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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181480
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】シート
(51)【国際特許分類】
   A47C 31/02 20060101AFI20231214BHJP
   B60N 2/58 20060101ALI20231214BHJP
   B68G 7/052 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
A47C31/02 B
B60N2/58
B68G7/052 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023188283
(22)【出願日】2023-11-02
(62)【分割の表示】P 2022518146の分割
【原出願日】2021-04-30
(31)【優先権主張番号】62/704,263
(32)【優先日】2020-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 和也
(72)【発明者】
【氏名】宗 迪
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 和也
(57)【要約】
【課題】パッドのローラークラッシング時にクリップに過度の力が加わることが抑制されたシートを提供する。
【解決手段】シートは、パッド6と表皮材7とを備え、吊り込み部5を有する。表皮材7の吊り込み縁部11が、パッド6に設けられた吊り込み溝8に受容され、吊り込み溝8の底部に設けられたクリップ8に係止されることによって、吊り込み部5が形成される。パッド6には、クリップ8の直下に凹部を含む変形容易部25が設けられている。ローラークラッシング時に、クリップ8が変形容易部25に向かって変位することにより、ローラーからクリップ8に過度の力が加わることが抑制される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊り込み部を有するシートであって、
厚み方向の一方に設けられた表面及び前記厚み方向の他方に設けられた裏面を有し、クッション性を有する発泡樹脂を含むパッドと、
前記パッドの少なくとも前記表面上に配置され、前記パッドに向けて延出する吊り込み縁部を含む表皮材と、
前記パッドの前記表面に設けられて、前記吊り込み縁部を受容する吊り込み溝と、
前記吊り込み溝の底部に埋設された基部、及び前記基部から前記吊り込み縁部に向けて延出する係止部を含み、前記吊り込み縁部を係止する複数のクリップとを備え、
前記クリップの各々に対応する、前記吊り込み溝の前記底部を形成する前記パッドの部分に、その周辺の前記パッドの部分よりも変形容易な個別の変形容易部が設けられており、
前記変形容易部は、前記パッドの前記裏面に設けられた凹部を含み、
前記吊り込み溝の延在方向及び/又は幅方向において、前記クリップの両端部は、前記変形容易部の両端部よりも内方に位置する、シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材が吊り込まれた吊り込み部を有するシートに関する。
【背景技術】
【0002】
パッドとパッドを覆う表皮材とを備えるシートにおいて、シートクッション及びシートバックにおける着座面に、外観形状を維持するために線状に窪んだ吊り込み部が設けることがある。表皮材はこの吊り込み部に吊り込まれてパッドに固定された係合部材に固定される。例えば、特許文献1には、表皮材の吊り込み縁部(サスペンダ)を、パッドの溝内に設置されたクリップによって係止することによって形成された吊り込み部が記載されている。クリップは、基部と、基部から延出する1対の係止部とを含み、1対の係止部によって、表皮材の吊り込み縁部を係止する。
【0003】
パッドは、発泡ウレタン等のクッション性を有する発泡樹脂によって構成される。金型内で発泡成形されたパッドは、金型から取り出した後、ローラークラッシングによって押しつぶされる。ローラークラッシングは、発泡樹脂の発泡成形時に生じた気泡の膜(セル)を破り、パッドの硬さやへたりの特性を安定させるために行われる処理である。特許文献1に記載のクリップでは、1対の係止部の外側に設けられた立上部が、ローラークラッシング時にローラーによって弾性変形した1対の係止部に当接することによって、1対の係止部が過度に変形することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-186324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の構造では、ローラークラッシング時にクリップが過度に変形することを防止できるが、ローラーからクリップに加わる力によって、クリップとパッドとの間に力が加わり、クリップが所定の位置からずれたり、パッドによるクリップの固定力が低下したりすることにより、表皮材の吊り込みが不十分となり、意匠性が低下するおそれがあった。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑み、パッドのローラークラッシング時にクリップに過度の力が加わることが抑制されたシートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、吊り込み部(5)を有するシート(1)であって、厚み方向の一方に設けられた表面及び前記厚み方向の他方に設けられた裏面を有し、クッション性を有する発泡樹脂を含むパッド(6)と、前記パッド(6)の少なくとも前記表面上に配置され、前記パッド(6)に向けて延出する吊り込み縁部(11)を含む表皮材と、前記パッド(6)の前記表面に設けられて、前記吊り込み縁部(11)を受容する吊り込み溝(8)と、前記吊り込み溝(8)の底部に埋設された基部(15)、及び前記基部(15)から前記吊り込み縁部(11)に向けて延出する係止部(16)を含み、前記吊り込み縁部(11)を係止する複数のクリップ(9)とを備え、前記クリップ(9)の各々に対応する、前記吊り込み溝(8)の前記底部を形成する前記パッド(6)の部分に、その周辺の前記パッド(6)の部分よりも変形容易な個別の変形容易部(25)が設けられている。
【0008】
この態様によれば、パッドが製造過程においてローラークラッシングされる時、クリップの周辺に変形容易部が設けられているため、クリップが変形容易部に向かって変位することにより、クリップに過度の力が加わることが抑制される。これにより、吊り込み部の意匠性の低下が抑制される。
【0009】
上記の態様において、前記変形容易部(25)は、前記パッド(6)の前記裏面に設けられた凹部を含むとよい。
【0010】
この態様によれば、変形容易部を容易に形成することができる。
【0011】
上記の態様において、前記吊り込み溝(8)の延在方向及び/又は幅方向において、前記クリップ(9)の両端部は、前記変形容易部(25)の両端部よりも内方に位置するとよい。
【0012】
この態様によれば、更に、ローラークラッシング時にクリップが変形容易部に向かって変位しやすくなるため、クリップに過度の力が加わることが抑制される。
【0013】
上記の態様において、前記厚み方向から見て、前記クリップ(9)の輪郭は、前記変形容易部(25)の輪郭の内方に位置するとよい。
【0014】
この態様によれば、更に、ローラークラッシング時にクリップが変形容易部に向かって変位しやすくなるため、クリップに過度の力が加わることが抑制される。
【0015】
上記の態様において、前記クリップ(9)の底面から対応する前記変形容易部(25)の底面までの距離は、該変形容易部(25)の深さよりも長いとよい。
【0016】
この態様によれば、クリップを埋設している吊り込み溝の底部の厚さが薄くなることを抑制できるため、パッドによるクリップの保持力の低下を抑制できる。
【0017】
上記の態様において、前記パッド(6)は、前記吊り込み溝(8)の前記底部から前記表面に向けて突出した位置決め突部(14)を含み、前記クリップ(9)が、前記位置決め突部(14)に隣接して設けられた端部クリップ(9a)を含み、前記端部クリップが、前記位置決め突部及び/又は前記パッドにおける前記位置決め突部に対して前記裏面側に隣接する部分に突入する延長部(17)を含むとよい。
【0018】
この態様によれば、延長部がパッドに支持されるため、パッドによるクリップの保持力が向上する。
【0019】
上記の態様において、前記係止部(16)が、前記基部(15)から延出する1対の係止片(19)を含み、前記1対の係止片(19)の各々は、その遊端から前記吊り込み溝の幅方向において互いに近接する向きに延出して前記吊り込み縁部(11)を係止する係止爪(20)を含み、前記延長部(17)が、前記係止爪(20)の各々から前記吊り込み溝(8)の延在方向の互いに離反する向きに延出して、その一方が前記位置決め突部(14)に突入する遊端部延長部(22)を含む。
【0020】
この態様によれば、遊端部延長部が位置決め突部に支持されるため、パッドによるクリップの保持力が向上する。また、遊端部延長部が、吊り込み溝の延在方向の双方に延出しているため、クリップをパッドに組み付ける時にクリップの向きを間違えて取り付けることが抑制される。
【0021】
上記の態様において、前記1対の係止片の間に、前記パッドの一部が存在する。
【0022】
この態様によれば、1対の係止片の間に入り込んだパッドによって、吊り込み部材の厚み方向の裏側への移動が抑制される。
【0023】
上記の態様において、前記位置決め突部(14)は、前記厚み方向から見て、前記端部クリップ(9a)に対応する前記変形容易部(25)に少なくとも部分的に重なるとよい。
【0024】
この態様によれば、厚み方向から見て位置決め突部が変形容易部に少なくとも部分的に重なっているため、変形容易部を設けたことによるパッドのクッション性の低下を位置決め突部によって補うことができるとともに、位置決め突部と変形容易部とが互いに重ならない場合と比べて、吊り込み溝の延在方向においてパッドをコンパクト化できる。
【0025】
上記の態様において、前記位置決め突部(14)における前記端部クリップ(9a)の側の側面は、前記表面側が前記端部クリップ(9a)から離反するように傾斜した傾斜面を含むとよい。
【0026】
この態様によれば、位置決め突部に傾斜面が設けられているため、吊り込み縁部における厚み方向の表面側の部分(表皮延長部)が位置決め突部に衝当することが抑制される。
【0027】
上記の態様において、前記吊り込み溝(8)の前記底部に取り付けられた第1面ファスナー(31)と、前記吊り込み縁部(11)に取り付けられて、前記第1面ファスナー(31)に係合した第2面ファスナー(32)とを更に備えるとよい。
【0028】
この構成によれば、第1及び第2面ファスナーを互いに係合してから、吊り込み縁部をクリップに係合させることによって、クリップのパッドに対する位置がずれることを防止でき、吊り込み部の意匠性の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0029】
以上の態様によれば、パッドのローラークラッシング時にクリップに過度の力が加わることが抑制されたシートを提供することができる。
【0030】
変形容易部が凹部を含む態様によれば、変形容易部を容易に形成することができる。
【0031】
クリップの両端部が変形容易部の両端部よりも内方に位置する態様によれば、更に、ローラークラッシング時にクリップに過度の力が加わることが抑制される。
【0032】
厚み方向から見て、クリップの輪郭が変形容易部の輪郭の内方に位置する態様によれば、更に、ローラークラッシング時にクリップに過度の力が加わることが抑制される。
【0033】
クリップの底面から対応する変形容易部の底面までの距離が、変形容易部の深さよりも長い態様によれば、パッドによるクリップの保持力の低下を抑制できる。
【0034】
位置決め突部及び/又はその周辺に延長部が突入した態様によれば、パッドによるクリップの保持力が向上する。
【0035】
延在方向の双方に遊端部延長部を含む態様によれば、パッドによるクリップの保持力が向上するとともに、クリップのパッドへの組み付け時にクリップの向きを間違えて取り付けることが抑制される。
【0036】
1対の係止片の間にパッドの一部が存在する態様によれば、吊り込み部材の厚み方向の裏側への移動が抑制される。
【0037】
位置決め突部が少なくとも部分的に変形容易部に重なる態様によれば、パッドのクッション性の低下を抑制できるとともに、パッドをコンパクト化できる。
【0038】
位置決め突部に傾斜面が設けられた態様によれば、吊り込み縁部における厚み方向の表面側の部分が位置決め突部に衝当することが抑制される。
【0039】
第1及び第2面ファスナーを備える態様によれば、吊り込み縁部のクリップへの組み付け時に、クリップのパッドに対する位置がずれることが防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】実施形態に係るシートを示す斜視図
図2】実施形態に係るシートの吊り込み部を示す断面図(吊り込み溝の幅方向に直交する断面図)
図3】実施形態に係るシートの吊り込み部を示す断面図(吊り込み溝の延在方向に直交する縦断面図)
図4】実施形態に係るシートのパッド及びクリップを示す平面図
図5】実施形態に係るシートのシートバックを示す正面図
図6】実施形態に係るシートにおける、吊り込み縁部のクリップへの取り付け方法を示す説明図
図7】第1変形例に係るシートの吊り込み部を示す断面図(吊り込み溝の幅方向に直交する断面図)
図8】第2変形例に係るシートの吊り込み部を示す断面図(吊り込み溝の幅方向に直交する断面図)
図9】第3変形例に係るシートのパッド及びクリップを示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係るシート1について説明する。
【0042】
図1に示すように、シート1は、着座者の臀部を支持するシートクッション2と、着座者の背中を支持するシートバック3と、着座者の頭部を支持するヘッドレスト4とを備える、車両用シートである。シートクッション2及びシートバック3の着座面には、それぞれ、線状に凹んだ複数の吊り込み部5が設けられている。
【0043】
図2図5に示すように、シートクッション2及びシートバック3は、それぞれ、金属フレーム(図示せず)と、金属フレームに支持された支持部材26と、支持部材26に支持されたパッド6と、パッド6を覆う表皮材7と、吊り込み部5を形成するためにパッド6に設けられた吊り込み溝8と、吊り込み部5を形成するために吊り込み溝8内で表皮材7を係止する複数のクリップ9とを備える。
【0044】
パッド6は、発泡ウレタン等のクッション性を有する発泡樹脂を含む。パッド6は、厚み方向の一方に設けられた表面と、厚み方向の他方に設けられた裏面とを有する。パッド6は、裏面側において、支持部材26に支持される。シートクッション2(図1参照)では、厚み方向は概ね上下方向に一致し、表面は上面である。シートバック3では、厚み方向は概ね車両の前後方向に一致し、表面は前面である。
【0045】
表皮材7は、パッド6の表面上に配置される。シートクッション2(図1参照)では、表皮材7は、パッド6の表面(上面)だけでなく、前面及び左右側面上にも配置される。シートバック3では、表皮材7は、パッド6の表面(前面)だけでなく、左右側面及び上面上にも配置される。表皮材7は、パッド6の表面を覆う表皮本体部10と、パッド6に向けて延出して、吊り込み溝8に受容される吊り込み縁部11とを含む。吊り込み縁部11が吊り込み溝8に受容されて、クリップ9に係止されることによって、吊り込み部5が形成される。
【0046】
吊り込み縁部11は、吊り込み溝8の延在方向に沿って延在する。吊り込み縁部11は、布形状をなして、2枚の表皮本体部10の端部に縫製等により連結された表皮延長部12と、表皮延長部12の厚み方向の裏面側の端部に連結して、クリップ9に係止される被係止部13とを備える。被係止部13は、表皮延長部12に対して、吊り込み溝8の幅方向の両側に膨出した形状をなす。例えば、表皮延長部12が不織布によって構成され、被係止部13が、射出成形によって形成され、表皮延長部12は、被係止部13の成形時に金型のキャビティに装着されることによって被係止部13に連結されても良い。また、例えば、表皮延長部12及び被係止部13が互いに同じ樹脂によって形成され、吊り込み縁部11が押し出し成形によって形成されても良い。
【0047】
吊り込み溝8は、パッド6の表面に設けられて、吊り込み縁部11を受容する。パッド6は、吊り込み溝8の底部から表面に向けて突出した位置決め突部14を含む。位置決め突部14は、吊り込み縁部11の被係止部13の延在方向の端部に衝当することにより、吊り込み縁部11の延在方向への変位を規制する。
【0048】
クリップ9は、吊り込み溝8の底部に埋設された基部15と、基部15から厚み方向の表面側に延出して吊り込み縁部11の被係止部13を係止する係止部16とを含む。クリップ9は、吊り込み溝8の延在方向の端部近傍に配置された端部クリップ9aと、吊り込み溝8の延在方向の中間部に配置された中間部クリップ9bとを含む。端部クリップ9aは、基部15及び係止部16から吊り込み溝8の延在方向に延出した延長部17を含む。中間部クリップ9bは、端部クリップ9aと同一の構造であってもよいが、延長部17が省かれた構造であってもよい。クリップ9は、樹脂を素材とし、射出成形等によって製造される。クリップ9は、パッド6を発泡成形する際にパッド6の金型内に配置されることにより、パッド6内に埋め込まれる。
【0049】
基部15は、厚み方向に直交する略平板形状をなし、厚み方向に貫通した複数の貫通孔18を有する。貫通孔18内には、パッド6を構成する発泡樹脂が充填されている。係止部16は、吊り込み溝8の延在方向及び幅方向に互いにずれて配置された1対の係止片19を含む。1対の係止片19の基端部側はパッド6に埋設されており、1対の係止片19の遊端部はパッド6から突出している。1対の係止片19の各々は、その遊端から吊り込み溝8の幅方向における互いに近接する向きに延出して、吊り込み縁部11の被係止部13を係止する係止爪20を含む。厚み方向から見て、1対の係止爪20の延出端縁は互いに平行であり、その延出端縁の延長線間の距離は被係止部13の幅以上である。また、吊り込み溝8の幅方向における1対の係止爪20間の最短距離は、被係止部13の幅未満である。吊り込み溝8の底面から係止爪20までの距離は、被係止部13の高さ(吊り込み溝8の底面に対向する面から係止爪20に当接する面までの長さ)に略等しいことが好ましい。
【0050】
延長部17は、基部15から吊り込み溝8の延在方向の双方に延出する基部延長部21と、係止爪20の各々から吊り込み溝8の延在方向の互いに離反する向きに延出する遊端部延長部22とを含む。端部クリップ9aの各々における2つの基部延長部21の内、位置決め突部14に向かって延出する側の基部延長部21の先端部が、パッド6における位置決め突部14に対して裏面側に隣接する部分に突入している。端部クリップ9aの各々における2つの遊端部延長部22の内、位置決め突部14に向かって延出する側の遊端部延長部22の先端部が、位置決め突部14に突入している。
【0051】
位置決め突部14における端部クリップ9a側の側面は、遊端部延長部22が突入した部分よりも厚み方向の表面側において、表面側が端部クリップ9aから離反するように傾斜した傾斜面23を含む。吊り込み縁部11の表皮延長部12の延在方向の端部は、傾斜面23に対向する傾斜縁24を含む。
【0052】
パッド6は、クリップ9の各々に対応して、吊り込み溝8の底部を形成するパッド6の部分に、その周辺のパッド6の部分よりも変形容易な個別の変形容易部25を有する。変形容易部25は、パッド6の裏面に設けられた凹部を含む。凹部は、パッド6を構成する発泡樹脂に画成されている。吊り込み溝8の延在方向及び幅方向において、クリップ9の両端部は、変形容易部25の両端部よりも内方に位置する。好ましくは、厚み方向から見て、クリップ9の輪郭は、変形容易部25の輪郭の内方に位置する。従って、位置決め突部14における端部クリップ9aの延長部17が突入した部分の厚み方向の裏面側にも変形容易部25が存在する。また、変形容易部25を構成する凹部の底面は、対応するクリップ9の基部15の底面と、パッド6における変形容易部25の周辺の底面に平行であり、クリップ9の基部15の底面から対応する変形容易部25を構成する凹部の底面までの距離は、変形容易部25を構成する凹部の深さよりも長い。
【0053】
なお、パッド6とパッド6の裏面側に配置された金属フレーム(図示せず)との間で異音が発生することを防止するための部材(図示せず)がパッド6の裏面側に設けられている場合には、変形容易部25は、その異音発生防止部材に設けられた貫通孔を含んでも良い。また、変形容易部25は、凹部に代えて、その周辺のパッド6の部分よりも変形容易な発泡樹脂によって構成されてもよい。
【0054】
図5に示すように、シートバック3では、クリップ9及び変形容易部25は、シートバック3の左右方向の中央部を避けて配置される。また、支持部材26を支持するワイヤ27は、上下方向及び左右方向において、変形容易部25と略一致する位置に、ワイヤ27の撓み量を増加させるための屈曲部28を含む。車両が他車両や他の物体に衝突して乗員からシートバック3に大きな荷重が作用した際に、パッド6が圧縮することによって乗員の背中がシートバック3に沈み込み、乗員に加わる衝撃を緩和する。この時、変形容易部25は、シートバック3の左右方向の中央部を避けて配置されているため、変形容易部25は、パッド6による衝撃緩和機能を阻害しない。また、ワイヤ27の屈曲部28が、上下方向及び左右方向において変形容易部25と略一致する位置に存在することも、乗員のシートバック3への沈み込み量向上に寄与する。
【0055】
図6を参照して、吊り込み縁部11のクリップ9への取り付け方法を説明する。まず、図6(A)に示すように、作業員は、被係止部13を、吊り込み溝8(図2図4参照)の延在方向に対して、幅方向に傾斜した状態にする。次に、図6(B)に示すように、作業員は、1対の係止爪20間に被係止部13を挿通する。1対の係止爪20の互いに平行な延出端縁の延長線間の距離が、被係止部13の幅以上であるため、被係止部13を幅方向に傾斜させることにより、容易に被係止部13を1対の係止爪20間に挿通させることができる。次に、図6(C)に示すように、作業員は、被係止部13を、吊り込み溝8の延在方向に平行になるように、クリップ9の中心を通って厚み方向に平行な軸線回りに回転させる。吊り込み溝8の幅方向における1対の係止爪20間の最短距離は、被係止部13の幅未満であるため、図6(C)に示す状態では、吊り込み縁部11が表面側に引っ張られても、被係止部13が1対の係止爪20に係止される。
【0056】
実施形態に係るシート1の作用効果について説明する。パッド6は、製造過程においてローラークラッシング時にローラーから厚み方向に力を受ける。この時、クリップ9に対する厚み方向の裏面側に変形容易部25が設けられているため、クリップ9は変形容易部25に向かって変位する。このため、ローラーからクリップ9に過度の力が加わることが抑制される。なお、ローラーの通過後は、パッド6の弾性によって、クリップ9は元の位置に戻る。また、吊り込み溝8の延在方向及び/又は幅方向において、クリップ9の両端部は、変形容易部25の両端部よりも内方に位置すること、好ましくは、厚み方向から見て、クリップ9の輪郭は、変形容易部25の輪郭の内方に位置することによって、ローラークラッシング時にクリップ9が変形容易部25に向かって変位しやすくなり、ローラーからクリップ9に加わる力が抑制される。このため、クリップ9の変形やずれが抑制され、吊り込み部5の意匠性の低下を抑制できる。
【0057】
各々のクリップ9毎に個別の変形容易部25が設けられているため、クリップ9が存在する部分に比べて、クリップ9が存在しない部分では、パッド6によるローラーに対する反力が大きくなる。このため、ローラーからクリップ9に加わる力が抑制される。また、各々のクリップ9毎に個別の変形容易部25が設けられていることにより、厚さ方向から見て、パッド6全体に対する変形容易部25が形成された領域の割合が小さくなり、クッション性の低下を抑制できる。
【0058】
変形容易部25が凹部を含むことにより、変形容易部25をパッド6に形成することが容易となる。また、クリップ9の基部15の底面から対応する変形容易部25を構成する凹部の底面までの距離は、変形容易部25を構成する凹部の深さよりも長いことによって、変形容易部25がパッド6によるクリップ9の保持力を低下させることを抑制している。
【0059】
位置決め突部14が設けられていることによって、吊り込み縁部11を吊り込み溝8に挿入する際に、吊り込み縁部11の吊り込み溝内での位置決めが容易になる。
【0060】
端部クリップ9aの基部延長部21の先端部が、パッド6における位置決め突部14に対して裏面側に隣接する部分に突入し、端部クリップ9aの遊端部延長部22の先端部が、位置決め突部14に突入していることにより、パッド6による端部クリップ9aの支持力が向上する。また、クリップ9の基部15に設けられた貫通孔18内にパッド6を構成する発泡樹脂が充填されていることによっても、パッド6による端部クリップ9aの支持力が向上する。
【0061】
端部クリップ9aの長手方向の双方に延長部17が設けられているため、端部クリップ9aのパッド6への組付の向きを間違えることを防止できる。
【0062】
位置決め突部14が、パッド6の厚み方向において、変形容易部25に部分的に重なっているため、変形容易部25を設けたことによるパッド6クッション性の低下を位置決め突部14によって補うことができるとともに、位置決め突部14と変形容易部25とが互いに重ならない場合と比べて、吊り込み溝8の延在方向においてパッド6をコンパクト化できる。
【0063】
位置決め突部14に傾斜面23が設けられているため、吊り込み縁部11の表皮延長部12が位置決め突部14に衝当することが抑制できる。
【0064】
1対の係止片19の基端部はパッド6に埋設されているため、1対の係止片19間にもパッド6を構成する発泡樹脂が入り込んでいる。このため、パッド6における1対の係止片19間に入り込んだ部分によって、被係止部13が厚み方向の裏面側に移動することが抑制される。
【0065】
図7図9を参照して、上記実施形態の第1~第3変形例について説明する。上記実施形態と共通する構成については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0066】
図7に示す第1変形例及び図8に示す第2変形例は、吊り込み溝8の底部に取り付けられた第1面ファスナー31と、吊り込み縁部11の被係止部13における厚み方向の裏面側の面に取り付けられて第1面ファスナー31に係合した第2面ファスナー32とを備える点で、上記実施形態と相違する。第1及び第2面ファスナー31,32は、吊り込み溝8の延在方向において、クリップ9とはずれた位置に配置される。第1変形例では、第1面ファスナー31は、位置決め突部14の近傍に配置され、第2面ファスナー32は、吊り込み縁部11の延在方向の端部に配置され、端部クリップ9aの延長部17は、位置決め突部14及びその近傍の部分に突入していない。第2変形例では、第1面ファスナー31は、互いに隣り合うクリップ9の中間に配置され、第2面ファスナー32は、吊り込み縁部11の延在方向の中間部に配置される。
【0067】
吊り込み縁部11をクリップ9に取り付ける時、吊り込み縁部11からクリップ9に過度な力が加わって、クリップ9のパッド6に対する位置がずれ、吊り込み部5の意匠性が低下するおそれがある。そこで、第1及び第2面ファスナー31,32を互いに係合させてから、吊り込み縁部11をクリップ9に取り付けることによって、吊り込み縁部11からクリップ9に過度な力が加わることが防止され、クリップ9のパッド6に対する位置がずれることを防止でき、吊り込み部5の意匠性の低下を抑制できる。
【0068】
図9に示す第3変形例では、位置決め突部14に吊り込み縁部11が挿通されるスリット33が設けられている点で上記実施形態と相違する。吊り込み溝8の延在方向において、基部延長部21の先端は、スリット33の端部よりも遠位側に位置することが好ましい。スリット33を設けることによって、吊り込み縁部11の端部が安定する。
【0069】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。本出願のパリ条約に基づく優先権主張の基礎出願の全内容及び本出願中で引用された従来技術の全内容は、それに言及したことをもって本願明細書の一部とする。本発明に係るシートは、吊り込み部を有するシートであれば車両用シートに限定されず、例えば、二輪車、スノーモービル、航空機、鉄道、又は船舶等の乗物用シートに適用されても良く、また、建物内に配置されるソファー等の家具シートに適用されても良い。吊り込み縁部に、サイドエアバッグの展開方向を制御するための公知の力布を設けても良い。各々のクリップにおける係止部が1つの係止片によって構成されてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 :シート
5 :吊り込み部
6 :パッド
7 :表皮材
8 :吊り込み溝
9 :クリップ
9a :端部クリップ
11 :吊り込み縁部
14 :位置決め突部
16 :係止部
17 :延長部
19 :係止片
20 :係止爪
22 :遊端部延長部
23 :傾斜面
25 :変形容易部
31 :第1面ファスナー
32 :第2面ファスナー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9