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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181113
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】表面材
(51)【国際特許分類】
   D06Q 1/02 20060101AFI20231214BHJP
   D06P 5/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
D06Q1/02
D06P5/00 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090809
(22)【出願日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2022094005
(32)【優先日】2022-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大滝 善永
(72)【発明者】
【氏名】松島 貫
(72)【発明者】
【氏名】八木 雅史
【テーマコード(参考)】
4H157
4L049
【Fターム(参考)】
4H157CA21
4L049AA16
4L049BA39
4L049DA08
4L049DA26
4L049EA00
(57)【要約】
【課題】
落ち着いた印象を与え意匠性が向上した自動車内装材を実現可能な、表面材を提供する。
【解決手段】
黒色布帛における少なくとも一方の主面上にプリントを部分的に備えた表面材であって、黒色布帛における主面の平均明度(Lb)と、黒色布帛の主面上に備えるプリントの平均明度(Lp)との明度差(ΔL、ΔL=Lp-Lb)が0より小さい。そのため、本願発明によって、当該プリントが黒色布帛よりも色濃く表されていることで、落ち着いた印象を与え意匠性が向上している表面材を提供できる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色布帛における少なくとも一方の主面上にプリントを部分的に備えた、表面材であって、
前記黒色布帛における前記主面の平均明度(Lb)と、前記主面上に備える前記プリントの平均明度(Lp)との明度差(ΔL、ΔL=Lp-Lb)が0より小さい、表面材。
【請求項2】
前記プリントがフッ素系撥水撥油剤を含有している、請求項1に記載の表面材。
【請求項3】
前記フッ素系撥水撥油剤が、化学構造-NH-C(=O)-を備えた架橋部分を有している、請求項2に記載の表面材。
【請求項4】
前記プリントが、化学構造-NH-C(=O)-を備えた架橋部分を有するシリコーン系撥水剤を含有している、請求項1に記載の表面材。
【請求項5】
表面材における部分的にプリントを備えている主面を、摩擦に対する染色堅ろう度試験「9.2摩擦試験機II形(学振型)法」の「a)乾燥試験の場合」(JIS L0849:2013)へ供した後の、前記主面と摩擦させた後の摩擦用白綿布の表面について、染色堅ろう度試験方法通則「3)汚染の判定」の「表3-汚染の判定基準」(JIS L0801:2011)によって判定した結果が、汚染等級4-5級または汚染等級5級である、
請求項1~4いずれかに記載の表面材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
表面材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天井材など自動車内装材の表面材として、例えば、特開2012-179985号公報(特許文献1)に開示されているように、布帛の表面に顔料を含有するプリントを備えた装飾繊維シートが用いられている。
【0003】
また、黒、茶、紺など濃色の布帛を備える表面材を用いることで、落ち着いた印象を与える自動車内装材を実現できる。そのため、濃色の布帛、特により落ち着いた印象を与える黒色布帛を用いた表面材が求められている。更に意匠性向上のため、当該濃色の布帛(特に黒色布帛)の主面上にプリントを部分的に備えた表面材の検討がなされている。当該表面材では、部分的に存在しているプリントによって柄が表現される。
【0004】
このような観点から、本願出願人はこれまでに、例えば、特開2020-002496号公報(特許文献2)に開示されている表面材を提供した。特許文献2には実施例として、黒色布帛における少なくとも一方の主面上に、黒色顔料を含有するプリントを部分的に備えた、表面材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-179985号公報
【特許文献2】特開2020-002496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、提供した表面材は、以下の問題を有しているものであった。
【0007】
意匠性が向上した自動車内装材を実現できるよう、黒色布帛の主面上にプリントを部分的に備えた表面材では、当該プリントが黒色布帛よりも色濃く(より黒色に)表されている必要がある。つまり、黒色布帛における主面の平均明度(Lb)と、黒色布帛の主面上に存在する当該プリントの平均明度(Lp)との明度差(ΔL、ΔL=Lp-Lb)が0未満である必要がある。なお、平均明度の値が小さいほど、より色濃い黒色であることを意味する。そして、明度差(ΔL)が0よりも小さいほど、当該プリントが黒色布帛よりも色濃く(より黒色に)表されていることを意味する。
【0008】
しかし、製造した表面材では、不思議なことに、黒色布帛の主面上に存在する黒色顔料を含有する当該プリントは、黒色布帛よりも色が薄く見える状態となった。実際に明度差(ΔL)を測定したところ、その値は0未満ではなかった。そして、この問題は、より濃い黒色の黒色布帛を用いた場合に顕著に生じた。
【0009】
そこで、本願出願人はプリント液が含有する黒色顔料を増量することを試みた。しかし、プリント液が含有する黒色顔料を増量しても、当該プリントの平均明度(Lp)の値は大して変化するものではなかった。そのため、明度差(ΔL)の値が0未満の表面材を提供できなかった。
【0010】
また、プリントが含有する顔料を増量すると、表面材からプリントと共に顔料が脱落し易くなるという、新たな問題が生じた。これは、表面材と衣服などの布とがこすれた際、表面材から当該布へ顔料が色移りし易いことを意味している。
【0011】
そのため、このような表面材は、プリントの脱落に伴い意匠性が低下するものであり、実用性に乏しいものであった。
【0012】
以上から、従来技術の限りでは、落ち着いた印象を与え意匠性が向上した自動車内装材を実現可能な、表面材を提供できるものではなかった。加えて、色移りし難く実用性に富んだ自動車内装材を実現可能な、表面材を提供できるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は、
「(請求項1)黒色布帛における少なくとも一方の主面上にプリントを部分的に備えた、表面材であって、
前記黒色布帛における前記主面の平均明度(Lb)と、前記主面上に備える前記プリントの平均明度(Lp)との明度差(ΔL、ΔL=Lp-Lb)が0より小さい、表面材。
(請求項2)前記プリントがフッ素系撥水撥油剤を含有している、請求項1に記載の表面材。
(請求項3)前記フッ素系撥水撥油剤が、化学構造-NH-C(=O)-を備えた架橋部分を有している、請求項2に記載の表面材。
(請求項4)前記プリントが、化学構造-NH-C(=O)-を備えた架橋部分を有するシリコーン系撥水剤を含有している、請求項1に記載の表面材。
(請求項5)表面材における部分的にプリントを備えている主面を、摩擦に対する染色堅ろう度試験「9.2摩擦試験機II形(学振型)法」の「a)乾燥試験の場合」(JIS L0849:2013)へ供した後の、前記主面と摩擦させた後の摩擦用白綿布の表面について、染色堅ろう度試験方法通則「3)汚染の判定」の「表3-汚染の判定基準」(JIS L0801:2011)によって判定した結果が、汚染等級4-5級または汚染等級5級である、
請求項1~4いずれかに記載の表面材。」
である。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係る表面材は、黒色布帛における少なくとも一方の主面上にプリントを部分的に備えた表面材であって、黒色布帛における主面の平均明度(Lb)と、黒色布帛の主面上に備えるプリントの平均明度(Lp)との明度差(ΔL、ΔL=Lp-Lb)が0より小さい。つまり、本開示にかかる表面材は、当該プリントが黒色布帛よりも色濃く表されている。
【0015】
そして、本願出願人は、当該プリントがフッ素系撥水撥油剤を含んでいる場合には、本開示に係る表面材を提供可能であるという効果を奏することを見出した。
【0016】
また、本願出願人は、当該プリントが含むフッ素系撥水撥油剤が化学構造-NH-C(=O)-を備えた架橋部分を有している場合には、表面材からプリントが脱落し難くなるという効果を奏することを見出した。そのため、プリントの脱落による意匠性の低下が発生し難い、表面材を提供可能であるという効果を奏することを見出した。
【0017】
加えて、本願出願人は、当該プリントが化学構造-NH-C(=O)-を備えた架橋部分を有しているシリコーン系撥水剤を含有している場合には、本開示に係る表面材を提供可能であって、表面材からプリントが脱落し難くなるという効果を奏することを見出した。そのため、プリントの脱落による意匠性の低下が発生し難い、表面材を提供可能であるという効果を奏することを見出した。
【0018】
更に、本開示に係る表面材について、本開示にかかる測定方法で判定した結果が汚染等級4-5級または汚染等級5級である場合には、色移りし難く実用性に富んだ自動車内装材を実現できるという効果を奏する、表面材である。
【0019】
以上から、本開示によって、プリントが黒色布帛よりも色濃く(具体的には、より黒色に)表されていることで、落ち着いた印象を与え意匠性が向上した自動車内装材を実現可能な、表面材を提供できる。更に、本開示によって、加えて色移りし難く実用性に富んだ自動車内装材を実現可能であるという効果を奏する、表面材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。なお、本開示で説明する各種測定は特に記載や規定のない限り、常圧のもと25℃温度条件下で測定を行った。そして、本開示で説明する各種測定結果は特に記載や規定のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、当該値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、小数第一位までが求める値である場合、測定によって小数第二位まで値を求め、得られた小数第二位の値を四捨五入することで小数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。また、本開示で例示する各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0021】
本開示にかかる表面材は、黒色布帛の少なくとも一方の主面上にプリントを部分的に備えている。なお、本開示における「主面」とは、最も広い面積を有する面のことをいう。
【0022】
本開示の表面材を構成可能な黒色布帛とは、黒色顔料が練り込まれた繊維(いわゆる原着繊維)を含んだ布帛を指す。あるいは、本開示の表面材を構成可能な黒色布帛とは、黒色染料によって染色された布帛や、少なくとも一方の主面全体に黒色顔料が塗装されている布帛などを指す。特に、原着繊維を構成繊維に採用した布帛(好ましくは、構成繊維に原着繊維のみを採用してなる布帛)であるのが好ましい。このような布帛を用いることで、表面材からプリントと共に顔料が脱落し難い表面材を提供し易い。その結果、色移りし難く実用性に富んだ自動車内装材を実現可能な、表面材を提供できる。
【0023】
また、布帛の種類は適宜選択でき、例えば不織布や織物、編物であることができる。特に、黒色布帛が不織布であると、柔軟であり、ソフトな風合いと意匠性が向上した表面材を提供でき好ましい。
【0024】
黒色布帛の構成繊維は、公知の有機樹脂を用いて構成できる。例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、ニトリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)などを用いることができる。
【0025】
なお、これらの有機樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わない。また、有機樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わない。そして、有機樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。更には、多成分の有機樹脂を混ぜ合わせたものでも良い。
【0026】
なお、表面材に難燃性が求められる場合には、黒色布帛の構成繊維に難燃性の有機樹脂を含んでいるのが好ましい。このような難燃性の有機樹脂として、例えば、モダアクリル樹脂、ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ノボロイド樹脂、ポリクラール樹脂、リン化合物を共重合したポリエステル樹脂、ハロゲン含有モノマーを共重合したアクリル樹脂、アラミド樹脂、ハロゲン系やリン系又は金属化合物系の難燃剤を練り込んだ樹脂などが挙げられる。
【0027】
黒色布帛の構成繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0028】
前記構成繊維は、一種類の有機樹脂から構成された繊維でも構わない。あるいは、複数種類の有機樹脂から構成された繊維でも構わない。複数種類の有機樹脂から構成された繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの繊維を用いることができる。また、前記構成繊維は、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維として、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維であってもよい。前記構成繊維に熱融着性繊維を含んでいてもよい。その場合には、繊維同士を熱融着することによって黒色布帛に強度と形態安定性を付与できる。そのため、更に、毛羽立ちや繊維の飛散を抑制して、意匠性が向上した表面材となり好ましい。このような熱融着性繊維は、全融着型の熱融着性繊維であっても良い。あるいは、上述した複合繊維のような一部融着型の熱融着性繊維であっても良い。熱融着性繊維の熱融着性を発揮する成分の種類は適宜選択できる。例えば、低融点ポリオレフィン系樹脂や低融点ポリエステル系樹脂などを使用できる。
【0029】
黒色布帛が捲縮性繊維を含んでいる場合には、伸縮性が増して金型への追従性に優れ、意匠性が向上した表面材となり好ましい。このような捲縮性繊維として、例えば、潜在捲縮性繊維の捲縮を発現した捲縮性繊維やクリンプを有する繊維などを使用できる。
【0030】
黒色布帛の構成繊維の繊度は特に限定するものではない。意匠性が向上した表面材であるように、1dtex以上であることができ、1.5dtex以上であることができ、2dtex以上であることができる。他方、均質な地合いであることで意匠性が向上した表面材であるように、100dtex以下であることができ、50dtex以下であることができ、30dtex以下であることができ、10dtex以下であることができる。
【0031】
また、黒色布帛の構成繊維の平均繊維長も特に限定するものではない。均質な地合いであることで意匠性が向上した表面材であるように、20mm以上であることができ、25mm以上であることができ、30mm以上であることができる。他方、平均繊維長が110mmを超えると、黒色布帛の調製時に繊維塊が形成される傾向がある。その結果、地合が均質とならず、意匠性が向上した表面材を提供できなくなる恐れがある。そのため、平均繊維長は110mm以下であることができ、60mm以下であることができる。なお、「平均繊維長」は、JIS L1015(2010)の8.4.1c)直接法(C法)に則って測定した値をいう。
【0032】
上述の黒色布帛では、加熱処理によって接着繊維の一部あるいは全てを溶融させて、構成繊維同士が溶融接着により一体化していてもよい。その際の加熱処理の方法は適宜選択できる。例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する方法、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して含まれている有機樹脂を加熱する方法などを用いることができる。
【0033】
黒色布帛において使用可能なバインダ樹脂の種類は適宜選択する。例えば、ポリオレフィン(変性ポリオレフィンなど)、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン-アクリレート共重合体、各種ゴムおよびその誘導体[スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)など]、セルロース誘導体[カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど]、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、アクリル系樹脂などを使用できる。特に、バインダ樹脂がアクリル系樹脂を含有していると、金型を用いたヒートプレス等の熱成型時に適度に軟化するため、金型への追従性に優れ、意匠性が向上した表面材となり好ましい。
【0034】
黒色布帛に含まれるバインダ樹脂量は適宜選択する。バインダ樹脂量が多いほど主面が平滑であるなど、意匠性が向上した表面材となり好ましい。そのため、黒色布帛に含まれるバインダ樹脂量は、2g/m以上であるのが好ましい。一方、バインダ樹脂量が過剰に多い場合には、黒色布帛の柔軟性が劣ることで、表面材を成型加工する際に金型への追従性に劣る恐れがある。そのため、バインダ樹脂量は、20g/m以下であるのが好ましく、10g/m以下であるのが好ましい。
【0035】
また、バインダ樹脂には上述した樹脂以外にも、例えば、難燃剤、香料、顔料(無機顔料および/または有機系顔料)、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、増粘剤、消泡剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0036】
黒色布帛の、例えば厚さや目付などの諸構成は、特に限定されるべきものではなく適宜選択する。例えば、黒色布帛の厚さは、0.5~5mmであることができ、1~3mmであることができ、1.1~1.9mmであることができる。また、黒色布帛の目付は、50~500g/mであることができ、80~300g/mであることができ、100~250g/mであることができる。なお、本開示において厚さとは、測定対象物の主面と垂直をなす方向へ20g/cmの圧縮荷重をかけた時の、測定対象物における該垂直方向の長さをいう。また、目付とは、測定対象物の質量を主面における1mあたりに換算した質量をいう。
【0037】
本開示の表面材は、黒色布帛の少なくとも一方の主面上にプリントを部分的に備えている。特に、当該プリント(黒色布帛よりも色濃く(具体的には、より黒色に)表されているプリントを含む)の少なくとも一部が、表面材の主面上に露出して存在している。このようなプリントを備える表面材であることによって、落ち着いた印象を与え意匠性が向上した自動車内装材を実現可能な、表面材を提供できる。
【0038】
本開示にかかる表面材を実現できるのであれば、プリントの組成は調整できる。また、黒色顔料を含んだプリントであってもよい。しかし、黒色顔料を用いるだけの従来技術では、プリントが黒色布帛よりも色濃く(具体的には、より黒色に)表されており、表面材から顔料を含んだプリントが脱落することが防止された表面材を実現できなかった。
【0039】
本願出願人は、
・プリントがフッ素系撥水撥油剤、
および/または、
・化学構造-NH-C(=O)-を備えた架橋部分を有しているシリコーン系撥水剤(以降、架橋シリコーン系撥水剤と称することがある)、
を含んでいる場合には、後述する明度差(ΔL)の測定結果からも明らかなように、プリントが黒色布帛よりも色濃く表されている表面材を提供可能であることを見出した。
【0040】
この理由は完全に明らかにできたものではないが、次の効果が発揮されているためだと考えられる。フッ素系撥水撥油剤および/または架橋シリコーン系撥水剤を含んでいることでプリントにおける光の屈折率が変化する。その結果、プリントを通して見える下地の色(透けて見える黒色布帛の色)が、より濃色に見えるという効果が発揮されていると考えられる。そのため、黒色顔料を含んでいないプリントであっても、プリントが黒色布帛よりも色濃く(具体的には、より黒色に)表されている表面材を実現できる。
【0041】
ここでいうフッ素系撥水撥油剤とは、フッ素原子を含んだ分子鎖がポリマー未満の有機化合物、または、フッ素原子を含んだ分子鎖がオリゴマー以下の有機化合物、あるいは、フッ素原子を含んだ低分子の有機化合物(例えば、炭素数が6個のフッ素系撥水撥油剤など)である。そのため、フッ素系撥水撥油剤は、例えばフッ素ゴムのようなフッ素系のポリマーを含む概念ではない。このようなフッ素系撥水撥油剤として、旭硝子株式会社製のアサヒガードAG-E300D(商品名、登録商標)、AG-E082E、AG-550Dなどを採用できる。
【0042】
ここでいうシリコーン系撥水剤とは、ケイ素原子を含んだ低分子の有機化合物である。このようなシリコーン系撥水剤として、日華化学株式会社製のネオシード NR-8800(商品名、登録商標)、NR-7080、NR-8000などを採用できる。そして、これらシリコーン系撥水剤を由来とした、化学構造-NH-C(=O)-を備えた架橋部分を有しているシリコーン系撥水剤であることができる。
【0043】
プリントに含まれるフッ素系撥水撥油剤および/または架橋シリコーン系撥水剤の質量は適宜調整できる。プリントの質量に占めるフッ素系撥水撥油剤および/または架橋シリコーン系撥水剤の百分率は、1~99質量%であることができ、5~95質量%であることができ、40~93質量%であることができる。
【0044】
なお、表面材から顔料を含んだプリントが脱落することが無い表面材を実現できるよう、プリントは黒色顔料を含有していないのが好ましい。また、プリントが黒色布帛よりも色濃く(具体的には、より黒色に)表されている表面材を実現できるように、プリントのみにフッ素系撥水撥油剤および/または架橋シリコーン系撥水剤が含まれているのが好ましい。
【0045】
なお、フッ素系撥水撥油剤および/または架橋シリコーン系撥水剤が含まれているプリント以外にも、組成の異なる他のプリントを備えていても良い。例えば、フッ素系撥水撥油剤および/または架橋シリコーン系撥水剤が含まれているプリントに加え、白色顔料を含む別のプリントを有する表面材であってもよい。これにより、複雑な柄を有するより意匠性が向上した自動車内装材を実現可能な、表面材を提供でき好ましい。
【0046】
更に、本願出願人は、プリントに含まれるフッ素系撥水撥油剤やシリコーン系撥水剤が、ブロックイソシアネート系化合物(イソシアネート基がブロック剤により保護されている)などのイソシアネート系化合物などによって架橋されていることで、化学構造-NH-C(=O)-を備えた架橋部分を有している場合、表面材からプリントが脱落し難くなることを見出した。そのため、プリントの脱落による意匠性の低下が発生し難い、表面材を提供可能であることを見出した。この理由は完全に明らかにできているものではないが、次の効果が発揮されているためだと考えられる。
【0047】
イソシアネート系化合物がフッ素系撥水撥油剤および/またはシリコーン系撥水剤の架橋剤として働き、プリントの強度が向上するためだと考えられる。このとき、プリントに含まれるフッ素系撥水撥油剤やシリコーン系撥水剤は、イソシアネート系化合物により架橋され化学構造-NH-C(=O)-を備えた架橋部分を有するものとなる。そして、フッ素系撥水撥油剤同士および/またはフッ素系撥水撥油剤と黒色布帛の構成繊維、あるいは、イソシアネート系化合物同士および/またはイソシアネート系化合物と黒色布帛の構成繊維は、-NH-C(=O)-を備えた化学構造によって架橋している。
【0048】
フッ素系撥水撥油剤やシリコーン系撥水剤が当該架橋部分を有するか否かは、プリントから採取した試料をNMRやFT-IRなど各種分析装置へ供し分析することで判断可能である。
【0049】
イソシアネート系化合物として日華化学社製のNY-99(商品名)、ブロックイソシアネート系化合物として、明成化学工業株式会社製のSU-268A(商品名)やメイカネートTP-10(商品名)あるいはメイカネートCX(商品名)などを採用できる。
【0050】
プリントに添加するイソシアネート系化合物の質量は適宜調整できる。プリントの質量に占めるイソシアネート系化合物の百分率を、3~30質量%とすることができる。なお、プリントは、フッ素系撥水撥油剤および/またはシリコーン系撥水剤やイソシアネート系化合物以外にも、樹脂を含んでいてもよい。当該樹脂として、バインダ樹脂に採用可能であると例示した前述の樹脂(例えばアクリル系樹脂など)を採用し得る。
【0051】
しかし、表面に熱可塑性樹脂の層が露出し存在していない表面材を実現できるよう、プリントは熱可塑性樹脂を含んでいないのが好ましい。
【0052】
プリントは、黒色布帛の少なくとも一方の主面上に部分的に備えられていればよい。プリントの存在態様は適宜選択できる。例えば、線状やドット状あるいは不定形状などの柄を形成するように、プリントは当該主面上の一部分に備えられている態様であることができる。
【0053】
プリントは一種類であっても良いし、複数種類であってもよい。なお、プリントは表面材における少なくとも一方の主面上に部分的に備えられているのであれば、表面材のもう一方の主面上にプリントが存在していても良い。また、プリントは、黒色布帛の内部に侵入している態様であってもよい。
【0054】
黒色布帛における一方の主面上に存在するプリントの質量は適宜選択する。その質量が多過ぎると成型加工の際に表面材の成型加工性が悪くなる恐れがある。そのため、プリントの質量は50g/m以下であるのが好ましく、30g/m以下であるのが好ましい。下限値は適宜選択できるが、1g/m以上であることができ、5g/m以上であることができ、10g/m以上であることができる。
【0055】
本開示の表面材は、以下の(明度差の測定方法)により測定した、ΔLが0より小さい。
(明度差の測定方法)
1.黒色布帛における少なくとも一方の主面上にプリントを部分的に備えた、表面材を用意する。
2.JIS Z8722(2009)の分光測色方法に準じた積分球分光光度計(エックスライト(株)製、Color i5、光源:D65光源、測定方式:SCI方式)を用意する。なお、本積分球分光光度計で測定される色差は、CIE1976L*a*b*表色系で表される色差である。
3.積分球分光光度計を用いて、当該一方の主面における、黒色布帛が露出している箇所の明度を3箇所測定する。そして、その平均値を黒色布帛における主面の平均明度(Lb)とする。なお、当該平均明度が低いほど、より黒色の黒色布帛であることを意味する。
4.同様に、当該一方の主面側における、プリントが存在している箇所の明度を3箇所測定する。そして、その平均値をプリントの平均明度(Lp)とする。なお、当該平均明度が低いほど、より黒色にみえるプリントであることを意味する。
5.LpからLbを引いた値を、黒色布帛における少なくとも一方の主面上にプリントを部分的に備えている表面材の明度差(ΔL)とする。
【0056】
上述のようにして算出される明度差(ΔL)の値が0未満である場合、プリントが黒色布帛よりも色濃く(具体的には、より黒色に)表されていることを意味する。その結果、落ち着いた印象を与え、プリントが黒色布帛よりも色濃く(具体的には、より黒色に)表された柄を有する表面材である。そのため、意匠性が向上した自動車内装材を実現可能な表面材である。一方、明度差(ΔL)の値が0以上である表面材は、プリントが黒色布帛と同じ、あるいは、黒色布帛よりも色が薄く見える状態の表面材である。そのため、落ち着いた印象を与え意匠性が向上した自動車内装材を実現できない表面材である。
【0057】
明度差(ΔL)の値が0よりも小さいほど、より落ち着いた印象を与え意匠性が向上した自動車内装材を実現できる表面材を提供可能となる。そのため、明度差(ΔL)は-0.5以下であるのが好ましく、-0.9以下であるのが好ましく、-1.5以下であるのが好ましく、-2.0以下であるのが好ましく、-2.3以下であるのが好ましい。
【0058】
また、本開示にかかる表面材は摩擦に対する堅ろう性に富んでいる。具体的には、以下の測定方法で評価される汚染等級が4-5級または5級であることができる。
(摩擦に対する堅ろう性の評価方法)
1.黒色布帛における少なくとも一方の主面上にプリントを部分的に備えた、表面材を用意する。
2.表面材における部分的にプリントを備えている前記主面を、摩擦に対する染色堅ろう度試験「9.2摩擦試験機II形(学振型)法」の「a)乾燥試験の場合」(JIS L0849:2013)へ供する。本試験では、試験のため用意した摩擦用白綿布を前記主面に擦り合せる。
3.試験に使用した摩擦用白綿布(前記主面と摩擦させた後の摩擦用白綿布)の表面を確認する。確認の結果、試験を行ったことによって黒色布帛から摩擦用白綿布へ顔料を含んだプリントが色移りした程度を判定する。具体的には、染色堅ろう度試験方法通則「3)汚染の判定」の「表3-汚染の判定基準」(JIS L0801:2011)を用いて判定する。なお、当該基準は以下に表1として引用する通りである。
【0059】
【表1】
【0060】
プリントを備える黒色布帛を上述の評価方法へ供した結果、汚染等級4-5級である表面材、より好ましくは汚染等級5級である表面材は、摩擦に対する堅ろう性に富んだ表面材である。そのため、色移りし難く実用性に富んだ自動車内装材を実現可能な、表面材である。
【0061】
一方、判定した結果が汚染等級4級以下の評価となった表面材は、摩擦に対する堅ろう性に劣る表面材である。そのため、色移りし易く実用性に富んだ自動車内装材を実現できない、表面材である。
【0062】
なお、黒顔料を含んでいないプリントを備える黒色布帛を上述の評価方法へ供した場合には、測定へ供した後の摩擦用白綿布へ顔料を含んだプリントが色移りすることがない。そのため、この場合の測定結果は汚染等級5級となり得る。
【0063】
表面材の厚さは適宜選択する。例えば、2.5mm以下であることができ、2mm以下であることができ、1.5mm以下であることができる。一方、厚さの下限値は適宜調整する。例えば、0.5mm以上であるのが現実的である。また、表面材の目付は適宜選択する。例えば、350g/m以下であることができ、300g/m以下であることができる。一方、目付の下限値は適宜調整する。例えば、100g/m以上であるのが現実的である。
【0064】
また、本開示の表面材は、その表面に熱可塑性樹脂の層が露出し存在していないのが好ましい。このような熱可塑性樹脂の層として、熱可塑性樹脂を含むプリントの層や、プリントの上に設けた熱可塑性樹脂を含むホットメルト樹脂の層を挙げることができる。
表面に熱可塑性樹脂の層が露出し存在している表面材を、金型を用いたヒートプレス等の熱成型へ供すると、金型に当該層(熱可塑性樹脂を含むプリントの層や、プリントの上に設けられた熱可塑性樹脂を含むホットメルト樹脂の層)が付着して表面材から当該熱可塑性樹脂の層が剥がれる恐れがある。そして、熱可塑性樹脂の層が剥がれることによって、プリントの脱落が発生し易い。その結果、意匠性が向上した自動車内装材を実現可能な、表面材を提供し難くなる恐れがある。
【0065】
次に、本開示の表面材の製造方法について、例示し説明する。
【0066】
まず、織物、編物、不織布などの黒色布帛を用意する。黒色布帛の製造方法については特に限定するものではない。黒色布帛が織物や編物である場合、黒色顔料が練り込まれた繊維(原着繊維)を織るあるいは編むことで製造出来る。特に、黒色布帛として原着繊維を構成繊維に備える布帛を採用するのが好ましい。このような黒色布帛を備える表面材であることによって、落ち着いた印象を与え意匠性が向上した自動車内装材を実現可能な、表面材を提供できる。加えて、色移りし難く実用性に富んだ自動車内装材を実現可能な表面材を提供できる。
【0067】
黒色布帛が不織布である場合、例えば、原着繊維をカード装置やエアレイ装置などで絡み合わせる乾式法、繊維を溶媒に分散させシート状に抄き繊維を絡み合わせる湿式法、直接紡糸法などによって製造出来る。特に、表面材を成型加工した際の成型加工性に優れるように、ある程度の嵩がある黒色布帛である方が好ましい。そのため、前述した乾式法を採用するのが好ましい。
【0068】
上述のように形成した黒色布帛は取り扱いやすいように、水流又はニードルにより絡合するのが好ましい。特に、表面材を成型加工した際の成型加工性を損なわないように、ニードルによって絡合するのが好ましい。好適であるニードル絡合条件は特に限定するものではない。例えば、針密度300~1000本/cmで絡合するのが好ましく、300~600本/cmで絡合するのがより好ましい。
【0069】
また、必要に応じてバインダ樹脂の溶液あるいは分散液を、泡立て含浸、コーティング、又はスプレー等の方法によって、黒色布帛へ付与した後、乾燥させる。この工程を経て、黒色布帛の構成繊維をバインダ樹脂によって接着させても良い。このときバインダに黒色顔料を含有させて、黒色布帛を調製してもよい。
【0070】
最後に、黒色布帛の一方の主面上に、プリントを構成可能なプリント成分を含有した溶液あるいは分散液を部分的に塗布する。それにより、黒色布帛における少なくとも一方の主面上にプリント液を部分的に付与させる。プリント液の塗布方法は、特に限定するものではない。例えば、筒状シルクスクリーンのように、全面に貫通孔の開いたシリンダを用意し、このシリンダの貫通孔を通して、プリント液を黒色布帛の一方の主面上に部分的に塗布する方法を採用できる。
【0071】
次いで、プリント液が部分的に塗布された黒色布帛から、溶媒あるいは分散媒を除去する。溶媒あるいは分散媒の除去方法は適宜調製するが、例えば、ドライヤーで加熱し乾燥させる方法を採用できる。このようにして、黒色布帛における少なくとも一方の主面上にプリント液由来のプリントを部分的に備えた表面材を製造できる。
【0072】
本開示の表面材は、更に別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を備えていてもよい。更に、本開示の表面材をリライアントプレス処理などの、表面を平滑とするために加圧処理する工程へ供してもよい。また、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなどして加工するなどの、各種二次工程へ供してもよい。
【実施例0073】
以下、実施例によって本開示を具体的に説明するが、これらは本開示の範囲を限定
するものではない。
【0074】
(比較例1)
ポリエチレンテレフタレートに黒色顔料が練り込まれてなる原着繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:51mm、色:黒)をカード機へ供して開繊し、繊維ウエブを調製した。
そして、繊維ウエブをクロスレイヤー装置へ供し当該繊維ウエブの進行方向に対して交差させて、交差ウエブを形成した。その後、形成した交差ウエブに対し、その片面からニードルパンチを実施した。
その後、温度150℃に設定されたロールと接触するように、加熱ロールと非加熱ロールとからなる一対のロール間(スリット:0.5mm)へニードルパンチ処理を施した交差ウエブを通過させた。このようにして、ニードルパンチウェブ(色:黒、目付:180g/m)を形成した。
次いで、ニードルパンチウェブのニードルパンチを施した面とは反対の面から、顔料を含んでいないアクリル系樹脂バインダエマルジョン(固形分質量:50質量%、Tg:-40℃、アクリル系樹脂バインダの架橋温度:160℃)を泡立てた状態で塗布した。そして、ギャップ間隔を調整したロール間へ供した後、温度160℃のキャンドライヤーで乾燥した。このようにして、黒色布帛であるバインダ接着不織布1(色:黒、目付:185g/m、厚さ:1.6mm、アクリル系樹脂バインダの固形分質量:5g/m)を調製した。
比較例1では、このようにして調製したバインダ接着不織布1を、そのまま表面材とした。
【0075】
(比較例2)
以下の組成のプリント液Aを調製した。
黒色顔料エマルジョン・・・0.1重量部(固形分:0.062質量部)
アクリル系樹脂バインダエマルジョン・・・13.0重量部(固形分:6.5質量部)
シリコーンエマルジョン・・・1.4重量部(固形分:0.5質量部)
増粘剤・・・23.0重量部(固形分:0.61質量部)
25%アンモニア水・・・1.0重量部
水・・・61.5重量部
次いで、黒色布帛として比較例1で調製したバインダ接着不織布1を採用した。当該バインダ接着不織布1のアクリル系樹脂バインダエマルジョンを施した主面に対し、シリンダを用いて、プリント液Aを部分的に塗布した。
その後、温度180℃のドライヤーで乾燥しプリント液に含まれる分散媒を除去した。このようにして、黒色布帛における一方の主面上にプリントを部分的に備えた表面材(目付:195g/m、厚さ:1.5mm、うち黒色布帛の目付:185g/m、プリント液由来のプリント固形分質量:10g/m)を製造した。
【0076】
(実施例1)
以下の組成のプリント液B1を調製した。
フッ素系撥水撥油剤:アサヒガードAG-E300D・・・20.0重量部(固形分:6.0質量部)
シリコーンエマルジョン・・・0.4重量部(固形分:0.16質量部)
増粘剤・・・20.0重量部(固形分:0.30質量部)
25%アンモニア水・・・1.0重量部
水・・・58.6重量部
プリント液Aの代わりにプリント液B1を用いた。それ以外は、比較例2と同様にして、黒色布帛における一方の主面上にプリントを部分的に備えた表面材(目付:195g/m、厚さ:1.5mm、うち黒色布帛の目付:185g/m、プリント液由来のプリント固形分質量:10g/m)を製造した。
【0077】
(実施例2)
以下の組成のプリント液B2を調製した。
フッ素系撥水撥油剤:アサヒガードAG-E300D・・・20.0重量部(固形分:6.0質量部)
ブロックイソシアネート系化合物:SU-268A・・・3.0重量部(固形分:0.9質量部)
シリコーンエマルジョン・・・0.4重量部(固形分:0.16質量部)
増粘剤・・・15.0重量部(固形分:0.23質量部)
25%アンモニア水・・・1.0重量部
水・・・60.6重量部
プリント液Aの代わりにプリント液B2を用いた。それ以外は、比較例2と同様にして、黒色布帛における一方の主面上にプリントを部分的に備えた表面材(目付:195g/m、厚さ:1.5mm、うち黒色布帛の目付:185g/m、プリント液由来のプリント固形分質量:10g/m)を製造した。
なお、このようにして調製された表面材において、ブロックイソシアネート系化合物はフッ素系撥水撥油剤と架橋反応したことで、プリントに含まれるフッ素系撥水撥油剤は化学構造-NH-C(=O)-を備えた架橋部分を有するものであった。
【0078】
(比較例3)
バインダ接着不織布1をディロア加工機へ供した。そして、比較例1で調製したバインダ接着不織布1よりも、更に黒色に見えるバインダ接着不織布2(色:黒、目付:185g/m、厚さ:1.6mm、アクリル系樹脂バインダの固形分質量:5g/m)を調製した。
比較例3では、このようにして調製したバインダ接着不織布2を、そのまま表面材とした。
【0079】
(比較例4)
黒色布帛としてバインダ接着不織布1の代わりにバインダ接着不織布2を用いた。それ以外は、比較例2と同様にして、黒色布帛における一方の主面上にプリントを部分的に備えた表面材(目付:195g/m、厚さ:1.5mm、うち黒色布帛の目付:185g/m、プリント液由来のプリント固形分質量:10g/m)を製造した。
【0080】
(実施例3)
黒色布帛としてバインダ接着不織布1の代わりにバインダ接着不織布2を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、黒色布帛における一方の主面上にプリントを部分的に備えた表面材(目付:195g/m、厚さ:1.5mm、うち黒色布帛の目付:185g/m、プリント液由来のプリント固形分質量:10g/m)を製造した。
【0081】
(実施例4)
黒色布帛としてバインダ接着不織布1の代わりにバインダ接着不織布2を用いた。それ以外は、実施例2と同様にして、黒色布帛における一方の主面上にプリントを部分的に備えた表面材(目付:195g/m、厚さ:1.5mm、うち黒色布帛の目付:185g/m、プリント液由来のプリント固形分質量:10g/m)を製造した。
なお、このようにして調製された表面材において、ブロックイソシアネート系化合物はフッ素系撥水撥油剤と架橋反応したことで、プリントに含まれるフッ素系撥水撥油剤は化学構造-NH-C(=O)-を備えた架橋部分を有するものであった。。
【0082】
(実施例5)
以下の組成のプリント液B3を調製した。
白色顔料・・・0.1重量部(固形分:0.062質量部)
増粘剤・・・23.0重量部(固形分:0.61質量部)
アクリル系樹脂バインダエマルジョン・・・13.0重量部(固形分:6.5質量部)
シリコーンエマルジョン・・・1.4重量部(固形分:0.5質量部)
25%アンモニア水・・・1.0重量部
水・・・61.5重量部
実施例1で調製した表面材が備えるプリントの一部に重なるようにして、当該プリント上にプリント液B3を部分的に塗布した。
その後、温度180℃のドライヤーで乾燥しプリント液B3に含まれる分散媒を除去した。このようにして、プリント液B1由来のプリント上の一部分に、プリント液B3由来の白色のプリントを備えた表面材(目付:199g/m、厚さ:1.5mm、うち黒色布帛の目付:185g/m、プリント液B1由来のプリント固形分質量:10g/m、プリント液B3由来のプリント固形分質量:4g/m)を製造した。
このようにして調製した表面材の主面には、プリント液B1由来のプリントが露出している部分と、プリント液B3由来の白色のプリントが露出している部分とが存在していた。
【0083】
(実施例6)
目付を173g/mに調整したニードルパンチウェブ(色:黒)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、黒色布帛であるバインダ接着不織布3(色:黒、目付:185g/m、厚さ:1.6mm、アクリル系樹脂バインダの固形分質量:12g/m)を調製した。
次いで、以下の組成のプリント液B4を調製した。
シリコーン系撥水剤:NB-8800・・・15.0重量部(固形分:4.5質量部)
イソシアネート系化合物:NY-99・・・2.0重量部(固形分:0.4質量部)
シリコーンエマルジョン・・・0.4重量部(固形分:0.16質量部)
増粘剤・・・25.0重量部(固形分:0.64質量部)
25%アンモニア水・・・1.0重量部
水・・・60.6重量部
プリント液Aの代わりにプリント液B4を用いた。それ以外は、比較例2と同様にして、黒色布帛における一方の主面上にプリントを部分的に備えた表面材(目付:195g/m、厚さ:1.5mm、うち黒色布帛の目付:185g/m、プリント液由来のプリント固形分質量:10g/m)を製造した。
なお、このようにして調製された表面材において、イソシアネート系化合物はシリコーン系撥水剤と架橋反応したことで、プリントに含まれるシリコーン系撥水剤は化学構造-NH-C(=O)-を備えた架橋部分を有するものであった。。
【0084】
(実施例7)
実施例6で調製した表面材が備えるプリントの一部に重なるようにして、当該プリント上にプリント液B3を部分的に塗布した。
その後、温度180℃のドライヤーで乾燥しプリント液B3に含まれる分散媒を除去した。このようにして、プリント液B4由来のプリント上の一部分に、プリント液B3由来の白色のプリントを備えた表面材(目付:199g/m、厚さ:1.5mm、うち黒色布帛の目付:185g/m、プリント液B1由来のプリント固形分質量:10g/m、プリント液B3由来のプリント固形分質量:4g/m)を製造した。
このようにして調製した表面材の主面には、プリント液B4由来のプリントが露出している部分と、プリント液B3由来の白色のプリントが露出している部分とが存在していた。
【0085】
なお、上述のようにして調製したいずれの表面材も、各プリントは表面材上に露出して存在しているものであった。
【0086】
以上のようにして調製した各表面材の物性を表2にまとめた。なお、有していない項目については、表中に「-」印を記載した。
【0087】
また、(摩擦に対する堅ろう性の評価方法)の判定結果が、汚染等級4-5級または汚染等級5級であった表面材は表中に「○」印を記載した。一方、(摩擦に対する堅ろう性の評価方法)の判定結果が、汚染等級4級以下の評価となった表面材は表中に「×」印を記載した。
更に、黒色顔料を含んでいないプリントを備えた実施例の表面材において、(摩擦に対する堅ろう性の評価方法)へ供した後の表面材の表面を肉眼で観察した。その結果、摩擦用白綿布で摩擦した部分の色が薄くなったように見える表面材は、表中に「○」と併せて「※1」印を記載した。また、「※1」と評価された表面材よりも薄くなったように見えなかった表面材は、表中に「○」と併せて「※2」印を記載した。「〇※2」と評価された表面材は、「〇※1」と評価された表面材よりも、プリントが脱落し難い表面材であることを意味する。
【0088】
(意匠性の評価方法)
調製した表面材におけるプリントを部分的に備えている側の主面(比較例1と比較例3においては、バインダ接着不織布1または2におけるアクリル系樹脂バインダエマルジョンを施した側の主面)を、人に目視で確認させた。そして、その意匠性の評価を受けた。
プリントが黒色布帛よりも色濃く(具体的には、より黒色に)表されてなる柄を有しており、意匠性に富むと評価された表面材は、表中に「○」印を記載した。一方、プリントが柄を有していないため意匠性に劣ると評価された表面材、ならびに、プリントが黒色布帛よりも色が薄く表されてなる柄を有するため意匠性に劣ると評価された表面材は、表中に「×」印を記載した。
【0089】
なお、実施例5で調製した表面材では、表面材の一方の主面側におけるプリント液B1由来のプリントが露出している部分の明度を測定することで、プリントの平均明度(Lp)を算出し求めた。また、実施例7で調製した表面材では、表面材の一方の主面側におけるプリント液B4由来のプリントが露出している部分の明度を測定することで、プリントの平均明度(Lp)を算出し求めた。
【0090】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0091】
本開示の表面材は、各種内装材の表面材、特に、天井、ドアーサイド、ピラーガーニッシュ、リヤパッケージなどの車両用内装材の表面材として使用できる。