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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181103
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/091 20060101AFI20231214BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20231214BHJP
   C03C 3/11 20060101ALI20231214BHJP
   C03B 17/06 20060101ALI20231214BHJP
   C03C 17/06 20060101ALI20231214BHJP
   C03C 17/25 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C03C3/091
C03C3/093
C03C3/11
C03B17/06
C03C17/06
C03C17/25 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083643
(22)【出願日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2022094461
(32)【優先日】2022-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022199083
(32)【優先日】2022-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良太
(72)【発明者】
【氏名】武田 都
【テーマコード(参考)】
4G059
4G062
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC04
4G059AC05
4G059AC22
4G059DA05
4G059EA05
4G062AA01
4G062BB01
4G062DA05
4G062DA06
4G062DB03
4G062DB04
4G062DC03
4G062DC04
4G062DD01
4G062DE01
4G062DE02
4G062DE03
4G062DF01
4G062EA01
4G062EA02
4G062EA03
4G062EB04
4G062EC01
4G062EC02
4G062ED01
4G062EE01
4G062EE02
4G062EE03
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4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
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4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
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4G062HH11
4G062HH12
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ06
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM12
4G062MM27
4G062NN29
4G062NN33
4G062NN34
(57)【要約】
【課題】ガラス製造工程にて気泡が生じにくくかつ、所望の熱膨張係数を備えたガラスを提供する。
【解決手段】ガラス組成として、質量%で、SiO 45~70%、Al 1~20%、B 5~20%、LiO 0~5%、NaO 15~20%、KO 0~1%、CaO 0~5%、ZnO 0~5%を含有し、30~380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が85×10-7~100×10-7/℃である、ガラス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO 45~70%、Al 1~20%、B 5~20%、LiO 0~5%、NaO 15~20%、KO 0~1%、CaO 0~5%、ZnO 0~5%を含有し、30~380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が85×10-7~100×10-7/℃である、ガラス。
【請求項2】
ガラスの軟化点が745℃以下である請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
板形状である請求項1に記載のガラス。
【請求項4】
曲面加工されている請求項3に記載のガラス。
【請求項5】
少なくとも一方の表面の表面粗さRaが0.1~5μmである請求項3に記載のガラス。
【請求項6】
板厚が0.1~3mmである請求項3に記載のガラス。
【請求項7】
少なくとも一方の表面に機能膜を有し、該機能膜が、反射防止膜、防汚膜、反射膜、擦傷防止膜の何れかである請求項3に記載のガラス。
【請求項8】
液相温度における粘度が104.5dPa・s以上である請求項1又は3に記載のガラス。
【請求項9】
オーバーフローダウンドロー法で成形されてなる請求項1又は3に記載のガラス。
【請求項10】
ヘッドマウントディスプレイ用部材に用いられる請求項1又は3に記載のガラス。
【請求項11】
半導体支持用ガラス基板に用いられる請求項1又は3に記載のガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、PDA(Personal Data Assistance)等の携帯型電子機器には、小型化及び軽量化が要求されている。これに伴い、これらの電子機器に用いられる半導体チップの実装スペースも厳しく制限されており、半導体チップの高密度な実装が課題になっている。そこで、近年では、三次元実装技術、すなわち半導体チップ同士を積層し、各半導体チップ間を配線接続することにより、半導体パッケージの高密度実装を図っている。
【0003】
新たなWLP(Wafer Level Package)として、fan out型のWLPが提案されている。fan out型のWLPは、ピン数を増加させることが可能であり、また半導体チップの端部を保護することにより、半導体チップの欠け等を防止することができる。fan out型のWLPでは、例えば、複数の半導体チップを支持ガラス基板上に配列した後、樹脂の封止材でモールドして、加工基板を形成した後に、加工基板の一方の表面に配線する工程、半田バンプを形成する工程等を有する。
【0004】
また、近年、ヘッドマウントディスプレイとして、帽子の鍔から垂れ下がったディスプレイに映像を投影させるデバイス、ディスプレイに外の景色と映像を表示させるメガネ型デバイス、シースルー導光板に映像を表示させるデバイス等が開発されている。
【0005】
シースルー導光板に映像を表示するデバイスでは、メガネを通して外部の景色を見ながら、導光板に表示される映像を見ることができる。更に左右に異なる映像を投影する技術を利用して3D表示を実現したり、眼の水晶体を利用して網膜に結合させる技術を利用して仮想現実空間を実現することも可能である。
【0006】
これらのデバイスには、曲面形状を有する光学部材が必要になり、この光学部材は、ガラス板(板形状のガラス)を曲面加工することにより作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/283305号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ガラス製造工程では、溶融ガラスを加熱するために、溶解槽内に電極を挿入して溶融ガラスを直接通電加熱する場合や、フィーダー、成形装置等を加熱して、溶融ガラスを間接通電加熱する場合もある。しかし、溶融ガラスを通電加熱する場合に、溶融ガラスに接する異なる金属部材間で電位差が生じると、溶融ガラスを介して電気的な回路が形成されて、正極及び負極に相当する金属/溶融ガラス界面で気泡が発生することがある。また、成形時の溶融ガラスの粘度は、ガラス組成によらず、略一定であるため、同一粘度における電気抵抗率が高い程、成形時に発生する気泡量が少なくなる。
【0009】
製品のガラス中に泡が残存すると、光透過率の低下やガラス強度の低下が起こり、ヘッドマウントディスプレイや半導体パッケージの不良率が高くなる虞がある。
【0010】
本技術は、上記事情に鑑みなされたものであり、その目的は、ガラス製造工程にて気泡が生じにくく、かつ所望の熱膨張係数を備えたガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するガラスの各態様について説明する。
【0012】
本発明者は、種々の実験を繰り返した結果、ガラスの各成分の含有量を厳密に規制すると共に、熱膨張係数を所定範囲に規制することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、態様1のガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 45~70%、Al 1~20%、B 5~20%、LiO 0~5%、NaO 15~20%、KO 0~1%、CaO 0~5%、ZnO 0~5%を含有し、30~380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が85×10-7~100×10-7/℃である。「30~380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数」は、ディラトメーターで測定した値を指す。
【0013】
態様1のガラスは、上記のように各成分の含有量を規制されている。これにより、熱膨張係数を所定の範囲内に調整することが可能になる。
【0014】
態様2のガラスは、態様1において、軟化点が745℃以下であることが好ましい。これにより、ヘッドマウントディスプレイ用として曲面加工時に金型等の熱劣化が抑制されると共に、ガラス板が金型の形状に倣って形状変化し易くなる。
【0015】
態様3のガラスは、態様1又は2において、板形状であることが好ましい。
【0016】
態様4のガラスは、態様3において、曲面加工されていることが好ましい。
【0017】
態様5のガラスは、態様3又は態様4において、少なくとも一方の表面の表面粗さRaが0.1~5μmであることが好ましい。ここで、「表面粗さRa」とは、JIS B0601-2001に定められた算術平均粗さRaを指す。
【0018】
態様6のガラスは、態様3から態様5のいずれか一つの態様において、板厚が0.1~3mmであることが好ましい。
【0019】
態様7のガラスは、態様3から態様6のいずれか一つの態様において、少なくとも一方の表面に機能膜を有し、該機能膜が、反射防止膜、防汚膜、反射膜、擦傷防止膜の何れかであることが好ましい。
【0020】
態様8のガラスは、態様1から態様7のいずれか一つの態様において、液相温度における粘度が104.5dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相温度における粘度」は、白金球引き上げ法で測定可能である。「液相温度」は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れた後、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶が析出する温度を測定することにより算出可能である。
【0021】
態様9のガラスは、態様1から態様8のいずれか一つの態様において、オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。
【0022】
態様10のガラスは、態様1から態様9のいずれか一つの態様において、ヘッドマウントディスプレイ用部材に用いられることが好ましい。
【0023】
態様11のガラスは、態様1から態様9のいずれか一つの態様において、半導体支持用ガラス基板に用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ガラス製造工程にて気泡が生じにくく、かつ所望の熱膨張係数を備えたガラスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のガラスは、ガラス組成として、ガラス組成として、質量%で、SiO 45~70%、Al 1~20%、B 5~20%、LiO 0~5%、NaO 15~20%、KO 0~1%、CaO 0~5%、ZnO 0~5%を含有することが好ましい。上記のように各成分の含有量を限定した理由を以下に示す。なお、各成分の含有量の説明において、%表示は、特に断りがある場合を除き、質量%を表す。
【0026】
SiOは、ガラスの骨格を形成する主成分である。SiOの含有量が少な過ぎると、ヤング率、耐酸性、耐候性が低下し易くなる。よって、SiOの好適な下限範囲は45%以上、50%以上、51%以上、52%以上、52.5%以上、55%以上、特に57%以上である。一方、SiOの含有量が多過ぎると、軟化点が不当に上昇することに加えて、失透結晶が析出し易くなって、液相温度が上昇し易くなる。よって、SiOの好適な上限範囲は70%以下、69%以下、68%以下、67%以下、66%以下、65%以下、64%以下、63%以下、62%以下、61%以下、60%以下、59%以下、特に58%以下である。
【0027】
Alは、ヤング率、耐候性を高める成分である。Alの好適な下限範囲は1%以上、3%以上、5%以上、6%以上、6.5%以上、特に6.8%以上である。一方、Alの含有量が多過ぎると、高温粘度が高くなり、曲面加工性が低下し易くなる。よって、Alの好適な上限範囲は20%以下、18%以下、16%以下、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下、10%以下、特に9%以下である。
【0028】
は、ガラスの骨格を形成すると共に、融剤として作用する成分である。Bの含有量が少な過ぎると、液相温度が低下し易くなる。よって、Bの好適な下限範囲は5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、12.5%以上、13%以上、特に14%以上である。一方、Bの含有量が多過ぎると、高温粘度が低くなり、化学的耐久性が低下し易くなる。よって、Bの好適な上限範囲は20%以下、19%以下、18%以下、17%以下、特に16%以下である。
【0029】
アルカリ金属酸化物(LiO、NaO、KO)は、軟化点を低下させる成分であるが、多量に導入すると、ガラスの粘性が低下し過ぎて、高い液相粘度を確保し難くなる。またヤング率が低下し易くなる。また、熱膨張係数を高める成分である。よって、LiO+NaO+KO(LiO、NaO及びKOの合量)の好適な下限範囲は15%以上、16%以上、16.4%以上、16.5%以上、特に17%以上であり、好適な上限範囲は20%以下、19.5%以下、19.3%以下、19%以下、18.5%以下、18%以下、特に17.9%以下である。
【0030】
LiOの好適な上限範囲は5%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下である。
【0031】
NaOの好適な下限範囲は15%以上、15.4%以上、16%以上、16.4%以上、17%以上、特に17.1%以上であり、好適な上限範囲は20%以下、19%以下、18%以下、17.9%以下、特に17.8%以下である。
【0032】
Oの好適な下限範囲は0%以上、特に0.1%以上であり、好適な上限範囲は5%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下である。なお、KOの導入原料は、他の成分の導入原料よりも有害不純物(例えば、放射線放出元素、着色元素)が多く含まれる。よって、有害不純物を除去する観点から、KOの含有量は、好ましくは1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下である。
【0033】
質量%比(NaO-Al)/SiOは、好ましくは0以上、0.05以上、0.1以上、0.11~0.4、0.12~0.3、特に0.13~0.2である。質量%比(NaO-Al)/SiOが小さ過ぎると、熱膨張係数が低くなり、軟化点が上昇し易くなる。なお、「(NaO-Al)/SiO」は、NaOの含有量からAlの含有量を減じた量をSiOの含有量で割った値を指す。
【0034】
質量%比NaO/(LiO+NaO+KO)を所定範囲に規制すれば、熱膨張係数を所望の範囲に調整しつつ、軟化点を低下させつつ、耐失透性を高めることができる。質量%比NaO/(LiO+NaO+KO)の好適な下限範囲は0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、特に0.95超である。なお、「NaO/(LiO+NaO+KO)」は、NaOの含有量をLiO、NaO及びKOの合量で割った値を指す。
【0035】
質量%比Al/(LiO+NaO+KO)を所定範囲に規制すれば、熱膨張係数を所望の範囲に調整しつつ、耐候性を維持した上で、軟化点を低下させることができる。質量%比Al/(LiO+NaO+KO)の好適な下限範囲は0以上、0.1以上、0.2以上、0.25以上、0.3以上、特に0.35超であり、好適な上限範囲は1.1以下、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.65以下、0.6以下、0.55以下、特に0.5以下である。なお、「Al/(LiO+NaO+KO)」は、Alの含有量をLiO、NaO及びKOの合量で割った値を指す。
【0036】
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOは、熱膨張係数を高める成分であり、軟化点を低下させる成分である。しかし、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOを多量に導入すると、熱膨張係数を所望の範囲に調整できなくなったり、密度が過大になったり、ヤング率が低下し易くなったり、また高温粘性が低下し過ぎて、高い液相粘度を確保し難くなる。よって、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO(MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合量)の好適な下限範囲は0%以上、0.1%以上、0.5%以上、1%以上、2%以上、2.5%以上、3%以上、3.5%以上、特に4%以上であり、好適な上限範囲は20%以下、15%以下、10%以下、8%以下、特に6%以下である。
【0037】
特に熱膨張係数を調製する観点から、MgO+CaO+SrO+BaO(MgO、CaO、SrO及びBaOの合量)の好適な下限範囲は0%以上、0.1%以上、0.5%以上、1%以上、2%以上、特に2.5%以上であり、好適な上限範囲は20%以下、15%以下、10%以下、8%以下、6%以下、5%以下、特に4.5%以下である。
【0038】
MgOは、熱膨張係数を高める成分であり、軟化点を低下させる成分である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、耐失透性、耐候性が低下し易くなる。MgOの好適な下限範囲は0%以上、0.1%以上、特に0.5%以上であり、好適な上限範囲は8%以下、5%以下、3%未満、2%以下、1%以下、特に0.9%以下である。
【0039】
CaOは、熱膨張係数を高める成分であり、軟化点を低下させる成分であり、またアルカリ土類金属酸化物の中では、導入原料が比較的安価であるため、原料コストを低廉化する成分である。しかし、CaOの含有量が多過ぎると、耐失透性、耐候性が低下し易くなる。CaOの好適な下限範囲は0%以上、0.1%以上、1%以上、2%以上、2.5%以上、特に2.8%以上であり、好適な上限範囲は5%以下、4%以下、特に3.8%以下である。
【0040】
CaOの含有量は、KOの含有量より多いことが好ましく、KOの含有量より1質量%以上多いことがより好ましく、KOの含有量より2質量%以上多いことが好ましい。CaOの含有量がKOの含有量より少ないと、低軟化点と高耐失透性を両立し難くなる。
【0041】
質量%比CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)を所定範囲に規制すれば、熱膨張係数を所望の範囲に調整しつつ、原料コストを低廉化した上で、軟化点を低下させることができる。質量%比CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)の好適な下限範囲は0以上、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、特に0.7超~0.95である。なお、「CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)」は、CaOの含有量をMgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合量で割った値を指す。
【0042】
SrOは、熱膨張係数を高める成分であり、耐失透性を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが崩れて、逆に耐失透性が低下し易くなる。また有害不純物が混入し易くなる。よって、SrOの好適な上限範囲は10%以下、3%以下、2%以下、1%以下、特に0.1%以下である。
【0043】
BaOは、熱膨張係数を高める成分であり、耐失透性を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが崩れて、逆に耐失透性が低下し易くなる。また有害不純物が混入し易くなる。よって、BaOの好適な上限範囲は10%以下、3%以下、2%以下、1%以下、特に0.1%以下である。
【0044】
ZnOは、熱膨張係数を高める成分であり、軟化点を顕著に低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、ガラスが失透し易くなる。よって、ZnOの好適な下限範囲は0%以上、0.1%以上、特に0.5%以上であり、好適な上限範囲は5%以下、3%以下、2%以下、特に1%未満である。
【0045】
質量%比ZnO/(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)を所定範囲に規制すれば、熱膨張係数を所望の範囲に調整しつつ、耐失透性を維持した上で、軟化点を低下させることができる。質量%比ZnO/(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)の好適な範囲は0以上、0.05以上、0.07~1.0、0.08~0.75、0.1~0.55、0.15~0.5、特に0.2超~0.4である。なお、「ZnO/(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)」は、ZnOの含有量をMgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合量で割った値を指す。
【0046】
質量%比B/(SiO+Al+MgO+CaO+SrO+BaO)を所定範囲に規制すれば、熱膨張係数を所望の範囲に調整しつつ、耐失透性を維持した上で、耐候性を高めることができる。質量%比B/(SiO+Al+MgO+CaO+SrO+BaO)の好適な下限範囲は0以上、0.05以上、0.08以上、0.1以上、0.13以上、0.15以上、0.17以上、0.172以上、0.175以上、0.178以上、特に0.180以上であり、好適な上限範囲は0.6以下、0.5以下、特に0.4以下である。なお、「B/(SiO+Al+MgO+CaO+SrO+BaO)」は、Bの含有量をSiO、Al、MgO、CaO、SrO、BaOの合量で割った値を指す。
【0047】
質量%比(B+LiO+NaO+KO)/(Al+MgO+CaO+SrO+BaO)を所定範囲に規制すれば、熱膨張係数を所望の範囲に調整しつつ、耐候性を維持した上で、ヤング率を高めることができる。質量%比(B+LiO+NaO+KO)/(Al+MgO+CaO+SrO+BaO)の好適な下限範囲は1以上、1.3以上、1.5以上、2.0以上、2.1以上、2.2以上、2.4以上、2.5以上、特に2.6以上であり、好適な上限範囲は7以下、6以下、特に5.5以下である。なお、「(B+LiO+NaO+KO)/(Al+MgO+CaO+SrO+BaO)」は、B、LiO、NaO、KOの合量をAl、MgO、CaO、SrO、BaOの合量で割った値を指す。
【0048】
質量%比B/(Al+2×MgO+2×CaO+2×SrO+2×BaO)を所定範囲に規制すれば、熱膨張係数を所望の範囲に調整しつつ、耐失透性や耐候性を維持した上で、溶融性を高めることができる。質量%比B/(Al+2×MgO+2×CaO+2×SrO+2×BaO)の好適な下限範囲は0以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、特に0.7以上であり、好適な上限範囲は3.0以下、2.5以下、2.0以下、1.7以下、1.5以下、1.0以下、特に0.8以下である。なお、「B/(Al+2×MgO+2×CaO+2×SrO+2×BaO)」は、Bの含有量をAlとMgO、CaO、SrO、BaOの含有量の2倍の合量で割った値を指す。
【0049】
上記成分以外にも、他の成分を導入してもよい。なお、上記成分以外の他の成分の含有量は、本発明の効果を的確に享受する観点から、合量で12%以下、10%以下、8%以下、特に5%以下が好ましい。
【0050】
は、ガラス骨格を形成する成分である。またガラスを安定化したり、耐失透性を改善したりする成分である。一方、Pの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐水性が低下したりし易くなる。Pの好適な上限範囲は5%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%未満である。
【0051】
TiOとZrOは、耐酸性を高める成分である。しかし、TiOとZrOの含有量が多過ぎると、耐失透性が低下したり、透過率が低下し易くなる。また有害不純物が混入し易くなる。TiOの好適な上限範囲は5%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%未満である。ZrOの好適な上限範囲は5%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%未満である。
【0052】
清澄剤として、As、Sb、CeO、SnO、F、Cl、SOの群から選択された一種又は二種以上を0~2%添加することができる。但し、As及びFは、環境的観点から、実質的に含有しないこと、つまり0.1%未満が好ましい。特に、清澄能力と環境的影響を考慮すると、清澄剤としてSnOが好ましい。SnOの好適な下限範囲は0%以上、0.1%以上、特に0.15%以上であり、好適な上限範囲は1%以下、0.5%以下、0.4%以下、特に0.3%以下である。Sbの好適な下限範囲は0%以上、0.03%以上、0.05以上、特に0.07%以上であり、好適な上限範囲は1%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、特に0.1%以下である。
【0053】
PbOとBiは、高温粘性を低下させる成分であるが、環境的観点から、実質的に含有しないこと、つまり0.1%未満が好ましい。
【0054】
、La、Nb、Gd、Ta、WOには、ヤング率等を高める働きがある。しかし、これらの成分の含有量が各々5%、特に1%より多いと、原料コストが高騰する。
【0055】
MoOは、不純物、或いは分相抑制成分として導入し得る成分である。またMoは、溶融工程における電極に含まれ得る成分であり、電気溶融加熱によりMoOが溶出し、溶融ガラス中に取り込まれる。しかし、MoOが多量に導入されると、透過率が低下し易くなる。よって、MoOの含有量は、好ましくは0~0.10%、0~0.05%、0~0.01%、0~0.007%、0~0.006%、特に0~0.002%である。
【0056】
本発明のガラスは、以下の特性を有することが好ましい。
【0057】
30~380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数α30-380は、好ましくは85×10-7~100×10-7/℃、86×10-7~99×10-7/℃、86×10-7~98×10-7/℃、87×10-7~98×10-7/℃、87×10-7~97.5×10-7/℃、87×10-7~96×10-7/℃、88×10-7~94×10-7/℃、特に89×10-7~93×10-7/℃である。平均線熱膨張係数α30-380が上記範囲外になると、各種周辺部材(特に各種金属膜等)の熱膨張係数に整合し難くなり、デバイスに組み込んだ時やガラス上に半導体パッケージを支持した際に、ガラス板の割れや破損が発生し易くなる。なお、「30~380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数α30-380」は、ディラトメーターで測定した値を指す。
【0058】
ガラス転移点Tgは、好ましくは700℃以下、650℃以下、特に600℃以下であり、300℃以上、400℃以上、特に500℃以上である。ガラス転移点Tgが上記範囲外になると熱処理工程において意図しない変形が生じやすくなる。
【0059】
屈伏点Tfは、好ましくは700℃以下、650℃以下、特に600℃以下であり、300℃以上、400℃以上、特に500℃以上である。屈伏点Tfが上記範囲外になると高温での熱処理工程においてガラスに意図しない変形が生じ易くなる。
【0060】
密度ρは、好ましくは3以下、2.8以下、特に2.6以下である。密度ρが上記値を有することにより、本発明のガラスを用いたデバイスの軽量化を図ることができる。密度の下限は、例えば2以上、2.1以上、2.2以上、2.3以上であることが好ましい。
【0061】
歪点Psは、好ましくは700℃以下、650℃以下、特に600℃以下であり、300℃以上、400℃以上、特に500℃以上である。歪点が低過ぎると、ガラス表面に機能性膜を高温で成膜する際に、ガラスに意図しない変形が生じ易くなる。
【0062】
徐冷点Taは、好ましくは800℃以下、700℃以下、600℃以下であり、300℃以上、400℃以上、特に500℃以上である。徐冷点Taが高すぎるとアニール処理を行う際に温度が高くなり、製造コストが増加する。
【0063】
軟化点Tsは745℃以下であり、好ましくは720℃以下、710℃以下、特に660~700℃である。軟化点Tsが高過ぎると、曲面加工時に金型等の熱劣化が促進されると共に、ガラスが金型の形状に倣って形状変化し難くなる。
【0064】
ヤング率は、好ましくは70GPa以上、71GPa以上、特に72GPa以上である。ヤング率が低過ぎると、ガラスの平均結合強度が低くなって、クラックが進展し易くなる。ヤング率の上限は、例えば120GPa以下、特に110GPa以下としてもよい。
【0065】
剛性率は25~50GPa、27~40GPa、特に29~35GPaであることが好ましい。剛性率が低すぎても高すぎても、ガラスの機械的強度が低下し易くなる。
【0066】
ポアソン比は0.35以下、0.32以下、0.3以下、0.28以下、0.26以下、特に0.25以下であることが好ましい。ポアソン比が大きすぎると、ガラスの機械的強度が低下し易くなる。ポアソン比の下限は、例えば0.1以上としてもよい。
【0067】
高温粘度104.0dPa・sにおける温度は、好ましくは1500℃以下、1400℃以下、1300℃以下、1200℃以下、1100℃以下、特に1000℃以下である。高温粘度104.0dPa・sにおける温度が高くなると、溶融性が低下して、ガラスの製造コストが高騰する。ここで、「高温粘度104.0dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定可能である。高温粘度104.0dPa・sにおける温度の下限は、例えば800℃以上としてもよい。
【0068】
高温粘度103.0dPa・sにおける温度は、好ましくは1500℃以下、1400℃以下、1300℃以下、特に1200℃以下である。高温粘度103.0dPa・sにおける温度が高くなると、溶融性が低下して、ガラスの製造コストが高騰する。ここで、「高温粘度103.0dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定可能である。高温粘度103.0dPa・sにおける温度の下限は、例えば800℃以上としてもよい。
【0069】
高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、好ましくは1500℃以下、1400℃以下、1350℃以下、1320℃以下、特に1300℃以下である。高温粘度102.5dPa・sにおける温度が高くなると、溶融性が低下して、ガラスの製造コストが高騰する。ここで、「高温粘度102.5dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定可能である。高温粘度102.5dPa・sにおける温度の下限は、例えば900℃以上としてもよい。
【0070】
高温粘度102.0dPa・sにおける温度は、好ましくは1600℃以下、1500℃以下、1400℃以下、特に1300℃以下である。高温粘度102.0dPa・sにおける温度が高くなると、溶融性が低下して、ガラスの製造コストが高騰する。ここで、「高温粘度102.0dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定可能である。高温粘度102.0dPa・sにおける温度の下限は、例えば1000℃以上としてもよい。
【0071】
液相温度TLは、好ましくは860℃未満、825℃以下、800℃以下、780℃以下、770℃以下、760℃以下、特に750℃以下である。液相温度TLにおける粘度ηTLは、好ましくは104.5dPa・s以上、104.6dPa・s以上、105.2dPa・s以上、105.5dPa・s以上、105.8dPa・s以上、特に106.0dPa・s以上である。このようにすれば、ダウンドロー法、特にオーバーフローダウンドロー法でガラス板を成形し易くなるため、板厚が小さいガラス板を作製し易くなる。更に、成形時にガラスに失透結晶が発生し難くなる。結果として、ガラス板の製造コストを低下させることができる。
【0072】
ところで、ガラス製造工程では、溶融ガラスを加熱するために、溶解槽内に電極を挿入して直接通電加熱する場合があり、フィーダー、成形装置等への間接通電加熱する場合もある。しかし、溶融ガラスを通電加熱する場合に、溶融ガラスに接する異なる金属部材間で電位差が生じると、溶融ガラスを介して電気的な回路が形成されて、正極及び負極に相当する金属/溶融ガラス界面で気泡が発生することがある。
【0073】
具体的には、電気的な回路が形成されると、下記の反応が生じて正極側となる部分で気泡が生じ得る。
正極側: O2- → 0.5O + 2e-
負極側: 0.5O + 2e- → O2-
【0074】
ファラデーの電気分解の法則よると、電気分解を通じて各電極で変化する物質の質量は、流れる電気量に比例する(下記数式1参照)。
【0075】
[数1]
m=(Q・M)/(F・Z)
m:変化した物質の質量(g)
Q:流れた電気量(C)
M:物質のモル質量(g/mol)
F:ファラデー定数(C/mol)
Z:1分子の物質の変化に関与する電子数
【0076】
ここで、電気量Qは電流Iと時間tの積で表される(数式2参照)。またオームの法則より、電圧は抵抗と電流の積で表される(数式3参照)。
【0077】
[数2]
Q=I・t
I:電流(A)
t:時間(秒)
【0078】
[数3]
E=R・I
E:電圧(V)
R:抵抗(Ω)
I:電流(A)
【0079】
抵抗R(Ω)は、ガラスの電気抵抗率ρ(Ω・cm)と測定装置により決まるセル定数κ(cm-1)の積で表される(数式4参照)。
【0080】
[数4]
R=ρ・κ
R:抵抗(Ω)
ρ:電気抵抗率(Ω・cm)
κ:セル定数(cm-1
【0081】
数式2~4により、電気量Qと電気抵抗率ρの関係は数式5のようになり、電気量Qと電気抵抗率ρは反比例する。すなわち、電気抵抗率ρが高い程、電気量Qが少なくなり、変化した物質の質量m=気泡量が減ることが分かる。
【0082】
[数5]
Q=(E・t)/(ρ・κ)
【0083】
また、成形時の溶融ガラスの粘度は、ガラス組成によらず、略一定であるため、同一粘度における電気抵抗率が高い程、成形時に発生する気泡量が少なくなる。
【0084】
よって、溶融ガラスの電気抵抗率は高い方が好ましく、測定周波数1kHz、高温粘度105.0dPa・sにおける電気抵抗率Logρは、好ましくは0.5Ω・cm以上、0.6Ω・cm以上、0.7Ω・cm以上、0.8Ω・cm以上、0.9Ω・cm以上、1.0Ω・cm以上、特に1.1Ω・cm以上である。測定周波数1kHz、高温粘度105.0dPa・sにおける電気抵抗率Logρが低過ぎると、溶融ガラス中に気泡が発生して、泡不良が多くなり、ガラスの製造コストが高騰する。ここで、「測定周波数1kHz、高温粘度105.0dPa・sにおける電気抵抗率Logρ」は、2端子法で測定可能である。なお、ガラス組成中のBを増量すれば、測定周波数1kHz、高温粘度105.0dPa・sにおける電気抵抗率Logρを高めることができる。
【0085】
測定周波数1kHz、高温粘度103.0dPa・sにおける電気抵抗率Logρは、好ましくは0.1Ω・cm以上、0.2Ω・cm以上、0.3Ω・cm以上、0.4Ω・cm以上、0.5Ω・cm以上、0.6Ω・cm以上、特に0.7Ω・cm以上である。測定周波数1kHz、高温粘度103.0dPa・sにおける電気抵抗率Logρが低過ぎると、溶融ガラス中に気泡が発生して、泡不良が多くなり、ガラスの製造コストが高騰する。ここで、「測定周波数1kHz、高温粘度103.0dPa・sにおける電気抵抗率Logρ」は、2端子法で測定可能である。なお、ガラス組成中のBを増量すれば、測定周波数1kHz、高温粘度103.0dPa・sにおける電気抵抗率Logρを高めることができる。
【0086】
電気抵抗率の測定温度を固定する場合(例えば、測定周波数1kHz、1300℃における電気抵抗率を測定する場合)、ガラス組成中のSiOを増量すれば、電気抵抗率が上昇し、アルカリ金属酸化物を増量すれば、電気抵抗率が低下し易くなる。
【0087】
厚み1mm、254nmにおける透過率T254は、好ましくは5%以上、10%以上、20%以上、25%以上、特に30%以上である。厚み1mm、254nmにおける透過率が低過ぎると、ガラスを支持ガラス基板として用いる際、加工基板の加工処理後に、短波長側の光を用いて加工基板を支持ガラス基板から剥離し難くなる。
【0088】
本発明のガラスは、ガラスに含まれる残存泡の最大寸法が小さいほうが好ましく、好ましくは400μm以下、380μm以下、350μm以下、310μm以下、290μm以下、260μm、230μm以下、200μm以下、180μm以下、130μm以下、80μm以下、50μm以下、特に35μm以下であることが好ましい。残存泡の最大寸法が小さいほど、ガラスの透過率やガラスをヘッドマウントディスプレイ等にした際の視認性が高まる。また、ガラスの強度も高くすることができる。残存泡の最大寸法の下限値は、特に制限はないものの、例えば、0.1μm以上である。
【0089】
残存泡の最大寸法は、最大の大きさの泡の直径を測定した値であり、市販の画像検査装置や偏光顕微鏡で測定可能である。
【0090】
本発明のガラスは、ダウンドロー法、特にオーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。オーバーフローダウンドロー法は、耐熱性の樋状構造物の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下頂端で合流させながら、下方に延伸してガラス板を製造する方法である。オーバーフローダウンドロー法では、ガラス板の表面となるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形される。このため、表面平滑性が高いガラス板を作製し易くなる。
【0091】
ガラス板の成形方法として、オーバーフローダウンドロー法以外にも、例えば、スロットダウン法、リドロー法、フロート法、ロールアウト法等を採択することもできる。
【0092】
本発明のガラスは、上記の通り、低軟化点であるため、金型等の形状に倣って、曲面加工を適正に行うことができる。よって、本発明のガラスは、板形状が曲面加工されていることが好ましく、熱処理により曲面加工されていることが更に好ましい。また、曲面加工により曲面形状を形成する場合、その曲面の曲率半径を100~2000mm、特に200~1000mmとすることが好ましい。このようにすれば、ヘッドマウントディスプレイ用部材に適用し易くなる。
【0093】
本発明のガラスにおいて、少なくとも一方の表面の表面粗さRaは0.1~5μm、特に0.3~3μmが好ましい。特に、金型を用いて熱処理により曲面加工を行う場合、金型と接触表面の表面粗さRaを0.1~5μm、特に0.3~3μmに規制することが好ましい。このようにすれば、表示画像を不鮮明にすることなく、曲面加工の効率を高めることができる。なお、金型と接触表面の表面粗さRaが大きい場合は、その表面をファイアポリッシュすれば、その表面粗さRaを低下させることができる。
【0094】
なお、本発明のガラスは、曲面加工せずにダウンドロー法で成形した板状のガラスをそのまま使用することもできる。その場合、表面の表面粗さRaは10nm以下、9nm以下、8nm以下、7nm以下、6nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下、2nm以下、特に1nm以下が好ましい。
【0095】
本発明のガラスは、表面にイオン交換による圧縮応力層が形成されていないことが好ましい。このようにすれば、ガラスの製造コストを低廉化することができる。
【0096】
本発明のガラスは、板形状を有することが好ましく、その板厚は、好ましくは3.0mm以下、2.5mm以下、2.0mm以下、1.5mm以下、1.0mm以下、特に0.9mm以下である。板厚が薄くなる程、ガラス板を軽量化し易くなり、曲面加工を行い易くなる。一方、板厚が薄過ぎると、ガラス板自体の強度が低下する。よって、板厚は、好ましくは0.1mm以上、0.2mm以上、0.3mm以上、0.4mm以上、0.5mm以上、0.6mm以上、特に0.7mm超である。
【0097】
本発明のガラスは、板形状を有し、少なくとも一方の表面に機能膜を有し、該機能膜が、反射防止膜、防汚膜、反射膜、擦傷防止膜の何れかであることが好ましい。
【0098】
反射防止膜としては、例えば、相対的に屈折率が低い低屈折率層と相対的に屈折率が高い高屈折率層とが交互に積層された誘電体多層膜が好ましい。これにより、各波長における反射率を制御し易くなる。反射防止膜は、例えば、スパッタリング法やCVD法などにより形成することができる。各波長(特に波長400~700nm)における反射防止膜の反射率は、例えば1%以下、0.5%以下、0.3%以下、特に0.1%以下であることが好ましい。
【0099】
防汚膜は、フッ素含有シラン化合物を防汚層形成用組成物に含有することが好ましく、フルオロアルキル基またはフルオロアルキルエーテル基を有するシラン化合物溶液をコーティングして作製する。特に、フッ素含有シラン化合物がシラザンもしくはアルコキシシランであることが好ましい。また、前記フルオロアルキル基またはフルオロアルキルエーテル基を有するシラン化合物のなかでも、シラン化合物中のフルオロアルキル基が、Si原子1つに対し、1つ以下の割合でSi原子と結合されており、残りは加水分解性基もしくはシロキサン結合基であるシラン化合物が好ましい。ここでいう加水分解性の基としては、例えばアルコキシ基等の基であり、加水分解によりヒドロキシル基となり、それにより前記シラン化合物は重縮合物を形成する。
【0100】
反射膜としては、Al等の金属膜が好ましい。耐擦傷性膜としては、SiO、Si等の無機膜が好ましい。
【0101】
本発明のガラスは、上記の通り、ヘッドマウントディスプレイ用部材として好適であるが、それ以外にも、車両に搭載されるセンサー部材(特に車両間距離を測定するためのセンサー部材)又は光部品用部材に用いることが好ましい。また、半導体支持用ガラス基板に用いられることが好ましい。
【0102】
車両に搭載されるセンサー部材としては、車間距離測定用LiDAR(Light Detection and Ranging)のフォトダイオード等が挙げられる。一般的に、フォトダイオードは耐侯性と外部からの耐衝撃性を高めるために、樹脂、セラミックス、金属等のパッケージに実装された後、パッケージとの熱膨張差ができるだけ小さいカバーガラスで封止することで作製される。
【0103】
この用途のカバーガラスは、入射光が反射した光やフォトダイオードで反射した光が再度反射してフォトダーオードに入射し、ノイズになることを防止するため、反射防止膜が形成されることがある。また、車間距離測定用の光源として、紫外光、可視光、近赤外光等が用いられるが、近年では、太陽光のスペクトルの影響が比較的少ない近赤外光、特に920~960nm帯域の光が用いられることが多い(例えば中心波長940nm)。将来的には、太陽光の影響が更に少ない900~1690nm帯域の赤外光が使用される可能性がある。よって、この用途の反射防止膜は、900nm以上の波長の光を反射することが好ましく、900~1690nmの波長域(特に波長940nm)における反射防止膜の反射率は1%以下、0.5%以下、0.3%以下、特に0.1%以下であることが好ましい。なお、反射防止膜の反射率は、波長900nm以上の領域において、極小値を有していてもよく、その極小値を示す波長領域は、光源の中心波長と一致していることが好ましい。
【0104】
本発明のガラスは、半導体支持用ガラス基板として使用する際、ウエハ状が好ましく、その直径は100mm以上500mm以下、特に150mm以上450mm以下が好ましい。このようにすれば、fan out型のWLPの製造工程に適用し易くなる。必要に応じて、それ以外の形状、例えば矩形等の形状に加工してもよい。
【0105】
真円度は、1mm以下、0.1mm以下、0.05mm以下、特に0.03mm以下が好ましい。真円度が小さい程、fan out型のWLPの製造工程に適用し易くなる。なお、「真円度」は、ノッチ部を除き、ウエハの外形の最大値から最小値を減じた値である。
【0106】
板厚は、好ましくは2.0mm未満、1.5mm以下、1.2mm以下、1.1mm以下、1.0mm以下、特に0.9mm以下である。板厚が薄くなる程、積層体の質量が軽くなるため、ハンドリング性が向上する。一方、板厚が薄過ぎると、支持ガラス基板自体の強度が低下して、支持基板としての機能を果たし難くなる。よって、板厚は、好ましくは0.1mm以上、0.2mm以上、0.3mm以上、0.4mm以上、0.5mm以上、0.6mm以上、特に0.7mm超である。
【0107】
全体板厚偏差(TTV)は、好ましくは5μm以下、4μm以下、3μm以下、2μm以下、1μm以下、特に0.1~1μm未満である。また算術平均粗さRaは、好ましくは20nm以下、10nm以下、5nm以下、2nm以下、1nm以下、特に0.5nm以下である。表面精度が高い程、加工処理の精度を高め易くなる。特に配線精度を高めることができるため、高密度の配線が可能になる。また支持ガラス基板の強度が向上して、支持ガラス基板及び積層体が破損し難くなる。更に支持ガラス基板の再利用回数を増やすことができる。なお、「算術平均粗さRa」は、触針式表面粗さ計又は原子間力顕微鏡(AFM)により測定可能である。
【0108】
本発明のガラスは、半導体支持用ガラス基板として使用する際、オーバーフローダウンドロー法で成形した後に、表面を研磨されてなることが好ましい。このようにすれば、全体板厚偏差(TTV)を2.0μm未満、1.5μm以下、1.0μm以下、特に0.1~1.0μm未満に規制し易くなる。
【0109】
反り量は、好ましくは60μm以下、55μm以下、50μm以下、1~45μm、特に5~40μmである。反り量が小さい程、加工処理の精度を高め易くなる。特に配線精度を高めることができるため、高密度の配線が可能になる。
【0110】
本発明のガラスは、半導体支持用ガラス基板として使用する際、ノッチ部(ノッチ形状の位置合わせ部)を有することが好ましく、ノッチ部の深部は平面視で略円形状又は略V溝形状であることがより好ましい。これにより、支持ガラス基板のノッチ部に位置決めピン等の位置決め部材を当接させて、支持ガラス基板を位置固定し易くなる。結果として、支持ガラス基板と加工基板の位置合わせが容易になる。特に、加工基板にもノッチ部を形成して、位置決め部材を当接させると、積層体全体の位置合わせが容易になる。
【0111】
本発明のガラスは、半導体支持用ガラス基板として使用する際、イオン交換処理が行われていないことが好ましく、表面に圧縮応力層を有しないことが好ましい。イオン交換処理を行うと、支持ガラス基板の製造コストが高騰するが、イオン交換処理を行わなければ、支持ガラス基板の製造コストを低下させることが可能になる。更にイオン交換処理を行うと、支持ガラス基板の全体板厚偏差(TTV)を低減し難くなるが、イオン交換処理を行わなければ、そのような不具合を解消し易くなる。なお、本発明の支持ガラス基板は、イオン交換処理を行い、表面に圧縮応力層を形成する態様を排除するものではない。機械的強度を高める観点だけに着目すると、イオン交換処理を行い、表面に圧縮応力層を形成することが好ましい。
【実施例0112】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0113】
表1~20は、本発明の実施例1~72と比較例1を示している。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
【表4】
【0118】
【表5】
【0119】
【表6】
【0120】
【表7】
【0121】
【表8】
【0122】
【表9】
【0123】
【表10】
【0124】
【表11】
【0125】
【表12】
【0126】
【表13】
【0127】
【表14】
【0128】
【表15】
【0129】
【表16】
【0130】
【表17】
【0131】
【表18】
【0132】
【表19】
【0133】
【表20】
【0134】
まず表1~10のガラス組成になるように、ガラス原料を調合したガラスバッチを白金坩堝に入れ、1200~1500℃で4時間溶融した。ガラスバッチの溶解に際しては、白金スターラーを用いて攪拌し、均質化を行った。次いで、得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、板状に成形した後、徐冷点Taより20℃程度高い温度から、3℃/分の速度で常温まで徐冷した。得られた各試料について、30~380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数α、密度ρ、歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Ts、ガラス転移点Tg、屈伏点Tf、ヤング率、剛性率、ポアソン比、高温粘度104.0dPa・sにおける温度、高温粘度103.0dPa・sにおける温度、高温粘度102.5dPa・sにおける温度、高温粘度102.0dPa・sにおける温度、液相温度TL、液相温度TLにおける粘度ηTL、測定周波数1kHz、高温粘度105.0dPa・sにおける電気抵抗率Logρ(105.0dPa・s)、測定周波数1kHz、高温粘度103.0dPa・sにおける電気抵抗率Logρ(103.0dPa・s)、波長254nmにおける光透過率T254、残存泡の最大寸法、耐候性を評価した。測定結果を表11~20に示す。
【0135】
30~380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数α、ガラス転移点Tg、屈伏点Tfは、ディラトメーターで測定した値である。
【0136】
密度ρは、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
【0137】
歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Tsは、ASTM C336又はASTM C338の方法に基づいて測定した値である。
【0138】
ヤング率、剛性率、ポアソン比は、市販の装置で、共振法を用いて測定した値である。
【0139】
高温粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・s、102.0dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0140】
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を顕微鏡観察にて測定した値である。液相温度TLにおける粘度ηTLは、液相温度TLにおけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0141】
測定周波数1kHz、高温粘度105.0dPa・sにおける電気抵抗率Logρ(105.0dPa・s)、及び測定周波数1kHz、高温粘度103.0dPa・sにおける電気抵抗率Logρ(103.0dPa・s)は、2端子法で測定した値である。
【0142】
波長254nmにおける光透過率T254はダブルビーム型分光光度計を用いて測定した反射損失を含む値である。測定試料として、厚みが1mmであり、両面を光学研磨面(鏡面)に研磨したガラス板を使用した。
【0143】
残存泡の最大寸法は、市販の画像検査装置や偏光顕微鏡で、最大の大きさの泡の直径を測定した値である。
【0144】
耐候性はPCT(Pressure Cooker Test)による加速劣化試験で評価したものである。具体的には、ガラスを、121℃、湿度95%の環境下で24時間保持した後、目視観察で、白濁がないものを「〇」、白濁したものを「×」とした。
【0145】
表11~20に示すように、実施例No.1~72は、30~380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が、85.9~97.7×10-7/℃、軟化点Tsが661~716℃、液相温度TLにおける粘度ηが104.5dPa・s以上、残存泡の最大寸法が9~390μmであった。よって、実施例1~72は、所定の平均線熱膨張係数と残存泡の最大寸法が小さいガラスが得られ、ヘッドマウントディスプレイや半導体支持ガラス基板として使用できると考えられる。一方、比較例1は、30~380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が、110.7×10-7/℃、残存泡の最大寸法が500μmであった。比較例1のガラスは所定外の平均線熱膨張係数であり、かつ残存泡の最大寸法が大きいガラスであるため、例えば、ヘッドマウントディスプレイや半導体支持ガラス基板として使用し難いものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明のガラスは、曲面加工性と耐失透性に優れるため、ヘッドマウントディスプレイ用部材や半導体支持用ガラス基板に好適である。また、それ以外にも、耐失透性に優れるため、CCDやCMOS方式の撮像素子用カバーガラス等にも好適である。また、曲面加工性(熱加工性)に優れるため、医薬用管ガラスにも好適である。