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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181572
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】積層型圧電体素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/10 20060101AFI20231218BHJP
   H04R 1/44 20060101ALI20231218BHJP
   H04R 31/00 20060101ALI20231218BHJP
   H04R 17/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
H04R17/10 330A
H04R1/44 330K
H04R31/00 330
H04R17/00 330H
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094779
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000154196
【氏名又は名称】株式会社富士セラミックス
(74)【代理人】
【識別番号】100079979
【弁理士】
【氏名又は名称】志水 浩
(72)【発明者】
【氏名】田上 究
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優介
【テーマコード(参考)】
5D019
【Fターム(参考)】
5D019AA02
5D019AA08
5D019BB02
5D019BB16
5D019EE02
5D019FF02
5D019HH01
5D019HH03
(57)【要約】
【課題】本発明は、圧電振動子を分極させ、これら複数の振動子を、縦列に分極軸を揃えて接着させるノンフィラーエポキシ系接着剤とで構成、さらに、前記縦列接続された複数の圧電体振動子からなる積層型圧電体素子を、複数束ね周面をモールド樹脂で硬化させてなる厚み振動を取り出す積層型圧電体素子及びその製造方法に関する。
【解決手段】円柱状圧電体振動子を個々に分極させた圧電体振動子と、該振動子の複数の分極軸を縦列に揃えてノンフィラーエポキシ系接着剤で接着させた縦列型圧電体素子と、該縦列型圧電体素子を並列に複数束ねて配置し周面をモールド樹脂で硬化させてなる積層型圧電体素子とその製造方法。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状圧電体振動子を予め個々に所定電圧で分極させた前記圧電体振動子と、該圧電体振動子の複数の分極軸を縦列に揃えてノンフィラーエポキシ系接着剤で接着させた縦列型圧電体素子と、該縦列型圧電体素子の複数をそれぞれ長手方向で並列に複数束ねて配置し周面をモールド樹脂で硬化させてなる積層型圧電体素子。
【請求項2】
前記積層型圧電体素子を低周波帯域で厚み振動の検出用とした請求項1記載の積層型圧電体素子。
【請求項3】
前記圧電体振動子がチタン酸ジルコン酸鉛材料からなる請求項1記載の積層型圧電体素子。
【請求項4】
前記積層型圧電体素子を少なくとも19本束ねて周面をモールド樹脂で硬化させてなる請求項1記載の積層型圧電体素子。
【請求項5】
前記積層型圧電体素子の駆動周波数が10ないし30kHzの範囲内で厚み振動の共振周波数を有するコンポジット振動子からなる請求項1記載の積層型圧電体素子。
【請求項6】
前記積層型圧電体素子の電気機械結合係数k33が少なくとも50ないし70%の範囲内であるコンポジット振動子からなる請求項1記載の積層型圧電体素子。
【請求項7】
前記積層型圧電体素子の音響インピーダンスρcが7から20Mraylの範囲内であるであるコンポジット振動子からなる請求項1記載の積層型圧電体素子。
【請求項8】
円柱状圧電体振動子を予め個々に所定電圧で分極し、前記圧電体振動子の複数の分極軸を縦列に揃えて積層させ、その積層させた前記振動子間をノンフィラーエポキシ系接着剤で接着硬化し、円柱状積層型圧電体振動子を形成させて、それらを長手方向で並列に複数束ねて円筒状筒内に挿入し、エポキシ系接着剤を用いたモールド樹脂を充填し、硬化させた積層型圧電体素子の製造方法。
【請求項9】
前記積層型圧電体素子が低周波帯域で厚み振動の検出用としたことを特徴とする請求項8記載の積層型圧電体素子の製造方法。
【請求項10】
前記円柱状圧電体振動子がチタン酸ジルコン酸鉛材料からなることを特徴とする請求項8記載の積層型圧電体素子の製造方法。
【請求項11】
前記積層型圧電体素子の電気機械結合係数k33が少なくとも50ないし70%の範囲内であるコンポジット振動子からなることを特徴とする請求項8記載の積層型圧電体素子の製造方法。
【請求項12】
前記積層型圧電体素子の音響インピーダンスρcが7から20Mraylの範囲内であるであるコンポジット振動子からなることを特徴とする請求項8記載の積層型圧電体素子の製造方法。
【請求項13】
前記円柱状圧電体振動子の両端部を使用周波数特性に合わせて切削させてなる請求項8記載の積層型圧電体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型圧電体素子、とりわけ、接着した円柱で長尺の円柱から、厚み振動を取り出す積層型圧電体素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、厚み振動検知素材として各圧電体を接着し積層している。また、個々の各圧電体素子の両面に電極を設け、分極し、電圧印加による駆動、または、信号受信をおこなっている。
本発明は積層した素子の一部上下面のみに電極を施し、各圧電体間には電極を設けていない。これにより、上下の電極間の距離(厚み)に依存した、より低周波での利用化を実現している。
他方、特許文献1ないし2が知られている。しかしながら、これら従来技術では、本発明のような作用効果を具備した圧電体素子は得られていなかった。
【0003】
これについては、特開2011-015130(特許文献1)が知られている。この例では、円筒素子の内層及び外層に電極を設けて電極間における側面方向の振動(呼吸振動)を検出している。本発明とは検出方向、すなわち、厚み振動モードとは振動モードを異にしている。このように、素子の一部上下面のみに電極を施し、各圧電体間には電極を設けてはいない。この特許文献では円柱素子ではなく円筒素子となっている。
【0004】
このほか、特開2001-148896(特許文献2)が知られている。
低周波化領域で利用可能とした超音波送受波器及びその振動制御方法である。この特許はランジュバン型構造(BLT構造)を使い(図4)素子を積層しているため、厚み振動を小さくして広がり振動を増幅している。
また、同特許文献2には、フロントマスに設けた、圧電薄板セラミックと内部に空洞を有する振動板を貼り合わせた屈曲振動体の屈曲振動共振周波数が、ランジュバン型送受波器の縦振動共振周波数よりも低い周波数であるため、送受波器の寸法が大型化することなく、低周波領域まで帯域幅を広げられるからである(0041)としている。
【0005】
しかしながら、本発明は、この逆で、広がり振動を押さえ込み、厚み振動を最大限引き出す構造である。BLT構造の素子の広がり振動では、電気機械結合30%~40%程度であるのに対し、本発明の素子は70%程度にもなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-015130号公報
【特許文献2】特開2001-148896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みなされたものであり、とりわけ、圧電振動子を所定電圧で分極させ、これら複数の圧電体振動子を、縦列に分極軸を揃えて接着させる、ノンフィラーエポキシ系接着剤とで構成、さらに、前記縦列接続された複数の圧電体振動子からなる積層型圧電体素子を、束ねて周面をモールド樹脂で硬化させてなる厚み振動を取り出すことを可能とする積層型圧電体素子及びその製造方法を提供しようとするものである。本発明は、広がり振動を押さえ込み、厚み振動を最大限引き出す構造となる。BLT形状の素子の広がり振動は、電気機械結合30%~40%程度であるのに対し、本発明の素子は70%程度を達成するにある。
【0008】
本発明におけるコンポジット振動子は、セラミックスに溝加工処理を行い、その溝の中に樹脂を充填した構造など、また、圧電素子の体積を減らすことで密度を下げ、結果として音響インピーダンスを小さくすることにより製造される。これら処理されたものと定義する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、円柱状圧電体振動子を予め個々に所定電圧で分極させた前記圧電体振動子と、該圧電体振動子の複数の分極軸を縦列に揃えてノンフィラーエポキシ系接着剤で接着させた縦列型圧電体素子と、該縦列型圧電体素子の複数をそれぞれ長手方向で並列に複数束ねて配置し周面をモールド樹脂で硬化させてなる積層型圧電体素子により提供される。
【0010】
また、本発明は、前記積層型圧電体素子を低周波帯域で厚み振動の検出用とした前記記載の積層型圧電体素子により提供される。さらに、本発明は、前記圧電体振動子がチタン酸ジルコン酸鉛材料からなる前記記載の積層型圧電体素子により提供される。
【0011】
さらにまた、本発明は、前記積層型圧電体素子を少なくとも19本束ねて周面をモールド樹脂で硬化させてなる前記記載の積層型圧電体素子により効果的に提供される。
また、本発明は、前記積層型圧電体素子の駆動周波数が10ないし30kHzの範囲内で厚み振動の共振周波数を有するコンポジット振動子からなる前記記載の積層型圧電体素子により効果的に提供される。
【0012】
さらに、本発明は、前記積層型圧電体素子の電気機械結合係数k33が少なくとも50ないし70%の範囲内であるコンポジット振動子からなる前記記載の積層型圧電体素子により効果的に提供される。
さらに、また、本発明は、前記積層型圧電体素子の音響インピーダンスρcが7から20Mraylの範囲内であるであるコンポジット振動子からなる前記記載の積層型圧電体素子により効果的に提供される。
【0013】
本発明は、円柱状圧電体振動子を予め個々に所定電圧で分極し、前記圧電体振動子の複数の分極軸を縦列に揃えて積層させ、その積層させた前記振動子間をノンフィラーエポキシ系接着剤で接着硬化し、円柱状積層型圧電体振動子を形成させて、それらを長手方向で並列に複数束ねて円筒状筒内に挿入し、エポキシ系接着剤を用いたモールド樹脂を充填し、硬化させた積層型圧電体素子の製造方法により提供される。
【0014】
本発明は、前記積層型圧電体素子を低周波帯域で厚み振動の検出用とした前記記載の積層型圧電体素子の製造方法により提供される。また、本発明は、前記円柱状圧電体振動子がチタン酸ジルコン酸鉛材料からなることを特徴とする前記記載の積層型圧電体素子の製造方法により提供される。
さらに、本発明は、前記積層型圧電体素子を少なくとも19本束ねて周面をモールド樹脂で硬化させてなる前記記載の積層型圧電体素子の製造方法により提供される。
【0015】
さらにまた、本発明は、前記積層型圧電体素子の駆動周波数が10ないし30kHzの範囲内で厚み振動の共振周波数を有するコンポジット振動子からなる前記記載の積層型圧電体素子の製造方法により提供される。
また、本発明は、前記積層型圧電体素子の電気機械結合係数k33が少なくとも50ないし70%の範囲内であるコンポジット振動子からなることを特徴とする前記記載の積層型圧電体素子の製造方法により提供される。
【0016】
さらに、本発明は、前記積層型圧電体素子の音響インピーダンスρcが7から20Mraylの範囲内であるであるコンポジット振動子からなることを特徴とする前記記載の積層型圧電体素子の製造方法により提供される。
さらにまた、本発明は、前記円柱状圧電体振動子の両端部を使用周波数特性に合わせて切削させてなる前記記載の積層型圧電体素子の製造方法により提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧電振動子を利用した積層型圧電体素子としたことで、圧電体振動子の個々に可能な低い定電圧で分極できる。これらの圧電体振動子を複数縦列に分極軸を揃えて接着させるノンフィラーエポキシ系接着剤とで構成したことから、積層前で圧電振動子を所定電圧で分極させことができた。この結果、縦列接続された複数の圧電振動子とは分極電圧を低く抑える効果がある。
【0018】
他方、積層型圧電体素子を圧電振動子の複数の分極軸を縦列に揃えてノンフィラーエポキシ系接着剤で接着させた縦列型圧電体素子と、該縦列型圧電体素子を並列に複数束ねて配置し周面をモールド樹脂で硬化させたことで、効果的に厚み振動のみを取り出すことを可能とした。
また、本発明は、広がり振動を押さえ込み、厚み振動を最大限引き出す構造としたことで、従来のBLT構造の素子の広がり振動では、電気機械結合k33が30%~40%程度であるのに対し、本発明の素子は70%程度が達成された。
【0019】
さらに、角型振動子のコンポジットでは辺方向、対角方向の振動が発生するが、本発明の円柱形状は径方向のみである為、不要振動を抑える効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は本発明の積層型圧電体素子を説明するための図。
図2図2は積層型圧電体振動子を19本をそれぞれ長手方向で並列に複数束ねて配置し円筒状枠5に挿入し分散配置した状態を示す説明図。
図3図3図2の積層型圧電体振動子を19本の周面をエポキシ樹脂で固めた状態を上から見た説明図
図4図4図3の側面状態を示す外側面図。
図5図5は本発明の円柱状の積層型圧電体振動子の両端部を研削した様子を示した説明図。
図6図6は本発明の円柱状の積層型圧電体振動子について周波数を変え試作をした結果を示すグラフ。
図7図7は本発明の円柱状の積層型圧電体振動子について縦軸はインピーダンス(抵抗値)、横軸を周波数とした時の周波数特性図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、円柱状圧電体振動子を予め個々に分極した圧電体振動子と、該圧電振動子の複数の分極軸を揃えてノンフィラーエポキシ系接着剤で接着させた縦列型圧電体素子と、それぞれ長手方向で並列に複数束ねて配置し周面をモールド樹脂で硬化させて、周面をモールド樹脂で硬化させてなる積層型圧電体素子及びその製造方法について説明する。
基本としては、個々の円柱状圧電体振動子を予め分極し、それを積層させ、振動子間を接着剤で接着硬化し、円柱状積層型圧電体振動子を形成し、該円柱状積層型圧電体振動子の両端部を所定の周波数特性に合わせて切削し、前記該円柱状積層型圧電体振動子の複数をそれぞれ長手方向で並列に複数束ねて配置し円筒状筒内に挿入し、硬化させた円柱状積層型圧電体振動子として提供される。
【0022】
本発明を実施するための形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される構成、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施をするための形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。以下、本発明を図1ないし図7を用いて具体的に説明する。なお、コンポジット振動子は株式会社富士セラミックスで用いられる用語として、セラミックスに溝加工処理を行い、その溝の中に樹脂を充填した構造となる。通常の圧電素子では、例えば空気から水、生体のように音速の違う物体(環境)から物体に超音波を照射する場合、超音波は音響インピーダンス(=密度×音速)の壁に阻まれ、効率良く照射できない。これらの改良用として用いられる。また、コンポジット振動子における溝加工は切断機(ダイサ・スライサーなど)を用いた溝加工処理方法により得られる。
【0023】
図1は本発明の積層型圧電体素子を説明するための図である。個々の円柱状圧電体振動子1の大きさは長さ30mm、これを縦方向に予め分極し、この圧電体素子1を縦に5個積層し、個々の素子間はノンフィラーエポキシ系接着剤2で接着硬化し円柱状の積層型圧電体素子とした。使用可能なノンフィラーエポキシ系接着剤としては、多数有るが、本発明ではEPOTEC社製353NDを用いた。接着硬化は、温度100℃で30分加熱硬化により行った。
【0024】
図2において、全長150mmの円柱状の積層型圧電体振動子を複数、例では、19本をそれぞれ横方向に並列し円筒状枠5に挿入する。まんべんなく分散配置が求められる。図3図2の円柱状素子19本の周面をエポキシモールド系接着剤を用い樹脂で固めた状態を上から見た図である。具体的な充填材、処理は後述する。
【0025】
図4図3の円柱状素子を19本束ねた状態の側面図である。
図5において、円柱状の積層型圧電体振動子の両端部を使用する周波数特性に合わせて両端面を所定長さ、実施例では全長145.1mmとするため、例では4.9mm切削し、やや短くさせた。
【0026】
図6は本発明の円柱で円柱状の積層型圧電体振動子の低周波特性についての共振点を有する特性周波数特性図である。縦軸は電気機械結合、横軸は周波数である。得られたコンポジット振動子はどれも電気機械結合係数k33は70%以上と高く、特性としては、帯域は電気機械結合係数に比例する為、広帯域である。
図7は本発明の円柱で円柱状の積層型圧電体振動子の縦軸をインピーダンス、横軸を周波数とした時の周波数特性を示す。供試サンプルはコンポジット振動子、共振周波数8kHzのものを用いた。
この図からも見られるように、周波数を上げていくと、8kHz付近で最も低くインピーダンスは2990Ωとなった。12kHz付近で最も高くインピーダンスは9822kΩとなった。その後30kHz付近までインピーダンスは100kΩ程度平坦な特性が得られた。全体として優秀な成果が得られることが理解できよう。
【実施例0027】
以下、実施例に即して、円柱状圧電素子の素材を説明する。本発明では株式会社富士セラミックス製のC-6材を使用した。この素材の材質、圧電的特性等は以下となる。
(1)素材の材質 チタン酸ジルコン酸鉛材料
(2)圧電特性
本発明で用いるコンポジット振動子は電気機械結合係数k33が70%と高く、周波数帯域は電気機械結合係数に比例する為、広帯域である。
通常の圧電振動子は音響インピーダンスρc:30Mraylに対して、コンポジット振動子はρc:12Mraylで圧電振動子の半分以下、コンクリートのρc:9.4Mrayl、水のρc:1.48Mraylなので対象物に対してρc差が小さい為透過率が高い特徴が認められている。
機械的品質係数Qm:16で圧電振動子Qm:80に比べ半分以下。機械的品質係数と振幅は比例関係にある為、振幅が小さくなり短パルス化できる。
本発明の円柱で長尺の円柱状素子では、径方向の振動は拘束されている為、厚み振動以外の不要振動が小さく純粋な厚み振動の音を出力ないし検出することが出来る。
【0028】
円柱で長尺の円柱状素子について、構成する部材について、以下説明する。
(1)圧電振動子からなる円柱状素子の積層体
実施例では、円柱状素子1はC-6材を用いた。これを所定電圧で分極し、図1に示すように、長さ30mm、直径18mmの振動子間接着はノンフィラーエポキシ系接着剤2を用い100℃で30分硬化させた。これら圧電振動子1を用い分極軸を揃えて圧電振動子1を5層に重ね円柱状素子4とする。円柱状素子の積層体4を構成することで、厚み振動が大きく得られる振動子を構成させた。
ノンフィラーエポキシ系接着剤としては、EPOTEC社製の「353ND」を用いた。同規格、それに類似するものであればこれに限定されない。
【0029】
図2では円柱状素子4を配列するため、円柱状素子4を19本円筒状枠5に配置させる。ここで円柱状素子4は円柱同士が均等な1mm間隔の距離に配置してエポキシ系接着剤6を用いたモールド樹脂を充填し、100℃で30分硬化させた。本発明では、円柱状素子4を19本円筒状枠5に配置したが、必ずしもこれに限定されない。7本、13本、19本といった本数でも実施可能で有り、いわば、円筒状に配置可能であれば良い。
さらに、図5に示すように、使用振動周波数に合わせて積層円柱状素子7の全長を研削される部分部8で合わせて約4.9mm研削する。
両端部にそれぞれ電極を施して圧電出力を検出することができ、外形寸法は直径で100mmとした。円柱状素子の積層体7は電極を上下面に印刷し硬化させ完成した。厚みにより周波数を変える事が出来る。50kHz以下での使用を考えている。
【0030】
また、円柱状素子7の厚みは試作品では140mmのもののほか、実験的には50mmから150mmでも実験した。圧電振動子の直径も18mmのほか10ないし30mm径のものも実験し良好な結果が得られた。図6に厚み50mm、65mm、110mm、150mmの共振周波数と電気機械結合係数の関係を示したグラフを示す。
共振周波数8.5kHzで結合係数70%、共振周波数14.4kHzで結合係数71.5%、共振周波数22.3kHzで結合係数70.5%、共振周波数28kHzで結合係数70.2%と周波数を変え試作を行ったが、すべて結合係数70%と高い結果が得られた。
【0031】
空気は水やコンクリート等らに比べ音響インピーダンスが極端に小さい。このため、音や振動を伝えにくい。この原理を利用して、樹脂内部に独立気泡を持たせ、径方向の振動(不要な振動)及び音の伝わりを抑制させるために発砲樹脂バルーンを混合させた。エポキシ系充填材に100℃で30分発泡させた発泡樹脂バルーンをエポキシ系充填材に対し、5質量%添加し混合しモールド樹脂とした。
【0032】
厚み振動では周波数が低くなるほど振動子の厚みは厚くなる。(10kHzで振動子厚みは150mm程)。従前150mmの振動子を作製する為には、成型や焼成が難しい。圧電特性を持たせる為の分極工程も非常に高い電圧を掛ける必要があった。なお、分極電圧としては、振動子厚み150mm厚さで300kV程度の分極電圧が必要で実用的ではない。
音響インピーダンスρcは、音速cとコンポジット振動子の密度ρの積で定義される。音速cは、厚み振動の周波数定数Ntを2倍した値を近似値として用いる。厚み振動の周波数定数は、振動子の厚みと共振周波数の積で定義される。よってρcは、振動子の厚みをマイクロメータで、共振周波数をインピーダンスアナライザで測定し、その積を2倍にした値に、コンポジット振動子の密度を掛けた値で算出される。
【0033】
本発明でこの従来の製造方法では実現できないところを初めて開発できた。とりわけ積層型圧電体素子の作成については製造方法に特徴がある。
分極可能な厚みを有する振動子を直列に積層結合することで解決するには、結合する振動子の結合面を表面粗さRa<0.1μmまで研磨し、径の位置、平行度がずれないように結合することで、結合した長さを有する分極された1体の振動子の特性をもつことができる。
【0034】
また、繋ぎ目となる振動子間には電極は不要で、接着面を鏡面程度にして振動子間の接着層を抑える事で単一の振動子としての特性を得る事が出来た。この結果、低周波共振周波数を有する圧電振動子を製造することが可能となった。
図7に示すように、インピーダンス周波数特性等としては、8kHzという低周波での共振点を有する特性も得られた。
周波数特性は、インピーダンスアナライザを用い、縦軸はインピーダンス(抵抗値)、横軸f周波数として周波数に対するインピーダンス(抵抗値)の変化をプロットしたものである。
この結果は、本発明における、低い共振周波数が得られている事、共振周波数及び反共振周波数から算出される電気機械結合係数も70%程度であった。これに対し、特許文献2では30%~40%程度であり本発明の特徴が理解されよう。
【0035】
図3に示したように、円柱状積層素子4は、隣合う積層体距離が均等となる最蜜充填となる配置にした。円柱形状も、隣り合う積層体距離が均等になるために一定サイズで均等な素子を選択している。また、円柱状積層素子4は図3の配置例に拘らない。要は、隣合う積層体距離が均等となる最蜜充填となる配置例でも良く、例えば、縦横横並べ等の配置でも良い。
この結果、安定した特性の得られる厚みで作製した振動子は繋ぎ合わせる事が出来、成型・焼成・分極工程の課題とした積層型圧電体素子の作成については製造方法についての課題解決を図った。
【0036】
次に指向性についての配慮は、振動子の形状をより厚み振動を有効的に得るために円柱形状とした。圧電体素子の厚み方向への指向性を持たせるためには、円柱を均等に並べ隙間を樹脂で充填し径方向の振動を抑えた。
樹脂内部に樹脂バルーンを添加し独立気泡を持たせ、径方向の振動及び音の伝わりを抑制している。
円柱形状と径方向の振動の抑制により、より厚み振動に特化した構造となっている。これにより直線的に音波を送受信できる。
【0037】
さらに、周波数と波長の関係は反比例関係にあり、周波数が低いという事は波長が長くなる。波長が長いと減衰しにくい為、多少の障害物があったとしても音を遠くまで飛ばす事が出来る。これは、地盤、土壌及びコンクリートなど障害物の多い対象物でも検査する事が知られている。水中ソナーや海底調査などで今まで検査する事の出来なかった距離まで測定する事が出来ると期待される。これら周波数帯での利用分野の拡大が期待されよう。他方、従来より減衰しにくい長距離での超音波送受信が可能となることが期待され、地盤や海洋中の異なる密度物質の研究には、音速の違いからの分布分析も期待できよう。
【0038】
また、本発明では円柱状素子1としてC-6材を用いた。しかしながら、これに限定されない。一例として高い比誘電率を得るためには株式会社富士セラミックス製C-8材でも使用可能である。また、高い品質機械係数Qmを得るためにはハード材である同社製C-213材も選定できる。このように、使用材料は、特性、サイズ及び用途により決定されるべきである。
【実施例0039】
次に、本発明の製造方法について述べる。実施例1に準じた製造方法を用いることが重要である。
特に、注意すべき点以下となる。
振動子の結合面を表面粗さRa<0.1μmとなる様に研磨し、径の位置、平行度がずれないように結合することで、分極軸を揃えられること。また、接着層を薄くするためにノンフィラーエポキシ系接着剤で接着させること。純粋に厚み振動を取り出すために、素子の広がり振動を抑制するために、該縦列型圧電体素子を並列に複数束ねて配置し周面をモールド樹脂で硬化させてなることが重要である。
【0040】
本発明の製造方法を用いて、低周波にて、高い特性を得るために縦効果の長さ振動(k33)を有する円柱素子を利用する。低い共振周波数を利用する為には、横効果の長さ振動(k31)やボルド締めランジュ板振動子があるが、表1に示す様に、これは結合係数が低く、厚み振動が最も高い特性を有する。
【0041】
本発明の製造方法では、この縦効果の長さ振動を利用し、コンポジット化することにより低い領域での周波数が得られ、且つ結合係数70%を維持できる設計方法を選択した。この結果、周波数帯域は電気機械結合係数に比例する為、広帯域となることができる。これらの結果を表1に示す。














【0042】
この表1によれば、縦効果の長さ振動を利用し、コンポジット化する事で、振動子単体に比較し、機械的品質係数を下げる効果があり、機械的品質係数と振幅は比例関係にある為、振幅が小さくなり短パルスを発生させる効果が期待できる。かつ、ρcを下げる効果が得られる。通常の圧電振動子は音響インピーダンスρc:30Mraylに対して、本発明のコンポジット振動子ではρc:12Mraylで圧電振動子の半分以下となり、コンクリート(ρc:9.4Mrayl)や、水(ρc:1.48Mrayl)などの対象物に対してρcが近くなり、透過率が高く、探傷の対象として有利となる効果を得る。
さらに、実施例1に従って製造される積層型圧電体素子の各構成要件はそのまま本発明の製造方法の各請求項9ないし13にも同様に実現されそれぞれの作用効果を呈することができた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、前記したように、厚み振動の検出を利用した方式である。これにより、産業上の利用可能性として、地盤や土壌やコンクリートなど障害物の多い対象物でも検査する事が出来る。波長の関係は反比例関係にあり、波長が長いと減衰しにくい為、多少の障害物があったとしても、低周波利用が適用できることから、音を遠くまで飛ばす事が出来る。水中に関してもソナーや海底調査などで今まで検査する事の出来なかった距離まで測定する事が出来ると期待される
【符号の説明】
【0044】
1 円柱状圧電素子
2 圧電体素子の接合部位に充填されたノンフィラーエポキシ系接着剤
3 圧電体素子の分極した極性方向
4 円柱状積層素子
5 モールド用枠
6 モールド用樹脂によって充填された部分
7 積層円柱状素子
8 エポキシ系接着剤が充填された両端部で研削される部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7