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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181458
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】蓄冷材
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
C09K5/06 J ZAB
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023187973
(22)【出願日】2023-11-01
(62)【分割の表示】P 2023529870の分割
【原出願日】2022-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2021098487
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】町田 博宣
(57)【要約】
【課題】テトラヒドロフラン及び水を含有する蓄冷材であって、貯蔵、保管、および輸送の観点から安全に使用され、高い結晶化温度を有しうる蓄冷材を提供する。
【解決手段】本開示による蓄冷材は、テトラヒドロフラン、水、ハロゲン化炭化水素、および化学式Ag3PO4により表されるリン酸銀、化学式Ag2CO3により表される炭酸銀、および化学式AgOにより表される酸化銀からなる群から選択される少なくとも1つの銀化合物を含有し、前記ハロゲン化炭化水素は、フッ素原子を含み、前記ハロゲン化炭化水素に含まれるハロゲン原子の中では前記フッ素原子の個数が最も大きく、前記ハロゲン化炭化水素の前記蓄冷材に対する重量比は15%以下であり、前記ハロゲン化炭化水素の沸点が摂氏60度以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄冷材であって、
テトラヒドロフラン、
水、
ハロゲン化炭化水素、および
化学式Ag3PO4により表されるリン酸銀、化学式Ag2CO3により表される炭酸銀、および化学式AgOにより表される酸化銀からなる群から選択される少なくとも1つの銀化合物
を含有し、
前記ハロゲン化炭化水素は、フッ素原子を含み、
前記ハロゲン化炭化水素に含まれるハロゲン原子の中では前記フッ素原子の個数が最も大きく、
前記ハロゲン化炭化水素の前記蓄冷材に対する重量比は15%以下であり、かつ
前記ハロゲン化炭化水素の沸点が摂氏60度以下である
蓄冷材。
【請求項2】
前記ハロゲン化炭化水素は、
1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン、および
(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エン、および
(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン
からなる群から選択される少なくとも1つである、
請求項1に記載の蓄冷材。
【請求項3】
前記1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンは、(E)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンおよび(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンの混合物である、請求項2に記載の蓄冷材。
【請求項4】
前記重量比は2.5%以上である、請求項1に記載の蓄冷材。
【請求項5】
前記重量比は2.97%以上である、請求項4に記載の蓄冷材。
【請求項6】
前記重量比は4.95%以上である、請求項5に記載の蓄冷材。
【請求項7】
前記重量比は5%以上である、請求項6に記載の蓄冷材。
【請求項8】
前記重量比は10%以下である、請求項1に記載の蓄冷材。
【請求項9】
前記沸点は摂氏54度以下である、請求項1に記載の蓄冷材。
【請求項10】
前記沸点は摂氏39度以下である、請求項9に記載の蓄冷材。
【請求項11】
200J/gを超える潜熱量を有する、請求項1に記載の蓄冷材。
【請求項12】
213J/g以上の潜熱量を有する、請求項11に記載の蓄冷材。
【請求項13】
前記水に対する前記テトラヒドロフランのモル比が、4.5%以上7%以下である、請求項1に記載の蓄冷材。
【請求項14】
前記銀化合物が、前記リン酸銀である、
請求項1に記載の蓄冷材。
【請求項15】
前記銀化合物が、前記炭酸銀である、
請求項1に記載の蓄冷材。
【請求項16】
前記銀化合物が、前記酸化銀(II)である、
請求項1に記載の蓄冷材。
【請求項17】
前記水に対する前記銀化合物のモル比が、2.64×10-6以上3.70×10-2以下である、
請求項1に記載の蓄冷材。
【請求項18】
前記水、前記テトラヒドロフラン、および前記ハロゲン化炭化水素の質量の合計に対する前記銀化合物の質量の比が、0.00050以上0.020以下である、
請求項1に記載の蓄冷材。
【請求項19】
前記水、前記テトラヒドロフラン、および前記ハロゲン化炭化水素の質量の合計に対する前記銀化合物の質量の比が、0.0010以上0.010以下である、
請求項18に記載の蓄冷材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蓄冷材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、潜熱蓄熱材の燃焼を抑制して消火する蓄熱部材、それを用いた保管容器及び建造物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/147677号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、テトラヒドロフラン及び水を含有する蓄冷材であって、貯蔵、保管、および輸送の観点から安全に使用され、高い結晶化温度を有しうる蓄冷材を提供することにある。具体的には、本開示の目的は、低い引火性を有し、かつ、高い結晶化温度を有しうる蓄冷材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る蓄冷材は、
テトラヒドロフラン、
水、
ハロゲン化炭化水素、および
化学式Ag3PO4により表されるリン酸銀、化学式Ag2CO3により表される炭酸銀、および化学式AgOにより表される酸化銀からなる群から選択される少なくとも1つの銀化合物
を含有し、
前記ハロゲン化炭化水素は、フッ素原子を含み、
前記ハロゲン化炭化水素に含まれるハロゲン原子の中では前記フッ素原子の個数が最も大きく、
前記ハロゲン化炭化水素の前記蓄冷材に対する重量比は15%以下であり、かつ
前記ハロゲン化炭化水素の沸点が摂氏60度以下である。
【発明の効果】
【0006】
本開示は、テトラヒドロフラン及び水を含有する蓄冷材であって、貯蔵、保管、および輸送の観点から安全に使用され、高い結晶化温度を有しうる蓄冷材を提供する。具体的には、本開示は、低い引火性を有し、かつ、高い結晶化温度を有しうる蓄冷材を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、蓄冷時における蓄冷材の特性を示すグラフである。
図2図2は、放冷時における蓄冷材の特性を示すグラフである。
図3図3は、第1実施形態によるクーラーボックス100の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態が、図面を参照しながら説明される。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、冷却時における蓄冷材の特性を示すグラフである。図1において、横軸および縦軸は、それぞれ、時間および温度を指し示す。
【0010】
第1実施形態による蓄冷材は、冷却される。図1に含まれる区間Aを参照せよ。一般的な液体の場合とは異なり、蓄冷材の技術分野においてよく知られているように、蓄冷材の冷却により蓄冷材の温度がその融点に到達しても、蓄冷材は固化せず、過冷却状態となる。図1に含まれる区間Bを参照せよ。過冷却状態において、蓄冷材は液体である。
【0011】
次いで、蓄冷材は、自発的に結晶化し始める。結晶化に伴い、蓄冷材は潜熱にほぼ等しい結晶化熱を放出する。その結果、蓄冷材の温度は上昇し始める。図1に含まれる区間Cを参照せよ。本明細書において、蓄冷材が自発的に結晶化し始める温度は、「結晶化温度」と言う。
【0012】
結晶化により、第1実施形態による蓄冷材はセミクラスレートハイドレートとなる。ここで、クラスレートハイドレートとは、水分子が水素結合によってかご状の結晶を作り、その中に水以外の物質が包み込まれてできる結晶のことを言う。また、セミクラスレートハイドレートとは、ゲスト分子が水分子の水素結合ネットワークに参加してできる結晶のことをいう。水分子とゲスト分子が過不足なくハイドレートを形成する濃度を調和濃度という。一般的にハイドレートは調和濃度付近で利用される場合が多い。
【0013】
図1におけるΔTは、蓄冷材の融点および結晶化温度の差を表す。ΔTは、「過冷却度」とも呼ばれ得る。過冷却状態の蓄冷材の結晶化により、蓄冷材はセミクラスレートハイドレートとなる(例えば、特許文献1を参照せよ)。
【0014】
区間Cの後は、蓄冷材の温度は、周囲温度と等しくなる様に徐々に下がる。図1に含まれる区間Dを参照せよ。図1では、蓄冷材は、結晶化温度よりも低い温度に冷却されている。しかし、蓄冷材は、融点および結晶化温度の間の温度の範囲で維持されてもよい。
【0015】
結晶化温度は、蓄冷材の融点より低い。蓄冷材の融点は、蓄冷材の技術分野においてよく知られているように、示差走査熱量計(これは「DSC」とも呼ばれ得る)を用いて測定され得る。
【0016】
図2は、加温時における蓄冷材の特性を示すグラフである。図2において、横軸および縦軸は、それぞれ、時間および温度を指し示す。区間Eの間、蓄冷材の温度は、蓄冷材の融点以下の温度に維持されている。例えば、クーラーボックスの蓋が閉められている間、クーラーボックス内に配置された蓄冷材の温度が蓄冷材の融点以下に維持されるように、クーラーボックスの内部の温度は蓄冷材の融点以下に設定されている。区間Eの間、蓄冷材の温度は、結晶化温度以下の温度に維持されていてもよい。
【0017】
次に、蓄冷材は、徐々に加温される。図2に含まれる区間Fを参照せよ。例えば、区間Eの終わり(すなわち、区間Fの始まり)でクーラーボックスの蓋が開けられると(または蓋が開けられて食品が収められると)、クーラーボックスの内部の温度は、徐々に高くなる。
【0018】
蓄冷材の温度が、当該蓄冷材の融点に達すると、蓄冷材の温度は、蓄冷材の融点付近に維持される。図2に含まれる区間Gを参照せよ。万一、蓄冷材がない場合には、クーラーボックスの内部の温度は、図2に含まれる区間Zに示されるように連続的に上昇する。一方、蓄冷材がある場合には、区間Gの一定期間の間、クーラーボックスの内部の温度は、蓄冷材の融点付近に維持される。このようにして、蓄冷材は蓄冷効果を発揮する。区間Gの終わりで、蓄冷材の結晶は融解して消失する。その結果、蓄冷材は液化する。
【0019】
その後、液化した蓄冷材の温度は、周囲温度と等しくなるように上昇する。図2に含まれる区間Hを参照せよ。
【0020】
蓄冷材は冷却され、再利用され得る。
【0021】
テトラヒドロフランを含有する蓄冷材が、医薬品または食品を内部に有することができるクーラーボックスに好適に用いられるためには、以下の条件(I)および条件(II)が充足されなければならない。
条件(I) 蓄冷材が、低い引火性を有すること。
条件(II) 蓄冷材が、200J/gを超える潜熱量を有すること。
【0022】
条件(I)の理由は、テトラヒドロフランが有するおよそ摂氏マイナス20度という低い引火点の観点から、蓄冷材の貯蔵、保管、および輸送の安全性を高めるために、蓄冷材の引火性は低いことが求められるからである。
【0023】
条件(II)の理由は、他の蓄冷材に対する競争力を高めるためである。例えば同等の融点を有するn-テトラデカンの潜熱量は175J/gである。望ましくは、第1実施形態による蓄冷材は、210J/g以上の潜熱量を有する。より望ましくは、第1実施形態による蓄冷材は、213J/g以上の潜熱量を有する。さらに望ましくは、第1実施形態による蓄冷材は、220J/g以上の潜熱量を有する。
【0024】
この技術分野においては、潜熱量は、融解熱量とも呼ばれる。
【0025】
混同を予防するために、本明細書において、過冷却度ΔTのためには「ケルビン」が用いられる。例えば、本発明者は、「過冷却度ΔTがnケルビン以下である」と表記する。言うまでもないが、nは実数である。「過冷却度ΔT≦5ケルビン」という説明は、蓄冷材の結晶化温度および融点の差が5ケルビン以下ということを意味する。一方、本明細書において、温度のためには、「摂氏」が用いられる。例えば、「結晶化温度は摂氏5度(すなわち、5℃)である」と本発明者は表記する。
【0026】
第1実施形態による蓄冷材は、テトラヒドロフラン、水、およびハロゲン化炭化水素を含有する。ハロゲン化炭化水素は、フッ素原子を含む。万一、ハロゲン化炭化水素が全くフッ素原子を含まない場合には、当該ハロゲン化炭化水素は、塩素、臭素、またはヨウ素を含むため、人体および環境に対する有害性・毒性が懸念される。
【0027】
ハロゲン化炭化水素に含まれるハロゲン原子の中ではフッ素原子の個数が最も大きい。万一、ハロゲン化炭化水素に含まれるハロゲン原子の中で、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子の個数が最も大きい場合には、人体及び環境に対する有害性・毒性が懸念される。
【0028】
ハロゲン化炭化水素の炭素数は、例えば、3以上8以下である。万一、ハロゲン化炭化水素の炭素数が3未満である場合には、ハロゲン化炭化水素の分子量が小さくなるため、ハロゲン化炭化水素の蒸気圧が高くなり、ハロゲン化炭化水素が常温で気体になる。その場合、蓄熱材のための容器に耐圧性が求められるため、汎用の樹脂容器の使用は適切ではなくなる。万一、ハロゲン化炭化水素の炭素数が8を超える場合には、ハロゲン化炭化水素の分子量が大きくなるため、蒸気圧が低くなり、不燃化効果が小さくなる。不燃化効果は、(i)フッ素系溶剤が揮発することにより酸素を希釈する窒息効果、および(ii)揮発したフッ素系溶剤のハロゲン元素がラジカル反応を伴う燃焼サイクルを(ラジカルトラップして)中断する負触媒効果を含む。即ち、ハロゲン化炭化水素の炭素数が8を超え、ハロゲン化炭化水素の分子量が大きくなると、窒息効果および負触媒効果の2種類の不燃化効果が小さくなる。
【0029】
ハロゲン化炭化水素は、15重量%以下の濃度で蓄冷材に含有される。言い換えれば、ハロゲン化炭化水素の蓄冷材全体に対する重量比は15%以下である。本明細書において、用語「重量比」は、特に記載がない限り、ハロゲン化炭化水素の蓄冷材(すなわち、蓄冷材全体)に対する重量比を意味する。当該重量比が15%を超えると、潜熱量が低下する傾向がある。ハロゲン化炭化水素の価格は、テトラヒドロフランおよび水の価格よりもずっと高いことにも留意せよ。潜熱量およびコストの観点から、当該重量比は12.5%以下であることが望ましい。より望ましくは、当該重量比は10%以下である。
【0030】
望ましくは、ハロゲン化炭化水素は、3重量%以上の濃度で蓄冷材に含有される。言い換えれば、ハロゲン化炭化水素の蓄冷材全体に対する重量比は3%以上であることが望ましい。当該重量比が3%以上である場合には、ハロゲン化炭化水素の添加によって得られる引火の抑制の効果がより得られやすい。より望ましくは、引火の抑制の効果を高めるために、当該重量比は5%以上である。
【0031】
重量比に関する上記記載から明らかなように、ハロゲン化炭化水素の重量比は、3%以上15%以下が望ましく、5%以上15%以下がより望ましく、5%以上10%以下がさらにより望ましい。
【0032】
ハロゲン化炭化水素の沸点は摂氏60度以下である。望ましくは、ハロゲン化炭化水素の沸点は摂氏54度以下である。さらに望ましくは、ハロゲン化炭化水素の沸点は摂氏39度以下である。一例として、ハロゲン化炭化水素の沸点は摂氏0度以上である。望ましくは、ハロゲン化炭化水素の沸点は摂氏33度以上である。
【0033】
後述される比較例1から比較例15においても実証されているように、万一、摂氏60度を超える沸点を有するハロゲン化炭化水素が蓄冷材のために用いられた場合には、引火の抑制の効果を十分に得るためには、ハロゲン化炭化水素は35重量%のような高い濃度で蓄冷材に含有されることが必要とされる。
【0034】
一例として、以下、重量比および沸点の観点から、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(比較例3、比較例13、および比較例14を参照せよ)に対する(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エン(実施例2Aから実施例2D)の優位性を説明する。
【0035】
(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エンは、摂氏33度の沸点を有する。後述される実施例2Aから実施例2Dにおいて実証されるように、(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エンは、2.5重量%以上15重量%以下の濃度(具体的には、2.97重量%以上15重量%以下の濃度)で引火の抑制の効果を発揮する。具体的には、摂氏10度から摂氏130度までの温度範囲における引火性試験において、2.5重量%以上15重量%以下の濃度(具体的には、2.97重量%以上15重量%以下の濃度)で(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エンを含有する蓄冷材は、2/20(=10%)以下の引火性を有する。
【0036】
後述される実施例2A、実施例2B、および実施例2Dにおいて実証されるように、(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エンは、4.5重量%以上15重量%以下の濃度(具体的には、4.95重量%以上15重量%以下の濃度)で引火の抑制の効果を大きく発揮する。具体的には、上記引火性試験において、4.5重量%以上15重量%以下の濃度(具体的には、4.95重量%以上15重量%以下の濃度)で(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エンを含有する蓄冷材は、0/20(=0%)の引火性を有する(言い換えれば、全く引火性を有しない)。このように、(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エンが蓄冷材のために用いられる場合、15重量%以下という低い濃度で引火の抑制の効果が発揮される。
【0037】
一方、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンは、摂氏83度の沸点を有する。後述される比較例14において実証されるように、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンは、25重量%の濃度では引火の抑制の効果を十分に発揮しない。具体的には、上記引火性試験において、25重量%の濃度で1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンを含有する蓄冷材は、5/20(=25%)という高い引火性を有する。そのため、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンが用いられる場合には、引火の抑制の効果を十分に発揮するためには(言い換えれば、上記引火性が低下されるためには)、後述される比較例3および比較例13において実証されるように、30重量%以上という高い濃度が必要になる。
【0038】
本明細書においては、後述される実施例、参考例、および比較例からも理解されるように、3/20(=15%)以下の引火性は低く、一方で4/20(=20%)以上の引火性は高い。
【0039】
繰り返しになるが、ハロゲン化炭化水素の高い濃度、すなわち、大きな重量比(例えば、20重量を超える重量比)は、潜熱量およびコストの観点において不利益を生じさせる。
【0040】
ハロゲン化炭化水素は、ハロゲン化不飽和炭化水素であってもよい。
【0041】
第1実施形態による蓄冷材のために好適に用いられるハロゲン化炭化水素の例が、以下、項目(1)から項目(3)として列記される。
(1) 1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(一例として、(E)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンおよび(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンの混合物(当該混合物の沸点:摂氏54度))
(2) (Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エン(沸点:摂氏33度)
(3) (Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(沸点:摂氏39度)
【0042】
蓄冷材には、ハロゲン化炭化水素として、2種以上のハロゲン化炭化水素が含まれていてもよい。言い換えれば、ハロゲン化炭化水素は、2種以上のハロゲン化炭化水素の混合物であってもよい。一例として、蓄冷材には、上記の通り、ハロゲン化炭化水素として、(E)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンおよび(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンの混合物が含有されていてもよい。当該混合物は、摂氏54度の沸点を有する。
【0043】
本明細書において、「沸点」とは、通常通り用いられるように、1気圧(すなわち101325Pa)または1バール(すなわち100000Pa)における沸点を意味する。通常、沸点は、試薬入手先から頒布されるカタログにも記載されている。
【0044】
本発明者は理論に拘束されることを望まないが、第1実施形態による蓄冷材が低い引火性を有するメカニズムの一例が、以下、説明される。第1実施形態による蓄冷材が加温されると、空間中(特に密閉空間中)にテトラヒドロフランが蒸発すると同時に、ハロゲン化炭化水素も蒸発する。その結果、当該空間中(特に密閉空間中)に含有される酸素が希釈される窒息効果が得られ、かつ燃焼サイクルが中断される負触媒効果が発現する。その結果、第1実施形態による蓄冷材は、低い引火性を有する。一例として、第1実施形態による蓄冷材は、周囲温度が摂氏10度以上摂氏130度以下の環境下で低い引火性を有する。その結果、第1実施形態による蓄冷材は、貯蔵、保管、および輸送において安全に使用される。
【0045】
後述される実施例1A-1から実施例3Dにおいて実証されるように、第1実施形態による蓄冷材は、摂氏マイナス10度以上摂氏10度以下の融点を有する。望ましくは、第1実施形態による蓄冷材は、摂氏マイナス5度以上摂氏8度以下の融点を有する。より望ましくは、第1実施形態による蓄冷材は、摂氏0度以上摂氏6度以下の融点を有する。一例として、第1実施形態による蓄冷材は、摂氏5度の融点を有する。
【0046】
後述される実施例1A-1から実施例3Dにおいて実証されるように、第1実施形態による蓄冷材は、摂氏マイナス30度以上摂氏マイナス10度以下の結晶化温度を有し得る。一例として、第1実施形態による蓄冷材は、摂氏マイナス25度以上摂氏マイナス15度以下の結晶化温度を有し得る。具体的には、第1実施形態による蓄冷材は、摂氏マイナス20度の結晶化温度を有してもよい。言い換えれば、第1実施形態による蓄冷材は、摂氏マイナス20度以下の低い温度に冷却されて結晶化され得る。言うまでもないが、第1実施形態による蓄冷材が結晶化された後に、第1実施形態による蓄冷材を少し加温してもよい。一例を挙げると、摂氏2度以上摂氏8度以下の周囲温度に維持されることが必要とされるワクチンを保冷するために第1実施形態による蓄冷材が用いられる場合、第1実施形態による蓄冷材は、摂氏マイナス20度以下の低い温度に冷却されて結晶化され、次いで第1実施形態による蓄冷材は、摂氏2度以上摂氏8度以下の周囲温度のために適切に少し加温される。その後、第1実施形態による蓄冷材はその融点以下の温度に維持されながら、当該ワクチンの保冷のために用いられる。
【0047】
第1実施形態による蓄冷材において、水に対するテトラヒドロフランのモル比は限定されない。一例として、当該モル比は、4.5%以上7%以下である。水に対するテトラヒドロフランのモル比が1/17である蓄冷材が、冷却されたときに、水またはテトラヒドロフランが過不足なくクラスレートハイドレート結晶を形成することが知られている。
【0048】
第1実施形態による蓄冷材は、テトラヒドロフラン、水、および当該ハロゲン化炭化水素以外の添加剤を含有していてもよい。
【0049】
添加剤の例は、過冷却抑制剤、増粘剤、および防腐剤である。
【0050】
過冷却抑制剤の例は、銀化合物である。第1実施形態による蓄冷材のために過冷却抑制剤として用いられる銀化合物の例は、化学式Ag3PO4により表されるリン酸銀、化学式Ag2CO3により表される炭酸銀、および化学式AgOにより表される酸化銀からなる群から選択される少なくとも1つである。2種類以上の銀化合物が用いられてもよい。望ましくは、第1実施形態による蓄冷材において、水に対する銀化合物のモル比は、2.64×10-6以上3.70×10-2以下である。
【0051】
望ましくは、第1実施形態による蓄冷材に含まれる水、テトラヒドロフラン、およびハロゲン化炭化水素の質量の合計に対する銀化合物の質量の比(以下、単に「銀化合物の質量比」という)は、0.00050以上0.020以下である。一例として、後述される実施例1A-2から実施例1A-4、実施例1B-2から実施例1B-4、実施例1C-2から実施例1C-4、実施例2A-2から実施例2A-4、実施例2B-2から実施例2B-4、実施例2C-2から実施例2C-4、実施例3A-2から実施例3A-4、実施例3B-2から実施例3B-4、および実施例3C-2から実施例3C-4では、水、テトラヒドロフラン、およびハロゲン化炭化水素の質量の合計(2.00g)に対する銀化合物の質量(0.02g)の比(すなわち、銀化合物の質量比)は、0.010である。後述される実施例1A-5から実施例1A-7では、銀化合物の質量比は、0.0010である。望ましくは、銀化合物の質量比は、0.0010以上0.010以下である。
【0052】
過冷却抑制剤により、第1実施形態による蓄冷材の結晶化温度は改善される。具体的には、過冷却抑制剤を含有しない第1実施形態による蓄冷材の結晶化温度は摂氏マイナス20度程度である。一方で、過冷却抑制剤を含有しない第1実施形態による蓄冷材の結晶化温度は、摂氏0度以上摂氏5度以下であり得る。一例として、過冷却抑制剤を含有しない第1実施形態による蓄冷材の結晶化温度は、摂氏1度以上摂氏3度以下である。
【0053】
第1実施形態による蓄冷材は、添加剤を含有しなくてもよい。言い換えれば、第1実施形態による蓄冷材は、テトラヒドロフラン、水、および当該ハロゲン化炭化水素から構成されていてもよい。
【0054】
第1実施形態による蓄冷材は、テトラヒドロフラン、水、および当該ハロゲン化炭化水素を混合することにより製造され得る。
【0055】
以下、第1実施形態による蓄冷材の具体的な用途が説明される。
【0056】
図3は、第1実施形態によるクーラーボックス100の概略図を示す。
【0057】
クーラーボックス100は、底(図示せず)および側面からなる断熱ボックス101および断熱蓋102を具備する。
【0058】
断熱ボックス101の内側の底面、断熱ボックス101の内側の側面、および断熱蓋102の内側の面(すなわち、下側の面)からなる群から選択される少なくとも1つの内部に、第1実施形態による蓄冷材が設けられる。図3では、直方体の形状を有する断熱ボックス101の内側の4つの各側面に接するように、第1実施形態による蓄冷材を内包する蓄冷材パック110が設けられている。
【0059】
第1実施形態による蓄冷材は、断熱ボックス101の底の内部、断熱ボックス101の側面の内部、および断熱蓋102の内部からなる群から選択される少なくとも1つに設けられてもよい。第1実施形態による蓄冷材は、クーラーボックス100の内部の空間(すなわち、断熱ボックス101の内側の底面、断熱ボックス101の内側の側面、および断熱蓋102の内側の面により形成される空間)の内部に、蓄冷材パック110の形で置かれるように、内包されていてもよい。
【0060】
断熱ボックスの側面、断熱ボックスの断熱蓋、および断熱ボックス自体からなる群から選択される少なくとも1つの内部に、第1実施形態による蓄冷材が設けられていてもよい。この場合も、第1実施形態による蓄冷材は、蓄冷材パック110の形で設けられていてもよい。
【0061】
断熱ボックス101の内部に、医薬品および食品からなる群から選択される少なくとも1つが入れられることが望ましい。図3では、断熱ボックス101の内部に、医薬品120が入れられる。医薬品の例は、液状医薬品である。液状医薬品の例は、ワクチンである。第1実施形態による蓄冷材は低い引火性を有するため、第1実施形態による蓄冷材を具備するクーラーボックスを利用してワクチンが安全に持ち運びされる。
【実施例0062】
以下の実施例を参照しながら、本発明がより詳細に説明される。
【0063】
本開示の実施例において、テトラヒドロフランは、「THF」と略記される。THFは、東京化成工業株式会社より購入された。
【0064】
(実施例1A-1)
(蓄冷材の製造方法)
まず、以下の表1に示される試薬が、9ミリリットルの容量を有するスクリュー管に添加され、混合物を得た。混合物はスクリュー管内で十分に撹拌され、実施例1A-1による蓄冷材を得た。スクリュー管は、ねじのついた蓋を有するガラス管であった。
【0065】
【表1】
【0066】
ハロゲン化炭化水素の1種である、(E)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンおよび(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンの混合物(化学式:CF2CF=CHCl、沸点:摂氏54度)は、AGC株式会社より商品名「AS-300」として購入された。
【0067】
(融点、結晶化温度、および潜熱量の測定)
(測定実験)
実施例1A-1による蓄熱材組成物(約2ミリリットル)を、容器(パーキンエルマー社より入手、商品名:02192005)に供給した。当該容器は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社より入手、商品名:DSC-8500)に組み込まれた。容器の内部に含有される蓄冷材は、常温から摂氏マイナス30度まで摂氏0.5度/分の速度で冷却され、次に、蓄冷材は、摂氏マイナス30度で5分間静置され、蓄冷材を結晶化した。常温は、摂氏20度から摂氏26の範囲の温度であった。この間に、本発明者は、実施例1A-1による蓄冷材が、摂氏マイナス20度で自ら結晶化したことを観察した。
【0068】
結晶化された蓄冷材は、摂氏マイナス30度から摂氏30度まで摂氏1.0度/分の速度で加温された。このようにして、結晶化された蓄冷材は融解した。恒温槽に入れられた実施例1A-1による蓄冷材の温度は、熱電対およびデータロガー(株式会社キーエンス製、商品名:NR-600)を用いて記録された。実施例1A-1による蓄冷材の融点および潜熱が、示差走査熱量計(商品名:DSC-8500)を用いて測定された。実施例1A-1による蓄冷材が融解する間にDSCから出力された吸熱ピークに基づいて、実施例1A-1による蓄冷材の融点が特定され、かつ、実施例1A-1による蓄冷材の潜熱量が計算された。その結果、実施例1A-1による蓄冷材の融点は、摂氏5度であった。実施例1A-1による蓄冷材の潜熱量は、225ジュール/グラムであった。
【0069】
(引火性試験)
実施例1A-1による蓄冷材(約2ml)の全量を、セタ密閉式引火点測定装置(田中科学機器製作株式会社製、商品名:自動引火点試験機 asc-8c、以下、単に「装置」という)の専用金属カップに入れた。専用金属カップを覆う密閉空間内には白金測温抵抗体(Pt100)が取り付けられており、着火源により引火した際の温度上昇を検知できる仕組みになっていた。設定温度に達してから1分間保持した後に、本発明者は、装置の蓋を少しだけ開け、開口部に着火源を近付け、実施例1A-1による蓄冷材の引火の有無を観察した。摂氏10度から摂氏130度までの温度範囲において、低温から順に引火の有無を観察した。引火しない場合は、装置内部の温度を摂氏5度上げて引火の有無を観察した。引火した場合は、温度を摂氏5度下げて引火の有無を観察した。上記を繰り返し、引火しない最高温度を調べた。次に、引火しない最高温度から、設定温度を摂氏1.0度間隔で上げながら、引火点を調べた。
【0070】
摂氏100度以上の温度範囲において引火点を測定する場合には、スクリュー管2本分の蓄冷材(約4ml)を投入し、設定温度に達してから2分間保持した後に、上記と同様に引火の有無を観察した。
【0071】
装置の密閉空間に入れられた実施例1A-1による蓄冷材は、摂氏10度で1分間保持され、上記と同様に引火の有無が観察された。その後、密閉空間の温度は、摂氏1度ずつ上昇させられ、各温度に達した後に1分間保持されてから、引火の有無が観察された。引火の有無の観察は、引火が観察されるか、または引火が観察されないまま装置内部の温度(すなわち、密閉空間の温度)が摂氏130度に達するまで繰り返された。引火性試験は、20回、繰り返された。実施例1A-1の引火性試験において、引火が観察された回数は0回であった。
【0072】
(実施例1A-2)
実施例1A-2では、実施例1A-1による蓄熱材組成物(約2ミリリットル)に、酸化銀(II)(化学式:AgO、富士フィルム和光純薬株式会社より商品名「酸化銀 (II)(Silver (II) Oxide)」として入手、0.02グラム)を添加し、実施例1A-2による蓄冷材を得た。実施例1A-2による蓄冷材について、実施例1A-1の実験と同様の実験が行われた。
【0073】
(実施例1A-3)
実施例1A-3では、酸化銀(II)に代えて、リン酸銀(三津和化学薬品株式会社より商品名「りん酸銀(I)」として入手、0.02グラム)を用いたこと以外は、実施例1A-2と同様の実験が行われた。
【0074】
(実施例1A-4)
実施例1A-4では、酸化銀(II)に代えて、炭酸銀(富士フィルム和光純薬株式会社より商品名「炭酸銀」として入手、0.02グラム)を用いたこと以外は、実施例1A-2と同様の実験が行われた。
【0075】
(実施例1A-5)
実施例1A-5では、用いられた酸化銀(II)の質量が0.002グラムであったこと以外は、実施例1A-2と同様の実験が行われた。
【0076】
(実施例1A-6)
実施例1A-6では、用いられたリン酸銀の質量が0.002グラムであったこと以外は、実施例1A-3と同様の実験が行われた。
【0077】
(実施例1A-7)
実施例1A-7では、用いられた炭酸銀の質量が0.002グラムであったこと以外は、実施例1A-4と同様の実験が行われた。
【0078】
(実施例1B-1から実施例1Dおよび参考例1)
実施例1B-1、実施例1C-1、実施例1D、および参考例1では、表2Aに示す通り、蓄冷材に添加されたハロゲン化炭化水素の量が実施例1A-1のそれとは異なることを除き、実施例1A-1の実験と同様の実験が行われた。
【0079】
(実施例1B-2から実施例1B-4)
実施例1B-2から実施例1B-4では、表2Aに示す通り、それぞれ、酸化銀(II)、リン酸銀、および炭酸銀(0.02グラム)が実施例1B-1による蓄冷材に添加され、かつ、実施例1A-1の実験と同様の実験が行われた。
【0080】
(実施例1C-2から実施例1C-4)
実施例1C-2から実施例1C-4では、表2Aに示す通り、それぞれ、酸化銀(II)、リン酸銀、および炭酸銀(0.02グラム)が実施例1C-1による蓄冷材に添加され、かつ、実施例1A-1の実験と同様の実験が行われた。
【0081】
(実施例2A-1から実施例3Dおよび参考例2から参考例3)
実施例2A-1、2B-1、2C-1、2D、3A-1、3B-1、3C-1、3D、参考例2、参考例3では、表2A及び表3Aに示す通り、蓄冷材に添加されたハロゲン化炭化水素の種類およびその量が実施例1A-1および参考例1のそれらとは異なることを除き、実施例1A-1および参考例1の実験と同様の実験が行われた。
【0082】
実施例2A-1、2B-1、2C-1、2D、および参考例2では、表2Aに示す通り、ハロゲン化炭化水素として、(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エン(化学式:Cis-CF3CH=CHCF3、沸点:摂氏33度)が、三井ケマーズフロロプロダクツ株式会社より商品名「Opteon SF33」として購入された。
【0083】
実施例3A-1、3B-1、3C-1、3D、および参考例3では、表3Aに示す通り、ハロゲン化炭化水素として、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(化学式:CF3CH=CHCl、沸点:摂氏39度、セントラル硝子株式会社より商品名「CELEFIN1233Z」として購入された。
【0084】
(実施例2A-2から実施例2A-4)
実施例2A-2から実施例2A-4では、表2Aに示す通り、それぞれ、酸化銀(II)、リン酸銀、および炭酸銀(0.02グラム)が実施例2A-1による蓄冷材に添加され、かつ実施例1A-1の実験と同様の実験が行われた。
【0085】
(実施例2B-2から実施例2B-4)
実施例2B-2から実施例2B-4では、表2Aに示す通り、それぞれ、酸化銀(II)、リン酸銀、および炭酸銀(0.02グラム)が実施例2B-1による蓄冷材に添加され、かつ実施例1A-1の実験と同様の実験が行われた。
【0086】
(実施例2C-2から実施例2C-4)
実施例2C-2から実施例2C-4では、表2Aに示す通り、それぞれ、酸化銀(II)、リン酸銀、および炭酸銀(0.02グラム)が実施例2C-1による蓄冷材に添加され、かつ実施例1A-1の実験と同様の実験が行われた。
【0087】
(実施例3A-2から実施例3A-4)
実施例3A-2から実施例3A-4では、表3Aに示す通り、それぞれ、酸化銀(II)、リン酸銀、および炭酸銀(0.02グラム)が実施例3A-1による蓄冷材に添加され、かつ実施例1A-1の実験と同様の実験が行われた。
【0088】
(実施例3B-2から実施例3B-4)
実施例3B-2から実施例3B-4では、表3Aに示す通り、それぞれ、酸化銀(II)、リン酸銀、および炭酸銀(0.02グラム)が実施例3B-1による蓄冷材に添加され、かつ実施例1A-1の実験と同様の実験が行われた。
【0089】
(実施例3C-2から実施例3C-4)
実施例3C-2から実施例3C-4では、表3Aに示す通り、それぞれ、酸化銀(II)、リン酸銀、および炭酸銀(0.02グラム)が実施例3C-1による蓄冷材に添加され、かつ実施例1A-1の実験と同様の実験が行われた。
【0090】
(比較例1から比較例15)
比較例1から比較例15では、表3A及び表4に示す通り、蓄冷材に添加されたハロゲン化炭化水素が実施例1A-1のそれとは異なることを除き、実施例1A-1の実験と同様の実験が行われた。
【0091】
表3Aに示す通り、比較例1では、ハロゲン化炭化水素として、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)ペンタン(化学式:C25CF(OCH3)C37、スリーエムジャパン株式会社より商品名:Novec 7300として購入された)が用いられた。
【0092】
表3Aに示す通り、比較例2では、ハロゲン化炭化水素として、エチルノナフルオロブチルエーテル(化学式:C49OC25、スリーエムジャパン株式会社より商品名:N-7200として購入された)が用いられた。
【0093】
表3Aに示す通り、比較例3では、ハロゲン化炭化水素として、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(化学式:cyclo-C573、日本ゼオン株式会社より商品名:ゼオローラHとして購入された)が用いられた。
【0094】
表3Aに示す通り、比較例4では、ハロゲン化炭化水素として、メチルノナフルオロブチルエーテル(化学式:C49OCH3、スリーエムジャパン株式会社より商品名:Novec 7100として購入された)が用いられた。
【0095】
表4に示す通り、比較例5および比較例6では、ハロゲン化炭化水素として、メトキシパーフルオロヘプテン(化学式:CF3CF=CFCF(OCH3)C37、三井・ケマーズフロロケミカル株式会社より商品名:Opteon SF10として購入された)が用いられた。
【0096】
表4に示す通り、比較例7および比較例8では、ハロゲン化炭化水素として、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン(化学式:CF3CF2CF2CF2CF2CF2CH2CH3、AGC株式会社より商品名:AC-6000として購入された)が用いられた。
【0097】
表4に示す通り、比較例9および比較例10では、ハロゲン化炭化水素として、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)ペンタン(化学式:C25CF(OCH3)C37、スリーエムジャパン株式会社より商品名:Novec 7300として購入された)が用いられた。
【0098】
表4に示す通り、比較例11および比較例12では、ハロゲン化炭化水素として、エチルノナフルオロブチルエーテル(化学式:C49OC25、スリーエムジャパン株式会社より商品名:Novec 7200として購入された)が用いられた。
【0099】
表4に示す通り、比較例13および比較例14では、ハロゲン化炭化水素として、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(化学式:cyclo-C573、日本ゼオン株式会社より商品名:ゼオローラHとして購入された)が用いられた。
【0100】
表4に示す通り、比較例15では、ハロゲン化炭化水素として、メチルノナフルオロブチルエーテル(化学式:C49OCH3、スリーエムジャパン株式会社より商品名:Novec 7100として購入された)が用いられた。
【0101】
以下の表2Aから表4は、実施例1A-1から実施例3D、参考例1から参考例3、および比較例1から比較例15における各成分の添加量及び実験結果を示す。モル比Mt/Mwは、水に対するTHFのモル比である。モル比Ms/Mwは、水に対する過冷却抑制剤のモル比である。質量比ms/mwthは、水、THF、およびハロゲン化炭化水素の質量の合計に対する過冷却冷却剤の質量の比である。
【0102】
【表2A】
【0103】
【表2B】
【0104】
【表3A】
【0105】
【表3B】
【0106】
【表4】
【0107】
表2B、表3B、および表4の「沸点」は、ハロゲン化炭化水素の沸点を意味する。
【0108】
表2B、表2B、および表4の「引火性」の欄において、分母は、摂氏10度以上摂氏130度以下の温度範囲における引火性試験の繰り返し回数を意味する。実施例1A-1から実施例3D、参考例1から参考例3、および比較例1~比較例15の各々において、当該繰り返し回数は20回であった。分子は、当該引火性試験において引火が観察された回数を意味する。
【0109】
実施例1A-1から実施例3Dを比較例1から比較例15と比較すると明らかなように、ハロゲン化炭化水素の沸点が摂氏54度以下であれば、ハロゲン化炭化水素の重量比が15重量%以下であっても、蓄冷材の引火性は低い。具体的には、20サンプルのうち、摂氏10度以上摂氏130度以下の温度範囲において引火するサンプルの数は3つ以下である。すなわち、引火性は3/20(=15%)以下である。ハロゲン化炭化水素の重量比が5重量%以上である場合には、20サンプルのうち、引火するサンプルの数は1つ以下である。すなわち、引火性は1/20(=5%)以下である。ハロゲン化炭化水素の重量比が10重量%以上である場合には、20サンプルのうち、引火するサンプルはない。すなわち、引火性は0/20(=0%)である。実施例1A-1から実施例3Dでは、ハロゲン化炭化水素の重量比が15重量%以下という低い値であるため、実施例1A-1から実施例3Dによる蓄冷材は213J/g以上の高い潜熱量を有する。
【0110】
一方、ハロゲン化炭化水素の沸点が摂氏61度以上である場合には、ハロゲン化炭化水素の重量比が15重量%である蓄冷材は、213J/gという高い潜熱量を有するが、高い引火性をも有する(比較例15を参照せよ)。一方、ハロゲン化炭化水素の重量比が20重量%である蓄冷材の引火性は低いが、ハロゲン化炭化水素の重量比が20重量%という大きな値であるため、潜熱量は200J/gに低下する(比較例4を参照せよ)。
【0111】
言い換えれば、比較例4および比較例15から明らかなように、ハロゲン化炭化水素の沸点が摂氏61度という高い温度であるため、ハロゲン化炭化水素の重量比が15重量%である蓄冷材(すなわち、比較例15による蓄冷材)の引火性は高い。一方、ハロゲン化炭化水素の重量比が20重量%である蓄冷材(すなわち、比較例4による蓄冷材)では、引火性は低いが、潜熱量が低い。
【0112】
上記と同様に、比較例1、比較例9、および比較例10では、ハロゲン化炭化水素の沸点が摂氏98度という高い温度であるため、ハロゲン化炭化水素の重量比が25重量%である蓄冷材(すなわち、比較例10による蓄冷材)の引火性は高く、かつ当該蓄冷材の潜熱量は188J/gという低い値である。ハロゲン化炭化水素の重量比が30重量%以上である蓄冷材(すなわち、比較例1および比較例9による蓄冷材)では、引火性は低いが、潜熱量は175J/g以下というより低い値である。
【0113】
同様に、比較例2、比較例11、および比較例12では、ハロゲン化炭化水素の沸点が摂氏76度という高い温度であるため、ハロゲン化炭化水素の重量比が25重量%である蓄冷材(すなわち、比較例12による蓄冷材)の引火性は高く、かつ当該蓄冷材の潜熱量は188J/gという低い値である。ハロゲン化炭化水素の重量比が30重量%以上である蓄冷材(すなわち、比較例2および比較例11による蓄冷材)では、引火性は低いが、潜熱量は175J/g以下というより低い値である。
【0114】
同様に、比較例3、比較例13、および比較例14では、ハロゲン化炭化水素の沸点が摂氏83度という高い温度であるため、ハロゲン化炭化水素の重量比が25重量%である蓄冷材(すなわち、比較例14による蓄冷材)の引火性は高く、かつ当該蓄冷材の潜熱量は188J/gという低い値である。ハロゲン化炭化水素の重量比が30重量%以上である蓄冷材(すなわち、比較例3および比較例13による蓄冷材)では、引火性は低いが、潜熱量は175J/g以下というより低い値である。
【0115】
上記の実施例、参考例、および比較例から明らかなように、以下2つの効果:
効果(I) 蓄冷材が、低い引火性を有すること、および
効果(II) 蓄冷材が、200J/gを超える潜熱量を有すること
を得るためには、以下の条件(A)から(D):
条件(A) テトラヒドロフラン、水、およびハロゲン化炭化水素を含有すること、
条件(B1) ハロゲン化炭化水素は、フッ素原子を含むこと、
条件(B2) ハロゲン化炭化水素に含まれるハロゲン原子の中ではフッ素原子の個数が最も大きいこと、
条件(B3) ハロゲン化炭化水素の炭素数が3以上8以下であること、
条件(C) ハロゲン化炭化水素の蓄冷材に対する重量比は15%以下(望ましくは3%以上)であること、および
条件(D) ハロゲン化炭化水素の沸点が摂氏60度以下(望ましくは摂氏54度以下)であること
が充足されることが必要とされる。
【0116】
さらに、実施例1A-2から実施例1A-7、実施例1B-2から実施例1B-4、実施例1C-2から実施例1C-4、実施例2A-2から実施例2A-4、実施例2B-2から実施例2B-4、実施例2C-2から実施例2C-4、実施例3A-2から実施例3A-4、実施例3B-2から実施例3B-4、および実施例3C-2から実施例3C-4から理解されるように、化学式AgOにより表される酸化銀(II)、化学式Ag3PO4により表されるリン酸銀、および化学式Ag2CO3により表される炭酸銀は、水、テトラヒドロフラン、およびハロゲン化炭化水素を含有する蓄冷材に好適な過冷却抑制剤として機能する。この結果、蓄冷材の結晶化温度は、摂氏マイナス20度という低い温度から、摂氏1度以上摂氏2度以下という高い温度に改善される。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本開示による蓄冷材は、医薬品、生体組織、細胞、食品、及び花卉などの鮮度保持が求められる対象物の貯蔵、保管、又は輸送のために用いられ得る。
図1
図2
図3