(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181453
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】水中の覆工構造及び覆工体の構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 29/063 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
E02D29/063
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023187885
(22)【出願日】2023-11-01
(62)【分割の表示】P 2022084585の分割
【原出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義信
(57)【要約】
【課題】水中から遮断された空間を水底に構築する。
【解決手段】水中の水底に設けられる覆工体100の構築方法は、水底を覆うようにして地盤に支持される複数の板部材10を配置する工程と、水底に配置された隣接する板部材10の間の継目隙間を覆うように、隣接する板部材10にわたって封止部材30を配置する工程と、板部材に覆われた水底を掘削する工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の水底に設けられる覆工体の構築方法であって、
前記水底を覆うようにして地盤に支持される複数の板部材を配置する工程と、
前記水底に配置された隣接する前記板部材の間の継目隙間を覆うように、隣接する前記板部材わたって封止部材を配置する工程と、
前記板部材に覆われた前記水底を掘削する工程と、を含む、
覆工体の構築方法。
【請求項2】
水中の水底に設けられる覆工体の構築方法であって、
前記水底を覆うようにして地盤に支持される板部材を、その端部が支持部に支持されるように配置する工程と、
前記水底に配置された前記板部材と前記支持部の間の継目隙間を覆うように、前記板部材と前記支持部とにわたって封止部材を配置する工程と、
前記板部材に覆われた前記水底を掘削する工程と、を含む、
覆工体の構築方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の覆工体の構築方法であって、
前記水底の掘削が行われると、水圧が作用して前記封止部材は前記板部材のそれぞれに対して押し付けられる、
覆工体の構築方法。
【請求項4】
水中の水底に設けられる覆工体の構築方法であって、
前記水底を覆うようにして地盤に支持される複数の板部材を配置する工程と、
前記水底に配置された隣接する前記板部材の間の継目隙間を覆うように、隣接する前記板部材にわたって封止部材を配置する工程と、
前記板部材に覆われた前記水底に含まれる水を排水する工程と、を含む、
覆工体の構築方法。
【請求項5】
水中の水底に設けられる覆工体の構築方法であって、
前記水底を覆うようにして地盤に支持される板部材を、その端部が支持部に支持されるように配置する工程と、
前記水底に配置された前記板部材と前記支持部の間の継目隙間を覆うように、前記板部材と前記支持部とにわたって封止部材を配置する工程と、
前記板部材に覆われた前記水底に含まれる水を排水する工程と、を含む、
覆工体の構築方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の覆工体の構築方法であって、
前記水底に含まれる水が排水されると、水圧が作用して前記封止部材は前記板部材のそれぞれに対して押し付けられる、
覆工体の構築方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の覆工体の構築方法であって、
前記板部材は杭に載置されて地盤に支持される、
覆工体の構築方法。
【請求項8】
水中の水底に設けられる覆工体の下方に空間が形成される覆工構造であって、
前記空間は、前記覆工体によって前記水中からの水の侵入を遮断して形成され、
前記覆工体は、
前記水底に配置され地盤に支持される複数の板部材と、
隣接する前記板部材の間の隙間である継目隙間を覆うように、隣接する前記板部材にわたって設けられる封止部材と、を有する、
覆工構造。
【請求項9】
水中の水底に設けられる覆工体の下方に空間が形成される覆工構造であって、
前記空間は、前記覆工体によって前記水中からの水の侵入を遮断して形成され、
前記覆工体は、
前記水底に配置され地盤に支持される板部材と、
前記板部材の端部を支持する支持部と、
前記板部材と前記支持部との間の隙間である継目隙間を覆うように、前記板部材と前記支持部とにわたって設けられる封止部材と、を有する、
覆工構造。
【請求項10】
請求項8または9に記載の覆工構造であって、
前記板部材は杭に載置され地盤に支持される、
覆工構造。
【請求項11】
請求項8に記載の覆工構造であって、
前記覆工体は、格子形状に配置される4つの前記板部材を備え、
4つの前記板部材の角部の間であって格子形状の交差部分には、平面視で十字状の前記継目隙間が形成され、
前記封止部材は、平面視で十字状に形成され、十字状に形成される前記継目隙間を覆うように4つの前記板部材にわたって設けられる、
覆工構造。
【請求項12】
請求項9に記載の覆工構造であって、
前記覆工体は、それぞれ前記支持部によって支持され互いに隣接する2つの前記板部材を備え、
2つの前記板部材の角部と前記支持部との間には、平面視でT字状の前記継目隙間が形成され、
前記封止部材は、平面視でT字状に形成され、T字状に形成される前記継目隙間を覆うように2つの前記板部材と前記支持部とにわたって設けられる、
覆工構造。
【請求項13】
請求項9に記載の覆工構造であって、
前記板部材は、前記支持部によって支持される角部を有し、
前記板部材の前記角部と前記支持部との間には、平面視でL字状の前記継目隙間が形成され、
前記封止部材は、平面視でL字状に形成され、L字状に形成される前記継目隙間を覆うように前記板部材の前記角部と前記支持部とにわたって設けられる、
覆工構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に設けられる覆工構造及び覆工体の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水底トンネルの構築方法として、貫通型函体を、水底において隣接する貫通型函体に接合しながら複数個並べ、複数の貫通型函体を接合した函体群の両端部を外水から遮断し、函体群の内部に滞留する内水を排水して函体群内を気中状態とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるような方法は、函体の接続が水中で行われるものであることから、その作業には様々な制約が生じる。
【0005】
これに対し、水中トンネルの構築方法として、水中の水底に覆工体を構築し、覆工体の下方を掘削して空間を作り、当該空間内でトンネルを構築する方法が考えられる。このような方法では、覆工体の下方の空間に対して水中からの水の浸入をいかに遮断するかが課題となる。
【0006】
本発明は、水中から遮断された空間を水底に形成するための覆工体を構築することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水中の水底に設けられる覆工体の構築方法であって、水底を覆うようにして地盤に支持される複数の板部材を配置する工程と、水底に配置された隣接する板部材の間の継目隙間を覆うように、隣接する前記板部材にわたって封止部材を配置する工程と、板部材に覆われた水底を掘削する工程と、を含む。
【0008】
また、本発明は、水中の水底に設けられる覆工体の構築方法であって、水底を覆うようにして地盤に支持される板部材を、その端部が支持部に支持されるように配置する工程と、水底に配置された板部材と支持部との間の継目隙間を覆うように、板部材と支持部とにわたって封止部材を配置する工程と、板部材に覆われた水底を掘削する工程と、を含む。
【0009】
また、本発明は、水中の水底に設けられる覆工体の構築方法であって、水底を覆うようにして地盤に支持される複数の板部材を配置する工程と、水底に配置された隣接する板部材の間の継目隙間を覆うように、隣接する板部材にわたって封止部材を配置する工程と、板部材に覆われた水底に含まれる水を排水する工程と、を含む。
【0010】
また、本発明は、水中の水底に設けられる覆工体の構築方法であって、水底を覆うようにして地盤に支持される板部材を、その端部が支持部に支持されるように配置する工程と、水底に配置された板部材と支持部の間の継目隙間を覆うように、板部材と支持部とにわたって封止部材を配置する工程と、板部材に覆われた水底に含まれる水を排水する工程と、を含む。
【0011】
また、本発明は、水中の水底に設けられる覆工体の下方に空間が形成される覆工構造であって、空間は、覆工体によって水中からの水の侵入を遮断して形成され、覆工体は、水底に配置され地盤に支持される複数の板部材と、隣接する板部材の間の隙間である継目隙間を覆うように、隣接する板部材にわたって設けられる封止部材と、を有する。
【0012】
また、本発明は、水中の水底に設けられる覆工体の下方に空間が形成される覆工構造であって、空間は、覆工体によって水中からの水の侵入を遮断して形成され、覆工体は、水底に配置され地盤に支持される板部材と、板部材の端部を支持する支持部と、板部材と支持部との間の隙間である継目隙間を覆うように、板部材と支持部とにわたって設けられる封止部材と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水中からの水の浸入が遮断された空間が水底に構築される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る覆工体の断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る覆工体の平面図である。
【
図3】(a)は、板部材の平面図であり、(b)は、板部材の側面図である。
【
図4】
図2におけるIV-IV線に沿った断面図である。
【
図5】
図2におけるV-V線に沿った断面図である。
【
図6】
図2におけるVI-VI線に沿った断面図である。
【
図7】
図2におけるVII-VII線に沿った断面図である。
【
図8】
図2におけるVIII-VIII線に沿った断面図である。
【
図9】
図2におけるIX-IX線に沿った断面図である。
【
図10】(a)は、第一封止部材の平面側斜視図であり、(b)は、第一封止部材の底面側斜視図である。
【
図11】(a)は、第二封止部材の平面側斜視図であり、(b)は、第二封止部材の底面側斜視図である。
【
図12】(a)は、第三封止部材の平面側斜視図であり、(b)は、第三封止部材の底面側斜視図である。
【
図13】(a)は、第四封止部材の平面側斜視図であり、(b)は、第四封止部材の底面側斜視図である。
【
図14】(a)は、第五封止部材の平面側斜視図であり、(b)は、第五封止部材の底面側斜視図である。
【
図15】本発明に係る覆工体の構築方法を説明するための断面図であり、支持壁を設ける工程を示す。
【
図16】本発明に係る覆工体の構築方法を説明するための断面図であり、水底を浚渫する工程を示す。
【
図17】本発明に係る覆工体の構築方法を説明するための断面図であり、水底に杭を設置する工程を示す。
【
図18】本発明に係る覆工体の構築方法を説明するための断面図であり、板部材及び封止部材を配置する工程を示す。
【
図19】本発明の実施形態に係る覆工体の第一変形例を示す断面図である。
【
図20】本発明の実施形態に係る覆工体の第二変形例を示す断面図である。
【
図21】本発明の実施形態に係る覆工体の第三変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る覆工体100及びその構築方法について説明する。
【0016】
本実施形態に係る覆工体100は、河川、海、湖等の水中にトンネルを構築するために水底に設けられるものである。以下では、河川Rに設けられる覆工体100を例に説明する。また、以下では、特に言及する場合を除き、鉛直方向の上下をそれぞれ「上」、「下」と称する。
図1における上下方向が鉛直方向、左右方向が水平方向に相当する。また、各図において、共通、連続、重複する構成については、一部の符号を省略している。
【0017】
図1に示すように、覆工体100は、略水平方向に延びる平板状の構造体である。覆工体100の下方には、河川Rの水中から遮断され、水が排出されて気体で満たされる下方空間Sが形成される。
【0018】
河川Rの岸壁には、コンクリート製の既設護岸101がその岸壁に沿って設けられる。また、河川Rの水底には、覆工体100を支持するためのコンクリート製の支持壁102が設けられる。覆工体100の外縁の端部は、既設護岸101及び支持壁(地中壁)102といった構造物によって地盤Gに対して支持されている。言い換えると、鉛直方向に垂直な平面視(
図2)において、既設護岸101及び支持壁102によって囲われる領域が、覆工体100が構築される領域(以下、「構築領域」と称する。)である。
【0019】
本実施形態では、覆工体100と既設護岸101との高さが異なる。覆工体100の端部は、
図1に示すように、既設護岸101に取り付けられたブラケット103によって支持される。支持壁102と覆工体100との高さが異なる場合には、支持壁102にブラケット103を設けて覆工体100を支持してもよい。また、覆工体100と既設護岸101との高さが略一致する場合には、既設護岸101によって覆工体100を直接支持してもよい。なお、本実施形態では、支持壁(地中壁)102としたが、壁体に限らず、地下に設置された杭(不図示)であってもよい。
【0020】
以下では、覆工体100の外縁の端部を支持する既設護岸101、支持壁102、既設護岸101又は支持壁102に取り付けられるブラケット103をまとめて「支持部」と称する。なお、支持部は、板部材10の端部が支持部を介して地盤Gに支持されるように、構成されていればよい。言い換えれば、板部材10の端部は、地盤Gに直接支持されるものでなく、所定の強度を有するものを介して支持されていればよく、必ずしも支持壁(地中壁)102や杭を介して地盤Gに支持される必要はない。
【0021】
以下、覆工体100の構成について、具体的に説明する。
【0022】
覆工体100は、
図1及び
図2に示すように、略水平方向に隣接する複数の板部材10と、隣接する板部材10の間の継目隙間C(
図4及び5参照)及び板部材10と支持部との間の継目隙間C(
図6から
図9参照)を封止して河川Rの水の浸入を遮断する封止部材30と、を備える。封止部材30は、河川Rの水底に配置された隣接する板部材10のそれぞれに対して水圧によって押し付けられて継目隙間Cを封止して河川Rの水の浸入を遮断する。また、封止部材30は、河川Rの水底に配置された板部材10と支持部のそれぞれに対して水圧によって押し付けられて継目隙間Cを封止して河川Rの水の浸入を遮断する。
【0023】
板部材10は、
図2及び
図3に示すように、平面視(
図3(a)参照)で略四角形に形成される板状の部材であって、例えば、鋼製である。板部材10は、水平方向に沿うように設けられており、その法線が鉛直方向に略平行となるように配置される(
図1参照)。つまり、複数の板部材10は、それぞれ水平方向に対して平行に設けられ、略同一平面上に設けられる。板部材10は、河川Rの水底に設置される杭105に載置され、杭105によって下方から支持される。板部材10は、支持部及び杭105に載置されるのみであって固定されるものではない。
【0024】
本実施形態では、
図2に示すように、板部材10は、河川Rの幅方向(図中左右方向)に2列並んで設けられ、流れ方向(
図2中上下方向)には構築領域に対応して所定の数(複数)だけ並んで設けられる。河川Rの幅方向に並ぶ板部材10は、流れ方向に対する位置が略一致する。つまり、複数の板部材10は、升目状に並んで配置される。複数の板部材10は、互いに水平方向に隙間(継目隙間C、
図4参照)を空けて配置される。より具体的には、
図4に示すように、複数の板部材10は、鉛直方向に重ならず(平面視で重ならず)、側面が互いに対向するように水平方向に並んで設けられており、隣接する板部材10の側面間に継目隙間Cが形成される。なお、板部材10は、河川Rの幅方向に1列、又は、3列以上配置されるものでもよい。また、板部材10の配置は、升目状に限定されない。
【0025】
覆工体100の外縁となる板部材10の端部は、支持部である支持壁102又はブラケット103に載置される。具体的には、左右方向の一方側(
図2中右側)にある板部材10の端部は、既設護岸101に取り付けられたブラケット103に載置される。左右方向の他方側(
図2中左側)にある板部材10の端部は、支持壁102に載置される。また、一部図示を省略するが、上流側及び下流側に配置される板部材10の上流側端部及び下流側端部は、支持壁102に載置される。
【0026】
板部材10と板部材10が載置される支持部とは、水中の水の浸入を遮断するように完全に密着はせず、板部材10と支持部との間にも、水が浸入可能な継目隙間C(
図6から
図8参照)が形成される。よって、本実施形態では、板部材10間の継目隙間C及び板部材10と支持部との間の継目隙間Cが、平面視で格子状を形成するように設けられる。
【0027】
板部材10の上方側の外縁部には、
図3に示すように、断面矩形の切り欠き10aが平面視における板部材10の四角形の外形に沿って全周にわたり形成される。これにより、板部材10の外縁部は、中央部よりも厚みが薄く形成され、外縁部に段付き構造が形成される。これにより、
図4に示すように、隣接する板部材10の間には、封止部材30が配置される収容空間が板部材10の切り欠き10aによって形成される。隣接する板部材10の切り欠き10aによって形成される収容空間は、板部材10間の継目隙間Cに連通するようにして継目隙間Cの上方に形成される。収容空間の水平方向の幅(
図4中の左右方向の寸法)は、継目隙間Cの大きさよりも大きく形成される。
【0028】
一又は複数の板部材10には、
図4に示すように、後述する覆工体100の構築方法において、覆工体100の下方の水底から水が排水されたか否かを判断するために、水中、すなわち水域に連通する領域の圧力を測定可能な第一圧力センサ60(第一圧力測定部)及び、水中すなわち水域の水の浸入が遮断されたドライな状態である領域の圧力を測定可能な第二圧力センサ61(第二圧力測定部)が設けられる。第一圧力センサ60は、河川Rの水中の圧力を測定するように、板部材10に取り付けられる。第二圧力センサ61は、覆工体100の封止部材30によって河川Rの水中から遮断された板部材10の下方空間S側(継目隙間C側の空間)の圧力を測定するように、板部材10に取り付けられる。第一圧力センサ60及び第二圧力センサ61の測定結果は、図示しないコントローラに入力される。
【0029】
封止部材30は、板部材10間及び板部材10と支持部との間で格子状に形成された継目隙間Cを封止するために、形状が異なる複数のものが配置される。まず、
図4及び
図5を参照して、封止部材30において共通する基本構成について説明する。
【0030】
各封止部材30は、
図4及び
図5に示すように、主に、板部材10の切り欠き10aに収容され受圧部として機能する本体部31と、板部材10あるいは支持部との間の隙間又は本体部31どうしの間の隙間を封止するシール部40と、を有する。封止部材30は、継目隙間Cへの河川Rの水の浸入を遮断する。
【0031】
本体部31は、上面に開口を有する箱状に形成される。具体的には、本体部31は、板部材10又は支持部に載置される底面部32と、底面部32の外縁部から鉛直方向の上方へ延びて設けられる複数の側面部35と、を有する。本体部31は、例えば、鋼製であり、シール部40と比較して剛性が高い。隣接する封止部材30の本体部31どうしは、互いに連結される。なお、本体部31は必ずしも上面に開口を有している必要はない。つまり、本体部31は、箱状に限定されない。
【0032】
本実施形態では、隣接する板部材10にわたって設けられる封止部材30の本体部31は、隣接する板部材10の切り欠き10aによって形成される収容空間に収容され、隣接する本体部31に載置される。板部材10と支持部とわたって設けられる封止部材30の本体部31は、一部が板部材10の切り欠き10aが形成する収容空間に収容され、板部材10及び支持部に載置される。このように、各封止部材30の本体部31は、それぞれ板部材及び/又は支持部に載置されるのみであって固定されるものではない。なお、各封止部材30の本体部31は、それぞれ板部材及び/又は支持部に対して固定される構成でもよい。
【0033】
一又は複数の封止部材30の本体部31には、板部材10に覆われた水底に含まれる地下水をくみ上げて排出するためのバルブ付き配管62が設けられる。
【0034】
シール部40は、例えば、弾性部材であるゴムによって形成されるゴムガスケットであり、本体部31に取り付けられる。シール部40は、本体部31と板部材10又は支持部との間に設けられる第一弾性部41(弾性部)と、自身が取り付けられる本体部31と当該本体部31に隣接する本体部31との間に設けられる第二弾性部42(弾性部)と、を有する。第一弾性部41と第二弾性部42とは、互いに接続され、シール部40は無端状に形成される。シール部40は本体部31と比較して剛性が低く弾性係数(変形係数)が大きい。
【0035】
このように、封止部材30は、本体部31及びシール部40を有して、継目隙間Cへの水の浸入を遮断するという構成においては共通する一方、配置される位置に応じて本体部31及びシール部40の形状が異なる。封止部材30は、相対的に剛性の高い(変形しづらい)材料と剛性の小さい(変形しやすい)材料との複合体により、継目隙間Cへの水の浸入を確実に遮断する。
【0036】
以下では、各封止部材30の具体的形状について説明する。覆工体100は、封止部材30として、
図2に示すように、2つの板部材10にわたって設けられる第一封止部材30a、継目隙間Cが構成する格子形状の交差部分に設けられ4つの板部材10にわたって設けられる第二封止部材30b、1つの板部材10の辺部分と支持部とにわたって設けられる第三封止部材30c、格子形状の交差部分に設けられ2つの板部材10と支持部とにわたって設けられる第四封止部材30d、及び1つの板部材10の角部と支持部とにわたって設けられる第五封止部材30eを有している。以下では、封止部材30の各構成について、第一~第五封止部材30a~30eに対応する添え字aからeを付して、説明する。
【0037】
[第一封止部材30a]
図2に示すように、第一封止部材30aは、2つの板部材10の四角形状の辺部の間に設けられるものである。第一封止部材30aは、2つの板部材10の間で直線状に延びる継目隙間Cを封止する。
【0038】
図10に示すように、第一封止部材30aの本体部31aは、平面視で長方形状に形成される底面部32aと、底面部32aの外周縁部から底面部32aに対して垂直に設けられる側面部35aと、を有する。本体部31aは、2つの板部材10の間の継目隙間Cを覆うように2つの板部材10にわたって設けられ、切り欠き10aによって形成される収容空間に収容される。収容空間に収容された本体部31と切り欠き10aとの間には、水平方向(図中左右方向)に隙間が設けられる(
図4参照)。
【0039】
第一弾性部41aは、隣接する板部材10のそれぞれの切り欠き10aと本体部31aとの間において、切り欠き10aに沿って設けられる。第一弾性部41aは、本体部31aの長手方向の全体にわたって設けられる。これにより、本体部31aと2つの板部材10の切り欠き10aとの間の隙間が、第一弾性部41aによって閉塞される(
図4参照)。このため、板部材10の切り欠き10aの内壁と本体部31aとの間の隙間を通じた、継目隙間Cへの河川Rの水の浸入が、第一弾性部41aによって遮断される。
【0040】
本体部31aの長手方向の両端部に設けられる側面部35a、言い換えると、他の封止部材30に対向する側面部35aには、第二弾性部42aが設けられる。第二弾性部42aは、一端が対応する第一弾性部41aに接続される一対の平行部と、一対の平行部の他端同士を接続する接続部と、を有する略U字形状に形成される。このように、第二弾性部42aは、一方の板部材10に接触する第一弾性部41aと他方の板部材10に接触する第一弾性部41aとを接続するように側面部35aに設けられる。このように、シール部40aは、無端状に形成されて本体部31に取り付けられる。
【0041】
[第二封止部材30b]
図2に示すように、第二封止部材30bは、4つの板部材10の角部の間であって、継目隙間Cの格子形状の交差部分に設けられる。第二封止部材30bは、4つの板部材10の間で十字状に形成される継目隙間Cを閉塞する。
【0042】
第二封止部材30bの本体部31bの底面部32bは、平面視で十字状に形成される。本体部31bは、4つの板部材10の間の継目隙間Cを覆うように4つの板部材10にわたって設けられ、切り欠き10aの間の収容部に収容される。
【0043】
第一弾性部41bは、
図11に示すように、各板部材10の切り欠き10aの角部の形状に対応してL字状に形成され、4つの板部材10の切り欠き10aのそれぞれと本体部31bとの間に設けられる。
【0044】
十字状に形成される第二封止部材30bの本体部31bでは、4つの側面部35bが他の封止部材30に対向する。よって、この4つの側面部35bに第二弾性部42bが設けられる。他の封止部材30に対向する4つの側面部35bのそれぞれには、一対の第一弾性部41bが臨んでいる。第二弾性部42bは、第一封止部材30aと同様、一端が対応する第一弾性部41bに接続される一対の平行部と、一対の平行部の他端同士を接続する接続部と、を有する略U字形状に形成される。
【0045】
[第三封止部材30c]
図2に示すように、第三封止部材30cは、1つの板部材10の辺部分と支持部とにわたって設けられるものである。第三封止部材30cは、1つの板部材10と支持部との間で直線状に延びる継目隙間Cを閉塞する。
【0046】
第三封止部材30cの本体部31cの底面部32cは、平面視で長方形状に形成される。
図12に示すように、第三封止部材30cの本体部31cの底面部32cは、鉛直方向の高さが異なって形成される第一底壁面33c及び第二底壁面34cを有する段差形状に構成される。
図6に示すように、第三封止部材30cの本体部31の底面部32における段差形状は、支持部(支持壁102)と当該支持部に載置される板部材10とで構成される段差に対応するように形成される。
【0047】
相対的に高い位置にある第一底壁面33cは、板部材10の切り欠き10aに載置され、相対的に低い位置にある第二底壁面34cは、支持部に載置される。第一底壁面33cと板部材10の切り欠き10aとの間、及び、第二底壁面34cと支持部との間に、それぞれ第一弾性部41cが設けられる。第一弾性部41cは、本体部31cの切り欠き10aに対応して、直線状に設けられる。
【0048】
本体部31の長手方向の両端の側面部35cには、第二弾性部42が設けられる。第二弾性部42cの構成は、第一封止部材30aの第二弾性部42aと類似の形状であるため、説明は省略する。
【0049】
[第四封止部材30d]
図2に示すように、第四封止部材30dは、2つの板部材10の角部と支持部との間であって、継目隙間Cの格子形状の交差部分に設けられる。第四封止部材30dは、2つの板部材10と支持部との間でT字状に形成される継目隙間Cを閉塞する。
【0050】
第四封止部材30dの本体部31dの底面部32dは、平面視でT字状に形成される。また、
図7、
図8及び
図13に示すように、第三封止部材30cと同様、第四封止部材30dの本体部31dの底面部32dは、鉛直方向の高さが異なって形成される第一底壁面33d及び第二底壁面34dを有する段差形状に構成される。
【0051】
図7及び
図8に示すように、相対的に高い位置にある第一底壁面33dは、2つの板部材10の切り欠き10aにそれぞれ載置され、相対的に低い位置にある第二底壁面34dは、支持部(支持壁102,ブラケット103)に載置される。第一底壁面33dと2つ板部材10の切り欠き10aとのそれぞれの間、及び、第二底壁面34dと支持部との間に、それぞれ第一弾性部41dが設けられる。2つの板部材10の切り欠き10aと本体部31dとの間の第一弾性部41dは、本体部31dの切り欠き10aの角部に対応して、L字状に設けられる。支持部と本体部31dとの間の第一弾性部41dは、直線状に設けられる。
【0052】
T字状に形成される第四封止部材30dの本体部31dでは、3つの側面部35dが他の封止部材30に対向する。3つの側面部35dには、第二弾性部42dが設けられる。第二弾性部42の構成は、第一封止部材30aの第二弾性部42と類似の形状であるため、説明は省略する。
【0053】
[第五封止部材30e]
図2に示すように、第五封止部材30eは、1つの板部材10の角部と支持部とにわたって設けられるものである。第五封止部材30eは、1つの板部材10の角部と支持部との間でL字状に形成される継目隙間Cを封止する。
【0054】
第五封止部材30eの本体部31eの底面部32eは、平面視でL字状に形成される。また、第三封止部材30c及び第四封止部材30dと同様に、第五封止部材30eの本体部31eの底面部32eは、鉛直方向の高さが異なって形成される第一底壁面33e及び第二底壁面34eを有する段差形状に構成される。
【0055】
相対的に高い位置にある第一底壁面33eは、板部材10の切り欠き10aの角部に載置され、相対的に低い位置にある第二底壁面34eは、支持部に載置される。第一底壁面33eと板部材10の切り欠き10aとの間、及び、第二底壁面34eと支持部との間に、それぞれ第一弾性部41eが設けられる。第五封止部材30eの第一弾性部41eは、本体部31の角部に対応して、L字状に設けられる。
【0056】
L字状に形成される第五封止部材30eの本体部31eでは、2つの側面部35eが他の封止部材30に対向する。この2つの側面部35eには、第二弾性部42eが設けられる。第二弾性部42eの構成は、第一封止部材30aの第二弾性部42と類似の形状であるため、説明は省略する。
【0057】
[隣接する封止部材30どうしの連結構造]
隣接する封止部材30どうしの連結構造は、いずれの封止部材30の組み合わせであっても同様の構成であるため、
図9を参照して、第一封止部材30aと第二封止部材30bとを連結する場合を例に説明する。
【0058】
第一封止部材30aの本体部31aの一部の側面部35aと、第二封止部材30bの本体部31bの一部の側面部35bとは、互いに対向している。対向する第一封止部材30aの側面部35aと第二封止部材30bの側面部35bとは、それぞれの第二弾性部42a,42bを避けるようにしてボルト(図示省略)が挿通されてナット(図示省略)によってねじ締結される。これにより、第一封止部材30aの側面部35aに設けられる第二弾性部42aと、第二封止部材30bの側面部35bに設けられる第二弾性部42bと、がそれぞれ側面部35a,35bによって挟まれ、ボルト及びナットの締結力によって圧縮される。したがって、第一封止部材30aの側面部35aと第二封止部材30bの側面部35bとの間の隙間が、それぞれの第二弾性部42a,42bによって封止される。
【0059】
以上のように、第一~第五封止部材30a~30eを組み合わせて板部材10の切り欠き10aに配置することで、板部材10間の継目隙間Cと、板部材10と支持部との間の継目隙間Cと、が全体にわたって封止され、河川Rの水が継目隙間Cへ浸入することが防止される。これにより、覆工体100の下方には、河川Rの水中から遮断された下方空間Sが形成される。
【0060】
また、各封止部材30のシール部40の第一弾性部41は、鉛直方向において本体部31と板部材10又は支持部との間に設けられる。また、下方空間Sは、水が排出され気体が満たされる空間として形成される。これにより、第一弾性部41は、本体部31の自重に加えて、本体部31に作用する水圧によっても、板部材10又は支持部に対して押し付けられて圧縮される。これにより、第一弾性部41と板部材10又は支持部との密着性が高められ、第一弾性部41によるシール性(止水性)が向上する。
【0061】
また、覆工体100では、下方空間Sに臨む継目隙間Cの開口部分に二次封止部材としての二次止水ゴム50が取り付けられる。二次止水ゴム50は、可撓性を有する止水ジョイントであって、板部材10どうしの間及び板部材10と支持部との間の継目隙間Cにわたって設けられる。二次止水ゴム50が取り付けられることにより、下方空間Sへの水の浸入がより確実に遮断される。二次止水ゴム50は、オメガ型、M型、L型など、任意の形状とすることができる。
【0062】
次に、覆工体100の構築方法及び水中トンネルの構築方法について説明する。
【0063】
まず、覆工体100の構築方法について説明する。
【0064】
覆工体100の構築方法では、
図15に示すように、覆工体100を構築する領域に対応して支持壁102を設置する。支持壁102は、例えば、水底に鋼管矢板を打設し、鋼管矢板の上端部にコーピングコンクリートを打設することで形成される。支持壁102は、覆工体100によって形成される下方空間Sに対して水底中の地下水の流入を遮断する遮水壁としても機能する。このように設けられた支持壁102と既設護岸101とで平面視で囲われる閉じられた領域が、覆工体100が構築される構築領域である。言い換えると、支持壁102は、所望の構築領域が形成されるように、水底に設置される。
【0065】
また、覆工体100に覆われて後述のように掘削される水底の領域(言い換えると、後に下方空間Sとされる領域。以下、「掘削領域」と称する。)の側方の地中には、遮水壁104が設置される。より具体的には、遮水壁104は、掘削領域(下方空間S)に対して既設護岸101側からの地下水の流入を遮断するように、板部材10を支持する既設護岸101を挟んで支持壁102とは反対側の地中に設けられる。遮水壁104及び遮水壁としても機能する支持壁102によって、掘削領域及び掘削領域を掘削することで形成される下方空間Sに対する側方からの地下水の浸入が遮断される。これにより、掘削領域の掘削及び後述する下方空間S内でのトンネル構築の作業性が向上する。なお、遮水壁104を設置する工程は、必須のものではない。
【0066】
次に、構築領域の水底を、覆工体100の厚さに対応する深さによって浚渫する。浚渫された水底面は、
図16に示すように、支持壁102の上面と略一致する(言い換えると、同じ高さとなる)。なお、この工程は、水底面を浚渫することに限定されず、板部材10の平板面に沿うように水底の不陸を平坦になるように整形するものでもよい。つまり、この工程は、板部材10を設置する略平坦な設置面を形成することができれば、任意の方法を採用してよい。
【0067】
次に、
図17に示すように、浚渫して形成された水底面に複数の杭105を設置する。杭105は、水底面から突出しないように水底面に埋め込まれて設置される。また、本実施形態では、浚渫された水底面の高さと覆工体100を支持する既設護岸101の高さとが異なる。このため、水底を浚渫すると共に、構築領域内の既設護岸101にブラケット103が設置される。ブラケット103は、断面がクランク形状に形成され既設護岸101に沿って設けられる。ブラケット103には、浚渫された水底面と高さが略一致する支持面が形成される。なお、杭105の打設(設置)は水底の浚渫や整形といった設置面の形成に先行して行ってもよい。
【0068】
次に、構築領域の水底を覆うようにして複数の板部材10を配置する。複数の板部材10は、水平方向に隙間(継目隙間C)を空けて、配置される。また、複数の板部材10は、支持部である支持壁102又はブラケット103に端部が支持されるように、水底に配置される。
【0069】
次に、
図18に示すように、板部材10どうしの間及び板部材10と支持部との間の継目隙間Cを封止するように板部材10の切り欠き10aに封止部材30を配置する。具体的には、陸上においてシール部40を本体部31に取り付けて、予め封止部材30を形成しておく。そして、封止部材30を水中に投入して板部材10の切り欠き10aに収容し、隣接する封止部材30の本体部31どうしをボルト及びナットによって連結する。なお、封止部材30は、個別に水中に投入して板部材10及び支持部に配置してもよいし、いくつかの封止部材30どうしを予め連結しておき、連結した複数の封止部材30を水中に投入して板部材10及び支持部に配置してもよい。
【0070】
また、板部材10が板部材10-1、10-2・・・のように順番に設置される場合において、先に配置された板部材10-1に対して隣接する板部材10-2に予め封止部材30を仮固定しておき、当該板部材10-2を先に配置された板部材10-1に隣接する位置に配置するようにしてもよい。このような場合でも、板部材10-2に仮固定された封止部材30が、板部材10-1と板部材10-2と間(板部材10どうしの間)に配置されることとなる。同様に、板部材10と支持部の間においては、封止部材30は、板部材10に予め封止部材30を仮固定して配置しておいて、板部材10と支持部との間に配置されてもよい。
【0071】
次に、板部材10に覆われた構築領域の水底を掘削する。水底を掘削するにあたり、まず、板部材10に覆われる水底に含まれる地下水を排水する。地下水の排水は、例えば、一又は複数の封止部材30における本体部31に設けられたバルブ付き配管62を通じてポンプで水をくみ上げるようにして行うことができる。なお、地下水の排水方法は、この方法に限定されない。
【0072】
板部材10に覆われた水底の水が排水されたか否かは、河川Rの水中空間の圧力を測定する第一圧力センサ60と、河川Rに対して第一弾性部41によって隔てられる継目隙間C側の空間の圧力を測定する第二圧力センサ61と、の測定結果を比較することで判断される。第一圧力センサ60及び第二圧力センサ61の測定結果の差が、所定の閾値以上であれば、言い換えると、第一弾性部41を境界として水中側の空間と継目隙間C側の空間との間の圧力差が所定以上となれば、封止部材30が板部材10、すなわち、板部材10の切り欠き10aに押し付けられる力が十分に作用したものと判断して、排水が完了する。このような排水の確認は、コントローラが実行するプログラムによって自動的に行われてもよいし、モニタ等に表示された第一圧力センサ60及び第二圧力センサ61の測定結果を作業者が確認することで行われてもよい。
【0073】
水底に含まれる水が排水されると、水底を掘削して、トンネルを形成するために必要な空間が形成される。水底の掘削は、例えば、支持壁102を避けて、既設護岸101の下方から河川Rの幅方向(図中左方向)に向けて掘削を進めることで行われる。なお、水底の掘削前に行われる地下水の排水は、必須のものではない。
【0074】
水底に含まれる水の排水又は水底の掘削が行われると、河川Rの水中である板部材10の上方には水圧が生じる一方、板部材10の下方には水圧が生じず大気圧となる。このため、板部材10の切り欠き10aに配置された封止部材30の本体部31には、河川Rの水圧が下方に向けて作用する。本体部31に水圧が作用することで、シール部40の第一弾性部41が板部材10又は支持部に向けて押し付けられて圧縮される。これにより、封止部材30の本体部31と板部材10又は支持部との間の隙間が封止され、ひいては、板部材10間の継目隙間C及び板部材10と支持部との間の継目隙間Cが封止される。よって、継目隙間Cは、封止部材30のシール部40によって、河川Rの水中からは遮断される。第一圧力センサ60と第二圧力センサ61の測定値の差が大きいほど、水圧によって封止部材30が板部材10の切り欠き10aに押し付けられる力が大きく作用する。封止部材30が板部材10の切り欠き10aに押し付けられる力が大きいほど、下方空間S側への水中の水の浸水を封止部材30によってより効果的に低減することができる。
【0075】
次に、下方空間S側から、二次止水ゴム50を継目隙間Cの全体にわたって取り付ける。
【0076】
以上のようにして、
図1に示すように、河川Rの水底に覆工体100が構築され、覆工体100の下方には河川Rの水の浸入が遮断された下方空間Sが形成される。
【0077】
覆工体100では、板部材10は杭105及び支持部に載置されることで支持されるのみであり、杭105や支持部に対して固定されるものではない。また、封止部材30のシール部40は、本体部31に対して固定されるものではない。このため、覆工体100は、可撓性を有する構造となり、地震等で振動が生じても、下方空間Sへの水の止水性を保ちやすい。
【0078】
覆工体100が構築されると、覆工体100の下方空間Sにおいて、トンネルの構築が行われる。トンネルは、例えば、中空部を有して予め形成されるコンクリート製の函体(いわゆるボックスカルバート)を連結することで、構築される。トンネルが構築されると、覆工体100の下方の空間は埋め戻され、覆工体100が撤去される。これにより、河川Rの水底にトンネルが構築される。
【0079】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0080】
本実施形態では、封止部材30が水圧によって板部材10又は支持部に押し付けられることで、継目隙間Cへの水の止水性を高めることができる。これにより、覆工体100の下方の空間を水中から効果的に遮断することができる。
【0081】
また、本実施形態では、第一圧力センサ60及び第二圧力センサ61を用いて継目隙間側の排水を確認したうえで、板部材10に覆われた水底の掘削が行われる。これにより、掘削作業の安全性を高めることができる。
【0082】
以上、本実施形態に係る覆工体100及びその構築方法について説明したが、次のような変形例も本発明の範囲内である。また、変形例に示す構成と上記の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0083】
上記実施形態では、第一圧力センサ60及び第二圧力センサ61は、板部材10に取り付けられる。これに対し、第一圧力センサ60及び第二圧力センサ61は、板部材10に取り付けられる構成に限定されない。例えば、
図19に示すように、第一圧力センサ60及び/又は第二圧力センサ61は、封止部材30の本体部31に取り付けられるものでもよい。また、図示は省略するが、第一圧力センサ60及び/又は第二圧力センサ61は、支持部に取り付けられてもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、第一圧力センサ60及び第二圧力センサ61は、隣接する板部材10間の継目隙間Cを封止する封止部材30(第一封止部材30a、第二封止部材30b)によって隔てられた水中側の圧力と下方空間S側の圧力とを測定するように設けられる。これに代えて、又は、これに加えて、
図20に示すように、第一圧力センサ60及び第二圧力センサ61は、板部材10と支持部との間の継目隙間Cを封止する封止部材30(第三封止部材30c,第四封止部材30d,第五封止部材30e)によって隔てられた水中側の圧力と下方空間S側の圧力とを測定できるように設けられてもよい。この場合、第一圧力センサ60及び第二圧力センサ61は、
図20に示すように板部材10と支持部との間の継目隙間Cを封止する封止部材30の本体部31に設けられてもよいし、支持部又は板部材10に設けられてもよい。このように、第一圧力センサ60及び第二圧力センサ61が設けられる位置は、任意の構成とすることができる。
【0085】
また、上記実施形態では、板部材10の外周縁には、矩形断面の切り欠き10aが形成され、切り欠き10aに収容される封止部材30の本体部31も切り欠き10aに対応して矩形断面を有する(
図4等参照)。これに対し、
図21に示すように、板部材10の外周縁部は、切り欠き10aに代えて、鉛直方向上方に向かうにつれ板部材10の中心に向かうように傾斜するテーパ面10bが形成されてもよい。この場合、封止部材30の本体部131は、隣接する板部材10のテーパ面10bによって形成される台形状の空間に対応するように、断面が台形に形成される。つまり、板部材10のテーパ面10bによって形成される台形断面状の空間に、台形断面を有する本体部131を挿入して楔構造としてもよい。このような変形例であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。なお、板部材10の形状は、上記実施形態や
図21に示す変形例に限定されない。例えば、板部材10は、切り欠き10aやテーパ面10bが形成されない、矩形断面を有する単なる平板形状であってもよい。また、切り欠き10aの断面形状も、上記実施形態のような矩形に限定されるものではない。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0087】
本明細書には、以下の形態も含まれる。
【0088】
水中の水底に設けられる覆工体の構築方法は、水底を覆うようにして複数の板部材を配置する工程と、水底に配置された隣接する板部材のそれぞれに対して水圧によって押し付けられて板部材の間の継目隙間を封止し水の浸入を遮断する封止部材を配置する工程と、板部材に覆われた水底を掘削する工程と、を含む。
【0089】
覆工体の構築方法では、封止部材は、隣接する板部材にわたって設けられ水圧を受ける受圧部と、受圧部に作用する水圧によって受圧部と板部材との間で圧縮される弾性部と、を有する。
【0090】
覆工体の構築方法では、封止部材を配置する工程では、継目隙間に沿って複数の封止部材が配置され、封止部材は、隣接する板部材にわたって設けられ水圧を受ける受圧部と、受圧部に作用する水圧によって受圧部と板部材との間で圧縮される第一弾性部と、受圧部と当該受圧部に隣接する封止部材の受圧部との間に設けられて、受圧部の間の隙間を通じた水中と継目隙間との連通を遮断する第二弾性部と、を有する。
【0091】
覆工体の構築方法では、水底を掘削する工程は、封止部材によって隔てられる水中側の空間の圧力を測定する第一圧力測定部と封止部材によって隔てられる継目隙間側の空間の圧力を測定する第二圧力測定部との測定結果が所定の閾値以上である場合に実行される。
【0092】
覆工体の構築方法では、水底下に複数の杭を設置する工程をさらに含み、板部材を配置する工程では、板部材が杭によって支持されるように板部材を水底に配置する。
【0093】
水中の水底に設けられる覆工体の構築方法は、水底を覆うようにして板部材を配置する工程と、板部材と板部材の端部を支持する支持部とのそれぞれに対して水圧によって押し付けられて板部材と支持部との間の継目隙間を封止し水の浸入を遮断する封止部材を配置する工程と、板部材に覆われた水底を掘削する工程と、を含む。
【0094】
覆工体の構築方法では、封止部材は、板部材と支持部とにわたって設けられ水圧を受ける受圧部と、受圧部に作用する水圧によって受圧部と板部材又は支持部との間で圧縮される弾性部と、を有する。
【0095】
水中の水底に設けられる覆工体は、水底に配置される複数の板部材と、隣接する板部材のそれぞれに対して水圧によって押し付けられて、板部材の間の隙間である継目隙間を封止して水の浸入を遮断する封止部材と、を有し、封止部材は、隣接する板部材にわたって設けられ水圧を受ける受圧部と、受圧部に作用する水圧によって受圧部と板部材との間で圧縮されることで、受圧部と板部材との間の隙間を封止する弾性部と、を有する。
【0096】
水中の水底に設けられる覆工体は、水底に配置される板部材と、板部材の端部を支持する支持部と、板部材と支持部とのそれぞれに対して水圧によって押し付けられて、板部材と支持部との間の隙間である継目隙間を封止し水の浸入を遮断する封止部材と、を有し、封止部材は、板部材と支持部とにわたって設けられ水圧を受ける受圧部と、受圧部に作用する水圧によって受圧部と板部材との間及び受圧部と支持部との間で圧縮されることで、受圧部と板部材との間の隙間及び受圧部と支持部との間の隙間を封止する弾性部と、を有する。
【符号の説明】
【0097】
100 覆工体
10 板部材
30 封止部材
31 本体部(受圧部)
40 シール部
41 第一弾性部(弾性部)
42 第二弾性部(弾性部)
60 第一圧力センサ(第一圧力測定部)
61 第二圧力センサ(第二圧力測定部)
101 既設護岸(支持部)
102 支持壁(支持部)
103 ブラケット(支持部)
105 杭
131 本体部
C 継目隙間