IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特開2023-180957直流アーク炉、及び、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法
<>
  • 特開-直流アーク炉、及び、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法 図1
  • 特開-直流アーク炉、及び、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法 図2
  • 特開-直流アーク炉、及び、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法 図3
  • 特開-直流アーク炉、及び、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法 図4
  • 特開-直流アーク炉、及び、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法 図5
  • 特開-直流アーク炉、及び、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法 図6
  • 特開-直流アーク炉、及び、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法 図7
  • 特開-直流アーク炉、及び、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法 図8
  • 特開-直流アーク炉、及び、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法 図9
  • 特開-直流アーク炉、及び、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180957
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】直流アーク炉、及び、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 11/10 20060101AFI20231214BHJP
   F27B 3/08 20060101ALI20231214BHJP
   C21C 5/52 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C21B11/10
F27B3/08
C21C5/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094657
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】伊田 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】舟金 仁志
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信宏
【テーマコード(参考)】
4K012
4K014
4K045
【Fターム(参考)】
4K012CA09
4K014CB01
4K014CB02
4K014CC04
4K045AA04
4K045BA02
4K045DA02
4K045GB02
4K045GC01
4K045RB02
4K045RC10
(57)【要約】
【課題】直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する場合に、当該鉄源を効率的に溶解させる技術を開示する。
【解決手段】直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法であって、供給口から溶解炉内に前記鉄源を供給する、供給ステップと、前記溶解炉に設けられた上部電極及び下部電極の間にアークを生じさせて、前記鉄源を溶解する、溶解ステップと、を有し、前記上部電極及び前記下部電極の間に前記アークを生じさせて、前記溶解炉における溶鉄に対して、前記上部電極及び前記下部電極の間に下降流を発生させるとともに、前記溶鉄の湯面に前記下降流へと向かう中心流を発生させ、且つ、前記湯面に発生した前記中心流へと前記鉄源を供給して、前記鉄源を前記湯面に浮かせつつ前記下降流に向かって移動させる、方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法であって、
供給口から溶解炉内に前記鉄源を供給する、供給ステップと、
前記溶解炉に設けられた上部電極及び下部電極の間にアークを生じさせて、前記鉄源を溶解する、溶解ステップと、を有し、
前記上部電極及び前記下部電極の間に前記アークを生じさせて、前記溶解炉における溶鉄に対して、前記上部電極及び前記下部電極の間に下降流を発生させるとともに、前記溶鉄の湯面に前記下降流へと向かう中心流を発生させ、且つ、前記湯面に発生した前記中心流へと前記鉄源を供給して、前記鉄源を前記湯面に浮かせつつ前記下降流に向かって移動させる、
方法。
【請求項2】
前記鉄源を供給する方式が、炉内壁又は炉蓋に設けられた孔を介して前記鉄源を供給する方式、及び、原料投入シュートによって前記鉄源を供給する方式、のうちの少なくとも一方である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
下記式(1)~(3)によって表されるアーク断面積Sarcが、前記下部電極が前記溶鉄に接する面積よりも小さくなるように、前記上部電極及び前記下部電極に電力を供給する、
請求項1または2に記載の方法。
arc = πR arc …(1)
arc = R(3.2-2.2exp(-z/(5R))) …(2)
= (I/(πj))0.5 …(3)
arc:前記溶鉄に接する地点における前記アークの半径(cm)
:前記上部電極に接する地点における前記アークの半径(cm)
z:前記上部電極と前記溶鉄の湯面との間の距離(cm)
I:電流値(kA)
:上部電極に接する地点におけるアークの電流密度(kA/cm
【請求項4】
前記溶解炉の浴の深さHと、炉直径Dと、前記溶鉄の湯面における前記上部電極及び前記下部電極の電極間の位置から前記鉄源が供給される位置までの距離Rと、前記溶解炉の炉半径Rとが、下記式(4)の関係を満たす、
請求項3に記載の方法。
R/R < 1.24(H/D)0.75 …(4)
【請求項5】
還元鉄を含む鉄源を供給する、供給口と、
上部電極及び下部電極の間にアークを生じさせて前記鉄源を溶解する、溶解炉と、
前記上部電極及び前記下部電極に電力を供給する、電力供給部と、
前記電力供給部から前記上部電極及び前記下部電極へと供給される電力、及び、前記供給口から前記溶解炉内の湯面に供給される前記鉄源の供給位置、のうちの一方又は両方を制御する、制御部と、を備え、
前記制御部が、前記電力及び前記供給位置のうちの一方又は両方を制御することにより、前記上部電極及び前記下部電極の間に前記アークを生じさせて、前記溶解炉における溶鉄に対して、前記上部電極及び前記下部電極の間に下降流を発生させるとともに、前記溶鉄の湯面に前記下降流へと向かう中心流を発生させ、且つ、前記湯面に発生した前記中心流へと供給された前記鉄源を前記湯面に浮かせつつ前記下降流に向かって移動させるように構成されている、
直流アーク炉。
【請求項6】
前記鉄源を供給する方式が、炉内壁又は炉蓋に設けられた孔を介して前記鉄源を供給する方式、及び、原料投入シュートによって前記鉄源を供給する方式、のうちの少なくとも一方である、
請求項5に記載の直流アーク炉。
【請求項7】
前記制御部は、下記式(1)~(3)によって表されるアーク断面積Sarcが、前記下部電極が前記溶鉄に接する面積よりも小さくなるように、前記電力を制御する、
請求項5または6に記載の直流アーク炉。
arc = πR arc …(1)
arc = R(3.2-2.2exp(-z/(5R))) …(2)
= (I/(πj))0.5 …(3)
arc:前記溶鉄に接する地点における前記アークの半径(cm)
:前記上部電極に接する地点における前記アークの半径(cm)
z:前記上部電極と前記溶鉄の湯面との間の距離(cm)
I:電流値(kA)
:上部電極に接する地点におけるアークの電流密度(kA/cm
【請求項8】
前記溶解炉の浴の深さHと、炉直径Dと、前記溶鉄の湯面における前記上部電極及び前記下部電極の電極間の位置から前記鉄源が供給される位置までの距離Rと、前記溶解炉の炉半径Rとが、下記式(4)の関係を満たす、
請求項7に記載の直流アーク炉。
R/R < 1.24(H/D)0.75 …(4)
【請求項9】
還元鉄を含む鉄源を供給する、供給口と、
上部電極及び下部電極の間にアークを生じさせて前記鉄源を溶解する、溶解炉と、
前記上部電極及び前記下部電極に電力を供給する、電力供給部と、を備え、
前記溶解炉の浴の深さHと、炉直径Dと、前記溶鉄の湯面における前記上部電極及び前記下部電極の電極間の位置から前記鉄源が供給される位置までの距離Rと、前記溶解炉の炉半径Rとが、下記式(4)の関係を満たす、
直流アーク炉。
R/R < 1.24(H/D)0.75 …(4)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、直流アーク炉、及び、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電気炉を用いてスクラップの溶解及び精錬を行う場合に、発熱源として可燃性廃棄物を利用する技術が開示されている。特許文献2には、スクラップを連続投入して溶解及び精錬を行う直流電気炉であって、上部電極の中間位置の炉中央部にスクラップ連続装入口を設けたものが開示されている。特許文献3には、電気炉の炉体構造であって、湯溜まり深さ(浴深さ)Hと湯面部直径(炉直径)Dとの比H/Dが0.3以上0.45以下のものが開示され、当該電気炉において底吹きによって所定の流速にて溶融金属を撹拌する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-323873号公報
【特許文献2】特開平7-133985号公報
【特許文献3】特開平3-274383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気炉において鉄源の溶解及び精錬を行う際、還元鉄を含む鉄源を用いる場合がある。ここで、還元鉄は、電気炉内の溶鉄に比べてかさ密度が小さく、電気炉内の溶鉄の湯面に浮上する。湯面に浮上した還元鉄は、溶鉄に沈降するスクラップと比べて、溶鉄からの熱伝達量が小さく、溶解時間が長くなるという問題がある。従来においてはこの問題に対して十分な検討がなされていない。
【0005】
本願は直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を効率的に溶解させる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
(態様1)
直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法であって、
供給口から溶解炉内に前記鉄源を供給する、供給ステップと、
前記溶解炉に設けられた上部電極及び下部電極の間にアークを生じさせて、前記鉄源を溶解する、溶解ステップと、を有し、
前記上部電極及び前記下部電極の間に前記アークを生じさせて、前記溶解炉における溶鉄に対して、前記上部電極及び前記下部電極の間に下降流を発生させるとともに、前記溶鉄の湯面に前記下降流へと向かう中心流を発生させ、且つ、前記湯面に発生した前記中心流へと前記鉄源を供給して、前記鉄源を前記湯面に浮かせつつ前記下降流に向かって移動させる、
方法。
(態様2)
前記鉄源を供給する方式が、炉内壁又は炉蓋に設けられた孔を介して前記鉄源を供給する方式、及び、原料投入シュートによって前記鉄源を供給する方式、のうちの少なくとも一方である、
態様1の方法。
(態様3)
下記式(1)~(3)によって表されるアーク断面積Sarcが、前記下部電極が前記溶鉄に接する面積よりも小さくなるように、前記上部電極及び前記下部電極に電力を供給する、
態様1または2の方法。
arc = πR arc …(1)
arc = R(3.2-2.2exp(-z/(5R))) …(2)
= (I/(πj))0.5 …(3)
arc:前記溶鉄に接する地点における前記アークの半径(cm)
:前記上部電極に接する地点における前記アークの半径(cm)
z:前記上部電極と前記溶鉄の湯面との間の距離(cm)
I:電流値(kA)
:上部電極に接する地点におけるアークの電流密度(kA/cm
(態様4)
前記溶解炉の浴の深さHと、炉直径Dと、前記溶鉄の湯面における前記上部電極及び前記下部電極の電極間の位置から前記鉄源が供給される位置までの距離Rと、前記溶解炉の炉半径Rとが、下記式(4)の関係を満たす、
態様1~3のいずれかの方法。
R/R < 1.24(H/D)0.75 …(4)
(態様5)
還元鉄を含む鉄源を供給する、供給口と、
上部電極及び下部電極の間にアークを生じさせて前記鉄源を溶解する、溶解炉と、
前記上部電極及び前記下部電極に電力を供給する、電力供給部と、
前記電力供給部から前記上部電極及び前記下部電極へと供給される電力、及び、前記供給口から前記溶解炉内の湯面に供給される前記鉄源の供給位置、のうちの一方又は両方を制御する、制御部と、を備え、
前記制御部が、前記電力及び前記供給位置のうちの一方又は両方を制御することにより、前記上部電極及び前記下部電極の間に前記アークを生じさせて、前記溶解炉における溶鉄に対して、前記上部電極及び前記下部電極の間に下降流を発生させるとともに、前記溶鉄の湯面に前記下降流へと向かう中心流を発生させ、且つ、前記湯面に発生した前記中心流へと供給された前記鉄源を前記湯面に浮かせつつ前記下降流に向かって移動させるように構成されている、
直流アーク炉。
(態様6)
前記鉄源を供給する方式が、炉内壁又は炉蓋に設けられた孔を介して前記鉄源を供給する方式、及び、原料投入シュートによって前記鉄源を供給する方式、のうちの少なくとも一方である、
態様5の直流アーク炉。
(態様7)
前記制御部は、下記式(1)~(3)によって表されるアーク断面積Sarcが、前記下部電極が前記溶鉄に接する面積よりも小さくなるように、前記電力を制御する、
態様5または6の直流アーク炉。
arc = πR arc …(1)
arc = R(3.2-2.2exp(-z/(5R))) …(2)
= (I/(πj))0.5 …(3)
arc:前記溶鉄に接する地点における前記アークの半径(cm)
:前記上部電極に接する地点における前記アークの半径(cm)
z:前記上部電極と前記溶鉄の湯面との間の距離(cm)
I:電流値(kA)
:上部電極に接する地点におけるアークの電流密度(kA/cm
(態様8)
前記溶解炉の浴の深さHと、炉直径Dと、前記溶鉄の湯面における前記上部電極及び前記下部電極の電極間の位置から前記鉄源が供給される位置までの距離Rと、前記溶解炉の炉半径Rとが、下記式(4)の関係を満たす、
態様5~7のいずれかの直流アーク炉。
R/R < 1.24(H/D)0.75 …(4)
(態様9)
還元鉄を含む鉄源を供給する、供給口と、
上部電極及び下部電極の間にアークを生じさせて前記鉄源を溶解する、溶解炉と、
前記上部電極及び前記下部電極に電力を供給する、電力供給部と、を備え、
前記溶解炉の浴の深さHと、炉直径Dと、前記溶鉄の湯面における前記上部電極及び前記下部電極の電極間の位置から前記鉄源が供給される位置までの距離Rと、前記溶解炉の炉半径Rとが、下記式(4)の関係を満たす、
直流アーク炉。
R/R < 1.24(H/D)0.75 …(4)
【発明の効果】
【0007】
本開示の技術によれば、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を効率的に溶解させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係る直流アーク炉の構成を概略的に示している。主に溶解炉の内部の構成を示している。
図2】鉄源を供給する方式の一例を概略的に示している。
図3】炉直径Dと、炉半径Rと、溶鉄の湯面における上部電極及び下部電極の電極間の位置Oから鉄源が供給される位置Pまでの距離Rとを説明するための概略図である。
図4】溶解炉の浴の深さH及び炉直径Dを説明するための概略図である。
図5】上部電極及び下部電極の間に下降流が発生するメカニズムを概略的に示している。(A)が溶鉄に生じる電磁力、(B)が電磁力によって生じる流れを示している。
図6】数値シミュレーション1の結果を示している。(A)は還元鉄が上部電極直下に向かって移動する場合、(B)は還元鉄が炉壁に向かって移動する場合である。
図7】溶鋼湯面に供給された還元鉄の移動を模式的に示している。数値シミュレーション1の結果に基づくものである。
図8】数値シミュレーション2の結果を示している。縦軸にR/R、横軸にH/Dをとり、数値シミュレーション2の結果(「○」又は「×」)をプロットしたものである。
図9】数値シミュレーション2の結果を示している。縦軸にR/R、横軸にH/Dをとり、数値シミュレーション2の結果(「○」又は「×」)をプロットしたものである。
図10】数値シミュレーション2の結果であって、直流アーク炉において電極に供給される電力を変化させた場合における溶鋼の流速分布を確認した結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.直流アーク炉(第1実施形態)
第1実施形態に係る本開示の直流アーク炉は、還元鉄を含む鉄源を供給する、供給口と、上部電極及び下部電極の間にアークを生じさせて前記鉄源を溶解する、溶解炉と、前記上部電極及び前記下部電極に電力を供給する、電力供給部と、前記電力供給部から前記上部電極及び前記下部電極へと供給される電力、及び、前記供給口から前記溶解炉内の湯面に供給される前記鉄源の供給位置、のうちの一方又は両方を制御する、制御部と、を備える。本開示の直流アーク炉は、前記制御部が前記電力及び前記供給位置のうちの一方又は両方を制御することにより、前記上部電極及び前記下部電極の間に前記アークを生じさせて、前記溶解炉における溶鉄に対して、前記上部電極及び前記下部電極の間に下降流を発生させるとともに、前記溶鉄の湯面に前記下降流へと向かう中心流を発生させ、且つ、前記湯面に発生した前記中心流へと供給された前記鉄源を前記湯面に浮かせつつ前記下降流に向かって移動させるように構成されている。以下、図面を参照しつつ本開示の直流アーク炉の構成を説明するが、本開示の直流アーク炉の構成は図示された形態に限定されるものではない。
【0010】
図1に示されるように、一実施形態に係る直流アーク炉100は、供給口10、溶解炉20、電力供給部30及び制御部40を備える。溶解炉20には、上部電極21及び下部電極22が設けられており、電力供給部30から上部電極21及び下部電極22へと電力が供給されることで、電極間にアーク23が生じる。これにより、供給口10から溶解炉20の内部へと供給された鉄源5aを溶解させることができる。具体的には、鉄源5aは溶鉄5bの湯面5bxの所定の位置Pに供給される。図1には、電力供給部30から上部電極21及び下部電極22へと供給される電力が制御部40によって制御される形態を例示しているが、制御部40は供給口10から溶解炉20内の湯面5bxに供給される鉄源5aの供給位置Pを制御するものであってもよいし、電力及び供給位置Pの双方を制御するものであってもよい。位置Pに供給された鉄源5aは、湯面5bxに浮かんだ状態で、後述する中心流に乗って、上部電極21の直下の下降流に向かって移動し、すなわち、上部電極21の直下の位置Oに徐々に近づき、やがて溶解する。溶解した鉄源5aは溶解炉20内の溶鉄5bの一部を構成する。
【0011】
1.1 鉄源
本開示の直流アーク炉100によれば、還元鉄を含む鉄源5aを効率的に溶解させることができる。還元鉄は、例えば、鉄鉱石を水素や天然ガスや石炭などを用いて還元することによって得られたものであってよい。還元鉄は酸化鉄、炭素、二酸化ケイ素等を含み得る。還元鉄の化学組成は特に限定されないが、例えば、Fe:85~100質量%、C:0~8質量%を含むものであってよい。鉄源5aが還元鉄を含むものであるか否かについては、鉄源5aの元素分析や密度測定や形態観察等によって容易に判断できる。還元鉄を含む鉄源5aは、溶鉄5bよりもかさ密度が小さく、溶鉄5bの液面に浮かぶものである。鉄源5aのかさ密度は、例えば、6500kg/m以下又は6000kg/m以下であってもよい。鉄源5aの形状は、供給口10から溶解炉20内の溶鉄5bの湯面へと供給可能な形状であればよく、粉体状、顆粒状、塊状等の種々の形状であってよい。鉄源5aの形状は、例えば、直方体形状であってもよいし、球状であってもよい。
【0012】
鉄源5aは、還元鉄以外の成分を含んでいてもよい。また、鉄源5aとして、還元鉄とともにスクラップ等が用いられてもよい。鉄源5aが還元鉄とスクラップとを含む場合、還元鉄は溶鉄5bの湯面5bxに浮かぶ一方、スクラップは溶鉄5bに沈降し得る。湯面5bxに浮上した還元鉄は、溶鉄5bに沈降するスクラップと比べて、溶鉄5bからの熱伝達量が小さく、溶解時間が長くなり易い。この問題を解決するため、本開示の直流アーク炉100においては、湯面5bxに浮かぶ還元鉄を、湯面5bxに発生させた中心流に乗せて、上部電極21の直下の位置Oに近付ける。位置Oに近付くほどアークに近付き、還元鉄への熱伝達量が大きくなることから、還元鉄が短時間で溶解し得る。
【0013】
1.2 供給口
供給口10は、還元鉄を含む鉄源5aを溶解炉20の内部へと供給するための入口である。供給口10は、炉のどの部分に設けられていてもよい。例えば、供給口10は、炉内壁(側壁)に設けられた孔であってもよく、炉蓋に設けられた孔であってもよい。鉄源5aを溶鉄5bの湯面に一層容易に供給する観点から、供給口10は、溶鉄5bの湯面よりも上方に設けられているとよい。供給口10の数は1つであってもよいし、複数であってもよい。溶鉄5bの湯面に発生する中心流の範囲に応じて、供給口10の形状、大きさ、向き、位置及び数が決定されてもよい。
【0014】
直流アーク炉100においては、供給口10から鉄源5aを供給する方式として様々な方式が採用され得る。鉄源5aを供給する方式は、例えば、炉内壁又は炉蓋に設けられた孔を介して鉄源5aを供給する方式、及び、原料投入シュートによって鉄源5aを供給する方式、のうちの少なくとも一方が挙げられる。具体的には、図2(A)に示されるような炉内壁に設けられた孔を介して鉄源5aを供給する方式、及び、図2(B)に示されるような炉蓋に設けられた孔を介して鉄源5aを供給する方式等が挙げられる。炉内壁又は炉蓋に設けられた孔と湯面5bxにおける鉄源5aの供給位置Pとの位置関係等に応じて、適宜、原料投入シュート等が採用されればよい。原料投入シュートとしては公知のものが採用されればよい。鉄源5aは、供給口10から鉛直下向きに供給されてもよいし、供給口10から斜め下向きに供給されてもよい。いずれにしても、鉄源5aは、溶鉄5bの湯面のうち中心流が発生している位置Pへと直接的に供給されるとよく、具体的には、鉄源5aを位置Pに落下させるとよい。尚、湯面に浮かぶ鉄源5aが中心流から外れた位置にある場合、当該鉄源5aに対して上吹きガスを吹き付けるなどして運動エネルギーを与えることで、当該鉄源5aを中心流が発生している位置Pへと移動させることも可能である。
【0015】
1.3 溶解炉
溶解炉20は、炉蓋、炉内壁及び炉底によって画定され得る部分であって、上部電極21及び下部電極22が設置され、当該電極間にアークを生じさせて鉄源5aを溶解させる部分である。溶解炉20そのものの構成は公知の構成と同様であってよい。本開示の直流アーク炉100は、炉蓋、炉内壁及び炉底の形状等によらず、還元鉄を含む鉄源5aを効率的に溶解させることができる。
【0016】
溶解炉20における上部電極21や下部電極22の各々の構成についても、溶鉄5bに対して後述する下降流や中心流を発生させることができるものである限り、特に限定されるものではない。直流アーク炉100においては、上部電極21が陰極、下部電極22が陽極である。よって、炉の操業中は、下部電極22から、溶鉄5bを通じて、上部電極21へと電流が流れる。上部電極21は、炉蓋を通して炉内に挿し込まれるように設置される。また、下部電極22は、炉底に設置される。溶解炉20における上部電極21の数は、1つである。溶解炉20における上部電極21及び下部電極22の位置は、例えば、溶解炉20における湯面形状が上面視(平面視)で略円形である場合、当該円形の中心位置が、上部電極21と下部電極22の中心軸と一致するように設けられる。
【0017】
直流アーク炉100においては、溶解炉20の平面形状(炉内壁によって画定される内周形状)によらず、下降流及び中心流を生じさせることが可能である。炉の耐久性を高める観点等からは、溶解炉20の平面形状は、図3に示されるような円形部を有するものであるとよい。ただし、完全な円形である必要はなく、一部に突出や凹みを有していてもよい。例えば、溶解炉20は、図3に示されるような突出部24を有していてもよく、ここに出鋼口等が配置されてもよい。
【0018】
図4に示されるように、溶解炉20は浴の深さHや炉直径Dを有するものであってよい。溶解炉20の浴の深さHや炉直径Dは、特に限定されるものではない。後述する下降流や中心流を一層発生させ易くする観点からは、溶解炉20の浴の深さHと炉直径Dとの比H/Dが0.17以上0.48以下であるとよい。尚、本願において、「浴の深さH」とは、上部電極の直下における溶鉄湯面から炉最深部までの深さを意味する。例えば、図3に示されるように、浴の深さHは、炉中心部における溶鉄湯面から炉底までの距離であってよい。また、「炉直径D」とは、溶鉄湯面の直径を意味する。上部電極の直下の湯面位置Oから、鉄源5aが供給される位置Pを通って炉内壁に至るまでの湯面上の直線距離を「炉半径R」とみなし、当該炉半径Rを2倍したものを「炉直径D」とみなす。
【0019】
1.4 溶鉄
溶鉄5bは、スクラップや還元鉄等の鉄源を溶解することにより得られるものである。本開示の直流アーク炉100は、溶解炉20内に溶鉄5bが存在している状態において、さらに溶鉄5bへと還元鉄を含む鉄源5aが供給される場合に、当該鉄源5aを効率的に溶解させるものである。すなわち、鉄源5aが供給される前に溶解炉20内に存在する溶鉄5bは、還元鉄を含む鉄源を溶解させて得られたものであってもよいし、還元鉄を含まない鉄源(例えば、スクラップ)を溶解させて得られたものであってもよい。溶鉄5bは、鉄以外に様々な元素を含み得る。溶鉄5bは溶鋼であってもよい。上述した通り、溶鉄5bの密度は、還元鉄を含む鉄源5aのかさ密度よりも大きい。溶鉄5bの密度は、例えば、6500kg/m超又は6800kg/m以上であってもよい。溶鉄5bの温度は、特に限定されるものではない。
【0020】
1.5 電力供給部
直流アーク炉100においては、電力供給部30から上部電極21及び下部電極22へと電力を供給して、上部電極21及び下部電極22の間にアーク23を生じさせることで、溶解炉20の溶鉄5bに対して、上部電極21及び下部電極22の間に下降流を生じさせる。電力供給部30は、上部電極21及び下部電極22へ電力を供給するものとして一般的なものを採用すればよい。電力供給部30から電極へと供給される電力は、電極間にアークを生じさせることができる限り、特に限定されるものではない。
【0021】
1.6 制御部
直流アーク炉100においては、制御部40により、電力供給部30から上部電極21及び下部電極22へと供給される電力、及び、供給口10から溶解炉20内の湯面5bxに供給される鉄源5aの供給位置P、のうちの一方又は両方が制御される。制御部40が、電力及び供給位置Pのうちの一方又は両方を制御することにより、上部電極21及び下部電極22の間にアーク23を生じさせて、溶解炉20における溶鉄5bに対して、上部電極21及び下部電極22の間に下降流を発生させるとともに、溶鉄5bの湯面5bxに下降流へと向かう中心流を発生させ、且つ、湯面5bxに発生した中心流へと供給された鉄源5aを湯面5bxに浮かせつつ下降流に向かって移動させる。
【0022】
制御部40は、例えば、湯面5bxに供給される鉄源5aの供給位置Pに応じて、当該供給位置Pに中心流が発生するように、電力供給部30から上部電極21及び下部電極22へと供給される電力を制御するものであってもよい。或いは、制御部40は、例えば、湯面5bxにおいて中心流が生じる範囲に応じて、当該範囲内に鉄源5aが供給されるように、鉄源5aの供給角度等を制御して上記の供給位置Pを制御するものであってもよい。或いは、制御部40は、電力及び供給位置Pの双方を制御するものであってもよい。特に、制御部40が電力を制御する形態が簡便である。制御部40は、上記の制御を実行可能なものであればよく、当該制御を実行可能するための公知の構成を備え得る。例えば、制御部40は、CPU、RAM、ROM等を備えるものであってよい。
【0023】
1.7 電極間にアークを生じさせることによって溶鉄に生じる流れ
1.7.1 下降流
上述したように、直流アーク炉100においては、上部電極21が陰極、下部電極22が陽極であることから、溶鉄5b中の主な電流は、炉底から上部電極21直下の湯面5bxに向かう流れとなる。この溶鉄5b中の電流密度ベクトルをJ(A/m)とし、磁束密度ベクトルをB(T)とすると、図5(A)に示されるように、溶鉄5b中には電磁力F(N/m)=J×Bが発生する。この電磁力Fは、溶鉄5bを周囲から締め付けるように分布しており、ピンチ力とも呼ばれる。ここで、例えば、アーク23が溶鉄5bに接する地点におけるアーク断面積Sarcが、下部電極22が溶鉄5bに接する面積よりも小さい場合、湯面5bxにおける電流密度が下部電極22付近の電流密度よりも大きく、湯面5bxのピンチ力が下部電極22付近のピンチ力よりも大きくなる。そのため、図5(B)に示されるように、上部電極21直下において、下方向への流れ(下降流)が形成される。
【0024】
より具体的には、下降流は、例えば、下記式(1)~(3)によって表されるアーク断面積Sarcが、下部電極22が溶鉄5bに接する面積よりも小さくなる場合に発生する。言い換えれば、例えば、制御部40は、下記式(1)~(3)によって表されるアーク断面積Sarcが、下部電極22が溶鉄5bに接する面積よりも小さくなるように、上記の電力を制御するものであってもよい。
【0025】
arc = πR arc …(1)
arc = R(3.2-2.2exp(-z/(5R))) …(2)
= (I/(πj))0.5 …(3)
arc:前記溶鉄に接する地点における前記アークの半径(cm)
:前記上部電極に接する地点における前記アークの半径(cm)
z:前記上部電極と前記溶鉄の湯面との間の距離(cm)
I:電流値(kA)
:上部電極に接する地点におけるアークの電流密度(kA/cm
【0026】
上記式(1)~(3)において、zは、例えば、15~50cmであってもよく、Iは、例えば、10~60kAであってもよく、jは、例えば、3.0~4.0kA/cmであってもよい。尚、z、I及びjの値は、これに限定されるものではない。ただし、Iについては、限界電流密度と上部電極の最大径による物理的な制限があることから、現実的には、129kA以下である。また、上記式(2)より、Rarcの最大値は、Rの3.2倍程度である。例えば、上部電極21の限界電流密度を25A/cmとして、φ81cmの上部電極21(本出願時に存在する最大径の上部電極)についてRarcを計算すると約11cmとなる。この場合、下部電極22が溶鉄5bに接する面積が11×11×π(cm)よりも大きければ、上部電極21及び下部電極22の間の溶鉄5bに対して下降流を生じさせることができるものといえる。
【0027】
1.7.2 中心流
直流アーク炉100においては、溶鉄5bの湯面5bxのうち、中心流が発生している位置Pに鉄源5aが供給される。図5(B)に示されるように、「中心流」とは、下降流の周囲の少なくとも一部に形成されるもので、下降流に向かう流れをいう。そのため、鉄源5aが供給される位置Pは、上部電極21及び下部電極22の間の位置Oから離れた位置となる。言い換えれば、図3及び4に示されるように、溶解炉20においては、溶鉄5bの湯面5bxにおける上部電極21及び下部電極22の電極間の位置Oから鉄源5aが供給される位置Pまでの間に距離Rが存在する。尚、直流アーク炉100においては、溶鉄5bの湯面5bxにスラグが存在し得る。この場合、湯面上の当該スラグの流れを確認することで、中心流が発生しているか否かを判断してもよい。中心流が発生しているか否かの判断方法の一例として、例えば、カメラを用いて炉内を観察し、溶鉄5bの湯面5bx上のスラグが上部電極21及び下部電極22の間の位置Oに向かって流れていることが確認された場合に、中心流が生じているものと判断することができる。
【0028】
本発明者が確認した限りでは、同一形状である直流アーク炉100において、上部電極21及び下部電極22へと供給される電力を、上部電極21及び下部電極22の間にアーク23を生じさせることが可能な一般的な電力の範囲内で変化させたとしても、溶鉄5bの湯面5bxにおいて中心流が生じる範囲に大きな変化はない。本発明者が確認した限りでは、中心流が生じる範囲は、炉の形状のうち、特に、上記の浴の深さHや炉直径Dに依存する。例えば、溶解炉20の浴の深さHと、炉直径Dと、溶鉄5bの湯面5bxにおける上部電極21及び下部電極22の電極間の位置Oから鉄源5aが供給される位置Pまでの距離Rと、溶解炉20の炉半径Rとが、下記式(4)の関係を満たす場合に、鉄源5aを湯面5bxに発生した中心流に乗せて下降流に向かって移動させ易い。H/Dの具体的な値は、特に限定されないが、例えば、0.17以上0.48以下であってもよい。
【0029】
R/R < 1.24(H/D)0.75 …(4)
【0030】
1.7.3 遠離流
図5(B)に示されるように、溶鉄5bにおいて電極間のアークによって生じる流れは、上記の下降流や中心流に限られるものではない。例えば、溶鉄5bの湯面5bxにおいて、中心流よりも外側に遠離流が生じ得る。仮に、当該遠離流が生じている位置に鉄源5aが供給された場合、鉄源5aが下降流から遠ざかるように、温度の低い炉内壁へと近付くことから、鉄源5aを効率的に溶解させることができない。鉄源5aを効率的に溶解させるためには、上述の通り、溶鉄5bの湯面5bxのうち中心流が生じている位置Pに鉄源5aを供給し、鉄源5aを溶鉄5bの湯面5bxに浮かべつつ、中心流に乗せて、下降流に向かって移動させることが有効である。
【0031】
1.8 その他の構成
本開示の直流アーク炉は、上記の構成に加えて、直流アーク炉として一般的な構成を備えていてもよい。例えば、溶解炉内の溶鉄に対して上吹きガスを供給するためのランスを備えていてもよいし、底吹き等のための各種ガス流路を備えていてもよいし、排滓のための排滓口や出鋼のための出鋼口を備えていてもよいし、炉体を冷却するための冷却装置等を備えていてもよい。直流アーク炉が備え得るその他の構成については自明であることから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0032】
2.直流アーク炉(第2実施形態)
上述の通り、直流アーク炉100においては、溶解炉20の浴の深さHと、炉直径Dと、溶鉄5bの湯面5bxにおける上部電極21及び下部電極22の電極間の位置Oから鉄源5aが供給される位置Pまでの距離Rと、溶解炉20の炉半径Rとが、上記式(4)の関係を満たす場合に、鉄源5aを湯面5bxに発生した中心流に乗せて下降流に向かって移動させ易い。言い換えれば、本開示の直流アーク炉は、以下の構成を備えるものであってもよい。
【0033】
すなわち、第2実施形態に係る直流アーク炉は、
還元鉄を含む鉄源を供給する、供給口と、
上部電極及び下部電極の間にアークを生じさせて前記鉄源を溶解する、溶解炉と、
前記上部電極及び前記下部電極に電力を供給する、電力供給部と、を備え、
前記溶解炉の浴の深さHと、炉直径Dと、前記溶鉄の湯面における前記上部電極及び前記下部電極の電極間の位置から前記鉄源が供給される位置までの距離Rと、前記溶解炉の炉半径Rとが、下記式(4)の関係を満たすものである。
【0034】
R/R < 1.24(H/D)0.75 …(4)
【0035】
第2実施形態に係る直流アーク炉は、第1実施形態と同様に、制御部を備えていてもよい。例えば、第2実施形態に係る直流アーク炉において、制御部は、下記式(1)~(3)によって表されるアーク断面積Sarcが、前記下部電極が前記溶鉄に接する面積よりも小さくなるように、上部電極及び下部電極へと供給される電力を制御するものであってもよい。
【0036】
arc = πR arc …(1)
arc = R(3.2-2.2exp(-z/(5R))) …(2)
= (I/(πj))0.5 …(3)
arc:前記溶鉄に接する地点における前記アークの半径(cm)
:前記上部電極に接する地点における前記アークの半径(cm)
z:前記上部電極と前記溶鉄の湯面との間の距離(cm)
I:電流値(kA)
:上部電極に接する地点におけるアークの電流密度(kA/cm
【0037】
上記式(4)の関係の意味するところや、上記式(1)~(3)の意味するところについては第1実施形態において説明した通りである。第2実施形態に係る直流アーク炉において、供給口、溶解炉及び電力供給部の基本構成については、第1実施形態と同様であってよい。第2実施形態において、第1実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0038】
3.直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法
本開示の技術は、上記した直流アーク炉そのものとしての側面のほか、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法としての側面も有する。
【0039】
すなわち、本開示の方法は、
直流アーク炉100を用いて還元鉄を含む鉄源5aを溶解する方法であって、
供給口10から溶解炉20内に前記鉄源5aを供給する、供給ステップと、
前記溶解炉20に設けられた上部電極21及び下部電極22の間にアーク23を生じさせて、前記鉄源5aを溶解する、溶解ステップと、を有し、
前記上部電極21及び前記下部電極22の間に前記アーク23を生じさせて、前記溶解炉20における溶鉄5bに対して、前記上部電極21及び前記下部電極22の間に下降流を発生させるとともに、前記溶鉄5bの湯面5bxに前記下降流へと向かう中心流を発生させ、且つ、前記湯面5bxに発生した前記中心流へと前記鉄源5aを供給して、前記鉄源5aを前記湯面5bxに浮かせつつ前記下降流に向かって移動させるものである。
【0040】
供給ステップや溶解ステップの詳細については既に説明した通りである。本開示の方法においては、鉄源5aを効率的に溶解させるために、溶鉄5bの湯面5bxにおいて、中心流が生じている位置Pに鉄源5aを供給し、鉄源5aを溶鉄5bの湯面5bxに浮かせつつ、鉄源5aを中心流に乗せて、下降流に向かって移動させる。ここで、本開示の方法においては、湯面5bxのうち中心流が生じている位置Pに鉄源5aを直接的に供給するために、供給口10の位置や湯面5bxにおいて中心流が生じている範囲等に応じて、鉄源5aの供給角度が決定されてもよい。具体的には、供給口10の直下の湯面5bxに中心流が生じていない場合は、供給口10から湯面5bxへと鉄源5aを斜め下向きに供給することで、鉄源5aを位置Pに直接的に供給してもよく(例えば、図2(A))、供給口10の直下の湯面5bxに中心流が生じている場合は、供給口10から湯面5bxへと鉄源5aを鉛直下向きに供給してもよい(例えば、図2(B))。
【0041】
本開示の方法において、鉄源5aを供給する方式は特に限定されるものではない。例えば、鉄源5aを供給する方式が、炉内壁又は炉蓋に設けられた孔を介して鉄源5aを供給する方式、及び、原料投入シュートによって鉄源5aを供給する方式、のうちの少なくとも一方であってもよい。鉄源5aを供給する方式の詳細については、上述した通りである。
【0042】
本開示の方法は、上記式(1)~(3)によって表されるアーク断面積Sarcが、下部電極22が溶鉄5bに接する面積よりも小さくなるように、上部電極21及び下部電極22に電力を供給するものであってもよい。式(1)~(3)の意味するところについては、上述した通りである。
【0043】
本開示の方法においては、溶解炉20の浴の深さHと、炉直径Dと、溶鉄5bの湯面5bxにおける上部電極21及び下部電極22の電極間の位置から鉄源5aが供給される位置Pまでの距離Rと、溶解炉20の炉半径Rとが、上記式(4)の関係を満たしていてもよい。式(4)の意味するところについては、上述した通りである。
【実施例0044】
以下、実施例を示しつつ本発明についてさらに説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱せず、その目的を達する限りにおいて、種々の条件を採用可能とするものである。
【0045】
1.数値シミュレーション1
DPM(Discrete Phase Model)法により、直流アーク炉における還元鉄の移動の数値シミュレーションを実施した。具体的には、溶鋼の流体シミュレーションにより形成された定常流れ場に還元鉄を摸擬した粒子を供給し、軌跡を追跡した。直流アーク炉の形状は、図3及び4に示されるような形状とした。供給した粒子は球状であり、密度5500kg/m、直径0.072mである。直径は0.04m×0.05m×0.1mの直方体の還元鉄を、同体積の球に変換して得た球の直径である。溶鋼の密度は7000kg/mであり、溶鋼に供給された還元鉄は、溶鋼の湯面に浮かぶものとした。図6(A)及び(B)に、DPM法により得た還元鉄の軌跡の計算例を示す。また、図7に、炉内における還元鉄の移動の模式図を示す。図6(A)及び図7に示されるように、上部電極直下に向かう流れの領域に還元鉄を供給すると、還元鉄が上部電極直下に向かって移動することが分かる。一方で、図6(B)及び図7に示されるように、炉壁に向かう流れの領域に還元鉄を供給すると、還元鉄が炉壁に向かって移動することが分かる。
【0046】
溶鋼に形成される定常流れ場について説明すると以下の通りである。まず、直流アーク炉の溶解炉において上部電極及び下部電極の間にアークを生じさせて溶鋼を加熱した場合、下部電極から上部電極へと流れる電流によって、溶鋼に電磁力F(N/m)としてのピンチ力が発生する。ここで、アークが溶鋼に接する地点におけるアーク断面積Sarc(下記式(1)~(3)参照)が、下部電極が溶鋼に接する面積よりも小さい場合、湯面における電流密度が大きくなり、湯面のピンチ力が下部電極付近のピンチ力よりも大きくなる。その結果、上部電極直下において、下方向への流れ(下降流)が形成されるとともに、当該下降流の周囲に、下降流へと向かう中心流が発生する。また、中心流のさらに外側に下降流とは反対側(炉壁側)に向かう遠離流が発生する。図6(A)においては、中心流が発生している位置に還元鉄が供給されたことにより、還元鉄が中心流れに乗って下降流に向かって移動し、上部電極直下に近付いたものといえる。一方、図6(B)においては、遠離流が発生している位置に還元鉄が供給されたことにより、還元鉄が遠離流に乗って炉壁に近付いたものといえる。
【0047】
arc = πR arc …(1)
arc = R(3.2-2.2exp(-z/(5R))) …(2)
= (I/(πj))0.5 …(3)
arc:溶鋼(溶鉄)に接する地点におけるアークの半径(cm)
:上部電極に接する地点におけるアークの半径(cm)
z:上部電極と溶鉄の湯面との間の距離(cm)
I:電流値(kA)
:上部電極に接する地点におけるアークの電流密度(kA/cm
【0048】
以上の通り、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を効率的に溶解させるためには、上部電極及び下部電極の間にアークを生じさせて、溶解炉における溶鉄に対して、上部電極及び下部電極の間に下降流を発生させるとともに、溶鉄の湯面に下降流へと向かう中心流を発生させ、且つ、湯面に発生した中心流へと鉄源を供給して、鉄源を湯面に浮かせつつ下降流に向かって移動させることが有効であるといえる。例えば、上部電極及び下部電極へと供給される電力、及び、溶解炉内の湯面に供給される鉄源の供給位置、のうちの一方又は両方を制御することで、下降流及び中心流を適切に発生させることができるとともに、鉄源を湯面の適切な位置に供給することができ、鉄源を湯面に浮かせつつ下降流に向かって移動させることが可能と考えられる。
【0049】
2.数値シミュレーション2
「H.J. Odenthal, A. Kemminger, F. Krause, N. Vogl, AISTech, Iron and Steel Technology Conf., Nashville, USA 2017, 1101.」に記載された方法で数値流体シミュレーションを実施した。シミュレーション条件を変更することで、直流アーク炉の溶鋼湯面における還元鉄の移動の仕方を確認した。
【0050】
下記表1は、10tの直流アーク炉において供給電力を3MWに設定した例、140tの直流アーク炉において供給電力を42MWに設定した例、及び、300tの直流アーク炉において供給電力を90MWに設定した例である。直流アーク炉の形状は事前検討のものと同じものをベースとし、浴の深さHと炉直径Dとの比H/D(浴深/炉径)が、約0.17、約0.25、約0.37及び約0.48のそれぞれの場合において、溶鋼量を10t、140t、300tと変化させた系を対象として、溶鋼湯面における上部電極及び下部電極の電極間の位置から還元鉄が供給される位置までの距離R(還元鉄投入位置)を変更しつつ、流体計算および還元鉄移動の計算を実施した。溶鋼湯面に供給された還元鉄が上部電極直下に向かって移動した場合は「〇」、移動しなかった場合は「×」とした。
【0051】
【表1】
【0052】
下記表2は、それぞれの電力を30%低減させた例である。すなわち、10t、140t及び300tの直流アーク炉における電力を、それぞれ、2.1MW、29.4MW及び63MWに設定し、還元鉄投入位置を変更しつつ、流体計算および還元鉄移動の計算を実施した。
【0053】
【表2】
【0054】
下記表3は、それぞれの電力を15%低減させた例である。すなわち、10t、140t及び300tの直流アーク炉における電力を、それぞれ、2.55MW、35.7MW及び76.5MWに設定し、還元鉄投入位置を変更しつつ、流体計算および還元鉄移動の計算を実施した。
【0055】
【表3】
【0056】
下記表4は、上部電極に流すことのできる最大の電流値を設定し、還元鉄投入位置を変更しつつ、流体計算および還元鉄移動の計算を実施した例である。上部電極はカーボン電極とした。カーボン電極の限界電流密度は25A/cmとした。300tの直流アーク炉においては、表1の例における電流値が最大の電流値であった。10t、140tの直流アーク炉における電力は、それぞれ3.4MW、52MWであった。
【0057】
【表4】
【0058】
下記表5は、炉底が球殻状の直流アーク炉に対して同様のシミュレーションを行った例である。140tの直流アーク炉について、電力を42MWに設定し、還元鉄投入位置を変更しつつ、計算を実施した。
【0059】
【表5】
【0060】
表1~5に示される結果から、溶解炉内の溶鋼の湯面に還元鉄を供給した場合、湯面における供給位置によって、還元鉄が上部電極直下に向かって移動したり、炉壁に向かって移動したりすることが分かる。
【0061】
図8(A)~(D)及び図9に、溶鋼の湯面における上部電極及び下部電極の電極間の位置から還元鉄が供給される位置までの距離Rと溶解炉の炉半径Rとの比R/R(還元鉄投入位置/炉半径)を縦軸、溶解炉の浴の深さHと炉直径Dとの比H/D(浴深/炉径)を横軸にとり、表1~5に示された結果(「○」又は「×」)をプロットした結果を示す。図8(A)が表1、図8(B)が表2、図8(C)が表3、図8(D)が表4、図9が表5に示された結果と対応する。
【0062】
表1~5、図8(A)~(D)及び図9に示される結果から、炉底の形状によらず、また、供給電力の大小によらず、○と×との閾値となるグラフは同じとなることが分かる。すなわち、閾値となるグラフの上側となる条件では還元鉄を上部電極直下に向かって移動できない(「×」)一方で、グラフの下側となる条件では還元鉄を上部電極直下に向かって移動できる(「○」)ことが分かる。より具体的には、溶解炉の浴の深さHと、炉直径Dと、溶鋼(溶鉄)の湯面における上部電極及び下部電極の電極間の位置から還元鉄(鉄源)が供給される位置までの距離Rと、溶解炉の炉半径Rとが、下記式(4)の関係を満たす場合に、湯面上の還元鉄(鉄源)を上部電極直下に向かって移動させることができ、還元鉄を効率的に溶解できることが分かる。
【0063】
R/R < 1.24(H/D)0.75 …(4)
【0064】
図10(A)~(D)に、直流アーク炉において電極に供給される電力を変化させた場合における、溶鋼の流速分布の一例を示す。(A)が電力を30%低減した場合、(B)が電力を15%低減した場合、(C)が電力を変更しなかった場合、(D)が限界電流値に設定した場合に相当する。図10(A)~(D)に示されるように、比H/Dが同一である直流アーク炉においては、電力を30%低減したケースにおいて、下降流の流速が最小となり、限界電流値を設定した場合において下降流の流速が最大となった一方、湯面に生じる中心流の範囲は、電力の大小によらず、大きくは変化しない結果となった。すなわち、電力の大小は、炉内の溶鋼の流速の絶対値に影響を与えるものの、湯面に生じる中心流の範囲に与える影響は小さいことが分かる。
【0065】
3.補足
上記の実施例では、溶鋼に還元鉄を供給する形態を示したが、本開示の技術はこの形態に限定されるものではない。本開示の技術は、直流アーク炉において、かさ密度の小さな鉄源(還元鉄を含む鉄源)を、相対的に比重が大きい溶鉄の湯面に供給する場合に適用可能であり、溶鉄の組成や鉄源の組成に特に制限はない。また、鉄源を供給する方式についても特に限定されるものではなく、例えば、炉内壁に設けられた孔を介して鉄源を供給する方式や、原料投入シュートによって鉄源を供給する方式、或いはこれら方式の組み合わせなどが採用され得る。
【0066】
上記の実施例では、上記式(4)の関係を満たすものを例示したが、本開示の技術はこの形態に限定されるものではない。式(4)の関係を満たさない場合であっても、直流アーク炉が「上部電極及び下部電極の間にアークを生じさせて、溶解炉における溶鉄に対して、上部電極及び下部電極の間に下降流を発生させるとともに、溶鉄の湯面に下降流へと向かう中心流を発生させ、且つ、湯面に発生した中心流へと鉄源を供給して、鉄源を湯面に浮かせつつ下降流に向かって移動させる」ように構成されることで、還元鉄を含む鉄源を効率的に溶解できる。
【0067】
4.結論
上記の実施例の結果から、以下の方法によれば、直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する場合に、還元鉄を含む鉄源を効率的に溶解させることができるといえる。また、直流アーク炉を以下の(A)及び/又は(B)のように構成することで、還元鉄を含む鉄源を効率的に溶解させることができるといえる。
【0068】
直流アーク炉を用いて還元鉄を含む鉄源を溶解する方法であって、
供給口から溶解炉内に前記鉄源を供給する、供給ステップと、
前記溶解炉に設けられた上部電極及び下部電極の間にアークを生じさせて、前記鉄源を溶解する、溶解ステップと、を有し、
前記上部電極及び前記下部電極の間に前記アークを生じさせて、前記溶解炉における溶鉄に対して、前記上部電極及び前記下部電極の間に下降流を発生させるとともに、前記溶鉄の湯面に前記下降流へと向かう中心流を発生させ、且つ、前記湯面に発生した前記中心流へと前記鉄源を供給して、前記鉄源を前記湯面に浮かせつつ前記下降流に向かって移動させる、
方法。
【0069】
(A)
還元鉄を含む鉄源を供給する、供給口と、
上部電極及び下部電極の間にアークを生じさせて前記鉄源を溶解する、溶解炉と、
前記上部電極及び前記下部電極に電力を供給する、電力供給部と、
前記電力供給部から前記上部電極及び前記下部電極へと供給される電力、及び、前記供給口から前記溶解炉内の湯面に供給される前記鉄源の供給位置、のうちの一方又は両方を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部が、前記電力及び前記供給位置のうちの一方又は両方を制御することにより、前記上部電極及び前記下部電極の間に前記アークを生じさせて、前記溶解炉における溶鉄に対して、前記上部電極及び前記下部電極の間に下降流を発生させるとともに、前記溶鉄の湯面に前記下降流へと向かう中心流を発生させ、且つ、前記湯面に発生した前記中心流へと供給された前記鉄源を前記湯面に浮かせつつ前記下降流に向かって移動させるように構成されている、
直流アーク炉。
【0070】
(B)
還元鉄を含む鉄源を供給する、供給口と、
上部電極及び下部電極の間にアークを生じさせて前記鉄源を溶解する、溶解炉と、
前記上部電極及び前記下部電極に電力を供給する、電力供給部と、を備え、
前記溶解炉の浴の深さHと、炉直径Dと、前記溶鉄の湯面における前記上部電極及び前記下部電極の電極間の位置から前記鉄源が供給される位置までの距離Rと、前記溶解炉の炉半径Rとが、下記式(4)の関係を満たす、
直流アーク炉。
R/R < 1.24(H/D)0.75 …(4)
【符号の説明】
【0071】
5a 鉄源
5b 溶鉄
5bx 湯面
10 供給口
20 溶解炉
21 上部電極
22 下部電極
23 アーク
30 電力供給部
40 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10