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特開2023-181191消火材形成用組成物、消火材並びに消火性部材及びその製造方法
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  • 特開-消火材形成用組成物、消火材並びに消火性部材及びその製造方法 図1
  • 特開-消火材形成用組成物、消火材並びに消火性部材及びその製造方法 図2
  • 特開-消火材形成用組成物、消火材並びに消火性部材及びその製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181191
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】消火材形成用組成物、消火材並びに消火性部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A62D 1/00 20060101AFI20231214BHJP
   A62C 2/00 20060101ALI20231214BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20231214BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20231214BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20231214BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20231214BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20231214BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20231214BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20231214BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
A62D1/00
A62C2/00 X
B05D5/00 E
B05D7/00 K
B05D7/24 303A
B05D7/24 302M
B32B7/027
B32B3/30
B32B27/18 B
B32B27/30 102
C08L29/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023172204
(22)【出願日】2023-10-03
(62)【分割の表示】P 2023521146の分割
【原出願日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2021124222
(32)【優先日】2021-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021124420
(32)【優先日】2021-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】本庄 悠朔
(72)【発明者】
【氏名】黒川 真登
(72)【発明者】
【氏名】椎根 康晴
(72)【発明者】
【氏名】正田 亮
(72)【発明者】
【氏名】田辺 淳也
(57)【要約】
【課題】性状安定性に優れると共に、対象物が凹凸等の複雑な形状を有する構造物であっても、火災発生時の迅速な初期消火を実現するのに有用な消火材形成用組成物並びにこれを用いた消火材及び消火性部材を提供する。
【解決手段】吸湿性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂の少なくとも一方の樹脂を含むバインダと、を含む、消火材形成用組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸湿性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、
ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂の少なくとも一方の樹脂を含むバインダと、
を含む、消火材形成用組成物。
【請求項2】
前記消火剤及び前記樹脂の全量を基準として、前記消火剤を70~97質量%含む、請求項1に記載の消火材形成用組成物。
【請求項3】
前記塩が、カリウム塩である、請求項1に記載の消火材形成用組成物。
【請求項4】
前記樹脂の重量平均分子量Mwが10000~150000である、請求項1に記載の消火材形成用組成物。
【請求項5】
前記樹脂のガラス転移温度Tgが55~110℃である、請求項1に記載の消火材形成用組成物。
【請求項6】
液状媒体を更に含む、請求項1に記載の消火材形成用組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の消火材形成用組成物から形成される消火材。
【請求項8】
凹凸形状の被処理面を有する被着体と、前記被処理面上に設けられた消火剤含有層とを備え、前記消火剤含有層がバインダと消火剤とを含む消火性部材の製造方法であって、
(A)前記凹凸形状の被処理面を有する被着体を準備する工程と、
(B)前記被処理面上に、前記消火剤含有層を形成する工程と、
を含み、
前記消火剤含有層が請求項1~6のいずれか一項に記載の消火材形成用組成物によって構成されており、
(B)工程において、ウェットコーティング法によって前記消火剤含有層を形成する、消火性部材の製造方法。
【請求項9】
凹凸形状の被処理面を有する被着体と、前記被処理面上に設けられた消火剤含有層と、前記消火剤含有層の表面上に設けられた保護層とを備え、前記消火剤含有層がバインダと消火剤とを含む消火性部材の製造方法であって、
(A)前記凹凸形状の被処理面を有する被着体を準備する工程と、
(B)前記被処理面上に、前記消火剤含有層を形成する工程と、
(C)前記消火剤含有層上に、前記保護層を形成する工程と、
を含み、
(C)工程において、ウェットコーティング法によって前記保護層を形成する、消火性部材の製造方法。
【請求項10】
前記消火剤含有層が請求項1~6のいずれか一項に記載の消火材形成用組成物によって構成される、請求項9に記載の消火性部材の製造方法。
【請求項11】
(B)工程において、ウェットコーティング法によって前記消火剤含有層を形成する、請求項9に記載の消火性部材の製造方法。
【請求項12】
前記ウェットコーティング法がスプレーコーティング法及びディップコーティング法の一方である、請求項11に記載の消火性部材の製造方法。
【請求項13】
凹凸形状の被処理面を有する被着体と、
前記被処理面上に設けられた消火剤含有層と、
を備え、
前記消火剤含有層が請求項1~6のいずれか一項に記載の消火材形成用組成物によって構成されている、消火性部材。
【請求項14】
前記被着体が射出成形体及びプレス成形体の一方である、請求項13に記載の消火性部材。
【請求項15】
前記消火剤含有層の表面上に設けられた保護層を更に備える、請求項13に記載の消火性部材。
【請求項16】
前記保護層の材質が、ポリオレフィン、ポリエステル、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、金属、酸化物、窒化物及び酸窒化物からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項15に記載の消火性部材。
【請求項17】
前記保護層の水蒸気透過度が2×10g/m/day以下である、請求項15に記載の消火性部材。
【請求項18】
前記保護層の鉛筆硬度がB以上である、請求項15に記載の消火性部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、消火材形成用組成物、消火材並びに消火性部材及びその製造方法に関する。上記消火性部材は、例えば、建装材、自動車部材、航空機部材、エレクトロニクス部材等の産業部材に用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年、テクノロジーの進歩に伴い、我々の暮らしはますます快適になっている。一方、その快適性を生むための大量のエネルギーが必要となり、それを高密度に充填し蓄える、移動する、使用する等、各々のシーンで高い安全性が必要となる。自動車を例にとると、ガソリンに代表される化石燃料を採掘するシーン、化石燃料からガソリンに精製するシーン、運搬するシーン等で、発火や火災の危険が潜んでいる。またエレクトロニクスを例にとると、電線を通じて電気エネルギーを移動させる際、変電所や変圧器にて電気エネルギーの調整を行う際、電気エネルギーを家庭や工場の電気機器にて使用する際、又は一時的に蓄電池に備える際等において、同様に発火や火災の危険が潜んでいる。
【0003】
特許文献1は、建築物の躯体の外側面に、裏面モルタル層と断熱材層と表面モルタル層と仕上げ材とがこの順で積層されている構成を少なくとも備える外断熱構造における延焼防止構造を開示している。
【0004】
また、燃焼によりエアロゾルを発生する消火剤組成物をバインダと混合し、これをシート状に成形した自己消火性成形品が知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5317785号公報
【特許文献2】国際公開第2018/047762号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のような外断熱構造を採用したとしても、その周辺に可燃性の部材が存在していると延焼が進んでしまう。発火時に爆発を伴う場合は、材料は破れ、やはり延焼は広がる。対象物としては、配電盤、分電盤、制御盤、蓄電池(リチウムイオン等)、建材用壁紙、天井材等の建材、リチウムイオン電池用の回収BOXの各部材などが挙げられる。
【0007】
また、特許文献2の成形品のように消火剤組成物自体に吸湿性がある場合、成形品の性状を長期に亘り安定的に維持することに関し改善の余地がある。
【0008】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、性状安定性に優れると共に、対象物が凹凸等の複雑な形状を有する構造物であっても、火災発生時の迅速な初期消火を実現するのに有用な消火材形成用組成物並びにこれを用いた消火材及び消火性部材を提供することを目的とする。本開示はまた、対象物が凹凸等の複雑な形状を有する構造物であっても、火災発生時の迅速な初期消火を実現するのに有用な消火性部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一側面は、吸湿性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂の少なくとも一方の樹脂を含むバインダと、を含む、消火材形成用組成物を提供する。消火材形成用組成物は液状媒体を更に含んでよい。
【0010】
当該組成物から形成される消火材では、ポリビニルアセタール系樹脂やポリビニルアルコール系樹脂によって塩の吸湿が抑制される。これにより、性状安定性に優れる消火材とすることができる。また、ポリビニルアセタール系樹脂やポリビニルアルコール系樹脂は柔軟性に優れる熱可塑性樹脂であり、例えば対象物表面が平坦でない場合であっても、消火材を対象物表面に追従させて設けることができ、消火材にクラック等が生じ難い。
【0011】
上記消火材形成用組成物は、消火剤及び樹脂の全量を基準として、消火剤を70~97質量%含んでいてよい。また、上記塩が、カリウム塩であってよい。上記樹脂の重量平均分子量Mwが10000~150000であってよい。また、上記樹脂のガラス転移温度Tgが55~110℃であってよい。
【0012】
本開示はまた、上記の消火材形成用組成物から形成される消火材を提供する。
【0013】
本開示の一側面は、凹凸形状の被処理面を有する被着体と、この被処理面上に設けられた消火剤含有層とを備え、上記消火剤含有層が、上記消火剤形成用組成物によって構成されている消火性部材を提供する。上記消火部材の製造方法は、消火剤含有層がバインダと消火剤とを含む消火性部材の製造方法であって、(A)凹凸形状の被処理面を有する被着体を準備する工程と、(B)被処理面上に、消火剤含有層を形成する工程とを含み、上記消火剤含有層が、上記消火剤形成用組成物によって構成されており、(B)工程において、ウェットコーティング法によって消火剤含有層を形成する。当該ウェットコーティング法がスプレーコーティング法及びディップコーティング法の一方であってよい。
【0014】
本開示の一側面は、凹凸形状の被処理面を有する被着体と、この被処理面上に設けられた消火剤含有層と、この消火剤含有層の表面上に設けられた保護層とを備え、消火剤含有層がバインダと消火剤とを含む消火性部材の製造方法であって、(A)凹凸形状の被処理面を有する被着体を準備する工程と、(B)被処理面上に、消火剤含有層を形成する工程と、(C)消火剤含有層上に、保護層を形成する工程とを含み、(C)工程において、ウェットコーティング法によって保護層を形成する、消火性部材の製造方法を提供する。上記消火剤含有層は、上記消火剤形成用組成物によって構成されていてもよい。また、(B)工程において、ウェットコーティング法によって消火剤含有層を形成してもよい。当該ウェットコーティング法がスプレーコーティング法及びディップコーティング法の一方であってよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、性状安定性に優れると共に、対象物が凹凸等の複雑な形状を有する構造物であっても、火災発生時の迅速な初期消火を実現するのに有用な消火材形成用組成物及び当該消火材形成用組成物から形成される消火材を提供することができる。また、本開示によれば、対象物が凹凸等の複雑な形状を有する構造物であっても、火災発生時の迅速な初期消火を実現するのに有用な消火性部材の製造方法、並びに、性状安定性に優れ、且つ、火災発生時の迅速な初期消火を実現するのに有用な消火性部材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は本開示に係る消火性部材の第一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2図2(a)及び図2(b)は被処理面の凹凸形状の例を模式的にそれぞれ示す断面図である。
図3図3(a)は本開示に係る消火性部材の第二実施形態を模式的に示す断面図であり、図3(b)は図3(a)に示す消火性部材の変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、場合により図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
<消火材形成用組成物>
消火材形成用組成物は、消火剤及びバインダを含む。消火材形成用組成物は、更に液状媒体を含んでいてもよい。
【0019】
(消火剤)
消火剤は、吸湿性を有する有機塩及び吸湿性を有する無機塩の少なくとも一方の塩を含む。
【0020】
吸湿性を有する塩とは、目安として25℃、75%RHの環境下に7日間暴露した場合、吸湿により3質量%超の質量増加がある塩をいう。
【0021】
消火剤として機能する、吸湿性を有する有機塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。有機塩としてはカリウム塩を用いることができる。有機カリウム塩としては、酢酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、酒石酸一カリウム、酒石酸二カリウム、乳酸カリウム、シュウ酸カリウム、マレイン酸一カリウム、マレイン酸二カリウム、コハク酸一カリウム、コハク酸二カリウム等のカルボン酸カリウム塩が挙げられる。このうち燃焼の負触媒効果に対する有用性の観点から、酢酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、又はクエン酸三カリウムを用いることができる。
【0022】
消火剤として機能する、吸湿性を有する無機塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩等が挙げられる。無機塩としてはカリウム塩を用いることができる。無機カリウム塩としては、四硼酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、燐酸二水素カリウム、燐酸水素二カリウム等が挙げられる。このうち燃焼の負触媒効果に対する有用性の観点から、炭酸水素カリウムを用いることができる。
【0023】
有機塩及び無機塩は、それぞれ単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0024】
有機塩及び無機塩は粒状であってよい。有機塩及び無機塩の平均粒子径D50は1μm以上100μm以下であってもよく、また3μm以上40μm以下であってもよい。平均粒子径D50が上記下限以上であることで系中で分散し易く、また平均粒子径D50が上記上限以下であることで、塗液としたときの安定性が向上して塗工面の平滑性が向上する傾向がある。平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定により算出することができる。
【0025】
塩(有機塩及び無機塩)を含む消火剤の量は、消火剤及び樹脂(後述のポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂)の全量を基準として、70質量%以上97質量%以下であってもよく、また85質量%以上92質量%以下であってもよい。消火剤の量が上記上限以下であることで、塩の吸湿を抑制し易くかつ均一な消火材を形成し易く、また消火剤の量が上記下限以上であることで、充分な消火性を維持し易い。消火剤及び樹脂の全量とは、それぞれの含有成分にも依るが、塩及びバインダの全量ということもできる。
【0026】
消火剤に含まれる有機塩及び無機塩の含有量は、消火機能を発現する観点から、消火剤の全量を基準として60質量%以上とすることができ、90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0027】
消火剤は、上述した塩以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、着色剤、酸化剤、酸化防止剤、難燃剤、無機充填材、流動性付与剤、防湿剤、分散剤、UV吸収剤等が挙げられる。これらの他の成分は、塩の種類及びバインダの種類により適宜選択することができる。また、これらの他の成分は、上述した塩に対し事前に混合されていてもよいし、塩の表面にコーティングされていてもよい。消火剤に含まれる他の成分の含有率は、例えば40質量%以下である。
【0028】
(バインダ)
バインダは、ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂の少なくとも一方の樹脂を含む。ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂はいずれも水酸基含有樹脂である。ポリビニルアセタール系樹脂は、アセタール化度が大きいほど樹脂の疎水性が向上するため、塩による吸湿を抑制し易い。ポリビニルアルコール系樹脂はアセタール化されていないため、ポリビニルアセタール系樹脂と比較すると水酸基数は多いが、上記樹脂以外の他の樹脂成分との反応点が多いとも考えられる。そのため、バインダ設計の観点ではポリビニルアルコール系樹脂の方が設計自由度が高く、扱い易い。
【0029】
ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂のケン化により得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニル、酢酸ビニルと他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。他のモノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸類、不飽和スルホン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類等が挙げられる。
【0030】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、特に制限されないが、80モル%以上であってもよく、95モル%以上であってもよい。ポリビニルアルコール系樹脂が適度なケン化度を有することで、膜の形状安定性を保ちやすい。
【0031】
ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよい。変性の態様としては、アセトアセチル基変性、カルボン酸変性、カルボニル基変性、スルホン酸変性、ヒドラジド基変性、チオール基変性、アルキル基変性、シリル基変性、ポリエチレングリコール基変性、エチレンオキシド基変性、ウレタン結合を有する基による変性、リン酸エステル基変性等が挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂を変性することで、塩による吸湿を抑制し易い。
【0032】
ポリビニルアセタール系樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂のアセタール化により得られる。
【0033】
ポリビニルアセタール系樹脂を得るために用いるポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、特に制限されないが、80モル%以上であってもよく、95モル%以上であってもよい。
【0034】
アセタール化に用いられるアルデヒドとしては、特に制限されないが、炭素数1~10の肪族基又は芳香族基を有するアルデヒドが挙げられる。アルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド、n-ヘプチルアルデヒド、n-オクテルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、n-デシルアルデヒド、アミルアルデヒド等の脂肪族アルデヒド;ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、2-メチルベンズアルデヒド、3-メチルベンズアルデヒド、4-メチルベンズアルデヒド、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、m-ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β-フェニルプロピオンアルデヒド等の芳香族アルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒドは、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらのうち、アセタール化反応性に優れる観点から、アルデヒドは、ブチルアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド又はn-ノニルアルデヒドが好ましく、ブチルアルデヒドが最も好ましい。
【0035】
アセタール化に用いられるケトンとしては、特に制限されないが、アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、t-ブチルケトン、ジプロピルケトン、アリルエチルケトン、アセトフェノン、p-メチルアセトフェノン、4’-アミノアセトフェノン、p-クロロアセトフェノン、4’-メトキシアセトフェノン、2’-ヒドロキシアセトフェノン、3’-ニトロアセトフェノン、P-(1-ピペリジノ)アセトフェノン、ベンザルアセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、4-ニトロベンゾフェノン、2-メチルベンゾフェノン、p-ブロモベンゾフェノン、シクロヘキシル(フェニル)メタノン、2-ブチロナフトン、1-アセトナフトン、2-ヒドロキシ-1-アセトナフトン、8’-ヒドロキシ-1’-ベンゾナフトン等が挙げられる。
【0036】
アルデヒド及びケトンの使用量はアセタール化度に応じて適宜設定することができる。例えば、反応前のポリビニルアルコール系樹脂の水酸基に対して、アルデヒド及びケトンの合計量は0.30~0.45水酸基当量とすることができる。
【0037】
ポリビニルアセタール系樹脂の水酸基量(残存水酸基価)は、10~40モル%であってもよく、15~25モル%であってもよい。水酸基量が上記範囲内であると、アルデヒド及びケトンの脂肪族基や芳香族基により疎水性が得られ、吸湿スピードが鈍化し易い傾向がある。水酸基量は、主鎖の全エチレン基量に対する、水酸基が結合しているエチレン基量の割合(モル%)である。水酸基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法によって算出することができる。
【0038】
ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂は、それぞれ単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0039】
ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量Mwは、10000以上であってもよく、20000以上であってもよく、また150000以下であってもよく、100000以下であってもよい。重量平均分子量Mwが上記下限以上であることで、樹脂の疎水性を確保し易く、また重量平均分子量Mwが上記上限以下であることで、適度な樹脂柔軟性を確保し易く、耐屈曲性や塗工適性が向上し易い。重量平均分子量Mwは、GPC法により算出することができる。
【0040】
ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂のガラス転移温度Tgは、55℃以上であってもよく、80℃以上であってもよく、また110℃以下であってもよく、100℃以下であってもよい。ガラス転移温度Tgが上記下限以上であることで、結晶性が大きくなるために樹脂の疎水性を確保し易く、またガラス転移温度Tgが上記上限以下であることで、塗工適性が向上し易い。ガラス転移温度Tgは、示差走査熱量計を用いた熱分析により測定することができる。
【0041】
バインダに含まれるポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、同樹脂の特性を充分に発現する観点から、バインダの全量を基準として40質量%以上とすることができ、70質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0042】
バインダは、疎水性向上に伴う塩による吸湿抑制の観点から、上述した樹脂以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、シランカップリング剤等が挙げられる。バインダに含まれる他の成分の含有量は、例えば60質量%以下である。
【0043】
(液状媒体)
液状媒体としては、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、水溶性の溶媒が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類;N-メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類等が挙げられる。吸湿性を有する消火剤と共に用いられる観点から、液状媒体はアルコール系溶媒であってもよく、具体的にはエタノール及びイソプロピルアルコールの混合溶媒であってもよい。
【0044】
液状媒体の量は、消火材形成用組成物の使用方法に応じて適宜に調整すればよいが、消火材形成用組成物の全量を基準として40~95質量%とすることができる。液状媒体を含む消火材形成用組成物を、消火材形成用塗液ということができる。
【0045】
<消火材>
消火材は、消火材形成用組成物から形成することができる。消火材の形成方法(製造方法)を以下に例示する。
【0046】
消火材は、対象物の被処理面上に消火材形成用塗液を塗布し、これを乾燥することにより、対象物上に形成することができる。対象物の素材としては金属、樹脂、木材、セラミックス、ガラス等が挙げられ、対象物は非多孔性であっても多孔性であってもよい。
【0047】
塗布はウェットコーティング法にて行うことができる。ウェットコーティング法としては、グラビアコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコート法、スピンコート法、スポンジロール法、ダイコート法、刷毛による塗装等が挙げられる。
【0048】
消火材形成用塗液の粘度は、例えばグラビアコーティング法であれば、1~2000mPa・sとすることが好ましく、コンマコーティング法であれば500~100000mPa・sとすることが好ましく、スプレーコーティング法であれば0.1~4000mPa・sとすることが好ましい。塗液粘度が所望の範囲になるよう、上記液状媒体の量を適宜に調整すればよい。粘度は共軸二重円筒回転粘度計により測定することができる。
【0049】
対象物が多孔性である場合は、消火材形成用塗液は対象物内に浸入することができる。その場合、消火材は、対象物を消火材形成用塗液に含浸させ、これを乾燥することにより、対象物上に形成してもよい。
【0050】
消火材は、消火材形成用組成物を成形することで得ることもできる。消火材の形状はその用途に応じて選択すればよく、消火材は粒状消火材、板状消火材、柱状消火材等であってもよい。
【0051】
[第一実施形態]
<消火性部材>
図1は、第一実施形態に係る消火性部材の模式断面図である。消火性部材10は、凹凸形状の被処理面を有する被着体1と、被処理面上に設けられた消火剤含有層2Aとを備える。
【0052】
(被着体)
被着体1の材質は特に制限されず、例えば、建装材、自動車部材、航空機部材、エレクトロニクス部材等に用いられる被着体を用いることができる。このような被着体1としては、樹脂基材や、金属、不燃紙やガラスクロス等であってもよい。
【0053】
樹脂基材としては、例えば、ポリオレフィン(LLDPE、PP、COP、CPP等)、ポリエステル(PET等)、フッ素樹脂(PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE等)、PVC、PVA、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)等が挙げられる。これらのうち、水蒸気透過度が低く、消火剤の劣化を抑制しやすい観点から、樹脂基材としては、LLDPE、PP、COP、CPP、PET、PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE、PVC及びPCからなる少なくとも一種を含んでいてもよい。また、透明性の高い材質を用いることで、消火性部材10の外観検査や交換時期の確認がしやすくなる。
【0054】
金属としては、アルミニウム、鉄、銅、それら合金のステンレス、ジュラルミン、亜鉛メッキ鋼板等が挙げられる。
【0055】
被着体1は、上記に加えて、例えば、有機リン化合物(FR)、エポキシ化合物、アラミド化合物、アミド化合物、ケイ素化合物、炭素、アラミド化合物、アミド化合物、ケイ素化合物、炭素の繊維等を含んでいてもよい。
【0056】
被着体1は凹凸形状の被処理面を有する。凹凸形状を有する被処理面とは、例えば、凸部と凹部の高さの差が一定以上の被処理面を意味する。被処理面は、例えば、以下の少なくとも一つの条件を満たす。
・凹凸形状の最大高さHが0.1mm以上(図2(a)における高さH)
・底面1aと凸部1cの側面1bのなす角が90°以下(図2(b)における角度α)
・底面1aと側面1bのなすコーナーRが3mm以下
・凸部1cの底部の最小幅W(図2(a)における幅W)に対する凹凸形状の最大高さHに対するの比(H/W)が3以下又は1以下
【0057】
被処理面における凸部1c(及び/又は凹部)の数は1以上であればよく、3以上であってもよい。被処理面が上記のような凹凸形状であっても、ウェットコーティング法によれば、被処理面上に消火剤含有層2を綺麗に設けることができる。
【0058】
被着体1の厚さは、出火時の熱量、衝撃、許容されるスペース等に応じて適宜選択することができる。例えば、厚い被着体1であれば、水蒸気透過を抑制しやすく、強度や剛性が得られ、ハンドリングが容易となる。一方薄い被着体1であれば狭いスペースに消火性部材を設けることができる。被着体1の厚さは、例えば、0.05~20mmとすることができ、0.1~5mmであってもよい。被着体1は、複数の被着体の積層体であってもよい。
【0059】
被着体1は、射出成形体又はプレス成形体であってよい。射出成型法又はプレス成型法によれば、複雑な凹凸形状を有する被着体1を大量に生産できるため、好ましい。被着体は筐体そのものであってもよいし、筐体の内面に設けられていてもよい。
【0060】
(消火剤含有層)
消火剤含有層2Aは、上記消火剤形成用組成物によって構成されており、バインダと、消火剤とを含む。消火剤含有層2Aの厚さは、消火性部材10の消火対象や設置場所、配合すべき消火剤の量に応じて適宜設定すればよい。消火剤含有層2Aの厚さは、例えば、1mm以下であればよく、30~1000μmとすることができ、120~500μmであってもよい。
【0061】
消火剤含有層2Aにおける消火剤の含有率(消火剤含有層2Aの質量基準)は、例えば、70~97質量%であり、好ましくは80~95質量%であり、より好ましくは85~92質量%である。消火剤の含有率が70質量%以上であることで、優れた消火性能を達成することができ、他方、97質量%以下であると、被着体1と安定した密着が得られ且つ消火剤の滑落なく安定した塗膜を達成できる。消火剤の単位面積当たりの量は、消火すべき対象に応じて設定すればよい。
【0062】
[消火剤]
消火剤としては、上記消火剤形成用組成物に含まれる消火剤と同じものを用いることができる。消火剤としては特に制限されず、いわゆる消火の4要素(除去作用、冷却作用、窒息作用、負触媒作用)を有するものを適宜用いることができる。消火剤の具体例として、一般消火薬剤(カリウム塩を主成分とする粉末系消火剤の他、炭酸水素ナトリウムやリン酸塩等の一般的な粉末系消火剤が挙げられる)が挙げられる。万能な消火剤としてはABC消火剤が挙げられ、油や電気火災用の消火剤としてはBC消火剤が挙げられる。対象物がリチウムイオン電池である場合は、BC消火剤や、その他リチウムイオン電池用の消火剤を用いればよい。市販の消火剤として、例えば、STAT-X(商品名、日本工機株式会社製)が挙げられる。
【0063】
消火剤は、吸湿性を有する有機塩及び吸湿性を有する無機塩の少なくとも一方の塩を含んでもよい。消火剤として機能する、吸湿性を有する有機塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。有機塩としてはカリウム塩を用いることができる。有機カリウム塩としては、酢酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、酒石酸一カリウム、酒石酸二カリウム、乳酸カリウム、シュウ酸カリウム、マレイン酸一カリウム、マレイン酸二カリウム、コハク酸一カリウム、コハク酸二カリウム等のカルボン酸カリウム塩が挙げられる。このうち燃焼の負触媒効果に対する有用性の観点から、酢酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、又はクエン酸三カリウムを用いることができる。
【0064】
[バインダ]
バインダとしては、上記消火剤形成用組成物に含まれるバインダと同じものを用いることができる。その他のバインダとして、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を使用できる。熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1-)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂として、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンコム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム(1,2-BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPR、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、多加硫ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FZ)、ウレタンゴム(U)等のゴム類、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。バインダには、硬化剤成分が含まれていてよい。
【0065】
エポキシ樹脂は、消火剤との相溶性に優れるとともに、後述のアルコール溶媒に可溶であり且つ安定性が高い点で、バインダに適している。エポキシ樹脂は湿熱による加水分解及び脆化が生じないため、エポキシ樹脂をバインダとして含む消火剤含有層は優れた安定性を有する。
【0066】
バインダとして、水蒸気バリア性を有するものを使用することが好ましい。バインダは、バインダからなる単層フィルムを作製したとき、好ましくは5g・mm/m/day以下、より好ましくは1g・mm/m/day以下の水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)を達成できるものが好ましい。かかるバインダの市販品として、マクシーブ(商品名、三菱ガス化学株式会社製)が挙げられる。
【0067】
消火剤含有層2Aの全量を基準とするバインダの含有量は、例えば、3~30質量%であり、好ましくは5~20質量%であり、より好ましくは8~15質量%である。バインダの含有率が3質量%以上であることで、優れた成形性を達成でき、他方、30質量%以下であることで、優れた消火性能を達成できる。
【0068】
[その他の成分]
消火剤含有層2Aには、上述した以外にその他の成分が配合されてもよい。その他の成分として、水等の分散剤、溶剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤、無機充填材及び粘着剤が挙げられる。これらの成分は消火剤含有層の組成及びバインダの種類によって適宜選択すればよい。消火剤含有層2Aにおけるその他の成分の含有率(消火剤含有層2Aの質量基準)は、例えば、10質量%以下である。
【0069】
<消火性部材の製造方法>
消火性部材10は以下の工程を経て製造される。
(A)凹凸形状の被処理面を有する被着体1を準備する工程。
(B)被処理面上に、消火剤含有層2Aを形成する工程。
上記(B)工程において、ウェットコーティング法によって消火剤含有層2Aを形成する。
【0070】
上記ウェットコーティング法は、例えば、バインダと、消火剤とを含む塗液を準備し、被着体1の被処理面上に膜を形成させる方法である。塗液には、例えば、アルコール溶媒等が含まれていてもよい。ウェットコーティング法としては、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコート法、スピンコート法、スポンジロール法、刷毛による塗装等が挙げられる。これらの中でもスプレーコーティング法、ディップコーティング法が好ましい。なお、被処理面の一部の領域について消火剤含有層2Aを形成しない場合、例えば、当該領域を他の部材で覆った後、ウェットコーティング法を実施すればよい。
【0071】
スプレーコーティング法とは、スプレーコーターを用いて、被着体1に塗液を霧状に塗布する方法である。スプレー方式、ノズルの仕様は、被着体1の被処理面の凹凸形状、塗液に含まれる溶媒、消火剤含有層2Aの厚み、タクトタイム、設備にかけられるコストに応じて適宜選択されることが好ましい。ノズルの仕様は、例えば、一流体ノズル(スプレーパターン(フラット、直進硫、フルコーン、ホローコーン、微細スプレー、楕円形、四角形)と、スプレー角度(0°~170°)に対応しているため、対象範囲を確実にカバーできる)、二流体スプレー(圧搾空気などの高速気流で液体を粉砕し微粒化するスプレーノズルで、微細ミスト、霧など必要な用途や条件に最適なノズルの幅広い調整が可能となる)等が挙げられる。また、スプレー方式としては、例えば、円形前面に中粒子から大粒子で構成するパターンを生成するためには、フルコーンスプレー方式が好ましく、広い流量範囲で微細噴霧を行うことができるため、緻密な膜が形成可能な二流体エアーアトマイジングスプレー方式を用いることが好ましい。特に溶媒がアルコール系である場合、被着体1は、耐溶媒性や防爆仕様を満たす材質が好ましい。消火対象物に応じて所望の厚みを設計し、その厚みと消火剤含有層との安定性の観点から、固形分、粘度、引き上げ速度を適宜選択することが好ましい。塗液の固形分は、例えば、15~60質量%とすることができる。固形分、粘度が高いと、一回の噴霧で大きな厚みを得ることができるが、必要な圧力が高く、また目詰まりのリスクが高まる。また一度に大きな厚みを得ると、乾燥時に突沸が生じ、膜表面に凹凸が生じるリスクがある。このような観点から、固形分は20~50質量%とすることが好ましい。
【0072】
ディップコーティング法は、液(塗液)中に被着体1を垂直に浸漬し、液の粘性力、表面張力及び重量による力と速度を調整して引き上げる方法であり、被着体1の引き上げ速度は、液中の粘性と被着体に付着する塗液の流下する重力との関係性から制御する。消火対象物に応じて所望の厚みを設計し、その厚みと消火剤含有層2Aとの安定性の観点から、固形分、粘度、引き上げ速度を適宜選択することが好ましい。液の固形分は、例えば、15~60質量%とすることができる。固形分、粘度が高いと、大きな厚みを得ることができるが、増粘が起きやすく、乾燥時に突沸が起きやすくなり、膜表面に凹凸が生じるリスクがある。このような観点から、固形分は20~50質量%とすることが好ましい。
【0073】
[第二実施形態]
図3(a)は第二実施形態に係る消火性部材の模式断面図である。消火性部材20Aは、凹凸形状の被処理面を有する被着体1と、被処理面上に設けられた消火剤含有層2Bと、消火剤含有層2Bの表面上に設けられた保護層3とを備える。消火性部材20Aは、保護層3を更に備える点において、消火性部材10と相違する。以下、消火剤含有層2B及び保護層3について主に説明する。
【0074】
(消火剤含有層)
消火剤含有層2Bは、バインダと、消火剤とを含む。消火剤含有層2Bは、消火剤含有層2Aと同一の構成であってもよい。消火剤含有層2Bの厚さは、消火性部材10の消火対象や設置場所、配合すべき消火剤の量に応じて適宜設定すればよい。消火剤含有層2Bの厚さは、例えば、1mm以下であればよく、30~1000μmとすることができ、120~500μmであってもよい。
【0075】
消火剤含有層2Bにおける消火剤の含有率(消火剤含有層2Bの質量基準)は、例えば、70~97質量%であり、好ましくは80~95質量%であり、より好ましくは85~92質量%である。消火剤の含有率が70質量%以上であることで、優れた消火性能を達成することができ、他方、97質量%以下であると、被着体1と安定した密着が得られ且つ消火剤の滑落なく安定した塗膜を達成できる。消火剤の単位面積当たりの量は、消火すべき対象に応じて設定すればよい。
【0076】
[消火剤]
消火剤としては特に制限されず、いわゆる消火の4要素(除去作用、冷却作用、窒息作用、負触媒作用)を有するものを適宜用いることができる。消火剤の具体例として、一般消火薬剤(カリウム塩を主成分とする粉末系消火剤の他、炭酸水素ナトリウムやリン酸塩等の一般的な粉末系消火剤が挙げられる)が挙げられる。万能な消火剤としてはABC消火剤が挙げられ、油や電気火災用の消火剤としてはBC消火剤が挙げられる。対象物がリチウムイオン電池である場合は、BC消火剤や、その他リチウムイオン電池用の消火剤を用いればよい。市販の消火剤として、例えば、STAT-X(商品名、日本工機株式会社製)が挙げられる。
【0077】
消火剤は、吸湿性を有する有機塩及び吸湿性を有する無機塩の少なくとも一方の塩を含んでもよい。消火剤として機能する、吸湿性を有する有機塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。有機塩としてはカリウム塩を用いることができる。有機カリウム塩としては、酢酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、酒石酸一カリウム、酒石酸二カリウム、乳酸カリウム、シュウ酸カリウム、マレイン酸一カリウム、マレイン酸二カリウム、コハク酸一カリウム、コハク酸二カリウム等のカルボン酸カリウム塩が挙げられる。このうち燃焼の負触媒効果に対する有用性の観点から、酢酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、又はクエン酸三カリウムを用いることができる。
【0078】
[バインダ]
バインダとしては、上記消火剤形成用組成物に含まれるバインダと同じものを用いることができる。その他のバインダとして、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を使用できる。熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1-)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂として、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンコム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム(1,2-BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPR、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、多加硫ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FZ)、ウレタンゴム(U)等のゴム類、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。バインダには、硬化剤成分が含まれていてよい。
【0079】
エポキシ樹脂は、消火剤との相溶性に優れるとともに、後述のアルコール溶媒に可溶であり且つ安定性が高い点で、バインダに適している。エポキシ樹脂は湿熱による加水分解及び脆化が生じないため、エポキシ樹脂をバインダとして含む消火剤含有層は優れた安定性を有する。
【0080】
バインダとして、水蒸気バリア性を有するものを使用することが好ましい。バインダは、バインダからなる単層フィルムを作製したとき、好ましくは5g・mm/m/day以下、より好ましくは1g・mm/m/day以下の水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)を達成できるものが好ましい。かかるバインダの市販品として、マクシーブ(商品名、三菱ガス化学株式会社製)が挙げられる。
【0081】
消火剤含有層2Bの全量を基準とするバインダの含有量は、例えば、3~30質量%であり、好ましくは5~20質量%であり、より好ましくは8~15質量%である。バインダの含有率が3質量%以上であることで、優れた成形性を達成でき、他方、30質量%以下であることで、優れた消火性能を達成できる。
【0082】
[その他の成分]
消火剤含有層2Bには、上述した以外にその他の成分が配合されてもよい。その他の成分として、水等の分散剤、溶剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤、無機充填材及び粘着剤が挙げられる。これらの成分は消火剤含有層2Bの組成及びバインダの種類によって適宜選択すればよい。消火剤含有層2Bにおけるその他の成分の含有率(消火剤含有層2Bの質量基準)は、例えば、10質量%以下である。
【0083】
(保護層)
図3(a)に示されたように、保護層3は消火剤含有層2Bの表面の一部を覆うように設けられている。すなわち、本実施形態に係る保護層3は、消火剤含有層2Bの主面2a(被着体1の被処理面の延在方向に広がる面)を覆っている一方、消火剤含有層2Bの側面2b,2cを覆っていない。消火剤含有層2Bの側面2b,2cは露出している。
【0084】
保護層3の材質として、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、金属、酸化物、窒化物、酸窒化物等が挙げられる。消火剤含有層2Bの表面上に保護層3を設けることで、消火性部材の輸送時、消火性部材の加工時、消火性部材を用いた製品の長期保存時に、消火剤含有層2Bが潮解してアルカリ水によって周辺金属が腐食することを抑えることができる。また、消火速度を維持することができる。
【0085】
保護層3は、水蒸気透過度が2×10g/m/day以下であってよい。水蒸気透過度が2×10g/m/day以下であると、消火性部材の輸送時、消火性部材の加工時、消火性部材を用いた製品の長期保存時に、消火剤含有層2Bが潮解してアルカリ水によって周辺金属が腐食することを更に抑えることができる。また、消火速度を維持することができる。このような観点から、保護層3の水蒸気透過度は、2×10g/m/day以下であることが好ましい。なお、保護層3の水蒸気透過度は、JIS K 7129に準拠して、40℃/90%RH条件下で測定した値をいう。
【0086】
保護層3は、鉛筆硬度がB以上であってよい。鉛筆硬度がB以上であると、消火性部材の輸送時、消火性部材の加工時、消火性部材を用いた製品の長期保存時に、保護層3の割れ、引っ掻きによる消火剤含有層2Bが露出し、消火剤含有層2Bが潮解するのを防ぐことができる。このような観点から、保護層3の鉛筆硬度はF以上であることが好ましい。なお、保護層3の鉛筆硬度は、JIS K 5600に準拠して、引っ掻き硬度(鉛筆法)を測定した値をいう。
【0087】
保護層3の厚さは、特に制限されるものではなく、消火性部材10Aの消火対象や設置場所、配合すべき消火剤の量に応じて適宜設定すればよい。保護層3の厚さは、例えば、1~1000μmであってよく、20~300μmであってもよい。
【0088】
図3(b)は、図3(a)に示す消火性部材20Aの変形例である。図3(b)に示す保護層3は消火剤含有層2Bの表面全体(主面2a及び側面2b,2c)を覆うように設けられている。消火剤含有層2Bの表面全体を保護層3で覆うことで、消火剤含有層2Bに対する潮解の影響をより一層高度に抑制することができる。
【0089】
<消火性部材の製造方法>
消火性部材20A,20Bは以下の工程を経て製造される。
(A)凹凸形状の被処理面を有する被着体1を準備する工程。
(B)被処理面上に、消火剤含有層2Bを形成する工程。
(C)消火剤含有層2B上に、保護層3を形成する工程。
(B)工程においてウェットコーティング法によって消火剤含有層2Bを形成してもよいし、(C)工程においてウェットコーティング法によって保護層3を形成してもよい。(B)工程及び(C)工程の両方において、ウェットコーティング法によって消火剤含有層2B及び保護層3をそれぞれ形成してもよい。これらの層をウェットコーティング法によって形成することで、見た目が綺麗な消火性部材を効率的に製造することができる。
【0090】
消火剤含有層2Bの形成((B)工程)は、第一実施形態と同様に実施すればよい。保護層3の形成((C)工程)は以下のように実施すればよい。すなわち、保護層3を構成する材質を含む塗液を準備し、消火剤含有層2Bの少なくとも一部を覆うように塗膜を形成すればよい。塗液には、例えば、アルコール溶媒等が含まれていてもよい。ウェットコーティング法としては、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコート法、スピンコート法、スポンジロール法、刷毛による塗装等が挙げられる。これらの中でもスプレーコーティング法、ディップコーティング法が好ましい。なお、被処理面の一部の領域について消火剤含有層2Bを形成しない場合、例えば、当該領域を他の部材で覆った後、ウェットコーティング法による消火剤含有層2Bの形成を実施すればよい。消火剤含有層2Bの一部の領域について保護層3を形成しない場合、例えば、当該領域を他の部材で覆った後、ウェットコーティング法による保護層3の形成を実施すればよい。
【0091】
スプレーコーティング法によって保護層3を形成する場合、消火対象物に応じて保護層3の厚みを設計し、その厚みと保護層3の安定性の観点から、固形分、粘度、引き上げ速度を適宜選択することが好ましい。塗液の固形分は、例えば、15~60質量%とすることができる。固形分、粘度が高いと、一回の噴霧で大きな厚みを得ることができるが、必要な圧力が高く、また目詰まりのリスクが高まる。また一度に大きな厚みを得ると、乾燥時に突沸が生じ、膜表面に凹凸が生じるリスクがある。このような観点から、固形分は20~50質量%とすることが好ましい。
【0092】
ディップコーティング法によって保護層3を形成する場合、被着体1と消火剤含有層2Bの積層体を液中に垂直に浸漬し、液の粘性力、表面張力及び重量による力と速度を調整して引き上げればよい。引き上げ速度は、液中の粘性と消火剤含有層2Bに付着する塗液の流下する重力との関係性から制御する。消火対象物に応じて保護層3の厚みを設計し、その厚みの観点から、固形分、粘度、引き上げ速度を適宜選択することが好ましい。液の固形分は、例えば、15~60質量%とすることができる。固形分、粘度が高いと、大きな厚みを得ることができるが、増粘が起きやすく、乾燥時に突沸が起きやすくなり、膜表面に凹凸が生じるリスクがある。このような観点から、固形分は20~50質量%とすることが好ましい。
【0093】
本開示は、以下の事項に関する。
[1]吸湿性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、
ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂の少なくとも一方の樹脂を含むバインダと、
を含む、消火材形成用組成物。
[2]前記消火剤及び前記樹脂の全量を基準として、前記消火剤を70~97質量%含む、[1]に記載の消火材形成用組成物。
[3]前記塩が、カリウム塩である、[1]又は[2]に記載の消火材形成用組成物。
[4]前記樹脂の重量平均分子量Mwが10000~150000である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の消火材形成用組成物。
[5]前記樹脂のガラス転移温度Tgが55~110℃である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の消火材形成用組成物。
[6]液状媒体を更に含む、[1]~[5]のいずれか一つに記載の消火材形成用組成物。
[7][1]~[6]のいずれか一つに記載の消火材形成用組成物から形成される消火材。
[8]凹凸形状の被処理面を有する被着体と、前記被処理面上に設けられた消火剤含有層とを備え、前記消火剤含有層がバインダと消火剤とを含む消火性部材の製造方法であって、
(A)前記凹凸形状の被処理面を有する被着体を準備する工程と、
(B)前記被処理面上に、前記消火剤含有層を形成する工程と、
を含み、
前記消火剤含有層が[1]~[6]のいずれか一つに記載の消火材形成用組成物によって構成されており、
(B)工程において、ウェットコーティング法によって前記消火剤含有層を形成する、消火性部材の製造方法。
[9]凹凸形状の被処理面を有する被着体と、前記被処理面上に設けられた消火剤含有層と、前記消火剤含有層の表面上に設けられた保護層とを備え、前記消火剤含有層がバインダと消火剤とを含む消火性部材の製造方法であって、
(A)前記凹凸形状の被処理面を有する被着体を準備する工程と、
(B)前記被処理面上に、前記消火剤含有層を形成する工程と、
(C)前記消火剤含有層上に、前記保護層を形成する工程と、
を含み、
(C)工程において、ウェットコーティング法によって前記保護層を形成する、消火性部材の製造方法。
[10]前記消火剤含有層が[1]~[6]のいずれか一つに記載の消火材形成用組成物によって構成される、[9]に記載の消火性部材の製造方法。
[11](B)工程において、ウェットコーティング法によって前記消火剤含有層を形成する、[9]又は[10]に記載の消火性部材の製造方法。
[12]前記ウェットコーティング法がスプレーコーティング法及びディップコーティング法の一方である、[8]~[11]のいずれか一つに記載の消火性部材の製造方法。
[13]凹凸形状の被処理面を有する被着体と、
前記被処理面上に設けられた消火剤含有層と、
を備え、
前記消火剤含有層が[1]~[6]のいずれか一つに記載の消火材形成用組成物によって構成されている、消火性部材。
[14]前記被着体が射出成形体及びプレス成形体の一方である、[13]に記載の消火性部材。
[15]前記消火剤含有層の表面上に設けられた保護層を更に備える、[13]又は[14]に記載の消火性部材。
[16]前記保護層の材質が、ポリオレフィン、ポリエステル、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、金属、酸化物、窒化物及び酸窒化物からなる群より選択される少なくとも一種である、[15]に記載の消火性部材。
[17]前記保護層の水蒸気透過度が2×10g/m/day以下である、[15]又は[16]に記載の消火性部材。
[18]前記保護層の鉛筆硬度がB以上である、[15]~[17]のいずれか一つに記載の消火性部材。
【実施例0094】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0095】
[実施例1、2及び比較例1]
<原料の準備>
以下の原料を準備した。クエン酸カリウム及び炭酸水素カリウムの平均粒子径D50は、それぞれメノウ乳鉢ですり潰したのち、800番手のメッシュでフィルタリングすることで調整した。
クエン酸カリウム:富士フィルム和光株式会社製、製品名クエン酸三カリウム一水和物、D50=3~18μm
炭酸水素カリウム:関東化学株式会社製、製品名炭酸水素カリウム、D50=3~18μm
ポリビニルブチラール:重量平均分子量(計算値)Mw20000~100000、水酸基量15~25モル%、ガラス転移温度Tg80~100℃
ウレタン樹脂:三井化学株式会社製、製品名タケラックTE-5899
【0096】
<消火材の形成>
(実施例1,2)
吸湿性を有する塩としてクエン酸カリウム又は炭酸水素カリウムを85質量部、ポリビニルアセタール系樹脂としてポリビニルブチラール(ブチラール保護ポリビニルアルコール)を15質量部、及び液状媒体としてエタノールを130質量部混合し、消火材形成用塗液を調製した。
【0097】
アプリケーター(ギャップ750μm)を用いて、得られた塗液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布し、100℃のオーブンにて4分間乾燥させた。これにより、PETフィルム上に厚さ200μmの消火材が形成された積層体を得た。
【0098】
(比較例1)
ポリビニルブチラールに代えてウレタン樹脂を用いたこと、エタノールに代えてエタノール87質量部、イソプロピルアルコール5質量部、酢酸エチル10質量部の混合溶媒を用いたこと、以外は実施例と同様にして塗液を調製し、上記積層体を得た。
【0099】
<積層体の封入>
シーラント層(L-LDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)樹脂、厚さ30μm)及び基材層(シリカ蒸着膜を有するPET(ポリエチレンテレフタラート)樹脂、厚さ12μm)を備えるバリアフィルムを準備した。バリアフィルムの水蒸気透過率は0.2~0.6g/m/day(40℃/90%RH条件下)であった。このバリアフィルムを2枚用いて、上記PETフィルム及び消火材の積層体を覆い、バリアフィルムの4辺をヒートシールすることで積層体を封入した。ヒートシール条件は140℃、2秒間とした。これを評価サンプルとした。
【0100】
<性状安定性評価>
得られた評価サンプルの全光線透過率を、ヘイズメーター(BYK社製 BYK-Gardner Haze-Guard Plus)を用いて、JIS K 7361-1に準拠した方法で測定した。測定は高温恒湿槽(85℃/85%RH条件下)に投入する前(試験前)と、投入して136時間経過後(試験後)に行った。バリアフィルムの全光線透過率は85%であった。測定は測定箇所を変えて3回行い、下記式に従い試験前後での各箇所での全光線透過率の変化量を算出した。変化量の平均値を表1に示す。消火材による吸湿(潮解)が生じた場合には透明度が上がるため、この変化量を確認することで性状安定性を評価した。
変化量Δ=試験後測定値-試験前測定値
【0101】
【表1】
【0102】
[実施例1A~15A、1B~10B、比較例1A~3A及び比較例1B~3B]
(実施例1A~15A及び比較例1A~3A)
被着体としてPC-FR(40)(出光興産社製、AK3020、厚み100μm)を準備した。この被着体に対し、凹凸形状を設けた。凹凸形状の詳細は、表2~4に示す。
【0103】
一方、消火剤含有層の消火材形成用塗液として、吸湿性を有する塩である粉末消火薬剤(商品名:ABC消火剤、モリタ宮田工業社製)とバインダ(商品名:AD393とCAT-EP5、東洋インキ製)をイソプロピルアルコールに加えたものを準備し、消火剤とバインダとの質量比(消火剤/バインダ=10)に調整した。
【0104】
また、消火剤含有層の消火材形成用塗液として、消火剤であるクエン酸カリウム及び塩素酸カリウムの混合物(87.4質量部)と、バインダであるポリビニルブチラール(12.6質量部)をエタノール、イソプロピルアルコールに加えたものを準備し、消火剤とバインダとの質量比(消火剤/バインダ=6.9)に調整した。クエン酸カリウム及び塩素酸カリウムの混合物は、メノウ乳鉢ですり潰したのち、800番手のメッシュでフィルタリングすることで粒子径D50=8~12μmに調整した。
【0105】
上記で準備した被着体に消火剤含有層の消火材形成用塗液を、表2,3に示す方式で塗布し、総固形分が表2,3に示した値となるように、乾燥温度90℃、1分間で塗布し、消火剤含有層の総厚み200μmとなるように塗布した。このようにして、表2,3に示す消火性部材を作製した。
【0106】
表4に示すように、比較例2A及び3Aでは、消火剤含有層として、市販の消火シート(厚み3mm、消火剤としてフルオロケトン系消火薬剤を含む。)を用いた。比較例1Aでは、消火剤含有層を設けなかった。
【0107】
<消火性部材の評価>
(被着体と消火剤含有層間の浮き)
被着体と消火剤含有層間の浮きを目視により観察した。表2~4では、浮きが認められなかったものを「無し」、浮きが認められたものを「有り」とした。
【0108】
(消火試験)
<ろうそく消火性>
実施例及び比較例の消火性部材を縦20mm×横20mmのサイズにそれぞれ切断して試料を得た。ろうそくの炎に対して試料をピンセットで掴んだまま高さ20mmの位置まで近づけた。これにより、試料を燃焼させた後、消火できるか否かを観察、また消火に要する時間を測定した。
<固形燃料1g消火性>
実施例及び比較例の消火性部材を縦20mm×横20mmのサイズにそれぞれ切断して試料を得た。アルミニウム製容器の内部に設置したパンの中に固形燃料1gを置いた後、固形燃料に火をつけて火炎を生じさせた。火炎している固形燃料に対して試料をピンセットで掴んだまま高さ20mmの位置まで近づけた。これにより、試料を燃焼させた後、消火できるかどうかを観察、また消火に要する時間を測定した。
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
【表4】
【0112】
[実施例1B~10B及び比較例1B~3B]
被着体としてPC-FR(40)(出光興産社製、AK3020 厚み100μm)を準備した。この被着体に対し、凹凸形状を設けた。凹凸形状の詳細は、表5(A),5(B),6に示す。
【0113】
一方、消火剤含有層の消火材形成用塗液として、粉末消火剤(商品名:ABC消火剤、モリタ宮田工業社製)とバインダ(商品名:AD393とCAT-EP5、東洋インキ製)をイソプロピルアルコールに加えたものを準備し、消火剤とバインダとの質量比(消火剤/バインダ=10)に調整した。
【0114】
また、消火剤含有層の消火材形成用塗液として、消火剤であるクエン酸カリウム及び塩素酸カリウムの混合物(87.4質量部)と、バインダであるポリビニルブチラール(12.6質量部)をエタノール、イソプロピルアルコールに加えたものを準備し、消火剤とバインダとの質量比(消火剤/バインダ=6.9)に調整した。クエン酸カリウム及び塩素酸カリウムの混合物は、メノウ乳鉢ですり潰したのち、800番手のメッシュでフィルタリングすることで粒子径D50=8~12μmに調整した。
【0115】
上記で準備した被着体に消火剤含有層の消火材形成用塗液を、表5(A),5(B)に示す方式で塗布し、総固形分が42.5質量%となるように、乾燥温度90℃、1分間で塗布し、消火剤含有層の総厚み200μmとなるように塗布した。なお、表6に示すように、比較例2B及び3Bでは、消火剤含有層として、市販の消火シート(厚み3mm、消火剤としてフルオロケトン系消火薬剤を含む。)を用いた。比較例1Bでは、消火剤含有層を設けなかった。
【0116】
保護層のスラリーを表5(A),5(B)に示す方式で塗布、乾燥させ、表5(A),5(B)に示す消火性部材を作製した。保護層の塗布液は、それぞれ以下を用いた。なお、実施例8Bでは、消火剤含有層を設けなかった。
・保護層の塗布液1:M-100(三菱ガス化学社製)8.4質量%、C-93(東洋インキ社製)26.9質量%、メタノール20.2%、酢酸エチル44.5質量%
【0117】
[消火性部材の評価]
得られたサンプルに対し、以下の評価を行った。結果を表7,8に示す。
【0118】
<サンプル作製後の評価>
被着体と消火剤含有層間の浮きを目視により観察した。表7,8では、浮きが認められなかったものを「無し」、浮きが認められたものを「有り」とした。
【0119】
<表層鉛筆硬度の評価>
テスター産業製、HA-301を用いて各硬度を持った鉛筆を、サンプル表面に対して角度45°、荷重750gとなるよう設置し、鉛筆の先端が塗膜上に載った後、直ちに装置を操作者から1mm/sの速度で離れるよう、距離10mm走査した。実施例8Bに係るサンプルの表層は消火剤含有層であり、その他の実施例及び比較例(比較例1Bを除く)に係るサンプルの表層は保護層であった。
【0120】
<消火試験>
[ろうそく消火性]
実施例及び比較例の消火性部材を縦20mm×横20mmのサイズにそれぞれ切断して試料を得た。ろうそくの炎に対して試料をピンセットで掴んだまま高さ20mmの位置まで近づけた。これにより、試料を燃焼させた後、消火できるか否かを観察、また消火に要する時間を測定した。
[固形燃料1g消火性]
実施例及び比較例の消火性部材を縦20mm×横20mmのサイズにそれぞれ切断して試料を得た。アルミニウム製容器の内部に設置したパンの中に固形燃料1gを置いた後、固形燃料に火をつけて火炎を生じさせた。火炎している固形燃料に対して試料をピンセットで掴んだまま高さ20mmの位置まで近づけた。これにより、試料を燃焼させた後、消火できるかどうかを観察、また消火に要する時間を測定した。
【0121】
<信頼性の評価>
上記で作製したサンプルを85℃、85%RHの条件下におき、500時間後、及び1000時間後の潮解性及び消火試験を行った。潮解性の試験方法は以下のように行った。
【0122】
[潮解性]
サンプル表面に、アサダ製pH試験紙を接触させ、pHを測定した。潮解していれば消火剤が水溶液となり、pH8以上のアルカリ性を示す。
【0123】
【表5(A)】
【0124】
【表5(B)】
【0125】
【表6】
【0126】
【表7】
【0127】
【表8】
【符号の説明】
【0128】
1…被着体、2A,2B…消火剤含有層、3…保護層、10,20A,20B…消火性部材。
図1
図2
図3