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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181083
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】光学ガラスおよび光学素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/247 20060101AFI20231214BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C03C3/247
G02B1/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065417
(22)【出願日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2022094510
(32)【優先日】2022-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522503632
【氏名又は名称】豪雅光電科技(威海)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】島田 恵太
(72)【発明者】
【氏名】根岸 智明
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA04
4G062BB09
4G062CC10
4G062DA01
4G062DB02
4G062DB03
4G062DB04
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4G062KK10
4G062NN01
4G062NN03
4G062NN29
(57)【要約】
【課題】ガラス転移温度が低く、低分散性を有し、かつ熱的安定性に優れる光学ガラスを提供すること。
【解決手段】カチオン%表示のガラス組成において、S6+含有量が0.0%カチオン%超30.0%カチオン%以下、Al3+含有量が0.0カチオン%超30.0%カチオン%以下、P5+含有量が5.0カチオン%以上50.0カチオン%以下、Li含有量が0.0カチオン%以上51.0カチオン%以下、Na含有量が0.0カチオン%以上44.0カチオン%以下、K含有量が0.0カチオン%以上45.0カチオン%以下、Li、Na、KおよびCsの合計含有量Rが5.0カチオン%以上、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量をR2+として、Al3+とR2+との合計含有量に対するR2+のカチオン比(R2+/(Al3++R2+))が0.56以下であり、アニオン%表示のガラス組成において、O2-含有量が10.0アニオン%以上95.0アニオン%以下、F含有量が10.0アニオン%以上90.0アニオン%以下であり、かつ、波長500nm~1000nmにおける外部透過率が厚さ10.0mm換算で80%以上である光学ガラス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン%表示のガラス組成において、
6+含有量が0.0%カチオン%超30.0%カチオン%以下、
Al3+含有量が0.0カチオン%超30.0%カチオン%以下、
5+含有量が5.0カチオン%以上50.0カチオン%以下、
Li含有量が0.0カチオン%以上51.0カチオン%以下、
Na含有量が0.0カチオン%以上44.0カチオン%以下、
含有量が0.0カチオン%以上45.0カチオン%以下、
Li、Na、KおよびCsの合計含有量Rが5.0カチオン%以上、
Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量をR2+として、Al3+とR2+との合計含有量に対するR2+のカチオン比(R2+/(Al3++R2+))が0.56以下であり、
アニオン%表示のガラス組成において、
2-含有量が10.0アニオン%以上95.0アニオン%以下、
含有量が10.0アニオン%以上90.0アニオン%以下であり、かつ、
波長500nm~1000nmにおける外部透過率が厚さ10.0mm換算で80%以上である光学ガラス。
【請求項2】
Al3+とP5+との合計含有量に対するP5+含有量のカチオン比(P5+/(Al3++P5+))が0.30以上0.85以下である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
とR2+との合計に対するLi含有量のカチオン比(Li/(R+R2+))が0.00以上1.00以下である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項4】
Al3+とP5+との合計含有量に対するRのカチオン比(R/(Al3++P5+))が0.93以上である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項5】
Al3+とP5+との合計含有量に対するLiとKとの合計含有量のカチオン比((Li+K)/(Al3++P5+))が0.56以上である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項6】
LiとKとの合計含有量に対するLiとNaとの合計含有量のカチオン比((Li+Na)/(Li+K))が0.50以上1.59以下である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項7】
ガラス転移温度Tgが150℃以上350℃以下である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項8】
アッベ数νdが70.00以上82.00以下である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項9】
Al3+とP5+との合計含有量に対するP5+含有量のカチオン比(P5+/(Al3++P5+))が0.30以上0.85以下であり、
とR2+との合計に対するLi含有量のカチオン比(Li/(R+R2+))が0.00以上1.00以下であり、
Al3+とP5+との合計含有量に対するRのカチオン比(R/(Al3++P5+))が0.93以上であり、
Al3+とP5+との合計含有量に対するLiとKとの合計含有量のカチオン比((Li+K)/(Al3++P5+))が0.56以上であり、
LiとKとの合計含有量に対するLiとNaとの合計含有量のカチオン比((Li+Na)/(Li+K))が0.50以上1.59以下であり、
ガラス転移温度Tgが150℃以上350℃以下であり、かつ
アッベ数νdが70.00以上82.00以下である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスおよび光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、低ガラス転移温度の光学ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2003/037813
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガラス転移温度が低いガラスは、低温での成形が可能である。低温での成形が可能であることは、加熱による成形型の劣化が少ない点、耐熱性が低い安価な成形型の使用が可能である点等から好ましい。
【0005】
撮像光学系やプロジェクタ等の投射光学系では、分散性が異なるレンズを組み合わせて接合レンズとすることにより、色収差を補正しつつ光学系のコンパクト化を可能にすることができる。低分散性は、一般にプラスチックレンズでは実現が容易ではない。そのため、低分散性を有する光学ガラスは、撮像光学系やプロジェクタ等の投射光学系を構成する光学素子用材料として有用である。
【0006】
以上に鑑み本発明者が、ガラス転移温度が低く、かつ低分散性を有する光学ガラスについて検討したところ、熱的安定性について更なる改善が望まれることが判明した。
【0007】
本発明の一態様は、ガラス転移温度が低く、低分散性を有し、かつ熱的安定性に優れる光学ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
カチオン%表示のガラス組成において、
6+含有量が0.0カチオン%超30.0カチオン%以下、
Al3+含有量が0.0カチオン%超30.0カチオン%以下、
5+含有量が5.0カチオン%以上50.0カチオン%以下、
Li含有量が0.0カチオン%以上51.0カチオン%以下、
Na含有量が0.0カチオン%以上44.0カチオン%以下、
含有量が0.0カチオン%以上45.0カチオン%以下、
Li、Na、KおよびCsの合計含有量Rが5.0カチオン%以上、
Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量をR2+として、Al3+とR2+との合計含有量に対するR2+のカチオン比(R2+/(Al3++R2+))が0.56以下であり、
アニオン%表示のガラス組成において、
2-含有量が10.0アニオン%以上95.0アニオン%以下、
含有量が10.0アニオン%以上90.0アニオン%以下であり、かつ、
波長500nm~1000nmにおける外部透過率が厚さ10.0mm換算で80%以上である光学ガラス、
に関する。
【0009】
上記光学ガラスは、上記ガラス組成を有することにより、低ガラス転移温度および低分散性を有することができ、かつ優れた熱的安定性を示すことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、ガラス転移温度が低く、低分散性を有し、かつ熱的安定性に優れる光学ガラスを提供することができる。また、本発明の一態様によれば、かかる光学ガラスからなる光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[光学ガラス]
本発明および本明細書において、カチオン成分の含有量および合計含有量は特記しない限りカチオン%で表示するものとし、アニオン成分の含有量および合計含有量は特記しない限りアニオン%で表示するものとする。
ここで、「カチオン%」とは、「(注目するカチオンの個数/ガラス成分のカチオンの総数)×100」で算出される値であって、注目するカチオン量のカチオン成分の総量に対するモル百分率を意味する。
また、「アニオン%」とは、「(注目するアニオンの個数/ガラス成分のアニオンの総数)×100」で算出される値であって、注目するアニオン量のアニオン成分の総量に対するモル百分率を意味する。
カチオン成分同士の含有量のモル比は、注目するカチオン成分のカチオン%表示による含有量の比に等しい。
各成分の含有量は、公知の方法、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)、イオンクロマトグラフィ法等により定量することができる。
カチオン成分について、例えば、Al3+、P5+のように表示するが、カチオン成分の価数(例えば、Al3+の価数は+3、P5+の価数は+5)は、慣習により定まった値であり、Al、P等を酸化物基準でAl、P等と表記することと同様である。酸化物基準でA(Aはカチオンを表し、Oは酸素を表し、mおよびnは化学量論的に定まる整数である。)と表記される成分について、カチオンAはAs+と表記される。ここで、s=2n/mである。したがって、例えば、ガラス組成を分析、定量する際に、カチオン成分の価数まで分析しなくてもよい。以上の点は、アニオン成分についても同様であり、ガラス組成を分析、定量する際に、アニオン成分の価数まで分析しなくてもよい。
また、本発明および本明細書において、構成成分の含有量が0.0%もしくは0.00%または含まないもしくは導入しないとは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、この構成成分の含有量が不純物レベル程度以下であることを指す。不純物レベル程度以下とは、例えば、0.01%未満であることを意味する。
【0012】
本発明および本明細書において、「熱的安定性」とは、熔融状態のガラスが固化する際の結晶析出のしにくさを指すものとする。
【0013】
以下において、ガラス転移温度をTgと表記することがある。
【0014】
以下、上記光学ガラス(単に「ガラス」と記載する場合がある。)について、更に詳細に説明する。
【0015】
<ガラス組成>
以下、上記光学ガラスのカチオン%表示のガラス組成について説明する。
【0016】
6+含有量は、ガラスの低Tg化、屈折率および低分散性の維持ならびに熱的安定性の向上の観点から、0%超であり、0.5%以上であることが好ましく、1.0%以上、1.2%以上、1.3%以上、1.4%以上、1.5%以上、1.6%以上、1.7%以上、1.8%以上、1.9%以上、2.0%以上、2.1%以上、2.2%以上、2.3%以上、2.4%以上、2.5%以上、2.6%以上、2.7%以上、2.8%以上、2.9%以上、3.0%以上の順により好ましい。
また、S6+含有量は、屈折率の維持、熱的安定性の維持および液相温度の上昇抑制の観点から、30.0%以下であり、29.0%以下であることが好ましく、28.0%以下、27.0%以下、26.0%以下、25.0%以下、24.0%以下、23.0%以下、22.0%以下、21.0%以下、20.0%以下、19.0%以下、18.0%以下、17.0%以下、16.0%以下、15.0%以下、14.0%以下の順により好ましい。
【0017】
Al3+含有量は、屈折率を高めつつ低分散性を維持する観点ならびにガラスの熱的安定性向上および化学的耐久性維持の観点から、0.0%超であり、1.0%以上であることが好ましく、2.0%以上、3.0%以上、4.0%以上、5.0%以上、6.0%以上、7.0%以上、8.0%以上、9.0%以上、10.0%以上、11.0%以上の順により好ましい。
また、Al3+含有量は、Tgの上昇を抑制する観点から、30.0%以下であり、29.0%以下であることが好ましく、28.0%以下、27.0%以下、26.0%以下、25.0%以下、24.0%以下、23.0%以下、22.0%以下、21.0%以下、20.0%以下、19.0%以下、18.0%以下の順により好ましい。
【0018】
5+含有量は、低分散性の維持およびガラスの熱的安定性向上の観点から、5.0%以上であり、7.0%以上であることが好ましく、9.0%以上、11.0%以上、13.0%以上、14.0%以上、15.0%以上、16.0%以上、17.0%以上の順により好ましい。
また、P5+含有量は、屈折率の維持、ガラスの熱的安定性向上および化学的耐久性の低下抑制の観点から、50.0%以下であり、48.0%以下であることが好ましく、46.0%以下、44.0%以下、42.0%以下、40.0%以下、38.0%以下、37.0%以下、36.0%以下、35.0%以下、34.0%以下、33.0%以下、32.0%以下の順により好ましい。
【0019】
Li含有量は、屈折率を高めつつ低分散性を維持する観点ならびにガラスの低Tg化、ガラスの熔融性向上および低比重化の観点から、0.0%以上であり、1.0%以上であることが好ましく、2.0%以上、4.0%以上、5.5%以上、7.0%以上、8.5%以上、10.0%以上、12.0%以上、13.5%以上、15.0%以上、16.5%以上、17.0%以上、18.5%以上、20.0%以上の順により好ましい。
また、Li含有量は、ガラスの熱的安定性向上および化学的耐久性の低下抑制の観点から、51.0%以下であり、48.0%以下であることが好ましく、45.0%以下、43.0%以下、41.0%以下、40.0%以下、39.0%以下、38.0%以下、37.0%以下、36.0%以下、35.0%以下、34.0%以下、33.0%以下、32.0%以下、31.0%以下の順により好ましい。
【0020】
Na含有量は、屈折率の維持、低分散性の維持、ガラスの低Tg化、ガラスの熔融性向上および低比重化の観点から、0.0%以上であり、1.0%以上であることが好ましく、2.0%以上、3.0%以上、4.0%以上、5.0%以上、6.0%以上、7.0%以上、8.0%以上、9.0%以上の順により好ましい。
また、Na含有量は、ガラスの熱的安定性向上および化学的耐久性の低下抑制の観点から、44.0%以下であり、42.0%以下であることが好ましく、40.0%以下、38.0%以下、36.0%以下、34.0%以下、32.0%以下、30.0%以下、28.0%以下、26.0%以下、24.0%以下、22.0%以下、20.0%以下、19.0%以下の順により好ましい。
【0021】
含有量は、屈折率の維持、低分散性の維持、ガラスの低Tg化、ガラスの熔融性向上および低比重化の観点から、0.0%以上であり、1.0%以上であることが好ましく、2.0%以上、3.0%以上、4.0%以上、5.0%以上、6.0%以上の順により好ましい。
また、K含有量は、ガラスの熱的安定性向上、化学的耐久性の低下抑制および低比重化の観点から、45.0%以下であり、43.0%以下、40.0%以下、38.0%以下、36.0%以下、34.0%以下、32.0%以下、30.0%以下、28.0%以下、26.0%以下、25.0%以下、24.0%以下、23.0%以下、22.0%以下、21.0%以下、20.0%以下、19.0%以下、18.0%以下、17.0%以下、16.0%以下、15.0%以下の順により好ましい。
【0022】
Li、Na、KおよびCsの合計含有量Rは、低分散性の維持、ガラスの低Tg化、低比重化および液相温度を低下させる観点から、5.0%以上であり、10.0%以上であることが好ましく、15.0%以上、20.0%以上、23.0%以上、25.0%以上、28.0%以上、30.0%以上、33.0%以上、35.0%以上、37.0%以上、40.0%以上、42.0%以上の順により好ましい。
また、Li、Na、KおよびCsの合計含有量Rは、低分散性の維持、ガラスの熱的安定性維持および化学的耐久性の低下抑制の観点から、65.0%以下であることが好ましく、64.0%以下、63.0%以下、62.0%以下、61.0%以下、60.0%以下、59.0%以下の順により好ましい。
【0023】
Cs含有量は、0.0%であることができ、0.0%以上であることもでき、0.0%超であることもできる。Cs含有量は、ガラスの低Tg化およびガラスの熔融性向上の観点から、0.0%以上であることができ、0.1%以上であることが好ましく、0.2%以上、0.3%以上、0.4%以上、0.5%以上、0.6%以上の順により好ましい。
また、Cs含有量は、ガラスの熱的安定性向上および化学的耐久性の低下抑制の観点から、10.0%以下であることが好ましく、8.0%以下、6.0%以下、4.0%以下、2.0%以下、1.5%以下、1.0%以下の順により好ましい。
【0024】
Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量をR2+として、上記光学ガラスでは、Al3+とR2+との合計含有量に対するR2+のカチオン比(R2+/(Al3++R2+))は、Tgの上昇抑制およびガラスの熱的安定性維持の観点から、0.56以下であり、0.55以下であることが好ましく、0.54以下、0.53以下、0.52以下、0.51以下、0.50以下、0.49以下、0.48以下、0.47以下、0.46以下、0.45以下、0.44以下、0.43以下、0.42以下、0.41以下、0.40以下、0.39以下、0.38以下、0.37以下の順により好ましい。
また、カチオン比(R2+/(Al3++R2+))は、0、00以上または0.00超であることができ、ガラスの低Tg化およびガラスの熔融性向上の観点からは、0.01以上であることが好ましく、0.02以上、0.03以上の順により好ましい。
【0025】
Be2+含有量は、0.0%、0.0%以上または0.0%超であることができる。屈折率の維持、低分散性の維持、Tgの上昇抑制およびガラスの熱的安定性維持の観点からは、Be2+含有量は、15.0%以下であることが好ましく、10.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下、2.5%以下、1.5%以下、1.0%以下、0.5%以下の順に更に好ましい。
Mg2+含有量は、0.0%、0.0%以上または0.0%超であることができる。屈折率の維持、低分散性の維持、Tgの上昇抑制およびガラスの熱的安定性維持の観点からは、Mg2+含有量は、15.0%以下であることが好ましく、14.0%以下であることがより好ましく、13.0%以下、12.0%以下、11.0%以下、10.0%以下の順に更に好ましい。
Ca2+含有量は、0.0%、0.0%以上または0.0%超であることができる。屈折率の維持、低分散性の維持、Tgの上昇抑制およびガラスの熱的安定性維持の観点からは、Ca2+含有量は、15.0%以下であることが好ましく、14.0%以下であることがより好ましく、13.0%以下、12.0%以下、11.0%以下、10.0%以下、9.0%以下、8.0%以下、7.0%以下、6.0%以下、5.0%以下の順に更に好ましい。
Sr2+含有量は、0.0%、0.0%以上または0.0%超であることができる。屈折率の維持、低分散性の維持、Tgの上昇抑制およびガラスの熱的安定性維持の観点からは、Sr2+含有量は、10.0%以下であることが好ましく、9.0%以下であることがより好ましく、8.0%以下、7.0%以下、6.0%以下、5.0%以下、4.0%以下の順に更に好ましい。
Ba2+含有量は、0.0%、0.0%以上または0.0%超であることができる。屈折率の維持、低分散性の維持、ガラスの熔融性向上、Tgの上昇抑制およびガラスの熱的安定性維持の観点からは、Ba2+含有量は、10.0%以下であることが好ましく、9.0%以下であることがより好ましく、8.0%以下、7.0%以下、6.0%以下、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下の順に更に好ましい。
Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量R2+は、0.0%、0.0%以上または0.0%超であることができる。屈折率の維持、低分散性の維持、Tgの上昇抑制およびガラスの熱的安定性維持の観点からは、合計含有量R2+は、20.0%以下であることが好ましく、19.0%以下であることがより好ましく、18.0%以下、17.0%以下、16.0%以下、15.0%以下、14.0%以下、13.0%以下、12.0%以下、11.0%以下、10.0%以下の順に更に好ましい。
【0026】
Zn2+含有量は、0.0%、0.0%以上または0.0%超であることができる。Zn2+は、屈折率を維持しつつ熱的安定性を向上させる働きをするが、過剰に含有させると分散が高くなる傾向がある。上記観点から、Zn2+含有量は、20.0%以下であることが好ましく、19.0%以下であることがより好ましく、18.0%以下、17.0%以下、16.0%以下、15.0%以下、14.0%以下、13.0%以下、12.0%以下、11.0%以下、10.0%以下の順に更に好ましい。
【0027】
Zr4+含有量は、0.0%、0.0%以上または0.0%超であることができる。Zr4+は、屈折率を高める成分であるが、過剰に含有させると分散が高くなる傾向があり、Tgが上昇する傾向がある。上記観点から、Zr4+含有量は、10.0%以下であることが好ましく、9.0%以下であることがより好ましく、8.0%以下、7.0%以下、6.0%以下、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下の順に更に好ましい。
【0028】
Al3+とP5+との合計含有量に対するP5+含有量のカチオン比(P5+/(Al3++P5+))は、低分散性の維持、ガラスの熱的安定性の更なる向上、ガラスの更なる低Tg化およびガラスの熔融性向上の観点から、0.30以上であることが好ましく、0.35以上であることがより好ましく、0.40以上、0.45以上、0.50以上の順に更に好ましい。
また、カチオン比(P5+/(Al3++P5+))は、屈折率の維持および化学的耐久性維持の観点から、0.85以下であることが好ましく、0.83以下であることがより好ましく、0.81以下、0.80以下、0.79以下、0.78以下、0.77以下、0.76以下、0.75以下、0.74以下、0.73以下、0.72以下、0.71以下の順に更に好ましい。
【0029】
とR2+との合計に対するLi含有量のカチオン比(Li/(R+R2+))は、高屈折率化、ガラスの更なる低Tg化およびガラスの熔融性向上の観点から、0.00以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましく、0.10以上、0.13以上、0.15以上、0.17以上、0.20以上、0.23以上、0.25以上、0.27以上、0.30以上、0.33以上、0.35以上、0.37以上、0.40以上の順に更に好ましい。
また、カチオン比(Li/(R+R2+))は、ガラスの更なる低Tg化およびガラスの熔融性向上の観点から、1.00以下であることが好ましく、0.95以下であることがより好ましく、0.92以下、0.90以下、0.88以下、0.85以下、0.83以下、0.80以下、0.78以下、0.75以下、0.72以下、0.70以下、0.67以下、0.65以下、0.63以下、0.60以下の順に更に好ましい。
【0030】
Al3+とP5+との合計含有量に対するRのカチオン比(R/(Al3++P5+))は、低分散性の維持、ガラスの更なる低Tg化、ガラスの熔融性向上および低比重化の観点から、0.93以上であることが好ましく、0.95以上であることがより好ましく、0.97以上、0.99以上、1.01以上、1.03以上、1.05以上、1.07以上、1.09以上、1.11以上、1.13以上、1.14以上、1.15以上、1.16以上であることが更に好ましい。
また、カチオン比(R/(Al3++P5+))は、屈折率の維持、低分散性の維持、ガラスの熱的安定性の維持の観点から、2.00以下であることが好ましく、1.98以下であることがより好ましく、1.96以下、1.94以下、1.92以下、1.90以下、1.88以下、1.87以下、1.86以下、1.85以下の順に更に好ましい。
【0031】
Al3+とP5+との合計含有量に対するLiとKとの合計含有量のカチオン比((Li+K)/(Al3++P5+))は、低分散性の維持、ガラスの更なる低Tg化、ガラスの熔融性向上および低比重化の観点から、0.56以上であることが好ましく、0.58以上であることがより好ましく、0.60以上、0.62以上、0.64以上、0.66以上、0.68以上、0.70以上、0.72以上、0.74以上、0.76以上、0.78以上、0.80以上の順に更に好ましい。
また、カチオン比((Li+K)/(Al3++P5+))は、屈折率の維持、低分散性の維持、熱的安定性の維持の観点から、1.40以下であることが好ましく、1.38以下であることがより好ましく、1.36以下、1.34以下、1.32以下、1.30以下、1.28以下、1.27以下、1.26以下、1.25以下の順に更に好ましい。
【0032】
LiとKとの合計含有量に対するLiとNaとの合計含有量のカチオン比((Li+Na)/(Li+K))は、ガラスの更なる低Tg化およびガラスの熔融性向上の観点から、0.50以上であることが好ましく、0.55以上であることがより好ましく、0.60以上、0.65以上、0.70以上、0.75以上、0.80以上、0.85以上、0.86以上、0.87以上、0.88以上、0.89以上、0.90以上の順に更に好ましい。
カチオン比((Li+Na)/(Li+K))は、ガラスの更なる低Tg化およびガラスの熔融性向上の観点から、1.59以下であることが好ましく、1.57以下であることがより好ましく、1.55以下、1.53以下、1.51以下、1.49以下、1.47以下、1.45以下、1.43以下、1.41以下、1.39以下、1.37以下、1.35以下、1.33以下、1.31以下、1.29以下、1.28以下、1.27以下、1.26以下、1.25以下、1.24以下の順に更に好ましい。
【0033】
Pb、As、Cd、Tl、BeおよびSeは、それぞれ毒性を有する。そのため、これらの元素を含有させないこと、即ち、これら元素をガラス成分としてガラス中に導入しないことが好ましい。
U、ThおよびRaはいずれも放射性元素である。そのため、これらの元素を含有させないこと、即ち、これら元素をガラス成分としてガラス中に導入しないことか好ましい。
V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびCeは、ガラスの着色を増大させたり、蛍光の発生源となり得るため、光学素子用のガラスに含有させる元素としては好ましくない。そのため、これらの元素を含有させないこと、即ち、これら元素をガラス成分としてガラス中に導入しないことが好ましい。
【0034】
SbおよびSnは清澄剤として機能する任意に添加可能な元素である。
上記光学ガラスのSb含有量は、ガラスの質量を100としたときのSbの質量分率(%)として、例えば0.40%以下、0.20%以下、0.10%以下、0.05%以下、0.02%以下、0.01%以下であることができる。一方で、Sb含有量は、ガラスの質量を100としたときのSbの質量分率(%)として、0.00%以上であることができ、0.00%であることもできる。
上記光学ガラスのSn含有量は、ガラスの質量を100としたときのSnOの質量分率(%)として、例えば0.40%以下、0.20%以下、0.10%以下、0.05%以下、0.02%以下、0.01%以下であることができる。一方で、Sn含有量は、ガラスの質量を100としたときのSnOの質量分率(%)として、0.00%以上であることができ、0.00%であることもできる。
【0035】
以上、カチオン成分について説明した。次に、アニオン成分について説明する。
【0036】
上記光学ガラスは、アニオン成分として、少なくともO2-およびFを含む。
【0037】
2-含有量は、ガラスの高屈折率化および熱的安定性向上の観点から、10.0%以上であり、15.0%以上であることが好ましく、17.5%以上、20.0%以上、22.5%以上、25.0%以上、27.5%以上、30.0%以上、32.5%以上、35.0%以上、37.5%以上、40.0%以上、42.5%以上、45.0%以上、48.0%以上、49.0%以上、50.0%以上、51.0%以上、52.0%以上、53.0%以上、54.0%以上、55.0%以上、56.0%以上、57.0%以上、58.0%以上、59.0%以上、の順により好ましい。
また、O2-含有量は、低分散性の維持およびガラスのTg上昇を抑制する観点から、95.0%以下であり、88.5%以下であることが好ましく、86.0%以下、83.5%以下、82.0%以下、81.0%以下、80.0%以下、79.0%以下、78.0%以下、77.0%以下の順により好ましい。
【0038】
含有量は、ガラスの低分散性維持および低Tg化の観点から、10.0%以上であり、11.00%以上であることが好ましく、12.00%以上、13.00%以上、14.00%以上、15.00%以上、16.00%以上、17.00%以上、18.00%以上、19.00%以上、20.00%以上、21.00%以上、22.00%以上、23.00%以上の順により好ましい。
また、F含有量は、ガラスの熱的安定性向上および熔融時のガラスの揮発抑制の観点から、90.0%以下であり、85.0%以下であることが好ましく、80.0%以下、75.0%以下、70.0%以下、65.0%以下、63.0%以下、60.0%以下、57.0%以下、55.0%以下、54.0%以下、52.0%以下、50.0%以下、49.0%以下、48.0%以下、47.0%以下、46.0%以下、45.0%以下、44.0%以下、43.0%以下の順により好ましい。
【0039】
2-およびF以外のアニオン成分としては、例えばCl、BrおよびIを例示することができる。
Cl含有量は、例えば、0.0%、0.0%以上、0.0%超、0.10%以上、0.20%以上であることができ、また、例えば、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.50%以下であることができる。
Br含有量は、例えば、0.0%、0.0%以上、0.0%超、0.10%以上、0.20%以上であることができ、また、例えば、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.5%以下であることができる。
含有量は、例えば、0.0%、0.0%以上、0.0%超、0.10%以上、0.20%以上であることができ、また、例えば、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.5%以下であることができる。
【0040】
<ガラス物性>
(アッベ数νd)
上記光学ガラスは、上記ガラス組成を有することにより低分散性を示すことができる。分散性の指標であるアッベ数νdは、d線、F線、C線における各屈折率nd、nF、nCを用いてνd=(nd-1)/(nF-nC)と表される。光学素子用材料としての有用性の観点から、上記光学ガラスのアッベ数νdは、70.00以上であることが好ましく、70.50以上であることがより好ましく、71.00以上、71.50以上、72.00以上、72.50以上、73.00以上の順に更に好ましい。また、上記光学ガラスのアッベ数νdは、例えば82.00以下であることができる。
【0041】
(屈折率nd)
上記光学ガラスの屈折率ndは、光学素子用材料としての有用性の観点から、例えば、1.420以上、1.425以上、1.430以上、1.435以上、1.440以上、1.445以上、1.446以上、1.447以上、1.448以上、1.449以上、1.450以上であることができ、また、例えば、1.510以下、1.505以下、1.500以下、1.4950以下、1.490以下、1.489以下、1.488以下、1.487以下、1.486以下、1.485以下、1.484以下、1.483以下、1.482以下、であることができる。本発明および本明細書において、「屈折率」は、「屈折率nd」を意味する。屈折ndとは、波長587.56nmにおける屈折率である。
【0042】
(ガラス転移温度Tg)
上記光学ガラスは、上記ガラス組成を有することにより低いガラス転移温度を有することができる。上記光学ガラスのガラス転移温度Tgは、350℃以下であることが好ましく、340℃以下であることがより好ましく、330℃以下、320℃以下、310℃以下、300℃以下、290℃以下、280℃以下、270℃以下、260℃以下の順に更に好ましい。また、上記光学ガラスのガラス転移温度Tgは、例えば、150℃以上、160℃以上、170℃以上、180℃以上、190℃以上、200℃以上であることができる。ガラス転移温度Tgは、後述の方法によって求められる。
【0043】
(比重)
上記光学ガラスの比重が低いことは、光学素子の軽量化の観点から好ましい。上記光学ガラスの比重は、例えば、3.10以下、3.05以下、3.00以下、2.95以下、2.90以下、2.85以下であることができる。また、上記光学ガラスの比重は、例えば2.55以上であることができるが、比重が低いほど好ましいため、下限は特に限定されない。
【0044】
(透過率特性)
上記光学ガラスは、波長500nm~1000nmにおける外部透過率が、厚さ10.0mm換算で80%以上である。「波長500nm~1000nmにおける外部透過率が、厚さ10.0mm換算で80%以上である」とは、波長500nm~1000nmの波長域の全域において、厚さ10.0mm換算での外部透過率が80%以上であることをいうものとする。上記光学ガラスは、波長500nm~1000nmにおける外部透過率が、厚さ10.0mm換算で80%以上100%以下であることができる。かかる透過率特性を有する光学ガラスは、光学素子用材料として有用である。例えば、カチオン成分としてCu2+を含まないガラスとすることで、上記透過率特性を実現することができる。
【0045】
上記のガラスの透過率特性は、以下の方法によって求められる。
ガラスサンプルを、互いに平行かつ光学研磨された平面を有するように加工し、波長500~1000nmにおける外部透過率を測定する。外部透過率には、試料表面における光線の反射損失も含まれる。
また、測定対象のガラスが換算される厚さのガラスでない場合には、そのガラスの厚さをdとして、以下の式Aによって、各波長λにおける透過率を換算するものとし、換算によって透過率特性を求める。
【0046】
式A:T(λ)=(1-R(λ))×exp(log((T(λ)/100)/(1-R(λ)))×d/d)×100
【0047】
式A中、T(λ):波長λにおける換算透過率(%)、T(λ):波長λにおける実測透過率(%)、d:換算される厚さ(mm)、d:ガラスの厚さ(mm)、R(λ)=((n(λ)-1)/(n(λ)+1))で表される、波長λにおける反射率、n(λ):波長λにおける屈折率である。波長λにおける屈折率n(λ)については、日本工業規格(JIS規格)JIS B 7071-1「光学ガラスの屈折率測定法-第1部:最小偏角法」にしたがい、各波長における屈折率を測定するものとする。
【0048】
<光学ガラスの製造方法>
上記光学ガラスは、目的のガラス組成が得られるように、原料であるリン酸塩、フッ化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物等を秤量、調合し、十分に混合して混合バッチとし、熔融容器内で加熱、熔融し、脱泡、撹拌を行い均質かつ泡を含まない熔融ガラスを作り、これを成形することによって得ることができる。具体的には公知の熔融法を用いて作ることができる。
【0049】
[プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、およびそれらの製造方法]
本発明の他の一態様は、
上記光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材;
上記光学ガラスからなる光学素子ブランク、
に関する。
【0050】
本発明の他の一態様によれば、
上記光学ガラスをプレス成形用ガラス素材に成形する工程を備えるプレス成形用ガラス素材の製造方法;
上記光学ガラスプレス成形用ガラス素材を、プレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子ブランクを作製する工程を備える光学素子ブランクの製造方法;
上記光学ガラスを光学素子ブランクに成形する工程を備える光学素子ブランクの製造方法、
も提供される。
【0051】
光学素子ブランクとは、目的とする光学素子の形状に近似し、光学素子の形状に研磨しろ(研磨により除去することになる表面層)、必要に応じて研削しろ(研削により除去することになる表面層)を加えた光学素子母材である。光学素子ブランクの表面を研削、研磨することにより、光学素子が仕上げられる。一形態では、上記ガラスを適量熔融して得た熔融ガラスをプレス成形する方法(ダイレクトプレス法と呼ばれる。)により、光学素子ブランクを作製することができる。他の一形態では、上記ガラスを適量熔融して得た熔融ガラスを固化することにより光学素子ブランクを作製することもできる。
【0052】
また、他の一形態では、プレス成形用ガラス素材を作製し、作製したプレス成形用ガラス素材をプレス成形することにより、光学素子ブランクを作製することができる。
【0053】
プレス成形用ガラス素材のプレス成形は、加熱して軟化した状態にあるプレス成形用ガラス素材をプレス成形型でプレスする公知の方法により行うことができる。加熱、プレス成形は、ともに大気中で行うことができる。プレス成形後にアニールしてガラス内部の歪を低減することにより、均質な光学素子ブランクを得ることができる。
【0054】
プレス成形用ガラス素材は、そのままの状態で光学素子ブランク作製のためのプレス成形に供されるプレス成形用ガラスゴブと呼ばれるものに加え、切断、研削、研磨等の機械加工を施してプレス成形用ガラスゴブを経てプレス成形に供されるものも含む。切断方法としては、ガラス板の表面の切断したい部分にスクライビングと呼ばれる方法で溝を形成し、溝が形成された面の裏面から溝の部分に局所的な圧力を加えて、溝の部分でガラス板を割る方法や、切断刃によってガラス板をカットする方法等がある。また、研削、研磨方法としてはバレル研磨等が挙げられる。
【0055】
プレス成形用ガラス素材は、例えば、熔融ガラスを鋳型に鋳込みガラス板に成形し、このガラス板を複数のガラス片に切断することにより作製することができる。または、適量の熔融ガラスを成形してプレス成形用ガラスゴブを作製することもできる。プレス成形用ガラスゴブを、再加熱、軟化してプレス成形して作製することにより、光学素子ブランクを作製することもできる。ガラスを再加熱、軟化してプレス成形して光学素子ブランクを作製する方法は、ダイレクトプレス法に対してリヒートプレス法と呼ばれる。
【0056】
[光学素子およびその製造方法]
本発明の他の一態様は、
上記光学ガラスからなる光学素子
に関する。
上記光学素子は、上記光学ガラスを用いて作製される。上記光学素子において、ガラス表面には、例えば、反射防止膜等の多層膜等、一層以上のコーティングが形成されていてもよい。
【0057】
また、本発明の一態様によれば、
上述の光学素子ブランクを研削および/または研磨することにより光学素子を作製する工程を備える光学素子の製造方法、
も提供される。
【0058】
上記光学素子の製造方法において、研削、研磨等の機械加工は公知の方法を適用して行うことができ、加工後に光学素子表面を十分洗浄、乾燥させる等することにより、内部品質および表面品質の高い光学素子を得ることができる。このようにして、上記光学ガラスからなる光学素子を得ることができる。光学素子としては、球面レンズ、非球面レンズ、マイクロレンズ等の各種のレンズ、プリズム等を例示することができる。
【0059】
また、上記光学ガラスからなる光学素子は、接合光学素子を構成するレンズとしても好適である。接合光学素子としては、レンズ同士を接合したもの(接合レンズ)、レンズとプリズムを接合したもの等を例示することができる。例えば、接合光学素子は、接合する2つの光学素子の接合面を形状が反転形状となるように精密に加工(例えば、球面研磨加工)し、接合レンズの接着に使用される紫外線硬化型接着剤を塗布し、貼り合わせてからレンズを通して紫外線を照射し接着剤を硬化させることで作製することができる。接合する複数個の光学素子を、アッベ数νdが相違する複数種のガラス等を用いてそれぞれ作製し、接合することにより、色収差の補正に好適な素子とすることができる。
【実施例0060】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
<試料No.1~88>
以下の表に示すガラス組成になるように、各成分を導入するための原料としてそれぞれ相当するリン酸塩、フッ化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、酸化物、ホウ酸等を用い、原料を秤量し、十分に混合して調合原料とした。
この調合原料を白金製坩堝に入れ、700~1100℃に設定された炉内で加熱し90分間熔融した。熔融ガラスを撹拌して均質化した後、熔融ガラスを予熱した鋳型に流し込み、ガラス転移温度付近まで放冷してから直ちにアニール炉に入れ、ガラス転移温度程度の温度で約30分間保持した後、徐冷速度-30℃/時間で4時間徐冷し、その後炉内で室温まで放冷することにより、以下の表に示す試料No.1~88の各光学ガラスを得た。
【0062】
[比較例A、比較例B]
以下の表に示すガラス組成になるように、各成分を導入するための原料としてそれぞれ相当するリン酸塩、フッ化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、酸化物、ホウ酸等を用い、原料を秤量し、十分に混合して調合原料とした。
この調合原料を白金製坩堝に入れ、700~1100℃に設定された炉内で加熱し90分間熔融した。熔融ガラスを撹拌して均質化した後、熔融ガラスを予熱した鋳型に流し込み、ガラス転移温度付近まで放冷してから直ちにアニール炉に入れ、ガラス転移温度程度の温度で約30分間保持した後、徐冷速度-30℃/時間で4時間徐冷し、その後炉内で室温まで放冷することにより、以下の表に示す比較例A、比較例Bの各光学ガラスを得た。比較例Aおよび比較例Bの各光学ガラスを得た。比較例Aは、WO2003/037813(特許文献1)の実施例33に相当し、比較例Bは、WO2003/037813(特許文献1)の実施例35に相当する。
【0063】
<物性評価>
以下の表に示す各光学ガラスの諸物性は、下記方法により測定した。
【0064】
(1)屈折率ndアッベ数νd
各光学ガラスについて、日本光学硝子工業会規格の屈折率測定法により、屈折率ndおよびアッベ数νdを測定した。比較例Aについては、ガラスが失透したため屈折率ndおよびアッベ数νdを測定することができなかった。
【0065】
(2)ガラス転移温度Tg
ガラスを乳鉢で十分粉砕したものを試料とし、試料容器として白金製のセルを使用し、NETZSCH JAPAN社製の示差走査熱量分析装置(DSC3300SA)によって、昇温速度を10℃/分にしてガラス転移温度Tgを測定した。
【0066】
(3)比重
アルキメデス法により比重を測定した。
【0067】
(4)透過率特性
得られたガラスからテストピースを切り出し、両面を鏡面研磨して、互いに平行かつ光学研磨された平面を有するように加工して厚さを10.0mmとした後、波長500~1000nmにおける外部透過率を分光光度計を使用して測定した。
試料No.1~88、比較例Aおよび比較例Bのいずれについても、波長500nm~1000nmにおける外部透過率が厚さ10.0mmにおいて80%以上100%以下であることが確認された。
【0068】
<熱的安定性の評価>
試料No.1~88、比較例Aおよび比較例Bについて、それぞれ、以下の表に示すガラス組成になるように、各成分を導入するための原料としてそれぞれ相当するリン酸塩、フッ化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、酸化物、ホウ酸等を用い、原料を秤量し、十分に混合して調合原料とした。
この調合原料を白金製坩堝に入れ、700~1100℃に設定された炉内で加熱し90分間熔融した。熔融ガラスを撹拌して均質化した後、熔融ガラスを成形型に鋳込んで成形し、徐冷して、ブロック形状のガラスサンプルを得た。
得られたガラスサンプルについて、光学顕微鏡によってガラス中の結晶の観察を行った。光学顕微鏡の倍率は40~100倍とした。ガラスブロックに結晶が確認されなかった場合はA、1cm当たり1個以上15個以下の結晶が確認された場合はB、1cm当たり16個以上40個以下の結晶が確認された場合はC、1cm当たり40個超の結晶が確認された場合はDと判定した。A、B、Cについては、C→B→Aの順に熱的安定性が高く、Aが最も熱的安定性が高い。A、B、Cであれば、製造上ガラスに含まれる結晶数における内部品質として許容範囲の結果である。判定結果Dのガラスは、熱的安定性に乏しく、製造上内部品質に劣るガラスである。
以下の表に示すように、試料No.1~88のガラスが熱的安定性に優れる(判定結果A、BまたはC)であることが確認された。
【0069】
【表1-1】
【0070】
【表1-2】
【0071】
【表1-3】
【0072】
【表1-4】
【0073】
【表1-5】
【0074】
【表1-6】
【0075】
【表1-7】
【0076】
【表1-8】
【0077】
【表1-9】
【0078】
【表2-1】
【0079】
【表2-2】
【0080】
【表2-3】
【0081】
【表2-4】
【0082】
【表2-5】
【0083】
【表2-6】
【0084】
【表2-7】
【0085】
【表2-8】
【0086】
【表2-9】
【0087】
(実施例2)
実施例1で得られた各種ガラスを使用し、プレス成形用ガラス塊(ガラスゴブ)を作製した。このガラス塊を大気中で加熱、軟化し、プレス成形型でプレス成形し、レンズブランク(光学素子ブランク)を作製した。作製したレンズブランクをプレス成形型から取り出し、アニールし、研磨を含む機械加工を行い、実施例1で作製した各種ガラスからなる球面レンズを作製した。
【0088】
(実施例3)
実施例1において作製した熔融ガラスを所望量、プレス成形型でプレス成形し、レンズブランク(光学素子ブランク)を作製した。作製したレンズブランクをプレス成形型から取り出し、アニールし、研磨を含む機械加工を行い、実施例1で作製した各種ガラスからなる球面レンズを作製した。
【0089】
(実施例4)
実施例1において作製した熔融ガラスを固化して作製したガラス塊(光学素子ブランク)アニールし、研磨を含む機械加工を行い、実施例1で作製した各種ガラスからなる球面レンズを作製した。
【0090】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0091】
[1]カチオン%表示のガラス組成において、
6+含有量が0.0カチオン超30.0カチオン%以下、
Al3+含有量が0.0カチオン%超30.0カチオン%以下、
5+含有量が5.0カチオン%以上50.0カチオン%以下、
Li含有量が0.0カチオン%以上51.0カチオン%以下、
Na含有量が0.0カチオン%以上44.0カチオン%以下、
含有量が0.0カチオン%以上45.0カチオン%以下、
Li、Na、KおよびCsの合計含有量Rが5.0カチオン%以上、
Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量をR2+として、Al3+とR2+との合計含有量に対するR2+のカチオン比(R2+/(Al3++R2+))が0.56以下であり、
アニオン%表示のガラス組成において、
2-含有量が10.0アニオン%以上95.0アニオン%以下、
含有量が10.0アニオン%以上90.0アニオン%以下であり、かつ、
波長500nm~1000nmにおける外部透過率が厚さ10.0mm換算で80%以上である光学ガラス。
[2]Al3+とP5+との合計含有量に対するP5+含有量のカチオン比(P5+/(Al3++P5+))が0.30以上0.85以下である、[1]に記載の光学ガラス。
[3]RとR2+との合計に対するLi含有量のカチオン比(Li/(R+R2+))が0.00以上1.00以下である、[1]または[2]に記載の光学ガラス。
[4]Al3+とP5+との合計含有量に対するRのカチオン比(R/(Al3++P5+))が0.93以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の光学ガラス。
[5]Al3+とP5+との合計含有量に対するLiとKとの合計含有量のカチオン比((Li+K)/(Al3++P5+))が0.56以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の光学ガラス。
[6]LiとKとの合計含有量に対するLiとNaとの合計含有量のカチオン比((Li+Na)/(Li+K))が0.50以上1.59以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の光学ガラス。
[7]ガラス転移温度Tgが150℃以上350℃以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の光学ガラス。
[8]アッベ数νdが70.00以上82.00以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の光学ガラス。
[9]Al3+とP5+との合計含有量に対するP5+含有量のカチオン比(P5+/(Al3++P5+))が0.30以上0.85以下であり、
とR2+との合計に対するLi含有量のカチオン比(Li/(R+R2+))が0.00以上1.00以下であり、
Al3+とP5+との合計含有量に対するRのカチオン比(R/(Al3++P5+))が0.93以上であり、
Al3+とP5+との合計含有量に対するLiとKとの合計含有量のカチオン比((Li+K)/(Al3++P5+))が0.56以上であり、
LiとKとの合計含有量に対するLiとNaとの合計含有量のカチオン比((Li+Na)/(Li+K))が0.50以上1.59以下であり、
ガラス転移温度Tgが150℃以上350℃以下であり、かつ
アッベ数νdが70.00以上82.00以下である、[1]に記載の光学ガラス。
[10][1]~[9]のいずれかに記載の光学ガラスからなる光学素子。
【0092】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、上述の例示されたガラス組成に対し、明細書に記載の組成調整を行うことにより、本発明の一態様にかかる光学ガラスを得ることができる。
また、明細書に例示または好ましい範囲として記載した事項の2つ以上を任意に組み合わせることは、もちろん可能である。