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特開2023-18119心組織を修復するための心外膜由来パラクリン因子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018119
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】心組織を修復するための心外膜由来パラクリン因子
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/02 20060101AFI20230131BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230131BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230131BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230131BHJP
   A61K 31/7072 20060101ALI20230131BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230131BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20230131BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20230131BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20230131BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230131BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20230131BHJP
【FI】
A61K38/02
A61P9/10 ZNA
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K31/7072
A61K47/42
A61L27/24
A61L27/54
A61K9/70
A61K38/17
C07K14/47
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189992
(22)【出願日】2022-11-29
(62)【分割の表示】P 2020214644の分割
【原出願日】2016-04-08
(31)【優先権主張番号】62/196,766
(32)【優先日】2015-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/145,480
(32)【優先日】2015-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517352577
【氏名又は名称】リジェンコア, インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】517006821
【氏名又は名称】サンフォード バーナム プレビーズ メディカル ディスカバリー インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ピラール ルイズ-ロザーノ
(72)【発明者】
【氏名】マーク マーコーラ
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ ケ
(57)【要約】
【課題】 心組織を修復するための心外膜由来パラクリン因子の提供。
【解決手段】とりわけ本明細書において、心血管系疾患、心筋梗塞(MI)、その他の虚血性事象、または心成長欠損によって引き起こされる心組織への損傷を処置および修復するための、心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化フォリスタチン様1(FSTL1))を含む組成物およびキット、ならびにこれらを使用するための方法が提供される。一部の態様では、それを必要とする被験体において傷害後に心組織(たとえば心筋組織)を修復するための方法であって、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子と接触させるステップを含む方法が本明細書において提供される。一部の実施形態では、心外膜由来パラクリン因子は低グリコシル化フォリスタチン様1(FSTL1)ポリペプチドである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図面に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2015年4月9日に出願された米国仮特許出願第62/145,480号および2015年7月24日に出願された米国仮特許出願第62/196,766号(これらの開示は、それらの全体が参考として本明細書に援用される)への優先権を主張する。
【0002】
本発明はとりわけ、心外膜由来パラクリン因子を含む組成物、ならびに心筋梗塞等の虚血性事象の後の心組織(たとえば心筋組織)への損傷を処置または予防するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
急性心筋梗塞(AMI)は西洋世界における主な死因の一つであり、環境と遺伝の両方の多くの危険因子がその病因に寄与している。心臓は一般に、傷害後の修復に十分な内因性の再生能力を有していない。心筋梗塞(MI)または他の虚血性事象の後に起こる左心室(LV)リモデリングにより、LVの拡張、最終的には心不全がもたらされる(Holmesら、2005年、Annu Rev Biomed Eng.、7巻、223~53頁)。冠動脈閉塞の直後、閉塞の下流の虚血性筋細胞は壊死性となりおよび/またはアポトーシスを起こす。直ちに好中球が組織に浸潤し、一方、白血球、主としてマクロファージがその直後に到着し、壊死した細胞の破片の消化に参加する。虚血性組織中の好中球は、周囲の筋細胞をさらに傷害する反応性酸素種およびタンパク質分解酵素を放出するので、周囲の筋細胞に対して毒性であることがある(NahおよびRhee、Korean
Circ J.、10月、39巻(10号)、393~82009)。損傷が起こると、収縮性の機能障害、結果的には心不全を起こす低細胞性の瘢痕が形成される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Holmesら、Annu Rev Biomed Eng.(2005年)7巻、223~53頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
心筋に影響を与える虚血性事象に伴う疫学的かつ経済的な負荷を低減するために、心筋梗塞等の虚血性事象によって引き起こされる傷害後に心筋細胞の生存を維持し、または心筋細胞の成長を刺激する新規な組成物および戦略の開発が急務である。傷害後に心組織(たとえば心筋組織)に対処し、および/またはそれを処置することができる治療に対するニーズがある。本明細書に開示する本発明はこれらのニーズに対処し、さらなる利益をも提供する。
とりわけ本明細書において、心血管系疾患、心筋梗塞(MI)、または他の虚血性事象によって引き起こされる心組織(たとえば心筋組織)への損傷を処置し修復するための、心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化フォリスタチン様1(FSTL1))を含む組成物およびキット、ならびにこれらを使用するための方法が提供される。
【0006】
したがって、一部の態様では、それを必要とする被験体において傷害後に心組織(たとえば心筋組織)を修復するための方法であって、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子と接触させるステップを含む方法が本明細書において提供される。一部の実施形態では、心外膜由来パラクリン因子は低グリコシル化フォリスタチン様1(FSTL1)ポリペプチドである。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、前記傷害は、虚血再灌流心傷害(たとえば心筋傷害)、虚血性心臓疾患によるもの、および/または発育不全心によるものである。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、前記傷害は心筋梗塞であり、および/または心臓は瘢痕組織を含有する。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)の修復は、前記心組織(たとえば心筋組織)における心筋細胞の数を増加させることを含む。一部の実施形態では、心筋細胞の数は、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった傷害を受けた瘢痕組織における心筋細胞の数と比較して少なくとも2倍に増加する。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)の修復は、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織(たとえば心筋組織)における短縮率の量と比較した心組織(たとえば心筋組織)の短縮率の改善を含む。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)の修復は、処置前の同一被験体と比較して、壁運動の改善を含む。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)の修復は、処置前の同一被験体と比較して、血液灌流面積の改善を含む。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)の修復は、処置なしの類似被験体と比較して、心(たとえば心筋)インシデントおよび入院の減少を含む。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)の修復は、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織(たとえば心筋組織)における心筋細胞の細胞質分裂の量と比較した前記心組織(たとえば心筋組織)における心筋細胞の細胞質分裂の量の増大を含む。一部の実施形態では、心筋細胞の細胞質分裂の量の増大は、Aurora Bキナーゼの発現によって決定される。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)の修復は、心筋細胞のアポトーシスの減少を含む。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、前記方法は、心筋細胞における心(たとえば心筋)特異的収縮性タンパク質をコードする転写物のレベルの増大をもたらす。一部の実施形態では、前記方法は、心筋細胞における心(たとえば心筋)特異的収縮性タンパク質をコードする転写物のレベルの2倍の増大をもたらす。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、前記心(たとえば心筋)特異的収縮性タンパク質は、myh6、mlc2v、およびmlc2aからなる群より選択される。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、前記方法は、心筋細胞における律動的収縮性Ca2+を伴うアクチニン細胞の増加をもたらす。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、前記心組織(たとえば心筋組織)を、前記傷害の直後に前記心外膜由来パラクリン因子と接触させる。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、前記方法は、傷害後の前記被験体の生存を増大させる。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、前記方法は、前記傷害後に前記心組織(たとえば心筋組織)における線維化を減弱させる。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、前記方法は、前記心組織(たとえば心筋組織)の傷害を受けた領域の血管新生の増大をもたらす。一部の実施形態では、前記血管新生の増大は血管細胞中のフォン・ビルブラント因子(vWF)または平滑筋アクチンの発現によって決定される。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、前記方法は、心筋細胞の細胞周期のエントリーを誘起する。一部の実施形態では、前記心筋細胞の細胞周期のエントリーはホスホ-ヒストンH3の発現によって評価される。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、前記方法は、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織(たとえば心筋組織)における心筋細胞の細胞周期のエントリーの量と比較して、心筋細胞の細胞周期のエントリーの少なくとも2倍の増大をもたらす。一部の実施形態では、前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、原核細胞中で合成される。一部の実施形態では、前記原核細胞は細菌細胞である。一部の実施形態では、前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、グリコシル化阻害剤で 処理された真核細胞中で合成される。一部の実施形態では、グリコシル化の前記阻害剤はツニカマイシンである。一部の実施形態では、前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、1つまたは複数のグリコシル化アミノ酸を1つまたは複数のグリコシル化に不適格なアミノ酸で置換することによって産生される。一部の実施形態では、前記1つまたは複数のグリコシル化アミノ酸は、N144、N175、N180、およびN223からなる群より選択される。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、傷害後にアポトーシスから心筋細胞を保護しない。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、傷害を受けた心筋組織に直接注入される。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、全身に送達される。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、心内膜に送達される。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、三次元コラーゲンパッチ中に埋め込まれるか、または播種されている。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、ヒドロゲル中に埋め込まれるか、または播種されている。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)は、心外膜部位、心内膜部位の1つもしくは複数から、および/または心筋への直接注入によって接触させる。
【0007】
別の態様では、低グリコシル化フォリスタチン様1(FSTL1)ポリペプチドおよび1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が本明細書において提供される。一部の実施形態では、前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは原核細胞中で合成される。一部の実施形態では、前記原核細胞は細菌細胞である。一部の実施形態では、前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、グリコシル化阻害剤で処置された真核細胞中で合成される。一部の実施形態では、前記グリコシル化阻害剤はツニカマイシンである。一部の実施形態では、前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、ゲノム編集によって得られる。一部の実施形態では、前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、修飾RNAの挿入によって得られる。一部の実施形態では、前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、(たとえば、処置によって内因性FSTL1ポリペプチドのグリコシル化が阻害されるような)被験体の薬物処置によって得られる。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、組成物は傷害を受けた心組織(たとえば心筋組織)に直接注入するために製剤化されている。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、組成物は全身投与のために製剤化されている。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、三次元(3D)コラーゲンパッチ中に埋め込まれるか、または播種されている。一部の実施形態では、3Dコラーゲンパッチは12±4kPaの弾性係数を有する。
【0008】
さらなる態様では、(i)低グリコシル化フォリスタチン様1(FSTL1)ポリペプチド;および(ii)1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含むキットが本明細書において提供される。一部の実施形態では、キットは、(iii)三次元(3D)コラーゲンパッチをさらに含む。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、三次元(3D)コラーゲンパッチ中に埋め込まれるか、または播種されている。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、前記3Dコラーゲンパッチは、12±4kPaの弾性係数を有する。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、キットは、(iv)前記3Dコラーゲンパッチを傷害を受けた心臓の心外膜または心筋に接着させるための接着手段をさらに含む。一部の実施形態では、前記接着手段は縫合糸である。
【0009】
なお別の態様では、それを必要とする被験体において傷害後に心組織(たとえば心筋組織)を修復するための方法であって、前記心組織(たとえば心筋組織)を、組換え低グリコシル化フォリスタチン様1(FSTL1)ポリペプチドが播種または注入された三次元(3D)コラーゲンパッチと接触させるステップを含む方法が本明細書において提供される。一部の実施形態では、傷害は虚血再灌流傷害である。一部の実施形態では、傷害は心筋梗塞である。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、3Dコラーゲンパッチは心組織(たとえば心筋組織)に縫合される。
【0010】
別の態様では、組換え低グリコシル化フォリスタチン様1(FSTL1)ポリペプチドが注入または播種された三次元(3D)コラーゲンパッチが本明細書において提供される。一部の実施形態では、前記組換え低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、原核細胞中で合成される。一部の実施形態では、前記原核細胞は細菌細胞である。一部の実施形態では、前記組換え低グリコシル化FSTL1ポリペプチドは、グリコシル化阻害剤で処理された真核細胞中で合成される。一部の実施形態では、前記グリコシル化阻害剤はツニカマイシンである。本明細書に開示する実施形態のいずれかにおける一部の実施形態では、3Dコラーゲンパッチは12±4kPaの弾性係数を有する。
【0011】
本明細書に記載した態様および実施形態のそれぞれは、実施形態または態様の状況から明確にまたは明白に除外されない限り、共に使用することができる。
【0012】
本明細書を通して、種々の特許、特許出願および他の種類の刊行物(たとえば、雑誌記事、電子的データベースエントリー等)が参照される。本明細書で引用する全ての特許、特許出願、および他の刊行物の開示は、全ての目的のため参照によりその全体を本明細書に組み込まれる。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
傷害後の心組織の修復を必要とする被験体において傷害後に心組織を修復するための方法であって、前記心組織を低グリコシル化フォリスタチン様1(FSTL1)ポリペプチドと接触させるステップを含む、方法。
(項目2)
前記傷害が、虚血再灌流心傷害である、虚血性心臓疾患によるものである、および/または発育不全心によるものである、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記傷害が心筋梗塞であり、および/または心臓が瘢痕組織を含有する、項目1に記載の方法。
(項目4)
心組織の修復が、前記心組織における心筋細胞の数を増加させることを含む、項目1から3のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
心組織の修復が、心筋細胞および/または心血管系を含む損傷を受けた心組織の回復の増大を含む、項目1から3のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
心筋細胞の数が、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織における心筋細胞の数と比較して少なくとも3倍に増加する、項目4または5に記載の方法。
(項目7)
心組織の修復が、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織における短縮率の量と比較した心組織の短縮率の改善を含む、項目1から5のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
心組織の修復が、傷害後の心外膜由来パラクリン因子の接触、送達、またはゲノム編集による処置前の同一心臓における線維化の量と比較して、少なくとも2%の瘢痕面積(線維化)の低減を含む、項目1から5のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
心臓組織の修復が、傷害後の心外膜由来パラクリン因子の接触、送達、またはゲノム編集による処置前の同一心臓における灌流面積の量と比較して、少なくとも2%の血管灌流面積の増大を含む、項目1から5のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
心組織の修復が、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織における心筋細胞の細胞質分裂の量と比較した前記心組織における心筋細胞の細胞質分裂の量の増大を含む、項目1から5のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
心筋細胞の細胞質分裂の量の増大が、Aurora Bキナーゼの発現によって決定される、項目10に記載の方法。
(項目12)
心組織の修復が、心筋細胞のアポトーシスの減少を含む、項目1から12のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
心筋細胞における心特異的収縮性タンパク質をコードする転写物のレベルの増大をもたらす、項目1から12のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
心筋細胞における心特異的収縮性タンパク質をコードする転写物のレベルの2倍の増大をもたらす、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記心特異的収縮性タンパク質が、myh6、mlc2v、およびmlc2aからなる群より選択される、項目13または項目14に記載の方法。
(項目16)
心筋細胞における律動的収縮性Ca2+を伴うアクチニン細胞の増加をもたらす、項目1から10のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
前記心組織を、前記傷害の直後に前記心外膜由来パラクリン因子と接触させる、項目1から11のいずれか一項に記載の方法。
(項目18)
前記心組織を、前記傷害後、任意の時間で前記心外膜由来パラクリン因子と接触させる、項目1から12のいずれか一項に記載の方法。
(項目19)
心事象および入院を減少させる、項目1から13のいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
前記傷害後に前記心組織における線維化を減弱させる、項目1から15のいずれか一項に記載の方法。
(項目21)
前記心組織の傷害を受けた領域の血管新生の増大をもたらす、項目2または項目3に記載の方法。
(項目22)
前記血管新生の増大が血管細胞中のフォン・ビルブラント因子(vWF)または平滑筋アクチンの発現によって決定される、項目21に記載の方法。
(項目23)
心筋細胞の細胞周期のエントリーを誘起する、項目1から22のいずれか一項に記載の方法。
(項目24)
前記心筋細胞の細胞周期のエントリーがホスホ-ヒストンH3の発現によって評価される、項目23に記載の方法。
(項目25)
傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織における心筋細胞の細胞周期のエントリーの量と比較して、心筋細胞の細胞周期のエントリーの少なくとも2倍の増大をもたらす、項目23または項目24に記載の方法。
(項目26)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、原核細胞中で合成される、項目1に記載の方法。
(項目27)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、グリコシル化阻害剤で処理された真核細胞中で合成される、項目1に記載の方法。
(項目28)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、1つまたは複数のグリコシル化アミノ酸を1つまたは複数のグリコシル化に不適格なアミノ酸で置換することによって産生される、項目1に記載の方法。
(項目29)
前記1つまたは複数のグリコシル化アミノ酸が、N144、N175、N180、およびN223からなる群より選択される、項目1に記載の方法。
(項目30)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが心組織を修復する、項目26から28のいずれか一項に記載の方法。
(項目31)
前記低グリコシル化FSTL1が、傷害後に心筋細胞をアポトーシスから保護する、項目26から28のいずれか一項に記載の方法。
(項目32)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、コラーゲンパッチによって傷害を受けた心筋組織に送達される、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目33)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、傷害を受けた心筋組織に直接注入される、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目34)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが全身に送達される、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目35)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、心内膜に送達される、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目36)
前記心内膜送達がカテーテルによる、項目35に記載の方法。
(項目37)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、心外膜にカテーテルによって送達される、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目38)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、薬物溶出ステントを使用してカテーテルによって送達される、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目39)
前記低グリコシル化Fstl1ポリペプチドが、三次元コラーゲンパッチ中に埋め込まれるか、または播種されている、項目1から38のいずれか一項に記載の方法。
(項目40)
前記心組織を、心外膜部位、心内膜部位の1つもしくは複数から、および/または心筋 への直接注入によって接触させる、項目1から39のいずれか一項に記載の方法。
(項目41)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、修飾されたRNA(modRNA)の使用によって前記心臓内で発現される、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目42)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、ゲノム編集によって発現される、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目43)
傷害後の心組織の修復を必要とする被験体において傷害後に心組織を修復するための方法であって、前記心組織を心外膜由来パラクリン因子と接触させるステップを含む、方法。
(項目44)
低グリコシル化フォリスタチン様1(FSTL1)ポリペプチドおよび1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む、無菌の医薬組成物。
(項目45)
FSTL1のグリコシル化阻害剤をさらに含む、項目44に記載の無菌の医薬組成物。(項目46)
前記FSTL1のグリコシル化阻害剤が、ツニカマイシンを含む、項目45に記載の無菌の医薬組成物。
(項目47)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、原核細胞中で合成される、項目44に記載の無菌の医薬組成物。
(項目48)
前記原核細胞が細菌細胞である、項目47に記載の無菌の医薬組成物。
(項目49)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、グリコシル化阻害剤で処理された真核細胞中で合成される、項目44に記載の無菌の医薬組成物。
(項目50)
前記グリコシル化阻害剤がツニカマイシンである、項目49に記載の無菌の医薬組成物。
(項目51)
傷害を受けた心組織に直接注入するために製剤化されている、項目44から50のいずれか一項に記載の無菌の医薬組成物。
(項目52)
全身投与のために製剤化されている、項目44から50のいずれか一項に記載の無菌の医薬組成物。
(項目53)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、修飾されたRNA(modRNA)を含む細胞中で合成される、項目44に記載の無菌の医薬組成物。
(項目54)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、ゲノム編集によって発現される、項目44に記載の無菌の医薬組成物。
(項目55)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、三次元(3D)コラーゲンパッチ中に埋め込まれるか、または播種されている、項目44から54のいずれか一項に記載の無菌の医薬組成物。
(項目56)
前記3Dコラーゲンパッチが、12±4kPaの弾性係数を有する、項目55に記載の無菌の医薬組成物。
(項目57)
(i)低グリコシル化フォリスタチン様1(FSTL1)ポリペプチド;および(ii)1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む、キット。
(項目58)
(iii)三次元(3D)コラーゲンパッチをさらに含む、項目57に記載のキット。(項目59)
前記低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、三次元(3D)コラーゲンパッチ中に埋め込まれるか、または播種されている、項目57または58に記載のキット。
(項目60)
前記3Dコラーゲンパッチが、12±4kPaの弾性係数を有する、項目57または58に記載のキット。
(項目61)
(iv)前記3Dコラーゲンパッチを傷害を受けた心臓の心外膜または心筋に接着させるための接着手段をさらに含む、項目57から60のいずれか一項に記載のキット。
(項目62)
前記接着手段が縫合糸である、項目61に記載のキット。
(項目63)
傷害後の心組織の修復を必要とする被験体において傷害後に心組織を修復するための方法であって、前記心組織または心外膜を、組換え低グリコシル化フォリスタチン様1(FSTL1)ポリペプチドが播種または注入された三次元(3D)コラーゲンパッチと接触させるステップを含む、方法。
(項目64)
前記傷害が虚血再灌流傷害である、項目63に記載の方法。
(項目65)
前記傷害が心筋梗塞である、項目63に記載の方法。
(項目66)
前記3Dコラーゲンパッチが、前記心組織または心外膜に縫合される、項目63から65のいずれか一項に記載の方法。
(項目67)
組換え低グリコシル化フォリスタチン様1(FSTL1)ポリペプチドが注入または播種された三次元(3D)コラーゲンパッチ。
(項目68)
前記組換え低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、原核細胞中で合成される、項目67に記載のコラーゲンパッチ。
(項目69)
前記原核細胞が細菌細胞である、項目68に記載のコラーゲンパッチ。
(項目70)
前記組換え低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが、グリコシル化阻害剤で処理された真核細胞中で合成される、項目67に記載のコラーゲンパッチ。
(項目71)
前記グリコシル化阻害剤がツニカマイシンである、項目70に記載のコラーゲンパッチ。
(項目72)
12±4kDaの弾性係数を有する、項目67から71のいずれか一項に記載のコラーゲンパッチ。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、心外膜セクレトーム(epicardial secretome)における心原性活性を示す。a~d)ESC由来心筋細胞(mCMsESC)と心外膜(EMC)細胞株との共培養による心原性効果。a、b)mCMsESCのみ(a)およびEMCと4日間共培養したmCMsESC(b)。心筋細胞はα-アクチニン免疫蛍光 (緑色)で、EMCはH2B-mCherry蛍光(赤色)で可視化される。c)倍数変化(n=3)によって表した心筋細胞数の定量(aおよびbにおけるように)。d)共培養物に添加したEMCの数に対するmCMsESCの心原性応答(+:ウェルあたり1×10EMC、++:ウェルあたり5×10EMC)、筋細胞マーカーMyh6、Myh7、Mlc2aおよびMlc2vを用いて定量(n=3)、Gapdh遺伝子発現に対して正規化。*対照と比較した統計的有意差(p<0.05)、黒塗りの四角形:「+」条件と比較してp<0.05。e~i)心外膜EMC馴化培地の心臓発生に対する効果。e、f)対照(e)またはEMC馴化培地(f)による8日間の処置の後のmCMsESCのα-アクチニン染色(緑色)。g)心筋細胞の数の定量。h)mCMsESCにおける心特異的マーカーの定量、Gapdh発現に対して正規化。i)Kinetic Imaging Cytometer(Vala Sciences)を使用して自動的に測定した律動的カルシウムトランジェントを伴う心筋細胞の数の定量。g~iにおける定量は、倍数変化によって表した。全ての実験においてn=3である。*対照と比較した統計的有意差(p<0.05)。j~m)成体心外膜由来細胞(EPDC)からの馴化培地は、胚性心筋細胞における細胞質分裂を促進する。j)E12.5GFP陽性心臓(Tnnt2-Cre;Rosa26mTmG/+)からの胚性心筋細胞の単離。k)EPDC馴化培地は心筋細胞の増殖を促進し、馴化培地の煮沸(煮沸)によって成長促進効果が失われた。l、m)Aurora Bおよび心マーカーTnnt2の免疫染色による細胞質分裂の解析により、成体EPDC培地による処置の後、心筋細胞の細胞質分裂の増大が示された(ビヒクル群:19668のうち陽性細胞38、馴化培地群:22143のうち74)。P<0.05;n=5。
【0014】
図2図2は、胚性心外膜様パッチによって永久的LAD結紮の後で心機能が改善されることを示す。a)コラーゲンパッチ産生の概略図(30から再構築した塑性圧縮手順)。b)原子間力顕微鏡によって測定した、作出されたパッチの機械的特性の評価。測定されたパッチのマイクロ剛性の分布ヒストグラムを赤色で示す。これらの値は一般的な足場生体材料31について報告された弾性の範囲に対してプロットしている。灰色のエリアは以前に記載された32、筋細胞の収縮性を最大化する弾性の最適範囲を示す。c、d)心外膜模倣パッチ埋植。心筋梗塞を誘起する永久的LAD結紮(c)の後、虚血性心筋の表面に心外膜パッチを2点で縫合した(d)。パネル中の挿入図は、埋植前に培養培地に浸漬した、調製したパッチを示す。e~g)心外膜馴化培地をロードしたパッチの、心筋梗塞(MI)後の生理学的効果。全ての試料は、パッチの埋植の2週間後に採取した。e)梗塞の2週間後の心エコー解析のまとめ。偽(偽対照)、処置しない梗塞したマウス(MIのみ)、パッチのみで処置したMI(MI+パッチ)、および心外膜馴化培地を負荷したパッチで処置した梗塞した動物(MI+パッチ+CM)を含む。全てのデータは、個別の手術前のベースライン値に正規化している。f)eからの短縮率(FS%)の絶対値。g)マッソントリクローム染色心臓の肉眼的組織学的解析。試料は示す通りである。実験群あたり最小数(n)の8匹のマウスを使用した。*:偽対照と比較してp<0.05、黒塗りの丸:MIのみと比較してp<0.05、および黒塗りの四角形:MI+パッチと比較してp<0.05。
【0015】
図3-1】図3は、FSTL1が傷害後の動的発現を伴う心外膜心原性因子であることを示す。a)FSTL1として同定されるR.GLCVDALIELSDENADWK.LのMS/MSスペクトル。ペプチド確率=1.0、Xcorr=6.276、デルタCn=0.471。b~f)対照培地のみ(対照)またはヒトFSTL1を含有する培地(FSTL1、10ng/ml)で8日間処置した後のマウス胚性幹細胞由来心筋細胞(mCMsESC)に対する組換えFSTL1の効果。全ての実験および条件において培地は2日ごとに交換した。b、c)心筋細胞はα-アクチニン免疫染色(緑色)によって同定する。d)倍数変化によって表したb、cにおける心筋細胞の数の定量(n=8)。e)b、cにおける心特異的マーカーの発現、倍数変化としてGapdh発現に対して正 規化(n=3)。f)Kinetic Image Cytometer(KIC)解析を使用した、FSTL1処置ありおよびなしの律動的カルシウムトランジェントを伴う心筋細胞の数の定量(対照に対する倍数変化)(n=6)。g)表示したFSTL1濃度における2日間の培養の後の個別の心筋細胞サイズ(ピクセル)の測定(n=5)。*:対照との統計的有意差(p<0.05)。h)妊娠中期以後のFSTL1の心外膜発現。FSTL1抗体を使用する直接タンパク質可視化(赤色)により、FSTL1がマウスの心外膜において胎生期E12.5、E15.5およびE17.5で発現することが示される。一部の間質性発現も検出される。E12.5の画像は、FSTL1と心外膜転写因子ウィルムス腫瘍1(Wt1、緑色の核染色、白色の矢印)との共局在化を示す。E15.5およびE17.5の画像は筋細胞マーカーα-アクチニンと共染色(緑色)され、FSTL1(白色の矢印)と筋細胞マーカー(黄色の矢印)の重なりがないことを示す。i~l)傷害を受けた成体心外膜におけるFSTL1の動的発現。i)上側パネル:心筋梗塞(MI)後の逐次的時間における誘起された線維化組織の組織学的(マッソントリクローム染色)評価。下側パネル:MI後の逐次的時間におけるFSTL1の免疫組織化学検査(褐色)。挿入図は、偽手術をした心臓の心外膜におけるFSTL1の発現、および傷害を受けた心臓の心外膜におけるFSTL1の枯渇を示す。FSTL1は線維化組織においても検出できない一方、MI後の心筋においては上方調節される(MI後の心筋における褐色のFSTL1の免疫染色を観察されたい)。j~l)高分解能免疫蛍光画像:傷害を受けていない(偽)成体心臓におけるFSTL1(赤色)と心外膜マーカーWt1(緑色)の共局在化(j)。成体偽心臓におけるFSTL1の選択的心外膜局在化(赤色)(k)。FSTL1はMI後の心外膜細胞およびその派生物には存在しない(l)。Wt1-CreER;Rosa26RFP/+マウスにおけるタモキシフェンの経口送達の後の心外膜系統標識化(緑色)(3週間にわたって6回送達し、MIの1週前に停止した)。心臓はMIの2週間後に採取した。Wt1系統細胞(灰色)、FSTL1(赤色)およびTnni3(緑色)についてのRFPの免疫染色により、FSTL1は心外膜細胞およびその派生物には存在しない(灰色)が、MI後の心筋(緑色)には豊富に存在することが示される。
図3-2】同上
【0016】
図4-1】図4は、FSTL1が、作出された心外膜パッチにおける心外膜馴化培地のin vivo復元効果を再現することを示す。a~c)生理学的解析。a)各条件における生存の時間的経過を、Kaplan-Meier法を使用して解析した。b)表示した処置の最初の3カ月間の心エコーによって測定した短縮率[FS(%)]の動力学。データはFSの絶対値として示した。偽(偽対照)、処置しない梗塞したマウス(MIのみ)、パッチのみで処置したMI(MI+パッチ)、およびFSTL1を負荷したパッチで処置した梗塞した動物(MI+パッチ+FSTL1)。c)MI+パッチとMI+パッチ+FSTL1と比較した、FSTL1-TGマウスにおけるMI後2週目および4週目のFS%。*:偽対照と比較してp<0.05、黒塗りの丸:MIのみと比較してp<0.05、および黒塗りの四角形:MI+パッチと比較してp<0.05。d~e)形態計測解析。d)MI後4週目における心臓の代表的なマッソントリクローム染色および総LV壁の百分率としての線維化面積の定量(n>4)。e)左心室形態学の心エコー評価。略語は以下を示す:LVIDd(拡張末期における左心室の内径);LVIDs(収縮末期における左心室の内径);LVPWd(拡張末期における左心室後壁の寸法);LVPWs(収縮期における左心室後壁の厚さ)。*:偽と比較してp<0.05、黒塗りの丸:MIのみと比較してp<0.05、および黒塗りの四角形:MI+パッチと比較してp<0.05。f~i)MI後4週目における血管系の解析。f)内皮マーカー(vWF)の免疫染色。g)組織切片の全面積に対する個別の脈管の平均内腔面積の測定によって定量した脈管面積。h)平滑筋マーカー(αSMA)の免疫染色。i)面積単位あたりの脈管の数の定量。*:偽対照と比較してp<0.05、黒塗りの丸:MIのみと比較してp<0.05、および黒塗りの四角形:MI+パッチと比較してp<0.05。j)MI 後4週目におけるパッチ境界ゾーンの可視化。表示した処置の梗塞および境界ゾーンのトリクローム染色により、パッチと宿主組織との一体化、および生来の心細胞による大量のパッチの細胞化が示される。パッチ+FSTL1で処置した動物のパッチの内部および境界ゾーン内に、豊富な筋肉(赤色)を観察されたい(右側の3つのパネル、緑色の矢印)。
図4-2】同上
【0017】
図5-1】図5は、FSTL1の復元した心外膜発現が心筋細胞の増殖を促進することを示す。全ての実験は、永久的LAD結紮の後で実施した。他に示さない限り、試料は処置の4週間後で解析した。a~h)免疫染色。MIの4週間後で解析した4つの処置群において、梗塞エリア(b~d)における心筋細胞マーカーα-アクチニン(赤色)の免疫染色、ならびに境界ゾーン(f~h)におけるDNA複製マーカーホスホ-ヒストン3 Ser10(pH3、緑色)およびα-アクチニン(赤色)の共免疫蛍光染色を、偽手術をした動物(a、e)と比較した。(a~d)における挿入図は、パッチと宿主組織の間の境界を画する破線を伴うより低倍率の画像を示す。(g、h)における矢印は、pH3の核を有するα-アクチニンの心筋細胞を示す。i~o)心筋細胞の増殖の定量。i)定量解析に使用した断面図。各切片は梗塞、パッチを網羅しており、尖部から1~2mmの間、250μmで分離されている。j)pH3(緑色)およびα-アクチニン(赤色)の高倍率画像の3Dレンダリングにより、心筋細胞核とpH3染色の共局在化が示される。k)4つの実験群におけるpH3、α-アクチニンの二重陽性細胞の出現率の定量。データは各群において5~7つの心臓から3つの異なった断面で採取し、各心臓における総pH3、α-アクチニン細胞を計数した。l~m)細胞質分裂の決定。l)パッチ+FSTL1コホートにおける心筋細胞(α-アクチニン、緑色)および細胞質分裂マーカーAurora Bキナーゼ(赤色)の共免疫蛍光。3Dレンダリングにより、Aurora Bキナーゼ開裂によってZ軸におけるα-アクチニン心筋細胞の間に溝が形成されていることが示される。m)4つの実験群におけるAurora B+/α-アクチニン細胞の出現率の定量。データは各群において5~7つの心臓から3つの異なった断面で採取し、各心臓における総Aurora B+/α-アクチニン細胞を計数した。n~o)心筋細胞核マーカーを使用した増殖の決定。n)パッチ+FSTL1コホートにおける心筋細胞核マーカーPCM1(赤色)およびpH3(緑色)の共免疫蛍光。3Dレンダリングにより、心筋細胞核とpH3染色の共局在化が示される。o)4つの実験群におけるPCM1/pH3細胞の出現率の定量。データは各群において5~7つの心臓から3つの異なった断面で採取し、各心臓における総PCM1/pH3細胞を計数した。*:偽と統計的に異なる、P<0.05。**:他の全ての群と統計的に異なる、P<0.05。p~v)新たに産生された筋細胞の系統追跡。αMHC-mERCremER;Rosa26Z/EG/+(MCM/ZEG)マウスの4-OH-タモキシフェン(OH-Tam)による処置により、予め存在する心筋細胞においてeGFPの発現を誘起した(pに図式化)。FSTL1をロードしたコラーゲンパッチを、冠動脈の結紮(MI)と同時に適用した。MI後4週目で心臓を切開し、固定し、染色した。q)偽手術をした心臓のLVエリアは心筋細胞の効率的な標識化を示す(α-アクチニン:白色、eGFP:緑色)。r~t)梗塞した心臓のLVエリアは術後4週間で無傷のエリア(r)、梗塞エリア(s)、および境界ゾーン(t、u)においてeGFP+(予め存在する、緑色)心筋細胞を示す。白色の矢印はpH3+の非心筋細胞を示す。黄色の矢印はpH3、eGFPの二重陽性細胞を示し、細胞周期の最中に予め存在する心筋細胞を示す。境界ゾーンおよび梗塞エリアにおけるpH3、eGFPの二重陽性細胞のクラスターを観察されたい。
図5-2】同上
【0018】
図6図6は、初期の心筋細胞に対するFSTL1の増殖活性が細胞選択的転写後FSTL1修飾によることを示す。a~f)FSTL1はmESC由来の未熟な心筋細胞 の増殖を促進する。a、d)mCMsESCを表示した濃度のFSTL1で10μg/mlのEdUとともに24時間刺激し、α-アクチニン(赤色)およびEdU(緑色)について染色した。全α-アクチニン+心筋細胞中のEdU+、α-アクチニン+心筋細胞の百分率を定量する(d)。b、e)mCMsESCを10ng/mlのFSTL1で48時間刺激し、α-アクチニン(赤色)およびホスホ-ヒストン3(緑色)について染色した。全α-アクチニン+心筋細胞中のpH3+、α-アクチニン+心筋細胞の百分率を定量する(e)。c、f)mCMsESCを表示した濃度のFSTL1で48時間刺激し、α-アクチニン(赤色)および細胞質分裂マーカーAurora B(緑色)について染色する。全α-アクチニン心筋細胞中のAurora B+、α-アクチニン心筋細胞の百分率を定量する(f)。g、h)哺乳動物細胞中で発現したFSTL1はグリコシル化される。g)FSTL1の過剰発現あり/なし、およびタンパク質のグリコシル化をブロックするツニカマイシン(Tuni.)あり/なしのHEK293細胞の馴化培地のFSTL1に対するウェスタンブロットにより、FSTL1がグリコシル化されていることが示される。h)哺乳動物細胞内または細菌内で発現した組換えヒトFSTL1のFSTL1に対するウェスタンブロットにより、グリコシル化の差異が示される(赤矢印:グリコシル化形、黒矢印:非グリコシル化形)。i)mCMsESCを10nMのHならびに10ng/mlの細菌および哺乳動物産生FSTL1で24時間刺激し、細胞死についてα-アクチニンおよびTUNELで染色する。全α-アクチニン心筋細胞中のTUNEL、α-アクチニン心筋細胞の百分率を定量し(i)、哺乳動物産生FSTL1はHによって誘起されるアポトーシスを減弱することができるが、細菌産生FSTL1はこれができず、一方Hによる刺激がない場合には両方のタンパク質はアポトーシスに効果を有さないことを示す。j、k)EdUの取り込みおよびAurora Bの定量(a、c、d、fと同じアッセイ)において細菌および哺乳動物産生FSTL1を比較し、細菌産生FSTL1はmCMsESCの増殖を促進するが、哺乳動物産生FSTL1はできないことを示す。l)FSTL1は心筋細胞および心外膜細胞において差次的にグリコシル化される。ツニカマイシンで処置し、または処置していない、アデノ-FSTL1を感染させたNRVCの馴化培地およびEMCの馴化培地のFSTL1に対するウェスタンブロットにより、非グリコシル化タンパク質は同じサイズを有するが、グリコシル化FSTL1は異なったサイズを有することが示され、これは心筋細胞と心外膜細胞によるFSTL1の修飾が異なることを示唆している。m、n)EdU取り込みアッセイにより、アデノ-FSTL1を感染させたNRVCの馴化培地およびEMCの馴化培地の効果を比較する。ウェスタンブロットを使用して同量のFSTL1の濃度に正規化し、EMC馴化培地はmCMsESCの増殖を細菌産生FSTL1と同程度に誘起したが、アデノ-FSTL1を感染させたNRVCの馴化培地はこれができず、グリコシル化の状態がFSTL1の機能を決定することが示唆される。全ての実験についてn=5。*:対照と統計的に異なる、P<0.05。o)心傷害の間のFSTL1の作用、ワーキングモデル。虚血性心臓疾患においてFSTL1は心筋で非常に高度に発現するようになる。心筋に分泌されたFSTL1は高度にグリコシル化され(グリコFSTL1)、アポトーシスから保護し、増殖活性を示さない。FSTL1は傷害を受けた心臓の心外膜では発現しない。低グリコシル化形は、無傷の心外膜によって分泌された場合も、または心外膜パッチに送達された場合も、心外膜下のスペースに位置する複製能のある心筋細胞前駆体細胞の増殖を活性化する。
【0019】
図7-1】図7は、心外膜FSTL1の送達により、虚血性心臓傷害の前臨床モデルにおいて心臓の再生が活性化されることを示す。a~d)虚血再灌流(I/R)のブタ実験モデルにおける心外膜へのFSTL1パッチ送達の生理学的効果。MRIによって1週後に約30%に低下したベースライン駆出率(EF)約50%を測定した(a~b)。I/Rの1週後にパッチ+FSTL1で処置したブタは、処置後2週目までに収縮性が回復し、EFは約40%となった。EFは解析した最長期間であるその後の2週目まで安定を保っていた(a、b)。これは、未処置動物(処置なしのI/R)またはパッチ単独で 処置した動物(I/R+パッチ)における心臓機能の定常的な減衰と対照的であった(b)。c~d)パッチ+FSTL1で処置したブタ(c)は、I/R+パッチ動物(d)を含む全ての研究群の中で最小の瘢痕サイズ(面積)を示した。緑色の線および矢印によって瘢痕の周囲を強調する。e~o)埋植の4週間後におけるパッチの宿主心組織との一体化、血管新生、ならびに細胞化および再生の評価。e)ブタ心臓のマッソントリクローム染色により、パッチ+FSTL1の虚血性組織への付着および限定的な線維化が示された。f~h)平滑筋マーカー(αSMA、赤色)およびEdU(緑色)の免疫染色により、新たに形成された動脈平滑筋が示される。パッチ+FSTL1で処置したブタ心臓により、虚血性エリア(f、g)およびFSTL1を負荷したパッチを有する境界ゾーン(h)の両方における血管平滑筋細胞の新規なDNA形成の証拠が示された。パネルhにおける白色の線および矢印は、パッチと宿主組織とのおおよその境界を画している。i~m)パッチ+FSTL1で処置したブタ心臓における梗塞および境界ゾーンに存在する心筋細胞のEdU取り込み解析により、その一部(iの矢印)もDNA合成について陽性に染色(EdU、緑色、j~mに高倍率の例)される線状の心筋細胞(αアクチニン、赤色)が示される。n)パッチ+FSTL1心臓における心筋細胞(α-アクチニン、緑色)および細胞質分裂マーカーAurora Bキナーゼ(赤色)の共免疫蛍光。3Dレンダリングにより、Z軸におけるα-アクチニン心筋細胞の間のAurora Bキナーゼ中心体が示される。
図7-2】同上
【0020】
図8図8は、本研究で使用したmCMsESC細胞の特徴付けを示す。a)細胞の調製および処置の概略のタイムライン。b~d)mCMsESCのα-アクチニンの免疫染色であり、細胞の大多数はα-アクチニン(b)であり、α-アクチニンは線条構造を欠いている(c)ことを示す。d)mCMsESCのα-平滑筋アクチン(αSMA)の免疫染色であり、SMAの発現のない成熟した心筋細胞42と異なり、細胞の大多数はα-SMAであることを示す。e~f)mCMsESCにおけるEdUの取り込みの自動検出。10μg/mlのEdUで24時間処置し、InCell 1000(General Electric)を使用してEdU、α-アクチニンおよびDAPIで染色したmCMsESCの捕捉した画像(e)。自動検出ソフトウェアを用いたEdU、α-アクチニンおよびDAPIチャネルのマスクのオーバーレイ(f)。g)経時的なmCMsESCのEdU取り込みプロファイル。mCMsESCは0時間、24時間、48時間、および144時間において、10μg/mlのEdUで24時間処置する。全てのα-アクチニン心筋細胞中のEdU/α-アクチニンの心筋細胞の百分率を各時点について計算する。経時的なEdU取り込み速度の低下に留意されたい。h、i)ベースラインのバックグラウンド画像(h)およびピーク画像(i)を伴うmCMsESCのFluo4カルシウム画像。j)mCMsESCの代表的なカルシウムトランジェント(赤色)と新生児ラット心室心筋細胞(NRVC、青色)との比較。mCMsESCにおいてカルシウムのハンドリングが未熟であることを示唆する、NRVCと比較したmCMsESCの振幅の低減、上昇および下降拍動のより遅い速度、およびカルシウムトランジェントの延長された持続期間に留意されたい。全ての実験において、FSTL1はmCMsESCのプレーティングの1日後に添加した(この図において時間0~24)。
【0021】
図9図9は、作出された心外膜パッチの原子間力顕微鏡(AFM)解析を示す。パッチの原子間力顕微鏡においては電子ビーム堆積を使用し製造した特製の平坦なチップを使用して(a)、走査面積90μm×90μmでゲルの剛性を調査するために利用した(b、c)。
【0022】
図10-1】図10は、永久的LAD結紮の後のFSTL1(FSTL1-TG)マウスの心筋の過剰発現を示す。a~d)心筋梗塞後のFSTL1タンパク質発現の動力学。FSTL1-TGマウス(C57/Bl6バックグラウンド)および同腹の野生型( WT)マウスにLAD結紮を行った。ベースライン、術後1日、3日、7日および28日目に心臓組織および血清を採取した。心臓の虚血性エリア(IA)および遠隔エリア(RM)におけるFSTL1タンパク質レベルをウェスタンブロッティングによって解析した(a)。チューブリンレベルと比較して表したFSTL1の発現を報告する(b)。FSTL1の血清レベルをウェスタンブロッティングで解析した(c)。血清のローディングが等しいことを示すポンソー-S染色も示す。血清FSTL1レベルの定量を(d)に示す。全ての群においてn>3。*:WTベースラインと比較してP<0.05、#:FSTL1-TGベースラインと比較してP<0.05。統計的有意性(P<0.05)のためにANOVAを使用した。e~j)形態計測および機能的e~j)長期の永久的LAD結紮に対するFSTL1-TGマウスの形態計測および機能的応答。MIの後4週間後におけるWT(e)およびFSTL1-TG(f)の代表的なマッソントリクローム染色。MIの4週間後における線維化組織の含有量の定量(g)。MIの2週および4週間後における収縮期左心室内寸法(LVIDs)(h)、および拡張期左心室内径(LIVDd)(i)の心エコーの測定。MIの2週および4週間後での表示した遺伝子型における短縮率(FS%)の心エコーの決定(j)。(k~n)(l、n)で定量した、FSTL1-TGマウスおよびWTマウスにおけるα-アクチニン(心筋細胞)およびpH3(有糸分裂)(k)、ならびにα-アクチニン(心筋細胞)およびフォン・ビルブラント因子(血管内皮細胞)(m)の二重免疫蛍光染色。n=5、*:WTと有意に異なる(P<0.05)。
図10-2】同上
【0023】
図11図11は、FSTL1が心筋梗塞後に心外膜に存在せず、心筋で発現していることを示す。a~c)系統標識したWt1-CreER;Rosa26RFP/+マウスにおけるMI後のFSTL1の検出。Wt1-CreER;Rosa26RFP/+マウスにタモキシフェンを経口送達した後の心外膜系統標識化(緑色)(3週間にわたって6回送達し、MIの1週前に停止した)。MIの2週間後で心臓を採取した。Wt1系統細胞(緑色)、FSTL1(赤色)およびTnni3(白色)についてのRFPの免疫染色により、FSTL1は心外膜細胞およびその派生物(緑色)には存在しないが、MI後の心筋(灰色)には豊富に存在することが示される(a、bにおける高倍率画像をcに示す)。
【0024】
図12図12は、in vitroおよびin vivoにおけるパッチ中のFSTL1の保持を示す。a、b)酵素結合免疫吸着アッセイを使用して、種々の時間間隔(0~21日)でin vitroのPBSに曝露したコラーゲン足場の中に保持されたFSTL1の量を測定した(a)。最初および最後のFSTL1濃度、ならびに最初の24時間以内の放出値を表に列挙する(b)。c~f)in vivoにおけるパッチ中のFSTL1の保持。術後4週間での表示した動物処置群におけるFSTL1の免疫染色の代表的な画像。FSTL1は傷害を受けていない心外膜において発現する(cの挿入図の矢印)が、その発現はMI後の梗塞エリア内で検出できなくなることに留意されたい(d)。同様に、MI+パッチ動物ではFSTL1は検出されなかった(e)が、MI+パッチ+FSTL1群においてはパッチエリアに依然として持続している(赤色染色)(f)。
【0025】
図13図13は、パッチ+FSTL1によってMI後の線維化が減弱したことを示す。MIの4週間後における4つの条件(偽、MIのみ、MI+パッチ、およびMI+パッチ+FSTL1)下での心臓の連続断面の代表的なマッソントリクローム染色。図4dで定量した、MIのみの条件における重度の線維化、およびMI+パッチの条件における線維化の低減、ならびにMI+パッチ+FSTL1の条件におけるさらなる低減に留意されたい。
【0026】
図14図14は、処置後のMRIイメージングを示す。MIのみ、MI+パッチ、およびMI+パッチ+FSTL1処置群のマウスからの代表的なMRI画像は、3D-FSPGR(高速スポイルグラジエントエコー(fast spoiled gradient-echo))画像およびガドリニウム造影剤を利用した遅延強調画像を示し、梗塞エリアの低減(緑色で画する)および収縮性の維持が確かめられる。
【0027】
図15図15は、遅延パッチグラフティングを伴う虚血/再灌流(I/R)のマウスモデルにおけるパッチ+FSTL1の機能の解析を示す。a~c)偽、I/R、およびパッチ+FSTL1で処置したI/Rについての、拡張末期および収縮末期における、グラフティング前(a、傷害の1週間後)、パッチ埋植の2週間後(b)、ならびにグラフティングの4週間後(c)の心臓機能評価。値は各個別の動物についての術前ベースライン値で割ることによって正規化した。d)a~cのマウスの心エコーによって評価したI/Rの前後の種々の時間における短縮率(FS、%)の絶対値。略語は図4と同じである。*:偽と比較してp<0.05、および黒塗りの丸:I/Rと比較してp<0.05。e)パッチ+FSTL1で処置した心臓のMIの4週間後における境界ゾーンのDNA複製マーカーホスホ-ヒストン3 Ser10(pH3、緑色)およびα-アクチニン(赤色)の共免疫蛍光染色。f)3つの実験群におけるpH3、α-アクチニンの二重陽性細胞の出現率の定量。データは各群において3つの異なった断面で3つの心臓から採取し、各心臓において総pH3、α-アクチニン細胞を計数した。*:他の全ての群と統計的に異なる、P<0.05。
【0028】
図16図16は、パッチ+FSTL1で処置した心臓の1つの切片で検出された全てのpH3心筋細胞の代表例を示す。パッチ+FSTL1で処置したMIの4週間後の心臓のマッソントリクローム染色(a)。隣接するスライドは(b)においてα-アクチニンについて染色されており、(a)における梗塞およびパッチの黒色箱型エリアに対応する。(b)における点線は心臓とパッチとの境界を示す。隣接するスライドはα-アクチニンおよびpH3について染色されており、見出された全てのα-アクチニン、pH3の二重陽性心筋細胞を(c)(白色の矢印)に示した。各画像は(b)において番号を付した白色箱型のエリアに対応する。
【0029】
図17-1】図17は、アポトーシスおよび炎症に対するパッチ+FSTL1の埋植の効果を示す。a)4つの群(偽、MI、MI+パッチ、MI+パッチ+FSTL1)全てのMI/パッチ処置の2日後の代表的なTTC染色。b)4つの群全てを比較したリスクのあるエリアの定量。データは各群において各心臓を包含するそれぞれ厚さ約2mmの4つの断面で4つの心臓から採取した。*:偽と統計的に異なる、P<0.05。c、d)パッチ単独およびパッチ+FSTL1を有するMIの2日後の心臓を比較するTUNELアッセイ(TUNEL、緑色、α-アクチニン、赤色)の代表的な画像。e)心筋細胞の総数に対する百分率としての、梗塞したエリアにおけるTUNEL、α-アクチニンの定量。MI+パッチおよびMI+パッチ+FSTL1条件の間に差異は観察されない。データは各群において3つの心臓から3つの異なった断面で採取した(図5iと同じ)。各切片の梗塞したエリアから0.09mmの画像を10個撮影し、TUNEL+、α-アクニチン、総α-アクニチン細胞を計数した。a~e)MI後4日および8日目でパッチのみおよびパッチ+FSTL1で処置した心臓に対して、細胞死についてTUNEL染色および心筋細胞についてα-アクニチン染色を行った(a~d)。最小限のTUNEL、α-アクニチン細胞が検出されるが、顕著な量のTUNEL、α-アクニチン細胞が存在する。全TUNEL核の定量により、両方の時点においてパッチおよびパッチ+FSTL1で処置した心臓の間に有意差は示されなかった(e)。f~j)パネルa~dにおけるものと同じ心臓に対して、マクロファージについてF4/80および心筋細胞についてα-アクニチンの免疫染色を行った(f~i)。F4/80細胞の定量により、両方の時点においてパッチおよびパッチ+FSTL1で処置した心臓の間に有 意差は示されなかった(j)。
図17-2】同上
【0030】
図18図18は、FSTL1が成体および新生児の心筋細胞、または心前駆細胞の増殖を誘起しないことを示す。a~f)マウスの一次単離に由来する成体心筋細胞。a)3Dコラーゲンパッチ中の4-OH-タモキシフェン(OH-Tam)で処置したMCM/ZEGマウスから単離したGFP心筋細胞の可視化。b~d)FSTL1で処置した成体心筋細胞における、増殖(b)、心特異的(c)、および肥大(d)マーカーを含む遺伝子発現の変化。心特異的遺伝子の発現に変化がないこと、細胞周期マーカーの増大がないこと(Ki67免疫染色が検出できないことと一致)、および肥大マーカーの減少に留意されたい。3Dパッチに埋め込んだ心筋細胞を、2日ごとに培地を交換しながら7日間にわたって、FSTL1(10ng/ml)で処置した。e、f)3D培養した成体心筋細胞のFUCCIアッセイを、3D培養の1週後に実施した。e)2日ごとに培地を交換しながら7日間、FSTL1による処置を実施した。f)FSTL1なしの成体心筋細胞の3D培養した対照。いずれの条件においてもS/G2/M期(GFP)における心筋細胞の検出できる兆候はなかったことに留意されたい。紫色の矢印は、ヘキスト(青色)およびG1期FUCCI(赤色)標識化の共局在化から生じる紫色で着色した核を示している。(g~j)初代新生児ラット心室心筋細胞(NRVC)。g、h)新たに単離したNRVCを10μg/mlのEdUとともにFSTL1で48時間刺激し、α-アクチニン(赤色)およびEdU(緑色)について染色した。全α-アクチニン+心筋細胞中のEdU+/α-アクチニン+心筋細胞の百分率を定量する(h)。i、j)FSTL1で48時間刺激し、α-アクチニン(赤色)およびpH3(緑色)について染色したNRVC。全α-アクチニン+心筋細胞中のpH3+/α-アクチニン+心筋細胞の百分率を定量する(j)。FSTL1処置に際して増殖の増大は見られない。(n=4)*:対照と統計的に異なる、P<0.05。k~m)Sca1前駆細胞19を48時間、飢餓同期させ、EdUの存在下、FSTL1または対照成長培地で72時間、刺激した。クローン性成長によってLin-Sca1+SP分画からクローン3を得た。Sca1プールはlin-Sca1からクローン性成長なしに得た。k)72時間の処置の後のSca1細胞のEdUおよびDAPI染色。l)72時間の処置の後のEdUSca1細胞の百分率。FSTL1濃度:0、1、10、100ng/ml。略語:SS、血清飢餓;CGM、対照成長培地。m)FSTL1処置72時間後のSca1細胞の数(n=5)。FSTL1処置に際して有意な変化は見られない。
【0031】
図19図19は、NRVCおよびEMC馴化培地におけるFSTL1の検出を示す。NRVCの馴化培地およびEMCの馴化培地のFSTL1に対するウェスタンブロットは、ツニカマシンでの処置あり、なしのいずれにおいても、グリコシル化FSTL1のEMC中への分泌を示すが、NRVC中では示さない。
【0032】
図20図20は、FSTL1処置後のmCMsESCにおけるホスホ-AktおよびPCNAの検出を示す。10ng/mlおよび50ng/mlでのFSTL1処置の1時間および24時間後のホスホ-Akt(Ser473およびThr308、いずれも心筋細胞の生存応答において示される)およびPCNA(増殖マーカー)に対するウェスタンブロットは、FSTL1処置に際してホスホ-AktならびにPCNAの変化を示さない。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書に開示する発明は部分的に、心外膜様細胞培養物から得た馴化培地がin vitroおよび成体の傷害を受けた心臓における心筋形成を増強するという本発明者らの観察に基づいている。心臓の心外膜は、発生中に前駆細胞1、2ならびにFGF、IGF2、およびPDGF3~5を含む有糸分裂促進因子を提供することによって心筋の成長に 寄与する外部上皮層である。最近の研究により、心外膜は、おそらく筋原性前駆体の供給源として傷害後の成体心筋の機能を維持し得ることが示唆されている6、7。しかし、今までのところ、心外膜由来パラクリン因子が傷害後の哺乳動物における心筋の再生を支持することは示されていないが、そのような因子ならびにその作用機序が同定されれば、この十分に理解されていない本質的に非効率なプロセスに対する洞察が得られるであろう
【0034】
以下にさらに詳細に述べるように、馴化培地を質量分析に供し、引き続いて解析した後、観察された心筋原性活性の構成要素としてフォリスタチン様1(FSTL1)を同定した。FSTL1は成体心外膜で発現するが、心筋梗塞(MI)の後で急激に減少し、次いで心筋における発現に置き換わることがわかった。以下の非限定的な例に例示するように、心筋における内因性の心筋またはトランスジェニックな過剰発現には再生効果はないが、圧縮されたコラーゲンパッチによる心臓の心外膜表面へのFSTL1の適用によって心外膜馴化培地の活性が再現された。一部の実施形態では、MIの後、作出されたFSTL1心外膜処置によって病的リモデリングが消失し、血管新生が復元し、予め存在するαMHC細胞の細胞周期のエントリーがMI後に誘起され、その結果、心機能が改善される。以下に述べる非限定的な例でさらに示すように、in vitro研究によってFSTL1が前駆細胞ではなく未熟な筋細胞の増殖を刺激することが示された。一部の実施形態では、FSTL1の増殖促進特性はタンパク質のグリコシル化状態等の組織特異的な転写後修飾と相関している。本発明の他の実施形態では、低グリコシル化FSTL1の投与によってAkt-1シグナル伝達活性は活性化されない。以下に述べるさらなる非限定的な例では、低グリコシル化FSTL1の心外膜パッチ送達は、心筋梗塞の前臨床ブタモデルにおいても有効であり、哺乳動物におけるこの再生機構の進化論的保存が強調される。したがって、理論に縛られるものではないが、FSTL1の作出された心外膜送達は、虚血性傷害の後で心筋細胞の治療的に再生を達成するための魅力的な選択肢である可能性を有している。
【0035】
I.定義
本明細書において使用する「心組織」という語句は、心臓の任意の組織を指す。心組織には心筋組織、心外膜の組織、および心内膜の組織が含まれる。心組織は心臓内に見出される細胞型のいずれかを含む。
【0036】
本明細書において使用する「心外膜由来パラクリン因子」という語句は、心血管系疾患、心筋梗塞、または他の虚血性事象による傷害後に、心組織(たとえば心筋組織)における生理学的、保護的、増殖的、および/または修復的応答の1つまたは複数を誘発することができる、心臓の外部上皮層の細胞によって産生される任意のタンパク質、ポリペプチド、またはそれらの断片を指す。一実施形態では、心外膜由来パラクリン因子は、心外膜細胞培養物から得られる馴化培地の構成要素である。
【0037】
本発明の文脈において使用する「低グリコシル化」という用語は、最少の数の炭水化物部分で翻訳後修飾された、または炭水化物部分を完全に欠失したタンパク質を指す。一部の実施形態では、低グリコシル化は、何であれ(たとえば、N連結グリカン、O連結グリカン、またはホスホ-グリカン等)炭水化物修飾が完全に欠失しているタンパク質を指す。別の実施形態では、この用語は、哺乳動物細胞における正常な生理学的条件下においてin vivoで起こるグリコシル化の量と比較して減少した炭水化物修飾(たとえば、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%,または100%のいずれか)を有するタンパク質を指す。別の実施形態では、この用語は、哺乳動物細胞における正常な生理学的条件下においてin vivoで起こるグリコシル化の量と比較して減少した炭水 化物修飾(たとえば、高くても約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%,または100%のいずれか)を有するタンパク質を指す。別の実施形態では、この用語は、哺乳動物細胞における正常な生理学的条件下においてin vivoで起こるグリコシル化の量と比較して減少した炭水化物修飾(たとえば、少なくとも約1~100%、5~95%、10~90%、20~80%、30~70%、5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、90~100%減少した炭水化物修飾のいずれか)を有するタンパク質を指す。別の実施形態では、この用語は、哺乳動物細胞において正常な生理学的条件下でin vivoで起こるグリコシル化の量と比較して減少した炭水化物修飾(たとえば、高くても約1~100%、5~95%、10~90%、20~80%、30~70%、5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、90~100%減少した炭水化物修飾のいずれか)を有するタンパク質を指す。さらに他の実施形態では、低グリコシル化タンパク質は、グリコシル化に適格な全てのアミノ酸残基(N連結、O連結、またはホスホ-グリカンに適格なアミノ酸残基)がグリコシル化に不適格なアミノ酸残基で置換されるように設計される。
【0038】
本明細書において使用する「傷害(an injury)後に心組織を修復する」または「傷害(injury)後に心組織を修復する」という語句は、心血管系疾患、心筋梗塞、または他の虚血性事象による傷害のレベルを低下させ、最小化し、または維持さえもする任意の種類の行為または処置を指す。したがって、傷害を修復することは、傷害を低減するための本明細書に記載する処置または行為の非存在下での傷害のレベルと比較して、問題の傷害に関する被験体の状態が悪化せず、改善され得ることを示す。
【0039】
本明細書において使用する「心血管系疾患」または「心臓疾患」は、心臓および/または血管系に影響する一連の疾患または事象を記述するために使用される用語である。心臓疾患の種類には、これだけに限らないが、冠動脈心臓疾患、心筋症、虚血性心臓疾患、心不全、炎症性心臓疾患、心臓弁膜症および動脈瘤が含まれる。心臓疾患は、心臓疾患を診断および/または処置する当業者には公知の臨床的パラメーターおよび/または評価、たとえば身体検査、心血管系疾患の兆候および症状の検出、心電図、心エコー図、胸部X線、心バイオマーカーを検出する血液検査等を使用して評価することができる。臨床的状況において典型的に使用されるバイオマーカーには、これだけに限らないが、心トロポニン(C、TおよびI)、CKおよびCK-MB、ならびにミオグロビンが含まれる。
【0040】
本明細書において使用する「心筋梗塞」または「MI」は心筋の壊死の発生を指し、これは心臓への血液供給の中断によって起こり、酸素の供給と心筋の需要との致命的な不均衡をもたらすことがある。これは冠状脈管における血栓形成を伴うプラークの破裂に起因し、そのため心筋の一部への血液の供給が急激に低減し得る。即ち、感受性アテローム性プラークの破裂に続いて冠状動脈の閉塞または閉鎖が起こる。十分な時間の間に処置されないと、その結果として起こる虚血または血液供給の制限および酸素不足によって、損傷または死、即ち心臓の梗塞が起こり得る。一般に、この損傷は主として不可逆的であり、臨床的治療はこれまでのところ心不全の進行を遅延させ、延命させることを主目的としている。心筋梗塞は、心筋梗塞を診断および/または処置する当業者には公知の臨床的パラメーターおよび/または評価、たとえば身体検査、心筋梗塞の兆候および症状の検出、心電図、心エコー図、胸部X線、トロポニン、CK、およびCK-MB等を含む心バイオマーカーを検出する血液検査等を使用して評価することができる。
【0041】
本明細書において使用する「再灌流」は、虚血性または低酸素になった心臓または心組織(たとえば心筋組織)への血流または血液供給の復元を指す。再灌流の様式には、これ だけに限らないが、閉塞している血栓の化学的溶解、即ち血栓溶解、血管拡張剤の投与、血管形成術、経皮的冠動脈介入(PCI)、カテーテル法および冠状動脈バイパスグラフト(CABG)手術が含まれる。
【0042】
「被験体」または「個体」は、脊椎動物、哺乳動物、またはヒトであってよい。哺乳動物には、これだけに限らないが、家畜、スポーツ動物、ペット、霊長類、マウスおよびラットが含まれる。一態様では、被験体はヒトである。
【0043】
本明細書において他に定義しない限り、本明細書において使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が関連する当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0044】
本明細書において使用する単数形「a」、「an」および「the」は、文脈によって他が明確に指示されない限り、複数の参照を含む。
【0045】
II.本発明の組成物
本明細書において、心外膜由来パラクリン因子(たとえば、低グリコシル化FSTL1等のFSTL1)および1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤または担体を含有する医薬組成物が提供される。
【0046】
一部の実施形態では、心外膜由来パラクリン因子はフォリスタチン様タンパク質1(FSTL1、フォリスタチン関連タンパク質1としても公知)である。FSTL1は、ヒトにおいてFSTL1遺伝子によってコードされるタンパク質である。この遺伝子はアクチビン結合タンパク質であるフォリスタチンとの類似性を有するタンパク質をコードする。FSTL1はFSモジュール(10個の保存されたシステイン残基を含有するフォリスタチン様配列)、Kazal型セリンプロテアーゼ阻害剤ドメイン、2つのEFハンドドメイン、およびフォン・ビルブラント因子C型ドメイン(「Entrez遺伝子」、「FSTL1フォリスタチン様1」)を含有する。他の実施形態では、FSTL1は配列番号1(NCBI参照配列:NP_009016.1)のアミノ酸配列:
【化1】
を含む。
【0047】
FSTL1をコードする核酸は本発明の範囲内で提供され、企図されている。種々の実施形態では、核酸は組換え核酸である。一部の実施形態では、FSTL1は配列番号2(NCBI参照配列:NM_007085.4)の核酸:
【化2】
【化3】
によってコードされる。
【0048】
FSTL1核酸は、当業者には公知の標準的な技法を使用して発現ベクター等のベクターに組み込むことができる。FSTL1、プロモーター、ターミネーターおよび他の配列等の目的の核酸を含むDNA構築物をライゲーションし、それらを好適なベクターに挿入するために使用する方法は、当技術分野で周知である。さらに、ベクターは公知の組換え技法(たとえばInvitrogen Life Technologies、Gatewayテクノロジー)を使用して構築することができる。
【0049】
一部の実施形態では、天然に存在する細胞で現在見出されているよりもはるかに高いレベルでFSTL1核酸を過剰発現することが望ましい場合がある。この結果は、これらのポリペプチドをコードする核酸をマルチコピープラスミドに選択的にクローニングするか、またはこれらの核酸を強力な誘導性もしくは構成性のプロモーター下に入れるかによって達成することができる。所望のポリペプチドを過剰発現するための方法は分子生物学の 技術分野で一般的かつ周知であり、例はSambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、2版、Cold Spring Harbor、2001年に見出すことができる。
【0050】
FSTL1を発現することができる組換え宿主細胞を作成するために種々の宿主細胞を使用することができる。宿主細胞はFSTL1を天然に産生する細胞、またはFSTL1を天然に産生しない細胞であってよい。たとえば、FSTL1を産生させるために、これだけに限らないがチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等の哺乳動物細胞、または心外膜由来細胞培養物を使用することができる。しかし他の実施形態では、組換えFstlを産生させるために、翻訳後にタンパク質をグリコシル化しない生体由来の細胞(即ち、タンパク質を1つまたは複数の炭水化物部分で翻訳後修飾しない細胞)が使用される。
【0051】
翻訳後にタンパク質をグリコシル化しない細胞の非限定的な例には、細菌細胞が含まれる。したがって、一実施形態では、宿主細胞は細菌細胞である。別の実施形態では、細菌細胞はグラム陽性細菌細胞またはグラム陰性細菌細胞である。別の実施形態では、細菌細胞はE.coli、L.acidophilus、P.citrea、B.subtilis、B.licheniformis、B.lentus、B.brevis、B.stearothermophilus、B.alkalophilus、B.amyloliquefaciens、B.clausii、B.halodurans、B.megaterium、B.coagulans、B.circulans、B.lautus、B.thuringiensis、S.albus、S.lividans、S.coelicolor、S.griseus、Pseudomonas sp.、P.alcaligenes、Clostridium sp.、Corynebacterium sp.、およびC.glutamicum細胞からなる群より選択される。
【0052】
FSTL1をコードする核酸またはそれらを含有するベクターは、コードされたFSTL1ポリペプチドを発現させるための標準的な技法を使用して宿主細胞(たとえば細菌細胞)に挿入することができる。DNA構築物またはベクターの宿主細胞への導入は、形質転換、エレクトロポレーション、核マイクロインジェクション、形質導入、トランスフェクション(たとえばリポフェクション媒介性もしくはDEAE-デキストリン媒介性トランスフェクションまたは組換えファージウイルスを使用するトランスフェクション)、リン酸カルシウムDNA沈殿とのインキュベーション、DNA被覆微小発射体による高速度衝撃、およびプロトプラスト融合等の技法を使用して行うことができる。一般的な形質転換技法は当技術分野で周知である(たとえばCurrent Protocols in
Molecular Biology (F. M. Ausubelら編、9章、1987年;Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、3版、Cold Spring Harbor、2001年;およびCampbellら、Curr Genet、16巻、53~56頁、1989年を参照されたい)。これらは特に形質転換の方法に関してそれぞれ参照によりその全体を本明細書に組み込まれる)。導入された核酸は宿主細胞の染色体DNAに一体化され、または染色体外の複製性配列として維持され得る。さらに別の実施形態では、FSTL1ポリペプチドは変異Fstl1グリコシル化欠乏ポリペプチドをコードする化学修飾されたmRNAの送達によって宿主細胞中で産生され得る(Modified mRNA directs the fate of heart progenitor cells and induces vascular regeneration after myocardial infarction.、Zangi Lら、Nat Biotechnol. 2013年10月、31巻(10号)、898~907頁を参照されたい。これは参照によりその全体を本明細書に組み込まれる)。化学修飾されたRNAは、本明細書においてmodRNAとも称されるが、たとえばホスフェートのホスホロチオエートインターヌクレオチド結合への修飾、リボースの2’-ヒドロキシル基の修飾 、またはmRNAのホスフェート骨格もしくは糖部分への他の修飾を含んでよい。
【0053】
一部の実施形態では、FSTL1は低グリコシル化FSTL1である。低グリコシル化FSTL1は、タンパク質を炭水化物部分で天然には翻訳後修飾しない宿主細胞(細菌等、たとえばE.coli)、またはタンパク質を炭水化物部分で翻訳後修飾できないように作出された宿主細胞の中で組換えFSTL1を産生させることによって得られ得る。あるいは、低グリコシル化FSTL1は、通常はタンパク質を炭水化物部分で翻訳後修飾するが、1つまたは複数のグリコシル化阻害剤で処置された哺乳動物または他の真核細胞中で産生させることができる。好適なグリコシル化阻害剤には、限定するものではないがツニカマイシン(これはタンパク質の全てのNグリコシル化をブロックする)、ストレプトビルジン(streptovirudin)、マイコスポシジン(mycospocidin)、アンホマイシン(amphomycin)、ツシマイシン(tsushimycin)、抗生物質24010、抗生物質MM19290、バシトラシン、コリネトキシン、ショウドマイシン、ジュイマイシン(duimycin)、1-デオキシマンノノジリマイシン(deoxymannonojirimycin)、デオキシノジリマイシン(deoxynojirimycin)、N-メチル-1-デオキシマンノジリマイシン(dexoymannojirimycin)、ブレフェルジンA、グルコースアナログ、マンノースアナログ、2-デオキシ-D-グルコース、2-デオキシグルコース、D-(+)-マンノース、D-(+)ガラクトース、2-デオキシ-2-フルオロ-D-グルコース、1,4-ジデオキシ-1,4-イミノ-D-マンニトール(DIM)、フルオログルコース、フルオロマンノース、UDP-2-デオキシグルコース、GDP-2-デオキシグルコース、ヒドロキシメチルグルタリル-CoAリダクターゼ阻害剤、25-ヒドロキシコレステロール、ヒドロキシコレステロール、スワインソニン、シクロヘキシミド、ピューロマイシン、アクチノマイシンD、モネンシン、m-クロロカルボニル-シアニドフェニルヒドラゾン(CCCP)、コンパクチン、ドリシル-ホスホリル-2-デオキシグルコース、N-アセチル-D-グルコサミン、ヒゴキサンチン(hygoxanthine)、チミジン、コレステロール、グルコサミン、マンノサミン、カスタノスペルミン、グルタミン、ブロモコンデュリトール(bromoconduritol)、コンデュリトールエポキシド(conduritol epoxide)、コンデュリトール誘導体、アグリコシルメチル-p-ニトロフェニルトリアゼン、β-ヒドロキシノルバリン、スレオ-β-フルオロアスパラギン、D-(+)-グルコン酸δ-ラクトン、リン酸ジ(2-エチルヘキシル)、リン酸トリブチル、リン酸ドデシル、(ジフェニルメチル)-リン酸の2-ジメチルアミノエチルエステル、[2-(ジフェニルホスフィニルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムヨージド、ヨードアセテート、2-デオキシ-D-グルコース、およびフルオロアセテートが含まれる。
【0054】
あるいは、他の実施形態では、組換えFSTL1は真核細胞または他のグリコシル化能のある宿主細胞を使用して産生された場合にグリコシル化できないように作出される。大部分の生物学的状況では、グリコシル化はN連結またはO連結のいずれかである。N連結グリコシル化プロセスは真核細胞で、および古細菌では広く起こるが、真正細菌では非常に稀である。N連結グリコシル化では、グリカン(即ち炭水化物含有部分)がアスパラギンまたはアルギニンアミノ酸側鎖の窒素原子に付着する。N連結グリカンはほとんど常に、Asn-X-Ser/Thrコンセンサス配列の一部として存在するアスパラギン(Asn)側鎖の窒素原子に付着し、ここでXはプロリン(Pro)、セリン(Ser)およびスレオニン(Thr)以外の任意のアミノ酸である。O連結グリコシル化は真核細胞のゴルジ装置で起こるグリコシル化の形態である。O連結グリコシル化では、グリカンはセリン、スレオニン、チロシン、ヒドロキシリシン、またはヒドロキシプロリンアミノ酸側鎖のヒドロキシル酸素に付着する。
【0055】
したがって、一部の実施形態では、組換えFSTL1はN連結グリコシル化ができない ように作出される。この場合には、ポリペプチド配列中のグリコシル化に適格な一部または全てのアルギニンまたはアスパラギンアミノ酸をグリコシル化に不適格なアミノ酸(たとえばグルタミン)で置換することができる。他の実施形態では、組換えFSTL1はO連結グリコシル化ができないように作出される。この場合には、ポリペプチド配列中のグリコシル化に適格な全てのセリン、スレオニン、チロシン、ヒドロキシリシン、またはヒドロキシプロリン残基をグリコシル化に不適格なアミノ酸(たとえばアラニン)で置換することができる。よりさらなる実施形態では、組換えFSTL1は、グリコシル化に適格な全てのアミノ酸をグリコシル化に不適格なアミノ酸で置換することによって、O連結グリコシル化もN連結グリコシル化もできないように作出される。さらなる実施形態では、FSTL1アミノ酸配列中のX144、X180、X175、および/またはX223位の位置にある1つまたは複数のアスパラギン(N)残基は、グリコシル化に不適格なアミノ酸(たとえば、これだけに限らないが、グルタミン(Q))で置換される。作出されたグリコシル化に不適格なFSTL1は、プラスミド、グリコシル化に不適格なFSTL1をコードする遺伝子を担持したウイルスベクター、または化学合成したmRNAもしくはmRNA模倣体のトランスフェクションによって宿主細胞中で産生することができる。あるいは、グリコシル化に不適格なFSTL1をコードする遺伝子を、誘導性または構成性発現プロモーターの制御の下に宿主細胞の染色体中に一体化することができる。さらに別の実施形態では、グリコシル化に不適格なFSTL1ポリペプチドは、グリコシル化に不適格なFSTL1ポリペプチドをコードする修飾されたmRNAの送達によって、宿主細胞中で産生することができる。
【0056】
ここで述べる発明は、1つまたは複数の薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物(たとえば無菌の医薬組成物)中に組み込まれたFSTL1を企図している。本明細書において使用する、本発明による「薬学的に許容される担体」または「薬学的に許容される賦形剤」は、薬剤または組成物(たとえば、低グリコシル化FSTL1等のFSTL1)の生物学的活性を喪失することなく本発明の薬剤および/または組成物と組み合わせることができ、過度の有害な副作用(たとえば、毒性、刺激、アレルギー応答、および死)がなく、本明細書に提供する被験体における使用に適するという点で組成物の他の成分と適合性がある組成物の担体、希釈剤、または賦形剤等の構成要素である。副作用は、そのリスクが医薬組成物によって提供される利益を上回る場合に「過度」である。薬学的に許容される構成要素の非限定的な例には、限定するものではないがリン酸緩衝食塩溶液、水、無菌水、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、レシチン、ラッカセイ油、ゴマ油、油/水エマルジョンもしくは水/油エマルジョン等のエマルジョン、マイクロエマルジョン、ナノ担体および種々の種類の湿潤剤等の標準的な薬学的担体のいずれかが含まれる。水、アルコール、油、グリコール、保存剤、矯味矯臭剤、着色剤、懸濁剤、その他の添加剤等も、担体、希釈剤、または賦形剤とともに組成物に含まれてよい。一実施形態では、本明細書に開示する組成物における使用に適した薬学的に許容される担体は、無菌で病原体を含まず、ならびに/またはその他、付随する感染および他の過度の有害な副作用のリスクなしに被験体への投与のために安全である。
【0057】
本明細書に開示するFSTL1含有(たとえば低グリコシル化FSTL1含有)医薬組成物のいずれも、当技術分野で利用可能なさまざまな管理方法を使用する投与のために製剤化することができる。投与はパッチ、カテーテル、ステント、経口、直腸、経皮、皮下、静脈内、筋肉内、鼻内、その他を含む種々の経路で可能である。一部の実施形態では、上記の投与方法は、FSTL1を含む懸濁液(たとえば、ゲルフォーム粒子と混合された低グリコシル化FSTL1)の送達に使用することができる。これらの組成物は、注入可能な組成物および経口の組成物の両方として有効である。そのような組成物は、医薬技術分野において周知の様式で調製され、少なくとも1つの活性化合物を含む。経口組成物として用いる場合、ポリペプチド組成物は薬学的に許容される保護剤によって胃における酸消化から保護される。
【0058】
一部の実施形態では、本明細書に開示するFSTL1含有(たとえば低グリコシル化FSTL1含有)医薬組成物のいずれも、心外膜または心筋の損傷を受けた組織に直接投与するために作出されたパッチに組み込むことができる。一実施形態では、低グリコシル化FSTL1を心外膜に直接送達するための三次元(3D)コラーゲンパッチを製造するために圧縮されたコラーゲンゲルが使用される。一部の実施形態では、過剰の水を除去し、改善された生物学的特性および機械的特性を有する緻密な生体材料を製造するために、高度に湿潤化された(hydrated)コラーゲンゲルを圧縮することができる。
【0059】
以下の実施例2に述べるように、高度に湿潤化されたコラーゲンゲルは、約1,400Paの静的圧縮応力を5分間加えることによって制限を受けない圧縮を受け、その結果、体積が約98~99%減少した。圧縮されたコラーゲンの弾性係数は、未熟な心筋細胞の収縮性に最適な胚性心外膜の係数に近似している。圧縮されたコラーゲンパッチの弾性は、約10%未満(たとえば、約9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、または0.5%のいずれか未満であり、これらの百分率の間の全ての値を含む)の最小局所歪みをもたらし、基材に関連するアーチファクトの効果を最小化するために圧入を約100nmとしたフォーストリガー(force trigger)を使用するナノ圧入モードの原子間力顕微鏡(AFM)によって評価することができる。3Dコラーゲンパッチに組換え産生FSTL1(たとえば低グリコシル化FSTL1)を播種した後、たとえば縫合によって、心外膜または心筋の損傷もしくは傷害を受けたエリアに直接投与することができる。一部の実施形態では、3Dコラーゲンパッチは胚性心外膜について報告されたものと同程度の弾性係数(E=約12±4kPa、たとえば、約8kDa、9kDa、10kDa、11kDa、12kDa、13kDa、14kDa、15kDaまたは16kDaのいずれか)を有している。他の実施形態では、3Dコラーゲンパッチは成熟した心外膜(E>30~40kPa)のものより低い弾性係数を有している。他の実施形態では、3Dコラーゲンパッチは線維化した心組織(E>100kPa)のものより低いが、現在使用されている足場の生体材料の大部分(E≦1kPa)のものより高い弾性係数を有している。別の実施形態では、3Dコラーゲンパッチは、約1kPa、2kPa、3kPa、4kPa、5kPa、6kPa、7kPa、8kPa、9kPa、10kPa、11kPa、12kPa、13kPa、14kPa、15kPa、16kPa、17kPa、18kPa、19kPa、20kPa、21kPa、22kPa、23kPa、24kPa、25kPa、26kPa、27kPa、28kPa、または29kPaのいずれかの弾性係数を有する。
【0060】
物質を心臓に直接送達するための3Dコラーゲン系パッチの構築および使用に関するさらなる情報は、Serpooshan, V.ら、Acta Biomater、2010年、6巻、3978~3987頁;Serpooshan, V.ら、J Biomed Mater Res A、2011年、96巻、609~620頁;およびAbou
Neelら、Soft Matter、2006年、2巻、986~992頁に見出すことができ、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0061】
低グリコシル化FSTL1ポリペプチドの心組織への送達のための別の選択肢は、カテーテル技術によって送達される自己重合性ヒドロゲルの構成要素としてである。この種の送達に関するさらなる情報は、Koudstaalら、J. of Cardiovasc. Trans. Res.(2014年)、7巻、232~241頁に見出すことができ、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。FSTL1を含む懸濁液(たとえばゲルフォーム粒子と混合された低グリコシル化FSTL1)についてはカテーテル送達も用いることができる。
【0062】
III.本発明の方法
本明細書において、それを必要とする被験体において傷害後に心組織(たとえば心筋組織)を修復するための方法であって、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子と接触させるステップを含む方法が提供される。一部の実施形態では、心外膜由来パラクリン因子は低グリコシル化フォリスタチン様1(FSTL1)ポリペプチドである。本発明の他の実施形態では、低グリコシル化FSTL1の投与によってAkt-1シグナル伝達活性は活性化されない(図20参照)。本発明の他の実施形態では、低グリコシル化FSTL1の投与によって心筋細胞のアポトーシスの低下はもたらされない(図6参照)。
【0063】
心組織(たとえば心筋組織)への傷害は、心臓または循環系に影響することが公知の種々の疾患または状態を付随することがあり、これには限定するものではないが冠動脈心臓疾患、心筋症、虚血性心臓疾患、心不全、炎症性心臓疾患、心臓弁膜症および動脈瘤が含まれる。一実施形態では、傷害は心筋梗塞(MI、たとえば急性心筋梗塞(AMI))によって引き起こされる。別の実施形態では、傷害は虚血性事象およびそれに続く再灌流によって引き起こされる。
【0064】
傷害を受けた心組織(たとえば心筋組織)の修復には、心筋梗塞のサイズの減少としてのいくつかのイメージング方法(たとえば、遅延強調MRI、DE-MRI)による生きた被験体における間接的尺度であり得る心筋細胞の数を増加させることが含まれる。たとえば(Hendel RCら、JACC 48巻(7号)、1475~97頁)および(Sardella Gら、JACC 2009年、53巻(4号)、309~15頁、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)と接触させることによって、約2%、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、90%、100%または約5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、90~100%のいずれかの、喪失した筋肉の回復および梗塞のサイズの低減がもたらされる。他の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)と接触させることによって、少なくとも約2%、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、90%、100%、または約5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、90~100%のいずれかの、喪失した筋肉の回復および梗塞のサイズの低減がもたらされる。他の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)と接触させることによって、高くても約2%、5%、10%、15%、20%、30%、40%50%、60%、90%、100%、または約5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、90~100%のいずれかの、喪失した筋肉の回復および梗塞のサイズの低減がもたらされる。
【0065】
本明細書に開示する方法のいずれかの一部の実施形態では、心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)は、3Dコラーゲン系パッチ(たとえば、本明細書に記載したもののいずれか)に注入され、播種され、または埋め込まれている。次いでコラーゲン系パッチは心外膜または心筋の傷害を受けたエリア(たとえば、心筋梗塞等の虚血性事象に曝露された心筋のエリア)に直接接触させることができる。3Dコラーゲンパッチは、縫合によって、またはパッチを傷害を受けた組織に接触させるための当技術分野で公知の任意の他の手段によって、心外膜または心筋に適用され得る。
【0066】
さらに他の実施形態では、心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)は、心外膜、心内膜、または心筋の傷害を受けたエリアに送達(たとえばカテーテ ル技術による;参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Koudstaalら、J. of Cardiovasc. Trans. Res.(2014年)7巻、232~241頁))されるヒドロゲルの構成要素である。
【0067】
本明細書に開示する方法のいずれかの一部の実施形態では、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織(たとえば心筋組織)における心筋細胞の数と比較して、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100倍またはそれ超の心筋細胞の数の増加が達成される。心筋細胞の複製の評価は当技術分野で慣用されており、たとえば被験体からの心組織(たとえば心筋組織)試料中のα-アクチニン陽性細胞の数を決定することによって測定できる。一部の他の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)への効果は、たとえばカテーテル技術による送達によって、低グリコシル化FSTL1を心内膜コンパートメント(即ち心内膜)の近傍に配置することによって達成することができる。一部の実施形態では、好適なカテーテルはNOGAカテーテル(Johnson&Johnson)であり得る。
【0068】
一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)への効果は、たとえばBioCardia(www.biocardia.com)によって開発された利用可能なシステムとしての皮下カテーテル送達システムによって低グリコシル化FSTL1を心内膜を通して心臓内に配置することによって達成することができる。
【0069】
一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)への効果は、他の用途に使用されるものと同様のカテーテルデバイス(たとえばEpicardial Catheter System(商標)、St.Jude Medical)を使用して低グリコシル化FSTL1を心外膜を通して心臓内に配置することによって達成することができる。
【0070】
一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)への効果は、薬物希釈ステント(たとえば、とりわけAbbott LaboratoriesまたはBiosensors
Internationalから入手可能なもの)に含浸して低グリコシル化FSTL1を配置することによって達成することができる。
【0071】
一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)への効果は、承認された製剤を使用して低グリコシル化FSTL1を全身に配置することによって達成することができる。
【0072】
一部の実施形態では心組織(たとえば心筋組織)への効果は、容易に利用可能で当業者に公知の内因性グリコシル化FSTL1タンパク質のグリコシル化を阻害する化合物または薬物を使用して低グリコシル化FSTL1を配置することによって達成することができる。
【0073】
一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)への効果は、FSTL1 mRNA配列におけるNグリコシル化部位を標的化する特異的な変異誘発をコードするmodRNAを導入して低グリコシル化FSTL1を配置することによって達成することができる。
【0074】
一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)への効果は、CRISPR/Cas9技術または同様の技術を使用するゲノム編集によって低グリコシル化FSTL1を配置することによって達成することができる(たとえば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Genome editing with Cas9 in adult mice corrects a disease mutation and phenotype. Hao Yinら、Nature Biotechnology 32巻、551~553頁(2014年);doi:10.1038/nbt.2884を参照されたい)。
【0075】
一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)への効果は、低グリコシル化FSTL1を模倣した小分子の送達によって達成される。
【0076】
他の実施形態では、傷害を受けた心組織(たとえば心筋組織)の修復には、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織(たとえば心筋組織)における短縮率の量と比較した心組織(たとえば心筋組織)の短縮率の改善が含まれる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化Fstl1)と接触させることにより、処置前の同一被験体と比較した心組織(たとえば心筋組織)の短縮率において少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、もしくは100%またはそれ超のいずれかの、これらの百分率の間の全ての値を含む改善が得られる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化Fstl1)と接触させることにより、処置前の同一被験体と比較した心組織(たとえば心筋組織)の短縮率において高くても約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%のいずれかの、これらの百分率の間の全ての値を含む改善が得られる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化Fstl1)と接触させることにより、処置前の同一被験体と比較した心組織(たとえば心筋組織)の短縮率において少なくとも約1~100%、5~95%、10~90%、20~80%、30~70%、5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、90~100%のいずれかの、これらの百分率の間の全ての値を含む改善が得られる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化Fstl1)と接触させることにより、処置前の同一被験体と比較した心組織(たとえば心筋組織)の短縮率において高くても約1~100%、5~95%、10~90%、20~80%、30~70%、5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、90~100%のいずれかの、これらの百分率の間の全ての値を含む改善が得られる。傷害を受けた心組織(たとえば心筋組織)の修復には、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織(たとえば心筋組織)における心筋細胞の細胞質分裂の量と比較した心筋細胞の細胞質分裂の量の増大も含まれ得る。一部の実施形態では、一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化Fstl1)と接触させることにより、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、もしくは100%またはそれ超のいずれかの、心筋細胞の細胞質分裂の量の改善が得られる。一部の実施形態では、一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化Fstl1)と接触させることにより、高くても約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%,もしくは100%またはそれ超のいずれかの、心筋細胞の細胞質分裂の量の改善が得られる。一部の実施形態では、一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化Fstl1)と接触させることにより少なくとも約1~100%、5~95%、10~90%、20~80%、30~70%、5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、または90~100%のいずれかの、心筋細胞の細胞質分裂の量の改善が得られる。一部の実施形態では、一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化Fstl1)と接触させることにより、高くても約1~100%、5~95%、10~90%、20~80%、30~70%、5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、または90~100%のいずれかの、心筋細胞の細胞質分裂の量の改善が得られる。心筋細胞の細胞質分裂の評価は当技術分野で慣用されており、たとえば被験体からの心組織(たとえば心筋組織)試料におけるAurora Bキナーゼの発現レベルを決定することによって測定することができる。現在の方法ではこれらの研究は死後または生検後または移植後にのみ実施することができる。
【0077】
一部の実施形態では、傷害を受けた心組織(たとえば心筋組織)の修復には、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織(たとえば心筋組織)における心筋細胞のアポトーシスの量と比較した心筋細胞のアポトーシスの減少が含まれ得る。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)と接触させることにより、心組織(たとえば心筋組織)における心筋細胞のアポトーシスにおいて少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%またはそれ超のいずれかの、これらの百分率の間の全ての値を含む低減が得られる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)と接触させることにより、心組織(たとえば心筋組織)における心筋細胞のアポトーシスにおいて高くても約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%のいずれかの、これらの百分率の間の全ての値を含む低減が得られる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)と接触させることにより、心組織(たとえば心筋組織)における心筋細胞のアポトーシスにおいて少なくとも約1~100%、5~95%、10~90%、20~80%、30~70%、5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、90~100%またはそれ超のいずれかの、これらの百分率の間の全ての値を含む低減が得られる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)と接触させることにより、心組織(たとえば心筋組織)における心筋細胞のアポトーシスにおいて高くても約1~100%、5~95%、10~90%、20~80%、30~70%、5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、または90~100%のいずれかの、これらの百分率の間の全ての値を含む低減が得られる。心筋細胞のアポトーシスの評価は当技術分野で慣用されており(死後またはex vivo、心臓分離後)、たとえば被験体からの心組織(たとえば心筋組織)試料のTUNEL染色によって測定することができる。
【0078】
傷害を受けた心組織(たとえば心筋組織)の修復には、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織(たとえば心筋組織)における心特異的収縮性タンパク質の転写レベルと比較した心筋細胞における心特異的収縮性タンパク質をコードする1つまたは複数の転写物のレベルの増大も含まれ得る。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化Fstl1)と接触させることにより、高くても約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%またはそれ 超のいずれかの、心特異的収縮性タンパク質をコードする1つまたは複数の転写物のレベルの増大が得られる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化Fstl1)と接触させることにより、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%のいずれかの、心特異的収縮性タンパク質をコードする1つまたは複数の転写物のレベルの増大が得られる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化Fstl1)と接触させることにより、少なくとも約1~100%、5~95%、10~90%、20~80%、30~70%、5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、または90~100%のいずれかの、心特異的収縮性タンパク質をコードする1つまたは複数の転写物のレベルの増大が得られる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化Fstl1)と接触させることにより、高くても約1~100%、5~95%、10~90%、20~80%、30~70%、5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%,または90~100%のいずれかの、心特異的収縮性タンパク質をコードする1つまたは複数の転写物のレベルの増大が得られる。一部の実施形態では、心特異的収縮性タンパク質は、myh6、mlc2v、およびmlc2aからなる群より選択される。心特異的収縮性タンパク質転写物の評価は当技術分野で慣用されており、たとえばノーザンブロット、ウェスタンブロット、逆転写酵素(RT)PCR、FACS解析、免疫組織化学検査、またはin situハイブリダイゼーションによって測定することができる。
【0079】
傷害を受けた心組織(たとえば心筋組織)の修復には、心筋細胞における律動的収縮性Ca2+を伴うアクチニン細胞の増加が含まれ得る。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化Fstl1)と接触させることにより、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織(たとえば心筋組織)における律動的収縮性Ca2+を伴うアクチニン細胞の数と比較して、心筋細胞における律動的収縮性Ca2+を伴うアクチニン細胞の量において約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100倍、またはそれ超のいずれかの増大が得られる。心筋細胞における律動的収縮性Ca2+を伴うアクチニン細胞の評価は当技術分野で慣用されている(以下の実施例1を参照されたい)。
【0080】
傷害を受けた心組織(たとえば心筋組織)は、心組織(たとえば心筋組織)への傷害の前、その間、またはその後に、本明細書に開示する心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)の組成物(たとえば医薬組成物)のいずれかと接触させることができる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)は、心血管系疾患、MI、または別の心筋虚血性事象のリスクがあると見なされる被験体において、事象による心筋の傷害を軽減または予防するために、心外膜由来パラクリン因子組成物と接触させる。他の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)は、心血管系疾患またはMIによって引き起こされる虚血性事象の開始の直後、たとえば、約1分、2分、3分、4分、5分、6分、7分、8分、9分、10分、11分、12分、13分、14分、15分、16分、17分、18分、19分、20分、21分、22分、23分、24分、25分、26分、27分、28分、29分、30分、45分、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、4時間、4.5時間、5時間5.5時間、6時間、6.5時間、7時間、7.5時間、8時間、8.5時間、9時間、9.5時間、10時間、10.5時間、11時間、11.5時間、または12時間あるいはそれ超(これらの値の間の全ての期間を含む)の後、心外膜由来パラクリン因子組成物と接触させる。一部の実施形態では、組 成物は心傷害の後、1分未満で投与される。あるいは、他の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)は、心血管系疾患またはMIによって引き起こされる虚血性事象の開始の後、たとえば、少なくとも12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、または1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、3週間、1カ月、2カ月、3カ月、4カ月、6カ月、7カ月、8カ月、9カ月、10カ月、11カ月、または1年もしくはそれ超(これらの値の間の全ての期間を含む)、傷害に引き続いて心外膜由来パラクリン因子組成物と接触させる。
【0081】
本明細書に開示する心組織(たとえば心筋組織)への傷害を処置する方法のいずれも、傷害後の被験体において生存を増大させることができる。本明細書において使用する生存の増大には、ここに述べた方法の対象でなかった被験体における相対的生存と比較して、被験体の生存において、たとえば少なくとも約5%(たとえば少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、150%もしくは200%超またはそれ超)の増大が含まれる。生存期間は、たとえば日、週、月、または年で測定することができる。一部の実施形態では、傷害を受けた心組織(たとえば心筋組織)を本明細書に記載の方法のいずれかによる心外膜由来パラクリン因子と接触させることにより、被験体の生存を少なくとも6カ月、7カ月、8カ月、9カ月、10カ月、12カ月、18カ月、24カ月、36カ月、またはそれ超、伸ばすことができる。
【0082】
一部の実施形態では、傷害を受けた心組織(たとえば心筋組織)の修復には、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織(たとえば心筋組織)における線維化の量と比較した心組織(たとえば心筋組織)における線維化の減弱または低下が含まれ得る。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)と接触させることにより、心組織(たとえば心筋組織)の線維化において、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%またはそれ超のいずれかの、これらの百分率の間の全ての値を含む低減が得られる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)と接触させることにより、心組織(たとえば心筋組織)の線維化において、高くても約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%のいずれかの、これらの百分率の間の全ての値を含む低減が得られる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)と接触させることにより、心組織(たとえば心筋組織)の線維化において、少なくとも約1~100%、5~95%、10~90%、20~80%、30~70%、5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、または90~100%のいずれかの、これらの百分率の間の全ての値を含む低減が得られる。心筋細胞の線維化の評価は当技術分野で慣用されており、DE-MRIによって、または心組織(たとえば心筋組織)の組織学的検査(死後、または生検)によって測定することができる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)と接触させることにより、心組織(たとえば心筋組織)の線維化において、高くても約1~100%、5~95%、10~90%、20~80%、30~70%、5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、または90~100%のいずれかの、これらの百分率の間の全ての値を含む低減が得られる。心筋細胞の線維化の評価は当技術分野で慣用されてお り、DE-MRIによって、または心組織(たとえば心筋組織)の組織学的検査(死後、または生検)によって測定することができる。
【0083】
傷害を受けた心組織(たとえば心筋組織)の修復には、心組織(たとえば心筋組織)の傷害を受けた領域の血管新生の増大がさらに含まれ得る。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)と接触させることにより、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織(たとえば心筋組織)における血管新生の相対量と比較して、心組織(たとえば心筋組織)中の血管新生の量において少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%またはそれ超のいずれかの回復または血液灌流の増大が得られる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)と接触させることにより、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織(たとえば心筋組織)における血管新生の相対量と比較して、心組織(たとえば心筋組織)中の血管新生の量において高くても約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%のいずれかの回復または血液灌流の増大が得られる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)と接触させることにより、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織(たとえば心筋組織)における血管新生の相対量と比較して、心組織(たとえば心筋組織)中の血管新生の量において少なくとも約1~100%、5~95%、10~90%、20~80%、30~70%、5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%または90~100%のいずれかの回復または血液灌流の増大が得られる。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1)と接触させることにより、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織(たとえば心筋組織)における血管新生の相対量と比較して、心組織(たとえば心筋組織)中の血管新生の量において高くても約1~100%、5~95%、10~90%、20~80%、30~70%、5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%または90~100%のいずれかの回復または血液灌流の増大が得られる。心組織(たとえば心筋組織)における血管新生の評価は当技術分野で慣用されており、血管細胞中のフォン・ビルブラント因子(vWF)または平滑筋アクチン等のタンパク質の発現を測定することによって評価することができる(以下の実施例4を参照されたい)。
【0084】
さらなる実施形態では、傷害を受けた心組織(たとえば心筋組織)の修復には、心筋細胞の細胞周期のエントリーの増大が包含される。一部の実施形態では、心組織(たとえば心筋組織)を心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化Fstl1)と接触させることにより、傷害後に心外膜由来パラクリン因子が接触しなかった心組織(たとえば心筋組織)における心筋細胞の細胞周期のエントリーの量と比較して、心組織(たとえば心筋組織)における心筋細胞の細胞周期のエントリーの量において少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100倍、またはそれ超のいずれかの増大が得られる。心組織(たとえば心筋組織)における心筋細胞の細胞周期のエントリーの評価は当技術分野で慣用されており、たとえばホスホ-ヒストンH3の発現を測定することによって評価することができる(以下の実施例5を参照されたい)。
【0085】
本明細書に開示する方法のいずれかの一部の実施形態では、心外膜由来パラクリン因子 (たとえば低グリコシル化Fstl1)は、3Dコラーゲン系パッチ(たとえば、本明細書に記載したもののいずれか)に注入され、播種され、または埋め込まれている。次いで、コラーゲン系パッチは心外膜または心筋の傷害を受けたエリア(たとえば、心筋梗塞等の虚血性事象に曝露された心筋のエリア)に直接接触させることができる。3Dコラーゲンパッチは、縫合によって、またはパッチを傷害を受けた組織に接触させるための当技術分野で公知の任意の他の手段によって、心外膜または心筋に適用され得る。
【0086】
さらに他の実施形態では、心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化Fstl1)は、心外膜、心内膜、または心筋の傷害を受けたエリアに(たとえばカテーテル技術;Koudstaalら、J. of Cardiovasc. Trans. Res.(2014年)7巻、232~241頁)によって送達されるヒドロゲルの構成要素である。
【0087】
IV.キット
本明細書において、(i)心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1ポリペプチド);および(ii)1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含むキットも提供される。これらのキット構成要素の一方または両方は、必要な個体(たとえば、MI等の心傷害を有する個体)に投与できるように無菌にすることができる。キットは、被験体への投与の前に心外膜由来パラクリン因子を播種または注入できる3Dコラーゲンパッチ(たとえば、本明細書に開示したもののいずれか)を任意選択で含有してもよい。あるいは、予め播種した、または予め注入した3Dコラーゲンパッチを、それを必要とする被験体の傷害を受けた心組織(たとえば心筋組織)または心外膜への使用および適用に関する指示とともに、キットに含ませてもよい。キットは、限定するものではないが縫合材料等の、3Dコラーゲンパッチを心外膜または傷害を受けた心組織(たとえば心筋組織)に接着させる手段をさらに含んでもよい。
【0088】
本明細書に開示するキットのいずれも、心外膜由来パラクリン因子(たとえば低グリコシル化FSTL1ポリペプチド)のための担体としてヒドロゲル(たとえば自己重合性ヒドロゲル)を含んでもよい。一実施形態では、キットは心内膜、心外膜、および/または心筋の1つもしくは複数の損傷を受けたエリアにヒドロゲル(たとえば、低グリコシル化FSTL1ポリペプチドが注入されたヒドロゲル)を送達するための1つまたは複数のカテーテルも含んでもよい。
【0089】
キットは、心外膜由来パラクリン因子を3Dコラーゲンパッチに注入し、パッチを心筋または心外膜に縫合し、心外膜由来パラクリン因子をヒドロゲル(たとえば自己重合性ヒドロゲル)に注入するため、ならびにカテーテル技術によって心外膜または心筋の1つもしくは複数の損傷を受けたエリアにヒドロゲルを送達するための指示等の、キットの使用のための指示も含んでもよい。
【0090】
本明細書を通して示される最大の数値限定の全ては、より低い数値限定が本明細書に明示的に記載されているかのように、より低い数値限定の全てを含むことが意図されている。本明細書を通して示される最小の数値限定の全ては、より高い数値限定が本明細書に明示的に記載されているかのように、より高い数値限定の全てを含むことになる。本明細書を通して示される数値範囲の全ては、より狭い数値範囲が全て本明細書に明示的に記載されているかのように、より広い数値範囲の中に含まれるより狭い数値範囲の全てを含むことになる。
【0091】
本発明は、説明のために提供され、限定することを意味するものではない以下の実施例を参照することによって、さらに理解することができる。
【実施例0092】
(実施例1:心外膜パラクリンシグナル伝達は心筋細胞の増幅を活性化する)
心臓の心外膜は、前駆細胞1、2ならびにFGF、IGF2、およびPDGFを含む有糸分裂促進因子3~5を提供することにより、発生中の心筋の成長に寄与する外部上皮層である。最近の研究により、心外膜は、おそらく筋原性前駆体の供給源として傷害後の成体心筋の機能を維持することもできることが示唆されている6、7。しかし、心外膜由来パラクリン因子が、哺乳動物における心筋の再生を支持することは示されていないが、それらの正体および作用機序は、この十分に理解されていない、本質的に非効率なプロセスに対する洞察を提供すると思われる。この実施例は、そのような心外膜由来パラクリン因子の同定を説明する。
【0093】
材料および方法
前駆細胞Sca1,Myh6の心筋細胞の前駆体を、記載されたように19、Schneider laboratoryにより得た。
【0094】
心外膜の中皮細胞(EMC)を、記載されたように33、10%FBSおよび抗生物質/抗真菌剤を含むDMEM中で維持した。EMCは、核標識化のために、H2B-mCherryレンチウイルスを安定に形質導入される。
【0095】
マウス胚性幹細胞由来心筋細胞(mCMsESC):心筋細胞の薬物抵抗性選択のために安定なマウスESC株(Myh6-Puror;Rex-Blastr)を、本発明者らが前に報告したヒトの株34と同様に、レンチウイルスの形質導入およびブラストサイジン選択により産生させた。
【0096】
mCMsESCは、10%FBS、2mMグルタミン、4.5×10-4Mモノチオグリセロール、0.5mMアスコルビン酸、200μg/mLトランスフェリン(Roche)、5%タンパク質を含まないハイブリドーマ培地(PFHM-II、Invitrogen)および抗生物質/抗真菌剤を補充したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)を含有する分化培地中で、4日目までに胚様体(EB)として、Myh6-Puror、Rex-Blastr mESCの分化により得て、9日目、即ち、自発的鼓動開始の1日後まで、付着性の細胞培養プレート上でプレーティングした。Myh6心筋細胞を精製するために、ピューロマイシンを分化の9日目に24時間添加した。その後、細胞をトリプシン処理して単層の心筋細胞としてプレーティングした。馴化培地およびFSTL1処置を、通常は単層のプレーティングの24時間後に実施した。処置の長さを各図の凡例に示す。
【0097】
胚性心筋細胞。蛍光活性化細胞選別(FACS)を使用して、e12.5胚由来のTnt-Cre;Rosa26mTmG/+心臓から心筋細胞を精製した。心臓をコラゲナーゼIV消化で解離して、GFP細胞をFACS精製した。GFP細胞を培養して心筋細胞に特異的なマーカーであるアルファアクチニン(ACTN2)および心トロポニンT(TNNT2)の発現により、心筋細胞であることを確認した。それらは、in vitroで培養したときに、律動的に鼓動した。
【0098】
ラットの心外膜の中皮細胞(EMC)馴化培地。EMC33細胞を、ペニシリン/ストレプトマイシンを含む10%FBS DMEM中で、コンフルエント(約1×10/cm)になるまで培養して、次いでPBSで3回洗浄し、培地を、フェノールレッドを含まず、ペニシリン/ストレプトマイシンを含む、無血清DMEMに交換してさらに2日間培養した後、培地を馴化培地として採取した(馴化するために培地を20ml添加して、2日後に18mlを採取する)。採取された培地を0.22μmの細孔膜(Millipore)を通して濾過した。対照の馴化培地を、同様であるが、EMC細胞を含まないで 調製した。
【0099】
成体マウスのEPDC馴化培地を、Zhou laboratoryで産生させた。簡単に説明すると、週齢8週の成体Wt1CreERT2/+;Rosa26mTmG/+心臓マウスに、経口的に4mgのタモキシフェンを経管栄養により注入して、2週間の期間に4から5回経口注入で投与した。次いで、(週齢11週の)成体マウスで、左前下行冠状動脈の結紮により心筋梗塞を誘起した。傷害の1週間後に、Wt1CreERT2/+;Rosa26mTmG/+心臓を採取して、次いでそれをコラゲナーゼIVで消化して単一細胞にした。消化溶液は、4mlの1%コラゲナーゼIVおよび1mlの2.5%トリプシンを44.5mlのハンクス平衡塩類溶液に添加して、0.5mlのニワトリ血清および0.5mlのウマ血清を補充することにより作成した。細胞をハンクス平衡塩類溶液中に再懸濁し、4mlの消化溶液を各チューブに添加して37℃の振盪機中で6分間穏やかに揺り動かした。解離した細胞を含有する上清を除去した後、別の4mlの消化溶液を添加して消化を6回繰り返した。最終の消化後、細胞を70μmフィルターを通して濾過し、細胞を200gで5分間4℃で遠心分離することによりペレットにした。次いで細胞を、FACS単離のためにハンクス平衡塩類溶液により再懸濁した。GFP心臓から解離した細胞をFACSにおけるゲート設定のための対照として使用した。GFP+細胞(心外膜由来細胞、EPDC)を、GFPWt1CreERT2/+;Rosa26mTmG/+心臓からFACSにより単離して、これらのGFPの精製された集団が、蛍光顕微鏡下でGFP細胞であることを確認した。FSTL1の発現(PCRにより決定された)は、培養されたGFP+EDPC中で復元された。EPDCからの完全な馴化培地を、次いで筋細胞アッセイに添加した。希釈は図の凡例に示した通りである。
【0100】
馴化培地で処置された心筋細胞の増殖を、以前記載されたように、Celltiter 96 Aqueous One溶液(Promega)を使用してMTTアッセイにより測定した。Celltiter 96 Aqueous One試薬を細胞培養培地中に添加した後、プレートを37℃で3~4時間インキュベートして、次いで吸光度を490nmで96ウェルのプレートリーダーを使用して記録した。490nmにおける吸光度は、細胞数と密接に相関する。y軸上のMTT読み出し、標識されたMTTアッセイ(A490)は、したがって、処置群間の各ウェルからの細胞の相対数を反映する。
【0101】
カルシウムイメージング:収縮性カルシウムトランジェントを、Fluo4 NWカルシウム指示薬(Life Science)を使用するKinetic Image Cytometer(KIC、Vala Sciences)を使用して記録した。データをKIC解析パッケージ(Vala Sciences)を含有するCyteseerソフトウェアを使用して、記載されたように38処理した。
【0102】
RNA抽出およびQ-RT-PCR:総RNAをTRIzol(Invitrogen)で抽出して、QuantiTect逆転写キット(Qiagen)を用いて、メーカーの指示に従ってcDNAに逆転写した。100ngの総RNAから合成されたcDNA試料を、LightCycler 480リアルタイムのPCRシステム(Roche)を用いて実施するLightCycler 480 SYBR Green I Masterキット(Roche)を用いてRT-QPCRに供した。この実施例ならびに本明細書で開示される他の実施例で使用されたプライマーの配列を下に列挙する。
【表1-1】
【0103】
結果
心臓発生を促進する心外膜シグナルを探るために、心外膜の中皮細胞(EMC)株を、Myh6マウス胚性幹細胞(ESC)由来心筋細胞(mCMsESCと称される)と共培養した。mCMsESCは、分化したMyh6-PuroマウスESCのピューロマイシン選択から調製した(詳細および細胞の表現型については図8および材料および方法)。EMCとの共培養は、α-アクチニン筋細胞の数(図1a~c)ならびにMyh6、Myh7、Mlc2aおよびMlc2vを含む心筋細胞マーカーの発現(図1d)を一貫して増大させた。希釈されていないEMC馴化培地は、筋細胞の数(2.4倍のα-アクチニン細胞が検出された、図1e~g)ならびにMyh6(1.8倍)、Mlc2v(1.9倍)、およびMlc2a(1.3倍)の発現(図1h)を増大させることにより、共培養の効果を再現した。さらに、EMC馴化培地は、律動的収縮性Ca2+のトランジェントを示したα-アクチニン細胞の数を、標準的な培地と比較して増加させた(8.6倍)(図1i)。したがって、心外膜様の培養物から分泌された因子(複数可)は、ESC由来心筋細胞培養物中の収縮性細胞の数を増加させた。共培養は、未分化の(Myh6-)ESCの心臓発生を促進しなかった(示していない)。
【0104】
成体の心外膜もそのような活性を含有するかどうかを評価するために、月齢3~4カ月のWT1CreERT2/+;Rosa26mTmG/+マウスからFACSで単離された心外膜由来細胞(EPDC)からの馴化培地を調製した(図1jおよび材料および方法)。E12.5胚性心筋細胞(やはり、前にeGFP蛍光に基づいてTNT-Cre;Rosa26mTmG/+マウスからFACSで単離された)に添加すると、成体EPCD馴化培地は、無血清培地中における心筋細胞の増殖を有意に増強した(p<0.05、図1k)。インキュベーション前にEPDC培地を煮沸させると、効果が失われ、本質的な活性がタンパク質性であることと矛盾しなかった。EPDC馴化培地は、隣接するTnnt2細胞に接続する分裂溝中におけるAurora Bキナーゼの出現率をほとんど倍増させ(0.19%~0.33%、P<0.05、図1l、m)、胚性心筋細胞の細胞質分裂を促進する、成体心外膜における活性を示した。
【0105】
(実施例2:作出された心外膜は、リモデリングを減弱させて心機能を改善する)
この実施例は、成体心臓における心外膜により分泌された因子の効果を説明する。
【0106】
材料および方法
成体心室筋細胞を、月齢3カ月のFVBマウスから、以前公開されたようにして35単離した。簡単に説明すると、マウスをペントバルビタールナトリウム(100mg/kg、ip)で麻酔した。心臓を取り出して、Ca2+を含まない溶液(mMで、120のNaCl、14.7のKCl、0.6のKHPO、0.6のNaHPO、1.2のMgSO-7HO、4.6のNaHCO、10のNa-HEPES、30のタウリン、10のBDM、5.5のグルコース)を用いて37℃で逆方向に灌流し、続いてコラゲナーゼで酵素的に消化した。心室を小片に切ってさらに消化した。停止緩衝液(Ca2+を含まない溶液+CaCl 12.5μM+10%仔牛血清)を添加して、細胞懸濁液を40gで3分間遠心分離した。筋細胞を、1mMになるまでCaCl2濃度を増大させて、停止緩衝液中に再懸濁させた。次いで、細胞をMEM+5%仔牛血清+10mM BDM+2mM L-グルタミン中に再懸濁させて、コラーゲン溶液に添加し、予備的に重合させた(1mlあたりまたは1パッチあたり250,000細胞)。コラーゲンのゲル化および塑性圧縮に続いて、細胞のパッチを前に述べた(プレーティング)培地中で終夜培養して、次いで培養培地(MEM+1mg/mlウシ血清アルブミン+25μMブレビスタチン+2mM L-グルタミン)中に、組換えFSTL1(AVISCERA BIOSCIENCE、10ng/ml)の存在または非存在下で移した。7日目に、蛍光性ユビキチン化に基づく細胞周期インジケーター(FUCCI、Premo(商標)FUCCI細胞周期センサー、Life Technologies、US)アッセイを、前に記載されているように36、3D培養検体に対して実施した。このアッセイにおいて、G1およびS/G2/M細胞は、赤色および緑色の蛍光を、それぞれ発する。Premo(商標)geminin-GFPおよびPremo(商標)Cdt1-RFPの体積は、下の方程式を使用して計算した。
【化4】
式中、細胞の数は、細胞標識時における細胞の推定された総数である(CM播種密度に等しい)、PPC(1細胞あたりの粒子)は1細胞あたりのウイルス粒子数(=40、このアッセイでは)であり、1×10は、試薬の1mLあたりのウイルス粒子の数である。上で計算された体積の試薬を、細胞のパッチに完全細胞培地中で直接添加し、穏やかに混合して、培養インキュベーター中で終夜インキュベートした(≧16時間)。パッチ試料を、従来の蛍光顕微鏡を使用し、GFPおよびRFPフィルターセットを利用してイメージングした。
【0107】
作出された心外膜のパッチとして使用するための圧縮されたコラーゲンゲル:高度に湿潤化されたコラーゲンゲル(この研究で心パッチとして使用された)は、1.1mlの1×DMEM(Sigma、MO、US)を0.9mlの無菌ラット尾I型コラーゲン酢酸溶液(3.84mg/ml、Millipore、MA、US)に添加することにより製造した。生じた2mlコラーゲン-DMEM混合物を十分混合して、0.1MのNaOH(約50μl)で中和した。全プロセスを、コラーゲンの早すぎるゲル化を回避するために、氷上で実施した。心外膜因子を含有するパッチの場合には、EMC培養培地を上のように採取して、その0.6mlを0.5mlのDMEMと混合した。次いで、コラーゲン溶液(0.9ml)を24ウェルプレートのウェル(直径15.6mm)中に分配して、重合させるために、組織培養インキュベーター中で30分間37℃に置いた。塑性圧縮を以前に記載されたように39、40実施して、過剰の水を除去し、改善された生物学的および機械的特性を有する緻密な生体材料を製造する。簡単に説明すると、注型されたとき に、高度に湿潤化されたコラーゲンゲル(約0.9mlの体積で)は、約1,400Paの静的圧縮応力を5分間加えることにより、制限を受けない圧縮を受けて(詳細については、39、41を参照されたい)、約98~99%の体積減少をもたらす。未熟な心筋細胞の収縮性のために最適な32、胚性心外膜の係数に近似することを目標とした圧縮されたコラーゲンの弾性係数を、原子間力顕微鏡(AFM)によりナノ圧入モードで、10%未満の最小局所歪み(約100nmの圧入)を生じるフォーストリガーを使用して、基材に関連するアーチファクトの効果を最小化して評価した。特製の平坦なAFMチップを、集束イオンビームフライス加工(ion beam milling)を使用して製造して、90μm×90μmの面積を走査することによりゲルの剛性を調査するために利用した(図9a~c)。
【0108】
永久的LAD閉塞(MI):雄の週齢10~12週のC57BL/6Jマウスを、Jackson Laboratories(Bar Harbor、ME、US)から購入した。動物の使用および手術を含む手順は、Stanford Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC)により承認された。動物の世話および介入は、実験動物福祉法(Laboratory Animal Welfare Act)に従って提供された。イソフルラン吸入チャンバーを使用して、マウスを麻酔して気管内に22ゲージの血管カテーテル(Becton、Dickinson Inc.、Sandy、Utah)を使用して挿管し、小動物体積制御人工呼吸器(Harvard Apparatus、Holliston、MA)に接続した。左開胸を第4肋間隙を通して実施して、肺を収縮させて心臓を露出させた。心膜を開いた後、7-0縫合糸を置いて左前下行動脈(LAD)を、左心房の縁の下約2mmで閉塞した。結紮は、LV壁が青白くなったときに成功したとみなした。パッチで処置した実験群の場合には、結紮後直ちに、調製したコラーゲンパッチを虚血性心筋の表面上に縫合した(2箇所で)。動物を、回復するまで加熱パッド上に保った。別の群のマウスは、偽結紮を受けた。それらはLAD結紮なしで同様な手術手順を受けた。各研究群において、n=8の最小数を使用した。
【0109】
TTC染色:MI/パッチ処置後2日目に、4群全てからマウス心臓を収集して、長軸に垂直に4切片(厚さ約2mm)に切断した。切片を12ウェルの細胞培養プレートのウェルに入れて、1%2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC、Sigma-Aldrich)溶液で15分間37℃でインキュベートした。その後、切片をPBSで洗浄して、立体顕微鏡を使用して可視化し、デジタルカメラで写真撮影した。
【0110】
心エコー:in vivoにおける心臓機能を、LAD結紮の2および4週間後に心エコーにより評価した。2次元(2D)解析を、13MHz変換器を備えたGE Vivid 7超音波プラットホーム(GE Health Care、Milwaukee、WI)を使用して、マウスで実施した。マウスをイソフルランで鎮静させ(100mg/kg、吸入)、胸部を剃毛した。マウスは、心エコーを容易にするために、加熱プラットホーム上に仰臥にまたは左横方向の臥位に置いた。2DクリップおよびMモードの画像を、乳頭筋の尖端で中央左心室からの短軸視野で記録した。LV内径(LVID)および後壁厚さ(LVPW)を拡張末期および収縮末期の両方で測定した。短縮率(FS、%)および駆出率(EF、%、2Dデータの外挿による)を、2Dの短軸視野におけるLVの寸法から計算した。実験群あたり8匹のマウスの最小数(n)をエコー評価のために使用した。測定は、2つの独立の群によって盲検様式で実施した。
【0111】
結果
次に、成体の心臓における心外膜により分泌された因子の効果を、心外膜の3Dコラーゲンパッチを使用して馴化培地を送達することにより、評価した。3Dコラーゲンパッチ(図2a)は、胚性心外膜について報告された弾性係数(E 約12±4kPa)10に 匹敵する弾性係数を有するように設計した。これは、成熟心外膜(E>30~40kPa)および線維化心組織(E>100kPa)のものより低いが、現在使用されている足場の生体材料の大部分(E≦1kPa)のものより高い(図2bおよび図9)。作出されたパッチに、EMC馴化培地を播種して、梗塞した成体マウスの心臓の心外膜上に縫合した(図2c、d)。パッチの埋植は、左前下行(LAD)冠状動脈の永久的結紮(心筋梗塞(MI))後直ちに実施した。2週間後に、心外膜-培地-パッチ(MI+パッチ+CMコホート)および空のパッチ(MI+パッチ、馴化培地なし)で処置した心臓は、MIのみの動物と比較して、拡張末期および収縮末期における左心室の内径(それぞれLVIDdおよびLVIDs)、ならびに拡張末期および収縮末期における左心室の後壁寸法(それぞれLVPWdおよびLVPWs)を含む、有意に優れた形態計測パラメーターを示し(図2eおよび表1)、コラーゲンパッチが病的リモデリングを阻害する機械的支持を提供するモデル10と一致した。特に、MI+パッチ+CM処置は、心室の収縮性の有意に優れたパラメーターを有するという、全ての他の条件と比較して追加の利益を提供し(図2e、fおよび表1)、したがって機能維持に関与する、心外膜により分泌された活性を示した。
【0112】
(実施例3:FSTL1は、心筋細胞の増殖を誘起することができる心外膜の因子である)
この実施例は、FSTL1が心筋形成を促進する心外膜と心筋とのクロストークにおいて役割を演じることを示唆するデータを提供する。
【0113】
材料および方法
馴化培地のLC-MS/MS解析:最初に、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)を1mLの馴化培地に10mMになるように添加して、タンパク質試料を37℃で30分間還元した。次いでヨードアセトアミドを20mMになるように添加して、溶液を37℃で40分間暗所でアルキル化した。次いで、質量分析グレードのトリプシン(Promega)を溶液に1:100の比で添加した。終夜37℃で消化した後、次いでSepPackカートリッジを使用して試料を脱塩し、SpeedVacを使用して乾燥して、100μLの5%ギ酸中に再懸濁した。生じたペプチドを、Michrom HPLC、15cmのMichrom Magic C18カラム、低流量ADVANCED Michrom MS源、およびLTQ-Orbitrap XL(Thermo
Scientific、Waltham、MA)からなるLC-MSMSシステムによりオンラインで解析した。120分、0~30%B(0.1%ギ酸、100%アセトニトリル)の勾配を使用してペプチドを分離して、総LC時間は141分であった。LTQ-Orbitrap XLをセットして、前駆物質をOrbitrapで、60,000の分解能で走査した後、上位の4種の前駆物質のデータ依存MS/MSを行った。次いで、IPIラットタンパク質データベースに対してタンパク質を同定するために、2箇所までの切断ミス(missed cleavages)の許容値および50.0ppmの前駆物質の質量許容差で、半トリプシンによって生じたペプチドの配列を含有する粗LC-MSMSデータをSorcerer Enterprise(Sage-N Research Inc.)に提出した。カルボキシアミドメチル化を説明するために、57Daの分子量を全てのシステインに加えた。差分検索はメチオニン酸化のための16Daを含む。検索結果を吟味し、分類し、選別して、PeptideProphetおよびProteinProphet(ISB)を使用して統計的に解析した。タンパク質およびペプチドのための最少トランス-プロテオミクスのパイプライン(TPP)の確率スコアは、0.01未満のTPP誤差率を保証するために、それぞれ0.95に設定した。
【0114】
組換えFSTL1は、AVISCERA BIOSCIENCE(00347-02-100、E.Coliで産生される)およびR&D system(1694-FN-050、マウス骨髄腫細胞株で産生される、NS0由来)から購入した。
【0115】
組織学および免疫組織化学検査:この実施例および他の実施例についての組織学的解析は、パラフィン包埋についての標準的プロトコールに従って実施した。免疫組織化学検査のためには、特に断りのない限り、包埋された胚を7μmの厚さで切片にした。この実施例および本明細書で開示された他の実施例で使用された抗体は、以下の通りである:1:200α-アクチニン(Sigma、A7811)、1:300α-平滑筋アクチン(Sigma A2547)、1:100ホスホ-ヒストン3(ウサギMillipore 06-570)、1:300ホスホ-ヒストン3(マウスAbcam ab14955)、1:100WT1(Abcam、ab15249)、1:250AuroraB Millipore04-1036(バッチ221196)、1:200PCM1(Sigma-Aldrich HPA023370)、1:200FSTL1(R&D、MAB17381)。1種の染色あたり、組織学研究のために少なくとも5個および免疫組織化学研究のために3個の切片を、それぞれ使用した。パッチ生着のための包含基準は、パッチが梗塞の>70%を覆うことであった(組織学により制御される)。TUNELアッセイを、指示されるように(Roche 11684795910)凍結した切片に対して実施した。
【0116】
結果
生物活性の心外膜に分泌されたタンパク質(複数可)を同定するために、EMC馴化培地を質量分析により解析した。スペクトルをIPIラットデータベースと比較して、311種の固有のタンパク質に対応する1596種のペプチドの読み取りを同定したが、そのうち95種の読み取りは、16種の別個の分泌されたタンパク質に起因していた。最高のスペクトルカウントを有する10種のタンパク質を、mCMsESCアッセイで試験するために選択した。これらについて、心原性活性は、フォリスタチン様-1(FSTL1、FRPまたはTSC36としても公知)でのみ認められ(図3a)、それは、単一のシステインに富むドメインをフォリスタチンと共有する、BM-40/SPARC/オステオネクチンファミリーの分泌型糖タンパク質である。フォリスタチンとは異なり、FSTL1はアクチビンをブロックせず、その生化学的および生物学的機能は、十分に特徴付けられていない11。心臓におけるFSTL1の送達は、短期の抗アポトーシス効果を生じるが12、13、心筋の修復機能がFSTL1に帰することはなく、実際、FSTL1レベルは、急性MI後に血流中で増大するので、この理由で、それは、急性冠動脈症候群のためのバイオマーカーと考えられてきた14
【0117】
mCMsESCを細菌で合成された組換えヒトFSTL1(10ng/ml)で8日間処置すると、心筋細胞の数が3倍に増加し(図3b~d)、同様に、心特異的収縮性タンパク質をコードする転写物のレベルが2倍に増加し(myh6、mlc2v、およびmlc2a、図3e)、律動的収縮性Ca2+のトランジェントを有するα-アクチニン細胞の数が7倍に増加したが(図3f)、肥大は誘起されなかった。実際、FSTL1は用量依存的に筋細胞のサイズを減少させた(図3g)。同時に、これらのデータは、FSTL1が、心筋形成を促進する心外膜と心筋とのクロストークにおいて役割を演じることを示唆する。
【0118】
免疫染色による直接可視化により、FSTL1は、妊娠中期に早くも心外膜に限定されるが(図3h)、それはそれより早く初期の心臓管の心筋に存在することが明らかになった15。心外膜の発現は以前には注目されていなかったが、それは成人期を通して持続する(図3i~k)。顕著なこととして、FSTL1の局在化は、虚血性傷害に続いて劇的にシフトし、その結果、それは心筋で豊富になり(図3i~l)、印象的なこととして、心外膜および梗塞したエリアには存在しない(図3i、lおよび図10)。
【0119】
(実施例4:局在化されたFSTL1送達は、MI後の心機能を改善する)
以前の研究で、心筋細胞におけるFSTL1の一過性過剰発現、またはヒト組換えFSTL1の直接全身注入は、急性虚血/再灌流後、抗アポトーシス性であることが示された12、13。しかし、それが何らかの長期の利益を与えるかどうかをこの実施例で調べる。
【0120】
材料および方法
in vivoにおける遅延強調磁気共鳴イメージング(DEMRI):走査に備えて、麻酔の誘導は2%イソフルランで達成され、呼吸数をモニターして1.25~1.5%イソフルランを維持した。ECGのリード線を皮下に挿入して心拍数をモニターする一方、体温を37℃に維持した。専用のマウスコイル(Rapid MR International、ドイツ)を取り付けた3T GE Signa Excite臨床的スキャナーを使用して、機能的パラメーターを、処置の1週間後および4週間後に記録した。MRIの取得は、以下の順序で実施した。(1)DEMRIは、FOV3.4cm、スライス厚さ0.9mm、マトリックス128×128、TE 5ms、TI 150~240ms、およびFA60°を備えたゲート付きfGRE-IR配列を使用する0.2mmol/kgガドペンテト酸ジメグルミン(Magnevist、Berlex Laboratories)のIP注射の後で実施した、;ならびに(2)体積(volume)の心MRIを、FOV 7cm、スライス厚さ0.9mm、マトリックス256×256、TE 5.5ms、およびFA30のfSPGRを使用して実施した。冠状および軸性のスカウト画像を使用して、左心室(LV)空洞の短軸に沿った2次元のイメージング平面を位置決めした。1実験群あたり2匹のマウスの最小数(n)をこの定性的研究のために使用した。
【0121】
脈管の計数:血管密度パラメーターを、脈管壁における内皮細胞のマーカーとしてフォン・ビルブラント因子(vWF)を染色した心臓試料の組織学的切片から測定した。60個までの切片を各処置群(各群中4匹のマウス)について解析した。解析は、ImageJを使用して以下の計算をして実施した:1)血管の総管腔面積、および2)vWFについて陽性に染色された脈管の数。各場合に、脈管パラメーターのヒストグラムを、解析された総表面面積の割合として得て、中央値(mid-value)を各処置群についてプロットした。偽群との差の統計的有意性(p<0.05)を片側ANOVAにより決定した。
【0122】
酵素結合免疫吸着アッセイ:作出されたパッチ系内におけるFSTL1保持をin vitroで評価するために、FSTL1(5μg/ml)を負荷したコラーゲン足場を、PBSに浸漬して種々の時間(0、12時間、1日、および21日)37℃で振盪して、FSTL1濃度を酵素結合免疫吸着アッセイキット(USCN Life Science,Inc.、Houston、USA)を使用して決定した。この技法の検出限界は0.50ng/mlであった。足場をリン酸緩衝食塩水に溶解した1mg/mlのI型コラゲナーゼ(Sigma Aldrich、MO、US)および5mg/mlのヒアルロニダーゼ(Sigma Aldrich、MO、US)で5分間前処理し、続いて5,000×gで20分間遠心分離した。採取した試料のアリコート100μlを96ウェルプレートに添加して、37℃で2時間インキュベートした。次いで、100μLの調製された検出試薬Aをウェルに添加し、続いて同じ温度で1時間インキュベートした。吸引し3回洗浄した後、100μlの調製された検出試薬Bをウェルに添加して、30分間37℃でインキュベートした。吸引し5回洗浄した後、90μLの基質溶液をウェルに添加し、続いて25分間37℃でインキュベートした。50μLの停止溶液をウェルに添加して、直ちに各ウェルの吸光度を450nmで読み取った。FSTL1の濃度を標準溶液の標準曲線を使用して規定した。試験は4回実施した。
【0123】
虚血再灌流(I/R):週齢10~11週の雄のC57/BL6を麻酔して、上で記載 したように挿管した。次いで、左横方向の開胸を実施した。心膜を穏やかに引き離して、8-0のナイロン縫合糸(Ethicon,Inc.Johnson&Johnson Co.、USA)を使用して左前下行冠状動脈をPE10チューブに対して結紮し、30分閉塞後に除去した。冠状動脈閉塞の成功裏の実施は視覚的点検によって検証した(結紮から遠位の心筋における青白い色の発色に注目することにより)。次いで胸部を、7-0縫合糸を使用して隣接する肋骨周囲で閉じ、皮膚を6-0縫合糸で閉じた。ブプレノルフィンを、皮下に最短1日間BID投薬で投与した。パッチで処置した動物群については、第2の開胸をI/Rの出現の1週間後に実施して、調製されたコラーゲンパッチを、虚血性心筋の表面上に縫合した(2箇所で)。偽手術をした対照は、LAD結紮を除いて同一の手術手順(2回の開胸術)を受けた齢を合わせたマウスからなった。虚血再灌流の研究において、in vivoにおける心臓機能を、手術前のベースライン、I/R出現の1週間後、ならびに埋植の2および4週間後に評価した。
【0124】
MI実験で使用したFSTL1-TGマウスは、C57BL6バックグラウンド、週齢12~15週の雌および雄マウスである。研究プロトコールは、ボストン大学のInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)により承認された。
【0125】
結果
心機能を、横紋筋に限定されるMCKプロモーターの制御下でFSTL1を発現するトランスジェニックマウスで評価した(FSTL1-TG16、図11a、b)。FSTL1-TGマウスは、永久的LAD結紮後に収縮性における小さいが有意の改善を示したが、豊富なFSTL1過剰発現にもかかわらず、形態計測パラメーターまたは瘢痕サイズの長期的好転を示さなかった(図11a~j)。したがって、心筋のFSTL1の過剰発現は、心外膜の表面に送達された、心外膜馴化培地の心保護効果を再現するには不十分である。心外膜のhFSTL1送達の心機能に対する効果を次に評価した。コラーゲンパッチを、前のように調製したが、今回は、重合および梗塞した心臓の心外膜の表面上への適用前に、細菌で合成された組換えhFSTL1を10μg/パッチをロードした(詳細については材料および方法を参照されたい)。パッチは免疫検出可能なhFSTL1を、試験された最長時間、in vitroで21日まで、およびin vivoで28日まで保持した(図12)。新たに作成されたhFSTL1パッチ(パッチ+FSTL1)をMI後直ちに心臓の心外膜の表面に適用した。パッチ+FSTL1は、MIのみおよびパッチ単独の動物と比較して動物の有意に改善された生存をもたらした(図4a)。
【0126】
収縮性(%短縮率、FS%)の心エコーの時間経過測定は、パッチ+FSTL1が、MI後2週間~3カ月の間、心機能の定常的な回復をもたらして、FS%が偽手術をした動物の値に近づいたことを示した(図4bおよび表1)。対照的に、無処置の動物は、4週間後にFS%における重度の低下を示し、その後の改善はなかった。パッチ単独による処置は、無処置と比較して心機能における低下を弱めたが、FSTL1とは異なって心機能におけるその後の改善はなかった(図4bおよび表1)。
【表1-2】
【0127】
その次に、MI後にFSTL1が心筋で上方調節される16とすれば、FSTL1の心外膜への送達が有益な効果を誘起するために必要かどうかを試験した。これは、パッチのみまたはパッチ+FSTL1を心筋の梗塞したFSTL1-TGマウスに埋植することにより実施した16。収縮性のパラメーターは、パッチ+FSTL1を播種したトランスジェニック動物で劇的におよび特異的に増大して、処置の2週目に顕著な変化があり、4週 目までに、パッチのみの処置と比較して50%までの改善に達した(図4c)。したがって、組換えFSTL1の心外膜送達は、FSTL1の心筋のトランスジェニックな過剰発現に関してさえ効果的であり、パッチ単独または心筋のFSTL1過剰発現を超える、心外膜へのFSTL1送達の特異的利益をさらに示す。
【0128】
改善された心機能および生存は、パッチ+FSTL1の埋植後に、有意に減弱された線維化を伴った(図4d、図13)。LV薄化は、パッチ+FSTL1およびパッチのみのコホートにおけると同様であり、両方の処置は、MIのみの条件と比較して、LV薄化を有意に低減した(図4d、eおよび表1)。独立の実験群において、傷害の4週間後の遅延強調磁気共鳴イメージング(DEMRI)解析により、MI+パッチ+FSTL1処置が瘢痕サイズを縮小させたことが確認された(図14)。
【0129】
心機能が低下した後で適用されたときに、パッチ+FSTL1が同様に有益な効果を有するかどうかも調べた。この目的のために、虚血-再灌流(I/R)モデルを使用して、パッチを傷害の1週間後に埋植した。全ての動物が、低減した収縮性を示した(傷害前のFS37%からI/Rの1週間後、パッチを入れる前で22%に)。未処置動物の心機能は進行的に低下した(I/R後1、3および5週間で22%、20%および16%FS)。対照的に、パッチ+FSTL1コホートはI/R後3週間で34%に回復して安定化し、完全なFS回復に対応する(図15および表2)。永久的結紮モデルと同様に(図4)、機能回復は形態計測パラメーターの復元を伴った(図15および表2)。これらのデータは、心外膜に送達されたFSTL1が虚血性傷害後に損傷の逆転を生じさせることを示す。
【表2】
【0130】
パッチ中のFSTL1は、フォン・ビルブラント因子(vWF)および平滑筋アクチン(αSMA)免疫染色(図4f~i)により評価されたように、コラーゲンパッチおよびその下にある心筋の両方の血管新生を、梗塞した領域の境界で増大させた。MI+パッチにおける0.9%、MIのみ群における0.4%のエリアと比較して、MI+パッチ+FSTL1群では、パッチエリアおよび下にある心筋の約1.5%が、脈管により占められる(図4g)。この値は、偽手術をした動物の遠位のLV壁に匹敵する領域で観察された血管系(3.1%のエリア)の半分近くの復元を示す。組織学的切片の単位表面積あたりの脈管(任意のサイズの)の数も、MI+パッチ(35脈管/mm)およびMIのみ(15脈管/mm)の処置群に対して、MI+パッチ+FSTL1群では増加した(82脈管/mm)(図4i)。対照的に、偽手術をした動物は、136脈管/mmを示し、パッチ+FSTL1が血管新生を、梗塞していないマウスの約半分のレベルに復元したことをやはり示す。さらに、平滑筋細胞は、多数の脈管を、特にMI+パッチ+FSTL1群において取り囲んでいた(図4h)。マッソントリクローム染色は、パッチ+FSTL1の宿主心筋上への接触する生着を示し、MIおよびパッチ配置後4週目までに線状の細胞の証拠を含む宿主細胞のパッチ中への移動を示した(図4jにおける最後の2欄の緑色の矢印)。
【0131】
(実施例5:FSTL1は、in vivoで心筋細胞の細胞周期のエントリーを誘起する)
この実施例は、心外膜に送達されたFSTL1が、FSTL1が心筋で産生した異なった機能を有し得ることを示す。
【0132】
材料および方法
実施例5で使用した方法は、本明細書で記載された通りである。
【0133】
結果
パッチ+FSTL1コホートは、α-アクチニンの証拠、パッチ内の線状の筋細胞を示した(図5a~d)。線状の細胞は、FSTL1の非存在下ではパッチ中に稀にしか観察されなかった。重要なことに、FSTL1は、ホスホ-ヒストンH3(Ser10)(pH3)についても陽性であったα-アクチニン心筋細胞の出現率において、MIのみの動物で見られる出現率に対して6.2倍の増大を生じさせ(MIのみにおける断面あたり2.5(図5i)~MI+パッチ+FSTL1処置群における切片あたり15.6、p<0.05;図5e~kおよび図16)、FSTL1が、S期へのエントリーおよびDNA複製を促進することを示唆した。分裂する細胞を接続する一過性の架橋である中心体への局在化は、α-アクチニン染色された細胞間のAurora Bキナーゼ免疫反応性の検出および共焦点の光学的切片の3次元再構築において核DAPI染色で重なりのないこと(図5l)、ならびにMI+パッチ+FSTL1心臓における中心体に局在化されたAurora Bキナーゼを有する心筋細胞の、他の条件と比較して有意に増大した出現率により確認されたが(図5m)、そのことは、α-アクチニン細胞が、細胞質分裂するように誘起されることを示唆する。PCM1を心筋細胞核のためのマーカー17として使用して、pH3に対して陽性のPCM1+核の出現率の有意な増大が観察された(図5n、o)。増大した心筋細胞増殖は、I/R傷害後にパッチ+FSTL1で処置した心臓における生着の4週間後でも観察される(図15)。FSTL1は、アポトーシスを防止することが示されており、虚血性傷害後の炎症を急性にモジュレートする可能性もあるが12、13、16、MI直後の心筋細胞のアポトーシスもしくはリスクのエリアに対して、またはMI後4日目および8日目におけるアポトーシスならびに炎症に対して、FSTL1の効果はなかった(図17)。
【0134】
パッチのFSTL1送達と対照的に、境界ゾーンの心筋におけるpH3心筋細胞の数は、FSTL1-TGマウスで、血管新生の増加(図10m、nおよび16)にもかかわらず、野生型対照と比較して増加せず(図10k、l)、このことは心外膜に送達されたFSTL1は、FSTL1が心筋で産生した異なった機能を有し得ることを示す。
【0135】
(実施例6:増殖性FSTL1応答性心筋細胞の起源)
この実施例は、FSTL1のグリコシル化状態がその機能的状態における変化と結びついていることを示す。
【0136】
材料および方法
新生児ラット心室心筋細胞(NRVC)を、新生児ラット心室心筋細胞単離キット(Cellutron)を用いて単離して、37℃で5%CO2を用いて培養した。簡単に説明すると、心室を日齢1~2日のHsd:SDラット(Sprague Dawley)から切開して、次いで5回各15分間、酵素カクテルを用いて37℃で消化した。細胞をプールして、コーティングされていない細胞培養ディッシュ上で90分間予備的にプレーティングして線維芽細胞を除去し、1%ゼラチンでコーティングされた細胞培養プラスチックディッシュ上、高血清培地(DME/F12[1:1]、0.2%BSA、3mMピルビン酸ナトリウム、0.1mMアスコルビン酸、4mg/リットルのトランスフェリン、2mM L-グルタミン、および5mg/リットルのシプロフロキサシン、10%ウマ血清および5%ウシ胎仔血清(FBS)を補充)中で、3×10細胞/cm2でプレーティングした。24時間後に、培地を低血清培地(0.25%FCSを含む以外は同じ)と交換して、使用するまで細胞を培養した。
【0137】
自動化されたin vitro細胞増殖および細胞死のアッセイ:細胞(mCMsESCおよびNRVC)を、EdU(投薬量および曝露の長さの詳細は図の凡例に明記してある)と384プレートフォーマットでインキュベートして、2時間4%PFA中で固定し、PBS中で洗浄して、Click-it EdUアッセイキット(Life Technologies)を使用してEdUについて染色した。次いで、細胞をPBS中で洗浄して、α-アクチニン抗体(Sigma、A7811)で免疫染色して心筋細胞を同定し、DAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)で染色して核を同定した。次いで、プレートをInCell 1000システム(GE Healthcare)を使用してイメージングし、記載されたように37、Developer Toolbox(GE Healthcare)で自動的に解析した。染色体DNAにEdUが組み込まれた心筋細胞の百分率について、EdU+/α-アクチニン核とα-アクチニン核の比を生成した。同様に、384プレートフォーマット中の細胞(mCMsESCおよびNRVC)を、4%PFA中で2時間固定して、PBS中で洗浄し、有糸分裂中の核についてはpH3抗体で(Millipore06-570)、または細胞質分裂についてはAurora Bで(Millipore04-1036)、または細胞死についてはTUNEL(Roche)で、および心筋細胞についてはα-アクチニン抗体(Sigma、A7811)で、および核についてはDAPIで免疫染色した。EdUアッセイと同じイメージングおよび解析を行った。pH3、α-アクチニンの二重陽性核、Aurora B、α-アクチニンの二重陽性細胞、およびTUNEL、α-アクチニンの二重陽性核の、α-アクチニン+細胞核の総数に対する百分率を計算して、有糸分裂、細胞質分裂およびアポトーシスが起きている心筋細胞の百分率を、それぞれ決定した。
【0138】
FSTL1の過剰発現およびウェスタンブロット:リポフェクタミン2000を使用して、Hek293細胞に、ヒトFSTL1プラスミド(GE Dharmacon、ID:ccsbBroad304_02639 pLX304-Blast-V5-FSTL1)を一時的にトランスフェクトした(モックのトランスフェクションを、プラスミドなしでリポフェクタミンで行った)。トランスフェクション後48時間の血清含有培地を、無血清DMEMで置き換えて、細胞と24時間インキュベートした。ツニカマイシンを2μg/mlで使用した。ツニカマイシン試料から馴化培地を16時間の間に採取した(細胞は健常なように見えた)。馴化培地を400gで7分間遠心して、次いでMicrocon-10kDaカットオフカラム(Millipore)を使用して約20倍濃縮した。試料を、プロテアーゼ阻害剤、DTTおよび5mMのEDTAを含有する2×SDS試料緩衝液と1対1の比で合わせて、10分間95℃で煮沸させ、4~15%アクリルアミドMini-Protean TGXゲル中で泳動し、ニトロセルロース膜に移して、抗V5一次抗体MAB15253(Pierce)と1:1,000希釈で、および抗マウス800nmコンジュゲート二次抗体と1:10,000希釈で(Odyssey)インキュベートした。新生児ラット心室心筋細胞に、タグのないマウスFSTL1を発現するアデノウイルスをMOI50で感染させた。感染後24時間に培養培地を無血清培地で置き換えた。無血清DMEM/F12ペニシリン/ストレプトマイシン培地を、感染したNRVCおよびEMC細胞により24時間馴化させた。ツニカマイシンを1ug/mlで使用して、培地を16時間馴化させた。馴化培地を400gで7分間遠心して、次いでMicrocon-10kDaカットオフカラム(Millipore)を使用して濃縮した。試料を、プロテアーゼ阻害剤、DTTおよび5mMのEDTAを含有する2×SDS試料緩衝液と1対1の比で合わせ、10分間95℃で煮沸させ、Any KD Mini-Protean TGXゲルで泳動し、ニトロセルロース膜に移し、抗FSTL1 MAB1694(R&D)一次抗体と1:500希釈で、および抗ラット800nmコンジュゲート二次抗体と1:10,000希釈で(Odyssey)インキュベートした。ブロッキングおよび抗体インキュベーションはOdysseyブロッカー中で行った。組換え FSTL1(各100ng)についてのウェスタンブロットを同様に実施した。
【0139】
心筋細胞系統標識化:心筋細胞系統標識化は、4-OHタモキシフェンを、週齢8週のC57BL6バックグラウンドのMyh6mERcremER:Rosa26Z/EGマウス18の腹腔内に、1日あたり20mg/kgの用量で2週間注射して、心筋細胞の回収(図5p)またはMI手術およびパッチグラフティングの1週間前に停止することにより達成した。MIの4週間後に、動物を免疫染色のために集めた(図5q~u)。
【0140】
結果
in vivoで、FSTL1によって細胞周期に入るように誘起された心筋細胞は、既存の筋細胞(Myh6細胞)からまたは新たに前駆体集団から生じることもある。これらの可能性の間を見分けるために、既存のMyh6心筋細胞を、タモキシフェン誘導性Creを心筋細胞特異的Myh6プロモーター18の制御下で使用して、遺伝的に標識して、それらの運命をMIおよびパッチ+FSTL1の生着(図5p)の後で追跡した。Myh6mERCremER:Rosa26Z/EGマウスに注射された4-OHタモキシフェンは、MI前に、既存の心筋細胞をeGFPで効率的に標識した(図5q)。パッチ生着の4週間後、eGFP、pH3細胞は、梗塞エリアおよび境界ゾーンで明瞭に可視であり(図5r~u)、パッチ+FSTL1が、Myh6をLAD結紮およびパッチ生着前に発現した細胞に作用することを示した。
【0141】
何が循環性(cycling)α-アクチニン細胞の供給源であるのか?成体心筋細胞は、一般的に細胞周期のエントリーが難しく、FSTL1は、成体マウスもしくは新生児マウスの心室心筋細胞のDNA複製も細胞分裂もin vitroで促進しなかった(図18a~j)。同様に、FSTL1は、成体心臓中に再埋植されると心筋細胞を形成し得る成体マウスの心臓19由来のクローン的に拡大した初代心筋原性前駆細胞(Lin、Sca1、SP)の増殖も分化も刺激しなかった(図18k~m)。対照的に、mCMsESC細胞は、FSTL1に、5-エチニル-2’-デオキシウリジン(EdU)のα-アクチニン+mCMsESCへの増大した取り込み(図6a、d)、pH3、α-アクチニン細胞の増大した数(図6b、e)および分裂溝/中心体に局在化されたAurora Bキナーゼ(図6c、f)により、用量に依存する様式で応答した。これらの結果は、in vivoでのパッチ+FSTL1処置後におけるMyh6細胞の増殖を示す系統をたどる結果(図5p~u)と合わさって、心外膜のFSTL1に応答して増殖能のある、心外膜の近傍に位置するMyh6/α-アクチニン細胞の存在を示唆する。
【0142】
しかし、FSTL1発現の内因性の心筋誘起も、FSTL1の直接的なトランスジェニック過剰発現も再生を活性化することができなかったことは、矛盾したままであった(図4図10)。したがって、FSTL1の細胞特異的な改変が関与する可能性があるかどうかは、本発明者らの以前の実験の全てが細菌で合成されたヒトFSTL1を使用して実施したので、特に重要であり、これを試験した(図4、5、6a~f)。FSTL1は、哺乳動物細胞では高度にグリコシル化されているが(図6g)、それに対して細菌で産生された組換えFSTL1はグリコシル化されていない(図6h)。それ故、細菌で産生された(裸の)および哺乳動物細胞で産生された(グリコシル化された)組換えFSTL1の機能を、mCMsESC細胞におけるアポトーシスおよび増殖アッセイで試験した。哺乳動物で発現されたヒトFSTL1は、mCMsESCを、Hに誘起されたアポトーシスから保護するが、それに対して細菌で発現されたFSTL1は保護しない(図6i)。逆に、細菌で発現されたヒトFSTL1はmCMsESCの増殖を促進するが、それに対して哺乳動物で発現されたヒトFSTL1は促進せず(図6j、k)、したがって、これらの非常に重要な機能的相違は、FSTL1のグリコシル化状態と相関する。新生児ラット心室心筋細胞(NRVC)で過剰発現されたFSTL1(NRVCが検出可能な量 の内因性のFSTL1を産生しない(図19))とEMC-心外膜細胞で発現された内因性のFSTL1とを比較した。ウェスタンブロット解析により、心筋と心外膜のFSTL1の形態間の有意のサイズの差、ツニカマイシン処置(グリコシル化阻害剤)で「消失」する差が示され(図6i)、FSTL1は、細胞に特異的な様式で転写後修飾される(グリコシル化される)ことが示唆される。その後、これらの心筋および心外膜の細胞で産生されたFstlの形態を、mCMsESCにおける増殖アッセイで機能的に試験した。タグなしのFSTL1アデノウイルスに感染したNRVCからの心筋馴化培地は、mCMsESC増殖に対して効果を示さなかった。対照的に、EMC馴化培地は、低グリコシル化FSTL1に依存する様式で、mCMsESCの増殖を、細菌で合成されたhFSTL1に匹敵する程度に大幅に促進して(図6m、n)、細胞特異的な転写後修飾がFSTL1の機能的状態における変化と結びついていることを示す。
【0143】
(実施例7:心外膜のFSTL1送達は、前臨床ブタモデルにおいて心再生を活性化する)
この実施例は、心外膜におけるパッチ+FSTL1送達の復元効果は進化的に保存されるようであることを示す。
【0144】
材料および方法
虚血-再灌流のブタモデルにおけるパッチの適用:ブタにおける研究は、ヨークシャーブタ(日齢45日)でLADを閉塞するための経皮冠動脈血管形成術の拡張カテーテルの膨張により実施した。90分間の閉塞時間に続いて、臨床的MI疾患モデルを模倣する完全再灌流を行った。MIの1週間後に、左開胸を実施して、パッチを梗塞上に縫合した。動物群には:偽対照、無処置でI/R(n=3)、パッチ単独で処置したI/R(I/R+パッチ、n=1)、およびFSTL1を負荷したパッチで処置したI/R(I/R+パッチ+FSTL1、n=2)が含まれた。EdU送達:250mg/週のEdUを、研究の4週間の時間経過中に(I/R後、1週目~5週目)、浸透圧ミニポンプを使用して、循環中に注入した。
【0145】
統計解析:この実施例および全ての他の実施例で使用した試料の数(n)を、本文に記録して図に示す。全てのin vitro実験は、独立に少なくとも2回行った。遺伝子発現の実験は、独立に3回行い、EdU増殖アッセイおよび細胞サイズ測定は、独立に10回を超えて行った。試料サイズは予め定めなかったが、Gpower3.1を使用する大部分のin vitro研究における有意に異なった結果の遡及的解析は、>0.8の検出力(power)を生じる。動物研究のための試料サイズを見積もった。手術の4週間後まで生存しなかった動物は、機能的および組織学的研究から除外した。無作為化は適用しなかった。群割り付けへの盲検化は、動物の手術とマウス心筋の梗塞実験の結果解析の間で実行した。提示された値は、平均±SEMで表した。SDの代わりに平均±SEMを使用する理論的根拠は、SEMが平均の推定値における不確定性を定量化するのに対して、SDは、データの平均からの分散を示すことである。換言すれば、SEMは、報告された平均値の推定値を提供するが、一方、SDは、単一の観察の変動性の認識を与える。一元配置ANOVAおよびスチューデントT検定を使用して、統計的有意性を試験した(P<0.05)。生存曲線は、PRISM(GraphPad)を使用して生成し、Log-rank(Mantel-Cox)検定を使用して異なった条件におけるマウスの生存の間の有意差を試験した。
【0146】
結果
FSTL1の作出された心外膜への送達を、心筋の虚血-再灌流傷害のブタモデルで評価した。梗塞前に、駆出率(EF)は、磁気共鳴イメージング(MRI)によって決定された約50%であった。I/Rの1週間後に、EF%は約30%に低下し、その後で、パッチ+FSTL1を傷害を受けた組織の心外膜に適用した。パッチ+FSTL1で処置し たブタは、処置の2週目(実験の3週目)までに収縮性を回復し、約40%のEFを達成して、解析した最長時間である2週間にわたり安定を保った(図7a、b)。これは、未処置動物およびパッチ単独で処置した動物における心臓機能の定常的な低下と対照的であった(図7b)。パッチ+FSTL1で処置したブタは、パッチのみ動物を含む全ての処置の線維化組織の形成(瘢痕サイズ)中で最小の含有量を示した(代表的MRI画像(図7c、d)を参照されたい)。パッチグラフティングの4週間後(実験の5週目)に解析されたブタの組織は、パッチの宿主組織中への一体化および限定された線維化(図7e)ならびに血管平滑筋細胞のEdU標識化(図7f~h)ならびに虚血性エリアの境界ゾーンにおける心筋細胞(図7i~m)を示した。Aurora Bキナーゼが中心体に局在化された心筋細胞(細胞質分裂を示す)もパッチ+FSTL1で処置した心臓の境界ゾーンで検出された(図7n)。したがって、心外膜におけるパッチ+FSTL1の送達の復元効果は、進化的に保存されるようである。
【0147】
(実施例8:低グリコシル化FSTL1の投与は、Akt-1のシグナル伝達活性を活性化しない)
この実施例は、mCMsESCのFSTL1処置はAkt-1の活性化を生じさせないことを示す。
【0148】
FSTL1によるmCMsESCの処置ならびにホスホ-Aktについてのウェスタンブロットは上で記載されたように実施した。
【0149】
結果を図20に示し、それは、FSTL1処置後のmCMsESCにおけるホスホ-AktおよびPCNAの検出を示す。10ng/mlおよび50ng/mlにおけるFSTL1処置の1時間および24時間後のホスホ-Akt(Ser473およびThr308は、両方とも心筋細胞における生存応答に関与する)およびPCNA(増殖マーカー)に対するウェスタンブロットの結果、FSTL1処置の際にホスホ-AktまたはPCNAのいずれにおいても有意な変化はなかった。
【化5】
【化6】
【化7】
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17-1】
図17-2】
図18
図19
図20
【配列表】
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