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特開2023-181119化合物及びそれを有効成分とする帯電防止剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181119
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】化合物及びそれを有効成分とする帯電防止剤
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/54 20060101AFI20231214BHJP
   C09K 3/16 20060101ALI20231214BHJP
   C07C 311/48 20060101ALI20231214BHJP
   C08K 5/50 20060101ALI20231214BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C07F9/54
C09K3/16 102F
C07C311/48 CSP
C08K5/50
C08L27/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091845
(22)【出願日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2022093585
(32)【優先日】2022-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉矢 正
(72)【発明者】
【氏名】古井 恵里
【テーマコード(参考)】
4H006
4H050
4J002
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB66
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB66
4J002BD121
4J002BD151
4J002EW176
4J002FD106
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】樹脂との相溶性に優れつつ樹脂表面で安定して固定され、少量でも高い帯電防止性能を発現できる帯電防止剤として好適な化合物を提供すること。
【解決手段】本発明は、下記一般式(1)で表される化合物を提供するものである。
【化1】

(式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、Rは、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のフルオロアルキル基を示し、Aはフッ素原子を有するアニオンを表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。
【化1】

(式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示し、Rは、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のフルオロアルキル基を示し、Aはフッ素原子を有するアニオンを表す。)
【請求項2】
が、下記一般式(2)で表される基である請求項1に記載の化合物。
【化2】

(式中、Rは、炭素数1~18の直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロアルキル基を表す。)
【請求項3】
Aが、ビス(フルオロスルホニル)イミド又はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物を有効成分とする帯電防止剤。
【請求項5】
請求項4に記載の帯電防止剤及び樹脂を含有する樹脂組成物。
【請求項6】
樹脂がフッ素系樹脂である請求項5に記載の樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロアルキル基を有するホスホニウム塩である化合物及びそれを有効成分とする帯電防止剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、静電気障害を防止する方法はいろいろ提案されているが、多くの場合、帯電防止剤の使用によって解決が図られている。帯電防止剤としては、界面活性剤、導電性フィラー、導電性高分子、イオン液体等が使用されている。これらの中、イオン液体の帯電防止性能の発現は、他の帯電防止剤のメカニズムとは異なる。例えば、樹脂の帯電防止剤にイオン液体を使用した場合、樹脂表面に生ずる静電気は、樹脂中のイオン液体濃度の偏りにより静電気の電荷が中和されることで帯電防止性能が発現することから、温度、湿度などの外部環境に影響され難い。また、正負イオンの組合せにより分子設計が可能なため、樹脂への相溶性を調整し易く、透明性保持などの外観性状を優れたものにできるメリットもある。
【0003】
帯電防止剤としてイオン液体を用いた技術については、その目的により様々な提案がある。例えば、特許文献1では、耐水性、耐溶剤性に優れた帯電防止剤として、イオン液体がシクロデキストリンに包接されてなる包接化合物を含有する帯電防止剤を開示しており、シクロデキストリンに包接されうるイオン液体として、特定のアンモニウム塩又はホスホニウム塩の記載がある。また、特許文献2では、ドキュセート、いわゆるスルホンコハク酸のビス(2-エチルヘキシル)エステルのアニオンを含むことにより炭化水素と混和し易い帯電防止剤を開示しており、燃料やポリマーへの帯電防止添加剤として使用できることが記載されている。さらに、特許文献3には、耐電圧特性に優れた帯電防止剤として、分子内にパーフルオロアルキル基及び重合性官能基を備える所定構造の重合性アニオンと、1価のカチオンとを含む化合物を重合性イオン液体として用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-52859号公報
【特許文献2】特表2006-510581号公報
【特許文献3】国際公開WO2020/031836号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したようにイオン液体による帯電防止性能の付与は、外部環境に影響され難いため、樹脂との相溶性を改善できれば、永久帯電防止剤としての用途が期待できる。しかしながら、樹脂は非常に高い絶縁性を有するため、極めて帯電し易く、また、この帯電により樹脂表面が埃などの吸着により汚染され易いため、帯電防止性能を持続的に得るためには、樹脂表面にイオン液体を安定的に固定する必要がある。
【0006】
しかしながら、従来に提案されてきたイオン液体を利用した帯電防止剤は、優れた帯電防止性能を有するものの、樹脂表面に安定的に固定することが困難であった。この問題を解決するための一つの方法として、特許文献3のような重合性のイオン液体を使用することで樹脂との接触面積を高めて固定することもできるが、帯電防止性能を上げるために多量のイオン液体が必要となり、樹脂に求められる特性や外観を損なう問題が生じていた。
【0007】
従って、本発明の目的は、樹脂との相溶性に優れつつ樹脂表面で安定して固定され、少量でも高い帯電防止性能を発現できる帯電防止剤として好適な化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、ホスホニウム型イオン液体において、ホスホニウムカチオンに機能性の官能基を導入し、さらにフッ素原子を有するアニオンと組み合わせることにより、イオン液体が樹脂表面で安定的に固定化されるため、少量であっても優れた永久帯電防止特性を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される化合物を提供するものである。
【化1】

(式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、Rは、炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のフルオロアルキル基を示し、Aはフッ素原子を有するアニオンを表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂との相溶性に優れ、樹脂表面で安定して固定され、かつ、少量でも高い帯電防止性能を有する帯電防止剤として好適な化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される、フルオロアルキル基を有するホスホニウム塩である。
【化2】
【0012】
一般式(1)中、R、R及びRは、炭素数1~20、好ましくは2~18、特に好ましくは3~15の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。R、R及びRは、それぞれ同一でもよく、異なってもよいが、合成上の観点から同一であることが好ましい。
【0013】
一般式(1)中のRは、炭素数1~20、好ましくは2~18、特に好ましくは3~15の直鎖状又は分岐鎖状のフルオロアルキル基を表す。また、Aはフッ素原子を有するアニオンを示す。
【0014】
前記R、R及びRで表される炭素数1~20の直鎖状のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-イコシル基等が挙げられる。
【0015】
前記R、R及びRで表される炭素数1~20の分岐鎖状のアルキル基としては、具体的には、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、t-ペンチル基、イソヘキシル基、s-ヘキシル基、t-ヘキシル基、エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0016】
前記Rで表される炭素数1~20のフルオロアルキル基としては、前記炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基中の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子に置換された基が挙げられる。
【0017】
前記Rで表される炭素数1~20のフルオロアルキル基としては、樹脂との相溶性と固定化を両立できる点で、下記一般式(2)で表される基が特に好ましい。
【0018】
【化3】

(式中、Rは、炭素数1~18の直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロアルキル基を表す。)
【0019】
前記炭素数1~18の直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基及びパーフルオロデシル基等が挙げられる。
【0020】
一般式(1)中のAはフッ素原子を有するアニオンを示し、例えば、テトラフルオロボレート(BF)、ヘキサフルオロホスフェート(PF)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(N(SOCF)、ビス(フルオロスルホニル)イミド(N(SOF))、トリフルオロメタンスルホネート(SOCF)、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート((CPF)及びトリフルオロ酢酸(CFCOO)等が挙げられ、これらの中でビス(フルオロスルホニル)イミド(N(SOF))及びビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(N(SOCF)が、樹脂との相溶性と固定化を両立できる点で好ましい。
【0021】
本発明の一般式(1)で表される化合物としては、具体的には、トリブチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリブチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリブチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリブチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリブチル(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリエチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリエチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリエチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリエチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリエチル(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリオクチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリオクチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリオクチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリオクチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリオクチル(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等が挙げられる。
【0022】
前記一般式(1)で表される化合物は、例えば、トリアルキルホスフィンとハロゲン化フルオロアルキルを不活性ガス雰囲気下で反応させ、アニオンがハロゲンであるホスホニウム塩を得た後、所望により中和・酸化処理を行い、次いで得られたホスホニウム塩に所望するアニオン成分を滴下して混合し、アニオン交換することで得られる。アニオン交換後に得られた前記一般式(1)で表される化合物は、所望により洗浄、濃縮、乾燥及び粉砕等の工程を経ることにより、後述する帯電防止剤の有効成分として使用することができる。
【0023】
本発明の帯電防止剤は、前記一般式(1)で表される化合物であるホスホニウム塩を有効成分とすることを特徴としている。同様なカチオン型帯電防止剤としてアンモニウム塩やスルホニウム塩も知られているが、ホスホニウム塩は他のオニウム塩と比べて耐熱性が高く、比較的高温で樹脂と混錬、成型することができ、熱分解を起こさないことが知られている。従って、他のオニウム塩では熱分解を起こすため使用できない場合であっても、ホスホニウム塩であれば問題なく使用することができる。
【0024】
前記一般式(1)で表される化合物におけるカチオン部分の4つの置換基のうち、3つを比較的短いアルキル基である炭素数1~8のアルキル基とし、残り1つを長鎖である炭素数1~20のフルオロアルキル基とすることで、前記化合物は優れた帯電防止性能を有し、安定して樹脂に固定されるものとなる。また、アニオン部分がフッ素原子を有していることで、樹脂との相溶性と固定化を両立できる。
【0025】
本発明の帯電防止剤は、一般式(1)で表される化合物の物性の如何によって水溶性又は油溶性のいずれも取り得るもので、その使用にあっては、必要に応じて酸化防止剤、紫外線防止剤、耐候剤、ブロッキング防止剤、顔料、補強剤、滑剤、可塑剤や他の帯電防止剤等の樹脂添加剤を併用しても差し支えない。
【0026】
本発明の帯電防止剤は、室温において固体又は液体である。室温において固体である場合、樹脂と混錬する際の加熱により液状になり易く、均等に分散することができる観点から、粉状であることが好ましく、レーザー回折散乱法により求められる平均粒子径が100μm以下、さらに0.1~50μm以下、特に0.5~20μmであることが好ましい。
【0027】
また、本発明の帯電防止剤が室温において液体である場合、樹脂と混錬する際に均等に分散し、優れた帯電防止効果を得ることができる観点から、25℃における粘度が、10~300cP、特に15~250cPであることが好ましい。なお、25℃における粘度は、回転粘度計、振動粘度計などにより測定することができる。
【0028】
本発明の帯電防止剤を配合する材料は、静電気を帯電する材料であれば如何なるものでもよいが、例えば合成樹脂やゴム等の高分子材料及びその成形体、繊維、フィルム、不織布、ビーズ等が挙げられる。
【0029】
本発明の帯電防止剤を適用できる高分子材料の種類としては、特に限定はないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン及びこれらの共重合体、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカプロラクタム、アミド系樹脂、フェニレンオキシド系樹脂、ビニル系樹脂、アセタール系樹脂、ケトン系樹脂、スルフィド系樹脂、ウレタン系樹脂等の熱可塑性樹脂及びこれらの共重合体、並びにこれら高分子材料をフッ素化したフッ素系樹脂が挙げられる。特に、フッ素系樹脂に適用することで、樹脂との相溶性と固定化の利点が得られやすい。
【0030】
前記フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライド、パーフルオロアルコキシアルカン、ポリクロロトリフルオロエチン、(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル)共重合体、(エチレン/テトラフルオロエチレン)共重合体、(プロピレン/ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、(ビニリデンフルオライド/エチレン)共重合体、(ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン)共重合体等が挙げられる。
【0031】
また、ゴムとしては、例えばスチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、NBR、EPM、水素化ニトリルゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、エチレンアクリルゴム、及びこれらゴムをフッ素化したフッ素系ゴム等が挙げられる。
【0032】
前記フッ素系ゴムとしては、例えば、テトラフルオロエチレン系ゴム、テトラフルオロエチレンプロピレン系ゴム、ビニリデンフルオライド系ゴム、ヘキサフルオロブタジエン系ゴム、フルオロシリコーン系ゴム、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル系ゴム等が挙げられる。
【0033】
本発明の帯電防止剤を高分子材料に付与する方法は、いかなる方法によってもよいが、例えば、所望の高分子材料に内部添加する方法、及び高分子材料からなる成形体の表面に塗布する方法が挙げられる。
【0034】
高分子材料に内部添加する方法は、ポリマー加工時又は製造時に、本発明の帯電防止剤を添加混合する方法が挙げられる。ポリマー加工時に添加する方法は、所望の高分子材料に本発明の帯電防止剤を直接添加して、タンブラー、リボンブレンダー、高速ミキサー等で混合し、溶融混合して高分子材料に均一分布となるように添加するか、又は本発明の帯電防止剤を高濃度で含有するマスターチップの形で添加し、溶融混合してもよい。また、ポリエチレンテレフタレート等の重合工程の重合前や重合途中で添加混合することもできる。
【0035】
高分子材料に内部添加する場合の本発明の帯電防止剤の配合量は、通常0.01~10質量%、好ましくは0.1~5質量%である。0.01質量%未満の配合量では成形体の表面近傍に存在する帯電防止剤の量が不十分で帯電防止効果が弱く、配合量が10質量%を越えると成形体の透明性が低下して外観を損なう場合があり、また高コストとなるため経済的に不利になる。
【0036】
本発明の帯電防止剤を高分子材料からなる成形体の表面に塗布して使用する方法は、例えば本発明の帯電防止剤を単独又は他の物質と共にその表面に均一に塗布する方法で行うことができ、特に帯電防止剤の樹脂への分散性、表面移行性又は相溶性等の問題がある高分子材料ヘの帯電防止能の付与に有効である。この場合に使用する塗布液は、本発明の帯電防止剤を水、低級アルコール、ケトン類等の溶媒に溶解した溶液であってもよく、これらの溶媒に帯電防止剤を分散した分散液や乳化液であってもよい。
【0037】
高分子材料からなる成形体の表面に塗布する手段としては、本発明の帯電防止剤を含有する溶液、分散液、乳化液等を浸漬法、スプレー法、ローラーコー卜法、グラビアコート法等の各種の手段が挙げられる。また必要に応じて被処理面をコロナ処理、プラズマ処理等の物理処理、又はアンカーコー卜剤の塗布等の前処埋を行ってから塗布してもよい。また、帯電防止性を主目的として帯電防止剤のみを含む液で塗布することは勿論、他の処理目的で用いる処理剤に添加して帯電防止能を同時に付与しても差し支えない。
【0038】
例えば、高分子材料からなる成形体の表面に接着性、印刷適正、ガスバリア性、耐水性、蒸気透過性、硬度等を付与するためのコート剤を使用する際に、これらのコート剤と併用しても良好な帯電防止能を付与することができる。また、インク、塗料、潤滑成分のような低分子有機物との併用も差し支えない。
【実施例0039】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
[製造例1]
温度計、滴下ロート、マグネチックスターラーを備えた300ml四口フラスコを十分に窒素置換し、トリブチルホスフィン20.2g(0.1モル)を仕込み、アセトニトリル100mlを加えた。温度を75℃に加熱し、滴下ロートから1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルアイオダイド57.4g(0.1モル)を、光を遮蔽した条件で1時間かけて滴下し、80℃にて4時間熟成させた。サンプリングした反応液を二硫化炭素で発色試験した結果、トリブチルホスフィンの残留が認められなかったので、室温まで冷却した。エバポレーターで溶媒を濃縮することで、融点66.2~67.6℃の微黄色固体74.5g(粗収率96%)を得た。得られた微黄色固体のNMR同定データは以下のとおりである。
(同定データ)
31P-NMR;34.88ppm.
H-NMR;0.98ppm(CH,9H),1.56ppm(-CH-CH-,12H),2.63ppm(P-CH-,8H),2.64ppm(-CH-CF-,2H).
この結果、トリブチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・アイオダイドであることが確認された。
【0041】
次いで、温度計、マグネチックスターラーを備えた200ml二口フラスコに、上記で得られたトリブチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・アイオダイド23.3g(0.03モル)を入れ、50mlのジクロロメタンで溶解した。カリウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド9.6g(0.03モル)を純水50mlに溶解させた水溶液を加え、室温で混合してアニオン交換した。30分間攪拌し、分液ロートでジクロロメタン層を純水で3回洗浄した。エバポレーターで濃縮することで、融点48.5~49.2℃の微黄色固体26.5g(粗収率95%)を得た。得られた微黄色固体のNMR同定データは以下のとおりである。
31P-NMR;35.30ppm.
H-NMR;0.94ppm(CH,9H),1.48ppm(-CH-CH-,12H),2.25ppm(P-CH-,8H),2.45ppm(-CH-CF-,2H).
この結果、トリブチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであることが確認された。
【0042】
[製造例2]
製造例1において、カリウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに替えて、カリウム・ビス(フルオロスルホニル)イミドとアニオン交換したこと以外は製造例1と同じ操作をすることで、融点40.7~41.3℃の微黄色固体23.6g(粗収率95%)を得た。得られた微黄色固体のNMR同定データは以下のとおりである。
31P-NMR;35.37ppm.
H-NMR;0.96ppm(CH,9H),1.51ppm(-CH-CH-,12H),2.22ppm(P-CH-,8H),2.45ppm(-CH-CF-,2H).
この結果、トリブチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミドであることが確認された。
【0043】
[製造例3]
製造例1において、1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルアイオダイドに替えて、1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシルアイオダイド37.4g(0.1モル)をトリブチルホスフィン20.2g(0.1モル)と反応させて、微黄色粘性液体54.1g(粗収率94%)を得た。得られた微黄色粘性液体のNMR同定データは以下のとおりである。
31P-NMR;34.87ppm.
H-NMR;0.94ppm(CH,9H),1.56ppm(-CH-CH-,12H),2.60ppm(P-CH-,8H),2.74ppm(-CH-CF-,2H).
この結果、トリブチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・アイオダイドであることが確認された。
【0044】
次いで、得られたトリブチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・アイオダイドを用いたこと以外は製造例1と同じ操作をして微黄色粘性液体20.6g(粗収率94%)を得た。得られた微黄色固体のNMR同定データは以下のとおりである。
31P-NMR;35.31ppm.
H-NMR;0.94ppm(CH,9H),1.49ppm(-CH-CH-,12H),2.23ppm(P-CH-,8H),2.43ppm(-CH-CF-,2H).
この結果、トリブチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであることが確認できた。
【0045】
[製造例4]
トリブチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・アイオダイドとカリウム・ビス(フルオロスルホニル)イミドをアニオン交換したこと以外は製造例3と同じ方法で行い、微黄色粘性液体17.9g(粗収率95%)を得た。得られた微黄色固体のNMR同定データは以下のとおりである。
31P-NMR;35.37ppm.
H-NMR;0.95ppm(CH,9H),1.50ppm(-CH-CH-,12H),2.25ppm(P-CH-,8H),2.42ppm(-CH-CF-,2H).
この結果、トリブチル(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミドであることが確認できた。
【0046】
[製造例5]
トリブチルホスフィン20.2g(0.1モル)と1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルアイオダイド47.4g(0.1モル)を無溶媒で反応させることで融点41.7~43.3℃の微黄色固体62.2g(粗収率92%)を得た。得られた微黄色固体のNMR同定データは以下のとおりであった。
31P-NMR;34.88ppm.
H-NMR;0.94ppm(CH,9H),1.54ppm(-CH-CH-,12H),2.60ppm(P-CH-,8H),2.79ppm(-CH-CF-,2H).
この結果、トリブチル(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)ホスホニウム・アイオダイドであることが確認された。
【0047】
次いで、得られたトリブチル(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)ホスホニウム・アイオダイドとカリウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを製造例1と同じ方法でアニオン交換して、融点40.8~41.3℃の微黄色固体23.4g(粗収率94%)を得た。得られた微黄色固体のNMR同定データは以下のとおりである。
31P-NMR;35.33ppm.
H-NMR;0.94ppm(CH,9H),1.51ppm(-CH-CH-,12H),2.24ppm(P-CH-,8H),2.45ppm(-CH-CF-,2H).
この結果、トリブチル(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであることが確認された。
【0048】
[製造例6]
トリブチル(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)ホスホニウム・アイオダイドとカリウム・ビス(フルオロスルホニル)イミドをアニオン交換したこと以外は製造例3と同じ方法で行い、微黄色粘性液体20.6g(粗収率94%)を得た。得られた微黄色液体のNMR同定データは以下のとおりである。
31P-NMR;35.39ppm.
H-NMR;0.94ppm(CH,9H),1.51ppm(-CH-CH-,12H),2.20ppm(P-CH-,8H),2.50ppm(-CH-CF-,2H).
この結果、トリブチル(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミドであることが確認できた。
【0049】
[比較製造例1]
温度計、滴下ロート、マグネチックスターラーを備えた300ml四口フラスコを十分に窒素置換し、トリエチルアミン15.2g(0.15モル)、1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルアイオダイド57.4g(0.1モル)を加え、光を遮蔽した条件で80℃にて6時間反応させた。室温まで冷却後、エバポレーターで溶媒を濃縮し、得られた結晶をエタノールで洗浄した。融点59.4~61.8℃の白色固体50.6g(粗収率75%)を得た。得られた白色固体のNMR同定データは以下のとおりである。
H-NMR;2.67~2.74ppm(-CH,9H),3.22~3.25ppm(N-CH-CH-,10H).
この結果、トリエチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)アンモニウム・アイオダイドであることが確認された。
【0050】
次いで、温度計、マグネチックスターラーを備えた200ml二口フラスコに、上記で得られたトリエチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)アンモニウム・アイオダイド20.2g(0.03モル)を入れ、50mlのジクロロメタンで溶解した。カリウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド9.6g(0.03モル)を純水50mlに溶解させた水溶液を加え、室温で混合してアニオン交換した。30分間攪拌し、分液ロートでジクロロメタン層を純水で3回洗浄した。エバポレーターで濃縮することで、融点57.6~59.5℃の白色固体14.7g(粗収率59%)を得た。得られた白色固体のNMR同定データは以下のとおりである。
H-NMR;2.69~2.74ppm(-CH,9H),3.22~3.25ppm(N-CH-CH-,10H).
この結果、トリエチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)アンモニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであることが確認された。
【0051】
[比較製造例2]
比較製造例1において、カリウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに替えて、カリウム・ビス(フルオロスルホニル)イミドとアニオン交換したこと以外は比較製造例1と同じ操作をすることで、融点56.6~58.0℃の白色固体16.4g(粗収率75%)を得た。得られた白色固体のNMR同定データは以下のとおりである。
H-NMR;2.67~2.74ppm(-CH,9H),3.22~3.26ppm(N-CH-CH-,10H).
この結果、トリエチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミドであることが確認された。
【0052】
[実施例1~11]
表1に示す熱可塑性樹脂に対して、各製造例で得られたホスホニウム塩を表1に示す配合量で添加して実施例1~10においては250~260℃、実施例11においては285~295℃で混錬し、得られた混錬樹脂を10cm×10cm、t=2mmのステンレス製型枠に嵌めてプレスすることにより試験片を作製した。
【0053】
この試験片に対して、JIS K6911-1995に準拠した方法で、体積抵抗値及び表面抵抗値を測定して帯電防止性能を評価した。測定機器は超絶縁計(東亜電波工業(株)SM-8220、平板試料用電極SME-8310)を用いて、試験片作製後、1日経過後、5日経過後を測定した。測定条件は、30℃、25RH%の条件下、試験片を平板用電極に挟み、電圧100Vで10秒間印加し、60秒後に測定した値の3回平均値を測定値とした。
次に、耐有機溶剤性を評価するために、前記5日経過後の試験片に対して、メタノールで試験片の表裏を拭き取り、風乾した後、体積抵抗値及び表面抵抗値を測定した。さらに、6日経過後の試験片をメタノール100mLに浸漬して10分間静置して取り出し、1時間風乾した後、体積抵抗値及び表面抵抗値を測定した。測定結果を表1に示す。
また、耐水性を評価するために、前記5日経過後の試験片に対して、試験片を流水中に曝しながら表面をウエスで50回拭いた後、1時間風乾した試験片の体積抵抗値及び表面抵抗値を測定した。測定結果を表1に示す。
【0054】
[比較例1~3]
実施例で使用した熱可塑性樹脂に対して、ホスホニウム塩を添加せずに試験片を作製した。得られた試験片に対して実施例と同じ測定を行った。測定結果を表2に示す。
【0055】
[比較例4~5]
実施例で使用した熱可塑性樹脂に対して、各比較製造例で得られたアンモニウム塩を表2に示す配合量で添加して250~260℃で混錬し、10cm×10cm、t=2mmの試験片を作製した。得られた試験片に対して実施例と同じ測定を行った。測定結果を表2に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表1及び2に示した結果から、各製造例のホスホニウム塩を添加した実施例1~11の試験片は、体積抵抗値及び表面抵抗値が低く、大きな変化は見られなかったことが判る。一方、ホスホニウム塩を添加しなかった比較例1~3の試験片は、体積抵抗値及び表面抵抗値の高い状態が続いていることが判る。また、アンモニウム塩を添加した比較例4及び5の試験片は、ホスホニウム塩を同量程度添加した実施例と比べて体積抵抗値及び表面抵抗値が高く、本発明のホスホニウム塩は少量であっても高い帯電防止性能を有していることが判る。