(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180983
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】端面板に回転安定化部材を設けた鋼管杭
(51)【国際特許分類】
E02D 5/56 20060101AFI20231214BHJP
E02D 5/28 20060101ALI20231214BHJP
E02D 7/22 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
E02D5/56
E02D5/28
E02D7/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094696
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】512283575
【氏名又は名称】株式会社シグマベース
(74)【代理人】
【識別番号】100090549
【弁理士】
【氏名又は名称】加川 征彦
(72)【発明者】
【氏名】榎本隆彦
【テーマコード(参考)】
2D041
2D050
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041CA05
2D041CB06
2D041DB02
2D041FA14
2D050AA06
2D050AA16
2D050CB08
2D050CB23
(57)【要約】
【課題】上下逆向きの傾斜面部を備えた端面板を持つ鋼管杭において、端面板の下向き傾斜面部に作用する荷重により端面板が傾いてしまうことを防止する。
【解決手段】軸部2の先端に固定された端面板4の鍔部6に互いに上下逆向きに傾斜した傾斜面部7、8を有する。下向きに傾斜した傾斜面部8の裏面に、端面板4を安定した水平姿勢で回転させるための回転安定化部材15を設ける。回転安定化部材15は、端面板4の弧状外縁と平行に沿う弧状を成すとともに、下向き傾斜面部8の先端より突出して鋭角をなす鋭角先端部15aを有する。鋼管杭を回転圧入する際に、下向き傾斜の傾斜面部8には水平方向に大きな力が作用し、端面板4を傾けるように作用するが、下向き傾斜の傾斜面部8の裏面に固定した鋭角先端部を15aが下向き傾斜面部8に作用する水平方向の力が軽減する作用をして、端面板4が傾くことを防止する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管からなる軸部の先端に回転により推進力を発揮する先端部材が固定された回転圧入工法により地盤に設置される鋼管杭であって、
前記先端部材は、前記軸部の先端面に固定されるとともに軸部の外周面より外側部分である鍔部に互いに上下逆向きに傾斜した傾斜面部を端面板直径方向の片側にのみ有する端面板を備え、
下向きに傾斜した前記傾斜面部の裏面に、端面板を安定した水平姿勢で回転させるための回転安定化部材を固定してなり、前記回転安定化部材は、端面板の弧状外縁と平行に沿う弧状を成すとともに、下向き傾斜面部の先端より突出して鋭角をなす鋭角先端部を有することを特徴とする鋼管杭。
【請求項2】
前記下向き傾斜面部の先端部をその上面側がテーパをなす鋭角にしたことを特徴とする請求項1記載の鋼管杭。
【請求項3】
前記端面板の下面における、端面板中心を挟んで前記回転安定化部材と反対側に、端面板の回転安定の補助機能を果たすためのブロックを固定したことを特徴とする請求項1又は2記載の鋼管杭。
【請求項4】
前記回転安定化部材を、端面板の半径方向の複数個所に並べて設けたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の鋼管杭。
【請求項5】
前記端面板の下面中央に垂直に固定された、先端の尖った板状の掘削刃を備えたことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の鋼管杭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、杭本体である鋼管を回転圧入することにより地盤に貫入させる回転圧入工法に用いられる鋼管杭に関し、特に、杭本体である鋼管の下端に固定される端面板を備えた先端部材に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の鋼管杭として
図7に示した引用文献1の鋼管杭がある。引用文献1中の符号を付して説明すると、この鋼管杭は鋼管杭の軸部である鋼管5の先端面に、互いに上下逆向きに傾斜した傾斜面部13、15を有する端面板(特許文献1では鋼製翼)3を溶接固定している。この鋼管杭において、鋼管を回転圧入する際に鋼管の回転により、上下逆向きに傾斜した傾斜面部13、15が推進力を発揮する。
この端面板は、素材の円板に切り込みを入れ、所定範囲を扇形状に切除し、切除した部分の両側に互いに上下逆向きに傾斜した傾斜面部13、15を形成して製作することができる。
【0003】
特許文献1の端面板3は、上下逆向き傾斜の傾斜面部13、15を端面板3の直径方向の片側に設けているが、上下逆向き傾斜の傾斜面部13、15を端面板3の直径方向両側に設ける場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の鋼管杭において、鋼管の回転により上下逆向きに傾斜した傾斜面部13、15の特に下向き傾斜面部15が推進力を発揮するが、一定以上の硬い地盤の場合や障害物がある場合等において、特に下向き傾斜面部15に作用する荷重により端面板3が傾いてしまうという問題がある。
また、上下逆向きの傾斜面部13、15を端面板3の直径方向の両側に設ければ、そのような問題を回避できると思われるが、製造コストが高くなるという問題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、上下逆向きの傾斜面部を端面板の直径方向の片側に備えた先端部材を持つ鋼管杭において、特に下向き傾斜面部に作用する荷重により端面板が傾いてしまうことを防止できる鋼管杭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する請求項1の発明は、
鋼管からなる軸部2の先端に回転により推進力を発揮する先端部材3が固定された回転圧入工法により地盤に設置される鋼管杭1であって、
前記先端部材3は、前記軸部2の先端面に固定されるとともに軸部2の外周面より外側部分である鍔部6に互いに上下逆向きに傾斜した傾斜面部7,8を端面板直径方向の片側にのみ有する端面板4を備え、
下向きに傾斜した前記傾斜面部8の裏面に、端面板4を安定した水平姿勢で回転させるための回転安定化部材15を固定してなり、前記回転安定化部材15は、端面板4の弧状外縁と平行に沿う弧状を成すとともに、下向き傾斜面部8の先端より突出して鋭角をなす鋭角先端部を有することを特徴とする。
【0008】
請求項2は、請求項1の鋼管杭において、前記下向き傾斜面部8の先端部をその上面側がテーパをなす鋭角にしたことを特徴とする。
【0009】
請求項3は、請求項1又は2の鋼管杭において、前記端面板4の下面における、端面板中心を挟んで前記回転安定化部材15と反対側に、端面板の回転安定の補助機能を果たすためのブロック21を固定したことを特徴とする。
【0010】
請求項4は、請求項1~3のいずれか一項の鋼管杭において、前記回転安定化部材15を、端面板4の半径方向の複数個所に並べて設けたことを特徴とする。
【0011】
請求項5は、請求項1~4のいずれか1項の鋼管杭において、前記端面板4の下面中央に垂直に固定された、先端の尖った板状の掘削刃5を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明において、鋼管杭を回転圧入する際に、上下逆向きに傾斜した傾斜面部における特に下向き傾斜の傾斜面部8には水平方向に大きな力が作用する。上下逆向きに傾斜した傾斜面部が端面板の直径方向両側に設けられている場合には、両側の傾斜面部に作用する力が釣り合うと思われるが、片側だけに設けられている場合には、端面板が傾く(水平を保てなくなる)場合がある。
しかし、本発明では、下向きに傾斜した傾斜面部8の裏面に、端面板4の弧状外縁と平行に沿う弧状を成すとともに下向き傾斜面部8の先端より突出して鋭角をなす鋭角先端部を15a有する回転安定化部材15を固定しているので、この回転安定化部材15の存在で下向き傾斜面部8に作用する水平方向の力が軽減され、端面板4が傾くことを防止できる。
【0013】
請求項2によれば、下向き傾斜面部8の先端部が直角面ではなく上面側がテーパをなす鋭角にしているので、下向き傾斜面部8の先端部に作用する水平方向の力も軽減され、回転安定化部材15の存在と相まって端面板4が傾くことを有効に防止できる。
【0014】
請求項3によれば、端面板中心を挟んで回転安定化部材15と反対側に、端面板4の回転安定の補助機能を果たすためのブロック21を固定しているので、端面板4が傾くことを防止する効果を高めることができる。
【0015】
請求項4によれば、回転安定化部材15を端面板の半径方向の複数個所に並べて設けることで、端面板4が傾くことを防止する効果が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施例の鋼管杭の下端部近傍を示すもので、(イ)は正面図、(ロ)は(イ)のA-A断面による平面図である。
【
図2】
図1の鋼管杭の底面図(
図1(ロ)を下面側から見た図)である。
【
図3】(イ)は本発明の作用を説明し易いように
図2を右側に角度αだけ回転させて示した図、(ロ)は(イ)のB矢視図、(ハ)は(イ)のC矢視図である。
【
図4】本発明の作用を説明し易いように、
図3(ロ)を上下反転させかつ拡大して示した図である(なお、
図1(ロ)におけるD矢視図では
図4と左右反対になるが、説明し易いように
図3(ロ)を単に反転させた図とした)。
【
図5】本発明の要部である回転安定化部材15を説明する図であり、(イ)、(ロ)は板材から切り出して先端を鋭角(角度β(図示例では20°))にした平板段階のもので、(イ)は平面図、(ロ)は側面図である。(ハ)は角度βの傾斜を付けて回転安定化部材15にした状態の側面図である。
【
図6】長さの異なる2つの回転安定化部材を端面板の半径方向の2個所に並べて設けた実施例を示す図である。
【
図7】従来の鋼管杭(特許文献1)の下端部近傍を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の鋼管杭を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
【実施例0018】
図1は本発明の一実施例の鋼管杭1の下端部近傍を示すもので、(イ)は正面図、(ロ)は(イ)のA-A断面による平面図である。
図2は
図1の鋼管杭1の底面図(
図1(ロ)を下から見た図)である。
この鋼管杭1は、鋼管からなる軸部2の先端に回転圧入時の回転により推進力を発揮する先端部材3を固定している。
前記先端部材3は、前記軸部2の先端面に溶接固定された端面板4と、前記端面板4の下面中央に垂直に溶接固定された先端の尖った板状の掘削刃5とを備えている。
前記端面板4は、軸部2の外周面より外側部分である鍔部6に、互いに上下逆向きに傾斜した傾斜面部、すなわち上向きに傾斜した上向き傾斜面部7及び下向きに傾斜した下向き傾斜面部8を有している。端面板4のこの上下逆向きに傾斜した傾斜面部7、8が回転圧入時の回転により推進力を発揮する。
前記端面板4は中心部に円形の中心穴9を有し、前記掘削刃5には前記中心穴9に合わせた切欠き5aを設けている。掘削刃5の両側に補強部材10を設けている。
【0019】
本発明では、下向きに傾斜した前記傾斜面部8の裏面に、端面板6を安定した水平姿勢で回転させるための回転安定化部材15を溶接固定している。
図3(イ)は、本発明の作用を説明し易いように
図2を左向きに角度αだけ回転させて示した図、(ロ)は(イ)のB矢視図、(ハ)は(イ)のC矢視図である。なお、角度αは、
図2における下向き傾斜面部8の幅方向中心線L
1が
図3に示すように図面上で垂直線となるような角度である。
この回転安定化部材15は、平面視で端面板4の弧状外縁と平行に沿う弧状を成すとともに、
図4に示すように、下向き傾斜面部8の先端より突出して鋭角をなす鋭角先端部15aを有している。図示例の鋭角先端部15aは下面15aaを水平にしている。
前記下向き傾斜面部8の先端部も、上面側がテーパをなす鋭角先端部8aとしている。
なお、
図3(ロ)、
図4では、上向き傾斜面部7の図示は省略して端面板4の平坦部を示している。
【0020】
前記端面板4の下面における、端面板中心を挟んで前記回転安定化部材15と反対側に、端面板4の安定回転に寄与する補助機能を果たす一対の板状のブロック16、16を固定している。この一対のブロック16、16は、下向き傾斜面部8の幅方向中心線L
1を挟んで左右対称に設けられており、
図3(ハ)に示すように中心線L
1を挟むそれぞれの外側上部を切り欠いた矩形状をなしている。
なお、前記一対のブロック16、16が繋がり一体化した一つのブロックとすることもできる。
【0021】
上述の鋼管杭1において、鋼管杭1を回転圧入する際に、上下逆向きに傾斜した傾斜面部7、8における特に下向き傾斜の傾斜面部8には水平方向に大きな力が作用する。上下逆向きに傾斜した傾斜面部7、8が平面視で端面板4の直径方向両側に設けられている場合には、両側の傾斜面部に作用する力が釣り合うと思われるが、片側だけに設けられている場合には、解決しようとする課題の項で前述したように端面板が傾く(水平を保てなくなる)場合がある。
しかし、本発明では、下向きに傾斜した傾斜面部8の裏面に、端面板4の弧状外縁と平行に沿う弧状を成すとともに下向き傾斜面部8の先端より突出して鋭角をなす鋭角先端部15aを有する回転安定化部材15を固定しているので、この回転安定化部材15の存在で下向き傾斜面部8の先端部に作用する水平方向の力が軽減され、端面板4が傾くことを防止できる。
また、下向き傾斜面部8の先端部が直角のままではなく上面側をテーパ面8aとして鋭角にしているので、下向き傾斜面部8の先端部に作用する水平方向の力も軽減され、回転安定化部材15の存在と相まって端面板4が傾くことを有効に防止できる。
また、端面板中心を挟んで回転安定化部材15と反対側に、端面板4の回転安定の補助機能を果たすための左右一対のブロック16、16を固定しているので、端面板4が傾くことを防止する効果を高めることができる。
【0022】
実施例の先端部材3の各部の寸法を一例として説明すると、端面板4の直径は800mm、板厚は45mm、回転安定化部材15の板厚は30mm、下向き傾斜面部8及び回転安定化部材15の傾斜角度は20°、高さhは20mmである。
回転安定化部材15の位置は端面板4の外周位置から半径方向の位置は端面板4の外周から10mm離している。
なお、上述の各寸法は一実施例であり、それらの限定されるものではない。
【0023】
図5に回転安定化部材15の加工要領を示す。
図5(イ)は回転安定化部材15の曲げ加工前の平面図、
図5(ロ)は同側面図、
図5(ハ)は曲げ加工した状態の側面図である。