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特開2023-180931金属膜および金属膜の製造方法ならびに半導体装置および半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180931
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】金属膜および金属膜の製造方法ならびに半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3205 20060101AFI20231214BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20231214BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20231214BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20231214BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20231214BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
H01L21/88 T
H01L21/285 301
H01L29/78 652M
H01L29/78 653A
H01L29/78 655B
H01L29/78 655A
H01L29/78 652Q
H01L29/78 658F
H01L29/78 655G
H01L21/60 301P
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094618
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 直
【テーマコード(参考)】
4M104
5F033
5F044
【Fターム(参考)】
4M104BB02
4M104BB04
4M104BB05
4M104BB18
4M104DD37
4M104GG06
4M104HH20
5F033HH07
5F033HH08
5F033HH09
5F033HH11
5F033HH15
5F033HH19
5F033PP15
5F033VV07
5F044EE04
5F044EE06
5F044EE11
(57)【要約】
【課題】ワイヤーボンディング時に高いクラック耐性(高硬度)を有する金属膜および金属膜の製造方法ならびに半導体装置および半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】金属膜MFは、複数の第1金属結晶粒GR2、GR3、GR4と、複数の第2金属結晶粒GR1、GR5とを有している。複数の第1金属結晶粒GR2、GR3、GR4の各々は転位DLを有している。複数の第2金属結晶粒GR1、GR5の各々は、転位DLを有しない。転位DLを有する第1金属結晶粒GR2、GR3、GR4の個数は、転位DLを有しない第2金属結晶粒GR1、GR5の個数よりも多い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が転位を有する複数の第1金属結晶粒と、
転位を有しない第2金属結晶粒と、を備え、
前記第1金属結晶粒の個数が前記第2金属結晶粒の個数よりも多い、金属膜。
【請求項2】
アルミニウム、タングステン、銅、コバルトおよびニッケルよりなる群から選ばれる1種以上を含む材質よりなる、請求項1に記載の金属膜。
【請求項3】
複数の前記第1金属結晶粒の各々における前記転位の密度は60個/μm2以上である、請求項1に記載の金属膜。
【請求項4】
前記第1金属結晶粒および前記第2金属結晶粒を含む複数の金属結晶粒の平均結晶粒径は1μm以上5μm以下である、請求項1に記載の金属膜。
【請求項5】
前記複数の金属結晶粒の平均結晶粒径は1.7μm以下である、請求項4に記載の金属膜。
【請求項6】
前記第1金属結晶粒と前記第2金属結晶粒とを含む複数の金属結晶粒の粒界に位置する第3金属結晶粒をさらに備え、
前記第3金属結晶粒は、前記第1金属結晶粒および前記第2金属結晶粒の各々とは異なる材質よりなる、請求項1に記載の金属膜。
【請求項7】
前記第1金属結晶粒および前記第2金属結晶粒の各々はアルミニウムを含む材質よりなり、
前記第3金属結晶粒はシリコンまたは銅を含む材質よりなる、請求項6に記載の金属膜。
【請求項8】
請求項1に記載の金属膜をボンディングパッドまたは配線として有する、半導体装置。
【請求項9】
複数の金属結晶粒を有する金属膜を形成する工程と、
前記金属膜に点欠陥を導入する工程と、
前記点欠陥の導入後に、前記複数の金属結晶粒が再結晶化するアニールを行なうことにより前記金属膜中に転位を発生させる工程と、を備えた、金属膜の製造方法。
【請求項10】
前記アニールにより、転位を有する複数の第1金属結晶粒と、転位を有しない第2金属結晶粒とが前記金属膜中に形成され、
前記第1金属結晶粒の個数が前記第2金属結晶粒の個数よりも多い、請求項9に記載の金属膜の製造方法。
【請求項11】
前記金属膜に前記点欠陥を導入する工程は、前記金属膜に金属イオンを注入する工程と前記金属膜に電子ビームを照射する工程との少なくとも1つの工程を含む、請求項9に記載の金属膜の製造方法。
【請求項12】
請求項9に記載の金属膜の製造方法により、前記金属膜をボンディングパッドまたは配線として形成する、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属膜および金属膜の製造方法ならびに半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2007-165663号公報(特許文献1)においては、半導体ウエハの反りを低減するために導電性膜の上に応力緩和膜が形成される。導電性膜は、ゲートパッドまたはソースパッドとなるものであり、アルミニウム(Al)などから構成されている。導電性膜は、スパッタリングにより形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-165663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルミニウムのパッドには、ワイヤーボンディング時に高いクラック耐性(高硬度)が求められる。
【0005】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付の図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一の実施形態に係る金属膜によれば、転位を有する第1金属結晶粒の個数が、転位を有しない第2金属結晶粒の個数よりも多い。
【0007】
一の実施形態に係る半導体装置は、上記金属膜をボンディングパッドまたは配線として有する。
【0008】
一の実施形態に係る金属膜の製造方法によれば、金属膜に点欠陥が導入された後に、金属結晶粒が再結晶化するアニールが行なわれることにより金属膜中に転位が形成される。
【0009】
一の実施形態に係る半導体装置の製造方法によれば、上記金属膜がボンディングパッドまたは配線として形成される。
【発明の効果】
【0010】
上記実施形態によれば、ワイヤーボンディング時に高いクラック耐性(高硬度)を有する金属膜および金属膜の製造方法ならびに半導体装置および半導体装置の製造方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る金属膜の構成を示す断面図である。
図2図1に示す金属膜を有するIGBT(Isolated Gate Bipolar Transistor)の構成を示す断面図である。
図3図2に示すIGBTを有する半導体パッケージの構成を示す断面図である。
図4】一実施形態に係る金属膜の製造方法の第1工程を示す断面図である。
図5】一実施形態に係る金属膜の製造方法の第2工程を示す断面図である。
図6】一実施形態に係る金属膜の製造方法の第3工程を示す断面図である。
図7】ワイヤーボンディングする領域に選択的にイオン注入を行なうためのフォトレジストマスクの構成を示す平面図である。
図8】イオン注入を実施しない比較例に係る金属膜の断面の様子を示す図である。
図9】アルミニウムをイオン注入した金属膜の断面の様子を示す図である。
図10】シリコンをイオン注入した金属膜の断面の様子を示す図である。
図11】イオン注入を実施せずにアニールした比較例に係る金属膜の断面の様子を示す図である。
図12】アルミニウムをイオン注入した後にアニールした金属膜の断面の様子を示す図である。
図13】シリコンをイオン注入した後にアニールした金属膜の断面の様子を示す図である。
図14】イオン注入による金属膜の内部応力の緩和の程度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、明細書および図面において、同一の構成要素または対応する構成要素には、同一の符号を付し、重複する説明を繰り返さない。また図面では、説明の便宜上、構成または製造方法を省略または簡略化している場合もある。
【0013】
なお本明細書における平面視とは、半導体基板の第1面FSに対して直交する方向から見た視点を意味する。また平面形状とは、平面視における形状を意味する。また開口面積とは、平面視における開口の面積を意味する。
【0014】
<金属膜の構成>
まず本開示の一実施形態に係る金属膜の構成について図1を用いて説明する。
【0015】
図1に示されるように、金属膜MFは、アルミニウム、タングステン(W)、銅(Cu)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)よりなる群から選ばれる1種以上を含む材質よりなっている。金属膜MFは、たとえばアルミニウムを含む材質であり、純アルミニウム、アルミニウムとシリコン(Si)との合金、アルミニウムと銅との合金、またはアルミニウムとシリコンと銅との合金よりなっている。金属膜MFは、たとえば1μm以上4μm以下の厚みを有している。
【0016】
金属膜MFは、複数の金属結晶粒GRを有している。複数の金属結晶粒GRは、転位DLを有する第1金属結晶粒GR2、GR3、GR4と、転位DLを有しない第2金属結晶粒GR1、GR5とを含む。転位DLを有する金属結晶粒GR2、GR3、GR4の個数は、転位DLを有しない金属結晶粒GR1、GR5の個数よりも多い。
【0017】
金属膜MFは、互い対向する第1面FSと、第2面SSとを有している。複数の金属結晶粒GRの各々は、第1面FSから第2面SSに向かって延びて第2面SSに達している。複数の第1金属結晶粒GR2、GR3、GR4の各々における転位DLの密度は60個/μm2以上である。また複数の第1金属結晶粒GR2、GR3、GR4の各々における転位DLの密度は75個/μm2以上であってもよい。
【0018】
複数の金属結晶粒GRの平均結晶粒径は1μm以上5μm以下である。複数の金属結晶粒GRの平均結晶粒径は1.7μm以下であってもよい。金属膜MFの硬度は、0.96GPa以上である。また金属膜MFの硬度は、1.17GPa以上であってもよい。
【0019】
金属膜MFは、第3金属結晶粒GRAを有していてもよい。第3金属結晶粒GRAは、金属結晶粒GRの粒界GBに位置している。第3金属結晶粒GRAは、金属膜MFの第1面FSおよび第2面SSの双方から離れて配置されていてもよい。1つの粒界GBに、1つの第3金属結晶粒GRAが位置していてもよく、また複数の第3金属結晶粒GRAが位置していてもよい。また複数の粒界GBの各々に、第3金属結晶粒GRAが位置していてもよい。
【0020】
第3金属結晶粒GRAは、第1金属結晶粒GR2、GR3、GR4および第2金属結晶粒GR1、GR5とは異なる材質よりなっている。第1金属結晶粒GR2、GR3、GR4および第2金属結晶粒GR1、GR5の各々がアルミニウムを含む材質よりなる場合、第3金属結晶粒GRAはたとえばシリコンまたは銅を含む材質よりなっていてもよい。
<半導体装置の構成>
次に、本実施形態の金属膜MFを有する半導体装置としてIGBTの構成を例に挙げて図2および図3を用いて説明する。
【0021】
図2に示されるように、半導体基板SBに形成される電気素子は、たとえばIGBTである。IGBTは、p+コレクタ領域CRと、n+領域HRと、n-ドリフト領域DRIと、p型ベース領域BRと、p+コンタクト領域CONと、n+エミッタ領域ERと、ゲート電極GEとを主に有している。
【0022】
+コレクタ領域CRは、半導体基板SBの第1主面FMSに配置されている。p+コレクタ領域CR上(p+コレクタ領域CRに対して第2主面SMS側)にn+領域HRが配置されている。n+領域HRは、p+コレクタ領域CRとpn接合を構成している。
【0023】
+領域HR上(n+領域HRに対して第2主面SMS側)にn-ドリフト領域DRIが配置されている。n-ドリフト領域DRIは、n+領域HRと接している。n-ドリフト領域DRIは、n+領域HRのn型不純物濃度よりも低いn型不純物濃度を有している。
【0024】
-ドリフト領域DRI上(n-ドリフト領域DRIに対して第2主面SMS側)にp型ベース領域BRが配置されている。p型ベース領域BRは、n-ドリフト領域DRIとpn接合を構成している。
【0025】
p型ベース領域BR上(p型ベース領域BRに対して第2主面SMS側)にp+コンタクト領域CONおよびn+エミッタ領域ERが配置されている。p+コンタクト領域CONおよびn+エミッタ領域ERの各々は、半導体基板SBの第2主面SMSに配置されている。
【0026】
+コンタクト領域CONは、p型ベース領域BRと接している。p+コンタクト領域CONは、p型ベース領域BRのp型不純物濃度よりも高いp型不純物濃度を有している。n+エミッタ領域ERは、p+コンタクト領域CONおよびp型ベース領域BRの各々とpn接合を構成している。
【0027】
半導体基板SBには、トレンチTRが設けられている。トレンチTRは、第2主面SMSからn+エミッタ領域ERおよびp型ベース領域BRの各々を貫通してn-ドリフト領域DRIに達している。トレンチTRの内壁に沿ってゲート絶縁層GIが配置されている。トレンチTRの内部はゲート電極GEによって充填されている。ゲート電極GEは、ゲート絶縁層GIを介在してp型ベース領域BRと対向している。これによりIGBTは、絶縁ゲート型電界効果トランジスタ部を有している。
【0028】
層間絶縁層ILのコンタクトホールCHを通じてn+エミッタ領域ERおよびp+コンタクト領域CONの各々と電気的に接続されるようにエミッタ電極EEが配置されている。エミッタ電極EEは、バリアメタル層BMと、金属膜MFとを有している。バリアメタル層BMは、コンタクトホールCHを通じてn+エミッタ領域ERおよびp+コンタクト領域CONの各々と接している。また金属膜MFは、バリアメタル層BMと接している。
【0029】
半導体基板SBの第1主面FMSにはコレクタ電極CEが配置されている。コレクタ電極CEは、p+コレクタ領域CRと接することによりp+コレクタ領域CRと電気的に接続されている。
【0030】
図2に示されるIGBTのたとえば金属膜MFとして、図1に示される金属膜MFは用いられている。図2に示される金属膜MFは、IGBTにおいてエミッタパッド(ボンディングパッド)および配線として機能する。このため図1に示される金属膜MFは、ボンディングパッドおよび配線として図2に示されるIGBTにて用いられる。また図1に示される金属膜MFは、IGBTにおいてゲートパッドなどの他のボンディングパッドおよび他の配線に用いられてもよい。
【0031】
また図1に示される金属膜MFは、図2に示されるIGBT以外に、パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)のソースパッド、ゲートパッドなどのボンディングパッドおよび配線に用いられてもよい。
【0032】
図3に示されるように、本実施形態に係る半導体装置SDは、たとえば半導体チップSCが封止樹脂SREで封止された半導体パッケージである。本実施の形態の半導体装置SDは、チップ搭載部RBと、半導体チップSCと、リード部RD1、RD2と、ボンディングワイヤBW(BW1、BW2)と、封止樹脂SREとを有している。
【0033】
半導体チップSCは、図2に示されるIGBTと金属膜MFとを有している。半導体チップSCは、IGBTのエミッタ領域ER(図2)に電気的に接続されるエミッタパッドEPと、ゲート電極GEに電気的に接続されるゲートパッドGPとを有している。エミッタパッドEPおよびゲートパッドGPの各々は、図1に示される金属膜MFにより構成されている。
【0034】
半導体チップSCは、チップ搭載部RB上にはんだSOLを介在して搭載されている。リード部RD1、RD2の各々は、チップ搭載部RBから離間して配置されている。ボンディングワイヤBW1は、半導体チップSCのエミッタパッドEPとリード部RD1とを電気的に接続している。図の簡略化のため1本のボンディングワイヤBW1のみが示されているが、複数のボンディングワイヤBW1がエミッタパッドEPとリード部RD1との間に接続されていてもよい。ボンディングワイヤBW2は、半導体チップSCのゲートパッドGPとリード部RD2とを電気的に接続している。
【0035】
封止樹脂SREは、チップ搭載部RB、半導体チップSC、リード部RD1、RD2、クリップ導電体CC、およびボンディングワイヤBW(BW1、BW2)を封止している。封止樹脂SREからチップ搭載部RBおよびリード部RD1、RD2の各々の一部が露出している。封止樹脂SREは、たとえば熱硬化性樹脂材料などからなり、フィラー(たとえばシリカ粒子からなるフィラー)などを含むこともできる。
【0036】
<金属膜および半導体装置の製造方法>
次に、本開示の一実施形態に係る金属膜および半導体装置の製造方法について図4図6などを用いて説明する。
【0037】
図4に示されるように、アルミニウム、タングステン、銅、コバルトおよびニッケルよりなる群から選ばれる1種以上を含む材質よりなる金属膜MFが形成される。金属膜MFは、たとえばアルミニウムを含む材質から形成され、純アルミニウム、アルミニウムとシリコンとの合金、アルミニウムと銅との合金、またはアルミニウムとシリコンと銅との合金から形成される。
【0038】
金属膜MFは、たとえばスパッタリングにより形成される。金属膜MFは、たとえば1μm以上4μm以下の厚みで形成される。金属膜MFは、複数の金属結晶粒GRを有するように形成される。金属膜MFの内部には、大きな内部応力が生じている。
【0039】
図5に示されるように、金属膜MFに点欠陥として、たとえば空孔Vが導入される。金属膜MFに導入された空孔Vは、金属膜MF内の大きな内部応力により拡散すると考えられる。
【0040】
空孔Vは、たとえば金属膜MFに金属イオンをイオン注入することにより導入される。このイオン注入は、たとえば1×1016cm-2以上1×1018cm-2未満のドーズ量にて実施される。このイオン注入における注入エネルギは、たとえば100keV以上であるが、注入深さなどに応じて適宜変更可能である。イオン注入される金属イオンは、たとえばアルミニウム、シリコン、銅、タングステン、コバルトおよびニッケルのいずれか1つまたは任意の組み合わせである。
【0041】
空孔Vは、たとえば金属膜MFに電子ビームを照射することによって導入されてもよい。また空孔Vは、イオン注入と電子ビームの照射との組合せにより金属膜MFに導入されてもよい。
【0042】
図6に示されるように、点欠陥(空孔V)の導入後に、金属膜MFにアニールが実施される。このアニールは、たとえば不活性ガスの雰囲気において、300℃以上400℃以下の加熱温度において2時間未満の加熱時間にて実施される。アニールにより、金属膜MFの複数の金属結晶粒GRが再結晶化する。金属結晶粒GRの再結晶により金属膜MF中に転位DLが発生する。
【0043】
上記アニールにより金属膜MFが塑性変形するが、その塑性変形が点欠陥(空孔V)により加速されることにより一部の金属結晶粒に空孔が集まり転位DLが発生すると考えられる。
【0044】
これにより複数の金属結晶粒GRの中に転位DLを有する第1金属結晶粒GR12、GR13と、転位DLを有しない第2金属結晶粒GR11とが生じる。また転位DLを有する第1金属結晶粒GR12、GR13の個数が、転位DLを有しない第2金属結晶粒GR11の個数よりも多くなる。
【0045】
本実施形態の金属膜MFは上記の工程により製造される。
なお図5のイオン注入において、たとえばアルミニウムを含む材質よりなる金属膜MFにシリコンなどが注入される。この場合、注入されたシリコンなどはイオン注入時の熱および注入エネルギにより拡散する。拡散したシリコンなどは、図1に示されるように金属結晶粒GRの粒界GBに拡散して第3金属結晶粒GRAとして析出する。
【0046】
また図5に示されるイオン注入は金属膜MFの表面全体に行なわれてもよく、また金属膜MFの一部の領域にのみ行なわれてもよい。イオン注入は、たとえば金属膜MFにボンディングワイヤBWが接続される箇所に選択的に行なわれてもよい。
【0047】
この場合、図7に示されるように、金属膜MF上にフォトレジストマスクPMが形成された状態でイオン注入が行なわれる。このフォトレジストマスクPMは、金属膜MFの表面を露出する複数の開口PRAを有している。複数の開口PRAの各々は、たとえば矩形の平面形状を有している。複数の開口PRAの各々は、たとえば円形の平面形状を有していてもよい。複数の開口PRAの各々の開口面積は、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0048】
開口PRAによって露出される金属膜MFの表面がボンディングワイヤBWが接続される箇所である。このようにボンディングワイヤBWが接続される箇所に少なくともイオン注入を実施した後に上記アニールを実施することにより、ボンディングワイヤBWが接続される箇所を局所的に硬化させることができ、クラック耐性を向上させることができる。
【0049】
このようにイオン注入を選択的に行なう場合、イオン注入が選択的に実施された金属膜MFの領域内において、転位DLを有する金属結晶粒の個数は、転位DLを有しない金属結晶粒の個数よりも多い。一方、金属膜MFの全面にイオン注入が実施された場合、金属膜MFの全体において、転位DLを有する金属結晶粒の個数は、転位DLを有しない金属結晶粒の個数よりも多い。
【0050】
また本実施形態の金属膜MFの製造方法を用いて図2に示される半導体装置が製造される。たとえば本実施形態の金属膜MFをボンディングパッドまたは配線として形成することにより、図2に示される半導体装置が製造される。
【0051】
具体的には、図2に示されるように、半導体基板SBにたとえばIGBTが形成される。IGBTの形成後、半導体基板SBの第2主面SMS上に、層間絶縁層ILが形成される。層間絶縁層ILには、写真製版技術およびエッチング技術によりコンタクトホールCHが形成される。コンタクトホールCHは、n+エミッタ領域ERおよびp+コンタクト領域CONの各々の表面を露出するように形成される。また図には示していないが、ゲート電極GEの一部を露出するコンタクトホールも層間絶縁層ILに形成される。
【0052】
コンタクトホールCHを通じてn+エミッタ領域ERおよびp+コンタクト領域CONの各々に接するように層間絶縁層IL上にバリアメタル層BMが形成される。またコンタクトホールを通じてゲート電極GEに接するバリアメタル層も形成される。バリアメタル層BMに接するように、配線およびボンディングパッド(エミッタパッドまたはゲートパッド)となる金属膜MFが形成される。この金属膜MFは、図4図6に示される方法で製造される金属膜MFである。
【0053】
<効果>
次に、本実施形態の効果について、本開示の発明者が見出した知見と共に説明する。
【0054】
まず本開示の発明者は、アルミニウム・銅(AlCu)よりなる金属膜MFをスパッタリングにより成膜し、金属膜MFにイオン注入を実施しない試料と実施した試料とを作成し、それらの断面を観察した。
【0055】
その結果、図8に示されるようにイオン注入を実施しない試料では密集した点欠陥は確認されなかった。それに対して図9に示されるように注入エネルギ100keV、ドーズ量1×1016cm-2の条件でアルミニウムをイオン注入した試料では、金属膜MFの表面から300nm~400nmの深さ(点線DOL)まで密集した点欠陥が確認された。また図10に示されるように注入エネルギ100keV、ドーズ量1×1016cm-2の条件でシリコンをイオン注入した試料でも、金属膜MFの表面から300nm~400nmの深さ(点線DOL)まで密集した点欠陥が確認された。
【0056】
また本開示の発明者は、アルミニウム・銅よりなる金属膜MFにイオン注入を実施しない試料と実施した試料との各々にアニールを実施して、それらの断面を観察した。アニールは、不活性ガスの雰囲気において、300℃以上400℃以下の加熱温度において2時間未満の加熱時間にて実施された。
【0057】
その結果、図11に示されるように、イオン注入を実施しない試料においては、転位は観察されるものの、転位の発生した金属結晶粒の個数は極めて少ないことが分かった。一方、図12に示されるように注入エネルギ180keV、ドーズ量1×1016cm-2の条件でアルミニウムをイオン注入した試料では、多くの金属結晶粒において転位が発生しており、イオン注入を実施しない試料よりも転位密度が高くなることが分かった。また図13に示されるように注入エネルギ180keV、ドーズ量1×1016cm-2の条件でシリコンをイオン注入した試料でも、多くの金属結晶粒において転位が発生しており、イオン注入を実施しない試料よりも転位密度が高くなることが分かった。さらに図12および図13に示されるようなイオン注入を実施した試料では、転位を有する金属結晶粒の個数は転位を有しない金属結晶粒の個数よりも多くなることも分かった。
【0058】
また本開示の発明者は、金属膜MFへのイオン注入の有無と応力の緩和とについて調べた。その結果を図14に示す。
【0059】
図14の結果から、金属膜MFにイオン注入を実施しない比較例の試料よりも、イオン注入を実施した試料1、2の方が反りが小さくなり、金属膜MF中の内部応力が緩和されることが分かった。特にアニール後の試料2における反りは、アニール後の比較例の試料における反りの34%小さくなることが分かった。
【0060】
なお試料1、試料2および比較例のいずれも、250℃の温度でスパッタリングにより1μmの厚みで成膜されたアルミニウムよりなる金属膜MFである。また試料1は、注入エネルギ180keV、ドーズ量1×1016cm-2の条件でアルミニウムをイオン注入した試料である。また試料2は、注入エネルギ180keV、ドーズ量1×1016cm-2の条件でシリコンをイオン注入した試料である。またアニールは、不活性ガス雰囲気にて400℃の加熱温度において30分の加熱時間にて実施された。
【0061】
また本開示の発明者は、図14のアニール後の試料1、試料2および比較例における転位密度と硬度とについて調べた。その結果、比較例の試料では転位密度が28個/μm2で、硬度が0.92GPaであった。これに対し、試料1では転位密度が60個/μm2で、硬度が0.96GPaであった。また試料2では転位密度が75個/μm2で、硬度が1.17GPaであった。
【0062】
また本開示の発明者は、再結晶化のためのアニールを実施した金属膜MFの結晶配向性および抵抗が、イオン注入を実施しない金属膜の結晶配向性および抵抗と同等となり実用上も問題ないことを確認した。
【0063】
なお転位密度は、TEM(透過型電子顕微鏡)で金属膜MFの断面を観察して転位の個数を数えることにより求められる。また結晶粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡)で金属膜MFを上から観察することにより結晶粒の面積を求め、その面積に対応する真円の直径を算出することにより求められる。
【0064】
以上より本開示の発明者は、金属膜MF中に金属イオンを注入して点欠陥(空孔V)を導入した後、再結晶化のアニールを実施することにより金属膜MF中に高密度の転位が発生することを見出した。高密度の転位が発生した理由は、金属膜MFがアニールにより塑性変形するが、導入された点欠陥(空孔V)がその塑性変形を加速させるとともに、一部の結晶粒に集まったことによるものと考えられる。また本開示の発明者は、高密度の転位により金属膜MFが硬化して高強度となることで、ワイヤボンディングのクラック耐性が向上することを見出した。
【0065】
本実施形態においては、転位DLを有する複数の第1金属結晶粒GR2、GR3、GR4の個数が、転位DLを有しない第2金属結晶粒GR1、GR5の個数よりも多い。このため金属膜MFは高強度となり、ワイヤボンディングのクラック耐性が向上する。
【0066】
また本実施形態においては、金属膜MFは、アルミニウム、タングステン、銅、コバルトおよびニッケルよりなる群から選ばれる1種以上を含む材質よりなる。これにより配線およびボンディングパッドに金属膜MFを適用することができる。なお金属膜MFにアルミニウムを含む材質を用いることにより、ワイヤーボンディングにおいてさらに高いクラック耐性を得ることができる。
【0067】
また本実施形態においては、複数の第1金属結晶粒GR2、GR3、GR4の各々における転位DLの密度は60個/μm2以上である。これにより、ワイヤボンディングにおいてクラックが生じにくくなる。
【0068】
また本実施形態においては、第1金属結晶粒GR2、GR3、GR4および第2金属結晶粒GR1、GR5を含む複数の金属結晶粒GRの平均結晶粒径は1μm以上5μm以下である。平均結晶粒径が1μm未満であると、粒界が多くなりエレクトロマイグレーション耐性およびストレスマイグレーション耐性が低くなる。また平均結晶粒径が5μmを超えると、硬度が低下する。
【0069】
また本実施形態においては、複数の金属結晶粒GRの平均結晶粒径は1.7μm以下である。これにより硬度が向上する。
【0070】
また本実施形態においては図1に示されるように、第3金属結晶粒GRAが金属結晶粒GR2、GR3、GR4および第2金属結晶粒GR1、GR5を含む複数の金属結晶粒GRの粒界GBに位置する。このように粒界GBに第3金属結晶粒GRAが位置することにより、金属膜MF中の金属元素が動きにくくなる。これによりエレクトロマイグレーション耐性およびストレスマイグレーション耐性が向上する。
【0071】
また本実施形態においては、金属結晶粒GR2、GR3、GR4および第2金属結晶粒GR1、GR5の各々はアルミニウムを含む材質よりなり、第3金属結晶粒GRAはシリコンまたは銅を含む材質よりなる。これにより第3金属結晶粒GRAを、複数の金属結晶粒GRの粒界に析出させることができる。
【0072】
また本実施形態においては図5に示されるように金属膜MFに点欠陥(空孔V)が導入された後に、図6に示されるように複数の金属結晶粒GRが再結晶化するアニールを行なうことにより金属膜MF中に転位DLが発生させられる。これにより高密度の転位を発生させることが可能となるため、金属膜MFは高強度となり、ワイヤボンディングのクラック耐性が向上する。
【0073】
また本実施形態においては、金属膜MFに点欠陥(空孔V)を導入する工程は、金属膜MFに金属イオンを注入する工程と金属膜MFに電子ビームを照射する工程との少なくとも1つの工程を含む。これにより金属膜MFに点欠陥(空孔V)を導入することができる。
【0074】
またアルミニウムの配線には、パワーデバイスで大電流が流れるときに高いエレクトロマイグレーション耐性とストレスマイグレーション耐性とが求められる。従来のスパッタリングで成膜されるアルミニウム膜では、クラック耐性と、エレクトロマイグレーション耐性およびストレスマイグレーション耐性との両立は難しい。
【0075】
しかしながら本実施形態によれば、上記のように、クラック耐性と、エレクトロマイグレーション耐性およびストレスマイグレーション耐性との両立が容易である。
【0076】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0077】
BM バリアメタル層、BR p型ベース領域、BW,BW1,BW2 ボンディングワイヤ、CE コレクタ電極、CH コンタクトホール、CL 導電層、CON コンタクト領域、CR コレクタ領域、DL 転位、DOL 点線、DRI n-ドリフト領域、EP エミッタパッド、ER n+エミッタ領域、FMS 第1主面、FS 第1面、GE ゲート電極、GI ゲート絶縁層、GP ゲートパッド、GR 金属結晶粒、GR1,GR5 第2金属結晶粒、GR2,GR3,GR4 第1金属結晶粒、GRA 第3金属結晶粒、HR n+領域、IL 層間絶縁層、MF 金属膜、PM フォトレジストマスク、PRA 開口、RB チップ搭載部、RD1,RD2 リード部、SB 半導体基板、SC 半導体チップ、SD 半導体装置、SMS 第2主面、SRE 封止樹脂、SS 第2面、TR トレンチ、V 空孔。
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