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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181569
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】触覚提示装置及び触覚制御装置
(51)【国際特許分類】
   A63G 31/04 20060101AFI20231218BHJP
   H02K 11/27 20160101ALI20231218BHJP
   H02K 11/21 20160101ALI20231218BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20231218BHJP
   G09B 9/02 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
A63G31/04
H02K11/27
H02K11/21
G09F9/00 366Z
G09B9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194480
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】横山 諒
(72)【発明者】
【氏名】福馬 洋平
(72)【発明者】
【氏名】森山 多覇
(72)【発明者】
【氏名】中川 佑輔
【テーマコード(参考)】
5G435
5H611
【Fターム(参考)】
5G435EE49
5H611AA01
5H611BB01
5H611QQ03
5H611QQ05
5H611UA01
5H611UA07
(57)【要約】
【課題】多様な触覚を提示する小型のデバイスを実現することが可能な触覚提示装置及び触覚制御装置を提供すること。
【解決手段】本技術の一形態に係る触覚提示装置は、可動部材と、弾性部と、少なくとも1つの駆動部とを具備する。前記弾性部は、前記可動部材を支持する。前記すくなくとも1つの駆動部は、前記可動部材に接続され、前記弾性部が弾性変形するように前記可動部材を動かし、前記弾性部が弾性変形した状態を維持可能である
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動部材と、
前記可動部材を支持する弾性部と、
前記可動部材に接続され、前記弾性部が弾性変形するように前記可動部材を動かし、前記弾性部が弾性変形した状態を維持可能な少なくとも1つの駆動部と
を具備する触覚提示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の触覚提示装置であって、
前記可動部材は、ユーザが乗ることが可能なステージである
触覚提示装置。
【請求項3】
請求項1に記載の触覚提示装置であって、さらに、
前記可動部材の振動又は姿勢に関する指定情報を取得し、前記指定情報に基づいて前記少なくとも1つの駆動部を制御する触覚制御部を具備する
触覚提示装置。
【請求項4】
請求項3に記載の触覚提示装置であって、
前記可動部材は、前記少なくとも1つの駆動部の各々が接続される少なくとも1つの接続部を有し、
前記少なくとも1つの駆動部は、各々が接続される前記接続部を引っ張ることで前記可動部材を動かす
触覚提示装置。
【請求項5】
請求項4に記載の触覚提示装置であって、
前記可動部材は、基準面に沿って配置された板状の部材であり、
前記駆動部は、前記基準面と交差する方向に沿って前記可動部材を引っ張る
触覚提示装置。
【請求項6】
請求項5に記載の触覚提示装置であって、
前記駆動部は、前記基準面と直交する方向に沿って前記可動部材を引っ張る
触覚提示装置。
【請求項7】
請求項5に記載の触覚提示装置であって、
前記駆動部は、前記基準面に沿って前記可動部材がスライドするように前記可動部材を引っ張る
触覚提示装置。
【請求項8】
請求項5に記載の触覚提示装置であって、
前記駆動部は、前記基準面に直交する軸を中心として前記可動部材が回転するように前記可動部材を引っ張る
触覚提示装置。
【請求項9】
請求項4に記載の触覚提示装置であって、
前記指定情報は、前記可動部材の振動パターンを指定する情報を含み、
前記触覚制御部は、前記少なくとも1つの駆動部のうち前記振動パターンに対応する駆動部を選択し、前記選択された駆動部が前記可動部材を引っ張る引張量を前記振動パターンに応じて振動させる
触覚提示装置。
【請求項10】
請求項4に記載の触覚提示装置であって、
前記指定情報は、前記可動部材の傾斜姿勢を指定する情報を含み、
前記触覚制御部は、前記少なくとも1つの駆動部のうち前記傾斜姿勢に対応する駆動部を選択し、前記選択された駆動部が前記可動部材を引っ張る引張量を前記傾斜姿勢に応じた値に維持する
触覚提示装置。
【請求項11】
請求項3に記載の触覚提示装置であって、
前記駆動部は、各々が前記可動部材に接続されるワイヤーと、前記ワイヤーを巻きとるリールと、前記リールを回転させるモータとを有し、
前記触覚制御部は、前記指定情報に基づいて、前記モータの回転を制御する制御信号を生成する
触覚提示装置。
【請求項12】
請求項11に記載の触覚提示装置であって、
前記リールは、前記モータの回転量が大きいほど前記ワイヤーの巻き取り量が減少するように構成される
触覚提示装置。
【請求項13】
請求項11に記載の触覚提示装置であって、
前記制御信号は、前記モータを駆動する電圧又は前記モータの回転量を指定する信号である
触覚提示装置。
【請求項14】
請求項11に記載の触覚提示装置であって、さらに、
前記モータにかかる負荷を表す負荷情報を検出する負荷センサを具備し、
前記触覚制御部は、前記負荷情報に基づいて前記制御信号を補正する
触覚提示装置。
【請求項15】
請求項14に記載の触覚提示装置であって、
前記負荷センサは、前記モータに流れる電流を検出する電流センサ、前記可動部材に対する圧力を検出する圧力センサ、前記可動部材の姿勢を検出する姿勢センサのうち少なくとも1つを含む
触覚提示装置。
【請求項16】
請求項11に記載の触覚提示装置であって、
前記少なくとも1つの駆動部は、複数の駆動部を含み、
前記触覚制御部は、前記負荷情報に基づいて、前記複数の駆動部の各々が有する前記モータの負荷が互いに等しくなるように前記制御信号を補正する
触覚提示装置。
【請求項17】
請求項11に記載の触覚提示装置であって、
前記触覚制御部は、前記負荷情報に基づいて前記可動部材にかかる荷重を推定し、前記荷重が大きいほど前記モータが前記可動部材を引っ張る力が大きくなるように前記制御信号を補正する
触覚提示装置。
【請求項18】
請求項11に記載の触覚提示装置であって、
前記可動部材は、ユーザが乗ることが可能なステージであり、
前記触覚制御部は、前記負荷情報に基づいて前記可動部材上のユーザの位置を推定し、前記ユーザの位置が前記可動部材の端である場合、前記モータが前記可動部材を引っ張る引張量が小さくなるように前記制御信号を補正する
触覚提示装置。
【請求項19】
請求項11に記載の触覚提示装置であって、
前記触覚制御部は、前記ワイヤーのたわみが解消するように前記モータを回転させる
触覚提示装置。
【請求項20】
弾性部に支持された可動部材の振動又は姿勢に関する指定情報を取得する取得部と、
前記可動部材に接続され前記弾性部が弾性変形するように前記可動部材を動かし、前記弾性部が弾性変形した状態を維持可能な少なくとも1つの駆動部を、前記指定情報に基づいて制御する制御部と、
を具備する触覚制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、ユーザに触覚を提示する触覚提示装置及び触覚制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ユーザに触覚を提示する装置が開発されている。例えば映像や音声に連動して触覚を提示することで、様々な体験を提供することが可能である。
【0003】
例えば特許文献1には、映像や音声に合わせてユーザが座る座具を動かすモーションシュミレータが記載されている。このモーションシュミレータでは、座具を支持する複数のアクチュエータが設けられる。各アクチュエータは、上下に移動する連結ベースに連結される。また連結ベースには、アクチュエータに与えられる荷重をキャンセルするように配置された弾性部材が接続される。これにより、アクチュエータの上方向への移動に要する力が小さくなり、小型の駆動装置を採用することが可能となる。(特許文献1の明細書段落[0009][0054][0055][0061]図11図12等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-184774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようにユーザに触覚を提示する技術は、アミューズメントや教育等の様々な分野での応用が期待されている。このため、多様な触覚を提示するとともにデバイスサイズを小さくすることが可能な技術が求められている。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、多様な触覚を提示する小型のデバイスを実現することが可能な触覚提示装置及び触覚制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る触覚提示装置は、可動部材と、弾性部と、少なくとも1つの駆動部とを具備する。
前記弾性部は、前記可動部材を支持する。
前記すくなくとも1つの駆動部は、前記可動部材に接続され、前記弾性部が弾性変形するように前記可動部材を動かし、前記弾性部が弾性変形した状態を維持可能である
【0008】
この触覚提示装置では、弾性部で支持された可動部材に少なくとも1つの駆動部が接続される。これらの駆動部により、弾性部が弾性変形した状態を維持できるように可動部材が動かされる。これにより弾性部が復元する力を利用して可動部材を動かすことが可能となり、多様な触覚を提示する小型のデバイスを実現することが可能となる。
【0009】
前記可動部材は、ユーザが乗ることが可能なステージであってもよい。
【0010】
前記触覚提示装置は、さらに、前記可動部材の振動又は姿勢に関する指定情報を取得し、前記指定情報に基づいて前記少なくとも1つの駆動部を制御する触覚制御部を具備してもよい。
【0011】
前記可動部材は、前記少なくとも1つの駆動部の各々が接続される少なくとも1つの接続部を有してもよい。この場合、前記少なくとも1つの駆動部は、各々が接続される前記接続部を引っ張ることで前記可動部材を動かしてもよい。
【0012】
前記可動部材は、基準面に沿って配置された板状の部材であってもよい。この場合、前記駆動部は、前記基準面と交差する方向に沿って前記可動部材を引っ張ってもよい。
【0013】
前記駆動部は、前記基準面と直交する方向に沿って前記可動部材を引っ張ってもよい。
【0014】
前記駆動部は、前記基準面に沿って前記可動部材がスライドするように前記可動部材を引っ張ってもよい。
【0015】
前記駆動部は、前記基準面に直交する軸を中心として前記可動部材が回転するように前記可動部材を引っ張ってもよい。
【0016】
前記指定情報は、前記可動部材の振動パターンを指定する情報を含んでもよい。この場合、前記触覚制御部は、前記少なくとも1つの駆動部のうち前記振動パターンに対応する駆動部を選択し、前記選択された駆動部が前記可動部材を引っ張る引張量を前記振動パターンに応じて振動させてもよい。
【0017】
前記指定情報は、前記可動部材の傾斜姿勢を指定する情報を含んでもよい。この場合、前記触覚制御部は、前記少なくとも1つの駆動部のうち前記傾斜姿勢に対応する駆動部を選択し、前記選択された駆動部が前記可動部材を引っ張る引張量を前記傾斜姿勢に応じた値に維持してもよい。
【0018】
前記駆動部は、各々が前記可動部材に接続されるワイヤーと、前記ワイヤーを巻きとるリールと、前記リールを回転させるモータとを有してもよい。この場合、前記触覚制御部は、前記指定情報に基づいて、前記モータの回転を制御する制御信号を生成してもよい。
【0019】
前記リールは、前記モータの回転量が大きいほど前記ワイヤーの巻き取り量が減少するように構成されてもよい。
【0020】
前記制御信号は、前記モータを駆動する電圧又は前記モータの回転量を指定する信号であってもよい。
【0021】
前記触覚提示装置は、さらに、前記モータにかかる負荷を表す負荷情報を検出する負荷センサを具備してもよい。この場合、前記触覚制御部は、前記負荷情報に基づいて前記制御信号を補正してもよい。
【0022】
前記負荷センサは、前記モータに流れる電流を検出する電流センサ、前記可動部材に対する圧力を検出する圧力センサ、前記可動部材の姿勢を検出する姿勢センサのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0023】
前記少なくとも1つの駆動部は、複数の駆動部を含んでもよい。この場合、前記触覚制御部は、前記負荷情報に基づいて、前記複数の駆動部の各々が有する前記モータの負荷が互いに等しくなるように前記制御信号を補正してもよい。
【0024】
前記触覚制御部は、前記負荷情報に基づいて前記可動部材にかかる荷重を推定し、前記荷重が大きいほど前記モータが前記可動部材を引っ張る力が大きくなるように前記制御信号を補正してもよい。
【0025】
前記可動部材は、ユーザが乗ることが可能なステージであってもよい。この場合、前記触覚制御部は、前記負荷情報に基づいて前記可動部材上のユーザの位置を推定し、前記ユーザの位置が前記可動部材の端である場合、前記モータが前記可動部材を引っ張る引張量が小さくなるように前記制御信号を補正してもよい。
【0026】
前記触覚制御部は、前記ワイヤーのたわみが解消するように前記モータを回転させてもよい。
【0027】
本技術の一形態に係る触覚制御装置は、取得部と、制御部とを具備する。
前記取得部は、弾性部に支持された可動部材の振動又は姿勢に関する指定情報を取得する。
前記制御部は、前記可動部材に接続され前記弾性部が弾性変形するように前記可動部材を動かし、前記弾性部が弾性変形した状態を維持可能な少なくとも1つの駆動部を、前記指定情報に基づいて制御する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本技術の一実施形態に係る触覚提示システムの概要を示す模式図である。
図2】触覚提示システムの機能的な構成例を示すブロック図である。
図3】触覚提示装置の構成例を示す模式図である。
図4】触覚提示装置の動作例を示す模式図である。
図5】ワイヤーを巻き取るリールの特性を説明するための模式図である。
図6】巻き取りリールの構成例を示す模式図である。
図7】触覚コントローラの基本的な動作例を示すフローチャートである。
図8】モータ駆動処理の一例を示すフローチャートである。
図9】振動波形を示す元信号の一例を示すグラフである。
図10】振動信号について説明するための模式図である。
図11】天板部を振動させる電圧信号の他の一例を示すグラフである。
図12】音声信号を元信号とする振動信号の生成例を示す模式図である。
図13】傾斜信号について説明するための模式図である。
図14】補正処理の一例を示すフローチャートである。
図15】天板部の傾斜に応じた補正処理を説明する模式図である。
図16】天板部にかかる荷重に応じた補正処理を説明する模式図である。
図17】たわみ解消処理の一例を示すフローチャートである。
図18】モータの位置制御の一例を示す模式図である。
図19】触覚提示装置の他の動作例を示す模式図である。
図20】比較例として挙げる振動装置の構成例を示す模式図である。
図21】他の実施形態に係る触覚提示装置の構成例を示す模式図である。
図22】触覚提示装置の他の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本技術に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0030】
[触覚提示システムの概要]
図1は、本技術の一実施形態に係る触覚提示システムの概要を示す模式図である。図2は、触覚提示システム100の機能的な構成例を示すブロック図である。
触覚提示システム100は、ディスプレイ10と、スピーカ11と、触覚提示装置20と、システムコントローラ50とを有する。
触覚提示システム100は、触覚提示装置20を用いて、映像や音声とともにユーザ1に触覚を提示するシステムである。本開示では、触覚提示装置20に接触しているユーザ1に対して、触覚提示装置20を物理的に動かすことで与えることができる感覚を触覚と記載する。
【0031】
図1に示すように、触覚提示装置20は、ユーザ1を乗せるステージとして構成される。例えば触覚提示装置20は、ユーザ1が乗っている部材(後述する天板部21)を物理的に動かすことで、振動の感覚や加減速の感覚等の様々な触覚をユーザ1に提示する。
ここでは、ユーザ1が立った状態で触覚提示装置20に乗ることを想定しているが、これに限定されるわけではない。例えば触覚提示装置20の上にユーザ1が座るシート等が固定して配置されてもよい。
【0032】
ディスプレイ10は、映像を再生する再生装置である。
ディスプレイ10としては、例えばLCD(Liquid Christal Display)、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ等の自発光型のディスプレイが用いられる。あるいはプロジェクト等を用いた投射型のディスプレイが用いられてもよい。この他、ヘッドマウントディスプレイ(HMD:Head Mounted Display)のような装着型のディスプレイが用いられてもよい。
スピーカ11は、音声を再生する再生装置である。図1Aに示す例では、ディスプレイ10の右側及び左側にスピーカ11が配置される。この他、イヤホンやヘッドホン等がスピーカ11として用いられてもよい。
【0033】
[触覚提示装置の構成]
図3は、触覚提示装置20の構成例を示す模式図である。触覚提示装置20は、全体として箱型の装置であり、水平な床面等に配置して用いられる。図3Aは、触覚提示装置20の内部を上方からみた模式図である。図3Bは、触覚提示装置20の内部を側方からみた模式図である。
触覚提示装置20は、天板部21(Force Floor)と、台座部22と、ダンパー23と、4つの駆動部24とを有する。
【0034】
天板部21は、触覚提示装置20の上方に設けられた板状の部材であり、駆動部24の動作により可動するステージである。ここでは、上方から見た平面形状が略正方形となる天板部21が用いられる。例えば一辺が1000mm程度の正方形状の板部材が天板部21として用いられる。なお天板部21の平面形状、及びサイズはこれに限定されず任意に設定可能である。本実施形態では、天板部21は、可動部材に相当する。
また天板部21は、駆動部24が動作していない状態(停止状態)では、基準面12に沿って配置される。ここで基準面12とは、天板部21の動きの基準となる面であり、典型的には水平面である。なお水平面に対して傾いた面が基準面12に設定されてもよい。
【0035】
天板部21の上面は、ユーザ1を乗せる搭乗面となる。搭乗面には、ユーザ1の立ち位置を示すマークや滑り止め等が設けられてもよい。このように、天板部21は、ユーザ1が乗ることが可能なステージとして構成される。
【0036】
また天板部21の下面は、ダンパー23及び駆動部24が接続する接続面となる。図3Bに示すように接続面には、各駆動部24に接続するための接続部25がそれぞれ設けられる。従って図3に示す例では、天板部21は、4つの駆動部24の各々が接続される4つの接続部25を有する。接続部25は、後述する駆動部24のワイヤー30を天板部21に固定する固定具である。接続部25としては、例えばワイヤーフックやアンカーボルト等が用いられる。この他、ワイヤー30を固定可能な任意の固定具が設けられてよい。
【0037】
台座部22は、触覚提示装置20の下方に配置され、ユーザ1が乗るステージ(天板部21)の台座となる。台座部22は、天板部21と同様の形状の上面を備える柱状の構造を有し、蓋部26と、蓋部26を支持するフレーム部27とを有する。蓋部26は台座部22の上面を構成し、フレーム部27は台座部22の側面を構成する
蓋部26は、天板部21と同様の平面形状をした板状の部材であり、台座部22の上方に配置される。また蓋部26には、4つの駆動部24のワイヤー30を通すための4つの開口部が設けられる。以下では、蓋部26の上面を基準面12として説明を行う。
フレーム部27は、蓋部26(天板部21)と同様の平面形状を有する枠型の部材であり、蓋部26の周縁を支持するように、蓋部26の下面に接続される。これにより、蓋部26にかかる荷重をフレーム部27全体で受けることが可能となる。
【0038】
また図3Bに示すように、蓋部26とフレーム部27とで囲まれた空間には、駆動部24(モータ32)が収容される。このように、台座部22は、4つの駆動部24(モータ32)を収容する筐体として機能する。この他、台座部22には、後述するアンプ35や触覚コントローラ40、その他の電源ユニット等が収容されてもよい。
なお図3に示す例では、台座部22の下側が開口している。これにより、触覚提示装置20のメンテナンス等を容易に行うことが可能である。もちろん、台座部22の下側を塞ぐ部材等が設けられてもよい。
【0039】
ダンパー23は、天板部21を支持する。ダンパー23は、弾性変形が可能な弾性部材である。本開示において弾性部材とは、例えば、外力が加わることで弾性変形し、外力が弱まると復元力により元の形状に戻る性質を有する部材である。
ダンパー23としては、例えば防振や衝撃の緩衝に用いられるゲルダンパー等が用いられる。例えば厚さが20mm程度のゲルダンパーでは、10mm程度の伸縮範囲を確保することが可能である。もちろん、ダンパー23の厚みは限定されず適宜設定可能である。
またダンパー23として、ゴムやばね等の弾性部材が用いられてもよい。あるいはエアサスペンション等の弾性変形が可能な機構がダンパー23として用いられてもよい。
【0040】
ダンパー23は、天板部21と台座部22との間に設けられ、台座部22上で天板部21を支持する。典型的には、ダンパー23は、天板部21の周縁を支持するように配置される。図3に示す例では、正方形状の天板部21の4つの頂点と、4つの辺の中間点との8箇所にダンパー23が設けられる。
なお、ダンパー23の数や配置は限定されない。
【0041】
4つの駆動部24は、各々が天板部21に接続され、ダンパー23が弾性変形するように天板部21を動かす。すなわち、各駆動部24が天板部21を動かしている間は、ダンパー23が弾性範囲で変形し、天板部21には、駆動部24及びダンパー23の両方から力が加わることになる。
また各駆動部24は、ダンパー23が弾性変形した状態を維持可能なように構成される。すなわち、各駆動部24は、ダンパー23の復元力よりも強い力を継続的に出力し、ダンパー23を変形させ続けることが可能である。
【0042】
本実施形態では、各駆動部24は、各々が接続される接続部25を引っ張ることで天板部21を動かすように構成される。ここでは、ワイヤー30を介して接続部25を引っ張る機構が用いられる。このように、駆動部24は、ワイヤー30によって天板部21を牽引する牽引ユニットであると言える。
【0043】
図3Bに示すように、4つの駆動部24は、各々が天板部21に接続されるワイヤー30とワイヤー30を巻きとるリール31と、リール31を回転させるモータ32とを有する。
ワイヤー30は、一方の端が対応する接続部25に固定され、他の端がリール31に固定される。ワイヤー30は、典型的には金属ワイヤーであるが、その材質や形状は限定されない。
リール31は、モータ32の回転軸に固定される。リール31には、例えば巻き取ったワイヤー30をガイドするための溝等が設けられる。リール31の形状については後述する。
モータ32は、入力された駆動信号に応じて回転軸(リール31)を回転させる。以下では、ワイヤー30が巻き取られる方向を正回転と記載し、その逆を逆回転と記載する。モータ32は、例えば、ダンパー23を変形させることが可能な回転トルクを出力できるものであれば、その種類等は限定されない。
【0044】
図3Bに示すように、各モータ32は、所定の固定具33を用いて台座部22内に固定される。従って、天板部21は台座部22がある下側に引っ張られることになる。このように、各駆動部24は、基準面12と交差する方向に沿って天板部21を引っ張る。これにより、基準面12に対する天板部21の位置や姿勢を変化させることが可能となり、様々な触覚を表現することが可能となる。
なお、図3に示す例では、蓋部26の下面に固定具33が設けられ、モータ32は蓋部26に対して固定される。このため、天板部21を引っ張った場合にモータ32は蓋部26に押し付けられることになる。これにより、固定具33に不要な力がかかるといった事態が回避され、固定具33の弛みや破損等を回避することが可能となっている。
【0045】
以下では、図3Aにおける左側、右側、上側、及び下側を、触覚提示装置20の左側、右側、前側、及び後側と記載する。例えば、触覚提示装置20の前側は、ディスプレイ10が配置される側となる。また図3Bは、触覚提示装置20の後側からみた内部構造を表している。
また4つの駆動部24(4つのモータ32)を、それぞれ駆動部24a~24d(モータ32a~32d)と記載する。モータ32a~32dは、それぞれ台座部22(フレーム部27)の左側中央、右側中央、前側中央、及び後側中央に、リール31(回転軸)を向けて配置される。
【0046】
また天板部21の下面において、モータ32a~32dに接続されたリール31の直上となる位置には、各リールに固定されたワイヤー30が接続される接続部25がそれぞれ設けられる。この時、接続部25とリール31との位置関係は、例えばワイヤー30を引っ張る方向が、基準面12と直交する方向(鉛直方向)となるように設定される。
このように、本実施形態では、各駆動部24(モータ32)が、基準面12と直交する方向に沿って天板部21を引っ張るように配置される。
これにより、天板部21を鉛直に引っ張る力を効率的に伝達することが可能となる。この結果、各接続部25の上下方向の位置を最小のエネルギーで変化させることが可能となる。
【0047】
図3Bでは、左側のモータ32(モータ32a)が正回転することで、ワイヤー30が巻き取られている。この場合、天板部21の左側(左側中央の接続部25)が下方向に引っ張られる。この時、天板部21の左側を支持するダンパー23が引張量に応じて縮められる。このダンパー23の変形は、弾性変形である。このように、天板部21に固定したワイヤー30を、モータ32で巻き取ることによって、天板部21を台座部22側に沈み込ませることが可能である。
【0048】
また、図3Bの右側のモータ32(モータ32b)では、一定量のワイヤー30を巻き取った後で、ワイヤー30の巻き取り(モータ32の回転)が停止される。この場合、ワイヤー30を巻き取ることで弾性変形したダンパー23の復元力により、天板部21が押し上げられる。このように、モータ32による巻き取りを停止すると、ダンパー23の復元力によって、天板部21がもとの位置に戻る。
なお、モータ32の巻き取りを完全に停止せずに、ワイヤー30を巻き取るトルクをダンパー23の復元力よりも小さくする場合にも、天板部21を押し上げることが可能である。この場合、天板部21はモータ32のトルクと復元力とが釣り合う位置にまで戻ることになる。
【0049】
このように、触覚提示装置20では、ワイヤー30の巻き取りと、ダンパー23の復元力 とを利用して天板部21が動かされる。ワイヤー30をモータ32で巻き取るという単純な構成により、天板部21の位置や姿勢を変化させることが可能である。このため、例えば、上下方向に動くアクチュエータや他の振動素子等を用いる場合と較べ、装置サイズを十分に小型化することが可能となる。
【0050】
図2に示すように、触覚提示装置20は、さらに、アンプ35と、電流センサ36と、記憶部37と、触覚コントローラ40とを有する。
アンプ35は、各駆動部24(モータ32)を駆動するための制御信号を増幅する信号増幅回路である。アンプ35は、例えば駆動部24と同数の増幅回路を搭載し、各増幅回路を用いて制御信号をそれぞれ増幅する。
アンプ35には、後述する触覚コントローラ40で生成された各モータ32の制御信号が入力される。アンプ35では、これらの制御信号がモータ32を駆動するレベル(駆動電圧)に増幅される。増幅された制御信号は、各モータ32にそれぞれ出力される。
アンプ35の具体的な構成は限定されず、例えばモータ32の種類等に応じた増幅回路が適宜用いられてよい。
【0051】
電流センサ36は、各モータ32に流れる電流を検出するセンサである。電流センサ36は、モータ32とアンプ35とをつなぐ配線を流れる電流を検出するように配線される。
例えば、モータ32に流れる電流(以下モータ電流と記載する)は、モータ32に負荷(トルク負荷)がかかるほど増大することが知られている。このため、例えばモータ32が自由回転する場合にモータ電流は最小となり、モータ32の回転を止めるような負荷がかかる場合にモータ電流は最大となる。
【0052】
従がって、電流センサ36を用いてモータ電流を検出することで、モータ32にかかる負荷を検出することが可能となる。電流センサ36により検出されたモータ電流の検出結果は、モータ32にかかる負荷を表す負荷情報として用いられる。
このように、本実施形態では、電流センサ36は、モータ32にかかる負荷を表す負荷情報を検出する負荷センサとして機能する。
【0053】
なお、負荷情報を検出する負荷センサとして、電流センサ36以外のセンサが用いられてもよい。例えば天板部21にかかる圧力(荷重)は、各モータ32にかかる負荷を変化させる。このため、天板部21に対する圧力を検出する圧力センサが負荷センサとして用いられてもよい。
また例えば、ユーザ1の立ち位置等により、天板部21の姿勢が変化するような場合にも、各モータ32にかかる負荷が変化することが考えられる。このため、天板部21の姿勢を検出する姿勢センサ(加速度センサ等)が負荷センサとして用いられてもよい。
【0054】
記憶部37は、不揮発性の記憶デバイスである。記憶部37としては、例えばSSD(Solid State Drive)等の固体素子を用いた記録媒体や、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記録媒体が用いられる。この他、記憶部37として用いられる記録媒体の種類等は限定されず、例えば非一時的にデータを記録する任意の記録媒体が用いられてよい。
記憶部37には、本実施形態に係る制御プログラムが記憶される。制御プログラムは、例えば触覚提示装置20全体の動作を制御するプログラムである。
【0055】
触覚コントローラ40は、天板部21の動きを制御してユーザ1に提示される触覚を制御する。具体的には、触覚コントローラ40は、力覚制御ファイルを取得し、力覚制御ファイルに基づいて各駆動部24を制御する。力覚制御ファイルは、天板部21の振動又は姿勢を指定する指定情報である。
本実施形態では、後述するシステムコントローラ50のライブラリに記録された力覚制御ファイルが読み込まれる。力覚制御ファイルについては、後に詳しく説明する。
【0056】
触覚コントローラ40は、触覚提示装置20の動作を制御する。触覚コントローラ40は、例えばCPUやメモリ(RAM、ROM)等のコンピュータに必要なハードウェア構成を有する。CPUが記憶部37に記憶されている制御プログラムをRAMにロードして実行することにより、種々の処理が実行される。本実施形態では、触覚コントローラ40は、触覚提示装置における触覚制御部に相当する。また本実施形態では、触覚コントローラ40は、触覚制御装置として機能する。
【0057】
触覚コントローラ40として、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)等のPLD(Programmable Logic Device)、その他ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のデバイスが用いられてもよい。また例えばGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサが触覚コントローラ40として用いられてもよい。
【0058】
本実施形態では、触覚コントローラ40のCPUが本実施形態に係る制御プログラムを実行することで、機能ブロックとして、信号制御部41、及び較正処理部42が実現される。そしてこれらの機能ブロックにより、本実施形態に係る触覚制御方法が実行される。なお各機能ブロックを実現するために、IC(集積回路)等の専用のハードウェアが適宜用いられてもよい。
【0059】
信号制御部41は、力覚制御ファイルを取得し、取得した力覚制御ファイルに基づいて、モータ32の回転を制御する制御信号を生成する。例えばシステムコントローラ50(データ出力部52)から出力された力覚制御ファイルが適宜読み込まれ、その内容に応じた制御信号がモータ32ごとにそれぞれ生成される。
制御信号は、例えば、モータ32を駆動する電圧を指定する信号である。これは、モータ32の回転方向や、回転速度(回転トルク)等を電圧値として指定する信号である。
例えば力覚制御ファイルに、天板部21を振動させる指示(振動パターン等)が含まれている場合、振動パターンに応じて電圧が振動する制御信号が生成される。
なお、モータ32の位置制御が可能な場合には、制御信号として、電圧に代えてモータ32の回転位置を指定する信号が用いられてもよい。この点については、図18等を参照して説明する。
【0060】
較正処理部42は、モータ32にかかる負荷を表す負荷情報に基づいて制御信号を補正する。ここでは、負荷情報として、電流センサ36により検出された各モータ電流の値が用いられる。また、圧力センサや姿勢センサ等が設けられる場合には、これらのセンサの検出結果が負荷情報として用いられる。
例えば負荷情報から、高い負荷がかかっているモータ32が特定される。そのようなモータ32については、補正されていないそのままの制御信号で駆動しても所望の引張量を得られない可能性がある。このような場合、力覚制御ファイルが指定する触覚が提示されるように、モータ32の電圧を上げる等の補正が行われる。
【0061】
較正処理部42では、例えば、制御信号を補正するための補正パラメータ(例えばオフセットの値や、振幅の増幅量等)が算出され、信号制御部41に出力される。
あるいは、較正処理部42により、制御信号に重畳する重畳信号等が生成されてもよい。この場合、制御信号と重畳信号とを加算した信号が補正された制御信号となる。
【0062】
本実施形態では、信号制御部41は、取得部として機能する。また信号制御部41と構成処理部42とが共動することで、制御部が実現される。
信号制御部41及び較正処理部42の具体的な動作については後に詳しく説明する。
【0063】
システムコントローラ50は、触覚提示システム100の各部の動作を制御する。システムコントローラ50としては、例えばPCやサーバ等のコンピュータが用いられる。図2に示すように、システムコントローラ50は、ライブラリ51と、データ出力部52とを有する。なお、上記した触覚コントローラ40は、システムコントローラ50により実現されてもよい。
【0064】
ライブラリ51は、触覚提示システム100で再生させる各種のコンテンツのデータを格納する記憶媒体である。ライブラリ51には、映像ファイル、音声ファイル、及び力覚制御ファイルが格納される。
映像ファイルは、例えば映画やライブ等の映像データである。音声ファイルは、典型的には映像ファイルの音声データである。
力覚制御ファイルは、触覚提示装置20(天板部21)によりユーザ1に提示される触覚(力覚)の内容が記録されたデータである。ユーザ1に提示する触覚は、典型的には、映像ファイル及び音声ファイルの内容に合わせて設定される。
【0065】
力覚制御ファイルには、例えば天板部21の振動パターンを指定する情報(振動情報)が含まれる。振動情報とは、例えば、振動を発生させるタイミング、振動の種類(上下の振動、傾斜を含む振動等)、振動の波形、あるいは振動のパラメータ(振幅や周波数)等を指定する情報である。
また力覚制御ファイルには、例えば天板部21の姿勢を指定する情報(姿勢情報)が含まれる。ここでは、天板部21の姿勢として、天板部21の傾斜が指定される。この場合、姿勢情報とは、傾斜を発生させるタイミング、傾斜の向きや傾斜角度(傾斜度合い)等を指定する情報である。
なお、振動及び傾斜の種類やタイミングは、映像ファイルや音声ファイルの内容に合わせて設定される。また、上記した音声ファイルをそのまま振動情報として用いることも可能である。この場合、音声ファイルが力覚制御ファイルとして機能する。
【0066】
データ出力部52は、ライブラリ51に格納されたファイルを、触覚提示システム100の各部にそれぞれ出力する。例えば映像ファイルは、ディスプレイ10に出力される。また音声ファイルは、スピーカ11に出力される。これにより、ディスプレイ10及びスピーカ11では、コンテンツの映像及び音声が再生される。
また触覚制御ファイルは、触覚コントローラ40の信号制御部41に出力される。これにより、天板部21を触覚制御ファイルに応じて動かすことが可能となる。
【0067】
[触覚提示装置の基本動作]
図4は、触覚提示装置の動作例を示す模式図である。図4A及び図4Bには、触覚提示装置20を簡略化した構成が模式的に図示されている。
図4Aでは、全てのモータ32により同時に天板部21が引っ張られる。この場合、各ダンパー23は引っ張られた量だけ縮むことになり、天板部21は全体として沈み込む。次に、全てのモータ32のトルクを下げる(あるいは全てのモータ32を停止させる)と、天板部21はダンパー23の復元力により押し戻される。このような操作を繰り返すことで、天板部21を上下に振動させることが可能となる。
このように、全てのモータ32をタイミングを同期した制御信号により、同時に牽引することで、上下方向の振動を発生させることが可能となる。
【0068】
図4Bでは、図中右側及び左側のモータ32により交互に天板部21が引っ張られる。例えば図4Bに示すように、右側のモータ32が天板部21を牽引しているときは、左側のモータ32のトルクが下げられる(あるいは停止される)。この場合、右側のダンパー23は縮み、左側のダンパー23は天板部21を押し上げる。この結果、天板部21は、右側に傾いた状態となる。
これとは、逆に左側のモータ32が天板部21を牽引しているときは、右側のモータ32のトルクが下げられる(あるいは停止される)。この結果、天板部21は左側に傾いた状態となる。
このように、天板部21の左右(前後)を交互に牽引すれば、左右(前後)に傾く振動を提示することが可能となる。
【0069】
また、天板部21を牽引し続けることで傾いた状態を維持することが可能となる。この場合、天板部21を引っ張るモータ32には、一定のトルクを発生させる制御信号が継続して出力される。
これにより、前後左右に傾いた状態を提示することが可能となる。
【0070】
なお、天板部21を傾ける場合には、2つ以上のモータ32をペアとして用いることも可能である。具体的には、前後のモータ32のうちの1つと左右のモータ32のうちの1つとを組み合わせた2つのモータ32のペアを構成し、ペアごとに天板部21を交互に牽引させる。これにより、例えば左前(右後)に傾いた状態や、右前(左後)に傾いた状態等を実現することが可能である。
【0071】
このように、天板部21を振動させることで、例えばディスプレイ10に表示される爆発シーン等の衝撃や、音楽や音声等にあった振動感覚をユーザ1に提示することが可能となる。
また、天板部21を傾斜させることで体幹のバランスが崩されたかのような錯覚を起こすことが可能である。このような天板部21の傾斜を、ディスプレイ10の映像に合わせてクロスモーダル提示することで、例えば自動車や電車の発進時の加速感をユーザ1に錯覚させることが可能となる。
【0072】
[リールの構成]
図5は、ワイヤー30を巻き取るリール31の特性を説明するための模式図である。図5Aには、リール31がワイヤー30を巻き取る様子が模式的に図示されている。ここでは、ワイヤー30は、固定位置Pに固定され、リール31が正回転となる反時計回り回転するとワイヤー30が巻き取られる。またリール31が逆回転となる時計回りに回転するとワイヤー30がリリースされる。
【0073】
天板部21を振動させる場合、上記したようにモータ32の正回転と逆回転とが繰り返される。この時、モータ32の正回転の回転量、すなわちワイヤー30を巻き取る量が、振動の振幅に対応する。従って、振幅Aは、リール31の半径Rとモータ32の角速度ω(回転速度)と回転時間tとの積(R×ω×t)で表される。
このうち、回転時間tの逆数が振動の周波数fとなる。従って、振幅Aは、A=R×ω/fと表される。このように振動を提示する場合、振幅Aは、モータ32を駆動する周波数f(提示周波数)に反比例する。
【0074】
図5Bには、半径Rが一定の円形リールにおける振幅Aと周波数fとの関係を示す模式的なグラフが実線で図示されている。グラフに示すように、リールの半径Rが一定である場合、周波数fが大きくなるほど、振幅A(巻き取り量)が反比例して小さくなる。
このように、単純な円形のリールを用いた場合、振動の周波数fが高いほど、提示できる振動の振幅、すなわち振動の強度が低くなり、高周波数の振動を適切に提示することが難しくなる可能性がある。
【0075】
図6は、巻き取りリールの構成例を示す模式図である。
本実施形態では、リール31は、モータ32の回転量が大きいほどワイヤー30の巻き取り量が減少するように構成される。具体的には、ワイヤー30を巻き取る部分の半径Rが徐々に小さくなるような螺旋状のリール31が用いられる。
【0076】
例えば図6(a)には、アルキメデス螺旋を利用して構成された螺旋状のリール31aが図示されている。リール31aでは、各段を構成する巻き取り溝の形状が、平面視でアルキメデスの螺旋となっている。
また、図6(b)には、対数螺旋を利用して構成された螺旋状のリール31bが図示されている。リール31bでは、各段を構成する巻き取り溝の形状が、平面視で対数螺旋となっている。この他、放物螺旋や双曲螺旋等を用いた螺旋リールが用いられてもよい。
【0077】
これらの螺旋状のリール31では、最も半径Rが大きい部分を固定位置Pとしてワイヤー30が固定される。この固定位置Pから半径が徐々に小さくなるように、ワイヤー30が巻き取られる。これにより、周波数fが高い場合の巻き取り量と、周波数fが低い場合の巻き取り量との差を大幅に小さくすることが可能となる。
このように螺旋状のリール31を用いることで、リール31の振幅に関する周波数特性を、周波数fによらず一定の振幅Aを実現するような特性(図5Bの破線のグラフ)に近づけることが可能となる。
なおリール31の形状は、例えばモータ32の特性等に応じて適宜選択される。また、リール31の形状に応じて、制御信号の振幅等が調整されてもよい。これにより、力覚制御ファイルが指定する振動パターンを高精度に再現することが可能となる。
【0078】
[触覚コントローラの動作]
図7は、触覚コントローラ40の基本的な動作例を示すフローチャートである。図7に示す処理は、例えば触覚コントローラ40(触覚提示システム100)の動作中に繰り返し実行されるループ処理である。
触覚コントローラ40では、モータ32を駆動させるモータ駆動処理が実行される(ステップ101)。次に、モータ駆動処理での結果を受けて制御信号を補正する補正処理が実行される(ステップ102)。そしてワイヤー30のたわみを解消するためのたわみ解消処理が実行される(ステップ103)。
【0079】
図7では、モータ駆動処理、補正処理、及びたわみ解消処理が一連の処理として繰り返し実行される。これに限定されず、各処理が個別のタイミングで独立して実行されてもよい。
例えば補正処理やたわみ解消処理は、初期起動時や、コンテンツのシーンが切り替わったタイミング等で実行されてもよい。あるいは、ユーザ1からの指示に応じて補正処理やたわみ解消処理が実行されてもよい。
以下では、モータ駆動処理、補正処理、及びたわみ解消処理の各々について具体的に説明する。
【0080】
[モータ駆動処理]
図8は、モータ駆動処理の一例を示すフローチャートである。
まず、信号制御部41により、力覚制御ファイルが取得される(ステップ201)。具体的には、システムコントローラ50のデータ出力部52から出力された力覚制御ファイル が読み込まれる。
次に、力覚制御ファイルに天板部21を振動させる指示(振動情報)が含まれるか否かが判定される(ステップ202)。振動情報が含まれていないと判定された場合(ステップ202のNo)、力覚制御ファイルに天板部21を傾斜させる指示(傾斜情報)が含まれるか否かが判定される(ステップ203)。傾斜情報が含まれていないと判定された場合(ステップ203のNo)、モータ32を制御するための制御信号は生成されずにモータ駆動処理が終了する。
【0081】
ステップ202において、力覚制御ファイルに振動情報が含まれていると判定された場合(ステップ202のYes)、信号制御部41により、天板部21を振動させる制御信号である振動信号が生成される(ステップ204)。
振動信号は、例えばモータ32にかかる電圧を振動させる信号である。これはモータ32のトルクを振動させる信号であり、モータ32が天板部21を引っ張る引張量(振幅)を振動させる信号であるとも言える。
信号制御部41では、力覚制御ファイルが指定する振動パターンで天板部21が振動するように、各モータ32に対応する振動信号がそれぞれ生成される。
【0082】
ここでは、図3に示す触覚提示装置20において、モータ32a~32d(駆動部24a~24d)を使って天板部21を振動させる場合について説明する。
例えば、天板部21を上下に振動させる振動パターン(図4A参照)が指定された場合、全てのモータ32a~32dについて同一の振動信号が生成される。これにより、各モータ32a~32dは、同じタイミングで同じ長さだけ天板部21を引っ張ることになり、天板部21を上下に振動させることが可能となる。
また例えば、天板部21を左右に傾斜させて振動させる振動パターン(図4B参照)が指定された場合、モータ32a及び32bについて位相が180°ずれた振動信号が生成される。同様に天板部21を前後に傾斜させて振動させる場合、モータ32c及び32dについて位相が180°ずれた振動信号が生成される。これにより、天板部21の左右(または前後)が交互に引っ張られることになり、天板部21を左右(又は前後)に傾斜させて振動させることが可能となる。
【0083】
また、振動パターンが、天板部21を左前及び右後に交互に傾斜させるようなパターンであるとする。この場合、モータ32a及びモータ32cに対応する振動信号と、モータ32b及びモータ32dに対応する振動信号とが、互いに180°位相のずれた信号として生成される。また、天板部21を右前及び左後に交互に傾斜させるようなパターンでは、上記のペアを入れ替えて、対応する振動信号が生成される。
この他、前後左右のモータ32a~32dがそれぞれ単独で振動するような振動パターン等が用いられてもよい。この場合、指定された方向に対応するモータ32の振動信号が生成される。
これらの振動信号が生成されると、アンプ35に出力される(ステップ206)。そしてアンプ35により増幅された振動信号に基づいて対応するモータ32が駆動される。
【0084】
このように、本実施形態では、信号制御部41は、各モータ32(駆動部24)のうち振動パターンに対応するモータ32を選択し、選択されたモータ32が天板部21を引っ張る引張量を振動パターンに応じて振動させる。
これにより、様々な振動パターンで天板部21を振動させることが可能となり、多様な触覚をユーザ1に提示することが可能となる。
【0085】
図9は、振動波形を示す元信号の一例を示すグラフである。図9には、電圧によって振動波形(振幅)を表す元信号V0(t)のグラフが図示されている。グラフの縦軸は電圧であり、横軸は時間である。またグラフの波形が振動波形となる。
ここでは、元信号V0(t)は、所定の周波数の正弦波であり、電圧が0の状態を中心として一定の振幅で振動する。
入力制御ファイルには、このように天板部21を振動させる振動波形を表す元信号V0(t)のデータが含まれる。従って元信号V0(t)は、ユーザ1に提示する触覚(力覚)を表す力覚入力信号であると言える。
【0086】
図10は、振動信号について説明するための模式図である。
図10Aには、図9に示す元信号V0(t)から生成した振動信号V1(t)のグラフが図示されている。グラフの縦軸は電圧であり、横軸は時間である。振動信号V1(t)は、モータ32の電圧を指定する信号である。モータ32の電圧を予め指定することで、モータ32の回転動作を前もって制御するフィードフォワード制御が可能となる。
【0087】
また図10Bには、振動信号V1(t)に応じて変化する天板部21の位置が模式的に図示されている。
ここでは、天板部21が上下方向(Z方向)に振動する場合を例に挙げて、振動信号V1(t)について説明する。また、天板部21の下面の位置を天板部21の位置とする。
図10Bには、天板部21が最も上側となる位置(Zmax)と、最も下側となる位置(Zmin)と、Zmax及びZminの中間となる位置(Zref)とがそれぞれ図示されている。ZmaxからZminの範囲は、ダンパー23を弾性変形させて天板部21を動かすことが可能な範囲、すなわち天板部21の可動範囲である。
【0088】
図10Aに示す例では、元信号V0(t)に基づいて、モータ32を正電圧の範囲で駆動する振動信号V1(t)が生成される。すなわち、V1(t)は、V0(t)を正方向にオフセットさせた信号となる。このときのオフセット値(Vofs)は、例えばV1(t)全ての点において電圧が0以上となるように設定される。
これにより、モータ32にかかる電圧は、常に正電圧となる。この結果、モータ32は常に正回転するように制御され、ワイヤー30を巻き取る方向にのみトルクを発生することになる。
なお、V1(t)の振幅は、V0(t)の振幅と必ずしも一致する必要はなく、適宜調整されてもよい。
【0089】
図10Aでは、振動信号V1(t)の最小値が0となるようにオフセット値Vofsが設定される。また振動信号V1(t)の最大値は、例えば天板部21の可動範囲において引張量が最大となる電圧に設定される。
例えば、V1(t)が最小(電圧=0)の場合、モータ32は回転しないため、天板部21の位置はZmaxとなる。V1(t)が上昇するとモータ32のトルクが上昇し、天板部21が引っ張られダンパー23が縮められる。V1(t)が最大となる場合、ダンパー23は可動範囲において最も縮められた状態となり、天板部21の位置はZminとなる。
またV1(t)が最大となった後、V1(t)が減少するとモータ32のトルクが減少する。この時、ダンパー23は復元力により天板部21を押し上げ始める。従って、V1(t)が減少する過程では、天板部21の位置が上昇する。そして、V1(t)が最小になると、天板部21の位置はZmaxに戻る。
【0090】
なお、ダンパー23やモータ32の特性によっては、電圧が低い領域においてダンパー23の復元力がモータ32のトルクよりも高くなる場合がある。この場合、V1(t)が最小となる前に、ダンパー23が元のサイズに戻る(天板部21の位置がZmaxとなる)こともあり得る。
このような場合には、例えばオフセット値Vofsを高く設定することで、V1(t)と天板部21の位置とを1対1で対応付けることも可能である。
【0091】
図10Aに示すように、正電圧の範囲で動作するように元信号をオフセットさせることで、モータ32は、ワイヤー30を巻き取る方向にのみ回転することになる。これにより、ワイヤー30のたわみが発生しにくくなる。またこのような制御を続けることで、ワイヤー30のたわみを時間の経過とともに解消するといったことも可能となる。
このように図10Aに示す振動信号は、ワイヤー30のたるみ(緩み)を防止するための制御信号であると言える。
【0092】
図11は、天板部を振動させる電圧信号の他の一例を示すグラフである。
図11には、モータ32を正電圧及び負電圧の範囲で駆動する振動信号V1(t)のグラフが図示されている。この場合、元信号V0(t)から振動信号V1(t)を生成する際のオフセット値は、振動波形の谷側が負電圧となるように設定される。
このように、オフセット値Vofsは必ずしも、電圧が常に負にならないように設定する必要はない。
【0093】
例えば、V1(t)が負電圧となる領域では、モータ32は逆回転する。モータ32が逆回転すると、例えば一定量のワイヤーをリリースすることが可能となる。これにより、ダンパー23に余分な力(例えばワイヤー30を介してモータ32を空転させる力等)を与えることなく、ダンパー23をもとのサイズに復元させることが可能となる。
例えばダンパー23の復元速度が遅い場合等には、このように、ダンパー23に加わる力を早めに減少させることで、天板部21を押し上げる速度の低下を回避することが可能となる。これにより、高い周波数の振動であっても適正に表現することが可能となる。
【0094】
また、振動信号のオフセット値Vofsは、振動の周波数に応じて設定してもよい。
例えば図5を参照して説明したように、リール31を用いてワイヤー30を巻き取る構成では、周波数が高いほど、巻き取り時間が短くなる。このため、一定の巻き取り速度(角速度ω)を仮定した場合、周波数が高いほど、ワイヤー30の巻き取り量、すなわち振幅が小さくなる。
【0095】
例えば、Vofsを高くするとモータ32のトルクが大きくなり、モータ32の巻き取り速度を早くすることが可能となる。このため、振動の周波数が高いほど、Vofsを高く設定される。これにより、高い周波数では巻き取り速度が速くなり、巻き取り量の減少を抑制することが可能となる。
【0096】
図12は、音声信号を元信号とする振動信号の生成例を示す模式図である。図12Aには、音声信号を表すグラフが図示されている。ここでは、音声ファイルに含まれる音声信号が力覚制御ファイルの振動情報として用いられるものとする。すなわち、音声信号が元信号V0(t)として用いられる。
図12Bには、図12Aに示す音声信号をから生成した振動信号V1(t)のグラフが図示されている。
【0097】
音声信号が元信号V0(t)となる場合、音声信号の負電圧の部分がなくなるようにする信号処理を行うことで振動信号V1(t)が生成される。
図12Bに示す例では、正電圧のみで駆動するように、音声信号に一定量のオフセット値Vofsが加えられる。また音声信号の振幅は、所定の閾値電圧Vmax以下となるように正規化される。閾値電圧Vmaxは、例えば天板部21の位置がZminとなるようにワイヤー30を引っ張ることが可能な電圧である。
これにより、音声信号に応じた振動を表現することが可能となる。
【0098】
なお、図12Bに示す方法では、V1(t)が0まで下がらずに再度上昇する領域が発生する。この領域では、天板部21は元の位置まで戻ることなく途中でクリップされる。
このため、例えば、音声信号を電圧=0を境界として負電圧側の波形を正電圧側に折り返すような正規化処理を行うことで、天板部21のクリップを回避することが可能である。これにより、天板部21で表現可能な振幅が増大し、ダイナミックな触覚提示を実現することか可能となる。
【0099】
図8に戻り、ステップ203において、力覚制御ファイルに傾斜情報が含まれていると判定された場合(ステップ203のYes)、信号制御部41により、天板部21を傾斜させる制御信号である傾斜信号が生成される(ステップ205)。
傾斜信号は、例えば対応するモータ32にかかる電圧を一定に維持する信号である。これはモータ32のトルクを一定にして、モータ32が天板部21を引っ張る引張量(振幅)を一定に維持する信号であるとも言える。
信号制御部41では、力覚制御ファイルが指定する傾斜姿勢で天板部21が維持されるように、対象となるモータ32に対応する傾斜信号が生成される。
【0100】
ここでは、図3に示す触覚提示装置20において、モータ32a~32d(駆動部24a~24d)を使って天板部21を傾斜させる場合について説明する。
例えば、天板部21を右側に傾斜させる傾斜姿勢が指定された場合、天板部21の右側を引っ張るモータ32aについての傾斜信号が生成される。同様に、天板部21の左側、前側、及び後側を傾斜させる場合には、それぞれモータ32b、モータ32c、及びモータ32dを駆動する傾斜信号が生成される。これにより、天板部21を前後左右に傾斜させることが可能となる。
【0101】
また例えば、天板部21を左前に傾斜させる場合に、モータ32a及びモータ32cについての傾斜信号が生成される。同様に、左後、右前、右後等に傾斜させる場合には、傾斜する側を引っ張るモータ32のペアについて傾斜信号が生成される。
また、3つ以上のモータ32を用いることで、任意の傾斜を実現することが可能である。この場合、各モータ32ごとに引張量を指定する傾斜信号が生成される。
これらの傾斜信号が生成されると、アンプ35に出力される(ステップ206)。そしてアンプ35により増幅された傾斜信号に基づいて対応するモータ32が駆動される。
【0102】
このように、本実施形態では、信号制御部41は、各モータ32(駆動部24)のうち傾斜姿勢に対応するモータ32を選択し、選択されたモータ32が天板部21を引っ張る引張量を傾斜姿勢に応じた値に維持する。
これにより、様々な方向に天板部21を傾斜させることが可能となり、多様な触覚をユーザ1に提示することが可能となる。
【0103】
図13は、傾斜信号について説明するための模式図である。
図13Aには、傾斜信号V2(t)のグラフが図示されている。グラフの縦軸は電圧であり、横軸は時間である。傾斜信号V2(t)は、モータ32の電圧を指定する信号である。ここでは、天板部21が一つのモータ32により引っ張られるものとする。この場合、天板部21を引っ張るモータ32以外のモータ32の制御信号は、電圧が一定値(典型的には0)となる信号である。
また図13Bには、傾斜信号V2(t)で駆動するモータ32により引っ張られた天板部21の位置が模式的に図示されている。ここでは、図中右側のモータ32に傾斜信号V2(t)が入力されるものとする。
【0104】
図13Aに示す傾斜信号V2(t)では、時刻t1まで電圧が0に設定されている。この期間の天板部21の位置はZmaxである。時刻t1になると電圧が上昇し、時刻t2には電圧が最大となる。この時の電圧の最大値は、例えば天板部21の位置がZminとなる値である。従がって、時刻t2には、天板部21は右側が最も下がった状態となる。なお天板部21の左側はZmaxの位置から変化しない。
時刻t2~時刻t3までの期間は、電圧値が最大のまま維持される。この間天板部は、図13に示すように右側に傾いた状態を維持する。時刻t3を過ぎると、電圧が下げられ、時刻t4には電圧=0となる。従って時刻t4以降は、天板部21は水平な状態に戻る。
【0105】
例えば天板を傾ける期間t1~t2の時間を短くすることで、急激な床面の変化を演出することが可能である。これにより、急発進や急ブレーキに伴う加速感や減速感を表現することが可能となる。
この他、天板部21を元の位置に戻す速度や、天板部21の傾斜角度等を適宜設定することが可能である。
【0106】
[補正処理]
図14は、補正処理の一例を示すフローチャートである。
補正処理では、モータ32にかかる負荷を表す負荷情報に基づいて、モータ32に出力される制御信号(振動信号や傾斜信号)が補正される。この補正は、例えば次のモータ駆動処理(より詳しくは図8のステップ204又は205において制御信号を生成する処理)に反映される。
ここでは、補正処理の一例として、天板部21の傾斜に応じて制御信号を補正する処理を例に挙げて説明する。
【0107】
まず、較正処理部42により、負荷情報が取得される(ステップ301)。ここでは、負荷情報として、図2を参照して説明した電流センサ36の検出結果が用いられるものとする。
触覚提示装置20では、例えば図8のステップ206で出力された制御信号が、アンプ35により増幅されて、各モータ32に入力される。このように増幅された制御信号が入力されるモータ32を流れるモータ電流が、電流センサ36により検出される。そして電流センサ36の検出結果(モータ電流の測定値)が、較正処理部42により読み込まれる。
【0108】
次に、較正処理部42により、各モータ32のモータ電流に偏りがあるか否かが判定される(ステップ302)。
例えば、モータ電流の変化を観察することで、ユーザ1が天板部21のどの場所をどのくらいの力で踏んでいるかを推定することが可能である。すなわち、モータ32及び電流センサ36は、ユーザ1の踏み込みを検出する踏み込みセンサとしても機能する。
モータ電流に偏りがあるか否かの判定は、ユーザ1の踏み込み(あるいは立ち位置)による天板部21の傾斜を判定する処理となる。
【0109】
図15は、天板部21の傾斜に応じた補正処理を説明する模式図である。
例えばユーザ1が天板部21の端に立っている場合、ユーザ1が立っている側のダンパー23(図中右側のダンパー23)は、反対側のダンパー23と較べて縮んだ状態となる。すなわち天板部21は傾いた状態となる。
【0110】
この状態で、各モータ32に同一の電圧を加え同じトルクを発生させたとする。この場合、ユーザ1が立っている側はすでにダンパー23が縮んでいるため、その反対側と較べて同じ力で引っ張ることができる引張量が小さい。すなわち、ユーザ1が立っている側では、反対側と較べてモータ32にかかる負荷が大きい。この結果、例えば同一の電圧で各モータ32を駆動した場合、天板部21の傾斜側を引っ張るモータ32の方がモータ電流が大きくなる。
従って、各モータ32のモータ電流の値を比較し、負荷のかかっているモータ32(モータ電流が高いモータ32)を調べることで、天板部21の傾斜を検知することが可能となる。
なお天板部21に姿勢センサ等が設けられている場合には、その検出結果から天板部21の姿勢が推定されてもよい。
【0111】
例えば天板部21の前後左右を牽引する4つのモータ32(図2参照)について、1つでもモータ32の負荷が高い(モータ電流が大きい)場合には、天板部21はそのモータ32側に傾いていると考えられる。このように、モータ電流に偏りがあると判定された場合(ステップ302のYes)、制御信号を補正する処理が実行される(ステップ303)。なお、モータ電流に偏りがないと判定された場合(ステップ302のYes)、制御信号を補正する処理は実行されず、補正処理が終了する。
【0112】
ステップ303では、較正処理部42により、負荷情報である各モータ32のモータ電流を用いて、各モータ32への出力(例えば各モータ32に印可する電圧値)が再計算され、制御信号(入力波形)に係るパラメータが調整される。制御信号に係るパラメータとは、例えば図10等を参照して説明したオフセット値Vofs、振幅等である。
具体的には、負荷情報に基づいて、複数の駆動部24の各々が有するモータ32の負荷が互いに等しくなるように制御信号が補正される。
例えば、負荷が高いモータ32(傾斜側にあるモータ32)と同様の負荷が加わるように、他のモータ32の制御信号のオフセット値Vofsが調整される。また各モータ32が、同様の振幅で振動可能となるように、各々の制御信号の振幅が調整される。
これにより、ユーザ1の立ち位置が偏っているような場合であっても、天板部21を均等に振動させることが可能となり、振動パターンを適正に表現することが可能となる。
【0113】
図16は、天板部21にかかる荷重に応じた補正処理を説明する模式図である。
ここでは、天板部21にかかる荷重、すなわち天板部21に乗るユーザ1の体重や、ユーザ1の人数に応じて、制御信号を補正する処理について説明する。この処理は、例えば天板部21にかかる荷重に応じて動的に実行される処理である。
図16Aは、荷重によって天板部21が台座部22側に変位する様子を示す模式図である。天板部21に荷重がかかると、ダンパー23が縮められ、天板部21が沈みこむ。ここでは、荷重が加えられていない状態での天板部21の位置(Zmax)に対する天板部21の変位量をΔと記載する。
【0114】
変位量Δは、天板部21にかかる荷重が大きいほど大きくなる。すなわち天板部21にかかる荷重が大きいほど、ダンパー23が縮められる量が大きくなる。
また、荷重が加わった天板部21をさらに下側に引っ張るためには、既に縮められたダンパー23をさらに縮める必要がある。このため、天板部21にかかる荷重が大きいほど、天板部21を引っ張るために必要となるモータ32のトルクは大きくなる。
【0115】
荷重に応じた制御信号の補正処理では、まず負荷情報(モータ電流)から、天板部21にかかる荷重が推定される。例えば、各モータ32のモータ電流と、荷重が加えられていない状態でのモータ電流とが比較される。そして荷重が加えられていない状態に対するモータ電流の増加量から、荷重の大きさが推定される。
なお天板部21に圧力センサ等が設けられている場合には、その検出結果から天板部21にかかる荷重が推定されてもよい。
【0116】
次に、推定された荷重に応じて、各モータ32の制御信号のオフセット値Vofsが設定される。図16Bには、Vofsが調整された制御信号(振動信号V1(t))を示すグラフが図示されている。例えばVofsは、荷重が大きいほど大きく設定される。
これにより、信号全体でのトルクが大きくなり、ダンパー23が縮んだ状態からでも、天板部21を適正に振動させることが可能となる。
なお、傾斜を発生させる傾斜信号については、荷重値に応じて信号レベルが高くなるように信号全体をシフトする補正が実行される。
このように、較正処理部42では、負荷情報に基づいて天板部21にかかる荷重を推定し、荷重が大きいほどモータ32が天板部21を引っ張る力が大きくなるように制御信号が補正される。
【0117】
例えば、天板部21に複数のユーザ1が乗っているような場合、補正されていない制御信号では、十分な大きさの振動や傾斜を発生させることできない可能性がある。このため、荷重に応じて動きの大きさを変えることで、天板部21にかかる荷重の大きさに係わらず、同じ様な振動や傾斜を表現することが可能となる。
【0118】
また制御信号を補正する処理として、ユーザ1が乗っている場所によって制御を変える処理が実行されてもよい。
例えば、ユーザ1が天板部21の端に乗っている場合には、ユーザ1がバランスを崩すと危険であるため、天板部21の動作量(振動の振幅や傾斜角度)等が小さく設定される。
【0119】
例えば、天板部21の傾斜量から、ユーザ1の立ち位置が推定される。この場合、例えば傾斜量が一定の閾値よりも大きい場合に、ユーザ1が天板部21の端にいると判定される。あるいは、圧力センサの検出結果から、ユーザ1の立ち位置が推定されてもよい。
ユーザ1が天板部21の端にいると判定された場合、天板部21の動作量、すなわちモータ32による引張量が小さくなるように、制御信号が補正される。具体的には、制御信号の振幅が小さく設定される。あるいは制御信号のオフセット値が小さく設定される。
【0120】
このように、較正処理部42では、負荷情報に基づいて天板部21上のユーザ1の位置が推定される。そして、ユーザ1の位置が天板部21の端である場合、モータ32が天板部21を引っ張る引張量が小さくなるように制御信号が補正される。
これにより、天板部21からのユーザ1が落下するといった事態を事前に回避することが可能となり、安全性を高めることが可能となる。
【0121】
[たわみ解消処理]
図17は、たわみ解消処理の一例を示すフローチャートである。
たわみ解消処理では、ワイヤー30のたわみを解消するようにモータ32が駆動される。
まず、信号制御部41によりワイヤー30がたわんでいるか否かが判定される(ステップ401)。この判定では、例えば、振動信号や傾斜信号等の制御信号が出力されている期間が、所定の閾値を超えているか否かが判定される。
【0122】
ワイヤー30を巻き取る構成では、あるモータ32を連続駆動する時間が一定の時間を過ぎた場合、他のモータ32のワイヤー30がたるむことが予想される。例えば、天板部21に接続されたワイヤー30を一方向に巻き取りを続けることで、巻き取りを行うモータ32以外のモータ32のワイヤーがたわむ可能性がある。
このため、現在出力されている制御信号の出力期間を判定することで、ワイヤー30のたわみが発生している可能性の高い状態を検出することが可能である。
【0123】
なお、上記した判定処理とは逆に、モータ32を駆動していない時間が長い場合にも、モータ32が自由回転することで、ワイヤー30がたわむ可能性がある。従って、モータ32が停止されていた時間に基づいて、ワイヤー30がたわんでいるか否かの判定が実行されてもよい。
あるいは、動いていないモータ32を回転させてそのモータ電流からモータ32にかかる負荷を算出して、ワイヤー30のたわみを直接検出してもよい。
【0124】
ワイヤー30がたわんでいると判定された場合、信号制御部41によりワイヤー30のたわみを解消する制御信号が生成され、各モータ32に出力される(ステップ402)。具体的には、天板部21が動かない程度の低トルクでモータ32を一定時間だけ正回転させる制御信号が生成される。この低トルクの制御信号が、駆動していないモータ32から順番に出力される。
これにより、ワイヤー30のたわみが発生しているモータ32では、ワイヤー30がリール31に巻き取られ、ワイヤー30のたわみが解消される。
このように、信号制御部41は、ワイヤー30のたわみが解消するようにモータ32を回転させる。これにより、天板部21を引っ張るタイミングが遅れるといった事態が回避され、適正なタイミングで振動や姿勢の変化を発生させることが可能となる。
【0125】
また、たわみ解消処理は、触覚提示装置20の起動時のキャリブレーションとして実行されてもよい。この場合、ワイヤー30の経年劣化によって生じたたるみ等を吸収するように、触覚提示装置20の動作開始時に、各ワイヤー30がたるまない位置まで巻き取られる。
なお、後述するように、モータ32の回転位置が制御可能な場合等には、ワイヤー30がたるまないように回転した位置が、モータ32の初期位置等に設定されてもよい。
【0126】
また、天板部21にかかる荷重等が急激に変化した場合に、たわみ解消処理が実行されてもよい。例えば、ユーザ1が天板部21に勢いよく乗った場合や、天板部21の上でユーザ1がジャンプした場合等には、天板部21が急激に沈みこみワイヤー30がたるむ可能性がある。このため、例えば負荷情報(電流センサ36や圧力センサの検出結果)から、荷重の急激な変化が検出された場合には、ワイヤー30がたわまないようにモータ32を低トルクで回転させる処理が実行される。これにより、ユーザ1の挙動に係わらず適正なタイミングで振動等を提示することが可能となる。
【0127】
[モータの位置制御]
上記では、主にモータ32に印可する電圧を指定する制御信号について説明した。例えば、モータ32の制御をポテンショメーターや、エンコーダ等でフィードバック制御する場合は、制御信号の振幅を電圧指令値ではなく、位置制御(例えばPID制御)の位置指令値として扱うことも可能である。
この場合、制御信号は、モータ32の回転量を指定する信号となる。
【0128】
図18は、モータの位置制御の一例を示す模式図である。図18A及び図18Bの上側に示すグラフは、モータ32の回転量を指定する振動信号R(t)である。
ここでモータ32の回転量とは、例えば所定の基準位置からモータ32の回転軸(リール31)が回転した量である。従って回転量は、回転した角度、及び回転数が増えるほど大きくなる。
図18A及び図18Bでは、この回転量の基準位置が異なる。
【0129】
図18Aでは、天板部21の可動範囲の中間位置(Zref)が回転量の基準位置に設定される。この場合、振動信号R(t)=0は、図18Aの下側に示すように、天板部21の位置が基準位置であるZrefとなっている状態を表している。また例えば、振動信号R(t)の最小値及び最大値は、それぞれ天板部21が可動範囲の最も上側の位置Zmax及び最も下側の位置Zminとなっている状態を表している。
この方法では、可動範囲の中心位置Zrefから見た振動等を直観的に表すことが可能であり、例えば元信号をオフセットさせることなく、そのまま振動信号R(t)に置き換えて用いることが可能である。
【0130】
図18Bでは、天板部21の可動範囲の最も上側の位置(Zmax)が回転量の基準位置に設定される。この場合、振動信号R(t)=0は、図18Bの下側に示すように、天板部21の位置がデフォルト位置であるZmaxとなっている状態を表している。また例えば、振動信号R(t)の最大値は、天板部21が可動範囲の最も下側の位置Zminとなっている状態を表している。
この方法では、天板部21のデフォルト位置Zmaxを起点とする振動を表すことが可能である。この場合、位置制御の負の部分が生じないように元信号をオフセットさせることで振動信号R(t)が算出される。
【0131】
なお、モータ32の回転量(回転位置)を指定する場合であっても、モータ32を動かす速度によっては、ダンパー23の復元速度よりも早く、ワイヤー30をリリースするといった場合があり得る。このような場合、ワイヤー30がたわまないように、リリース方向(すなわち回転量が下がる逆回転方向)の回転速度には、一定の上限が設けられてもよい。これにより、高い周波数であってもワイヤー30のたわみの発生を十分に回避することが可能となる。
【0132】
[触覚提示装置の他の構成例]
図19は、触覚提示装置の他の動作例を示す模式図である。図19A及び図19Bには、触覚提示装置60及び触覚提示装置70の構成が模式的に図示されている。これらの触覚提示装置60及び触覚提示装置70は、図3に示す触覚提示装置20とは駆動部24の構成が異なる。
【0133】
図19Aに示す触覚提示装置60では、天板部21の下面の中心位置Oに接続部25が設けられる。また接続部25を挟んで互いに反対側となる位置にそれぞれ駆動部24となるモータ32が配置される。各モータ32にはリール31が設けられ、それぞれのリール31が天板部21の中央に設けられた接続部25にワイヤー30を介して接続される。なお、図19Aでは、モータ32本体の図示が省略されている。
このように、触覚提示装置60では、天板部21の中心位置Oを互いに反対側に引っ張るように駆動部24が配置される。なお、接続部25が設けられる位置は、中心位置Oでなくてもよい。
【0134】
例えば図中の左側のモータ32が天板部21を引っ張ると、各ダンパー23は左側にずれるように変形する。この結果、天板部21は全体として左側にスライドする。また左側のモータ32がトルクを下げると、天板部21はダンパー23の復元力により押し戻され元の位置に戻る。逆に、図中の右側のモータ32が天板部21を引っ張る場合には、天板部21は右側にスライドし、右側のモータ32がトルクを下げると、天板部21は元の位置に戻る。
このように、触覚提示装置60では、駆動部24(モータ32)により、基準面12に沿って天板部21がスライドするように天板部21が引っ張られる。
【0135】
図19Aに示す例では、例えば対向して設けられた2つモータ32により天板部21が交互に引っ張られる。この結果、天板部21を左右にスライドするように振動させることが可能となる。このように、天板部21の中央部分を交互に牽引することで、横ずれの感覚を提示することが可能となる。
【0136】
なお、天板部21を一方向に1度だけずらすといった操作が行われてもよい。この場合突発的な横ずれ等を表現することが可能となる。
また、天板部21を引っ張る方向は限定されず、例えば天板部21を前後方向(図19Aにおいて紙面に直交する方向)に引っ張るよう駆動部24が設けられてもよい。また、左右方向及び前後方向の両方に天板部21が引っ張られるように4つの駆動部24が設けられてもよい。これにより、基準面12に沿った任意の方向に天板部21をスライドさせることが可能となる。
このように、天板部21をスライドさせることで、例えば電車が動き出す瞬間のバランスが崩れる感覚等をユーザ1に錯覚させることが可能となる。
【0137】
図19Bに示す触覚提示装置70では、天板部21の下面の中心位置Oを挟んで互いに反対側となる位置にそれぞれ接続部25が設けられる。また各接続部25には、中心位置Oと接続部25を結ぶ方向と交差する方向に接続部25を引っ張る駆動部24(モータ32)がそれぞれ配置される。これらの駆動部24は、互いに反対向きに各接続部25を引っ張る。図19Bでは、左側の接続部25を前側(図中の上側)に引っ張るモータ32と、右側の接続部25を後側(図中の下側)に引っ張るモータ32とがそれぞれ設けられる。
このように、触覚提示装置70では、天板部21の中心位置Oを挟んで反対側となる点を互いに逆方向に引っ張るように駆動部24が配置される。
【0138】
例えば各モータ32が天板部21を引っ張ると、各ダンパー23はねじれるように変形する。この結果、天板部21は中心位置Oにおける天板部21(基準面12)の法線ベクトルを中心として回転する。また各モータ32がトルクを下げると、天板部21はダンパー23の復元力により押し戻され元の位置に戻る。
このように、触覚提示装置70では、駆動部24(モータ32)により、基準面12に直交する軸(中心位置Oの法線ベクトル)を中心として天板部21が回転するように天板部21が引っ張られる。
【0139】
図19Bに示す例では、天板部21を初期位置から時計回りに回転させるように2つのモータ32が設けられた。これに加えて、例えば左側の接続部25を後ろ側に引っ張るモータ32と、右側の接続部25を前側に引っ張るモータ32とが設けられてもよい。これにより、天板部21を初期位置から時計回りに回転させることが可能である。
この他、接続部25の位置や数、天板部21を引っ張る方向等は限定されず、天板部21が基準面12に直交する軸を中心に回転可能となるように適宜設定されてよい。
【0140】
触覚提示装置70の動作を制御する場合、例えば信号制御部41により、力覚制御ファイルとして、天板部21の回転位置を指定する情報が読み込まれる。回転位置を指定する情報では、例えば回転方向と回転量が指定される。これは、例えば回転を伴う振動を指定する情報であってもよい。
信号制御部41では、回転位置を指定する情報に基づいて、必要な回転を発生させるモータ32(駆動部24)が選択され、そのモータ32に関する制御信号が生成される。これにより必要なモータ32を回転させて、天板部21を適正に回転させることが可能となる。
【0141】
以上、本実施形態に係る触覚提示装置20、60、及び70では、ダンパー23で支持された天板部21に複数の駆動部24(モータ32)が接続される。これらの駆動部24により、ダンパー23が弾性変形した状態を維持できるように天板部21が動かされる。これによりダンパー23が復元する力を利用して天板部21を動かすことが可能となり、多様な触覚を提示する小型のデバイスを実現することが可能となる。
【0142】
図20は、比較例として挙げる振動装置の構成例を示す模式図である。図20に示す振動装置55では、VCM(Voice Coil Motor)等の振動アクチュエータ56がステージ57に直結される。振動アクチュエータ56が振動することで、ステージ57に振動を発生させることが可能である。一方で、VCM等を利用した振動アクチュエータ56では、例えばステージ57が沈み込んだ状態等を維持することが難しい。このため、振動装置55が提示できる触覚は、単なる振動表現となってしまう。
【0143】
本実施形態では、天板部21を動かす駆動部24により、天板部21の位置や姿勢が変化した状態、すなわちダンパー23が弾性変形した状態を維持することが可能である。これにより、天板部21を振動させる表現に加え、天板部21が傾斜した状態等を表現することも可能となる。これにより、天板部21に搭乗したユーザ1に対して様々な触覚を提示することが可能となる。この結果、乗り物に乗っているような加速感や、振動を同時に表現するといったことが可能となり、高いエンターテイメント性を発揮することが可能となる。
【0144】
またVCM等の振動アクチュエータと較べて、本実施形態の駆動部24として用いるモータ32は、素子サイズが小さい場合が多い。またワイヤー30を用いて天板部21を引っ張る本較正では、モータ32の配置を自由に設定することが可能である。これにより、装置サイズを十分に小さくすることが可能となる。
【0145】
<その他の実施形態>
本技術は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態を実現することができる。
【0146】
図21は、他の実施形態に係る触覚提示装置の構成例を示す模式図である。
図21には、触覚提示装置80a~80fの概形を示す斜視図が図示されている。触覚提示装置80a~80fでは、天板部21の形状や、駆動部24(モータ32)の数や配置が互いに異なる。
各触覚提示装置80a~80fでは、天板部21の幅が1000mm程度であり、使用するモータ32としてφ70mm×100mm程度のサイズを想定している。もちろん、各部のサイズはこれに限定されるわけではない。
なお図21では、モータ32の配置位置が、モータ32を固定する固定具33の位置として示されている。
【0147】
触覚提示装置80aは、図3を参照して説明した触覚提示装置20と同様の構成となっている。具体的には、触覚提示装置80aは、平面形状が正方形状の天板部21及び台座部22と、台座部22の4辺の中央部に対向して十字型に配置された4つのモータ32とを備える。
触覚提示装置80bは、平面形状が円形状の天板部21及び台座部22と、台座部22内に十字型に配置された4つのモータ32とを備える。
触覚提示装置80a及び80bのように、4つのモータ32を用いることで、天板部21の振動や傾斜を容易に制御することが可能となる。
【0148】
触覚提示装置80cは、平面形状が正方形状の天板部21及び台座部22と、それぞれが正三角形の3つの頂点に位置するように、台座部22内に配置された3つのモータ32とを備える。
触覚提示装置80dは、平面形状が正六角形状の天板部21及び台座部22と、台座部22の頂点位置に対向して正三角形状に配置された3つのモータ32とを備える。
触覚提示装置80c及び80dのように、3つのモータ32を用いる構成は、天板部21を任意の方向に傾斜させることが可能な最小限の構成となる。
【0149】
触覚提示装置80eは、平面形状が正方形状の天板部21及び台座部22と、台座部22の互いに反対側となる2辺の中央部に対応して配置された2つのモータ32とを備える。
触覚提示装置80fは、平面形状が円形状の天板部21及び台座部22と、台座部22の中心を挟んで互いに反対側に配置された2つのモータ32とを備える。
触覚提示装置80e及び80fのように、2つのモータ32を用いることで、例えば左右に揺れる振動や前後に揺れる振動を均等に発生させることが可能となる。
【0150】
この他、駆動部24(接続部25)の数や位置、天板部21を引っ張る引張方向は、限定されない。例えば天板部21を鉛直方向(Z方向)に加振する機構(図3及び図4等参照)と、天板部21を水平方向(XY方向)にスライドさせる機構(図19A参照)と、天板部21を鉛直方向を軸として回転させる機構(図19B参照)との少なくとも2つを組み合わせて用いることも可能である。
また天板部21を水平方向にスライドさせる機構により、水平方向に沿ったX加振やY加振(例えば前後や左右の加振)が可能となる。また天板部21を鉛直方向(Z方向)に加振する機構により、前後や左右に天板部21が交互に揺れるようなロール加振が可能となる。
このように、各機構のモータ32を別々に制御することで、多彩な触覚表現が可能となる。
【0151】
また、複数の駆動部24を用いる場合に限定されず、例えば単一の駆動部24を用いて触覚提示装置を構成することも可能である。
例えば、天板部21を鉛直方向に沿って牽引する駆動部24(モータ32)が1つだけ設けられてもよい。これにより、上下振動を用いて触覚を提示することが可能となる。
また例えば、台座部22の中央にモータ32を縦に配置して、天板部21の端から延びたワイヤー30をリール31で巻き取るといった構成も可能である。この場合、一つのモータ32で天板部21を回転させることが可能となる。
またワイヤー30を用いる構成に限定されず、例えば天板部21にモータ32を直結して天板部21を直接回転させることも可能である。
【0152】
図22は、触覚提示装置の他の構成例を示す模式図である。
上記では、主に、ユーザ1が搭乗するステージとして構成された触覚提示装置について説明した。これに限定されず、例えばユーザ1が手に持つことが可能なサイズで触覚提示装置が構成されてもよい。
図22には、単一のモータ32を搭載した小型の触覚提示装置90が模式的に図示されている。触覚提示装置90は、正方形状の天板部21と、天板部21の4つの頂点を支持するダンパー23と、天板部21の中央を牽引するモータ32とを有する。なお図22では、リール31及びワイヤー30の図示が省略されている。例えばモータ32の回転を振動させることで、天板部21に振動を発生させることが可能である。このような触覚提示装置90を、例えばユーザ1が手で握ることができるようなサイズで構成することで、従来の小型振動子(VCM等)に置き換えて用いることが可能となる。
【0153】
上記では、ワイヤーを巻き取るリールがモータの回転軸に直接固定された。例えばギア機構等を介してリールとモータとが接続するような構成が採用されてもよい。これにより、モータにかかる負荷を小さくすることが可能となり、装置の小型化を図ることが可能となる。
また接続部とリールとの間にワイヤーの向きを変えるプーリー等のガイド部材が設けられてもよい。これにより、モータの配置を自由に設計することが可能となる。
【0154】
ワイヤーを引っ張る構成として、モータ以外の動力源が用いられてもよい。例えば線形アクチュエータ等をもちいてワイヤーが引っ張られてもよい。天板部を引っ張る部材として、自由継手等を介して天板部に接続されたロッド等がワイヤーに代えて用いられてもよい。
【0155】
上記ではユーザが搭乗する触覚提示装置のコンピュータ(触覚コントローラ)により、本技術に係る触覚制御方法が実行される場合を説明した。しかしながら触覚コントローラとネットワーク等を介して通信可能な他のコンピュータとにより、本技術に係る触覚制御方法、及びプログラムが実行されてもよい。
例えば、システムコントローラや、ネットワーク上の他のコンピュータにより制御信号を生成する処理等が実行されてもよい。
【0156】
すなわち本技術に係る触覚制御方法、及びプログラムは、単体のコンピュータにより構成されたコンピュータシステムのみならず、複数のコンピュータが連動して動作するコンピュータシステムにおいても実行可能である。なお本開示において、システムとは、複数の構成要素(装置、モジュール(部品)等)の集合を意味し、すべての構成要素が同一筐体中にあるか否かは問わない。したがって、別個の筐体に収納され、ネットワークを介して接続されている複数の装置、及び、1つの筐体の中に複数のモジュールが収納されている1つの装置は、いずれもシステムである。
【0157】
コンピュータシステムによる本技術に係る触覚制御方法、及びプログラムの実行は、例えば指定情報を取得する処理及び駆動部を制御する処理が、単体のコンピュータにより実行される場合、及び各処理が異なるコンピュータにより実行される場合の両方を含む。また所定のコンピュータによる各処理の実行は、当該処理の一部または全部を他のコンピュータに実行させその結果を取得することを含む。
【0158】
すなわち本技術に係る触覚制御方法及びプログラムは、1つの機能をネットワークを介して複数の装置で分担、共同して処理するクラウドコンピューティングの構成にも適用することが可能である。
【0159】
以上説明した本技術に係る特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を組み合わせることも可能である。すなわち各実施形態で説明した種々の特徴部分は、各実施形態の区別なく、任意に組み合わされてもよい。また上記で記載した種々の効果は、あくまで例示であって限定されるものではなく、また他の効果が発揮されてもよい。
【0160】
本開示において、「同じ」「等しい」「直交」等は、「実質的に同じ」「実質的に等しい」「実質的に直交」等を含む概念とする。例えば「完全に同じ」「完全に等しい」「完全に直交」等を基準とした所定の範囲(例えば±10%の範囲)に含まれる状態も含まれる。
【0161】
なお、本技術は以下のような構成も採ることができる。
(1)可動部材と、
前記可動部材を支持する弾性部と、
前記可動部材に接続され、前記弾性部が弾性変形するように前記可動部材を動かし、前記弾性部が弾性変形した状態を維持可能な少なくとも1つの駆動部と
を具備する触覚提示装置。
(2)(1)に記載の触覚提示装置であって、
前記可動部材は、ユーザが乗ることが可能なステージである
触覚提示装置。
(3)(1)又は(2)に記載の触覚提示装置であって、さらに、
前記可動部材の振動又は姿勢に関する指定情報を取得し、前記指定情報に基づいて前記少なくとも1つの駆動部を制御する触覚制御部を具備する
触覚提示装置。
(4)(3)に記載の触覚提示装置であって、
前記可動部材は、前記少なくとも1つの駆動部の各々が接続される少なくとも1つの接続部を有し、
前記少なくとも1つの駆動部は、各々が接続される前記接続部を引っ張ることで前記可動部材を動かす
触覚提示装置。
(5)(4)に記載の触覚提示装置であって、
前記可動部材は、基準面に沿って配置された板状の部材であり、
前記駆動部は、前記基準面と交差する方向に沿って前記可動部材を引っ張る
触覚提示装置。
(6)(5)に記載の触覚提示装置であって、
前記駆動部は、前記基準面と直交する方向に沿って前記可動部材を引っ張る
触覚提示装置。
(7)(5)に記載の触覚提示装置であって、
前記駆動部は、前記基準面に沿って前記可動部材がスライドするように前記可動部材を引っ張る
触覚提示装置。
(8)(5)に記載の触覚提示装置であって、
前記駆動部は、前記基準面に直交する軸を中心として前記可動部材が回転するように前記可動部材を引っ張る
触覚提示装置。
(9)(4)から(8)のうちいずれか1つに記載の触覚提示装置であって、
前記指定情報は、前記可動部材の振動パターンを指定する情報を含み、
前記触覚制御部は、前記少なくとも1つの駆動部のうち前記振動パターンに対応する駆動部を選択し、前記選択された駆動部が前記可動部材を引っ張る引張量を前記振動パターンに応じて振動させる
触覚提示装置。
(10)(4)から(9)のうちいずれか1つに記載の触覚提示装置であって、
前記指定情報は、前記可動部材の傾斜姿勢を指定する情報を含み、
前記触覚制御部は、前記少なくとも1つの駆動部のうち前記傾斜姿勢に対応する駆動部を選択し、前記選択された駆動部が前記可動部材を引っ張る引張量を前記傾斜姿勢に応じた値に維持する
触覚提示装置。
(11)(3)から(10)のうちいずれか1つに記載の触覚提示装置であって、
前記駆動部は、各々が前記可動部材に接続されるワイヤーと、前記ワイヤーを巻きとるリールと、前記リールを回転させるモータとを有し、
前記触覚制御部は、前記指定情報に基づいて、前記モータの回転を制御する制御信号を生成する
触覚提示装置。
(12)(11)に記載の触覚提示装置であって、
前記リールは、前記モータの回転量が大きいほど前記ワイヤーの巻き取り量が減少するように構成される
触覚提示装置。
(13)(11)又は(12)に記載の触覚提示装置であって、
前記制御信号は、前記モータを駆動する電圧又は前記モータの回転量を指定する信号である
触覚提示装置。
(14)(11)から(13)のうちいずれか1つに記載の触覚提示装置であって、さらに、
前記モータにかかる負荷を表す負荷情報を検出する負荷センサを具備し、
前記触覚制御部は、前記負荷情報に基づいて前記制御信号を補正する
触覚提示装置。
(15)(14)に記載の触覚提示装置であって、
前記負荷センサは、前記モータに流れる電流を検出する電流センサ、前記可動部材に対する圧力を検出する圧力センサ、前記可動部材の姿勢を検出する姿勢センサのうち少なくとも1つを含む
触覚提示装置。
(16)(11)から(15)のうちいずれか1つに記載の触覚提示装置であって、
前記少なくとも1つの駆動部は、複数の駆動部を含み、
前記触覚制御部は、前記負荷情報に基づいて、前記複数の駆動部の各々が有する前記モータの負荷が互いに等しくなるように前記制御信号を補正する
触覚提示装置。
(17)(11)から(16)のうちいずれか1つに記載の触覚提示装置であって、
前記触覚制御部は、前記負荷情報に基づいて前記可動部材にかかる荷重を推定し、前記荷重が大きいほど前記モータが前記可動部材を引っ張る力が大きくなるように前記制御信号を補正する
触覚提示装置。
(18)(11)から(17)のうちいずれか1つに記載の触覚提示装置であって、
前記可動部材は、ユーザが乗ることが可能なステージであり、
前記触覚制御部は、前記負荷情報に基づいて前記可動部材上のユーザの位置を推定し、前記ユーザの位置が前記可動部材の端である場合、前記モータが前記可動部材を引っ張る引張量が小さくなるように前記制御信号を補正する
触覚提示装置。
(19)(11)から(18)のうちいずれか1つに記載の触覚提示装置であって、
前記触覚制御部は、前記ワイヤーのたわみが解消するように前記モータを回転させる
触覚提示装置。
(20)弾性部に支持された可動部材の振動又は姿勢に関する指定情報を取得する取得部と、
前記可動部材に接続され前記弾性部が弾性変形するように前記可動部材を動かし、前記弾性部が弾性変形した状態を維持可能な少なくとも1つの駆動部を、前記指定情報に基づいて制御する制御部と、
を具備する触覚制御装置。
【符号の説明】
【0162】
1…ユーザ
12…基準面
20、60、70、80a~80f、90…触覚提示装置
21…天板部
22…台座部
23…ダンパー
24、24a~24d…駆動部
25…接続部
30…ワイヤー
31、31a、31b…リール
32、32a~32d…モータ
33…固定具
36…電流センサ
37…記憶部
40…触覚コントローラ
41…信号制御部
42…較正処理部
100…触覚提示システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22