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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181315
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】連続鋳造ノズル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/059 20060101AFI20231214BHJP
   B22D 11/057 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B22D11/059 120A
B22D11/059 110A
B22D11/057
B22D11/059
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023183246
(22)【出願日】2023-10-25
(62)【分割の表示】P 2019123182の分割
【原出願日】2019-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 裕士
(72)【発明者】
【氏名】柴田 賢一
(57)【要約】
【課題】表面の劣化が生じにくく、かつ変形も起こりにくい黒鉛製の連続鋳造ノズルを提供する。
【解決手段】鋳型となる内壁面と、外壁面とを有し、黒鉛基材が骨格を構成する連続鋳造ノズルであって、前記黒鉛基材は気孔を含み、前記気孔の内部にガラス状カーボンの粒子が充填された、連続鋳造ノズルに関する。また、前記黒鉛基材は気孔を含み、コア領域と封止層とから構成され、前記封止層は、前記黒鉛基材の気孔の内部にガラス状カーボンの粒子が充填され、前記内壁面に形成された層である連続鋳造ノズルにも関する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型となる内壁面と、外壁面とを有し、黒鉛基材が骨格を構成する連続鋳造ノズルであって、
前記黒鉛基材は気孔を含み、
前記気孔の内部にガラス状カーボンの粒子が充填された連続鋳造ノズル。
【請求項2】
鋳型となる内壁面と、外壁面とを有し、黒鉛基材が骨格を構成する連続鋳造ノズルであって、
前記黒鉛基材は気孔を含み、コア領域と封止層とから構成され、
前記封止層は、前記黒鉛基材の気孔の内部にガラス状カーボンの粒子が充填され、前記内壁面に形成された層である連続鋳造ノズル。
【請求項3】
前記封止層は、厚さが1~30mmである請求項2に記載の連続鋳造ノズル。
【請求項4】
前記コア領域の気孔率が12~25%である請求項2又は3に記載の連続鋳造ノズル。
【請求項5】
前記封止層の気孔率が前記コア領域の気孔率よりも低く、それらの差が1~5%である請求項2~4のいずれか1項に記載の連続鋳造ノズル。
【請求項6】
気孔を含む黒鉛基材に難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液を含浸し乾燥、硬化する含浸工程と、
前記黒鉛基材を焼成することにより前記難黒鉛化性の炭素前駆体を炭素化してガラス状カーボンの粒子とし、前記黒鉛基材に含まれる前記気孔の内部に前記ガラス状カーボンの粒子が充填された封止層を形成する炭素化工程と、
前記封止層が形成された黒鉛基材を所定の形状に加工し、前記封止層が形成された鋳型となる内壁面と、外壁面とを形成する加工工程と、
をこの順に含む連続鋳造ノズルの製造方法。
【請求項7】
前記含浸工程において、前記黒鉛基材を減圧状態で保持したのち前記難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液を加圧含浸させる請求項6に記載の連続鋳造ノズルの製造方法。
【請求項8】
前記難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液の、前記黒鉛基材に対する接触角が20~60°である請求項6又は7に記載の連続鋳造ノズルの製造方法。
【請求項9】
前記難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液の粘度は1~100mPa・sである請求項6~8のいずれか1項に記載の連続鋳造ノズルの製造方法。
【請求項10】
前記難黒鉛化性の炭素前駆体は、フェノール樹脂又はフラン樹脂である請求項6~9のいずれか1項に記載の連続鋳造ノズルの製造方法。
【請求項11】
前記ガラス状カーボンの粒子が充填される前の前記黒鉛基材は、気孔率が12~25%である請求項6~10のいずれか1項に記載の連続鋳造ノズルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は連続鋳造ノズル及び連続鋳造ノズルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造は高温で溶解した溶融金属をタンディッシュと言われる保持炉から所定形状の鋳型の一端から連続的に供給し、鋳型の他端から連続的にピンチロールなどで引出すことにより鋳造する方法である。金属の連続鋳造を行う上で、保持炉底部の溶融金属排出孔に取り付けられた浸漬ノズルを使用する。
【0003】
このような連続鋳造に用いられる連続鋳造ノズルには、安価で、還元雰囲気が得られ、加工が容易などの理由で黒鉛が広く使用されている。黒鉛は耐熱性、高温強度、溶融金属に対する化学的安定性などの特性を有する。
【0004】
特許文献1では、このような黒鉛製のカーボンノズルは、銅合金を溶解鋳造する際に、溶湯内のガス圧力によっては、カーボンノズルを通して雰囲気のガスを巻き込み、その量が多いと鋳肌の悪化の原因となるとされている。それに対し、銅及び銅合金の連続鋳造用ノズルにおいて、少なくとも溶湯保持炉内部分及び鋳型内溶湯への浸漬部分を除く部分の通気量を調整したカーボンからなることを特徴とする銅及び銅合金の連続鋳造用ノズルが開示されている。また、ガラス状カーボンを含浸した連続鋳造用ノズルや、熱分解炭素膜を被覆した連続鋳造用ノズルも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-223538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、上記特許文献1に記載された発明は、黒鉛に異質の炭素質材料が含浸又は被覆されて得られた連続鋳造用ノズルである。黒鉛製の連続鋳造ノズルは、使用する過程で少しずつ消耗し、ノズル外の酸素と溶融金属とが接触することで、ノズル内壁の表面(内壁面)に金属酸化物が形成され、その表面が荒れ始める。表面が荒れ始めると、連続鋳造する溶融金属との間で摩擦が大きくなり、得られた鋳造製品の表面が劣化する。例えば、銅合金である洋白を連続鋳造する場合、洋白を構成するニッケルや亜鉛が酸化しやすく、内壁面には、それらの酸化物が付着しやすいこととなる。
また、特に銅や銅合金など融点の高い金属の連続鋳造に黒鉛製の連続鋳造ノズルを使用する場合には、高温と圧力で黒鉛がより変形しやすくなり、得られる鋳造製品の寸法精度の悪化が懸念される。
【0007】
そこで本発明では、前記課題を鑑み、表面の劣化が生じにくく、かつ変形も起こりにくい黒鉛製の連続鋳造ノズル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための本発明に係る連続鋳造ノズルは、以下のとおりである。
(1)鋳型となる内壁面と、外壁面とを有し、黒鉛基材が骨格を構成する連続鋳造ノズルであって、前記黒鉛基材は気孔を含み、前記気孔の内部にガラス状カーボンの粒子が充填された連続鋳造ノズル。
(2)鋳型となる内壁面と、外壁面とを有し、黒鉛基材が骨格を構成する連続鋳造ノズルであって、前記黒鉛基材は気孔を含み、コア領域と封止層とから構成され、前記封止層は、前記黒鉛基材の気孔の内部にガラス状カーボンの粒子が充填され、前記内壁面に形成された層である連続鋳造ノズル。
【0009】
上記連続鋳造ノズルはいずれも、黒鉛基材の少なくとも表面(内壁面)における気孔内部にガラス状カーボンの粒子が充填されることで、気孔が封止される。そのため、連続鋳造ノズルの外の酸素と溶融金属とが接触しにくく、金属酸化物を形成しにくくすることができる。また、異質な炭素質材料の含浸による気孔の内部コーティングとは異なり、気孔を粒子により封止することで、黒鉛基材を構成する黒鉛粒子とガラス状カーボンの粒子との物理的な接触が少なく、ガラス状カーボンの粒子と黒鉛粒子との間で内部応力や歪みを生じさせにくい構造となっている。このため高温で使用しても変形が生じにくい。
【0010】
本発明に係る連続鋳造ノズルのうち、上記(2)の場合には、以下の態様であることが好ましい。
【0011】
(3)前記封止層は、厚さが1~30mmである。
【0012】
封止層が内壁面のみならず、深さ1mm以上の範囲にわたって形成されると、溶融金属との接触により内壁面に摩耗が生じても、内部の気孔がガラス状カーボンの粒子により封止されていることで、より長い期間継続して酸素と溶融金属との接触を防止し、金属酸化物の生成を防止することができる。また、厚さが30mm以下であることで、連続鋳造ノズルの蓄える内部応力をより小さくすることができ、高温下に長時間曝された場合であっても、変形(クリープ変形)をより生じにくくすることができる。
【0013】
(4)前記コア領域の気孔率が12~25%である。
【0014】
コア領域の気孔率が12%以上であると、ガラス状カーボンの粒子を充填した際に、黒鉛基材を構成する黒鉛粒子とガラス状カーボンの粒子との間に十分な距離(空隙)が確保され、発生する内部応力を小さくできることから、クリープ変形をより生じにくくすることができる。また、気孔率が25%以下であると、コア領域を通って封止層との界面まで空気(酸素)が到達する速度を遅くすることができる。その結果、内壁面への酸素の供給を低減し、金属酸化物の形成をより抑制できるとともに、黒鉛基材そのものの酸化も防止することができる。
【0015】
(5)前記封止層の気孔率が前記コア領域の気孔率よりも低く、それらの差が1~5%である。
【0016】
封止層の気孔率は母材の影響を受けるため、コア領域の気孔率に対してその差を5%以下とすることにより、コア領域との物性差による歪みの発生をより防止することができる。また、その差を1%以上とすることにより、十分な量のガラス状カーボンの粒子を充填することができ、内壁面で金属酸化物の形成をより防止することができる。
【0017】
また、前記課題を解決するための本発明に係る連続鋳造ノズルの製造方法は、以下のとおりである。
【0018】
(6)気孔を含む黒鉛基材に難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液を含浸し乾燥、硬化する含浸工程と、前記黒鉛基材を焼成することにより前記難黒鉛化性の炭素前駆体を炭素化してガラス状カーボンの粒子とし、前記黒鉛基材に含まれる前記気孔の内部に前記ガラス状カーボンの粒子が充填された封止層を形成する炭素化工程と、前記封止層が形成された黒鉛基材を所定の形状に加工し、前記封止層が形成された鋳型となる内壁面と、外壁面とを形成する加工工程と、をこの順に含む連続鋳造ノズルの製造方法。
【0019】
黒鉛は炭素のみからなり、水素結合がないために極性がないことから、無極性溶媒との親和性が高く、疎水性である。そのため、水との接触角が大きく、水溶液は含浸されにくい。このような性質を有する黒鉛基材に難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液を含浸させると、当該水溶液は黒鉛と親和性が低いために浸み込みにくく小さな気孔よりも大きな気孔に選択的に含浸される。そのような状態で炭素化されることで、図8(c)のようにガラス状カーボン61が黒鉛粒子同士を接合するように形成されるのではなく、図7(c)のように大きな気孔内部で、黒鉛粒子に対して、付着ではなく僅かに接触するのみで、独立したガラス状カーボンの粒子60として形成される。このように、ガラス状カーボンの粒子は、黒鉛基材の気孔の内部に充填されるように形成されると考えられる。その結果、ガラス状カーボンの粒子が、大きな気孔を封止する作用が強く働き、効率良く外気の侵入を防止し、金属酸化物の形成を防止することができるようになると推測される。
【0020】
本発明に係る連続鋳造ノズルの製造方法は、以下の態様であることが好ましい。
【0021】
(7)前記含浸工程において、前記黒鉛基材を減圧状態で保持したのち前記難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液を加圧含浸させる。
【0022】
黒鉛基材と難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液とは親和性が低く含浸されにくい。そのため、減圧状態に保持した黒鉛基材の気孔に当該水溶液を加圧含浸することにより、大きな気孔から順に前記水溶液を容易に含浸することが可能となり、さらには、より内部の気孔にまで水溶液が含浸される。その結果、所望する十分な厚さの封止層を形成することができる。
【0023】
(8)前記難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液の、前記黒鉛基材に対する接触角が20~60°である。
【0024】
難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液の、黒鉛基材に対する接触角が20°以上であると、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液と黒鉛との親和性は十分に小さいと言える。そのため、含浸工程後、気孔の内部で難黒鉛化性の炭素前駆体が収縮し(例えば熱硬化性樹脂が熱硬化し)、炭素化工程において、黒鉛粒子と接合することなく独立して、粒子状のガラス状カーボンが形成されやすい。また、接触角を60°以下とすると、加圧含浸によって、黒鉛基材の気孔に、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液を容易に含浸させることができ、所望の厚さの封止層を形成することが容易となる。
【0025】
(9)前記難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液の粘度は1~100mPa・sである。
【0026】
難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液の粘度を1mPa・s以上とすることにより、水溶液中の難黒鉛化性の炭素前駆体(溶質)の濃度を高くすることができるので、より多くの難黒鉛化性の炭素前駆体を、効率良く黒鉛基材の気孔に含浸することができる。また、粘度を100mPa・s以下とすることにより、黒鉛基材の内部にある気孔にも難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液を含浸させることができ、所望する十分な厚さの封止層を形成することができる。
【0027】
(10)前記難黒鉛化性の炭素前駆体は、フェノール樹脂又はフラン樹脂である。
【0028】
難黒鉛化性の炭素前駆体がフェノール樹脂又はフラン樹脂であると、炭素化工程の前に樹脂を熱硬化させることで、黒鉛粒子と接合することなく独立して、粒子状の硬化した樹脂を形成することができる。これにより、次いで行う炭素化工程で、同様の粒子状のガラス状カーボンを形成しやすい。
【0029】
(11)前記ガラス状カーボンの粒子が充填される前の前記黒鉛基材は、気孔率が12~25%である。
【0030】
ガラス状カーボンの粒子が充填される前の黒鉛基材の気孔率とは、前記(2)におけるコア領域の気孔率と同じとなる。この気孔率が12%以上であると、ガラス状カーボンの粒子を充填した際に、黒鉛基材を構成する黒鉛粒子とガラス状カーボンの粒子との間に十分な距離(空隙)が確保され、発生する内部応力を小さくできることから、クリープ変形をより生じにくくすることができる。気孔率が25%以下であると、コア領域を通って封止層との界面まで空気(酸素)が到達する速度を遅くすることができる。その結果、内壁面への酸素の供給を低減し、金属酸化物の形成をより抑制できるとともに、黒鉛基材そのものの酸化も防止することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る連続鋳造ノズルによれば、ガラス状カーボンの粒子が充填されていることにより黒鉛基材の気孔が封止され、連続鋳造ノズルの外の酸素と溶融金属が接触しにくく、金属酸化物を形成しにくくすることができる。
さらに、内壁の表面だけでなく、一定の深さにわたってガラス状カーボンの粒子を充填することができる。その結果、溶融金属との接触により内壁面が摩耗しても、継続して酸素と溶融金属との接触を防止し、金属酸化物の生成を防止することができることから、表面の劣化が生じにくい。
また、黒鉛基材の気孔部分に独立してガラス状カーボンの粒子が存在しているため、黒鉛粒子とガラス状カーボンの粒子との物理的な接触が少なく、内部応力、歪みを生じさせにくい構造となっている。このため高温で使用しても、内部応力に伴う変形が起こりにくい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、本発明に係る連続鋳造ノズルの一実施形態を表す断面図である。
図2図2は、本発明に係る連続鋳造ノズルの一実施形態を表す断面図である。
図3図3は、本発明に係る連続鋳造ノズルの一実施形態を表す断面図である。
図4図4は、連続鋳造ノズルの一例を示す斜視図である。
図5図5は、図4に示す連続鋳造ノズルの上型又は下型の斜視図である。
図6図6(a)~図6(c)は、本発明に係る連続鋳造ノズルの製造方法の手順を示す模式図である。
図7図7(a)~図7(c)は、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液を用いた場合の、封止層の形成手順を示す模式図である。
図8図8(a)~図8(c)は、極性の低い難黒鉛化性の炭素前駆体の溶液を用いた場合の、封止層の形成手順を示す模式図である。
図9図9は、実施例1における炭素化工程後の偏光顕微鏡写真である。
図10図10は、実施例1に用いた難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液を含浸する前の黒鉛材料の偏光顕微鏡写真である。
図11図11は、比較例1における黒鉛化後の偏光顕微鏡写真である。
【0033】
(発明の詳細な説明)
(連続鋳造ノズル)
連続鋳造ノズルを鋳型として用い、金属のパイプ、条、線材などが製造される。具体的には、金属の溶湯を鋳型である連続鋳造ノズル内を通過させながら冷却し、所定の断面形状を有する素材を得ることができる。ここで使用する連続鋳造ノズルには、金属の融点を超える耐熱性、金属との低い反応性、及び金属との低い摩擦係数が要求される。金属との反応性を低くすることにより、金属材料と接合や固着などが起こりにくくなる。
【0034】
これに対し、黒鉛は耐熱温度が高く、鉄やステンレスをはじめとした様々な金属の連続鋳造ノズルとして使用される。また、反応性の低さから、特に銅、黄銅、洋白、リン青銅など銅合金の用途で広く使用される。
【0035】
本発明に係る連続鋳造ノズルは、例えば図4に示すように、目的の形状に合わせて中空となった細長い形状となっており、一端から、金属の溶湯を供給し、他端から金属のパイプ、条、線材など所定の断面形状を有する金属材料が引き出される。金属の溶湯は、一端から他端に向かって移動していく過程で、連続鋳造ノズルに熱を奪われながら凝固し、所定の断面形状が得られる。この連続鋳造ノズルは、図5に示すような、互いに同一形状の凹みを有する上型と下型とを組み合わせると、図4に示すような連続鋳造ノズルとなる。
【0036】
金属材料の形状が板、条(コイル状)などの形状では、細く深いスリット状の開口を必要とする。そのため、加工しやすくするために、中央を深く削った溝型やU字型の板を組み合わせて板、条等、所望する形状に合わせた連続鋳造ノズルを得る。
【0037】
パイプを得るための連続鋳造ノズルは、例えば、図2及び図3に示すように、外側の形状に対応する主型と、内側の形状に対応する中子を組み合わせて構成される。断面は、円形、矩形など、目的の形状に合わせて加工される。中子は、主型に対して位置が動かないよう固定されている。
【0038】
このような用途で使用される連続鋳造ノズルは、鋳型となる内壁面20と外壁面10とを有するが、主型、中子共に、当該内壁面20は、長時間溶湯と接していても表面の状態が変わらないことや、内部歪みに伴うクリープ変形が起こりにくいことが求められる。そこで本発明においては、黒鉛基材1の内壁面20に封止層30が形成されている。
【0039】
すなわち、本発明に係る連続鋳造ノズルは、鋳型となる内壁面と外壁面とを有し、黒鉛基材が骨格を構成しており、前記黒鉛基材は気孔を含み、(i)気孔の内部にガラス状カーボンの粒子が充填されている、又は(ii)前記黒鉛基材はコア領域と封止層とから構成され、前記封止層は、前記黒鉛基材の気孔の内部にガラス状カーボンの粒子が充填され、前記内壁面に形成された層である、ことを特徴とする。
【0040】
ガラス状カーボンの粒子は、黒鉛基材の気孔の内部に充填される。すなわちガラス状カーボンは、図8(c)のように黒鉛基材を構成する黒鉛粒子と黒鉛粒子とを結合するように形成されるのではなく、図7(c)のように、黒鉛粒子と黒鉛粒子との間の気孔(空隙)部分に、粒子として独立して存在する。すなわち、ガラス状カーボンの粒子は黒鉛粒子に付着するのではなく、わずかに接触するのみで独立して存在する。これにより、気孔が封止され連続鋳造ノズルの外の酸素と金属とが接触しにくく、内壁面において金属酸化物を形成しにくくすることができる。
【0041】
また、特許文献1に記載されたようなガラス状カーボンの含浸による内部にある気孔のコーティングとは異なり、ガラス状カーボンが粒子として気孔部分に、該気孔を封止するように充填されている。そのため、黒鉛粒子とガラス状カーボンの粒子との物理的な接触が少なく、ガラス状カーボンの粒子と黒鉛粒子との間で内部応力、歪みを生じさせにくい構造となっている。これにより、高温下で使用しても、充填されたガラス状カーボンの粒子に起因して発生する内部応力は小さく、クリープ変形を防ぐことができる。特に融点が高い銅や銅合金の連続鋳造に用いた場合であっても、上記クリープ変形を防ぐことができ、得られる鋳造製品の寸法精度も良好なものにすることができる。
さらに、内壁面のうち極めて浅い表層部分だけでなく、所望する一定の深さにわたって、内部までガラス状カーボンの粒子を充填できるため、金属との摩擦により内壁面の摩耗が生じても、封止の効果が継続し、酸素と金属との接触を防止し、金属酸化物の生成を防止することができる。
【0042】
ガラス状カーボンの粒子は、内壁面における黒鉛基材の気孔に充填されていればよく、黒鉛基材全体の気孔に充填されていてもよい。黒鉛基材全体の気孔にガラス状カーボンの粒子が充填されている場合を除き、黒鉛基材は、気孔にガラス状カーボンの粒子が充填されていないコア領域と、気孔にガラス状カーボンの粒子が充填されている封止層とから構成される。なお、コア領域は黒鉛基材の外壁となる側に位置し、封止層は内壁となる側の表面に形成される。
【0043】
封止層を有する場合には、封止層は、より長い期間継続して、酸素と金属との接触を防止し、金属酸化物の生成を防止することができることから、厚さが1mm以上であることが好ましく、3mm以上がより好ましい。また、厚さの上限は特に限定されないが、連続鋳造ノズルの蓄える内部応力をより小さくすることができ、高温下に長時間曝された場合であっても、クリープ変形をより生じにくくする点から30mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましい。さらに、連続鋳造ノズルの断面形状の寸法精度をさらに高くする点からは、10mm以下がさらに好ましい。
なお、封止層の厚さは、ガラス状カーボンの存在の有無と共に、偏光顕微鏡により求めることができる。ガラス状カーボンの存在は偏光顕微鏡で確認したときに方向性がないので試料を回転しても色が変わらないことから容易に確認することができる。
【0044】
封止層の気孔率は、母材の影響を受けることから一概に規定できないが、ガラス状カーボンの粒子が充填されるために、コア領域の気孔率よりも低い。十分な量のガラス状カーボンの粒子を充填することで、金属の外気との接触を防止し、内壁面で金属酸化物の形成をより防止する点から、コア領域の気孔率に対する差は1%以上であることが好ましく、1.5%以上であることがより好ましい。また、ガラス状カーボンの粒子と黒鉛基材を構成する黒鉛粒子との間に十分な距離を確保し、ガラス状カーボンの粒子と黒鉛の物性差による歪みの発生をより防止する点から、コア領域の気孔率に対する封止層の気孔率の差は5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましい。なお、封止層の気孔率とコア領域の気孔率との差は、黒鉛基材の気孔に充填されたガラス状カーボンの充填率と読みかえることができる。
なお、コア領域の気孔率は水銀圧入法により求めることができる。具体的には200MPaまで加圧して圧入された水銀の容積から算出することができる。また、封止層の気孔率は、黒鉛基材を封止層のみを残すように加工し、同様に水銀圧入法により求めることができる。
【0045】
コア領域の気孔率は、ガラス状カーボンの粒子を充填した際に、黒鉛基材を構成する黒鉛粒子とガラス状カーボンの粒子との間に十分な距離(空隙)が確保され、発生する内部応力を小さくし、クリープ変形を生じにくくする点から12%以上が好ましく、14%以上がより好ましい。また、コア領域を通って封止層との界面まで空気(酸素)が到達する速度をより遅くすることで、内壁面への酸素の供給を低減し、金属酸化物の形成をより抑制できるとともに、コア領域そのものの酸化を防止する点から、コア領域の気孔率は25%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。
【0046】
(連続鋳造ノズルの製造方法)
本発明に係る連続鋳造ノズルの製造方法は、図6(a)に示すような気孔を含む黒鉛基材1に、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液を含浸し乾燥、硬化する含浸工程と、前記黒鉛基材1を焼成することにより前記難黒鉛化性の炭素前駆体を炭素化してガラス状カーボンの粒子とし、前記黒鉛基材1に含まれる前記気孔の内部に前記ガラス状カーボンの粒子が充填された封止層30を形成する炭素化工程(図6(b)参照)と、前記封止層30が形成された黒鉛基材1を所定の形状に加工し、前記封止層30が形成された鋳型となる内壁面20と、外壁面10とを形成する加工工程(図6(c)参照)と、をこの順に含む。
【0047】
図7(a)示すように、黒鉛基材を構成する黒鉛粒子40と黒鉛粒子40との間には気孔が存在する。含浸工程では、図7(b)に示すように、当該気孔部分に、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液50を含浸させる。このとき、黒鉛基材を構成する黒鉛粒子40は、炭素のみからなり、水素結合がないことから極性がなく、無極性溶媒との親和性が高い。すなわち、極性を有する難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液50とは親和性が低い。このため、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液50の黒鉛粒子40に対する接触角は大きく(濡れ性は低く)なり、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液50は含浸されにくい。このような性質を有する黒鉛基材に難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液50を含浸させると、小さな気孔よりも大きな気孔に選択的に含浸される(図示せず)。
【0048】
ガラス状カーボンの粒子が充填される前の黒鉛基材の好ましい気孔率は、前記(連続鋳造ノズル)の項目における「コア領域の気孔率」と同様、12%以上が好ましく、14%以上がより好ましく、また、25%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。
【0049】
難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液と黒鉛基材との親和性が十分に小さいと、含浸工程後、気孔の内部で難黒鉛化性の炭素前駆体が収縮し(例えば熱硬化性樹脂が熱硬化し)、炭素化工程において、黒鉛粒子と接合することなく独立して、粒子状のガラス状カーボンが形成されやすい。親和性を表す指標として、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液の黒鉛基材に対する接触角は20°以上が好ましい。また、黒鉛基材の気孔内に対し、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液を含浸させやすくなることから、接触角は60°以下が好ましく、50°以下がより好ましい。これにより、十分な厚さの封止層を形成することが容易となる。
難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液の黒鉛基材に対する接触角は、水溶液を黒鉛基材上に滴下して側面から観察し、当該水溶液の液滴と黒鉛基材との角度を実測して求めることができる。
【0050】
同様に、黒鉛基材の気孔内への難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液の含浸させやすさの点、すなわち、十分な厚さの封止層を形成する点から、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液の粘度は100mPa・s以下が好ましく、50mPa・s以下がより好ましい。
また、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液における溶質(難黒鉛化性の炭素前駆体)の濃度を高くし、より多くのガラス状カーボンの粒子を効率よく形成させる点から、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液の粘度は1mPa・s以上が好ましく、5mPa・s以上がより好ましい。
【0051】
難黒鉛化性の炭素前駆体は炭素化によりガラス状カーボンとなる前駆体であり、水溶液として黒鉛基材の気孔内へ含浸させることから、水溶性の前駆体が好ましく、焼成の過程で軟化による変形を防止する点から水溶液の熱硬化性樹脂がより好ましく、水溶性フェノール樹脂または水溶性フラン樹脂がさらに好ましい。また、難黒鉛化性の炭素前駆体となる熱硬化性樹脂のモノマーを含む水溶液を黒鉛基材の気孔内へ含浸させ、重合、硬化した後に、次いで行われる炭素化に供することもできる。
【0052】
難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液における難黒鉛化性の炭素前駆体の濃度は、水溶液の粘度が前記好ましい範囲となるように調整することが好ましい。また、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液は、従来公知の方法により調製することができる。
【0053】
含浸工程は、黒鉛基材を減圧状態で保持したのち、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液を加圧含浸させることが好ましい。これにより、黒鉛基材の大きな気孔から順に、より内部の気孔まで、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液を含浸させることができる。具体的には、例えば、黒鉛基材を真空引きし、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液に浸漬する。そして、常圧に戻す等、加圧することにより当該黒鉛基材の表面から一定の深さまで、黒鉛基材の気孔に難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液を含浸することができる。
【0054】
含浸工程に次いで炭素化工程を行うが、その前に、必要に応じて黒鉛基材を乾燥する乾燥工程を行ってもよい。乾燥の温度や時間は特に限定されないが、黒鉛基材の気孔内に含浸された難黒鉛化性の炭素前駆体が流出しないように乾燥させる。これは、気孔内部の水蒸気圧が雰囲気より大きくなると、水蒸気圧で難黒鉛化性の炭素前駆体が噴出するおそれがあるためである。
乾燥条件は、難黒鉛化性の炭素前駆体の種類によっても異なるが、水溶性の熱硬化性樹脂を用いる場合には、例えば、40℃程度から徐々に温度を上昇させ、熱硬化性樹脂が硬化しない程度の温度、例えば120℃程度で終了させてもよい。
【0055】
難黒鉛化性の炭素前駆体が水溶性の熱硬化性樹脂である場合には、樹脂を熱硬化させる硬化工程をさらに行ってもよい。熱硬化の過程で、水溶性の熱硬化性樹脂は黒鉛との親和性が低いことに起因して、黒鉛基材を構成する黒鉛粒子同士を接合するように硬化するのではなく、黒鉛基材の気孔部分の中心で、独立して粒子状に収縮していく。これにより、次ぐ炭素化工程を経ると、黒鉛基材の気孔の内部にガラス状カーボンの粒子が充填されることとなる。
硬化条件は、熱硬化性樹脂の種類によっても異なるが、例えば、(水溶性)フェノール樹脂を用いる場合には、150~200℃で硬化させることが好ましい。
【0056】
次いで焼成を行う炭素化工程により、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液の難黒鉛化性の炭素前駆体が気孔の内部で炭素化し、ガラス状カーボンの粒子が形成され、図6(b)に示すように、封止層30が形成される。
図8(c)に示すように、極性の低い難黒鉛化性の炭素前駆体の溶液51を用いた場合には、黒鉛粒子40同士を接合するようにガラス状カーボン61が形成される。これに対し、極性を有し、黒鉛との親和性が低い難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液50を用いると、図7(c)に示すように、ガラス状カーボンは黒鉛粒子40同士を接合するように付着するのではなく、一部が黒鉛粒子40に接触するのみで(図示せず)、ガラス状カーボンの粒子60として独立して形成される。これは、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液50の、黒鉛粒子40に対する濡れ性の低さに起因するものと考えられる。このようにして、難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液50が含浸された領域では、ガラス状カーボンの粒子60が黒鉛基材の気孔の内部に充填され、封止層30が形成される。
【0057】
炭素化工程における焼成温度は、鋳造に用いる金属の融点よりも高い温度とすることが好ましく、例えば700~1500℃である。また窒素雰囲気下で焼成することが好ましい。
【0058】
次いで、図6(c)に示すように、前記封止層30が形成された黒鉛基材1を、所定の形状に加工し、前記封止層30が形成された鋳型となる内壁面20と、外壁面10とを形成する加工工程を経ることにより、連続鋳造ノズルを得ることができる。黒鉛基材の加工は、従来公知の方法を用いることができる。
【0059】
ガラス状カーボンの粒子は、上記のように大きな気孔を封止する作用が強いので、効率良く外気の侵入を防止し、金属酸化物の形成を防止することができる。またガラス状カーボンの粒子が充填された封止層は、内壁の表面だけでなく一定の深さの内部まで形成されているので、金属との摩擦によって内壁面が消耗しても、空気の侵入を防止する効果は大きく変動せず、安定して連続鋳造ノズルを使用することができる。
すなわち、ガラス状カーボンの粒子が充填された封止層に厚さがあるので、封止層を形成した後に加工しても、空気の侵入を防止する効果を維持することができる。その結果、内壁面が平滑で寸法精度の高い連続鋳造用ノズルを得ることができる。
【0060】
(発明を実施するための形態)
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示すような断面形状を有する、平板状の条材を引き抜くための連続鋳造ノズルを下記手順により製造する。すなわち、図5に示すような、互いに同一形状の上型と下型とからなり、上型と下型を組み合わせると、図4に示すような、溶湯側(一端)から引き抜く側(他端)に向かって、厚さの薄い長方形の空洞が形成された連続鋳造ノズルとなる。空洞は、上型と下型の分割面にあり、上型と下型とを開くと互いに同一形状の凹みが、一端から他端に向かって形成されている。
【0061】
<含浸工程>
図6(a)に示すように、気孔を含む黒鉛材料(イビデン株式会社製、ET-10、かさ密度1.77g/cm)を連続鋳造ノズルの上型および下型のサイズより、内壁面となる部位で1mmずつ余肉をとるように材料取りをして、気孔を含む黒鉛基材1を得た。この黒鉛基材の気孔率は19.0%であった。なお気孔率はThermo Fisher Scientific社製水銀圧入式気孔分布測定器pascal 240を用いて200MPaまで加圧して測定した。
得られた黒鉛基材1の内壁面となる部位以外をマスキングしたのち、黒鉛基材1を真空引きにより減圧状態に保ち、難黒鉛化性の炭素前駆体である水溶性フェノール樹脂の水溶液に浸漬した。その後、大気圧まで加圧(復圧)することで黒鉛基材1の気孔に水溶性フェノール樹脂の水溶液を含浸させた。当該水溶液と黒鉛基材1との接触角は30°であり、水溶液の粘度は10mPa・sであった。
【0062】
<乾燥工程、硬化工程>
次いで黒鉛基材1を乾燥した。乾燥の温度は、水蒸気圧でフェノール樹脂が噴出しないように、40℃程度から徐々に温度を上昇させ120℃程度で終了させた。続いて、さらに熱を加えてフェノール樹脂を熱硬化させた。熱硬化は200℃で3時間保持することで行った。
【0063】
<炭素化工程>
次に、図6(b)に示すように、硬化したフェノール樹脂が気孔内に充填された黒鉛基材1を焼成し、炭素化を行った。焼成は窒素雰囲気下、900℃で2時間行うことで、黒鉛基材の気孔の内部にガラス状カーボンの粒子が充填された封止層30を形成した。封止層30の厚みは20mmであり、その気孔率は17.3%、かさ密度は1.79g/cmであった。なお、気孔率は前記と同様の条件により水銀圧入法で測定した。
炭素化工程後の黒鉛基材1の封止層部分の断面の偏光顕微鏡写真を図9、炭素前駆体を含浸する前の黒鉛基材1の偏光顕微鏡写真を図10にそれぞれ示す。炭素前駆体を含浸する前の黒鉛基材と比較し、封止層部分では気孔の内部にガラス状カーボンの粒子60が充填されていることを確認することができる。また、図9では所々大きな気孔が存在する。これは気孔の内部に存在したと考えられるガラス状カーボンの粒子が、偏光顕微鏡観察をする過程で脱落してしまったためと考えられる。
【0064】
<加工工程>
ガラス状カーボンの粒子が充填された封止層30が形成された黒鉛基材1を、図6(c)に示すように、所望する連続鋳造ノズルとなるように形状加工し、前記封止層30が形成された鋳型となる内壁面20と外壁面10とを形成することで、連続鋳造ノズルが製造される(図6(c)参照)。
【0065】
(比較例1)
実施例1と同様に、気孔を含む黒鉛材料(イビデン株式会社製、ET-10、かさ密度1.77g/cm)を用い、難黒鉛化性の炭素前駆体に代えて易黒鉛化性のピッチを含浸し、焼成、黒鉛化して、黒鉛基材を得た。なお、ピッチは有機物であり親和性が高いことから、黒鉛材料に速やかに浸透する。得られた黒鉛基材は気孔率が16.0%、かさ密度が1.85g/cmであった。比較例1の黒鉛基材の断面の偏光顕微鏡写真を図11に示す。実施例1と比較し、気孔の量は少なくなっていることが確認されるが、当該気孔の内部に粒子状の充填物は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る連続鋳造ノズルによれば、鋳型となる内壁面において、金属酸化物が形成されにくい。また、溶融金属との摩擦により内壁面が摩耗しても、継続して当該酸化物の形成を防止することができる。さらに、高温で使用しても内部応力に伴う変形が起こりにくいことから、長期間、寸法精度の高い鋳型として用いることができる。
【符号の説明】
【0067】
1 黒鉛基材
10 外壁面
20 内壁面
30 封止層
40 黒鉛粒子
50 難黒鉛化性の炭素前駆体の水溶液
51 極性の低い難黒鉛化性の炭素前駆体の溶液
60 ガラス状カーボンの粒子
61 ガラス状カーボン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11