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特開2023-181110含窒素ポリマーおよびそれを含むフィルム、二次電池セパレータ、高分子固体電解質、イオン分離膜、二次電池、車両、飛行体、電子機器、ガス分離膜
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  • 特開-含窒素ポリマーおよびそれを含むフィルム、二次電池セパレータ、高分子固体電解質、イオン分離膜、二次電池、車両、飛行体、電子機器、ガス分離膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181110
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】含窒素ポリマーおよびそれを含むフィルム、二次電池セパレータ、高分子固体電解質、イオン分離膜、二次電池、車両、飛行体、電子機器、ガス分離膜
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/00 20060101AFI20231214BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231214BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20231214BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20231214BHJP
   H01M 50/423 20210101ALI20231214BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20231214BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20231214BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20231214BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20231214BHJP
   B01D 71/62 20060101ALI20231214BHJP
   B01D 71/64 20060101ALI20231214BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C08G69/00
C08J5/18 CFG
C08G73/10
H01M50/414
H01M50/423
H01M50/489
H01M10/0565
B01D53/22
B01D71/56
B01D71/62
B01D71/64
B01D69/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089374
(22)【出願日】2023-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2022094099
(32)【優先日】2022-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】濱田 拓実
(72)【発明者】
【氏名】佃 明光
【テーマコード(参考)】
4D006
4F071
4J001
4J043
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA03
4D006MA12
4D006MB04
4D006MB06
4D006MB15
4D006MB16
4D006MC54X
4D006MC57
4D006MC58
4D006NA03
4D006NA54
4D006NA62
4D006PA01
4D006PB18
4D006PB63
4D006PB64
4F071AA54
4F071AA55
4F071AA60
4F071AC12
4F071AC19
4F071AE19
4F071AF08Y
4F071AF20Y
4F071AF61Y
4F071AG28
4F071AG33
4F071AG34
4F071AH15
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4J001DA01
4J001DB02
4J001DC27
4J001EB28
4J001EB37
4J001EC36
4J001EC65
4J001EE69A
4J001FB03
4J001FC06
4J001GA13
4J001JA07
4J001JA12
4J001JB23
4J001JB29
4J043PA04
4J043PA08
4J043QB15
4J043QB16
4J043QB23
4J043QB26
4J043QB31
4J043QB33
4J043RA06
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA31
4J043SA47
4J043SA54
4J043SA61
4J043SB03
4J043TA22
4J043TA26
4J043TA47
4J043TA71
4J043TB01
4J043TB03
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA521
4J043UA531
4J043UB401
4J043ZA32
4J043ZB11
4J043ZB15
4J043ZB47
5H021EE02
5H021EE07
5H021HH00
5H021HH01
5H029AJ06
5H029AJ11
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM16
5H029DJ04
5H029EJ12
5H029HJ00
5H029HJ02
(57)【要約】
【課題】イオン伝導性に優れる、含窒素ポリマーおよびそれを含むフィルム、二次電池セパレータ、高分子固体電解質、イオン分離膜、二次電池、車両、飛行体、電子機器、ガス分離膜を提供すること。
【解決手段】以下の(1)と(2)を同時に満たす大環状構造(A)を主鎖骨格中に含むことを特徴とする、含窒素ポリマーとする。
(1)環員数が12以上30以下の複素環構造を有する。
(2)環状構造中のヘテロ原子の個数が2より多い。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)と(2)を同時に満たす大環状構造単位(A)を主鎖骨格中に含む、含窒素ポリマー。
(1)環員数が12以上30以下の複素環構造を有する。
(2)環状構造を構成する原子として含まれるヘテロ原子の個数が2より多い。
【請求項2】
大環状構造単位(A)の環状構造を構成する原子として含まれるヘテロ原子の個数が、大環状構造単位(A)の員環数に対して15%以上40%以下である、請求項1に記載の含窒素ポリマー。
【請求項3】
大環状構造単位(A)の環状構造を構成する原子として含まれるヘテロ原子が酸素および/または窒素である、請求項1に記載の含窒素ポリマー。
【請求項4】
ポリアミド、ポリイミド、またはポリアミドイミドを主成分として含む、請求項1に記載の含窒素ポリマー。
【請求項5】
大環状構造単位(A)が化学式(I)に記載の構造を含む、請求項1または4に記載の含窒素ポリマー。
化学式(I):
【化1】
n、mはそれぞれ、3以下のいずれかの自然数である。
【請求項6】
大環状構造単位(A)を含む繰り返し単位の個数が、全繰り返し単位の個数に対して5~50%の数的割合を占める、請求項1または4に記載の含窒素ポリマー。
【請求項7】
150℃における熱収縮率が-2.0%以上10.0%以下である、請求項1または4に記載の含窒素ポリマーを含む、フィルム。
【請求項8】
少なくとも1方向のヤング率が5.0GPa以上20.0GPa以下である、請求項1または4に記載の含窒素ポリマーを含む、フィルム。
【請求項9】
COのガス透過係数が10barrer以上100barrer以下である、請求項1または4に記載の含窒素ポリマーを含む成形体。
【請求項10】
COのガス透過係数をα、Nのガス透過係数をβとした時、10<α/β<50を満たす、請求項1または4に記載の含窒素ポリマーを含む成形体。
【請求項11】
請求項1または4に記載の含窒素ポリマーを含む、二次電池セパレータに用いられるフィルム。
【請求項12】
請求項1または4に記載の含窒素ポリマーを含む積層フィルムを有する、二次電池セパレータ。
【請求項13】
請求項1または4に記載の含窒素ポリマーを含む、高分子固体電解質。
【請求項14】
請求項1または4に記載の含窒素ポリマーを含む、イオン分離膜。
【請求項15】
請求項1または4に記載の含窒素ポリマーを含む、二次電池。
【請求項16】
請求項15に記載の二次電池を備えた車両。
【請求項17】
請求項15に記載の二次電池を備えた飛行体。
【請求項18】
請求項15に記載の二次電池を備えた電子機器。
【請求項19】
請求項1または4に記載の含窒素ポリマーを含む、ガス分離膜。
【請求項20】
請求項1または4に記載の含窒素ポリマーを用いた、ガス分離モジュール。
【請求項21】
請求項1または4に記載の含窒素ポリマーを用いた、ガス分離装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含窒素ポリマーおよびそれを含むフィルム、二次電池セパレータ、高分子固体電解質、イオン分離膜、二次電池、車両、飛行体、電子機器、ガス分離膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に非水電解液系電池においては、正負極間のイオン伝導を可能とする一方で正負極の接触による短絡を防ぐため、孔径数十nm~数μm程度の貫通空孔を有する多孔質膜や不織布からなるセパレータが用いられている。しかし、空孔を有するセパレータを用いた場合、デンドライト(樹枝状晶)の成長や混入異物による短絡、曲げや圧縮などの変形に対する脆弱性、薄膜化と強度維持の両立が困難などの課題がある。
【0003】
これらを解決するものとして固体電解質が挙げられ、無機系と有機系とに大別される。有機系は高分子ゲル電解質と高分子固体電解質(真性高分子電解質)とに分けられる。
高分子ゲル電解質の電池への適用はFeuilladeらの報告(非特許文献1)に端を発し、リチウムポリマー電池として実用化されている。従来、ポリエーテル系ポリマーを中心に検討されてきたが、これらのゲル電解質は電池内での実質的な強度が不足するため、ほとんどの場合、正負極間の接触を避けるために多孔質膜を併用しているのが現状である。
【0004】
一方、高分子固体電解質の研究はWrightの報告(非特許文献2)に端を発しする。イオン伝導度はポリマーのセグメント運動と密接に関係していることから、ポリマー構造の柔軟化、分岐化や低分子量化によるガラス転移温度の低いポリマーを中心に検討されている。例えば、特許文献1や非特許文献3には、大環状構造を側鎖として導入することでイオン伝導性を向上したアクリル系イオン伝導ポリマーが開示されている。
このような利点の反面、柔軟化および/または分岐化したポリマーは弾性率や耐熱性も低下するため、ゲル電解質同様、正負極間の接触抑制機能が損なわれることにつながる。電解質膜の課題である脆弱性や機械強度、耐熱性を解決する手段として、ポリマーの主骨格として該性質に優れたものを用いることが挙げられ、例えば特許文献2に、芳香族ポリアミドおよび芳香族ポリイミドを主骨格としたイオン透過膜が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、ポリアミド主骨格中に大環状構造であるシクロテトラデカンジアミン構造を導入したポリアミド樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-204244号公報
【特許文献2】特許第6662043号公報
【特許文献3】特開2015-131884号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Appl.Electrochem.,1975,5,63-69.
【非特許文献2】Br.Polym.J.,1975,7,319-327.
【非特許文献3】Macromolecules,1989,22,2845-2849.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1や非特許文献3に開示されているイオン伝導ポリマーは、樹脂の主鎖骨格が柔軟である事からガラス転移温度や剛性が低く、実際の電解質膜としての使用に十分な耐熱性や機械特性を得ることは困難である。
【0009】
また、特許文献2に開示されているイオン透過膜は、強い分子間相互作用による分子配向性とイオン親和性の構造により機械特性とイオン伝導性に優れているが、それ故に分子鎖配向およびイオン伝導特性が面内方向に偏ることがある。
【0010】
特許文献3に開示されているポリアミド樹脂は、大環状構造を導入することで機械特性を向上しているが、大環状構造が疎水性であることから固体電解質として利用するには適切でない。
【0011】
本発明は上記事項を鑑みて、耐熱性、機械強度、イオン伝導性に優れるポリマーおよびそれを含むフィルム、二次電池セパレータ、高分子固体電解質、イオン分離膜、ガス分離膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明は、以下を特徴とする。
[i]以下の(1)と(2)を同時に満たす大環状構造単位(A)を主鎖骨格中に含むことを特徴とする、含窒素ポリマーとするものである。
(1)環員数が12以上30以下の複素環構造を有する。
(2)環状構造中のヘテロ原子の個数が2より多い。
[ii]大環状構造単位(A)の環状構造を構成する原子として含まれるヘテロ原子の個数が、大環状構造単位(A)の員環数に対して15%以上40%以下である、[i]に記載の含窒素ポリマー。
[iii]大環状構造単位(A)の環状構造を構成する原子として含まれるヘテロ原子が酸素および/または窒素である、[i]または[ii]に記載の含窒素ポリマー。
[iv]ポリアミド、ポリイミド、またはポリアミドイミドを主成分として含む、[i]~[iii]のいずれかに記載の含窒素ポリマー。
[v]大環状構造単位(A)が化学式(I)に記載の構造を含む、[i]~[iv]のいずれかに記載の含窒素ポリマー。
化学式(I):
【0013】
【化1】
【0014】
n、mはそれぞれ、3以下のいずれかの自然数である。
[vi]大環状構造単位(A)を含む繰り返し単位の個数が、全繰り返し単位の個数に対して5~50%の数的割合を占める、[i]~[v]のいずれかに記載の含窒素ポリマー。
[vii]150℃における熱収縮率が-2.0%以上10.0%以下である、[i]~[vi]のいずれかに記載の含窒素ポリマーを含む、フィルム。
[viii]少なくとも1方向のヤング率が5.0GPa以上20.0GPa以下である、[i]~[vi]のいずれかに記載の含窒素ポリマーを含む、フィルム。
[ix]COのガス透過係数が10barrer以上100barrer以下である、[i]~[vi]のいずれかに記載の含窒素ポリマーを含む成形体。
[x]COのガス透過係数をα(barrer)と、Nのガス透過係数をβ(barrer)とした時、10<α/β<50を満たす、[i]~[vi]のいずれかに記載の含窒素ポリマーを含む成形体。
[xi][i]~[vi]のいずれかに記載の含窒素ポリマーを含む、二次電池セパレータに用いられるフィルム。
[xii][i]~[vi]のいずれかに記載の含窒素ポリマーを含む積層フィルムを有する、二次電池セパレータ。
[xiii][i]~[vi]のいずれかに記載の含窒素ポリマーを含む、高分子固体電解質。
[xiv][i]~[vi]のいずれかに記載の含窒素ポリマーを含む、イオン分離膜。
[xv][i]~[vi]のいずれかに記載の含窒素ポリマーを含む、二次電池。
[xvi][xv]に記載の二次電池を備えた車両。
[xvii][xv]に記載の二次電池を備えた飛行体
[xviii][xv]に記載の二次電池を備えた電子機器。
[xix][i]~[vi]のいずれかに記載の含窒素ポリマーを含む、ガス分離膜。
[xx][i]~[vi]のいずれかに記載の含窒素ポリマーを含む、ガス分離モジュール。
[xxi][i]~[vi]のいずれかに記載の含窒素ポリマーを含む、ガス分離装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、含窒素ポリマーおよびそれを含むフィルムが提供できる。ポリマーの主鎖骨格中に大環状構造単位を有することでイオン伝導性、耐熱性、強度に優れる。このため、例えばクロマトグラフィーの充填剤や固体電解質膜として使用することができる。例えば、本発明の含窒素ポリマーを含むフィルムを二次電池用電解質膜として用いた場合、耐熱、耐変形・衝撃などの点で安全性に優れ、かつ低抵抗な薄膜とできるため、高い電池特性が得られる。また、大環状構造のサイズおよび該構造に含まれるヘテロ原子の数量や種類により膜厚方向へのイオン透過性に優れる。このため、固体電解質や分離膜として好適に使用できる。本発明の含窒素ポリマーを含むフィルムをガス分離膜として用いた場合、大環状構造により透過ガスにサイズ選択性が生じ、分離性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ガス透過性能評価装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のポリマーは、含窒素ポリマーである。ここで含窒素ポリマーとは、繰り返し単位の結合に窒素原子を含んでいるポリマーを表す。例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミン、ポリウレア、ポリウレタン、ポリイソシアネートなどが挙げられる。ポリアミド、ポリイミド、またはポリアミドイミドを主成分として含むことが好ましい。ここで主成分とは、最も多く含まれる成分を表し、該ポリマー成分が80重量%以上であることがさらに好ましく、90重量%であることが最も好ましい。含窒素ポリマーとすることで、高剛性と薄膜成形性に優れた樹脂を得ることができる。
【0018】
本発明のポリマーは、環員数が12以上30以下であり、環状構造を構成する原子(環員原子)としてヘテロ原子を2個より多く含む大環状構造単位(A)を持つことを特徴とする。ここで環員原子とは、大環状構造の内径部を形成する原子のことを表し、環員数とは環員原子の個数を表す。また、ヘテロ原子とは、炭素でも水素でもない元素の原子である。環員数が12以上18以下であることがより好ましい。環員数を12以上30以下とすることで、Liイオンや水素分子、二酸化炭素分子の透過に好適なサイズの空隙構造が形成され、Liイオン伝導性を向上したり、ガス分離性能を向上することができる。含有されるヘテロ原子としては、第15族および/または第16族原子であることが好ましく、酸素および/または窒素であることがより好ましい。このような場合、ヘテロ原子上の非共有電子対がLiイオンと相互作用してイオン伝導性を向上したり、二酸化炭素や極性ガスと相互作用してガス選択性を向上することができる。ヘテロ原子が2個以下の場合、Liイオンと相互作用できる非共有電子対の数が少なくなり、イオン伝導性やガス分離性能の向上効果が得られない場合がある。
【0019】
本発明のポリマーは、大環状構造(A)を主鎖骨格中に含むことを特徴とする。ここで主鎖骨格とは、ポリマーの重合に関与した官能基と、それらをつなぐ化学構造から構成されている部分を指す。例えば、ポリアミドに大環状構造が含まれている場合について、重合に関与したアミド基が大環状構造を介して接続されてポリマー分子鎖を形成している場合は主鎖骨格中に含まれるといえる。大環状構造(A)を主鎖骨格中に含むことで、ポリマー分子鎖同士の相互作用を維持したままイオン伝導やガス透過を促進することができるため、良好な機械特性とイオン伝導性およびガス透過性能を並立できる。
【0020】
本発明のポリマーは、構造単位(A)の環状構造を構成する原子として含まれるヘテロ原子の個数が、大環状構造単位(A)の環員数に対して15%以上40%の個数であることが好ましく、15%以上35%以下であることがより好ましい。ヘテロ原子の個数を上記範囲内とすることで、ポリマー構造の柔軟性が過度に高くなるのを防ぎ、良好な剛性や熱収縮率を持つ樹脂とすることができる。上記の好ましい特徴を満たす大環状構造として、クラウンエーテル、ジアザクラウンエーテル、シクロデキストリン、大環状ポリアミン、ポルフィリン、およびこれらの誘導体などが挙げられるが、構造単位(A)として化学式(I)で示される構造を含むことが特に好ましい。
化学式(I):
【0021】
【化2】
【0022】
n,mはそれぞれ、3以下のいずれかの自然数である。
【0023】
本発明のポリマーに含まれる、大環状構造単位(A)を含む繰り返し単位の個数は全繰り返し単位の個数に対して5%以上50%以下の数的割合であることが好ましく、5%以上10%以下であることがより好ましい。大環状構造単位(A)を含む繰り返し単位の割合が5%より少ない場合、Liイオン伝導性の向上効果が得られなかったり、ガス透過性能が低下することがある。構造単位(A)を含む繰り返し単位の割合を上記範囲内とすることで、イオンとポリマーの相互作用が向上して、イオンクロマトグラフィーの充填剤やイオン伝導性の高い固体電解質膜として使用できるようになる。また、ガス分子の透過に十分な自由体積が形成されて、ガス透過性能が高いガス分離膜として使用できるようになる。
【0024】
本発明のポリマーについて化学構造および構成比の同定が必要な場合は、ポリマー単体あるいは分解処理などを行った生成物についてカラムクロマトグラフィーおよび/または蒸留などにより各成分を分離し、核磁気共鳴法(NMR)、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)および質量分析法(MS)、元素分析、X線結晶構造解析などを組み合わせて解析を行うことができる。
【0025】
本発明の一態様として本発明のポリマーを含むフィルムが挙げられる。本発明のポリマーを含むフィルムは、イオンおよび分子サイズの小さなガスの膜厚方向への透過性に優れる特性を活かして、二次電池セパレータやガス分離膜として好適に使用できる。
【0026】
本発明のポリマーを含むフィルムは、150℃における熱収縮率が-2.0~10.0%であることが好ましく、-2.0~5.0%であることがより好ましい。さらに好ましくは、-2.0~2.0%である。熱収縮率が上記範囲を超える場合、電池用電解質膜として使用した際に、電池の発熱時にフィルムの寸法変化により電池端部において短絡が起こることがある。熱収縮率を上記範囲内とするため、前述の分子構造を有するポリマーを用い、フィルムの製造条件を後述の範囲内とすることが好ましい。なお、上記した熱収縮率において、負の値は熱膨張を意味する。
【0027】
本発明のポリマーを含むフィルムは、ヤング率が5.0GPa以上20.0GPa以下であることが好ましい。ヤング率が5.0GPa未満であると、固体電解質膜として使用した際に、圧縮力や曲げ応力、衝撃などが加わったときに正負極間の絶縁性が保たれないことがある。ヤング率は6.0GPa以上20.0GPa以下であることがより好ましく、7.0GPa以上20.0GPa以下であることがさらに好ましい。ヤング率を上記範囲内とするには、前述の分子構造を有するポリマーを用い、フィルムの製造条件を後述の範囲とすることが好ましい。
【0028】
本発明のポリマーを含むフィルムは、単膜であっても良いし、電極材料や多孔質基材の少なくとも片面に形成された積層フィルムでも良い。
【0029】
電極材料との積層フィルムとする場合、電極としては正極および負極のいずれでもよく、金属リチウム電極やカーボン電極などに使用することができる。例えば、金属リチウム負極に用いる場合、本発明のフィルムをリチウム負極上に直接形成することで、フィルムが保護膜のように働き、イオン伝導性や耐デンドライド性を向上することができる。
【0030】
多孔質基材との積層フィルムとする場合、多孔質基材としては多孔膜、不織布、または繊維状物からなる多孔膜シートなどが挙げられ、貫通する孔を有してもよい。多孔質基材を構成する樹脂としては、二次電池用途とする場合、電気絶縁性であり、電気的に安定で、電解液にも安定である樹脂で構成されていることが好ましい。また、シャットダウン機能を付与する観点から用いる樹脂は熱可塑性樹脂が好ましく、融点が200℃以下の熱可塑性樹脂であることがより好ましい。ここでシャットダウン機能とは、リチウムイオン電池が異常発熱した時、熱で溶融することで多孔構造を閉鎖し、イオン移動および発電を停止させる機能である。また、ガス分離膜用途とする場合、ガス透過率が十分に高く、膜性を維持する観点から耐圧性や剛性の高い樹脂であるが好ましい。
【0031】
多孔質基材はポリオレフィンを含むポリオレフィン製多孔質基材が好ましく、融点が200℃以下であるポリオレフィンを含むポリオレフィン製多孔質基材であることがより好ましい。ポリオレフィンとしては、具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、およびこれらの共重合体や混合物などが挙げられ、例えばポリエチレンを90質量%以上含有する単層のポリオレフィン製多孔質基材、ポリエチレンとポリプロピレンからなる多層のポリオレフィン製多孔質基材などが挙げられる。
【0032】
ポリオレフィン製多孔質基材の製造方法としては、例えばポリオレフィン系樹脂をシートにした後に延伸することで多孔質化する方法やポリオレフィン系樹脂を流動パラフィンなどの溶剤に溶解させてシートにした後、溶剤を抽出することで多孔質化する方法が挙げられる。上記方法で得られたポリオレフィン製多孔質基材はポリマー膜との密着性の観点から表面処理を行ってもよい。
【0033】
ポリオレフィン製多孔質基材の厚みは3μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以上30μm以下である。ポリオレフィン製多孔質基材の厚みが50μmより厚い場合、ポリオレフィン製多孔質基材の内部抵抗が高くなる場合がある。また、ポリオレフィン製多孔質基材の厚みが3μm未満の場合、破れ等が発生しやすく製造が困難になったり、十分な力学特性が得られない場合がある。
【0034】
ポリオレフィン製多孔質基材の透気度は、50秒/100cc以上1,000秒/100cc以下であることが好ましく、より好ましくは50秒/100cc以上500秒/100cc以下である。透気度が1,000秒/100ccよりも大きいと、十分なイオン移動性が得られず、電池特性が低下してしまう場合がある。50秒/100ccよりも小さい場合は、十分な力学特性が得られない場合がある。
【0035】
以下、本発明のポリマーおよびそれを含む成形体の製造方法について説明する。ポリアミドをフィルム化する例にて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
まず、本発明のポリマーを得る方法について、説明する。
【0037】
ポリアミドを得る方法は種々の方法が利用可能であるが、例えば、酸ジクロライドとジアミンを原料とした重縮合法を用いる場合には、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性有機極性溶媒中で合成される。溶液重合の場合、分子量の高いポリマーを得るために、重合に使用する溶媒の水分率を500ppm以下(質量基準、以下同様)とすることが好ましく、200ppm以下とすることがより好ましい。さらに、ポリマーの溶解を促進する目的で金属塩を添加してもよい。この金属塩としては、非プロトン性有機極性溶媒に溶解するアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物が好ましく、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウムなどが挙げられる。使用する酸ジクロライドおよびジアミンの両者を等量用いると超高分子量のポリマーが生成することがあるため、モル比を、一方が他方の95.0~99.5モル%になるように調整することが好ましい。また、該重合反応は発熱を伴うが、重合系の温度が上がると、副反応が起きて重合度が十分に上がらないことがある。このため、重合中の溶液の温度を40℃以下に冷却することが好ましい。さらに、酸ジクロライドとジアミンを原料とする場合、重合反応に伴って塩化水素が副生するが、これを中和する場合には炭酸リチウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムなどの無機の中和剤、あるいは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等の有機の中和剤を使用するとよい。
【0038】
本発明のポリマーは、対数粘度(ηinh)が0.5~7.0dL/gであることが好ましい。対数粘度が0.5dL/g未満であると、ポリマー分子鎖の絡み合いによる鎖間の結合力が減少するため、フィルムとした際に機械強度が低下したり、熱収縮率が大きくなることがある。対数粘度が7.0dL/gを超えると、イオン伝導性が低下することがある。
【0039】
次に、本発明のフィルムを製造する工程に用いる製膜原液について、説明する。
【0040】
製膜原液には重合後のポリマー溶液をそのまま使用してもよく、あるいはポリマーを一度単離してから上述の非プロトン性有機極性溶媒に再溶解して使用してもよい。ポリマーを単離する方法としては、特に限定しないが、重合後のポリマー溶液を多量の水中に投入することで溶媒および中和塩を水中に抽出し、析出したポリマーのみを分離した後、乾燥させる方法などが挙げられる。また、再溶解時に溶解助剤として金属塩を添加してもよい。この金属塩としては、非プロトン性有機極性溶媒に溶解するアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物が好ましく、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウムなどが挙げられる。
【0041】
製膜原液中のポリマー濃度は、3~30質量%が好ましく、より好ましくは5~20質量%である。製膜原液には、得られるフィルムの強度、耐熱性、イオン伝導性の向上、静摩擦係数の低減などを目的に、無機粒子または有機粒子を添加してもよい。無機粒子としては、例えば、湿式および乾式シリカ、コロイダルシリカ、珪酸アルミニウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化錫、酸化ランタン、酸化マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸亜鉛、塩基性炭酸鉛(鉛白)、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸鉛、硫化亜鉛、マイカ、雲母チタン、タルク、クレー、カオリン、フッ化リチウム及びフッ化カルシウム等が挙げられる。有機粒子としては、例えば、高分子化合物を架橋剤を用いて架橋した粒子が挙げられる。このような架橋粒子として、ポリメトキシシラン系化合物の架橋粒子、ポリスチレン系化合物の架橋粒子、アクリル系化合物の架橋粒子、ポリウレタン系化合物の架橋粒子、ポリエステル系化合物の架橋粒子、フッ素系化合物の架橋粒子、もしくはこれらの混合物が挙げられる。
【0042】
本発明のポリマーを含むフィルムは、25℃における膜抵抗が3.0~100.0Ω・cmであることが好ましい。より好ましくは3.0~50.0Ω・cm、さらに好ましくは3.0~20.0Ω・cmである。膜抵抗を上記範囲内とすることで、固体電解質膜として使用したときに、イオン伝導性が高く、優れた出力特性やサイクル特性が得られる。膜抵抗が100.0Ω・cmを超えると、固体電解質膜として使用したときに、イオン伝導性が低く、出力特性が低下したり、繰り返し使用した際に容量劣化が大きくなる。膜抵抗を上記範囲内とするため、ポリマーの化学構造やフィルムの製膜条件などを本明細書に記載した範囲内とすることが好ましい。また、後述のドープ処理を施すことがより好ましい。
【0043】
本発明の含窒素ポリマーを含む成形体は、COのガス透過率(α)が10barrer以上100barrer以下であることが好ましい。より好ましくはCOのガス透過率(α)が20barrer以上100barrer以下である。また、成形体の形状としてフィルムや中空糸、積層体などが挙げられるが、本発明においてはフィルムであることが好ましい。COのガス透過率を上記範囲内とすることで、ガス分離膜として使用した場合に十分な透過ガスが得られる。COのガス透過率が100barrerを超えると、分離性能が低下することがある。
【0044】
また、本発明の含窒素ポリマーを含む成形体のNのガス透過率をβとした時、10<α/β<50を満たすことが好ましく、15<α/β<50を満たすことがより好ましい。α/βを上記範囲内とすることで、ガス分離膜として混合ガスの分割に使用した場合に優れたガス分離性能を発揮できる。特に、二酸化炭素ガス分離膜や天然ガスの分離膜などに好適に用いることができる。成形体の形状としてフィルムや中空糸、積層体などが挙げられるが、本発明においてはフィルムであることが好ましい。本発明の含窒素ポリマーを含む成形体のガス透過率α、βが上記範囲を満たすためには、ガス透過性や選択性を向上できる点から、ポリマーの化学構造やフィルムの製膜条件などを本明細書に記載した範囲内とすることが好ましい。
【0045】
次に本発明のフィルムを製膜する方法について説明する。上記のように調製された製膜原液は、いわゆる溶液製膜法により製膜を行うことができる。溶液製膜法には乾湿式法、乾式法、湿式法などがあり、いずれの方法で製膜しても差し支えないが、ここでは乾湿式法を例にとって説明する。なお、本発明のフィルムは、空孔を有する基材上や電極上に直接製膜することで積層複合体を形成してもよいが、ここでは、単独のフィルムとして製膜する方法を説明する。
【0046】
乾湿式法で製膜する場合は製膜原液を口金からドラム、エンドレスベルト、フィルム、板等の支持体上に押し出して膜状物とし、次いでかかる膜状物が自己保持性を持つまで乾燥する。乾燥条件は例えば、60~220℃、60分以内の範囲で行うことができる。
【0047】
乾式工程を終えたフィルムは支持体から剥離されて湿式工程に導入され、脱塩、脱溶媒などが行なわれ、さらに延伸、乾燥、熱処理が行なわれる。延伸は延伸倍率として面倍率で0.8~8.0(面倍率とは延伸後のフィルム面積を延伸前のフィルムの面積で除した値で定義する。1.0未満はリラックスを意味する。)の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは1.0~5.0である。また、熱処理としては80℃~500℃、好ましくは150℃~400℃の温度で数秒から数10分間熱処理が実施される。
【0048】
次に、ポリオレフィン製多孔質基材の少なくとも片面にポリマー膜を積層する積層フィルムの製造方法について説明する。上述した製膜原液をポリオレフィン製多孔質基材上に塗工し水槽中に浸漬させ、乾燥を行うことで、ポリマー膜を積層する。公知の塗工方法が利用可能であり、例えば、ディップコーティング、グラビアコーティング、スリットダイコーティング、ナイフコーティング、コンマコーティング、キスコーティング、ロールコーティング、バーコーティング、吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷などが利用できる。これらに限定されることはなく、用いる樹脂、無機粒子、分散剤、レベリング剤、使用する溶媒、多孔質基材などの好ましい条件に合わせて塗工方法を選択すればよい。また、塗工性を向上させるために、例えば、多孔質基材にコロナ処理、プラズマ処理などの塗工面の表面処理を行ってもよい。
【0049】
積層フィルムのシャットダウン温度としては140℃以下が好ましい。シャットダウン温度が140℃以下の場合、二次電池が高容量化、高出力化した際に、発熱開始温度が低下しても、シャットダウン機能が十分に作動することができる。シャットダウン温度は、二次電池が高容量化、高出力化した際に、発熱開始温度のさらなる低温化の観点から、135℃以下がより好ましい。
【0050】
積層フィルムのメルトダウン温度は300℃以上が好ましい。落球破膜温度は、一定荷重時に短絡する温度を意味し、耐熱性を評価する指標になる。メルトダウン温度が300℃より低い場合、電池が異常発熱した際に、電池が短絡し、さらに発熱する場合がある。二次電池の耐熱性の付与の観点から、メルトダウン温度は350℃以上がより好ましく、さらに好ましくは380℃以上である。
【0051】
以上の製造方法により得られたフィルムを、バッテリーセパレータフィルムや固体電解質として用いる場合、イオン伝導性を更に向上させるためにドープ処理を施してもよい。ドープ処理は膜中にあらかじめ伝導させたいイオンをドープすることで、より高いイオン伝導性を実現し、かつ初期の不可逆容量を小さくするために施す処理である。ドープ処理の方法として、例えば、伝導性を付与したい金属イオン種に適応した金属箔(リチウムイオン電池であれば、リチウム金属箔)とイオン伝導膜を接触させた状態で電位差をつくることで金属箔から金属イオンを膜中へ挿入する方法などが挙げられる。具体的には、金属箔/イオン伝導膜/Al箔の積層体を作成し、金属箔とAl箔をリードで接続することで処理できる。このとき、40~100℃でアニールしてもよい。また、液系電池へ適用する場合は、前述の金属箔を用いる方法の他に、金属イオンを含む電解質を溶解させた電解液中へイオン伝導膜を浸漬させ、40~100℃で10分~24時間程度アニールすることでもドープ処理効果が得られる。ドープ処理は、イオン伝導膜を電池に組み込む前に施してもよいし、電池に組み込んだ後、完成した電池を充放電やアニールすることで施してもよい。
【0052】
また、本発明の含窒素ポリマーをガス分離膜として使用する場合、本発明のポリマー溶液から製膜される上記のフィルムあるいは多孔質基材の積層体として使用しても良いし、多孔質支持層上で重合を行うことで多孔質支持層表面に本発明のポリマーからなるガス分離機能層を付与した膜として使用しても良い。
【0053】
本発明のポリマーは、フィルム原料として用いることができるが、中空糸を含む繊維、成形体などの原料としても好適に使用できる。フィルム原料として用いる場合、高剛性、高イオン伝導性、空孔構造を持つフィルムが得られるため、バッテリーセパレータフィルム、高分子固体電解質、イオン分離膜、ガス分離膜などとして好適に利用でき、また、二次電池、車両、飛行体、電子機器、ガス分離モジュール、ガス分離装置に搭載できる。なお、本発明における車両とは、動力機構の一部として二次電池を備える自動車、自動二輪車、自転車、電動車椅子、電動カートなどを指す。本発明における飛行体とは、推進機構の一部として二次電池を備える友人飛行体、無人飛行体、ドローンなどを指す。本発明における電子機器とは、蓄電装置として二次電池を備えた装置全般を指し、電気光学装置や情報端末装置などは全て電子機器である。
【実施例0054】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0055】
本発明における物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0056】
(1)熱収縮率
試料フィルムを、幅5mm、長さ100mmの短冊状に切り取り、長辺を測定方向とした。長辺の両端から約5mmの部分に印をつけ、印の間隔をL1とした。印の外側の一端をクリップで挟み、熱風オーブン内で宙吊りとした状態で、測定温度(150℃)で10分間熱処理を行った。取り出した試料を25℃まで冷却後、印の間隔L2を計測し、下式で熱収縮率(%)を計算した。フィルムの長手方向(MD)および幅方向(TD)にそれぞれ5回測定し、それぞれ平均値を求めた。
【0057】
熱収縮率(%)=((L-L)/L)×100
(2)ヤング率
ポリマー組成物をNMPに溶解した溶液を室温にてアプリケーターを用いてガラス板上に膜状にキャストして、150℃にて20分、280℃にて5分、熱風オーブンで乾燥を施すことで、厚み5μmの膜を得た。この膜について、幅10mm、長さ150mmに切断した試料を、ロボットテンシロンAMF/RTA-100(オリエンテック社製)を用いてチャック間距離50mm、引張速度300mm/分、温度23℃、相対湿度65%の条件下で引張試験を行い、得られた荷重-伸び曲線からヤング率を求めた。試験はフィルムのキャスト方向(長手方向)と、それと直交する方向(幅方向)について実施し、両方向とも5回の平均値を求めた。表1には両方向のヤング率のうち、値の高い方を示した。
【0058】
(3)膜抵抗
測定用電極1(正極と定義)として、厚み20μmのアルミシートを長辺50mm×短辺40mmに切り出した。このうち、短辺40mm×長辺の端10mmはタブを接続するためののりしろであり、有効測定面積は40mm×40mm(1,600mm=16cm)である。切り出したアルミシートののりしろ部の任意の位置に幅5mm、長さ30mm、厚み100μmのアルミ製タブを超音波溶接した後、溶接部を含むのりしろ部全体をカプトン(登録商標)テープで覆うことで絶縁処理を行った。
【0059】
測定用電極2(負極と定義)として、同上のアルミシートを長辺55mm×短辺45mmに切り出した。このうち、短辺45mm×長辺の端10mmはタブを接続するためののりしろである。切り出したアルミシートののりしろ部の任意の位置に幅5mm、長さ30mm、厚み100μmのアルミ製タブを超音波溶接した後、溶接部を含むのりしろ部全体をカプトン(登録商標)テープで覆うことで絶縁処理を行った。
【0060】
ドープ源として厚み20μmのリチウム金属箔(本荘ケミカル社製)を45mm×45mmに、また、試料膜を55mm×55mmに切り出し、測定用電極1/試料フィルム/リチウム金属箔/測定用電極2の順に重ね、測定用電極1の40mm×40mmの有効測定領域の全てが試料膜を隔てて測定用電極2と対向するように配置した。次に、アルミラミネートフィルムに上記の(電極/試料フィルム/電極)積層体を挟み込み、アルミラミネートフィルムの1辺を残して熱融着し、袋状とした。
【0061】
袋状にしたアルミラミネートフィルムに、エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3:7(体積比)の混合溶媒に溶質としてLiPF6を濃度1mol/Lとなるように溶解させた電解液を1.5g注入し、減圧含浸させながらアルミラミネートフィルムの短辺部を熱融着させてラミネートセルを作製した。このようなセルを、電極間の試料膜を2枚、4枚として2種類作製した。
【0062】
作製したセルについて、50℃の雰囲気下で12時間静置することでドープ処理を施した後、25℃雰囲気下、電圧振幅10mV、周波数10Hz~5,000kHzの条件で交流インピーダンスを測定し、Cole-Coleプロットから膜抵抗(Ω)を求めた。得られた膜抵抗を試料膜の枚数に対してプロットし、このプロットを原点を通る直線にて線形近似したときの傾きから試料膜1枚あたりの膜抵抗を算出した。得られた膜抵抗に有効測定面積16cmを乗ずることで、規格化した膜抵抗(Ω・cm)を算出した。各試料膜枚数における試験値は評価用セルを5個作製し、膜抵抗が最大、最小となるセルを除去した3個のセルの平均値とした。
【0063】
(4)電池評価
(セル作製)
正極として、厚み40μm、充電容量4.00mAh/cm、放電容量3.64mAh/cmのコバルト酸リチウム(LiCoO)を活物質として用いた正極シート(宝泉社製)を50mm×40mmに切り出した。このうち、短辺40mm×長辺の一部10mmはタブを接続するための未塗布部であって、活物質塗布部は40mm×40mmである。幅5mm、長さ30mm、厚み0.1mmのアルミ製正極タブを正極未塗布部に超音波溶接した。
【0064】
負極として、厚み50μm、充電容量4.17mAh/cm、放電容量3.65mAh/cmの黒鉛を活物質として用いた負極シート(宝泉社製)を55mm×45mmに切り出した。このうち、短辺45mm×10mmはタブを接続するための未塗工部であって、活物質塗布部は45mm×45mmである。正極タブと同サイズの銅製負極タブを負極未塗布部に超音波溶接した。
【0065】
試料膜を60mm×60mmに切り出し、正極/試料/負極の順に重ね、正極塗布部の全てが試料を隔てて負極塗布部と対向するように配置して電極群を得た。次に、アルミラミネートフィルムに上記の(電極/試料/電極)積層体を挟み込み、アルミラミネートフィルムの1辺を残して熱融着し、袋状とした。
【0066】
袋状にしたアルミラミネートフィルムに、エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3:7(体積比)の混合溶媒に溶質としてLiPFを濃度1mol/Lとなるように溶解させ、添加剤としてビニレンカーボネートを2質量%添加して作製した電解液を1.5g注入し、減圧含浸させながらアルミラミネートフィルムの短辺部を熱融着させてラミネートセルを作製した。設計放電容量は、58.24mAhである。
【0067】
作製したラミネートセルについて、50℃の雰囲気下で12時間静置することでドープ処理を施した後、25℃の雰囲気下で試験を行った。試験値はセルを5個作製し、測定値が最大、最小となるセルを除去した3個のセルの平均値とした。
【0068】
(仕上充放電)
0.2Cの電流値で4.2Vとなるまで定電流充電を行い、4.2Vの電圧で電流値が50μAになるまで定電圧充電を行った。続いて、0.2Cの電流値で2.7Vの電圧まで定電流放電を行った。充電及び放電が交互となるように、上記充電・放電を合計4回行った。充電時間が24時間を越えるセルはその時点で試験を終了し、電池評価不可とした。
【0069】
(出力特性試験)
0.5Cの電流値で4.2Vとなるまで定電流充電を行った。続いて、0.5Cの電流値で2.7Vの電圧まで定電流放電を行い、0.5Cにおける放電容量を得た。以降、充電はすべて0.5Cの定電流充電とし、1C、2Cの定電流放電を行うことでそれぞれのCレートにおける放電容量を得た。
【0070】
なお、上記の評価において、フィルムの長手方向(MD)および幅方向(TD)が不明な場合は、偏光ラマン分光法を用いて面内方向の配向パラメータを15°刻みで360°分測定したとき、最も配向の高い方向をフィルムの長手方向(MD)、その直交方向を幅方向(TD)とする。
【0071】
以下に実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定され
るものでない。
【0072】
(ガス透過性能評価)
図1に示す装置を用い、JIS K 7126-2B(2006年)に則って分離膜のガス透過度の測定を行った。供給側セルと透過側セルとを有する試験用セル5の、供給側セルと透過側のセルとの間に分離膜を保持した。原料ガスボンベ1から供給側セルに供給されるガス流量を原料マスフローコントローラー3で調節した。またスイープガスボンベ2から透過側セルにスイープガスであるアルゴンを供給した。スイープガスの流量は、マスフローコントローラー4で調節した。なお、供給ガスは、図示しない加湿器により95%RHに加湿した。
・分離膜の有効膜面積:25cm
・セル温度:25℃
・供給ガス:二酸化炭素および窒素の混合ガス(体積比率1:1) 1atm、流量100cm/分
・スイープガス :アルゴン、100cm/min、1atm
ガス供給開始から40分後に、バルブ6の方向を調節することで、TCD(熱伝導度検出器)を有するガスクロマトグラフ7へ透過ガスとスイープガスとの混合物を送り、混合物中の二酸化炭素および窒素の濃度をそれぞれ分析した。また、バルブ6により透過ガスとスイープガスとの混合物の流れる方向を石鹸膜流量計8に変更し、流量を測定した。
【0073】
こうして測定した流量と濃度から、二酸化炭素の透過係数(α)および窒素の透過係数(β)を算出した。さらに、得られた二酸化炭素の透過係数(α)を窒素の透過係数(β)で除することで、分離選択性(α/β)を算出した。小数点以下は四捨五入した。
【0074】
(実施例1)
脱水したN-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱ケミカル製)に、ジアミンとしてジアミン全量に対して90モル%に相当する2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)と10モル%に相当する4,13-ジアザ-18-クラウン-6-エーテル(DCE18)を窒素気流下で溶解させ、氷水浴で液温を5℃に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、氷水浴中に保った状態で、ジアミン全量に対して99モル%に相当する2-フルオロテレフタロイルクロライド(FTPC)を30分かけて添加し、全量添加後、約2時間の撹拌を行うことで、ポリアミド(ポリマーA)を重合した。得られた重合溶液を、酸クロライド全量に対して97モル%の炭酸リチウムおよび6モル%のジエタノールアミンにより中和することでポリマーAの溶液を得た。
【0075】
得られた溶液を支持体であるガラス板上に膜状に塗布し、熱風オーブンにてフィルムが自己支持性を持つよう130℃10分間乾燥させた後、フィルムを支持体から剥離した。次いで、剥離したフィルムを15分間の水浴洗浄することで、溶媒および中和塩などの抽出を行った。続いて、得られた含水状態のフィルムを、温度280℃の熱風オーブンにて1分間の熱処理を施し、厚み5μmのポリマーAからなるフィルムを得た。ここで、熱風オーブンはセーフティオーブンSPH100(エスペック株式会社製)を用い、開閉ダンパー50%にて温度表示が設定温度に到達して1時間後に使用した。得られた試料の評価結果を表1に示す。また、得られたフィルムを用いて電池評価を実施した結果、仕上充放電で設計容量の98%の容量発現が確認され、出力特性は0.5Cで95%、1Cで52%、2Cで22%であった。
【0076】
(実施例2)
原料モノマーとして、ジアミンをジアミン全量に対して90モル%に相当するTFMBと10モル%に相当する4,10-ジアザ-12-クラウン-4-エーテル(DCE12)とすること以外は実施例1と同様にして、ポリアミド(ポリマーB)を得た。得られたポリマーの評価結果を表1に示す。
【0077】
(実施例3)
原料モノマーとして、ジアミンをジアミン全量に対して90モル%に相当するTFMBと10モル%に相当する4,10-ジアザ-15-クラウン-5-エーテル(DCE15)とすること以外は実施例1と同様にして、ポリアミド(ポリマーC)を得た。得られた試料の評価結果を表1に示す。
【0078】
(実施例4)
原料モノマーとして、ジアミンをジアミン全量に対して95モル%に相当するTFMBと5モル%に相当するDCE18とすること以外は実施例1と同様にして、ポリアミド(ポリマーD)を得た。得られた試料の評価結果を表1に示す。
【0079】
(実施例5)
原料モノマーとして、ジアミンをジアミン全量に対して50モル%に相当するTFMBと50モル%に相当するDCE18とすること以外は実施例1と同様にして、ポリアミド(ポリマーE)を得た。得られた試料の評価結果を表1に示す。
【0080】
(実施例6)
脱水したNMPに、ジアミンとしてジアミン全量に対して90モル%に相当するTFMBと10モル%に相当するDCE18を窒素気流下で溶解させ、氷水浴で液温を5℃に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、氷水浴中に保った状態で、ジアミン全量に対して50モル%のFTPCと49モル%に相当する無水ピロメリット酸(PMDA)を30分かけて添加し、全量添加後、約2時間の撹拌を行うことで、ポリアミック酸を重合した。
【0081】
得られた溶液を支持体であるガラス板上に膜状に塗布し、熱風オーブンにてフィルムが自己支持性を持つよう130℃10分間乾燥させた後、フィルムを支持体から剥離した。次いで、剥離したフィルムを15分間の水浴洗浄することで、溶媒および中和塩などの抽出を行った。続いて、得られた含水状態のフィルムを、温度350℃の熱風オーブンにて2分間の熱処理を施すことでイミド化し、厚み5μmのポリアミドイミド(ポリマーF)からなるフィルムを得た。得られた試料の評価結果を表1に示す。
【0082】
(実施例7)
脱水したNMPに、ジアミンとしてジアミン全量に対して90モル%に相当するTFMBと10モル%に相当するDCE18を窒素気流下で溶解させ、氷水浴で液温を5℃に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、氷水浴中に保った状態で、ジアミン全量に対して99モル%に相当するPMDAを30分かけて添加し、全量添加後、約2時間の撹拌を行うことで、ポリアミック酸を重合した。
【0083】
得られたポリアミック酸溶液を支持体であるガラス板上に膜状に塗布し、熱風オーブンにてフィルムが自己支持性を持つよう130℃10分間乾燥させた後、フィルムを支持体から剥離した。次いで、剥離したフィルムを15分間の水浴洗浄することで、溶媒および中和塩などの抽出を行った。続いて、得られた含水状態のフィルムを、温度350℃の熱風オーブンにて2分間の熱処理を施すことでイミド化し、厚み5μmのポリイミド(ポリマーG)からなるフィルムを得た。得られた試料の評価結果を表1に示す。
【0084】
(実施例8)
原料モノマーとして、ジアミンをジアミン全量に対して90モル%に相当するTFMBと10モル%に相当するA,D-6-ジアミノ-6-ジデオキシ-α-シクロデキストリン二塩酸塩とすること以外は実施例1と同様にして、ポリアミド(ポリマーH)を得た。得られた試料の評価結果を表1に示す。
【0085】
(実施例9)
実施例1で得られたポリマーAの溶液に、ポリマー濃度が4重量%となるように脱水したNMPを添加し、ミキサー(THINKY社製、型番:AR-250)を用いて撹拌および脱泡を行い、均一透明溶液を得た。得られた溶液をダイコートにて、ポリエチレン製多孔質基材(厚み12μm、透気度160秒/100cc)の片面に塗工し、水槽へ浸漬後、含有される溶媒が揮発するまで乾燥することでポリエチレン製多孔質基材上にポリマーA膜を形成した積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0086】
(実施例10)
原料モノマーとして、ジアミンをジアミン全量に対して97モル%に相当するTFMBと3モル%に相当するDCE18とすること以外は実施例1と同様にして、ポリアミド(ポリマーI)を得た。得られた試料の評価結果を表1に示す。
【0087】
(実施例11)
原料モノマーとして、ジアミンをジアミン全量に対して40モル%に相当するTFMBと60モル%に相当するDCE18とすること以外は実施例1と同様にして、ポリアミド(ポリマーJ)を得た。得られた試料の評価結果を表1に示す。
【0088】
(比較例1)
原料モノマーとして、ジアミンをジアミン全量に対して80モル%に相当する2-クロロ-1,4-フェニレンジアミンと20モル%に相当する4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(DPE)とすること以外は実施例1と同様にして、ポリアミド(ポリマーK)を得た。得られた試料の評価結果を表1に示す。また、ポリマーIからなるフィルムを用いて電池評価を実施した結果、充電時間が24時間を超え、電池評価は不可であった。
【0089】
(比較例2)
原料モノマーとして、ジアミンをジアミン全量に対して90モル%に相当するTFMBと10モル%に相当する1,8-ジアザシクロテトラデカン-2,9-ジオンとすること以外は実施例1と同様にして、ポリアミド(ポリマーL)を得た。得られた試料の評価結果を表1に示す。
【0090】
(比較例3)
脱水したNMPを氷水浴下で0℃に冷却し、窒素雰囲気下でトリメシン酸クロライドを溶解した。ここに、トリメシン酸クロライドに対して100モル%の4‘-アミノベンゾ-15-クラウン-5-エーテルを添加し、全量添加後、氷水浴下のまま約15分攪拌することで、5-((4‘-アミノベンゾ-15-クラウン-5-エーテル)カルバモイル)-1,3-ベンゼンジカルボン酸クロライド(酸クロライドA)の溶液を得た。この溶液を0℃に保ったまま、トリメシン酸クロライドに対して100モル%のテレフタル酸クロライドを酸クロライドとして添加して約15分間攪拌した。次いでこの溶液を0℃に保ったまま、酸クロライド全量に対して98モル%のTFMBを30分かけて添加し、全量添加後、約1時間攪拌することで、側鎖に大環状構造を持つポリアミド(ポリマーM)を得た。得られた試料の評価結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表中、「ヘテロ原子」とは、「大環状構造単位(A)の環状構造を構成する原子として含まれるヘテロ原子」を表す。また、「ヘテロ原子の個数」とは、「大環状構造単位(A)の環状構造を構成する原子として含まれるヘテロ原子の個数」を表す。また、「ヘテロ原子量」とは、「大環状構造単位(A)の員環数に対する、大環状構造単位(A)の環状構造を構成する原子として含まれるヘテロ原子の個数の割合」をあらわす。
【符号の説明】
【0093】
1:原料ガスボンベ
2:スイープガスボンベ
3:原料マスフローコントローラー
4:マスフローコントローラー
5:試験用セル
6:バルブ
7:ガスクロマトグラフ
8:石鹸膜流量計
図1