(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180919
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】積層造形方法及び積層造形装置並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 64/393 20170101AFI20231214BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20231214BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231214BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20231214BHJP
B29C 64/321 20170101ALI20231214BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20231214BHJP
【FI】
B29C64/393
B29C64/118
B33Y10/00
B33Y30/00
B29C64/321
B33Y50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094603
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 真
(72)【発明者】
【氏名】安藤 鷹
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AC02
4F213AD16
4F213AR08
4F213AR12
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL32
4F213WL74
4F213WL85
4F213WL92
(57)【要約】
【課題】撚りを付与した連続強化繊維束を含むフィラメントを用いる場合でも、蛇行を生じさせずに狙い通りの造形が可能な積層造形方法及び積層造形装置並びにプログラムを提供する。
【解決手段】撚りを付与した連続強化繊維束に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂フィラメントを用いて、熱融解積層法により造形物を作製する積層造形方法であって、繊維強化樹脂フィラメントをヘッド部15に送給し、送給された繊維強化樹脂フィラメント11をヘッド部15で熱溶解して、溶解した造形材をヘッド部15と造形テーブル17とを相対移動させながらヘッド部15のノズル15aから吐出する造形工程を有する。造形工程におけるヘッド部15と造形テーブル17とのヘッド速度Vhと、ヘッド部15に送給する繊維強化樹脂フィラメント11の送給速度Vfとの速度比Vh/Vfを1より大きくする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撚りを付与した連続強化繊維束に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂フィラメントを用いて、熱融解積層法により造形物を作製する積層造形方法であって、
前記繊維強化樹脂フィラメントをヘッド部に送給するとともに、送給された前記繊維強化樹脂フィラメントを熱溶解した造形材を、前記ヘッド部と造形テーブルとを相対移動させながら前記ヘッド部のノズルから吐出する造形工程を有し、
前記造形工程における前記ヘッド部と前記造形テーブルとの相対速度であるヘッド速度Vhと、前記ヘッド部に送給する前記繊維強化樹脂フィラメントの送給速度Vfとの速度比Vh/Vfを1より大きくする、
積層造形方法。
【請求項2】
前記速度比Vh/Vfは、
0.985≦(Vh/Vf)/{(ΔLftw + Lftw)/Ltw}≦1.030
の関係を満足する、
請求項1に記載の積層造形方法。
Ltw :撚り1ピッチ当たりの繊維強化樹脂フィラメントの長さ
Lftw:撚り1ピッチ当たりの繊維強化樹脂フィラメント中の繊維束長さ
ΔLftw:撚り1ピッチ当たりの繊維強化樹脂フィラメント中の繊維束の引張による変形長さ
ε:強化繊維の破壊時におけるひずみ
【請求項3】
前記速度比Vh/Vfは、
Vh/Vf ≦ (ΔLftw + Lftw)/Ltw
の関係を満足する、
請求項1又は2に記載の積層造形方法。
Ltw :撚り1ピッチ当たりの繊維強化樹脂フィラメントの長さ
Lftw:撚り1ピッチ当たりの繊維強化樹脂フィラメント中の繊維束長さ
ΔLftw:撚り1ピッチ当たりの繊維強化樹脂フィラメント中の繊維束の引張による変形長さ
ε:強化繊維の破壊時におけるひずみ
【請求項4】
撚りを付与した連続強化繊維束に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂フィラメントを用いて、熱融解積層法により造形物を作製する積層造形装置であって、
前記繊維強化樹脂フィラメントを送給するフィラメント送給部と、
送給された前記繊維強化樹脂フィラメントを熱溶解し、溶解した造形材をノズルから吐出するヘッド部と、
前記ヘッド部に対向して配置され、造形面を有する造形テーブルと、
前記ヘッド部と造形テーブルとを相対移動させながら前記ヘッド部から前記造形材を吐出させる制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記ヘッド部と前記造形テーブルとの相対速度であるヘッド速度Vhを、前記ヘッド部に送給する前記繊維強化樹脂フィラメントの送給速度Vfより大きくする、
積層造形装置。
【請求項5】
撚りを付与した連続強化繊維束に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂フィラメントを用いて、熱融解積層法により造形物を作製する積層造形機能を実現するプログラムであって、
コンピュータに、
前記繊維強化樹脂フィラメントをヘッド部に送給し、送給された前記繊維強化樹脂フィラメントを熱溶解した造形材を前記ヘッド部と造形テーブルとを相対移動させながら前記ヘッド部のノズルから吐出する造形工程の機能と、
前記造形工程における前記ヘッド部と前記造形テーブルとの相対速度であるヘッド速度Vhを、前記ヘッド部に送給する前記繊維強化樹脂フィラメントの送給速度Vfより大きくする機能と、を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形方法及び積層造形装置並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
造形用の素材であるフィラメントをヘッド部に送給し、ヘッド部で加熱溶融してノズルから押出し、造形テーブル上に積層しながら造形する熱融解積層法(Fused Deposition Molding:FDM)が知られている。また、撚りを付与した連続強化繊維束に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂フィラメントを用いるFDM方式の積層造形方法が提案されている(特許文献1)。この方法によれば、造形物の強度を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、連続繊維強化樹脂フィラメントを用いて造形物を造形(印刷)する際、ヘッド部のノズルから加熱溶融された造形材を吐出させると、フィラメント中の連続強化繊維に起因して、吐出された造形材に蛇行が生じて直線状に印刷できない場合があった。そのため、造形材を吐出する際に狙い通りのパスに沿った造形ができず、結果として、造形材が積層された造形物に空隙が発生して、強度の低下を招くことがあった。
【0005】
そこで本発明は、撚りを付与した連続強化繊維束を含むフィラメントを用いる場合でも、蛇行を生じさせずに狙い通りの造形が可能な積層造形方法及び積層造形装置並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 連続強化繊維束に樹脂を含浸させ撚りを付与した繊維強化樹脂フィラメントを用いて、熱融解積層法により造形物を作製する積層造形方法であって、
前記繊維強化樹脂フィラメントをヘッド部に送給するとともに、送給された前記繊維強化樹脂フィラメントを熱溶解した造形材を、前記ヘッド部と造形テーブルとを相対移動させながら前記ヘッド部のノズルから吐出する造形工程を有し、
前記造形工程における前記ヘッド部と前記造形テーブルとの相対速度であるヘッド速度Vhと、前記ヘッド部に送給する前記繊維強化樹脂フィラメントの送給速度Vfとの速度比Vh/Vfを1より大きくする、
積層造形方法。
(2) 連続強化繊維束に樹脂を含浸させ撚りを付与した繊維強化樹脂フィラメントを用いて、熱融解積層法により造形物を作製する積層造形装置であって、
前記繊維強化樹脂フィラメントを送給するフィラメント送給部と、
送給された前記繊維強化樹脂フィラメントを熱溶解し、溶解した造形材をノズルから吐出するヘッド部と、
前記ヘッド部に対向して配置され、造形面を有する造形テーブルと、
前記ヘッド部と造形テーブルとを相対移動させながら前記ヘッド部から前記造形材を吐出させる制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記ヘッド部と前記造形テーブルとの相対速度であるヘッド速度Vhを、前記ヘッド部に送給する前記繊維強化樹脂フィラメントの送給速度Vfより大きくする、
積層造形装置。
(3) 連続強化繊維束に樹脂を含浸させ撚りを付与した繊維強化樹脂フィラメントを用いて、熱融解積層法により造形物を作製する積層造形機能を実現するプログラムであって、
コンピュータに、
前記繊維強化樹脂フィラメントをヘッド部に送給し、送給された前記繊維強化樹脂フィラメントを熱溶解した造形材を前記ヘッド部と造形テーブルとを相対移動させながら前記ヘッド部のノズルから吐出する造形工程の機能と、
前記造形工程における前記ヘッド部と前記造形テーブルとの相対速度であるヘッド速度Vhを、前記ヘッドに送給する前記繊維強化樹脂フィラメントの送給速度Vfより大きくする機能と、を実現させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、撚りを付与した連続強化繊維束を含むフィラメントを用いる場合でも、蛇行を生じさせずに狙い通りの造形が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、FDM方式の積層造形装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、繊維強化樹脂フィラメントの模式的な斜視図である。
【
図3】
図3は、フィラメント内で撚りが付与された繊維束を模式的に示す説明図である。
【
図4】
図4は、
図3に示すフィラメントの側面の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
ここで示す積層造形装置は、熱融解積層法により造形物を作成する装置であって、撚りを付与した連続強化繊維束に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂フィラメントを造形材として用いる。
【0010】
<積層造形装置の構成>
図1は、FDM方式の積層造形装置100の概略構成図である。
積層造形装置100は、繊維強化樹脂フィラメント(以下、フィラメントともいう。)11を送給するフィラメント送給部13と、ヘッド部15と、造形テーブル17と、成形駆動部19と、制御部21とを備える。
【0011】
フィラメント送給部13は、フィラメント11を挟み込む一対の駆動ローラ13aと、少なくとも一方の駆動ローラ13aを回転駆動させるモータ等の駆動部(不図示)とを備える。
ヘッド部15は、送給されたフィラメント11を熱溶解する不図示の加熱部と、加熱部により溶解した造形材を吐出するノズル15aを有する。また、図示はしないが、フィラメント11に含まれる強化繊維を切断するカッター、レーザ切断装置等の切断部が設けられていてもよい。
【0012】
造形テーブル17は、ヘッド部15のノズル15aに対向して配置され、造形物を積層する造形面17aを有する。
成形駆動部19は、ヘッド部15と造形テーブル17とを相対移動させて、ヘッド部15のノズル15aから吐出される造形材を所望のパスに沿って形成する。例えば、成形駆動部19は、ヘッド部15を造形テーブル17の造形面17aの面内で移動させる2軸駆動機構と、造形テーブル17を昇降駆動することで積層高さを調整する昇降機構とを備えた構成でもよい。
【0013】
制御部21は、フィラメント送給部13によるフィラメントの送給と、成形駆動部19によるヘッド部15の相対移動とを制御する機能と、その他の各部を統括して制御する機能とを有する。制御部21には、フィラメント送給部13と成形駆動部19を含む各部を制御するプログラムが入力され、そのプログラムを実行することで所望の形状の造形物を積層造形する。この制御部21は、CPU等のプロセッサ、ROM,RAM等のメモリ、ハードディスクドライブHDD、ソリッドステートドライブSSD等のストレージ等を含むコンピュータにより構成される。
【0014】
<繊維強化樹脂ストランド>
図2は、繊維強化樹脂フィラメント11の模式的な斜視図である。
フィラメント11は、造形物を作製する造形原料として用いられ、強化繊維を含む連続した線状の樹脂材料である。このフィラメント11は、熱可塑性樹脂を含む基材31と、基材31中に配置され、軸方向Axに連続して延在する1つ又は複数の繊維束33とを有する。繊維束33は、多数の強化繊維を互いに撚り合わせて束ねたものであり、フィラメント11の中心軸に沿って撚りが付与されて螺線状に配置される。
【0015】
フィラメント11を構成する繊維束33の強化繊維には、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、ザイロン繊維等の有機繊維、ボロン繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、岩石繊維等の無機繊維が使用できる。強化繊維には、樹脂と繊維との密着強度を向上させる為に、表面処理を施した繊維を使用できる。
【0016】
基材31に含まれる熱可塑性樹脂には、ポリプロピレン又はポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート又はポリ乳酸等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエーテルイミド、ポリアリルイミド、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリルエーテルケトン、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン樹脂、液晶ポリマー、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール、又はポリフェニレンサルファイド等を使用できる。
【0017】
これら熱可塑性樹脂は、樹脂単独で用いてもよく、熱可塑性樹脂の耐熱性、熱変形温度、熱老化、引張特性、曲げ特性、クリープ特性、圧縮特性、疲労特性、衝撃特性、摺動特性を向上させる為に、複数の樹脂をブレンドした熱可塑性樹脂を用いてもよい。熱可塑性樹脂の一例として、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)/ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、PEEK/ポリベンゾイミダゾール(PBI)等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂は、炭素繊維、ガラス繊維等の短繊維、タルク等を樹脂に添加したものであってもよい。
【0018】
熱可塑性樹脂に、フェノール系、チオエーテル系、ホスファイト系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系又はトリアジン系等の紫外線吸収剤、ヒドラジド系又はアミド系等の金属不活性化剤等を添加して、造形物の耐久性を向上させてもよい。
【0019】
フタル酸系、ポリエスル系等の可塑剤を熱可塑性樹脂に添加すると、柔軟性が向上し、造形時の造形精度と、造形物の柔軟性とを向上できる。
【0020】
ハロゲン系、リン酸エステル系、無機系、イントメッセント系の難燃剤を熱可塑性樹脂に添加すると、造形物の難燃性を向上できる。
【0021】
リン酸エステル金属塩系、ソルビトール等の核材を熱可塑性樹脂に添加すると、造形時の熱膨張を制御して造形精度を向上できる。
【0022】
非イオン径、アニオン系、カチオン系等の永久帯電防止剤を熱可塑性樹脂に添加すると、造形物の静電気防止性を向上できる。
【0023】
炭化水素系、金属石鹸系等の滑剤を熱可塑性樹脂に添加し、連続繊維強化ストランドの滑性を向上させることで、造形時のストランドの送り出しを円滑にできる。
【0024】
<ヘッド相対速度とフィラメントの送給速度>
本構成の積層造形装置100においては、制御部21により、フィラメント11をヘッド部15に送給し、送給されたフィラメント11をヘッド部15で熱溶解する。そして、溶解した造形材をヘッド部15と造形テーブル17とを相対移動させながらヘッド部15のノズル15aから吐出する造形工程を行う。その際、制御部21は、造形テーブル17の造形面17aの面内における、ヘッド部15と造形テーブル17との相対速度であるヘッド速度Vhを、ヘッド部15に送給するフィラメント11の送給速度Vfより大きく設定して、ヘッド速度Vhと送給速度Vfの速度比Vh/Vfを1より大きくする。
【0025】
ここでのヘッド速度Vhは、造形面17aを固定した状態で、ヘッド部15を造形面17aの面内で移動させるヘッド部15の移動速度であるが、ヘッド部15と造形テーブル17とを協働して移動させる場合には、造形テーブル17とヘッド部15との相対速度となる。例えば、ヘッド部15が固定され、造形テーブル17が移動する造形形式の場合、ヘッド速度Vhは、ヘッド部15に対する造形テーブル17の相対速度となる。
【0026】
速度比Vh/Vfを1より大きくすることにより、フィラメント11に含まれる繊維束33の過剰な供給が抑制され、ヘッド部15のノズル15aからフィラメント11が加熱溶融されて吐出された造形材Mに蛇行が生じにくくなる。その結果、設定したパス通りに造形できるため、造形物に意図しない空隙が生じることを防止して、造形物の強度の低下を抑制できる。
【0027】
また、造形物の積層造形方法において、速度比Vh/Vfを1より大きくするとともに、後述する更なる条件を満足させることで、吐出された造形材M中の強化繊維が破断及び損傷(毛羽立ち)させずに造形できる。これにより、造形物中の繊維破断、損傷(毛羽立ち)を抑制して、造形物の強度の低下をより確実に防止できる。
【0028】
以下に、上記した速度比Vh/Vfの条件について更に詳細に説明する。
図3は、フィラメント内で撚りが付与された繊維束を模式的に示す説明図である。
図4は、
図3に示すフィラメントの側面の展開図である。
繊維束がフィラメントの中心軸と平行に配置された場合、フィラメントの長さと繊維束の長さとは等しい。しかし、繊維束がフィラメントの中心軸に沿って螺線状に配置された場合、繊維束の撚り1ピッチ当たりのフィラメントの長さLtwにおいて、フィラメント中心Oから半径Rの位置で螺線状に巻かれた繊維束の長さLftwは、フィラメントの長さLtwよりも長くなる。即ち、撚りの1ピッチ当たりのフィラメントの長さLtwにおける繊維束の長さLftwは、撚り角αに応じてフィラメントの半径Rから式(1)で表せる。
Lftw=√{Ltw
2+(2πR)
2} ・・・式(1)
【0029】
また、繊維束には、造形時においてノズル15aから吐出した後の造形材Mの固化によって引張力が作用することがある。その場合、造形時のフィラメント中の繊維束の長さは、元の繊維束の長さLftwに強化繊維の破壊時におけるひずみεを乗じた値εLftw(撚り1ピッチ当たりのフィラメント中の繊維束の引張による変形長さΔLftw)を、元の繊維束の長さLftwに加えた長さとなる。つまり、造形時の繊維束の長さは、フィラメントの長さLtwを基準とすると、式(2)に示すパラメータNを乗じた長さとなる。
N=(ΔLftw + Lftw)/Ltw ・・・式(2)
【0030】
ここで、変形長さΔLftwは、ヘッド速度Vhとフィラメントの送給速度Vfとの関係から予め実験的又は解析的に求めた、テーブル又は関係式により求められる。なお、引張による変形長さΔLftwの限界値に関しては、予め繊維のみを引張試験等にて破壊するまでの伸びを測定しておき、その破断までの変形量を用いて求めてもよい。
【0031】
フィラメントの長さとフィラメント中の繊維束の長さとが等しい場合、造形材の供給量と吐出量とが釣り合うように、造形時におけるヘッド速度Vhとフィラメントの送給速度Vfとを等しくするのが望ましい。しかし、上記のようにフィラメントの長さよりフィラメント中の繊維束の長さが長い場合、ヘッド速度Vhとフィラメントの送給速度Vfを等しくすると、ヘッド部15のノズルから加熱溶融されて吐出された造形材中の繊維束が余剰となり、この余剰となった繊維束によりパスに蛇行が生じる。
【0032】
そこで、ヘッド速度Vhとフィラメントの送給速度Vfとの速度比Vh/Vfを、1より大きくすることで、ヘッド速度Vhに対するノズル15aから加熱溶融され吐出される造形材M中の繊維束の供給量が適切となり、造形パスの蛇行が抑制される。
【0033】
また、式(3)に示す実験的に得られたパラメータKを、0.985以上、1.030以下の範囲に設定することで、加熱溶融して吐出された造形材に蛇行が生じず、吐出された造形材中の繊維束を破断させずに造形できる。その結果、造形物中の繊維破断が抑制され、造形物の強度を向上できる。
K=(Vh/Vf) / {(ΔLftw + Lftw)/Ltw} ・・・式(3)
なお、上記したパラメータKの範囲は、好ましくは0.990以上、より好ましくは1.000以上であり、好ましくは1.028以下、より好ましくは1.020以下である。また、パラメータKの最適値は1である。
【0034】
そして、速度比Vh/Vfは、式(2)のパラメータN以下であることが好ましい。つまり、式(4)を満足することで、速度比Vh/Vfに応じてフィラメントの長さと繊維束の長さとの差を設定することで、繊維束の供給量をより適正化できる。
Vh/Vf ≦ (ΔLftw + Lftw)/Ltw ・・・式(4)
【0035】
更に、前述した速度比Vh/Vfを1より大きくするとともに、パラメータKを上記した範囲に設定することで、ヘッド部15のノズル15aから加熱溶融されて吐出された造形材に蛇行が生じず、吐出された造形材中の繊維束に損傷(毛羽立ち、破断)を生じることなく造形できる。その結果、造形物中の繊維損傷(毛羽立ち)も抑制でき、造形物の強度が相乗的に向上する。
【実施例0036】
図1に示す積層造形装置100により、下記の性状のフィラメントを用いて造形した結果を表1に纏めて示す。
(試験条件)
・フィラメント
繊維束の強化繊維:1K炭素繊維
基材:ポリアミド樹脂
フィラメント径 0.288mm
撚り角:2°
撚り1ピッチ当たりのフィラメントの長さLtw: 25.939mm
撚り1ピッチ当たりの繊維束長さLftw: 25.954mm
強化繊維の破断時のひずみε:0.015
撚り1ピッチ当たりのフィラメント中の繊維束の引張による変形長さΔLftw:0.389mm
【0037】
【0038】
試験例1~6は、造形テーブルを固定してヘッド部を移動させる際のヘッド速度Vhを一定にして、フィラメントの送給速度Vfを変化させた。それぞれの条件で造形材を直線状に造形したときの蛇行の有無、繊維の毛羽立ち、繊維切れの有無を確認した。また、印刷性について、良好なレベルを「◎」、実用上問題ないレベルを「○」、吐出後に蛇行、毛羽立ち、繊維切れの少なくともいずれかが発生したレベルを「×」として段階評価した。
【0039】
試験例1では、ヘッド速度Vhを5.0mm/sとし、送給速度Vfを4.98m/sとした。この場合、速度比Vh/Vfは1.005であり、1より大きい。また、速度比Vh/Vfは、式(2)のパラメータN以下となっている。そして、パラメータKは0.989であり、前述した0.985以上、1.030以下の範囲内である。
試験例1の条件では、造形材を直線状に造形した直線印刷時において、造形パスの蛇行は無く、印刷性は良好であった。
【0040】
試験例2では、送給速度Vfを4.95mm/sに低下させて、速度比Vh/Vfを1.010とした。この速度比Vh/Vfは、パラメータN以下であった。また、パラメータKは0.994であった。
試験例2の条件では、試験例1と同じく、直線印刷時に蛇行を生じず、良好な印刷性が得られた。
【0041】
試験例3では、送給速度Vfを4.85mm/sに低下させて、速度比Vh/Vfを1.031とした。この速度比Vh/VfはパラメータNより大きかった。また、パラメータKは1.015であった。
試験例3の条件では、直線印刷時に蛇行は生じなかったが、印刷性が試験例1、2と比較して低下したが、実用上問題ない結果であった。
【0042】
試験例4では、送給速度Vfを4.80mm/sに低下させて、速度比Vh/Vfを1.042とした。この速度比Vh/Vhは、パラメータNより大きかった。また、パラメータKは1.026であった。
試験例4の条件では、直線印刷時に蛇行は生じなかったが、繊維の毛羽立ちが若干発生した。印刷性は試験例3と同等で、実用上問題ない結果であった。
【0043】
試験例5では、送給速度Vfを4.75mm/sに低下させて、速度比Vh/Vfを1.053とした。この速度比Vh/Vhは、パラメータNより大きかった。また、パラメータKは1.036であり、前述した0.985以上、1.030以下の範囲外となった。
試験例5の条件では、繊維切れが発生して印刷性が低下した。
【0044】
試験例6では、送給速度Vfをヘッド速度Vhと同じ5.0mm/sに設定して、速度比Vh/Vfを1.000とした。この速度比Vh/Vhは、パラメータN以下であった。パラメータKは0.984であり、前述した0.985以上、1.030以下の範囲外となった。
試験例6の条件では、直線印刷時に蛇行が生じて印刷性が低下した。
【0045】
以上の結果から、速度比Vh/Vfが1以上であると、直線印刷時における蛇行が抑制され、速度比Vh/VfがパラメータN以下であると、印刷性の向上が認められた。更に、パラメータKを0.985以上、1.030以下の範囲にすることで、繊維の毛羽立ちと繊維破断を防止する効果が得られた。
【0046】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0047】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 撚りを付与した連続強化繊維束に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂フィラメントを用いて、熱融解積層法により造形物を作製する積層造形方法であって、
前記繊維強化樹脂フィラメントをヘッド部に送給するとともに、送給された前記繊維強化樹脂フィラメントを熱溶解した造形材を、前記ヘッド部と造形テーブルとを相対移動させながら前記ヘッド部のノズルから吐出する造形工程を有し、
前記造形工程における前記ヘッド部と前記造形テーブルとの相対速度であるヘッド速度Vhと、前記ヘッド部に送給する前記繊維強化樹脂フィラメントの送給速度Vfとの速度比Vh/Vfを1より大きくする、
積層造形方法。
この積層造形方法によれば、ヘッド部のノズルからフィラメントが加熱溶融されて吐出された造形材に蛇行が生じず、設定したパス通りに造形できる。その結果、造形物に空隙が生じることを抑制して造形物の強度を向上できる。
【0048】
(2) 前記速度比Vh/Vfは、
0.985≦(Vh/Vf)/{(ΔLftw + Lftw)/Ltw}≦1.030
の関係を満足する、(1)に記載の積層造形方法。
Ltw :撚り1ピッチ当たりの繊維強化樹脂フィラメントの長さ
Lftw:撚り1ピッチ当たりの繊維強化樹脂フィラメント中の繊維束長さ
ΔLftw:撚り1ピッチ当たりの繊維強化樹脂フィラメント中の繊維束の引張による変形長さ
この積層造形方法によれば、加熱溶融して吐出された造形材に蛇行が生じず、吐出された造形材中の繊維束を破断させずに造形できる。その結果、造形物中の繊維破断が抑制され、造形物の強度を向上できる。
【0049】
(3) 前記速度比Vh/Vfは、
Vh/Vf ≦ (ΔLftw + Lftw)/Ltw
の関係を満足する、(1)又は(2)に記載の積層造形方法。
Ltw :撚り1ピッチ当たりの繊維強化樹脂フィラメントの長さ
Lftw:撚り1ピッチ当たりの繊維強化樹脂フィラメント中の繊維束長さ
ΔLftw:撚り1ピッチ当たりの繊維強化樹脂フィラメント中の繊維束の引張による変形長さ
この積層造形方法によれば、繊維束の供給量をより適正化できる。
【0050】
(4) 撚りを付与した連続強化繊維束に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂フィラメントを用いて、熱融解積層法により造形物を作製する積層造形装置であって、
前記繊維強化樹脂フィラメントを送給するフィラメント送給部と、
送給された前記繊維強化樹脂フィラメントを熱溶解し、溶解した造形材をノズルから吐出するヘッド部と、
前記ヘッド部に対向して配置され、造形面を有する造形テーブルと、
前記ヘッド部と造形テーブルとを相対移動させながら前記ヘッド部から前記造形材を吐出させる制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記ヘッド部と前記造形テーブルとの相対速度であるヘッド速度Vhを、前記ヘッド部に送給する前記繊維強化樹脂フィラメントの送給速度Vfより大きくする、
積層造形装置。
この積層造形装置によれば、制御部によるヘッド速度とフィラメントの送給速度との調整により、ヘッド部のノズルからフィラメントが加熱溶融されて吐出された造形材に蛇行が生じず、設定したパス通りに造形できる。その結果、造形物に空隙が生じることを抑制して造形物の強度を向上できる。
【0051】
(5) 撚りを付与した連続強化繊維束に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂フィラメントを用いて、熱融解積層法により造形物を作製する積層造形機能を実現するプログラムであって、
コンピュータに、
前記繊維強化樹脂フィラメントをヘッド部に送給し、送給された前記繊維強化樹脂フィラメントを熱溶解した造形材を前記ヘッド部と造形テーブルとを相対移動させながら前記ヘッド部のノズルから吐出する造形工程の機能と、
前記造形工程における前記ヘッド部と前記造形テーブルとの相対速度であるヘッド速度Vhを、前記ヘッド部に送給する前記繊維強化樹脂フィラメントの送給速度Vfより大きくする機能と、を実現させるためのプログラム。
このプログラムによれば、ヘッド部のノズルからフィラメントが加熱溶融されて吐出された造形材に蛇行が生じず、設定したパス通りに造形できる。その結果、造形物に空隙が生じることを抑制して造形物の強度を向上できる。