(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181228
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】溶射材用粉末
(51)【国際特許分類】
C04B 35/66 20060101AFI20231214BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20231214BHJP
C23C 4/06 20160101ALI20231214BHJP
C23C 4/11 20160101ALI20231214BHJP
C23C 4/129 20160101ALI20231214BHJP
F27D 1/16 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C04B35/66
C04B41/87 K
C23C4/06
C23C4/11
C23C4/129
F27D1/16 B
F27D1/16 W
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023175656
(22)【出願日】2023-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】391029484
【氏名又は名称】日本特殊炉材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩史
(57)【要約】
【課題】
溶射した際における溶射材用粉末の反応性、及び前記溶射体の接着強度において優れた溶射材用粉末を提供する。
【解決手段】
生珪石の粒子又は生珪砂の粒子と金属粒子とを含有する混合物と、酸素とを混合し、金属粒子の酸化発熱反応により前記混合物を溶融させて被施工対象物に吹き付ける溶射法に用いる溶射材用粉末であり、溶射材用粉末は、生珪石の粒子又は生珪砂の粒子70~92質量%と、金属粒子8~22質量%とを含有し、前記金属粒子は、金属Siを90質量%以上含むものであり、前記生珪石の粒子又は生珪砂の粒子は、シリカを90質量%以上含有し、カリウムを0.40~5.00質量%含有する鉱物である溶射材用粉末である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生珪石の粒子又は生珪砂の粒子と金属粒子とを含有する混合物と、酸素とを混合し、金属粒子の酸化発熱反応により前記混合物を溶融させて被施工対象物に吹き付ける溶射法に用いる溶射材用粉末であり、
溶射材用粉末は、生珪石の粒子又は生珪砂の粒子70~92質量%と、金属粒子8~22質量%とを含有し、
前記金属粒子は、金属Siを90質量%以上含むものであり、
前記生珪石の粒子又は生珪砂の粒子は、シリカを90質量%以上含有し、カリウムを0.40~5.00質量%含有する鉱物である溶射材用粉末。
【請求項2】
溶射材用粉末は、
結晶化を促進する成分の含有量が0~0.2質量%であり、
前記成分は、ナトリウム塩、カリウム塩、又はリチウム塩である請求項1に記載の溶射材用粉末。
【請求項3】
溶射材用粉末は、以下の条件で試験片を作製し、当該試験片について以下の方法で求めた線熱膨張率が、-0.300~+0.300%の範囲内に収まる溶射体を形成するものである請求項1又は2に記載の溶射材用粉末:
前記試験片は、溶射材用粉末に酸素を供給して400℃の環境下で溶射して、縦40mm、横160mm、及び厚み40mmの方形のブロック状としたものであり、
前記線熱膨張率は、前記試験片を溶射により作製した後冷却することなく400℃で6時間静置し、その後400℃から4℃/分の速度で1200℃に至るまで昇温し、1200℃で24時間維持し、400℃に至るまで1℃/分の速度で冷却し、その間の線熱膨張率をJIS R 2207-1の方法に基づいて測定する。
【請求項4】
溶射材用粉末は、以下の条件で試験片を作製し、当該試験片について以下の方法で求めた剪断接着強度が、1.8~3.0MPaである溶射体を形成するものである請求項1ないし3のいずれかに記載の溶射材用粉末:
ブロック状の珪石煉瓦を電気炉に入れて、600℃まで加熱し、前記珪石煉瓦に設定した縦50mm、かつ横65mmの方形の領域に対して溶射材用粉末を溶射し、厚み20mmの溶射体を形成し、当該溶射体を冷却することなく、600℃で3時間維持して試験片とし、
前記試験片を、600℃から3℃/分の速度で1200℃まで昇温し、1200℃で24時間維持し、その後1℃/分の速度で600℃まで徐冷して、600℃で3時間維持する工程を1サイクルとして、当該加熱サイクルを計5回繰り返し、前記試験片を冷却することなく、600℃の環境下において、前記試験片の位置を固定し、厚み2cmの溶射体の側方から荷重速度68N/秒で押し棒を当てて、溶射体の接着面を横方向にずれさせる方向に荷重を掛けて、溶射体が破断した時の荷重(N)を測定し、剪断接着強度(MPa)を求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射材用粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉などの窯炉は、珪石れんがなどの耐火物で構成されている。窯炉の炉壁は、操業時の温度変化によって亀裂が生じたり、窯炉に加熱対象物を出し入れする際の摩擦や外力によって摩耗したり破損することがある。
【0003】
窯炉を補修する際には、以下の特許文献1に示すように、溶射法が用いられる。この方法では、耐火性微粒子と金属粒子と結晶化促進剤との混合物を、酸素と共に高温の被補修体に吹き付けて、金属粒子の酸化発熱反応により前記混合物を溶融させて被補修体に溶着させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、耐火性粒子は未焼成の珪石又は珪砂であり、金属粒子は金属シリコンであり、結晶化促進剤はナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩のうち1種又は複数を含むとされている。
【0006】
本発明者が検証したところ、カリウム塩、又はナトリウム塩を添加した溶射材用粉末においては、溶射材用粉末の反応性、及び溶射体の接着強度が十分ではなかった。また、溶射した際に、吹き付けた溶射材用粉末が吹き付けた箇所から弾かれることによる溶射材用粉末のロス(以下、リバウンドロスという。)が大きかった。
【0007】
本発明は、溶射した際における溶射材用粉末の反応性、及び前記溶射体の接着強度において優れた溶射材用粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
生珪石の粒子又は生珪砂の粒子と金属粒子とを含有する混合物と、酸素とを混合し、金属粒子の酸化発熱反応により前記混合物を溶融させて被施工対象物に吹き付ける溶射法に用いる溶射材用粉末であり、溶射材用粉末は、生珪石の粒子又は生珪砂の粒子70~92質量%と、金属粒子8~22質量%とを含有し、前記生珪石の粒子又は生珪砂の粒子は、シリカを90質量%以上含有し、カリウムを0.40~5.00質量%含有する鉱物である溶射材用粉末により、上記の課題を解決する。
【0009】
シリカを主たる構成成分として含有し、カリウムを人為的に添加するのではなく、カリウムを不純物として含有する鉱物に由来する生珪砂の粒子又は生珪石の粒子と、金属粒子とを含有する溶射材用粉末においては、溶射材用粉末の反応性、形成される溶射体の接着強度において優れたものとなることを発見したことに基づいて、本発明に到達したものである。
【0010】
上記の溶射材用粉末によれば、以下の条件で試験片を作製し、当該試験片について以下の方法で求めた線熱膨張率が、-0.300~+0.300%の範囲内に収まる溶射体を得ることができる。前記試験片は、溶射材用粉末に酸素を供給して400℃の環境下で溶射して、縦40mm、横160mm、及び厚み40mmの方形のブロック状としたものであり、前記線熱膨張率は、前記試験片を溶射により作製した後冷却することなく400℃で6時間静置し、その後400℃から4℃/分の速度で1200℃に至るまで昇温し、1200℃で24時間維持し、400℃に至るまで1℃/分の速度で冷却し、その間の線熱膨張率をJIS R 2207-1の方法に基づいて測定する。
【0011】
上記の溶射材用粉末によれば、以下の条件で試験片を作製し、当該試験片について以下の方法で求めた剪断接着強度が、1.8~3.0MPaである溶射体を得ることができる。ブロック状の珪石煉瓦を電気炉に入れて、600℃まで加熱し、前記珪石煉瓦に設定した縦50mm、かつ横65mmの方形の領域に対して溶射材用粉末を溶射し、前記領域に厚み20mmの溶射体を形成し、当該溶射体を冷却することなく、600℃で3時間維持して試験片とし、前記試験片を、600℃から3℃/分の速度で1200℃まで昇温し、1200℃で24時間維持し、その後1℃/分の速度で600℃まで徐冷して、600℃で3時間維持する工程を1サイクルとして、当該加熱サイクルを計5回繰り返し、前記試験片を冷却することなく、600℃の環境下において、前記試験片の位置を固定し、厚み2cmの溶射体の側方から荷重速度68N/秒で押し棒を当てて、溶射体の接着面を横方向にずれさせる方向に荷重を掛けて、溶射体が破断した時の荷重(N)を測定し、剪断接着強度(MPa)を求める。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶射した際における溶射材用粉末の反応性、及び前記溶射体の接着強度において優れた溶射材用粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1に係る溶射材用粉末を溶射して作成した試験片、実施例1に係る溶射材用粉末を溶射して作製した試験片を所定の温度サイクルで焼成した試験片3、珪石煉瓦から切り出した試験片1及び試験片2、それぞれについて、温度変化と線熱膨張率との関係をまとめたグラフである。
【
図2】実施例1に係る溶射材用粉末を溶射して作製した試験片、比較例1に係る溶射材用粉末を溶射して作製した試験片、それぞれを所定の温度サイクルで温度変化させた後で測定した剪断接着強度(MPa)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の溶射材用粉末の限られた実施形態に過ぎず、本発明の技術的範囲は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0015】
[第1実施形態]
本実施形態の溶射材用原料粉末は、生珪石の粒子又は生珪砂の粒子と金属粒子とを含有する混合物と、酸素とを混合し、金属粒子の酸化発熱反応により前記混合物を溶融させて被施工対象物に吹き付ける溶射法に用いる溶射材用粉末であり、溶射材用粉末は、生珪石の粒子又は生珪砂の粒子70~92質量%と、金属粒子8~22質量%とを含有し、前記金属粒子は、金属Siを90質量%以上含むものであり、前記生珪石の粒子又は生珪砂の粒子は、シリカを90質量%以上含有し、カリウムを0.40~5.00質量%含有する鉱物である。なお、上記のカリウムの含量は、生珪石の粒子、又は生珪砂の粒子に含まれるカリウム分を、カリウム原子の含量に換算した含量のことである。カリウムの含量の上限は、2.00質量%以下であることがより好ましい。
【0016】
例えば、カリウムをK2Oとして含有する場合は、K2Oを0.48~6.03質量%含有する生珪石の粒子又は生珪砂の粒子を使用することが好ましい。K2Oの含量の上限は、2.41質量%以下であることが好ましい。
【0017】
上記溶射材用原料粉末においては、カリウムは、生硅石の粒子又は生珪砂の粒子に、不純物として含有され、カリウム塩の形態で添加されるものではない。また、上記溶射材用原料粉末においては、カルシウム塩、及びナトリウム塩の形態で添加されるものではない。
【0018】
溶射材用粉末は、生珪石の粒子又は生珪砂の粒子を含有する。生珪石の粒子又は生珪砂の粒子は、例えば、鉱物として産出する生珪石を破砕することにより得ることができるし、川砂のように粒径が小さい状態で産出する生珪砂をそのまま使用してもよいし、川砂のように粒径が小さい状態で産出する生珪砂を破砕して用いてもよい。生珪石の破砕物、生珪砂、又は生珪砂の破砕物は、篩掛けにより分級してもよい。
【0019】
生珪石の粒子又は生珪砂の粒子は、シリカを90質量%以上含有し、カリウムを0.40~5.00質量%含有する鉱物を使用する。鉱物という場合には、産出した鉱物、すなわち、産出した硅石又は珪砂を、破砕したものが含まれるものとする。上記のシリカの含量は、92質量%以上であることがより好ましい。上記のシリカの含量の上限値は、97質量%以下であることがより好ましい。
【0020】
生珪石の粒子又は生珪砂の粒子は、未焼成の珪石の粒子又は未焼成の珪石の粒子のことである。生珪石の粒子又は生珪砂の粒子は、主たる結晶相がクォーツである。例えば、生硅石の粒子又は生珪砂の粒子に含まれるシリカのうち、90質量%以上がクォーツであることが好ましく、95質量%以上がクォーツであることがより好ましい。この場合の上限値は、100質量%以下である。
【0021】
詳細な機構は不明であるが、鉱物中に不純物としてカリウムを所定量含有したシリカが主体の生珪石の粒子又は生珪砂の粒子を、金属粒子と共に、溶射材用粉末に含有させることにより、溶射材用粉末の反応性、肉盛性能、溶射体の気孔率、及び溶射体の接着強度が向上し、溶射材のリバウンドロスが少なくなる。
【0022】
公知の溶射材用粉末においては、結晶化を促進する成分として、ナトリウム塩、カリウム塩、又はリチウム塩が、鉱物の不純物としてではなく、溶射材用粉末に意図的に添加されることがある。詳細な機構は不明であるが、ナトリウム塩、カリウム塩、又はリチウム塩が、鉱物の不純物としてではなく、溶射材用粉末に含まれると、溶射材用粉末の反応性や接着強度等の物性が著しく低下する。このため結晶化を促進させる成分は、配合しないことが好ましく、配合するにしても0.2質量%以下とすることが好ましい。
【0023】
生珪石の粒子又は生珪砂の粒子としては、CaOなどのカルシウム系の不純物、Fe2O3などの鉄系の不純物、Na2Oなどのナトリウム系の不純物、又はMgOなどのマグネシウム系の不純物が少ないものを使用することが好ましい。例えば、Ca原子の含量に換算した際のカルシウムの含量が、0.50質量%以下のものを好適に使用することができる。また、Fe原子の含量に換算した際の鉄の含量が、0.50質量%以下のものを好適に使用することができる。また、Na原子の含量に換算した際のナトリウムの含量が、0.50質量%以下のものを好適に使用することができる。また、Mg原子の含量に換算した際のマグネシウムの含量が、0.20質量%以下のものを好適に使用することができる。これらの不純物の下限値は、いずれもそれぞれの原子に換算した含量が0質量%以上である。
【0024】
例えば、カルシウム系の不純物がCaOである場合は、CaOの含量が、0.70質量%以下のものを使用することが好ましい。例えば、ナトリウム系の不純物が、Na2Oである場合は、Na2Oの含量が0.67質量%以下のものを使用することが好ましい。例えば、鉄系の不純物がFe2O3である場合は、Fe2O3の含量が0.71質量%以下のものを使用することが好ましい。これらの不純物の下限値は、いずれも0質量%以上である。
【0025】
生珪石の粒子又は生珪砂の粒子は、Al2O3などのアルミニウム系の化合物を含有するものであることが好ましく、Al原子の含量に換算した際のアルミニウムの含量が0.90~7.00質量%、又は0.90~1.80質量%含有することが好ましい。
【0026】
アルミニウム系の化合物がAl2O3である場合は、Al2O3の含有量が1.70~3.40質量%のものを使用することが好ましい。
【0027】
金属粒子は、金属粒子は金属Siを主成分とすることが好ましい。この場合、主成分とは、金属粒子に含まれる金属Siが90質量%以上であるこという。金属粒子に含まれる金属Siの上限値は、不可避不純物を除けば、100質量%以下である。
【0028】
溶射材用粉末には、スピネル、MgOなどのマグネシウムを含む粒子を含有するようにしてもよい。マグネシウムは、例えば、スピネル、MgOなどのマグネシウムの酸化物として含まれることが好ましい。マグネシウム分を含む粒子を含ませることで、溶射材の接着強度をさらに向上させることが可能である。マグネシウム分を含む粒子の含量は、マグネシウム原子に換算した含量が、0~10質量%となるようにすることが好ましく、0~5質量%となるようにすることがより好ましく、1~3質量%となるようにすることがさらに好ましい。
【0029】
生珪石の粒子又は生珪砂の粒子の粒径の範囲は、例えば、50~3500μm、又は50~2000μmのものを使用することができる。金属粒子の粒径の範囲は、例えば、0.1~100μmのものを使用することができる。金属粒子の粒径の範囲は、例えば、0.1~75μmとしてもよい。上述のように、溶射材用粉末にマグネシウムを含む粒子を配合する場合において、当該粒子の粒径の範囲は、例えば、50~3500μm、又は50~2000μmにすることができる。なお、本明細書における粒径は、篩による分級による。
【0030】
溶射材用粉末に含まれる生珪石の粒子又は生珪砂の粒子の割合は、70~92質量%とする。溶射材用粉末に含まれる生珪石の粒子又は生珪砂の粒子の割合は、73~90質量%としてもよいし、75~85質量%としてもよい。
【0031】
溶射材用粉末に含まれる金属粒子の割合は、8~22質量%とする。溶射材用粉末に含まれる金属粒子の割合は、14~20質量%とすることがより好ましい。
【0032】
上記の溶射材用粉末は、圧縮酸素を利用して溶射材用粉末を圧送し、酸素と溶射材用粉末とを混合して、炉熱を利用して溶射材用粉末に含まれる金属粒子と酸素とを酸化させる公知の溶射機を使用して、被施工対象物に対して吹き付けることができる。被施工対象物は、特に限定されるものではないが、例えば、コークス炉などの窯炉の炉壁、炉底、炉の天井などの構造物が挙げられる。
【0033】
上記の溶射材用粉末によれば、例えば、以下のような特性を有する溶射体を得ることができる。例えば、後述する方法で求めた肉盛性が480~550ccの溶射体を得ることができる。また、例えば、後述する方法で求めた気孔率が13%以下の緻密な溶射体を得ることができる。気孔率の下限値は特に限定されないが、例えば、7質量%以上である。また、例えば、後述する方法で求めた焼成による気孔率の変化が0.1~2.0%である溶射体を得ることができる。また、例えば、後述する方法で求めた剪断接着強度が1.8MPa以上、又は2.2MPa以上の高い溶射体を得ることができる。剪断接着強度の上限値は、特に限定されないが、例えば、3.0MPa以下、又は2.6MPa以下である。また、例えば、所定の温度サイクル1回の後に測定した場合、及び所定の温度サイクル5回の後に測定した場合の両時において前記剪断接着強度を得ることができる。また、例えば、後述する方法で求めたリバウンドロスが55%以下の溶射体を得ることができる。リバウンドロスの下限値は、特に限定されるものではないが、例えば、45%以上である。
【0034】
上記の溶射材用粉末によれば、後述する方法で求めた線熱膨張率の範囲が-0.300~+0.300の範囲に収まる溶射体を得ることができる。
【0035】
アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、ナトリウム、又はカリウムを含有する化合物の量を、各原子の量に換算する際には、原子量として以下の数値を使用する。アルミニウムは27、カルシウムは40、マグネシウムは25、鉄は56、ナトリウムは23、カリウムは39、酸素は16である。その他の原子量については、日本化学会原子量専門委員会が公開している原子量表(2021)に記載の原子量の小数点第1位の値を四捨五入して用いる。
【0036】
アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、ナトリウム、又はカリウムを含有する化合物の量(B)を、各原子の量(A)に換算する際には、以下により、計算する。Aの値は、小数点第3位の値を四捨五入した値とする。
A=B×(C/D)
ただし、Aは、各原子の量(質量%)(換算値)であり、
Bは、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、ナトリウム、又はカリウムを含有する化合物の量(質量%)であり、
Cは、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、ナトリウム、又はカリウムの原子量に、組成式中に示されるアルミニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、ナトリウム、又はカリウムの個数を乗じた数値であり、
Dは、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、ナトリウム、又はカリウムを含有する化合物の式量である。
【実施例0037】
以下、溶射材用粉末の実施例を挙げる。以下に挙げる実施例は、溶射材用粉末の限られた例に過ぎず、本発明の技術的範囲は、例示した実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
表2に記載の化学組成と、表3に記載した鉱物組成を有しており、天然鉱物に由来する生珪砂1を破砕して、その後、篩分けすることにより製造された生珪砂の粒子と、不可避不純物を除いたSiの含量が100質量%である金属粒子とを、表1に記載の割合で混合して、実施例1に係る溶射材用粉末を得た。生珪砂1の粒径の範囲は、75μm以上、かつ850μm未満である。金属粒子の粒径の範囲は、0.5μm以上、かつ50μm以下である。なお、表1における空白のセルは、配合量又は含量がゼロであることを示す。他の表においても同様とする。
【0039】
[実施例2]
実施例1で使用した生珪砂1を、表2に記載された化学組成と表3に記載された鉱物組成とを有しており、天然鉱物に由来する生珪砂4を破砕して、その後、篩分けすることにより製造されたものに変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る溶射材用粉末を作製した。生珪砂4の粒径の範囲は、106μm以上、かつ850μm未満である。
【0040】
[実施例3]
実施例1で使用した生珪砂1を、表2に記載された化学組成と表3に記載された鉱物組成とを有しており、天然鉱物に由来する生珪砂2を破砕して、その後、篩分けすることにより製造されたものに変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る溶射材用粉末を作製した。生珪砂2の粒径の範囲は、75μm以上、かつ850μm未満である。
【0041】
[実施例4]
実施例1で使用した生珪砂1を、表2に記載された化学組成と表3に記載された鉱物組成とを有しており、天然鉱物に由来する生珪砂3に変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る溶射材用粉末を作製した。生珪砂3の粒径の範囲は、106μm以上、かつ850μm未満である。
【0042】
[実施例5]
実施例1で使用した生珪砂1の量を78質量%に変更し、マグネシウム粒子として粒径の範囲が150~1700μmのスピネルを5質量%配合した点以外は、実施例1と同様にして、溶射材用粉末を作製した。使用したスピネルの化学組成を表4に示す。
【0043】
[比較例1]
実施例1で使用した生珪砂1を、表3に記載された化学組成と表3に記載された鉱物組成とを有する珪石レンガ屑に変更した点以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る溶射材用粉末を作製した。珪石レンガ屑は、コークス炉で使用されていた珪石煉瓦を破砕したものであり、粒径の範囲は、150μm以上、かつ850μm未満である。
【0044】
[比較例2]
実施例1で使用した生珪砂1を、表2に記載された化学組成と表3に記載された鉱物組成とを有しており、天然鉱物に由来する生珪砂5に変更した点以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る溶射材用粉末を作製した。生珪砂5の粒径の範囲は、150μm以上、かつ1700μm未満である。
【0045】
[比較例3]
実施例1で使用した生珪砂1を、表2に記載された化学組成と表3に記載された鉱物組成とを有しており、天然鉱物に由来する生珪砂6に変更した点以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係る溶射材用粉末を作製した。生珪砂6の粒径の範囲は、150μm以上、かつ1700μm未満である。
【0046】
[比較例4]
比較例2の溶射材用粉末の全質量の1質量%に相当するK2CO3をさらに配合した点以外は比較例2と同様にして、比較例4に係る溶射材用粉末を作製した。
【0047】
[比較例5]
比較例2の溶射材用粉末の全質量の1質量%に相当するCaCO3をさらに配合した点以外は比較例2と同様にして、比較例5に係る溶射材用粉末を作製した。
【0048】
[比較例6]
比較例2の溶射材用粉末の全質量の1質量%に相当するNa2CO3をさらに配合した点以外は比較例2と同様にして、比較例6に係る溶射材用粉末を作製した。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
[原料の化学的組成と鉱物組成]
表2に記載した各生珪砂又は珪石レンガ屑の化学組成と、表4に示したスピネルの化学組成とは、JIS R2216に準拠して、蛍光X線分析より測定した。測定は、RigakuのZSX primusIIを使用した。表3に記載した各生珪砂又は珪石レンガ屑の鉱物組成は、JIS K0131に準拠して、X線回折による回折強度を測定した。表3の数値は、各結晶相の存在比率(質量%)を示す。また、表3に記載した結晶化度は以下により、算出した。
結晶化度=結晶に由来するX線回析強度の面積÷(結晶に由来する回析強度の面積+非結晶に由来する回析強度の面積)×100-100
【0054】
[溶射体の物性評価]
次に、上記の各実施例と各比較例の溶射材用原料粉末を用いて、以下の条件で溶射を行い、形成された溶射体について、物性評価を実施した。
【0055】
溶射前の準備として、バーナー炉の中に耐火煉瓦を上下2段に重ねて配置し、バーナー炉内の温度が600℃、前記耐火煉瓦の表面温度が500℃になるまで加熱した。その後、公知の溶射機を用いてランスの先端から圧縮酸素と共に、上記の各実施例又は各比較例の溶射材用粉末を、前記加熱された耐火煉瓦の継ぎ目部分に対して吹き付けた。溶射の条件は次の通りである。溶射機が吐出する酸素の流量は28Nm3/時間であり、溶射材用粉末の吐出量は、80kg/時間である。溶射機のランスの長さは2mであり、溶射用原料粉末をランスに供給するホースの長さは10mである。ランスの先端から吐出された溶射材用粉末に含まれる金属粒子は、炉熱によって、供給された酸素と反応して、酸化される。溶射材用粉末2.0kgを吹き切った後、溶射体が付着した耐火煉瓦を炉外に取り出して自然冷却し、溶射体の物性を評価した。
【0056】
評価した物性は、溶射体のリバウンドロス、気孔率、焼成後の気孔率、及び肉盛性である。また、溶射の作業中には、溶射材用粉末の反応性を評価した。各物性の評価法は、以下の通りである。さらに、形成された各溶射体について、上記のJIS R2216に準拠した蛍光X線分析より、化学組成を求めた。この結果を表6に示す。なお、比較例4ないし比較例6に係る溶射材用粉末は、反応性が悪く、測定用の溶射体が得られなかった。
【0057】
【0058】
[反応性]
溶射を行う際には、吹付用のランスを動かして、溶射材を吹き付ける場所を変えながら作業を行う。溶射材用粉末の質が悪いと、ランスを動かした際に、反応(反応光)がノズルの動きに追従しないことがある。反応がノズルの動きに追従しない場合は、未反応の溶射材用粉末が被施工対象物に吹き付けられることになり、溶射体が形成されない。また、金属粒子の酸化反応によって生じる反応が脈動を起こすように明暗の変化を生じる。反応が脈動を起こすように変化すると、溶射材用粉末の溶け具合が不均一になる。この現象は、溶射材用粉末が、熱と供給された酸素とによって、酸化反応しやすいか否かに依存する。本明細書では、その反応のしやすさを反応性と呼ぶ。反応性を評価するために、バーナー炉内に設置した前記耐火煉瓦に対して吹付機のランスから溶射材を吹き付けて、反応がノズルの動きに対して適切に追従するか否か、反応に脈動が生じるか否かを、目視で確認した。評価は二重丸、丸、三角、バツの4段階で行い、先に記載したものほど反応性がよい。
【0059】
[リバウンドロス]
次式により、吹き付けた溶射材のうち前記耐火煉瓦に付着せずに喪失したものの割合、すなわちリバウンドロス(%)を求めた。
R=100-(A÷B×100)
ただし、Rはリバウンドロス(%)であり、Aは前記耐火物に対して付着した溶射体の質量(g)であり、Bは前記耐火煉瓦に対して吹き付けた溶射材用粉末の総量(g)である。具体的には、Bは2000gである。Aは、溶射体を吹き付けた後の前記耐火煉瓦の質量(g)から溶射体を吹き付ける前の前記耐火煉瓦の質量(g)を差し引くことにより求めた。
【0060】
[気孔率、嵩比重]
溶射体が付着した前記各耐火煉瓦から溶射体のみをダイヤモンドカッターで切り出した。切り出した溶射体から並形煉瓦半切の大きさの試験片を2個切り出す。濡れた試験片を110℃に設定した乾燥機に入れて24時間乾燥させた。乾燥させた試験片を常温になるまで放置し、JISR2205の方法に準拠して気孔率と嵩比重を求めた。なお、質量計は、0.1g単位まで測定できるものを使用した。
【0061】
[焼成後の気孔率]
上記の方法により気孔率を測定した2個の試験片を、電気炉により1200℃で24時間にわたって焼成する。焼成後の試験片について、上記と同様のJISR2205に準拠した方法で焼成後の気孔率を求めた。
【0062】
[気孔率の変化]
上記で求めた焼成後の気孔率の値から、焼成前の気孔率の値を差し引いて求めた気孔率の差を、気孔率の変化(%)とする。
【0063】
[肉盛性]
上述のJISR2205に準拠して求めた嵩比重と、上述の前記耐火煉瓦に付着した溶射体の質量(A)(g)から、次式により、肉盛性(cc)を求めた。
V=A÷C
ただし、Vは溶射材を2kg吹付けた際の肉盛性(cc)であり、Aは前記耐火煉瓦に付着した溶射体の質量(g)であり、Cは上記の方法で求めた嵩比重である。肉盛性とは、換言すると被施工対象物に付着した溶射体の体積である。
【0064】
[剪断接着強度]
次に、以下の方法により、上記の各実施例に係る溶射材用粉末を溶射して形成した溶射体と、上記の各比較例に係る溶射材用粉末を溶射して形成した溶射体とについて、剪断接着強度を求めた。
【0065】
ブロック状の珪石煉瓦を電気炉に入れて、600℃まで加熱する。前記珪石煉瓦1片に対して500gの溶射材用粉末を溶射する。溶射の条件は、上述と同様である。溶射時には、耐熱性の型枠で溶射材を吹き付ける領域以外の部分をマスキングし、縦50mm、かつ横65mmの方形の領域に溶射材用粉末を溶射する。溶射により前記領域には、厚み20mmの溶射体が形成される。溶射体が付着した溶射直後の珪石煉瓦を冷却することなく、600℃で3時間維持する。この溶射体が付着した珪石煉瓦を試験片とする。この温度管理された試験片を3℃/分の速度で1200℃まで昇温して、1200℃で24時間維持する。その後、1℃/分の速度で600℃まで徐冷して、600℃で3時間維持する。600℃の環境下において、溶射体が付着した珪石煉瓦の位置を固定し、厚み2cmの溶射体の側方から押し棒を当てて、溶射体の接着面を横方向にずれさせる方向に荷重を掛けて、溶射体が破断した時の荷重(N)を測定した。当該荷重を基に、次式により剪断接着強度(MPa)を求めた。押し棒による荷重速度は、68N/秒である。溶射体の接着面積は、上述の通り、50mm×65mmを平方メートルに換算した値である。
剪断接着強度(MPa)=破断時の荷重(N)÷溶射体の接着面積(m2)×10-6
【0066】
各実施例、各比較例の溶射材用粉末ごとに評価した溶射体のリバウンドロス、気孔率、焼成後の気孔率、肉盛性、剪断接着強度、溶射材用粉末の反応性を、表1に示す。なお、表1において、剪断接着強度について2.46以上と記載した個所は、測定装置の検出限界である2.46MPa以上の剪断接着強度を記録したことを示す。
【0067】
表1の記載から明らかなように、実施例1ないし実施例5の溶射材用粉末により形成された溶射体は、比較例1ないし比較例6の溶射材用粉末により形成された溶射体に比して、反応性、肉盛性、気孔率、焼成後の気孔率、加熱による気孔率の変化、剪断接着強度、及びリバウンドロスの各性能においてより優れていることがわかる。
【0068】
実施例1ないし5の溶射材用粉末は、反応性、溶射の作業性等において優れている。
【0069】
実施例1ないし5の溶射材用粉末は、反応性において優れているので、未反応の溶射材用粉末が被施工対象物に吹き付けられるといった事態が生じにくい。実施例1ないし5の溶射材用粉末によれば、気孔率の低い緻密な溶射体が得られる。気孔率の低さと、溶射体の強度には相関がある。また、気孔率が低い溶射体では、浸炭などの経時変化が生じにくい。実施例1ないし5の溶射材用粉末で形成した溶射体では、焼成後の気孔率の変化が低く抑えられている。操業による熱変化に伴う、気孔率の変化が低く抑えられることがわかる。実施例1ないし5の溶射材用粉末によれば、高い接着強度を有する溶射体が得られる。操業中に溶射体に応力が作用した際に、溶射体が簡単に剥離するといった事態が生じにくい。
【0070】
[線熱膨張率]
次に、実施例1の溶射材用粉末を溶射して得た所定寸法の溶射体からなる試験片と、コークス炉の炉壁として使用された後の珪石煉瓦から切り出した所定寸法の試験片1と、前記コークス炉とは別のコークス炉の炉壁として使用された後の珪石煉瓦から切り出した所定寸法の試験片2と、上記の実施例1に係る溶射材用粉末で作製した試験片を所定の温度サイクルで焼成した試験片3とについて、JIS R 2207-1の方法に基づいて、以下の点については、試験方法を変更して線熱膨張率を求めた。
【0071】
実施例1の各試験片については、型枠に対して実施例1及び実施例6に係る各溶射材用粉末を、バーナー炉内の温度を変更した点以外は上記と同様の条件によって、溶射して所定寸法の溶射体を形成し、溶射体を型から外すことより作製した。なお、溶射の条件は、バーナー炉内の温度を400℃とした点以外は、上記の溶射と同一の条件により行った。
【0072】
試験片1は、コークス炉の炉壁として使用されていた珪石煉瓦から所定のサイズの試験片を所定寸法に切り出すことにより作製した。試験片2は、前記コークス炉とは別のコークス炉の炉壁として使用されていた珪石煉瓦から所定寸法に切り出すことにより作製した。
【0073】
試験片3は、実施例1に係る溶射材用粉末を溶射して作製した試験片を、冷却することなく、400℃で6時間維持し、その後400℃から4℃/分の速度で1200℃に至るまで昇温し、1200℃で24時間維持し、400℃に至るまで1℃/分の速度で冷却することにより作製した。
【0074】
上記の試験片の大きさは、いずれも、縦40mm、横160mm、厚み40mmの方形のブロック状とした。
【0075】
実施例1に係る試験片、並びに試験片3については常温からの焼成ではなく、溶射直後の熱間状態又は焼成後の熱間状態を維持したまま400℃の炉内で6時間各試験片を静置し、以下の加熱条件で加熱して、変位検出器で測定した値から線熱膨張率を求めた。変位検出器は、可視光投影方式(カメラ:キーエンス製のCV-035C、画像センサ:キーエンス製のCV-5000)とした。珪石煉瓦から切り出した試験片1及び試験片2についても、同様に、400℃の炉内で6時間静置し、以下の加熱条件で加熱して、線熱膨張率を求めた。
【0076】
加熱条件は、次の通りである。上述の400℃で6時間維持した各試験片を、4℃/分の速度で1200℃まで昇温させて、1200℃で24時間維持した。その後、炉内の温度を1℃/分の速度で400℃まで降下させた。線熱膨張率は、30秒に1度の間隔で測定する。
【0077】
各試験片について、温度変化と線熱膨張率の関係をまとめたグラフを
図1に示す。
図1から明らかなように、実施例1に係る溶射用原料粉末で構成した試験片と、実施例1に係る溶射材用粉末を溶射して作製した試験片を所定の温度サイクルで焼成した試験片3とにおいては、温度を400℃から1200℃の範囲で変化させた場合における線熱膨張率が-0.300~+0.300の範囲に収まる。この線熱膨張率の変化は、使用済みの珪石煉瓦から切り出した試験片1の線熱膨張率の変化に近似し、別の使用済みの珪石煉瓦から切り出した試験片2の線熱膨張率の変化と近似する。一方、比較例1の溶射用原料粉末で構成した溶射体は、前記試験片1の線熱膨張率の範囲を大きく逸脱した。実施例1の溶射用原料粉末で構成した試験片と、実施例1に係る溶射材用粉末を溶射して作製した試験片を所定の温度サイクルで焼成した試験片3とにおいては、コークス炉の構成材として多用される珪石煉瓦と線熱膨張率の特性が近似している。このため、珪石煉瓦と溶射体とで加熱又は冷却に伴う膨張率の差に起因する溶射体の剥離、損傷が生じにくい。
【0078】
[温度変化後の接着強度]
次に、実施例1に係る溶射材用粉末を溶射して形成した溶射体と、比較例1に係る溶射材用粉末を溶射して形成した溶射体とについて、所定の温度サイクルで加熱と冷却を繰り返した際における剪断接着強度を求めた。温度サイクルは、600℃から1200℃に3℃/分の速度で加熱して、1200℃で24時間維持し、その後、600℃に1℃/分の速度で降下させて600℃で3時間維持する。これを1サイクルとして、計5サイクルの温度変化を実施する。試験片の作製方法と、剪断接着強度の測定方法とは、上記と同様である。なお、実施例1、実施例6、及び比較例1に係る溶射材用粉末の溶射後においては、溶射を行った直後の珪石煉瓦を600℃で3時間維持し、冷却することなく、上記の温度サイクルで温度変化させた。上記の温度サイクルで温度を変化させた後の各試験片について、冷却することなく600℃の環境下で、上記と同様の方法により、溶射体が破断した時の荷重を測定した。当該荷重を基に剪断接着強度(MPa)を求めた。
【0079】
図2に、実施例1及び比較例1に係る溶射材用粉末を使用して形成した溶射体についての、1サイクル後の溶射体の剪断接着強度と、5サイクル後の溶射体の剪断接着強度を示す。
図2に示したように、実施例1に係る溶射体用原料粉末を溶射して得た溶射体では、装置の検出限界である2.46MPa以上の剪断接着強度を記録したが、グラフの表記上は2.46MPaとしている。
【0080】
図2に示したように、実施例1に係る溶射材用粉末で構成した溶射体においては、前記加熱サイクルを1回経た後、及び前記加熱サイクルを5回経た後のいずれの計測においても、検出限界である2.46MPaを越える剪断接着強度を維持していた。一方、比較例1に係る溶射材用粉末で構成した溶射体においては、前記加熱サイクルを5回経た後の剪断接着強度(0.31MPa)は、前記加熱サイクルを1回経た後の剪断接着強度(0.81MPa)に比して、大きく低下していた。この結果から、実施例1の溶射材用粉末によれば、繰り返される熱変動に対しても接着強度が低下しない溶射体を得ることができることがわかる。