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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181585
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】真空鋳造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/14 20060101AFI20231218BHJP
   B22D 17/20 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
B22D17/14
B22D17/20 G
B22D17/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094795
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三吉 博晃
(57)【要約】
【課題】射出スリーブ後方からの外気の流入を確実に防止でき、高品質な真空鋳造品の安定生産を維持することができる真空鋳造装置を提供する。
【解決手段】金型キャビティ内を真空吸引した状態で、射出部から金型キャビティ内に溶湯を射出充填する真空鋳造装置において、射出部は、内部に溶湯が供給される円筒状の射出スリーブと、射出スリーブ内の溶湯を押圧するプランジャチップと、射出駆動部に連結されたプランジャロッドと、プランジャロッドとプランジャチップを接続するジョイント部と、を備え、プランジャチップとジョイント部とプランジャロッドが締結された状態で射出スリーブ内を前後方向に摺動し、ジョイント部には、外径の大きい摺動リングと、摺動リングよりは外径の小さい調整リングを、円柱状の軸部に交互に複数配列する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型キャビティ内を真空吸引した状態で、射出部から前記金型キャビティ内に溶湯を射出充填する真空鋳造装置において、
前記射出部は、内部に溶湯が供給される円筒状の射出スリーブと、前記射出スリーブ内の溶湯を押圧するプランジャチップと、射出駆動部に連結されたプランジャロッドと、前記プランジャロッドと前記プランジャチップを接続するジョイント部と、を備え、
前記プランジャチップと前記ジョイント部および前記プランジャロッドが締結された状態で前記射出スリーブ内を前後方向に摺動し、
前記ジョイント部には、外径の大きい摺動リングと、前記摺動リングよりは外径の小さい調整リングを、円柱状の軸部に交互に複数配列する、ことを特徴とする真空鋳造装置。
【請求項2】
前記摺動リングと前記射出スリーブとは、前記射出スリーブ内への外気の流入を阻止する隙間に設定される、請求項1記載の真空鋳造装置。
【請求項3】
前記摺動リングと前記軸部とは、前記射出スリーブおよび前記プランジャチップのカジリ損傷を防止する隙間に設定される、請求項1または2に記載の真空鋳造装置。
【請求項4】
前記ジョイント部は、前記調整リングと前記摺動リングおよび前記射出スリーブとで囲まれた隙間を吸引する吸引補助経路を備える、請求項1から3のいずれか1項に記載の真空鋳造装置。
【請求項5】
前記摺動リングと前記軸部および前記プランジャチップは、線膨張係数が同じ金属素材とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の真空鋳造装置。
【請求項6】
前記調整リングは、前記摺動リングに対して線膨張係数の大きい金属素材とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の真空鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型キャビティ内を真空吸引した状態で、射出部から前記金型キャビティ内に溶湯を射出充填する真空鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金等の溶湯を金型キャビティに射出充填する鋳造成形と、金型キャビティ内の真空吸引を組み合せた真空鋳造成形は、計画された鋳造品を製造するまで以下工程を繰り返す。先ず、固定金型と可動金型からなる鋳造金型を型締して金型キャビティを形成する型締工程と、真空吸引手段を用いて金型キャビティ内を真空吸引する真空吸引工程を行う。その後、金型キャビティ内に溶湯を射出充填する射出充填工程、充填した溶湯の密度を調整する増圧工程、金型キャビティ内で溶湯を冷却固化させる冷却工程、鋳造金型を型開する型開工程、型開した金型キャビティから鋳造品を搬送する搬送工程、金型キャビティの清掃と離型剤を塗布する準備工程である。なお、型開工程の前までに真空吸引工程を終える。
【0003】
真空吸引工程は、例えば、鋳造金型に真空吸引手段を設け、金型キャビティと連通した真空吸引経路等から金型キャビティ内を真空吸引する。この時、鋳造金型は、隙間が存在する部位に真空シール材等を配置して、真空漏れ(外気の流入)が生じないように処置される。これに対して、射出スリーブは、プランジャチップやプランジャロッドが摺動するため、射出スリーブの後方側は開放され、真空漏れ対策は施されていない。そのため、射出スリーブ後方からプランジャチップの隙間を通って射出スリーブ前方に外気が容易に流入し、流入した外気の勢いにより射出スリーブ内の溶湯が飛ばされ、射出充填工程の前に金型キャビティ内に流入する現象(先湯という)が生じる。この先湯で飛ばされた溶湯が酸化または固化して、鋳造品への異物混入不良の原因となる。
【0004】
そのため、射出スリーブ後方からの外気の流入を阻止する手段が多く提案されている。例えば、特許文献1に示すような、射出スリーブの後端部を蓋で密閉し、プランジャロッドが摺動する貫通孔に真空シール部材等を配置することが提案されている。また、特許文献2に示すような、射出スリーブの後端部を蓋で密閉し、さらにプランジャチップの外周面に環状溝を設け、この環状溝に気密部材を配置することが提案されている。さらに、特許文献3に示すような、プランジャチップの外周面に環状溝状の背圧調整室を設け、この背圧調整室を真空吸引することが提案されている。
【0005】
また、例えば、特許文献4に示すような、プランジャチップとプランジャロッドの間に減圧室を設け、この減圧室を真空吸引することが提案されている。また、特許文献5に示すような、プランジャチップとプランジャを連結する部位に複数の環状溝を設け、この環状溝を真空吸引することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-125831号公報
【特許文献2】特開平1-313170号公報
【特許文献3】特開平1-313173号公報
【特許文献4】特開2002-224807号公報
【特許文献5】特開2002-346717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、例えば、650~720℃程度の高温の溶湯を用いた真空鋳造成形において、溶湯が供給される射出スリーブは400~500℃程度に加熱され、溶湯と接触するプランジャチップは500~600℃程度の高温に加熱される。その結果、射出スリーブおよびプランジャチップは大きく熱膨張する。また、加熱される温度差によって熱膨張差が生じて、不規則な熱変形を示す。特に、射出スリーブの熱膨張は、溶湯と接触している下側が大きく、溶湯と離れている上側は小さい。その結果、射出スリーブは湾曲するように大きく熱変形する(バナナ変形という)。このバナナ変形を含む射出スリーブおよびプランジャチップの不規則な熱変形により、プランジャチップ及びプランジャロッドは不安定な摺動状態となり、摺動部位のカジリ損傷が心配される。また、プランジャチップと射出スリーブとの隙間が広がり、この隙間から溶湯が射出スリーブ後方側に漏出(バックフラッシュという)することがある。
【0008】
その結果、特許文献1および特許文献2において、真空シール部材とプランジャロッドが強く擦れて真空シール部材がカジリ損傷し、真空漏れが生じて、高品質な真空鋳造品の安定生産を維持することが困難となる。また、特許文献2および特許文献3において、バックフラッシュした溶湯により、プランジャチップに設けた真空シール部材や気密部材が熱損傷を受け、真空漏れを生じて、高品質な真空鋳造品の安定生産が大きく低下する。また、特許文献3から特許文献5において、バックフラッシュした溶湯が真空吸引の回路に流入して回路が閉鎖し、真空吸引ができなくなるという重篤な状態となる。いずれにおいても、真空鋳造成形を中断し、真空シール部材や真空吸引回路を交換する等の大規模なメンテナンスを必要とし、真空鋳造成形の生産性が大きく低下することになる。
【0009】
そこで本発明は、射出スリーブ後方からの外気の流入を確実に防止でき、高品質な真空鋳造品の安定生産を維持することができる真空鋳造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の真空鋳造装置は、
金型キャビティ内を真空吸引した状態で、射出部から前記金型キャビティ内に溶湯を射出充填する真空鋳造装置において、
前記射出部は、内部に溶湯が供給される円筒状の射出スリーブと、前記射出スリーブ内の溶湯を押圧するプランジャチップと、射出駆動部に連結されたプランジャロッドと、前記プランジャロッドと前記プランジャチップを接続するジョイント部と、を備え、
前記プランジャチップと前記ジョイント部と前記プランジャロッドが締結された状態で前記射出スリーブ内を前後方向に摺動し、
前記ジョイント部には、外径の大きい摺動リングと、前記摺動リングよりは外径の小さい調整リングを、円柱状の軸部に交互に複数配列する、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の真空鋳造装置において、
前記摺動リングと前記射出スリーブとは、前記射出スリーブ内への外気の流入を阻止する隙間に設定される、ことが好ましい。
【0012】
本発明の真空鋳造装置において、
前記摺動リングと前記軸部とは、前記射出スリーブおよび前記プランジャチップのカジリ損傷を防止する隙間に設定される、ことが好ましい。
【0013】
本発明の真空鋳造装置において、
前記ジョイント部は、前記調整リングと前記摺動リングおよび前記射出スリーブとで囲まれた隙間を吸引する吸引補助経路を備える、ことが好ましい。
【0014】
また、本発明の真空鋳造装置において、
前記摺動リングと前記軸部および前記プランジャチップは、線膨張係数が同じ金属素材とする、ことが好ましい。
【0015】
さらに、本発明の真空鋳造装置において、
前記調整リングは、前記摺動リングに対して線膨張係数の大きい金属素材とする、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、射出スリーブ後方からの外気の流入を確実に防止でき、高品質な真空鋳造品の安定生産を維持することができる真空鋳造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る真空鋳造装置を示す概念図である。
図2図1に示す真空鋳造装置を用いた真空シール手段を説明する図ある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが、各請求項に係る発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の尺度や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0019】
(真空鋳造装置)
先ず、本発明の実施形態に係る真空鋳造装置について、図1を用いて説明する。図1に示す真空鋳造装置100は、鋳造金型10と、射出部20と、射出駆動制御部30と、真空吸引部40と、を備える。
【0020】
鋳造金型10は、固定金型11と可動金型12が図示しない型締手段に支持されている。型締手段により固定金型11と可動金型12を型締することで金型キャビティ13およびゲート14が形成される。なお、金型キャビティ13の表面温度や鋳造品の温度の安定化、および真空鋳造成形のサイクル短縮による生産性改善効果を得るために、固定金型11および可動金型12には図示しない金型温調手段を設けて、所定の温度に調整することが好ましい。また、金型キャビティ13には離型剤等を塗布することが好ましい。
【0021】
射出部20は、先端が金型キャビティ13と連通するゲート14と接続した円筒状の射出スリーブ21と、射出スリーブ21内に所定の組成に調整されたアルミニウム合金等の溶湯を供給する注湯口22と、射出スリーブ21内で摺動するプランジャチップ23と、プランジャロッド25と、を備える。ここで、プランジャチップ23の摺動において、ゲート14に向かう方向を前方F、前方Fの摺動動作を前進動作、ゲート14から離れる方向を後方R、後方Rの摺動動作を後退動作と定義する。また、射出スリーブ21およびプランジャチップ23には、必要に応じて、冷却水等の冷却媒体が流れる流路を含む図示しない冷却手段が設けられている。さらに、プランジャチップ23の摩耗損傷の防止や摺動状態の安定化、および射出スリーブ21の内周面に溶湯残渣物の付着抑制等のため、射出スリーブ21とプランジャチップ23との摺動面に潤滑剤を塗布することが好ましい。
【0022】
注湯口22から供給された溶湯Mは、図1に示すように、射出スリーブ21の鉛直下方側に溜まる。射出スリーブ21の鉛直上方側は空間状態である。プランジャチップ23の前進動作により、プランジャチップ23で溶湯Mを押圧して、射出スリーブ21内は溶湯Mで次第に充満される。さらに、プランジャチップ23の前進動作により、射出スリーブ21内の溶湯Mは、ゲート14を通って金型キャビティ13内に射出充填される(射出充填工程)。この射出充填工程において、プランジャチップ23の前進動作の速度(射出速度という)を適宜調整する。例えば、射出スリーブ21内を溶湯Mで充満するまでは低速射出とし、高速射出で金型キャビティ13内に溶湯Mを射出充填する等の射出速度の多段設定とする。また、プランジャチップ23の押付力(鋳造圧力という)を適宜調整するとしても良い。例えば、金型キャビティ13内に溶湯Mを射出充填した後、溶湯Mの充填密度の調整および冷却に伴う凝固収縮を補うために、鋳造圧力を高圧に設定することが好ましい(増圧工程)。なお、充填密度の調整を増圧工程、凝固収縮を補う調整を保圧工程、と分けることもある。
【0023】
ここで、例えば、650~700℃の高温に温度調整されたアルミニウム合金を溶湯Mに用いた場合、溶湯Mと接触する射出スリーブ21は、400~500℃程度の高温に加熱される。同様に、プランジャチップ23は、500~600℃程度の高温に加熱される。その結果、射出スリーブ21およびプランジャチップ23は、大きく熱膨張する。また、加熱される温度差によって熱膨張差が生じて、不規則な熱変形が生じる。特に、射出スリーブ21は、溶湯Mと接触している時間が長い下方側がより高温に加熱されて大きく熱膨張し、湾曲するように大きく熱変形する(バナナ変形という)。これにより、プランジャチップ23は、不安定な摺動状態となる。また、プランジャチップ23と射出スリーブ21との隙間は、不規則な熱変形により広くなったり狭くなったりと安定しない。
【0024】
射出駆動制御部30は、プランジャチップ23の前進動作及び後退動作を行う射出駆動部31と、射出駆動部31を操作して射出充填工程および増圧工程を制御する射出制御部32と、を備える。射出駆動部31は、油圧シリンダ等の油圧駆動手段やボールネジ機構を使った電動駆動手段等の公知の駆動手段を用いる。いずれにしても、前進動作及び後退動作するピストンロッド33を備えており、締結部34でピストンロッド33とプランジャロッド25を締結する。さらに、プランジャロッド25とプランジャチップ23をジョイント部24で締結する。これによって、プランジャチップ23とジョイント部24とプランジャロッド25は、一体となって射出スリーブ21内を前方Fおよび後方Rに摺動する。その結果、ピストンロッド33の前進動作及び後退動作は、プランジャチップ23に伝達され、射出駆動制御部30で射出充填工程および増圧工程を制御する。
【0025】
真空吸引部40は、鋳造金型10に配置された金型吸引部42と連結した吸引経路41を介して、金型キャビティ13内を真空吸引する。金型キャビティ13の真空吸引に伴い、ゲート14を介して金型キャビティ13と連通している射出スリーブ21内も真空吸引される。吸引制御部43は射出制御部32とも連結しており、射出充填工程および増圧工程等の真空鋳造成形の各工程と同調して、真空吸引の開始および終了のタイミングの調整を行う。なお、例えば、射出スリーブ21に吸引手段を設け、射出スリーブ21を真空吸引して、ゲート14を介して金型キャビティ13内を真空吸引する形態であっても良い。
【0026】
ここで、真空鋳造成形は、鋳造金型10が型締されて金型キャビティ13を形成(型締工程)した後に、図示しない給湯手段から溶湯Mが射出スリーブ21内に供給される(給湯工程)。その後、射出制御部32は射出駆動部31を操作して、プランジャチップ23を前進動作させる。プランジャチップ23の前進動作位置が真空吸引開始位置Sに到達すると、吸引制御部43は金型吸引部42を操作して金型キャビティ13内の真空吸引を開始する(真空吸引工程)。真空吸引工程の任意のタイミングで、射出制御部32は射出充填工程および増圧工程を行う。その後、冷却工程を経て、鋳造金型10を型開して(型開工程)、金型キャビティ13から鋳造品を取り出す(搬出工程)。また、射出充填工程から冷却工程の間の任意のタイミングで真空吸引工程を終える。
【0027】
この真空吸引工程において、真空漏れ(外気の流入)が生じてしまうと、射出充填中の溶湯Mの流動が乱れて、空気の巻き込み、ボイド混在、酸化物の混在等の鋳造不良となる。特に、射出スリーブ21の後方R側からの外気の流入は、射出スリーブ21内の溶湯Mが大きく乱れて、射出充填工程の前に、外気の流入とともに溶湯Mの一部が金型キャビティ13内に飛ばされる不具合が発生する(先湯という)。先湯で飛ばされた溶湯Mは、酸化または凝固して異物となって異物不良の原因となる。
【0028】
ここで、鋳造金型10は、金型キャビティ13の周囲(金型PL面という)に真空シール材等を配置して真空漏れを防止することは比較的簡単であり、真空鋳造成形においては公知の手段として利用されている。これに対して、射出スリーブ21は、後方R側が開いており、プランジャチップ23と射出スリーブ21との隙間から外気が流入しやすい。この隙間は、バナナ変形を含む射出スリーブ21やプランジャチップ23等の不規則な熱変形によって大きく変化し、外気の流入を増大させる原因となる。そのため、この隙間に真空シール手段を設けたとしても、外気の流入を確実に阻止することは困難である。また、射出スリーブ21の後方R側に蓋を設けて密閉する等の真空シール手段を設けたとしても、不規則な熱変形によるプランジャロッド25の不規則な摺動によって、蓋とプランジャロッド25とが強く擦れて損傷し(カジリ損傷)、真空シール手段の効果が短時間で消失する。さらに、不規則な熱変形によって射出スリーブ21とプランジャチップ23との隙間が局部的に広がり、この隙間からバックフラッシュした溶湯によって、真空シール手段が熱損傷を受けて消失する。あるいは、バックフラッシュした溶湯Mによって真空シール手段が埋没する等の重篤な不具合が生じると考えられる。そこで、本発明において、射出スリーブ21やプランジャチップ23等の不規則な熱変形を吸収し、真空漏れを恒久的に完全に回避する真空シール手段をジョイント部24に設けたことを特徴とする。詳しくは、図2を用いて説明する。
【0029】
(真空シール手段)
次に、図1に示す真空鋳造装置100を用いた真空シール手段の実施形態について、図2を用いて説明する。先ず、図2(a)は、図1に示す領域Aを拡大した図である。前方Fから後方Rに向かって、プランジャチップ23とジョイント部24およびプランジャロッド25の順序で連結される。この連結された状態で射出スリーブ21内を前進動作および後退動作する。なお、プランジャチップ23とジョイント部24およびプランジャロッド25の内部には、温調媒体が循環する図示しない冷却手段を設けることがある。また、ジョイント部24には、外径の大きい摺動リング242と、摺動リング242よりは外径の小さい調整リング243を、交互に複数配列する形態とする。詳しくは、図2(b)を用いて説明する。
【0030】
次に、図2(b)は、図2(a)の領域Bを拡大した断面図である。調整リング243の内径は、円柱状の軸部241の外径と略同じである。摺動リング242を挟むように調整リング243を配置する。その結果、前方Fから後方Rに向かって、あるいは、後方Rから前方Fに向かって、調整リング243と摺動リング242が交互に複数配列となる。また、軸部241の前方F側および後方R側の端には調整リング243を配置する。後方R側に配置する押えリング244と軸部241を締結することで、軸部241の外周面に複数の調整リング243と摺動リング242が固定される。この押えリング244の締結を解除することで、複数の調整リング243と摺動リング242を簡単に取り外すことができる。また、軸部241とプランジャチップ23の締結を解除することでも、複数の調整リング243と摺動リング242を簡単に取り外すことができる。
【0031】
ここで、射出スリーブ21とプランジャチップ23の外周面との隙間S1は、後方R側への溶湯Mの漏出防止と、プランジャチップ23と射出スリーブ21のカジリ損傷の予防の兼合いで設定する。例えば、溶湯Mにアルミニウム合金(溶解温度650~700℃)、プランジャチップの外径=120mm、射出充填工程の鋳造圧力=100kPaとした場合、溶湯Mの動粘度係数等を考慮して、隙間S1=0.2mm程度が好適と試算される。ただし、溶湯Mの動粘度係数よりも小さい空気は、容易に通過することができ、その結果、後方R側からの外気の流入が発生する。隙間S1をより小さく設定すると、外気の流入を低減することが可能となるが、カジリ損傷の危険度が高くなるので好ましくない。
【0032】
そこで、隙間S1に対して、射出スリーブ21と摺動リング242の外周面との隙間S2を小さく設定して(S2<S1)、この摺動リング242を用いて外気の流入を阻止する。例えば、隙間S1=0.2mmに対して半分の隙間S2=0.1mmとすると、外気の流入量は約1/10程度に減少すると試算される。隙間S2<0.1mmとすることで、外気の流入量はほぼゼロに近づき、射出スリーブ21内の溶湯Mは沈静化し、先湯不良等の鋳造不良の原因を完全に排除することができる。また、摺動リング242を複数配置することによって、外気の流入の阻止をより確実なものとする。図2においては、摺動リング242の配置を3列としたが、これに限定されることなく、射出部20の全体の寸法的な制約の中で、摺動リング242の配列数を複数に設定する。外気の流入阻止の観点からは、配列数は多い方が好ましい。
【0033】
さらに、摺動リング242の内周面と軸部241の外周面の間に隙間S3を設ける。摺動リング242は、この隙間S3の範囲内で自在に動けるものとする。例えば、バナナ変形等を含む射出スリーブ21およびプランジャチップ23の不規則な熱変形に対して、摺動リング242が隙間S3の範囲内で動いて、不規則な熱変形が緩和される。その結果、隙間S2を小さく設定したとしても、摺動リング242と射出スリーブ21とのカジリ損傷が緩和され、外気の流入阻止の真空シール手段としての効果を長時間維持できる。
【0034】
また、隙間S3の範囲内での摺動リング242の動作は、プランジャチップ23の前進動作および後退動作における摺動時の軸心を適正な状態に維持することができる(自動調心という)。これにより、プランジャチップ23と射出スリーブ21とのカジリ損傷の緩和効果、および、隙間S1の安定化による溶湯Mの漏出防止効果を維持することできる。また、摺動リング242を複数配列することで、自動調心の効果を高めることができる。
この自動調心によって、射出充填工程において、プランジャチップ23の前進動作を精度良く制御することができ、鋳造品の品質の安定化の効果も期待できる。その結果。高品質な真空鋳造品の安定供給による生産性の向上を実現することができる。
【0035】
ここで、隙間S2の安定維持のために、摺動リング242と軸部241およびプランジャチップ23は、線膨張係数が同じ金属素材とすることが好ましい。例えば、プランジャチップ23に耐熱性および耐摩耗性等の機械物性値に優れた合金工具鋼SKD61を用いると、摺動リング242も合金工具鋼SKD61を設定する。これによって、プランジャチップ23と軸部241および摺動リング242の熱膨張および収縮の挙動が一致して、隙間S2の安定化を得ることができる。
【0036】
また、調整リング243は、摺動リング242に対して線膨張係数の大きい金属素材とすることが好ましい。さらに、調整リング243は、摺動リング242に対して滑り性の高い金属素材を用いることが好ましい。例えば、摺動リング242に合金工具鋼SKD61を用いた場合、SKD61よりも線膨張係数が大きくて滑り性が高いベリリウム銅合金BeCuを設定する。これによって、調整リング243は大きく熱膨張して、調整リング243と摺動リング242との隙間S4をほぼゼロにすることができ、外気の流入を完全に阻止することが確実となる。また、滑り性の高い調整リング243によって、隙間S3の範囲内での摺動リング242のスムーズな動作を確保できる。これによって、自動調心を確実とし、プランジャチップ23や射出スリーブ21等のカジリ損傷の防止と、真空シール性の安定性と、プランジャチップ23の高精度な前進動作による鋳造品の品質安定化を確保することができる。
【0037】
また、図2(b)に示すように、ジョイント部24には、調整リング243と摺動リング242および射出スリーブ21とで囲まれた隙間S5と連通し、隙間S5内を吸引する吸引補助経路245を備えるとしても良い。後方R側からの外気の流入は摺動リング242で阻止するが、例えば、自動調心のために摺動リング242が大きく動いて、瞬間的に広がった隙間S2から外気が流入することも考えられる。この場合、隙間S2から流入した外気を吸引補助経路245から吸引して、射出スリーブ21の後方R側に排出することで、射出スリーブ21の前方F側への外気の流入を阻止することができる。そのために、吸引補助経路245は、後方R側の摺動リング242の前方F側に形成される隙間S5に配置することが好ましい。なお、これに限定されることなく、調整リング243と摺動リング242および射出スリーブ21とで囲まれる全ての隙間S5に配置する形態であっても良い。また、吸引補助経路245の他端は、図示しない吸引装置あるいは真空吸引部40に接続される。
【0038】
(効果)
このように、本発明において、射出スリーブ21の後方R側からの外気の流入を確実に阻止することができる。また、バナナ変形等の射出スリーブ21やプランジャチップ23等の不規則な熱変形を吸収して、プランジャチップ23の摺動の軸心を適正な状態に自動調心することができる。その結果、プランジャチップ23や射出スリーブ21のカジリ損傷を緩和でき、真空シールの機能をもつ摺動リング242と射出スリーブ21との隙間を適正な状態に維持することができ、高品質な真空鋳造品の安定生産を維持することができる真空鋳造装置を提供することができる。
【0039】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に記載された範囲には限定されない。上記の実施形態には多様な変更または改良を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0040】
100 真空鋳造装置
10 鋳造金型
11 固定金型
12 可動金型
13 金型キャビティ
14 ゲート
20 射出部
21 射出スリーブ
22 注湯口
23 プランジャチップ
24 ジョイント部
241 軸部
242 摺動リング
243 調整リング
244 押えリング
245 吸引補助経路
25 プランジャロッド
30 射出駆動制御部
31 射出駆動部
32 射出制御部
33 ピストンロッド
34 締結部
40 真空吸引部
41 吸引経路
42 金型吸引部
43 吸引制御部
M 溶湯
S 真空吸引開始位置
A、B 領域
F 前方
R 後方
S1~S5 隙間
図1
図2