(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181130
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】電気化学セルの触媒の健全性状態を監視する装置
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04664 20160101AFI20231214BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20231214BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20231214BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20231214BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20231214BHJP
【FI】
H01M8/04664
H01M4/90 M
H01M4/92
H01M8/04 Z
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023094677
(22)【出願日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】17/836,755
(32)【優先日】2022-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ダニール キチャエフ
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ タファイル
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン ブラーテン
(72)【発明者】
【氏名】レイ チェン
(72)【発明者】
【氏名】モルデチャイ コーンブラス
(72)【発明者】
【氏名】ネイサン ピー. クレイグ
(72)【発明者】
【氏名】サラヴァナン クパン
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018EE03
5H018EE10
5H126BB06
5H127AA06
5H127AC13
5H127BA02
5H127BB02
5H127DB50
5H127EE27
(57)【要約】
【課題】電気化学セルの触媒の健全性状態を監視する装置に関する。
【解決手段】本装置は、第1の電極に関連付けられた第1の触媒材料の第1の側に隣接する第1の磁性装置を含む。本装置は、第1の触媒材料の第2の側に隣接する第2の磁性装置をさらに含む。第1の磁性装置又は第2の磁性装置は、磁場を生成するように構成されている。第1の磁性装置及び第2の磁性装置のうちの他方は、第1の触媒材料からの磁場応答を受信するように構成されている。本装置は、制御装置も含み、制御装置は、磁気応答を受信して、磁気応答に応じた第1の触媒材料の磁気応答データを決定するように構成されている。磁気応答データは、第1の触媒材料の健全性状態を示す。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セルの触媒の健全性状態を監視する装置であって、
第1の電極に関連付けられた第1の触媒材料の第1の側に隣接する第1の磁性装置と、
前記第1の触媒材料の第2の側に隣接する第2の磁性装置であって、前記第1の磁性装置又は前記第2の磁性装置は、磁場を生成するように構成されており、前記第1の磁性装置及び前記第2の磁性装置のうちの他方は、前記磁場に応答する前記第1の触媒材料からの磁場応答を受信するように構成されている、第2の磁性装置と、
前記磁気応答を受信して、前記磁気応答に応じた前記第1の触媒材料の磁気応答データを決定するように構成されている制御装置であって、前記磁気応答データは、前記第1の触媒材料の健全性状態を示す、制御装置と、
を含む、電気化学セルの触媒の健全性状態を監視する装置。
【請求項2】
前記磁気応答データは、第1の時点及び第2の時点での前記第1の触媒材料の粒径分布及び/又は飽和磁化を含み、
前記制御装置は、前記第1の時点及び前記第2の時点での前記粒径分布及び/又は前記飽和磁化に応答する前記第1の触媒材料の健全性状態を測定するように構成されている、
請求項1に記載の、電気化学セルの触媒の健全性状態を監視する装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1の触媒材料の前記粒径分布及び/又は前記飽和磁化を、以下の方程式
【数1】
を使用して特定するように構成されており、
ここで、Mは、磁化であり、M
sは、飽和磁化であり、V
0は、カソードの総体積であり、f(V)は、サンプル内の粒子体積の分布であり、Hは、印加された磁場である、
請求項2に記載の、電気化学セルの触媒の健全性状態を監視する装置。
【請求項4】
前記第1の磁性装置は、電磁石であり、
前記第2の磁性装置は、磁力計である、
請求項1に記載の、電気化学セルの触媒の健全性状態を監視する装置。
【請求項5】
前記第1の触媒材料は、Pt1-xMxナノ粒子を含み、
ここで、0≦x≦1であり、Mは、Co、Ni、Fe、希土類金属又はそれらの組合せである、
請求項1に記載の、電気化学セルの触媒の健全性状態を監視する装置。
【請求項6】
前記第1の磁性装置又は前記第2の磁性装置は、前記第1の触媒材料の内部で誘導された渦電流から前記磁気応答を隔離する隔離周波数で、前記磁気応答を受信するように構成されている、
請求項1に記載の、電気化学セルの触媒の健全性状態を監視する装置。
【請求項7】
触媒の健全性状態を監視するための電気化学セルであって、
それぞれ第1の触媒材料及び第2の触媒材料が含まれる第1の電極及び第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に延在するポリマー電解質材料と、
前記第1の触媒材料の第1の側に隣接する第1の磁性装置と、
前記第1の触媒材料の第2の側に隣接する第2の磁性装置であって、前記第1の磁性装置又は前記第2の磁性装置は、磁場を生成するように構成されており、前記第1の磁性装置及び前記第2の磁性装置のうちの他方は、前記磁場に応答する前記第1の触媒材料からの磁場応答を受信するように構成されており、前記磁気応答は、前記第1の触媒材料の磁気応答データを示し、前記第1の触媒材料の前記磁気応答データは、前記第1の触媒材料の健全性状態を示す、第2の磁性装置と、
を含む電気化学セル。
【請求項8】
前記電気化学セルは、制御装置をさらに含み、
前記制御装置は、前記磁気応答を受信して、前記磁気応答に応じた前記第1の触媒材料の前記磁気応答データを決定するように構成されている、
請求項7に記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記磁気応答データは、第1の時点及び第2の時点での前記第1の触媒材料の粒径分布及び/又は飽和磁化を含み、
前記制御装置は、前記第1の時点及び前記第2の時点での前記粒径分布及び/又は前記飽和磁化に応答する前記第1の触媒材料の健全性状態を測定するように構成されている、
請求項8に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記制御装置は、前記第1の触媒材料の前記粒径分布及び/又は前記飽和磁化を、以下の方程式
【数2】
を使用して特定するように構成されており、
ここで、Mは、磁化であり、M
sは、飽和磁化であり、V
0は、カソードの総体積であり、f(V)は、サンプル内の粒子体積の分布であり、Hは、印加された磁場である、
請求項8に記載の電気化学セル。
【請求項11】
前記第1の磁性装置又は前記第2の磁性装置は、前記第1の触媒材料の内部で誘導された渦電流から前記磁気応答を隔離する隔離周波数で、前記磁気応答信号を受信するように構成されている、
請求項7に記載の電気化学セル。
【請求項12】
前記第1の磁性装置は、電磁石であり、
前記第2の磁性装置は、磁力計である、
請求項7に記載の電気化学セル。
【請求項13】
前記磁力計は、前記第1の触媒材料から最大5cm離間させられている、
請求項12に記載の電気化学セル。
【請求項14】
前記電磁石は、電気化学装置によって給電される、
請求項12に記載の電気化学セル。
【請求項15】
前記第1の触媒材料は、Pt1-xMxナノ粒子を含み、
ここで、0≦x≦1であり、Mは、Co、Ni、Fe、希土類金属又はそれらの組合せである、
請求項7に記載の電気化学セル。
【請求項16】
電気化学セルの健全性状態を監視する方法であって、
それぞれ第1の触媒材料及び第2の触媒材料が含まれる第1の電極及び第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に延在するポリマー電解質材料とを有する電気化学セルを動作させることと、
前記動作させる過程の間に第1の磁性装置を介して磁場を生成することと、
前記動作させる過程の間に第2の磁性装置を介して、前記磁場に応答する前記第1の触媒材料からの磁気応答を受信することと、
前記磁気応答に応じた前記第1の触媒材料の磁気応答データであって、前記第1の触媒材料の健全性状態を示す磁気応答データを決定することと、
を含む方法。
【請求項17】
前記第1の磁性装置は、電磁石であり、
前記第2の磁性装置は、磁力計である、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
電気化学装置を用いて前記電磁石に給電することをさらに含む、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の触媒材料は、Pt1-xMxナノ粒子を含み、
ここで、0≦x≦1であり、Mは、Co、Ni、Fe、希土類金属又はそれらの組合せである、
請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記磁気応答データは、第1の時点及び第2の時点での前記第1の触媒材料の粒径分布及び/又は飽和磁化を含む、
請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記磁気応答データに応じて、前記電気化学セルの1つ又は複数の動作パラメータを制御することをさらに含む、
請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本開示は、電気化学セルの触媒の健全性状態を監視する装置に関する。電気化学セルの触媒の健全性状態を監視する装置は、触媒の健全性状態を、電気化学セル(例えば、燃料電池又は電解槽)の動作と同時に測定するように構成可能である。
【背景技術】
【0002】
背景
電気化学セルとは、化学反応から電気エネルギを生成する(例えば、燃料電池)こと、又は、電気エネルギを使用して化学反応を行う(例えば、電解槽)ことが可能な装置である。燃料電池は、車両及び他の輸送用途のための代替的な電源として期待されている。燃料電池は、水素のような再生可能なエネルギキャリアを使用して動作する。燃料電池は、有害な排出物又は温室効果ガスを発生させることなく動作することもできる。個々の燃料電池は、膜電極アセンブリ(MEA)と、2つのフローフィールドプレートとを含む。個々の燃料電池は、典型的には0.5乃至1.0Vを供給する。個々の燃料電池を一緒に積み重ねて、より高い電圧及び電力を有する1つの燃料電池スタックを形成することができる。
【0003】
電解槽は、水を水素と酸素とに分解するための電気分解プロセスを経て、これにより、再生可能な資源から水素を生成するための有望な方法を提供する。電解槽は、燃料電池と同様に、電解質膜によって離隔されたアノード触媒層とカソード触媒層とを含む。電解質膜は、ポリマー、アルカリ溶液、又は、固体セラミック材料であり得る。触媒材料は、電解槽のアノード触媒層とカソード触媒層とに含まれている。
【0004】
クリーンかつ持続可能なこの技術の広い普及及び使用における現在の制限の1つは、燃料電池のコストが比較的高価であることである。触媒材料(例えば、白金触媒)は、電気化学セルのアノード触媒層とカソード触媒層との両方に含まれている。触媒材料は、電気化学セルにおける最も高価なコンポーネントの1つである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
1つの実施形態によれば、電気化学セルの触媒の健全性状態を監視する装置が開示される。本装置は、第1の電極に関連付けられた第1の触媒材料の第1の側に隣接する第1の磁性装置を含む。本装置は、第1の触媒材料の第2の側に隣接する第2の磁性装置をさらに含む。第1の磁性装置又は第2の磁性装置は、磁場を生成するように構成されている。第1の磁性装置及び第2の磁性装置のうちの他方は、第1の触媒材料からの磁場応答を受信するように構成されている。本装置は、制御装置も含み、制御装置は、磁気応答を受信して、磁気応答に応じた第1の触媒材料の磁気応答データを決定するように構成されている。磁気応答データは、第1の触媒材料の健全性状態を示す。
【0006】
他の実施形態によれば、触媒の健全性状態を監視するための電気化学セルが開示される。本電気化学セルは、それぞれ第1の触媒材料及び第2の触媒材料が含まれる第1の電極及び第2の電極を含む。本電気化学セルは、第1の電極と第2の電極との間に延在するポリマー電解質材料も含む。本電気化学セルは、第1の触媒材料の第1の側に隣接する第1の磁性装置も含む。本電気化学セルは、第1の触媒材料の第2の側に隣接する第2の磁性装置も含む。第1の磁性装置又は第2の磁性装置は、磁場を生成するように構成されている。第1の磁性装置及び第2の磁性装置のうちの他方は、第1の触媒材料からの磁場応答を受信するように構成されている。磁気応答信号は、第1の触媒材料の磁気応答データを示し、第1の触媒材料の磁気応答データは、第1の触媒材料の健全性状態を示す。
【0007】
さらに他の実施形態によれば、電気化学セルの健全性状態を監視する方法が開示される。本方法は、それぞれ第1の触媒材料及び第2の触媒材料が含まれる第1の電極及び第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に延在するポリマー電解質材料とを有する電気化学セルを動作させることを含む。本方法は、上記動作させる過程の間に第1の磁性装置を介して磁場を生成することをさらに含む。本方法は、上記動作させる過程の間に第2の磁性装置を介して、第1の触媒材料からの磁気応答を受信することも含む。本方法は、磁気応答に応じて、第1の触媒材料の磁気応答データを決定することも含む。第1の触媒材料の磁気応答データは、第1の触媒材料の健全性状態を示す。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】プロトン交換膜燃料電池の特定のコンポーネントの概略側面図である。
【
図2】燃料電池の触媒の健全性状態を監視する装置の特定のコンポーネントの概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
詳細な説明
本明細書には、本開示の実施形態が記載されている。しかしながら、開示された実施形態は、単なる例に過ぎず、他の実施形態は、種々異なる代替的な形態を取り得るということが理解されるべきである。図面は、必ずしも縮尺通りではない。すなわち、特定のコンポーネントの詳細を示すために、いくつかの機能が誇張されていたり、又は、最小化されていたりする場合がある。したがって、本明細書に開示されている特定の構造的な詳細及び機能的な詳細は、限定するものとして解釈されるべきではなく、これらの実施形態が種々異なるように採用されることを当業者に教示するための代表的な基礎としてのみ解釈されるべきである。当業者には理解されるように、複数の図面のうちのいずれか1つを参照しながら例示及び説明されている種々異なる特徴は、1つ又は複数の他の図面に例示されている特徴と組み合わせられて、明示的には例示又は説明されていない実施形態を生み出すことができる。例示されている特徴の組合せは、典型的な用途に対する代表的な実施形態を提供するものである。しかしながら、特定の用途又は実装のために、本開示の教示と一致するように種々異なるように特徴を組み合わせること及び修正することが望ましい場合がある。
【0010】
実施例を除いて、又は、別段の明示的な指示がない限り、本明細書における材料の量、又は、反応及び/又は使用の条件を示す全ての数値は、本発明の最も広い範囲を説明する際に「約」という用語によって修飾されているものとして理解されるべきである。記載された数値制限内において実施することが、一般的に好ましい。また、明示的な反対の記載がない限り、以下のことが当てはまる。すなわち、パーセント、「~の一部」、及び、比率の値は、重量によるものである。「ポリマー」という用語には、「オリゴマー」、「コポリマー」、「ターポリマー」、及び、これらに類するものが含まれる。ある材料のグループ又はクラスが、本発明に関連する所与の目的のために適している又は好ましいと説明されているということは、そのグループ又はクラスのメンバーの任意の2つ以上の混合物も同様に適している又は好ましいということを含意する。任意のポリマーに関して提供される分子量は、数平均分子量を指す。化学用語での成分の説明は、本明細書において指定された任意の組合せに添加される時点の成分を指しており、一旦混合された混合物の成分間での化学的な相互作用を必ずしも排除するとは限らない。頭字語又は他の略語の最初の定義は、本明細書におけるその同一の略語のその後の全ての使用に適用され、最初に定義された略語の通常の文法上のバリエーションにも準用される。明示的な反対の記載がない限り、ある性質の測定値は、その同様の性質に関して以前に参照された技術又は後々に参照される技術と同様の技術によって決定される。
【0011】
特定のコンポーネント及び/又は条件は、もちろん変化する可能性があるので、本発明は、以下において説明する特定の実施形態及び方法に限定されるものではない。さらに、本明細書において使用される用語は、本発明の実施形態を説明する目的でのみ使用され、如何なる場合であっても、限定することを意図するものではない。
【0012】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形“a”、“an”及び“the”は、文脈上の明らかな別段の指示がない限り、複数の指示対象を含む。例えば、あるコンポーネントが単数形で記載されているということは、複数のコンポーネントを含むということを意図している。
【0013】
本明細書においては、開示又は請求される実施形態を説明するために「実質的に」という用語が使用される場合がある。この「実質的に」という用語は、本開示において開示又は請求される値又は相対的特徴を修正することができる。そのような場合、「実質的に」とは、この用語が修正している値又は相対的特徴が、その値又は相対的特徴の±0%、0.1%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%又は10%以内であることを意味し得る。
【0014】
二酸化炭素の排出量が増加していることと、輸送部門におけるエネルギキャリアとしての再生不可能な化石燃料に対する依存度が現在比較的高くなっていることとに起因して、クリーンかつ持続可能なエネルギ源を使用する輸送技術の開発及び商業化の必要性がますます増加している。有望な技術の1つは、燃料電池である。燃料電池は、空気中の酸素と圧縮された水素とを燃料源として使用する一方で、水及び熱しか排出しない。燃料電池が広く普及すれば、二酸化炭素の排出量は削減されるであろう。しかしながら、広く普及するためには、さらなる技術開発が必要である。さらなる技術開発の分野の1つは、触媒の健全性状態を監視することによって燃料電池における触媒材料の耐久性を改善することである。
【0015】
図1は、1つの実施形態によるプロトン交換膜燃料電池(PEMFC又は燃料電池とも称される)10の特定のコンポーネントの概略側面図を示している。
図1に示されているように、燃料電池10は、アノード触媒材料から形成されたアノード触媒層14によって被覆されたアノード触媒担体12と、カソード触媒材料から形成されたカソード触媒層18によって被覆されたカソード触媒担体16とを含む。アノード触媒担体12とカソード触媒担体16との間には、ポリマー電解質材料(PEM)20が延在している。カソード触媒材料は、PEM20と、カソード触媒担体によって担持された集電体(図示せず)との界面において分散可能である。集電体は、多孔質炭素集電体であるものとしてよい。アノード触媒層14は、アノード触媒担体12とPEM20との間に配置されている。カソード触媒層18は、カソード触媒担体16とPEM20との間に配置されている。アノード22は、一般的に、アノード触媒担体12及びアノード触媒層14を指し示し得る。カソード24は、一般的に、カソード触媒担体16、カソード触媒層18、及び、集電体を指し示し得る。
【0016】
燃料電池10は、第1のガス拡散層及び第2のガス拡散層(GDL)(図示せず)も含む。第1のGDLは、アノード12の外側面26に隣接しており、第2のGDLは、カソード16の外側面28に隣接している。
【0017】
アノード22は、(以下の方程式1として再現される)水素酸化反応を実施するように構成されており、その一方で、カソード24は、燃料電池10の動作中に(以下の方程式2として再現される)酸素還元反応を実施するように構成されている。
H2→2H++2e- (1)
4H++O2+4e-→2H2O (2)
【0018】
4つの(4)電子の移動の複雑さに起因して、酸素還元反応は、律速であり、触媒材料の最適化に対する重大な課題となっている。カソード触媒層18におけるカソード触媒材料の劣化は、燃料電池10における時間の経過に伴う全体的な性能損失の重大な原因であり得る。
【0019】
燃料電池の動作中、カソード触媒材料は、主として、(1)平均粒径が増加する粗大化、及び/又は、(2)PEM20への溶解によってM元素が失われる脱合金化によって劣化する可能性がある。粗大化及び脱合金化の速度は、燃料電池10の全体的な動作パラメータ(例えば、印加される電圧、及び/又は、温度)の影響、及び/又は、それぞれの触媒ナノ粒子の周囲の局所的な環境パラメータ(例えば、水和レベル、及び/又は、炭素担体の構造)の影響を受け易い場合がある。
【0020】
触媒の劣化は、間接的な指標(例えば、燃料電池全体の分極)と、燃料電池の直接的な分解後の特性評価(例えば、加速された劣化プロトコルに追従)との組合せによって測定可能である。(例えば、電子顕微鏡法及び/又は分光法による)分解後の特性評価は、非常に正確であり得るが、その一方で、分解後の特性評価は、燃料電池の動作中における触媒の健全性状態の同時の測定を提供するものではない。さらに、分解後の特性評価は、スループットと、検査及び特性評価を行い得る燃料電池の数とに関して制限される可能性がある。逆に、電気化学的分極データには、触媒の劣化と、燃料電池における他の多数の分極の原因とが関係している場合がある。したがって、燃料電池の動作中に触媒の健全性状態を同時に確実に測定するために、電気化学的分極データを使用することができない可能性がある。上記を踏まえると、必要とされているものは、電気化学セルの触媒の健全性状態を監視する装置であって、触媒の健全性状態を、電気化学セルの動作と同時に測定するように構成されている装置である。
【0021】
1つ又は複数の実施形態においては、電気化学セルの触媒の健全性状態を監視する装置は、燃料電池の触媒の健全性状態を監視する装置であり得る。燃料電池の触媒の健全性状態を監視する装置は、触媒材料(例えば、Pt1-xMx合金ナノ粒子であり、ここで、0≦x≦1であり、Mは、Co、Ni、Fe、希土類金属、又は、任意の他の磁性元素若しくは常磁性元素である)の磁気応答を利用することができる。合金ナノ粒子の平均粒径の直径は、1.0,2.0,3.0,4.0,5.0,6.0,7.0,8.0,9.0,10,12,14,16,18,20,22,24,26,28及び30nmの値のいずれかの値、又は、これらの値のいずれか2つの値の範囲内であり得る。触媒材料の磁気応答は、燃料電池の動作中に探査可能である。
【0022】
図2は、燃料電池51に組み込まれた、燃料電池の触媒の健全性状態を監視する装置50の特定のコンポーネントの概略側面図を示す。燃料電池51は、カソード57を含む。
図2に示されているように、カソード57は、カソード触媒材料(例えば、触媒ナノ粒子)から形成されたカソード触媒層60によって被覆されたカソード触媒担体58を含む。燃料電池51は、アノード(図示せず)も含む。カソード57とアノード(図示せず)との間には、ポリマー電解質材料(PEM)56が延在している。
【0023】
燃料電池の触媒の健全性状態を監視する装置50は、第1の磁性装置及び第2の磁性装置を含み得る。第1の磁性装置及び第2の磁性装置は、磁場を生成及び/又は測定するために使用可能である。第1の磁性装置又は第2の磁性装置は、磁場を生成するように構成されている。第1の磁性装置及び第2の磁性装置のうちの他方は、第1の触媒材料からの磁気応答を受信するように構成されている。
図2に示されているように、第1の磁性装置及び第2の磁性装置は、電磁石52及び磁力計54である。電磁石52は、PEM56に少なくとも部分的に埋め込まれており又は完全に埋め込まれている。磁力計54は、カソード57(例えば、カソード触媒担体58)に少なくとも部分的に埋め込まれており又は完全に埋め込まれている。1つ又は複数の実施形態においては、第1の磁性装置及び第2の磁性装置は、触媒材料の相対する第1の面及び第2の面に隣接し得る。例えば、第1の磁性装置及び第2の磁性装置を、電気化学セルの上及び下に配置することができる。
【0024】
電磁石52の長手軸線と磁力計54の長手軸線とを、互いに実質的に又は完全に整列させることができる。電磁石52を、カソード触媒層60に隣接させて、カソード触媒層60から離間させることができる。磁力計54(例えば、微小電気機械システム(MEMS)デバイス)を、カソード触媒層60に隣接させて、カソード触媒層60から離間させることができる。磁力計54がカソード触媒層60の最も近い表面から離間させられている距離よりも長い距離だけ、電磁石52を、この電磁石52に対するカソード触媒層60の最も近い表面から離間させることができる。磁力計54を、カソード触媒層60の最も近い表面から1mm,2mm,3mm,4mm,5mm,6mm,7mm,8mm,9mm,10mm,1cm,2cm,3cm,4cm及び5cmの距離のいずれかの距離だけ、又は、これらの距離のいずれか2つの距離の範囲内において離間させることができる。他の実施形態においては、第1の磁性装置及び第2の磁性装置は、各自のそれぞれの触媒層の表面から等距離だけ離間させられている。第1の磁性装置及び第2の磁性装置を、燃料電池51の幅方向に沿って整列させることができる(例えば、幅方向は、
図2の奥及び手前に向かって延在し得る)。電磁石52及び磁力計54を、制御装置(図示せず)に接続することができ、この制御装置(図示せず)は、電磁石52及び/又は磁力計54から信号を受信して、受信した信号を解釈するように構成されている。
【0025】
カソード触媒層60のカソード触媒材料は、燃料電池の動作中に磁気応答を提供する。制御装置に接続されている電磁石52及び磁力計54は、カソード触媒材料の磁気応答を探査するように構成されている。
【0026】
1つ又は複数の実施形態においては、第1の磁性装置及び第2の磁性装置を含む燃料電池は、磁気汚染を回避するために、カソード触媒材料(例えば、Pt1-xMx触媒ナノ粒子)以外の如何なる磁性コンポーネントも含まない。例えば、燃料電池は、如何なる磁性の鋼コンポーネント(例えば、ステンレス鋼コンポーネント)も含むものであってはならない。1つ又は複数の実施形態においては、触媒の磁気応答の測定は、磁場の周波数を調整することによって、又は、触媒ナノ粒子に特有の共鳴周波数を発見することによって、電極(例えば、触媒材料)の内部で誘導されるあらゆる渦電流から触媒の磁性信号を隔離するように調整された周波数で実施される。
【0027】
1つ又は複数の実施形態は、バルク合金として強磁性であるPt
1-xM
x(M=Co,Ni,Fe)の触媒組成物に対して使用可能である。これらの触媒組成物は、ナノ粒子として超常磁性の性質を示し得る。これらの触媒組成物は、印加された磁場の非存在下で集団的磁化を維持しながら比較的大きい磁気モーメントを示し得る。それぞれのナノ粒子の磁気モーメントは、温度及び組成の関数であり、x(磁性元素Mの濃度)とともに滑らかに増加する。磁化の緩和時間は、磁場がスイッチオフされた後に磁化が減衰するための特性時間として定義可能である。緩和時間は、
【数1】
によって提供可能であり、ここで、Kは、磁気異方性定数であり、Vは、粒子体積であり、Tは、温度であり、k
BTは、熱エネルギである。KV≪k
BTである、非常に小さいナノ粒子であって、かつ、高温であるという制限内においては、緩和時間は、検出することができないほど短くなる。このような状況下においては、触媒粒子材料の体積を、以下の方程式(1)
【数2】
に示されているように、印加された磁場の関数として非ヒステリシスのサンプル磁化に関連させることができ、ここで、Mは、磁化であり、M
sは、飽和磁化であり、V
0は、カソードの総体積であり、f(V)は、サンプル内のナノ粒子体積の分布であり、Hは、印加された磁場である。方程式(1)に示された関係を数値的に解いて、粒径分布及び飽和磁化を求めることができる。f(V)のモデル分布を仮定することによって数値的な逆変換を支援することもでき、これにより、ベイズ推定又は関連する方法によって問題を解くことが可能となる。
【0028】
時間の経過に伴う触媒の粒径及び組成の進展は、第1の磁性装置及び/又は第2の磁性装置から収集された磁力測定法データから特定可能である。1つ又は複数の実施形態においては、この進展を使用して、触媒の健全性状態の直接的な尺度を提供することができる。1つ又は複数の実施形態においては、健全性状態測定装置は、将来の劣化を低減又は最小化するために、比較的大きい燃料電池スタックの内部の負荷バランスを提供するために、PEMFCの保守手順を管理するために、及び/又は、将来の燃料電池における触媒及び/又は電極アセンブリの構造の最適化を支援するために、磁力測定法データを使用して、燃料電池の1つ又は複数の動作パラメータを調整することができる。
【0029】
1つ又は複数の実施形態においては、健全性状態測定装置は、
図2に示されている電磁石52のための電源を含み得る。電源は、バッテリ動作式であるものとしてもよいし、又は、燃料電池自体によって(例えば、上記の燃料電池の反応式(1)及び(2)によって生成される電圧を介して)給電されるものとしてもよい。
【0030】
1つ又は複数の実施形態においては、磁力計は、内部電流と外部磁場との相互作用によって引き起こされる機械的な運動の動作原理を有し得る。運動が検出される感知原理は、静電容量若しくは電圧、振動共振周波数を測定するもの、又は、レーザのような光センサであり得る。MEMS磁力計は、0.3μTの磁場を検出することができ(例えば、Robert Bosch GmbHから入手可能なBosch BMM150 Sensortechセンサ)、このようなMEMS磁力計は、PEMFC触媒内に存在する典型的な濃度のPt1-xMxナノ粒子を、磁力計から最大5mmの距離を置いて検出するためには十分である。
【0031】
1つ又は複数の実施形態においては、感知装置は、カットオフを有する場合があり、このカットオフでは、磁性原子間の磁性結合の損失に起因して、50%,75%又は90%Ptを超える合金濃度を室温で検出することが不可能となっている。カットオフは、磁性合金Pt1-xMxに特有であり得る。
【0032】
感知データを使用して、交換の候補となる劣化したスタック又はその部分を識別することができる。制御装置又は制御ユニットは、さらなる損傷(例えば、電圧の低下)を補償(例えば、電圧の増加)又は阻止するために、装置の残余の部分の電圧、温度又は他の動作パラメータを変更することができる。
【0033】
1つ又は複数の実施形態においては、磁力測定法データは、複数の燃料電池システムから(例えば、複数のフリート車両から)集約可能である。集約されたデータを使用して、改善された劣化モデルを作成することができる。
【0034】
本明細書に開示されているプロセス、方法又はアルゴリズムは、任意の既存のプログラミング可能な電子制御ユニット又は専用の電子制御ユニットを含み得る処理装置、制御装置又はコンピュータに配信可能であり、及び/又は、これらによって実装可能である。同様に、プロセス、方法又はアルゴリズムは、限定するものではないが、ROMデバイスのような書き込み不可能な記憶媒体上に永続的に格納された情報と、フレキシブルディスク、磁気テープ、CD、RAMデバイス、他の磁気メディア及び光メディアのような書き込み可能な記憶媒体上に変更可能に格納された情報とが含まれる多数の形式で、制御装置又はコンピュータによって実行可能なデータ及び命令として格納可能である。プロセス、方法又はアルゴリズムは、ソフトウェア実行可能なオブジェクトの形態でも実装可能である。これに代えて、プロセス、方法又はアルゴリズムを、全体的に若しくは部分的に、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、ステートマシン、制御装置、他のハードウェアコンポーネント若しくはハードウェアデバイスのような適当なハードウェアコンポーネントを使用して具現化するものとしてもよいし、又は、ハードウェア、ソフトウェア及びファームウェアコンポーネントの組合せを使用して具現化するものとしてもよい。
【0035】
上記においては、例示的な実施形態について説明してきたが、これらの実施形態は、特許請求の範囲に包含される全ての考えられる形態を説明することを意図したものではない。本明細書において使用されている用語は、限定ではなく説明のための用語であり、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく種々異なる変更を行ってもよいことが理解される。前述したように、種々異なる実施形態の特徴を組み合わせて、明示的に記載又は図示されていない本発明のさらなる実施形態を形成することができる。種々異なる実施形態は、1つ又は複数の所望の特性に関して利点を提供するものとして、又は、他の実施形態又は従来技術の実装形態よりも好ましいものとして説明されている場合もあるが、当業者であれば、所望の全体的なシステムの属性を達成するために1つ又は複数の特徴又は特性を妥協してもよいことを認識し、このことは、特定の用途及び実装に依存している。これらの属性は、限定するものではないが、コスト、強度、耐久性、ライフサイクルコスト、市場性、外観、パッケージング、サイズ、保守性、重量、製造性、組み立ての容易さ等を含み得る。したがって、任意の実施形態が、1つ又は複数の特徴に関して他の実施形態又は従来技術の実装形態よりもさほど望ましくないものとして説明されている場合、これらの実施形態は、本開示の範囲を逸脱するものではなく、特定の用途にとっては望ましいものとなり得る。
【外国語明細書】