(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181277
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】フレキシブルプリント基板および記録ヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20231214BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B41J2/01 301
H05K1/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180080
(22)【出願日】2023-10-19
(62)【分割の表示】P 2021152047の分割
【原出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小土井 拓真
(72)【発明者】
【氏名】徳田 高光
(72)【発明者】
【氏名】木村 了
(57)【要約】
【課題】性能を低下させることなく、内部へのインクの侵入による配線同士の短絡によって生じる記録ヘッドの損傷を抑制可能な技術を提供する。
【解決手段】記録素子を用いてインクを吐出可能な記録素子基板と端部側で接続され、記録装置における制御部からの信号を、配線を介して前記記録素子基板へ伝送可能であり、かつ、配線を介して前記記録素子基板からの信号を前記制御部に向けて伝送可能なフレキシブルプリント基板であって、高電位の配線よりも側部側に、インクの侵入を規制する規制部と、低電位のグランド配線および前記制御部により伝送する信号値または信号に基づく動作が監視される低電位液の信号線とから構成される配線部と、の少なくとも一方を備えるようにした。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録素子を用いてインクを吐出可能な記録素子基板と接続され、記録装置における制御部からの信号を、配線を介して前記記録素子基板へ伝送可能であり、かつ、配線を介して前記記録素子基板からの信号を前記制御部に向けて伝送可能なフレキシブルプリント基板であって、
前記フレキシブルプリント基板は、短辺と長辺とを有する長方形の形状であり、
前記フレキシブルプリント基板の内部へのインクの侵入を規制する規制部を備え、
前記規制部は、前記長辺に沿って形成されており、
前記規制部は、金属材料により形成されており、かつ、電気的に接続されていないことを特徴とするフレキシブルプリント基板。
【請求項2】
前記規制部は、第1電位の配線よりも長辺側に設けられており、
前記第1電位よりも低電位のグランド配線と、前記制御部により伝送する信号値または信号に基づく動作が監視される前記第1電位よりも低電位の信号線と、から構成される配線部と、を備え、
前記長辺側から順に、前記規制部、前記グランド配線、前記信号線が配置されることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項3】
前記信号線は、データを確定するためのラッチ信号を伝送する配線であることを特徴とする請求項2に記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項4】
前記信号線は、前記記録素子基板に設けられた温度センサからの信号を伝送する配線であることを特徴とする請求項2に記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項5】
前記規制部および前記配線部は、前記長辺側において一様に形成されることを特徴とする請求項2に記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項6】
前記規制部および前記配線部は、前記長辺側において前記第1電位の配線に対応する領域にのみ形成されていることを特徴とする請求項2に記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項7】
前記低電位とは6V以下であり、前記第1電位とは10V以上であることを特徴とする請求項2に記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項8】
前記規制部および前記配線部は、複数の層に形成されることを特徴とする請求項2に記載のフレキシブルプリント基板。
【請求項9】
記録素子の駆動によりインクを吐出可能な記録素子基板と、
請求項1から8のいずれか1項に記載のフレキシブルプリント基板と、を有することを特徴とする記録ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録素子基板へ信号を伝送可能であるとともに、記録素子基板からの信号を外部に伝送可能なフレキシブルプリント基板、および当該フレキシブルプリント基板を備えた記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
記録装置における記録ヘッドは、記録素子の駆動によりノズルからインクを吐出可能な記録素子基板を備えている。こうした記録ヘッドでは、記録素子基板に対して、電力や駆動信号を伝送するために、積層構造のフレキシブルプリント基板を介し電源基板や制御基板などと接続されている。記録素子基板からはインクが吐出されるため、記録素子基板に接続されるフレキシブルプリント基板には、インクが付着することがある。フレキシブルプリント基板における、他の基板と接続されずに積層面が露出している側部にインクが付着すると、積層された層の界面からインクが侵入し、侵入した液体によって、当該側部近傍に配置された配線同士が短絡する虞がある。これにより、フレキシブルプリント基板を用いた記録ヘッドが損傷する虞がある。
【0003】
側部からのインクの侵入を防止するために、例えば、側部を補強板で補強して、あるいは、側部を封止材により封止することが考えられる。あるいは、特許文献1に開示されているように、対象部分をフィルムで覆うことが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、側部を補強板で補強したり、側部全体に封止したりする構成の場合、フレキシブルプリント基板のフレキシブル性能が低下する虞がある。また、特許文献1の技術を用いた場合、フレキシブル基板にコンデンサなどの部品が実装されている場合には、特許文献1の技術を用いることは困難となる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、性能を低下させることなく、内部へのインクの侵入による配線同士の短絡によって生じる記録ヘッドの損傷を抑制可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、記録素子を用いてインクを吐出可能な記録素子基板と接続され、記録装置における制御部からの信号を、配線を介して前記記録素子基板へ伝送可能であり、かつ、配線を介して前記記録素子基板からの信号を前記制御部に向けて伝送可能なフレキシブルプリント基板であって、前記フレキシブルプリント基板は、短辺と長辺とを有する長方形の形状であり、前記フレキシブルプリント基板の内部へのインクの侵入を規制する規制部を備え、前記規制部は、前記長辺に沿って形成されており、前記規制部は、金属材料により形成されており、かつ、電気的に接続されていないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクの侵入による配線同士の短絡によって生じる記録ヘッドの損傷を抑制することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】フレキシブル基板に形成された配線の一例を示す断面図。
【
図6】フレキシブル基板に形成されたガードパターンを示す図。
【
図7】フレキシブル基板に形成された配線部を示す図。
【
図8】ガードパターンおよび配線部が設けられた側部からのインクの侵入を説明する図。
【
図14】実施形態によるフレキシブル基板の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照しながら、フレキシブルプリント基板および記録ヘッドの実施の形態の一例を説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を限定するものではなく、また、実施形態で説明されている特徴の組み合わせのすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。また、実施形態に記載されている構成の相対位置、形状などはあくまで例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。
【0011】
<記録ヘッドの構成>
図1は、第1実施形態によるフレキシブルプリント基板を備えた記録ヘッドの概略構成図である。
図1(a)は、ラインタイプの記録装置で用いられる記録ヘッドの概略構成図である。
図1(b)は、シリアルスキャンタイプの記録装置で用いられる記録ヘッドの概略構成図である。
図1(c)は、本体に設けられた回路と直接接続されるパッドを備えた記録ヘッドの概略構成図である。
図2は、
図1(a)の枠II部分の拡大図である。なお、以下の説明では、「フレキシブルプリント基板」を、「フレキシブル基板」と適宜に称する。
【0012】
図1(a)の記録ヘッド100は、ラインタイプの記録装置で用いられる記録ヘッドである。記録ヘッド100では、本実施形態によるフレキシブル基板10が、記録装置の制御部(不図示)と接続された電気配線基板14と、記録素子の駆動によりインクを吐出可能な記録素子基板16とを接続している。記録ヘッド100では、複数の記録素子基板16が並設され、記録素子基板16が並設される領域は、記録装置で記録可能な記録領域の幅方向の長さに対応する長さとなっている。記録ヘッド100では、上記幅方向と交差する方向に搬送される記録媒体に対してインクを吐出することで、記録媒体に画像を記録する。
【0013】
フレキシブル基板10は、
図2のように、一方の端部において、フレキシブル基板10に形成された配線が、電気配線基板14における対応する配線とワイヤで接合されている。また、他方の端部において、フレキシブル基板10に形成された配線が、記録素子基板16における対応する配線とワイヤで接合されている。これにより、記録装置に設けられた制御部は、電気配線基板14およびフレキシブル基板10を介して記録素子基板16に各種の信号などを出力することができる。ワイヤは、一般的に、アルミニウムや金などにより形成され、ウェッジボンディングなどで接合される。なお、
図2では図示を省略しているが、ワイヤおよびその接合部分は封止材によって封止されている。
【0014】
図1(b)の記録ヘッド500は、シリアルスキャンタイプの記録装置で用いられる記録ヘッドである。記録ヘッド500では、本実施形態によるフレキシブル基板10が、記録装置の制御部と接続された電気配線基板14と、記録素子の駆動によりインクを吐出する記録素子基板16とを接続している。記録ヘッド500は、搬送方向に搬送される記録媒体に対して、搬送方向と交差する方向に移動しながらインクを吐出する吐出動作と、記録媒体を搬送方向に搬送する搬送動作とを交互に実行して記録媒体に画像を記録する。
【0015】
フレキシブル基板10、電気配線基板14、および記録素子基板16からなるチップユニット部分は、基本的には、記録ヘッド100と同じに構成されている。なお、接合部分は、ワイヤに限定されず、熱圧着などで接合されることもある。また、電気配線基板14とフレキシブル基板10との接続については、コネクタを用いて接続する構成としてもよく、公知の各種の接続方式を用いることができる。
【0016】
図1(c)の記録ヘッド600は、シリアルスキャンタイプの記録装置で用いられる記録ヘッドであり、吐出するインクが貯留されるタンクにフレキシブル基板10および記録素子基板16からなるユニットが接続可能な構成となっている。記録ヘッド600では、本実施形態によるフレキシブル基板10の一方の端部において、電気配線基板14が接続されておらず、記録装置の制御部からの信号などが入力されるパッド18が設けられている。他方の端部では記録素子基板16と接続されている。
【0017】
<フレキシブルプリント基板の構成>
このように、本実施形態によるフレキシブル基板10については、記録素子基板16などとの接続方法および構成する記録ヘッドの種類が特に限定されるものではない。つまり、フレキシブル基板10は、記録装置の制御部などから出力された電気信号を記録素子基板16に伝送可能であるとともに、記録素子基板16からの信号を伝送し、電気配線基板14などを介して制御部などに出力可能なものである。なお、本実施形態では、記録素子基板16では、ヒータ(記録素子)による加熱によってインク内に気泡を発生させてインク滴を吐出する構成とする。
【0018】
フレキシブル基板10は、多くの電流の印加、信号線の増加、LVDS(Low Voltage Differential Signaling)での通信に対応可能とするために、複数層が積層された構成となっていることが多い。
図3は、積層構造のフレキシブル基板の断面図であり、(a)は2層構造のフレキシブル基板の一例であり、(b)は4層構造のフレキシブル基板の一例である。
【0019】
2層構造のフレキシブル基板10では、基材302を備え、その表面302aおよび裏面302bに銅による配線が敷設されている。配線が敷設された表面302a、裏面302bには、接着剤316が塗布されており、接着剤316にはカバーレイ304が貼りつけられている。
図3(a)(b)では、フレキシブル基板10を配線の延在方向と交差する方向に切断した断面図が形成されている。従って、
図3(a)(b)でのフレキシブル基板10の側面に相当する両方の側部10c、10dは、
図2のように、記録ヘッドに取り付けられた際に、空間に露出した状態となっている。
【0020】
フレキシブル基板10の断面における配線の並びは、例えば、
図3(a)のようになっている。
図3(a)では、表面302aにおいてLVDS信号線などのデータ配線306が、VSS配線308に挟まれて形成されている。また、裏面302bには、表面302aのデータ配線306およびVSS配線308が形成された領域と対応する領域において、外部からのノイズなどから信号品位を保つために低電圧のグランドであるVSS配線308が設けられている。つまり、このフレキシブル基板10では、インピーダンスマッチングが施されている。
【0021】
表面302aには、フレキシブル基板10の側部10c、10dの近傍において、その他の各種の信号線310も形成されており、裏面302bでは、信号線310が形成された領域に対応する領域にVSS配線308が形成されている。また、基材302の表面302a、裏面302bにおいて、互いに対応する位置に、高電位のヒータ電源であるVH配線312とGNDH配線314とが並走して設けられている。VH配線312とGNDH配線314とを並走して設ける理由は、コンデンサ効果を狙っており、L成分影響の電流変化を抑制するためである。VH配線312およびGNDH配線314は、電流が大きくなるため、発熱対策として他の配線よりも太く形成している。なお、VH配線312およびGNDH配線314は、表面302aに、VH配線312を太い配線で形成し、裏面302bの、VH配線312が形成された領域と対応する領域に、GNDH配線314を太い配線で形成してもよい。
【0022】
なお、2層構造のフレキシブル基板10は、
図3(a)では図示はしていないが、表面302aと裏面302bとでは同じ信号線同士はスルーホールでつながっている。また、多くの場合、電気配線基板14との電気接続部のパッド(
図2で電気接続Padとして示す)は、フレキシブル基板10の表面または裏面の一方の面に形成されている。従って、この場合、フレキシブル基板10では、当該パッドが設けられた面に配線が集約されている。
【0023】
4層構造のフレキシブル基板10では、基材322を備え、その表面322aおよび裏面322bに配線が敷設されている。配線が敷設された表面322aには接着剤336が塗布されており、この接着剤336に基材344が貼りつけられている。基材344の表面344aには、配線が敷設されるとともに接着剤336が塗布され、この接着剤336を介してカバーレイ324が貼りつけられる。また、配線が敷設された裏面322bには接着剤336が塗布されており、この接着剤336に基材346が貼りつけられている。基材346の裏面346bには、配線が敷設されるとともに接着剤336が塗布され、この接着剤336を介してカバーレイ324が貼りつけられる。
【0024】
4層構造のフレキシブル基板10は、2層構造のものと比較して、層数が多いため配線の引き回しなどの設計自由度が高く、VH配線、GNDH配線、および信号線などを異なる層に形成することができる。以下、
図3(b)に示すフレキシブル基板10では、基材344の表面344a上に形成された層を1層目、基材322の表面322a上に形成された層を2層目として説明する。また、基材322の裏面322b側に形成された層を3層目、基材346の裏面346b側に形成された層を4層目として説明する。
【0025】
1層目は、主に、LVDS信号線などのデータ配線326および各種の信号線330が形成される層となっている。2層目は、1層目のデータ配線326や信号線330に対応する領域に、VSS配線328を形成するために、主にVSS配線328が形成される層となっている。3層目は、主に高電位の電源であるVH配線332が形成される層となっている。4層目は、主に高電圧のグランドであるGNDH配線334が形成される層となっている。3層目および4層目では、フレキシブル基板10の側部10c、10dの近傍にVSS配線328が形成されている。
【0026】
図3(b)では、配線の延在方向の所定位置での断面が示されているため、VSS配線328以外には、スルーホールは図示されていないが、異なる層における同じ配線同士はスルーホールで接続されている。そして、各配線は、パッド(電気接続Pad)のある面に集約されている。
図3(a)(b)に示す配線の種類およびその位置については、あくまで一例である。
【0027】
ここで、フレキシブル基板10の側部10c、10dは、記録ヘッドにおいて空間に露出した状態となっている。このため、フレキシブル基板10の側部10c、10dには、記録素子基板16から吐出するインクが付着することがある。また、上述したように、フレキシブル基板では、配線が形成された基材に対して接着剤を介してカバーレイを貼りつけた構成となっている。このため、浸透性の高いインクの場合、側部10c、10dに当該インクが付着すると、接着面、つまり、基材およびカバーレイと接着剤との界面から当該インクが侵入してしまうことがあった。
【0028】
接着面からインクが侵入してしまうと、インクが侵入した層に形成されている隣り合う配線同士が当該インクにより接続されて短絡してしまう。この短絡した配線が、例えば、ヒータ電源などの高電位の配線を含む場合、発煙や発火などが生じたり、記録素子基板16や記録装置の制御部が故障したりするなど、記録ヘッドが損傷することが考えられる。
【0029】
例えば、4層構造のフレキシブル基板の側部からインクが侵入すると、
図4に示すようになる。
図4は、4層構造のフレキシブル基板の一方の側部からインクが侵入した状態を示す図である。フレキシブル基板10の一方の側部10c側では、3層目において低電位のVSS配線402と、高電位のVH配線404とが隣り合って形成されている。側部10cからインクが侵入すると、3層目においてVSS配線402とVH配線404とがインクにより電気的に接続されて短絡してしまう。この短絡が生じると、通常電流が流れないところに大電流が流れてしまい、これにより、フレキシブル基板10、電気配線基板14、記録素子基板16において破壊や発熱による焼損が生じ、記録ヘッドが破損してしまうことがある。
【0030】
2層構造のフレキシブル基板でも同様である。
図5は、2層構造のフレキシブル基板の他方の側部からインクが侵入した状態を示す図である。
図5(a)(b)(c)は、上層にインクが侵入した状態を示し、
図5(d)(e)(f)は、下層にインクが侵入した状態を示す。なお、上層とは、基材の表面側に形成された層であり1層目とも称する。また、下層とは、基材の裏面側に形成された層であり2層目とも称する。
【0031】
図5(a)(b)(c)に示すフレキシブル基板10では、上層における最も他方の側部10d側に低電位のグランド配線であるVSS配線502が形成されている。また、VSS配線502の隣には、VSS配線502と短絡しても、その信号値の変化を検出不能な信号線504が形成されている。信号線504は、信号線504を介して伝送される信号値が監視されていない、あるいは、通常動作時にあまり監視されていない配線である。さらに、信号線504の隣には、高電位のGNDH配線506が形成されている。なお、
図5(a)(b)(c)では、VH配線512よりも一方の側部10c側の配線は省略している。
【0032】
こうした上層にインクが侵入する、より詳細には、上層における基材508と接着剤510との界面からインクが侵入すると、侵入したインクは、まず、VSS配線502に接触する(
図5(a)参照)。そして、インクの侵入が進むと、インクは信号線504と接触し、VSS配線502と信号線504とがインクにより電気的に接続される(
図5(b)参照)。なお、信号線504は、VSS配線502と短絡しても破損することのない配線であり、フレキシブル基板10を介した信号値の監視があまり行われないため、当該短絡により変化した信号線504で伝送される信号値を検出することができない。
【0033】
その後、インクの侵入がさらに進むと、インクがGNDH配線506と接触し、GNDH配線506と、信号線504およびVSS配線502とがインクにより電気的に接続されてしまう(
図5(c)参照)。これにより、インクを介して信号線504およびVSS配線502が短絡して大電流が流れてフレキシブル基板10、記録素子基板16、あるいは制御部において、発煙や発火による焼損などが生じてしまう。
【0034】
また、
図5(d)(e)(f)に示すフレキシブル基板10では、基材508の表面および裏面にそれぞれ、他方の側部10d側から順に、VSS配線502、GNDH配線506、VH配線512が形成されている。なお、
図5(d)(e)(f)では、VH配線512よりも一方の側部10c側の配線は省略している。
【0035】
こうしたフレキシブル基板10の他方の側部10dから、フレキシブル基板10の下層にインクが侵入すると、侵入したインクは、まず、VSS配線502と接触する(
図5(d)参照)。そして、インクの侵入が進むと、インクはGNDH配線506と接触し、VSS配線502とGNDH配線506とがインクにより電気的に接続されてしまう(
図5(e)参照)。なお、VSS配線502およびGNDH配線506は共にグランド電位のため、これらの配線間で短絡が生じたとしても、異常を検出することは困難である。
【0036】
その後、インクの侵入がさらに進むと、インクがVH配線512と接触し、VH配線512と、GNDH配線506およびVSS配線502とがインクにより電気的に接続されてしまう(
図5(f)参照)。これにより、インクを介してVH配線512とGNDH配線506とが短絡して大電流が流れてフレキシブル基板10、記録素子基板16、あるいは制御部において、発煙や発火による焼損などが生じてしまう。
【0037】
<本実施形態によるフレキシブルプリント基板の特徴的な構成>
このように、フレキシブル基板10では、側部10c、10dからインクが侵入しても、焼損などが生じて記録ヘッドが正常に機能しなければ、記録ヘッドに生じた異常を検出することができない。側部10c、10d側に配置された配線の短絡を検出可能な構成を新たに付加することも考えられるが、フレキシブル基板10が大型化するなどの新たな課題が生じてしまう。そこで、本実施形態では、新たな構成を設けることなく、フレキシブル基板10内へのインクの侵入を、記録ヘッドの異常として検出することが可能な構成とした。
【0038】
図6は、本実施形態によるフレキシブル基板の側部およびその近傍の断面図である。なお、
図6を用いた以下の説明では、フレキシブル基板10の他方の側部10dにおける構成を例として説明するが、
図6に示す構成を一方の側部10cに適用してもよい。また、
図6では、上層の配線と下層の配線とが、側部から同様に配置されているが、これに限定されるものではない。即ち、
図6に示す構成を、上層または下層のどちらか一方に備えるようにしてもよい。さらに、
図6では、2層構造のフレキシブル基板を例として示しているが、
図6の構成を、単層構造のフレキシブル基板に適用するようにしてもよいし、2層より多い複数層のフレキシブル基板の少なくとも1つの層に適用するようにしてもよい。
【0039】
本実施形態によるフレキシブル基板10では、最も側部10d側にガードパターン602を設けるようにした。また、ガードパターン602の隣に、短絡によってインクの侵入を検知することが可能な配線部603を設けるようにした。当該配線部603の配線としては、新たな配線を形成するものではなく、一般のフレキシブル基板に設けられている配線が配線部603として、ガードパターン602の隣に形成される。具体的には、配線部603は、例えば、伝送される信号値が比較的頻繁に監視される、低電位のアノード信号線604と、低電圧のグランド配線、本実施形態ではVSS配線606との2つの配線を備えるようにした。以下、ガードパターン602および配線部603について詳細に説明する。
【0040】
=ガードパターン=
ガードパターン602は、例えば、側部10dにおいて、他の配線よりも高さ方向に長く、基材608とカバーレイ610とに当接するように形成される(
図6(a)参照)。また、例えば、ガードパターン602は、側部10dの近傍において、基材608上において、他の配線と高さ方向の長さが同等であり、カバーレイ610との間に接着剤612が存在するように形成される(
図6(b)参照)。なお、高さ方向とは、フレキシブル基板10における積層方向、つまり、厚さ方向である。このように、ガードパターン602は、配線が形成される層内に形成されているため、フレキシブル基板10のフレキシブル性能の低下は生じ難い。
【0041】
ガードパターン602は、電気配線基板14および記録素子基板16に電気的に接続されないように構成されている。ガードパターン602を構成する材料としては、金属材料であってもよいし、非金属材料であってもよい。非金属材料としては、例えば、樹脂、フィルム、ゴムなどの非導電性材料が挙げられる。
【0042】
ガードパターン602は、
図6(a)のように側部10dに設けるときには、非金属材料を用いることが好ましい。この場合、ガードパターン602の形成する材料としては、基材608およびカバーレイ610に対して密着性が高く、かつ、インクが浸透し難い材料を用いることが好ましい。また、基材608およびカバーレイ610だけでなく、接着剤612に対する密着性が高い材料であることがより好ましい。インクが浸透し難い材料とは、例えば、記録ヘッドから吐出するインクに対して親和性の低い材料である。ガードパターン602は、
図6(a)のように側部10dに形成する場合には、インクや水などのフレキシブル基板10に付着する可能性のある液体に対して、耐腐食性ある材料が用いられる。
【0043】
ガードパターン602を金属材料で作成する場合には、ガードパターン602に通電可能な構成とすると、表面に残留する水分などが電気分解されたり、陽極酸化を生じたりして腐食が進行し、接着剤612などから剥離され易くなる。このため、金属材料を用いる場合には、ガードパターン602は、電気的に接続されていない(電気的に浮かせた)状態、つまり、通電していない状態とする。あるいは、独立したグランドに繋ぐ。金属材料を用いる場合には、例えば、
図6(b)のような構成とすることで、金属材料の腐食を抑制することができる。
図6(a)のような構成とする場合には、耐腐食性の高い金属材料が用いられる。
図6(b)の構成の場合、ガードパターン602は、例えば、他の配線を形成する工程において形成することができる。従って、この場合、ガードパターン602は、銅により構成されることとなる。
【0044】
=配線部=
次に、ガードパターン602の隣に設けられる配線部603について説明する。
図7は、ガードパターンの隣に設けられる配線部を示す図である。
図7(a)は、
図2の枠Va内の拡大図である。
図7(b)は、
図2の枠VIIa内の裏面の配線を、表面側から透過して見た透過図である。
図7(c)は、
図7(a)のVIIc-VIIc線断面図である。
図7(d)は、
図2の枠VIId内の拡大図である。
【0045】
図7のフレキシブル基板10の上層および下層では、最も側部10d側にガードパターン602が形成されている。ガードパターン602の隣には、低電位のグランド配線であるVSS配線606が形成され、VSS配線606の隣には、アノード信号線604が形成されている。そして、上層では、アノード信号線604の隣にGNDH配線702が形成され、GNDH配線702の隣にVH配線704が形成されている(
図7(a)参照)。一方、下層では、アノード信号線604の隣にVSS配線606が形成され、VSS配線606の隣にGNDH配線702、GNDH配線702の隣にVH配線704が形成されている(
図7(b)参照)。
【0046】
アノード信号線604は、VSS配線606と接続して短絡すると、制御部において、アノード信号線604で生じた異常を検出可能な配線となっている。即ち、アノード信号線604における信号値は、制御部において監視され、制御部は、当該監視の結果に基づいてアノード信号線604からの信号の異常を検出可能な構成となっている。例えば、アノード信号線604は、制御部において信号値を常時監視している温検ダイオード(温度センサ)の信号線などが望ましい。なお、アノード信号線604としては、温検ダイオードの信号線に限定されるものではなく、制御部において信号値を監視している信号線であり、VSS配線606などの低電位の配線と電気的に接続されて短絡したときに信号値に異常が生じる信号線であればよい。低電位とは、例えば、6V以下とし、高電位とは、例えば、10V以上とする。
【0047】
また、アノード信号線604としては、グランドに落ちる、つまり、VSS配線606などの低電位の配線と短絡することによって、制御部による正常な制御ができなくなる配線であってもよい。あるいは、信号値に基づいて制御部がエラーを通知する信号線であってもよい。アノード信号線604としては、インクを吐出するための記録素子であるヒータや、記録素子基板16の温度を調整するためのサブヒータなどの駆動にかかわる配線は除外される。
【0048】
アノード信号線604が温検ダイオードの信号線である場合、フレキシブル基板10の側部10dからインクが侵入し、インクによりアノード信号線604とVSS配線606とが電気的に接続されて短絡すると、制御部による温度制御が不可能となる。これにより、制御部において異常な状態であると判定されて、例えば、記録ヘッドの駆動が停止される。
【0049】
=ガードパターンおよび配線部の形成範囲=
フレキシブル基板10の端部側(つまり、電気配線基板14および記録素子基板16と接続する端部側)では、各層においてスルーホールで接続されたGNDH配線702は、
図7(d)に示す位置に形成されている。GNDH配線702が
図7(d)に示す位置に形成される理由としては、当該端部側で接続される基板におけるGNDH配線のパッドが当該位置と対応する位置に形成されているためである。
【0050】
記録ヘッドを構成するフレキシブル基板10では、その端部において記録素子基板16とワイヤにより接続されている付近が最もインクが付着しやすい部分となる。なお、
図7(d)では図示を省略しているが、ワイヤが接続されている部分は、インクの付着による配線間での短絡を防止するために、封止材で覆われている(
図7(d)の破線枠部分を参照)。この封止材で封止された領域では、封止材によりインクの侵入が生じ難いため、封止材で封止されている領域から記録素子基板16が接続される端部側では、ガードパターン602および配線部603は形成しなくてもよい。即ち、側部10d側から、ガードパターン602、アノード信号線604、VSS配線606の順で配置される構成は、上記封止材の切れ目(端部)から、当該封止材で覆われていない領域に形成されていればよい。
【0051】
側部10d側から、ガードパターン602、アノード信号線604、VSS配線606の順で配置する構成については、
図2などでは、側部10dの近傍において、電気配線基板14側から記録素子基板16側までに一様に形成されるようにている。しかしながら、こうした構成については、側部10d側の一部の領域においてのみ形成されるようにしてもよい。具体的には、例えば、インクが付着する部分、つまり、インクが付着する可能性のある部分あるいはインクが付着しやすい部分に対応する領域にだけ形成するようにしてもよい。あるいは、高電位の電源系が配されている部分に対応する領域にだけ形成するようにしてもよい。
【0052】
=ガードパターンおよび配線部の機能=
以上の構成において、フレキシブル基板10の側部10dからインクが侵入した場合について説明する。
図8(a)(b)(c)は、ガードパターンおよび配線部を備えたフレキシブル基板において、その側部からインクが侵入した状態を時系列で示した図である。なお、
図8(
図6および
図7)では、上層と下層とでは、側部10dから順にガードパターン602、VSS配線606、アノード信号線604が形成されている。この上層および下層では同じ配線同士がスルーホールで繋がっている。
【0053】
フレキシブル基板10の側部10dにおいて、上層の基材608と接着剤612との界面からインクが侵入すると、侵入したインクは、まず、ガードパターン602に到達する(
図8(a)参照)。そして、インクの侵入が進むと、インクがVSS配線606に到達し(
図8(b)参照)、インクを介して、ガードパターン602とVSS配線606とが電気的に接続した状態となる。なお、ガードパターン602は、電気的に浮かした状態、つまり、通電されていないため、この段階では、記録ヘッドが破損するような大きな異常が生じない。このため、電気配線基板14を介して接続される記録装置の制御部では、異常を検出することはない。
【0054】
インクの侵入がさらに進むと、インクがアノード信号線604に到達し(
図8(c)参照)、インクを介して、VSS配線606とアノード信号線604とが電気的に接続した状態となり短絡する。アノード信号線は、例えば、温検ダイオードのための信号線であり、制御部では、常に当該信号線からの信号値に基づいて、記録素子基板16の温度を検出している。このため、VSS配線606とアノード信号線604とが短絡することで、アノード信号線604から入力される信号値に異常が生じ、この異常に基づいて制御部では、記録ヘッドに異常が生じたことを検出する。この場合、制御部で検出する記録ヘッドの異常とは、より詳細には、温検ダイオードの故障またはフレキシブル基板10における短絡が生じたこととなる。そして、制御部は、異常が生じたとの判定に基づいて、記録ヘッドの駆動の停止や異常が生じたことの通知などを行う。
【0055】
このように、配線部603は、インクの侵入を検出可能な構成であり、ガードパターン602は、配線部603でインクの侵入を検出するまでの時間を、安全に遅らせるようにしている。また、ガードパターン602は、インクの侵入を規制する規制部として機能している。
【0056】
=配線部の具体的構成=
このように、本実施形態によるフレキシブル基板10では、側部側にガードパターン602を設けるとともに、その隣に、インクの侵入を検出可能な配線部603を形成するようにした。インクの侵入を検出可能な配線部603は、2つの配線により構成される。この2つの配線は、インクの侵入を検出するだけのために新たに設けられるものではなく、記録ヘッドを構成する一般的なフレキシブル基板に設けられている2つの配線の組み合わせとなっている。
【0057】
ガードパターン602に隣接する、インクの侵入を検出可能な配線部603について、具体例を挙げてより詳細に説明する。なお、理解を容易にするために、
図9などを用いて行う、ガードパターン602に隣接する、インクの侵入を検出するための配線部603の説明については、ガードパターン602がない配線パターンを用いて説明する。
図9(a)は、従来技術によるフレキシブル基板に形成された配線パターンの一例を示す図である。
図9(b)は、
図9(a)のフレキシブル基板の側部からインクが侵入した状態を示す図である。
図9(b)に示すインクが侵入した状態は、あくまで一例であり、図示したように側部の中央部分近傍からインクが侵入するとは限らない。なお、理解を容易にするために、
図9(a)(b)では、フレキシブル基板における所定の層に形成されている配線パターンを示している。
【0058】
図9(a)のフレキシブル基板900では、例えば、最も一方の側部900c側にリセット信号線(RESRT)902が形成され、リセット信号線902の隣にラッチ信号線(LATCH)904が形成されている。ここで、リセット信号線902を介して伝送されるリセット信号は、電源投入時に1回だけ送信される正論値のデジタル信号である。また、ラッチ信号線904を介して伝送されるラッチ信号は、記録中にデータ確定のために都度送信される正論値のデジタル信号である。これらの信号は、記録装置の制御部(不図示)から電気配線基板14を介して送信され、同等の駆動能力を備えている。
【0059】
フレキシブル基板900の側部900cからインクが侵入し(
図9(b)の領域906参照)、リセット信号線902とラッチ信号線904とが電気的に接続されて短絡したとする。リセット信号は、電源投入時に数マイクロ秒間「1」を送信した後は「0」のままである。しかしながら、リセット信号およびラッチ信号の制御部の駆動能力は同等であるので、上記短絡によってラッチ信号が必ずしも「0」に変更されるとは限らない。そのため、制御部から出力されるラッチ信号が、そのまま記録素子基板16まで伝送されて記録素子が正常に動作し、制御部では異常、つまり、インクの侵入を検出することができない場合がある。なお、デジタル信号の「1」は、デジタル回路の電源電圧を示し、デジタル信号の「0」は、接地電圧を示す。
【0060】
また、フレキシブル基板900では、例えば、最も他方の側部900d側にエラー信号線(ERROR)910が形成され、エラー信号線910の隣に温度センサ信号線(DIK)912が形成されている。従って、側部900dからインクが侵入すると、エラー信号線910と温度センサ信号線912とが電気的に接続されて短絡する(
図9(b)の領域908参照)。エラー信号は、記録素子基板16から制御部へデータ受信が正常に行われたか否かを返信するデジタル出力信号である。記録素子基板16は、受信したデータが正常でなかった(例えば、データの一部が欠けていた)場合に「1」を出力し、正常に受信できた場合に「0」を出力する。
【0061】
温度センサとしては、例えば、ダイオードが用いられ、記録素子基板16の温度を検出する。温度センサ信号は、アナログ信号であり、記録素子基板16から出力された温度センサ信号は、制御部においてアナログ信号がデジタル信号に変換される。温度センサ信号線912は、ダイオードのカソード端子に接続され、その電圧は接地電圧である。このように、エラー信号および温度センサ信号は共に、正常駆動時は接地電圧となる。このため、インクの侵入によってエラー信号線910と温度センサ信号線912とが短絡しても信号電圧が変化せず、制御部では異常、つまり、インクの侵入を検出することができない場合がある。
【0062】
そこで、インクの侵入を検出可能な配線部603として、以下の条件を満たす2つの配線を互いに隣り合うように形成するようにした。1つ目の条件としては、一方の配線からの出力値または出力値に基づく動作が制御部で監視されていること。2つ目の条件としては、一方の配線と他方の配線とが短絡しても、制御部、記録ヘッドを構成するフレキシブル基板10、電気配線基板14、および記録素子基板16が損傷しないこと。
【0063】
(具体例1)
図10は、制御部においてインクの侵入を検出可能な配線部の一例を示す図である。具体的には、
図10のように、フレキシブル基板1000において、インクの侵入を検出可能な配線部603として、最も側部1000c側にVSS配線606を形成し、VSS配線606の隣にラッチ信号線904を形成する。制御部のラッチ信号の駆動能力は、数ミリアンペア程度と低く、記録素子基板16でのラッチ信号受信回路の入力インピーダンスは十分に高く、かつ、VSS配線606のインピーダンスは十分低い。このため、側部1000cからインクが侵入してVSS配線606とラッチ信号線904とが短絡すると、ラッチ信号が接地電圧に固定される。ラッチ信号は正論値であるため、接地電圧で固定されるとデータがラッチされず記録素子(本実施形態ではヒータ)が駆動されなくなる。
【0064】
ここで、制御部は、記録品位を一定に維持するために定期的に記録素子基板16の温度を読み取っている。記録素子基板16が比較的大きな面積を有する場合、記録素子基板16内に温度分布を持つため、記録素子基板16内の複数個所に温度センサ(不図示)が配置される。これらの温度センサは、記録素子基板16内においてマルチプレクサ(不図示)に接続される。各温度センサの値を読み取る場合には、任意の1つの温度センサを選択するデータを制御部から記録素子基板16に送信することで、選択された温度センサの温度情報がマルチプレクサを介して温度信号線1002から制御部にアナログ信号で送信される。また、温度センサを選択するデータに基づくマルチプレクサの切り換えが正常に行われていることを確認するために、マルチプレクサの少なくとも1つの端子を正常の温度信号とはかけ離れた電圧、例えば、電源電圧あるいは接地電圧に接続される。
【0065】
図11を参照しながら、温度センサによる温度の読み取りを行う読取処理の手順について説明する。なお、
図11を用いた説明では、記録素子基板16には、3つの温度センサと、3つの温度センサおよび1つのVSSに接続される4チャネルのマルチプレクサとが設けられているものとする。
図11は、読取処理の処理手順の詳細な処理ルーチンを示すフローチャートである。
【0066】
読取処理が開始されると、まず、制御部が、マルチプレクサにおけるチャネルを第1チャネルに切り替える信号を出力する(S1102)。マルチプレクサは、制御部から出力された第1チャネルへの切り換え信号に基づいて、第1チャネルに対応する第1温度センサにおける第1温度を取得し、取得した第1温度をアナログ信号として、温度信号線1002を介して制御部に出力する(S1104)。このアナログ信号は、制御部において、アナログ・デジタル変換器(A/D変換機)によりデジタル信号に変換される。
【0067】
次に、制御部は、第1温度が正常温度範囲内であるか否かを判定し(S1106)、第1温度が正常温度範囲内でないと判定されると、記録を中止して記録ヘッドに異常が発生したことを通知し(S1108)、読取処理を終了する。また、S1106において、第1温度が正常温度範囲内であると判定されると、制御部は、マルチプレクサのチャネルを第2チャネルに切り替える信号を出力する(S1110)。マルチプレクサは、制御部から出力された第2チャネルへの切り換え信号に基づいて、第2チャネルに対応する第2温度センサにおける第2温度を取得し、取得した第2温度をアナログ信号として、温度信号線1002を介して制御部に出力する(S1112)。
【0068】
その後、制御部は、第2温度が正常温度範囲内であるか否かを判定し(S1114)、第2温度が正常温度範囲内でないと判定されると、S1108に進む。また、S1114において、第2温度が正常温度範囲内であると判定されると、制御部は、マルチプレクサのチャネルを第3チャネルに切り替える信号を出力する(S1116)。マルチプレクサは、制御部から出力された第3チャネルへの切り換え信号に基づいて、第3チャネルに対応する第3温度センサにおける第3温度を取得し、取得した第3温度をアナログ信号として、温度信号線1002を介して制御部に出力する(S1118)。
【0069】
第3温度を取得すると、制御部は、第3温度が正常温度範囲内であるか否かを判定し(S1120)、第3温度が正常温度範囲内でないと判定されると、S1108に進む。また、S1120において、第3温度が正常温度範囲内であると判定されると、制御部は、マルチプレクサのチャネルを第4チャネルに切り替える信号を出力する(S1122)。マルチプレクサは、制御部から出力された第4チャネルへの切り換え信号に基づいて、第4チャネルに接続されたVSSに接続され、接地電圧を取得する(S1124)。そして、制御部は、取得した接地電圧が正常か否かを判定する(S1126)。
【0070】
制御部では、接地電圧が、例えば、0.3V以下であれば正常と判定されるものとする。S1126において、正常であると判定されると、S1102に戻る。また、S1126において、正常でないと判定されると、S1108に進む。なお、マルチプレクサのチャネルの切り換え周期は、例えば、8ミリ秒である。
【0071】
フレキシブル基板1000の側部1000cからインクが侵入し、VSS配線606とラッチ信号線904とが電気的に接続して短絡すると、正論値であるラッチ信号が接地電圧に固定される。記録素子基板16に送信されるデータは、ラッチ信号によって決定される。このため、ラッチされないとデータが正常に送信されても記録素子基板16で確定されず、マルチプレクサのチャネルの切り換えが行われなくなる。
【0072】
例えば、最後にラッチ信号が正常に記録素子基板16に伝達されたときに、マルチプレクサが第2チャネルに切り替わっていた場合、制御部は、次にマルチプレクサを第3チャネルに切り替えるデータを記録素子基板16へ送信する。しかしながら、VSS配線606とラッチ信号線904とが短絡していると、記録素子基板16でデータが確定されず、第3チャネルへの切り換えが行われずに、制御部には第2温度センサによる第2温度が出力される。
【0073】
これにより、制御部では、入力された第2温度を第3温度センサの温度情報として認識するが、通常は複数の温度センサの正常温度範囲はすべて一致しているため、記録素子基板16内の温度分布の所定の範囲内、例えば、10℃以内に収まる。このため、第3温度センサの温度情報として第2温度を受信しても制御部は正常温度範囲内であると認識し、マルチプレクサを第4チャネルに切り替える処理を行う。その後、制御部は、接地電圧が正常であるか否かを判定するが、記録素子基板16では、マルチプレクサの切り換えが行われていないので、制御部には第2温度の電圧が入力される。例えば、温度センサの温度特性が25℃のとき0.65V、変化率が-2mV/℃とし、正常温度範囲が0~100℃とすると、100℃のときに0.5Vとなるので接地電圧の正常範囲(0.3未満)を超えることになる。従って、制御部は、温度を検出する機構に異常が生じたものとして記録を中止するとともに、異常の発生を通知することとなる。
【0074】
このように、VSS配線606とラッチ信号線904(アノード信号線604に対応)とによりインクの侵入を検出可能な配線部603を構成することで、インクの侵入によってラッチ信号を接地電圧に落とすことができる。ラッチ信号の駆動能力は低いため、ラッチ信号線904とVSS配線とが短絡しても、制御部や記録素子基板16などが直ちに破損する可能性は低い。このため、インクの侵入を検出可能な配線部603を、VSS配線606およびラッチ信号線904により構成することで、記録素子基板16や制御部が損傷することなく記録ヘッドに異常が生じたものとして、インクの侵入を検出することができるようになる。
【0075】
(具体例2)
図12は、制御部においてインクの侵入を検出可能な配線部の他の例を示す図である。他の具体例としては、配線部603は、記録素子基板16に配置された複数の温度センサのうち、マルチプレクサに接続されず独立して設けられた温度センサ用の温度センサ信号線(DIA)1202とVSS配線606とにより構成する(
図12参照)。
図12では、他方の側部1000d側にVSS配線606が配置され、VSS配線606の隣に温度センサ信号線1202が形成されている。
【0076】
制御部に設けられたA/D変換機の入力インピーダンスは十分高く、温度センサ駆動回路の駆動能力は1ミリアンペア以下と低い。このため、側部1000dから液体が侵入によって(
図12の領域908参照)、温度センサ信号線1202と、VSS配線606とがインクにより接続されて短絡する。そして、この短絡によって、温度センサ信号が接地電圧となる。
【0077】
温度センサの温度特性が25℃のとき0.65V、変化率が-2mV/℃とし、正常温度範囲が0~100℃とすると、温度センサ信号が接地電圧になると制御部では温度が300℃であると認識する。例えば、制御部が、100℃を超えると異常昇温と判定されるように設計されているとすると、この場合、制御部は、異常昇温により記録ヘッドに異常が生じたものと判定して記録を中止するとともに、当該異常が生じたことを通知することができる。
【0078】
なお、アナログ信号の温度センサ信号線1202とVSS配線606とを隣り合わせて配置することは、アナログ信号への外来雑音の影響を抑制する点においても有効である。また、VSS配線606を側部1000d側に配置することで、温度センサ信号線1202を確実に接地電圧に落とすことができる。さらに、温度センサ駆動回路は、例えば、0.2ミリアンペアを出力する定電流回路であるので、温度センサ信号線1202がVSS配線606と短絡しても温度センサ駆動回路が故障する可能性は低い。
【0079】
側部1000c、1000dのうち、一方に具体例1の構成を備え、他方に具体例2の構成を形成するようにしてもよい(
図13(a)参照)。
図13(a)(b)は、配線部の具体例の変形例を示す図である。これにより、フレキシブル基板10の両側部からのインクの侵入による異常を検出することができるようになる。また、記録素子基板の端子配列の変更が困難な場合には、
図13(b)のように、他の層を利用して、最も側部側にVSS配線を形成するようにしてもよい。図示は省略するが、配線部603よりも側部側にはガードパターン602が設けられる。
【0080】
以上において説明したように、本実施形態によるフレキシブル基板10では、側部もしくは最も側部側に、通電されていないガードパターン602を備えるようにした。また、ガードパターン602の隣には、インクの侵入を検出することが可能な配線部603を設けるようにした。配線部603は、低電位の接地配線と、信号値および信号値に基づく動作が監視されたアノード信号線とにより構成されるようにした。そして、こうしたガードパターン602および配線部603が形成される位置は、少なくともその近傍に高電位の配線が配置された位置であるようにした。
【0081】
これにより、フレキシブル基板10の側部からインクが侵入したとしても、高電位の配線にインクが到達して、当該配線とタイの配線とが短絡する前に、接地配線とアノード信号線とが短絡する。アノード信号線は、その信号値あるいは信号値に基づく動作が監視されているため、短絡による信号値や動作の異常が確認される。つまり、フレキシブル基板10内へのインクの侵入によって記録ヘッドが正常に動作しなくなることを、記録ヘッドを構成する他の部材などを損傷することなく検出することができるようになる。
【0082】
また、ガードパターン602の存在によって、接地配線とアノード信号線との短絡のタイミングを遅らせることができる。これにより、記録ヘッドを正常に使用できる時間を増大させることができる。
【0083】
<他の実施形態>
なお、上記実施形態は、以下の(1)乃至(4)に示すように変形してもよい。
【0084】
(1)上記実施形態では特に記載しなかったが、4層構造のフレキシブル基板では、例えば、
図14(a)(b)のような構成となり、単層構造のフレキシブル基板では、例えば、
図14(c)のような構成となる。なお、上述した2層構造のフレキシブル基板と同様に、
図14に示す4層構造および単層構造のフレキシブル基板の構成については、その構成の一例を示すものであって、
図14に示す構成に限定されるものではない。
【0085】
図14(a)に示す4層構造のフレキシブル基板10では、高電位液のVH配線1402が形成された3層目において、一方の側部10c近傍に、側部10c側から順に、ガードパターン602、VSS配線606、およびアノード信号線604が形成されている。そして、アノード信号線604の隣に、VH配線1402が形成されている。この場合、側部10cから3層目へのインクの侵入によって、インクがVH配線1402に到達する前に、VSS配線606とアノード信号線604とが短絡することで、記録ヘッドに異常が生じたことを検出できる。
【0086】
図14(a)に示す4層構造のフレキシブル基板10では、4層目において、GNDH配線702の両側をVSS配線606で囲っているが、4層目には、GNDH配線702のみを形成するようにしてもよい。また、
図14(a)に示すs4層構造のフレキシブル基板10では、3層目のみにガードパターン602、VSS配線606、アノード信号線604による構成をVH配線1402に対して側部10c側に配置している。しかしながら、例えば、VH配線1402が、側部10dの近くまで広い幅で形成されている場合には、側部10c側にも、同様の構成を形成することとなる。また、例えば、他の層の側部10cまたは側部10dの近くにVH配線1402が形成されている場合には、VH配線1402よりも当該側部側にガードパターン602、VSS配線606、アノード信号線604による構成を形成することとなる。
【0087】
図14(b)に示す4層構造のフレキシブル基板10では、1層目、2層目、および3層目は、
図9(a)に示す4層構造のフレキシブル基板10と同様の構成となっている。4層目は、側部10c側に設けられたGNDH配線702の、側部10c側に、ガードパターン602、VSS配線606,アノード信号線604による構成が形成されている。これにより、4層目において、側部10cからインクが侵入したとしても、高電位のGNDH配線702にインクが到達する前にVSS配線606とアノード信号線604とが短絡することで、記録ヘッドに異常が生じたことを検出することができる。
【0088】
図14(c)に示す単層構造のフレキシブル基板10では、側部10d側に、高電位のGNDH配線702およびVH配線1402が形成されている。さらに、これらよりも側部10d側に、側部10d側から順に、ガードパターン602、VSS配線606、アノード信号線604が形成されている。これにより、側部10dからインクが侵入したとしても、高電位の配線異インクが到達する前に、VSS配線606とアノード信号線604とが短絡することで記録ヘッドに異常が生じたことを検出することができる。
【0089】
(2)上記実施形態では、配線部603の側部側に、ガードパターン602を設けるようにしたが、これに限定されるものではない。即ち、ガードパターン602を設けずに、高電位の配線の側部側に、配線部603のみを設けるようにしてもよい。これにより、フレキシブル基板10内へのインクの侵入が始まった後に記録ヘッドに異常が生じたことを検出するまでの時間は短くなるが、上記実施形態と同様に、当該異常を検出することは可能である。
【0090】
(3)上記実施形態では、ガードパターン602よりも高電位の配線側に配線部603を設けるようにしたが、これに限定されるものではない。即ち、配線部603を設けずに、最も側部側にガードパターン602のみを設けるようにしてもよい。これにより、フレキシブル基板10内へのインクの侵入が始まっても、当該インクにより高電位の配線が他の配線と短絡するまでの時間を稼ぐことができる。
【0091】
(4)上記実施形態および上記した(1)および(3)に示す各種の形態は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0092】
10、900、1000 フレキシブル基板
602 ガードパターン
603 配線部
604 アノード信号線
606 VSS配線