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特開2023-181158硫化物系固体電解質、硫化物系固体電解質の製造方法、及び硫化物系固体電解質を含む全固体電池
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  • 特開-硫化物系固体電解質、硫化物系固体電解質の製造方法、及び硫化物系固体電解質を含む全固体電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181158
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】硫化物系固体電解質、硫化物系固体電解質の製造方法、及び硫化物系固体電解質を含む全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/08 20060101AFI20231214BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231214BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231214BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20231214BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20231214BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
H01B1/08
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
C01B25/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096399
(22)【出願日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2022094403
(32)【優先日】2022-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】成松 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】池野元 駿
(72)【発明者】
【氏名】松原 恵子
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA16
5G301CA19
5G301CD01
5H029AJ02
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL16
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029HJ02
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】イオン伝導率が向上した硫化物系固体電解質、硫化物系固体電解質の製造方法、及び硫化物系固体電解質を含む全固体電池を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、第12族元素を含み、アルジロダイト型結晶構造を有する、硫化物系固体電解質であって、
前記硫化物系固体電解質が、化学式Li7-x-2yPS6-xHaで表され、
前記化学式において、前記Mが第12族元素から選択される1種以上の元素であり、前記Haがハロゲン元素から選択される1種以上の元素であり、1.0<x<2.5、0<y<0.45を満たす、硫化物系固体電解質を提供する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第12族元素を含み、アルジロダイト型結晶構造を有する、硫化物系固体電解質であって、
前記硫化物系固体電解質が、化学式Li7-x-2yPS6-xHaで表され、
前記化学式において、前記Mが第12族元素から選択される1種以上の元素であり、前記Haがハロゲン元素から選択される1種以上の元素であり、1.0<x<2.5、0<y<0.45を満たす、硫化物系固体電解質。
【請求項2】
前記yが、0<y<0.25を満たす、請求項1に記載の硫化物系固体電解質。
【請求項3】
前記xが、1.3≦x≦2.0を満たす、請求項1に記載の硫化物系固体電解質。
【請求項4】
前記xが、1.3≦x≦1.8を満たす、請求項1に記載の硫化物系固体電解質。
【請求項5】
前記Mが、Znである、請求項1から4のいずれか一項に記載の硫化物系固体電解質。
【請求項6】
前記Haが、Brを含む、請求項5に記載の硫化物系固体電解質。
【請求項7】
請求項1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法であって、
リチウム源、第12族元素源、リン源、硫黄源及びハロゲン源を混合して、混合物を得る段階と、
前記混合物を250℃~600℃の温度で焼成する段階と、
を含む、方法。
【請求項8】
正極、負極、及び固体電解質層を含む全固体電池であって、
前記固体電解質層が、請求項1に記載の硫化物系固体電解質を含む、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物系固体電解質、硫化物系固体電解質の製造方法、及び硫化物系固体電解質を含む全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高安全化、長寿命化、高エネルギー密度化のために、リチウムイオン電池の電解液を固体電解質に置き換えた全固体電池の開発が進められている。数ある固体電解質の中でもLi10GeP12などの硫化物系固体電解質は、電解液に近い高いイオン伝導率を持ち、柔らかく活物質との密着性が得やすいとの優位点を有しており、硫化物系固体電解質を用いた全固体電池の実用化が期待されている。
【0003】
リチウム金属は、単位体積当たりの低い重量及び大きい理論容量により質量エネルギー密度(Wh/kg)を高めることができるため、全固体電池の負極材料として注目されている。しかしながら、Li10GeP12などの硫化物系固体電解質は、リチウム金属に対する安定性が低く、リチウム金属負極と共に使用することが難しいという問題がある。
【0004】
この問題を解消するために、特許文献1から特許文献3は、リチウム金属に対して安定なLi7-x-2yPS6-x-yClで表されるアルジロダイト(Argylodite)型結晶構造を有する硫化物系固体電解質を報告している。特許文献4は、Li10GeP12結晶構造を有する硫化物系固体電解質の組成を精密に制御することにより、リチウム金属に対する安定性を向上した硫化物系固体電解質を報告している。
【0005】
しかしながら、従来技術では、硫化物系固体電解質のイオン伝導率が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許5873533号公報
【特許文献2】特開2018-45997号公報
【特許文献3】特開2018-203569号公報
【特許文献4】特開2016-27545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、イオン伝導率が向上した硫化物系固体電解質、硫化物系固体電解質の製造方法、及び硫化物系固体電解質を含む全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、
第12族元素を含み、アルジロダイト型結晶構造を有する、硫化物系固体電解質であって、
前記硫化物系固体電解質が、化学式Li7-x-2yPS6-xHaで表され、
前記化学式において、前記Mが第12族元素から選択される1種以上の元素であり、前記Haがハロゲン元素から選択される1種以上の元素であり、1.0<x<2.5、0<y<0.45を満たす、硫化物系固体電解質、を提供する。
【0009】
一実施形態では、前記yが、0<y<0.25を満たしてもよい。
【0010】
一実施形態では、前記xが、1.3≦x≦2.0を満たしてもよい。
【0011】
一実施形態では、前記xが、1.3≦x≦1.8を満たしてもよい。
【0012】
一実施形態では、前記Mが、Znであってもよい。
【0013】
一実施形態では、前記Haが、Brを含んでもよい。
【0014】
本発明は、上記実施形態のいずれか一つに記載の硫化物系固体電解質の製造方法であって、
リチウム源、第12族元素源、リン源、硫黄源及びハロゲン源を混合して、混合物を得る段階と、
前記混合物を250℃~600℃の温度で焼成する段階と、
を含む、方法を提供する。
【0015】
本発明は、
正極、負極、及び固体電解質層を含む全固体電池であって、
前記固体電解質層が、上記実施形態のいずれか一つに記載の硫化物系固体電解質を含む、全固体電池を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、イオン伝導率が向上した硫化物系固体電解質、硫化物系固体電解質の製造方法、及び硫化物系固体電解質を含む全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1から4のX線回折(XRD)パターンを示す。
図2】実施例5及び6並びに比較例1及び2のXRDパターンを示す。
図3】硫化物系固体電解質の組成に対するリチウムイオン伝導率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0019】
本明細書及び特許請求の範囲で使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味で限定して解釈されてはならず、発明者は自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に即して本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈されなければならない。
【0020】
[全固体電池用固体電解質]
本発明の全固体電池用固体電解質は、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質及び高分子系固体電解質のうちの1つ以上を含み得る。好ましくは、本発明の全固体電池用固体電解質は、硫化物系固体電解質である。全固体電池用固体電解質は、正極合剤に混合されて正極材料として使用されてもよく、負極合剤に混合されて負極材料として使用されてもよく、セパレータとして使用されてもよい。全固体電池用固体電解質は、用途に応じて、リチウム塩、導電材、バインダー樹脂などの添加剤をさらに含むことができる。
【0021】
<硫化物系固体電解質>
硫化物系固体電解質は、硫黄(S)を含むものであれば特に制限はなく、公知の硫化物系固体電解質を使用できる。
【0022】
硫化物系固体電解質は、結晶構造を有してもよい。結晶構造を有する硫化物系固体電解質は、リチウムイオン伝導を促進し、高いリチウムイオン伝導率を有することができる。
【0023】
硫化物系固体電解質は、アルジロダイト型、ナシコン型、ペロブスカイト型、ガーネット型、又はLGePS型の結晶構造を有してもよい。好ましくは、硫化物系固体電解質は、アルジロダイト型結晶構造を有する。アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系固体電解質は、リチウム金属に対する安定性が高いので、高い質量エネルギー密度を有するリチウム金属を負極材料として使用することを可能にする。
【0024】
硫化物系固体電解質は、アモルファス、ガラス、又はガラスセラミックの形態であってもよい。
【0025】
硫化物系固体電解質は、周期表の第1族又は第12族に属する金属のイオン伝導性を有するものであって、Li-P-S系ガラスやLi-P-S系ガラスセラミックを含むことができる。このような硫化物系固体電解質の非制限的な例としては、LiS-P、LiS-LiI-P、LiS-LiI-LiO-P、LiS-LiBr-P、LiS-LiO-P、LiS-LiPO-P、LiS-P-P、LiS-P-SiS、LiS-P-SnS、LiS-P-Al、LiS-GeS、LiS-GeS-ZnSなどが挙げられ、このうち1つ以上を含むことができる。しかし、特にこれらに限定されるものではない。
【0026】
硫化物系固体電解質は、結晶相及び非晶質相を含むことができる。硫化物系固体電解質は、アルジロダイト型結晶構造を含む結晶相(本明細書では、アルジロダイト相とも呼ばれる)と、その他の相(本明細書では、不純物相又は未知相とも呼ばれる)とを含むことができる。アルジロダイト型結晶構造は、好ましくは立方晶系である。その他の相は、結晶相であってもよく、非晶質相であってもよい。その他の相は、結晶相又は非晶質相にかかわらず、LiS相、P相、LiCl相、LiBr相、LiPS相、MgS相、CaS相、SrS相、BaS相、及びZnS相などを含むことができる。好ましくは、硫化物系固体電解質は、アルジロダイト相以外の不純物相を含まない、又は実質的に含まない。即ち、好ましくは、硫化物系固体電解質は、アルジロダイト相のみからなってよい。硫化物系固体電解質が不純物相を含まない又は実質的に含まない場合、リチウムイオン伝導が阻害されにくいので、硫化物系固体電解質は、高いリチウムイオン伝導率を有することができる。
【0027】
硫化物系固体電解質に含まれる結晶相の割合は、XRDパターンから定量的又は半定量的に評価することができる。一つの方法として、XRDパターンのピーク強度(高さ又は面積)を比較することで、結晶相の割合を評価することができる。
【0028】
本発明の一実施形態に係る硫化物系固体電解質は、化学式Li7-x-2yPS6-xHaで表される。前記化学式において、前記Mが第12族元素から選択される1種以上の元素であり、前記Haがハロゲン元素から選択される1種以上の元素であり、1.0<x<2.5、0<y<0.45を満たす。このような硫化物系固体電解質は、高いリチウムイオン伝導率を有することができる。
【0029】
硫化物系固体電解質は、Li7-xPS6-xHaにおけるリチウムの一部が2価の陽イオンになり得る第12族元素Mで置換されている。リチウムを置換する第12族元素Mは、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、及び水銀(Hg)からなる群から選択される1種以上でよい。リチウム(Li)のイオン半径(6配位)は76pmであり、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)及び水銀(Hg)のイオン半径(6配位)は、それぞれ74pm、95pm及び102pmである。元素の価数に基づいて、2つのリチウムが1つの第12族元素Mで置換され得る。第12族元素Mによるリチウムサイトの置換により、リチウムサイト空孔が生成され、リチウムイオン伝導率が向上し得る。また、第12族元素Mによるリチウムサイトの置換により、硫化物系固体電解質の格子定数及び格子体積が変化して、リチウムイオン伝導に適した結晶構造を有するようになり得る。
【0030】
好ましくは、第12族元素Mは、亜鉛(Zn)及び/又はカドミウム(Cd)であり、特に好ましくは、亜鉛(Zn)である。第12族元素Mが亜鉛(Zn)及び/又はカドミウム(Cd)である場合、硫化物系固体電解質は、高い結晶化度を有することができ、それゆえ、硫化物系固体電解質は、高いイオン伝導率を有することができる。これは、リチウム(Li)のイオン半径76pmと、亜鉛(Zn)及びカドミウム(Cd)のイオン半径74pm及び95pmとが近い値であるため、第12族元素Mによる置換後もアルジロダイト型結晶構造が維持されやすいからであると考えられる。
【0031】
前記化学式Li7-x-2yPS6-xHaにおける第12族元素Mの添加量yは、0<y<0.45を満たし、好ましくは、yは、0<y<0.25を満たし、さらに好ましくは、0<y<0.2を満たし、さらにより好ましくは、0<y<0.075を満たし、最も好ましくは、0.0125≦y≦0.05を満たし得る。yが上記範囲を満たす場合、硫化物系固体電解質は、高いイオン伝導率を有することができる。yが0の場合、第12族元素Mの置換による結晶構造の変化が得られず、イオン伝導率は低いことがある。yが0.45以上の場合、硫化物系固体電解質のアルジロダイト型結晶構造が維持できなくなり得、また、硫化物系固体電解質においてリチウムイオン伝導を阻害する不純物相が増え、イオン伝導率が低下し得る。
【0032】
前記化学式Li7-x-2yPS6-xHaにおけるハロゲン(Ha)は、ハロゲン元素から選択される1種以上の元素である。ハロゲン(Ha)は、臭素(Br)を含むことが好ましい。より好ましくは、ハロゲン(Ha)は、塩素(Cl)及び臭素(Br)を含む。硫黄(S)は、2価のアニオンである場合、1価のハロゲンと比べてリチウムイオンを引き付ける力が強く、リチウムイオンの運動を大きく阻害し得る。臭素(Br)を含むことにより、アルジロダイト型結晶構造における特定のサイトの硫黄(S)占有率が下がり、当該サイトのハロゲン占有率が増えて、臭素(Br)サイト周辺のリチウムイオン運動性が活発になり得る。その結果、リチウムイオン伝導性を向上させることができる。また、臭素(Br)は、硫化物系固体電解質中のLiと結合して、吸水性物質である臭化リチウム(LiBr)を形成し得る。臭化リチウム(LiBr)は、リチウムイオン伝導率を低下させ得る水分を吸着して、硫化物系固体電解質のリチウムイオン伝導率を向上させることができる。
【0033】
前記化学式Li7-x-2yPS6-xHaにおけるハロゲン(Ha)の割合xは、1.0<x<2.5を満たし、好ましくは、1.3≦x≦2.0を満たし、さらに好ましくは、1.3≦x≦1.8を満たす。xが上記範囲を満たす場合、アルジロダイト型結晶構造が安定化し、硫化物系固体電解質は高いイオン伝導率を有することができる。
【0034】
硫化物系固体電解質のイオン伝導率は、硫化物系固体電解質の結晶化度に影響され得る。結晶化度はXRDパターンから評価することができる。XRDパターンにおいて、アルジロダイト結晶相以外のその他の相(LiS相、P相、LiCl相、LiBr相、LiPS相、MgS相、CaS相、SrS相、BaS相及びZnS相などの結晶相又は非晶質相)が観測されない又はほとんど観測されない場合に、硫化物系固体電解質は高いイオン伝導率を有することができる。
【0035】
硫化物系固体電解質の格子体積は、第12族元素Mによるリチウムサイトの置換により、変化し得る。理論に縛られるものではないが、第12族元素Mが2価の陽イオンの特性を示すことにより、硫化物系固体電解質中に存在する他のアニオンとの相互作用が強まり、格子体積が変化、つまり増加又は減少すると考えられる。このような格子体積の変化はリチウムイオン伝導に適した結晶構造につながり、硫化物系固体電解質が高いイオン伝導率を有し得る。
【0036】
硫化物系固体電解質の格子体積は、940Å以上980Å以下であり、好ましくは950Å以上970Å以下であり、さらに好ましくは954Å以上966Å以下である。格子定数及び格子体積は、XRDパターンから評価することができる。格子体積が上記範囲を満たす場合、硫化物系固体電解質中のリチウムイオン伝導が促進され、硫化物系固体電解質は高いイオン伝導率を有することができる。
【0037】
硫化物系固体電解質のイオン伝導率(本明細書では、「リチウムイオン伝導率」とも呼ばれる)は、特に言及されない場合、室温(25℃、298K)・常圧(1atm)でのイオン伝導率を意味する。全固体電池に使用される場合、実用上、イオン伝導率が4mS/cm以上であることが望ましい。本発明の一実施形態に係る硫化物系固体電解質のイオン伝導率は、1.5mS/cm以上であり、好ましくは4mS/cm以上であり、さらに好ましくは、8mS/cm以上であり、さらにより好ましくは、10.8mS/cm以上であり、最も好ましくは12mS/cm以上である。
【0038】
本発明の一実施形態に係る硫化物系固体電解質は、リチウム源、第12族元素源、リン源、硫黄源及びハロゲン源を混合して混合物を得る段階と、前記混合物をアルゴンガス及び窒素ガスなどの不活性雰囲気下で250℃~600℃の温度で焼成する段階と、を含む製造方法によって得られ得る。
【0039】
リチウム源、第12族元素源、リン源、硫黄源及びハロゲン源は、硫化物、酸化物、窒化物などの化合物であってよい。リチウム源として硫化リチウム(LiS)を、リン源として五硫化二リン(P)を、ハロゲン源として塩化リチウム(LiCl)及び臭化リチウム(LiBr)などのハロゲン化リチウム(LiHa)を使用することができる。例えば第12族元素源として硫化物を使用することができる。或いは、硫黄は他の元素源から供給され得る。即ち、リチウム源、第12族元素源、リン源、及びハロゲン源の1つ以上が硫黄源を兼ねてもよい。
【0040】
焼成温度は、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系固体電解質の場合、好ましくは、400℃~550℃であり、より好ましくは、420℃~530℃であり、さらにより好ましくは、450℃~500℃である。焼成温度が上記範囲を満たす場合、アルジロダイト型結晶構造の形成が促進され、硫化物系固体電解質は高い結晶化度を有し得る。これにより、高いイオン伝導率を有する硫化物系固体電解質を得ることができる。
【0041】
[全固体電池]
本発明の全固体電池用電解質は、正極、負極及び固体電解質層を含む全固体電池において使用することができる。全固体電池用固体電解質は、正極及び負極における電極活物質層において活物質と共に使用することができる。全固体電池用固体電解質は、固体電解質層の材料として使用することができる。全固体電池用電解質は、用途に応じて平均粒径を制御することができる。全固体電池用電解質の平均粒径を制御することにより、イオン伝導率を向上させることができる。
【0042】
<固体電解質層>
本発明において、固体電解質層は厚さが約50μm以下でよく、好ましくは約15μm~50μmである。厚さは、上述した範囲内でイオン伝導率、物理的強度、適用される電池のエネルギー密度などを考慮して適切な厚さを有し得る。例えば、イオン伝導率やエネルギー密度の面では、厚さが10μm以上、20μm以上、又は30μm以上であり得る。一方、物理的強度の面では、厚さが50μm以下、45μm以下、又は40μm以下であり得る。また、固体電解質層は、厚さ範囲を有すると同時に、約100kgf/cm~約2,000kgf/cmの引張強度を有し得る。また、固体電解質層は、15vol%以下、又は約10vol%以下の気孔度を有し得る。このように本発明による固体電解質層は、薄膜であるにもかかわらず高い機械的強度を有し得る。
【0043】
<正極及び負極>
本発明において、正極及び負極は、集電体及び集電体の少なくとも一面に形成された電極活物質層を含み、電極活物質層は複数の電極活物質粒子及び固体電解質を含む。また、電極は、必要に応じて導電材及びバインダー樹脂のうち1つ以上をさらに含むことができる。また、電極は、電極の物理化学的特性の補完や改善を目的として、多様な添加剤をさらに含むことができる。
【0044】
本発明において、負極活物質としては、リチウムイオン二次電池の負極活物質として使用可能なものであれば何れも使用できる。例えば、負極活物質は、難黒鉛化炭素、黒鉛炭素などの炭素;LiFe(0≦x≦1)、LiWO(0≦x≦1)、SnMe1-xMe’(Me:Mn、Fe、Pb、Ge;Me’:Al、B、P、Si、周期表の1族、2族、3族元素、ハロゲン;0<x≦1;1≦y≦3;1≦z≦8)などの金属複合酸化物;リチウム金属;リチウム合金;ケイ素金属;ケイ素系合金;インジウム金属;インジウム合金;スズ系合金;SnO、SnO、PbO、PbO、Pb、Pb、Sb、Sb、Sb、GeO、GeO、Bi、Bi及びBiなどの金属酸化物;ポリアセチレンなどの導電性高分子;Li-Co-Ni系材料;チタン酸化物;リチウムチタン酸化物などから選択された1種又は2種以上を使用することができる。具体的な一実施形態において、負極活物質は炭素系物質及び/又はSiを含むことができる。
【0045】
正極の場合、電極活物質は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なものであれば制限なく使用できる。例えば、正極活物質は、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)などの層状化合物、又は、1つ又はそれ以上の遷移金属で置換された化合物;化学式Li1+xMn2-x(xは0~0.33)、LiMnO、LiMn、LiMnOなどのリチウムマンガン酸化物;リチウム銅酸化物(LiCuO);LiV、LiV、V、Cuなどのバナジウム酸化物;化学式LiNi1-x(A=Co、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、B又はGa、x=0.01~0.3)で表されるNiサイト型リチウムニッケル酸化物;化学式LiMn2-x(A=Co、Ni、Fe、Cr、Zn又はTa、x=0.01~0.1)又はLiMnAO(A=Fe、Co、Ni、Cu又はZn)で表されるリチウムマンガン複合酸化物;LiNiMn2-xで表されるスピネル構造のリチウムマンガン複合酸化物;Li(NiCoMn)O(a、b、cは、それぞれ独立的な元素の原子分率であって、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1である。)で表されるNCM系複合酸化物;化学式のLiの一部がアルカリ土類金属イオンで置換されたLiMn;ジスルフィド化合物;Fe(MoOなどを含むことができるが、これらに限定されることはない。
【0046】
本発明において、集電体は、金属板などの電気伝導性を有して二次電池分野で公知の集電体を、電極の極性に合わせて適切に使用することができる。
【0047】
本発明において、導電材は、通常、電極活物質を含む混合物の全体重量を基準にして1重量%~30重量%で添加される。このような導電材は、当該電池に化学的変化を誘発せず導電性を有するものであれば特に制限されなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材から選択された1種又は2種以上の混合物を含むことができる。
【0048】
本発明において、バインダー樹脂は、活物質と導電材などとの結合、及び集電体に対する結合を補助する成分であれば特に制限されず、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンモノマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、多様な共重合体などが挙げられる。バインダー樹脂は、通常、電極活物質層100重量%に対して1~30重量%、又は1~10重量%の範囲で含むことができる。
【0049】
本発明において、電極活物質層は、必要に応じて酸化安定添加剤、還元安定添加剤、難燃剤、熱安定剤、防曇剤などの添加剤を1種以上含むことができる。
【0050】
本発明は、上述した構造を有する二次電池を提供する。また、本発明は、二次電池を単位電池として含む電池モジュール、電池モジュールを含む電池パック、及び電池パックを電源として含むデバイスを提供する。このとき、デバイスの具体的な例としては、電気モーターによって動力を受けて駆動するパワーツール;電気自動車(ElectricVehicle:EV)、ハイブリッド電気自動車(HybridElectricVehicle:HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(Plug-inHybridElectricVehicle:PHEV)などを含む電気自動車;電気自転車(E-bike)、電気スクーター(E-scooter)を含む電気二輪車;電気ゴルフカート;電力システムなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、下記の実施例は本発明を例示するためのものであって、本発明の範疇がこれらに限定されることはない。
【0052】
実施例1
原料として、硫化リチウム(LiS、三津和化学)、五硫化二リン(P、Aldrich)、硫化亜鉛(ZnS、高純度化学)、塩化リチウム(LiCl、Aldrich)、臭化リチウム(LiBr、Aldrich)を用いて、組成がLi5.4-2yPS4.4Cl1.0Br0.6(第12族元素Mの添加量y=0.0125)となるように、Arガス流グローブボックス内にて秤量及び乳鉢混合を行い、混合粉末を得た。この混合粉末をZrOボールとともに、ZrOポット内に配し、密閉ポットを得た。この密閉ポットを遊星ボールミル装置に設置して、380rpmで20時間のボールミリングを行った後、グローブボックス内にてポットを開封し、粉末を回収した。この粉末をカーボンるつぼ内に配し、密封した後、Arガスを流しながら460℃にて8時間の焼成を行った。焼成した粉末を乳鉢で10分間粉砕して、固体電解質を得た。
【0053】
実施例2
表1に示されるように、第12族元素Mを変化させ、第12族元素Mの添加量yを0.025とした以外は、実施例1と同様にして、固体電解質を得た。
【0054】
実施例3
表1に示されるように、第12族元素Mを変化させ、第12族元素Mの添加量yを0.05とした以外は、実施例1と同様にして、固体電解質を得た。
【0055】
実施例4
表1に示されるように、第12族元素Mを変化させ、第12族元素Mの添加量yを0.075とした以外は、実施例1と同様にして、固体電解質を得た。
【0056】
実施例5
表1に示されるように、第12族元素Mを変化させ、第12族元素Mの添加量yを0.1とした以外は、実施例1と同様にして、固体電解質を得た。
【0057】
実施例6
表1に示されるように、第12族元素Mを変化させ、第12族元素Mの添加量yを0.2とした以外は、実施例1と同様にして、固体電解質を得た。
【0058】
比較例1
表1に示されるように、第12族元素Mを変化させ、第12族元素Mの添加量yを0.45とした以外は、実施例1と同様にして、固体電解質を得た。
【0059】
比較例2
表1に示されるように、第12族元素Mを添加しない、つまり第12族元素Mの添加量yを0としたこと以外は、実施例1と同様にして、固体電解質を得た。
【0060】
【表1】
【0061】
比較例3
原料として、硫化リチウム(Li2S、三津和化学)、五硫化二リン(P、Aldrich)、硫化スズ(SnS、高純度化学(Kojundo Chemical Laboratory))、ヨウ化リチウム(LiI、Aldrich)を用いて、組成がLi6.950.05Sn0.95Iとなるように、Arガス流グローブボックス内にて秤量及び乳鉢混合を行い、混合粉末を得た。この混合粉末をZrOボールとともに、ZrOポット内に配し、密閉ポットを得た。この密閉ポットを遊星ボールミル装置に設置して、380rpmで20時間のボールミリングを行った後、グローブボックス内にてポットを開封し、粉末を回収した。この粉末をカーボンるつぼ内に配し、密封した後、Arガスを流しながら460℃にて8時間の焼成を行った。焼成した粉末を乳鉢で10分間粉砕して、固体電解質を得た。
【0062】
前記比較例3で得られた個体電解質Li6.950.05Sn0.95Iは、第12族元素ではなく、他の元素としてSnを含む硫化物系固体電解質であり、比較例3の硫化物系固体電解質のイオン伝導率を確認した結果、0.81mS/cmであった。
【0063】
[評価]
得られた固体電解質を用いて、下記評価を行った。
【0064】
(XRD測定)
所定量の固体電解質をArガス流グローブボックス内で密閉ホルダに配し、XRD測定を行った。得られたXRD(X線回折)パターンから格子定数、格子体積及び半値幅を算出した。半値幅は、図1において2θ=30°付近で観測されるアルジロダイト型結晶構造の(311)面結晶ピークから算出した。
【0065】
(イオン伝導率測定)
所定量の固体電解質をマコール管内に配し、マコール管とペレット成型治具(上側プレスピン及び下側プレスピン)とを組み合わせて、一軸プレス機により5MPaでプレス成形した。その後、ペレットの両面に所定量の金粉を配した後、一軸プレス機により7.5MPaでプレス成形してマコール管セルを得た。得られたマコール管セルを電気化学測定用冶具セルに設置し、トルクレンチを用いて、5.0N・mまで加圧してイオン伝導率測定セルを得た。得られたイオン伝導率測定セルをインピーダンス測定装置に接続し、固体電解質ペレットの抵抗値を室温(298K)・常圧(1atm)で測定して、固体電解質のイオン伝導率[mS/cm]を導出した。
【0066】
(初期充放電容量測定)
Ni含有量が80モル%のNCM系正極活物質と固体電解質とを70:30の質量比で秤量した。これに、導電助剤としてカーボンブラックを1.5wt%で添加し、混合して、正極合剤を得た。上記で得られた固体電解質を80mg秤量した後、成形冶具内に設置し、6MPaで1分間加圧成形して、固体電解質ペレットを得た。得られた固体電解質ペレットの一面に、上記で得られた正極合剤10mgを設置した後、成形冶具のSUS製プレスピンを押し当て平らにして正極層を形成した。得られた正極層の上にAlプレートを設置し、30MPaで1分間加圧成形した。その後、固体電解質ペレットの他面にLi-Cu箔を設置し、3MPaで30秒間加圧成形した。これをSUS製プレスピンと組み合わせてマコール管セルを作製した。得られたマコール管セルを電池セルに設置し、2N・mのトルクをかけて、全固体電池セルを得た。
【0067】
得られた全固体電池を用いて、電圧範囲を4.25V-3.0V、充電条件をCC(0.05C)-CV(0.01C カットオフ)、放電条件をCC(0.05C)として充放電試験を行った。得られた充放電曲線から、初期充電容量及び初期放電容量を求めた。
【0068】
[評価結果]
(結晶相)
XRD測定によるXRDパターンから同定された結晶相(結晶構造)の評価結果を表1に示す。また、測定されたXRDパターンを図1及び2に示す。
【0069】
表1に示されるように、実施例2及び比較例2では、不純物相(未知相とも呼ばれる)はほとんど観測されず、ほぼアルジロダイト相のピークのみであった。また、実施例1及び3から6では、アルジロダイト相のピークと、アルジロダイト相以外の微量の不純物相とが存在した。一方、比較例1では、アルジロダイト相のピークはほとんど観測されず、アルジロダイト相以外の多量の不純物相が存在した。不純物相は、例えば、LiS、ZnSなどの原料に由来する相であった。
【0070】
図1及び2に、実施例1から6並びに比較例1及び2のXRDパターンを示す。添加量y=0.025である実施例2及び添加量y=0である比較例2に関しては、ほぼアルジロダイト相のピークのみが観測された。また、それぞれ添加量y=0.0125、0.05、0.075、0.1及び0.2である実施例1及び3から6に関しては、ほぼアルジロダイト相のピークのみが観測されたが、LiS、ZnSなどの原料に由来する不純物相のピークも観測された。一方、添加量y=0.45である比較例1に関しては、アルジロダイト相のピークはほとんど観測されず、多量の不純物相のピークが観測された。
【0071】
実施例1から6及び比較例2では、不純物相のない又はほとんどないアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系固体電解質が得られた。結晶化度の高い硫化物系固体電解質は、リチウムイオンのホッピング伝導を促進し、イオン伝導率の増大に寄与することができる。
【0072】
(格子体積)
XRDパターンから導出した格子定数は、実施例においては、9.8379Åから9.8755Åの範囲であり、格子体積は、952.2Åから963.1Åの範囲であった。一方、Znの添加量y=0.45である比較例1においては、不純物が多いため、格子定数の測定が不可能であった。また、第12族元素Mで硫化物系固体電解質のリチウムサイトを置換しない比較例2においては、格子定数は9.9471Åであり、格子体積は984.2Åであった。第12族元素Mでアルジロダイト型結晶構造のリチウムサイトを置換することで、結晶の格子体積が約2.1~3.3%程度小さくなることが示された。理論に縛られるものではないが、2つのリチウムサイトのうちの一方が第12族元素Mで置換され、他方がリチウム空孔になることで、硫化物系固体電解質の結晶体積が変化し得ると考えられる。リチウム空孔はリチウムイオンのホッピング伝導のための経路となり、イオン伝導率の増大に寄与すると考えられる。また、リチウムサイトに置換された第12族元素Mは2価を有し得、1価のリチウムイオンと比較して第12族元素Mサイト周辺のアニオンを引き付ける力が変化し得る。これにより、硫化物系固体電解質の結晶体積が変化し、リチウムイオンのホッピング伝導に適した構造になると考えられる。
【0073】
アルジロダイト結晶構造の(311)面結晶ピークの半値幅は、実施例では0.06°から0.08°の範囲であった。一方、比較例2では0.08°であった。添加量がy=0.025を満たす実施例2では、半値幅が小さい。小さい半値幅は大きい結晶子サイズに対応し、イオン伝導率の増大に寄与すると考えられる。
【0074】
(イオン伝導率)
イオン伝導率の測定結果を表1に示す。また、硫化物系固体電解質の組成Li5.4-2yPS4.4Cl1.0Br0.6における第12族元素Mの添加量yを横軸とし、25℃、常圧で測定したイオン伝導率を縦軸としたグラフを図3に示す。図3の各点は、第12族元素MとしてZnをドープした実施例1から6及び比較例1並びに第12族元素Mをドープしない比較例2(図中の「未ドープ」に対応)に対応する。
【0075】
図3及び表1からわかるように、実施例1から6においては、イオン伝導率が1.69mS/cmから12.98mS/cmの範囲であった。第12族元素MであるZnの添加量y=0.025である実施例2では、イオン伝導率が最も高い値を示し、12.98mS/cmであった。一方、第12族元素MであるZnの添加量y=0.45である比較例1では、イオン伝導率が0.0000270mS/cmであった。このように、各実施例のイオン伝導率を比較例1のイオン伝導率よりも高めることができた。比較例1では第12族元素MであるZnの添加量yが多すぎるので、アルジロダイト型結晶構造の結晶化度が低下し、イオン伝導率が低下したと考えられる。第12族元素Mが添加されていない比較例2では、イオン伝導率が10.70mS/cmであった。また、第12族元素Mが添加されず、Sn元素が添加された比較例3の場合、イオン伝導率が0.81mS/cmであった。
【0076】
また、図3及び表1からわかるように、第12族元素MであるZnの添加量y=0.025(実施例2)の場合、隣接するy=0.0125(実施例1)及びy=0.05(実施例3)の場合と比較して、イオン伝導率が増加している。図1のXRDパターンを参照すると、実施例2では不純物相はほとんど観測されていないのに対して、実施例1及び3では微量の不純物相(未知相)が観測されている。そのため、このイオン伝導率の増加は、硫化物系固体電解質中に存在する不純物の減少によりアルジロダイト型結晶構造の結晶化度が増加したことに起因すると考えられる。このように、硫化物系固体電解質のイオン伝導率を高めるためには、アルジロダイト相以外の不純物相を含まないこと、つまりアルジロダイト型結晶構造の高い結晶化度が好ましい。
【0077】
第12族元素MであるZnの添加量y<0.075である実施例1から3において、比較例2よりも高いイオン伝導率を示した。上記XRDの結果から、比較例2は実施例1及び3よりもアルジロダイト型結晶構造の結晶化度が高いと考えられるが、実際には、相対的に低い結晶化度を有する実施例1及び3のイオン伝導率が、相対的に高い結晶化度を有する比較例2のイオン伝導率よりも高い。そのため、アルジロダイト型結晶構造の結晶化度だけでなく、第12族元素Mの存在もまた、イオン伝導率に影響することがわかる。
【0078】
図3及び表1に示されるように、第12族元素MであるZnの添加量yが0.45未満の場合、イオン伝導率は1.5mS/cmより大きかった。第12族元素MであるZnの添加量yが0.20未満の場合、イオン伝導率は8mS/cmより大きかった。第12族元素MであるZnの添加量yが0.075未満の場合、イオン伝導率は12mS/cmより大きかった。第12族元素MであるZnの添加量yが0.075未満の場合は、第12族元素であるZnを添加しない比較例2のイオン伝導率10.70mS/cmよりも高いイオン伝導率を示した。第12族元素Mではなく、Sn元素が添加された比較例3のイオン伝導率は0.81mS/cmであり、実施例に比べて著しく低いイオン伝導率を示した。
【0079】
(電池特性)
実施例2の硫化物系固体電解質を全固体電池に用いた場合、硫化物系固体電解質は負極材料としてのリチウム金属に対して安定性が高く、全固体電池は優れた充放電特性及び容量特性を示した。第12族元素であるZnを添加しない比較例2の硫化物系固体電解質を全固体電池に用いた場合の全固体電池容量に対する、実施例2の固体電解質を全固体電池に用いた場合の全固体電池容量の初期放電容量相対比率は、106%であった。すなわち、高いイオン伝導率を有する実施例2の固体電解質を全固体電池に用いることにより、全固体電池の初期放電容量を向上させることが出来た。
【0080】
以上、本発明は限定された実施例と図面によって説明されたが、本発明はこれに限定されず、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者によって本発明の技術的思想と添付の特許請求の範囲の均等範囲内で多様な修正及び変形可能であることは勿論である。
図1
図2
図3