(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181117
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】親水性コーティングを有する透明なポリマーを含むデバイス、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/06 20060101AFI20231214BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20231214BHJP
G01N 21/73 20060101ALI20231214BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20231214BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20231214BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20231214BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20231214BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B32B27/06
G01N1/00 101P
G01N21/73
H01J49/04 450
H01J49/16 500
B32B27/30 B
B32B27/36 101
B32B27/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023091641
(22)【出願日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】63/350,800
(32)【優先日】2022-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】18/126,948
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】399117121
【氏名又は名称】アジレント・テクノロジーズ・インク
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】エリザベス・カー
(72)【発明者】
【氏名】フランク・シュトレラー
(72)【発明者】
【氏名】リーチー・フゥー
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド・マイケル・リンチ
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・クロッサー
【テーマコード(参考)】
2G043
2G052
4F100
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043MA16
2G052AA40
2G052AD06
2G052AD26
2G052AD42
2G052CA04
2G052CA18
2G052CA22
2G052HC07
2G052JA16
4F100AA16B
4F100AA20B
4F100AK02A
4F100AK12A
4F100AK12B
4F100AK42A
4F100AL07A
4F100AL07B
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100EJ52B
4F100GB90
4F100JB01B
4F100JB05B
4F100JN01A
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コスト効率の良い手段で成形される、親水性コーティングを有する透明なポリマーを含むデバイスを提供する。
【解決手段】本体を形成する透明なポリマーの内表面の一部分の上に親水性層を備えるデバイスであって、上記親水性層が、透明なポリマーのスルホン化された内表面、シリカ、オキシ炭化ケイ素、透明なポリマーのO2プラズマ処理物、またはそれらの組合せを含む。デバイスは、例えば、誘導結合プラズマデバイス内で使用されるネブライザーまたは噴霧チャンバーであってもよい。デバイスを製造する方法も開示されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体を形成する透明なポリマーの内表面の一部分の上に親水性層を備えるデバイスであって、前記親水性層が、前記透明なポリマーのスルホン化された内表面、シリカ、オキシ炭化ケイ素、前記透明なポリマーのO2プラズマ処理物、またはそれらの組合せを含む、デバイス。
【請求項2】
前記透明なポリマーがポリスチレンである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記親水性層が、前記透明なポリマーの前記スルホン化された内表面である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
使い捨てである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記親水性層が、シリカまたはオキシ炭化ケイ素である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記透明なポリマーが、グリコール修飾を有するポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンテレフタレートである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記透明なポリマーが、環状オレフィンポリマーである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記親水性層が、前記透明なポリマーのO2プラズマ処理物である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
噴霧チャンバーである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
ネブライザーである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
デバイスを製造する方法であって、
透明なポリマーを鋳型製造または射出成形することによりデバイスを形成するステップと、
前記デバイスの内表面の一部分を化学的に修飾するステップであって、前記一部分に親水性が付与される、ステップと
を含む、方法。
【請求項12】
前記化学的に修飾するステップが、前記透明なポリマーの透明性を低減しない、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
化学的に修飾するステップが、前記デバイスの内表面の一部分のスルホン化を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記デバイスの前記親水性の一部分が、室温における耐久性を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記デバイスの前記親水性の一部分が、20%王水、希塩酸、硝酸、またはそれらの組合せを含む溶媒に対する耐久性を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記デバイスを形成するステップが、
前記デバイスの2つの半体を別々に成形するステップと、
前記2つの半体を繋げ合わせて前記透明なポリマーのデバイスを形成するステップと
をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
化学的に修飾するステップが、
前記形成された透明なポリマーのデバイスを硫酸浴中に含浸するステップ
をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記デバイスを形成するステップが、
前記デバイスの2つの半体を別々に成形するステップを含み、かつ
前記化学的に修飾するステップの後に、前記2つの半体を繋げ合わせて前記デバイスを形成するステップをさらに含む、
請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記化学的に修飾するステップが、約-5℃から約80℃未満に及ぶ温度で、約1分から約1時間に及ぶ時間の間、硫酸を適用するステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記硫酸の濃度が少なくとも96%である、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本願は、2022年6月9日に出願された米国仮出願第63/350,800号の優先権を主張するものであり、その開示内容の全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は一般に、本体を形成する透明なポリマーの内表面の一部分の上に親水性層を備えるデバイスであって、上記親水性層が、透明なポリマーのスルホン化された内表面、シリカ、オキシ炭化ケイ素、透明なポリマーのO2プラズマ処理物、またはそれらの組合せを含む、デバイスに関する。上記デバイスは、例えば、誘導結合プラズマデバイス内で使用されるネブライザーまたは噴霧チャンバーであってもよい。デバイスを製造する方法も開示されている。
【背景技術】
【0003】
誘導結合プラズマ光学的発光分光法(ICP-OES)または誘導結合プラズマ質量分光法(ICP-MS)試料導入システムにおいて、試料はネブライザーから入り、液状の試料が微小な液滴に分散している気流の空気圧作用により、微細なエアロゾルに細分化される。この霧状化された噴霧は、不活性ガスと共に大きい液滴と小さい液滴とが分離される噴霧チャンバー内に流れ込む。ICPに関し、10μmより小さい単分散の液滴が理想的であるが、大きな液滴はシグナルの安定性および強度に影響を与える。本理由により、効率的に原子化させ、最終的に試料の元素成分をイオン化させるため、最も小さな液滴のみが、噴霧チャンバー内を通過してプラズマ中を進むことが可能であり、これにより正確な定量分析を達成する。特に、液滴は噴霧チャンバーの設計および気流の渦により分別され、これにより、比較的大きな液滴は遠心力により噴霧チャンバー壁に衝突し、残された比較的小さな液滴はプラズマ中をさらに突き進み、それらは高温でイオン化されて元素組成が分析される。噴霧チャンバー表面に激突した比較的大きな液滴は、比較的微細な噴霧滴を妨げないように、噴霧チャンバー壁を滴り落ち、流路から排出される。
【0004】
噴霧チャンバー表面から比較的大きな液滴を除去することを要する排水を達成するためには、上記表面自体が溶媒を排除できるものでなければならない。水やアルコール等の溶媒は、噴霧チャンバー表面の性質が親水性である場合に容易に外へ排出される。性質的に親水性であるガラスは通常、必要とされる排水を可能とする噴霧チャンバーに使用されている。ガラスはさらに、ICPに使用される酸に強く、透明であり、使用者が噴霧チャンバー壁に当たった溶液の排水を観察することを可能とする。次の分析前の試料の「ウォッシュアウト」に必要な時間が少ないため、ガラスのような親水性表面を用いた排水は速い。表面が汚染され始める、またはその親水性を失う場合、これらのウォッシュアウトは、試料残渣を除去するのに十分でなく、誤った分析を招く、またはウォッシュアウト時間を長引かせてしまう可能性がある。経時的に、ガラスの噴霧チャンバーは清浄または交換の必要があるが、それは使用者にとってコストがかさんでしまう。加えて、ガラスの噴霧チャンバーの生産は、熟練したガラス技術者の手によるガラス成形を要する。これは高価であり(各ピースあたり何百ドル)、デザインも多少限定されてしまう。
【0005】
主に特別な用途(例えば、フッ化水素酸耐性)のための噴霧チャンバー用の他の既存材料は、パーフルオロポリマー(例えばパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE))、および不活性プラスチックPEEK等のプラスチックを含有するフルオロカーボンを含む。パーフルオロポリマーは一般的に不透明であり、それは(ICP-OES使用者により重要と考えられている)溶液の噴霧および導入の視覚的な観察を阻害する。さらにパーフルオロポリマーは疎水性であることから、噴霧チャンバーの液のビーディングを避けるため(分析および廃液排水に影響を与える能性がある)、高価な親水性コーティングを内表面上に設けられなければならない。
【0006】
高性能噴霧チャンバーを製造するためのコストフレンドリーなよい解決策が望まれている。
【0007】
ガラスの噴霧チャンバーの形状は、予備成形された(成形された、または押出成形された)部材と、ガラスブロー成形により実施される小さい手動の修正の組合せに限定される。労力集約的またはコスト集約的になることなく、多くの目的に対応可能な多彩な形状に安価で作ることのできるデバイスが求められている。
【0008】
ガラスの噴霧チャンバーは、ベンチトップから床に落とした場合に粉々に割れてしまう。加えて、ガラスの噴霧チャンバーは使用条件下および清浄条件下で割れることもある。周囲の使用条件で適正な衝撃耐性を有するデバイスが求められている。さらに、上記デバイスはひび割れに対する耐性を備えるべきである。
【発明の概要】
【0009】
一態様において、本開示には、本体を形成する透明なポリマーの内表面の一部分の上に親水性層を含むデバイスであって、上記親水性層が、透明なポリマーのスルホン化された内表面、シリカ、オキシ炭化ケイ素、透明なポリマーのO2プラズマ処理物、またはそれらの組合せを含む、デバイスが開示されている。
【0010】
別の態様において、本開示には、デバイスを製造する方法であって、透明なポリマーを鋳型製造または射出成形させることによりデバイスを形成するステップと、デバイスの内表面の一部分を化学的に修飾して上記一部分に親水性を付与するステップとを含む、方法が開示されている。
【0011】
各種実施形態の追加の特徴および利点は、後述する記載中にある程度記載されており、ある程度は、それらの記載から明らかとなり、または各種実施形態の実施により理解できる。各種実施形態の目的および他の利点は、特に本開示の記載において指摘された要素および組合せにより実現され、達成される。
【0012】
本開示の特徴は、例により図示されるが、下記図には限定されず、それらにおいて同じ数字は同じ要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A-C】本発明の態様による各種デバイスを示す図である。
【
図2】親水性コーティングを有さないデバイスと比較した、スルホン化されたポリスチレンの表面親水性を示すグラフである。
【
図3】
図3Aは、エアロゾルのビーディングを示す、模擬噴霧チャンバー内の未処理のポリスチレンクーポンを示す写真である。
図3Bは、エアロゾルのビーディングを示さない、スルホン化されたポリスチレンクーポンを示す写真である。
【
図4】親水性コーティングを有さないデバイス、および溶媒で洗浄後のデバイスと比較した、スルホン化されたポリスチレンの表面親水性を示すグラフである。
【
図5A-C】
図5Aは、模擬噴霧チャンバー内で20%王水と接触させたプラズマ増強化学蒸着(PECVD)シリカでコーティングされたポリスチレンクーポンの、噴霧された溶液の非ビーディングを示す写真である。
図5Bは、模擬噴霧チャンバー内でA-solvと接触させた後に超音波により処理したPECVDシリカでコーティングされたポリスチレンクーポンの、噴霧された溶液の非ビーディングを示す写真である。
図5Cは、模擬噴霧チャンバー内の未処理のポリスチレンクーポンの、エアロゾルのビーディングを示す写真である。
【
図6】一定期間にわたり、溶媒を用いた洗浄の後に清浄液中で超音波清浄させた後の、シリカでコーティングされたグリコール修飾を有するポリエチレンテレフタレートの(静的水接触角により測定された)表面親水性を示すグラフである。
【
図7】
図7は、20%王水に25日間接触させた後、5%のTriton X-100中で5日間超音波処理した、PECVDシリカでコーティングされたポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)クーポンを示す光学顕微鏡画像である。
図7Bは、A-solvに25日間接触させた後、5%のTriton X-100中で5日間超音波処理した、PECVDシリカでコーティングされたPETGクーポンを示す光学顕微鏡画像である。
【
図8】親水性コーティングを有さないデバイス、および溶媒で洗浄後のデバイスと比較した、O
2プラズマ処理した(処理直後の)環状オレフィンポリマーの表面親水性を示すグラフである。
【
図9A-B】
図9Aは、模擬噴霧チャンバー内の未処理の環状オレフィンクーポンの、エアロゾルのビーディングを示す画像である。
図9Bは、模擬噴霧チャンバー内でO
2プラズマ処理したクーポンの、エアロゾルの非ビーディングを示す画像である。
【
図10】親水性コーティングを有さないデバイス、および溶媒で洗浄後のデバイスと比較した、O
2プラズマ処理した(処理直後の)グリコール修飾を有するポリエチレンテレフタレートの表面親水性を示すグラフである。
【
図11A-B】
図11Aは、模擬噴霧チャンバー内のグリコール修飾を有する未処理のポリエチレンテレフタレートクーポンの、エアロゾルのビーディングを示す画像である。
図11Bは、模擬噴霧チャンバー内でO
2プラズマ処理したクーポンの、エアロゾルの非ビーディングを示す画像である。
【
図12A-C】シリコンウェハ上のシリカ膜の水接触角の測定を示す画像である。
【
図13A-C】オゾン暴露を長引かせたシリコンウェハ上のシリカ膜の水接触角の測定を示す画像である。
【
図14】5%のCitranox(LE12-1およびLE12-2)溶液または5%のExtran MA02(LE12-3)溶液中での清浄前を(1)とラベリングし、清浄後を(2)とラベリングした、シリカでコーティングされたPET噴霧チャンバー(LE12)の感度の結果を示すグラフである。LE12-4は実験間で清浄しなかった。
【
図15】5%のCitranox(LE12-1およびLE12-2)溶液または5%のExtran MA02(LE12-3)溶液中での清浄前を(1)とラベリングし、清浄後を(2)とラベリングした、シリカでコーティングされたPET噴霧チャンバー(LE12)の精度の結果を示すグラフである。LE12-4は実験間で清浄しなかった。
【
図16】5%のCitranox(LE12-1およびLE12-2)溶液または5%のExtran MA02(LE12-3)溶液中での清浄前を(1)とラベリングし、清浄後を(2)とラベリングした、シリカでコーティングされたPET噴霧チャンバー(LE12)のウォッシュアウトの結果を示すグラフである。LE12-4は実験間で清浄しなかった。
【
図17A-D】20%王水および5%のExtran MA02溶液に暴露させた後のSiO
2でコーティングされたPETクーポンの光学顕微鏡分析を示す図である。(
図17A)ALD SiO
2堆積前に30分間のオゾン処理を実施し、4回の清浄サイクルを17日間実施した試料LE16-C11、(
図17B)9回の清浄サイクルを47日間実施した試料LE16-C11、(
図17C)ALDコーティング前にオゾン処理を実施せず、3回の清浄サイクルを17日間実施したLE10-C1、(
図17D)清浄せずに5日間のみ20%王水に暴露させた、Thierry CorporationのPECVD SiO
2でコーティングされた試料#11-C1。
【
図18A-E】噴霧チャンバーの内表面上の水のビーディングを有するシリカでコーティングされたPET噴霧チャンバーセットアップを示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
簡潔かつ具体性を持たせるため、本開示は、主にそれらの例示を参照することにより説明されている。本開示の十分な理解を提供するために、下記記載において、多くの具体的な詳細が記載されている。しかし、本開示はこれらの具体的な詳細に限定することなく実施できることはすぐに理解され得る。他の例において、いくつかの方法および構成は、本開示を不必要に不明瞭にすることのないよう、詳細に記載されていない。
【0015】
加えて、添付の図面において描写された要素は、追加の成分を含むことができ、それらの図面に記載されているいくつかの成分は、本開示の範囲から逸脱することなく省略および/または変更することができる。さらに、図面において描写された要素は縮尺を合わせなくてもよいため、上記要素は図面で示されているそれらと相違する大きさおよび/また構成を有していてもよい。
【0016】
前述の一般的な記載および下記の詳細な記載の両者は例示および解釈のみであり、本開示の教示の各種実施形態の説明を提供することを意図していることは理解され得る。その広範かつ多様な実施形態において、本開示には、本体を形成する透明なポリマーの内表面の一部分の上に親水性層を含むデバイスであって、上記親水性層は、スルホン化された(または化学的に修飾された)透明なポリマーの内表面、シリカ、オキシ炭化ケイ素、透明なポリマーのO2プラズマ処理物、またはそれらの組合せを含むデバイスが開示されている。
【0017】
本開示に開示されている上記デバイスは、コスト効率の良い手段で成形され、かつ準備され得る。この手段において、上記デバイスは、使い捨ておよび/または再利用できるものであってもよい。上記デバイスは、デバイスの内容物および溶液霧状化プロセスの観察を可能とするため、透明またはほぼ透明であってもよい。加えて、上記デバイスは、上記デバイスの寿命を延ばすために誘導結合プラズマプロセスに使用される溶媒に対する耐久性を有していてもよい。誘導結合プラズマプロセスで使用される溶液は、デバイスの内表面上のビーディングを抑止し得る。特に、デバイスの内表面の一部分の上の親水性層は、流体の液滴を平坦にし、合体させ、および/または排水を可能とし得ることにより、ビーディングを抑止する。特に、上記親水性層は、噴霧チャンバーを親水性にし、低pH環境に耐えるものとし、および/またはよりコスト効率の高い手段で透明なプラスチックから作製されることを可能とする。
【0018】
上記デバイスは、ネブライザー(
図1Aに示されているとおり)、噴霧チャンバー(
図1Bおよび
図1Cに示されているとおり)、または付属の試料導入容器であってもよい。一態様において、上記デバイスは、上方のチャンバーにおいて縮小された幅および高さを有する噴霧チャンバーであってもよい。上方のチャンバーの縮小は、上方のチャンバー内の縮小した容積と同等であってもよく、これによりエアロゾル液滴が上方のチャンバーに捕捉され得る可能性が低くなる。上記デバイスは、下方のチャンバー内が比較的大きな容積を有する噴霧チャンバー(元の大きさの約166%)であってもよく、より大きなエアロゾル液滴が内部の捕集管から遠ざかるように円を描きながら排出することを可能とし得る。上記噴霧チャンバーは一体型構造であってもよく、または第1の部材および第2の部材等の別々の接続可能な部材を含んでいてもよい。
【0019】
ネブライザーは、同心状および平行なパスを有していてもよい。噴霧チャンバーは、サイクロン式(シングルパスおよびダブルパス)およびスコット式を含み得る。
【0020】
上記デバイスは、1つまたは複数の入口および1つまたは複数の出口を有する本体であってもよい。本体は外表面および内表面を有していてもよい。本体は透明な材料で形成されていてもよい。一態様において、上記透明な材料は、表面が修飾もしくはコーティングされている、またはされ得ることで、親水性層を生じるいかなる透明な材料であってもよい。上記透明な材料は透明なポリマーであってもよい。上記デバイスの使用のための透明なポリマーの非限定的な例は、ポリスチレン、グリコール修飾を有するポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、環状オレフィンポリマー、およびポリカーボネート等を含む。市販されている環状オレフィンポリマーの例は、日本ゼオン株式会社製のZEONOR(登録商標)1020およびZEONOR(登録商標)790を含む。上記透明なポリマーはポリスチレンであってもよい。
【0021】
上記デバイスの本体は、三次元印刷等の積層造形、または射出成形能により形成されていてもよい。これらの製作方法は、噴霧チャンバー、設計、形状、および/または大きさ等の本体に対する多様な変更を可能とする。
【0022】
その内表面を含むデバイスは、透明なポリマーで形成されていてもよい。デバイスの内表面の一部分は、親水性層を生じさせるために、修飾、表面処理、またはコーティングがされていてもよい。「一部分(a portion)」は、デバイスの内表面の少なくとも1%、例えば約5%から約100%、例えば約50%から約99%、およびさらなる例として約75%から約95%を意味し、それらの間の部分的な範囲および端点を含むと理解される。
【0023】
上記親水性層は、透明なポリマーの内表面の一部分に親水性または実質的な親水性を付与し得る任意のコーティング、表面処理、および/または表面修飾であってもよい。例えば、透明なポリマーの内表面の一部分上で上記親水性層は液玉の形成を抑止することができる。親水性層の非限定的な例は、スルホン化された(カルボキシル化された、アミン化された、ヒドロキシル化された、または親水性物性を付与し得る他の化学的部位)透明なポリマーの内表面、シリカ、オキシ炭化ケイ素、透明なポリマーのO2プラズマ処理物、またはそれらの組合せを含む。
【0024】
一態様において、上記透明なポリマーはポリスチレンであってもよい。上記ポリスチレンは、親水性層、すなわち透明なポリマーのスルホン化された内表面を生じるために、下記に示されているように化学的に修飾してもよい。
【0025】
【0026】
別の態様において、上記デバイスは、グリコール修飾を有するポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンテレフタレート等の透明なポリマーで形成されていてもよい。シリカまたはオキシ炭化ケイ素の親水性層は、プラズマ増強化学蒸着法(PECVD)等の従来の堆積プロセスを使用して透明なポリマーの内表面の一部分上に堆積させてもよい。例えば、酸素:ヘキサメチルジシロキサン(HDMSO)3:1、さらなる例として12:1のガスフィードは、内表面の一部分に適用されてもよい。
【0027】
別の態様において、上記デバイスは、環状オレフィンポリマー等の透明なポリマーから形成されていてもよい。透明なポリマーの内表面の一部分は、内表面の一部分上に親水性層を生じるために、O2プラズマ処理を使用して表面修飾されていてもよい。上記O2プラズマ処理は、400mTorr酸素で5分間、500Wで実施してもよい。
【0028】
上記デバイスは、ポリエチレングリコールを含む噴霧チャンバーであってもよい。噴霧チャンバーの内表面の一部分は、シリカの親水性層を有していてもよい。上記シリカの親水性層は、原子層堆積法を使用して形成してもよい。ケイ素源等の第1の前駆体は、デバイスの本体の内表面に対して反応させるために使用して単層を形成してもよい。酸素源等の第2の前駆体は、単層と反応させて単一の完全に反応した単層を形成させる方法で計量供給してもよく、それは完全なサイクルである。上記サイクルは、複数の完全に反応した単層で形成された親水性層の厚さを制御するために数回繰り返してもよい。
【0029】
本開示には、デバイスを製造する方法であって、透明なポリマーを鋳型製造または射出成形させることによりデバイスを形成するステップと、デバイスの内表面の一部分を化学的に修飾して上記一部分に親水性を付与するステップとを含む、方法が開示されている。上記デバイスを形成するステップは、さらに、上記デバイスの2つの半体を別々に成形するステップと、上記2つの半体を繋げ合わせて透明なポリマーのデバイスを形成するステップとを含んでいてもよい。化学的に修飾するステップは、さらに、透明なポリマーで形成されたデバイスを硫酸浴中に含浸させるステップを含んでいてもよい。
【0030】
代替的な態様において、デバイスを製造する方法は、透明なポリマーを鋳型製造または射出成形させることによりデバイスを形成するステップと、デバイスの表面の一部分を化学的に修飾して上記一部分に親水性を付与するステップとを含んでいてもよい。上記デバイスを形成するステップは、さらに、上記デバイスの2つの半体を別々に成形するステップを含んでいてもよい。化学的に修飾するステップは、さらに、透明なポリマーで形成されたデバイスを硫酸浴中に含浸させるステップを含んでいてもよい。上記方法は、化学的に修飾するステップの後に、2つの半体を繋げ合わせてデバイスを形成するステップを含んでいてもよい。
【0031】
前述の化学的に修飾する方法ステップに関し、化学的に修飾するステップは、約-5℃から約80℃未満に及ぶ温度で、約1分から約1時間に及ぶ時間の間、硫酸を適用するステップを含んでいてもよい。硫酸の濃度は、少なくとも96%であってもよい。硫酸は、遊離SO3を約0.01%から約20%で含む発煙硫酸であってもよい。この手段において、化学的に修飾するステップは、上記デバイスの内表面の一部分のスルホン化を含み得る。
【0032】
本開示には、デバイスを製造する方法であって、透明なポリマーを鋳型製造または射出成形させることによりデバイスを形成するステップと、デバイスの内表面の一部分を化学的に修飾して上記一部分に親水性を付与するステップとを含む、方法が開示されている。上記デバイスを形成するステップは、さらに、上記デバイスの2つの半体を別々に成形するステップを含んでいてもよい。化学的に修飾するステップは、さらに、上記デバイスの成形された2つの半体のプラズマ増強化学蒸着シリカまたはオキシ炭化ケイ素、および、表面親水性の化学的な安定化のために、上記デバイスのコーティングされた、成形された2つの半体を溶液中に含浸させるステップを含んでいてもよい。上記方法は、化学的に修飾するステップの後に、2つの半体を繋げ合わせてコーティングされた透明なポリマーのデバイスを形成するステップを含んでいてもよい。
【0033】
本開示には、デバイスを製造する方法であって、透明なポリマーを鋳型製造または射出成形させることによりデバイスを形成するステップと、デバイスの表面の一部分を化学的に修飾して上記一部分に親水性を付与するステップとを含む、方法が開示されている。上記デバイスを形成するステップは、さらに、上記デバイスの2つの半体を別々に成形するステップを含んでいてもよい。化学的に修飾するステップは、さらに、上記デバイスの成形された2つの半体のプラズマ増強化学蒸着シリカまたはオキシ炭化ケイ素を含んでいてもよい。上記方法は、化学的に修飾するステップの後に、2つの半体を繋げ合わせてコーティングされた透明なポリマーのデバイスを形成するステップを含んでいてもよい。コーティングされた透明なポリマーを含むデバイスは、表面親水性の化学的な安定化のために、溶液中に含浸させてもよい。
【0034】
本開示には、デバイスを製造する方法であって、透明なポリマーを鋳型製造または射出成形させることによりデバイスを形成するステップと、デバイスの表面の一部分を化学的に修飾して上記一部分に親水性を付与するステップとを含む、方法が開示されている。上記デバイスを形成するステップは、さらに、上記デバイスの2つの半体を別々に成形するステップを含んでいてもよい。化学的に修飾するステップは、さらに、上記デバイスの成形された2つの半体のO2プラズマ処理、および、上記デバイスのコーティングされた、成形された2つの半体を硝酸、または清浄液等の溶液中に含浸させるステップを含んでいてもよい。上記方法は、化学的に修飾するステップの後に、2つの半体を繋げ合わせてコーティングされた透明なポリマーのデバイスを形成するステップを含んでいてもよい。
【0035】
本開示には、デバイスを製造する方法であって、透明なポリマーを鋳型製造または射出成形させることによりデバイスを形成するステップと、デバイスの表面の一部分を化学的に修飾して上記一部分に親水性を付与するステップとを含む、方法が開示されている。上記デバイスを形成するステップは、さらに、上記デバイスの2つの半体を別々に成形するステップを含んでいてもよい。化学的に修飾するステップは、さらに、上記デバイスの成形された2つの半体のO2プラズマ処理を含んでいてもよい。上記方法は、化学的に修飾するステップの後に、2つの半体を繋げ合わせてコーティングされた透明なポリマーのデバイスを形成するステップを含んでいてもよい。コーティングされた透明なポリマーを含むデバイスは、硝酸、または清浄液等の溶液中に含浸させてもよい。
【0036】
デバイスを製造する方法は、さらに、透明なポリマーを積層造形または射出成形するステップによりデバイスを形成するステップ、およびデバイスの内表面の一部分上に親水性層を提供するステップを含んでいてもよい。上記親水性層を提供するステップは、ケイ素源等の第1の前駆体を上記デバイスの内表面の一部分と反応させて単層を形成するステップ、および酸素源等の第2の前駆体を上記単層と反応させて、ひとサイクルで完全に反応した単層を形成するステップを含んでいてもよい。上記方法は親水性層の厚さを制御するために、サイクルを1回以上繰り返してもよい。
【0037】
前述のデバイスを製造する方法に関し、透明なポリマーの内表面の一部分を化学的に修飾するステップは、透明なポリマーの透明性を低減しないことに注目すべきである。加えて、デバイスの疎水性部分(例えば親水性層)は、周囲の室温(例えば、それらの部分範囲および端点を含む約10℃から約35℃に及ぶ、そしてさらなる例として約15℃から約30℃)にわたり耐久性を有し得る。当業者は、耐久性は
図8に示されているとおり、測定でき実証できることを理解されよう。例えば、上記溶媒に加えて、デバイスの親水性部分は、周囲の空気下での保存に対する実質的な親水性を維持すべきである(プラズマ処理された親水性については、周囲の空気下での保存は、20%王水よりも親水性を大きく喪失させるおそれがある)。
【0038】
例えば、デバイスの親水性部分は、20%王水、希塩酸、硝酸、またはそれらの組合せを含む溶媒に対する耐久性を有していてもよい。
【実施例0039】
[実施例1]
新たに準備され(新試料1)、周囲の室温下で12週間保存された(12週間空気)スルホン化されたポリスチレンを含むデバイスの表面親水性は、
図2において示されている。水接触角はKRUSS DSA100W液滴形状分析器で分析された。シリンジ針の先端から2.6μLの脱イオン水の液滴を受け取るため、対象表面を上昇させた。機器により写真を撮影し、KRUSS ADVANCEソフトウェアにより、画像から、水滴と表面との間の接触角を分析した。上記試料の外観および質量は保存時間にわたり変化しなかった。
【0040】
上記クーポンは、いかなる表面修飾の程度または深さをも特性化するための平坦な表面を備え、ネブライザーまたは噴霧チャンバー等の上記デバイスの内表面上のコーティングの代表であった。
【0041】
[実施例2]
未処理の(左)および模擬噴霧チャンバー内で化学的に修飾された(右)透明なポリマー(ポリスチレン)の性能を試験した。
図3Aに示されているとおり、微細なエアロゾルの適用は未処理の透明なポリマー上でビーディングを生じさせ、一方で化学的に修飾された(スルホン化された)透明なポリマーは、
図3Bに示されているとおり、表面を完全に濡らし、いかなる水の玉の形成をも抑止するのに十分な表面親水性を有していた。
【0042】
[実施例3]
新たに準備された(新試料2)スルホン化されたポリスチレンの表面親水性は、
図4に示されているとおり、最大14日間、20%王水と連続的に接触させながら保存された。一定期間にわたり、試料の外観および質量は変化しなかった。
【0043】
[比較例1]
実際のプラズマ増強化学蒸着(PECVD)シリカコーティングは不十分な親水性を示し、デバイス内で噴霧された溶液のビーディング、および、約45°から約65°の静的水接触角に繋がった。オキシ炭化ケイ素がターゲットであった場合、上記疎水性項目は悪かった(例えば、静的水接触角は約60°から約110°であった)。
【0044】
[実施例4]
活性化された高表面親水性シリカ(またはオキシ炭化ケイ素)を有する透明なポリマーを含有するデバイスを形成した。ヘキサメチルジシロキサン:O2=3:1のガスフィードを用いたキロヘルツプラズマPECVDツールを使用したThierryのプラズマを使用した。上記コーティングを約1から2%、約32%Si、約65%OでのX線光電子分光法(XPS)により特性化した。上記表面(<20nm)は約19%C、約24%Si、約57%Oであった。
【0045】
上記デバイスは、PECVDによるシリカの堆積後、60°から70°の静的水接触角を示した。その後、親水性を活性化させるために2%の市販の「RBS-25溶液」を含有する脱イオン水溶液中に含浸させた後(20から30分)、脱イオン水ですすいだ。上記デバイスは約15°の静的水接触角で特性化された。XPS特性は、RBS溶液処理による表面の元素組成にほとんど変化を示さなかった。
【0046】
加えて、PECVDシリカ(またはオキシ炭化ケイ素)でコーティングされた透明なポリマーは、20%王水との連続的な接触に対して耐久性を有していた。特に、コーティングされたクーポンを25日間、ICP-OES溶媒と接触させた。
図5Aから
図5Cは下記を図示している。
図5Aは20%王水であり、
図5BはA-solv(ケロセン)に続いて5日間の5%のTriton X-100中での超音波処理(噴霧された水試験)させたものであり、そして
図5Cは、処理を実施していないプラスチック表面上のビーディング水の一例である。示されているとおり、親水性層を有する透明なポリマーは、A-solvおよび20%王水との連続的な接触に対する耐久性を有していた。加えて、A-solvは、ヘキサンを用いて徹底的にすすいだ場合であっても静的水接触角を約56°まで(
図5Bに示されているとおり)増加させた。表面上への水の噴霧は、ビーディングよりもむしろ連続的な水の膜をもたらし、約14°である後退した液滴の静的水接触角より特性化された。A-solvとの接触により失われた親水性は、非ビーディング性に影響を与えず、失われた親水性は、5%の市販されている「Extran MA02」溶液中で30分間、または2%のTriton X-100中で3時間の超音波処理により元に戻った。
【0047】
[実施例5]
ICP-OES噴霧チャンバーは、超音波処理下で強力な(高度にアルカリ性および/または酸化性の)清浄液でよく清浄化される。多くの無機酸化物でコーティングされたプラスチックはこの条件下では劣化する。コーティングされた透明なポリマーは、非エッチング清浄方法または低エッチング清浄方法下で数十もの清浄サイクルにおいて保持された。
【0048】
PECVDシリカでコーティングされた透明なポリマー(グリコール修飾を有するポリエチレンテレフタレート-PETG)クーポンをICP-OES溶媒に接触させた後、噴霧チャンバー清浄液中で超音波処理した。等量清浄サイクル数は、耐久性をA-solvとの接触(Extran MA02で30分、Triton X-100で3時間)による疎水性効果を消失させるのに要した時間で割ることで算出された。結果は表1に示されている。上記結果は、少なくとも数十の清浄サイクルは、親水性の喪失前に実施することができることを示唆した。
【0049】
【0050】
図6は、ICP-OES溶媒を含むPECVDシリカでコーティングされたPETGクーポンを噴霧チャンバー清浄液中で超音波処理したものの静的水接触角測定を示している。上記超音波清浄は、表面上に損傷を誘発した場合、
図7Aから
図7Bに示されているとおり、超音波処理時間につれて徐々に出現し、コーティングの散乱損失として現れた(清浄実験期間後、光学顕微鏡(OM)下で明るく現れた)。コーティングの損失は、清浄の開始前から存在する、基材の表面不良(コーティング前から存在しており、OM下で黒色線として現れた)またはコーティングの掻ききず/ひび割れ(いくつか観測され、OM下で明るい領域として現れた)において、有意な選好を示さず、非完全基材および保存/出荷/使用条件を用いたこのコーティング方法の堅牢性を示唆している。延長された超音波清浄により誘発されたコーティングの損傷がある場合、および静的水接触角が増加した場合であっても、「後退した液滴の静的水接触角」が約16°であることにより、
図5Aから
図5Bに示されているとおり、表面上への水の噴霧は依然、ビーディングよりもむしろ連続的な水の膜をもたらした。
【0051】
図7Aから
図7Bは、ICP-OES溶媒を含むPECVDシリカでコーティングされたPETGクーポンを噴霧チャンバー清浄液中で超音波処理したものの光学顕微鏡画像である。
図7Aは、20%王水に25日間接触させた後、5%のTriton X-100中で5日間超音波処理した、PECVDシリカでコーティングされたPETGクーポンである。
図7Bは、A-solvに25日間接触させた後、5%のTriton X-100中で5日間超音波処理した、PECVDシリカでコーティングされたPETGクーポンである。
【0052】
[実施例A]
キロヘルツプラズマPECVDツールを使用し、併せて酸素:ヘキサメチルジシロキサン=12:1のガスフィードを使用してO2プラズマ処理を適用した。活性化溶液中で20分間、親水性表面が存在していた。
【0053】
[実施例6]
400mTorr酸素での5分間の500Wは、環状オレフィンポリマーのO
2プラズマ処理のための性能を提供した。表面親水性の化学的な安定化のため、上記表面を10%HNO
3溶液中に室温で1から2時間含浸させた後に水ですすぎ、そして性能のため、空気乾燥させた。濃縮された(例えば、70%硝酸)またはより強力な酸化剤(例えば、5%過硫酸アンモニウム塩)は性能を提供しなかった。化学的に安定化されていない表面は、空気および周囲の条件における1~4週間以内の保存でO
2プラズマ処理前のその特性に戻った。
図8に示されているとおり、新たにO
2プラズマ、続いて10%硝酸水で処理した後、空気(周囲の室温)下で保存し、さらに最大12週間、王水と連続的に接触させた環状オレフィンポリマーの表面親水性を測定した。上記データは、保存または王水との連続的な接触にわたり、試料の外観および質量は変化しなかったことを示している。
【0054】
未処理(
図9A)、および、模擬噴霧チャンバー内でのO
2プラズマ処理に続いて12週間空気保存させた(
図9B)環状オレフィンポリマーの性能を検討した。微細なミストは、未処理の環状オレフィンポリマークーポン上でビーディングを生じさせた一方で、O
2プラズマ処理された環状オレフィンポリマークーポンは、表面を完全に濡らし、いかなる玉の形成をも抑止するのに十分な親水性コーティングを有していた。硝酸溶液を用いた化学的な安定化は、周囲の空気下での保存に対し、親水性コーティングを保護した。
【0055】
[実施例7]
図10に示されているとおり、新たに準備され(O
2プラズマの後に10%硝酸)、空気中で最大8週間保存し、20%王水およびA-solv(ケロセン)と最大4日間接触させたグリコール修飾を有するポリエチレンテレフタレートの表面親水性を測定した。保存、王水またはA-solvとの連続的な接触にわたり、試料の外観および質量は変化しなかった。
【0056】
未処理(
図11A)、および、模擬噴霧チャンバー内でのO
2プラズマ処理に続いて8週間空気保存させた(
図11B)グリコール修飾を有するポリエチレンテレフタレートの性能を検討した。微細なミストは、グリコール修飾を有する未処理のポリエチレンテレフタレートクーポン上でビーディングを生じさせた一方で、グリコール修飾を有するO
2プラズマ処理されたポリエチレンテレフタレートクーポンは、表面を完全に濡らし、いかなる玉の形成をも抑止するのに十分な親水性コーティングを有していた。硝酸液を用いた化学的な安定化は、周囲の空気下での保存に対し、親水性コーティングを保護した。
【0057】
[実施例8]
原子層堆積法(ALD)等の気相堆積プロセスを使用してSiO2の親水性層(すなわち、コーティング)を作製した。ALDは、一連の層ごとの成長方法において薄膜を作製するのに使用される蒸着方法である。ALDに関し、部材および基材は、まず真空下および/または不活性雰囲気のチャンバーに配置される。ALDを使用してSiO2の親水性層を作製するため、第1の前駆体蒸気を、コーティングされる基材と共に真空チャンバー内に暴露させた。上記第1のケイ素源前駆体は、Air Liquideから入手したOrthrusである。この前駆体は低温でSiO2コーティングを作製することを可能とし、高い温度を要するSiO2 ALDレシピにおいて逆に変形または溶融し得るプラスチックのコーティングに有利である。この前駆体は、そのまま使用され、二段階加熱ジャケット一式において、下段では50℃、上段では55℃に加熱される。
【0058】
この前駆体は、それ自体とでなく、基材表面と反応することで、基材と接合した前駆体の単層を形成した。不活性ガスを用いて超過した蒸気または未反応の蒸気を外へ排出させ、第2の前駆体をチャンバー内に計量供給した。この第2の前駆体、または共反応物は、それ自体とでなく、既に接合した第1の前駆体と反応するものから選択した。O3であるオゾンは、酸素源前駆体として使用した。オゾンは、ALD真空チャンバーツール(Savannah S300、Veeco)に付属のSavannahオゾン生成器を使用して酸素から合成した。ALDの間のチャンバー温度は、50から70℃で実施された。
【0059】
オゾンに暴露させた後、超過した蒸気または未反応の蒸気をチャンバーから排出させ、真空チャンバー内の全表面上に単一の完全に反応した単層をもたらすことにより、1つの完全なALDの「サイクル」が完成した。ALDの各サイクルは、基材表面上に新たに反応した単層をもたらし、堆積した膜の厚さの制御に使用された。ALDは、不活性ガスパージステップにより分離される前駆体を用いた気相プロセスであるため、非常に均一な厚さ(高い順応性)の薄膜は、非常に狭い溝、穴、または噴霧チャンバーの内部等の他の複雑な基材の形状に形成することができる。
【0060】
SiO2堆積の前に、上記プラスチック噴霧チャンバー基材をALDチャンバー内に搭載し、1から5時間のポンプダウンおよびウォームアップさせる時間により噴霧チャンバー試料から水分および気体を除去させた。ウォームアップ後、チャンバー内にオゾンをパルスしてプラスチック表面を活性化させ、SiO2前駆体を化学的に密着させることを可能とした。これは非パージALDチャンバー内にオゾン(濃度約100mg/L)を0.2秒パルスさせて実施され、窒素を用いた20秒間のパージ前に5分間保持された。このシーケンスを12回以上繰り返し、プラスチックのオゾン前処理を合計で60分間実施した。
【0061】
オゾン前処理後、ALDサイクリングを下記のとおり開始した。サイクルの第1のステップは、真空チャンバー内へのOrthrus前駆体のいかなる激しいポンピングをも行わない0.2秒パルスであった。上記前駆体はチャンバー内に残留して90秒間反応し、その後65秒間の高窒素フローおよびポンピングにより排出された。一度チャンバーがパージされた後、オゾン(濃度約100mg/L)を激しいポンピングを行わない0.2秒間チャンバー内に計量供給した。オゾンはチャンバー内に残留して300秒間反応し、その後75秒間の高窒素フローおよび激しいポンピングにより外へ排出された。このシーケンスをおよそ225サイクル繰り返したことで、偏光解析法によりシリコンウェハ試料上で測定されたように、基材上に50から55nmの膜を堆積させた。注目すべきは、オゾンの長い暴露時間は、これらの比較的低温では難しい可能性がある、成長表面の燃焼反応を最大限にするために使用され、より良好なSiO2膜をもたらす。
【0062】
一度SiO2膜堆積が完了した後、SiO2膜が完全に反応し、最終的な膜の親水性が最大化したことを確実にするため、最終のオゾン活性化ステップを実施した。これは、激しいポンピングを行わずに0.2秒パルスでオゾンを計量供給し、5分間保持することで実施された。20秒間のパージ後、これらのステップを24サイクル以上繰り返すことで、オゾン暴露を合計120分以上実施した。全てのレシピは完了するのにおよそ48時間要した。
【0063】
[実施例9]
シリカ水接触角
堆積プロセス後、堆積中に噴霧チャンバーと並置されたシリコンランの試料基材は、偏光解析法を使用して、SiO
2が堆積した膜の厚さを試験するために使用された。試料プラスチッククーポンと共にこれらの基材も、
図12Aから
図12Cに示されているとおり、さらに水接触角(WCA)測定を使用した最終的な膜の親水性を試験するために使用された。画像において、ALDレシピの変更に伴い、親水性は増加した(WCAは減少)。堆積の終点での比較的長いオゾン暴露時間および延長された120分間のオゾン計量供給は、最終的な膜が完全に親水性となることを可能とした。
図13Aから
図13Cは、どのように堆積の終点での延長されたオゾン暴露がWCAを低減させたかを示している。
【0064】
[実施例10]
シリカでコーティングされたPET噴霧チャンバー機能性結果
ICP-OESを含むSiO
2でコーティングされたPET噴霧チャンバーの予備的な実験は、噴霧チャンバーを2%のRBS-25溶液中で清浄化した際の感度、精度、およびウォッシュアウト試験が測定基準以内を通過したことを示した。
図14から
図16は、4つの別々のSiO
2でコーティングされたPET噴霧チャンバーおよび1つのガラスサイクロン式噴霧チャンバーにわたって実施された感度(
図14)、精度(
図15)、およびウォッシュアウト(
図16)試験の結果を示している。LE12-1からLE12-4とラベリングされた上記4つのSiO
2でコーティングされたPET噴霧チャンバーは、2%のRBS-25溶液中で(1)とラベリングされた噴霧チャンバーの1分間の清浄後に初期試験が行われた。初期の試験後、上記SiO
2でコーティングされたPET噴霧チャンバーは別々の清浄ステップを経て再試験された。上記清浄ステップは、噴霧チャンバーを5%のCitranox溶液中(試料LE12-1およびLE12-2について)または5%のExtran MA02(試料LE12-3)溶液中で1時間浸漬させ、その後DI水ですすぎ、浸漬溶液中に合計5サイクル再び沈めるものであった。LE12-4は、溶液中で全く清浄化されていない対照であった。清浄後、再試験された噴霧チャンバーの結果は(2)とラベリングした。プロットで見られるように、全てのSiO
2でコーティングされたPET噴霧チャンバーは、100%SRBR(信号対平方根バックグラウンド比)感度試験を通過し、清浄の前後で精度試験におけるRSD(相対標準偏差)は1%未満であった。同様にして、全ての噴霧チャンバーは、ウォッシュアウト試験で0.01ppm基準を通過した。GEとラベリングされた試料は、参照として使用されたガラスサイクロン式噴霧チャンバーであった。
【0065】
上述のとおり、
図14から
図16の実験は、RBS-25で清浄化された噴霧チャンバーを用いて実施され、SiO
2でコーティングされた表面の清浄化および活性化を促進した。RBS-25はNaOHおよびNaOClを含有し、SiO
2表面を清浄化し、親水性になるようエッチングさせる強塩基性溶液(pH13.6)をもたらす。加えて、この溶液は、さらに親水性も増加させる表面シラノール基の量も増加させ得る。RBS-25溶液清浄を行わずに試験されたSiO
2でコーティングされたPET噴霧チャンバーのパフォーマンスは、例えばウォッシュアウト試験では、RBS清浄化された噴霧チャンバーほど良好ではなかった。
【0066】
[実施例11]
シリカでコーティングされたPET噴霧チャンバー安定性試験
強力な酸(ICP-OES溶媒)および清浄液に対するSiO2でコーティングされた噴霧チャンバーの耐久性は使用者にとって指標である。2つの別々の試験は、ICP-OES環境ならびに噴霧チャンバーの初期の作用条件を再活性化するのに使用することができる清浄液と類似の酸性の条件に暴露後の膜のSiO2コーティングの密着性、ひび割れ、および親水性を評価するために開発された。
【0067】
上記耐久性試験は、PET噴霧チャンバーと並置されたALD SiO
2でコーティングされたPETクーポン試料を使用して実施された。上記PETクーポンは、光学顕微鏡でのコーティングの安定性のより容易な評価を可能とした。これらの実験において、PETクーポンを、軽く撹拌しながら5%HNO
3溶液または20%王水中に沈めた。試料を一定の日数の間、溶液中で撹拌した後に取り出し、光学顕微鏡画像化前に5%のExtran MA02または15%のCitranox溶液中のいずれかにおいて90分+清浄化させた。
図17Aから
図17Dに示されているのは、20%王水撹拌および5%のExtran MA02溶液中での清浄サイクルを経たクーポンの結果である。画像において、大きく暗い掻ききずはプラスチック由来であり膜の一部ではない。
図17Aおよび
図17Bにおいて、試料LE16-C11は深く暗い掻ききずのみを示し、膜が依然として無傷であったことを示唆している。しかし、
図17Cにおいて、試料LE10-C1は、表面の全体を通して微小なひび割れを示し、薄い膜はひび割れを起こしており、プラスチック表面から剥離する可能性があったことを示唆している。LE10-C1試料のために作製された上記SiO
2膜は、オゾン前処理を含まず、PETプラスチックに対する膜の密着性を弱める可能性を引き寄せ、ひび割れを起こしやすくしている。試料LE16-C11のオゾン予備暴露を30分間実施することで、SiO
2 ALD層のより良好な化学結合を可能とするPET表面を活性化させることができる。上記膜は、9サイクルを含む20%王水中で47日間耐久性を有しており、カスタマー使用(営業日あたり8時間使用、毎月清浄に基づく)の約半年分に等しかった。
図17D(5日間の20%王水との接触およびいかなる清浄前に生じたひび割れおよび剥離)と比較すると、オゾン前処理を用いたALDコーティングもずっと良好な耐久性を有している。
【0068】
[実施例12]
PET噴霧チャンバーの内表面上にコーティングされたシリカ
SiO2でコーティングされたPET噴霧チャンバーは、ハウスN2(0.7L/分)と共に蠕動ポンプから噴霧チャンバー内に5%HNO3(1.0mL/分)を霧状化して入れることにより、ICP-OES噴霧パラメーターを使用して試験された。噴霧チャンバーを酸排水シンクの下部に配置し、水のビーディングの視覚的な分析のため、青い食紅で着色した水は噴霧チャンバー内表面上を通り抜けた。安全の懸念上、霧状化された液滴を捕捉してシンクから漏れ出ないようにするために上記噴霧チャンバーをビーカーで覆い、検査をしていない時にシンクを透明なアクリルカバーで完全に覆った。
【0069】
この噴霧チャンバーセットアップを使用し、実用に近い条件で長期試験を実施した。ネブライザーおよびSiO
2でコーティングされたPET噴霧チャンバーセットアップを経由して5%HNO
3を数日間噴霧した後、一時的に青に着色した水溶液にスイッチングすることにより、水のビーディングの外観検査を実施した。結果は
図18Aから
図18Eに示されている。
図18Aは、7日間のHNO
3フローおよび15%のCitranox溶液中での2サイクルの清浄後に青い水滴の視認可能なビーディングがないことを示している。周囲の空気条件において10日間静置させた後に同様の試験を再度実施すると、内表面上に若干のビーディングが現れ始める(
図18B)。上記親水性は5%のExtran MA02清浄後に元に戻った(
図18C)。上記親水性は合計で少なくとも46日間のHNO
3噴霧および8回の15%のCitranox清浄サイクル(カスタマー使用の約半年に等しい)で維持された(
図18C)。比較として、その親水性のほとんどを失った別の噴霧チャンバーを
図18Eに示すが、非常に大きな液滴が見られる。
図18Eに示されているような重大なビーディングを示す噴霧チャンバーは、親水性層を有するそれらと比較し、全体的に低減した感度、精度およびウォッシュアウト結果をもたらす。
【0070】
前述の説明から、当業者は、本教示が様々な形態で実施され得ることを理解できる。したがって、これらの教示は、その特定の実施形態および実施例に関連して説明されてきたが、本教示の真の範囲は、そのように限定されるべきではない。本開示の教示範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正を行うことができる。
【0071】
本開示範囲は、広く解釈されるべきである。本開示は、本明細書に開示されたデバイス、活動、および機械的作用を達成するための均等物、手段、システム、および方法を開示することを意図している。開示された各デバイス、物品、方法、手段、機械的要素またはメカニズムに関し、本開示は、その開示の中に包含し、本明細書に開示された多くの態様、メカニズムおよびデバイスを実施するための均等物、手段、システムおよび方法を教示することも意図されている。本願の特許請求の範囲も同様に、広く解釈されるものとする。本開示の多くの実施形態における本明細書の発明の説明は、本質的に単なる例示であるため、本発明の要旨を逸脱しない変更は、本発明の範囲内であることを意図している。そのような変更は、本発明の精神および範囲から逸脱するものとみなされない。