(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018128
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用電極及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20230131BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230131BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230131BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0566
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191417
(22)【出願日】2022-11-30
(62)【分割の表示】P 2021503400の分割
【原出願日】2019-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2019037399
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】505083999
【氏名又は名称】ビークルエナジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楊 瀚知
(72)【発明者】
【氏名】有島 康夫
(57)【要約】
【課題】電解液の保持量が多く、高出力であると同時に、体積密度が確保され、電子伝導性の低下が抑制されたリチウム二次電池用電極を提供すること。
【解決手段】本発明のリチウム二次電池用電極は、電極箔と、前記電極箔に設けられ、活物質を有する合剤層とを有し、前記合剤層は、前記電極箔に設けられる内部層54と、前記合剤層の厚さ方向において内部層54よりも表面側に位置する表面層55とを有し、表面層55よりも内部層54の方が平均空隙率が高く、内部層54は、内部層54の厚さ方向における中途位置に両端よりも空隙率が低い中層542を有することを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極箔と、前記電極箔に設けられ、活物質を有する合剤層とを有するリチウム二次電池用電極であって、
前記合剤層は、前記電極箔に設けられる内部層と、前記合剤層の厚さ方向において前記内部層よりも表面側に位置する表面層とを有し、
前記表面層よりも前記内部層の方が平均空隙率が高く、
前記内部層は、前記内部層の厚さ方向における中途位置に両側とは空隙率が異なる中層を有し、
前記中層の空隙率が、前記表面層の平均空隙率よりも高く、
前記表面層、前記中層及びその両側の層は、いずれも活物質を有する、リチウム二次電池用電極。
【請求項2】
電極箔と、前記電極箔に設けられ、活物質を有する合剤層とを有するリチウム二次電池用電極であって、
前記合剤層は、前記電極箔に設けられる内部層と、前記合剤層の厚さ方向において前記内部層よりも表面側に位置する表面層とを有し、
前記表面層よりも前記内部層の方が平均空隙率が高く、
前記内部層は、前記内部層の厚さ方向における中途位置に両側とは空隙率が異なる中層を有し、
前記中層の両側の層のうち前記表面層に近い層の空隙率が、前記表面層の平均空隙率よりも高く、
前記表面層、前記中層及びその両側の層は、いずれも活物質を有する、リチウム二次電池用電極。
【請求項3】
前記表面層の平均空隙率が、10%以上30%未満であり、
前記内部層の平均空隙率が、30%以上60%以下である、
請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項4】
前記内部層における活物質の平均粒子径が、前記表面層における活物質の平均粒子径よりも大きい、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項5】
前記内部層及び前記表面層が、粒子径が異なる少なくとも2種類の活物質を含む混合物であり、前記表面層の活物質における粒子径が小さい活物質の相対量が、前記内部層の活物質における粒子径が小さい活物質の相対量よりも多い、請求項4に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項6】
前記電極箔上に設けられる活物質を含む層の空隙率が、当該層よりも表面側に隣接して位置する活物質を含む層の空隙率よりも高い、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項7】
前記内部層の厚み全体に対する前記中層の厚みの割合が、10%以上25%以下である、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項8】
電池容器と、
前記電池容器内に、セパレータを挟んで配置される、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用電極からなる正極電極及び負極電極と、
前記電池容器内に注入された電解液と
を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用電極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、再充電可能な二次電池の分野では、鉛電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-水素電池等の水溶液系電池が主流であった。しかしながら、電気機器の小型化、軽量化が進むにつれ、高エネルギー密度を有するリチウム二次電池が注目され、その研究、開発及び商品化が急速に進められた。一方、地球温暖化や枯渇燃料の問題に対処すべく、電気自動車(EV)や駆動の一部を電気モータで補助するハイブリッド電気自動車(HEV)が各自動車メーカーで開発され、その電源として高容量で高出力な二次電池が求められるようになってきた。このような要求に合致する電源として、高電圧を有する非水溶液系のリチウム二次電池が用いられている。特に角形リチウム二次電池は、パック化した際の体積効率が優れているため、HEV用あるいはEV用として角形リチウム二次電池の開発への期待が高まっている。
【0003】
HEV用途のリチウム二次電池では、モータ駆動をアシストするために電池から大電流を供給することが必要であり、放電時の電圧降下が低い(内部抵抗が低い)ことが要求される。
【0004】
従来技術として、特許文献1には、放電容量が大きく、正負極間の短絡等の問題が生じ難い非水電解質電池を作製するための正極体、及びこの正極体を使用した非水電解質電池が開示されている。特許文献1における電池の正極体は、内部層と外部層を持つ二層構造である。内部層の空隙率を外部層の空隙率よりも高くすることによって、電池の内部短絡を抑制でき、安全性が高まる効果があるとされている。
【0005】
特許文献2には、電池の高容量化を図りつつも高出力を得ることが可能な電極構造が記載されている。特許文献2における電池の電極は、内部層と外部層を持つ二層構造である。内部層の空隙率を外部層の空隙率よりも高くすることによって、内部層に電解質の保持量を増やすことができ、電池の高容量化と高出力化を図ることが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-160987号公報
【特許文献2】特開2011-9203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2における電極は、空隙率が低い外部層と空隙率が高い内部層とを備える二層構造の電極である。このような二層構造により、内部短絡防止や高容量化、高出力化を実現できるが、内部層全体の空隙率を高くすると、体積密度が低くなってしまう。また、電極の電子伝導性が低下する可能性がある。
【0008】
そこで本発明は、電解液の保持量が多く、高出力であると同時に、体積密度が確保され、電子伝導性の低下が抑制されたリチウム二次電池用電極、及びそれを用いたリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、電極箔に設けられる合剤層を、電極箔上の内部層と、さらに表面側に位置する表面層とから構成し、内部層の平均空隙率を表面層の平均空隙率よりも高くすることによって、体積密度と反応を確保しつつ、電解液を溜めるスペースを内部層内に形成可能であることを見い出した。また、内部層の厚さ方向における中途位置に空隙率が低い中層を設けることにより、高空隙率の内部層における電子の移動性を保つことができることを見い出し、発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明のリチウム二次電池用電極は、電極箔と、前記電極箔に設けられ、活物質を有する合剤層とを有するリチウム二次電池用電極であって、前記合剤層は、前記電極箔に設けられる内部層と、前記合剤層の厚さ方向において前記内部層よりも表面側に位置する表面層とを有し、前記表面層よりも前記内部層の方が平均空隙率が高く、前記内部層は、前記内部層の厚さ方向における中途位置に両側よりも空隙率が低い中層を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明のリチウム二次電池は、電池容器と、前記電池容器内に、セパレータを挟んで配置される、上記のリチウム二次電池用電極からなる正極電極及び負極電極と、前記電池容器内に注入された電解液とを含むことを特徴とする。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-037399号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電解液が電極の内部層に浸透しやすく、内部層に電解液を保持するスペースを形成することによって十分なLiイオンの量を確保することができる。そのため、Liイオン移動の応答性が向上し、直流抵抗(DCR)を低下させることができ、リチウム二次電池の高出力化を図ることができる。また、内部層に高密度の中層を形成することによって、低空隙率の内部層の電子伝導性を維持することができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のリチウム二次電池の一実施形態であるリチウム角形二次電池を示す外観斜視図である。
【
図3】電極捲回群の一部を展開した状態を示す分解斜視図である。
【
図4】本発明のリチウム二次電池用電極の一実施形態である正極電極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態に基づき本発明を詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明のリチウム二次電池の一実施形態を示す外観斜視図であり、具体的にはリチウム角形二次電池を示している。また、
図2はリチウム角形二次電池の分解斜視図である。
【0016】
リチウム角形二次電池100は、電池缶1及び電池蓋6を備える。電池缶1は、相対的に面積の大きい一対の対向する幅広側面1b及び相対的に面積の小さい一対の対向する幅狭側面1cを有する側面と底面1dとを有し、その上方に開口部1aを有する。
【0017】
電池缶1内には、絶縁保護フィルム2を介して捲回群3が収納され、電池缶1の開口部1aが電池蓋6によって封止されている。電池蓋6は略矩形平板状であって、電池缶1の上方の開口部1aを塞ぐように溶接されて電池缶1が封止されている。電池蓋6には、正極外部端子14と、負極外部端子12が設けられている。正極外部端子14及び負極外部端子12を介して捲回群3に充電され、また外部負荷に電力が供給される。電池蓋6にはガス排出弁10が一体的に設けられ、電池容器内の圧力が上昇すると、ガス排出弁10が開裂することで内部からガスが排出され、電池容器内の圧力が減少する。これによって、リチウム角形二次電池100の安全性が確保される。
【0018】
捲回群3は、扁平形状に捲回され、断面半円形状の互いに対向する一対の湾曲部と、これら一対の湾曲部の間に連続して形成される平面部とを有している。捲回群3は、捲回軸方向が電池缶1の横幅方向に沿うように、一方の湾曲部側から電池缶1内に挿入され、他方の湾曲部側が上部開口側に配置される。
【0019】
捲回群3の正極電極箔露出部34cは、正極集電板44を介して電池蓋6に設けられた正極外部端子14と電気的に接続されている。また、捲回群3の負極電極箔露出部32cは、負極集電板24を介して電池蓋6に設けられた負極外部端子12と電気的に接続されている。これにより、正極集電板44及び負極集電板24を介して捲回群3から外部負荷へ電力が供給され、正極集電板44及び負極集電板24を介して捲回群3へ外部発電電力が供給され充電される。
【0020】
正極集電板44と負極集電板24、及び正極外部端子14と負極外部端子12を、それぞれ電池蓋6から電気的に絶縁するために、ガスケット5及び絶縁板7が電池蓋6に設けられている。また、注液口9から電池缶1内に電解液を注入した後、電池蓋6に注液栓11をレーザ溶接により接合して注液口9を封止し、リチウム角形二次電池100を密閉する。
【0021】
ここで、正極外部端子14及び正極集電板44の形成素材としては、例えばアルミニウム合金が挙げられ、負極外部端子12及び負極集電板24の形成素材としては、例えば銅合金が挙げられる。また、絶縁板7及びガスケット5の形成素材としては、例えばポリブチレンテレフタレートやポリフェニレンサルファイド、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂等の絶縁性を有する樹脂材が挙げられる。
【0022】
また、電池蓋6には、電池容器内に電解液を注入するための注液口9が穿設されており、この注液口9は、電解液を電池容器内に注入した後に注液栓11によって封止される。ここで、電池容器内に注入される電解液としては、例えばエチレンカーボネート等の炭酸エステル系の有機溶媒に、6フッ化リン酸リチウム(LiPF6等)のリチウム塩が溶解された非水電解液等を適用することができる。
【0023】
正極外部端子14、負極外部端子12は、バスバー等に溶接接合される溶接接合部を有している。溶接接合部は、電池蓋6から上方に突出する直方体のブロック形状を有しており、下面が電池蓋6の表面に対向し、上面が所定高さ位置で電池蓋6と平行になる構成を有している。
【0024】
正極接続部14a及び負極接続部12aは、正極外部端子14及び負極外部端子12の下面からそれぞれ突出して先端が電池蓋6の正極側貫通孔46及び負極側貫通孔26に挿入可能な円柱形状を有している。正極接続部14a、負極接続部12aは、電池蓋6を貫通して正極集電板44、負極集電板24の正極集電板基部41、負極集電板基部21よりも電池缶1の内部側にそれぞれ突出しており、先端がかしめられて、正極外部端子14、負極外部端子12と、正極集電板44、負極集電板24とを電池蓋6に一体に固定している。正極外部端子14、負極外部端子12と電池蓋6との間には、ガスケット5が介在しており、正極集電板44、負極集電板24と電池蓋6との間には、絶縁板7が介在している。
【0025】
正極集電板44、負極集電板24は、電池蓋6の下面に対向して配置される矩形板状の正極集電板基部41、負極集電板基部21と、正極集電板基部41、負極集電板基部21の側端で折曲されて、電池缶1の幅広面に沿って底面側に向かって延出し、捲回群3の正極箔露出部34c、負極箔露出部32cに対向して重ね合わされた状態で接続される正極側接続端部42、負極側接続端部22を有している。正極集電板基部41、負極集電板基部21には、正極接続部14a、負極接続部12aが挿通される正極側開口穴43、負極側開口穴23がそれぞれ形成されている。
【0026】
捲回群3の扁平面に沿う方向でかつ捲回群3の捲回軸方向に直交する方向を中心軸方向として前記捲回群3の周囲には絶縁保護フィルム2が巻き付けられている。絶縁保護フィルム2は、例えばPP(ポリプロピレン)等の合成樹脂製の一枚のシート又は複数のフィルム部材からなり、捲回群3の扁平面と平行な方向でかつ捲回軸方向に直交する方向を巻き付け中心として巻き付けることができる長さを有している。
【0027】
図3は、電極捲回群の一部を展開した状態を示す分解斜視図である。捲回群3は、負極電極32及び正極電極34をそれらの間にセパレータ33、35を介して扁平状に捲回することによって構成されている。捲回群3は、最外周の電極が負極電極32であり、さらにその外側にセパレータ33、35が捲回される。セパレータ33、35は、正極電極34と負極電極32との間を絶縁する役割を有している。
【0028】
負極電極32の負極合剤層32bが塗布された部分は、正極電極34の正極合剤層34bが塗布された部分よりも幅方向に大きく、これにより、正極合剤層34bが塗布された部分は、必ず負極合剤層32bが塗布された部分に挟まれるように構成されている。正極電極箔露出部34c、負極電極箔露出部32cは、平面部分で束ねられて溶接等により接続される。なお、セパレータ33、35は幅方向で負極合剤層32bが塗布された部分よりも広いが、正極電極箔露出部34c、負極電極箔露出部32cで端部の金属箔面が露出する位置に捲回されるため、束ねて溶接する場合の支障にはならない。
【0029】
正極電極34は、正極集電体である正極電極箔34aの両面に正極合剤を有する正極合剤層34bが設けられ、正極電極箔34aの幅方向一方側の端部には、正極合剤層34bが形成されない正極電極箔露出部34cが設けられている。
【0030】
負極電極32は、負極集電体である負極電極箔(図示せず)の両面に負極合剤を有する負極合剤層32bが設けられ、負極電極箔の幅方向他方側の端部には、負極合剤層32bが形成されない負極電極箔露出部32cが設けられている。
【0031】
正極電極箔露出部34cと負極電極箔露出部32cは、電極箔の金属面が露出した領域であり、捲回軸方向の一方側と他方側の位置に配置されるように捲回される。また、軸芯としては、例えば、正極電極箔34a、負極電極箔、セパレータ33、35のいずれよりも曲げ剛性の高い樹脂シートを捲回して構成したもの等を用いることができる。
【0032】
図4は、本発明のリチウム二次電池用電極の一実施形態である正極電極の断面図である。正極合剤層は、
図4に示すように、正極電極箔34aに設けられる内部層54と、正極合剤層の厚さ方向において内部層54よりも表面側に位置する表面層55とを有している。それぞれの層は、粒子径が異なる少なくとも2種類の活物質、すなわち、正極活物質(大)51及び正極活物質(小)52と、導電助剤53とを含んでいる。なお、ここで正極活物質(大)51及び正極活物質(小)52の「粒子径」とは、レーザー回折・散乱法により測定した粒子径D50をいう。正極活物質(大)51の粒子径D50は10μm以上15μm以下、正極活物質(小)52の粒子径D50は4.5μm以上6.5μm以下の範囲内であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0033】
本実施形態においては、内部層54が、表面層55に近い側から、上層541、中層542及び下層543の3つの層から構成されている。そして、内部層54の厚さ方向における中途位置に設けられる中層542は、その両側に位置する上層541及び下層543よりも空隙率が低くなっている。ここで、空隙率は、それぞれの層の断面において、その断面を活物質の粒子が横切っていない隙間領域(空隙)の面積割合を百分率で表したものをいい、光学顕微鏡による正極合剤層の断面観察等によって求めることができる。空隙率を求める際には、空隙率を算出する断面中に、少なくとも100個の活物質粒子の断面が現れるような、十分に大きい面積の断面を選択するものとする。また、選択する断面には、空隙率を算出する層の、厚さ方向の全体が含まれるようにする。内部層54の厚さ方向の中途位置に、空隙率が相対的に低い(密度が高い)中層542を形成することによって、内部層54の電子伝導性を維持することができる。
【0034】
また、本実施形態では、表面層55よりも内部層54の方が平均空隙率が高くなるように構成されている。ここで、平均空隙率とは、内部層54のように複数の層(上層541、中層542及び下層543)を有する場合は、上層541、中層542及び下層543のそれぞれの空隙率の平均値をいう。表面層55のように単一の層から構成される場合は、表面層55の平均空隙率は、表面層55の空隙率の値に一致する。表面層55の空隙率よりも内部層54の空隙率を高くすることにより、電解液が内部層54に浸透しやすくなり、内部層54に電解液を保持するスペースが形成され、十分なLiイオンの量を確保することができる。そのため、Liイオン移動の応答性が向上し、直流抵抗(DCR)を低下させることができ、リチウム二次電池の高出力化を図ることができる。
【0035】
表面層55の平均空隙率は、10%以上30%未満であることが好ましく、より好ましくは15%以上25%未満である。これに対し、内部層54の平均空隙率は、30%以上60%以下であることが好ましく、より好ましくは35%以上55%以下である。
【0036】
また、内部層54の厚み全体に対する中層542の厚みの割合は、内部層54の電子伝導性と電解液の保持量のバランスを考慮して適宜設定することができる。例えば、中層542の厚みの割合を10%以上25%以下とすることができる。より好ましくは15%以上20%以下である。
【0037】
さらに、内部層54における正極活物質の平均粒子径は、表面層55における正極活物質の平均粒子径よりも大きい。平均粒子径が大きいことによって、正極活物質の粒子間の隙間が大きくなり、その層の平均空隙率が高まる。逆に、正極活物質の平均粒子径が小さいと、その層に正極活物質が密に充填され、平均空隙率は低下する。なお、内部層54及び表面層55の平均粒子径とは、それぞれの層に含まれる正極活物質の粒子の累積体積50%における粒径D50を意味する。
【0038】
内部層54及び表面層55における正極活物質の平均粒子径は、それぞれの層に含まれる正極活物質(大)51及び正極活物質(小)52の相対量を変化させることで調整することができる。本実施形態では、表面層55における正極活物質全体に占める正極活物質(小)52の相対量を、内部層54における正極活物質全体に占める正極活物質(小)52の相対量よりも多くすることにより、内部層54の正極活物質の平均粒子径を、表面層55の正極活物質の平均粒子径よりも大きくしている。
【0039】
以上の実施形態では、内部層54及び表面層55に含まれる正極活物質の粒子径を調節することで、内部層54及び表面層55の平均空隙率を変化させる場合について説明したが、これに限定されるものではない。それ以外にも、例えば、内部層54及び表面層55に含まれる正極活物質の粒子径を均一にし、その代わりに、導電助剤53を、粒子径が小さいものと大きいものの2種類から構成し、粒子径が小さい導電助剤と粒子径が大きい導電助剤の混合比を、内部層54と表面層55とで変えることによっても、それぞれの層の平均空隙率を制御することができる。
【0040】
また、上記の実施形態では、内部層54を、上層541、中層542及び下層543の3つの層から構成したが、これに限られるものではなく、内部層54を4層以上の層から構成しても良い。例えば、内部層54を、表面層55に近い側から、空隙率が高い層、低い層、高い層、低い層、及び高い層の5層から構成することができる。
【0041】
さらに、上記の実施形態では、正極合剤層の層構造について説明したが、負極合剤層についても同様である。すなわち、負極合剤層が、負極電極箔に設けられる内部層と表面層とを有し、表面層よりも内部層の方が平均空隙率が高く、内部層の厚さ方向における中途位置に両側よりも空隙率が低い中層を設けても良い。
【実施例0042】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1-1)
<負極電極の作製>
天然黒鉛粉末に対して、結着剤としてスチレン・ブタジエンゴムと、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを添加し、これに分散溶媒として純水を添加し、混練して負極合剤を調製した。この負極合剤を厚さ8μmの銅箔(負極電極箔)の両面に溶接部(負極未塗工部)を残しつつスロットダイコーティング方式で塗布し、その後、乾燥、プレス、裁断工程を経て、負極電極32を作製した。
【0044】
<正極電極の作製>
正極活物質として、マンガン酸リチウム(化学式LiMn2O4)からなる正極活物質(大)51(粒子径11μm)と正極活物質(小)52(粒子径5.5μm)の二種類を用いた。これらの正極活物質と、導電助剤と、PVDFの結着剤とを所定の割合で混合し、これに分散溶媒としてNMPを添加、混練し、各層を形成するための正極合剤を調製した。
【0045】
厚み15μmのアルミニウム箔(正極電極箔)の両面に、内部層54を構成する上層541、中層542及び下層543と、表面層55とを形成するためのそれぞれの正極合剤を同時にスロットダイコーティング方式で塗布し、乾燥、プレス、裁断を経て、正極電極34を得た。正極活物質(大)51と正極活物質(小)52の二種類の正極活物質の組み合わせにより、空隙率10%の表面層55と、平均空隙率35%の内部層54とを形成した。内部層54は、空隙率48%の上層541、空隙率10%の中層542、及び空隙率48%の下層543から構成した。各層の空隙率を下表にまとめて示す。なお、下表においては、内部層54の平均空隙率も「空隙率」と記載している(以下の各実施例についても同様)。
【0046】
<リチウム二次電池の作製>
電池容器内に、上記の正極電極及び負極電極をセパレータを挟んで配置し、電池容器内に電解液を注入してリチウム二次電池を作製した。
【0047】
(実施例1-2、1-3及び1-4)
実施例1-1に記載されている方法で、表面層55と、上層541、中層542及び下層543から構成される内部層54とを有する正極電極を作製した。実施例1-2、1-3、1-4の表面層55の空隙率はいずれも10%とした。また、実施例1-2、1-3、1-4の内部層54の平均空隙率はそれぞれ40%、50%、55%とした。実施例1-2、1-3、1-4の内部層の上層541の空隙率はそれぞれ53%、65%、68%とした。実施例1-2、1-3、1-4の内部層の中層542の空隙率はそれぞれ15%、20%、30%とした。実施例1-2、1-3、1-4の内部層の下層543の空隙率はそれぞれ53%、65%、68%とした。これらの正極電極を用いて、実施例1-1と同様の方法によりリチウム二次電池を作製した。
【0048】
(実施例2-1、2-2、2-3及び2-4)
実施例1-1に記載されている方法で、表面層55と、上層541、中層542及び下層543から構成される内部層54とを有する正極電極を作製した。実施例2-1、2-2、2-3、2-4の表面層55の空隙率はいずれも20%とした。また、実施例2-1、2-2、2-3、2-4の内部層54の平均空隙率はそれぞれ35%、40%、50%、55%とした。実施例2-1、2-2、2-3、2-4の内部層の上層541の空隙率はそれぞれ43%、48%、60%、68%とした。実施例2-1、2-2、2-3、2-4の内部層の中層542の空隙率はそれぞれ20%、25%、30%、30%とした。実施例2-1、2-2、2-3、2-4の内部層の下層543の空隙率はそれぞれ43%、48%、60%、68%とした。これらの正極電極を用いて、実施例1-1と同様の方法によりリチウム二次電池を作製した。
【0049】
(実施例3-1、3-2、3-3及び3-4)
実施例1-1に記載されている方法で、表面層55と、上層541、中層542及び下層543から構成される内部層54とを有する正極電極を作製した。実施例3-1、3-2、3-3、3-4の表面層55の空隙率はいずれも30%とした。また、実施例3-1、3-2、3-3、3-4の内部層54の平均空隙率はそれぞれ35%、40%、50%、55%とした。実施例3-1、3-2、3-3、3-4の内部層の上層541の空隙率はそれぞれ43%、48%、60%、68%とした。実施例3-1、3-2、3-3、3-4の内部層の中層542の空隙率はそれぞれ20%、25%、30%、30%とした。実施例3-1、3-2、3-3、3-4の内部層の下層543の空隙率はそれぞれ43%、48%、60%、68%とした。これらの正極電極を用いて、実施例1-1と同様の方法によりリチウム二次電池を作製した。
【0050】
(比較例1-1、1-2及び1-3)
実施例1-1に記載されている方法で、表面層55と、上層541、中層542及び下層543から構成される内部層54とを有する正極電極を作製した。比較例1-1、1-2、1-3の表面層55の空隙率はいずれも20%とした。また、比較例1-1、1-2、1-3の内部層54の平均空隙率はそれぞれ50%、20%、70%とした。比較例1-1、1-2、1-3の内部層の上層541の空隙率はそれぞれ45%、25%、70%とした。比較例1-1、1-2、1-3の内部層の中層542の空隙率はそれぞれ60%、10%、70%とした。比較例1-1、1-2、1-3の内部層の下層543の空隙率はそれぞれ45%、25%、70%とした。これらの正極電極を用いて、実施例1-1と同様の方法によりリチウム二次電池を作製した。
【0051】
(評価)
各実施例及び各比較例において作製したリチウム二次電池について吸液量及び導電性を評価した。
吸液量については、正極電極に含侵された電解液の重量で評価した。25℃で同じ体積の正極電極を一定時間、電解液に含浸し、その重さを測定した。吸液後の重量が吸液前より15%以上増加した場合は〇と判断し、15%未満の場合は×と判断した。
【0052】
導電性については、正極電極の単位体積抵抗に基づき評価した。一つの実施例もしくは比較例に対して、その実施例もしくは比較例に係る表面層及び内部層を有する正極電極に加えて、内部層の組成のみから構成される合剤層を有する正極電極を用意し、それらの正極電極に電解液を含浸し、ロレスタを用いて、それぞれの単位体積抵抗を測定した。表面層及び内部層を有する正極電極の単位体積抵抗が、内部層のみの正極電極の単位体積抵抗より低い場合は〇と判断し、高い場合は×と判断した。
【0053】
各実施例及び各比較例における正極合剤層を構成する各層の空隙率と、吸液量及び導電性の評価結果を表1~4にまとめて示す。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
表4の結果から以下のことが明らかになった。まず、比較例1-1における正極電極では吸液量は十分であったが、導電性が悪かった。この結果は、比較例1-1の内部層の平均空隙率が高いので吸液性が向上するが、隙間も増加し、電子を移動できる経路が少なくなって導電性が悪くなったためと考えられる。比較例1-2における正極電極は、吸液量が少なかったが、導電性が良かった。この結果は、内部層の平均空隙率が低く、電解液が染み込むスペースが少ない一方、電子の移動経路がある程度確保され、導電性が向上したためと考えられる。しかし、このような電極では電解液が枯渇しやすく、寿命が短い。さらに、比較例1-3における正極電極では、内部層の平均空隙率が大きいので、吸液量が多い一方、隙間が多過ぎて導電性が悪かった。各比較例と比べて、表面層より内部層の方が平均空隙率が高く、且つ内部層の中央部分に高密度の層を有する実施例1-1~3-4の正極電極は、優れた吸液量及び導電性を示していた。
【0059】
(空隙率による吸液量と導電性の評価)
電極の作製工程において、空隙率が10%未満であると、プレスで潰されにくいため、空隙率の下限値は10%が好ましいことが分かった。また、空隙率60%を超えると、電気伝導性が悪くなるため、空隙率の上限値は60%が好ましいことが分かった。次に、空隙率が吸液量と導電性に及ぼす影響について調べた。上下限値の中央値である35%と、25%及び30%の空隙率を有する単一の合剤層を有する電極を作製し、それらの電極を用いて吸液量と導電性を評価した。評価方法は、前記実施例及び比較例と同様である。評価結果を表5に示す。
【0060】
【0061】
表5に示すように、空隙率が30%未満の場合は吸液量が悪くなるため、内部層の平均空隙率は30%以上が好ましいことが分かった。空隙率が30%を超えると導電性はしだいに弱まる傾向が見られたが、良好な吸液性を維持していた。これらの結果から、表面層の平均空隙率は10%以上30%未満とすることが好ましく、内部層の平均空隙率は30%以上60%以下の範囲が好ましいことが明らかとなった。
【0062】
以上、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。