(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181341
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20231214BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 F
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023184730
(22)【出願日】2023-10-27
(62)【分割の表示】P 2020549280の分割
【原出願日】2019-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2018180192
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 弘通
(57)【要約】
【課題】厚さ方向の熱伝導性を十分に向上させることが可能な熱伝導性シートを提供する。
【解決手段】高分子マトリクス14中に異方性充填材12を含有した熱伝導性シートであって、少なくとも一方の面は、異方性充填材12が表出しつつ、山頂点の算術平均曲(Spc)が18000(1/mm)以下である熱伝導性シートである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器の発熱体と放熱体の間に配置して使用される熱伝導性シートであって、
高分子マトリクス中に異方性充填材を含有した熱伝導性シートであり、
少なくとも一方の面は、前記異方性充填材が表出しつつ、山頂点の算術平均曲(Spc)が18000(1/mm)以下である熱伝導性シート。
【請求項2】
前記異方性充填材が、熱伝導性シートの厚み方向に配向している請求項1記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記少なくとも一方の面は、算術平均高さ(Sa)が20μm以下である請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
前記熱伝導性シートの表面は、界面の展開面積比(Sdr)が70以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
前記異方性熱伝導性充填材が、繊維状充填材、及び鱗片状充填材の少なくともいずれかである請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
厚さが0.1~5.0mmである請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
厚さが0.1~0.3mmである請求項6に記載の熱伝導性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シートに関し、例えば、発熱体と放熱体の間に配置して使用される熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ、自動車部品、携帯電話等の電子機器では、半導体素子や機械部品等の発熱体から生じる熱を放熱するためにヒートシンクなどの放熱体が一般的に用いられる。放熱体への熱の伝熱効率を高める目的で、発熱体と放熱体の間には、熱伝導性シートが配置されることが知られている。
熱伝導性シートは、電子機器内部に配置させるとき圧縮して用いられることが一般的であり、高い柔軟性が求められる。したがって、ゴムやゲルなどの柔軟性の高い高分子マトリクスに、熱伝導性を有する充填材が配合されて構成される。また、熱伝導性シートは、厚さ方向の熱伝導性を高めるために、炭素繊維などの異方性を有する充填材を厚さ方向に配向させることが広く知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-056315号公報
【特許文献2】特開2018-014534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電気機器の高機能化に伴って、熱伝導性シートも高特性化するニーズが高まり、厚さ方向の熱伝導率を更に高くすることが望まれている。しかしながら、特許文献1、2に開示されるように、充填材を厚さ方向に配向させただけでは熱伝導率を高くするには限界があり、更なる改良が望まれている。
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、厚さ方向の熱伝導性を十分に向上させることが可能な熱伝導性シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、まず、炭素繊維のような異方性充填材を含有した熱伝導性シートにおいて、当該異方性充填剤の一部を表出させることで、シート表面と放熱体などの接触相手面との接触面積を大きくすることを試みた。しかし、当該熱伝導性シートを作製する際に、刃物によりシート状にスライスするが、単にスライスしてシート化しただけでは、スライスによる粗面化のほか、スライス面に炭素繊維等の切断面が表出して、シート表面が粗くなることがあった。シート表面が粗くなると、接触相手面への密着性が低下し熱抵抗値が大きくなってしまうことが懸念される。
【0006】
そこで本発明者らは、スライス面を研磨して、シート表面から異方性充填材が表出しつつ、山頂点の算術平均曲(Spc)を所定値以下にまで平滑化する、具体的には発熱体等の接触相手面との接触点が丸みを帯びて平滑化することによって、接触相手面への密着性が高まり、熱抵抗値を低減させ、厚さ方向の熱伝導性を十分に向上させることが可能な熱伝導性シートを得ることに成功した。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0007】
[1] 高分子マトリクス中に異方性充填材を含有した熱伝導性シートであって、少なくとも一方の面は、前記異方性充填材が表出しつつ、山頂点の算術平均曲(Spc)が18000(1/mm)以下である熱伝導性シート。
[2] 前記異方性充填材が、熱伝導性シートの厚み方向に配向している[1]記載の熱伝導性シート。
[3] 前記少なくとも一方の面は、算術平均高さ(Sa)が20μm以下である[1]又は[2]に記載の熱伝導性シート。
[4] 前記熱伝導性シートの表面(少なくとも一方の面)は、界面の展開面積比(Sdr)が70以下である[1]~[3]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[5] 前記異方性熱伝導性充填材が、繊維状充填材、及び鱗片状充填材の少なくともいずれかである[1]~[4]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[6] 厚さが0.1~5.0mmである[1]~[5]のいずれかに1記載の熱伝導性シート。
[7] 厚さが0.1~0.3mmである[6]に記載の熱伝導性シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、厚さ方向の熱伝導性を十分に向上させることが可能な熱伝導性シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態の熱伝導性シートを示す模式的な断面図である。
【
図2】第2の実施形態の熱伝導性シートを示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る熱伝導性シートについて詳しく説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る熱伝導性シートである。
図1においては、代表的に異方性充填材が繊維材料である場合の例を示す。
【0011】
本実施形態に係る熱伝導性シート10は、高分子マトリクス14中に異方性充填材12を含有してなり、表面10A、10Bは、異方性充填材12が表出しつつ、山頂点の算術平均曲(Spc)が18000(1/mm)以下となっている。
【0012】
上記構成によれば、熱伝導性シート表面10Aから異方性充填材12が露出してシート表面10Aが凹凸した状態であっても、山頂点の算術平均曲(Spc)が18000(1/mm)以下であるため、シート表面10Aが平滑性を有し、発熱体等と密着する接触面積が広くなり、熱抵抗値を低減できる。山頂点の算術平均曲(Spc)は、17000(1/mm)以下であることが好ましく、16000(1/mm)以下であることがより好ましい。また、山頂点の算術平均曲(Spc)は、1000(1/mm)以上であることが好ましく、5000(1/mm)以上であることがより好ましい。
【0013】
山頂点の算術平均曲(Spc)は、ISO25178に準拠して測定される、定義領域中における山頂点の主曲率の算術平均を表すパラメータである。この値が小さいことは、発熱体等と接触する点が丸みを帯びていることを示す。一方、この値が大きいことは、発熱体等と接触する点が尖っていることを示す。
なお、丸みを帯びた接触点の位置は定かではないですが、例えば、表面に露出した異方性充填材の端部若しくは端面、あるいは、異方性充填材の端部と高分子マトリクスの表面とからなる面が、丸みを帯びた接触点になる得る。
また、山頂点の算術平均曲(Spc)は、所定の測定面積(例えば1mm2の二次元領域)の表面プロファイルを市販のレーザー顕微鏡で測定することにより算出することができる。
【0014】
山頂点の算術平均曲(Spc)が18000(1/mm)以下とするには、例えば、粒度#120~20000の研磨紙を用い、粒度に応じた研磨回数を適宜設定して、表面の研磨処理を行えばよい。また、必要に応じて熱伝導性シート10とする前の配向成形体のE硬度を10~80程度としこれをシート状にスライスし、上記の研磨処理を行ってもよい。
【0015】
熱伝導性シート10は、
図1に示すように、少なくとも内部において異方性充填材12が熱伝導性シート10の厚み方向に配向していることが好ましい。上記構成によれば、熱伝導性シート10の厚み方向に高い熱伝導性を示しながら、シート表面が平滑であり熱抵抗値の低い熱伝導性シートとなる。異方性充填材12を配向させるには、後述の磁場配向や流動配向といった処理を施せばよい。
【0016】
ここで、異方性充填材12が熱伝導性シート10の厚み方向に配向している状態とは、個数割合で60%を超える異方性充填材12の長軸方向が、熱伝導性シート10の厚み方向から20°以内の範囲に向いている状態をいう。こうした配向の状態は熱伝導性シート10の厚み方向に沿った断面を電子顕微鏡によって観察することで確認することができる。
【0017】
熱伝導性シート10の表面10Aの算術平均高さ(Sa)が20μm以下であることが好ましく、1~15μmであることがより好ましい。算術平均高さ(Sa)が20μm以下であることで、シート表面が平滑性を有し、発熱体等と密着する接触面積が広くなり、熱抵抗値を低減できる。算術平均高さ(Sa)は、市販の表面性状測定機を利用して測定することが可能で、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
【0018】
算術平均高さ(Sa)を20μm以下とするには、例えば、粒度#120~20000の研磨紙のうち比較的粒度の粗いものを用い、粒度に応じた研磨回数を適宜設定して、表面の研磨処理を行えばよい。
【0019】
また、熱伝導性シート10の表面10Aは、界面の展開面積比(Sdr)は70以下であることが好ましく、1~60であることがより好ましい。熱伝導性シート10の表面10Aから熱伝導性充填材が露出してシート表面が凸凹した状態であっても、界面の展開面積比(Sdr)が70以下であることで、シート表面に平滑性を有し、発熱体等と密着する接触面積が広くなり、熱抵抗値を低減できる。
【0020】
なお、界面の展開面積比(Sdr)は、定義領域の展開面積(表面積)が、定義領域の面積(例えば1mm2)に対してどれだけ増大しているかを示す指標であって、完全に平坦な面は展開面積比Sdrが0となる。界面の展開面積比(Sdr)は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0021】
また、界面の展開面積比(Sdr)を70以下とするには、例えば、粒度#120~20000の研磨紙のうち比較的粒度の粗いものを用い、粒度に応じた研磨回数を適宜設定して、表面の研磨処理を行えばよい。
【0022】
本実施形態において、熱伝導性シート10は、さらに非異方性充填材16を含有している。熱伝導性シート10は、非異方性充填材16を含有することで熱伝導性がさらに良好になる。非異方性充填材16の詳細については後述する。
【0023】
以下、本実施形態に係る熱伝導性シートの構成についてより詳細に説明する。
<高分子マトリクス>
熱伝導性シート10において使用される高分子マトリクス14は、エラストマーやゴム等の高分子化合物であり、好ましくは主剤と硬化剤のような混合系からなる液状の高分子組成物(硬化性高分子組成物)を硬化して形成したものを使用するとよい。硬化性高分子組成物は、例えば、未架橋ゴムと架橋剤からなるものであってもよいし、モノマー、プレポリマーなどと硬化剤などを含むものであってもよい。また、上記硬化反応は常温硬化であっても、熱硬化であっても良い。
【0024】
硬化性高分子組成物から形成される高分子マトリクス14は、シリコーンゴムが例示される。シリコーンゴムの場合、高分子マトリクス(硬化性高分子組成物)14としては、好ましくは、付加反応硬化型シリコーンを使用する。また、より具体的には、硬化性高分子組成物として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサンとを含むものを使用すればよい。
【0025】
ゴムとしては、上記以外にも各種の合成ゴムを使用可能であり、具体例には、例えば、アクリルゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム等が挙げられる。これらゴムを使用する場合、合成ゴムは、熱伝導性シートにおいて、架橋されてもよいし、未架橋(すなわち、未硬化)のままでもよい。未架橋のゴムは、主に流動配向にて使用される。
また、架橋(すなわち、硬化)される場合には、上記で説明したとおり、高分子マトリクスは、これら合成ゴムからなる未架橋ゴムと、架橋剤とからなる硬化性高分子組成物を硬化したものとすればよい。
また、エラストマーとしては、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなど熱可塑性エラストマーや、主剤と硬化剤からなる混合系の液状の高分子組成物を硬化して形成する熱硬化型エラストマーも使用可能である。例えば、水酸基を有する高分子とイソシアネートとを含む高分子組成物を硬化して形成するポリウレタン系エラストマーを例示できる。
上記した中では、例えば硬化後の高分子マトリクスが特に柔軟であり、熱伝導性充填材の充填性が良い点から、シリコーンゴム、特に付加反応硬化型シリコーンを用いることが好ましい。
【0026】
また、高分子マトリクスを形成するための高分子組成物は、高分子化合物単体からなるものでもよいが、高分子化合物と可塑剤とからなるものでもよい。可塑剤は、合成ゴムを使用する場合に好適に使用され、可塑剤を含むことで、未架橋時の高分子マトリクスの柔軟性を高めることが可能である。
高分子マトリクスの含有量は、体積基準の充填率(体積充填率)で表すと、熱伝導性シート全量に対して、好ましくは20~50体積%、より好ましくは25~45体積%である。
【0027】
(添加剤)
熱伝導性シート10において、高分子マトリクス14には、さらに熱伝導性シート10としての機能を損なわない範囲で種々の添加剤を配合させてもよい。添加剤としては、例えば、分散剤、カップリング剤、粘着剤、難燃剤、酸化防止剤、着色剤、沈降防止剤などから選択される少なくとも1種以上が挙げられる。また、上記したように硬化性高分子組成物を架橋、硬化などさせる場合には、添加剤として、架橋、硬化を促進させる架橋促進剤、硬化促進剤などが配合されてもよい。
【0028】
<異方性充填材>
高分子マトリクス14に配合される異方性充填材12は、形状に異方性を有する充填材であり、配向が可能な充填材である。異方性充填材12は、熱伝導充填材であることが好ましい。異方性充填材12としては、繊維状充填材(例えば、炭素繊維等の繊維材料)、鱗片状充填材(グラファイト、グラフェン、窒化ホウ素等の鱗片状材料)などが好ましい。
熱伝導性シート10表面にこれら異方性充填材が露出してシート表面が小さく凹凸した状態であっても、シート表面としては良好な平滑性を有し、発熱体等と密着する接触面積が広くなり、熱抵抗値をより低減できる。
【0029】
異方性充填材12は、アスペクト比が高いものであり、具体的にはアスペクト比が2を越えるものであり、アスペクト比は5以上であることが好ましい。アスペクト比を2より大きくすることで、異方性充填材12を厚さ方向に配向させやすくなり、熱伝導性シート10の熱伝導性を高めやすい。
また、アスペクト比の上限は、特に限定されないが、実用的には100である。
なお、アスペクト比とは、異方性充填材の短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比であり、繊維材料においては、繊維長/繊維の直径を意味し、鱗片状材料においては鱗片状材料の長軸方向の長さ/厚さを意味する。
異方性充填材は、熱伝導性を高くする観点、繊維材料であることが好ましい。
【0030】
熱伝導性シートにおける異方性充填材12の含有量は、高分子マトリクス100質量部に対して30~500質量部であることが好ましく、50~300質量部であることがより好ましい。また、異方性充填材12の含有量は、体積基準の充填率(体積充填率)で表すと、熱伝導性シート全量に対して、好ましくは5~60体積%、より好ましくは8~45体積%である。
異方性充填材12の含有量を30質量部以上とすることで、熱伝導性を高めやすくなり、300質量部以下とすることで、後述する混合組成物の粘度が適切になりやすく、異方性充填材12の配向性が良好となる。
【0031】
異方性充填材12は、繊維材料である場合、その平均繊維長が、好ましくは50~500μm、より好ましくは70~350μmである。平均繊維長を50μm以上とすると、熱伝導性シート10内部において、異方性充填材12同士が適切に接触して、熱の伝達経路が確保される。
一方、平均繊維長を500μm以下とすると、異方性充填材12の嵩が低くなり、高分子マトリクス中に高充填できるようになる。
【0032】
また、繊維材料の平均繊維長は、熱伝導性シート10の厚さよりも短いことが好ましい。厚さよりも短いことで、繊維材料が熱伝導性シート10の表面から必要以上に突出したりすることを防止する。
また、異方性充填材12が鱗片状材料である場合、その平均粒径は、10~400μmが好ましく、15~200μmがより好ましい。また、15~130μmが特に好ましい。平均粒径を10μm以上とすることで、熱伝導性シートにおいて異方性充填材12同士が接触しやすくなり、熱の伝達経路が確保される。一方、平均粒径を400μm以下とすると、熱伝導性シート10の嵩が低くなり、高分子マトリクス14中に異方性充填材12を高充填することが可能になる。
なお、炭素繊維の平均繊維長や鱗片状材料の平均粒径は、異方性充填材を顕微鏡で観察して例えば繊維長や長径から算出することができる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の異方性充填材50個の繊維長や長径を測定して、その平均値(相加平均値)を平均繊維長や平均粒径とすることができる。
【0033】
異方性充填材12は、熱伝導性を有する公知の材料を使用すればよいが、後述するように磁場配向できるように、反磁性を備えることが好ましい。
異方性充填材12の具体例としては、炭素繊維、又は鱗片状炭素粉末で代表される炭素系材料、金属繊維で代表される金属材料や金属酸化物、窒化ホウ素や金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物等が挙げられる。これらの中では、炭素系材料は、比重が小さく、高分子マトリクス14中への分散性が良好なため好ましく、中でも熱伝導率の高い黒鉛化炭素材料がより好ましい。黒鉛化炭素材料は、グラファイト面が所定方向に揃うことで反磁性を備える。また、窒化ホウ素なども、結晶面が所定方向に揃うことで反磁性を備える。
【0034】
また、異方性充填材12は、特に限定されないが、異方性を有する方向(すなわち、長軸方向)に沿う熱伝導率が、一般的に60W/m・K以上であり、好ましくは400W/m・K以上である。異方性充填材12の熱伝導率は、その上限が特に限定されないが、例えば2000W/m・K以下である。熱伝導率は、レーザーフラッシュ法や、ASTM D5470に準拠した方法で測定することができる。
【0035】
異方性充填材12は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、異方性充填材12として、少なくとも2つの互いに異なる平均粒径または平均繊維長を有する異方性充填材12を使用してもよい。大きさの異なる異方性充填材12を使用すると、相対的に大きな異方性充填材12の間に小さな異方性充填材12が入り込むことにより、異方性充填材12を高分子マトリクス中に高密度に充填できるとともに、熱の伝導効率を高められると考えられる。
【0036】
異方性充填材12として用いる炭素繊維は、黒鉛化炭素繊維が好ましい。また、鱗片状炭素粉末としては、鱗片状黒鉛粉末が好ましい。異方性充填材は、これらの中でも、黒鉛化炭素繊維がより好ましい。
黒鉛化炭素繊維は、グラファイトの結晶面が繊維軸方向に連なっており、その繊維軸方向に高い熱伝導率を備える。そのため、その繊維軸方向を所定の方向に揃えることで、特定方向の熱伝導率を高めることができる。また、鱗片状黒鉛粉末は、グラファイトの結晶面が鱗片面の面内方向に連なっており、その面内方向に高い熱伝導率を備える。そのため、その鱗片面を所定の方向に揃えることで、特定方向の熱伝導率を高めることができる。黒鉛化炭素繊維および鱗片黒鉛粉末は、高い黒鉛化度をもつものが好ましい。
【0037】
上記した黒鉛化炭素繊維、鱗片状黒鉛粉末などの黒鉛化炭素材料としては、以下の原料を黒鉛化したものを用いることができる。例えば、ナフタレン等の縮合多環炭化水素化合物、PAN(ポリアクリロニトリル)、ピッチ等の縮合複素環化合物等が挙げられるが、特に黒鉛化度の高い黒鉛化メソフェーズピッチやポリイミド、ポリベンザゾールを用いることが好ましい。例えばメソフェーズピッチを用いることにより、後述する紡糸工程において、ピッチがその異方性により繊維軸方向に配向され、その繊維軸方向へ優れた熱伝導性を有する黒鉛化炭素繊維を得ることができる。
【0038】
黒鉛化炭素繊維は、原料に対して紡糸、不融化及び炭化の各処理を順次行い、所定の粒径に粉砕又は切断した後に黒鉛化したものや、炭化後に粉砕又は切断した後に黒鉛化したものを用いることができる。黒鉛化前に粉砕又は切断する場合には、粉砕で新たに表面に露出した表面において黒鉛化処理時に縮重合反応、環化反応が進みやすくなるため、黒鉛化度を高めて、より一層熱伝導性を向上させた黒鉛化炭素繊維を得ることができる。一方、紡糸した炭素繊維を黒鉛化した後に粉砕する場合は、黒鉛化後の炭素繊維が剛いため粉砕し易く、短時間の粉砕で比較的繊維長分布の狭い炭素繊維粉末を得ることができる。
【0039】
<非異方性充填材>
非異方性充填材16は、異方性充填材12とは別に熱伝導性シート10に含有される熱伝導性充填材であり、異方性充填材12とともに熱伝導性シート10に熱伝導性を付与する材料である。本実施形態では、非異方性充填材16を充填することで、シートへ硬化する前段階において、粘度上昇が抑えられ、分散性が良好となる。また、異方性充填材12同士では、例えば繊維長が大きくなると充填材同士の接触面積を高くしにくいが、その間を非異方性充填材16で埋めることで、伝熱パスを形成でき、熱伝導率の高い熱伝導性シート10が得られる。
非異方性充填材16は、形状に異方性を実質的に有しない充填材であり、後述する磁力線発生下又は剪断力作用下など、異方性充填材12が所定の方向に配向する環境下においても、その所定の方向に配向しない充填材である。
【0040】
非異方性充填材16は、そのアスペクト比が2以下であり、1.5以下であることが好ましい。本実施形態では、このようにアスペクト比が低い非異方性充填材が含有されることで、異方性充填材12の隙間に熱伝導性を有する充填材が適切に介在され、熱伝導率の高い熱伝導性シート10が得られる。また、アスペクト比を2以下とすることで、後述する混合組成物の粘度が上昇するのを防止して、高充填にすることが可能になる。
【0041】
非異方性充填材16の具体例は、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、炭素材料、金属以外の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。また、非異方性充填材の形状は、球状、不定形の粉末などが挙げられる。
非異方性充填材16において、金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛など、金属窒化物としては窒化アルミニウムなどを例示することができる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに、炭素材料としては球状黒鉛などが挙げられる。金属以外の酸化物、窒化物、炭化物としては、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素などが挙げられる。
非異方性充填材16は、上記した中でも、アルミナ、アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、及び窒化アルミニウムから選択されることが好ましく、特に充填性や熱伝導率の観点からアルミニウム、アルミナが好ましく、アルミナがより好ましい。
非異方性充填材16は、上記したものを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
非異方性充填材16の平均粒径は0.1~50μmであることが好ましく、0.5~35μmであることがより好ましい。また、1~15μmであることが特に好ましい。平均粒径を50μm以下とすることで、異方性充填材12の配向を乱すなどの不具合が生じにくくなる。また、平均粒径を0.1μm以上とすることで、非異方性充填材16の比表面積が必要以上に大きくならず、多量に配合しても混合組成物の粘度は上昇しにくく、非異方性充填材16を高充填しやすくなる。
非異方性充填材16は、例えば、非異方性充填材として、少なくとも2つの互いに異なる平均粒径を有する非異方性充填材16を使用してもよい。
なお、非異方性充填材16の平均粒径は、電子顕微鏡等で観察して測定できる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の非異方性充填材50個の粒径を測定して、その平均値(相加平均値)を平均粒径とすることができる。あるいは平均粒径は、レーザー回折散乱法(JIS R1629)により測定した粒度分布の体積平均粒径である。
【0043】
非異方性充填材16の含有量は、高分子マトリクス100質量部に対して、200~800質量部の範囲であることが好ましく、300~700質量部の範囲であることがより好ましい。
非異方性充填材16の含有量は、体積基準の充填率(体積充填率)で表すと、熱伝導性シート全量に対して、30~60体積%が好ましく、40~55体積%がより好ましい。
非異方性充填材は、200質量部以上とすることで、異方性充填材12同士の隙間に介在する非異方性充填材16の量が十分となり、熱伝導性が良好になる。一方、800質量部以下とすることで、含有量に応じた熱伝導性を高める効果を得ることができ、また、非異方性充填材16により異方性充填材12による熱伝導を阻害したりすることもない。さらに、300~700質量部の範囲内にすることで、熱伝導性シート10の熱伝導性に優れ、混合組成物の粘度も好適となる。
【0044】
異方性充填材の体積充填率に対する、非異方性充填材16の体積充填率の比は、2~5であることが好ましく、2~3であることがより好ましい。体積充填率の割合の範囲を上記範囲内とすることで、非異方性充填材16が、異方性充填材の間に適度に充填され、効率的な伝熱パスを形成することができるため、熱伝導性シート10の熱伝導性を向上させることができる。
【0045】
<熱伝導性シート>
熱伝導性シート10のシートの厚み方向の熱抵抗値は、好ましくは1℃/W未満、より好ましくは0.5℃/W以下、更に好ましくは0.2℃/W以下である。このように、熱抵抗値を一定値以下とすることにより、熱伝導性シート10は、発熱体から放熱体へ熱を伝達させやすくなる。熱抵抗値は小さければ小さいほどよいが、通常は0.01℃/W以上である。熱抵抗値は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0046】
熱伝導性シート10の厚さ方向の熱伝導率は、例えば5W/m・K以上であり、10W/m・K以上とすることが好ましく、15W/m・K以上がより好ましく、18W/m・K以上がさらに好ましい。これら下限値以上とすることで、熱伝導性シート10の厚さ方向における熱伝導性を優れたものにできる。上限は特にないが、熱伝導性シート10の厚さ方向の熱伝導率は、例えば50W/m・K以下である。なお、熱伝導率はASTM D5470-06に準拠した方法で測定するものとする。
【0047】
熱伝導性シート10は、上記のように表面において、異方性充填材12が露出することで表面が非粘着面となる。
非粘着面である表面は、作業者の手に触れたりしても粘着しにくく、また、後述する発熱体や放熱体などの接触対象物などに加圧により付着しても剥がれやすい。また、熱伝導性シート10は、表面が非粘着であることで、電子機器などに組み付けるときに摺動などさせることが可能になる。
【0048】
熱伝導性シート10の厚さは、0.1~5.0mの範囲で使用されることが考えられるが、その厚み範囲に限定される必要はない。熱伝導性シート10が搭載される電子機器の形状や用途に応じて、適宜変更されるが、より好ましい厚さは0.1~0.3mmである。厚さが0.1~0.3mmであることで、熱伝導性シートが薄膜となり、熱伝導のしやすい熱伝導性シートとなる。
【0049】
熱伝導性シート10は、電子機器内部などにおいて使用される。具体的には、熱伝導性シートは、発熱体と放熱体との間に介在させられ、発熱体で発した熱を熱伝導して放熱体に移動させ、放熱体から放熱させる。ここで、発熱体としては、電子機器内部で使用されるCPU、パワーアンプ、バッテリー等の電源などの各種の電子部品が挙げられる。また、放熱体は、ヒートシンク、ヒートパイプ、ヒートポンプ、電子機器の金属筐体などが挙げられる。熱伝導性シートは、両表面それぞれが、発熱体及び放熱体それぞれに密着し、かつ圧縮して使用される。
【0050】
<熱伝導性シートの製造方法>
本実施形態の熱伝導性シートは、特に限定されないが、例えば、以下の工程(A)、(B)及び(C)を備える方法により製造できる。
工程(A):熱伝導性シートにおいて厚さ方向となる一方向に沿って、異方性充填材が配向された配向成形体を得る工程
工程(B):配向成形体を切断してシート状にして、シート状成形体を得る工程
工程(C):シート状成形体の表面を研磨する工程
以下、各工程について、より詳細に説明する。
【0051】
[工程(A)]
工程(A)では、例えば、異方性充填材と、非異方性充填材と、高分子マトリクスの原料となる高分子組成物とを含む混合組成物から配向成形体を成形する。混合組成物は、好ましくは硬化して配向成形体とする。配向成形体は、より具体的には磁場配向製法、流動配向製法により得ることができるが、これらの中では、磁場配向製法が好ましい。
【0052】
(磁場配向製法)
磁場配向製法では、硬化後に高分子マトリクスとなる液状の高分子組成物と、異方性充填材及び非異方性充填材とを含む混合組成物を金型などの内部に注入したうえで磁場に置き、異方性充填材を磁場に沿って配向させた後、高分子組成物を硬化させることで配向成形体を得る。配向成形体としてはブロック状のものとすることが好ましい。
また、金型内部において、混合組成物に接触する部分には、剥離フィルムを配置してもよい。剥離フィルムは、例えば、剥離性の良い樹脂フィルムや、片面が剥離剤などで剥離処理された樹脂フィルムが使用される。剥離フィルムを使用することで、配向成形体が金型から離型しやすくなる。
【0053】
磁場配向製法において使用する混合組成物の粘度は、磁場配向させるために、10~300Pa・sであることが好ましい。10Pa・s以上とすることで、異方性充填材や非異方性充填材が沈降しにくくなる。また、300Pa・s以下とすることで流動性が良好になり、磁場で異方性充填材が適切に配向され、配向に時間がかかりすぎたりする不具合も生じない。なお、粘度とは、回転粘度計(ブルックフィールド粘度計DV-E、スピンドルSC4-14)を用いて25℃において、回転速度10rpmで測定された粘度である。
ただし、沈降し難い異方性充填材や非異方性充填材を用いたり、沈降防止剤等の添加剤を組合せたりする場合には、混合組成物の粘度は、10Pa・s未満としてもよい。
【0054】
磁場配向製法において、磁力線を印加するための磁力線発生源としては、超電導磁石、永久磁石、電磁石等が挙げられるが、高い磁束密度の磁場を発生することができる点で超電導磁石が好ましい。これらの磁力線発生源から発生する磁場の磁束密度は、好ましくは1~30テスラである。磁束密度を1テスラ以上とすると、炭素材料などからなる上記した異方性充填材を容易に配向させることが可能になる。また、30テスラ以下にすることで、実用的に製造することが可能になる。
高分子組成物の硬化は、加熱により行うとよいが、例えば、50~150℃程度の温度で行うとよい。また、加熱時間は、例えば10分~3時間程度である。
【0055】
(流動配向製法)
流動配向製法では、混合組成物に剪断力をかけて、面方向に異方性充填材が配向された予備的シートを製造し、これを複数枚積層して積層ブロックを製造して、その積層ブロックを配向成形体とするとよい。
より具体的には、流動配向製法では、まず、高分子組成物に異方性充填材と非異方性充填材、必要により種々の添加剤を混入し攪拌し、混入させた固形物が均質に分散した混合組成物を調製する。ここで、高分子組成物に使用する高分子化合物は、常温(23℃)で液状の高分子化合物を含むものであってもよいし、常温で固体状の高分子化合物を含むものであってもよい。また、高分子組成物は、可塑剤を含有していてもよい。
混合組成物は、シート状に伸長させるときに剪断力がかかるように比較的高粘度であり、混合組成物の粘度は、具体的には3~50Pa・sであることが好ましい。混合組成物は、上記粘度を得るために、溶剤が配合されることが好ましい。
【0056】
次に、混合組成物に対して剪断力を付与しながら平たく伸長させてシート状(予備的シート)に成形する。剪断力をかけることで、異方性充填材を剪断方向に配向させることができる。シートの成形手段として、例えば、バーコータやドクターブレード等の塗布用アプリケータ、もしくは、押出成形やノズルからの吐出等により、基材フィルム上に混合組成物を塗工し、その後、必要に応じて乾燥したり、混合組成物を半硬化させたりするとよい。予備的シートの厚さは、50~250μm程度とすることが好ましい。予備的シートにおいて、異方性充填材はシートの面方向に沿う一方向に配向している。
次いで、予備的シートを、配向方向が同じになるように複数枚重ねて積層した後、加熱、紫外線照射などにより混合組成物を必要に応じて硬化させつつ、熱プレス等により予備的シートを互いに接着させることで積層ブロックを形成し、その積層ブロックを配向成形体とするとよい。
【0057】
[工程(B)]
工程(B)では、工程(A)にて得られた配向成形体を、異方性充填材が配向する方向に対して垂直に、スライスなどにより切断して、シート状成形体を得る。スライスは、例えばせん断刃やレーザーなどで行うとよい。シート状成形体は、スライスなどの切断により、切断面である各表面において高分子マトリクスから異方性充填材の先端が露出する。また、露出した異方性充填材の少なくとも一部は、各表面から突出する。露出する異方性充填材は、ほとんどが倒れずに厚さ方向に配向したものとなる。
【0058】
ここで、配向成形体は、JIS K6253で規定するタイプE硬度が10~80であることが好ましく、20~70であることがより好ましい。E硬度が10~80であると、シート状成形体をスライスする際に、異方性充填材よりも高分子マトリクスの方が積極的に切断され、異方性充填材を露出させ易くすることができる。また、スライスして熱伝導性シートを成形した後に、表面を研磨することでも、高分子マトリクスの方が異方性充填材に比べて摩耗し易いことから、異方性充填材を露出させることができる。さらに、異方性充填材が露出した状態で摩耗すれば、露出した異方性充填材の端部が潰されて、熱伝導性シートの表面方向に膨出した形状の端部が形成されやすく、その端部により被着体との接触面積が増加するため、より熱伝導性を高めることができる。
【0059】
[工程(C)]
工程(C)では、シート状成形体の異方性充填材が露出した表面を研磨する。表面の研磨は、例えば、研磨紙や研磨フィルム、研磨布、研磨ベルト等を使用して行うとよい。本製造方法では、シート状成形体の表面を研磨することより、異方性充填材が表出しつつ、山頂点の算術平均曲(Spc)が18000(1/mm)以下とされる。
したがって、例えば研磨紙の性状としては、含有する砥粒の平均粒径(D50)が0.1~100μmのものが好ましく、9~60μmのものがより好ましい。平均粒径0.1μm以上の研磨紙を使用することで、シート表面から異方性充填材が表出しつつ、山頂点の算術平均曲(Spc)を所定値以下にまで平滑化する、具体的には発熱体等の接触相手面との接触点が丸みを帯びて平滑化することが可能になる。また、平均粒径100μm以下の研磨紙を使用することで、熱伝導性シートの表面に実用的に問題となる傷が付いたりすることを防止する。また、上記と同様な理由で、例えば研磨紙の砥粒の粒度としては、♯120~20000であることが好ましく、♯300~15000であることが好ましく、♯320~4000であることがより好ましい。
研磨方法は、熱伝導性シートの表面に対して、例えば研磨紙を同一直線方向に連続して当接し研磨するほか、一定距離を往復して研磨したり、同一方向に回転して研磨をしたり、様々な方向に当接して研磨したり、といった方法を用いることができる。
また、研磨の程度は、例えば、表面状態を観察しながら行えばよいが、例えば往復研磨の場合は、1~300回の往復が好ましく、2~200回がより好ましく、3~50回がさらに好ましく、具体的には、異方性充填剤の突出する長さが100μm以下になる程度に研磨することが好ましい。更には突出する長さが50μm以下になる程度に研磨することがより好ましい。
【0060】
なお、以上の説明では、熱伝導性シート10の両表面10A、10Bに異方性充填材12が露出して、両表面10A、10Bにおいて、異方性充填材12が表出しつつ、山頂点の算術平均曲(Spc)が18000(1/mm)以下となっている態様を示した。ただし、本発明では、両表面10A、10Bのうち一方のみにおいて、異方性充填剤12が表出した熱伝導性シートとなっていてもよい。
したがって、両表面10A、10Bのうちの他方は、異方性充填材12が表出しつつ、山頂点の算術平均曲(Spc)が18000(1/mm)以下となっており、また、異方性充填材12が表出していても山頂点の算術平均曲(Spc)が18000(1/mm)以下とならないようにされてもよい。この場合、工程(C)による研磨を両表面のうち一方のみに行うとともに、他方の表面には、研磨を行わず、また、研磨を行っても上記工程(C)で示した条件以外で研磨を行うとよい。
また、研磨を行ったものは、発熱体や放熱体等と密着しかつ圧縮して使用される前から非常に平坦であり、圧縮後の表面性状は圧縮前からわずかに平坦化した程度でほぼ変わらない。これに対して、研磨しないものは、圧縮により大幅に平坦化することもあるが、研磨をしたものと同等までは平坦化できない。
【0061】
また、両表面10A、10Bのうちの他方は、異方性充填材12が高分子マトリクス12内部に埋まった表面にしてもよい。上記した磁場配向製法により製造された配向成形体は、その最外面が、異方性充填材の充填割合が他の部分よりも低い、典型的には、異方性充填材が含有しないスキン層となる。したがって、例えば、配向成形体の最外面を、熱伝導性シート10の両表面10A、10Bのうちの他方にすることで、両表面10A、10Bのうちの他方を、異方性充填材12が高分子マトリクス12内部に埋まった表面にできる。異方性充填材12が高分子マトリクス12内部に埋まった表面は、粘着面となる。粘着面は、放熱体や発熱体などの接触対象物に対して、付着することで、接触対象物を固定させることが可能になる。
【0062】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態の熱伝導性シートについて、
図2を用いて説明する。
第1の実施形態においては、熱伝導性シート10には、充填材として、異方性充填材12に加えて、非異方性充填材16が含有されていたが、本実施形態の熱伝導性シート20は、
図2に示すように、非異方性充填材16が含有されない。すなわち、第2の実施形態の熱伝導性シートにおいては、充填材として例えば炭素繊維のみを使用してもよい。
第2の実施形態の熱伝導性シート20のその他の構成は、非異方性充填材が含有されない点以外は、上記した第1の実施形態の熱伝導性シート10と同様であるので、その説明は省略する。
【0063】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、熱伝導性シート20の表面20A、20Bのうち少なくとも一方において、異方性充填材12が露出した構成となり、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0064】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、少なくとも一方の面は、異方性充填材12が表出しつつ、山頂点の算術平均曲(Spc)が18000(1/mm)以下であることで、厚さ方向の熱伝導性を向上させることができる。
【実施例0065】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0066】
本実施例では、以下の方法により熱伝導性シートの物性を評価した。
[山頂点の算術平均曲(Spc)、算術平均高さ(Sa)、界面の展開面積比(Sdr)]
レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK-X150)を用いた表面性状解析により、ISO25178に準拠して行った。具体的には、レンズ倍率10倍で、表面積1000μm×1000μmの二次元領域の表面プロファイルを、レーザー法により測定した。同一サンプルに対して3か所測定したときの平均値を山頂点の算術平均曲Spcとして採用した。
算術平均高さ(Sa)及び界面の展開面積比(Sdr)についても、同様に同一サンプルに対して3か所測定し、これらの平均値をそれぞれ、算術平均高さ(Sa)及び界面の展開面積比(Sdr)とした。
【0067】
[熱抵抗値]
熱抵抗値は、
図3に示すような熱抵抗測定機を用い、以下に示す方法で測定した。
具体的には、各試料について、本試験用に大きさが30mm×30mmの試験片Sを作製した。そして各試験片Sを、測定面が25.4mm×25.4mmで側面が断熱材21で覆われた銅製ブロック22の上に貼付し、上方の銅製ブロック23で挟み、ロードセル26によって荷重をかけて、厚さが元の厚さの90%となるように設定した。ここで、下方の銅製ブロック22はヒーター24と接している。また、上方の銅製ブロック23は、断熱材21によって覆われ、かつファン付きのヒートシンク25に接続されている。次いで、ヒーター24を発熱量25Wで発熱させ、温度が略定常状態となる10分後に、上方の銅製ブロック23の温度(θ
j0)、下方の銅製ブロック22の温度(θ
j1)、及びヒーターの発熱量(Q)を測定し、以下の式(1)から各試料の熱抵抗値を求めた。
熱抵抗=(θ
j1-θ
j0)/Q ・・・ 式(1)
式(1)において、θ
j1は下方の銅製ブロック22の温度、θ
j0は上方の銅製ブロック23の温度、Qは発熱量である。
【0068】
[JIS K6253で規定するタイプE硬度]
日本工業規格であるJIS K 6253に基づき、タイプE硬度を測定した。具体的には、各例で作製した配向成形体について、タイプEデュロメータを用いて測定した。
【0069】
[配向率]
作製した熱伝導シートの断面を電子顕微鏡により観察し、100個の異方性充填剤(炭素繊維)を抽出し、100個中、シートの厚み方向に配向している異方性充填剤の数を求めた。61個(61%)以上が配向しているものを〇とし、60個(60%)未満のものを×とした。
なお、炭素繊維の長軸方向が、熱伝導性シートの厚み方向から20°以内の範囲に向いているものを配向していると判断した。
【0070】
[実施例1]
高分子マトリクス(高分子組成物)として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサン(合計で100質量部、体積充填率36体積%)と、異方性充填材として炭素繊維(平均繊維長100μm、アスペクト比10、熱伝導率500W/m・Kの黒鉛化炭素繊維)150質量部(体積充填率30体積%)と、非異方性充填材として、アルミナ粉末(球状、平均粒径3μm、アスペクト比1.0)200質量部(体積充填率18体積%)、及びアルミニウム粉末(不定形、平均粒径3μm)100質量部(体積充填率13体積%)を混合して混合組成物を得た。
続いて、熱伝導性シートよりも充分に大きな厚さに設定された金型に上記混合組成物を注入し、8Tの磁場を厚さ方向に印加して炭素繊維を厚さ方向に配向した後に、80℃で60分間加熱することでマトリクスを硬化して、ブロック状の配向成形体を得た。
次に、せん断刃を用いて、ブロック状の配向成形体を厚さ1mmのシート状にスライスすることにより、炭素繊維が露出しているシート状成形体を得た。
【0071】
続いて、シート状成形体の両表面を、砥粒の平均粒径(D50)が60μmである粗目の研磨紙A(粒度#320)により50回往復研磨して、熱伝導性シートを得た。
【0072】
[実施例2]
研磨紙Aを、砥粒がより細かい、平均粒径(D50)が3μmである研磨紙B(粒度#4000)に変更し、研磨回数を15回往復に変更した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0073】
[実施例3]
研磨紙Aを、砥粒が更により細かい、平均粒径(D50)が0.3μmである研磨紙C(粒度#15000)に変更し、研磨回数を3回往復に変更した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0074】
[実施例4]
研磨紙Aによる50回往復研磨を、研磨紙Aによる30回往復研磨とし、その後、研磨紙Bにより10回往復研磨、さらに研磨紙Cにより10回往復研磨に変更した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0075】
[比較例1]
シート状成形体を研磨しなかった点以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0076】
[実施例5]
高分子マトリクス(高分子組成物)として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサン(合計で100質量部、体積充填率32体積%)と、異方性充填材として炭素繊維(平均繊維長100μm、アスペクト比10、熱伝導率500W/m・Kの黒鉛化炭素繊維)150質量部(体積充填率26体積%)と、非異方性充填材として、アルミナ粉末(球状、平均粒径3μm、アスペクト比1.0)475質量部(体積充填率41体積%)を混合して混合組成物を得た。
続いて、熱伝導性シートよりも充分に大きな厚さに設定された金型に上記混合組成物を注入し、8Tの磁場を厚さ方向に印加して炭素繊維を厚さ方向に配向した後に、80℃で60分間加熱することでマトリクスを硬化して、ブロック状の配向成形体を得た。
次に、せん断刃を用いて、ブロック状の配向成形体を厚さ1mmのシート状にスライスすることにより、炭素繊維が露出しているシート状成形体を得た。
【0077】
続いて、シート状成形体の両表面を、砥粒が粗目の研磨紙Aにより30回往復研磨して、熱伝導性シートを得た。
【0078】
[実施例6]
研磨紙Aを、砥粒が粗目がより細かい研磨紙Bに変更し、研磨回数を15回往復に変更した以外は、実施例5と同様にして熱伝導性シートを得た。
[実施例7]
研磨紙Aを、砥粒が更により細かい研磨紙Cに変更し、研磨回数を5回往復に変更した以外は、実施例5と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0079】
[実施例8]
研磨紙Aによる50回往復研磨を、研磨紙Aによる30回往復研磨とし、その後、研磨紙Bにより10回往復研磨、さらに研磨紙Cにより10回往復研磨に変更した以外は、実施例5と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0080】
[比較例2]
シート状成形体を研磨しなかった点以外は、実施例5と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0081】
各例で作製したシート状成形体あるいは熱伝導性シートについて、既述の測定及び評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0082】
【0083】
[実施例9]
高分子マトリクス(高分子組成物)として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサン(合計で100質量部、体積充填率36体積%)と、異方性充填材として炭素繊維(平均繊維長100μm、アスペクト比10、熱伝導率500W/m・Kの黒鉛化炭素繊維)140質量部(体積充填率28体積%)と、グラファイト(平均粒径130μm、アスペクト比10、熱伝導率550W/m・Kの鱗片状黒鉛粉末)5質量部(体積充填率1体積%)と、非異方性充填材として、アルミニウム粉末(不定形、平均粒径3μm)250質量部(体積充填率34体積%)を混合して混合組成物を得た。
続いて、熱伝導性シートよりも充分に大きな厚さに設定された金型に上記混合組成物を注入し、8Tの磁場を厚さ方向に印加して炭素繊維を厚さ方向に配向した後に、80℃で60分間加熱することでマトリクスを硬化して、ブロック状の配向成形体を得た。
次に、せん断刃を用いて、ブロック状の配向成形体を厚さ1mmのシート状にスライスすることにより、炭素繊維が露出しているシート状成形体を得た。
【0084】
続いて、シート状成形体の両表面を、砥粒の平均粒径(D50)が60μmである粗目の研磨紙A(粒度#320)により50回往復研磨して、熱伝導性シートを得た。
【0085】
[実施例10]
研磨紙Aを、砥粒がより細かい、平均粒径(D50)が3μmである研磨紙B(粒度#4000)に変更し、研磨回数を15回往復に変更した以外は、実施例9と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0086】
[実施例11]
研磨紙Aを、砥粒が更により細かい、平均粒径(D50)が0.3μmである研磨紙C(粒度#15000)に変更し、研磨回数を3回往復に変更した以外は、実施例9と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0087】
[実施例12]
研磨紙Aによる50回往復研磨を、研磨紙Aによる30回往復研磨とし、その後、研磨紙Bにより10回往復研磨、さらに研磨紙Cにより10回往復研磨に変更した以外は、実施例9と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0088】
[比較例3]
シート状成形体を研磨しなかった点以外は、実施例9と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0089】
[実施例13]
高分子マトリクス(高分子組成物)として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサン(合計で100質量部、体積充填率36体積%)と、異方性充填材として炭素繊維(平均繊維長100μm、アスペクト比10、熱伝導率500W/m・Kの黒鉛化炭素繊維)150質量部(体積充填率30体積%)と、非異方性充填材として、アルミニウム粉末(不定形、平均粒径3μm)250質量部(体積充填率33体積%)を混合して混合組成物を得た。
続いて、熱伝導性シートよりも充分に大きな厚さに設定された金型に上記混合組成物を注入し、8Tの磁場を厚さ方向に印加して炭素繊維を厚さ方向に配向した後に、80℃で60分間加熱することでマトリクスを硬化して、ブロック状の配向成形体を得た。
次に、せん断刃を用いて、ブロック状の配向成形体を厚さ1mmのシート状にスライスすることにより、炭素繊維が露出しているシート状成形体を得た。
【0090】
続いて、シート状成形体の両表面を、砥粒が粗目の研磨紙Aにより30回往復研磨して、熱伝導性シートを得た。
【0091】
[実施例14]
研磨紙Aを、砥粒が粗目がより細かい研磨紙Bに変更し、研磨回数を15回往復に変更した以外は、実施例13と同様にして熱伝導性シートを得た。
[実施例15]
研磨紙Aを、砥粒が更により細かい研磨紙Cに変更し、研磨回数を5回往復に変更した以外は、実施例13と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0092】
[実施例16]
研磨紙Aによる50回往復研磨を、研磨紙Aによる30回往復研磨とし、その後、研磨紙Bにより10回往復研磨、さらに研磨紙Cにより10回往復研磨に変更した以外は、実施例13と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0093】
[比較例4]
シート状成形体を研磨しなかった点以外は、実施例13と同様にして熱伝導性シートを得た。
【0094】
各例で作製したシート状成形体あるいは熱伝導性シートについて、既述の測定及び評価を行った。結果を下記表2に示す。
【0095】
【0096】
以上の実施例の結果から明らかなように、熱伝導性シートにおいては、異方性充填材が表出しつつ、山頂点の算術平均曲(Spc)が18000(1/mm)以下であることで、所望の熱抵抗値と、熱伝導率を得ることができ、厚さ方向の熱伝導性を向上させることができた。一方で、比較例では、所望の熱抵抗値と、熱伝導率を得ることができず、厚さ方向の熱伝導性を十分に向上させることができなかった。