(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180977
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】減速旋回補助装置、被牽引車両および連結車両
(51)【国際特許分類】
B60T 7/20 20060101AFI20231214BHJP
B62D 13/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B60T7/20
B62D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094686
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福留 秀樹
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246AA12
3D246BA01
3D246BA02
3D246DA01
3D246GB05
3D246GC16
3D246HA79A
3D246JA11
3D246JB23
3D246LA04Z
(57)【要約】
【課題】連結部を介して牽引車両と被牽引車両とが揺動可能に連結された連結車両の減速旋回時の安定性を向上させる。
【解決手段】連結部28を介して牽引車両12と揺動可能に連結される被牽引車両18の左右の車輪に設けられた制動装置24R、24Lと、被牽引車両18が牽引車両12と連結された状態での減速旋回時に、牽引車両12と被牽引車両18とのヒッチ角φが減少するように、制動装置24R、24Lでヒッチ角φに応じた左右の制動力差を発生させる制動力差発生部(回動部材46、変位変換部50R、50L、第1ワイヤ56および第2ワイヤ62)と、を含んでいる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結部を介して牽引車両と揺動可能に連結される被牽引車両の左右の車輪に設けられた制動装置と、
前記被牽引車両が前記牽引車両と連結された状態での減速旋回時に、前記牽引車両と前記被牽引車両とのヒッチ角が減少するように、前記制動装置で前記ヒッチ角に応じた左右の制動力差を発生させる制動力差発生部と、
を含む減速旋回補助装置。
【請求項2】
前記制動力差発生部は、
前記減速旋回時に前記ヒッチ角に応じて変位される変位部と、
前記変位部の変位を、前記制動装置で前記ヒッチ角を減少させる制動力差が発生するように前記制動装置に伝達する伝達部と、
を含む請求項1記載の減速旋回補助装置。
【請求項3】
前記伝達部は、
減速右旋回時における前記変位部の変位を第1ワイヤの引っ張り力へ変換し、当該第1ワイヤの引っ張り力により前記被牽引車両の右輪の制動装置で発生する制動力を増加させる第1変換部と、
減速左旋回時における前記変位部の変位を第2ワイヤの引っ張り力へ変換し、当該第2ワイヤの引っ張り力により前記被牽引車両の左輪の制動装置で発生する制動力を増加させる第2変換部と、
を含む請求項2記載の減速旋回補助装置。
【請求項4】
前記伝達部は、
減速右旋回時における前記変位部の変位を油圧へ変換し、当該油圧により前記被牽引車両の右輪の制動装置で発生する制動力を増加させる第3変換部と、
減速左旋回時における前記変位部の変位を油圧へ変換し、当該油圧により前記被牽引車両の左輪の制動装置で発生する制動力を増加させる第4変換部と、
を含む請求項2記載の減速旋回補助装置。
【請求項5】
前記制動力差発生部は、
前記ヒッチ角を検出するヒッチ角検出部と、
前記減速旋回時に、前記牽引車両と前記被牽引車両とのヒッチ角が減少するように、前記ヒッチ角検出部によって検出された前記ヒッチ角に応じた左右の制動力差を前記制動装置で発生させる制御部と、
を含む請求項1記載の減速旋回補助装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか1項記載の減速旋回補助装置を含み、連結部を介して牽引車両と揺動可能に連結される被牽引車両。
【請求項7】
請求項6記載の被牽引車両と、
連結部を介して前記被牽引車両と揺動可能に連結された牽引車両と、
を含む連結車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は減速旋回補助装置、被牽引車両および連結車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、運転手の要求と、制動を行う直前と制動中にトレーラカップリングに働く縦方向の力の測定値とに応じて、牽引車側で形成される制動圧信号を調整することにより、牽引車側からトレーラの制動を修正するようにしたトレーラの制動制御システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被牽引車両(トレーラ)が連結部を介して牽引車両(トラクタ)と揺動可能に連結された連結車両では、旋回時に、牽引車両と被牽引車両とに連結部回りの相対角(ヒッチ角)が生じることで旋回運動が可能となっている。しかし、牽引車両が減速をしており、かつ牽引車両と被牽引車両とにヒッチ角が生じている状態(本明細書では、この状態を「減速旋回時」という)では、牽引車両と被牽引車両とのヒッチ角が連結車両の折れ曲がり(ジャックナイフ現象)などの不安定挙動の要因になる。これに対し、特許文献1に記載の技術では、制動時の減速度や連結部の圧力により被牽引車両の制動力を修正しているものの、減速旋回時に不安定挙動が抑制されるように被牽引車両の制動力を修正することについては記載されていない。
【0005】
本開示は上記事実を考慮して成されたもので、連結車両の減速旋回時の安定性を向上できる減速旋回補助装置、被牽引車両および連結車両を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様に係る減速旋回補助装置は、連結部を介して牽引車両と揺動可能に連結される被牽引車両の左右の車輪に設けられた制動装置と、前記被牽引車両が前記牽引車両と連結された状態での減速旋回時に、前記牽引車両と前記被牽引車両とのヒッチ角が減少するように、前記制動装置で前記ヒッチ角に応じた左右の制動力差を発生させる制動力差発生部と、を含んでいる。
【0007】
第1の態様では、被牽引車両が牽引車両と連結された状態での減速旋回時に、牽引車両と被牽引車両とのヒッチ角が減少するように、被牽引車両の左右の車輪に設けられた制動装置で前記ヒッチ角に応じた左右の制動力差を発生させる。これにより、減速旋回時に、牽引車両と被牽引車両とのヒッチ角を減少させる方向のモーメントが被牽引車両に発生し、連結車両の折れ曲がりなどの不安定挙動が発生することが抑制されることで、連結部を介して牽引車両と被牽引車両とが揺動可能に連結された連結車両の減速旋回時の安定性を向上させることができる。
【0008】
第2の態様は、第1の態様において、前記制動力差発生部は、前記減速旋回時に前記ヒッチ角に応じて変位される変位部と、前記変位部の変位を、前記制動装置で前記ヒッチ角を減少させる制動力差が発生するように前記制動装置に伝達する伝達部と、を含んでいる。
【0009】
第2の態様では、変位部が、減速旋回時に牽引車両と被牽引車両とのヒッチ角に応じて変位され、この変位が伝達部によって制動装置に伝達されることで、牽引車両と被牽引車両とのヒッチ角を減少させる制動力差が発生される。これにより、制御部などを必要としない簡易な構成で、連結車両の減速旋回時の安定性を向上させることができる。
【0010】
第3の態様は、第2の態様において、前記伝達部は、減速右旋回時における前記変位部の変位を第1ワイヤの引っ張り力へ変換し、当該第1ワイヤの引っ張り力により前記被牽引車両の右輪の制動装置で発生する制動力を増加させる第1変換部と、減速左旋回時における前記変位部の変位を第2ワイヤの引っ張り力へ変換し、当該第2ワイヤの引っ張り力により前記被牽引車両の左輪の制動装置で発生する制動力を増加させる第2変換部と、を含んでいる。
【0011】
第3の態様によれば、制動装置が機械式である場合に、簡易な構成で、連結車両の減速旋回時の安定性を向上させることができる。
【0012】
第4の態様は、第2の態様において、前記伝達部は、減速右旋回時における前記変位部の変位を油圧へ変換し、当該油圧により前記被牽引車両の右輪の制動装置で発生する制動力を増加させる第3変換部と、減速左旋回時における前記変位部の変位を油圧へ変換し、当該油圧により前記被牽引車両の左輪の制動装置で発生する制動力を増加させる第4変換部と、を含んでいる。
【0013】
第4の態様によれば、制動装置が油圧式である場合に、簡易な構成で、連結車両の減速旋回時の安定性を向上させることができる。
【0014】
第5の態様は、第1の態様において、前記制動力差発生部は、前記ヒッチ角を検出するヒッチ角検出部と、前記減速旋回時に、前記牽引車両と前記被牽引車両とのヒッチ角が減少するように、前記ヒッチ角検出部によって検出された前記ヒッチ角に応じた左右の制動力差を前記制動装置で発生させる制御部と、を含んでいる。
【0015】
第5の態様によれば、連結車両の減速旋回時の安定性を向上させることができる。
【0016】
第6の態様に係る被牽引車両は、第1の態様~第5の態様の何れかの減速旋回補助装置を含み、連結部を介して牽引車両と揺動可能に連結される。
【0017】
第6の態様では、第1の態様~第5の態様の何れかの減速旋回補助装置を含んでいるので、第1の態様と同様に、連結車両の減速旋回時の安定性を向上させることができる。
【0018】
第7の態様に係る連結車両は、第6の態様に係る被牽引車両と、連結部を介して前記被牽引車両と揺動可能に連結された牽引車両と、を含んでいる。
【0019】
第7の態様では、第6の態様の被牽引車両を含んでいるので、第6の態様と同様に、連結車両の減速旋回時の安定性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示は、連結車両の減速旋回時の安定性を向上させることができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態に係る連結車両の平面図である。
【
図2】第1実施形態に係る連結車両の側面図である。
【
図5】第1実施形態において減速右旋回時の動作を説明するための概略図である。
【
図7】第2実施形態における減速旋回時を示す連結部の平面図である。
【
図8】第3実施形態に係る制動力差発生装置の構成を示す概略ブロック図である。
【
図9】制御ECUが実行する減速旋回補助処理を示すフローチャートである。
【
図10】ヒッチ角と油圧(制動力)との関係の一例を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本開示の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0023】
〔第1実施形態〕
図1および
図2には、第1実施形態に係る連結車両10が示されている。連結車両10は、牽引車両12と被牽引車両18とが、詳細を後述する連結部28を介し、鉛直方向に沿った軸回りに揺動可能に連結されている。なお、連結部28を介しての牽引車両12と被牽引車両18との連結は、連結車両10の停車中に、所定の手順を経て解除することも可能とされている。
【0024】
牽引車両12は、車体の前側に配置された左右一対の前輪14と、車体の後側に配置された左右一対の後輪16と、を含んでいる。前輪14は、牽引車両12に搭載されたステアリング装置(図示省略)と連結されており、牽引車両12に設けられた図示しないステアリングホイールが回転されると、ステアリングホイールの回転に応じて操舵される。
【0025】
また、牽引車両12にはエンジンまたはモータから成る駆動源(図示省略)が搭載されている。前輪14および後輪16の少なくとも一方は、駆動源が駆動されると、駆動源で発生された駆動力が伝達されて回転し、これにより牽引車両12が走行する。また、牽引車両12は前輪14および後輪16に制動装置(図示省略)が各々設けられており、牽引車両12に設けられた図示しないブレーキペダルが踏まれると、各輪14、16の制動装置で制動力が発生することで牽引車両12が減速される。
【0026】
一方、被牽引車両18は、車体の前側に配置された左右一対の前輪20と、車体の後側に配置された左右一対の後輪22と、を含んでいる。被牽引車両18は、ステアリング装置および駆動源が搭載されておらず、前輪20および後輪22は回転自在に車体に支持されている。また、被牽引車両18の左右の後輪22には機械式の制動装置24R、24Lが設けられている。なお、制動装置24R、24Lはドラムブレーキでもよいし、ディスクブレーキでもよい。
【0027】
図3および
図4に示すように、連結部28は、牽引車両12の後端から牽引車両12の後方へ突出するように牽引車両12に取り付けられた第1連結部材(ヒッチメンバ)30と、被牽引車両18の前端から被牽引車両18の前方へ突出するように被牽引車両18に設けられた第2連結部材40と、を含んでいる。
【0028】
第1連結部材30は、側面視で略L字型の基部32を含み、基部32の先端部には、牽引車両12と被牽引車両18の揺動中心となるヒッチボール34が取り付けられている。また、基部32の中間部には案内部材36が立設されている。案内部材36は、中間部が牽引車両12の後方へ折り曲げられており、その先端には牽引車両12の後方へ突出する突起部36Aが形成されている。
【0029】
第2連結部材40は、先端部にヒッチボール34と係合するカプラ42が取り付けられており、中間部には、ダンパを内蔵し伸縮可能とされた伸縮部44が設けられている。伸縮部44は、連結車両10の走行時に、牽引車両12が加速したり一定速度で走行している際には伸長状態とされ、牽引車両12の減速した際には収縮状態とされる。
【0030】
また、図示は省略するが、被牽引車両18には慣性ブレーキ機構が設けられている。慣性ブレーキ機構は、牽引車両12の減速時における伸縮部44が収縮する変位を、図示しないロッドなどにより制動装置24R、24Lへ伝達し、制動装置24R、24Lで左右均等な制動力を発生させる機構である。
【0031】
また、第2連結部材40は、ほぼ雨滴形で、鋭角の先端部と円弧状の後端部との間に傾斜面46R、46Lが形成された回動部材46を含んでいる。回動部材46はピン48により鉛直方向に沿った軸回りに回動可能に支持されている。回動部材46は、先端部が被牽引車両18のおよそ前方側を向くように配置されており、伸縮部44が伸長している状態で、先端部と案内部材36の突起部36Aとの間に間隙dが形成されている。
【0032】
また、回動部材46の円弧状の後端部付近には、被牽引車両18の右側に変位変換部50Rが設けられ、被牽引車両18の左側に変位変換部50Lが設けられている。
図3に示すように、変位変換部50Rは、ピン54を中心として回動可能に軸支されたレバー52を含んでいる。レバー52は、基部に第1ワイヤ56の一端部が係止されており、先端部が回動部材46の後端部側の右側面に当接している。また第1ワイヤ56の他端部は、第1ワイヤ56が引っ張られた際に制動装置24Rで制動力が発生するように、制動装置24Rに接続されている(
図1参照)。
【0033】
また、変位変換部50Lは、ピン60を中心として回動可能に軸支されたレバー58を含んでいる。レバー58は、基部に第2ワイヤ62の一端部が係止されており、先端部が回動部材46の後端部側の左側面に当接している。また第2ワイヤ62の他端部は、第2ワイヤ62が引っ張られた際に制動装置24Lで制動力が発生するように、制動装置24Lに接続されている。
【0034】
なお、第1実施形態において、制動装置24R、24Lは本開示における制動装置の一例であり、回動部材46、第1ワイヤ56を含む変位変換部50Rおよび第2ワイヤ62を含む変位変換部50Lは、本開示における制動力差発生部の一例である。また、第1実施形態において、回動部材46は本開示における変位部の一例であり、変位変換部50R、50Lは、本開示における伝達部の一例である。さらに、第1実施形態において、変位変換部50Rは本開示における第1変換部の一例であり、変位変換部50Lは本開示における第2変換部の一例である。
【0035】
次に第1実施形態の作用を説明する。連結車両10の走行時に、牽引車両12が加速または一定速度で走行している際には、伸縮部44が伸長状態とされ、回動部材46の先端部と案内部材36の突起部36Aとの間に間隙dが形成されている状態が維持される。このため、この状態で牽引車両12が右または左へ旋回し、牽引車両12と被牽引車両18とにヒッチ角がついたとしても、回動部材46は回動されず、制動装置24R、24Lで制動力は発生しない。
【0036】
一方、牽引車両12(連結車両10)が減速しつつ右へ旋回する減速右旋回時には、伸縮部44が収縮され、かつ牽引車両12と被牽引車両18とにヒッチ角φ(
図5参照)がつく(φ≠0になる)ことで、回動部材46の傾斜面46Rが案内部材36の突起部36Aと当接し押圧される。これに伴い、
図5に示すように、回動部材46がヒッチ角φに応じて反時計回りに回動され、変位変換部50Rのレバー52がヒッチ角φに応じて回動され、第1ワイヤ56がヒッチ角φに応じて引っ張られることで、制動装置24Rでのみ制動力が発生する(左右の制動力差が発生される)。
【0037】
これにより、連結車両10の減速右旋回時に、牽引車両12と被牽引車両18とのヒッチ角φを減少させる方向のモーメントが被牽引車両18に発生し(
図5の矢印A参照)、連結車両10の折れ曲がりなどの不安定挙動が発生することが抑制されることで、連結車両10の減速右旋回時の安定性を向上させることができる。
【0038】
また、牽引車両12(連結車両10)が減速しつつ左へ旋回する減速左旋回時には、伸縮部44が収縮され、かつ牽引車両12と被牽引車両18とに減速右旋回時とは逆方向のヒッチ角φがつくことで、回動部材46の傾斜面46Lが案内部材36の突起部36Aと当接し押圧される。これに伴い、図示は省略するが、回動部材46がヒッチ角φに応じて時計回りに回動され、変位変換部50Lのレバー58がヒッチ角φに応じて回動され、第2ワイヤ62がヒッチ角φに応じて引っ張られることで、制動装置24Lでのみ制動力が発生する(左右の制動力差が発生される)。
【0039】
これにより、連結車両10の減速左旋回時に、牽引車両12と被牽引車両18とのヒッチ角φを減少させる方向のモーメントが被牽引車両18に発生し、連結車両10の折れ曲がりなどの不安定挙動が発生することが抑制されることで、連結車両10の減速左旋回時の安定性を向上させることができる。
【0040】
このように、第1実施形態に係る減速旋回補助装置は、連結部28を介して牽引車両12と揺動可能に連結される被牽引車両18の左右の車輪に設けられた制動装置24R、24Lと、被牽引車両18が牽引車両12と連結された状態での減速旋回時に、牽引車両12と被牽引車両18とのヒッチ角φが減少するように、制動装置24R、24Lでヒッチ角φに応じた左右の制動力差を発生させる制動力差発生部(回動部材46、変位変換部50R、50L、第1ワイヤ56および第2ワイヤ62)と、を含んでいる。これにより、連結部28を介して牽引車両12と被牽引車両18とが揺動可能に連結された連結車両10の減速旋回時の安定性を向上させることができる。
【0041】
また、第1実施形態において、制動力差発生部は、減速旋回時に牽引車両12と被牽引車両18とのヒッチ角φに応じて変位される回動部材46と、回動部材の変位(回動)を、制動装置24R、24Lでヒッチ角φを減少させる制動力差が発生するように制動装置24R、24Lに伝達する伝達部(変位変換部50R、50L、第1ワイヤ56および第2ワイヤ62)と、を含んでいる。これにより、制御部などを必要としない簡易な構成で、連結車両10の減速旋回時の安定性を向上させることができる。
【0042】
また、第1実施形態において、伝達部は、減速右旋回時における回動部材46の変位(回動)を第1ワイヤ56の引っ張り力へ変換し、当該第1ワイヤ56の引っ張り力により被牽引車両18の右輪の制動装置24Rで発生する制動力を増加させる第1変換部(変位変換部50R)と、減速左旋回時における回動部材46の変位(回動)を第2ワイヤ62の引っ張り力へ変換し、当該第2ワイヤ62の引っ張り力により被牽引車両18の左輪の制動装置24Lで発生する制動力を増加させる第2変換部(変位変換部50L)と、を含んでいる。これにより、制動装置24R、24Lが機械式である場合に、簡易な構成で、連結車両10の減速旋回時の安定性を向上させることができる。
【0043】
〔第2実施形態〕
次に本開示の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0044】
第2実施形態では、被牽引車両18に設けられた制動装置24R、24Lが、油圧式の制動装置で構成されている。また第2実施形態では、
図6に示すように、変位変換部50Rに代えて油圧シリンダ72Rおよび油圧配管76Rを含む変位変換部70Rが設けられ、変位変換部50Lに代えて油圧シリンダ72Lおよび油圧配管76Lを含む変位変換部70Lが設けられている。
【0045】
油圧シリンダ72Rは、ピストンロッド74の先端部が回動部材46の後端部側の右側面に当接するように配置されており、ピストンロッド74が回動部材46によって押圧されると、ピストンロッド74の押圧量に応じた油圧を発生させる。油圧配管76Rは一端部が油圧シリンダ72Rに接続され、他端部が制動装置24Rに接続されており(図示省略)、油圧シリンダ72Rで発生された油圧を制動装置24Rに供給する。
【0046】
また油圧シリンダ72Lは、ピストンロッド78の先端部が回動部材46の後端部側の左側面に当接するように配置されており、ピストンロッド78が回動部材46によって押圧されると、ピストンロッド78の押圧量に応じた油圧を発生させる。油圧配管76Lは一端部が油圧シリンダ72Lに接続され、他端部が制動装置24Lに接続されており、油圧シリンダ72Lで発生された油圧を制動装置24Lに供給する。
【0047】
なお、第2実施形態において、回動部材46、油圧配管76Rを含む変位変換部70Rおよび油圧配管76Lを含む変位変換部70Lは、本開示における制動力差発生部の一例である。また、第2実施形態において、回動部材46は本開示における変位部の一例であり、変位変換部70R、70Lは、本開示における伝達部の一例である。さらに、第1実施形態において、変位変換部70Rは本開示における第3変換部の一例であり、変位変換部70Lは本開示における第4変換部の一例である。
【0048】
本第2実施形態の作用を説明する。牽引車両12(連結車両10)の減速右旋回時には、伸縮部44が収縮され、かつ牽引車両12と被牽引車両18とにヒッチ角φがつくことで、
図7に示すように、回動部材46がヒッチ角φに応じて反時計回りに回動される。これに伴い、変位変換部70Rのピストンロッド74がヒッチ角φに応じて押圧され、油圧シリンダ72Rで発生された油圧が制動装置24Rへ供給されることで、制動装置24Rでのみ制動力が発生する(左右の制動力差が発生される)。これにより、連結車両10の減速右旋回時に、牽引車両12と被牽引車両18とのヒッチ角φを減少させる方向のモーメントが被牽引車両18に発生し、連結車両10の折れ曲がりなどの不安定挙動が発生することが抑制されることで、連結車両10の減速右旋回時の安定性を向上させることができる。
【0049】
また、牽引車両12(連結車両10)の減速左旋回時には、伸縮部44が収縮され、かつ牽引車両12と被牽引車両18とにヒッチ角φがつくことで、回動部材46がヒッチ角φに応じて時計回りに回動される。これに伴い、変位変換部70Lのピストンロッド78がヒッチ角φに応じて押圧され、油圧シリンダ72Lで発生された油圧が制動装置24Lへ供給されることで、制動装置24Lでのみ制動力が発生する(左右の制動力差が発生される)。これにより、連結車両10の減速左旋回時に、牽引車両12と被牽引車両18とのヒッチ角φを減少させる方向のモーメントが被牽引車両18に発生し、連結車両10の折れ曲がりなどの不安定挙動が発生することが抑制されることで、連結車両10の減速左旋回時の安定性を向上させることができる。
【0050】
このように、第2実施形態において、伝達部は、減速右旋回時における回動部材46の変位(回動)を油圧へ変換し、当該油圧により被牽引車両18の右輪の制動装置24Rで発生する制動力を増加させる第3変換部(変位変換部70R)と、減速左旋回時における回動部材46の変位(回動)を油圧へ変換し、当該油圧により被牽引車両18の左輪の制動装置24Lで発生する制動力を増加させる第4変換部(変位変換部70L)と、を含んでいる。これにより、制動装置24R、24Lが油圧式である場合に、簡易な構成で、連結車両10の減速旋回時の安定性を向上させることができる。
【0051】
〔第3実施形態〕
次に本開示の第3実施形態について説明する。なお、第2実施形態と同一の部分には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0052】
第3実施形態では、回動部材46および変位変換部70R、70Lが省略されており、これに代えて、
図8に示す制動力差発生装置80が被牽引車両に設けられている。制動力差発生装置80は、ヒッチ角センサ82、減速状態センサ84、制御ECU90、油圧発生部86、油圧切替部88を含んでいる。なお、制動力差発生装置80は本開示における制動力差発生部の一例である。
【0053】
ヒッチ角センサ82は、連結部28に設けられたロータリーエンコーダなどから成り、牽引車両12と被牽引車両18とのヒッチ角φを検出し、ヒッチ角φの検出結果を制御ECU90へ出力する。なお、本実施形態では、連結車両10が非旋回状態の場合、ヒッチ角センサ82によって検出されるヒッチ角φ=0となる。また、連結車両10が旋回状態の場合、右旋回か左旋回かによってヒッチ角センサ82によって検出されるヒッチ角φの正負の符号が相違される。ヒッチ角センサ82は本開示におけるヒッチ角検出部の一例である。
【0054】
減速状態センサ84は、牽引車両12が減速状態か否かを検出し、検出結果を制御ECU90へ出力するセンサである。減速状態センサ84は、例えば、牽引車両12の加速度を検出する加速度センサであってもよいし、牽引車両12におけるブレーキ操作を検出するスイッチであってもよいし、伸縮部44が収縮状態か否かを検出するセンサであってもよい。
【0055】
油圧発生部86は、モータと、当該モータの駆動力で油圧を発生させるポンプと、を含み、油圧配管102を介して油圧切替部88と接続されている。油圧発生部86は、制御ECU90からの指示に応じた大きさの油圧を発生させ、発生させた油圧を油圧切替部88へ供給する。
【0056】
油圧切替部88は、油圧配管76Rを介して制動装置24Rと接続されていると共に、油圧配管76Lを介して制動装置24Lと接続されている。油圧切替部88は、制御ECU90からの指示に応じて、油圧発生部86から供給された油圧を、油圧配管76Rを介して制動装置24Rに供給するか、油圧配管76Lを介して制動装置24Lに供給するかを切り替える。
【0057】
制御ECU90は、CPU(Central Processing Unit)92と、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などのメモリ94と、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などの不揮発性の記憶部96と、を含んでいる。CPU92、メモリ94および記憶部96は内部バス98に各々接続され、相互に通信可能とされている。
【0058】
記憶部96には減速旋回補助プログラム100が記憶されている。制御ECU90は、減速旋回補助プログラム100が記憶部96から読み出されてメモリ94に展開され、メモリ94に展開された減速旋回補助プログラム100がCPU92によって実行されることで、後述する減速旋回補助処理(
図9)を行う。
【0059】
次に第3実施形態の作用として、
図9を参照し、連結車両10が走行している間、制御ECU90で実行される減速旋回補助処理について説明する。
【0060】
減速旋回補助処理のステップ200において、制御ECU90は、ヒッチ角センサ82で検出されているヒッチ角φ≠0で、かつ減速状態センサ84で牽引車両12の減速状態が検出されているか否かに基づいて、連結車両10(牽引車両12)が減速旋回中か否かを判定する。ステップ200の判定が否定された場合にはステップ202へ移行し、ステップ202において、制御ECU90は、油圧発生部86での油圧発生を停止させる。ステップ202の処理を行うとステップ200に戻り、ステップ202の判定が肯定される迄、ステップ200、202を繰り返す。
【0061】
また、ヒッチ角センサ82で検出されているヒッチ角φ≠0で、かつ減速状態センサ84で牽引車両12の減速状態が検出されている場合には、ステップ200の判定が肯定されてステップ204へ移行する。ステップ204において、制御ECU90は、ヒッチ角センサ82で検出されているヒッチ角φの正負の符号に基づいて、連結車両10(牽引車両12)が減速右旋回中か否かを判定する。
【0062】
ステップ204の判定が肯定された場合はステップ206へ移行する。ステップ206において、制御ECU90は、右輪の制動装置24Rへ油圧が供給されるように、油圧切替部88を切り替える。また、ステップ204の判定が否定された場合(連結車両10(牽引車両12)が減速左旋回中の場合)はステップ208へ移行する。ステップ208において、制御ECU90は、左輪の制動装置24Lへ油圧が供給されるように、油圧切替部88を切り替える。
【0063】
そして、ステップ210において、制御ECU90は、ヒッチ角センサ82で検出されている現在のヒッチ角φの大きさに応じた油圧を油圧発生部86で発生させる。なお、油圧発生部86で発生させる油圧は、一例として
図10に示すように、ヒッチ角φ(の絶対値)に正比例する大きさとすることができる。但し、本開示はこれに限定されるものではなく、例えばヒッチ角φの変化に対して油圧を非線形に変化させてもよい。ステップ210の処理を行うとステップ200に戻る。
【0064】
上記処理により、牽引車両12(連結車両10)の減速右旋回時には、油圧発生部86でヒッチ角φに応じた油圧が発生され、発生された油圧が油圧切替部88および油圧配管76Rを介して制動装置24Rへ供給されることで、制動装置24Rでのみ制動力が発生する(左右の制動力差が発生される)。これにより、連結車両10の減速右旋回時に、牽引車両12と被牽引車両18とのヒッチ角φを減少させる方向のモーメントが被牽引車両18に発生し、連結車両10の折れ曲がりなどの不安定挙動が発生することが抑制されることで、連結車両10の減速右旋回時の安定性を向上させることができる。
【0065】
また、牽引車両12(連結車両10)の減速左旋回時には、油圧発生部86でヒッチ角φに応じた油圧が発生され、発生された油圧が油圧切替部88および油圧配管76Lを介して制動装置24Lへ供給されることで、制動装置24Lでのみ制動力が発生する(左右の制動力差が発生される)。これにより、連結車両10の減速左旋回時に、牽引車両12と被牽引車両18とのヒッチ角φを減少させる方向のモーメントが被牽引車両18に発生し、連結車両10の折れ曲がりなどの不安定挙動が発生することが抑制されることで、連結車両10の減速左旋回時の安定性を向上させることができる。
【0066】
このように、第3実施形態において、制動力差発生装置80は、牽引車両12と被牽引車両18とのヒッチ角φを検出するヒッチ角センサと、減速旋回時に、ヒッチ角φが減少するように、ヒッチ角センサ82によって検出されたヒッチ角φに応じた左右の制動力差を制動装置24R、24Lで発生させる制御部(制御ECU90、油圧発生部86、油圧切替部88)と、を含んでいる。これにより、連結車両10の減速旋回時の安定性を向上させることができる。
【0067】
なお、上記の実施形態では被牽引車両18の車軸数が「2」の場合を説明したが、本開示はこれに限定されるものではなく、被牽引車両18の車軸数は「1」であっても「3以上」であってもよい。同様に、上記の実施形態では牽引車両12の車軸数が「2」の場合を説明したが、本開示はこれに限定されるものではなく、牽引車両12の車軸数は「1」であっても「3以上」であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 連結車両
12 牽引車両
18 被牽引車両
24R、24L 制動装置
28 連結部
34 ヒッチボール
36A 突起
44 伸縮部
46 回動部材
50R、50L 変位変換部
52 レバー
56 第1ワイヤ
58 レバー
62第2ワイヤ
70L 変位変換部
70R 変位変換部
72R、72L 油圧シリンダ
74、78 ピストンロッド
76R、76L 油圧配管
80 制動力差発生装置
82 ヒッチ角センサ
86 油圧発生部
88 油圧切替部
90 制御ECU