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▶ アレス トレーディング ソシエテ アノニムの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181184
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】種を同定するための新しい方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20231214BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20231214BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALN20231214BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20231214BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20231214BHJP
【FI】
C12Q1/04 ZNA
C12Q1/68
C12Q1/6888 Z
C12Q1/6869 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023171489
(22)【出願日】2023-10-02
(62)【分割の表示】P 2021526605の分割
【原出願日】2019-06-26
(31)【優先権主張番号】18206755.3
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】504104899
【氏名又は名称】アレス トレーディング ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】アレッシア バキマン
(72)【発明者】
【氏名】ファビオ ラ ネーベ
(57)【要約】
【課題】種を同定するための新しい方法の提供。
【解決手段】培養物における細胞の特定の細胞系統を同定するための方法であって、培養物における組換え細胞より単離された核酸分子から、前記核酸分子に含まれる少なくとも5個の遺伝子内の少なくとも5個の異なる位置における多型又はSNPの存在を決定するステップ;前記ステップの決定から遺伝的プロファイルを得るステップ;及び、前記遺伝的プロファイルから前記培養物における細胞の細胞系統を同定するステップ;を含み、前記組換え細胞が組換えタンパク質を産生する、方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養物における細胞の特定の細胞系統を同定するための方法であって、
1)培養物における組換え細胞より単離された核酸分子から、前記核酸分子に含まれる少なくとも5個の遺伝子内の少なくとも20個の異なる位置における多型又はSNPの存在を決定するステップ;
2)ステップ1)の決定から遺伝的プロファイルを得るステップ;及び、
3)前記遺伝的プロファイルから前記培養物における細胞の細胞系統を同定するステップ;を含み、
前記少なくとも5個の遺伝子が、アルゴノートRISC触媒成分1(Ago1)、チトクロームb(Cytb)、ヒストンデアセチラーゼ1(Hdac1)、セリン/アルギニンリッチスプライシング因子1(Srsf1)、及びトポイソメラーゼIIベータ(Top2b)であり、かつ前記組換え細胞が組換えタンパク質を産生する、方法。
【請求項2】
1)核酸分子に含まれる少なくとも5個の遺伝子内の少なくとも20個の異なる位置における多型又はSNPの存在を決定するために、培養物における組換え細胞より単離された前記核酸分子を分析するステップ;
2)ステップ1)の分析から遺伝的プロファイルを得るステップ;及び、
3)前記遺伝的プロファイルから前記培養物における組換え細胞の種を決定するステップ;を含む分析方法であって、
前記少なくとも5個の遺伝子が、アルゴノートRISC触媒成分1(Ago1)、チトクロームb(Cytb)、ヒストンデアセチラーゼ1(Hdac1)、セリン/アルギニンリッチスプライシング因子1(Srsf1)、及びトポイソメラーゼIIベータ(Top2b)であり、かつ前記組換え細胞が組換えタンパク質を産生する、分析方法。
【請求項3】
培養物における組換え細胞の細胞バンク特性決定のための方法であって、
1)培養物における組換え細胞より単離された核酸分子において、少なくとも5個の遺伝子内の少なくとも20個の異なる位置における多型又はSNPの存在を決定するステップ;
2)ステップ1)の検出から遺伝的プロファイルを得るステップ;及び、
3)前記遺伝的プロファイルから前記培養物における組換え細胞の細胞バンクの起源を特性決定するステップ;を含み、
前記少なくとも5個の遺伝子が、アルゴノートRISC触媒成分1(Ago1)、チトクロームb(Cytb)、ヒストンデアセチラーゼ1(Hdac1)、セリン/アルギニンリッチスプライシング因子1(Srsf1)、及びトポイソメラーゼIIベータ(Top2b)であり、かつ前記組換え細胞が組換えタンパク質を産生する、方法。
【請求項4】
前記遺伝的プロファイルが、前記培養物における組換え細胞の細胞系統、種及び/又は細胞バンクの起源と相関する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ3)が前記参照遺伝的プロファイルと遺伝的プロファイルを比較することによって行われ、該比較が前記培養物における組換え細胞の細胞系統、種、および/または細胞バンクの起源を示す、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも5つの遺伝子内の前記少なくとも20個の異なる位置における多型またはSNPの存在が、
1)培養物における細胞から組換え細胞の試料を単離するステップ;
2)ステップ1)で単離された細胞から核酸分子を単離するステップ;
3)特定のプライマー対を、対象となる前記少なくとも5個の遺伝子を含む核酸分子にハイブリダイズさせるステップ;
4)前記核酸分子を増幅して、増幅された核酸分子フラグメントを得るステップ;及び、
5)前記核酸分子フラグメントをシーケンシングするステップ;とを含む方法に従って決定される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記特定のプライマー対が前記核酸分子の両末端から各所与の核酸分子のシーケンシングを可能にするペアエンド配列を生成し、それによって、対象となる前記遺伝子の1つを表す各所与の核酸分子についてのリード対を生成する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記核酸のシーケンシングがサンガー法又は次世代シーケンシング(NGS)によって行われる、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記組換えタンパク質が、ヒト抗体またはその抗原結合部分、ヒト化抗体またはその抗原結合部分、キメラ抗体またはその抗原結合部分、組換え融合タンパク質、成長因子、ホルモン、またはサイトカインなどの、抗体またはその抗原結合フラグメントからなる群より選択される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
培養物における組換え細胞の遺伝的プロファイルを決定するための装置であって、
1)コンピュータ可読メモリ;2)前記細胞に含まれる少なくとも5個の遺伝子内の少なくとも20個の異なる位置における多型またはSNPに関して前記細胞から得られた遺伝子シーケンシングデータを分析するためにプロセッサ上で実行されるように適合された前記コンピュータ可読メモリ上に記憶されたコンピュータプログラムを含み;かつ、3)前記多型またはSNPに基づいた出力として遺伝子プロファイルを生成し、
前記少なくとも5個の遺伝子が、アルゴノートRISC触媒成分1(Ago1)、チトクロームb(Cytb)、ヒストンデアセチラーゼ1(Hdac1)、セリン/アルギニンリッチスプライシング因子1(Srsf1)、及びトポイソメラーゼIIベータ(Top2b)であり、かつ前記組換え細胞が組換えタンパク質を産生する、装置。
【請求項11】
前記コンピュータ可読メモリに記憶された参照遺伝的プロファイルと遺伝的プロファイルを比較するステップ4)を更に含み、該比較が前記培養物における組換え細胞の細胞系統、種、および/または細胞バンクの起源を示す、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記出力を表示するために前記プロセッサに動作可能に連結されたディスプレイをさらに備える、請求項10又は11に記載の装置を備えるシステム。
【請求項13】
前記プロセッサに動作可能に接続され、組換え細胞の遺伝的プロファイルに関する情報を記憶するように適合されたデータベースを更に含み、前記情報は、前記少なくとも5個の遺伝子内の前記少なくとも20個の異なる位置における多型またはSNPの同一性を含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記データベースが、前記遺伝的プロファイルの取得の結果として、培養物における前記組換え細胞の細胞系統、種、および/または細胞バンクの起源を更に含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
培養物における組換え細胞から単離された核酸分子に位置する少なくとも5個の遺伝子における少なくとも20個の多型またはSNP部位の増幅のためのキットであって、少なくとも20個の多型またはSNP部位において前記核酸分子とハイブリダイズする少なくとも20個のプライマー対を含み、
前記少なくとも5個の遺伝子が、アルゴノートRISC触媒成分1(Ago1)、チトクロームb(Cytb)、ヒストンデアセチラーゼ1(Hdac1)、セリン/アルギニンリッチスプライシング因子1(Srsf1)およびトポイソメラーゼIIベータ(Top2b)であり、かつ前記組換え細胞が組換えタンパク質を産生する、キット。
【請求項16】
前記プライマー対が、前記少なくとも20個の多型またはSNP部位をハイブリダイズおよび増幅することができる、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
前記プライマー対がハイブリダイズした領域を増幅するのに必要な試薬およびオリゴヌクレオチドを更に含む、請求項15または16に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的なシステムに関し、より具体的には、生物分子のバイオ生産のためのゲノムおよび計算分析の使用に関する。特に、特定の細胞系統の同定および細胞バンクの特性決定のための方法、SNP、ならびに当該方法において有用な増幅のためのプライマーに関する。
【背景技術】
【0002】
組換え治療薬の製造は、製薬業界にとってますます重要になっている。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株は、組換えタンパク質の生産に最もよく使用される細胞の一部である。製薬業界でよく知られ、一般的に使用されている他の細胞株としては、たとえばNS0またはSP2/0がある。これらの細胞は、規制当局によって何度も承認されている。それらは懸濁液中で容易に培養することができ、高力価のヒト適合性治療用タンパク質を産生できる。
【0003】
保健当局は、培養物における細胞により組換え的に製造された薬物の承認前のみならず承認後も、哺乳類宿主細胞の確認のための同一性検査を必要とする。同一性検査は、たとえば、使用されている細胞バンクが長期間安定しており、クロスコンタミネーションがないことを示すために必要である。従来の検査は、電気泳動ゲル上で種特異的な移動パターンを示すことができるアイソザイム分析に基づくものであった。これらの検査は、4つの異なるアイソザイムの電気泳動移動度の違いに基づいており、これにより、ヒト、マウス、ハムスターの種を区別することができる。しかしながら、これらの酵素検査では希少な試薬が必要となる場合があり、実施が面倒となる。その他の欠点としては、これらの検査の感度が現在の許容基準を満たすのに十分ではないことが挙げられる。
【0004】
したがって、特定の細胞系統の同定および細胞バンク特性決定のための代替的かつ効果的な方法が必要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の態様では、培養物における細胞の特定の細胞系統を同定するための方法であって、
1)培養物における組換え細胞より単離された核酸分子から、前記核酸分子に含まれる少なくとも5個の遺伝子内の、少なくとも5個、より有利には少なくとも10個、更により有利には少なくとも20個の異なる位置における多型又はSNPの存在を決定するステップ;
2)ステップ1)の決定から遺伝的プロファイルを得るステップ;及び、
3)前記遺伝的プロファイルから前記培養物における細胞の細胞系統を同定するステップ;を含み、
前記少なくとも5個の遺伝子が、アルゴノートRISC触媒成分1(Ago1)、チトクロームb(Cytb)、ヒストンデアセチラーゼ1(Hdac1)、セリン/アルギニンリッチスプライシング因子1(Srsf1)、及びトポイソメラーゼIIベータ(Top2b)であり、かつ前記組換え細胞が組換えタンパク質を産生する、方法を開示する。
【0006】
本発明の第2の態様では、
1)核酸分子に含まれる少なくとも5個の遺伝子内の、少なくとも5個、より有利には少なくとも10個、更により有利には少なくとも20個の異なる位置における多型又はSNPの存在を決定するために、培養物における組換え細胞より単離された前記核酸分子を分析するステップ;
2)ステップ1)の分析から遺伝的プロファイルを得るステップ;及び、
3)前記遺伝的プロファイルから前記培養物における組換え細胞の種を決定するステップ;を含む分析方法であって、
前記少なくとも5個の遺伝子が、アルゴノートRISC触媒成分1(Ago1)、チトクロームb(Cytb)、ヒストンデアセチラーゼ1(Hdac1)、セリン/アルギニンリッチスプライシング因子1(Srsf1)、及びトポイソメラーゼIIベータ(Top2b)であり、かつ前記組換え細胞が組換えタンパク質を産生する、分析方法を記載する。
【0007】
第3の態様では、本発明は、培養物における組換え細胞の細胞バンク特性決定のための方法であって、
1)培養物における組換え細胞より単離された核酸分子において、少なくとも5個の遺伝子内の、少なくとも5個、より有利には少なくとも10個、更により有利には少なくとも20個の異なる位置における多型又はSNPの存在を決定するステップ;
2)ステップ1)の検出から遺伝的プロファイルを得るステップ;及び、
3)前記遺伝的プロファイルから前記培養物における組換え細胞の細胞バンクの起源を特性決定するステップ;を含み、
前記少なくとも5個の遺伝子が、アルゴノートRISC触媒成分1(Ago1)、チトクロームb(Cytb)、ヒストンデアセチラーゼ1(Hdac1)、セリン/アルギニンリッチスプライシング因子1(Srsf1)、及びトポイソメラーゼIIベータ(Top2b)であり、かつ前記組換え細胞が組換えタンパク質を産生する、方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書では、細胞の特定の細胞系統の同定および細胞バンク特性決定を可能にする単一の種に特異的なヌクレオチド(SNP)の組み合わせを記載する。これらのSNPの組み合わせのおかげで、種(たとえば、マウス、CHO、ヒトなど)を簡単に区別することができる。
【0009】
要約すると、この方法は、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法とシーケンシング法を使用して、5つの高度に保存された遺伝子の配列に見られる動物種(哺乳類種など)間のSNPの差異の分析に基づいている。SNPの違いにより、バイオインフォマティクスソフトウェアによって分析される種に特異的なパターンを作成して、細胞株の同一性を確認し、他の種の細胞株によるコンタミネーションを検出することができる。この方法のさまざまな利点は次のとおりである:1)アイソザイム分析用の試薬を使用しない;2)ロバスト性(たった5つの異なる遺伝子に対し、5個、10個、または20個のSNPしか必要としない<法医学的>アプローチ);3)感度;4)潜在的なコンタミネーションの特定;および5)費用効果。
【0010】
表1は、本発明により使用可能な、検査済みの5つの遺伝子についてそれぞれの種のSNPのいくつかを示す。これらの5個の遺伝子は、アルゴノートRISC触媒成分1(Ago1)、チトクロームb(Cytb)、ヒストンデアセチラーゼ1(Hdac1)、セリン/アルギニンリッチスプライシング因子1(Srsf1)、及びトポイソメラーゼIIベータ(Top2b)である。起源の種の同一性は、検査試料における少なくとも5個、より有利には10個、さらにより有利には20個の、SNPの存在によって付与される。
【0011】
【表1】
【0012】
全体として、本発明によれば、好ましい少なくとも20個のSNPは、表1に記載されるSNPの任意の組み合わせから選択される。実際、これらのSNPの使用により、細胞株(cell line)/細胞系統(cell lineage)の非常に正確な同定及び特性決定が可能になることが本発明者らにより示された。
【0013】
【化1】
NGS=たとえば、PyroSequencing、Solexa-Illumina、SolidまたはIon Torrent、またはOxford Nanopore
【実施例0014】
イントロダクション:
方法の概要:この方法では、分析する細胞株(試料)を培養し、細胞ペレットを調製する。試料から抽出されたゲノムDNAを、対象となる5個の遺伝子のそれぞれに特異的なプライマー対を使用して、5つの異なるPCR反応に供する。これらのプライマーは、これらのSNPが位置する遺伝子の領域を増幅する。続いて、精製されたPCR産物からスタートし、シーケンシング用のMiSeq(Illumina)シーケンサーにロードするためのライブラリを準備する。次に、生成されたデータを、試料細胞株の起源および他の種の細胞株の存在の同定を可能にする特定のバイオインフォマティクスパイプラインを使用して分析する。
【0015】
この方法は、以下を分析するのに使用できる(非限定的な例示):
- 組換えタンパク質を産生するための細胞バンク
- ウイルス安全性検査に使用する細胞株
- ウイルスを繁殖させるために使用され、ウイルスクリアランス検証試験における検査系として使用される細胞株
【0016】
細胞株及び抗体:
- CHO-K1(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、ATCC CCL-61
- MRC-5(ヒト肺線維芽細胞)、ATCC CCL-171
- Sp2/0-Ag14(マウス、非分泌性ハイブリドーマ)、ATCC CRL-1581
- CHO-SベースのAb1を発現するmAb1細胞、
- Sp2/0-Ag14ベースのAb1を発現するmAb2細胞
【0017】
主な材料/キット
- QiaAmp DNA Bloodキット(Qiagen)
- RNase、DNaseフリー(Roche)
- dNTP(Life Technologiesまたは同等のもの)
- GeneAmp High Fidelity PCR System(Life Technologies)
- プライマー(Life Technologiesまたは同等のもの):表2を参照
- MinElute PCR Purification Kit(QIAGEN)
- Nextera XT Sample Preparation-ボックス1およびボックス2(Illumina)
- Nextera XT Indexキット(Illumina)
- Qubit dsDNA HS assayキット(Life Technologies)
- Agilent High Sensitivity DNAキット(Agilent)
- PhiX Control v3(Illumina)
- MiSeq Reagent Nano キットv2(300サイクル)(Illumina):以下から構成される:
・MiSeqv2 Reagent キット300サイクル-ボックス1/2
・MiSeq Reagent Nano キットv2-ボックス2/2
- MiSeq Reagent Microキットv2(300サイクル)(Illumina):以下から構成される:
・MiSeqv2 Reagent キット300サイクル-ボックス1/2
・MiSeq Reagent キットMicrov2-ボックス2/2
【0018】
【表2】
【0019】
主な方法
細胞ペレットの調製
分析対象の細胞が、様々な検査培養物から採取され、ペレット化された。
【0020】
懸濁液中の細胞からのペレット生成:
細胞を培養培地に再懸濁し、次いで+4℃で1000rpmで10分間遠心分離した。次に、上澄みを除去した。得られたペレットは、必要に応じて調製から最大5年間-80℃で保存可能である。
【0021】
接着細胞からのペレット生成:
細胞単層がコンフルエンスに達したら、滅菌ピペットを使用して培養培地をフラスコから吸引する。次に、単層をPBSで洗浄する。PBSを除去した後、フラスコを数回(たとえば12~15回)穏やかに動かすことにより、トリプシンを単層全体に均一に分散させる。細胞単層が完全に剥離したら、細胞を培養培地に再懸濁して、トリプシンの効果をブロックする。次に、細胞を+4℃で1000rpmで10分間遠心分離する。その後、上澄みを除去する。得られたペレットは、必要に応じて調製から最大5年間-80℃で保存可能である。
【0022】
細胞生存率:
細胞ペレットの調製を進める前に、次の許容基準を確認した:細胞生存率80%以上。細胞生存率が80%未満で50%~79%の間である場合、フラスコでの細胞培養は細胞生存率が増加するまで続けた。細胞生存率が50%未満の場合、培養物内の細胞は廃棄された。
【0023】
ゲノムDNAの抽出と定量
ゲノムDNAは、キットに添付の説明書に従ってQiagen QiaAmp DNA Bloodキットを使用して抽出した。抽出後、NanoDrop法を使用してDNAを定量化した。各試料について2回の測定が行われ、最終濃度はこれらの結果の平均である。NanoDropでの定量により、260/280比を評価することにより、各試料の純度を検証することができた。次のフェーズで使用するには、試料から得たゲノムDNAの260/280比は1.7~2.1(両端を含む)の範囲内である必要がある。許容基準を満たさない場合、その後の検査フェーズで使用することはできず、ゲノムDNA抽出を1回だけ繰り返した。
【0024】
DNA増幅
試料から抽出されたゲノムDNAは、5つの遺伝子(Ago1、Cytb、Hdac1、Srsf1、およびTop2b)のそれぞれに対する特定のプライマー対を使用して5つの異なるPCR反応を行った。このような増幅には、標準的な方法が使用された。凍結乾燥の場合、プライマーは超純水に再懸濁することに留意すべきである。各PCR反応には、ゲノムDNAの代わりに水と混合したPCRミックスからなるネガティブ増幅コントロールを含めた。さらに、各試料につき2つの反応複製物を調製した。
【0025】
増幅ミックス中の試薬は、以下のような最終濃度で使用された:
- 10X PCRバッファー(GeneAmp High Fidelity PCR Systemキットから)1X
- dNTP 0.2 mM
- フォワードプライマー 0.5μM(表を参照)
- リバースプライマー 0.5μM(表を参照)
- Taqポリメラーゼ(GeneAmp High Fidelity PCR Systemキットから)2ユニット
- Ultrapure water Qs*(*Ultrapure water quantumは、40μL(Applied Bio Systems Veritiサーマルサイクラーを使用する場合)または50μL(PEGeneAmp PCR System 9700サーマルサイクラーを使用する場合)の最終濃度となるように加えれば十分である)
【0026】
増幅反応は、アガロースゲル電気泳動で確認した(標準的な手順に従って調製)。次のPCR増幅産物の精製フェーズに進むために、以下の許容基準についてチェックした:
・ネガティブ増幅コントロールにバンドがない
・次の分子を有する同じ試料の両方の複製物に予想されるバンドが存在する
・重量許容基準範囲:予想される分子量±10%
【0027】
各種のそれぞれの遺伝子の予想されるバンドの分子量(bp)を以下の表に示す:
【化2】
【0028】
結果が許容基準を満たしている場合、PCR増幅産物を精製できる。特定の遺伝子について、試料のPCR反応の許容基準が満たされていない場合、その遺伝子について試料のPCR反応を再度行い電気泳動を1回だけ実行する。
【0029】
PCR産物の精製と定量
アガロースゲルでPCR反応を確認した後、キットに付属の説明書の指示に従って、Qiagen MinElute PCR Purificationキットを使用して増幅産物の残量分を精製した。続いて、Qubit ds DNA HS Assayキットを使用してPCR精製産物を定量した。
【0030】
次の検査フェーズに進むために、次の許容基準をチェックした:各試料で得られるPCR精製産物の最低濃度は1ng/μL以上でなければならない。ある遺伝子について試料精製産物の最低濃度が達成されなかった場合、その遺伝子について試料のPCR反応、電気泳動、および精製を繰り返した。
【0031】
ライブラリの調製
試料ライブラリは、試料の5つの遺伝子のPCR精製産物を混合することによって調製された。異なる試料に属するライブラリは、単一のフローセルにロードし、シーケンシング用の単一のプールとして分析することができる。MiSeq SystemにインストールされたIllumina Experiment Manager(IEM)ソフトウェアを使用して、SNPの選択に有効であること、つまりヌクレオチド配列が各試料の一義的な同定に可能であることを確認した。SNPを選択したら、Illumina Nextera XTキットを使用し、キットに付属の説明書に従って、ライブラリを調製した。各試料について、5つの遺伝子のそれぞれのPCR精製産物を、Qubit測定からの定量に基づいて1ng/μLの濃度にした。
【0032】
次のフェーズに進む前に、作成したライブラリの品質を評価した。これは、2つのステップ、つまり、Qubit蛍光光度計での分析(濃度を決定するため)と、Bioanalyzerでのキャピラリー電気泳動分析(濃度とサイズを決定するため)で行った。どちらの場合も、標準的な手順を使用した。続いて、Agilent High Sensitivity DNAキットを使用し、キットの説明に従って1μlのライブラリを分析した。
【0033】
次のフェーズで使用するために、各試料ライブラリに対して以下の許容基準をチェックした:
・ライブラリフラグメントの平均サイズが200bp以上
・平均ライブラリ濃度が2nM以上
許容基準が満たされた場合、フローセルにロードし、MiSeqシーケンサーで実行した。特定の試料のライブラリがこれらの基準を満たさなかった場合、ライブラリの調製を繰り返した。
【0034】
MiSeqシーケンサーへのロード
作成したライブラリを、NanoまたはMicroフローセルのいずれかにロードした。フローセルは、テストする試料の数に応じて選択された。Nanoフローセルを2つの試料に使用し、Microフローセルを10個の試料に使用した。ライブラリは、MiSeqシーケンサーの説明に従ってロードして実行した。
MiSeqシーケンサー実行パラメーターは、次の許容基準を満たすようにした:
・密度:600および1900 K/mm2;
・%Q30: 65%以上;
・クラスターPF: 70%以上;
・フェージングとプレフェージング:0.3未満
パラメータのいずれかがこれらの許容基準から外れている場合、シーケンシングの実行を繰り返した。
【0035】
バイオインフォマティクスデータ分析
MiSeqシーケンサーの実行によって生成されたデータは、MAGNETOバイオインフォマティクスパイプラインを使用して分析した。
【0036】
試料から作成されたゲノム配列内において、バイオインフォマティクスパイプラインが、表2に記載の5つの遺伝子に分散する22個のSNPのプロファイルを探索する。分析の最後に、パイプラインが、同定された種特異的プロファイルに応じて1つ以上の表を含むレポートを作成した。これにより、検査細胞株の起源の種の確認と、他種の細胞との相互汚染の評価が可能になった。
【0037】
結果の評価-検査の有効性
様々な検査フェーズにおいて次の条件を満たす場合、その検査は有効であると見なされた。
・存在する場合、コントロールが有効である。
・試料が許容基準を満たす。
様々なフェーズのコントロールの有効性基準と試料の許容基準は、上で規定されている。
【0038】
結果の評価-結果の分析
結果分析は、MAGNETOバイオインフォマティクスパイプラインによって同定された種を評価することで構成されていた。パイプラインによって作成されたレポートには、以下のように試料において同定された種についての表を含んでいた。
・ハムスター:ハムスター種であると同定された
・ヒト:ヒト種であると同定された
・マウス:ネズミ科種であると同定された
したがって、レポートには、同定される種によって1、2、または3つの表が含まれる場合がある。
【0039】
結果のコンプライアンス
試料の検査結果は、次の場合にコンプライアンスに準拠していると見なされた:
・細胞株の起源が確認された
・他種の細胞株による汚染がなかった
したがって、試料分析に関しMAGNETOパイプラインによって作成されたレポートには、試料の起源の種についての表のみが含まれていないとならない。
【0040】
【表3】
【0041】
実施例1:検証テスト
検証中、さまざまな種の細胞株を同定する方法の能力をチェックすることを目的として、テストを実施した。特に、特異性は以下をチェックすることで証明した。
1.ヒト、ネズミまたはハムスターの細胞株の起源を確認する方法の能力、
2.「細胞株におけるアイソザイム分析」法を使用して前もって検査された細胞バンクの起源の種を確認する方法の能力。
【0042】
最初のテスト(すなわち、ヒト、ネズミ、またはハムスターの細胞株の起源を確認する方法の能力のテスト)では、以下の試料を使用して特異性を評価した。
・ CHO-Kl
・ MRC-5
・ Sp2-0/Ag14
【0043】
以下は、各試料について同定された種を示す特異性チェックの結果である。
【化3】
【0044】
2番目のテスト(つまり、「細胞株におけるアイソザイム分析」法を使用して前もって検査された細胞バンクの起源の種を確認する方法の能力)では、以下の試料を使用して特異性を評価した。
・ mAb1細胞(Sp2-0/Ag14)
・ mAb2細胞(CHO-S)
【0045】
以下は、各試料について同定された種を示す特異性チェックの結果である。
【0046】
【化4】
【0047】
方法の特異性をチェックするための両方のテストで得られたすべての結果は、許容基準(主な方法のセクションを参照)によると有効であり、検査されたすべての試料について起源の種が確認され、許容基準を満たしていた。これらの結果から、当該方法は特異的であると言える。
【0048】
実施例2:相互汚染テスト
テストは、方法が検査種(ヒト、マウス、ハムスター)間で同定できる最低ラインの汚染割合の検出限界を確認することを目的として実施された。検出限界を確認するために、以下に示すように、異なる割合のヒト(MRC-5)、マウス(SP2/0-Ag14)、およびハムスター(CHO-K1)細胞株を混合して細胞ペレットを調製した(表4)。
【0049】
【表4】
【0050】
主な方法のセクションに従って、試料を調製し、Microフローセルでシーケンスし、特異性を確認するため分析した。各混合物の3つの異なる細胞ペレットを使用して、実験を3回繰り返した。
【0051】
【表5】
【0052】
汚染種を5%以上含む混合物では、汚染種は3回の検査のうち3回とも同定された(100%成功)。したがって、これらの結果に基づいて、この方法は、3つの異なる検査種(ヒト、マウス、ハムスター)の細胞株で5%の最低汚染検出限界(LOD)で相互汚染を検出できると結論付けることができる。
【0053】
実施例3:ロバスト性検査
重要とされるいくつかのパラメータを意図的に変更しても変化しない方法の能力としてロバスト性を評価した。
【0054】
特に、方法の各実験フェーズをリスク分析に供し、ロバスト性チェックのための重要なフェーズを同定した。
【0055】
重要であると判明した実験フェーズは次のとおりであった:
1.PCRおよびアガロースゲル上での電気泳動分析と画像分析による結果の分析
2.ライブラリの準備
3.ライブラリをロードしMiSeqシーケンサーの実行
【0056】
ゲノムDNA増幅フェーズでは、PCR(反応におけるTaqポリメラーゼ酵素の量)およびアガロースゲルから得られるバンドの可視化の条件を変化させた(ゲル内のDNAのインターカレーターを変え、異なる機器を使用してゲル取得および分析を行った)。
【0057】
ライブラリ調製フェーズでは、開始DNAの量およびDNAを断片化するために必要なタグ酵素の量も変化させた。
【0058】
最後に、ライブラリのロードフェーズとMiSeqシーケンサーでの実行に関して、Nanoフローセルにロードされた組換え細胞バンクで構成される試料をシーケンシングする方法のロバスト性についてチェックを行った。
【0059】
このフェーズのロバスト性は、方法の検証中に、シーケンシング用の2つの異なるタイプのフローセル(Nano又はMicro)にロードした試料からの結果を評価することによってもチェックされた。特に、ロバスト性は以下をチェックすることで証明された:
1.Nano又はMicroフローセルにロードおよびシーケンスした細胞株の起源の種を確認する方法の能力;
2.Nano又はMicroフローセルにロードおよびシーケンスしたネズミまたはハムスター起源の試料のLODに存在する汚染種を同定する方法の能力。
【0060】
1.Nano又はMicroフローセルにロードおよびシーケンスした細胞株の起源の種を確認する方法の能力として意図されたロバスト性チェック。ロバスト性は、方法の特異性チェックのために調製および分析された試料の結果について評価された(実施例1)。使用された試料は以下のとおりであった:
・ CHO-K1、MRC-5及びSp2-0/Ag14(Microフローセルにロードおよびシーケンスした)
・ mAb1細胞及びmAb2細胞(Nanoフローセルにロードおよびシーケンスした)
【0061】
ロバスト性をチェックするための許容基準は、Nano及びMicroフローセルの両方にロードおよびシーケンスした試料の起源の種を確認することであった。以下は、Microフローセルにロードおよびシーケンスした試料の結果である。
【化5】
【0062】
以下は、Nanoフローセルにロードおよびシーケンスした試料の結果である。
【0063】
【化6】
【0064】
2.Nano又はMicroフローセルにロードおよびシーケンスしたネズミおよびハムスター起源の試料のLODに存在する汚染種を同定する方法の能力として意図されたロバスト性チェック。ロバスト性は、以下の試料を使用して評価した。
・95%のCHO-K1細胞と5%(LOD)のSp2-0/Ag14細胞からなる混合物
・95%のSp2-0/Ag14細胞と5%(LOD)のCHO-K1細胞からなる混合物
【0065】
Microフローセルにロードおよびシーケンスした試料のLODに存在する汚染種を同定する方法のロバスト性を、方法の検出限界をチェックするアッセイ3の結果で評価した(実施例2を参照)。Nanoフローセルにロードおよびシーケンスした試料のLODに存在する汚染種を同定する方法のロバスト性は、同じ試料を使用して評価した。特に、検出限界テストの3回目に、LODでSp2-0/Ag14と混合されたCHO-K1細胞株、およびLODでCHO-K1と混合されたSp2-0/Ag14細胞株の試料のライブラリをNanoフローセルにロードおよびシーケンスした。
【0066】
以下は、Microフローセルにロードおよびシーケンスした試料から得た結果である。
【化7】
【0067】
以下は、Nanoフローセルにロードおよびシーケンスした試料から得た結果である。
【化8】
【0068】
両方の方法のロバスト性チェックテスト(ポイント1とポイント2)のすべての結果は、許容基準によると有効であり、これらの基準に適合していた。したがって、この方法は、その性能にとって重要であると見なされるパラメータに関してロバストであるとみなすことができる。
【0069】
本方法は「不純物の限界テスト」として分類した。検証されたパラメータは、特異性、検出限界(LOD)、およびロバスト性であった。
-検証結果は、方法が特異的であることを示す。
-本方法は、汚染が5%の最低検出可能限界(LOD)で、3つの異なる検査種(ヒト、マウス、ハムスター)の細胞株間の交差汚染を検出することができる。
-さらに、この方法は、性能に重要であるとみなされたパラメータに関してロバストであることがわかった。
【0070】
したがって、細胞株の起源の種を確認し、他の種の細胞との交差汚染を評価するために使用された「次世代シーケンシングによる哺乳類の細胞株の同定」法は、検証済みと見なす。これは、細胞株の起源の種を確認するために日常的に使用される典型的なアイソザイム分析の効率的な代替となり得る。
【配列表】
2023181184000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-10-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養物における細胞の特定の細胞系統を同定するための方法であって、
1)培養物における組換え細胞より単離された核酸分子から、前記核酸分子に含まれる少なくとも5個の遺伝子内の少なくとも20個の異なる位置における多型又はSNPの存在を決定するステップ;
2)ステップ1)の決定から遺伝的プロファイルを得るステップ;及び、
3)前記遺伝的プロファイルから前記培養物における細胞の細胞系統を同定するステップ;を含み、
前記少なくとも5個の遺伝子が、アルゴノートRISC触媒成分1(Ago1)、チトクロームb(Cytb)、ヒストンデアセチラーゼ1(Hdac1)、セリン/アルギニンリッチスプライシング因子1(Srsf1)、及びトポイソメラーゼIIベータ(Top2b)であり、かつ前記組換え細胞が組換えタンパク質を産生する、方法。
【外国語明細書】