が加わった際に繊維の絡まり部分が異物のようにきっかけとなってそこから破断し、複合樹脂の曲げ物性や耐衝撃性が低下する可能性がある。
【0089】
Fine率A,Bの調整は、前述した一過硫酸カリウムの添加において漂白と同時に行うことができる。ただし、一過硫酸カリウムの添加が過多であると、セルロースの分子量が小さくなり、剛直性が失われると考えられるため樹脂の補強効果が低下する可能性がある。したがって、この観点からの一過硫酸カリウムの添加量は、好ましくは1~100kg/pt、より好ましくは3~80kg/pt、特に好ましくは5~50kg/ptである。
【0090】
本形態において「ファイン率A(Fine率A)」とは、繊維長が0.2mm以下で、かつ繊維幅が75μm以下であるセルロース繊維の質量基準の割合をいう。また、「ファイン率B(Fine率B)」とは、繊維長が0.2mmを超え、かつ繊維幅が10μm以下であるセルロース繊維の質量基準の割合をいう。
【0091】
セルロース繊維の繊維長等は、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定する。
【0092】
マイクロ繊維セルロースのアスペクト比は、好ましくは2~15,000、より好ましくは10~10,000である。アスペクト比が2を下回ると、三次元ネットワークを構築できないため、たとえ平均繊維長が0.02mmを超えたとしても、補強効果が不十分となるおそれがある。他方、アスペクト比が15,000を上回ると、マイクロ繊維セルロース同士の絡み合いが高くなり、樹脂中での分散が不十分となるおそれがある。
【0093】
アスペクト比とは、平均繊維長を平均繊維幅で除した値である。アスペクト比が大きいほど引っかかりが生じる箇所が多くなるため補強効果が上がるが、他方で引っかかりが多くなる分、樹脂の延性が低下するものと考えられる。
【0094】
マイクロ繊維セルロースのフィブリル化率は、好ましくは1.0~30.0%、より好ましくは1.5~20.0%、特に好ましくは2.0~15.0%である。フィブリル化率が30.0%を上回ると、水との接触面積が広くなり過ぎるため、たとえ平均繊維幅が0.1μm以上に留まる範囲で解繊したとしても、脱水が困難になる可能性がある。他方、フィブリル化率が1.0%下回ると、フィブリル同士の水素結合が少なく、強硬な三次元ネットワークを形成することができなくなるおそれがある。
【0095】
フィブリル化率とは、セルロース繊維をJIS-P-8220:2012「パルプ-離解方法」に準拠して離解し、得られた離解パルプをFiberLab.(Kajaani社)を用いて測定した値をいう。
【0096】
マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、特に好ましくは60%以上である。結晶化度が50%を下回ると、パルプやセルロースナノファイバーとの混合性は向上するものの、繊維自体の強度が低下するため、樹脂の強度を向上することができなくなるおそれがある。他方、マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、特に好ましくは85%以下である。結晶化度が95%を上回ると、分子内の強固な水素結合割合が多くなり、繊維自体が剛直となり、分散性が劣るようになる。
【0097】
マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0098】
結晶化度は、JIS K 0131(1996)に準拠して測定した値である。
【0099】
マイクロ繊維セルロースのパルプ粘度は、好ましくは2cps以上、より好ましくは4cps以上である。マイクロ繊維セルロースのパルプ粘度が2cpsを下回ると、マイクロ繊維セルロースの凝集を抑制するのが困難になるおそれがある。
【0100】
パルプ粘度は、TAPPI T 230に準拠して測定した値である。
【0101】
マイクロ繊維セルロースのフリーネスは、好ましくは500ml以下、より好ましくは300ml以下、特に好ましくは100ml以下である。マイクロ繊維セルロースのフリーネスが500mlを上回ると、マイクロ繊維セルロースの平均繊維径が10μmを超え、樹脂の強度向上効果が十分に得られなくなるおそれがある。
【0102】
フリーネスは、JIS P8121-2(2012)に準拠して測定した値である。
【0103】
マイクロ繊維セルロースのゼータ電位は、好ましくは-150~20mV、より好ましくは-100~0mV、特に好ましくは-80~-10mVである。ゼータ電位が-150mVを下回ると、樹脂との相溶性が著しく低下し補強効果が不十分となるおそれがある。他方、ゼータ電位が20mVを上回ると、分散安定性が低下するおそれがある。
【0104】
(スラリー)
【0105】
マイクロ繊維セルロースは、必要により、水系媒体中に分散して分散液(スラリー)にする。水系媒体は、全量が水であるのが特に好ましいが、一部が水と相溶性を有する他の液体である水系媒体も使用することができる。他の液体としては、炭素数3以下の低級アルコール類等を使用することができる。
【0106】
スラリーの固形分濃度は、好ましくは0.1~10.0質量%、より好ましくは0.5~5.0質量%である。固形分濃度が0.1質量%を下回ると、脱水や乾燥する際に過大なエネルギーが必要となるおそれがある。他方、固形分濃度が10.0質量%を上回ると、スラリー自体の流動性が低下してしまい分散剤を使用する場合において均一に混合できなくなるおそれがある。
【0107】
(その他)
セルロース繊維には、マイクロ繊維セルロースと共にセルロースナノファイバーが含まれていてもよい。セルロースナノファイバーは、マイクロ繊維セルロースと同様に微細繊維であり、樹脂の強度向上にとってマイクロ繊維セルロースを補完する役割を有する。ただし、可能であれば、微細繊維としてセルロースナノファイバーを含むことなくマイクロ繊維セルロースのみによる方が好ましい。なお、セルロースナノファイバーの平均繊維径(平均繊維幅。単繊維の直径平均。)は、好ましくは4~100nm、より好ましくは10~80nmである。
【0108】
また、セルロース繊維には、パルプが含まれていてもよい。パルプは、セルロース繊維スラリーの脱水性を大幅に向上する役割を有する。ただし、パルプについてもセルロースナノファイバーの場合と同様に、配合しないのが、つまり含有率0質量%であるのが最も好ましい。
【実施例0109】
次に、本発明の実施例について、説明する。
試験例1~9及び15,16は、以下の手順でカルバメート変性セルロースを得た。
まず、パルプスラリーにサイズ剤を添加し、所定のコッブサイズ度、坪量となるようパルプシートを製造した。次いで、塗工設備にて固形分濃度40%の尿素水溶液を用いて、固形分換算の質量比でパルプ:尿素が所定の割合となるように塗工して、アフタードライヤーで乾燥させ、尿素塗工紙を得た。得られた尿素塗工紙は、ロールtoロール反応装置で所定の温度・時間で反応させて、カルバメート変性セルロースを得た。
【0110】
一方、試験例10~14及び17は、以下の手順でカルバメート変性セルロースを得た。
まず、水分率10%以下の針葉樹クラフトパルプと濃度30%の尿素水溶液を所定の割合となるように含浸して混合物とし、これを105℃で乾燥させ、反応温度160℃、反応時間1時間で加熱処理し、カルバメート変性セルロースを得た。なお、以上の詳細については、表2にも示している。
【0111】
【0112】
【0113】
以上のようにしてカルバメート変性セルロースを得た後は、以下の手順で漂白カルバメート変性セルロースを製造した。
まず、カルバメート変性セルロースを固形分濃度5%になるように水で希釈し、離解機を用いて離解した。離解して得られたカルバメート変性セルロースの水分散液は、脱水洗浄を2回繰り返した。
【0114】
上記の方法より得られた各々のカルバメート変性セルロースは以下の方法で漂白した。洗浄したカルバメート変性セルロースを所定のパルプ濃度となるように調整し、所定の添加量となるように漂白剤を加えて、ウォーターバスを用いて所定の温度となる水中に、所定の時間静置して漂白カルバメート変性セルロースを得た。この漂白の際のpHは、水酸化ナトリウム水溶液を用いることで調節した。得られた漂白カルバメート変性セルロースに対して蒸留水で希釈撹拌し、脱水洗浄を2回繰り返すことで、洗浄後の漂白カルバメート変性セルロースを得た。
【0115】
得られた各漂白カルバメート化セルロース繊維について、白色度復帰率及びカルバメート基の導入量低下率を表1に示した。なお、白色度復帰率とは、「漂白後の白色度/変性前の白色度」で算出した値である。白色度は、JIS P8148に準拠して測定した。また、導入量低下率とは、「(漂白前の導入量-漂白後の導入量)/漂白前の導入量×100」で算出した値である。さらに、一過硫酸カリウムとしては、オキソン(メーカー:TCI、型番:O0164)を使用した。なお、試験例11において、導入量低下率がプラスになっているのは、測定誤差であると思われる。
【0116】
(考察)
以上の結果から、反応温度の上限は90℃であると考えられる。以下の理由からである。
すなわち、反応温度の制御は、温度が下がりすぎると加熱し、上がりすぎると加熱を止めるというように行う。つまり、90℃を超えた場合においては、積極的に温度を下げるのではなく、消極的に温度が下がるようにするのである。したがって、反応温度の上限を90℃を超えるように設定すると、瞬間的に反応温度100℃に到達することがあり、系内の圧力が上がることで所望の漂白反応以外の繊維の分解等の望まない反応が起こる可能性がある。しかるに、反応効率を上げるためにはなるべく高い反応温度が好ましいが、反応温度100℃以上の不利益が極めて大きい。そこで、反応温度100℃に到達しない領域での管理が必要となり、反応温度の上限は90℃にあると考えるものである。ちなみに、反応温度100℃以上では、カルバメート基導入量が低下する他、圧力容器が必要となる等の不利益もある。なお、反応温度100℃以上が好ましくないのは、上記試験の結果から明らかである。