(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181094
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】同期型電気モータによって回生された電力を制限するための方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/36 20160101AFI20231214BHJP
【FI】
H02P21/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023078292
(22)【出願日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】2205530
(32)【優先日】2022-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブシェ アルノー
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505CC04
5H505DD06
5H505EE41
5H505EE48
5H505EE49
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】追加構成要素を必要とせず、回生電流を回収する。
【解決手段】モータのAC供給電流のd軸電流中間値Idstat及びq軸電流中間値Iqstatが求められる、第1決定ステップ(E1)と、d軸電流目標値Idcible及びq軸電流目標値Iqcibleが求められる、第2決定ステップ(E2)と、少なくとも1つのインバータが、d軸電流目標値Idcible及びq軸電流目標値Iqcibleに基づいてマイクロコントローラによって駆動される、駆動ステップ(EP)と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのインバータからAC供給電流が供給される同期型電気モータを制御するための方法であって、
前記インバータは、ベクトル制御方式を用いて少なくとも1つのマイクロコントローラ(20)によって駆動され、
前記方法は、前記マイクロコントローラ(20)によって実行され、
前記方法は、少なくとも、
前記モータ(12)の前記AC供給電流のd軸電流中間値(Idstat)及びq軸電流中間値(Iqstat)が、少なくとも、
基準設定値トルク(Cref)又はq軸電流基準値(Iqref)、
前記モータ(12)の回転速度(Ω)、
前記インバータの供給電圧(VDC)、
静的回生閾値(IDCstatmin)、及び、
d軸電流基準値(Idref)、
の関数として求められる、第1決定ステップ(E1)と、
d軸電流目標値(Idcible)及びq軸電流目標値(Iqcible)が、少なくとも、
前記d軸電流中間値(Idstat)、
前記q軸電流中間値(Iqstat)、及び、
動的回生閾値(IDCdynmin)、
の関数として求められる、第2決定ステップ(E2)と、
前記少なくとも1つのインバータが、前記d軸電流目標値(Idcible)及び前記q軸電流目標値(Iqcible)に基づいてマイクロコントローラ(20)によって駆動される、駆動ステップ(EP)と、
を備える、方法。
【請求項2】
前記静的回生閾値(IDCstatmin)は、正、ゼロ、又は負になるように選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記動的回生閾値(IDCdynmin)は、負になるように選択される、請求項1-2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
グローバル回生閾値(IDCmin)は、前記静的回生閾値(IDCstatmin)と前記動的回生閾値(IDCdynmin)との合計に対応する、請求項1-3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記q軸電流中間値(Iqstat)は、前記q軸電流目標値(Iqcible)となる、請求項1-4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記d軸電流基準値(Idref)及び前記q軸電流基準値(Iqref)は、少なくとも
前記基準設定値トルク(Cref)
前記モータの前記回転速度(Ω)、及び、
前記インバータの前記供給電圧(VDC)、
の関数として求められる、予備決定ステップ(E0)、
を備える、請求項1-5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1決定ステップ(E1)及び/又は前記第2決定ステップ(E2)は、
前記AC側の総等価抵抗(Rac)、
前記電気モータ(12)の、d軸インダクタンス(Ld)及び/又はq軸インダクタンス(Lq)、
前記電気モータ(12)の磁束(Ψ)、
前記電気モータ(12)の極対数(p)、及び、
前記モータの最大許容AC供給電流、
から選択される少なくとも1つのシステムパラメータを入力として受信する、請求項1-6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記マイクロコントローラ(20)は、前記第1決定ステップ(E1)を実行するために、特定のアルゴリズムをリアルタイムで実行する、及び/又はメモリに記憶された中間値の解決表を用いる、請求項1-7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第2決定ステップ(E2)は、前回の評価及び/又は今回の評価の間に達成された、モータの電流系の等価振幅を、その位相とは無関係に、入力として受信する、請求項1-8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1-9のいずれか1項に記載の方法によって制御される少なくとも1つのモータ(12)を備える、パワーステアリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気モータの分野、より詳細には同期型電気モータによって回生された電力を制限するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、少なくとも三相を有する、電気モータ、より詳細には同期型ロータリー電気モータに適用される。前記電気モータは、ベクトル制御方式によるインバータによって駆動されるAC供給電流を受け取り、前記インバータはDC供給電流が供給されている。
【0003】
ベクトル制御は、フィールド指向制御とも呼ばれ、モータのAC供給電流が、一方がq軸に沿った成分(以下、q軸(axe de quadrature、横軸)電流と呼ばれ、Iqと示される)、他方がd軸に沿った成分(以下、d軸(axe direct、直軸)電流と呼ばれ、Idと示される)、の2つの直交成分に変換される電気モータのための制御方法として知られている。q軸電流Iq及びd軸電流Idは、いわゆるdで示される励起直軸と示し、qで示される横軸との空間電流である。q軸電流Iq及びd軸電流Idは、電気モータのローターに関する回転座標系上の三相電流系の空間投影に対応する。したがって、q軸電流Iq及びd軸電流Idは、直軸dに対する三相電流系の位相及び三相系の振幅の関数である。低リラクタンスモータにとって、一般に、d軸電流Idは、高速動作を最適化するために検出される磁束の減少を可能にし、一方でq軸電流Iqは、モータによって発揮されるトルク(以下、モータトルクと呼ばれる)を制御する。d軸電流Id及びq軸電流Iqは、例えば、設定値トルク、モータの回転速度、モータの温度、及びモータの供給電圧のうち少なくとも1つのパラメータによって特徴づけられるモータの動作点の関数として求められる。
【0004】
d軸電流Id及びq軸電流Iqに基づいて、モータには、インバータによって提供されるAC供給電流が供給される。
【0005】
慣習に従えば、以下の記述において、インバータのDC供給電流が正のときには、モータ-インバータアセンブリはエネルギーを消費する、すなわち電流がインバータからモータへと流れ、一方でDC供給電流が負のときには、モータ-インバータアセンブリはエネルギーを生成する、すなわちインバータはDC電源に電流を返す、と考えられる。
【0006】
同様に、電力が正のときには、モータ-インバータアセンブリは電力を消費し、一方で電力が負のときには、モータ-インバータアセンブリは電力を生成する、と考えられる。
【0007】
モータの運転中には、インバータのDC供給電流は一般に正であるが、場合によっては負になり得る。インバータのDC供給電流は、負のときには、回生電流とも呼ばれる。例えば、モータが車両のパワーステアリングモータのとき、回生電流は、ハンドルの回転方向が急変するような、過渡的な状況中に生成される。
【0008】
以下、DC供給システムによって、インバータから連続エネルギーを供給する又は回収するための役割のインバータの上流のシステムが理解されるべきである。例えば、前記上流のシステムは、バッテリ又はDC-DCコンバータたり得る。
【0009】
回生電流の量が多いとき、DC供給システムは、この電流を回収することを可能にする回収要素を備え得る。
【0010】
しかしながら、回生電流の量が少ないとき、前記回収要素を設けることは経済的な関心を引かない。結果として、回生電流は、DC供給システムを劣化させる。
【0011】
よって、モータ-インバータアセンブリによって生成される回生電流の量を制限する必要がある。換言すれば、モータ-インバータアセンブリが、状況に依らずに、エネルギーを消費するもののままであることを保証する必要がある。
【0012】
例えば、抵抗素子のような受動素子を用いて回生電流を減少させるための解決策がある。しかしながら、受動素子は、かさ張りかつ、高価であり得る。
【0013】
また、インバータのDC供給電流を、モータの要求する設定値トルクよりも優先して制限する解決策もある。これらの解決策は、それゆえに、要求された設定値トルクにもはや対応しない供給されたモータトルクを変更するため干渉的である。
【0014】
モータがパワーステアリングモータであるとき、モータトルクと設定値トルクとの間の偏差が、ドライバの運転体験の変化に繋がる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、モータトルクを設定値トルクと実質的に等しくなるよう維持しながら回生電流の制限を可能にしつつ、追加の構成要素を必要としない、同期型モータの制御方法を提案することによって、前記の欠点の全部又は一部を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の対象は、少なくとも1つのインバータからAC供給電流が供給される同期型電気モータを制御するための方法であって、インバータは、ベクトル制御方式を用いて少なくとも1つのマイクロコントローラによって駆動され、前記方法は、マイクロコントローラによって実行され、
前記方法は、少なくとも、
モータのAC供給電流のd軸電流中間値及びq軸電流中間値が、少なくとも、
基準設定値トルク又はq軸電流基準値、
モータの回転速度、
インバータの供給電圧、
静的回生閾値、及び、
d軸電流基準値、
の関数として求められる、第1決定ステップと、
d軸電流目標値及びq軸電流目標値が、少なくとも、
d軸電流中間値、
q軸電流中間値、
動的回生閾値、
の関数として求められる、第2決定ステップと、
前記少なくとも1つのインバータが、d軸電流目標値及びq軸電流目標値に基づいてマイクロコントローラによって駆動される、駆動ステップと、を備える。
【0017】
本明細書において、XXの基準値、d軸電流又はq軸電流を参照するXX、及び基準値XX、又は中間値XX及び中間XX、又はXXの目標値及び目標XXという用語は同じ電流を参照する。
【0018】
基準設定値トルクは、モータが発揮すべきトルクである。この設定値トルクは、一般にソフトウェア情報の形で受信され、マイクロコントローラ内にて処理されて、同じくマイクロコントローラ自体内にて実行されるソフトウェア関数の入力データとして用いられる。
【0019】
モータトルクは、モータによって実際に発揮されるトルクである。モータトルクは、モータのAC供給電流に依存する。モータのユーザは、モータトルクが基準設定値トルクに近いこと又は等しいことを保証しようとする。
【0020】
以下、モータシステムによって、電気モータの制御を可能にする全ての要素が理解されるべきである。このモータシステムは、特に、モータ-インバータアセンブリと、マイクロコントローラとを含む。
【0021】
本発明に係る電気モータは、インバータによって提供されるAC供給電流が供給される。インバータ自体には、DC供給電流が電気的に供給される。
【0022】
d軸電流目標値及びq軸電流目標値をモータに与えているときに得られるAC供給電流が、一方でモータが基準設定値トルクを発揮し、他方でインバータのDC供給電流がグローバル回生閾値よりも大きくなることを可能にするように、モータのAC供給電流は、2つの連続したメインステップにおいて求められる。
【0023】
グローバル回生閾値は、モータの動作状態に関わらず、モータ-インバータアセンブリによって生成され得る回生電流の最大レベルに対応する。換言すれば、インバータのDC供給電流は、グローバル回生閾値以上になる。グローバル回生閾値は、インバータのDC供給電流として課される最低値である。よって、この方法は、モータトルクを基準設定値トルクと実質的に等しく維持しながら、追加要素を必要とすることなく、モータ-インバータアセンブリによって生成される回生電流のレベルの制限を可能にする。
【0024】
一実施形態によれば、グローバル回生閾値は、静的回生閾値と動的回生閾値との合計に対応する。
【0025】
グローバル回生閾値は、正の値に対応するモータの強制的な消費が誘発されることなく、生成される回生電流の量を制御するように、0A以下となるよう論理的に選択される。しかしながら、このシナリオは、技術的にも実現可能である。よって、0A以下のグローバル回生閾値は、回生電流がほとんどない、又は回生電流がないことに対応する。
【0026】
静的回生閾値は、本方法のユーザによって選択される。これは、モータが仮想静止状態にあるとき、つまり力のバランスがとれている仮想状態での、インバータのDC供給電流の許容可能な最小値に対応する。換言すれば、仮想静止状態において、モータ-インバータアセンブリは、何ら動的なものを有さない。モータ内の電流は、位相も振幅も一定である。
【0027】
仮想静止状態において、次式のように記述できる。
[数1]
【0028】
Pstatは、モータ-インバータアセンブリの静止モードにおける電力であり、ワットで表される。この電力は、モータ-インバータアセンブリがエネルギーを消費するときには正であり、モータ-インバータアセンブリがエネルギーを生成するときは負である。
【0029】
Plossは、例えば、モータ巻線、プリント回路基板の配線、MOSFETのようなモータ-インバータアセンブリの電導体におけるジュール効果による電力損失である。このジュール効果による電力損失は、常に正であり、ワットで表される。
【0030】
Pmecは、モータシステムの機械的動力であり、ワットで表される。この機械的動力は、基準モータトルク及び回転速度が同じ符号(つまり、正、又は負)を有するときには、正であり、基準モータトルク及び回転速度が逆の符号(つまり、一方が正、及び他方が負)を有するときには、負である。
【0031】
よって、基準モータトルク及び回転速度が逆の符号を有するとき、モータシステムの電力は、負になる可能性がある。
【0032】
VDCは、インバータの供給電圧であり、ボルトで表される。このインバータの供給電圧は、常に正である。
【0033】
IDCstatは、静止状態におけるインバータのDC供給電流であり、アンペアで表される。このDC供給電流は、電力が負のときには負であり、電力が正のときには正である。
【0034】
静的回生閾値は、仮想静止状態におけるインバータのDC供給電流として許容される最低値に対応する。
【0035】
一実施形態によれば、静的回生閾値は、選択されたマージンに応じて、正、ゼロ、又は負になるように選択される。
【0036】
-8Aの吸収容量を有する12VDC供給システムに対して、この閾値は例えば-4Aに設定され得て、48Wのマージンが残る。-2Aの吸収容量を有する48VDC供給システムに対して、この閾値は例えば-1Aに設定され得て、同様に48Wのマージンが残る。
【0037】
静的回生閾値は、次式のように求められる。
[数2]
【0038】
Plossは、モータ-インバータアセンブリの電導体におけるジュール効果による電力損失であり、
Pmecは、モータシステムの機械的動力であり、ワットで表され、
VDCは、インバータの供給電圧であり、ボルトで表され、
IDCstatminは、インバータのDC供給電流の最小値に対応する静的回生閾値であり、アンペアで表される。
【0039】
動的回生閾値は、本方法のユーザによって選択される。これは、モータが仮想動的状態、つまりモータのAC供給電流の変化のみが考慮される仮想状態にあるときの、インバータのDC供給電流の許容可能な最小値に対応する。
【0040】
仮想動的状態において、次式のように記述できる。
[数3]
【0041】
Pdynは、モータステータの励磁電力であり、ワットで表される。この励磁電力は、ステータの磁気エネルギーが増加しているとき、つまり、励磁されている間は正であり、ステータの磁気エネルギーが減少しているとき、つまり、減磁されている間は負である。
【0042】
VDCは、インバータの供給電圧であり、ボルトで表される。この供給電圧は、常に正である。
【0043】
IDCdynは、インバータのDC供給電流であり、アンペアで表される。このDC供給電流は、電力が負のときには負であり、電力が正のときには正である。
【0044】
動的回生閾値は、仮想動的状態においてステータの減磁について許容される最小値、つまり次式に対応する。
[数4]
【0045】
Pdynは、モータステータの励磁電力であり、ワットで表され、
VDCは、インバータの供給電圧であり、ボルトで表され、
IDCdynminは、インバータのDC供給電流の最小値に対応する動的回生閾値であり、アンペアで表される。
【0046】
一実施形態によれば、動的回生閾値は、負になるように選択される。
【0047】
一実施形態によれば、q軸電流中間値は、q軸電流目標値になる。
【0048】
本方法の概略の原理は、第1決定ステップにおいて、仮想静止状態でのインバータのDC供給電流が特に静的回生閾値以上になるように、仮想静止状態におけるモータのAC供給電流を求め、その後、仮想動的状態におけるインバータのDC供給電流が動的回生閾値以下になるように、仮想静止状態におけるモータのAC供給電流のd軸電流を必要な場合にのみ変更する。実際に、モータトルクは、q軸電流によって主に制御されているので、モータトルクを変化させることなく、このq軸電流の値を変更することは不可能である。しかしながら、q軸電流の減少によって生成された回生電流を、同時に生じるd軸電流の増加によって、これら2つの合計を含むようにして、少なくとも部分的に相殺することが可能である。最後に、このようにして、実際の状態におけるインバータのDC供給電流が、グローバル回生閾値以上であること、つまり次式の保証が可能である。
[数5]
【0049】
IDCは、インバータのDC供給電流であり、アンペアで表され、
IDCdynminは、インバータのDC供給電流の最小値に対応する動的回生閾値であり、アンペアで表され、
IDCstatminは、インバータのDC供給電流の最小値に対応する静的回生閾値であり、アンペアで表され、
IDCminは、グローバル回生閾値であり、アンペアで表される。
【0050】
より具体的には、本発明に係る方法において、第1決定ステップは、モータ-インバータアセンブリを仮想静止状態にあると考えたときに、モータのAC供給電流の各成分、すなわちd軸電流及びq軸電流について、中間値と呼ばれる第1値を想定することを可能にする。換言すれば、この方法は、モータが設定値トルクを発揮することを保証し、かつ、次式の仮定の下に数1の方程式を解くようにして、仮想静止状態におけるモータのAC供給電流の中間値を求める。
[数6]
【0051】
IDCstatは、仮想静止状態におけるインバータのDC供給電流であり、アンペアで表され、
IDCstatminは、静的回生閾値であり、アンペアで表される。
【0052】
よって、静止状態において求められたモータのAC供給電流の中間値は、インバータのDC供給電流が静的回生閾よりも大きくなることを可能とする。換言すれば、この中間値は、一方でモータが設定値トルクを発揮すること、他方でインバータのDC供給電流が静的回生閾値よりも大きいことの保証を可能とするパラメータの関数として求められる。
【0053】
本発明に係る方法において、第2決定ステップでは、モータのAC供給電流の各成分について、d軸電流中間値、q軸電流中間値、及び動的回生閾値の関数として、目標値と呼ばれる第2値を想定することを可能にする。換言すれば、この方法は、モータが設定値トルクを発揮し、かつインバータのDC供給電流がグローバル回生閾値以上になるように、モータに与えられるモータのAC供給電流目標値を、特に次式を保証することによって求める。
[数7]
【0054】
IDCdynは、仮想動的状態におけるインバータのDC供給電流であり、アンペアで表され、
IDCdynminは、動的回生閾値であり、アンペアで表される。
【0055】
最後に、本方法は、d軸電流目標値及びq軸電流目標値に基づいて、モータを駆動するステップを備える。
【0056】
本発明は、以下の特徴のうち1つ又はいくつかを、単独で又は組合せて有し得る。
【0057】
実施形態によれば、電気モータは車両のパワーステアリングモータである。
【0058】
一実施形態によれば、本方法は、d軸電流基準値及びq軸電流基準値が、少なくとも、
基準設定値トルク
前記モータの回転速度、及び、
インバータの供給電圧、
の関数として求められる予備決定ステップを備える。
【0059】
予備決定ステップの目的は、下流のベクトル制御のために、基準設定値トルクを確保できる全てのd軸電流及びq軸電流のペアの間で、d軸電流基準値及びq軸電流基準値を決定することにある。
【0060】
一実施形態によれば、第1決定ステップ及び/又は前記第2決定ステップは、
AC側の総等価抵抗、
電気モータの、d軸インダクタンス及び/又はq軸インダクタンス、
電気モータの磁束、
電気モータの極対数、及び、
モータの最大許容AC供給電流、
から選択される少なくとも1つのシステムパラメータを入力として受信する。
【0061】
一実施形態によれば、マイクロコントローラは、第1決定ステップを実行するために、特定のアルゴリズムをリアルタイムで実行する及び/又はメモリに記憶された中間値の解決表を用いる。
【0062】
この解決表は、モータトルクが実質的に基準設定値トルクと等しくなり、仮想静止状態におけるインバータのDC供給電流が静的回生閾値より大きくなるように、例えば少なくとも回転速度及び基準設定値トルクの関数として、d軸電流及びq軸電流の各ペアの中間値を記載している。
【0063】
実際、モータトルクが実質的に基準設定値トルクと等しいことの保証を可能にするd軸電流及びq軸電流のペアは無限に存在する。よって、設定値トルク及び回転速度のそれぞれの値について、仮想静止状態において、モータトルクが実質的に設定値トルクと等しく、インバータのDC供給電流が静的回生閾値より大きいことの保証を可能にするd軸電流及びq軸電流のペアを、例えば反復的な、アルゴリズムによって予測することが可能である。
【0064】
例えば、解決表又は特定のリアルタイムアルゴリズムは、負のd軸電流中間値を提供する解だけが考慮されている、次の連立方程式を解く必要がある。
[数8]
【0065】
Crefは、基準設定値トルクであり、N・mで表され、
Iqstatは、q軸電流中間値であり、
Idstatは、d軸電流中間値であり、
Ψは、電気モータの磁束であり、Wbで表され、
Ld、Lqは、電気モータのd軸インダクタンス(H)又はq軸インダクタンス(H)であり、
VDCは、インバータの供給電圧であり、ボルトで表され、
Racは、モータシステムのAC側の総等価抵抗(Ω)であり、
Pは、電気モータの極対数であり、
Ωは、モータの回転速度であり、rad・s-1で表され、
kは、uvmとdqとを変換する係数(例えば、選択された規則により、3/2又は1)である。
【0066】
IDCstatminは、静的回生閾値である。
【0067】
一実施形態によれば、解決表又は特定のリアルタイムアルゴリズムは、インバータの供給電圧、及び電気モータの温度から選択されたパラメータの関数である。
【0068】
d軸電流中間値及びq軸電流中間値は、インバータの供給電圧及び/又はモータの温度に、大きく依存している。よって、解決表又は特定のリアルタイムアルゴリズムも、これらパラメータを考慮し得る。
【0069】
一実施形態によれば、解決表は、インバータの最低供給電圧及びモータの最低温度を考慮することによって設定される。
【0070】
インバータの最低供給電圧は、インバータの可能な限り低いインバータ供給電圧である。
【0071】
モータの最低温度は、検討されるモータシステムの可能な限り低い温度である。
【0072】
一実施形態によれば、d軸電流中間値及びq軸電流中間値は、解決表の補間又は特定のリアルタイムアルゴリズムの計算によって求められる。
【0073】
低リラクタンス又はゼロリラクタンス(Ld=Lq)を有するモータの場合、このシステムは非常に単純に解決されるので、解決表による補間ではなくリアルタイムの実行が選択される。
【0074】
一実施形態によれば、第2決定ステップは、前回の評価及び/又は今回の評価の間に達成されたモータの電流系の等価振幅を、その位相とは無関係に、入力として受信する。
【0075】
三相電流系の等価振幅は、その位相とは無関係に、例えば2乗される。第2ステップは、ステータ巻線の励磁力/減磁力の制御に、したがって、電流の変化を想定するような動的局面に焦点を当てる。
【0076】
例えば、d軸電流中間値は、前回の評価の間に達成されたモータのAC供給電流目標値、動的回生閾値、例えばモータのインダクタンスなどの磁気挙動の特性量、及び前回の評価からの経過時間を含む動的d軸電流最大値の関数として、第2決定ステップにおいて変更される。
【0077】
動的d軸電流最大値は、q軸電流目標値を妨げることなく、モータのAC供給電流の減衰を制御するために許容されるd軸電流の最大値に対応する。
【0078】
動的d軸電流最大値は、0以下に設定される。
【0079】
例えば、動的d軸電流最大値は、次の式によって表され得る。
[数9]
【0080】
Ccorrは、動的d軸電流最大値であり、
IDCdynminは、動的回生閾値であり、
I2
qstatはq軸電流中間値であり、
I2
ciblepreは、前回の評価の間に達成されたモータのAC供給電流目標値であり、
VDCは、インバータの供給電圧であり、ボルトで表され、
teは、前回の評価からの経過時間であり、
Lは、モータのインダクタンスである。
【0081】
kは、uvmとdqとを変換する係数(例えば、選択された規則により、3/2又は1)である。
【0082】
ルート内の負の値は、動的d軸電流最大値が0であることを意味することに注意すべきである。
【0083】
一実施形態によれば、第1決定ステップは、論理的回生電流の比較がグローバル回生閾値に対して実行される評価フェーズを備える。
【0084】
この比較は、モータの回転速度、インバータの供給電圧、d軸電流基準値、及び任意的に、d軸電流基準値が設定されると一方が他方から直接的に導出される基準設定値トルク又はq軸電流基準値から、例えば次の式(数10)によって実行される。
【0085】
もし評価フェーズの比較が条件を満たすなら、d軸電流基準値はd軸電流中間値となり、q軸電流基準値はq軸電流中間値となる。
【0086】
もし評価フェーズの条件が満たされないなら、d軸電流基準値及びq軸電流基準値は、ステップ1の続きに従って変更される。
[数10]
【0087】
kは、uvmとdqとを変換する係数(例えば、選択された規則により、3/2又は1)であり、
VDCは、インバータの供給電圧であり、ボルトで表され、
Racは、モータシステムのAC側の総等価抵抗(Ω)であり、
Pは、電気モータの極対数であり、
Ωは、モータの回転速度であり、rad・s-1で表され、
Iqstatは、q軸電流中間値であり、
Ψは、電気モータの磁束であり、Wbで表され、
Ld、Lqは、電気モータのd軸インダクタンス(H)又はq軸インダクタンス(H)であり、
IDCstatminは、静的回生閾値であり、
Idrefは、d軸電流基準値であり、アンペアで表され、
Iqrefは、q軸電流基準値であり、アンペアで表される。
【0088】
本発明は、本発明に係る方法によって制御される少なくとも1つのモータを備える、パワーステアリングシステムにも関する。
【図面の簡単な説明】
【0089】
本発明は、非限定的な例として与えられ、添付された概要図を参照し説明される本発明によるいくつかの実施形態に関する下記の記述により、より良く理解されるだろう。
【
図1】
図1は、本発明による方法を備えるパワーステアリングシステムの概略図である。
【
図2】
図2は、本発明による方法のダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0090】
車両2のステアリングシステム1の対象は、ハンドル3によって車両のホイール10、11の向きの角度を変更することによって、車両の進路を運転手が制御できるようにすることである。ホールの向きの角度は、特に、ハンドル3の角度θ3に関係する。運転手が、ハンドルに力T3(以下、「ハンドルトルク」と呼ばれる)を加えることによって、ハンドル3の角度θ3を変更する。このハンドルに加えられる力T3は、トルクセンサ23によって測定され得る。
【0091】
一般に、ステアリングシステム1は、前記ハンドル3、ラック6、及びタイロッド8、9にそれぞれ接続された2つのホイール10、11を含む複数の要素を備える。ラック6は、ホイール10、11の操作を可能にする、すなわちタイロッド8、9を介して、ホイール10、11の向きの角度を変更することを可能にする部分である。ラック6は、ハンドル3の角度の変動を、車両のホイール10、11の向きの角度の変動に変換する。
【0092】
電動パワーステアリングシステム1は、特に電気モータ12によって適用される基準設定値トルクCrefを求める、少なくとも1つのマイクロコントローラ20を備える。モータ12は、基準設定値トルクCrefに基づいて、モータトルクT12をラック6に加える。前記基準設定値トルクCrefは、当業者に知られた方法によりマイクロコントローラ20によって受信される様々なパラメータの、特にハンドル3に加えられた力T3の関数として求められる。
【0093】
電気モータ12は、好ましくは、2つの動作方向を有する電気モータであり、好ましくは、ブラシタイプ又はブラシレスタイプの同期型回転式電気モータである。
【0094】
本発明は、例えば機械式パワーステアリング(すなわち、一般に、ステアリングピニオン5によってラック6に噛み合うステアリングコラム4によって作られた機械式リンクがあり、ラック6それ自体が、車両2に固定されたケーシング7内を並進移動するよう案内される)、又は、不図示の機械式リンクのない電気式パワーステアリングシステム(「ステアバイワイヤ」と呼ばれ、ハンドルがラックから機械的に分離されている)の電気モータ12に適用される。
【0095】
機械式パワーステアリングの場合、電気モータ12は、いわゆる「シングルピニオン」機構を形成するために、ステアリングコラム4自体に、又は、いわゆる「ダブルピニオン」機構を形成するために、
図1に示すように、例えば、ステアリングコラム4がラック6に噛み合うことを可能にするステアリングピニオン5とは別のセカンドピニオン13によって、直接的にステアリングラック6に、歯車減速機式の減速機を介して噛み合い得る。
【0096】
本発明は、より詳細には、
図1に示すようなステアリングシステム又は他の用途の電気モータ12であり得る同期型電気モータ12を制御するための方法に関する。
【0097】
電気モータ12は、インバータからAC供給電流が供給され、このインバータは、ベクトル制御方式を用いてマイクロコントローラ20によって駆動される。
【0098】
インバータは、供給電圧VDCを有するインバータのDC供給電流IDCが電気的に供給される。このインバータは、d軸電流目標値Idcible及びq軸電流目標値Iqcibleに基づいてAC供給電流を、電気モータ12に供給する。モータトルクT12は、モータ12によって実際に与えられるトルクである。モータトルクT12は、モータ12のAC供給電流に依存する。モータ12のユーザは、モータトルクT12が基準設定値トルクCrefに近いこと又は等しいことを保証しようとする。
【0099】
以下、モータシステムによって、電気モータ12の制御を可能にする全ての要素を意味すると理解されるべきである。このモータシステムは、特に、モータ-インバータアセンブリと、マイクロコントローラ20とを含む。
【0100】
この方法は、
図2に示されており、d軸電流基準値I
dref及びq軸電流基準値I
qrefが、少なくとも、
基準設定値トルクC
ref
前記モータの回転速度Ω、及び、
インバータの供給電圧V
DC、
の関数として求められる予備決定ステップE0を備える。
【0101】
予備決定ステップE0の目的は、回生電流の影響なしに、基準設定値トルクCrefを得るためにd軸電流基準値Idref及びq軸電流基準値Iqrefを設定することにある。例えば、それは、低速において、最高効率を提供する、いわゆる「最大トルク/電流(Maximum Torque Per Ampere)」MTPA法に従って、起電力がインバータのDC供給電流の供給電圧に接近する高速において、減磁戦略(弱め磁束)が実行され得る。
【0102】
そして、マイクロコントローラ20は、モータ12のAC供給電流のd軸電流中間値Idstat及びq軸電流中間値Iqstatが、
基準設定値トルクCref又はq軸電流基準値Iqref、
モータ12の回転速度Ω、
インバータの供給電圧VDC、
静的回生閾値IDCstatmin、及び、
d軸電流基準値Idref、
の関数として求められる第1決定ステップE1を実行する。
【0103】
第1決定ステップE1は、モータ-インバータアセンブリが仮想静止状態にあると考えたときに、モータのAC供給電流の各成分、すなわちd軸電流I
dstat及びq軸電流I
qstatについて、中間値と呼ばれる第1値を想定することを可能にする。換言すれば、この方法は、モータ12が基準設定値トルクC
refを発揮することを保証し、かつ、次式を保証するように、仮想静止状態におけるモータのAC供給電流の中間値を求める。
[数11]
【0104】
IDCstatは、仮想静止状態におけるインバータのDC供給電流であり、アンペアで表され、
IDCstatminは、静的回生閾値であり、アンペアで表される。
【0105】
よって、静止状態において求められたモータ12のAC供給電流の中間値は、インバータのDC供給電流IDCが静的回生閾値IDCstatminよりも大きくなることを可能とする。換言すれば、この中間値は、一方でモータ12が基準設定値トルクCrefを発揮すること、他方でインバータのDC供給電流IDCstatが静的回生閾値IDCstatminよりも大きいことの保証を可能とするパラメータの関数として求められる。
【0106】
一実施形態によれば、マイクロコントローラ20は、第1決定ステップE1を実行するために、特定のアルゴリズムをリアルタイムで実行する及び/又はメモリに記憶された中間値の解決表を用いる。
【0107】
この解決表は、モータトルクT12が実質的に基準設定値トルクCrefと等しくなり、仮想静止状態におけるインバータのDC供給電流IDCstatが静的回生閾値IDCstatminより大きくなるように、例えば少なくとも回転速度Ω及び基準設定値トルクCrefの関数として、d軸電流Idstat及びq軸電流Iqstatの各ペアの中間値を記載している。
【0108】
実際、モータトルクT12が実質的に基準設定値トルクCrefと等しいことの保証を可能にするd軸電流及びq軸電流のペアは無限に存在する。よって、設定値トルクCref及び回転速度Ωのそれぞれの値について、仮想静止状態において、モータトルクT12が実質的に基準設定値トルクCrefと等しく、インバータのDC供給電流IDCstatが静的回生閾値IDCstatminより大きいことの保証を可能にするd軸電流及びq軸電流のペアを、例えば反復的な、アルゴリズムによって予測することが可能である。
【0109】
例えば、解決表又は特定のリアルタイムアルゴリズムは、負のd軸電流中間値を提供する解だけが考慮されている、次の連立方程式を解く必要がある。
[数12]
【0110】
Crefは、基準設定値トルクであり、N・mで表され、
Iqstatは、q軸電流中間値であり、
Idstatは、d軸電流中間値であり、
Ψは、電気モータの磁束であり、Wbで表され、
Ld、Lqは、電気モータのd軸インダクタンス(H)又はq軸インダクタンス(H)であり、
VDCは、インバータの供給電圧であり、ボルトで表され、
Racは、モータシステムのAC側の総等価抵抗(Ω)であり、
Pは、電気モータの極対数であり、
Ωは、モータの回転速度であり、rad・s-1で表され、
IDCstatminは、静的回生閾値であり、
kは、uvmとdqとを変換する係数(例えば、選択された規則により、3/2又は1)である。
【0111】
一実施形態によれば、解決表又は特定のリアルタイムアルゴリズムは、インバータの供給電圧VDC、及び電気モータ12の温度から選択されたパラメータの関数である。
【0112】
d軸電流中間値Idstat及びq軸電流中間値Iqstatは、インバータの供給電圧VDC及び/又はモータの温度に、大きく依存している。よって、解決表又は特定のリアルタイムアルゴリズムも、これらパラメータを考慮し得る。
【0113】
一実施形態によれば、解決表は、インバータの最低供給電圧及びモータの最低温度を考慮することによって設定される。
【0114】
インバータの最低供給電圧は、インバータの可能な限り低いインバータ供給電圧VDCである。
【0115】
モータの最低温度は、検討されるモータシステム12の可能な限り低い温度である。
【0116】
一実施形態によれば、d軸電流中間値Idstat及びq軸電流中間値Iqstatは、解決表の補間又は特定のリアルタイムアルゴリズムによって求められる。
【0117】
一実施形態によれば、第1決定ステップE1は、論理的回生電流の比較がグローバル回生閾値IDCminに対して実行される評価フェーズを備える。
【0118】
この比較は、モータ12の回転速度Ω、インバータVDCの供給電圧、d軸電流基準値Idref、及び任意的に、d軸電流基準値Idrefが設定されると一方が他方から直接的に導出される基準設定値トルクCref又はq軸電流基準値Iqrefから、例えば次の式(数13)によって実行される。
【0119】
もし評価フェーズの比較が条件を満たすなら、d軸電流基準値Idrefはd軸電流中間値Idstatとなり、q軸電流基準値Iqrefはq軸電流中間値Iqstatとなる。
【0120】
もし評価フェーズ条件がを満たされないなら、d軸電流基準値I
dref及びq軸電流基準値I
qrefは、ステップ1の続きに従って変更される。
[数13]
【0121】
kは、uvmとdqとを変換する係数(例えば、選択された規則により、3/2又は1)であり、
VDCは、インバータの供給電圧であり、ボルトで表され、
Racは、モータシステムのAC側の総等価抵抗(Ω)であり、
Pは、電気モータの極対数であり、
Ωは、モータの回転速度であり、rad・s-1で表され、
Iqstatは、q軸電流中間値であり、
Ψは、電気モータの磁束であり、Wbで表され、
Ld、Lqは、電気モータのd軸インダクタンス(H)又はq軸インダクタンス(H)であり、
IDCstatminは、静的回生閾値であり、
Idrefは、d軸電流基準値であり、アンペアで表され、
Iqrefは、q軸電流基準値であり、アンペアで表される。
【0122】
その後、マイクロコントローラ20は、d軸電流目標値Idcible及びq軸電流目標値Iqcibleが、
d軸電流中間値Idstat、
q軸電流中間値Iqstat、及び、
動的回生閾値IDCdynmin、
の関数として求められる、第2決定ステップE2を実行する。
【0123】
第2決定ステップE2では、モータのAC供給電流の各成分について、d軸電流中間値I
dstat、q軸電流中間値I
qstat、及び動的回生閾値I
DCdynminの関数として、目標値と呼ばれる第2値を想定することを可能にする。換言すれば、この方法は、モータ12が基準設定値トルクC
refを発揮し、かつインバータのDC供給電流I
DCがグローバル回生閾値I
DCmin以上になるように、モータ12に与えられるモータのAC供給電流目標値を、特に次式を保証することによって求める。
[数14]
【0124】
IDCdynは、仮想動的状態におけるインバータのDC供給電流であり、アンペアで表され、
IDCdynminは、動的回生閾値であり、アンペアで表される。
【0125】
一実施形態によれば、第2決定ステップE2は、前回の評価及び/又は今回の評価の間に達成されたモータの電流系の等価振幅を、その位相とは無関係に、入力として受信する。
【0126】
三相電流系の等価振幅は、その位相とは無関係に、例えば2乗される。第2ステップは、ステータ巻線の励磁力/減磁力の制御に、したがって、電流の変化を想定するような動的局面に焦点を当てる。例えば、d軸電流中間値Idstatは、前回の評価の間に達成されたモータ12のAC供給電流目標値、動的回生閾値IDCdynmin、例えばモータのインダクタンスなどの磁気挙動の特性量、及び前回の評価からの経過時間を含む動的d軸電流最大値Ccorrの関数として、第2決定ステップE2において変更される。
【0127】
動的d軸電流最大値は、q軸電流目標値を妨げることなく、モータのAC供給電流の減衰を制御するために許容されるd軸電流の最大値に対応する。
【0128】
動的d軸電流最大値は、0以下に設定される。
【0129】
例えば、動的d軸電流最大値C
corrは、例えば次の式によって表され得る。
[数15]
【0130】
Ccorrは、動的d軸電流最大値であり、
IDCdynminは、動的回生閾値であり、
I2
qstatはq軸電流中間値であり、
I2
ciblepreは、前回の評価の間に達成されたモータのAC供給電流目標値であり、
VDCは、インバータの供給電圧であり、ボルトで表され、
teは、前回の評価からの経過時間であり、
kは、uvmとdqとを変換する係数(例えば、選択された規則により、3/2又は1)であり、
Lは、モータのインダクタンスである。
【0131】
ルート内の負の値は、動的d軸電流最大値が0であることを意味することに注意すべきである。
【0132】
一実施形態によれば、第1決定ステップE1及び/又は第2決定ステップE2は、
AC側の総等価抵抗Rac、
電気モータ12の、d軸インダクタンスLd及び/又はq軸インダクタンスLq、
電気モータ12の磁束Ψ、
電気モータ12の極対数p、及び、
モータの最大許容AC供給電流、
から選択される少なくとも1つのパラメータを入力として受け取る。
【0133】
最後に、マイクロコントローラ20は、インバータが、d軸電流目標値Idcible及びq軸電流目標値Iqcibleに基づいて、ベクトル制御方式によって駆動される駆動ステップEPを実行する。
【0134】
本発明の方法によれば、d軸電流目標値Idcible及びq軸電流目標値Iqcibleをモータ12に与えているときに得られるAC供給電流が、一方でモータ12が基準設定値トルクCrefを発揮し、他方でインバータのDC供給電流IDCがグローバル回生閾値IDCminよりも大きくなることを可能にするように、モータのAC供給電流は、2つの連続したメインステップにおいて求められる。
【0135】
グローバル回生閾値IDCminは、モータの動作状態に関わらず、モータ-インバータアセンブリによって生成され得る回生電流の最大レベルに対応する。換言すれば、インバータのDC供給電流IDCは、グローバル回生閾値IDCmin以上になるだろう。グローバル回生閾値IDCminは、インバータのDC供給電流IDCとして許容される最低値である。よって、この方法は、モータトルクT12を基準設定値トルクCrefと実質的に等しく維持する間、追加要素を必要とすることなく、モータ-インバータアセンブリによって生成された回生電流のレベルの制限を可能にする。
【0136】
静的回生閾値IDCstatminと動的回生閾値IDCdynminとの合計に対応するグローバル回生閾値IDCminは、それから正の値に対応するモータの強制的な消費が誘発されることなく、生成される回生電流の量を制御するように、0A以下となるよう論理的に選択される。しかしながら、このシナリオは、技術的にも実現可能である。よって、0A以下のグローバル回生閾値は、回生電流がほとんどない、又は回生電流がないことに対応する。
【0137】
静的回生閾値IDCstatminは、本方法のユーザによって選択される。これは、モータが仮想静止状態にあるとき、つまり力のバランスがとれている仮想状態での、インバータのDC供給電流IDCstatの許容可能な最小値に対応する。換言すれば、仮想静止状態において、モータ-インバータアセンブリは、何ら動的なものを有さない。モータ内の電流は、位相も振幅も一定である。
【0138】
仮想静止状態において、次式のように記述できる。
[数16]
【0139】
Pstatは、モータ-インバータアセンブリの静止モードにおける電力であり、ワットで表される。この電力Pstatは、モータ-インバータアセンブリがエネルギーを消費するときには正であり、モータ-インバータアセンブリがエネルギーを生成するときは負である。
【0140】
Plossは、例えば、モータ巻線、プリント回路基板の配線、MOSFETのようなモータ-インバータアセンブリの電導体におけるジュール効果による電力損失である。このジュール効果による電力損失Plossは、常に正であり、ワットで表される。
【0141】
Pmecは、モータシステムの機械的動力であり、ワットで表される。この機械的動力Pmecは、基準モータトルク及び回転速度Ωが同じ符号(つまり、正、又は負)を有するときには、正であり、基準モータトルク及び回転速度Ωが逆の符号(つまり、一方が正、及び他方が負)を有するときには、負である。
【0142】
よって、基準モータトルク及び回転速度Ωが逆の符号を有するとき、モータシステムの電力Pstatは、負になる可能性がある。
【0143】
VDCは、インバータの供給電圧であり、ボルトで表される。このインバータの供給電圧VDCは、常に正である。
【0144】
IDCstatは、静止状態におけるインバータのDC供給電流であり、アンペアで表される。このDC供給電流IDCstatは、電力が負のときには負であり、電力が正のときには正である。
【0145】
静的回生閾値IDCstatminは、仮想静止状態におけるインバータのDC供給電流IDCstatとして許容される最低値に対応する。
【0146】
静的回生閾値IDCstatminは、選択されたマージンに応じて、正、ゼロ、又は負になるように選択される。
【0147】
-8Aの吸収容量を有する12VDC供給システムに対して、この閾値は例えば-4Aに設定され得て、48Wのマージンが残る。-2Aの吸収容量を有する48VDC供給システムに対して、この閾値は例えば-1Aに設定され得て、同様に48Wのマージンが残る。
【0148】
回生電流がほとんどない、又は回生電流が全くないことが要求される状況では、これは負である。
【0149】
静的回生閾値I
DCstatminは、次式のように求められる。
[数17]
【0150】
Plossは、モータ-インバータアセンブリの電導体におけるジュール効果による電力損失であり、
Pmecは、モータシステムの機械的動力であり、ワットで表され、
VDCは、インバータの供給電圧であり、ボルトで表され、
IDCstatminは、静的回生閾値であり、アンペアで表される。
【0151】
動的回生閾値IDCdynminは、本方法のユーザによって選択される。これは、モータ12が仮想動的状態、つまりモータのAC供給電流の変化のみが考慮される仮想状態にあるときの、インバータのDC供給電流IDCdynの許容可能な最小値に対応する。
【0152】
仮想動的状態において、次式のように記述できる。
[数18]
【0153】
Pdynは、モータステータの励磁電力であり、ワットで表される。この励磁電力Pdynは、ステータの磁気エネルギーが増加しているとき、つまり、励磁されている間は正であり、ステータの磁気エネルギーが減少しているとき、つまり、減磁されている間は負である。
【0154】
VDCは、インバータの供給電圧であり、ボルトで表される。
【0155】
IDCdynは、動作状態におけるインバータのDC供給電流であり、アンペアで表される。このDC供給電流IDCdynは、励磁電力Pdynが負のときには負であり、励磁電力Pdynが正のときには正である。
【0156】
動的回生閾値は、仮想動的状態においてステータの減磁について許容される最小値、つまり次式に対応する。
[数19]
【0157】
Pdynは、モータステータの励磁電力であり、ワットで表され、
VDCは、インバータの供給電圧であり、ボルトで表され、
IDCdynminは、動的回生閾値であり、アンペアで表さ、
動的回生閾値IDCdynminは、負になるように選択される。
【0158】
本方法の概略の原理は、第1決定ステップE1において、インバータのDC供給電流I
DCstatが特に静的回生閾値I
DCstatmin以上になるように、仮想静止状態におけるモータのAC供給電流を求め、その後、仮想動的状態におけるインバータのDC供給電流I
DCdynが動的回生閾値I
DCdynmin以下になるように、仮想静止状態におけるモータ12のAC供給電流のd軸電流中間値I
dstatを必要な場合にのみ変更する。よって、q軸電流中間値I
qstatが、q軸電流目標値I
qcibleになる。実際に、モータトルクT12は、q軸電流によって主に制御されているので、モータトルクT12を変化させることなく、このq軸電流の値を変更することは不可能である。しかしながら、q軸電流の減少によって生成された回生電流を、同時に生じるd軸電流の増加によって、これら2つの合計を含むようにして、少なくとも部分的に相殺することが可能である。最後に、このようにして、実際の状態におけるインバータのDC供給電流I
DCが、グローバル回生閾値I
DCmin以上であること、つまり次式の保証が可能である。
[数20]
【0159】
IDCは、インバータのDC供給電流であり、アンペアで表され、
IDCdynminは、動的回生閾値であり、アンペアで表され、
IDCstatminは、回生閾値であり、アンペアで表され、
IDCminは、グローバル回生閾値であり、アンペアで表される。
【0160】
当然、本発明は、記述され、添付された図面に表現された実施形態には限定されない。特に、様々な要素の構成に関して、又は技術的な均等物との置換によって、本発明の保護範囲から逸脱しないにも関わらず、改変が依然として可能である。
【外国語明細書】