(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181154
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂シートおよび成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 27/06 20060101AFI20231214BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095905
(22)【出願日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2022094531
(32)【優先日】2022-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000223403
【氏名又は名称】住ベシート防水株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】別宮 浩之
(72)【発明者】
【氏名】中川 祐司
(72)【発明者】
【氏名】中馬 敏秋
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB013
4J002AD033
4J002BD031
4J002BD041
4J002BD051
4J002BD103
4J002BE063
4J002BG103
4J002CD162
4J002CF003
4J002CF032
4J002CK023
4J002CL003
4J002DL007
4J002EH096
4J002EH146
4J002EW046
4J002FA043
4J002FA047
4J002FD022
4J002FD026
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】不可避的に繊維が含まれることとなる防水シートおよび成形体を、その見た目および特性が繊維を含んでいないものと比較して劣ることなく形成することができる樹脂組成物、かかる樹脂組成物から形成された樹脂シートおよび成形体を提供すること。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、繊維とを含むものであり、前記繊維は、当該樹脂組成物における含有量が0.12重量%以下であることを満足する。また、前記繊維は、その長さが2mm以下であるものの占有率が50%以上であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、繊維とを含む樹脂組成物であって、
前記繊維は、当該樹脂組成物における含有量が0.12重量%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記繊維は、その長さが2mm以下であるものの占有率が50%以上である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
当該樹脂組成物において、前記繊維は、集束していない請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記可塑剤は、当該樹脂組成物における含有量が15重量%以上50重量%以下である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
当該樹脂組成物は、固形物であり、ペレット状をなしている請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂組成物を用いてシート状に形成してなる樹脂シート。
【請求項7】
請求項5に記載の樹脂組成物を用いて成形されてなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂シートおよび成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の高耐久化が求められるに伴って、多くの建築物の屋上やベランダ等の躯体において、樹脂シートを敷設施工したシート防水構造が採用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このシート防水構造では、例えば、屋上の床部と、床部の外縁に沿って立設して設けられた壁部との境界部に、この境界部の形状に対応して形成された、塩化ビニル系樹脂で被覆された鋼板(金属板)を配置し、この鋼板を包含して、床部と壁部とを、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する防水シートを用いて覆う構成となっており、これにより、屋上に対して防水が施される。
【0004】
このシート防水構造において、防水シートとして、その厚さ方向の途中に繊維層が介挿された構成をなすもの、すなわち、厚さ方向に積層された第1樹脂層と第2樹脂層との間に繊維層(繊維シート)が中間層として挾持された構成のものが用いられることがある。
【0005】
ここで、防水シートの製造時や、シート防水構造の施工時において、工場や施工現場では、防水シートの端材が不可避的に生じる。そのため、昨今の環境問題への配慮のため、この防水シートの端材を、新たな防水シートとして再利用すること、すなわち、リサイクルされた防水シートの原料として用いることが求められ、例えば、特許文献2に示すようなリサイクル方法が提案されている。
【0006】
防水シートとしては、上記のような、繊維層を中間層として備える構成のものの他、例えば、1層の樹脂層すなわち樹脂シートの単層で構成されるものがある。この場合、防水シートが繊維層を有しないことから、防水シートの端材を、リサイクルされた防水シートの原料として、比較的容易に用いることができる。
【0007】
しかしながら、防水シートが繊維層を中間層として備える構成をなす場合、防水シートの端材を、リサイクルされた防水シートの原料として用いると、リサイクルされた防水シート(樹脂シート)が備える樹脂層中に、樹脂層に由来する繊維が不本意に混入することとなる。そのため、リサイクルされた防水シートの特性や、見た目に悪影響を及ぼすと言う問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-70877号公報
【特許文献2】特開2013-56989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、不可避的に繊維が含まれることとなる防水シートおよび成形体を、その見た目および特性が繊維を含んでいないものと比較して劣ることなく形成することができる樹脂組成物、かかる樹脂組成物から形成された樹脂シートおよび成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記(1)~(7)に記載の本発明により達成される。
(1) 塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、繊維とを含む樹脂組成物であって、
前記繊維は、当該樹脂組成物における含有量が0.12重量%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【0011】
(2) 前記繊維は、その長さが2mm以下であるものの占有率が50%以上である上記(1)に記載の樹脂組成物。
【0012】
(3) 当該樹脂組成物において、前記繊維は、集束していない上記(1)または(2)に記載の樹脂組成物。
【0013】
(4) 前記可塑剤は、当該樹脂組成物における含有量が15.0重量%以上50.0重量%以下である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0014】
(5) 当該樹脂組成物は、固形物であり、ペレット状をなしている上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0015】
(6) 上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の樹脂組成物を用いてシート状に形成してなる樹脂シート。
【0016】
(7) 上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて成形されてなる成形体。
【発明の効果】
【0017】
本発明の樹脂組成物によれば、樹脂組成物に不可避的に含まれている繊維の樹脂組成物における含有量が0.12重量%以下に設定されている。そのため、この樹脂組成物を用いて形成される防水シートまたは成形体を、繊維を含んでいない防水シートまたは成形体と比較して、その見た目および特性が、低下するのを、的確に抑制または防止して形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の樹脂組成物の製造に用いられる防水シートの一例を示す縦断面図である。
【
図2】樹脂組成物の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】実施例1および参考例1の防水シートにおいて測定されるMDにおける変位-応力曲線である。
【
図4】実施例1および参考例1の防水シートにおいて測定されるTDにおける変位-応力曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の樹脂組成物、樹脂シートおよび成形体を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0020】
以下では、まず、本発明の樹脂組成物を説明するのに先立って、本発明の樹脂組成物の製造に用いることが可能な防水シートの一例について説明する。
【0021】
<防水シート>
図1は、本発明の樹脂組成物の製造に用いられる防水シートの一例を示す縦断面図である。
防水シート20は、シート状(板状)をなし、例えば、躯体が備える床部と壁部との境界部に配置された配置部材(鋼板)を包含するように、床部と壁部とを防水シート20が覆うシート防水構造の躯体への施工時に用いられるものであり、
図1に示すように、厚さ方向に積層された第1樹脂層21と第2樹脂層22との間に繊維層23(繊維シート)が中間層として挾持された構成、すなわち、樹脂層の厚さ方向の途中に繊維層23が介挿された構成をなしている。
【0022】
かかる構成をなす防水シート20を用いて、躯体が備える床部と壁部とを被覆することで、日光や雨水には防水シート20が晒され、躯体が直接的に日光や雨水に晒されることが防止されることから、躯体の防水性が確保される。
【0023】
このような防水シート20において、第1樹脂層21および第2樹脂層22は、ポリ塩化ビニルのような塩化ビニル系樹脂を主材料として構成されている。
【0024】
なお、本明細書中において、「主材料」とは、このものを含有する層を構成する構成材料のうち、50重量%以上含有する構成材料のことを言うこととする。
【0025】
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルを含む重合体、すなわちオリゴマー、プレポリマーおよびポリマーであれば特に限定されないが、例えば、塩化ビニルの単量重合体、または塩化ビニルと、酢酸ビニル、エチレン、もしくはプロピレン等との共重合体、およびこれらの2種以上の重合体の混合物等が挙げられる。
【0026】
また、第1樹脂層21および第2樹脂層22には、塩化ビニル系樹脂の他に、さらに、各種可塑剤、各種安定化剤、各種酸化防止剤、各種紫外線吸収剤、加工助剤、滑剤、充填材、難燃剤および色材等を含んでいてもよく、特に、可塑剤が含まれることが好ましい。これにより、防水シート20は、より優れた柔軟性を発揮するものとなる。
【0027】
可塑剤としては、通常、塩化ビニル系樹脂に添加される可塑剤を任意に使用することができ、例えば、ジブチルフタレート、ブチルヘキシルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジラウリルフタレート、ジトリデシルフタレート、ジオクタデシルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジオクチルテレフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジ(ブチルジグリコール)アジペート等のアジピン酸エステル系可塑剤;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリ(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリ(ブトキシエチル)ホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、フェノール・レゾルシノールポリホスフェート、フェノール・ビスフェノールAポリホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤;多価アルコールとしてエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロピレングリコール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等と、二塩基酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等とを用い、必要により一価アルコール及び/又はモノカルボン酸をストッパーに使用したポリエステル系可塑剤;エポキシ化大豆油、エポキシ化ひまし油等のエポキシ化植物油;その他、テトラヒドロフタル酸系可塑剤、アゼライン酸系可塑剤、セバチン酸系可塑剤、ステアリン酸系可塑剤、クエン酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、ビフェニレンポリカルボン酸系可塑剤等が挙げられる。これらの可塑剤の中でも、フタル酸および炭素原子数8~13のアルコール、特に炭素原子数9~11のアルコールから得られるフタル酸エステル系可塑剤、とりわけ、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジウンデシルフタレートを使用することが、特に耐候性に優れた防水シート20が得られるので好ましい。
【0028】
また、安定剤としては、例えば、グリシン亜鉛等が挙げられ、この場合の安定助剤としては、例えば、リン酸トリクレジル(TCP)、リン酸トリキシリル(TXP)、リン酸トリブチル(TBP)、リン酸トリ-2-エチルヘキシル、リン酸2-エチルヘキシル・ジフェニルのような有機リン酸エステル等が挙げられる。
【0029】
繊維層23は、繊維の集合体で構成されたものであり、例えば、織布や不織布等のクロス、縦糸と横糸とで複数の格子を形成したネット等の繊維シートが挙げられるが、防水シート20を、このような繊維層を備えるものとすることで、防水シート20の強度(引き裂き強度や引っ張り強度等)および耐久性(耐繰り返し疲労特性)を向上させることができる。
【0030】
また、繊維の構成材料としては、例えば、綿、麻のような天然セルロース系繊維、絹、羊毛のような天然タンパク系繊維、ガラス繊維、レーヨン、キュプラ、アセテート、トリアセテート、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル、ビニロン、ポリオレフィン、塩化ビニリデンが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
また、防水シート20の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.5mm以上3mm以下程度であるのが好ましく、0.8mm以上3mm以下程度であるのがより好ましい。これにより、配置部材を包含して床部と壁部とを、防水シート20により確実に覆うことができる。また、防水シート20が風で煽られることに起因して、この防水シート20に応力が作用したとしても、早期に防水シート20に亀裂が生じるのを的確に抑制することができる。
【0032】
かかる構成をなす防水シート20の製造時や、躯体へのシート防水構造の施工時において、工場や施工現場では、防水シート20の端材が不可避的に生じる。そのため、昨今の環境問題への配慮のため、この防水シート20の端材を、新たな防水シートとして再利用すること、すなわち、リサイクルされた防水シートの原料として用いることが求められるが、本発明では、以下のようにして、リサイクルされた防水シートの製造に用い得る樹脂組成物(本発明の樹脂組成物)が製造される。
【0033】
<樹脂組成物の製造方法>
図2は、樹脂組成物の製造方法を示すフローチャートである。
【0034】
リサイクルされた防水シートの製造に用い得る樹脂組成物の製造方法は、
図2に示すように、防水シート20の製造時や、躯体へのシート防水構造の施工時に発生した防水シート20の端材を、粗粉砕(1次粉砕)して粗粉体を得る粗粉砕工程(S1)と、粗粉体を、微粉砕(2次粉砕)して微粉体を得る微粉砕工程(S2)と、微粉体と、塩化ビニル系樹脂を主材料として含み繊維を含まない樹脂組成物とを混錬して混錬物を得る混錬工程(S3)と、得られた混錬物をペレット化された樹脂組成物(本発明の樹脂組成物)として成形する成形工程(S4)とを有している。
【0035】
以下、リサイクルされた防水シートの製造に用い得る樹脂組成物の製造方法の各工程について、順次説明する。
【0036】
(粗粉砕工程)
本工程は、防水シート20の製造時や、躯体へのシート防水構造の施工時に発生した防水シート20の端材を、粗粉砕(1次粉砕)して粗粉体を得る工程(S1)である。
【0037】
以下、本工程について詳述する。
<1A> まず、防水シート20の製造時や、躯体へのシート防水構造の施工時において、工場や施工現場等で発生した防水シート20の端材を用意する。
【0038】
なお、防水シート20の端材としては、防水シート20の製造時に発生したもの、躯体へのシート防水構造の施工時において発生したもの等、いかなるものであってもよいが、防水シート20の製造時に発生したものであることが好ましい。防水シート20の製造時に発生したものであれば、その回収が容易であるとともに、風雨等に曝された履歴を経ておらず、その品質が優れたものであると言え、さらに、その組成が明らかであるため、防水シート20の端材として、好ましく用いられる。
【0039】
<2A> 次に、用意した防水シート20の端材を、粗粉砕(1次粉砕)することで粗粉体とする。
【0040】
この際、防水シート20の端材の粗粉砕は、例えば、圧縮、衝撃、剪断、摩擦(摩砕)および冷凍からなる群から選ばれる少なくとも1種類の外力により粉砕を行うことができる。より具体的には、この粗粉砕には、例えば、ジェットミル等の気流式粉砕機;振動ボールミル、連続式回転ボールミル、バッチ式ボールミル等のボールミル;パルペライザー;ハンマーミル;湿式ポットミル、遊星ポットミル等のポットミル;ローラーミル;カッターミル等の粉砕機が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上のものを組み合わせて用いることができるが、中でも、カッターミルであることが好ましい。カッターミルであれば、得られる樹脂組成物中に含まれる繊維を、比較的容易に、2mm以下の長さを有するものとし得る。
【0041】
このような粉砕機を用いることにより、防水シート20の端材の粗粉砕を確実に実施することができる。
【0042】
<3A> 次に、防水シート20の端材の粗粉砕により、得られた粗粉体に混入することとなる繊維を、粗粉体から除去する。
【0043】
この粗粉体からの繊維の除去は、例えば、粗粉体の通過が許容されるろ過メッシュを用意し、このろ過メッシュに、繊維が混入した粗粉体から粗粉体を選択的に通過させること、すなわち、繊維が混入した粗粉体をろ過メッシュにより篩いにかけることで実施される。また、繊維が混入した粗粉体を、ろ過メッシュにより篩いにかけることで、規格外に大きい粗粉体を、繊維とともに、ろ過メッシュを通過した粗粉体から除去することができる。
【0044】
ここで、防水シート20の端材における繊維の含有量は、通常、1.50重量%以上2.20重量%以下程度に設定されているが、上記のようにして、粗粉体から繊維を除去することで、粗粉体における繊維の含有量を、好ましくは1.50重量%以上2.05重量%以下程度、より好ましくは1.50重量%以上2.00重量%以下程度に設定することができる。
【0045】
以上のように前記工程<1A>~前記工程<3A>を経ることで、粗粉体が得られるが、これらのうち、前記工程<2A>、前記工程<3A>については、1回実施すればよいが、2回以上の複数回繰り返して実施することが好ましい。これにより、粗粉体の平均粒径を、確実に前記範囲内に設定することができるとともに、粗粉体における繊維の含有量を、確実に前記範囲内に設定することができる。
【0046】
(微粉砕工程)
本工程は、前記粗粉砕工程において得られた粗粉体を、微粉砕(2次粉砕)して微粉体を得る工程(S2)である。
【0047】
以下、本工程について詳述する。
<1B> まず、前記粗粉砕工程において得られた粗粉体を、微粉砕(2次粉砕)することで微粉体とする。
【0048】
この際、粗粉体の微粉砕は、例えば、前記工程<1B>において、防水シート20の端材を粗粉砕する粉砕機として挙げたのと同様の粉砕機を用いて実施することができる。
【0049】
前記工程<1B>で挙げたのと同様の粉砕機を用い、その粉砕の条件を適宜設定することにより、粗粉体の微粉砕を確実に実施することができる。
【0050】
<2B> 次に、粗粉体の微粉砕により、微粉体に混入することとなる繊維を、微粉体から除去する。
【0051】
この微粉体からの繊維の除去は、前述した粗粉体からの繊維の除去と同様に、例えば、微粉体の通過が許容されるろ過メッシュを用意し、このろ過メッシュに、繊維が混入した微粉体から微粉体を選択的に通過させること、すなわち、繊維が混入した微粉体をろ過メッシュにより篩いにかけることで実施される。また、繊維が混入した微粉体を、ろ過メッシュにより篩いにかけることで、規格外に大きい微粉体を、繊維とともに、ろ過メッシュを通過した微粉体から除去することができる。これにより、微粉体として、平均粒径が好ましくはφ0.5mm以上φ5mm以下、より好ましくはφ0.5mm以上φ3mm以下である大きさのものを得ることができる。
【0052】
なお、微粉体の粒度分布は、市販のレーザー式粒度分布計(例えば、島津製作所社製、「SALD-7000」等)を用いて測定することができ、この測定結果に基づいて、平均粒径等を算出することができる。
【0053】
このように微粉体から繊維を除去することで、微粉体における繊維の含有量を、好ましくは0.25重量%以上0.65重量%以下程度、より好ましくは0.25重量%以上0.55重量%以下程度に設定することができる。
【0054】
また、この微粉体における繊維は、前記工程<1B>での防水シート20の粗粉砕および本工程<2B>での粗粉体の微粉砕により、集束していないこと、すなわち、集束繊維を構成していないことが好ましい。
【0055】
さらに、微粉体における繊維は、その長さが2mm以下であるものの占有率が50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
【0056】
微粉体における繊維の含有量、この繊維の構成、および、繊維の長さを、それぞれ、上記のような状態を満足するものとすることで、この微粉体を含む樹脂組成物を用いて形成された防水シートおよび成形体を、繊維を含んでいない防水シートまたは成形体と比較して、その見た目および特性が低下するのを、的確に抑制または防止して形成することができる。
【0057】
なお、前記工程<1B>における粗粉体の微粉砕では、目的とする大きさよりも粒径が大きい粉体が、不本意に混入することになるが、本工程<2B>において、ろ過メッシュで微粉体をろ過することで、目的とする大きさよりも大きい粒径を有する粉体を微粉体から除去することができる。すなわち、微粉体を分級することができる。
【0058】
以上のように前記工程<1B>、前記工程<2B>を経ることで、微粉体が得られるが、これら前記工程<1B>、前記工程<2B>を、1回実施すればよいが、2回以上の複数回繰り返して実施することが好ましい。これにより、微粉体の平均粒径を、確実に前記範囲内に設定することができるとともに、微粉体における繊維の含有量を、確実に前記範囲内に設定することができる。
【0059】
(混錬工程)
本工程は、前記微粉砕工程において得られた微粉体と、塩化ビニル系樹脂を主材料として含み繊維を含まない樹脂組成物とを混錬して混錬物を得る工程(S3)である。
また、この混錬工程(S3)は、前記微粉体と前記樹脂組成物とを混錬する際に、これらを、ろ過メッシュを通過させることで、得られる混錬物から繊維をさらに除去する工程でもある。
【0060】
以下、本工程について詳述する。
<1C> まず、塩化ビニル系樹脂を主材料として含み繊維を含まない樹脂組成物を用意する。
【0061】
この樹脂組成物としては、前述した防水シート20が備える樹脂層21、22を構成する構成材料と、同様の構成材料で構成されるものが好ましく用いられる。
【0062】
なお、前記工程<1A>で用意した防水シート20の端材に可塑剤が含まれない場合には、繊維を含まない樹脂組成物として、可塑剤を含むものを用意することで、後述する成形工程(S4)で得られるペレット状をなす樹脂組成物(本発明の樹脂組成物)を、可塑剤を含有するものとし得る。
【0063】
<2C> 次に、前記微粉砕工程において得られた微粉体と、前記工程<1C>で用意した樹脂組成物とを混錬して混錬物を得る。
【0064】
微粉体と樹脂組成物との混練には混練機が用いられ、この混練機としては、特に限定されないが、例えば、加熱ロール、ニーダーおよび押出機等を用いることができる。
【0065】
また、微粉体と樹脂組成物との混練する際の温度は、特に限定されないが、130℃以上195℃以下程度であるのが好ましく、140℃以上185℃以下程度であるのがより好ましい。これにより、微粉体と樹脂組成物とを優れた精度で混錬し得ることから、微粉体中に残存している繊維を、得られる混錬物中において、優れた分散性をもって分散させることができる。
さらに、微粉体と樹脂組成物との混錬の際に、これらを、ろ過メッシュを通過させることで、得られる混錬物から繊維をさらに除去することができる。微粉体と樹脂組成物との混錬の際に用いられるろ過メッシュとしては、その目開きが、例えば、0.05mm以上0.30mm以下であるのが好ましく、0.05mm以上0.20mm以下であるのがより好ましい。これにより、混錬物中、すなわち、次工程において得られる、ペレット状をなす樹脂組成物における繊維の含有量を、確実に0.12重量%以下に設定することができる。
【0066】
混錬物中における、微粉体の含有量、すなわち、防水シート20の端材に由来するものの含有量は、50.0重量%以上65.0重量%以下であることが好ましく、51.0重量%以上55.0重量%以下であることがより好ましい。これにより、次工程において得られる、ペレット状をなす樹脂組成物における繊維の含有量を、確実に0.12重量%以下に設定することができる。また、得られるペレット状をなす樹脂組成物において、再利用物である防水シート20の端材が高含有率で含まれており、得られるペレット状をなす樹脂組成物を、環境配慮型の樹脂組成物と言うことができる。
【0067】
また、このとき、混錬物中における、可塑剤の含有量は、15.0重量%以上50.0重量%以下に設定されていることが好ましく、25.0重量%以上40.0重量%以下に設定されていることがより好ましい。これにより、次工程において得られるペレット状をなす樹脂組成物を用いて形成される、防水シートまたは成形体を、優れた柔軟性を備えるものとして形成し得る。
【0068】
(成形工程)
本工程は、前記混錬工程において得られた混錬物を、ペレット化された樹脂組成物として成形する工程(S4)である。
【0069】
この成形工程(S4)では、得られた混錬物を、押出し機を用いて柱状体として押出し、冷却後、この柱状体を切断してペレット化することで、ペレット状をなす樹脂組成物(本発明の樹脂組成物)を得ることができる。
【0070】
混錬物を押出す際の温度は、特に限定されないが、90℃以上120℃以下程度であるのが好ましく、100℃以上110℃以下程度であるのがより好ましい。これにより、押出し機を用いて混錬物を柱状体として、確実に押出すことができる。
【0071】
なお、本工程(S4)において成形される樹脂組成物は、ペレット状をなすものに限定されず、例えば、粉状をなすものや、タブレット状をなすもの等であってもよい。樹脂組成物を、粉状またはタブレット状をなすものとする場合、これらの樹脂組成物は、例えば、ペレット状をなす樹脂組成物を粉砕して粉体とすることで、粉状をなす樹脂組成物を得ることができ、さらに、この粉体を加圧してタブレット状に成形することで、タブレット状をなす樹脂組成物を得ることができる。
【0072】
そして、得られた樹脂組成物を用いて、シート状をなすものを形成することで、リサイクルされた防水シート(本発明の樹脂シート)を製造することができる。また、成形体を成形することで、例えば、特開2013-241591号公報において記載されている、配置部材の接合部を覆うように配置される成形体を、リサイクルされたもの(本発明の成形体)として製造することができる。
【0073】
以上のような工程(S1)~工程(S4)を経て、樹脂組成物を得ることで、樹脂組成物における繊維の含有量を、0.12重量%以下に設定することができる。そのため、この樹脂組成物を用いて形成される防水シートまたは成形体を、繊維を含んでいない防水シートまたは成形体と比較して、その見た目および特性が低下するのを、的確に抑制または防止して形成することができる。
【0074】
より具体的には、繊維の含有量が0.12重量%以下に設定された樹脂組成物を用いて防水シートまたは成形体を形成することで、その外観および寸法精度を、繊維を含んでいない防水シートまたは成形体と同等のものとし得る。なお、繊維の含有量は、その上限値が0.12重量%以下であればよいが、0.10重量%以下でるのが好ましく、0.08重量%以下であるのがより好ましい。これにより、繊維の含有量を0.12重量%以下に設定することにより得られる効果を、より顕著に発揮させることができる。また、繊維の含有量の下限値は、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.02重量%以上に設定される。これにより、リサイクルされた成形体として、防水シート20の端材に由来する微粉体を、十分量で含有しているものであると言える。
【0075】
また、繊維の含有量が0.12重量%以下に設定された樹脂組成物を用いて防水シートを形成し、防水シートのMDを長さ方向とし、防水シートのTDを幅方向として、厚さ0.5mm×幅6mm×長さ20mmの大きさで防水シートの試験片を作製し、この試験片を25℃でチャック間距離10mm、引張速度1000mm/minの条件で長さ方向(MD)に伸長したときに測定される変位-応力曲線(S-Sカーブ)における破断伸度(MD1)を、繊維を含んでいない防水シートを用いて形成された前記試験片を長さ方向(MD)に伸長したときに測定される変位-応力曲線における破断伸度(MD2)と、同等の伸度とすることができる。さらに、繊維の含有量が0.12重量%以下に設定された樹脂組成物を用いて形成された防水シートの試験片を25℃でチャック間距離10mm、引張速度1000mm/minの条件で幅方向(TD)に伸長したときに測定される変位-応力曲線(S-Sカーブ)における破断伸度(TD1)を、繊維を含んでいない防水シートを用いて形成された前記試験片を幅方向(TD)に伸長したときに測定される変位-応力曲線における破断伸度(TD2)と比較して、10%程度の低下率として、前記破断伸度(MD2)よりも大きい伸度とすることができる。
【0076】
以上、本発明の樹脂組成物、樹脂シートおよび成形体について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【実施例0077】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
なお、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0078】
1.原材料の準備
まず、樹脂組成物の形成に用いた原材料を以下に示す。
(防水シート20の端材)
繊維層23を有する防水シート20(住ベシート防水社製、「NSJ」、繊維含有量:1.95重量%)の端材を用意した。なお、防水シート20の繊維の含有量は、一定量の防水シート20を、テトラヒドロフラン(THF)を用いて溶解させた後に、残存した繊維を乾燥後、秤量することで、算出することができる。
【0079】
(塩化ビニル系樹脂)
塩化ビニル系樹脂として、ポリ塩化ビニル樹脂(新第一塩ビ社製、「ZEST 1300Z」)を用意した。
【0080】
(可塑剤)
可塑剤として、DINP(ジェイ・プラス社製)を用意した。
【0081】
(安定剤)
安定剤として、Ca-Zn系液状安定剤(ADEKA社製、「SC-32」)を用意した。
【0082】
2.樹脂組成物の製造
(実施例1)
[1A] まず、防水シート20の端材のカッターミル(槇野産業社製、「シャークミル」)を用いた粗粉砕を、2回実施した後に、粉砕物をφ7mmのろ過メッシュにより篩いにかけることで、平均粒径φ6mmの粗粉体を得た。また、粗粉体における繊維の含有量は、1.03重量%であった。
【0083】
[2A] 次に、粗粉体のカッターミル(槇野産業社製、「シャークミル」)を用いた微粉砕を、1回実施した後に、粉砕物をφ3mmのろ過メッシュにより篩いにかけることで、平均粒径φ2mmの微粉体を得た。また、微粉体における繊維の含有量は、0.45重量%であった。さらに、微粉体における繊維の長さを、顕微鏡(KEYENCE社製、「DIGITAL MICROSCOPE」)を用いて測定したところ、2mm以下であるものの占有率が97%であった。
【0084】
[3A] 次に、塩化ビニル系樹脂としてのポリ塩化ビニル樹脂(68重量%)と、可塑剤としてのDINP(30重量%)と、安定剤(2重量%)とを、ミキサーを用いて170℃で均一に混合することで、繊維を含まない樹脂組成物を調製した。
【0085】
[4A] 次に、前記工程[2A]で得られた微粉体51重量%と、前記工程[3A]で調製した繊維を含まない樹脂組成物49重量%とを、押出し機(池貝社製、「GT」)を用いて170℃で混錬しつつ、目開きが0.15mmのろ過メッシュを通過させた後、φ4mmの柱状体として押出した後に、25℃に冷却し、その後、この柱状体を4mmの長さに切断してペレット化することで、ペレット状をなす実施例1の樹脂組成物を得た。なお、樹脂組成物における繊維の含有量は、0.12重量%であった。
【0086】
(参考例1)
[1B] 前記工程[3A]と同様にして、繊維を含まない樹脂組成物を調製した。
【0087】
[2B]次に、繊維を含まない樹脂組成物を、押出し機(池貝社製、「GT」)を用いて170℃で混錬した後、φ4mmの柱状体として押出した後に、25℃に冷却し、その後、この柱状体を4mmの長さに切断してペレット化することで、ペレット状をなす参考例1の樹脂組成物を得た。
【0088】
3.評価
実施例1および参考例1の樹脂組成物について、以下の方法を用いて、それぞれ、評価した。
【0089】
<防水シートの外観および寸法精度の評価>
実施例1および参考例1の樹脂組成物から、それぞれ、金型を用いた射出成形により、φ160mm、厚さ1.5mmの実施例1および参考例1の防水シートを製造した。
【0090】
そして、実施例1および参考例1の防水シートの外観および寸法を測定したところ、実施例1の防水シートは、参考例1の防水シートと、同等の外観および寸法精度を有するものであった。
【0091】
<防水シートの破断伸度の評価>
実施例1および参考例1の樹脂組成物から、それぞれ、押出成形により、厚さ0.5mmの実施例1および参考例1の防水シートを製造した。
【0092】
そして、実施例1の防水シートについて、防水シートのMDを長さ方向とし、防水シートのTDを幅方向として、厚さ0.5mm×幅6mm×長さ20mmの大きさで防水シートの試験片を作製した。そして、この試験片を25℃でチャック間距離10mm、引張速度1000mm/minの条件で長さ方向(MD)に伸長したときの変位-応力曲線(S-Sカーブ)を測定することで、変位-応力曲線における破断伸度(MD1)を求めたところ、180%であった(
図3参照)。
【0093】
また、この試験片を25℃でチャック間距離10mm、引張速度1000mm/minの条件で幅方向(TD)に伸長したときの変位-応力曲線(S-Sカーブ)を測定することで、変位-応力曲線における破断伸度(TD1)を求めたところ、335%であった(
図4参照)。
【0094】
さらに、参考例1の防水シートについて、防水シートのMDを長さ方向とし、防水シートのTDを幅方向として、厚さ0.5mm×幅6mm×長さ20mmの大きさで防水シートの試験片を作製した。そして、この試験片を25℃でチャック間距離10mm、引張速度1000mm/minの条件で長さ方向(MD)に伸長したときの変位-応力曲線(S-Sカーブ)を測定することで、変位-応力曲線における破断伸度(MD2)を求めたところ、180%であった(
図3参照)。
【0095】
また、この試験片を25℃でチャック間距離10mm、引張速度1000mm/minの条件で幅方向(TD)に伸長したときの変位-応力曲線(S-Sカーブ)を測定することで、変位-応力曲線における破断伸度(TD2)を求めたところ、370%であった(
図4参照)。
【0096】
したがって、実施例1の防水シートにおいて測定されるMDにおける破断伸度(MD1)は、参考例1の防水シートにおいて測定されるMDにおける破断伸度(MD2)と、同等の伸度を有していた。
【0097】
また実施例1の防水シートにおいて測定されるTDにおける破断伸度(TD1)は、参考例1の防水シートにおいて測定されるTDにおける破断伸度(TD2)と比較して、10%程度の低下率を示すものの、参考例1の防水シートにおいて測定されるMDにおける破断伸度(MD2)との比較では、破断伸度(MD2)よりも大きい伸度を示す結果となった。