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特開2023-180985電動機の内部温度の推定装置、電動機の制御装置、及び電動機の内部温度の推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180985
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】電動機の内部温度の推定装置、電動機の制御装置、及び電動機の内部温度の推定方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/62 20160101AFI20231214BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20231214BHJP
   H02K 11/25 20160101ALI20231214BHJP
【FI】
H02P29/62
H02K9/19 Z
H02K11/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094698
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】田渕 堅大
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 唱
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘樹
【テーマコード(参考)】
5H501
5H609
5H611
【Fターム(参考)】
5H501AA01
5H501AA20
5H501BB08
5H501DD04
5H501HB07
5H501LL01
5H501LL32
5H501LL39
5H501MM05
5H609BB03
5H609PP02
5H609PP06
5H609PP07
5H609QQ05
5H609QQ10
5H609RR46
5H609RR48
5H609SS21
5H609SS23
5H611AA01
5H611BB06
5H611UA04
(57)【要約】
【課題】ケース内において電動機が冷却液で冷却される場合であっても、電動機の内部温度における推定精度の低下を抑制するとともに内部温度を推定する計算負荷を低減することができる、電動機の内部温度の推定装置等を提供する。
【解決手段】軸線CL方向に筒状に延び且つコイル28が巻回されたステータコア22と、軸線CLを中心に回転可能に配置されたロータ30と、がケース70内に収容されるとともに、ケース70内においてコイル28が第1冷却液である冷却油OILで冷却される電動機MGの、内部温度(例えば、ロータコア32内に埋め込まれた永久磁石34の温度である磁石温度THmag)を推定する推定装置例えば電子制御装置100は、冷却油OILにおけるコイル28からの受熱後油温THoil2がケース温度THcaseと等しい第1温度とみなした熱回路を用いて、現時点nにおける磁石温度THmagを推定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に筒状に延び且つコイルが巻回されたステータコアと、前記軸線を中心に回転可能に配置されたロータと、がケース内に収容されるとともに、前記ケース内において前記コイルが第1冷却液で冷却される電動機の、内部温度の推定装置であって、
前記第1冷却液における前記コイルからの受熱後温度が前記ケースの温度と等しい第1温度とみなした熱回路を用いて、前記内部温度を推定する
ことを特徴とする電動機の内部温度の推定装置。
【請求項2】
前記熱回路は、前記ステータコア及び前記コイルについて前記軸線方向における前記ステータコアの中央部を中心に対称であるとみなした簡略化、前記ロータ内の温度が均一であるとみなした簡略化、前記ロータと前記第1冷却液との間で前記ケース内の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化、及び前記ケースと外気との間で前記ケース外の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化、の少なくとも1つが行われている
ことを特徴とする請求項1に記載の電動機の内部温度の推定装置。
【請求項3】
前記熱回路を用いて、前記第1温度と、前記コイルの温度、前記第1冷却液における前記コイルからの受熱前温度、及び前記第1冷却液を冷却する第2冷却液における前記第1冷却液からの受熱前温度の少なくとも1つである第2温度と、を境界条件として、前記内部温度を推定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電動機の内部温度の推定装置。
【請求項4】
推定時点における前記電動機の回転速度及び前記電動機の出力トルクに基づいて、前記熱回路における各要素の発熱量をそれぞれ計算する発熱量計算部と、
前記熱回路を用いて、前記境界条件及び前記推定時点よりも予め定められた所定の期間だけ前の時点である直近時点における前記各要素の温度に基づいて、前記各要素の受放熱量をそれぞれ計算する受放熱量計算部と、
前記各要素の前記発熱量、前記受放熱量、及び予め定められた熱容量に基づいて、前記直近時点と前記推定時点との間の期間における前記各要素の温度変化量をそれぞれ計算する温度変化量計算部と、
前記直近時点での前記各要素の温度と、前記各要素の前記温度変化量と、に基づいて、前記推定時点における前記内部温度を推定する温度推定部と、を備える
ことを特徴とする請求項3に記載の電動機の内部温度の推定装置。
【請求項5】
前記電動機が停止状態から運転状態に切り替えられる場合には、前記電動機が停止状態となった停止時点における前記各要素の温度及び前記電動機が停止状態から運転状態に切り替えられるまでの期間と、前記電動機が運転状態に切り替えられた運転開始時点における前記各要素の初期温度と、の間の実験的に或いは設計的に予め定められた第1の関係に基づいて、前記各要素の温度を初期設定する初期温度設定部を備える
ことを特徴とする請求項4に記載の電動機の内部温度の推定装置。
【請求項6】
前記電動機が停止状態から運転状態に切り替えられる場合には、前記電動機が停止状態となった停止時点における前記各要素の温度及び前記電動機が停止状態から運転状態に切り替えられるまでの期間における前記第1温度及び前記第2温度の少なくとも一方の温度低下量と、前記電動機が運転状態に切り替えられた運転開始時点における前記各要素の初期温度と、の間の実験的に或いは設計的に予め定められた第2の関係に基づいて、前記各要素の温度を初期設定する初期温度設定部を備える
ことを特徴とする請求項4に記載の電動機の内部温度の推定装置。
【請求項7】
軸線方向に筒状に延び且つコイルが巻回されたステータコアと、前記軸線を中心に回転可能に配置されたロータと、がケース内に収容されるとともに、前記ケース内において前記コイルが第1冷却液で冷却される電動機の、制御装置であって、
前記第1冷却液における前記コイルからの受熱後温度が前記ケースの温度と等しい第1温度とみなした熱回路を用いて、推定された前記電動機の内部温度が予め定められた所定の判定温度以上となった場合には、前記電動機の出力制限を実行する
ことを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項8】
前記熱回路は、前記ステータコア及び前記コイルについて前記軸線方向における前記ステータコアの中央部を中心に対称であるとみなした簡略化、前記ロータ内の温度が均一であるとみなした簡略化、前記ロータと前記第1冷却液との間で前記ケース内の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化、及び前記ケースと外気との間で前記ケース外の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化、の少なくとも1つが行われている
ことを特徴とする請求項7に記載の電動機の制御装置。
【請求項9】
前記熱回路を用いて、前記第1温度と、前記コイルの温度、前記第1冷却液における前記コイルからの受熱前温度、及び前記第1冷却液を冷却する第2冷却液における前記第1冷却液からの受熱前温度の少なくとも1つである第2温度と、を境界条件として、前記内部温度を推定する
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の電動機の制御装置。
【請求項10】
軸線方向に筒状に延び且つコイルが巻回されたステータコアと、前記軸線を中心に回転可能に配置されたロータと、がケース内に収容されるとともに、前記ケース内において前記コイルが第1冷却液で冷却される電動機の、内部温度の推定方法であって、
前記第1冷却液における前記コイルからの受熱後温度が前記ケースの温度と等しい第1温度とみなした熱回路を用いて、前記内部温度を推定する
ことを特徴とする電動機の内部温度の推定方法。
【請求項11】
前記熱回路は、前記ステータコア及び前記コイルについて前記軸線方向における前記ステータコアの中央部を中心に対称であるとみなした簡略化、前記ロータ内の温度が均一であるとみなした簡略化、前記ロータと前記第1冷却液との間で前記ケース内の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化、及び前記ケースと外気との間で前記ケース外の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化、の少なくとも1つが行われている
ことを特徴とする請求項10に記載の電動機の内部温度の推定方法。
【請求項12】
前記熱回路を用いて、前記第1温度と、前記コイルの温度、前記第1冷却液における前記コイルからの受熱前温度、及び前記第1冷却液を冷却する第2冷却液における前記第1冷却液からの受熱前温度の少なくとも1つである第2温度と、を境界条件として、前記内部温度を推定する
ことを特徴とする請求項10又は11に記載の電動機の内部温度の推定方法。
【請求項13】
推定時点における前記電動機の回転速度及び前記電動機の出力トルクに基づいて、前記熱回路における各要素の発熱量をそれぞれ計算し、
前記熱回路を用いて、前記境界条件及び前記推定時点よりも予め定められた所定の期間だけ前の時点である直近時点における前記各要素の温度に基づいて、前記各要素の受放熱量をそれぞれ計算し、
前記各要素の前記発熱量、前記受放熱量、及び予め定められた熱容量に基づいて、前記直近時点と前記推定時点との間の期間における前記各要素の温度変化量をそれぞれ計算し、
前記直近時点での前記各要素の温度と、前記各要素の前記温度変化量と、に基づいて、前記推定時点における前記内部温度を推定する
ことを特徴とする請求項12に記載の電動機の内部温度の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の内部温度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ケース内において、軸線方向に筒状に延び且つコイルが巻回されたステータコアと、その軸線を中心に回転可能に配置されたロータと、を備える電動機の内部温度の推定装置が知られている。例えば、特許文献1に記載のものがそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-107956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、電動機からの放熱経路に従って、電動機における各要素の発熱量と、電動機における各要素の熱の移動と、ケースから外気への放熱量と、ケースから冷却水への放熱量と、に基づいて、電動機の内部温度が推定される。ところで、電動機にはケース内においてその電動機が冷却液で冷却される様式のものがあるが、そのような様式の場合には、放熱経路を特定しにくいため、特許文献1に記載された推定装置では、電動機の内部温度を精度よく推定することが難しい。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、ケース内において電動機が冷却液で冷却される場合であっても、電動機の内部温度における推定精度の低下を抑制するとともに電動機の内部温度の推定装置における計算負荷を低減することができる、電動機の内部温度の推定装置、電動機の制御装置、及び電動機の内部温度の推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、軸線方向に筒状に延び且つコイルが巻回されたステータコアと、前記軸線を中心に回転可能に配置されたロータと、がケース内に収容されるとともに、前記ケース内において前記コイルが第1冷却液で冷却される電動機の、内部温度の推定装置であって、前記第1冷却液における前記コイルからの受熱後温度が前記ケースの温度と等しい第1温度とみなした熱回路を用いて、前記内部温度を推定することにある。
【0007】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記熱回路は、前記ステータコア及び前記コイルについて前記軸線方向における前記ステータコアの中央部を中心に対称であるとみなした簡略化、前記ロータ内の温度が均一であるとみなした簡略化、前記ロータと前記第1冷却液との間で前記ケース内の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化、及び前記ケースと外気との間で前記ケース外の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化、の少なくとも1つが行われていることにある。
【0008】
第3発明の要旨とするところは、第1発明又は第2発明において、前記熱回路を用いて、前記第1温度と、前記コイルの温度、前記第1冷却液における前記コイルからの受熱前温度、及び前記第1冷却液を冷却する第2冷却液における前記第1冷却液からの受熱前温度の少なくとも1つである第2温度と、を境界条件として、前記内部温度を推定することにある。
【0009】
第4発明の要旨とするところは、第3発明において、(a)推定時点における前記電動機の回転速度及び前記電動機の出力トルクに基づいて、前記熱回路における各要素の発熱量をそれぞれ計算する発熱量計算部と、(b)前記熱回路を用いて、前記境界条件及び前記推定時点よりも予め定められた所定の期間だけ前の時点である直近時点における前記各要素の温度に基づいて、前記各要素の受放熱量をそれぞれ計算する受放熱量計算部と、(c)前記各要素の前記発熱量、前記受放熱量、及び予め定められた熱容量に基づいて、前記直近時点と前記推定時点との間の期間における前記各要素の温度変化量をそれぞれ計算する温度変化量計算部と、(d)前記直近時点での前記各要素の温度と、前記各要素の前記温度変化量と、に基づいて、前記推定時点における前記内部温度を推定する温度推定部と、を備えることにある。
【0010】
第5発明の要旨とするところは、第4発明において、前記電動機が停止状態から運転状態に切り替えられる場合には、前記電動機が停止状態となった停止時点における前記各要素の温度及び前記電動機が停止状態から運転状態に切り替えられるまでの期間と、前記電動機が運転状態に切り替えられた運転開始時点における前記各要素の初期温度と、の間の実験的に或いは設計的に予め定められた第1の関係に基づいて、前記各要素の温度を初期設定する初期温度設定部を備えることにある。
【0011】
第6発明の要旨とするところは、第4発明において、前記電動機が停止状態から運転状態に切り替えられる場合には、前記電動機が停止状態となった停止時点における前記各要素の温度及び前記電動機が停止状態から運転状態に切り替えられるまでの期間における前記第1温度及び前記第2温度の少なくとも一方の温度低下量と、前記電動機が運転状態に切り替えられた運転開始時点における前記各要素の初期温度と、の間の実験的に或いは設計的に予め定められた第2の関係に基づいて、前記各要素の温度を初期設定する初期温度設定部を備えることにある。
【0012】
第7発明の要旨とするところは、軸線方向に筒状に延び且つコイルが巻回されたステータコアと、前記軸線を中心に回転可能に配置されたロータと、がケース内に収容されるとともに、前記ケース内において前記コイルが第1冷却液で冷却される電動機の、制御装置であって、前記第1冷却液における前記コイルからの受熱後温度が前記ケースの温度と等しい第1温度とみなした熱回路を用いて、推定された前記電動機の内部温度が予め定められた所定の判定温度以上となった場合には、前記電動機の出力制限を実行することにある。
【0013】
第8発明の要旨とするところは、第7発明において、前記熱回路は、前記ステータコア及び前記コイルについて前記軸線方向における前記ステータコアの中央部を中心に対称であるとみなした簡略化、前記ロータ内の温度が均一であるとみなした簡略化、前記ロータと前記第1冷却液との間で前記ケース内の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化、及び前記ケースと外気との間で前記ケース外の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化、の少なくとも1つが行われていることにある。
【0014】
第9発明の要旨とするところは、第7発明又は第8発明において、前記熱回路を用いて、前記第1温度と、前記コイルの温度、前記第1冷却液における前記コイルからの受熱前温度、及び前記第1冷却液を冷却する第2冷却液における前記第1冷却液からの受熱前温度の少なくとも1つである第2温度と、を境界条件として、前記内部温度を推定することにある。
【0015】
第10発明の要旨とするところは、軸線方向に筒状に延び且つコイルが巻回されたステータコアと、前記軸線を中心に回転可能に配置されたロータと、がケース内に収容されるとともに、前記ケース内において前記コイルが第1冷却液で冷却される電動機の、内部温度の推定方法であって、前記第1冷却液における前記コイルからの受熱後温度が前記ケースの温度と等しい第1温度とみなした熱回路を用いて、前記内部温度を推定することにある。
【0016】
第11発明の要旨とするところは、第10発明において、前記熱回路は、前記ステータコア及び前記コイルについて前記軸線方向における前記ステータコアの中央部を中心に対称であるとみなした簡略化、前記ロータ内の温度が均一であるとみなした簡略化、前記ロータと前記第1冷却液との間で前記ケース内の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化、及び前記ケースと外気との間で前記ケース外の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化、の少なくとも1つが行われていることにある。
【0017】
第12発明の要旨とするところは、第10発明又は第11発明において、前記熱回路を用いて、前記第1温度と、前記コイルの温度、前記第1冷却液における前記コイルからの受熱前温度、及び前記第1冷却液を冷却する第2冷却液における前記第1冷却液からの受熱前温度の少なくとも1つである第2温度と、を境界条件として、前記内部温度を推定することにある。
【0018】
第13発明の要旨とするところは、第12発明において、(a)推定時点における前記電動機の回転速度及び前記電動機の出力トルクに基づいて、前記熱回路における各要素の発熱量をそれぞれ計算し、(b)前記熱回路を用いて、前記境界条件及び前記推定時点よりも予め定められた所定の期間だけ前の時点である直近時点における前記各要素の温度に基づいて、前記各要素の受放熱量をそれぞれ計算し、(c)前記各要素の前記発熱量、前記受放熱量、及び予め定められた熱容量に基づいて、前記直近時点と前記推定時点との間の期間における前記各要素の温度変化量をそれぞれ計算し、(d)前記直近時点での前記各要素の温度と、前記各要素の前記温度変化量と、に基づいて、前記推定時点における前記内部温度を推定することにある。
【発明の効果】
【0019】
第1発明の電動機の内部温度の推定装置によれば、前記第1冷却液における前記コイルからの受熱後温度が前記ケースの温度と等しい第1温度とみなした熱回路を用いて、前記内部温度が推定される。電動機の内部温度を推定するために用いる熱回路において、第1冷却液におけるコイルからの受熱後温度とケースの温度とが等しい第1温度とみなされることにより、熱回路が簡略化される。これにより、ケース内において電動機が第1冷却液で冷却される場合であっても、電動機の内部温度における推定精度の低下を抑制するとともに電動機の内部温度の推定装置における計算負荷を低減することができる。
【0020】
第2発明の電動機の内部温度の推定装置によれば、第1発明において、前記熱回路は、前記ステータコア及び前記コイルについて前記軸線方向における前記ステータコアの中央部を中心に対称であるとみなした簡略化、前記ロータ内の温度が均一であるとみなした簡略化、前記ロータと前記第1冷却液との間で前記ケース内の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化、及び前記ケースと外気との間で前記ケース外の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化、の少なくとも1つが行われている。熱回路における第2発明に列記された簡略化の少なくとも1つが行われた場合には、これらの簡略化が行われていない場合に比較して電動機の内部温度の推定装置における計算負荷を更に低減することができる。
【0021】
第3発明の電動機の内部温度の推定装置によれば、第1発明又は第2発明において、前記熱回路を用いて、前記第1温度と、前記コイルの温度、前記第1冷却液における前記コイルからの受熱前温度、及び前記第1冷却液を冷却する第2冷却液における前記第1冷却液からの受熱前温度の少なくとも1つである第2温度と、を境界条件として、前記内部温度が推定される。熱回路を用いて前記境界条件によって内部温度が推定されることにより、内部温度の推定精度の低下が抑制される。
【0022】
第4発明の電動機の内部温度の推定装置によれば、第3発明において、(a)推定時点における前記電動機の回転速度及び前記電動機の出力トルクに基づいて、前記熱回路における各要素の発熱量をそれぞれ計算する発熱量計算部と、(b)前記熱回路を用いて、前記境界条件及び前記推定時点よりも予め定められた所定の期間だけ前の時点である直近時点における前記各要素の温度に基づいて、前記各要素の受放熱量をそれぞれ計算する受放熱量計算部と、(c)前記各要素の前記発熱量、前記受放熱量、及び予め定められた熱容量に基づいて、前記直近時点と前記推定時点との間の期間における前記各要素の温度変化量をそれぞれ計算する温度変化量計算部と、(d)前記直近時点での前記各要素の温度と、前記各要素の前記温度変化量と、に基づいて、前記推定時点における前記内部温度を推定する温度推定部と、が備えられる。発熱量計算部、受放熱量計算部、温度変化量計算部、及び温度推定部が備えられることにより、ケース内において電動機が第1冷却液で冷却される場合であっても、電動機の内部温度を推定することができる。
【0023】
第5発明の電動機の内部温度の推定装置によれば、第4発明において、前記電動機が停止状態から運転状態に切り替えられる場合には、前記電動機が停止状態となった停止時点における前記各要素の温度及び前記電動機が停止状態から運転状態に切り替えられるまでの期間と、前記電動機が運転状態に切り替えられた運転開始時点における前記各要素の初期温度と、の間の実験的に或いは設計的に予め定められた第1の関係に基づいて、前記各要素の温度を初期設定する初期温度設定部が備えられる。電動機が停止状態から運転状態に切り替えられる場合でも、このような初期温度設定部による各要素の温度の初期設定が行われることにより、初期設定が行われない場合に比較して電動機の内部温度の推定装置により推定された内部温度が実際の温度に早期に収束しやすくなる。すなわち、推定装置における電動機の内部温度の推定精度が向上する。
【0024】
第6発明の電動機の内部温度の推定装置によれば、第4発明において、前記電動機が停止状態から運転状態に切り替えられる場合には、前記電動機が停止状態となった停止時点における前記各要素の温度及び前記電動機が停止状態から運転状態に切り替えられるまでの期間における前記第1温度及び前記第2温度の少なくとも一方の温度低下量と、前記電動機が運転状態に切り替えられた運転開始時点における前記各要素の初期温度と、の間の実験的に或いは設計的に予め定められた第2の関係に基づいて、前記各要素の温度を初期設定する初期温度設定部が備えられる。これにより、電動機の内部温度の推定装置において、第5発明と同様の効果を奏する。
【0025】
第7発明の電動機の制御装置によれば、前記第1冷却液における前記コイルからの受熱後温度が前記ケースの温度と等しい第1温度とみなした熱回路を用いて、推定された前記電動機の内部温度が予め定められた所定の判定温度以上となった場合には、前記電動機の出力制限が実行される。これにより、電動機の制御装置において、第1発明と同様の効果を奏し、電動機の内部温度を即時且つ推定精度の低下が抑制された状態で推定することができる。内部温度の推定精度の低下が抑制される場合には、そうでない場合に比較して電動機の性能劣化を回避するために予め定められた所定の判定温度を高めに設定して電動機の出力性能を引き出しつつ電動機の性能劣化を回避したり、或いは、比較的耐熱性が低い等級の永久磁石を採用することでコストを低減しつつ電動機の出力性能を最大限引き出したりすることができる。
【0026】
第8発明の電動機の制御装置によれば、第7発明において、第2発明と同様の熱回路の簡略化が行われている。これにより、電動機の制御装置において、第2発明と同様の効果を奏する。
【0027】
第9発明の電動機の制御装置によれば、第7発明又は第8発明において、前記熱回路を用いて、前記第1温度と、前記コイルの温度、前記第1冷却液における前記コイルからの受熱前温度、及び前記第1冷却液を冷却する第2冷却液における前記第1冷却液からの受熱前温度の少なくとも1つである第2温度と、を境界条件として、前記内部温度が推定される。これにより、電動機の制御装置において、第3発明と同様の効果を奏する。
【0028】
第10発明の電動機の内部温度の推定方法によれば、前記第1冷却液における前記コイルからの受熱後温度が前記ケースの温度と等しい第1温度とみなした熱回路を用いて、前記内部温度が推定される。これにより、電動機の内部温度の推定方法において、第1発明と同様の効果を奏する。
【0029】
第11発明の電動機の内部温度の推定方法によれば、第10発明において、第2発明と同様の熱回路の簡略化が行われている。これにより、電動機の内部温度の推定方法において、第2発明と同様の効果を奏する。
【0030】
第12発明の電動機の内部温度の推定方法によれば、第10発明又は第11発明において、前記熱回路を用いて、前記第1温度と、前記コイルの温度、前記第1冷却液における前記コイルからの受熱前温度、及び前記第1冷却液を冷却する第2冷却液における前記第1冷却液からの受熱前温度の少なくとも1つである第2温度と、を境界条件として、前記内部温度が推定される。これにより、電動機の内部温度の推定方法において、第3発明と同様の効果を奏する。
【0031】
第13発明の電動機の内部温度の推定方法によれば、第12発明において、(a)推定時点における前記電動機の回転速度及び前記電動機の出力トルクに基づいて、前記熱回路における各要素の発熱量がそれぞれ計算され、(b)前記熱回路を用いて、前記境界条件及び前記推定時点よりも予め定められた所定の期間だけ前の時点である直近時点における前記各要素の温度に基づいて、前記各要素の受放熱量がそれぞれ計算され、(c)前記各要素の前記発熱量、前記受放熱量、及び予め定められた熱容量に基づいて、前記直近時点と前記推定時点との間の期間における前記各要素の温度変化量がそれぞれ計算され、(d)前記直近時点での前記各要素の温度と、前記各要素の前記温度変化量と、に基づいて、前記推定時点における前記内部温度が推定される。これにより、電動機の内部温度の推定方法において、第4発明と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施例1に係る、電動機及び冷却回路の概略構成図であって、電動機を軸線方向の断面図で表したものである。
図2】本発明の実施例1に係る、電動機及び冷却回路の概略構成図であって、電動機を図1に示す矢印Dの方向に見たものである。
図3】電動機のロータ内に埋め込まれた永久磁石の温度を推定するために用いる簡略化前の熱回路の一例である。
図4】本発明の実施例1に係る、簡略化後の熱回路の一例及び電動機のロータ内に埋め込まれた永久磁石の温度を推定する電子制御装置の機能ブロック図である。
図5図4に示す熱回路の各要素を代表して、ある要素の温度変化を示したものである。
図6図4に示す熱回路の各要素を代表して、ある要素の初期温度の設定方法に用いられる初期温度推定関数の例である。
図7図4に示す電子制御装置における制御作動を説明するフローチャートの一例である。
図8】本発明の実施例2に係る、熱回路の各要素を代表して、ある要素の初期温度の設定方法に用いられる初期温度推定関数の例である。
図9】本発明の実施例3に係る、簡略化後の熱回路の一例及び電動機のロータ内に埋め込まれた永久磁石の温度を推定する電子制御装置の機能ブロック図である。
図10】本発明の実施例4に係る、簡略化後の熱回路の一例及び電動機のロータ内に埋め込まれた永久磁石の温度を推定する電子制御装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の各実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、各実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。また、実施例2~4は、先行する実施例1と略同じ構成であるため異なる部分を中心に説明することとし、実施例1と機能において実質的に共通する部分には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【実施例0034】
図1及び図2は、本発明の実施例1に係る、電動機MG及び冷却回路48の概略構成図であって、図1は、電動機MGを軸線CL方向の断面図で表したものであり、図2は、電動機MGを図1に示す矢印Dの方向に見たものである。図2では、ケース70は不図示である。軸線CLは、電動機MGの回転中心線であり、軸線CL方向とは、軸線CLが延びる方向である。
【0035】
電動機MGは、例えばハイブリッド車や電気自動車等の車両10に搭載された電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電機であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、例えば車両10の走行用駆動力源である。電動機MGは、例えばロータ30の内部に永久磁石34が配置された(埋め込まれた)構造をもつIPMモータ(Interior Permanent Magnet Motor:埋込磁石型モータ)であって、周知の同期電動機である。
【0036】
電動機MGは、ステータ20及びロータ30を備える。電動機MGは、非回転部材であるケース70内に収容されている。
【0037】
ステータ20は、ステータコア22及びそのステータコア22に巻回されたコイル28を備える。ステータコア22は、例えば電磁鋼板が軸線CL方向に複数枚積層されている。ステータコア22は、軸線CLを中心とする筒状である。ステータコア22の内周部22iには、ステータコア22の径方向の外周側に向かう方向の深さを有し且つ軸線CL方向に貫通する複数の溝部すなわちスロット26が等角度間隔で設けられている。隣接するスロット26間には、歯部24が形成されている。それぞれのスロット26には、それらスロット26間の歯部24を電磁石とするためにコイル28が巻回されている。コイル28のうちステータコア22から軸線CL方向に突出している部分がコイルエンド28eである。軸線CL方向において、コイルエンド28eは、一端側に位置する一端側コイルエンド28e1と、他端側に位置する他端側コイルエンド28e2と、を含む。軸線CL方向において、コイル28のうちスロット26内の中央部をスロット内コイル28cということとする。コイルエンド28eのそれぞれは、軸線CLを中心にした環状となっている。歯部24は、前述したコイル28に例えば三相交流電流が流されることにより電磁石となって回転磁界を発生させる。
【0038】
ロータ30は、ステータコア22の内周側において、軸線CLを中心に回転可能に配置されている。ロータ30は、ロータコア32、そのロータコア32の内部に埋め込まれた永久磁石34、及びロータシャフト36を備える。ロータコア32は、例えば電磁鋼板が軸線CL方向に複数枚積層され、軸線CLを中心とする円筒状である。ステータコア22の内周部22iとロータコア32の外周部32oとは、空隙Gを介してステータコア22の径方向に対向している。永久磁石34は、例えばネオジウム鉄磁石や希土類コバルト磁石などの磁性材料で構成された焼結磁石である。内周部32iには、連結されて軸線CLまわりに回転可能なロータシャフト36が挿通されている。ロータシャフト36は、軸線CL方向において一端側に配置されたベアリング40及び他端側に配置されたベアリング42を介してケース70に支持されている。ロータシャフト36は、例えば鋼鉄製である。ロータ30は、ステータ20が発生する回転磁界により回転可能とされる。
【0039】
ケース70は、電動機MG、ベアリング40、ベアリング42、及び冷却油流路60をその内部に収容し、ステータコア22及び冷却油流路60を連結して固定している。ケース70は、例えばアルミニウム純度の低い鋳物用アルミニウム材料から形成された、アルミニウム合金製であって、ケース70内における空気に比較して熱伝導率k[W/(m・K)]が十分高い。
【0040】
冷却油流路60は、例えば軸線CLを通る鉛直線上におけるステータ20の直上において軸線CLに対して平行に配置され、その内部を冷却油OILが流れている。冷却油OILは、例えばATF(Automatic Transmission Fluid)である。冷却油流路60には、吐出孔62,64が設けられている。吐出孔62,64は、それぞれ鉛直線下方側に冷却油流路60の周方向に2個ずつ設けられている。吐出孔62及び吐出孔64からは、一端側コイルエンド28e1及び他端側コイルエンド28e2に冷却油OILがそれぞれ滴下される。このように一端側コイルエンド28e1及び他端側コイルエンド28e2は、吐出孔62,64から滴下された冷却油OILにより同様の構成で冷却される。なお、冷却油OILは、本発明における「第1冷却液」に相当する。
【0041】
滴下された冷却油OILは、環状であるコイルエンド28eのそれぞれの上部からコイルエンド28eの周方向に沿って流れ落ちる。流れ落ちた冷却油OILは、ケース70内の下部に設けられた油だまり68に溜まる。このように、ケース70内において、吐出孔62,64から滴下された冷却油OILにより、コイル28が冷却される。
【0042】
ラジエータ58は、冷却水WATをケース70外であるエンジンルーム内の空気を介して外気72で冷却する熱交換器である。冷却水WATは、例えば水にエチレングリコール等が添加されたLLC(Long Life Coolant)である。ポンプ56は、オイルクーラー52から流れ出た冷却水WATをラジエータ58及びインバータ46経由でオイルクーラー52に還流させる。なお、冷却水WATは、本発明における「第2冷却液」に相当し、エンジンルーム内の空気は、本発明における「ケース外の空気」に相当する。
【0043】
オイルクーラー52は、冷却油OILを冷却水WATで冷却する熱交換器である。オイルクーラー52での熱交換により、コイル28からの受熱後の冷却油OILの油温である受熱後油温THoil2[K]は、コイル28からの受熱前の冷却油OILの油温である受熱前油温THoil1[K](<THoil2)に下降させられる。オイルクーラー52での熱交換により、オイルクーラー52での熱交換前の冷却水WATの水温である熱交換前水温THwat1[K]は、オイルクーラー52での熱交換後の冷却水WATの水温である熱交換後水温THwat2[K](>THwat1)に上昇させられる。なお、受熱前油温THoil1、受熱後油温THoil2、及び熱交換前水温THwat1は、本発明における「第1冷却液におけるコイルからの受熱前温度」、「第1冷却液におけるコイルからの受熱後温度」、及び「第2冷却液における第1冷却液からの受熱前温度」にそれぞれ相当する。
【0044】
冷却回路48は、上述した、冷却油流路60と油だまり68との間で循環する冷却油OILの流路、オイルクーラー52、ポンプ50、オイルクーラー52とラジエータ58との間で循環する冷却水WATの流路、ラジエータ58、及びポンプ56を備える。
【0045】
ここから、熱伝導、すなわち放熱及び受熱について説明する。図1及び図2では、電動機MGにおける熱伝導の方向を太い黒矢印で示している。また、冷却回路48において、冷却油OIL及び冷却水WATがそれぞれ流れる方向を、破線の矢印及び一点鎖線の矢印でそれぞれ示している。
【0046】
例えば、軸線CL方向におけるスロット内コイル28cで発生した熱は、コイルエンド28eへ伝導されたり、ステータコア22の外周部22oや内周部22iに伝導されたりする。外周部22oに伝導された熱は、ステータコア22を連結して固定しているケース70へ放熱される。内周部22iに伝導された熱は、空隙Gを介してロータコア32の外周部32oに放熱される。外周部32oに伝導された熱は、内周部32i、ロータシャフト36、ベアリング40,42を介してケース70に放熱される。ケース70の熱は、エンジンルーム内の空気を介して外気72へ放熱されたり、エンジンルーム内の空気及び車体を介して外気72に放熱されたりする。
【0047】
オイルクーラー52で冷却された冷却油OILは、吐出孔62,64から滴下され、コイルエンド28eをそれぞれ冷却し、油だまり68に流れ落ちる。すなわち、コイル28で発生した熱がコイルエンド28eで冷却油OILにそれぞれ放熱され、受熱した冷却油OILは油だまり68に流れ落ちる。ロータコア32の内周部32i及び外周部32oからは、ケース70内の空気を介して冷却油OILに放熱され得る。また、コイルエンド28eからも、ケース70内の空気を介して冷却油OILにそれぞれ放熱され得る。受熱した冷却油OILは、ポンプ50によりオイルクーラー52に送られ、オイルクーラー52で冷却水WATにより冷却された後に冷却油流路60に還流させられる。すなわち、受熱した冷却油OILから冷却水WATに放熱される。
【0048】
ラジエータ58で冷却された冷却水WATは、オイルクーラー52で冷却油OILから受熱する。受熱した冷却水WATは、ポンプ56によりラジエータ58に送られ、ラジエータ58で外気72により冷却された後にオイルクーラー52に還流させられる。すなわち、受熱した冷却水WATから外気72に放熱される。
【0049】
図3は、電動機MGのロータ30内に埋め込まれた永久磁石34の温度である磁石温度THmag[K]を推定するために用いる簡略化前の熱回路の一例である。熱回路(網)とは、電圧差、電気抵抗、及びコンデンサ(電気を溜めるもの)から電流の過渡状態を計算できる電気回路と同様に、温度差、熱抵抗、及び熱容量(熱を溜めるもの)から熱伝導(熱流)の過渡状態を計算できるように等価的に表現されたものである。ここで、熱回路における「要素」とは、熱回路上に等価的に表された電動機MGや冷却回路48の構成要素であって、具体的には、熱回路において複数の熱抵抗の間に位置する結節点(ノード)であって熱容量を有するものである。また、「内部温度」とは、電動機MGにおいて直接的に温度を計測できない電動機MGの内部の温度であって、例えば磁石温度THmagである。熱回路は、内部温度である磁石温度THmagが計算される、電動機MGの構成要素の永久磁石34を、「要素」として含む。なお、磁石温度THmagは、本発明における「内部温度」に相当する。
【0050】
図3に示す熱回路は、一端側コイルエンド28e1、他端側コイルエンド28e2、スロット内コイル28c、ステータコア22、外周部32o、内周部32i、永久磁石34、ロータシャフト36、ケース70、コイル28からの受熱前の冷却油OIL、及びコイル28からの受熱後の冷却油OILなどの各要素と、それら各要素間の熱抵抗R[K/W]と、で表されている。図3では、各要素が有する熱容量Cq[J/K]は、省略されている。
【0051】
熱抵抗Rとは、任意の2要素間の熱の伝わりにくさを数値化したものである。熱抵抗Rは、2要素間で熱が流れる経路である熱流路における熱伝導率k[W/(m・K)]に反比例し、熱流路の断面積S[m2]に反比例し、熱流路の長さL[m]に比例する。したがって、熱抵抗Rは、2要素間の熱流路の物性(例えば、熱伝導率k)及び2要素間の熱流路の形状(例えば、熱流路の断面積Sや長さL)によって、予め実験的に或いは設計的にそれぞれ定められる。
【0052】
例えば、一端側コイルエンド28e1とスロット内コイル28cとの間、他端側コイルエンド28e2とスロット内コイル28cとの間、スロット内コイル28cとステータコア22との間、ステータコア22とロータコア32の外周部32oとの間、ステータコア22とケース70との間、ロータシャフト36とケース70との間、一端側コイルエンド28e1と受熱前の冷却油OILとの間、及び他端側コイルエンド28e2と受熱前の冷却油OILとの間は、それぞれ熱抵抗値R1a、熱抵抗値R1b、熱抵抗値R2、熱抵抗値R3、熱抵抗値R4、熱抵抗値R5、熱抵抗値R6a、及び熱抵抗値R6bで接続されたものとされる。
【0053】
コイル28からの受熱後の冷却油OILは、油だまり68に溜まっている。すなわち、受熱後の冷却油OILは、ケース70内の空気に比較して熱伝導率kが高いケース70と広い面積で接触している。そのため、図3に示す破線X0内の熱抵抗値を零とみなすことができる。すなわちケース70の温度であるケース温度THcase[K]と受熱後油温THoil2とが等しいとみなすことができる。このようにみなすことで熱回路が簡略化される。例えば、ケース温度THcase及び受熱後油温THoil2の一方は、他方で代替することができる。本発明において、ケース温度THcaseは、受熱後油温THoil2と同義である。
【0054】
一端側コイルエンド28e1及び他端側コイルエンド28e2は、コイル28が突出しているのが軸線CL方向の一端側か他端側かが異なるだけである。一端側コイルエンド28e1及び他端側コイルエンド28e2は、それぞれ吐出孔62,64から滴下された冷却油OILで同様の構成により冷却される。したがって、図3に示す破線X1内の熱伝導に関して、ステータコア22及びコイル28は、軸線CL方向におけるステータコア22の中央部を中心に対称であるとみなすことができる。例えば、一端側コイルエンド28e1及び他端側コイルエンド28e2は、それぞれの温度が同じであるとみなすことができる。また、熱抵抗値R1aと熱抵抗値R1bとは、同じであるとみなすことができる。
【0055】
図3に示す破線X2内の熱抵抗値を零であるとみなすことができる。すなわち、ロータ30内の温度が均一であるとみなした簡略化ができる。ロータコア32、ロータシャフト36、及び永久磁石34は、熱伝導率kが比較的高い材料であるとともに、これらは直接物理的に接触しているためである。例えば、スロット内コイル28cとステータコア22との間には、コイル28を絶縁する外被があるが、この外被はロータ30内の各要素に比較して熱伝導率kが低い。また、ステータコア22及びロータ30の間は、空隙Gを介して熱伝導されるのに対して、ロータ30内の各要素間は接触した部分を介して熱伝導される。したがって、熱抵抗値R2及び熱抵抗値R3に比較して、ロータ30内における熱抵抗値は十分低い。これにより、破線X2内についてすなわちロータ30内について、外周部32o、内周部32i、永久磁石34、及びロータシャフト36は、それぞれの温度が同じであるとみなして簡略化することができる。
【0056】
コイルエンド28eに滴下された受熱前の冷却油OILへのコイル28からの放熱に比較して、ケース70内の空気を介した放熱は、圧倒的に小さい。例えば、図3に示す一点鎖線Y1内の熱抵抗R、一点鎖線Y2内の熱抵抗R、一点鎖線Y3内の熱抵抗Rをそれぞれ無限大であるとみなすことができる。すなわち、熱回路は、一点鎖線Y1内、一点鎖線Y2内、及び一点鎖線Y3内でのケース70内の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化をすることができる。
【0057】
なお、上記熱回路の簡略化によって、複数の要素が1つの要素にまとめられた場合には、そのまとめられた1つの要素の熱容量Cqは、その要素の物性(例えば、熱伝導率k)、形状等によって、予め実験的に或いは設計的に定められる。
【0058】
図4は、本発明の実施例1に係る、簡略化後の熱回路の一例及び電動機MGのロータ30内に埋め込まれた永久磁石34の温度を推定する電子制御装置100の機能ブロック図である。図4に示す熱回路は、図3で説明した各種の簡略化が行われている。
【0059】
電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。なお、電子制御装置100は、本発明における「推定装置」に相当するとともに「制御装置」にも相当する。また、本発明における「制御装置」は、本発明の「推定装置」を含む構成である。
【0060】
電子制御装置100には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばコイルエンド温度センサ80、油温センサ84、MG回転速度センサ90、車速センサ92、アクセル開度センサ94など)による検出値に基づく各種信号等(例えば一端側コイルエンド28e1の温度であるコイルエンド温度THend[K]、受熱後油温THoil2、電動機MGの回転速度であるMG回転速度Nmg[rpm]、車速V[km/h]、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc[%]など)が、それぞれ入力される。なお、コイルエンド温度THendは、本発明における「コイルの温度」に相当する。
【0061】
電子制御装置100からは、車両10に備えられた各装置(例えばインバータ46など)に各種指令信号(例えば電動機MGを制御するためのMG制御信号Smgなど)が、それぞれ出力される。
【0062】
電子制御装置100は、取得判定部100a、初期温度設定部100b、発熱量計算部100c、受放熱量計算部100d、温度変化量計算部100e、温度推定部100f、磁石温度判定部100g、及び電動機制御部100hを機能的に備える。
【0063】
電動機制御部100hは、車両10に対する要求駆動量を実現するように電動機MGから出力されるトルクであるMGトルクTmg[N・m]を制御する。例えばアクセル開度θacc及び車速Vと車両10に要求される要求トルクTreq[N・m]との関係(例えば、駆動力マップ)に、実際のアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで要求トルクTreqを算出する。MG制御信号Smgは、例えばそのときのMG回転速度NmgにおけるMGトルクTmgを出力する電動機MGの消費電力Wm[W]の指令値である。なお、MGトルクTmgは、本発明における「電動機の出力トルク」に相当する。
【0064】
取得判定部100aは、熱回路を用いて、現時点n[s]よりも所定の期間Δtだけ前の時点(以下、「直近時点m」と記す。)での各要素の温度TH(m)が取得可能か否かを判定する。所定の期間Δtは、例えば熱回路を用いて、その期間内に磁石温度THmagが計算可能であり且つ磁石温度THmagが繰り返し計算される周期であって、予め定められた期間である。本明細書では、各要素の温度THや要素Aの温度THaについて、例えばTH(m),TH(n)のように丸括弧が付加されている場合には、付加された丸括弧内の文字が表す時点における温度のことを意味する。なお、磁石温度THmagを推定する現時点nは、本発明における「推定時点」に相当する。
【0065】
取得判定部100aにより直近時点mでの各要素の温度TH(m)が取得できないと判定された場合には、初期温度設定部100bは、直近時点mでの各要素の温度TH(m)を設定する。取得判定部100aにより各要素の温度TH(m)が取得できないと判定された場合において、初期温度設定部100bによる各要素の温度TH(m)の設定を、初期設定といい、初期設定される温度を初期温度ということとする。初期温度設定部100bによる初期温度の設定方法については、後述する。
【0066】
発熱量計算部100cは、熱回路の各要素における発熱量Qg[W]をそれぞれ計算する。電動機MGにおける発熱は、主に鉄損、銅損、機械損により発生する。鉄損とは、コイルが巻回された磁性材料(代表的には鉄類)において発生する損失であって、ヒステリシス損や渦電流損である。銅損とは、コイルにおいて、そのコイルの抵抗成分により発生する損失である。機械損とは、ベアリング42の摩擦、回転部品の風損により発生する損失である。これら鉄損、銅損、機械損は、MG回転速度Nmg及びMGトルクTmgに依存する。
【0067】
ここで、MG回転速度Nmg及びMGトルクTmgと、熱回路の各要素での単位時間当たりの発熱量Qgと、の実験的に或いは設計的に予め定められた関係であるマップを、発熱量マップということとする。発熱量マップは、要素毎にそれぞれ用意されている。例えば、要素Aの発熱量マップに現時点nでのMG回転速度Nmg及びMGトルクTmgを適用することで、要素Aにおける単位時間当たりの発熱量Qgaが計算される。
【0068】
受放熱量計算部100dは、直近時点mでの各要素の温度TH(m)を取得するとともに、熱回路の各要素での受放熱量Qt[W]をそれぞれ計算する。例えば、要素Aに対して熱抵抗値Rabで接続された要素Bがある場合、要素Bに対する要素Aの単位時間当たりの二要素間受放熱量Qtab[W]は、直近時点mでの要素Bの温度THb[K]と要素Aの温度THa[K]との差を熱抵抗値Rabで除したもの{=(THb-THa)/Rab}と計算される。二要素間受放熱量Qtabが負値である場合は、要素Aの要素Bに対する単位時間当たりの放熱量であり、二要素間受放熱量Qtabが正値である場合は、要素Aにおける要素Bからの単位時間当たりの受熱量である。要素Aに対して複数の要素Bが熱抵抗を介してそれぞれ接続されている場合には、複数の要素Bのそれぞれに対する二要素間受放熱量Qtabが計算された後にそれら計算された二要素間受放熱量Qtabが合計されることで、要素Aにおける単位時間当たりの受放熱量Qta[W]が計算される。本実施例における熱回路を用いた磁石温度THmagの推定では、油温センサ84及びコイルエンド温度センサ80でそれぞれ検出された受熱後油温THoil2及びコイルエンド温度THendが境界条件とされる。境界条件とは、熱回路を用いて磁石温度THmagを推定する場合に、満たすべき条件である。
【0069】
温度変化量計算部100eは、熱回路の各要素での温度変化量ΔTH[K/s]をそれぞれ計算する。例えば、ある要素Aについて、単位時間当たり発熱量Qga[W]、単位時間当たり受放熱量Qta、及び熱容量Cqaである場合、所定の期間Δtにおける要素Aの温度変化量ΔTHa[K]は、{(Qga+Qta)/Cqa×Δt}と計算される。熱容量Cqaは、要素Aの物性(例えば、熱伝導率k)、形状等によって、予め実験的に或いは設計的に定められる。
【0070】
温度推定部100fは、現時点nでの各要素の温度TH(n)をそれぞれ推定する。例えば、直近時点mでの要素Aの温度THa(m)と温度変化量ΔTHaとの和{=THa(m)+ΔTHa}が現時点nでの要素Aの温度THa(n)として計算される、すなわち推定される。
【0071】
図5は、図4に示す熱回路の各要素を代表して、ある要素Aの温度変化を示したものである。図5において、横軸は時間t[s]であり、縦軸は要素Aの温度THa[K]である。
【0072】
図4に戻り、磁石温度判定部100gは、温度推定部100fにより推定された現時点nにおける磁石温度THmag(n)が判定温度THmag_jdg[K]以上であるか否かを判定する。判定温度THmag_jdgは、永久磁石34が温度上昇によって減磁しないように、実験的に或いは設計的に予め定められた上限温度である。なお、判定温度THmag_jdgは、本発明における「所定の判定温度」に相当する。
【0073】
磁石温度判定部100gにより磁石温度THmag(n)が判定温度THmag_jdg以上であると判定されると、電動機制御部100hは、磁石温度THmagが低下するようにすなわち電動機MGでの発熱量Qgが低下するように、電動機MGの出力制限を実行する。例えば、MG回転速度NmgやMGトルクTmgがそれまでよりも低下させられる。
【0074】
以上説明したように、熱回路を用いた、現時点nでの各要素の温度TH(n)の推定では、直近時点mでの各要素の温度TH(m)を取得する必要がある。例えば、所定の期間Δt毎に、熱回路を用いて各要素の温度TH(n)の推定が繰り返し行われる場合には、現時点nよりも所定の期間Δtだけ前の直近時点mで推定された各要素の温度TH(m)を取得することができる。ところで、例えばイグニッションスイッチがオフ状態(IG-OFF)からオン状態(IG-ON)に切り替えられることにより電動機MGが停止状態から運転開始状態とされて車両10の走行が開始される場合には、この電動機MGが停止状態から運転開始状態に切り替えられるまでの期間(以下、「停止期間Tstop」という。)において熱回路を用いた各要素の温度THの推定が行われない場合がある。このような場合、現時点nに相当する運転開始時点ts[s]における直近時点m(=ts-Δt)における各要素の温度TH(m)を取得することができない。そのため、直近時点mでの各要素の温度TH(m)を決める必要がある。
【0075】
初期温度設定部100bは、直近時点mにおける各要素の温度TH(m)が取得できない場合は、初期設定を行う。
【0076】
図6は、図4に示す熱回路における要素を代表して、ある要素Aの初期温度の設定方法に用いられる初期温度推定関数F1の例である。初期温度推定関数F1は、要素毎にそれぞれ用意されている。初期温度推定関数F1は、停止時点te[s]での要素Aの温度である停止時温度THa(te)及び停止期間Tstop[s]と、運転開始時点tsにおける直近時点mでの要素Aの初期温度THa(ts-Δt)と、の間の実験的に或いは設計的に予め定められた関係を示す関数である。初期温度推定関数F1は、本発明における「第1の関係」に相当する。例えば、停止期間Tstopは、不図示のタイマーによって計測される。図6に示すように、例えば運転開始時点tsよりも前の前回の走行においてイグニッションスイッチがオン状態からオフ状態に切り替えられて電動機MGが停止状態となった停止時点teでは、要素Aの温度は、停止時温度THa(te)と推定されている。初期温度推定関数F1は、停止期間Tstopが長くなるに従って、要素Aの初期温度THa(ts-Δt)が停止時温度THa(te)から外気温THair[K]に向かって収束するようになっている。
【0077】
所定の収束期間Tcon[s]は、要素Aの温度が外気温THairに略同じになる、すなわち要素Aの温度THaと外気温THairとの差が所定温度差以内に収束すると推定される期間であって、予め定められた期間である。所定温度差は、要素Aについて推定された初期温度THa(ts-Δt)と実際の温度である実温度THareal[K]との誤差、特に運転開始直後において推定された誤差が磁石温度THmagを推定する上で許容範囲内となる予め定められた温度差である。例えば、停止時温度THa(te)は、停止時点te(例えば、前回の走行の終了時点)における要素Aについて計算された温度とされる。所定の収束期間Tconが経過した後は、初期温度推定関数F1により定められる要素Aの初期温度THa(ts-Δt)は、外気温THairと略同じであるコイルエンド温度THendや受熱後油温THoil2とされる。
【0078】
各要素の温度TH(m)が取得できないと判定された場合、初期温度設定部100bは、初期温度推定関数F1に運転開始時点tsにおける停止期間Tstopを適用して推定された要素Aの初期温度THa(ts-Δt)を、運転開始時点tsでの要素Aにおける初期温度として初期設定する。
【0079】
ところで、初期温度推定関数F1を用いて推定された要素Aの初期温度THa(ts-Δt)が図6に示すように要素Aの実温度THarealよりも高く設定されたり、低く設定されたりする場合がある。熱回路を用いた各要素の温度の推定では、境界条件である受熱後油温THoil2及びコイルエンド温度THendにセンサによる検出値である実測値が適用されているため、例えば初期温度THa(ts-Δt)が実温度THarealよりも高く設定された場合、熱回路上の二要素間受放熱量Qtabがそれぞれ実際よりも大きくなるように計算される。一方、例えば初期温度THa(ts-Δt)が実温度THarealよりも低く設定された場合、熱回路上の二要素間受放熱量Qtabがそれぞれ実際よりも小さくなるように計算される。これにより、運転開始時点tsから熱回路を用いて各要素の温度の推定が繰り返される毎に、推定された現時点nでの要素Aの温度THa(n)が実温度THarealに近づいていく。そのため、初期温度推定関数F1を用いて推定される、例えば要素Aの初期温度THa(ts-Δt)は、高精度でなくとも良い。
【0080】
図7は、図4に示す電子制御装置100における制御作動を説明するフローチャートの一例である。図7のフローチャートは、イグニッションスイッチがオン状態にされて電動機MGが運転状態となっている場合に、繰り返し実行される。
【0081】
まず、取得判定部100aの機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、現時点nにおける直近時点mでの各要素の温度TH(m)が取得可能か否かが判定される。S10の判定が否定された場合には、初期温度設定部100bの機能に対応するS20において、直近時点mでの各要素の温度TH(m)がそれぞれ初期設定される。
【0082】
S10の判定が肯定された場合及びS20の実行後は、発熱量計算部100cの機能に対応するS30において、現時点nでのMG回転速度Nmg及びMGトルクTmgが取得される。S30の実行後は、発熱量計算部100cの機能に対応するS40において、S30で取得された現時点nでのMG回転速度Nmg及びMGトルクTmgに基づいて、各要素での発熱量Qgがそれぞれ計算される。
【0083】
S40の実行後は、受放熱量計算部100dの機能に対応するS50において、直近時点mでの各要素の温度TH(m)がそれぞれ取得される。S50の実行後は、受放熱量計算部100dの機能に対応するS60において、S50で取得された直近時点mでの各要素の温度TH(m)及び各要素間の熱抵抗Rに基づいて、各要素間での受放熱量Qtがそれぞれ計算される。
【0084】
S60の実行後は、温度変化量計算部100eの機能に対応するS70において、S40で計算された各要素の発熱量Qg、S60で計算された受放熱量Qt、及び各要素の熱容量Cqに基づいて、所定の期間Δtにおける各要素での温度変化量ΔTHがそれぞれ計算される。S70の実行後は、温度推定部100fの機能に対応するS80において、現時点nでの各要素の温度TH(n)がそれぞれ計算されて推定される。S80では、現時点nでの磁石温度THmagも計算される。
【0085】
S80の実行後は、磁石温度判定部100gの機能に対応するS90において、現時点nでの磁石温度THmagが判定温度THmag_jdg以上であるか否かが判定される。S90の判定が肯定された場合、電動機制御部100hの機能に対応するS100において、電動機MGの出力制限が実行される。S90の判定が否定された場合、電動機制御部100hの機能に対応するS110において、電動機MGの出力制限が実行されない。S100の実行後及びS110の実行後は、リターンとなる。
【0086】
本実施例の電子制御装置100によれば、受熱後油温THoil2がケース温度THcaseと等しいとみなした熱回路を用いて磁石温度THmagが推定される。また、その推定された磁石温度THmagが判定温度THmag_jdg以上となった場合には、電動機MGの出力制限が実行される。磁石温度THmagを推定するために用いる熱回路において、受熱後油温THoil2とケース温度THcaseとが等しいとみなされることにより、熱回路が簡略化される。これにより、ケース70内において電動機MGが冷却油OILで冷却される場合であっても、磁石温度THmagにおける推定精度の低下を抑制するとともに電子制御装置100における磁石温度THmagの計算負荷を低減することができる。また、磁石温度THmagの推定精度の低下が抑制される場合には、そうでない場合に比較して電動機MGの性能劣化を回避するために定められた判定温度THmag_jdgを高めに設定して電動機MGの出力性能を引き出しつつ電動機MGの性能劣化を回避したり、或いは、比較的耐熱性が低い等級の永久磁石34を採用することでコストを低減しつつ電動機MGの出力性能を最大限引き出したりすることができる。
【0087】
本実施例の電子制御装置100によれば、熱回路は、ステータコア22及びコイル28について軸線CL方向におけるステータコア22の中央部を中心に対称であるとみなした簡略化、ロータ30内の温度が均一であるとみなした簡略化、及びロータ30と冷却油OILとの間でケース70内の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化、が行われている。熱回路におけるこれらの簡略化が行われた場合には、これらの簡略化が行われていない場合に比較して磁石温度THmagの計算負荷を更に低減することができる。
【0088】
本実施例の電子制御装置100によれば、熱回路を用いて、受熱後油温THoil2とコイルエンド温度THendとを境界条件として磁石温度THmagが推定され、推定された磁石温度THmagが判定温度THmag_jdg以上となった場合には、電動機MGの出力制限が実行される。熱回路を用いて前記境界条件によって磁石温度THmagが推定されることにより、磁石温度THmagの推定精度の低下が抑制される。
【0089】
本実施例の電子制御装置100によれば、(a)現時点nにおけるMG回転速度Nmg及びMGトルクTmgに基づいて、熱回路における各要素の発熱量Qgをそれぞれ計算する発熱量計算部100cと、(b)熱回路を用いて、境界条件及び直近時点mにおける各要素の温度TH(m)に基づいて、各要素の受放熱量Qtをそれぞれ計算する受放熱量計算部100dと、(c)各要素の発熱量Qg、受放熱量Qt、及び熱容量Cqに基づいて、直近時点mと現時点nとの間の期間における各要素の温度変化量ΔTHをそれぞれ計算する温度変化量計算部100eと、(d)直近時点mでの各要素の温度TH(m)と温度変化量ΔTHとに基づいて、現時点nにおける磁石温度THmagを推定する温度推定部100fと、(e)推定された磁石温度THmagが判定温度THmag_jdg以上となった場合には、電動機MGの出力制限を実行する電動機制御部100hと、が備えられる。発熱量計算部100c、受放熱量計算部100d、温度変化量計算部100e、温度推定部100f、及び電動機制御部100hが備えられることにより、ケース70内において電動機MGが冷却油OILで冷却される場合であっても、磁石温度THmagを推定することができる。また、電動機MGの出力性能を引き出しつつ電動機MGの性能劣化を回避したり或いは比較的耐熱性が低い等級の永久磁石34を採用することでコストを低減しつつ電動機MGの出力性能を最大限引き出したりすることができる。
【0090】
本実施例の電子制御装置100によれば、電動機MGが停止状態から運転状態に切り替えられる場合には、初期温度推定関数F1に基づいて、各要素の初期温度TH(ts-Δt)を初期設定する初期温度設定部100bが備えられる。電動機MGが停止状態から運転状態に切り替えられる場合でも、このような初期温度設定部100bによる各要素の初期温度TH(ts-Δt)の初期設定が行われることにより、初期設定が行われない場合に比較して電子制御装置100により推定される磁石温度THmagが実際の温度に早期に収束しやすくなる。すなわち、電子制御装置100における磁石温度THmagの推定精度が向上する。
【0091】
本実施例の電動機MGの磁石温度THmagの推定方法によれば、受熱後油温THoil2がケース温度THcaseと等しいとみなした熱回路を用いて、磁石温度THmagが推定される。これにより、電動機MGの磁石温度THmagの推定方法において、電子制御装置100と同様の効果を奏する。
【0092】
本実施例の電動機MGの磁石温度THmagの推定方法によれば、本実施例の電子制御装置100と同様に、熱回路の簡略化が行われたり熱回路における各要素の初期温度TH(ts-Δt)が初期設定されたりすることにより、それぞれ同様の効果を奏する。
【0093】
本実施例の電動機MGの磁石温度THmagの推定方法によれば、熱回路を用いて、受熱後油温THoil2とコイルエンド温度THendとを境界条件として磁石温度THmagが推定される。これにより、電動機MGの磁石温度THmagの推定方法において、電子制御装置100と同様の効果を奏する。
【0094】
本実施例の電動機MGの磁石温度THmagの推定方法によれば、(a)現時点nにおけるMG回転速度Nmg及びMGトルクTmgに基づいて、熱回路における各要素の発熱量Qgがそれぞれ計算され、(b)熱回路を用いて、境界条件及び直近時点mにおける各要素の温度TH(m)に基づいて、各要素の受放熱量Qtがそれぞれ計算され、(c)各要素の発熱量Qg、受放熱量Qt、及び熱容量Cqに基づいて、直近時点mと現時点nとの間の期間における各要素の温度変化量ΔTHがそれぞれ計算され、(d)直近時点mでの各要素の温度TH(m)と各要素の温度変化量ΔTHとに基づいて、現時点nにおける磁石温度THmagが推定される。これにより、電動機MGの磁石温度THmagの推定方法において、本実施例の電子制御装置100と同様の効果を奏する。
【実施例0095】
図8は、本発明の実施例2に係る、熱回路の各要素を代表して、ある要素Aの設定方法に用いられる初期温度推定関数F2の例である。本実施例では、前述の実施例1で用いられた図6の初期温度推定関数F1の替わりに、図8の初期温度推定関数F2が用いられる点が異なる。初期温度推定関数F2は、要素毎にそれぞれ用意されている。
【0096】
初期温度推定関数F2は、停止時温度THa(te)及び停止期間Tstopにおける受熱後油温THoil2の温度低下量ΔTHoil2[K]と、運転開始時点tsにおける直近時点mでの要素Aの初期温度THa(ts-Δt)と、の間の実験的に或いは設計的に予め定められた関係である。初期温度推定関数F2は、本発明における「第2の関係」に相当する。停止期間Tstopが長くなるに従って、受熱後油温THoil2が停止時点teでの油温TH0[K]から外気温THairに向かって収束するとともに、要素Aの温度THaも外気温THairに向かって収束する。したがって、温度低下量ΔTHoil2が大きくになるに従って、要素Aの温度THaが停止時温度THa(te)から外気温THairに向かって収束する。なお、温度低下量ΔTHoil2は、本発明における「第1温度及び第2温度の少なくとも一方の温度低下量」に相当する。
【0097】
図8に示すように、例えば停止時点teでの受熱後油温THoil2が油温TH0であり且つ運転開始時点tsでの受熱後油温THoil2が油温TH1[K]である場合すなわち温度低下量ΔTHoil2が「TH0-TH1」である場合には、要素Aの初期温度THa(ts-Δt)は「THa(te)-T1」とされる。例えば、停止時点teでの受熱後油温THoil2が油温TH0であり且つ運転開始時点tsでの受熱後油温THoil2が油温TH2(=THair)[K]である場合すなわち温度低下量ΔTHoil2が「TH0-TH2」である場合には、要素Aの初期温度THa(ts-Δt)は「THa(te)-T2」とされる。
【0098】
本実施例の電子制御装置100によれば、電動機MGが停止状態から運転状態に切り替えられる場合には、初期温度推定関数F2に基づいて、各要素の初期温度TH(ts-Δt)を初期設定する初期温度設定部100bが備えられる。電動機MGが停止状態から運転状態に切り替えられる場合でも、このような初期温度設定部100bによる各要素の初期温度TH(ts-Δt)の初期設定が行われることにより、初期設定が行われない場合に比較して電子制御装置100により推定される磁石温度THmagが実温度に早期に収束しやすくなる。すなわち、電子制御装置100における磁石温度THmagの推定精度が向上する。なお、本実施例に係る初期温度設定部100bでは、車両10には停止期間Tstopを計測するタイマーが不要である。
【0099】
本実施例の電子制御装置100及び電動機MGの磁石温度THmagの推定方法によれば、前述の実施例1と同様の構成を有することで、それに応じて実施例1と同様の効果を奏する。
【実施例0100】
図9は、本発明の実施例3に係る、簡略化後の熱回路の一例及び電動機MGのロータ30内に埋め込まれた永久磁石34の温度を推定する電子制御装置100の機能ブロック図である。本実施例では、前述の実施例1で用いられた図4の熱回路の替わりに、図9に示す熱回路が用いられる点が異なる。
【0101】
図9に示す熱回路では、前述の実施例1で説明した図3の簡略化前の熱回路のうち、破線X0内の簡略化、破線X2内の簡略化、一点鎖線Y1内の簡略化、一点鎖線Y2内の簡略化、一点鎖線Y3内の簡略化、一点鎖線Y4内の簡略化が行われている。
【0102】
コイル28からコイルエンド28eに滴下された受熱前の冷却油OILへの放熱に比較して、ケース70からエンジンルーム内の空気を介した外気72への放熱は、圧倒的に小さい。そのため、図3に示す一点鎖線Y4内の熱抵抗Rが無限大であるとみなすことができる。すなわち、熱回路は、一点鎖線Y4内でのケース70内の空気を介した受放熱が無いものとみなした簡略化をすることができる。
【0103】
電子制御装置100には、前述の実施例1において車両10に備えられたコイルエンド温度センサ80による検出値に基づくコイルエンド温度THendの替わりに、車両10に備えられた油温センサ82による検出値に基づく受熱前油温THoil1が入力される。
【0104】
本実施例における熱回路を用いた磁石温度THmagの推定では、油温センサ84及び油温センサ82でそれぞれ検出された受熱後油温THoil2及び受熱前油温THoil1が境界条件とされる。
【0105】
本実施例の電子制御装置100及び電動機MGの磁石温度THmagの推定方法によれば、前述の実施例1と同様の構成を有することで、それに応じて実施例1と同様の効果を奏する。
【0106】
本実施例の電子制御装置100及び電動機MGの磁石温度THmagの推定方法によれば、熱回路を用いて、受熱後油温THoil2と受熱前油温THoil1とを境界条件として磁石温度THmagが推定され、推定された磁石温度THmagが判定温度THmag_jdg以上となった場合には、電動機MGの出力制限が実行される。熱回路を用いて前記境界条件によって磁石温度THmagが推定されることにより、磁石温度THmagの推定精度の低下が抑制される。
【実施例0107】
図10は、本発明の実施例4に係る、簡略化後の熱回路の一例及び電動機MGのロータ30内に埋め込まれた永久磁石34の温度を推定する電子制御装置100の機能ブロック図である。本実施例では、前述の実施例1で用いられた図4の熱回路の替わりに、図10に示す熱回路が用いられる点が異なる。
【0108】
図10に示す熱回路では、前述の実施例1で説明した図3に示す簡略化前の熱回路のうち、破線X0内の簡略化、破線X2内の簡略化、一点鎖線Y1内の簡略化、一点鎖線Y2内の簡略化、一点鎖線Y3内の簡略化、一点鎖線Y4内の簡略化が行われている。一点鎖線Y4内の簡略化は、前述の実施例2で説明したものと同じである。
【0109】
図10に示す熱交換前の冷却水WATと受熱前の冷却油OILとの間の熱抵抗値R7は、図3に示すオイルクーラー52における熱交換の効率を表すものである。熱抵抗値R7が小さいほど、オイルクーラー52の熱交換の効率が良い。
【0110】
電子制御装置100には、前述の実施例1において車両10に備えられたコイルエンド温度センサ80による検出値に基づくコイルエンド温度THendの替わりに、車両10に備えられた水温センサ88による検出値に基づく熱交換前水温THwat1が入力される。
【0111】
本実施例における熱回路を用いた磁石温度THmagの推定では、油温センサ84及び水温センサ88でそれぞれ検出された受熱後油温THoil2及び熱交換前水温THwat1が境界条件とされる。
【0112】
本実施例の電子制御装置100及び電動機MGの磁石温度THmagの推定方法によれば、前述の実施例1と同様の構成を有することで、それに応じて実施例1と同様の効果を奏する。
【0113】
本実施例の電子制御装置100及び電動機MGの磁石温度THmagの推定方法によれば、熱回路を用いて、受熱後油温THoil2と熱交換前水温THwat1とを境界条件として磁石温度THmagが推定され、推定された磁石温度THmagが判定温度THmag_jdg以上となった場合には、電動機MGの出力制限が実行される。熱回路を用いて前記境界条件によって磁石温度THmagが推定されることにより、磁石温度THmagの推定精度の低下が抑制される。
【0114】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0115】
前述の実施例3,4では、実施例1と同様に、図3に示す簡略化前の熱回路に対して破線X1内の簡略化が行われても良い。
【0116】
前述の実施例3,4では、図3に示す簡略化前の熱回路に対して破線X3内の簡略化が行われても良い。具体的には、破線X1内と同様に、破線X3内の熱伝導に関して、ステータコア22及びコイル28は、軸線CL方向におけるステータコア22の中央部を中心に対称であるとみなすことができる。すなわち、一端側コイルエンド28e1及び他端側コイルエンド28e2は、それぞれの温度が同じであるとみなすことができる。また、熱抵抗値R6aと熱抵抗値R6bとは、同じであるとみなすことができる。これにより、受熱前の冷却油OILと一端側コイルエンド28e1との間の熱抵抗値が「R6a/2」とされ且つ受熱前の冷却油OILと他端側コイルエンド28e2との間で受放熱が行われないとの簡略化が行われても良い。
【0117】
前述の実施例1~4では、図3に示す簡略化前の熱回路のうち、複数の簡略化がそれぞれ行われていたが、それぞれの実施例で説明した簡略化のうち少なくとも1つが行われていれば良い。
【0118】
前述の実施例2では、初期温度推定関数F2は、停止時温度THa(te)及び停止期間Tstopにおける温度低下量ΔTHoil2と、要素Aの初期温度THa(ts-Δt)と、の間の実験的に或いは設計的に予め定められた関係であったが、この態様に限らない。例えば、初期温度推定関数F2は、停止時温度THa(te)及び停止期間Tstopにおけるコイルエンド温度THendの温度低下量ΔTHend[K]と、運転開始時点tsでの要素Aの初期温度THa(ts-Δt)と、の間の実験的に或いは設計的に予め定められた関係であっても良い。前述の実施例3,4において初期温度推定関数F2により初期設定される場合には、初期温度推定関数F2は、停止時温度THa(te)及び停止期間Tstopにおける受熱前温度THoil1の温度低下量又は熱交換前水温THwat1の低下量と、運転開始時点tsでの要素Aの初期温度THa(ts-Δt)と、の間の実験的に或いは設計的に予め定められた関係であっても良い。すなわち、初期温度推定関数F2は、停止時温度THa(te)及び停止期間Tstopにおける第1温度及び第2温度の少なくとも一方の温度低下量と、運転開始時点tsでの要素Aの初期温度THa(ts-Δt)と、の間の実験的に或いは設計的に予め定められた関係であれば良い。また、初期温度推定関数F1,F2は、それぞれの関係を表すマップであっても良い。
【0119】
前述の実施例1~4では、本発明に係る「内部温度」が磁石温度THmagであったが、これに限らない。例えば、本発明に係る「内部温度」とは、電動機MGの性能劣化を回避するために監視する電動機MGの他の内部温度や電動機MGを効率的に駆動制御するために監視する電動機MGの他の内部温度であっても良い。
【0120】
前述の実施例1~4では、電動機MGが停止状態から運転状態に切り替えられる場合には、電動機MGの運転開始時点tsにおける直近時点mでの各要素の温度TH(m)を初期設定する初期温度設定部100bが備えられたが、本発明はこの態様に限らない。例えば、停止期間Tstopにおいても、熱回路を用いて各要素の温度THが繰り返し推定される場合には、運転開始時点tsにおける直近時点mで推定された各要素の温度TH(m)を取得することができるので、初期温度設定部100bが備えられていなくても良い。
【0121】
前述の実施例1~4では、冷却油流路60から冷却油OILがコイルエンド28eに滴下される態様であったが、本発明はこの態様に限らない。例えば、ロータシャフト36の内周側に設けられた中空部から受熱前の冷却油OILが遠心力でコイルエンド28eに向けて噴射される態様であっても良い。この態様の場合、オイルクーラー52で冷却水により冷却された受熱前の冷却油OILは、冷却油流路60の替わりにロータシャフト36の中空部に還流させられる。すなわち、本発明は、ケース70内においてコイル28に冷却油OILが直接接触することで冷却される態様に適用される。
【0122】
なお、上述したのはあくまでも本発明の各実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0123】
22:ステータコア
28:コイル
30:ロータ
70:ケース
72:外気
100:電子制御装置(推定装置、制御装置)
100b:初期温度設定部
100c:発熱量計算部
100d:受放熱量計算部
100e:温度変化量計算部
100f:温度推定部
100h:電動機制御部
CL:軸線
Cq:熱容量
F1:初期温度推定関数(第1の関係)
F2:初期温度推定関数(第2の関係)
m:直近時点
MG:電動機
n:現時点(推定時点)
Nmg:MG回転速度(電動機の回転速度)
OIL:冷却油(第1冷却液)
Qg:発熱量
Qt:受放熱量
te:停止時点
TH(ts-Δt):初期温度
THcase:ケース温度(ケースの温度)
THend:コイルエンド温度(コイルの温度)
THmag:磁石温度(内部温度)
THmag_jdg:判定温度(所定の判定温度)
THoil1:受熱前油温(第1冷却液におけるコイルからの受熱前温度)
THoil2:受熱後油温(第1冷却液におけるコイルからの受熱後温度)
THwat1:熱交換前水温(第2冷却液における第1冷却液からの受熱前温度)
Tmg:MGトルク(電動機の出力トルク)
ts:運転開始時点
Tstop:停止期間(電動機が停止状態から運転状態に切り替えられるまでの期間)
WAT:冷却水(第2冷却液)
Δt:所定の期間
ΔTH:温度変化量
ΔTHoil2:温度低下量(第1温度及び第2温度の少なくとも一方の温度低下量)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10