(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180920
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】ロボットの動作軌道生成方法、動作軌道生成装置、ロボットシステム、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B25J 9/22 20060101AFI20231214BHJP
G05B 19/42 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B25J9/22 A
G05B19/42 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094604
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
(72)【発明者】
【氏名】澤川 史明
【テーマコード(参考)】
3C269
3C707
【Fターム(参考)】
3C269AB12
3C269AB33
3C269BB09
3C269KK13
3C269SA33
3C707AS11
3C707BS12
3C707JS02
3C707LS11
3C707LS15
3C707LW08
(57)【要約】
【課題】本発明は、ロボットの制御に係る動作軌道の生成において、動作軌道の生成に要する処理時間を短縮しつつ、ロボットの適切な姿勢やその軌道を生成する。
【解決手段】作業位置に対する作業を行う際の、複数の駆動軸を有するロボットの動作の軌道を生成する動作軌道生成方法は、前記作業位置に対応して特定される動作条件を取得する取得工程と、前記動作条件に基づいて前記ロボットが実行可能な複数の動作の軌道を探索して、前記ロボットの動作の軌道を生成する生成工程と、を有し、前記生成工程において、前記動作条件と、複数の作業位置に対する作業方向とに基づいて、探索の優先度を決定し、当該優先度に基づいて前記複数の動作の軌道を探索する。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業位置に対する作業を行う際の、複数の駆動軸を有するロボットの動作の軌道を生成する動作軌道生成方法であって、
前記作業位置に対応して特定される動作条件を取得する取得工程と、
前記動作条件に基づいて前記ロボットが実行可能な複数の動作の軌道を探索して、前記ロボットの動作の軌道を生成する生成工程と、
を有し、
前記生成工程において、前記動作条件と、複数の作業位置に対する作業方向とに基づいて、探索の優先度を決定し、当該優先度に基づいて前記複数の動作の軌道を探索する、動作軌道生成方法。
【請求項2】
前記優先度に基づいて探索を行った動作の軌道に対する評価を行う評価工程を更に有し、
前記生成工程において、前記評価工程にて得られた評価が閾値以上である動作の軌道が導出された場合、当該動作の軌道に決定し、前記探索を終了させる、
請求項1に記載の動作軌道生成方法。
【請求項3】
前記優先度は、前記動作条件に対応して予め規定されたデータベースを用いて決定される、請求項1に記載の動作軌道生成方法。
【請求項4】
前記優先度は、前記動作条件を入力とし、前記探索の優先度を出力として機械学習処理が行われた学習済みモデルを用いて決定される、請求項1に記載の動作軌道生成方法。
【請求項5】
前記優先度は、前記動作条件をパラメータとして用いる評価関数にて決定される、請求項1に記載の動作軌道生成方法。
【請求項6】
前記優先度は、作業位置に対する前記ロボットの先端部の姿勢ごとの前記探索の順番を規定する、請求項1に記載の動作軌道生成方法。
【請求項7】
前記ロボットは、溶接ロボットであり、
前記先端部は、溶接トーチであり、
前記作業方向は、溶接方向である、請求項6に記載の動作軌道生成方法。
【請求項8】
作業位置に対する作業を行う際の、複数の駆動軸を有するロボットの動作の軌道を生成する動作軌道生成装置であって、
作業位置に対応して特定される動作条件を取得する取得手段と、
前記動作条件に基づいて前記ロボットが実行可能な複数の動作の軌道を探索して、前記ロボットの動作の軌道を決定する決定手段と、
を有し、
前記決定手段は、前記動作条件と、複数の作業位置に対する作業方向とに基づいて、探索の優先度を決定し、当該優先度に基づいて前記複数の動作の軌道を探索する、動作軌道生成装置。
【請求項9】
複数の駆動軸を有するロボットと、
請求項8に記載の動作軌道生成装置と、
を備える、ロボットシステム。
【請求項10】
コンピュータに、
複数の駆動軸を有するロボットにより作業を行う作業位置に対応して特定される動作条件を取得する取得工程と、
前記動作条件に基づいて前記ロボットが実行可能な複数の動作の軌道を探索して、前記ロボットの動作の軌道を生成する生成工程と、
を実行させ、
前記生成工程において、前記動作条件と、複数の作業位置に対する作業方向とに基づいて、探索の優先度を決定し、当該優先度に基づいて前記複数の動作の軌道を探索する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットの動作軌道生成方法、動作軌道生成装置、ロボットシステム、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークに対して所定の作業を実施するロボットは、その発展により様々な産業分野で多用されている。このようなロボットは、アームを備え、アームの姿勢を制御することで、所定の作業を行うためのアームの先端部の位置を調整している。ロボットの制御においては、教示データを生成し、その教示データに基づいてロボットを動作させることが行われている。教示データの生成では、ロボットの利用者が個別に人手で設定を行ったり、ロボットに設けられた動作軌道生成装置で自動的に生成させたりすることが行われている。また、ロボットの姿勢やその一連の動作における軌道を制御する際には、ワークの状態の他、周囲の干渉物などの影響も考慮する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1では、複数の軸を有する多関節型の溶接ロボットにおいて、入力された目標姿勢に基づいて、アーム先端の溶接トーチがとり得る設定姿勢を探索し、自動設定するための構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、教示データの生成を人手で行う場合には、様々なパラメータを考慮する必要があり、非常に作業負荷が高いものとなる。一方、動作軌道生成装置により教示データの生成を行わせる場合であっても、その適切な軌道を算出するために多くの選択肢の中から探索を行う必要があり、処理時間が長くなる場合がある。このため、より短い処理時間でロボットの動作軌道を決定する方法が求められている。
【0006】
本発明は、ロボットの制御に係る動作軌道の生成において、動作軌道の生成に要する処理時間を短縮しつつ、ロボットの適切な姿勢やその軌道を生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は以下の構成を有する。すなわち、作業位置に対する作業を行う際の、複数の駆動軸を有するロボットの動作の軌道を生成する動作軌道生成方法は、
前記作業位置に対応して特定される動作条件を取得する取得工程と、
前記動作条件に基づいて前記ロボットが実行可能な複数の動作の軌道を探索して、前記ロボットの動作の軌道を生成する生成工程と、
を有し、
前記生成工程において、前記動作条件と、複数の作業位置に対する作業方向とに基づいて、探索の優先度を決定し、当該優先度に基づいて前記複数の動作の軌道を探索する。
【0008】
また、本発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、作業位置に対する作業を行う際の、複数の駆動軸を有するロボットの動作の軌道を生成する動作軌道生成装置は、
前記作業位置に対応して特定される動作条件を取得する取得手段と、
前記動作条件に基づいて前記ロボットが実行可能な複数の動作の軌道を探索して、前記ロボットの動作の軌道を生成する生成手段と、
を有し、
前記生成手段は、前記動作条件と、複数の作業位置に対する作業方向とに基づいて、探索の優先度を決定し、当該優先度に基づいて前記複数の動作の軌道を探索する。
【0009】
また、本発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、ロボットシステムは、
複数の駆動軸を有するロボットと、
動作軌道生成装置と、
を備え、
前記動作軌道生成装置は、
作業位置に対応して特定される動作条件を取得する取得手段と、
前記動作条件に基づいて前記ロボットが実行可能な複数の動作の軌道を探索して、前記ロボットの動作の軌道を生成する生成手段と、
を有し、
前記生成手段は、前記動作条件と、複数の作業位置に対する作業方向とに基づいて、探索の優先度を決定し、当該優先度に基づいて前記複数の動作の軌道を探索する。
【0010】
また、本発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、プログラムは、
コンピュータに、
複数の駆動軸を有するロボットにより作業を行う作業位置に対応して特定される動作条件を取得する取得工程と、
前記動作条件に基づいて前記ロボットが実行可能な複数の動作の軌道を探索して、前記ロボットの動作の軌道を生成する生成工程と、
を実行させ、
前記生成工程において、前記動作条件と、複数の作業位置に対する作業方向とに基づいて、探索の優先度を決定し、当該優先度に基づいて前記複数の動作の軌道を探索する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ロボットの制御に係る動作軌道の生成において、動作軌道の生成に要する処理時間を短縮しつつ、ロボットの適切な姿勢やその一連の軌道を生成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る溶接システムの概略構成を示す概略図。
【
図2】本発明の一実施形態に係る情報処理装置の概略構成を示すブロック図。
【
図3】本発明の一実施形態に係る溶接姿勢を説明するための概略図。
【
図4】本発明の一実施形態に係るロボット姿勢を説明するための概略図。
【
図5A】本発明の一実施形態に係るポジショナの姿勢を説明するための説明図。
【
図5B】本発明の一実施形態に係るポジショナの姿勢を説明するための説明図。
【
図6A】本発明の一実施形態に係るトーチの角度を説明するための説明図。
【
図6B】本発明の一実施形態に係るトーチの角度を説明するための説明図。
【
図6C】本発明の一実施形態に係るトーチの角度を説明するための説明図。
【
図6D】本発明の一実施形態に係るトーチの角度を説明するための説明図。
【
図7】本発明の一実施形態に係るアーム先端の位置および姿勢の決定を説明するための説明図。
【
図8】本発明の一実施形態に係るアームの進入方向の探索を説明するための説明図。
【
図9】本発明の一実施形態に係るアームの進入方向の決定を説明するための説明図。
【
図10】本発明の一実施形態に係るアームの進入方向の決定を説明するための説明図。
【
図11】本発明の一実施形態に係る周方向でのロボット原点の探索を説明するための説明図。
【
図12】本発明の一実施形態に係る探索平面と格子点とを説明するための説明図。
【
図13】本発明の一実施形態に係る軌道探索に用いる優先度を説明するためのグラフ図。
【
図14A】本発明の一実施形態に係るトーチの角度の補正を説明するための概略図。
【
図14B】本発明の一実施形態に係るトーチの角度の補正を説明するための概略図。
【
図15】本発明の一実施形態に係る動作軌道生成処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を説明するための一実施形態であり、本発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。なお、以下の説明に用いる図面において、ロボットの構成や各部位の接続部分を一部簡略化したり、省略化している部分があるが、これらは限定的に解釈されることを意図するものではない。
【0014】
<第1の実施形態>
本実施形態では、本発明を適用可能なシステムの一例として、溶接システムを例に挙げて説明する。しかし、これに限定するものではなく、例えば6軸などの複数の軸にて動作可能なアームを有するロボットを備えたロボットシステムであって、そのアーム先端部の位置を所定の作業に応じて調整するために、ロボットの動作軌道を設定させる構成のロボットシステムであれば、本発明は適用可能である。また、本実施形態に係るシステムにおいて、そこに含まれる装置は特に限定されるものではなく、本実施形態に係る機能を有する装置を少なくとも含むように構成されてよい。なお、本実施形態において、動作の軌道(以下、「軌道」または「動作軌道」とも称する)とは、ある時点におけるロボットを構成する各部位の姿勢や、その姿勢となるための一連の動作を含むものとする。
【0015】
[システムの構成例]
図1は、本実施形態に係る溶接システムの概略構成を示す概略図である。本実施形態に係る溶接システムSYは、ロボットMR、走行台車SL、ポジショナPS、制御装置CL、教示ペンダントTP、および動作データ生成装置Dを含んで構成される。なお、ここで示す構成は一例であり、例えば、本実施形態のように溶接システムの場合、不図示の溶接電源を供給する電源装置、ロボットMRへのワイヤの送給を行うワイヤ送給装置、溶接個所周辺を撮影する撮影装置、各種情報を検出するためのセンサなどを更に含んで構成されてよい。
【0016】
走行台車SLは、ワークWKに対し所定の作業を実施するロボットMRを搭載してスライドして移動する装置である。走行台車SLを設けることで、ロボットのアームの動作範囲よりも更に広い範囲をカバーして溶接を行うことが可能となる。走行台車SLは、制御装置CLに接続され、制御装置CLの制御に従って動作する。本実施形態では、溶接システムSYであるため、ワークWKに対して行われる所定の作業はアーク溶接であり、ロボットMRの先端部に設けられるツールは溶接トーチWTである。走行台車SLは、
図1に示すように、ワークWKに対して前後方向のX軸、左右方向のY軸および上下方向のZ軸の3軸方向に移動可能となっている。これらのX軸、Y軸、およびZ軸は、互いに直交し、XYZ直交座標系(ワールド座標系)を構成する。なお、
図1では、XYZ直交座標系は、走行台車SLの移動可能な方向を図示するために、走行台車SLと重ねて図示しているが、このXYZ直交座標系の原点は、例えば、ワークWKの所定の位置に設定されるワーク原点と一致するように設定されてよい。ワーク原点については、後述する。なお、以下の説明に用いる各図にてX軸、Y軸、Z軸により示す3次元座標軸はそれぞれ対応しているものとする。
【0017】
走行台車SLは、
図1に示す例では、台車ST、昇降部RF、および、架台PTを備える。台車STは、X軸方向およびY軸方向に移動可能なように構成される。昇降部RFは、台車ST上に取り付けられ、架台PTをZ軸方向に昇降し、断面略コ字形状でZ軸方向に延びる。架台PTは、ロボットMRが据え付けられる板状の構成を有する。
【0018】
ロボットMRは、制御装置CLに接続され、制御装置CLの制御に従って動作する。ロボットMRは、複数の関節を持つアームを備え、例えば、6個の第1関節J1~第6関節J6を備える自由度6の垂直6軸ロボット等の多関節ロボットである。例えば、
図1に示す例では、ロボットMRは、第1関節J1を備える第1リンクLK1と、第2関節J2を介して第1リンクLK1に接続される第2リンクLK2と、第4関節J4および第5関節J5を備え、第3関節J3を介して第2リンクLK2に接続される第3リンクLK3と、第6関節J6を介して第3リンクLK3に接続されるエンドエフェクターWRとを備える。ロボットMRのアームは、これら第1リンクLK1~第3リンクLK3、および、第1関節J1~第6関節J6を備えて構成される。エンドエフェクターWRの先端には、本実施形態では、溶接トーチWTが設けられる。ロボットMRは、溶接トーチWTから送り出される溶接ワイヤによりアーク溶接でワークWKを溶接可能なように構成される。
【0019】
ポジショナPSは、Y軸回りおよびZ軸回りの2軸回りθ1、θ2に回転可能にワークWKを把持する装置である。ポジショナPSは、制御装置CLに接続され、制御装置CLの制御に従って動作する。なお、本実施形態では、ロボットMRとポジショナPSが同じ制御装置CLに接続される構成を示したが、これに限定するものではなく、ロボットMRとポジショナPSが別個の制御装置にて制御され、これらが連携することで溶接を行うような構成であってもよい。また、ポジショナPSの構成も上記に限定するものではなく、例えば、作業対象のワークWKの形状などに応じて異なる構成のものが用いられてよい。
【0020】
教示ペンダントTPは、制御装置CLに接続され、走行台車SLおよびロボットMRを手動操作するためのハンディ型の操作装置である。教示ペンダントTPを用いた、走行台車SLおよびロボットMRの動作に対する教示では、手動操作によって走行台車SLおよびロボットMRを実際に動作させる。これにより、ワークWKに対する、走行台車SLの移動経路や位置および溶接トーチWTの移動経路や位置等が教示される。教示ペンダントTPには、例えば、溶接システムSYにおける各種操作を行うためのボタンや表示画面などが備えられてよい。
【0021】
制御装置CLは、走行台車SLおよびロボットMRを、教示ペンダントTPや動作データ生成装置Dで予め教示され作成された動作データに従って、走行台車SLおよびロボットMRを制御し、溶接トーチWTによりワークWKを溶接させる。本実施形態において、動作データには、教示により生成された教示データや、教示データなどに基づいてロボットMRや走行台車SLを動作させるための動作プログラムが含まれるものとする。
【0022】
動作データ生成装置Dは、動作目的に応じて走行台車SLおよびロボットMRを動作させるための動作データ(動作プログラム、教示データ)を作成する装置である。動作データ生成装置Dは、本実施形態に係る動作軌道生成方法を実行可能な動作軌道生成装置を少なくとも含んで構成される装置であって、例えば、PC(Personal Computer)などから構成される。動作データ生成装置Dは、動作データを作成する場合、走行台車SLおよびロボットMRをコンピュータの仮想空間における走行台車モデルおよび仮想ロボットモデルとして再現し、これらに走行台車SLおよびロボットMRの各動作を模擬させる。まず、ワークWK上の複数の溶接点(時系列に並ぶ複数の作業位置)が設定され、各溶接点を順次に繋ぐ連続した溶接線が設定される。そして、これら各溶接点および各溶接線で溶接する動作データが作成される。なお、ロボットMRの位置を決めれば、走行台車SLの位置も決まるため、走行台車モデルは、省略されてもよい。動作データ生成装置Dで作成された動作データは、記憶部202に記憶され、記憶部202から制御装置CLに読み込まれることで利用される。なお、動作データ生成装置Dは制御装置CLと一体であってもよい。
【0023】
図2は、本実施形態に係る動作データ生成装置Dとして利用可能な情報処理装置200の概略構成を示すブロック図である。つまり、情報処理装置200は、本実施形態に係る動作軌道生成装置として利用可能な構成を備える。情報処理装置200は、制御部201、記憶部202、通信部203、入力部204、表示部205、およびインタフェース(IF)部206を含んで構成される。
【0024】
制御部201は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)のうち少なくとも1つを用いて構成されてよい。また、記憶部202は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、ROM(Read Only Memory)、またはRAM(Random Access Memory)等の揮発性や不揮発性の記憶装置により構成される。制御部201が、記憶部202に記憶された各種プログラムを読み出して実行することにより、後述の各種機能を実現する。
【0025】
通信部203は、外部装置や各種センサとの通信を行うための部位である。通信部203による通信は有線/無線は問わず、また、その通信規格を限定するものでもない。入力部204は、情報処理装置200に各種情報を入力するための入力装置であり、例えば、所定の機能を割り付けられた複数の入力スイッチ、キーボードおよびマウス等により構成されてよい。入力部204を介して、例えば、教示開始を指示するコマンド等の各種コマンドや、動作データの名称や干渉範囲情報等の、溶接システムSYの稼働を行う上で必要な各種データが入力されてよい。
【0026】
表示部205は、各種情報を表示するための表示装置であり、例えばCRTディスプレイ、LCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等の表示装置等により構成されてよい。表示部205を介して、例えば、入力部204から入力されたコマンドやデータ、および、情報処理装置200によって生成された仮想空間における走行台車モデルおよび仮想ロボットモデル等が表示されてよい。なお、入力部204および表示部205は、これらが一体化したタッチパネルディスプレイより構成されてもよい。
【0027】
IF部206は、外部装置(例えば、制御装置CL)に接続され、外部装置とデータの送受信を行うための部位である。IF部206は、例えば、シリアル通信方式であるRS-232Cのインタフェース回路や、USB(Universal Serial Bus)規格を用いたインタフェース回路等にて構成されてよい。情報処理装置200内の各部位は、内部バス等により通信可能に接続される。
【0028】
[姿勢]
本実施形態の溶接システムSYにおける溶接トーチWTの姿勢、ロボットMRの姿勢、ポジショナPSによる姿勢について説明する。
【0029】
図3は、本実施形態の溶接システムSYにおける溶接トーチWTの姿勢を説明するための図である。
図3の例では、ワークWK1の面(以下、「基準面RS」と称する)に対し、ワークWK2が直交するように設置された例を示している。ワークWK1とワークWK2の接触位置において溶接線Lが設けられ、溶接線Lに沿った溶接方向、すなわち、作業方向にて溶接が行われる。また、溶接線Lは、複数の溶接点、すなわち、複数の作業点から構成される。このとき、ワークWK1の基準面RSと溶接トーチWTとがなす角をトーチ傾斜角αとして示す。また、ワークWK1の基準面RSから溶接線Lを軸としてトーチ傾斜角αを回転させた平面(以下、「仮想平面VP」と称する)上において、溶接線Lと、溶接トーチWTとがなす角を、溶接トーチWTのトーチ前進後退角βとして示す。ここで、溶接トーチWTの軸は、仮想平面VP上に位置する。また、溶接トーチWTの軸周りの角度をトーチ回転角γとして示す。なお、α、β、γそれぞれの角度の基準位置は予め規定されているものとするが、特に限定するものではない。
【0030】
図4は、本実施形態の溶接システムSYにおけるロボットMRの姿勢を説明するための図である。ここでは、上述したように、6軸の構成、すなわち、第1関節J1~第6関節J6を有するロボットの例を示す。α、β、γについては、
図3にて示した通りである。本実施形態において、第4関節J4、第5関節J5、第6関節J6の回転軸が1点で交わる点をロボットMRの手首回転中心とし、ここでは、第5関節J5の位置となる。なお、ロボットMRの姿勢を決定するためには、α、β、γの3つの角が必要となる。ここで、溶接の場合、溶接トーチWTの方向を決定できれば良いため、γの設定は任意となる。そのため、γの値を変更することで、ロボットMRの姿勢や動作範囲を目的の位置に変更することが可能となる。
【0031】
図5Aおよび
図5Bは、
図1に示したようにワークWKを把持したポジショナPSによるワークWKの姿勢を説明するための図である。ここでは、溶接トーチWTの姿勢を水平かつ下向きとした場合の例を示す。
図5Aおよび
図5Bにおいて、矢印により目的とする溶接線の位置を示す。
図1に示したように、ポジショナPSは、ワークWKに対し、X軸周りおよびZ軸周りにおいて回転角θ
1およびθ
2の回転が可能であり、ロボットMRに対するワークWKの姿勢を調整可能である。そのため、溶接トーチWTの姿勢を水平かつ下向きとした場合には、例えば、
図5Aおよび
図5Bの2つの姿勢を用いることができる。
【0032】
図6A~
図6Dは、溶接トーチWTの代表的な4つの姿勢の例を示す図である。溶接トーチWTは、ロボットMRの手首回転中心にて回転させてトーチ回転角γを調整することで様々な姿勢を取ることが可能であるが、本実施形態では、4つの姿勢を例に挙げて説明する。また、ここでは、図面手前側から奥側に向かう方向を溶接方向であるとする。
図6Aは、
図4を用いて説明したロボットMRの手首が、溶接トーチWTよりも上側(手首上)の姿勢を示す。
図6Bは、ロボットMRの手首が溶接トーチWTよりも下側(手首下)の姿勢を示す。
図6Cは、ロボットMRの手首が溶接方向の前側(手首前)の姿勢を示す。
図6Dは、ロボットMRの手首が溶接方向の後側(手首後)の姿勢を示す。
図6Aの手首上の姿勢では、γ=-90°とする。
図6Bの手首下の姿勢では、γ=90°とする。
図6Cの手首前の姿勢では、γ=180°とする。
図6Dの手首後の姿勢では、γ=0°とする。
【0033】
次に、本実施形態に係る、ロボットMRの姿勢およびその動作軌道を決定する流れについて説明する。以下の決定の流れは、情報処理装置200において、走行台車SLおよびロボットMRに対応する仮想空間上で行われる。
【0034】
まず、情報処理装置200は、所定の溶接位置に応じた溶接トーチWTの姿勢でのロボットMRの手首回転中心点を固定してロボットMRのアームの方向を、ワークWK周辺の干渉範囲と重ならないように、アーム進入方向として求める。手首回転中心点は、
図4を用いて説明したように、第4関節J4の第4回転軸、第5関節J5の第5回転軸および第6関節J6の第6回転軸が1点で交わる点である。
【0035】
干渉範囲は、所定の周辺環境におけるロボットMRが干渉する範囲を干渉範囲情報として規定されていてよい。干渉範囲情報は、干渉範囲が多角体である場合では干渉範囲の輪郭線における屈曲点の座標であってよいし、干渉範囲が球体である場合では干渉範囲の球体における中心点の座標および半径であってよい。より具体的には、干渉範囲は、ロボットMRの周囲環境に配置されている、例えば制御盤等の機器や、架台等の備品の障害物を模した3次元環境モデルである。干渉範囲情報は、3次元モデルを表す情報である。干渉範囲情報には、ロボットMRが干渉する範囲に限らず、所定の周囲環境における走行台車SLが干渉する範囲や、そのほかの溶接システムSYの構成要素が干渉する範囲を表す情報が含まれてよい。
【0036】
より具体的に説明すると、情報処理装置200は、
図7に示すように、所定の溶接点Qに対する溶接トーチWTの位置および姿勢を、記憶部202に予め記憶された施工情報に基づいて決定する。なお、溶接点Qは所定の作業位置の一例である。施工情報は、溶接条件や溶接線の開先に対する溶接トーチWTの姿勢等である。例えば、溶接トーチWTの位置は、
図5Aや
図5Bにて示したポジショナPSの位置や姿勢、ワークWK上の溶接線の位置や方向などに応じて特定される。
図7において手首回転中心点ROは、上述した、ロボットMRの第4関節J4、第5関節J5、第6関節J6の回転軸が1点で交わる点に対応し、固定された位置を示す。
【0037】
次に、情報処理装置200は、ロボットMRの周囲環境において、干渉範囲と重ならないように、ロボットMRのアームが進入できるアーム進入可能方向を探索する。より詳しくは、情報処理装置200は、
図8に示すように、ロボットMRの周囲環境に、記憶部202に記憶されている干渉範囲情報で表される干渉範囲ARを設定し、上記のように設定した溶接トーチWTの位置および姿勢での手首回転中心点ROを含む平面(例えば、水平平面内において、手首回転中心点ROを中心点とした円の周方向に所定の角度間隔(例えば5°、10°、15°、20°等の間隔)で周方向に、設定した干渉範囲ARに重ならない方向を、アーム進入可能方向として探索する。
図8では、全24個の方向、すなわち、角度間隔が15°の例を示している。角度間隔は、予め設定されていてもよいし、溶接システムSYの利用者が任意に設定可能であってもよい。この際に、ロボットMRのアームの太さや大きさが考慮されることが好ましい。例えば、ロボットMRのアーム(第3リンクLK3)の中心線とアーム進入可能方向とを一致させることによって、アームの大きさ等が考慮される。
図8に示す例では、干渉範囲ARと重なる方向(実線の矢印方向)は、評価点0点とされ、干渉範囲ARと重ならないがアームの大きさを考慮すると干渉範囲ARと重なる方向(一点鎖線)は、評価点1点とされ、干渉範囲ARと重ならず、かつ、アームの大きさを考慮しても干渉範囲ARと重ならない方向(破線)は、評価点2点とされている。本実施形態では、全24個の方向のうち、この評価点として2点が得られた計18個の各方向がアーム進入可能方向として抽出される。
【0038】
次に、情報処理装置200は、抽出された複数のアーム進入可能方向の中から、1つのアーム進入方向を選定し、決定する。
図8に示す例では、これら18個のアーム進入可能方向の中からいずれか1つが設定され、決定される。決定においては、所定のルールが用いられる。所定のルールは、適宜に設定されてよいが、例えば、所定の基準位置RPに最も近くなるように選定するルールが用いられてよい。本実施形態に係る溶接では、通常、ワークWKの正面の位置から、ロボットMRは、ワークWKの溶接点Qに接近する。そのため、本実施形態では、所定の基準位置RPは、ワークWKの正面位置に対応する。これにより、
図8に示す例では、
図9に示すように、情報処理装置200は、複数のアーム進入可能方向から、基準位置RPに最も近い1つのアーム進入可能方向がアーム進入方向ADとして選択され、決定される。これにより、上から見た、ロボットMRのアームのアーム進入方向ADが求められる。
図10には、このように決定されたアーム進入方向ADにロボットMRのアームが沿うように、ロボットMRを配置した様子が図示されている。ここで、ロボットMRは、厳密には仮想ロボットモデルである。
【0039】
次に、情報処理装置200は、決定されたアーム進入方向ADに基づいて走行台車SLの位置を求める。上述したように、ロボットMRの位置が決まれば、走行台車SLの位置も決まる。そのため、情報処理装置200は、決定されたアーム進入方向ADに基づいてロボットMRの位置を求めることによって、走行台車SLの位置を求める。アーム進入方向ADに基づくロボットMRの位置は、公知の手法を用いて求められてよい。
【0040】
走行台車SLの位置の決定方法の例としては、
図11および
図12に示すような2つの手法が挙げられる。なお、以下の2つの手法は排他的なものではなく、両方を組み合わせたり、切り替えたりして用いてもよい。
【0041】
図11は、探索平面内において、ロボットMRの第3関節の位置を中心点とする円の周方向でロボット原点を探索する場合を説明するための図である。
図11は、ロボットMRをY軸方向に沿って真横から見た図である。この場合では、情報処理装置200は、求めたアーム進入方向ADを含む探索平面内において、ロボット原点Oが、第3関節J3の位値を中心点とする円の周方向に設定された複数個の点のそれぞれに合致するように走行台車SLの位置を設定する。そして、情報処理装置200は、その走行台車SLの位置における各点の評価値を算出し、評価値に基づいて走行台車SLの位置を求める。
【0042】
より具体的には、情報処理装置200は、求めたアーム進入方向ADを含む探索平面内において、第3関節J3の位値を中心点とし、第3関節J3の位置からロボット原点Oまでの距離(第2リンクLK2の長さに応じて決まる距離)を半径とする円を設定し、この設定した円周上に複数の点を設定する。情報処理装置200は、複数の点それぞれについて、当該点とロボット原点Oとが一致するように、走行台車SLの位置を求め、干渉範囲を除いた走行台車SLの動作範囲内である走行台車SLの位置であって、かつ、ロボットMRの姿勢を決定する逆変換を実行できる走行台車SLの位置を位置候補として求める。情報処理装置200は、求めた位置候補それぞれに対応する各格子点の評価値を求める。評価値は、例えば、ロボットMRの特異姿勢からの余裕度、各軸の動作範囲境界からの余裕度、ロボットMRの姿勢における周囲環境やワークWKとの干渉やニアミスの程度、走行台車SLの各軸の動作範囲境界からの余裕度、作業位置Qi(i=1,2,…)が時系列に並ぶ複数である場合に走行台車SLの各軸の前回位置からの移動量、のいずれかを含む評価関数によって求められてよい。情報処理装置200は、各格子点の各評価値の中から、予め設定した所定の閾値以上であって最も高い評価値を持つ点を抽出し、この抽出した点での位置候補を走行台車SLの位置として決定する。
【0043】
図12は、決定したアーム進入方向を含む所定の範囲内において、探索平面における走行台車SLの位置を探索する場合を説明するための図である。
図12は、
図11と同様、ロボットMRをY軸方向に沿って真横から見た図である。この場合では、情報処理装置200は、決定したアーム進入方向を含み、かつ、ロボットMRの動作基点であるロボット原点Oがアーム進入方向AD上に位置する探索平面SPを設定する。情報処理装置200は、ロボット原点Oが探索平面SP内に設定された複数個の格子点のそれぞれに合致するように走行台車SLの位置を設定する。そして、情報処理装置200は、その走行台車SLの位置における各格子点の評価値を算出し、評価値に基づいて走行台車SLの位置を求める。なお、ポジショナPSの姿勢は、
図5Aや
図5Bを用いて説明したように、適宜に設定されるものとする。
【0044】
より具体的に説明すると、情報処理装置200は、例えば、
図12に示すように、決定したアーム進入方向ADを含み、かつ、ロボットMRの動作基点であるロボット原点Oを通りロボットMRの先端部(溶接トーチWTの先端部)が含まれる探索平面SP内でのロボットMRの動作範囲を求める。そして、情報処理装置200は、この求めた動作範囲内に離散的に複数個の格子点を設定する。したがって、ロボット原点Oは、アーム進入方向AD上に位置する。複数の格子点の間隔は、探索に十分な細かさで予め適宜に設定される。
【0045】
情報処理装置200は、複数の格子点それぞれについて、当該格子点とロボット原点Oが一致するように、走行台車SLの位置を求め、干渉範囲を除いた走行台車SLの動作範囲内である走行台車SLの位置であって、かつ、ロボットMRの姿勢を決定する逆変換を実行できる走行台車SLの位置を位置候補として求める。情報処理装置200は、求めた位置候補それぞれに対応する各格子点の評価値を求める。評価値は、
図11にて示した方法と同様、例えば、ロボットMRの姿勢からの余裕度、各軸の動作範囲境界からの余裕度、ロボットMRの姿勢における周囲環境やワークWKとの干渉やニアミスの程度、走行台車SLの各軸の動作範囲境界からの余裕度、作業位置Q
i(i=1,2,…)が時系列に並ぶ複数である場合に走行台車SLの各軸の前回位置からの移動量、のいずれかを含む評価関数によって求められてよい。情報処理装置200は、各格子点の各評価値の中から、予め設定した所定の閾値以上であって最も高い評価値を持つ格子点を抽出し、この抽出した格子点での位置候補を走行台車SLの位置として決定する。
【0046】
図12に示すロボット原点Oを座標原点とするxyz直交座標系は、ロボットMRの動作基点からアームの位置および姿勢を表すためのローカル座標系である。走行台車SLの位置が決まると、XYZ直交座標系とxyz直交座標系とが関連付けられる。
【0047】
ここで、ワークWKに対し、時系列に並ぶ複数の作業位置Qi(i=1,2,…)、すなわち、複数の溶接点がある場合、情報処理装置200は、複数の作業位置Qiおよびそれらにより規定される溶接線それぞれについて、時系列の順に、アーム進入方向ADiを求める。さらに、情報処理装置200は、求めた複数のアーム進入方向ADiそれぞれについて、走行台車SLの位置を求める。この場合、情報処理装置200は、時系列の順で前回のアーム進入方向ADi-1に最も近くなるように今回のアーム進入方向ADiを求める。
【0048】
なお、
図12に示すように、探索平面SP内において、手首回転中心点ROを固定して第3リンクLK3を移動可能である場合に、探索平面SPの各格子点で走行台車SLの位置を探索したが、第3リンクLK3が移動できない、あるいは、第3リンクLK3の移動範囲が狭い(少ない)場合には、
図11の方法にて、走行台車SLの位置が探索されてよい。
【0049】
[動作軌道決定処理]
次に、上述した手法に基づいて、本実施形態に係る動作軌道生成処理について説明する。上述したように、ロボットMRの動作の軌道を生成する際には、溶接位置、溶接方向、トーチ姿勢、走行台車SLの位置などの組み合わせを考慮して探索を行い、より適切な軌道を生成する必要がある。より具体的には、
図10を用いて説明したロボットMRのアプローチ方向、すなわち、アーム進入方向ADが決定した後、
図11や
図12を用いて説明した探索処理を行う場合、トーチ回転角γのパラメータごとに探索処理を行っている。例えば、
図6A~
図6Dを用いて示したように4つの溶接トーチWTの姿勢を例に挙げた場合、4つの姿勢それぞれに対して探索処理を行う。そのため、対象とするトーチ回転角γが増加するほど、探索処理の処理負荷は高い、言い換えると、処理時間が長いものとなっていた。更には、溶接点が多いほど、更にその処理時間は長いものとなる。
【0050】
そこで、本実施形態では、溶接システムSYにおけるロボットMRの姿勢およびその軌道を生成する際に、より効率的に動作軌道を生成する処理を行う方法について説明する。
【0051】
本実施形態では、
図3などを用いて説明した溶接線の方向をφとし、この溶接方向φ、トーチ傾斜角α、トーチ前進後退角βに基づいて、トーチ回転角γによる代表的な姿勢に優先度を設定する。なお、本実施形態では、代表的な姿勢としては、
図6A~
図6Dにて示した4つの姿勢を例に挙げて説明するが、これに限定するものではない。そして、優先度の高い姿勢から順番に探索を行い、その探索結果の評価値に応じて、ロボットMRの軌道を生成することで、無駄な探索を省略して、処理時間を短縮化する。
【0052】
(優先度DB)
本実施形態では、溶接方向φに対応する優先度を規定したデータベース(以下、DB)を予め設け、これを利用する。本実施形態に係るDBは、例えば、過去の溶接において用いた軌道のデータを解析、評価することで定義されてよい。
図13は、このDBにて規定された、溶接方向φごとの評価値をグラフとして表したものである。
図13において、横軸は溶接方向φを示し、縦軸は評価値合計、すなわち、トーチ回転角γの優先度に対応する採用率を示す。上述したように、トーチ回転角γ=0、90、180、-90[°]の4つの例を示している。
【0053】
例えば、
図13に示す溶接方向φの値の場合、評価値合計は順に、γ=-90、0、90、180[°]となる。したがって、優先度は、γ=-90、0、90、180[°]の順となり、探索順もこれに基づいて設定される。
【0054】
なお、溶接トーチWTの姿勢などに応じて、複数のDBが規定されてよい。例えば、溶接トーチWTの姿勢が、水平かつ下向きの場合、水平かつ横向きの場合、水平かつ上向きの場合など、それぞれに対応して、DBが規定されてよい。また、幾何学的に同値となるパラメータについては、そのデータを省略してDBのサイズを削減してもよい。例えば、γ=0とγ=180について評価値が同じになる場合には、一方のデータを削減し、共通的にデータを設定してもよい。
【0055】
また、溶接の場合、
図9等を用いて説明したように、通常、ロボットMRは、溶接線Lに対して正面(基準位置RPに相当)に位置する。しかし、
図14Aに示すように溶接トーチWTがロボットMRの正面にない場合もありうる。
図14Aは、溶接方向φがロボットMRの正面から回転角θ1の分だけ回転した位置にある場合の例を示している。このような場合であっても、別個のDBを用意する必要はなく、
図14Bに示すように、回転角θ1に基づいて回転補正を行うことを前提として、既存のDBを利用することが可能となる。
【0056】
(処理フロー)
以下、本実施形態に係る動作軌道生成処理の流れを説明する。
図15は、本実施形態に係る動作軌道生成処理の処理全体の流れを示すフローチャートである。各工程は、
図2に示す情報処理装置200の各部位が連携することで実現され、例えば、情報処理装置200の記憶部202に格納されたアプリケーションを制御部201が読み出して実行されることで動作させてよい。ここでは、説明を簡略化するために、処理主体を情報処理装置200としてまとめて記載する。本処理フローが開始される前に、施工情報や干渉範囲情報は予め設定されているものとする。また、
図13を用いて説明したようなDBも規定されているものとする。
【0057】
ステップS1501にて、情報処理装置200は、施工情報に基づいて、ワークWKに対する溶接条件を取得する。ここで取得される溶接条件としては、溶接トーチWTの姿勢(水平かつ下向き、など)、溶接線の位置、溶接線の開先情報などが挙げられる。また、施工情報により、
図5Aや
図5Bに示したようなポジショナPSの姿勢、すなわち、ワークWKの姿勢が決定される。
【0058】
ステップS1502にて、情報処理装置200は、ステップS1501にて取得した各種情報に基づいて、トーチ傾斜角α、トーチ前進後退角βを取得する。
【0059】
ステップS1503にて、情報処理装置200は、ステップS1501にて取得した各種情報に基づいて特定されるポジショナPSの姿勢およびワークWKの配置に基づき、ロボットMRから見た溶接線の位置および溶接方向φを決定する。このとき、情報処理装置200は、
図7~
図10を用いて説明したように、ロボットMRによる溶接線に対するアプローチ方向が特定される。なお、未確定のパラメータがある場合には、仮の値を用いて、溶接方向φを決定してもよい。
【0060】
ステップS1504にて、情報処理装置200は、探索対象となる複数のトーチ回転角γの候補を特定し、複数のトーチ回転角γの候補それぞれに対する優先度を、
図13を用いて説明したDBを参照して決定する。
図13の例の場合、複数のトーチ回転角γの候補として、γ=0、90、-90、180[°]を特定し、それぞれの優先度を決定する。なお、複数のトーチ回転角γの候補は予め規定されていてもよいし、溶接システムSYの利用者が指定可能に構成されてもよい。
【0061】
ステップS1505にて、情報処理装置200は、複数のトーチ回転角γの候補のうち、未処理の最も優先度の高いものに着目して、動作軌道の探索を行う。ここでの探索は、
図11や
図12を用いて説明したような方法にて行われる。
【0062】
ステップS1506にて、情報処理装置200は、ステップS1505にて探索されたロボットMRの動作軌道に対する評価を行う。評価値の導出方法は、特に限定するものでは無いが、例えば、必須条件に対する合否と、所定の計算式を用いた評価計算との2段階で行われてよい。
【0063】
必須条件としては、例えば、軌道上において、ロボットMRが干渉範囲に干渉するか、軌道において連続性があるか、動作範囲に含まれるか、座標の算出において座標系における順変換/逆変換は可能か、などが用いられてよい。必須条件を満たさない場合には、所定の計算式を用いた評価計算による評価値に関わらず、採用されないものとして扱ってよい。もしくは、必須条件を満たさない軌道に対して、溶接システムSYの利用者による調整を要するものとして扱ってもよい。
【0064】
所定の計算式を用いた評価計算としては、例えば、軌道におけるロボットMR周辺のケーブル(不図示)の巻き付き、ケーブルの干渉、アームの伸び状態や姿勢、所定の軸の変動、溶接トーチWTの姿勢などに対する指標を規定し、これらの指標に対する重み付け和などから求められてよい。ケーブルの巻き付きは、例えば、ロボットMRが備える複数の軸のうち、所定の軸の回転角の和が、所定の閾値以下か否かに基づいて判定してよい。ケーブルの干渉は、ケーブルの曲率半径を特定し、その曲率半径が所定の閾値以下か否かに基づいて判定してよい。なお、ここでの指標は一例であり、上記に限定するものではない。
【0065】
ステップS1507にて、情報処理装置200は、ステップS1506にて導出した評価値が、予め規定された閾値よりも高いか否かを判定する。評価値が閾値よりも高い場合には(ステップS1507にてYES)、情報処理装置200は、その軌道を用いるものとして決定し、本処理フローを終了する。この場合、未処理のトーチ回転角が残っていた場合でも、これらに対する探索処理は省略される。評価値が閾値以下である場合には(ステップS1507にてNO)、情報処理装置200の処理は、ステップS1508へ進む。
【0066】
ステップS1508にて、情報処理装置200は、未処理のトーチ回転角γがあるか否かを判定する。未処理のトーチ回転角γがある場合(ステップS1508にてYES)、情報処理装置200の処理は、ステップS1508へ戻り、処理を繰り返す。一方、未処理のトーチ回転角γが無い場合には(ステップS1508にてNO)、情報処理装置200の処理は、ステップS1509へ進む。
【0067】
ステップS1509にて、情報処理装置200は、ここまでに評価した動作軌道のうち、最も高い評価値を有する動作軌道を用いるものとして選定する。この選定された動作軌道に基づいて、ロボットMRの動作データ、より具体的には、教示データが生成される。そして、本処理フローを終了する。
【0068】
以上、本実施形態により、ロボットの制御に係る動作軌道の生成において、動作軌道の生成に要する処理時間を短縮しつつ、ロボットの適切な姿勢やその一連の軌道を生成することが可能となる。
【0069】
<その他の実施形態>
上記の実施形態では、優先度を設定する際には、予め規定されたDBを用いた例を示した。しかし、これに限定するものではなく、ニューラルネットワークを用いた機械学習処理により生成された学習済みモデルを用いてトーチ回転角γに対する優先度を設定してもよい。この場合、例えば、溶接位置、溶接方向、トーチ回転角などを入力データとし、複数のトーチ回転角それぞれの優先度を出力データとした教師データを用いて学習が行われることにより生成された学習済みモデルを用いてよい。なお、学習済みモデルを用いる構成の場合、教師データに含まれる入力データのパラメータは上記に限定するものではなく、例えば、第1の実施形態にて用いた各種情報のいずれかを用いてよい。
【0070】
また、DBの他にも、所定のルールベースによる評価関数にて、トーチ回転角γの優先度を決定してもよい。評価関数は、例えば、溶接位置、溶接方向などのパラメータの値に応じてトーチ回転角γを決定するように規定されてよい。さらには、機械学習による学習済みモデルの結果と、ルールベースの評価関数を組み合わせて、各トーチ回転角γの優先度を決定してもよい。
【0071】
本実施形態は、上述した1以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワークまたは記憶媒体等を用いてシステムまたは装置に供給し、そのシステムまたは装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0072】
また、本実施形態は、1以上の機能を実現する回路によって実現してもよい。なお、1以上の機能を実現する回路としては、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。
【0073】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 作業位置に対する作業を行う際の、複数の駆動軸を有するロボットの動作の軌道を決定する動作軌道生成方法であって、
前記作業位置に対応して特定される動作条件を取得する取得工程と、
前記動作条件に基づいて前記ロボットが実行可能な複数の動作の軌道を探索して、前記ロボットの動作の軌道を生成する生成工程と、
を有し、
前記生成工程において、前記動作条件と、複数の作業位置に対する作業方向とに基づいて、探索の優先度を決定し、当該優先度に基づいて前記複数の動作の軌道を探索する、動作軌道生成方法。
この構成によれば、ロボットの制御に係る動作軌道の生成において、動作軌道の生成に要する処理時間を短縮しつつ、ロボットの適切な姿勢やその一連の軌道を効率的に生成することが可能となる。
【0074】
(2) 前記優先度に基づいて探索を行った動作の軌道に対する評価を行う評価工程を更に有し、
前記生成工程において、前記評価工程にて得られた評価が閾値以上である動作の軌道が導出された場合、当該動作の軌道に決定し、前記探索を終了させる、
(1)に記載の動作軌道生成方法。
この構成によれば、予め規定された評価方法に基づいて、所定の閾値以上の動作軌道を導出できた時点で探索処理を打ち切ることで、無駄な探索を抑制し、ロボットの動作軌道を効率よく生成することが可能となる。
【0075】
(3) 前記優先度は、前記動作条件に対応して予め規定されたデータベースを用いて決定される、(1)または(2)に記載の動作軌道生成方法。
この構成によれば、ロボットの動作条件に対応して予め規定されたデータベースを用いて簡易に探索に係るロボットの姿勢の優先度を決定することが可能となる。
【0076】
(4) 前記優先度は、前記動作条件を入力とし、前記探索の優先度を出力として機械学習処理が行われた学習済みモデルを用いて決定される、(1)または(2)に記載の動作軌道生成方法。
この構成によれば、ロボットの動作条件に対応して予め機械学習により得られた学習済みモデルを用いて簡易に探索に係るロボットの姿勢の優先度を決定することが可能となる。
【0077】
(5) 前記優先度は、前記動作条件をパラメータとして用いる評価関数にて決定される、(1)または(2)に記載の動作軌道生成方法。
この構成によれば、ロボットの動作条件に対応して予め規定された評価関数を用いて簡易に探索に係るロボットの姿勢の優先度を決定することが可能となる。
【0078】
(6) 前記優先度は、作業位置に対する前記ロボットの先端部の姿勢ごとの前記探索の順番を規定する、(1)から(5)のいずれかに記載の動作軌道生成方法。
この構成によれば、探索を行う際の優先度として、ロボットの先端部の姿勢に対応した順番を設定することが可能となる。
【0079】
(7) 前記ロボットは、溶接ロボットであり、
前記先端部は、溶接トーチであり、
前記作業方向は、溶接方向である、(6)に記載の動作軌道生成方法。
この構成によれば、溶接システムに用いられるロボットの制御に係る動作軌道の生成において、溶接システム側での処理時間を短縮化して、ロボットの適切な姿勢やその一連の軌道を効率的に生成することが可能となる。
【0080】
(8) 作業位置に対する作業を行う際の、複数の駆動軸を有するロボットの動作の軌道を決定する動作軌道生成装置であって、
前記作業位置に対応して特定される動作条件を取得する取得手段と、
前記動作条件に基づいて前記ロボットが実行可能な複数の動作の軌道を探索して、前記ロボットの動作の軌道を生成する生成手段と、
を有し、
前記生成手段は、前記動作条件と、複数の作業位置に対する作業方向とに基づいて、探索の優先度を決定し、当該優先度に基づいて前記複数の動作の軌道を探索する、動作軌道生成装置。
この構成によれば、ロボットの制御に係る動作軌道の生成において、動作軌道の生成に要する処理時間を短縮しつつ、ロボットの適切な姿勢やその一連の軌道を効率的に生成することが可能となる。
【0081】
(9) 複数の駆動軸を有するロボットと、
上記の動作軌道生成装置と、
を備える、ロボットシステム。
この構成によれば、ロボットの制御に係る動作軌道の生成において、動作軌道の生成に要する処理時間を短縮しつつ、ロボットの適切な姿勢やその一連の軌道を効率的に生成することが可能なロボットシステムを提供することが可能となる。
【0082】
(10) コンピュータに、
複数の駆動軸を有するロボットにより作業を行う作業位置に対応して特定される動作条件を取得する取得工程と、
前記動作条件に基づいて前記ロボットが実行可能な複数の動作の軌道を探索して、前記ロボットの動作の軌道を生成する生成工程と、
を実行させ、
前記生成工程において、前記動作条件と、複数の作業位置に対する作業方向とに基づいて、探索の優先度を決定し、当該優先度に基づいて前記複数の動作の軌道を探索する、プログラム。
この構成によれば、ロボットの制御に係る動作軌道の生成において、動作軌道の生成に要する処理時間を短縮しつつ、ロボットの適切な姿勢やその一連の軌道を効率的に生成することが可能となる。
【符号の説明】
【0083】
SY…溶接システム
MR…ロボット
WR…エンドエフェクター
WT…溶接トーチ
WK…ワーク
PS…ポジショナ
CL…制御装置
TP…教示ペンダント
D…動作データ生成装置
SL…走行台車
PT…架台
ST…台車
RF…昇降部
200…情報処理装置
201…制御部
202…記憶部
203…通信部
204…入力部
205…表示部
206…IF部