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特開2023-18136リチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極層の製造方法及びリチウムイオン二次電池の製造方法
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  • 特開-リチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極層の製造方法及びリチウムイオン二次電池の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018136
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極層の製造方法及びリチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20230131BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192612
(22)【出願日】2022-12-01
(62)【分割の表示】P 2019238532の分割
【原出願日】2019-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】312005186
【氏名又は名称】リグナイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085604
【弁理士】
【氏名又は名称】森 厚夫
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇
(72)【発明者】
【氏名】大西 慶和
(57)【要約】
【課題】電気特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる負極材料の製造方法を提供する。
【解決手段】フラン類とアルデヒド類を黒鉛粒子と混合しつつ反応触媒の存在下で縮合反応させることによって、黒鉛粒子の表面にフラン樹脂の層が被覆された粒状の黒鉛・フラン樹脂複合材料を製造する工程と、粒状の黒鉛・フラン樹脂複合材料を非酸化性雰囲気下にて加熱することによって、フラン樹脂が炭化した層で黒鉛粒子の表面を被覆した粒状の黒鉛・フラン樹脂複合炭化材料を製造する。この粒状の黒鉛・フラン樹脂複合炭化材料を負極材料として使用することによって、リチウムイオン二次電池の電気特性を向上することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラン類を黒鉛粒子と混合しつつ反応触媒の存在下で縮合反応させることによって、黒鉛粒子の表面にフラン樹脂の層が被覆された粒状の黒鉛・フラン樹脂複合材料を製造する工程と、粒状の黒鉛・フラン樹脂複合材料を非酸化性雰囲気下にて加熱することによって、フラン樹脂が炭化した層で黒鉛粒子の表面を被覆した粒状の黒鉛・フラン樹脂複合炭化材料を製造する工程とを有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項2】
フラン類とアルデヒド類を黒鉛粒子と混合しつつ反応触媒の存在下で縮合反応させることによって、黒鉛粒子の表面にフラン樹脂の層が被覆された粒状の黒鉛・フラン樹脂複合材料を製造する工程と、粒状の黒鉛・フラン樹脂複合材料を非酸化性雰囲気下にて加熱することによって、フラン樹脂が炭化した層で黒鉛粒子の表面を被覆した粒状の黒鉛・フラン樹脂複合炭化材料を製造する工程とを有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項3】
上記の縮合反応を、減圧雰囲気で行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項4】
上記の減圧雰囲気は0.007~0.095MPaの範囲であることを特徴とする請求項3記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の方法で製造された負極材料を用いて負極層を作製することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極層の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の負極層を用い、負極層と正極層の間に電解質層を配置する工程を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法に関するものであり、またこのリチウムイオン二次電池用負極材料を用いたリチウムイオン二次電池用負極層の製造方法及びリチウムイオン二次電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パソコンなどの情報機器、携帯電話などの通信機器、さらに電気自動車などにおいて、その電源としてリチウムイオン二次電池は欠くことができないものである。
【0003】
リチウムイオン二次電池は正極と負極の間に電解質を配置して形成されるものであり、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで放電や充電が行われるようになっている。
【0004】
現在普及しているリチウムイオン二次電池は、電解質として有機溶媒が使用されており、この有機溶媒は発火や爆発の危険があるため、丈夫な容器を用いて安全性を高めるなどの必要があって構造や形状に制約がある等の問題がある。
【0005】
一方、電解質として液体ではなく固体電解質を用いた全固体リチウムイオン二次電池が注目されており、実用化に向けて研究が進んでいる。
【0006】
全固体リチウムイオン二次電池では電解質が固体であるため、発火や爆発の危険性が小さく、構造や形状の自由度が高くなって、薄型にしたり多層化したりして大容量にすることが可能になる等の利点がある。また高速充放電が可能になるということも期待されている(例えば特許文献1,2参照)。
【0007】
上記のようなリチウムイオン二次電池において、負極の材料としては従来のリチウムイオン二次電池はもちろん、全固体リチウムイオン二次電池においても炭素系材料が使用されている。特に、レート特性、初期クーロン効率、比容積等の電気特性を向上させる負極材料として、黒鉛を非晶質の炭素材料で被覆した非晶質炭素被覆黒鉛が開発されている(例えば特許文献3-5等参照)。
【0008】
特許文献3は、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどから選ばれる熱可塑性樹脂を焼成して得られた非晶質炭素被覆膜を被覆した非晶質炭素被覆黒鉛を、負極材料として使用したものである(請求項2-3、[0018]参照)。
【0009】
そして引用文献3の発明では、黒鉛とポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂とを混合して黒鉛の表面に熱可塑性樹脂を被覆し、次に焼成して黒鉛に被覆した熱可塑性樹脂を炭化することによって、黒鉛を非晶質炭素被覆膜で被覆した非晶質炭素被覆黒鉛を製造するようにしている([0019]-[0020]参照)。
【0010】
特許文献4は、黒鉛質粒子の表面に非晶質炭素が被覆された非晶質炭素被覆黒鉛材料を負極材料として使用したものである(請求項1参照)。
【0011】
そして特許文献4の発明では、黒鉛質粒子と非晶質炭素前駆体であるピッチ類等の有機化合物とを混合して黒鉛質粒子の表面にピッチ類等の有機化合物を被覆し、次に焼成して黒鉛質粒子に被覆した有機化合物を炭化することによって、黒鉛質粒子を非晶質炭素で被覆した非晶質炭素被覆黒鉛材料を製造するようにしている([0051]-[0062]参照)。
【0012】
特許文献5は、核となる黒鉛質粒子と黒鉛質粒子を被覆する炭素層とを有する炭素被覆黒鉛を負極材料として使用したものである(請求項1参照)。
【0013】
そして特許文献5の発明では、ポリアクリロニトリルやポリイミド等の窒素含有高分子化合物を溶解した溶液に黒鉛質粒子を分散混合すると共に溶媒を除去して黒鉛質粒子を炭素前駆体である窒素含有高分子化合物で被覆し、次に焼成して黒鉛質粒子に被覆した窒素含有高分子化合物を炭化することによって、黒鉛質粒子を炭素層で被覆した炭素被覆黒鉛を製造するようにしている([0031]-[0038]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2017-107826号公報
【特許文献2】特開2019-40709号公報
【特許文献3】特開2001-229914号公報
【特許文献4】特開2019-87519号公報
【特許文献5】特開2014-139942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記のように特許文献3~5の発明は、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂、ピッチ類等の有機化合物、ポリアクリロニトリル等の窒素含有高分子化合物のような炭素前躯体となる有機材料を黒鉛粒子と混合することによって、黒鉛粒子の表面に炭素前躯体となる有機材料を付着させて被覆し、そしてこれを焼成して有機材料を炭化させることで、黒鉛粒子を非晶質炭素の層で被覆した非晶質炭素被覆黒鉛を製造するようにしたものである。
【0016】
ここで、電気自動車、ハイブリッド自動車、大型の電力貯蔵用などにリチウムイオン二次電池を使用する場合、その負極材料としてはより高い導電性を有するものであることが必要である。そして上記特許文献3~5のような非晶質炭素被覆黒鉛を負極材として用いる場合、より高い導電性を得るためには被覆した非晶質炭素の炭化物はより高い炭化密度を有することが必要である。しかしながら炭素前駆体が上記特許文献3~5のような有機材料では炭化収率が低いため高い炭化密度を得ることは難しい。
【0017】
また全固体リチウムイオン二次電池を製造するにあたって、負極を成形したり、正極と負極の間に固体電解質を積層したりする際に、数トン程度の大きな一軸圧力や線圧を加えて成形することになる。このとき、負極材料が黒鉛粒子で形成されていると、正極を形成する酸化物などと比べて黒鉛は弾性率が小さいため、黒鉛粒子は一軸方向に大きく変形し、リチウムイオンの挿入面である(002)面にひずみが生じて、リチウムイオンが挿入離脱しにくくなって入出力特性が低下することになる。上記特許文献3~5のように黒鉛粒子を炭素で被覆している場合には、黒鉛粒子に一軸圧力ではなく等方圧がかかることになり、変形を緩和することができる。しかしながらこのように被覆した炭素の被膜で黒鉛粒子の変形を防ぐためには、炭素の被膜は高圧に耐えるような高い密度のものである必要があるが、炭素前駆体が上記特許文献3~5のような材料ものでは高い密度の炭素の被膜を得ることは難しく、黒鉛粒子の変形を防止する効果は十分とはいえない。
【0018】
しかも上記特許文献3~5の発明では、黒鉛粒子と有機材料を混合することによって、黒鉛粒子の表面に炭素前躯体となる有機材料の層を被覆し、これを焼成して有機材料を炭化させることによって、黒鉛粒子を非晶質炭素の層で被覆した非晶質炭素被覆黒鉛を製造するようにしているが、炭素前躯体となる有機材料の層は、黒鉛粒子と有機材料を混合することによって形成されているために黒鉛粒子の表面に付着しているだけで密着性が不十分である。また黒鉛粒子に対する有機材料の濡れの悪さから有機材料の層を黒鉛粒子の表面の全面に連続して被覆させることも難しい。従って、有機材料の層を焼成して形成される非晶質炭素の層も黒鉛粒子の表面に付着しているだけであって密着性が不十分あり、また非晶質炭素の層は分断されていて黒鉛粒子の全面を炭素の層で被覆することは難しい。
【0019】
このように黒鉛粒子と非晶質炭素の層の密着性が不十分であると共に、非晶質炭素の層が分断されていると、黒鉛を非晶質の炭素の層で被覆して電気特性を向上させる効果が不十分になり、また全固体リチウムイオン二次電池を成形する際に黒鉛の変形を抑制する効果も不十分になるおそれがある。
【0020】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、電気特性に優れたリチウムイオン二次電池、特に電気特性に優れた全固体リチウムイオン二次電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法を提供すること、またリチウムイオン二次電池用負極層の製造方法、リチウムイオン二次電池の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法は、フラン類を黒鉛粒子と混合しつつ反応触媒の存在下で縮合反応させることによって、あるいはフラン類とアルデヒド類を黒鉛粒子と混合しつつ反応触媒の存在下で縮合反応させることによって、黒鉛粒子の表面にフラン樹脂の層が被覆された粒状の黒鉛・フラン樹脂複合材料を製造する工程と、粒状の黒鉛・フラン樹脂複合材料を非酸化性雰囲気下にて加熱することによって、フラン樹脂が炭化した層で黒鉛粒子の表面を被覆した粒状の黒鉛・フラン樹脂複合炭化材料を製造する工程とを有することを特徴とするものである。
【0022】
フラン類を単独で縮合反応させることによって得られる、あるいはフラン類とアルデヒド類を縮合反応させることによって得られるフラン樹脂は、炭化収率が高いために、このフラン樹脂を炭化して得られる炭素の層は高い炭化密度を有するものであり、高い炭化密度の炭化層を被覆した黒鉛粒子を負極材料として用いることによって、導電性の高い負極層を形成することができ、電気自動車用や大型の電力貯蔵用など大容量のリチウムイオン二次電池を作成することが可能になるものである。またこのようにフラン樹脂を炭化して得られる炭素の層は密度が高いので、黒鉛粒子を高い密度の炭素の被膜で覆うことができるものであり、全固体リチウムイオン二次電池の成形時などに加えられる高圧に耐えて黒鉛粒子が変形されることを抑制でき、入出力特性等に優れ急速放充電ができるリチウムイオン二次電池を作成することが可能になるものである。
【0023】
そして、黒鉛粒子の表面に被覆されたフラン樹脂の層は、黒鉛粒子の表面でフラン類が単独で縮合反応することによって、あるいはフラン類とアルデヒド類が縮合反応することによって形成されるものであり、黒鉛粒子とフラン樹脂を混合してフラン樹脂の層を形成する場合よりも、黒鉛粒子に対するフラン樹脂の層の密着性が高くなり、またフラン樹脂は黒鉛粒子の表面の全面に分断されることなく被覆することができる。このためフラン樹脂を炭化して得られる炭素の層の黒鉛粒子に対する密着性は高く、また分断されることなく黒鉛粒子の全面に被覆されているものであり、黒鉛粒子を炭素の層で被覆して電気特性を向上させる効果や、また全固体リチウムイオン二次電池を成形する際などに黒鉛粒子が変形することを緩和する効果を高く得ることができるものである。
【0024】
本発明において、上記の縮合反応を、減圧雰囲気で行なうようにしてもよい。
【0025】
このように減圧雰囲気で反応を行なうことによって、黒鉛粒子の表面から気体を脱気して除去しながら、フラン類単独の、あるいはフラン類とアルデヒド類の反応を行なわせることができ、液体との濡れ性が悪い黒鉛粒子の表面に反応液を接触させて、黒鉛粒子の表面の全面に縮合反応物であるフラン樹脂を密着した状態で余すところなく被覆することができるものである。従って、フラン樹脂を炭化した炭素の層を黒鉛粒子の表面に密着した状態で余すところなく形成することができるものであり、炭素の層で黒鉛粒子を被覆して電気特性を向上させる上記の効果や、また全固体リチウムイオン二次電池を成形する際などに黒鉛粒子が変形することを緩和する上記の効果をより高く得ることができるものである。
【0026】
本発明において上記の減圧雰囲気の減圧度は0.007~0.095MPaの範囲であることを特徴とするものである。
【0027】
減圧度をこの範囲に設定することによって、脱気効果を十分に得つつ縮合反応の反応速度を適度に保つことができるものである。
【0028】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極層の製造方法は、上記の方法で製造された負極材料を用いて負極層を作製することを特徴とするものである。
【0029】
上記のような負極材料を用いてリチウムイオン二次電池用の負極層を製造することによって、この負極層を用いて大容量で急速放充電が可能なリチウムイオン二次電池を得ることができるものである。
【0030】
本発明に係るリチウムイオン二次電池の製造方法は、上記の負極層を用い、負極層と正極層の間に電解質を配置する工程を有することを特徴とするものである。
【0031】
上記のような負極層を用いてリチウムイオン二次電池を製造することによって、大容量で急速放充電が可能なリチウムイオン二次電池を得ることができるものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、大容量で急速放充電が可能など電気特性に優れた電気特性に優れたリチウムイオン二次電池、特に電気特性に優れた全固体リチウムイオン二次電池を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】全固体リチウムイオン二次電池の構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0035】
本発明おいて負極材料は、黒鉛粒子の表面にフラン樹脂の炭化層を形成することによって作製されるものである。
【0036】
上記の黒鉛粒子としては、特に限定されるものではないが、天然黒鉛、人造黒鉛、キッシュ黒鉛、膨張黒鉛などを用いることができる。またこれらを加工した球状化黒鉛や塊状化黒鉛などを用いることもできる。黒鉛粒子はこれらから1種を選択して用いる他、複数種のものを混合して用いることもできる。黒鉛粒子の粒径は特に限定されるものではないが、平均粒径が0.1~200μm程度であることが好ましい。尚、本発明において平均粒径はレーザ回折・散乱法に基づいて測定した値である。
【0037】
また上記のフラン樹脂は、フラン類単独を反応触媒の存在下で縮合反応させることによって、あるいはフラン類とアルデヒド類とを反応触媒の存在下で縮合反応させることによって得られる。
【0038】
フラン類としては、フルフラール、5-メチル-2-フルフラール、フルフリルアルコールなどのフラン化合物を用いることができる。これらは一種を単独で用いる他、二種以上を併用することもできる。
【0039】
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒドの水溶液の形態であるホルマリンが最適であるが、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンのような形態のものを用いることもでき、その他アルデヒドの一部あるいは大部分をフルフラールやフルフリルアルコールに置き換えたものを用いることも可能である。
【0040】
反応触媒としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、あるいはカルシウム、マグネシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩を用いることができる。さらに塩酸、リン酸、硫酸、キシレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シュウ酸、マレイン酸、無水マレイン酸、7-アミノ-4-ヒドロキシ-2-ナフタレンスルホン酸などを用いることもできる。
【0041】
そして本発明ではまず、フラン類単独を黒鉛粒子と混合しつつ反応触媒の存在下で縮合反応させることによって、あるいはフラン類とアルデヒド類を黒鉛粒子と混合しつつ反応触媒の存在下で縮合反応させることによって、黒鉛粒子の表面にフラン樹脂の層を形成する。ここでフラン類とアルデヒド類を反応させる場合、フラン類に対するアルデヒド類の配合量は、フラン類1モルに対してアルデヒド類0.2~2.5モルの範囲が好ましく、また反応触媒の配合量は、反応触媒の種類によって大きく異なるが、フラン類に対して0.05~10質量%の範囲が好ましい。
【0042】
上記の反応は、反応系を攪拌するに足る量の水中で行なわれるものであり、反応系を攪拌しながらフラン類を自己縮合反応させ、あるいはフラン類とアルデヒド類とを縮合反応させるものである。反応の初期では反応系の溶液は透明に近いが、反応の進行とともに乳白濁になり、さらに反応系は粘稠なマヨネーズ状になり攪拌に伴って流動する状態であるが、反応が進むにつれて次第に、黒鉛粒子を含むフラン類の縮合反応物、あるいは黒鉛粒子を含むフラン類とアルデヒド類との縮合反応物が系中の水と分離し始め、反応生成されるフラン樹脂と黒鉛粒子とが凝集した複合粒子が突然に反応容器の全体に分散された状態になる。
【0043】
そしてさらに所望する程度にフラン樹脂の反応を進めて冷却したのちに攪拌を停止すると、この複合粒子は沈殿して水と分離される。この複合粒子は微小な含水顆粒状物となっており、反応容器から取り出して濾過することによって水から容易に分離することができるものであり、これを乾燥することによって粒状物を得ることができる。
【0044】
上記のようにして得られた粒状物は、黒鉛粒子(黒鉛粒子単体あるいは黒鉛粒子が凝集した二次粒子、複粒子)にフラン樹脂からなる層が被覆された形態となっている。ここで、フラン類の縮合反応や、フラン類とアルデヒド類との縮合反応は黒鉛粒子の表面で進行し、黒鉛粒子の表面でフラン樹脂が生成されるものであり、黒鉛粒子とフラン樹脂を混合して黒鉛粒子の表面にフラン樹脂の層を形成する場合よりも、黒鉛粒子とその表面に形成されるフラン樹脂の層との密着性は著しく高くなる。しかもフラン類の縮合反応や、フラン類とアルデヒド類との縮合反応は黒鉛粒子の表面の全面で進行するので、分断されることなく黒鉛粒子の全面にフラン樹脂の層を被覆することができるものである。この黒鉛・フラン樹脂複合材料の粒径は特に限定されるものではないが、平均粒径が1~30μm程度の範囲であることが望ましい。
【0045】
そして黒鉛・フラン樹脂複合材料の粒体は、黒鉛とフラン樹脂とが凝集されたものであるために、各粒体において黒鉛粒子とフラン樹脂の割合が同一であり、またフラン樹脂は黒鉛粒子の表面に薄く均一に被覆することができるため、フラン樹脂の量を少なくしても黒鉛・フラン樹脂複合材料を容易に得ることができる。従って、黒鉛粒子に対するフラン樹脂の被覆割合を任意に調整することができるものであり、黒鉛・フラン樹脂複合材料の全量に対するフラン樹脂の量を例えば3~45質量%(つまり黒鉛粒子の量を55~97質量%)の範囲で任意に設定することができる。
【0046】
ここで上記の縮合反応は、反応容器内を減圧して減圧雰囲気(大気圧より低い圧力)で行なうのが望ましい。減圧は、反応の開始初期から、あるいは反応の途中から行なうことができるが、反応の開始初期から減圧雰囲気にすることが好ましい。またこの反応は、反応溶液中に含まれている水の沸騰還流下で行なうことができるが、沸騰温度以下でも行なうことができる。
【0047】
このように減圧雰囲気で反応を行なうことによって、黒鉛粒子の表面に付着している空気や、黒鉛粒子の内部のマクロポアやミクロポア中の気体を脱気して除去することができるものであり、液体との濡れ性が悪い黒鉛粒子の表面に反応液を直接接触させることが可能になる。この結果、黒鉛粒子の表面の全面に反応液が接触した状態で、フラン類単独の縮合反応や、フラン類とアルデヒド類の縮合反応が進行し、黒鉛粒子の表面の全面に縮合反応物であるフラン樹脂が密着した状態で形成され、黒鉛粒子の表面の全面がフラン樹脂の層で余すところなく被覆された黒鉛・フラン樹脂複合粒子を得ることができるものである。また黒鉛粒子の表面を被覆しているフラン樹脂から、減圧によって未反応の遊離フラン類などのモノマーが抜け易いものであり、フラン樹脂中の未反応モノマーの残存量を少なくして、安定した品質の黒鉛・フラン樹脂複合粒子を得ることができるものである。
【0048】
上記の減圧雰囲気は、0.007~0.095MPa(0.07~9.69kgf/cm)程度の範囲に設定するのが好ましい。減圧度が大きいほうが脱気効果は高く、黒鉛粒子の表面から空気を排除して余すところなくフラン樹脂で被覆した黒鉛・フラン樹脂複合粒子をより製造し易くなるが、反応溶液中に含まれている水の沸騰還流下で反応を行なう場合、沸騰温度は減圧度に依存し、0.007MPa未満の減圧雰囲気では水の沸騰温度は約40℃以下であり、これ以上の温度に上昇させることはできないので、反応を進行させるためには反応触媒の添加量が多く必要になって、経済性のうえで好ましくない。逆に0.095MPaを超える減圧雰囲気では、脱気効果が不十分であり、また水の沸騰温度は約97.5℃以上になるので、反応速度が速くなり、脱気が反応に追いつかなくなってこの点でも脱気効果が不十分になる。
【0049】
上記のようにして黒鉛・フラン樹脂複合材料を製造するにあたって、フラン樹脂の縮合反応を、生成されるフラン樹脂が不溶不融性になるまで持続した後に、停止させることによって、完全硬化状態のフラン樹脂を被覆した黒鉛・フラン樹脂複合材料を得ることができるものである。
【0050】
また、硬化状態の黒鉛・フラン樹脂複合材料を得るにあたっては、このように黒鉛粒子の表面にフラン樹脂の層を被覆する工程で、生成されるフラン樹脂が不溶不融性になるまで縮合反応を持続するようにする他に、黒鉛粒子の表面にフラン樹脂の層を被覆する工程では、フラン樹脂の縮合反応を樹脂が熱硬化性を有する状態で停止して、未硬化で熱硬化性を有するフラン樹脂からなる黒鉛・フラン樹脂複合粒子を調製した後に、これを加熱処理することによってフラン樹脂を完全硬化させ、硬化状態の黒鉛・フラン樹脂複合材料を得るようにしてもよい。フラン樹脂を硬化させる工程における加熱処理の条件は、特に限定されるものではないが、80~350℃程度の温度条件、1~100時間程度の加熱条件に設定するのがよい。
【0051】
上記のようにフラン樹脂が硬化した黒鉛・フラン樹脂複合材料を得た後、黒鉛・フラン樹脂複合材料を非酸化性雰囲気で熱処理することによって、黒鉛粒子の表面に被覆されたフラン樹脂を炭化させる。非酸化性雰囲気は、フラン樹脂が酸化されない雰囲気であればよく、アルゴン、ヘリウム、窒素ガスなど不活性ガス雰囲気に設定することができる。加熱処理の条件は、フラン樹脂を焼成して炭化するために、400~3000℃、1~300時間程度に設定するのが好ましい。このようにして、フラン樹脂が炭化した非晶質炭素の層で黒鉛粒子の表面を被覆した粒状の黒鉛・フラン樹脂複合炭化材料を得ることができるものである。この黒鉛・フラン樹脂複合炭化材料の粒径は特に限定されるものではないが、平均粒径が1~30μm程度の範囲であることが望ましい。
【0052】
ここで、上記のように非酸化性雰囲気で熱処理する際に、フラン樹脂は熱に曝されることによって熱分解を起こして低分子量物質となった分解生成物が揮散し、その抜け跡が空隙となるので、黒鉛・フラン樹脂複合炭化材料に形成される炭素の層には活性炭と同様に多数の細孔が形成されるものであり、本発明で得られた黒鉛・フラン樹脂複合炭化材料はリチウムイオン二次電池用の負極材料として使用するのにより適した材料であるといえる。
【0053】
次にリチウムイオン二次電池について説明する。リチウムイオン電池は正極と負極の間に電解質を配置して形成されるものであり、例えば全固体リチウムイオン二次電池は図1に示すように。正極層1と負極層2と固体電解質層3を積層し、さらに正極層1の集電を行なう正極集電層4や負極層2の集電を行なう負極集電層5を積層して形成される。この全固体リチウムイオン二次電池は例えば特開2016-207570号公報に記載された方法で製造することができるので、以下、該公報の記載を参照して説明する。
【0054】
固体電解質層は、硫化物固体電解質材料を含有して形成することができる。硫化物固体電解質材料としては、Liイオン伝導性を有するものが用いることでき、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS、LiPS、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(m、nは正の数。ZはGe、Zn、Gaのいずれか。)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(x、yは正の数。MはP、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれか。)等が挙げられる。尚、「LiS-P」の記載はLiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質材料を意味し、他の記載についても同様。
【0055】
硫化物固体電解質材料は、LiPS骨格を有していても良く、Li骨格を有していても良く、Li骨格を有していても良い。LiPS骨格を有する硫化物固体電解質材料としては、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS、LiPSを挙げることができる。また、Li骨格を有する硫化物固体電解質材料としては、Li11を挙げることができる。また硫化物固体電解質材料としては、Li(4-x)Ge(1-x)PxS(xは、0<x<1を満たす)で表わされるLGPS等を用いることもできる。
【0056】
また硫化物固体電解質材料としては、P元素を含む硫化物固体電解質材料であることが好ましく、硫化物固体電解質材料は、LiS-Pを主成分とする材料 であることがより好ましい。さらに硫化物固体電解質材料は、ハロゲン(F、Cl、B r、I)を含有していても良い。
【0057】
ここで、硫化物固体電解質材料が上記のLiS-P系である場合、LiSとPの割合は、モル比で、LiS:P=50:50~100:0の範囲であることが好ましく、中でもLiS:P=70:30~80:20の範囲であることが好ましい
【0058】
また硫化物固体電解質材料は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。ここで硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができるものであり、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行なうことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質材料の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4S/cm以上であることがより好ましい。このイオン伝導度は交流インピーダンス法により測定することができる。
【0059】
固体電解質層には上記の材料の他に、シート状(層状)に成形するためのバインダーなどを含有していても良い。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有結着剤、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリレートブタジエンゴム(ABR)等が挙げられる。固体電解質層における硫化物固体電解質材料の含有量は、例えば、10~100質量%の範囲であることが好ましく、50~100質量%の範囲であることがより好ましい。固体電解質層の厚さは 、目的とする全固体リチウムイオン二次電池の構成によって異なるが、例えば0.1~1000μmの範囲内であることが好ましく、0.1~300μmの範囲内であることがより好ましい。
【0060】
本発明において負極層には、上記した負極材料の他に、固体電解質材料を含有することが好ましい。固体電解質材料としては上記した硫化物固体電解質材料を用いることができる。負極層における固体電解質材料の含有量は1~60質量%の範囲が好ましく、10~50質量%の範囲がより好ましい。
【0061】
負極層には、上記の負極材料や固体電解質材料の他に、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー(VGCF)等の炭素材料、ニッケル、アルミニウム、SUS等の導電化剤や、既述の結着剤などを含有することができる。負極層における負極材料の含有量は、40~99質量%の範囲が好ましい。負極層の厚さは、目的とする全固体リチウムイオン二次電池の構成によって異なるが、1~1000μmの範囲であることが好ましい。
【0062】
次に、正極層は正極材料により形成されるものであり、正極層には必要に応じて上記した固体電解質材料、導電化剤、バインダーなどを含有していてもよい。
【0063】
正極材料としては、酸化物活物質、硫化物活物質などを用いることができる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状活物質、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型活物質、LiFeSiO、LiMnSiO等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の酸化物活物質としてはLiTiO1が挙げられる。
【0064】
正極層の厚さは、目的とする全固体リチウムイオン二次電池の構成によって異なるが、1~1000μmの範囲であることが好ましい。
【0065】
さらに、正極層の集電を行う正極集電体の材料としては、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、およびカーボン等が挙げられる。また負極層の集電を行う負極集電体の材料としては、SUS、銅、ニッケル、およびカーボン等が挙げられる。また全固体リチウムイオン二次電池は、電池ケースや外装体などの外殻を有して形成してもよい。
【0066】
上記の実施形態では、本発明の負極材料を用いて全固体リチウムイオン二次電池を作製する例を示したが、本発明を電解質が液体であるリチウムイオン二次電池の負極材料に適用することもできる。
【実施例0067】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0068】
(実施例1)
攪拌装置を備えた反応容器にフルフリルアルコールを470質量部、37質量%濃度のホルマリンを420質量部、反応触媒として85質量%濃度のリン酸水溶液を13質量部、水を3500質量部仕込み、さらに黒鉛粒子として平均粒径が6μmの鱗片状黒鉛を1500質量部仕込み、攪拌を開始した後、減圧ポンプを作動させて、水の沸騰温度が85℃になるように、反応容器内の圧力を0.60kgf/cm(0.06MPa)に減圧した。そして加熱を開始して約60分を要して沸騰還流させ、そのまま240分間縮合反応をさせた。
【0069】
次に、加熱を止めて50℃まで冷却した後、減圧を解いて攪拌を停止し、フラスコの内容物をビーカーに払い出した。これを4日間静置した後、傾斜法で上澄み液を除去し、ステンレス製のバットにビーカー中の内容物を払い出した。この内容物を薄く広げて3日間風乾した後、100℃の乾燥機に入れて10時間加熱乾燥することによって、粒状の黒鉛・フラン樹脂複合材料を得た。
【0070】
この黒鉛・フラン樹脂複合材料において、外周のフラン樹脂は不溶不融性に完全硬化しており、フラン樹脂含有率は11質量%であった。またこの黒鉛・フラン樹脂複合材料の平均粒子径を株式会社堀場製作所製のレーザー回折式粒度分布測定器「LA-920」で測定したところ、D50(累積した質量が50%になったときの粒子径)は8μmであった。
【0071】
次に、この黒鉛・フラン樹脂複合材料を、窒素雰囲気下で、100℃/時間の昇温速度で1000℃まで昇温して1000℃で3時間加熱処理することによって焼成した。このように焼成してフラン樹脂を炭化させることによって、黒鉛粒子を非晶質の炭素の層で被覆した粒状の黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料を得た。この黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料の収率は95%であった。またこの黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料の平均粒径はD50=8μmであった。この黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料を負極材料として使用した。
【0072】
(実施例2)
黒鉛粒子を2000質量部仕込む他は、実施例1と同様にフルフリルアルコールとホルマリンを縮合反応させることによって粒状の黒鉛・フラン樹脂複合材料を調製し、さらに実施例1と同様に焼成することによって粒状の黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料を得た。この黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料の収率は96%であった。またこの黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料の平均粒径はD50=8μmであった。この黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料を負極材料として使用した。
【0073】
(実施例3)
フルフリルアルコール470質量部の代わりにフルフラール470質量部を仕込む他は、実施例1と同じ条件でフルフラールとホルマリンを縮合反応させることによって粒状の黒鉛・フラン樹脂複合材料を調製した。さらにこの黒鉛・フラン樹脂複合材料を実施例1と同様に焼成することによって粒状の黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料を得た。この黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料の収率は95%であった。またこの黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料の平均粒径はD50=8μmであった。
【0074】
(実施例4)
黒鉛粒子を2000質量部仕込む他は、実施例3と同様にフルフラールとホルマリンを縮合反応させることによって粒状の黒鉛・フラン樹脂複合材料を調製し、さらに実施例1と同様に焼成することによって粒状の黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料を得た。この黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料の収率は96%であった。またこの黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料の平均粒径はD50=8μmであった。この黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料を負極材料として使用した。
【0075】
(実施例5)
攪拌装置を備えた反応容器にフルフリルアルコールを470質量部、反応触媒として85質量%濃度のリン酸水溶液を15質量部、水を3500質量部仕込み、さらに黒鉛粒子として平均粒径が6μmの鱗片状黒鉛を1500質量部仕込み、攪拌を開始した後、減圧ポンプを作動させて、水の沸騰温度が85℃になるように、反応容器内の圧力を0.60kgf/cm(0.06MPa)に減圧した。そして加熱を開始して約60分を要して沸騰還流させ、そのまま240分間縮合反応をさせた。
【0076】
あとは実施例1と同様に、冷却、払い出し、上澄み液の除去、乾燥を行なうことによって、粒状の黒鉛・フラン樹脂複合材料を得た。この黒鉛・フラン樹脂複合材料の外周のフラン樹脂は不溶不融性に完全硬化していた。
【0077】
そしてこの黒鉛・フラン樹脂複合材料を実施例1と同様に焼成することによって、粒状の黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料を得た。この黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料の収率は96%であった。またこの黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料の平均粒径はD50=8μmであった。この黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料を負極材料として使用した。
【0078】
(比較例1)
実施例1~4に用いた黒鉛粒子を、フラン樹脂を被覆せず、また焼成処理せず、そのまま負極材料として使用した。
【0079】
(比較例2)
2リットルの四つ口フラスコにフルフリルアルコールを500g、92質量%パラホルムアルデヒドを80g、水を750g仕込み、さらに反応触媒として7-アミノ-4-ヒドロキシ-2-ナフタレンスルホン酸を5g仕込んだ。そしてフラスコに設けたプロペラ式攪拌機による攪拌速度を8m/分にセットし、約60分を要して85℃まで昇温させ、そのまま120分間フルフリルアルコールを縮合反応させた。フラスコ内の反応溶液のPHは2.7であった。
【0080】
フラスコ内の溶液は当初は透明に近いものであったが、徐々に濁って乳茶濁状態になった。このように120分を経過した時点で、ポリエチレンシートを広げたステンレスバットの上にフラスコの内容物を払い出し、冷却した。ステンレスバットの上に広げた直後に、水等の反応溶液をステンレスバットから流し出すことによって、ブロック状であるが含水して押せば凹む程度の餅状態になった生成物を反応溶液から分離し、その温度を測定したところ40℃であった。
【0081】
次に、この含水状態の生成物を-10℃の冷凍庫に入れて凍結させ、凍結して固形になった含水状態の生成物を3mm径の丸穴を有するスクリーンを付したナイフエッジ粉砕機で粉砕した。そしてこの粉砕物を流動床乾燥装置に導入し、流気温度25℃の空気を吹き込んで6時間乾燥することによって、粒径0.5~2.5mm、水分0.8質量%の固体フラン樹脂の粒子400gを得た。この樹脂の融点は85℃であった。
【0082】
このフラン樹脂をピンミル粉砕機で粉砕して平均粒子径25μmの粉末フラン樹脂を得た。そして平均粒子径が6μmの鱗片状黒鉛90質量部にこの粉末フラン樹脂11質量部を添加し、さらにテトラヒドロフランを10質量部加えた後、これを乳鉢中で15分間混合してテトラヒドロフランにフラン樹脂を溶解させながら黒鉛の表面にフラン樹脂を被覆させるようにした。次にこれをバット上に払い出し、薄く広げて3日間乾燥させてテトラヒドロフランを蒸発させることによって、粒状の黒鉛・フラン樹脂複合材料を得た。
【0083】
上記のようにして調製した黒鉛・フラン樹脂複合材料を実施例1と同様に焼成することによって、粒状の黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料を得た。この黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料の収率は95%であった。またこの黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料の平均粒径はD50=7.5μmであった。この黒鉛・フラン樹脂複合炭素材料を負極材料として使用した。
【0084】
(比較例3)
実施例1と同じ黒鉛粒子100質量部に、粉末状のポリ塩化ビニル50質量部を配合し、アルミニウム製ボールミルを用いて室温にて30分間乾式混合し、黒鉛粒子にポリ塩化ビニルを被覆した。次にこれを窒素雰囲気下で、100℃/時間の昇温速度で1000℃まで昇温して1000℃で3時間加熱処理することによって焼成した。このように焼成してポリ塩化ビニルを炭化させることによって、黒鉛粒子を非晶質の炭素の層で被覆した粒状の黒鉛・ポリ塩化ビニル複合炭素材料を得た。この黒鉛・ポリ塩化ビニル複合炭素材料を負極材料として使用した。
【0085】
上記の実施例1~5及び比較例1~3の負極材料について、導電性の評価を行なった。粒子の状態では成形が困難であるので、負極材料95質量部にバインダーとしてSEBS(スチレン系熱可塑性エラストマー)5質量部を添加して混合し、これをアニソールに溶解して固形分濃度53質量%のスラリーを調製した。次にこのスラリーをポリイミドシートの表面に200μmギャップのドクターブレードで塗工し、これをシートプレス機にて10tonで1分間プレスし、9mmφに打ち抜きした後に10mmφの金型にて3tonで1分間プレス成形して、試験片を作製した。そしてこの試験片を用いて、低抵抗率測定装置(三菱油化(株)製ロレスタAP「MCP-T400」)にて体積抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1の実施例1~5と比較例1の比較から、黒鉛粒子にフラン樹脂の炭化層を形成することによって導電性が向上することが確認される。また黒鉛粒子にフラン樹脂の炭化層を被覆した実施例1~5は、黒鉛粒子にポリ塩化ビニルの炭化層を被覆した比較例3よりも導電性が高いことが確認される。
【0088】
上記の実施例1~5及び比較例1~3の負極材料について、粒子の一軸圧縮破壊強度の評価を行なった。一軸圧縮破壊強度の評価は、微小粒子圧壊力測定装置(株式会社ナノシーズ製「NS-Aシリーズ」)を用いて圧縮破壊力を測定することによって行なった。測定結果を表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
表2にみられるように、実施例1~5は比較例1~3よりも圧縮破壊力が高く、黒鉛粒子の表面でフラン類を縮合反応させたり、フラン類とアルデヒド類を縮合反応させたりしてフラン樹脂の層を形成するようにしたことによる、フラン樹脂の炭化層の密着性や被覆性の効果が確認された。
【0091】
(実施例6~10、比較例4~7)
硫化リチウム(LiS)と五硫化二リン(P)とヨウ化リチウム(LiI)を、LiSとPが、75:25(75LiS-25P)のモル比となるように秤量し、またLiIが10mol%となるように秤量した。そしてこれらを混合することによって、硫化物固体電解質材料を得た。この硫化物固体電解質材料の組成は、10LiI-90(0.75LiS-0.25P)である。この硫化物固体電解質材料を粉砕して微粒子化し、180℃で2時間加熱することによって結晶化させた。
【0092】
そして上記の結晶化した硫化物固体電解質材料とバインダーとしてのABRとを、98:2の体積比で混合することによって、固体電解質層成形用材料を得た。
【0093】
また、上記実施例1~5、比較例1~3の負極材料を36質量部、結晶化した上記硫化物固体電解質材料を25質量部、バインダーとしてPVDFを0.5質量部それぞれ秤量し、これらを混合して調製したスラリーをCu箔の表面に塗工して乾燥した。そしてCu箔上に形成された負極層成形用材料をかき取って回収した。
【0094】
さらに、正極材料としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3を用い、この正極材料を52質量部、上記の結晶化した硫化物固体電解質材料を17質量部、導電化材として気相法炭素繊維(VGCF)を1質量部、脱水ヘプタンを15質量部、バインダーとしてPVDFを0.4質量部それぞれ秤量し、これらを混合して得たスラリーをAl箔に塗工して乾燥した。そしてAl箔上に形成された正極層成形用材料をかき取って回収した。
【0095】
次に、固体電解質層成形用材料100mgを秤量し、セラミックスケース内に入れ、4.3tonで1分間プレスして固体電解質層3を得た。また正極層成形用材料100mgを秤量し、分割可能なφ10mmのペレット冶具に入れ、4tonで1分間プレスして正極層1を得た。さらに負極層成形用材料80mgを秤量し、同様にペレット冶具に入れて4tonで1分間プレスして負極層2を得た。そしてセラミックスケース内で正極層1、固体電解質層3および負極層2を組み付けて6Nの圧力で拘束し、また正極集電体4としてAl箔、負極集電体5としてCu箔を配置して、実施例5~8、比較例4~7の評価用全固体リチウムイオン二次電池を得た。
【0096】
上記のように作製した評価用全固体リチウムイオン二次電池について、充放電特性を評価した。充放電特性を評価するために、充放電測定装置(北斗電工株式会社製「HJ-SD8」)を用い、25℃に設定した恒温室内にて、印加電流0.05mA、カットオフ条件0.6~0.9V、充放電サイクル10回の条件で測定する試験を行なって、2回目放電比容量及び初期クーロン効率(初期放電効率)を求めた。またレート特性を求めるために、印加電流0.05mAにて10サイクル充放電評価をした後に、電流を0.1mAに変更してさらに10サイクル放充電評価をし、11サイクル目の放電比容量を10サイクル目の放電比容量で割って算出した。結果を表3に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
表3にみられるように、実施例6~10の評価用全固体リチウムイオン二次電池はいずれも、比較例4~6の評価用全固体リチウムイオン二次電池よりも充放電特性が高いことが確認された。
【符号の説明】
【0099】
1 正極層
2 負極層
3 固体電解質層
4 正極集電層
5 負極集電層

図1