(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181229
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】滑り案内面用シート材
(51)【国際特許分類】
B23Q 1/26 20060101AFI20231214BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20231214BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B23Q1/26 Z
F16C33/20 A
C08L27/18
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023176343
(22)【出願日】2023-10-11
(62)【分割の表示】P 2019228708の分割
【原出願日】2019-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2019021050
(32)【優先日】2019-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】福澤 覚
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性に優れるとともに、歪みが抑制されている滑り案内面用シート材を提供する。
【解決手段】工作機械1の案内構造における被案内面4aを形成するシート材4であって、シート材4は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を主成分とするスカイブシートの圧縮加工体であり、スカイブシートよりもシート厚さが1.5~10%薄くなっており、シート材4は、さらに延伸加工されており、スカイブシートよりも比重が0.01~0.04大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の案内構造における案内面または被案内面を形成する滑り案内面用シート材であって、
前記滑り案内面用シート材は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を主成分とするスカイブシートの圧縮加工体であり、前記スカイブシートよりもシート厚さが1.5~10%薄いことを特徴とする滑り案内面用シート材。
【請求項2】
前記滑り案内面用シート材は、さらに延伸加工されており、前記スカイブシートよりも比重が0.01~0.04大きいことを特徴とする請求項1記載の滑り案内面用シート材。
【請求項3】
前記滑り案内面用シート材が、鉄よりも硬度の低い非鉄金属の粉末を含有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の滑り案内面用シート材。
【請求項4】
前記滑り案内面用シート材のシート厚さが0.5~2.5mmであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の滑り案内面用シート材。
【請求項5】
前記工作機械の案内構造において、前記滑り案内面用シート材は、基材に接着されて前記案内面または被案内面を形成し、少なくとも前記基材に接着される側の表面に、前記基材との接着力を付与する接着可能化処理面が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の滑り案内面用シート材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械のワークテーブルなどを案内する構造に用いられる工作機械の滑り案内面用シート材に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械において、工作物の支持台を案内する案内面と、この案内面に案内される被案内面のいずれかまたは両面は、滑り案内されることが周知である。例えば、特許文献1には、案内面または被案内面に、フッ素樹脂を主成分とする樹脂組成物のシート材が接着されている。この工作機械の滑り案内面用シート材(以下、案内シート材、またはシート材ともいう)は、圧縮成形体からスカイブ加工によりシート状に加工されたものである。
【0003】
例えば、案内シート材として、その必要特性を確保するため、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂を主成分として、銅や銅合金の粉末などを含有するシート材(特許文献2参照)や、PTFE樹脂を70~90質量%、ポリオキシベンゾイルおよびポリフェニレンスルフィドの少なくともいずれかを10~30質量%含有するシート材(特許文献3参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-149147号公報
【特許文献2】特開2007-61955号公報
【特許文献3】特開昭60-127933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、案内シート材と相手摺動面は油潤滑されており、案内シート材の表面には、相手摺動面との高精度な面当たりのため、きさげ加工が施されている。きさげ加工によって形成された凹部はオイルポケットの役割を担い、これにより滑り案内面間へ潤滑油が供給される。しかしながら、工作機械の実稼働によって金属などの切削粉が発生し、その切削粉が滑り案内面間に混入すると、樹脂製の案内シート材の摩耗が促進され、当初予測されていたシート材の寿命が著しく短くなるおそれがある。そのため、市場において、案内シート材の耐摩耗性の更なる向上が求められている。
【0006】
また、従来の案内シート材は、流動性が極めて低いPTFE樹脂がベース材であることや、PTFE樹脂の2倍以上の比重を有する銅合金粉末を含有することから、圧縮成形および熱処理により作製されたビレットを用いてスカイブ加工を行ったシート材には歪みが発生することがある。具体的には、シート材をスカイブ方向に伸ばした時にシートの両側面付近に、波状のうねり(非平坦性)が発生することや、平面上で長手方向のいずれか一方の側面側に向かって湾曲する(非直進性)こと、幅方向がU字状に湾曲する(非平面性)ことがあった。このように形状に歪みが発生したシート材に対しては、歪みが無い部分を切り出して使用したり、あるいは、歪みが製品機能上影響の無い程度の部分を切り出して使用するなどして対応している。多くの場合、歪みが発生した両側面付近を削除して使用しており、低価格化を困難にする要因となっていた。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性に優れるとともに、歪みが抑制された工作機械用の滑り案内面用シート材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の滑り案内面用シート材は、工作機械の案内構造における案内面または被案内面を形成する滑り案内面用シート材であって、上記滑り案内面用シート材は、PTFE樹脂を主成分とするスカイブシートの圧縮加工体であり、上記スカイブシートよりもシート厚さが1.5~10%薄いことを特徴とする。
【0009】
上記滑り案内面用シート材は、さらに延伸加工されており、上記スカイブシートよりも比重が0.01~0.04大きいことを特徴とする。
【0010】
上記滑り案内面用シート材が、鉄よりも硬度の低い非鉄金属の粉末を含有することを特徴とする。
【0011】
上記滑り案内面用シート材のシート厚さが0.5~2.5mmであることを特徴とする。
【0012】
上記工作機械の案内構造において、上記滑り案内面用シート材は、基材に接着されて上記案内面または被案内面を形成し、少なくとも上記基材に接着される側の表面に、上記基材との接着力を付与する接着可能化処理面が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の滑り案内面用シート材は、PTFE樹脂を主成分とするスカイブシートの圧縮加工体であるので、低摩擦特性に優れ、耐油性および耐クーラント性に優れる。さらに、圧縮加工をしていないスカイブシート(以下、圧縮加工をしていないスカイブシートを単にスカイブシートと呼ぶ)よりもシート厚さが1.5~10%薄いので、耐摩耗性を向上できるとともに、スカイブシートの歪みが矯正され、形状の歪みを抑えることができる。
【0014】
上記シート材は、さらに延伸加工されているため、スカイブシートの歪み矯正効果がさらに向上する。また、圧縮加工および延伸加工をしていないスカイブシートよりも比重が0.01~0.04高いので、耐摩耗特性がさらに向上する。また、上記シート材が鉄よりも硬度の低い非鉄金属の粉末を含有するので、PTFE樹脂製の案内シート材に耐摩耗性と耐圧縮性を付与でき、シート材として優れた特性が得られる。
【0015】
上記シート材のシート厚さが0.5~2.5mmであるので、直進性、平面性、平坦性に優れた形状が得られ、形状の歪みが無いまたは歪みが少ないシート材となる。なお、案内面用シート材において、最も需要が高いシート厚さは1.0~1.5mmの範囲である。そのため、需要が低いシート厚さの案内シート材に対しても、耐摩耗性が向上した本発明による案内シート材の提供が可能である。
【0016】
工作機械の案内構造において、シート材は、基材に接着されて案内面または被案内面を形成し、少なくとも基材に接着される側のシート材の表面に、基材との接着力を付与する接着可能化処理面が形成されているので、接着剤で基材との接着が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】工作機械の案内構造の一例を示す模式断面図である。
【
図2】本発明の滑り案内面用シート材の平面図である。
【
図3】スカイブシートの圧縮加工などを行うカレンダー機の概略図である。
【
図4】実施例および比較例のシート材の圧縮率と摩耗量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の滑り案内面用シート材について、
図1に基づいて説明する。
図1は工作機械の案内構造の一例を示す模式断面図である。工作機械1の案内構造は、工作物の支持台であるテーブル2を案内するサドル3の上面の案内面3aと、この案内面3aに摺接して案内される被案内面と、これら案内面3aと被案内面との間に介在する潤滑油とを備えている。
【0019】
本発明の滑り案内面用シート材は、案内面または被案内面を形成する摺動部材であり、
図1のシート材4が相当する。
図1では、シート材4の下面が被案内面4aを形成する。この案内構造は、テーブル2がサドル3上を移動しても、テーブル自体は直接案内面3aと接触せず、テーブル2の下部に設けられたシート材4の被案内面4aが案内面3aと摺動する構造である。シート材4は、接着層5を介して、テーブル2に接着固定されている。
【0020】
接着層5に用いられる接着剤としては、周知の接着剤を適宜使用できる。例えば、エポキシ系接着剤、フェノール系接着剤、ビニルエーテル系接着剤、ビニルアセタール系接着剤などが使用できる。これらの中でも、接着力および耐油性、耐クーラント性に優れるN-5接着剤(NTN株式会社製商品名)などのエポキシ系接着剤を用いることが好ましい。
【0021】
図2には、シート材4の平面図を示す。
図2に示すように、シート材4は、平面視矩形状の長尺シートである。シート材4の長手方向(X軸方向)が、スカイブ加工におけるスカイブ方向であり、シート材4の幅方向がY軸方向に相当する。シート材4の長手方向長さは、例えば5~50mであり、使用用途に応じて適宜切断して使用される。シート材4の幅方向長さは、例えば100~1000mmである。また、シート材の片面または両面には、PTFE樹脂にヌレ性を付与し、基材との接着力を高める接着可能化処理が施された接着可能化処理面が形成されている。接着可能化処理としては、コロナ放電処理、スパッタエッチング処理、プラズマエッチング処理、アンモニア化成処理などの表面エッチング処理、紫外線照射処理などが挙げられる。
【0022】
本発明の滑り案内面用シート材は、PTFE樹脂を主成分とする圧縮成形体から、スカイブ加工により得られたスカイブシートを素形材として用いる。スカイブ加工とは、旋盤によって圧縮成形体の表面から桂剥きのように薄くシートを削り出す加工方法であり、PTFE樹脂のシート加工には広く採用される加工方法である。ここで、従来の滑り案内面用シート材は、一般的にスカイブ加工されたスカイブシートに接着可能化処理を施し所定寸法にカットして使用していた。しかし、スカイブシートには、シート材をスカイブ方向に伸ばした時にシートの両側面付近に波状のうねり(非平坦性)や、平面上で長手方向のいずれか一方の側面側に向かって湾曲する(非直進性)、幅方向がU字状に湾曲する(非平面性)といった形状の歪みが発生することがあり、改善の余地があった。
【0023】
これに対して、本発明に係るシート材4は、スカイブシートの両面が圧縮された圧縮加工体であり、シート材4のシート厚さtがスカイブシートのシート厚さTよりも1.5~10%薄いことを特徴としている。これにより、シートの密度が増加し耐摩耗性が向上するとともに、スカイブシートの形状の歪みを矯正でき、歪みが抑制されたシート材が得られる。シート厚さの変化量が1.5%未満であれば、耐摩耗性の向上効果が得られないおそれがあり、10%を超えると形状の歪みが逆に大きくなるおそれがある。シート厚さの変化量は、好ましくは2~10%である。例えば、スカイブシートのシート厚さTが1.55mmの場合、シート材4のシート厚さtは、1.40~1.52mmである。シート厚さの変化量は、圧縮率(%)として下記の式で算出される。
【0024】
圧縮率=((スカイブシートのシート厚さT)-(シート材4のシート厚さt))/(スカイブシートのシート厚さT)×100
圧縮率が7%を超えると耐摩耗性の向上効果は頭打ちとなるため、費用対効果を考慮すると圧縮率は2~7%が好ましい。より好ましくは、圧縮率が4~7%である。
【0025】
シート材4のシート厚さtは0.50~2.50mmであることが好ましい。シート厚さtが0.50mm未満であると、シート材を工作機械に接着した後の後加工がしづらくなるおそれがあり、シート厚さtが2.50mmを超えると、コスト増や歪みの矯正のための所要時間が長くなり生産性が低下するおそれがある。
【0026】
本発明のシート材は、スカイブシートの両面が圧縮された圧縮加工体であるので、スカイブシートに比べて、両面の平滑性が高くなり表面粗さが小さくなる。表面粗さの指標としては算術平均粗さRaを用いることができ、例えば、スカイブシートの算術平均粗さRaが2~5μmであるのに対して、本発明の案内シート材の算術平均粗さRaは、1~3μmである。例えば、本発明のシート材のRaは、スカイブシートのRaよりも25%~50%程度小さくなる。
【0027】
また、圧縮加工と同時に延伸加工を行うことで、シートの非直進性や非平坦性や非平面性の矯正効果が高くなる。圧縮加工および延伸加工後はシート材の密度が向上するため、これらの加工前後でシート材の状態が変化する。両平面の圧縮前後で、密度は0.01~0.04上昇する。圧縮加工および延伸加工によってシート材の密度が高くなり耐摩耗性が向上する。さらに、スカイブシートの平面性、平坦性が矯正される。
【0028】
シート材4は、PTFE樹脂を主成分として含む樹脂組成物の成形体である。PTFE樹脂は、摩擦係数が低く、耐熱性や、耐油性、耐クーラント性に優れる。
【0029】
シート材4に用いる樹脂組成物には、鉄よりも硬度の低い非鉄金属の粉末を含有することが好ましい。鉄よりも硬度が低い非鉄金属の粉末を用いるのは、シート材の相手摺動面(
図1のサドル3の案内面3a)は、通常、鋳物などの鉄系金属から構成されており、その相手摺動面の摩耗を防止するためである。また、鉄よりも硬度の低い非鉄金属の粉末を含むことで、シート材4に耐摩耗性と耐圧縮性も付与できる。
【0030】
また、上記非鉄金属の粉末は、上記樹脂組成物全体に対して35~60質量%含まれることが好ましい。非鉄金属粉末の含有量が35質量%未満であると、強度(例えば、クリープ面での強度)や耐摩耗性を大きく向上させることが困難であり、60質量%を超えると、PTFE樹脂の有する低摩擦特性が損なわれるおそれがあるからである。したがって、非鉄金属の粉末の含有量を上記範囲内とすることで、PTFE樹脂の有する低摩擦特性を損なうことなく強度や耐摩耗性を向上させることができ、クリープ変形を生じ難くして案内精度の低下を防止することができる。また、非鉄金属粉末の含有量は、より好ましくは40~50質量%である。
【0031】
硬度の低い非鉄金属の粉末としては、銅や銅合金の粉末を用いることが好ましい。これらの粉末は、鉄よりも硬度が低い上、非鉄金属の中でも摩擦係数が低く、コストが安く、加工し易いといった利点を有する。銅合金は、銅と錫または銅と亜鉛からなる銅合金であるので、相手材を摩耗させることがなく、高荷重にも耐える工作機械用摺動部材となる。
【0032】
銅や銅合金の粉末を用いる場合、銅や銅合金の粉末の粒径を2~150μmとすることが好ましい。粒径が150μmを超えると、銅や銅合金の比重が大きいことから、粉末をPTFE樹脂中に均一に分散させることが困難となり、強度や耐摩耗性にムラやバラツキが生じるおそれがある。また、2μm未満であっても、粉末をPTFE樹脂中に均一に分散させることが困難となる。なお、粒径は、例えば、レーザー光散乱法を利用した粒子径分布測定装置などを用いて測定することができる。
【0033】
以上より、主成分のPTFE樹脂に非鉄金属の粉末として銅または銅合金を含む樹脂組成物が好ましい。さらに、銅または銅合金の粉末の含有量を35~60質量%とすることで、PTFE樹脂の有する低摩擦特性を損なうことなく強度や耐摩耗性を向上させることができ、クリープ変形を生じ難くして案内精度の低下を防止することができる。また、銅または銅合金の粉末の粒径を2~150μmとすることで、当該粉末をPTFE樹脂中に均一に分散させて強度や耐摩耗性を均一にすることができる。
【0034】
上述したように、本発明の案内シート材は、スカイブ加工により得られたPTFE樹脂シートの両平面が圧縮された圧縮加工体である。具体的には、スカイブシートを圧縮加工および延伸加工して得られる。この加工方法について
図3に基づいて説明する。
図3は、圧縮加工などを行うカレンダー機の概略図である。カレンダー機11は、スカイブシートSを供給する巻出しローラ12と、スカイブシートを加熱圧縮する加熱ローラ13と、水冷ローラ14と、加工後のシート材を巻取る巻取りローラ15とを有する。スカイブシートSは、巻出しローラ12から、矢印の向きに送られ、加熱ローラ、水冷ローラを経由して、巻取りローラ15に巻取られる。
【0035】
圧縮加工は、一対のローラ(上ローラ13aと下ローラ13b)からなる加熱ローラ13によって行われる。スカイブシートSは、加熱された上下2本のローラ間を通過し、このローラ間に挟み込まれることで圧縮加工が行われる。両ローラは互いに押し付けられている。ローラ間荷重はスカイブシートのシート厚さにもよるが、例えば1~10kNであり、好ましくは3~6kNである。また、両ローラの表面は平滑に形成され、表面粗さはRa=0.01~0.10μmであることが好ましい。
【0036】
上下2本のローラ13a、13bは、PTFE樹脂の融点よりも低い温度に加熱することが好ましく、PTFE樹脂のガラス転移温度を超え、かつ、融点よりも低い温度であることがより好ましい。ただし、PTFE樹脂製スカイブシートが加熱されることで変色するおそれがあるため、変色しない程度の温度に設定することが必要である。上下2本のローラをPTFE樹脂の融点よりも低い温度に加熱することにより、圧縮加工後のシート材が素形材の歪み形状に戻ることを防止でき、平坦性、平面性が向上する。加熱ローラ13の温度は150~250℃が好ましく、180~230℃がより好ましい。
【0037】
延伸加工は、上下2本のローラ間を境として、スカイブシートS(巻出し側シート)と、圧縮加工された後のシートS’(巻取り側シート)にそれぞれ張力を加えることで行われる。
図3のカレンダー機11のように、巻出しローラ12から巻き出されたスカイブシートSは、上ローラ13aと下ローラ13bのローラ間に挟み込まれるとともに上ローラ13aの表面の約1/2に密接しているため、巻出しローラ12の回転トルクを制御することで巻出し側シートにかかる巻出し張力をコントロールすることができる。また、上ローラ13aと下ローラ13bのローラ間に挟み込まれるとともに下ローラ13bの表面の約1/2に密接しているため、巻取りローラ15の回転トルクを制御することで巻取り側シートにかかる巻取り張力をコントロールすることができる。巻出し張力および巻取り張力は、例えば、300~1000Nである。
【0038】
巻出し側シートに張力をかけることによって、加熱ローラ間を通過する時のスカイブシートの形状が平坦となり、圧縮加工によって矯正されたシートS’の平面性および平坦性が優れたものになる。巻取り側シートに張力をかけることによって、圧縮加工されたシートS’の形状をさらに矯正することができ、直進性が優れたものとなる。また、皺が発生せず完成度の高いシート材とすることができる。
【0039】
加熱ローラ13間を通過したシートS’は、水冷ローラ14によって冷却されて巻取りローラ15により巻き取られる。巻き取られたシートが、本発明に係るシート材である。このようにスカイブシートに対し、表面平滑な上下2本の加熱ローラにて圧縮加工を施すとともに、所定の張力をかけた延伸加工を施すことで、耐摩耗特性に優れ、形状の歪みが無くまたは歪みが少なくなったシート材となる。
【実施例0040】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
PTFE樹脂を55質量%、銅錫合金粉末を45質量%含む原料粉末(樹脂組成物)を所定条件で圧縮成形し、焼成することでPTFE樹脂製の円筒状の圧縮成形体(ビレット)を製造した。このビレットをスカイブ旋盤に取り付け、スカイブ加工によって、シート厚さ1.55mm、幅方向長さ330mm、長手方向長さ25mのスカイブシートを得た。このスカイブシートを、
図3で示したカレンダー機を用い、表1に示す加工条件にて圧縮加工および延伸加工を行い(以下、合わせてカレンダー加工ともいう)、実施例1~3および比較例1~2のシート材を得た。得られたシート材に対して、耐摩耗性評価と形状変化評価を行った。比較例3のシート材にはスカイブシート、つまり圧縮加工および延伸加工が施されていないシート材を用いた。
【0042】
(1)耐摩耗性評価
カレンダー加工したシート材(実施例1~3、比較例1~2)および未加工のシート材(比較例3)を用いて、往復動試験を実施し、各シート材の耐摩耗性評価を行った。往復動試験の条件は、面圧0.5MPa、すべり速度10m/min、油潤滑である。往復動試験の25時間運転後の摩耗量を測定した。摩耗量は、シート材の3箇所における摩耗深さの平均値として算出した。摩耗量を表1に示し、摩耗量と圧縮率との関係を
図4に示す。
【0043】
【0044】
表1より、未加工のシート材(比較例3)の摩耗量が約10μmであるのに対して、本発明に係るシート材(実施例1~3)は摩耗量が約6~7μmであり、30~40%の耐摩耗性の向上が認められた。また、
図4の関係図より、圧縮率1.5%以上であれば耐摩耗性向上の効果が得られる一方、圧縮率を7%より高くしても摩耗量の変化は頭打ちとなることが分かった。
【0045】
(2)形状変化評価
各シート材について比重を測定した。その結果、未加工のシート材(比較例3)に対して、本発明に係るシート材(実施例1~3)は、比重が0.01~0.04大きくなった。具体的には、実施例1のシート材は、比重が3.39であり、実施例2のシート材は、比重が3.40であり、実施例3のシート材は、比重が3.42であり、比較例3のシート材は、比重が3.38であった。
【0046】
各シート材について、シート材を長手方向に延ばした状態で平坦性、平面性、直進性を評価した。平坦性は、幅方向の縁が長手方向任意の間隔で高さ方向へ反ることで生じる波打ち(波状のうねり)の程度を示しており、コンベックスで波打ちの高さを測定することで評価した。平面性は、幅方向両縁が高さ方向へ湾曲して生じる幅方向U字形状の程度を示しており、コンベックスで幅方向略中央部の凹部の深さを測定することで評価した。直進性は、長手方向の全体形状が略扇状に湾曲する程度を示しており、巻尺(テープメジャー)を用いて評価した。具体的には、巻尺をシート材の長手方向の一片の先端と後端の角部に当てた状態で、長手方向略中央部の縁と巻尺間の隙間を測定した。その結果、本発明に係るシート材(実施例1~3)は、未加工のシート材(比較例3)に対して、平坦性が約1/15~1/20、直進性が約1/20~1/30、平面性が約1/15~1/18となり、未加工のシート材の形状の歪みがほぼ消滅または著しく減少した。
【0047】
このようにカレンダー加工によって、スカイブシートのシート厚さよりもシート厚さが1.5~10%薄くなったシート材は、スカイブシート(カレンダー加工しない従来の案内面用シート材)に比べ、125~140%の生産性が認められた。
本発明の滑り案内面用シート材は、耐摩耗性に優れるとともに、歪みが抑制されているので、歪みにより削除される部分を低減でき、生産性を向上でき、工作機械用の滑り案内面用シート材として広く使用できる。