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特開2023-181147動物細胞の培養に用いられる血清代替物又は培地添加物、及びそれを製造する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181147
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】動物細胞の培養に用いられる血清代替物又は培地添加物、及びそれを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20231214BHJP
【FI】
C12N5/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095669
(22)【出願日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】63/350,952
(32)【優先日】2022-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「3次元組織工学による次世代食肉生産技術の創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】清水 達也
(72)【発明者】
【氏名】原口 裕次
(72)【発明者】
【氏名】山中 久美子
(72)【発明者】
【氏名】秋山 義勝
(72)【発明者】
【氏名】朝日 透
(72)【発明者】
【氏名】ジャイーシャ ゴーシュ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB28
4B065BB40
(57)【要約】
【課題】環境負荷と環境変化への影響のリスクを減らす新規細胞培養系を確立することを目的とする。
【解決手段】本発明は、動物細胞の培養に用いられる血清代替物又は培地添加物を製造する方法であって、藻類の抽出物を有機溶媒で洗浄し、前記有機溶媒に溶解する成分を除去した後の残存成分を得る工程を含む、方法を提供する。また、本発明は、藻類の抽出物から有機溶媒に溶解する成分を除去した成分を含む、動物細胞の培養に用いられる血清代替物又は培地添加物を提供する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物細胞の培養に用いられる血清代替物又は培地添加物を製造する方法であって、
藻類の抽出物を有機溶媒で洗浄し、前記有機溶媒に溶解する成分を除去した後の残存成分を得る工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記有機溶媒が、炭素数が5~20の非置換型炭化水素、及び置換基を除く炭素数が1~6の置換型炭化水素からなる群より選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が、メタノール又はエタノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記藻類が、微細藻類である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記藻類が、緑藻類の微細藻類である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記藻類が、クロレラ属又はクロロコックム属の微細藻類である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記抽出物が、超音波処理によって得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記抽出物が、凍結乾燥された抽出物である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記抽出物が、加水分解処理により得られる抽出物である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法により得られる、動物細胞の培養に用いられる血清代替物又は培地添加物。
【請求項11】
藻類の抽出物から有機溶媒に溶解する成分を除去した後の成分を含む、動物細胞の培養に用いられる血清代替物又は培地添加物。
【請求項12】
請求項10又は11のいずれか1項に記載の血清代替物又は培地添加物を用いる、動物細胞の培養方法。
【請求項13】
請求項10又は11のいずれか1項に記載の血清代替物又は培地添加物を、血清を実質的に含まない培地に添加して用いる、動物細胞の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞の培養に用いられる血清代替物又は培地添加物に関する。また、本発明は、動物細胞の培養に用いられる血清代替物又は培地添加物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳類細胞を用いた細胞培養技術は、分子生物学、細胞生物学、生理学、遺伝学、生化学などの基礎学術分野の進展に大きく貢献してきた。さらに、この技術は医学、獣医学、薬学、生体材料工学および農業などの応用科学分野でも用いられており、細胞培養技術は様々な疾患の病因を解明し、その治療法の基礎をもたらしている[非特許文献1]。後天性免疫不全症候群(AIDS)や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症状をはじめとする各種疾患の治療薬開発には、哺乳類培養細胞が産生するバイオ医薬品やワクチンが用いられる[非特許文献2,3]。さらに最近では、「培養肉」の細胞源として培養筋細胞が用いられている[非特許文献4]
【0003】
通常、哺乳類細胞培養には胎児ウシ血清(FBS)のような高価な動物血清が必要である。培養系の大部分は、最適な細胞増殖のために動物血清を用いることに大きく依存しているが、動物血清の使用は、細胞培養系が高コストになり、その結果、細胞治療および薬物開発が高コストとなる。
【0004】
血清代替源を開発するために様々な努力がなされている。選択肢が限られているにもかかわらず、組換え増殖因子の産生は無血清のアプローチとしても適用されている。例えば、Escherichia coliが産生する組換え線維芽細胞成長因子が無血清培養に用いられている[非特許文献5,6]。
【0005】
しかしながら、精製および下流工程は複雑であり、ロット間に変動がある[非特許文献7]。また、C-フィコシアニン、キトサン、カルボキシメチルセルロースからなる多糖類ナノ層が、血清減少培養条件において哺乳類の筋細胞の増幅を改善したが、細胞培養におけるFBSの使用を完全に排除することはできなかった[非特許文献8]。
【0006】
Jianら(2020)は、クロレラの水性抽出物が非常に低濃度で細胞増殖を増強することを報告した。血清の完全な非存在下では、7日間にわたる藻類由来の増殖因子は、細胞死を逆転させるのには限られた効果しか示さない[非特許文献9]。一方、様々なシアノバクテリアや微細藻類の栄養学的利点に関する研究や、栄養産業への応用についても一貫した試みがなされている。本発明者らの以前の試験で、C.vulgarisの加水分解抽出物は、哺乳類細胞増殖に正に影響する可能性を示した。微細藻類からの栄養抽出物を用いて哺乳類細胞を細胞死からレスキューされ、微細藻類抽出物はグルコース、アミノ酸、ビタミンを含む栄養代替物として利用されていることが示された[特許文献1、非特許文献10]。C.littoraleとC2C12マウス細胞を組み合わせることにより、in vitroでの三次元組織共培養系を作製した[特許文献2、非特許文献11]。さらには、微細藻類抽出物は、より安価で持続可能な栄養素および血清サプリメントとして役立つ大きな潜在能力を有する。そこで、いくつかの医薬品・栄養補助企業は、微細藻類からの簡単な抽出処理を用いて、機能性成分を有する新規製品の開発に取り組んでいる[非特許文献12,13]。
【0007】
以前はバッチ処理として知られていた溶媒抽出処理は、1970年にヨーロッパで開発された。植物種子から油脂を回収するために使用され、使用された最も一般的な溶媒はクロロホルム、メタノールまたはヘキサンであった[非特許文献14]。しかし、ごく最近、リノール酸含量の高いC.vulgarisからの脂質抽出法として超音波処理が効率的であることが証明されている[非特許文献15]。これは超音波処理が微小流動を誘導し、細胞成分を保護している細胞壁を最終的に破裂させるためである[非特許文献16]。細胞成分は溶媒と容易に混合され、細胞壁は遠心分離によって分離される。この技術には、抽出時間の短縮、品質と収率の向上、エネルギー消費の低下、ひいては環境に優しいものになるといったいくつかの利点がある[非特許文献17]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2021/066113号
【特許文献2】国際公開第2016/208747号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Lancet. 374 (2009) 1597-1605
【非特許文献2】Nat. Biotechnol. 22 (2004) 1393-1398
【非特許文献3】iScience. 24 (2021) 103120
【非特許文献4】Ann. N. Y. Acad. Sci. 1328 (2014) 29-33
【非特許文献5】Cell Prolif. 46 (2013) 608-627
【非特許文献6】Sci. Rep. 6 (2016) 33948
【非特許文献7】Thromb. Haemost. 100 (2008) 217-223
【非特許文献8】ACS Appl. Mater. Interfaces. 13 (2021) 32193-32204
【非特許文献9】Front Bioeng Biotechnol. 8 (2020) 564667
【非特許文献10】Biotechnol. Prog. (2022) e3239
【非特許文献11】Sci. Rep. 7 (2017) 1-10
【非特許文献12】Microb. Biotechnol. 8 (2015) 190-209
【非特許文献13】Biomed Res. Int. 2015 (2015) 835761
【非特許文献14】AOCS Publishing, 2005, https://doi.org/10.4324/9781003040101
【非特許文献15】Lett. Appl. Microbiol. 53 (2011) 150-154
【非特許文献16】Br. J. Cancer Suppl. 5 (1982) 156-160
【非特許文献17】Sci. Rep. 11 (2021) 20221
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、環境負荷と環境変化への影響のリスクを減らす新規細胞培養系を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて研究開発を行ってきた。その結果、藻類の抽出物から有機溶媒に溶解する成分を除去して得られる残留成分は、動物細胞の培養に用いられる新規な血清代替物または培地添加物となり得ることを見出し、本発明を開発するに至った。すなわち、本願発明は以下の態様を含む。
【0012】
[1] 動物細胞の培養に用いられる血清代替物又は培地添加物を製造する方法であって、
藻類の抽出物を有機溶媒で洗浄し、前記有機溶媒に溶解する成分を除去した後の残存成分を得る工程
を含む、方法。
[2] 前記有機溶媒が、炭素数が5~20の非置換型炭化水素、及び置換基を除く炭素数が1~6の置換型炭化水素からなる群より選ばれる、[1]に記載の方法。
[3] 前記有機溶媒が、メタノール又はエタノールである、[1]に記載の方法。
[4] 前記藻類が、微細藻類である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5] 前記藻類が、緑藻類の微細藻類である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6] 前記藻類が、クロレラ属又はクロロコックム属の微細藻類である、[4]に記載の方法。
[7] 前記抽出物が、超音波処理によって得られる、[1]~[6]のいずれか1項に記載の方法。
[8] 前記抽出物が、凍結乾燥された抽出物である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の方法。
[9] 前記抽出物が、加水分解処理により得られる抽出物である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の方法。
[10] [1]~[9]のいずれか1項に記載の方法により得られる、動物細胞の培養に用いられる血清代替物又は培地添加物。
【0013】
[11] 藻類の抽出物から有機溶媒に溶解する成分を除去した成分を含む、動物細胞の培養に用いられる血清代替物又は培地添加物。
[12] 前記有機溶媒が、炭素数が5~20の非置換型炭化水素、及び置換基を除く炭素数が1~6の置換型炭化水素からなる群より選ばれる、[11]に記載の血清代替物又は培地添加物。
[13] 前記有機溶媒が、メタノール又はエタノールである、[11]に記載の血清代替物又は培地添加物。
[14] 前記藻類が、微細藻類である、[11]~[13]のいずれか1項に記載の血清代替物又は培地添加物。
[15] 前記藻類が、クロレラ属の微細藻類である、[14]に記載の血清代替物又は培地添加物。
[16] 前記抽出物が、超音波処理によって得られる、[11]~[15]のいずれか1項に記載の血清代替物又は培地添加物。
[17] 前記抽出物が、凍結乾燥された抽出物である、[11]~[16]のいずれか1項に記載の血清代替物又は培地添加物。
[18] 前記抽出物が、加水分解処理により得られる抽出物である、[11]~[17]のいずれか1項に記載の血清代替物又は培地添加物。
【0014】
[19] [11]~[18]のいずれか1項に記載の血清代替物又は培地添加物を用いる、動物細胞の培養方法。
[20] [11]~[18]のいずれか1項に記載の血清代替物又は培地添加物を、血清を実質的に含まない培地に添加して用いる、動物細胞の培養方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によれば、細胞の培養に必要な栄養素を微細藻類から容易に抽出可能であり、安価であり、かつ環境負荷を低減させる新たな細胞培養系を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A-K】Chlorella vulgarisからの水溶性化合物(CW)の抽出のスキーム(A-K)、CWの有効性を評価するための生存率アッセイ(L)、及び、増殖及び免疫蛍光アッセイ(M)のスキーム。DMEM: Dulbecco modified Eagles’ Medium、 FBS:胎仔ウシ血清。 40CW(40μL CW+60μL DMEM);20CW(20μL CW+80μL DMEM);10CW(10μL CW+90μL DMEM);5 CW(5μL CW+95μL DMEM);2CW(2μL CW+98μL DMEM)。
図1L-M】同上。
図2】走査型電子顕微鏡下での超音波処理前(A,B)および処理後(C,D)のChlorella vulgarisの形態。A、C:低倍率(850×); B、D:高倍率(4200×)。
図3】(A)次の時間プログラムに従ってアセトニトリル(AN)濃度勾配条件下で逆相クロマトグラフィーカラムを備えたHPLCシステムを用いて得られたクロマトグラム:最初の5分は100%溶媒B、続く5分~25分は20%~80%溶媒B、25分から80%溶媒A。(B)次の時間プログラムのアセトニトリル(AN)濃度勾配条件下を有する陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを備えたHPLCシステムを用いて得られたクロマトグラム:最初の5分は80%溶媒A、続く5分~25分は80%~20%溶媒A、25分から20%溶媒B。
図4A】(A)Day0に播種した3000細胞(i)および6000細胞(ii)における10% FBSの有無及び様々な濃度のCWによるC2C12細胞の生存率と増殖、並びに(B)各培地で計数した筋芽細胞数。DMEM: Dulbecco modified Eagles’ Medium; FBS:胎仔ウシ血清; w/o FBS:FBSなし; CW:水溶性化合物。データは平均±標準偏差(n=3)で表されている。p値が0.05未満の場合、統計的に有意とみなした。
図4B】同上。
図5】10% FBS有り又は無しでのC2C12細胞の生存率。Day0に播種した細胞数は6000個であった。細胞を種々の濃度の超音波処理粗(CR)抽出物で処理した。DMEM: Dulbecco modified Eagles’ Medium; FBS:胎仔ウシ血清; w/o FBS:FBSなし; CR:超音波処理試料; 20CR:20μL CR+80μL DMEM; 10CR:10μL CR+90μL DMEM; 5CR:5μL CR+95μL DMEM; 2CR:2μL CR+98μL DMEM。データは平均値±標準偏差(n=3)で表されている。
図6】次の時間プログラムに従ってアセトニトリル勾配下で陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを備えたHPLCシステムで得られたクロマトグラム:最初の5分は80%溶媒A、続く5分~25分は80%~20%溶媒A、続く25分から20%溶媒A。3つの別々の抽出試験(CW試験1、2および3)後に分析を行い、粗抽出液と比較した。流量は1mL/min、UV検出器は254nmに設定した。CWの濃度は注射当り2mg/mLであった。CW:水溶性化合物。
図7】メタノールと水の移動相1:1(vol/vol)におけるCW(濃度:20mg/mL)の滴下をTLCシリカゲル60 F254上にスポットし、紫外線(254nm)で視覚化した。また、ニンヒドリンチェックを行い、アミノ酸の存在を確認した。CW:水溶性化合物。
図8】超音波処理した試料(Crude)、メタノールに溶解した試料(Compounds soluble in methanol(CM))および水に溶解した試料(Compounds soluble in water(CW))中の栄養素の分析。主要アミノ酸は、3検体すべてにおいて種々の濃度で検出された。データは平均値±標準偏差(n=3)で表されている。
図9】C2C12筋芽細胞のMyoD陽性細胞(緑)、アクチンフィラメント(赤)および核(青)の蛍光顕微鏡三重染色画像。DMEM:Dulbecco modified Eagles’ Medium; FBS:胎仔ウシ血清; w/o FBS:FBSなし; CW:水溶性化合物; 40CW:40μL CWを80μL DMEMに添加。スケールバー:100 μm。
図10】各培地で培養したNIH3T3細胞の数(n=3)。3×1000 cells/well(初期細胞数)でNIH3T3細胞を播種し、10%胎仔ウシ血清(FBS)を含むDMEM培地で24時間培養した後、FBS(DMEM(10%血清入り)培地)とw/oFBS(血清なしDMEM培地)、20CW(20mg/mL濃度のCW溶液(DMEMに溶解)を20uLと80uLのDMEMを混合した培地)、40CW(20mg/mL濃度のCW溶液(DMEMに溶解)を40μLと60μLのDMEMを混合した培地)に交換し、さらに72時間培養した後の細胞接着数を計測した。
図11】各培地で培養したCHO細胞の数(n=3)。3×1000 cells/well(初期細胞数)でCHO細胞を播種し、10%胎仔ウシ血清(FBS)を含むDMEM培地で24時間培養した後、w/oFBS(血清なしDMEM培地)、20CW(20mg/mL濃度のCW溶液(DMEMに溶解)を20μLと80μLのDMEMを混合した培地)に交換し、さらに72時間培養した後の細胞接着数を計測した。
図12】DMEM(w/o FBS)単独または10%FBS添加DMEMと比較した、様々な濃度のCWを添加した(A)3000 cells及び(B)6000 cells播種1日目のC2C12細胞の生存率の確認。DMEM(w/o FBS)単独または10%FBS添加DMEMと比較した、様々な濃度のCWを添加した(C)3000 cells及び(D)6000 cells播種1日目の3T3細胞の生存率の確認。DMEM:Dulbecco modified Eagles’ Medium; FBS:胎仔ウシ血清; w/o FBS:FBSなし; CW:水溶性化合物。データは平均値±標準偏差で表した(n=3)。p値は0.05未満で統計的に有意とみなした。
図13】(A)各条件で示した各培地におけるC2C12筋芽細胞の数をカウントすることにより、細胞増殖率を算出した。データは、平均値±標準偏差で表した(n=3)。p値は0.05未満で統計的に有意とみなした。(B)Hoechst(青色)で染色したC2C12筋芽細胞の細胞核の蛍光顕微鏡像。(C)各条件下で示した各培地における3T3線維芽細胞数をカウントすることにより細胞増殖率を算出した。データは、平均値±標準偏差で表した(n=3)。p値は0.05未満で統計的に有意とみなした。(D)Hoechst(青色)で染色した3T3線維芽細胞の細胞核の蛍光顕微鏡像。DMEM:Dulbecco modified Eagles’ Medium; FBS:胎仔ウシ血清; w/o FBS:FBSなし; CW:水溶性化合物(20mg/mL)。スケールバー:100μm。
図14】各培地でカウントされたCHO細胞数は、各条件下での細胞増殖を示す。培地;w/o FBS:FBSなし(16mL DMEM+4mL 塩水); CW:水溶性化合物(16mL DMEM+4mL CW)。データは平均値±標準偏差で表す(n=3)。スケールバー:100μm。
図15】CHO細胞は、正確な細胞懸濁培養条件下で4回継代した。(A)各条件下での細胞増殖を示す各培地でカウントされたCHO細胞の数。培地; FBS;牛胎仔ウシ血清(16mL DMEM+2mL FBS+2mL 塩溶液); w/o FBS:FBSなし(16mL DMEM+4mL 塩溶液); 20CW:水溶性化合物(16mL DMEM+4mL CW(20mg/mL))。全ての培養条件において、等量の1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充した。P4では、w/o FBSの細胞が回収できないため、0 cells/mLとした。(B)細胞集団倍加数(NCPD)は、各継代後に算出した。データは平均値±標準偏差で表した(n=3)。p値が0.05未満は統計的に有意とみなした。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、必要に応じて図面を参照にしながら説明する。実施形態の構成は例示であり、本発明の構成は、実施形態の具体的構成に限定されない。なお、本明細書で引用されている全ての文献は、その全内容が参照により本明細書に援用される。
【0018】
本明細書において、「約」との用語は、それが付された数値の±10%、好ましくは±5%、より好ましくは±3%、さらに好ましくは±1%の範囲の数値が含まれることを意味する。
【0019】
一実施態様において、本発明は、動物細胞の培養に用いられる血清代替物又は培地添加物を製造する方法であって、
藻類の抽出物を有機溶媒で洗浄し、前記有機溶媒に溶解する成分を除去した後の残存成分を得る工程、を含む、方法を提供する。
【0020】
また、一実施態様において、本発明は、藻類の抽出物から有機溶媒に溶解する成分を除去した後の成分を含む、動物細胞の培養に用いられる血清代替物又は培地添加物を提供する。
【0021】
本発明により提供される血清代替物又は培地添加物は、動物細胞の培養に用いられる新規な血清代替物または培地添加物となり得る。従来、動物細胞をインビトロで培養する場合、血清又は無血清培養の添加因子を添加した動物細胞用培地を用いる必要がある。しかしながら、本願発明によって提供される血清代替物又は培地添加物は、従来の培養で添加して用いられる血清(例えば、胎児ウシ血清など)と近い又は同等の効果を発揮するという驚くべき知見を発見したことにより完成させたものである。
【0022】
本発明により提供される血清代替物又は培地添加物は、従来の動物細胞の培養において用いられる血清もしくは無血清培養の添加因子を代替する、又はそれらの効果を増強もしくは補強するために用いられ得る。特に、従来の動物細胞の培養で用いられる血清(例えば、胎児ウシ血清(FBS)など)はロット毎に品質が異なり、また高価であることから、それらを用いて安定的かつ大量に動物細胞を培養するためにはコストが増大するという課題を抱えていた。本発明により提供される血清代替物又は培地添加物は、原料が安価な藻類であることから、一定の品質を保ちながら安価にかつ大量に供給可能であることから、これらの課題の解決に寄与し得る。
【0023】
本明細書において「血清」とは、血液が凝固した時、上澄みにできる淡黄色の液体成分のことをいい、増殖因子などの細胞の増殖に必要な因子が含まれている。その由来は、ヒト、ウシの胎児、ウシの新生児、馬、ニワトリ、ウサギ等であってもよく、特に限定されない。本発明によって提供される血清代替物又は培地添加物は、血清を実質的に含まない培地に添加して用いた場合によっても、血清が含まれていた場合と近い又は同等の細胞増殖効果を発揮し得る。
【0024】
本明細書において「無血清培養の添加因子」とは、無血清培地において、血清の代わりに、一般に添加される細胞を増殖(成長)させる因子をいい、例えば、インスリン、トランスフェリン、エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム、アルブミン、メルカプトエタノール、プロスタグランジンなど、目的の細胞に合わせて無血清培地に添加されるものをいう。本発明によって提供される血清代替物又は培地添加物は、これらの無血清培養の添加因子が含まれていなくても、無血清培養の添加因子が含まれていた場合と近い又は同等の細胞増殖効果を発揮し得る。
【0025】
本明細書において、「実質的に含まない」とは、該当する物質がほとんど含まれていないことを意味しているが、該当する物質が全く含まれていないことを意味するのではなく、例えば、血清であれば、1%(v/v)未満(例えば、1%(v/v)未満、0.5%(v/v)未満、又は0.1%(v/v)未満)含まれるものであってもよく、無血清培養の添加因子であれば、1μg/L未満(例えば、1μg/L未満、0.5μg/L未満、0.1μg/未満)含まれるものであってもよい。
【0026】
本明細書において、「藻類」とは、光合成により酸素を産生する生物のうち、主に地上に生息するコケ植物、シダ植物、種子植物を除いたものの総称をいう。藻類は光合成に必要な環境が整えば、酸素、栄養分(例えば、グルコース、アミノ酸)を自ら作り出すことができ、増殖することができる。
【0027】
一実施態様において、本発明の用いられる藻類は、「単細胞藻類(「微細藻類」ともいう。)であってもよい。本明細書において、「単細胞藻類」とは、藻類の中でも、個体が単一の細胞からなる藻類をいい、複数の単細胞藻類個体が集まり、群体を形成する単細胞藻類も含む。例えば、クロロフィルa及びbを葉緑体の主要色素とする緑藻類、クロロフィルdを主要色素とする単細胞性の藍藻類(シアノバクテリア)、クロロフィルa及びフィコビリンタンパク質を主要色素とする単細胞性の紅藻類が単細胞藻類の例として挙げられる。さらに詳しく例を挙げると、例えば、緑藻類では、緑藻綱ボルボックス目のクラミドモナス属であるクラミドモナス・レインハルドティ(Chlamydomonas reinhardtii)(和名:コナミドリムシ);ボルボックス目のボルボックス属であるボルボックス・カルテリ(Volvox carteri)(和名:オオヒゲマワリ);ドナリエラ目のドナリエラ属であるドナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)(和名:ドナリエラ);クロロコックム目のクロロコックム属であるクロロコックム・リットラレ(Chlorococcum littorale);ヨコワミドロ目のアミミドロ属であるヒドロディクティオン・レティキュラツム(Hydrodictyon reticulatum)(和名:アミミドロ)、クンショウモ属であるペディアストラム・デュプレックス(Pediastrum duplex)(和名:クンショウモ)、イカダモ属であるセネデスムス・ディモルファウス(Scenedesmus dimorphus)(和名:イカダモ);トレボウキシア藻綱クロレラ目のクロレラ属であるクロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgarisk)(和名:クロレラ);ユーグレナ植物門ユーグレナ藻綱ユーグレナ目のミドリムシ属であるユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)及びユーグレナ プロキシマ(Euglena proxima)(和名:ミドリムシ)などが挙げられる。例えば、単細胞性の藍藻類では、シアノバクテリア門のアカリオクロリス・マリナ(Acaryochloris marina)、スピルリナ・サブサルサ(Spirulina subsalsa)、アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)などが挙げられる。例えば、単細胞性の紅藻類では、紅藻植物門イデユコゴメ綱イデユコゴメ目のシアニジウム カルダリウム(Cyanidium caldarium)(和名:イデユコゴメ)又は紅藻植物門イデユコゴメ綱イデユコゴメ目のガルディエリア パルティータ(Galdieria partita)などが挙げられる。例えば、単細胞性の車軸藻類では、緑色植物門の車軸藻網クレブソルミディウム目のスティココックス属(Stichococcus sp.)が挙げられる。また、単細胞性のアオサ藻網の藻類であるフィラメントス-ウルボフィテ(Filamentous-ulvophyte)が挙げられる。本発明に用いられる藻類は、上記で挙げられた藻類の遺伝子操作が行われた遺伝子組換え体であってもよく、上記の藻類に限定されない。
【0028】
本発明に用いられる藻類は、天然の藻類を用いても良く、公知の培養法によって増殖させた藻類を用いても良い。
【0029】
一実施態様において、本発明の用いられる藻類は、緑藻類の微細藻類であってもよい。
【0030】
一実施態様において、本発明の用いられる藻類はクロレラ属の微細藻類であってもよく、例えば、Chlorella pyrenoidosa(C.pyrenoidosa)やChlorella vulgaris(C.vulgaris)などのクロレラ属の微細藻類を用いることができる。
【0031】
一実施態様において、本発明の用いられる藻類はクロロコックム目の微細藻類であってもよく、例えば、クロロコックム・リットラレ(Chlorococcum littorale)などのクロロコックム属の微細藻類を用いることができる。
【0032】
一実施態様において、本発明を提供するために用いられる藻類の抽出物は、藻類を超音波処理することによって得られるものであってもよい。超音波処理の方法は、公知の方法及び超音波破砕装置を用いることによって実施すればよく、藻類を破砕し、藻類の体内に存在する成分を体外へ放出させるのに必要かつ十分な条件で処置を行えばよい。用いられる藻類の種類や量などによって、実施される超音波処理の条件(周波数、出力、時間など)は調整されるためにその条件は限定されないが、例えば、10kHz~1000kHz、10~100kHz、又は15~80kHzであってもよく、例えば約20kHz、約30kHz、約40kHz、約50kHz、約60kHz、約70kHz、約80kHzであってもよい。超音波照射の出力は、例えば、50~600W、100~400W、150~300Wであってもよい。超音波処理の時間は、例えば、20秒~100分、1分~60分、または2分~30分であってもよく、例えば約10分であってもよい。超音波処理を実施するために用いられる溶媒は、水を含むものであれば用いることができる。超音波処理した藻類は、その後遠心分離が行われ、その上清を藻類の抽出物としてもよい。
【0033】
一実施態様において、本発明を提供するために用いられる藻類の抽出物は、凍結乾燥された抽出物であってもよい。凍結乾燥は、公知の凍結乾燥法、例えば市販の凍結乾燥機を用いることにより実施することができる。凍結乾燥処理は、藻類に対して上記の超音波処理の前に実施してもよく、超音波処理後、遠心分離を行った後の上清に対して実施してもよく、超音波処理の前及び後の両方で実施してもよい(例えば、図1A-K参照)。
【0034】
一実施態様において、本発明を提供するために用いられる藻類の抽出物は、加水分解処理により得られる抽出物であってもよい。藻類を加水分解処理する方法は、例えば、液体酸を用いた方法(例えば、国際公開第2021/066113号)や固体酸を用いた方法(例えば、国際公開第2022/270598号)などを実施する方法であってもよい。一般に、タンパク質や多糖などの生体高分子は、加熱下(例えば、約60℃~約200℃、好ましくは約80℃~約180℃、より好ましくは約70℃~約150℃、さらに好ましくは約95℃~約135℃)で加水分解され、オリゴマーやモノマー(タンパク質においてはペプチドやアミノ酸、多糖においてはオリゴ糖、単糖)を生じる。従って、加水分解処理は、約60℃~約200℃、好ましくは約80℃~約180℃、より好ましくは約70℃~約150℃、さらに好ましくは約95℃~約135℃で実施されてもよい。また、加水分解処理の時間は、用いられる藻類の種類、量、又は濃度、あるいは反応溶液のpH、温度などの条件によって調整することができ、例えば、約30分~約48時間、約1時間~約36時間、約2時間~約24時間、約2.5時間~約12時間、約2.5時間~約7時間実施されてもよい。
【0035】
また、上記の加水分解処理は、加圧下で実施されてもよい。本明細書において、「加圧下」とは、大気圧、すなわち1気圧よりも高い気圧条件をいい、例えば、1.1気圧以上、1.5気圧以上、1.8気圧以上、又は2気圧以上で実施されてもよい。例えば、1.1~300気圧、1.5~200気圧、1.8~100気圧、2~50気圧、例えば2~20気圧であってもよい。加圧条件は、任意の装置や方法によって実施されてもよく、例えば、オートクレーブを用いることによって加圧条件を実現することができる。
【0036】
一実施態様において、本発明を提供するために用いられる藻類の抽出物は、上記の超音波処理、凍結乾燥処理、又は加水分解処理、あるいはこれらを組み合わせた処理により得られる抽出物であってもよい。
【0037】
本願発明により提供される血清代替物または培地添加物は、上記の藻類の抽出物を有機溶媒で洗浄し、前記有機溶媒に溶解する成分を除去した後の残存成分を得る工程を経ることで提供され得る。
【0038】
本発明に用いることができる有機溶媒は、常温常圧下(本明細書では、20℃1気圧下とする)で液体の有機化合物であり、植物(特に藻類)からの脂溶性成分の抽出に通常用いられるものを適用し得る。そのような有機溶媒の例としては、非置換型又は置換型の炭化水素が挙げられる。本発明における非置換型炭化水素とは、アルカン、アルケン、アルキン、シクロアルカン、及び芳香族炭化水素等を指し、これらの化合物の水素原子の一部が置換基で置換されたものが置換型炭化水素である。
【0039】
前記置換型炭化水素における好適な置換基の例としては、ハロ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アセチル基、シアノ基、アルキル基、及びアルコキシ基等が挙げられる。前記アルキル基及びアルコキシ基は炭素数が1~3であることが好ましい。また、置換型炭化水素1分子に占める置換基の数は、1~3であってよい。
【0040】
一実施態様において、本発明に用いられる有機溶媒は、炭素数が5~20の非置換型炭化水素(例えば、炭素数が5~10の非置換型炭化水素)、及び置換基を除く炭素数が1~6の置換型炭化水素からなる群より選ばれる1以上の炭化水素を、有機溶媒として好適に用いることができる。当該炭化水素の具体例としては、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、二塩化エチレン、酢酸エチル、クロロホルム、アセトニトリル、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、エタノール、メタノール等が挙げられる。なお、エタノールについては、体積比にして30%以下であれば水を含んでいてもよい。
【0041】
上記のうち、炭素数6の非置換型炭化水素(n-ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン)及び炭素数1~4の低級アルコール(1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、エタノール、メタノール)が好ましく、メタノール又はエタノールがより好ましい。また、本発明には、上記有機溶媒を単独又は混合して用いてもよい。
【0042】
一実施態様において、本発明は、上記の方法により提供される血清代替物又は培地添加物を用いる、動物細胞の培養方法を提供する。動物細胞の培養に用いられる血清代替物又は培地添加物の濃度は限定されるものではないが、例えば、培地の全容量に対して、0.1~99%(v/v)、1~80%(v/v)、2~50%(v/v)、3~30%(v/v)、又は5~25%(v/v)含まれるものであってもよい。
【0043】
本発明の動物細胞の培養方法において、血清代替物又は培地添加物を添加する培地は、培養する細胞の種類によって適宜選択すればよいが、緩衝作用を有する媒体が好ましく、例えば、リン酸緩衝液、イーグル培地、ダルベッコ改良イーグル培地(DMEM)、DMEM:F12培地、グラスゴー最小必須培地、グレース昆虫培地、ハム培地、イスコフ改良イーグル培地、RPMI-1640培地、L-15培地、マッコイ5A培地などであってもよく、これらの培地において、血清及び/又は無血清培養の添加因子を実質的に含まないものであってもよい。また、グルコース、ビタミン類及び/又はタンパク質構成アミノ酸(例えば、L-グルタミン、L-アルギニン、L-シスチン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、及びL-バリンからなる群から選択される1以上のアミノ酸)を実質的に含まないものであってもよい。培地は、液体培地であってもよく、固形培地であってもよい。
【0044】
本明細書において、動物細胞とは、脊椎動物(哺乳類(「哺乳動物」ともいう。)、鳥類、両生類、爬虫類または魚類)の細胞、または無脊椎動物(例えば、ホヤ、節足動物(甲殻類(例えば、エビ、カニなど)、昆虫類など)、棘皮動物(ウニ、ナマコ、ヒトデなど)、軟体動物(例えば、貝、イカ、タコなど)など)の細胞を含む意味で用いられる。一実施態様において、本発明を適用し得る動物細胞は、脊椎動物(例えば、ヒト、サル、ウシ、クジラ、クマ、シカ、ウマ、ブタ、イノシシ、ヒツジ、ウサギ、ラット、マウス、ハムスター、ヤギ、イヌまたはネコなどの哺乳動物、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、カモ、キジなどの鳥類、カエル、サンショウウオ、イモリなどの両生類、ワニ、トカゲ、ヘビ、カメ、スッポンなどの爬虫類、マグロ、サケ、マス、コイ、サメ、ウナギ、フグなどの魚類)の細胞、無脊椎動物(例えば、ホヤ、節足動物(甲殻類(例えば、エビ、カニなど)、昆虫類など)、棘皮動物(ウニ、ナマコ、ヒトデなど)、軟体動物(例えば、貝、イカ、タコなど)など)の細胞、あるいはそれら由来の初代細胞、株化細胞、多能性幹細胞(例えば、ES細胞、ntES細胞、Muse細胞、iPS細胞)、または組織幹細胞(例えば、間葉系幹細胞)あるいはそれらから分化誘導された細胞であってもよい。また、動物細胞の生体組織における由来は、例えば、筋肉系(例えば、筋芽細胞)、皮膚系(例えば、線維芽細胞、ケラチノサイト)、肝臓系(例えば、肝実質細胞)、腎臓系(例えば、腎細胞(例えば、HEK293))、心臓系(例えば、心筋細胞)、消化器系(例えば、口腔粘膜細胞、腸管上皮細胞、壁細胞)、造血系(例えば、造血幹細胞)、生殖組織系(例えば、卵巣細胞(例えば、CHO細胞)、精細胞、子宮上皮細胞)、粘膜系(例えば、上皮細胞)、骨組織系(例えば、骨芽細胞、軟骨細胞)などであってもよく、これら以外の組織に由来するものであってもよい。
【実施例0045】
以下、実施例を引用して本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0046】
<実施例1>
1-1. 材料及び実験方法
【0047】
抽出プロセスおよび抽出物を用いた生物学的アッセイを図1に模式的に示した。
【0048】
1-1.(1) 微細藻類の培養
【0049】
淡水緑色微細藻類、C.vulgaris (NIES-2170、国立環境研究所、茨城、日本)を既報のように培養した[10]。7日間培養後、採取した藻類を凍結乾燥機(EYELA FDU-1200、東京理化学会、日本)を用いて凍結乾燥した(図1B)。凍結乾燥したC.vulgarisをその後の実験に用いた。
【0050】
1-1.(2) C.vulgarisからの水溶性化合物(CW)の抽出
【0051】
凍結乾燥したC.vulgaris 2gを20mLのMill Q(100g/L濃度)に懸濁し(図1C)、懸濁液を氷冷した水浴装置(バイオラプター)(コスモ・バイオ、東京、日本)で10分間超音波処理(60kHz、200 W)した(図1D)。次にこの懸濁液を4℃で10分間遠心分離(15,200×g)した(図1E)。上清(図1G)を0.22μmシリンジフィルター(Millipore、Burlington、MA、米国)で濾過した。濾過した上清を凍結乾燥し、粉末として得た(図1H)。粉末(約0.14g)をメタノール(5.0mL)に一部溶解した(図1I)。得られた沈殿物をろ紙(5A、150mm、アドバンテック東洋、東京、日本)で濾過し、室温で乾燥した(収量は約0.10g)。得られた乾燥沈殿物の正味収率は、藻類粉末の初期重量と比較して5%であった。その後、Mill Q水(20mg/mL)に溶解し、CW(水溶性化合物)(図1K)と名付け、さらなる分析に用いた。
【0052】
1-1.(3) 走査型電子顕微鏡(SEM)
【0053】
C.vulgarisを凍結乾燥し、粉末状にして得た(図1B)。ここでも超音波処理後に得られた沈殿物(図1F)を凍結乾燥法を用いて粉末状に変換し、超音波処理前後の藻類粉末の比較分析を行った。超音波処理の有り及び無しの凍結乾燥したC.vulgarisを、SEM試料に利用可能な円形アルミニウムステージ上の炭素フィルムテープ上に置いた。金(IB-3、イオンコーター(金ターゲット)、EIKO、東京、日本)により5mAで10秒間コーティングし、走査型電子顕微鏡(VE-98000SRL、キーエンス、大阪、日本)の内部に置いた。試料を真空条件下で観察した。VEシリーズのObservationソフトウェアで後の画像を撮影した。
【0054】
1-1.(4) CWのHPLC分析
【0055】
CW溶液は、逆相クロマトグラフィーカラム(カプセルPAK C18 MG IIカラム(長さ:4.6mm、I.D.150mm)大阪ソーダ株式会社、日本)または陰イオン交換クロマトグラフィーカラム(カプセルPak NH2 UG80(S5)カラム(長さ:4.6mm、I.D.:150mm)、大阪ソーダ株式会社、日本)を備えたHPLCシステム(島津製作所、京都、日本)により分析した。40℃に保ちながら、流速1.0mL/分で254nm(SPD-20A UV/VIS検出器)で溶出化合物をモニターした。溶媒A(80%アセトニトリル溶液)と溶媒B(20%アセトニトリル溶液)を移動相として使用するODSカラムには、アセトニトリル-水混合物による次の勾配溶出を採用した:最初の5分では100%の溶媒B、続く5分~25分は100%から0%までの勾配溶媒B、そして追加の25分からの5分間は0%の溶媒B(溶媒Aの100%)を一定の流速、1mL/分で用いた。溶媒B(20%アセトニトリル溶液)と溶媒A(80%アセトニトリル溶液)で設計したNH2 UG80(S5)カラムの勾配溶出は、次の時間プログラムで実施した:最初の5分では100%溶媒A、続く5分~25分では20%-80%溶媒A、そして次の25分からの5分間では0%溶媒Aを1mL/分の流速で用いた(CTO-20AC、島津製作所)。CWの濃度は2mg/mL、注入量は20μLであった。結果は、装備されたソフトウェア(Lab Solutions、島津製作所)で分析した。
【0056】
1-1.(5) 細胞培養および細胞増殖分析
【0057】
C2C12マウス細胞(ATCC(登録商標) CRL-1772(商標))を、10% FBS(Thermo Fisher Scientific、MA、米国)および1% ペニシリン/ストレプトマイシン(PS、Invitrogen、Carlsbad、CA、米国)を補充したDMEM(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO、米国)中で、組織培養ポリスチレンディッシュ(Greiner Tokyo、東京、日本)上で、5% COを加えた加湿雰囲気中37℃にて培養した。Day2の培地交換(図1L、M)に先立ち、CW有/無DMEMを作製した。CWの濃度、20mg/mLを100%と考え、40μLのCWと60μLのDMEM(細胞培養培地の総容量は100μL)を混合して40CWを調製した。同様に、20μLのCWおよび80μLのDMEMを混合することによって20CWを調製し、10μLのCWおよび90μLのDMEMを混合することによって10CWを調製し、5μLのCWおよび95μLのDMEMを混合することによって5CWを調製し、100μLの細胞培養培地について2μLのCWおよび98μLのDMEMを混合することによって2CWを調製した。
【0058】
細胞増殖は、1)市販のキット(XTTアッセイ、Biological Industries、クロムウェル、CT、米国)および2)トリパンブルー排除アッセイを用いて分析した。
【0059】
1)XTTアッセイ:C2C12細胞を96ウェルプレート(AGCテクノグラス、静岡、日本)に3×10 cells/wellまたは6×10 cells/wellの密度で播種し、10% FBSと1% PSを添加したDMEMで一晩培養し、プレート上の細胞を接着させた(図1L)。24時間後、培地を廃棄し、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS; Sigma-Aldrich)で2回洗浄した。続いて、種々の濃度で混合した藻類抽出物を含む/含まないDMEM中で細胞をさらに48時間培養した。培地を除去し、細胞をPBSで洗浄した。10% FBSおよび1% P/S(100μL)を添加したDMEMに続いてXTT試薬(50μL)およびActivation solution(1μL)を添加した。37℃で2時間インキュベートした後、細胞生存率をNivo(PerkinElmer、Waltham、MA、米国)を用いて分析した。吸光度は450/650nmで測定し、各ウェル(n=4)の細胞生存率を評価するために、細胞を有しないブランクの吸光度を差し引いて最終値を求めた。
【0060】
2)トリパンブルー排除試験:C2C12細胞(5×10細胞/シャーレ)を直径35mmのポリスチレンディッシュ(Greiner、東京、日本)に播種し、10% FBSおよび1% PSを添加したDMEMで24時間培養した(図1M)。次に培地を廃棄し、細胞をPBS(2mL)で2回洗浄した。その後、細胞を10% FBSを添加したDMEMまたは40CWおよび20CWを添加/無添加のDMEM中で、24時間培養した。その後、培地を除去し、細胞をPBSトリスで洗浄し、トリプシン-EDTA溶液(Sigma-Aldrich)を加えて増殖細胞を回収した。細胞懸濁液を4℃で遠心分離(300×g、5分)し、細胞ペレットをDMEMに懸濁した。トリパンブルー染色液(ナラカイテスク、京都、日本)を細胞懸濁液のアリコート(vol:vol = 1:1)に加え、複合顕微鏡のステージに置いた血球計算板に加えた。非染色細胞を生細胞として計数した。細胞濃度と培地量に基づいて生存細胞数を算出した(n=3~5)。
【0061】
1-1.(6) データ解析
【0062】
すべての統計データは平均±標準偏差で表されている。データは、One-way ANOVA及び多重比較のためのposthoc Dunnett試験を用いて統計学的に分析した。すべてのデータを、Windows(登録商標) 64ビット、バージョン8.4.3.(2020)のGraphPad Prism8で分析した。
【0063】
1-2. 補足的方法:
【0064】
1-2.(1) 微細藻類の培養
【0065】
淡水緑色微細藻C.vulgaris(NIES-2170、国立環境研究所、茨城、日本)を、Gamborg’s B5 medium(富士フィルム和光純薬、大阪、日本)とハイポネックス(1g/L、ハイポネックスジャパン、大阪、日本)の混合培地を用いて、約25℃、連続光(タイテック、埼玉、日本、光合成光子束密度:約100μmol/m/s)下にて、1-L培地ボトル(As One、大阪、日本)で培養した。藻類培養はCO供給装置(GM4000、東海ヒット、静岡、日本)を用いて5% COで50mL/分で換気し、攪拌機(60rpm、As One)を用いて攪拌した(図1A)。7日間培養後、藻類を採取し、遠心分離により濃縮し、凍結乾燥機(EYELA FDU-1200、東京理化器械、日本)を用いて凍結乾燥した(図1B)。凍結乾燥したC.vulgarisをその後の実験に用いた。
【0066】
1-2.(2) 免疫蛍光染色
【0067】
C2C12細胞を5×10細胞/ディッシュの密度で非コーティングポリスチレンディッシュ(35mmディッシュ)に播種し、10% FBSおよび1% PSを添加したDMEM中で24時間培養した。培地を廃棄し、細胞をPBS(2mL)で2回洗浄した。次いで、細胞を40CW有り/無しで培養した。細胞培養はさらに24時間培養した。その後、培地を除去し、培養皿をPBSで3回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(PFA、武藤化学株式会社、東京、日本)で30分間固定した。PFAを除去し、細胞培養皿をPBSで3回洗浄した。次に、0.2% Triton-X(Sigma-Aldrich)で10分間処理することにより細胞を透過化した。溶液を除去し、細胞をPBSで3回洗浄し、2% BSA(Sigma-Aldrich)でブロッキングした。MyoD染色は、マウスモノクローナル抗体(MyoD(G-1)SC-377460、Santa Cruz Biotechnologies社)を2% BSA含有するPBSで1:500の希釈で添加し、シェーカー機上に置いた4℃で一晩インキュベートした。二次抗体については、Alexa Fluor 488標識ヤギ抗マウスIgG(H+L)(Invitrogen)を、2%BSAを含有するPBS中で1:1000の希釈で添加し、室温(約25℃)で1時間インキュベートした。アクチンフィラメントは、PBSで1:500(vol/vol)希釈したAlexa Fluor 568 phalloidin(Invitrogen)によって染色し、核を、PBSで1:500(vol/vol)希釈したHoechst 33258溶液(同仁化学研究所、熊本、日本)を用いて室温で15分間染色した。
【0068】
蛍光溶液を最終的に除去し、PBS溶液で3回洗浄した。蛍光画像はソフトウェア(NIS-Elements BR、ニコン)を装備した蛍光顕微鏡(ELIPSE TS2、Nikon、東京、日本)を用いて撮影した。
【0069】
1-3. 結果と考察:
【0070】
1-3.(1) SEMイメージングを用いて解析したC.vulgarisに対する超音波処理の影響
【0071】
藻類細胞の形態に及ぼす超音波処理の影響をSEMで評価した(図2)。図2Aと2Bは、超音波処理前の藻類粉末の細胞壁の構造を表す。凍結乾燥したC.vulgarisの均一で球形の形態(直径6μm程度)が観察された。真空条件下での凍結乾燥により、細胞壁表面にへこみやひだが出現した。この結果は過去の報告[17]と一致していた。対照的に、細胞膜の多く(図2C)は10分間の超音波処理後に損傷を受けていた。超音波処理は、おそらく破裂した藻類細胞壁に由来するいくつかのミクロサイズの断片を生成した。また、水処理が藻類の細胞膜に深刻な損傷を与え、その構造を崩壊させる可能性も示唆されている[17]。
【0072】
次に、より低倍率で得られた画像の比較(図2Aおよび2C)から、少数の藻類細胞が10分間で超音波処理により完全に崩壊したことが示唆された。
【0073】
1-3.(2) C.vulgarisからのCRとCWの抽出
【0074】
超音波処理したC.vulgaris由来の遠心した粗抽出物(図1G)をC2C12細胞培養系に適用した。細胞増殖特性は抽出物の存在下では低かったが(図5)、CRには増殖促進因子が存在するに違いないと考えた[10]。このことが、粗抽出物を精製する動機となった(図1H及び1K)。
【0075】
水性抽出物には、クロロフィル、脂質分子などの疎水性成分と、細胞増殖活性の原因となる可能性のある水溶性ビタミン、アミノ酸などの親水性化合物が一定の比率で含まれている[10]。従来の抽出法では、C.vulgarisから脂質やクロロフィルなどの疎水性成分の抽出に適したメタノール、クロロホルム、ヘキサンなどの有機溶媒を用いていることが示唆されたため[16]、凍結乾燥したCR(図1H)をメタノールに溶解した(図1I)。粗抽出物はほとんど沈殿物として残ったままであったが(図1K)、メタノール溶媒は緑色に変色した(図1J)。緑色の上清はクロロフィルと脂質分子の溶解を示している可能性がある(図1J)[18]。
【0076】
メタノール処理は粗抽出物から疎水性化合物を抽出できた。沈殿物の溶解アッセイにより、大気条件下で乾燥した沈殿物はメタノールやアセトンなどの有機溶媒にはほとんど溶解しないことが確認された。代わりに、水に容易に溶解し、さらなる実験のためのCWとして使用した。後に、CR、CWおよびCMの栄養分析は、アルギニン、アスパラギン酸、オルニチンおよびリジンのような親水性アミノ酸が、CMよりもCWに高い濃度で存在することを明らかにした。これらの結果から、親水性化合物はこの方法を利用することによって疎水性化合物から分離されることが示唆された(図6)。さらに、後述するようにCWが示す顕著な細胞増殖特性を考慮すると、メタノール処理は、図5で観察されるような粗サンプルの純度を確かに高めている。
【0077】
1-3.(3) HPLCを用いたCR及びCW試料の分析
【0078】
以前の報告では、C.vulgarisから抽出された疎水性化合物を分析には従来ODSカラムが用いられてきた[19]。CR(図1G)およびCW(図1K)をHPLCシステムで分析した。ODSカラム上のCRのクロマトグラムは、最初の5分以内に、強度は低い、いくつかのピークを示した(データは示していない)。同様に、CWは疎水性カラム上に保持されなかった(図3A)。大きなピークは約1.5分で出現し、疎水性成分はCWとCRでは少なかったことを示している。したがって、陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを用いてCWをHPLCで分析した。また、勾配アセトニトリル溶出を用いた。3.84分前に一組のピークが検出されたが、5分後以降アセトニトリル濃度が低下すると、特に5分から12分の間にいくつかのピークが現れた。したがって、陰イオン交換カラムはCWの分析に適していることがわかった。#1、#2、#3、#4、#5及び#6で示される丸を持つピークは、3つの異なるバッチから抽出したCWで繰り返し出現した。抽出法の再現性を確認した(図6)。CWはTLC上にもスポットされた(図7)。2つのスポット(1つは原点付近、もう1つは拡大したスポット付近)は、UVおよびニンヒドリン試薬でそれぞれ陽性に検出された(拡大スポットのRf値:0.74)。この分析は、CW中にアミノ基を有する化合物が存在することを示す栄養素試験(図8)と一致している。
【0079】
また、これまでの研究から、C.vulgarisはバランスのとれたアミノ酸プロファイルを有しており、そのアミノ酸濃度に応じて単一のタンパク質源となる可能性もあることが示唆されている[20]。本発明者らの分析は、同様にCW中のアミノ酸成分の存在を示唆した。
【0080】
1-3.(4) CWによる哺乳類細胞の培養
【0081】
培養したC2C12細胞に対するCWの影響を、XTTアッセイ方法を用いて調べた。哺乳動物細胞増殖に必要な最適濃度を決定するために、より低い細胞数を選択し、比較した(最初の細胞数:3x10細胞/ウェル、6x10細胞/ウェル)(図4A(i)及び(ii))(図1L)。DMEMを陰性対照とし、FBSを添加したDMEMを陽性対照とした。図.4A(i)の場合、20CW(20μL CW+80μL DMEM)を添加した細胞の生存率はDMEMと比較して比較的高かったが、FBSを添加したDMEMよりも低かった。Fig.4A(i)とは対照的に、播種細胞の個数を2倍にすると、細胞の生存率は非常に高くなった(図4A(ii))。20CWの添加は、陽性対照と同等の細胞増殖を増強させた。一元配置ANOVA分析はまた、20CWとw/o FBSとの間に統計的有意性を示したが、2CWとw/o FBSとの間には有意性を示さなかった。
【0082】
生存する筋芽細胞数を算出するために、より大きな細胞培養表面積を有するTCPS上にC2C12細胞を播種し、培養した(最初の細胞数:5x10 cells/dish)(図1M)。図4Bに示すように、接着細胞数は、FBS > 40CW > 20CW ≧ w/o FBSの順番で多くなった。40CW(40μL CW +60μL DMEM)を添加したC2C12細胞は、FBSの添加なしで正の増殖率を示した。この結果は、上記の細胞生存率アッセイと一致し、またCWが筋芽細胞の増殖率に正に作用するという事実を強調している。このグラフは、w/o FBSと40CWを添加した筋芽細胞間の細胞数と一元配置分散分析で統計的有意性を示している。C2C12筋芽細胞もMyoDとアクチン染色陽性を示した(図9)ことから、CWを添加した筋芽細胞はMyoD発現を維持し、アクチンストレスファイバーを発達させる健常な筋芽細胞の増殖を支持することが確認された。我々は、CWに影響される筋形成のシグナル伝達経路転写制御をさらに検討し、研究する予定である[21]。さらに、この知見は、水溶性の藻類抽出物が、いかなる血清補給の助剤なしに、単独で細胞増殖を誘導する何らかの成長促進因子を含むという事実を確認した。
【0083】
本試験では、哺乳類細胞をより短期間しか培養しなかったが、筋芽細胞を水溶性抽出液の存在下でのみ、より長期間培養する予定である。したがって、本発明者らは、哺乳類の筋細胞を培養するための微細藻類からの血清代替物と、哺乳類の筋芽細胞を含む様々な細胞型に適用できる簡単で費用効率の高い抽出法を開発することを目的とする。
【0084】
1-3.(5) 結論
【0085】
本試験は、超音波処理、凍結乾燥およびメタノール処理手順を用いて、水溶性成分であるCWが微細藻類から粉末として首尾よく抽出され、分離されることを示している。加えて、このCWは、より高い細胞増殖率を示し、マウス筋芽細胞を増殖させるための血清代替物として使用できる。本発明者らの知る限り、細胞培養を満足に増殖できる微細藻類抽出物に関する報告はない。本発明者らの粉末抽出物は、細胞培養培地中のその濃度を調整するために容易に取り扱うことができ、長期保存に有用であった。簡単に述べると、抽出プロセスは簡単で費用効果が高く、無血清細胞培養システム、組織工学、ならびに人工肉の培養において大きな利点がある。環境負荷を大幅に低減するだけでなく、動物由来増殖血清を微細藻類抽出物に置き換えることも可能になるだろう。
【0086】
<実施例2>
3×1000 cells/well(初期細胞数)でNIH3T3細胞を播種し10%血清を含むDMEM培地で24時間培養した後、FBS(DMEM(10%血清入り)培地)とw/oFBS(血清なしDMEM培地)、20CW(20mg/mL濃度のCW溶液(DMEMに溶解)を20uLと80uLのDMEMを混合した培地)、40CW(20mg/mL濃度のCW溶液(DMEMに溶解)を40uLと60uLのDMEMを混合した培地)に交換し、さらに72時間培養した。その後、細胞接着数を計測した(図10)。なお、本実施例で使用したCWは、実施例1と同様の方法によって調製した。
【0087】
<実施例3>
3×1000 cells/well(初期細胞数)でCHO細胞を播種し10%血清を含むDMEM培地で24時間培養した後、w/oFBS(血清なしDMEM培地)、20CW(20mg/mL濃度のCW溶液(DMEMに溶解)を20uLと80uLのDMEMを混合した培地)に交換し、さらに72時間培養した。その後の細胞接着数を計測した(図11)。なお、本実施例で使用したCWは、実施例1と同様の方法によって調製した。
【0088】
<実施例4>
4-1.材料及び実験方法
【0089】
4-1.(1) 微細藻類の培養
海洋性単細胞緑色真核微細藻類C. littorale(NBRC 102761)(製品評価技術基盤機構、東京、日本)を、1L培地ボトル(アズワン、大阪、日本)にダイゴIMK培地(日本薬品工業株式会社、東京、日本)、ダイゴ人工海水SP(富士フイルム和光純薬、大阪、日本)とハイポネックス(1g/L、ハイポネックスジャパン、大阪、日本)を混合した培地で培養した。藻類培養は、CO供給装置(GM4000、東海ヒット、静岡、日本)を用いて5%COを50mL/minで通気し、スターラー(60rpm、アズワン、大阪府、日本)を用いて撹拌し、培養環境を連続光(タイテック、埼玉、日本、光合成光量子束密度:約100μmol/m/秒)と一定温度(25℃前後)で保持した。7日間培養後、藻類を回収し、遠心分離法により濃縮した。その後、凍結乾燥機(EYELA FDU-1200、東京理化器械、東京、日本)を用いて凍結乾燥し、以降の実験にはこの凍結乾燥したC. littoraleを用いた(図1を参照のこと)。
【0090】
4-1.(2) C. littoraleからの水溶性成分の抽出
【0091】
この実験では、C. littoraleの凍結乾燥粉末2gを検討した。この粉末を20mLのMill Q(濃度100g/L)に懸濁し(図1C)、この懸濁液を氷冷水浴装置(バイオラプター、コスモ・バイオ、東京、日本)中で10分間超音波処理(60Hz、200W)し、続いて4℃で10分間遠心(15,200×g)した(図1E)。こうして得られた上清を粗抽出物(CR)とした。これを0.22μmのシリンジフィルター(Millipore、Burlington、MA、米国)で濾過し、再び凍結乾燥して粉末にした。この粉末状(約0.3g)をメタノール(CM)(5.0mL)に一部溶解し(図1I、J)、溶解後に得られた沈殿物をろ紙(5A、150mm、アドバンテック東洋、東京、日本)で分離した。これを室温で乾燥させ、得られた乾燥沈殿物の純収量(収量は約0.20g)は、藻類粉末の初期重量と比較すると10%であった。その後、Mill Q水(20mg/mL)に溶解し、CW(水溶性化合物)と名付け、以下の実験工程に使用した(図1を参照のこと)。
【0092】
4-1.(3) 細胞培養と藻類由来培地の調製
【0093】
C2C12マウス筋芽細胞(ATCC(登録商標) CRL-1772(商標))3T3細胞(Swiss 3T3)およびチャイニーズハムスター卵巣細胞[CHO DP12細胞(ATCC CRL-12445)]は、10%FBS(Thermo Fisher Scientific、MA、米国)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(PS、Invitrogen、Carlsbad、CA、米国)を補充したDMEM(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO、米国)中で、10cm組織培養ポリスチレンディッシュ(Greiner Tokyo、東京、日本)上で37℃、5%CO2の加湿雰囲気で培養した。CWの細胞生存率および細胞増殖の影響を解析するために、C2C12細胞および3T3細胞を2種類の実験に使用した。また、CHO細胞は、細胞増殖実験および細胞継代実験を行うために考慮した。
【0094】
藻類由来培地の調製には、すべての培養条件に等量のDMEMを適用した。CWの濃度は、20mg/mLを100%とした。また、栄養分析試験により、CWの浸透圧は98~100mOsm/kg・HO程度であることが判明した。すべての培養条件において浸透圧を同じにするため、ネガティブコントロール(FBSなし)はDMEM60μLと塩水40μL(NaCl水は100mOsm/kg・HO)、ポジティブコントロールはDMEM60μLとFBS10μLと塩水30μL(細胞培養液全量は100μL)で作製した。同様に、40CWは、60μLのDMEMと40μLのCWを混合することによって調製された;20CWは、60μL DMEM、20μL CWおよび20μL塩水を混合することにより調製し、10CWは、60μL DMEM、10μL CWおよび30μL塩水を混合することにより調製し、5CWは、60μL DMEM、5μL CWおよび35μL塩水を混合することにより調製し、最後に2CWは60μL DMEM、2μL CWおよび38μL塩水液を混合することにより調製した。
【0095】
4-1.(4) 細胞生存率の解析
【0096】
市販のキット(XTTアッセイ、Biological Industries、クロムウェル、CT、米国)を用いて、2種類の筋肉細胞を考慮した細胞生存率アッセイを実施した。C2C12細胞および3T3細胞を96ウェルプレート(AGCテクノグラス、静岡、日本)に3×10 cells/wellまたは6×10 cells/wellの密度で播種した。10%FBSと1%PSを添加したDMEMで培養し、プレート上に細胞を接着させた(24時間)。翌日、培地を捨て、リン酸緩衝生理食塩水(PBS;Sigma-Aldrich)で2回洗浄し、種々の濃度のCWとDMEMおよび/または塩溶液で置換した。この状態を次の72時間維持した。培地を除去し、細胞をPBSで洗浄した。10%FBSおよび1%P/Sを補充したDMEM(100μL)を添加し、続いてXTT試薬(50μL)およびActivation solution(1μL)を添加し、2時間インキュベーション(37℃)した。細胞生存率は、Nivo(PerkinElmer、Waltham、MA、米国)を用いて分析した。光学密度は450/650nmで測定し、各ウェル(n=3)における細胞生存率を評価するための細胞を含まないブランクの最適密度を差し引いて最終値を求めた。
【0097】
4-1.(5) 蛍光染色による細胞増殖の解析
【0098】
C2C12細胞、3T3細胞、CHO細胞をポリスチレンディッシュ(35mmディッシュ)に5×10細胞/mLの密度で播種し、10%FBSと1%PSを添加したDMEMで24時間培養した(総培地:2mL)(図1M)。培地を廃棄し、細胞をPBSで2回洗浄した。その後、40CW、20CW、FBS添加DMEM、DMEM単体といった4種類の条件で48時間培養した。各条件の浸透圧は、細胞生存率アッセイで述べた同様の条件で維持した。その後、培地を除去し、培養皿をPBSで3回洗浄し、パラホルムアルデヒド(PFA、武藤薬品工業、東京、日本)で細胞を固定した。30分後、PFAを除去し、細胞をPBSで3回洗浄した。核をHoechst 33258溶液(同仁化学研究所、熊本、日本)をPBSで1:500(vol/vol)に希釈し、室温で15分間染色した。最後に蛍光液を除去し、PBS溶液で3回洗浄した。最後に、ソフトウェア(NIS-Elements BR、Nikon)を備えた蛍光顕微鏡(ELIPSE TS2、Nikon、東京、日本)を用いて、5~10個の蛍光画像(100μM)を撮影した。細胞の核を示すこれらの画像は、後にImageJ analyzerで解析し、平均して各条件の細胞数を決定した(ImageJ.JS analyzer, 64-bit Java(登録商標) 8)。
【0099】
4-1.(6) 懸濁細胞株のサブカルチャー(Subculture)及び継代培養(passage)
【0100】
懸濁したCHO細胞を50ml滅菌攪拌フラスコ(Greiner Tokyo、日本)に2.5×10cells/mlの密度でDay1に播種した。CHO細胞は、DMEM単独、10%FBS添加DMEM、20CW添加DMEMで培養した。各条件の塩類溶液で調整した等量のDMEMに、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(PS、Invitrogen、Carlsbad、CA、米国)を添加した。培地の総量は20mLであった。37℃で48時間培養し、50rpmで絶えず攪拌した。その後、細胞を回収し、遠心分離してPBSで3回洗浄した後、DMEMに再懸濁した。トリパンブルー染色液(ナカライテスク、京都、日本)を細胞懸濁液のアリコート(vol;vol=1:1)に加え、複合顕微鏡のステージ上に置いた血球計数装置で添加した。染色されていない細胞を生細胞として数えた。生存細胞数は、細胞濃度と培地量から算出した(n=3)。次に、CHO細胞の増殖能力を調べるために、細胞集団倍加数(NCPD)を参考文献の式に基づいて計算した[22]。これらのCHO細胞を、2.5×10 cells/mLの密度で、再び新鮮な細胞培地に懸濁した。全く同じプロトコールに従って、4回の継代を行い、同じ培養条件で細胞の増殖率を分析した。
【0101】
4-1.(7) データ分析
すべてのデータは、Windows(登録商標) 64ビット、バージョン8.4.3.(2020)のGraphPad Prism8で分析した。
【0102】
細胞生存率および細胞増殖のデータは、One-way ANOVA及び多重比較のためのposthoc Dunnett試験を用いて統計的に解析した。懸濁培養におけるCHO細胞増殖のデータは、Two-way ANOVA(または混合モデル)および多重比較のためのposthoc Dunnett試験を用いて統計的に解析した。すべての統計データは平均値±標準偏差で表され、0.05未満のp値は統計的に有意とみなされた。
【0103】
4-2.結果
【0104】
4-2.(1) 筋芽細胞および線維芽細胞を用いた細胞生存率アッセイ
【0105】
細胞の生存率に及ぼすCWの影響は、XTTアッセイ法を用いて検出した。この研究では、2種類の哺乳類細胞を検討した:C2C12細胞株(図12A、12B)および3T3細胞株(図12C、12D)である。この研究では、両細胞株を96ウェルプレートとDMEM中で様々な濃度のCWと細胞播種密度(初期細胞数:3×10 cells/well、6×10 cells/well)を使用して培養した。DMEMをネガティブコントロールとし、10 % FBSを添加したDMEMをポジティブコントロールとした。
【0106】
浸透圧は、細胞培養条件において重要な役割を果たす。そこで、DMEMをすべての培養条件に均等に適用し、CWと同じ浸透圧の塩水で調整することで、すべての培養条件のバランスを均等にした(図12A、12B、12C、12D)。これにより、浸透圧の違いが細胞培養に影響を与える可能性を排除した。哺乳類の細胞培養に必要なCWの最適濃度を決定するため、2種類の細胞株を選び、比較した(初期細胞数:3×10 cells/well、6×10 cells/well)。C2C12細胞の場合、図12Aおよび図12Bは、それぞれ低細胞密度および高細胞密度におけるCWの影響下での細胞生存率のグラフを表している。図12Aでは、ネガティブコントロールと比較して、40CWと20CWで統計的に有意に高い細胞生存率が観察された。図12Bにおいても、40CWと20CWの2つの培養条件において、細胞の生存率が統計的に有意であった。
【0107】
また、動物線維芽細胞または3T3細胞を様々なCW培地条件で培養し、細胞生存率を調べた。図12C(3×10 cells/well)では、40CW、20CW、10CW、5CW、2CWで細胞を培養した。しかし、細胞生存率は、すべての条件において、ネガティブコントロールと比較して統計的有意性を示さなかった。一方、図12D(6×10 cells/well)では、40CW、20CW、10CW、5CW、2CWで培養した細胞が高い細胞生存率を示し、これら5条件はネガティブコントロールと比較して統計的に有意であることがわかった。
【0108】
細胞の種類や播種条件によって統計的有意性は異なるが、これらの比較結果から、CWを添加したDMEMで培養した動物細胞では、全体として細胞生存率が向上することが示された。また、哺乳類の細胞は、40CWと20CWを添加したDMEMで培養した場合、特に高い細胞生存率を示すことが確認された。
【0109】
したがって、この2つの濃度を今後の研究対象として検討した。血清飢餓は、細胞周期の停止や細胞死を含む多くの細胞内活動を引き起こすことが、これまでの研究で指摘されている[23]。今回の実験では、DMEMのみを添加した哺乳類細胞も、CWを添加した細胞とは異なり、増殖率が低いなど同様の結果を示した。したがって、CWには、細胞の生存率に影響を与える成長促進因子が含まれているはずである。
【0110】
4-2.(2) 筋芽細胞および線維芽細胞の細胞増殖性
【0111】
次に、筋芽細胞、線維芽細胞ともに、XTTアッセイよりも大規模に細胞増殖率を確認した(それぞれ図13A図13B図13C図13D)。本試験では、DMEMをネガティブコントロール、10%FBS添加DMEMをポジティブコントロールとした。C2C12細胞および3T3細胞は、35mmの細胞培養面を有するTCPS上で、培地の総量が2mLとなるよう調整して培養した。これらの実験では、XTTアッセイと同様に、増殖細胞に対するCWの効果を理解するために等量のDMEMを加え、塩水(FBSなし、FBS、40CW及び20CW中)を加えて各ディッシュの培地の総量を調整した。図13Aの場合、ネガティブコントロールと比較すると、40CWでは付着細胞数が多くなった。20CWの場合、FBSと比較すると数は少ないものの、ネガティブコントロールの2倍以上の付着細胞数を示している。また、FBS、20CW、40CWでは、ネガティブコントロールと比較して、統計的有意性が示された。この結果は、CWがC2C12細胞株の成長促進効果を持つことをさらに強調するものである。
【0112】
同様の結果は、図13Cでも観察された。この場合、3T3細胞は、35mm培養皿に播種し、より大量の培地を用いて培養された。等量のDMEMを各培養条件に適用し、塩水で調整して、各条件の培地が等量になるようにした。同様に、40CWの条件でもネガティブコントロールより細胞数が多く、同条件で比較した場合、One-way ANOVAで統計的に有意であることが示された。また、20CWでもネガティブコントロールと比較して高い増殖率を示し、統計的に有意であった。したがって、上記の結果から、CWを添加したDMEM中で筋芽細胞および線維芽細胞が有意な細胞増殖率を示すことが確認された。
【0113】
CWが様々な培養細胞に及ぼす影響を確認するために、蛍光染色を行った(図13Bおよび図13D)。CWを添加した条件下では、筋芽細胞および線維芽細胞が容易に増殖し、48時間培養後にはほぼコンフルエントになることが生存可能で明るい核染色によって確認された。また、FBS添加DMEMで増殖した細胞と同様に、正常な形態的特徴を示している。
【0114】
4-2.(3) 無血清条件下での懸濁条件における細胞増殖性
【0115】
CHO細胞は、チャイニーズハムスター卵巣細胞の略称で、分子生物学で用いられる最も魅力的な哺乳類細胞株の一つである。
【0116】
35mm培養皿を用いて、先の実験(4-2.(2))と同様の手順でCHO細胞の細胞増殖率を調べた(図14A、14B)。この実験でも、40CW条件でのCHO細胞数はFBS条件での培養細胞数より少ないが、40CWと20CWの両方で、ネガティブコントロールと比較して細胞数がかなり多かった。また、One-way ANOVA分析により、ネガティブコントロールと40CWおよび20CWの培養条件との間の統計的有意性が確認された。
【0117】
35mm培養皿で高い増殖率を示す結果が得られたため、バイオリアクターでの培養条件に移行することを計画した。CHO細胞は浮遊しても増殖するため、培地量をさらに増やし、滅菌済みスピナーフラスコに20mLの培地を入れて実験を行った。これまでの実験とは異なり、本実験では、細胞の接着に必要な血清支持体を一切使用せずに実施した。さらに、CHO細胞を4回継代して、細胞増殖率を分析した。図15Aは、3つの条件(FBSを添加したDMEM、20CWを添加したDMEM、およびDMEMのみ)の影響下でのCHO細胞の増殖率を表している。各継代後にNCPDも測定した(図15B)[22]。平均すると、20CWの場合、P1からP4まで、細胞の倍加数は4.81から2.7までであった。これは、FBSで処理した細胞のNCPD値がP4終了時に4.9から3.7に減少したこととほぼ一致する。継代数の増加に伴い、NCPDは徐々に低下しているが、このことからCHO細胞の増殖能は確保されていると考えられる。一方、DMEMのみで処理した細胞は、3継代以降回復せず、NCPD値を求めることができなかった。また、One-way ANOVA分析では、各条件をネガティブコントロールに対して測定した場合、統計的に有意であることが示された。
【0118】
この結果は、CWがCHO細胞の増殖率に影響を与えることを明確に示しており、微細藻類エキスの利用が哺乳類の懸濁培養条件の増殖率にプラスの影響を与えることを示す初めての報告である。
【0119】
上記のすべての基準および対応する出願のすべての開示は、本明細書中に引用によりその全体として組み込まれる。
【0120】
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