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特開2023-181179より硬度の低い構成部品に対して摺動する、アモルファス炭素の層で被覆された機械部品
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  • 特開-より硬度の低い構成部品に対して摺動する、アモルファス炭素の層で被覆された機械部品 図1
  • 特開-より硬度の低い構成部品に対して摺動する、アモルファス炭素の層で被覆された機械部品 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181179
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】より硬度の低い構成部品に対して摺動する、アモルファス炭素の層で被覆された機械部品
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20231214BHJP
   F16J 1/16 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C23C14/06 F
F16J1/16
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023171157
(22)【出願日】2023-10-02
(62)【分割の表示】P 2021147645の分割
【原出願日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】1357359
(32)【優先日】2013-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】592055130
【氏名又は名称】イドロメカニーク エ フロットマン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【弁理士】
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】エオー クリストフ
(57)【要約】
【課題】アモルファス炭素被覆(少なくとも70質量%の水素を含まない炭素を含む)を備え、しかも最大で該被覆の表面硬さの2/3である表面硬さを持つ対抗部品と摺動的に協働させるのに使用される機械部品を提供する。
【解決手段】該機械部品は、該被覆が、最大0.050μmに等しい形状測定法により測定された粗さRa、および0.004μmという最小値および0.009μmという最大値に等しい原子間力顕微鏡法によって測定された微小粗さを持つようなものである。これは、より硬さの低い該対抗部品の磨耗および該被覆の磨耗を最小化する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス炭素(水素を除いて、少なくとも70原子%の炭素を含む)の被覆を備え、かつ表面の硬さが該被覆の硬さの高くても2/3である対抗部品と摺動的に協働するように構成された機械部品であって、該被覆が、高くとも0.050μmに等しい、形状測定法で測定された粗さRa、及び少なくとも0.004μmに等しくかつ高くても0.009μmの、原子間力顕微鏡法によって測定された微小粗さを有する、機械部品。
【請求項2】
前記形状測定法により測定された粗さが、高くとも0.046μmに等しく、かつ前記原子間力顕微鏡法による微小粗さが、0.004~0.0075μmの範囲に含まれる、請求項1に記載の部品。
【請求項3】
前記形状測定法により測定された粗さが、0.025μmを超える、請求項1又は請求項2に記載の部品。
【請求項4】
前記被覆が、ERDA技術によって測定された、20±5原子%の量で水素を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の部品。
【請求項5】
水素化されている前記アモルファス炭素被覆の下に、厚くても1μmのCrN層を含む、請求項1~4の何れか1項に記載の部品。
【請求項6】
前記部品の表面から多くても1μmに渡り、少なくとも2μmのフィルムとして、タングステンドーピングを含む、請求項1~4の何れか1項に記載の部品。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の部品及び表面硬さが前記被覆の硬さの高くても2/3である対抗部品を含む、一対の摺動的に協働する部品。
【請求項8】
前記対抗部品が銅合金製である、請求項7に記載の一対の部品。
【請求項9】
前記対抗部品がアルミニウム合金である、請求項7に記載の一対の部品。
【請求項10】
前記対抗部品がスズ合金製である、請求項7に記載の一対の部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、より軟質の材料製の構成部品に対して、高い負荷の下で摺動するように構成された機械部品の処理に関する。本発明は、特に燃焼機関内のピストンピンの処理を対象とするが、これに限られるものではない。というのは、これら構成部品はアモルファス炭素の硬質被覆(「DLC型」という表示にしばしば直面する(DLCはダイヤモンド-状炭素を表す);これらの概念は以下において詳述される)を受入れており、また比較的軟質の材料、例えば青銅、あるいは例えばアルミニウム合金(上記のようなピンが通されるリング、あるいはこのようなピンを支えるピストン本体の何れか)と擦れ合うからである。しかし、本発明は、より一般的には、顕著な磨耗を誘発する傾向を持つことが知られている、負荷および速度に係る状態を含む摩擦学的用途における、摺動を通してより低い硬さを持つもう一つの構成部品と協働するように構成された、殆どの場合金属製の、機械的構成部品の場合を対象としている。
【背景技術】
【0002】
技術状勢および技術的問題
特にアモルファス炭素の被覆によるピストンピンの処理は、当業者には公知である。この種の被覆を適用することの利点は、しばしば青銅またはアルミニウムから製造される対抗構成部品(counterbody components)に対する該ピストンピンのドラッギングを制することである。
これについては、文献DE-10 2011 102 209、文献WO-2009/144076、または例えばI. Etsion, G. HalperinおよびE. Becherによる「ピストンピンの耐スカッフ性に及ぼす様々な表面処理の効果(The effect of various surface treatments on piston pin scuffing resistance)」と題する文献: Wear 261 (2006) pp785-791を参照することができ、最後の文献は以下のアドレスにおいて見出すことができる:
[http://www.technion.ac.il/~merei02/public/2_The%20effect%20of%20various%20surface%20treatments%20on%20piston%20pin.pdf]
このような耐ドラッギング性被覆の適用が、これら構成部品間に存在する接触圧の次第に大きくなる増加のために必要となってきた。この接触圧の増加は、これ等部品の質量および慣性に起因するエネルギー損失を減じる目的で、該部品の寸法を減少させ続けようとする傾向に起因する。
【0003】
当業者により、摺動/摩擦によって相互に協働する一対の構成部品内で、最小の硬さを持つ該構成部品の磨耗が、最大の硬さを持つ該構成部品の表面の粗さと共に減少するものと、一般的に考えられている。ピストンピンの場合には、従って青銅またはアルミニウム製構成部品の磨耗が、アモルファス炭素層で被覆された対抗構成部品の粗さと共に減少するものと通常考えられており、これが、該青銅部品または該アルミニウム部品の磨耗を制限するために、堆積に先立ってピストンピンの表面状態を通して、特別な注意を該ピストンピンに対して払う理由である。それにも拘らず、堆積に先立つ粗さの最小化は十分ではなく、またしばしば該被覆された部品の粗さの低減に向けられる、最終処理操作により補完されなければならず、このような最終処理は、ブラシ掛け(当業者には公知の手順に従って)からなるものであり得る。
しかし、一定の条件においては上記青銅部品も上記アルミニウム部品も摩耗せず、一方で上記アモルファス炭素被覆の磨耗は、かかるアモルファス炭素被覆の高い硬さにも拘らず、異常に大きくなることが分かっている。即ち、同一の機械的諸特性および粗さに係る特性(この用語の巨視的な意味において;以下を参照のこと)を持つ2つの被覆は、全体として異なるように振舞うことができる。一つの場合においては、上記対抗部品(より低い硬さを持つ、あるいは「軟質の」材料)に係る高い磨耗、および該被覆に係る極端に低い磨耗を確認することができるが、もう一つの場合において、該軟質の材料は、理由は知られていないが、該被覆の高い磨耗との組合せでの最小の磨耗により特徴付けられる。
【0004】
上記システムの適切な操作のために、その2つの対抗部品各々は、該構成部品に対して長い寿命を保証するために、最小の磨耗を示す必要がある。
従って、実質的により低い硬さ(例えば、上記被覆の硬さの2/3未満)を持つ対抗部品との組合せで、これら2つの部品の何れもが、使用に際して高い磨耗を示さないことを保証するように、アモルファス炭素被覆(水素を除いて、少なくとも70原子%、あるいは更に少なくとも90原子%の炭素)を備えた部品を製造し、かつ特徴付けることができなければならない。
【発明の概要】
【0005】
上記技術的問題に対する解
本質的に炭素により構成され(水素の量を除外して、70原子%を超える量にて)、アモルファス炭素でできた硬質の薄層で被覆された部品の磨耗の制御を可能とするために、本発明は、巨視的規模(従来の測定法)での、および微視的規模(原子間力顕微鏡法により、実際には、100μm2未満の領域に渡る)での、その粗さに関する条件を教示するものであり、ここで該硬質の被覆は、より軟質の材料、即ちその硬さが該被覆の硬さよりも1.5倍を超えて低い材料と擦れ合うようになっている。
より具体的には、本発明は、アモルファス炭素(少なくとも70原子%の炭素)でできた被覆を備え、かつ表面の硬さが高くても該被覆の2/3である対抗部品と摺動的に協働するようになっている部品を提供するものであり、該被覆は、高くとも0.050μmに等しい、形状測定法で測定された粗さRaおよび少なくとも0.004μmに等しくかつ高くても0.009μmに等しい、原子間力顕微鏡法によって測定された微小粗さを持つ。
ここで、上記粗さRaは、この被覆を有する上記部品の粗さであるものと理解すべきである。
実際のところ、2つの異なる技術を利用して測定された粗さに関するこれ等範囲に従うことにより、より一層低い硬さの上記対抗部品に係る高い磨耗をもたらすことなしに、上記摩擦表面間に挿入される如何なる潤滑剤の特別な特性にも関係なしに、かかる被覆部品の穏やかな磨耗がもたらされることが明らかとなっている。
粗さ(相加平均によって)に関するこれら2つの概念を識別するために、「粗さ」との用語を以下に保留しておき(これについては従来の手段により測定される)および「微小粗さ(micro-roughness)」という表現を、原子間力顕微鏡法を用いて測定される粗さに対して使用する。
【0006】
従来の粗さを測定するための手段は、点のサイズ(これは典型的に2μmの局所的半径(local radius)を持つ)によって、分解能において制限されており、原子間力顕微鏡法AFMにおいて使用される該点は、数桁小さく(これは、典型的に0.01μmまたはことによるとそれ未満の局所的半径を持つ)、従って該AFM点は、従来の手段が検出し得る細部よりも一層小さな細部をも確認することを可能とする。
DLC(ダイヤモンド-状炭素)のフィルムで被覆された部品の粗さに係る最大値および最小値を設定する原理は、既にWO-2012/073717において提案されており、DLCの被覆がそこにおいて推奨されており、これは4.5原子%~30原子%の水素を含み、また二乗平均平方根粗さは5nmと25nm(即ち、0.005と0.025μm)との間にあるが、最小閾値の存在は、該DLC層のおよび対抗部品の磨耗を最小化する意図とは決して関係していないが、使用される特定の潤滑剤(この潤滑剤は、モリブデンベースの化合物および亜鉛および硫黄に係る添加剤を含み、また該文献内でなされた説明は、MoS2形成の保証を求めている)において与えられた添加剤の作用を可能とする反応に対して必要とされるエネルギーを発生するのに十分なレベルの摩擦を確保すべきことが提案されており、事実この文献は、両部品が同等な材料製であることを推奨しており、従ってそれらの間に硬さにおける大きな差異はなく、またそれらの間に本発明の根底における技術的な問題は生じ得ない。如何なる場合でも、該文献は、原子間力顕微鏡法技術により該粗さを測定する利点も、何にもまして従来法(形状測定法)および極めて特殊な技術により測定された該粗さに関して、閾値を設定する利点をも開示していない。考察が、単に従来の測定法による粗さ(二乗平均平方根粗さにより、およびRAではなく相加平均による粗さ)に限定された場合には、この文献が、本発明の最大値よりも著しく小さな最大値(相加平均によるRa)を教示していることに注目すべきであり、これは、恐らく本発明のAFM微小粗さ範囲とは矛盾するであろう。換言すれば、本発明は、この文献の測定値よりも大きな従来の測定値によって、暗黙裡に粗さの範囲を教示している。
【0007】
好ましくは(必ずしもそうではないが)、形状測定法によって測定されたこの粗さの値Raは、0.020μmあるいは更に0.025μmという閾値よりも大きい。ここで、これが、被覆する前の表面の粗さとは異なっていてもよい該被覆の粗さであることに注意すべきである。
好ましくは、該形状測定法によって測定された粗さは、高くても0.046μmに等しく、また原子間力顕微鏡法による上記微小粗さは0.004~0.0075μmの範囲にあり、このような制限された範囲は、上記2つの対抗部品の磨耗に対して、依然一層良好に低レベルを確保し得るものと思われるであろうが、本発明が、これら2つの部品の磨耗を穏やかなものとするのに必要かつ十分な条件を明らかにすることを意図しているのではないことに注意すべきであり、単にこのような結果を得るのに十分な条件の提供を意図しているに過ぎない。
組合せることのできる、本発明の好ましい特徴に従えば、以下の通りである:
・上記被覆は、ERDA技術に従って測定された、20±5原子%の量で水素を含み;
・上記部品は、水素化されている、アモルファス炭素からなる被覆の下に、厚くても1μmのCrN層を含み;
・該被覆は、該部品の表面から大きくても1μmに渡る、少なくとも2μmのフィルムとしてタングステンドーピングを含む。
本発明は、更に摺動的に協働する部品の対をも提供し、該対は、上記型の一部品および表面硬さが上記被覆の表面硬さの、大きくても2/3である対抗部品を含む。
例として、この対抗部品は、銅-含有合金、例えば青銅から製造することができ、一変形として、これはアルミニウム合金、例えばAlSnから製造することができる。また、これはスズ合金であるということもできる。このような対抗部品は、その表面のみをこのような材料で形成することも可能である。
本発明の目的、特徴および利点は、添付図面を参照しつつ、実例となる非限定的実施例によって与えられる、以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、被覆された部品の様々な例に係る粗さと、該部品の磨耗および青銅製対抗部品の磨耗とを関連付ける図である。
図2図2は、被覆された部品の様々な例に係る微小粗さと、該部品の磨耗および青銅製対抗部品の磨耗とを関連付ける図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
少なくとも一つの態様に関する詳細な説明
エンジン内のピストンスピンドル(またはピン)の作動条件をシミュレートした条件において、青銅製(または更にはアルミニウム製)の対抗部品と協働するように適合させ、アモルファス炭素のフィルムで被覆された、金属部品、実際にはスチール製の部品に関する考察が以下に与えられ、これは該スピンドルのクランクシャフトに対する継手または該スピンドルの該ピストン自体に対する継手であり得る。
CrN被覆を備えた例は、比較のためのアイテムとして役立つ。
粗さRaの従来の測定は、通常の方法に基いて、上記硬質層で被覆されたピンに係る、上記対抗部品(特に、青銅またはアルミニウム)の磨耗を制限するのに要求される必要なレベルの規定を可能とする。それにも拘らず、与えられた被覆に対して、該被覆された部品の従来の特徴付けは、該被覆が摩耗するか否かの決定を可能とするものではない。同一の粗さRa(従来法で測定された)および硬さの値に対して、見掛け上同様な2つの被覆の一方が全く磨耗を被らず、かつ逆にその他方は、今のところ理解される理由なしに(これは、単純に該対抗部品に係る硬さ間の比が高いことに起因する擦り減りではあり得ない)、過度の磨耗を受ける可能性がある。本発明の一局面によれば、原子間力顕微鏡(即ち、AFM)技術による部品表面の検査は、該被覆された部品が2つの対抗部品の磨耗を最小化しなければならない、理想的なトポグラフィーの決定を可能とするのに寄与する。
【0010】
以下の実施例において、初期には同等な(唯一の差異は、製作公差内にある)ピストンピンを、夫々窒化クロムCrNおよび様々な型のアモルファス炭素をベースとする材料の堆積物で被覆した。一般に、略語DLCが、あらゆる形態のアモルファス炭素に対する同義語として極めて頻繁に使用されており、事実、該略語DLC(「ダイヤモンド-状炭素(Diamond Like Carbon)」)は、ダイヤモンドにおける如くハイブリダイゼーションを呈する炭素原子を含む炭素を表し、またこの形態のアモルファス炭素に対して確保されるべきである。以下において、これら略名は、アモルファス炭素が水素化されたアモルファス炭素、水素化されていないアモルファス炭素(これに対する該略語DLCは、全く正しいものと思われるであろう)、あるいはタングステンをドープしたアモルファス炭素の何れであれ、簡略化の理由から、これら様々な形態にあるアモルファス炭素に対してこの略語DLCを採用するであろう。
上記ピストンピンは、被覆前には、0.025μmという粗さ測定値Raおよび0.040μmという粗さ測定値Rpkによって特徴付けられた。粗さ測定値Rpkは、これら例の特徴付けを完成するために、該粗さ測定値を補足するものとしてここに与えられる。前述のとおり、堆積されるであろう上記被覆は、特にこれら被覆を形成するための方法に従って、極めて異なる粗さを持つことができる。
以下において、上記硬さ測定値Hvは、圧入深さが、上記堆積物の厚みの1/10程度となるように、上記被覆の厚みおよびその硬さに適合させた、10~30mNの負荷に相当し、従って該硬さの測定は、有意な様式で基材の硬さを組込むものではない。
【0011】
上記CrNの層は、マグネトロンスパッタリングにより製造されたが、これについては、この型の堆積物が、通常は準化学量論的な層を生じることに注意すべきである。その窒素含有率は40±5原子%にある。これらのCrN堆積物は、実際には1,800±200Hvというビッカース硬さによって特徴付けられる。堆積物の2つの厚み、1μmおよび2μmが検討されており、それ故夫々をCrN1およびCrN2と称する。
上記水素化されたアモルファス炭素の堆積物は、従来はアルゴン中での化学蒸着(CVD)法により製造され、好ましくは該蒸着技術はCVDの特別な一形態、即ちプラズマ支援CVD(PACVD)またはプラズマ増強(Plasma Enhanced)CVD(PECVD)である。これらの層は、3,000±400Hvという硬さによって特徴付けられ、これは20±5原子%というERDAにより測定された水素含有率に相当する。これらの層は、2つの可能な厚みを持つCrNのサブレイヤー(sub-layer)上に厚み2μmにて堆積された:
・0.8μmのCrN、これに続く2.0μmの水素化されたアモルファス炭素からなる二重堆積物が、ここにおいてDLC1と呼ばれる;
・1.5μmのCrN、これに続く2.0μmの水素化されたアモルファス炭素からなる二重堆積物が、ここにおいてDLC2と呼ばれる。
上記参照記号DLC1に係る変形として、水素化されたアモルファス炭素からなるもう一つの堆積物を、CrNの堆積条件を変更することにより、特にアルゴンの全圧力を高めることによって形成した。この堆積物を、以下においてはDLC3と呼ぶ。
【0012】
水素化されていないアモルファス炭素の被覆は、陰極アーク蒸着技術によって製造される。その硬さは、4,500Hvにあるものと測定された。これは単一の厚みにて、即ち1μmにて検討され、そのようにして得られた該被覆を、以下においてDLC4と名付ける。該水素化されていないアモルファス炭素の堆積物、DLC(またはtaC)は、PVD技術(グラファイトの陰極アーク蒸着)によって形成される。
最後に、タングステンをドープし、水素化されたアモルファス炭素の堆積物は、炭化タングステンターゲットを用い、炭化水素分圧を持つ雰囲気内で、マグネトロン陰極スパッタリングによって製造した。この堆積物は、1,400Hvの硬さおよび10原子%のW含有率(水素を除外する)によって特徴付けられる。これは、炭素で被覆されたWCのサブレイヤーから形成されたものとして分析でき(90%に達するまで、段階的に高まる炭素含有率を持つ)、ここで考察される該被覆は、2.5μmという全厚みに対して、厚み0.6μmを持つWCの層(これは炭素において段階的に富化される)で構成され、この被覆は以下においてDLC5と呼ばれる。
上述の硬さは、上記被覆の薄い厚みにも拘らず、事実上該被覆の硬さであって、下層材料の硬さではないことを思い起こすべきである(上記記載参照)。
【0013】
上記アモルファス炭素の被覆は、とりわけこれらが水素化されていない場合(一般に、100%の炭素で形成されている;DLCの場合)には、タングステンをドープし水素化されたアモルファス炭素からなる被覆を除いて、CrN製の被覆よりも著しく硬く、従って該アモルファス炭素(水素化されたまたは水素化されていない、タングステンでドーピングされていない)製の被覆は、通常、該CrN製の被覆よりも高い、特に磨滅による磨耗に対する抵抗性を持つ。
最後に、これらの被覆はそれ自体公知の手順に従って、より高い強さまたはより低い強さのブラシ掛けからなる最終段階を経るか、あるいはこれを経ることはなかった。
上記ブラシ掛けは、以下の表に示されているように、2つの主な量、即ち該ブラシの支持圧および該ブラシの通過回数により特徴付けされた。
【0014】
【0015】
このようなブラシ掛けは、上記層の堆積操作において形成される恐れがあり、また上記対抗部品の磨耗を悪化させやすい尖端部を構成する、ヤスリと同様な突出物の排除を可能とする。これらの突起物は極めて低い機械的強度を持つが、このことはこれら突起物が最小限のブラシ掛け後に排除されることを意味する。より高強度でのブラシ掛けの結果は、該堆積物の表面を研磨することになる。
全てのこれ等部品は、形状測定法のみならず、5×5 μmの像を生成する、原子間力顕微鏡法「AFM」を利用する微小粗さによって、粗さの特徴付けを受けた。換言すれば、これら様々な部品は、粗さ計(1μmの1/10の尺度にて)を用いる、粗さの(従来の)巨視的測定およびAFM(10nmの尺度にて)によるナノメートル尺度での測定の対象であり、上述の如く、後者の粗さは、巨視的粗さに対してこれを識別するように、「微小粗さ(micro-roughness)」と呼ばれる。
これら全ての部品を、最後に、上記被覆部品の磨耗のみならず、ここにおいて軟質のものとして定性化された金属(即ち、その硬さが、検討している該被覆の硬さの高くても2/3である)で製造された上記対抗部品の磨耗をも定量化するために、摩擦学的用語により特徴付けした。
以下の実施例において、上記軟質金属は径10mmを持つ青銅製シリンダであり、その0.3μmというRaは、実際の部品を代表するものである。摩擦テストは、交差軸型の配置で実施され、相対的な運動は、上記ピストンピン上の細溝に平行な方向で引起され、かつ接触点は10mmの行程に渡って、該青銅製のピンの母線上を移動させた。印加された負荷は11.6Nであった。平均摺動速度は、偏心系によって与えられる交互運動において、100mm/秒であった。テストに先立って、該接触点を、SAE5W30オイル1滴により湿潤させた。この系を、110℃に加熱した。
【0016】
9,000回のテストサイクル後に、上記磨耗を、上記摺動ゾーンの寸法測定により特徴付けた。上記青銅製ピンについて、該測定をその摩擦跡の幅に沿って行った。上記被覆された部品に対して、該磨耗測定は摩擦の方向において行った。該青銅部品上の接触点の初期の幅が、320μmであることを確認した。従って、該青銅部品上の320μm~340μm程度の摩擦跡の寸法は、該青銅部品の低い磨耗または磨耗の不在を意味している。同様に、該摩擦の方向における該被覆されたピン上の初期表面積の寸法は、240μmであった。従って、260μmまでの寸法は、該被覆に係る低い磨耗を示す。該被覆は実質的にその対抗部品よりも硬いので、これらの磨耗は、磨滅に対応するものではあり得ないことに注目すべきである。
以下の表は、上記被覆の様々な特徴を関連付けている。磨耗測定値は、特に測定の不確実性のために、以下に述べられる初期測定値よりも低い値に相当する可能性があり(事実、テストサンプルは、シリンダであり、その粗さおよび幾何形状は、上記接触点の寸法を計算するために使用される諸特性程に理想的ではない)、実際の幾何形状および実際のトポグラフィーの効果は、理論的には楕円に相当する上記初期領域が、僅かに240μmに満たない可能性があることにあるかもしれない。
【0017】
【0018】
これらの結果は、更に図1のグラフ(半径2μmのプローブを持つ粗さ計による粗さ測定値Ra)および図2のグラフ(簡単化のためにμRaで示される、AFM微小粗さ)に示されている:・正方形は、DLC被覆に面している青銅製部品に関する、μmで表した磨耗(左目盛)の例を表し;
・菱形は、該DLC被覆に関する磨耗例(右目盛り)を表し;
・三角形は、CrN被覆と面している青銅製部品に関する磨耗(左目盛)の例を表し;および・十字記号は、該CrN被覆に関する磨耗(右目盛)の例を表す。
上記粗さ測定値に係る2つの目盛は、正確に同一の情報を与えるものではないものと推測することができる:該巨視的な粗さの殆どは、該被覆を堆積する前の該部品の機械加工に起因し、一方微小粗さは、主として、上記機械加工に関連する低い発生率と共に該被覆の成長を特徴付けている。
図1に示した図表において、従来技術から知られる一つの結果を見出すことができ、即ち上記青銅部品に係る磨耗は、従来法で測定された場合には、上記対抗部品に係る粗さと関連している。上記被覆された部品の粗さにおける低下は、当然、より軟質の該対抗部品の磨耗における低下を引起す。
しかし、図1のこの図表は、推測し得ることとは逆に、上記DLC被覆の性質がこれらを摩耗しやすくすることはないとしても(これらは上記青銅製部品よりも硬質である)、該被覆が、高い磨耗を被る恐れがあることを示している。その上、該被覆の磨耗は、その粗さとは関係していない。事実、上記CrN被覆に関しては、磨耗が観測され、このことは、該被覆の粗さには依存していないように思われ、一方該DLC被覆に関しては、負の相関さえも読み取ることができ、即ち該磨耗は、その粗さが低い場合には、より一層大きくなるものと思われる。
【0019】
同様な解説を、図2の図表に関しても行うことができ、上記青銅製部品の磨耗が、殆どAFM粗さに比例している(その平均値は、極めて低いAFM粗さの値に関して横軸と交差している)ことが注目される。アモルファス炭素で被覆された該部品の磨耗に関連して、このことは、このAFM粗さが0.0050μm程度を超える限りにおいて妥当性を保っているものと思われる(該CrNの被覆に関しては、その磨耗はあらゆる場合において低く保たれている)。
換言すれば、これらの粗さおよび微小粗さの測定値は、該被覆された部品の粗さと微小粗さとの間に反比例の関係があり、また、対抗部品に面するその磨耗は、容易により硬質ではなくなる(またはより軟質)恐れがあることを示す。その理由は、これが上記アモルファス炭素の最も平滑な層であり、該層が最大の磨耗を示すことが明らかであるからである。
より詳しくは、水素化されたアモルファス炭素の層(DLC1~DLC3)に含まれるもの:
【0020】
・上記青銅製対抗部品の磨耗に関する例は、上記被覆がブラシ掛けされた場合には著しく低下する(測定の不確実性を許容した上で、実施例3と6との間に重大な差異が存在しないことにも気付くことができる);
・該青銅製対抗部品の磨耗は、該ブラシ掛けの改善を伴って、段階的に減少(または増大さえも)することはない(DLC1sを参照のこと);
・該被覆の粗さRaは、ブラシ掛けを実施した場合には低下するが、長期間に及ぶブラシ掛けは、必ずしもこの減少に対して好ましい効果を持たない;
・しかし、該被覆のAFM微小粗さは、ブラシ掛けを実施した場合には低下し、かつ該ブラシ掛けの継続に伴って段階的に更に低下し、最小の微小粗さがDLC1s(最も薄いCrNのサブレイヤーを持つ)について観測される;
・ブラシ掛けは、該被覆の磨耗における減少に導くことはなく(DLC2、DLC3);小さな減少がDLC1との関連で認められる場合には、ブラシ掛けの延長は、その磨耗の促進さえをも結果する;
・長期のブラシ掛けを受けたこれ等DLC1sに関する以外、該被覆の磨耗は中程度に留まり(260μm以下);
・下部のCrN層における増加は、上記青銅製部品の磨耗に対して好ましい効果を示さず、逆に厚み僅かに0.8μmの下部層を持つ上記DLC1被覆のみが、ブラシ掛けされていないか、または殆どブラシ掛けされていない状態において中程度の磨耗を示し;
・該被覆の堆積中のアルゴン圧における増加は、目に見える正の効果を示すことはない(DLC2sとDLC3sとを比較せよ)。
【0021】
水素化されていないDLCs(DLC4)に関して:
・上記被覆のブラシ掛けは、上記青銅製対抗部品の磨耗の妥当なレベルを維持するためには必要であるが、該被覆の磨耗に対しては有害であり;
・穏やかなブラシ掛けが、許容し得る妥協点へと導く可能性があるものと考えることができる。
最後に、タングステンを含む上記DLCsに関連して:
・ブラシ掛けは、上記青銅製対抗部品の磨耗に対して正の効果を持つものと思われるが、その磨耗は、このようなブラシ掛けがない場合においてさえ、中程度のままであり;
・しかし、該ブラシ掛けの該対抗部品に対する正の効果は、該被覆の磨耗に対しては有害であるものと思われる。
ブラシ掛けしたという事実は、上記被覆の成長欠陥を排除するために、ピストンピンの製造業者らの仕様書によって与えられる操作であることに気付くかもしれないが、これらの極めて低い密度を仮定すれば(上記水素化されていないアモルファス炭素堆積物を除いて;この堆積物は、その製造技術の特殊性によれば、極めて大量の成長欠陥を持つ可能性がある)、これら欠陥が上記の磨耗現象に対して有意な影響を持ち得ることは、疑わしいものと思われる。
実施例1および7~9が、当業者にとって公知の状況に一致する場合であり、即ち上記青銅製対抗部品の高い磨耗が、たとえその粗さと磨耗との間に真の比例関係が存在しなくても(実施例1は、実施例7よりも粗いが、より低い磨耗へと導き;該粗さは、実際に唯一の関連するパラメータではない)、上記した最も粗い被覆サンプル(0.050±0.001μmを超える粗さRa)について見出されることに注目することができる。これらの実施例について見られる上記AFM微小粗さが、確認された最大の値の中に含まれる(0.0090を超える)ことに注目すべきである。
【0022】
実施例5、6、10および12に関連して、これらが上記被覆の高い磨耗値に相当するものでることを確認することができる。この結果は、当業者にとっては驚くべきことであると思われ、その理由は、これ等部品上の被覆が、その最も粗い対応する層に係る機械的または化学的特徴により区別されないからである。該被覆は上記青銅製対抗部品(実質上より軟質)よりも一層硬質であるが、強い磨耗が現れる。AFM技術による該粗さの検討は、数μm2のスケールにおいて、これらの層が、特別低いRa(0.004μm未満)によって他の層から識別されることを明らかにする。
実施例11が、示された閾値よりも僅かに大きく、また境界線であると考えることのできる、上記青銅製部品に関する磨耗に相当することを認めることができる。
このことは以下のような考察へと導く。即ち、アモルファス炭素の被覆(少なくとも70原子%の炭素)が、0.004μmよりも大きいが、0.009μm未満のAFMによる微小粗さRaを持つこととの組合せで、大きくても0.050μmに等しい粗さRaを持つ場合、該被覆および上記青銅製対抗部品(これは、該被覆よりも硬さにおいて実質的に低いが)の低い磨耗の組合せがある。
事実、実施例のみが、相互に摩擦する部品両者を低い磨耗へと導く、上述の二重の条件を満足する。
上記被覆の粗さが以下のような場合には、上記磨耗の例が、全てより低くなることは明らかであろう:
・該粗さが、従来の測定法によれば大きくても0.046μmに等しく;および
・AFMによれば、0.004~0.0075の範囲にある。
【0023】
このように確認された良好な実施例が、ブラシ掛けされておらず、または殆どブラシ掛けされておらず、CrN(見掛け上は1μ以下)またはタングステンをドープし水素化されたアモルファス炭素(見掛け上は、同様に1μm以下)の下部層をもつ、水素化されたアモルファス炭素(好ましくはある水素含有率を持つ)による被覆に相当することを強調すべきである。水素化されていないアモルファス炭素に関連して、穏やかなブラシ掛けは、上記条件の達成およびそれ故の穏やかな相互の磨耗へと導くものと思われる。
更に、上記記載から、アモルファス炭素をベースとする硬質層(水素を除外して、70原子%を超える)を含む実施例1~12が、CrN被覆を用いて得られる実施例13~15とは異なる結論に導くことから、上記被覆の性質が決め手となるものと判断される。特に、該アモルファス炭素の層に関連して、該CrN堆積物は、該被覆された部品の粗さが増大する場合、上記青銅製部品の高い磨耗へと導き、一方低いまたは極めて低い粗さにおいて、該CrN層は摩耗せず、また該青銅製対抗部品を摩耗することもない。これらの結果は、該アモルファス炭素被覆の磨耗現象が、機械的なものでも、研磨によるものでもないことを示しており、その理由は、これらの層がCrN層よりも硬質であり、あるいは該対抗部品に比して1.5倍をかなり超えて硬いからである。即ち、極めて低い粗さにおける該アモルファス炭素層のこの高い磨耗は、当業者にとって一般的かつ公知の現象ではない。問題としている該被覆が、主として炭素で構成されているので、このような解釈に執着しようとすることなしに、摩擦酸化(tribo-oxidation)型であり得るメカニズムが関与し、またそれ故に該炭素層の硬さによっては影響されないものと推測することができる。
【0024】
専ら耐摩耗性の観点から、CrNの極めて平滑な層は期待された機能を満たす。しかし、摩擦を減じようとの永続的な目的のために、上記アモルファス炭素の被覆は、CrNにとって好ましく、その理由は、これらがより低い摩擦係数を可能とすることにある。上で特定された粗さの範囲は、磨耗の妥当なレベルの確保を可能とする。
上記表において、タイトルがRPkとなっている一つの欄が、Raの欄およびμRa(AFM)の欄との間に位置していることを確認することができ、この欄は、粗さ測定の変法に従って得られた粗さを含む。該粗さを特徴付けるこの他の方法が、同様な結論に達することを可能とするものであることを確認することができる。
上記結論は、材料の他の対に対して一般化され、即ちより一般的には、上記対抗部品(上で規定された低い硬さを持つ)は、幾つかのまたはその他の銅合金、あるいは幾つかのまたはその他のアルミニウム合金製であり得、これは、特にピストンピンの場合であり得る。これはスズ合金、例えばAlSnであり得る(特に、一定のクランクシャフトベアリングまたはコネクティングロッドのヘッドにおいて使用される)。この対抗部品は、正にその表面においてのみ軟質材料製(かつ他の材料のコアを含む)であり得ることを理解することができる。
得るべき上記粗さおよび上記微小粗さを知って、堆積条件を調節することが、当業者の能力の範囲内にあることは、強調する価値がある。事実、一群の操作パラメータが、上記堆積物および更には上記PVDサブレイヤーの形態を変更するために、当業者にとっては入手可能であり、該PVD層は、一般的に円柱構造をとって成長し、該構造のサイズは、厚みに伴って増大し、これはその粗さに影響する。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-11-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス炭素(水素を除いて、少なくとも70原子%の炭素を含む)の被覆を備え、かつ表面の硬さが該被覆の硬さの高くても2/3である対抗部品と摺動的に協働するように構成された機械部品であって、該被覆が、0.025μmを超えかつ高くとも0.050μmに等しい、形状測定法で測定された粗さRa、及び少なくとも0.004μmに等しくかつ高くても0.009μmの、原子間力顕微鏡法によって測定された微小粗さを有し、前記アモルファス炭素が水素化されていない、機械部品。
【請求項2】
前記形状測定法により測定された粗さが、高くとも0.046μmに等しく、かつ前記原子間力顕微鏡法による微小粗さが、0.004~0.0075μmの範囲に含まれる、請求項1に記載の部品。
【請求項3】
前記被覆が、穏やかなブラシ掛けによりブラシ掛けされている、請求項1又は2に記載の部品。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の部品及び表面硬さが前記被覆の硬さの高くても2/3である対抗部品を含む、摩擦によって協働する一対の品。
【請求項5】
前記対抗部品が銅合金製である、請求項4に記載の一対の部品。
【請求項6】
前記対抗部品がアルミニウム合金である、請求項4に記載の一対の部品。
【請求項7】
前記対抗部品がスズ合金製である、請求項4に記載の一対の部品。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
専ら耐摩耗性の観点から、CrNの極めて平滑な層は期待された機能を満たす。しかし、摩擦を減じようとの永続的な目的のために、上記アモルファス炭素の被覆は、CrNにとって好ましく、その理由は、これらがより低い摩擦係数を可能とすることにある。上で特定された粗さの範囲は、磨耗の妥当なレベルの確保を可能とする。
上記表において、タイトルがRPkとなっている一つの欄が、Raの欄およびμRa(AFM)の欄との間に位置していることを確認することができ、この欄は、粗さ測定の変法に従って得られた粗さを含む。該粗さを特徴付けるこの他の方法が、同様な結論に達することを可能とするものであることを確認することができる。
上記結論は、材料の他の対に対して一般化され、即ちより一般的には、上記対抗部品(上で規定された低い硬さを持つ)は、幾つかのまたはその他の銅合金、あるいは幾つかのまたはその他のアルミニウム合金製であり得、これは、特にピストンピンの場合であり得る。これはスズ合金、例えばAlSnであり得る(特に、一定のクランクシャフトベアリングまたはコネクティングロッドのヘッドにおいて使用される)。この対抗部品は、正にその表面においてのみ軟質材料製(かつ他の材料のコアを含む)であり得ることを理解することができる。
得るべき上記粗さおよび上記微小粗さを知って、堆積条件を調節することが、当業者の能力の範囲内にあることは、強調する価値がある。事実、一群の操作パラメータが、上記堆積物および更には上記PVDサブレイヤーの形態を変更するために、当業者にとっては入手可能であり、該PVD層は、一般的に円柱構造をとって成長し、該構造のサイズは、厚みに伴って増大し、これはその粗さに影響する。
本発明の好ましい態様は、下記の通りである。
〔1〕アモルファス炭素(水素を除いて、少なくとも70原子%の炭素を含む)の被覆を備え、かつ表面の硬さが該被覆の硬さの高くても2/3である対抗部品と摺動的に協働するように構成された機械部品であって、該被覆が、高くとも0.050μmに等しい、形状測定法で測定された粗さRa、及び少なくとも0.004μmに等しくかつ高くても0.009μmの、原子間力顕微鏡法によって測定された微小粗さを有する、機械部品。
〔2〕前記形状測定法により測定された粗さが、高くとも0.046μmに等しく、かつ前記原子間力顕微鏡法による微小粗さが、0.004~0.0075μmの範囲に含まれる、前記〔1〕に記載の部品。
〔3〕前記形状測定法により測定された粗さが、0.025μmを超える、前記〔1〕又は前記〔2〕に記載の部品。
〔4〕前記被覆が、ERDA技術によって測定された、20±5原子%の量で水素を含む、前記〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載の部品。
〔5〕水素化されている前記アモルファス炭素被覆の下に、厚くても1μmのCrN層を含む、前記〔1〕~〔4〕の何れか1項に記載の部品。
〔6〕前記部品の表面から多くても1μmに渡り、少なくとも2μmのフィルムとして、タングステンドーピングを含む、前記〔1〕~〔4〕の何れか1項に記載の部品。
〔7〕前記〔1〕~〔6〕の何れか1項に記載の部品及び表面硬さが前記被覆の硬さの高くても2/3である対抗部品を含む、一対の摺動的に協働する部品。
〔8〕前記対抗部品が銅合金製である、前記〔7〕に記載の一対の部品。
〔9〕前記対抗部品がアルミニウム合金である、前記〔7〕に記載の一対の部品。
〔10〕前記対抗部品がスズ合金製である、前記〔7〕に記載の一対の部品。
【外国語明細書】