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特開2023-180999封止用樹脂組成物、アンダーフィル用フィルム材及び半導体装置
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  • 特開-封止用樹脂組成物、アンダーフィル用フィルム材及び半導体装置 図1
  • 特開-封止用樹脂組成物、アンダーフィル用フィルム材及び半導体装置 図2
  • 特開-封止用樹脂組成物、アンダーフィル用フィルム材及び半導体装置 図3
  • 特開-封止用樹脂組成物、アンダーフィル用フィルム材及び半導体装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180999
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】封止用樹脂組成物、アンダーフィル用フィルム材及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20231214BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20231214BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20231214BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
H01L23/30 R
C08F290/06
C09K3/10 Z
H01L21/60 311Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094718
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 一周
(72)【発明者】
【氏名】水谷 準
(72)【発明者】
【氏名】浅野 卓也
(72)【発明者】
【氏名】明石 隆宏
【テーマコード(参考)】
4H017
4J127
4M109
5F044
【Fターム(参考)】
4H017AA04
4H017AB17
4H017AC17
4H017AC19
4H017AD06
4H017AE05
4J127AA03
4J127AA07
4J127BB031
4J127BB111
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC151
4J127BD231
4J127BG051
4J127BG05Y
4J127BG141
4J127BG14Y
4J127CB351
4J127DA12
4J127DA49
4J127DA63
4J127DA66
4J127FA41
4M109AA01
4M109BA04
4M109CA10
4M109EA11
4M109EA12
4M109EB02
4M109EB12
5F044LL11
5F044RR17
(57)【要約】
【課題】封止材にボイドが発生しにくい封止用樹脂組成物、その封止用樹脂組成物から作製されるアンダーフィル用フィルム材及びそのアンダーフィル用フィルム材から作製される半導体装置を提供する。
【解決手段】本開示の一態様に係る封止用樹脂組成物は、トリアリルイソシアヌレート(A)と、ラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)と、熱可塑性エラストマー(C)と、熱ラジカル重合開始剤(D)と、無機充填剤(E)とを含有する。回転式レオメーターを用いて溶融粘度を測定した場合の前記封止用樹脂組成物の最低溶融粘度が55,000Pa・s以上である。最低溶融粘度を示す温度が、80℃以上150℃以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアリルイソシアヌレート(A)と、ラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)と、熱可塑性エラストマー(C)と、熱ラジカル重合開始剤(D)と、無機充填剤(E)とを含有し、
回転式レオメーターを用いて測定される最低溶融粘度が55,000Pa・s以上であり、
前記最低溶融粘度を示す温度が、80℃以上150℃以下である、
封止用樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマー(C)は、100℃以下の軟化点を有し、かつ重量平均分子量が15万以上である、
請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマー(C)は、水添スチレン系エラストマーを含む、
請求項1又は2に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機充填剤(E)の割合は、前記封止用樹脂組成物に対して50質量%以上70質量%以下である、
請求項1又は2に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項5】
前記トリアリルイソシアヌレート(A)と、前記ラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)と、前記熱可塑性エラストマー(C)との合計に対する前記熱可塑性エラストマー(C)の割合は、35質量%以上50質量%以下である、
請求項1又は2に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の封止用樹脂組成物の未硬化物及び半硬化物のうち少なくとも一方を含む、
アンダーフィル用フィルム材。
【請求項7】
基材と、
前記基材にフェイスダウンで実装されている半導体チップと、
前記基材と前記半導体チップとの間の隙間を封止する封止材とを備え、
前記封止材が請求項6に記載のアンダーフィル用フィルム材の硬化物からなる、
半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般には、封止用樹脂組成物、アンダーフィル用フィルム材及び半導体装置に関する。本開示は、より詳細には、半導体装置を封止するために用いられる封止用樹脂組成物、その封止用樹脂組成物から作製されるアンダーフィル用フィルム材及びそのアンダーフィル用フィルム材を備える半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の封止に当たり、封止用樹脂組成物で構成されるフィルムが用いられている。特許文献1には、常温から10℃/分の昇温速度で溶融状態まで昇温されたときに初期は溶融粘度が減少し、最低溶融粘度に到達した後、更に上昇するような特性を有し、かつ前記最低溶融粘度が2,000Pa・s以下であることを特徴とする、可塑性樹脂と、硬化性樹脂とを含む樹脂組成物で構成される半導体用接着フィルムが開示されている。特許文献1には、この半導体用接着フィルムは、耐熱性に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-103954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、封止材にボイドが発生しにくい封止用樹脂組成物、その封止用樹脂組成物から作製されるアンダーフィル用フィルム材及びそのアンダーフィル用フィルム材から作製される半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る封止用樹脂組成物は、トリアリルイソシアヌレート(A)と、ラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)と、熱可塑性エラストマー(C)と、熱ラジカル重合開始剤(D)と、無機充填剤(E)とを含有する。回転式レオメーターを用いて測定される最低溶融粘度が55,000Pa・s以上である。前記最低溶融粘度を示す温度が、80℃以上150℃以下である。
【0006】
本開示の一態様に係るアンダーフィル用フィルム材は、前記封止用樹脂組成物の未硬化物及び半硬化物のうち少なくとも一方を含む。
【0007】
本開示の一態様に係る半導体装置は、基材と、前記基材にフェイスダウンで実装されている半導体チップと、前記基材と前記半導体チップとの間の隙間を封止する封止材とを備える。前記封止材が前記アンダーフィル用フィルム材の硬化物からなる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、封止材にボイドが発生しにくい封止用樹脂組成物、その封止用樹脂組成物から作製されるアンダーフィル用フィルム材及びそのアンダーフィル用フィルム材から作製される半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の一実施形態における半導体装置の概略の断面図である。
図2図2は、本開示の一実施形態におけるフィルム材を備える積層フィルムを示す概略の断面図である。
図3図3Aから図3Cは、本開示の一実施形態における、半導体ウエハ及びフィルム材からチップ部材を作製する工程を示す概略の断面図である。
図4図4Aから図4Dは、本開示の一実施形態における、半導体チップを基材に実装する工程を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について説明する。なお、本開示は下記の実施形態に限らない。下記の実施形態は、本開示の様々な実施形態の例に過ぎず、本開示の目的を達成できれば設計に応じて種々の変更が可能である。
【0011】
1.概要
半導体の封止に当たり、封止用樹脂組成物で構成されるフィルムが用いられている。特許文献1には、常温から10℃/分の昇温速度で溶融状態まで昇温されたときに初期は溶融粘度が減少し、最低溶融粘度に到達した後、更に上昇するような特性を有し、かつその最低溶融粘度が2,000Pa・s以下であることを特徴とする、可塑性樹脂と、硬化性樹脂とを含む樹脂組成物で構成される半導体用接着フィルムが開示されている。このような半導体用接着フィルムから作製される封止材は、例えば基材と、基材に実装されている半導体チップとの間の隙間に介在する。
【0012】
近年、製造効率の観点から、半導体チップ等を実装する実装時間を短くすることが望まれている。実装時間を短くするために、バンプ電極が備えるはんだバンプと、半導体チップにおけるバンプ電極及び基材が備える導体配線とを接合する際に、加熱とともに超音波振動を行う方法等が知られている。このような方法を適用することにより、実装時間を短くすることができる。しかし、実装時間が短くなった場合、封止材にはボイドが発生しやすくなる傾向がある。この実装時間が短くなったことにより、封止材にボイドが発生しやすくなる理由は、次の通りであると考えられる。
【0013】
実装時に、はんだバンプが、バンプ電極と、導体配線とに挟まれ潰される際に、はんだバンプ周りのフィルムが局所的に流動することが起こりうる。これにより、はんだバンプの周りにボイドが生じうる。このとき、実装時間が充分に確保される場合、フィルム全体が充分に流動するため、フィルムに発生したボイドが埋められやすい。しかし、実装時間が短い場合、フィルムがはんだバンプの外側に流れてしまった後、はんだバンプ周りにフィルムが充分に行き渡りにくいため、ボイドが生じたままとなる。このような理由により、半導体チップ等を実装する実装時間を短くすると、封止材にはボイドが発生しやすくなると考えられる。更に発明者は、特許文献1のような最低溶融粘度が一定数値以下である特性を有するフィルムは流動性が特に抑制されにくいため、そのようなフィルムから作製された封止材には、特にボイドが発生しやすくなる問題があることを発見した。
【0014】
このような事情に鑑みて、発明者は、耐熱性の高い封止材を作製するために用いることができ、かつ封止材に発生するボイドを抑制することができる封止用樹脂組成物を得ることができるよう、鋭意研究を重ねた結果、本開示を完成させるに至った。なお、本開示の範囲は、上記の開発の経緯によって制限を受けるものではない。
【0015】
本実施形態に係る封止用樹脂組成物(以下、組成物(X)ということがある)は、トリアリルイソシアヌレート(A)と、ラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)と、熱可塑性エラストマー(C)と、熱ラジカル重合開始剤(D)と、無機充填剤(E)とを含有する。回転式レオメーターを用いて溶融粘度を測定した場合の組成物(X)の最低溶融粘度が55,000Pa・s以上である。そして、その最低溶融粘度を示す温度(以下、最低溶融粘度温度ということがある)が、80℃以上150℃以下である。
【0016】
組成物(X)は、上述の通り、回転式レオメーターを用いて測定される最低溶融粘度が55,000Pa・s以上であり、その最低溶融粘度を示す温度が、80℃以上150℃以下である。このような特性を有する組成物(X)又はその組成物(X)から作製されるフィルム材41を用いて、図1に示すような半導体装置1を作製するに当たり、この組成物(X)の流動性が過度に高くなりすぎないため、組成物(X)又はフィルム材41に、はんだバンプ6が接触することで力が加わっても、組成物(X)又はフィルム材41が押し流されにくい。このため、組成物(X)又はフィルム材41から作製される封止材4には、ボイドが発生しにくい傾向がある。なお、本開示において、最低溶融粘度とは、組成物(X)が溶融した際に、その組成物(X)が示す最低の粘度をいう。そして、最低溶融粘度温度とは、最低溶融粘度を示した時の温度をいう。より詳細には、一定の昇温速度で組成物(X)を加熱することによって、組成物(X)を溶融させると、加熱初期の段階では、その組成物(X)の溶融粘度が温度上昇とともに低下し、その後、ある温度を超えると温度上昇とともに、その組成物(X)の溶融粘度が上昇する。すなわち、最低溶融粘度とは、組成物(X)の溶融粘度を測定した時に得られる溶融粘度曲線における粘度の極小値を意味し、最低溶融粘度温度とは、溶融粘度曲線における粘度の極小値に対応する温度のことを意味する。
【0017】
また、組成物(X)は、上述の通り、トリアリルイソシアヌレート(A)と、ラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)とを含有する。このため組成物(X)の硬化物は耐熱性が高くなる傾向がある。これにより、組成物(X)の硬化物を含む封止材4を備える半導体装置1の耐リフロー性が良好になりやすい傾向がある。なお、本開示において、「耐リフロー性」とは、リフロー試験を行った半導体装置1において、基材2が備える導体配線21と、半導体チップ3が備えるバンプ電極31との電気的な接続の信頼性の確保のされやすさを意味する。
【0018】
2.組成
組成物(X)の組成について、詳しく説明する。組成物(X)の好ましい特性は、以下で説明する成分の組成を適宜調整することにより、実現することが可能である。
【0019】
組成物(X)は、ラジカル重合性化合物を含有する。ラジカル重合性化合物は、トリアリルイソシアヌレート(A)及びポリフェニレンエーテル樹脂(B)を含む。
【0020】
トリアリルイソシアヌレート(A)について説明する。
【0021】
組成物(X)は、上述の通り、トリアリルイソシアヌレート(A)を含有する。この場合、組成物(X)の硬化物のガラス転移温度が高まりやすくなり、その結果、組成物(X)の硬化物の耐熱性が高まりやすくなる。また、トリアリルイソシアヌレート(A)を含有する組成物(X)は実装時に充分に流動しやすく、そのため封止材4にボイドが生じにくい傾向がある。これにより、はんだバンプ6と、導体配線21及びバンプ電極31との接合が阻害されにくくなる。
【0022】
組成物(X)に対するトリアリルイソシアヌレート(A)の割合は、5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物の耐熱性が高まりやすくなり、かつ組成物(X)の硬化性が調整されやすくなる。組成物(X)に対するトリアリルイソシアヌレート(A)の割合は、7質量%以上であることがより好ましく、9質量%以上であることが更に好ましい。また、組成物(X)に対するトリアリルイソシアヌレート(A)の割合は、13質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。
【0023】
ポリフェニレンエーテル樹脂(B)について説明する。
【0024】
組成物(X)は、上述の通り、ポリフェニレンエーテル樹脂(B)を含有する。この場合、組成物(X)の硬化物の耐熱性が高まりやすくなる。
【0025】
ポリフェニレンエーテル樹脂(B)は、上述の通り、ラジカル重合性を有する置換基を備える。ポリフェニレンエーテル樹脂(B)は、ポリフェニレンエーテル鎖を有し、そのポリフェニレンエーテル鎖の末端にラジカル重合性を有する置換基が結合していることが好ましい。
【0026】
ポリフェニレンエーテル樹脂(B)が有するラジカル重合性を有する置換基は、例えば下記式(1)又は下記式(2)に示す構造を有する。
【0027】
【化1】
【0028】
式(1)において、Rは水素原子又はアルキル基である。また、Rがアルキル基である場合、メチル基であることが好ましい。
【0029】
【化2】
【0030】
式(2)において、nは0~10の整数であり、例えばn=1である。式(2)においてZはアリーレン基であり、R~Rは、各々独立に水素原子又はアルキル基である。なお、式(2)におけるnが0である場合は、Zはポリフェニレンエーテル樹脂(B)におけるポリフェニレンエーテル鎖の末端に直接結合している。
【0031】
ポリフェニレンエーテル樹脂(B)は、例えば下記式(3)に示す構造を有する化合物を含有する。
【0032】
【化3】
【0033】
式(3)において、Yは炭素数1~3のアルキレン基又は直接結合である。Yは、例えばジメチルメチレン基である。式(3)において、Xはラジカル重合性を有する置換基であり、例えば式(1)に示す構造を有する基または式(2)に示す構造を有する基である。Xは、式(1)に示す構造を有する基であれば特に好ましい。
【0034】
また、式(3)において、sは0以上の数であり、tは0以上の数であり、sとtとの合計は1以上の数である。sは0以上20以下の数であることが好ましく、tは0以上20以下の数であることが好ましく、sとtとの合計は1以上30以下の数であることが好ましい。
【0035】
組成物(X)に対するラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)の割合は、5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の耐熱性が高まりやすくなる。組成物(X)に対するラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)の割合は、7質量%以上であることがより好ましく、9質量%以上であることが更に好ましい。また、組成物(X)に対するラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)の割合は、13質量%以下であることがより好ましく、11質量%以下であることが更に好ましい。
【0036】
組成物(X)に含有されるラジカル重合性化合物は、トリアリルイソシアヌレート(A)及びラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)以外の熱硬化性化合物を更に含有していてもよい。熱硬化性化合物は、トリアリルイソシアヌレート(A)及びラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)と熱硬化反応を起こす化合物であることが好ましい。このような熱硬化性化合物の具体的な例としては、例えばアクリル化合物、ビスマレイミド樹脂等が挙げられる。また、熱硬化性化合物の割合は、組成物(X)に含有されるラジカル重合性化合物の合計に対して、10質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の流動性を阻害しにくい傾向がある。
【0037】
熱可塑性エラストマー(C)について説明する。
【0038】
組成物(X)は、上述の通り、熱可塑性エラストマー(C)を含有する。この場合、組成物(X)の最低溶融粘度が適度に高められ、その結果組成物(X)の最低溶融粘度を適切な数値に調整することが実現できる。また、その組成物(X)からラミネート性に優れたフィルム材41が得られやすくなる傾向がある。なお、本開示において、「ラミネート性」とは、半導体チップ3にフィルム材41を貼り合わせる際の容易さの程度を意味する。
【0039】
本実施形態では、熱可塑性エラストマー(C)は、100℃以下の軟化点を有し、かつ重量平均分子量が15万以上であることが好ましい。この場合、組成物(X)の最低溶融粘度がより調整されやすくなり、かつその組成物(X)からラミネート性に優れたフィルム材41がより得られやすくなる傾向がある。
【0040】
熱可塑性エラストマー(C)は、98℃以下の軟化点を有していることがより好ましく、95℃以下の軟化点を有していることが更に好ましい。この場合、組成物(X)からラミネート性に優れたフィルム材41が特に得られやすい傾向がある。
【0041】
熱可塑性エラストマー(C)の重量平均分子量が大きくなるほど、組成物(X)の最低溶融粘度は高められやすくなる。より具体的には、熱可塑性エラストマー(C)は、重量平均分子量が18万以上であることがより好ましく、20万以上であることが更に好ましい。
【0042】
また、熱可塑性エラストマー(C)は、重量平均分子量が22.5万以下であることがより好ましく、22万以下であることが更に好ましい。この場合、組成物(X)の最低溶融粘度が調整されやすくなる傾向がある。
【0043】
なお、熱可塑性エラストマー(C)の軟化点は、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて、動的粘弾性を測定することによって求めることができる。動的粘弾性を測定することによって得られた弾性率と温度との関係性を示す測定結果により、弾性率が低下した時の温度の値を軟化点とする。
【0044】
また、熱可塑性エラストマー(C)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量のことを指す。また、詳細な測定条件は以下の通りである。
・GPC:LC-2030C(株式会社島津製作所製)
・カラム:TSKgel G3000H(東ソー株式会社製)
・測定温度:40℃
・溶媒:テトラヒドロフラン
・流速:1.0mL/min
・試料濃度:3.0質量%
組成物(X)において、トリアリルイソシアヌレート(A)と、ラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)と、熱可塑性エラストマー(C)との合計に対する熱可塑性エラストマー(C)の割合は、35質量%以上50質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の最低溶融粘度が調整されやすくなる。トリアリルイソシアヌレート(A)と、ラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)と、熱可塑性エラストマー(C)との合計に対する熱可塑性エラストマー(C)の割合は、37.5質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが更に好ましい。トリアリルイソシアヌレート(A)と、ラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)と、熱可塑性エラストマー(C)との合計に対する熱可塑性エラストマー(C)の割合は、47.5質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることが更に好ましい。
【0045】
熱可塑性エラストマー(C)は、水添スチレン系エラストマーを含むことが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物の耐熱性及び透明性が向上しやすい傾向がある。
【0046】
水添スチレン系エラストマーは、例えば水添スチレン-エチレン-プロピレン共重合体(水添SEP)、水添スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(水添SIS)、水添スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(水添SBS)、水添スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン共重合体(水添SBBS)、水添スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(水添SEBS)、水添スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(水添SEPS)及び水添スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(水添SEEPS)等よりなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0047】
水添スチレン系エラストマーは、例えば市販品を用いることができる。このような市販品としては、例えば、セプトン4044(株式会社クラレ製)、セプトン2005(株式会社クラレ製)等が挙げられる。
【0048】
熱ラジカル重合開始剤(D)について説明する。
【0049】
組成物(X)は、熱ラジカル重合開始剤(D)を含有する。この場合、組成物(X)の硬化性が高まりうる。
【0050】
熱ラジカル重合開始剤(D)は、例えば有機過酸化物を含有する。有機過酸化物の1分間半減期温度は120℃以上195℃以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)を加熱硬化させる工程における初期段階でバンプ電極31と導体配線21との濡れ性を阻害しない程度に速やかに組成物(X)が増粘することで、ボイドの発生が抑制される。また、組成物(X)の硬化反応が調節されやすくなるため、半導体チップ3と封止材4との剥離を抑制することができる。
【0051】
有機過酸化物の具体例は、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(1分間半減期温度161.4℃)、t-ブチルパーオキシベンゾエート(1分間半減期温度166.8℃)、t-ブチルクミルパーオキサイド(1分間半減期温度173.3℃)、ジクミルパーオキサイド(1分間半減期温度175.2℃)、α,α’-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン(1分間半減期温度175.4℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(1分間半減期温度179.8℃)、ジ-t-ブチルパーオキサイド(1分間半減期温度185.9℃)、及び2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(1分間半減期温度194.3℃)等よりなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0052】
トリアリルイソシアヌレート(A)とラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)との合計重量に対する熱ラジカル重合開始剤(D)の割合は、1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物を含む封止材4と、半導体チップ3との剥離が抑制されやすくなる。トリアリルイソシアヌレート(A)とラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)との合計重量に対する熱ラジカル重合開始剤(D)の割合は、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましい。また、トリアリルイソシアヌレート(A)とラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)との合計重量に対する熱ラジカル重合開始剤(D)の割合は、4.5質量%以下であることがより好ましく、4質量%以下であることが更に好ましい。
【0053】
無機充填剤(E)について説明する。
【0054】
組成物(X)は、上述の通り、無機充填剤(E)を含有する。無機充填剤(E)は、組成物(X)の硬化物の熱膨張係数を調整することができる。このため、組成物(X)の硬化物を含む封止材4を備える半導体装置1の耐リフロー性が良好になる傾向がある。
【0055】
無機充填剤(E)は、例えば、溶融シリカ、合成シリカ、結晶シリカといったシリカ;アルミナ、酸化チタンといった酸化物;タルク、焼成クレー、未焼成クレー、マイカ、ガラスといったケイ酸塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトといった炭酸塩;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムといった水酸化物;硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウムといった硫酸塩又は亜硫酸塩;ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウムといったホウ酸塩;並びに窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素といった窒化物等よりなる群から選択される少なくとも一種以上を含む。
【0056】
無機充填剤(E)の形状としては、例えば破砕状、針状、鱗片状又は球状等が挙げられるが、特に限定されない。組成物(X)中での無機充填剤(E)の分散性向上のためには、無機充填剤(E)の形状は、球状であることが好ましい。
【0057】
無機充填剤(E)は、基材2とこれに実装されている半導体チップ3との間の幅寸法よりも小さい平均粒径を有することが好ましい。無機充填剤(E)の平均粒径は、0.05μm以上0.3μm以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物の線膨張係数が調整されやすい傾向がある。無機充填剤(E)の平均粒径は、0.1μm以上であることがより好ましく、0.12μm以上であることが更に好ましい。また、無機充填剤(E)の平均粒径は、0.2μm以下であればより好ましく、0.15μm以下であれば更に好ましい。なお、本実施形態における平均粒径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定の結果から算出されるメジアン径である。
【0058】
組成物(X)の硬化物の線膨張係数が調整されやすくなるように、無機充填剤(E)が互いに異なる平均粒径を有する2種以上の成分を含有してもよい。
【0059】
無機充填剤(E)の割合は、組成物(X)に対して、50質量%以上70質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物の線膨張係数が調節されやすく、かつ組成物(X)の最低溶融粘度が調整されやすい傾向がある。無機充填剤(E)の割合は、組成物(X)に対して、55質量%以上であればより好ましく、60質量%以上であれば更に好ましい。また、無機充填剤(E)の割合は、組成物(X)に対して、67.5質量%以下であればより好ましく、65質量%以下であれば更に好ましい。
【0060】
なお、本実施形態では、組成物(X)に対する無機充填剤(E)の割合が上記のように高くても、組成物(X)は熱可塑性エラストマー(C)を含有することで、組成物(X)をフィルム状に成形することが容易である。
【0061】
組成物(X)は、フラックスを含有してもよい。フラックスは、例えば有機酸を含む。組成物(X)がフラックスとして有機酸を含有する場合、有機酸の作用によって、リフロー時におけるバンプ電極31の表面の酸化膜が除去され、半導体チップ3と基材2との間の良好な接続信頼性が確保される。
【0062】
有機酸は、例えば、セバシン酸、アビエチン酸、グルタル酸、コハク酸、マロン酸、シュウ酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ジグリコール酸、チオジグリコール酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、プロパントリカルボン酸、クエン酸、安息香酸及び酒石酸等よりなる群から選択される一種以上の化合物を含むことができる。
【0063】
組成物(X)に対するフラックスの割合は、0.2質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。組成物(X)に対するフラックスの割合は、0.6質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であればより好ましい。
【0064】
組成物(X)は、例えば溶剤を含んでいてもよい。溶剤は、例えばメタノール、エタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、メチルエチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン及びキシレン等よりなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む。溶剤の量は、組成物(X)が適度な粘度を有するように適宜設定される。溶剤の量は、例えば組成物(X)の固形分に対して0.5質量%以下である。なお、本開示において、「組成物(X)の固形分」とは、組成物(X)中における溶剤を除いた成分のことを意味する。
【0065】
組成物(X)は、本実施形態の効果を損なわない範囲内において、ラジカル捕捉剤、シランカップリング剤、消泡剤、レベリング剤、低応力剤及び顔料等よりなる群から選択される少なくとも一種の成分を含んでいてもよい。
【0066】
組成物(X)の製造方法について説明する。組成物(X)は、例えば上記成分を配合することで得られる。組成物(X)は、例えば次のような方法で作製される。
【0067】
まず、溶剤と熱可塑性エラストマー(C)とを混合させ混合物を得る。次に、この混合物にポリフェニレンエーテル樹脂(B)及び無機充填剤(E)以外の成分を同時に又は順次配合し混合してから、続いて、ポリフェニレンエーテル樹脂(C)と無機充填剤(E)とを混合することで組成物(X)を得ることができる。混合物の撹拌のためには、例えばディスパー、プラネタリーミキサー、ボールミル、3本ロール、ビーズミル等を必要により組み合わせて用いることができる。また、上記の混合物を必要に応じて加熱処理又は冷却処理を行いながら、撹拌して混合してもよい。
【0068】
組成物(X)から作製されるフィルム材41について説明する。組成物(X)から、半導体装置1の封止に用いられるフィルム材41を作製することができる。すなわち、フィルム材41は、アンダーフィル用フィルム材として好適に用いられうる。
【0069】
フィルム材41は、組成物(X)の未硬化物及び半硬化物のうち少なくとも一方を含む。なお、組成物(X)の未硬化物とは、組成物(X)から溶剤等の揮発成分が除去されることで得られるものであり、全く硬化が進んでいない状態のものである。また、組成物(X)の半硬化物とは、組成物(X)が硬化反応によってある程度硬化することで得られるものであり、完全には硬化していない状態にある。
【0070】
フィルム材41を作製する場合、例えばまず組成物(X)と、支持フィルム8とを準備する。支持フィルム8は、例えばポリエチレンテレフタレート等の適宜のプラスチックフィルム81である。
【0071】
支持フィルム8は、プラスチックフィルム81と、このプラスチックフィルム81に重なっている粘着層82とを備えてもよい。粘着層82は、適度な粘着力を有する層であり、支持フィルム8を適宜の台10(図3A参照)に固定するために利用できる。粘着層82は、反応して硬化する性質を有してもよい。その場合、支持フィルム8を適宜の台10上に配置してから粘着層82を硬化させることで、支持フィルム8を台10に強固に固定できる。粘着層82は、例えばアクリル系樹脂、合成ゴム、天然ゴム及びポリイミド樹脂等よりなる群から選択される少なくとも一種から作製できる。
【0072】
支持フィルム8の一面上に、組成物(X)を塗布する。支持フィルム8がプラスチックフィルム81と粘着層82とを備える場合は、プラスチックフィルム81の粘着層82とは反対側の面上に、組成物(X)を塗布する。本実施形態では、組成物(X)を塗布することで、容易にフィルム状に成形できる。続いて、支持フィルム8上で組成物(X)を加熱することで乾燥させ、あるいは半硬化させる。このときの組成物(X)の加熱条件としては、例えば加熱温度は80℃以上135℃以下であり、加熱時間は3分以上5分以下である。これにより、支持フィルム8上でフィルム材41を作製できるとともに、フィルム材41とこれを支持する支持フィルム8とを備える積層フィルム9が得られる。本実施形態では、組成物(X)が熱可塑性エラストマー(C)を含有するため、組成物(X)をフィルム状に成形しやすく、そのため、フィルム材41を容易に作製できる。
【0073】
フィルム材41の厚みは、例えば45μm以上55μm以下であるが、これに制限されず、半導体装置1における封止材4の厚みに応じた適宜の値であればよい。
【0074】
積層フィルム9は、図2に示すように、フィルム材41を被覆する保護フィルム83を更に備えてもよい。保護フィルム83の材質は特に制限されない。また、支持フィルム8が粘着層82を備える場合、図2に示すように、積層フィルム9は、粘着層82を被覆する被覆フィルム84を更に備えてもよい。被覆フィルム84の材質も特に制限されない。
【0075】
組成物(X)から作製されるフィルム材41の面積変化率は、40%以下であることが好ましい。この場合、フィルム材41の寸法が維持されやすくなる。ここで、組成物(X)から作製されるフィルム材41の面積変化率とは、半導体装置1を製造するに当たり、フィルム材41を備える半導体チップ3等が基材2に実装される前後での、フィルム材41の寸法の変化率のことを意味する。したがって、フィルム材41の面積変化率は小さくなるほど、フィルム材41の寸法が維持されやすくなる傾向がある。組成物(X)から作製されるフィルム材41の面積変化率は、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましい。また、組成物(X)から作製されるフィルム材41の面積変化率は、例えば0%以上である。なお、組成物(X)から作製されるフィルム材41の面積変化率は、フィルム材41の温度が160℃以上180℃以下の範囲で測定されたものである。
【0076】
組成物(X)又はフィルム材41を熱硬化させることで、組成物(X)の硬化物が得られる。その硬化物は、上述の通り、高い耐熱性を有することができる。
【0077】
本実施形態では、組成物(X)の硬化物が、220℃以上のガラス転移温度を有することが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物は特に高い耐熱性を有することができる。そのため、組成物(X)の硬化物を含む封止材4を備える半導体装置1は良好な耐リフロー性を有することができる。組成物(X)の硬化物が、240℃以上のガラス転移温度を有するならば、より好ましい。このようなガラス転移温度は、本実施形態のように組成物(X)にトリアリルイソシアヌレート(A)及びラジカル重合性を有する置換基を備えるポリフェニレンエーテル樹脂(B)を含有させるならば、組成物(X)の組成を適宜調整することで容易に達成可能である。
【0078】
組成物(X)又はフィルム材41を用いて作製される半導体装置1について説明する。
【0079】
組成物(X)又はフィルム材41を用いた先供給方式のアンダーフィリングによって基材2と半導体チップ3との間の隙間を封止することで、図1に示す半導体装置1を作製できる。言い換えれば、半導体装置1は、基材2と、その基材2にフェイスダウンで実装されている半導体チップ3と、基材2と半導体チップ3との間の隙間を封止する封止材4とを備え、その封止材4が組成物(X)又はフィルム材41の硬化物からなる。
【0080】
上述の通り、組成物(X)は、回転式レオメーターを用いて溶融粘度を測定した場合の最低溶融粘度が55,000Pa・s以上であり、その最低溶融粘度を示す温度が、80℃以上150℃以下である。これにより、組成物(X)又はフィルム材41が、基材2と半導体チップ3との間の隙間を封止する封止材4として用いられやすくなる。組成物(X)の最低溶融粘度は、65,000Pa・s以上であることが好ましく、70,000Pa・s以上であることがより好ましい。また、組成物(X)がフィルム状に成形されるためには、組成物(X)の最低溶融粘度は、75,000Pa・s以下であることが好ましく、74,000Pa・s以下であることがより好ましい。
【0081】
半導体装置1の製造方法の例を、図3Aから図3C及び図4Aから図4Dを参照して説明する。
【0082】
まず、積層フィルム9、基材2、及び半導体ウエハ32を用意する。
【0083】
基材2は、例えばマザー基板、パッケージ基板又はインターポーザー基板である。例えば基材2は、ガラスエポキシ製、ポリイミド製、ポリエステル製、セラミック製等の絶縁基板と、その表面上に形成された銅などの導体製の導体配線21とを備える。
【0084】
半導体ウエハ32は、例えばシリコンウエハである。半導体ウエハ32には、フォトリソグラフィー法といった適宜の方法で回路を形成する。半導体ウエハ32の一つの面上には、回路に接続されているバンプ電極31を設ける。
【0085】
本実施形態では、半導体ウエハ32におけるバンプ電極31が、はんだバンプ6を備える。なお、バンプ電極31ではなく基材2における導体配線21がはんだバンプ6を備えてもよく、バンプ電極31と導体配線21との各々がはんだバンプ6を備えてもよい。すなわち、半導体ウエハ32におけるバンプ電極31と基材2における導体配線21とのうち、少なくとも一方が、はんだバンプ6を備えればよい。
【0086】
はんだバンプ6は、好ましくはSn-3.5Ag(融点221℃)、Sn-2.5Ag-0.5Cu-1Bi(融点214℃)、Sn-0.7Cu(融点227℃)、Sn-3Ag-0.5Cu(融点217℃)等の、融点210℃以上の鉛フリーはんだ製である。
【0087】
次に、半導体ウエハ32におけるバンプ電極31がある面に、積層フィルム9におけるフィルム材41を重ねる。このとき、積層フィルム9におけるフィルム材41から保護フィルム83を剥がしてから、支持フィルム8に重なった状態のフィルム材41を、半導体ウエハ32におけるバンプ電極31がある面に重ねる。
【0088】
本実施形態では、フィルム材41は、上述の通り、特定の数値範囲の最低溶融粘度を有する組成物(X)から作製されているため、フィルム材41の流動性は過度に高くない。このため、溶融したフィルム材41にバンプ電極31が備えるはんだバンプ6が接触しても、はんだバンプ6の周辺にフィルム材41が充填されていない箇所ができにくくなる。
【0089】
次に、半導体ウエハ32をフィルム材41ごと切断することで、ダイシングする。このとき、例えば支持フィルム8における粘着層82から被覆フィルム84を剥がした後に、粘着層82を台10の上に配置し、更に必要に応じて粘着層82を硬化させる。これにより、図3Aに示すように、フィルム材41が支持フィルム8に重なった状態で支持フィルム8を台10に固定する。
【0090】
この状態で、図3Bに示すように、半導体ウエハ32をフィルム材41ごと切断する。これにより、半導体ウエハ32から切り出された半導体チップ3と、フィルム材41から切り出された個片フィルム42とを備える部材(以下、チップ部材7という)を作製する。このチップ部材7を、支持フィルム8から取り外す。図3Cに示すように、チップ部材7における半導体チップ3はバンプ電極31を備え、半導体チップ3におけるバンプ電極31がある面に個片フィルム42が重なっている。
【0091】
次に、図4Aに示すように、基材2をステージ52に支持させるとともに、チップ部材7の半導体チップ3をフリップチップボンダー50のボンディングヘッド51に保持させる。フリップチップボンダー50は、例えば、ボンディングヘッド51とステージ52とを備え、かつ超音波振動を発生させる機能を有するものが用いられる。
【0092】
そして、チップ部材7の半導体チップ3をボンディングヘッド51に保持させた後、基材2に半導体チップ3をフェイスダウンで実装する。このときボンディングヘッド51及びステージ52の各々は、予め加熱されている。このとき半導体チップ3はボンディングヘッド51を通じて加温され、基材2はステージ52を通じて加温されている。また、半導体チップ3が加熱されることにより、はんだバンプ6及び個片フィルム42も加熱されている。
【0093】
この状態で、図4Bに示すようにボンディングヘッド51をステージ52へ向けて移動させる。これにより、基材2上に半導体チップ3を配置する。このとき、半導体チップ3におけるバンプ電極31と基材2における導体配線21とが重なるように、半導体チップ3と基材2とを位置合わせする。
【0094】
次に、フリップチップボンダー50で半導体チップ3に荷重をかけながら、半導体チップ3と、基材2とを加熱する。したがって、このとき半導体チップ3及び基材2は加熱されながら、荷重がかけられている。そして、半導体チップ3及び基材2を通じて、はんだバンプ6及び個片フィルム42も加熱されながら、荷重がかけられている。
【0095】
そして、図4Cに示すように、はんだバンプ6及び個片フィルム42を加熱しながら、荷重をかけた状態で、超音波振動を半導体チップ3に与えることにより、はんだバンプ6と、半導体チップ3が備えるバンプ電極31及び基材2が備える導体配線21とを電気的に接続する。言い換えれば、基材2の導体配線21と半導体チップ3のバンプ電極31とを対向させ、かつ基材2と半導体チップ3との間に個片フィルム42を介在させた状態で、バンプ電極31と、導体配線21とを超音波接合により電気的に接続する。より詳しく説明すると、半導体チップ3を通じて、はんだバンプ6に超音波振動が与えられた場合、はんだバンプ6に摩擦が発生する。上述の条件で加熱されながら、荷重がかけられた状態のはんだバンプ6に、更に摩擦が発生した場合、はんだバンプ6は溶融しうる。そして、この溶融したはんだバンプ6と、バンプ電極31及び導体配線21とを接合させることにより、バンプ電極31と、導体配線21とを電気的に接続する。
【0096】
上述の通り、半導体チップ3に超音波振動が与えられることにより、はんだバンプ6が溶融しやすくなる。このため、ボンディングヘッド51及びステージ52の設定温度をはんだバンプ6が溶融する温度まで高めなくても、はんだバンプ6と、バンプ電極31及び導体配線21とを接合させることができ、バンプ電極31と導体配線21とを電気的に接続することが実現可能となる。すなわち、ボンディングヘッド51及びステージ52の設定温度を、個片フィルム42が溶融する温度まで高めることで、基材2に半導体チップ3を実装することが可能となる。これにより、個片フィルム42の硬化を防ぐために、チップ部材7を実装するごとに、ボンディングヘッド51及びステージ52の設定温度を冷却する必要がなくなる。言い換えれば、ボンディングヘッド51及びステージ52の設定温度を適宜変更するという操作を省略することが可能となる。
【0097】
また、ボンディングヘッド51及びステージ52の設定温度を適宜変更しなくてもよいため、基材2に半導体チップ3を実装する時間を短くすることができる。例えば、基材2に半導体チップ3を実装する時間を、1秒以上3秒以下の範囲に調整することが可能となる。また、基材2に半導体チップ3を実装する時間は、上記の数値範囲に限定されず、1秒以下であってもよく、3秒以上であってもよい。実装する時間が3秒以上である場合、その実装する時間は、例えば10秒以下である。なお、本開示では、基材2に半導体チップ3を実装する時間とは、チップ部材7の個片フィルム42が基材2に接触しフリップチップボンダー50が荷重を検知した時点から、チップ部材7の半導体チップ3をボンディングヘッド51から取り外すまでの時間を意味する。
【0098】
そして、図4Dに示すように、半導体チップ3をボンディングヘッド51から取り外した後、基材2及び半導体チップ3を加熱し、基材2と半導体チップ3との間に介在する個片フィルム42を硬化させることで封止材4が作製される。このとき基材2及び半導体チップ3を加熱する温度は、例えば170℃以上190℃以下である。また、このとき基材2及び半導体チップ3を加熱する時間は、例えば2時間以上4時間以下である。このようにして、封止材4を備える半導体装置1を作製することができる。
【0099】
以上のようにして得られる半導体装置1が備える封止材4はボイドが少ない。そして、半導体装置1の耐リフロー性が良好である。
【実施例0100】
1.実施例1~9及び比較例1~4の封止用樹脂組成物の調製
実施例1~9及び比較例1~4の封止用樹脂組成物を、次のように調製した。
【0101】
まず、表1の組成の欄に示す成分を用意した。これらの成分のうち、まず、溶剤と熱可塑性エラストマーとを混合させ、次にポリフェニレンエーテル樹脂及び無機充填剤以外の成分を混合し、更にポリフェニレンエーテル樹脂と無機充填剤とを混合することで混合物を調製した。これらをディスパーで撹拌し、続いてビーズミルで混合することにより、封止用樹脂組成物を調製した。
【0102】
なお、表中の組成の欄に示す成分の詳細は、次の通りである。
・トリアリルイソシアヌレート:TAIC、株式会社新菱製、品名タイク。
・ポリフェニレンエーテル樹脂:変性PPE、上記式(3)に示す構造を有し、式(3)中のXが上記式(1)に示す構造を有する基(Rはメチル基)である変性ポリフェニレンエーテル樹脂、SABIC社製、品名SA9000。
・熱可塑性エラストマー1:水添スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン樹脂、旭化成株式会社製、品名タフテックH1041、重量平均分子量73,000、軟化点86℃。
・熱可塑性エラストマー2:水添スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン樹脂、株式会社クラレ製、品名セプトン4033、重量平均分子量75,000、軟化点95℃。
・熱可塑性エラストマー3:水添スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン樹脂、株式会社クラレ製、品名セプトン4044、重量平均分子量166,000、軟化点96℃。
・熱可塑性エラストマー4:水添スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン樹脂、株式会社クラレ製、品名セプトン2005、重量平均分子量215,000、軟化点96℃。
・無機充填剤:シリカ、株式会社トクヤマ製、品名NHM-3N、平均粒径125nm。
・熱ラジカル重合開始剤:ジクミルパーオキサイド、日油株式会社製、品名パークミルD。
・シランカップリング剤:ポリマー型カップリング剤、信越化学工業株式会社製、品名X-12-1050。
・フラックス:有機酸、富士フィルム和光純薬株式会社、品名グルタル酸。
【0103】
2.評価試験
封止用樹脂組成物に対し、次の評価試験を行った。これらの評価試験の結果を、表1に示す。
【0104】
[溶融粘度測定]
実施例1~9及び比較例1~4の封止用樹脂組成物について、回転式レオメーター(TAインスツルメンツ株式会社製、型番:DHR-2)を用いて、温度範囲25~200℃、昇温速度5℃/min、ひずみ0.2%、周波数1Hzの条件で溶融粘度を測定した。また、治具としてパラレルプレート(PP)型、φ25mmのプレートを用いた。測定により、各封止用樹脂組成物の温度と溶融粘度との関係を示す溶融粘度曲線を得た。その溶融粘度曲線から、最低溶融粘度温度及び最低溶融粘度の値を読み取り、表1の所定の欄に示した。
【0105】
[面積変化率]
まず、支持フィルムとして、ポリエチレンテレフタレート製フィルムを準備した。次に、前記の支持フィルム上に、上記「1.実施例1~9及び比較例1~4の封止用樹脂組成物の調製」で調製した封止用樹脂組成物を、バーコーターを用いて塗布し、塗布した封止用樹脂組成物を130℃、5分の条件で加熱した。このようにして、支持フィルム上にフィルム材(厚み:50μm)を作製した。
【0106】
得られたフィルム材を直径3mmの円形にくり抜き、そのフィルム材をミラーチップ(7.3mm×7.3mm×0.725mm)に真空ラミネート法によりラミネートすることによって評価用のチップ部材を得た。そして、ラミネート後のフィルム材の直径を計測することによって、荷重前のフィルム材の面積を算出した。
【0107】
次に、フリップチップボンダー(東レエンジニアリング株式会社製、型番:FC3000S)のステージを加熱した状態でステージ上に、基材を固定した。そして、上記のチップ部材をフリップチップボンダーのボンディングヘッドに保持させ、ボンディングヘッドをステージに近づけてチップ部材と基材との位置合わせを行った。位置合わせを行った後、チップ部材にラミネートされたフィルム材を基材に重ねるようにして、ボンディングヘッドを加熱しながら下降させた。なお、フィルム材の温度が170℃になるように、ステージの設置温度を120℃、ボンディングヘッドの設定温度を200℃に設定した。
【0108】
次に、フリップチップボンダーにより半導体チップに荷重をかけた。荷重をかける際の条件としては、荷重開始から0.3秒経過時に、荷重が15Nに到達するように設定し、0.3秒を経過したときから1.7秒を経過するまでの間は、荷重が15Nを維持するように設定した。そして、荷重開始から2.0秒経過したときに、フリップチップボンダーによる荷重を解除し、ボンディングヘッドをステージから離した。荷重終了後のフィルム材の直径を計測することによって、荷重終了後のフィルム材の面積を算出した。そして、下式(4)に従って、フィルム材の面積変化率を算出した。
【0109】
面積変化率={(荷重終了後のフィルム材の面積)/(荷重前のフィルム材の面積)-1}×100[%]・・・・(4)
【0110】
(試験用の半導体装置の製造方法)
「ボイド評価」及び「耐リフロー評価」に使用した試験用の半導体装置の製造方法について以下に記載した。
【0111】
基材として、WALTS社製の品番Walts TEG CC80 0105JY(17mm×17mm×356μm)を準備した。
【0112】
半導体ウエハとして、WALTS社製の品番Walts TEG CC80(7.3mm×7.3mm×150μm)を準備した。なお、半導体ウエハは、高さ30μmのCuピラーとその上の高さ15μmのはんだバンプとを各々有する1,048個のバンプ電極を備え、隣り合うはんだバンプ間のピッチは80μmである。
【0113】
支持フィルムとして、ポリエチレンテレフタレート製フィルムを準備した。
【0114】
次に、前記の支持フィルム上に、上記「1.実施例1~9及び比較例1~4の封止用樹脂組成物の調製」で調製した封止用樹脂組成物を、バーコーターを用いて塗布し、塗布した封止用樹脂組成物を130℃、5分の条件で加熱した。このようにして、支持フィルム上にフィルム材(厚み:45μm~55μm)を作製した。
【0115】
半導体ウエハ上に、フィルム材を重ねてから、ダイシングフレームに固定し、ダイシングソー(ディスコ社製、製品名:DFD6341)を用いてフィルム材を半導体ウエハごと切断することで半導体チップと、個片フィルムとを備えるチップ部材(7.3mm×7.3mm×100μm)を切り出した。
【0116】
超音波振動を与える機能を有するフリップチップボンダー(パナソニック株式会社製、製品名:FCB3)のステージを加熱した状態で、ステージ上に基材を固定した。上記のチップ部材をフリップチップボンダーのボンディングヘッドに保持させ、半導体チップのバンプ電極と、基材の導体配線との位置合わせを行った。位置合わせを行った後、チップ部材にラミネートされたフィルム材を基材に重ねるようにして、ボンディングヘッドを加熱しながら下降させた。なお、チップ部材が備える個片フィルムの温度が170℃になるように、ステージの設定温度を120℃、ボンディングヘッドの設定温度を200℃に設定した。
【0117】
この状態でフリップチップボンダーにより半導体チップに力を加え、半導体チップから基材に対して荷重をかけながら超音波振動を印加した。
【0118】
荷重開始から2.0秒経過した時点でフリップチップボンダーによる荷重を解除し、ボンディングヘッドをステージから離した。続いて、基材及び半導体チップを温度175℃で4時間加熱することにより、個片フィルムを完全硬化させることにより、この個片フィルムから半導体装置の封止材を作製した。このようにして、試験用の半導体装置を得た。
【0119】
[ボイド評価]
試験用の半導体装置の封止材を超音波探傷装置(SAT)(株式会社日立パワーソリューションズ社製、品番FineSAT FS300II)を用いてボイドの有無を確認することで、ボイド評価を行った。半導体装置のバンプ電極400個の周辺部において観測を行い、下記に示す基準で表1に記載した。
「A」:周辺部にボイドが確認されたバンプ電極が20個未満である
「B」:周辺部にボイドが確認されたバンプ電極が20個以上40個以下である
「C」:周辺部にボイドが確認されたバンプ電極が40個超である
【0120】
[耐リフロー評価]
試験用の半導体装置を、乾燥機温度を120℃に設定し、20時間ベークして水分を除去した。その後、その試験用の半導体装置について、JEDEC Level2条件における吸湿リフロー試験を行った。吸湿リフロー試験後の試験用の半導体装置について、テスター(三和電気計器株式会社製、品名デジタルマルチメーターPC500)を使用して、半導体装置中の導体配線と半導体チップとを含む回路の抵抗値を測定し、吸湿リフロー試験後でも導通が維持されているかを確認した。確認した結果を、以下に示す基準で表1に記載した。
「A」:導体配線と半導体チップとを含む回路の導通が維持されており、テスターの表示パネルに回路の抵抗値を示す数値が表示される
「B」:導体配線と半導体チップとを含む回路の導通が維持されておらず、テスターの表示パネルに「OL」と表示される
【0121】
【表1】
【0122】
実施例1~9の封止用樹脂組成物は、比較例1の封止用樹脂組成物と比較すると、無機充填剤が多く含まれていたため、最低溶融粘度が高く、試験用の半導体装置の封止材中のボイドが減少し、かつ耐リフロー性が良好になることが確認された。
【0123】
実施例1~9の封止用樹脂組成物は、比較例2、3の封止用樹脂組成物と比較すると、封止用樹脂組成物に含まれる熱可塑性エラストマーの重量平均分子量が高かったために、最低溶融粘度が高く、試験用の半導体装置の封止材中のボイドが減少することが確認された。
【0124】
実施例1~9の封止用樹脂組成物は、比較例4の封止用樹脂組成物と比較すると、封止用樹脂組成物全体に対する熱可塑性エラストマーの割合が多かったために、最低溶融粘度が高く、試験用の半導体装置の封止材中のボイドが減少することが確認された。
【符号の説明】
【0125】
1 半導体装置
2 基材
21 導体配線
3 半導体チップ
31 バンプ電極
32 半導体ウエハ
4 封止材
41 フィルム材
42 個片フィルム
7 チップ部材
8 支持フィルム
9 積層フィルム
図1
図2
図3
図4