IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人京都大学の特許一覧 ▶ 独立行政法人国立高等専門学校機構の特許一覧 ▶ 株式会社トクヤマの特許一覧

特開2023-181589レスベラトロールのモノ配糖体の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181589
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】レスベラトロールのモノ配糖体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/18 20060101AFI20231218BHJP
   C12P 7/22 20060101ALI20231218BHJP
   C07H 15/203 20060101ALI20231218BHJP
   A61K 31/7034 20060101ALI20231218BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20231218BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20231218BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231218BHJP
   A61P 17/10 20060101ALI20231218BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20231218BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20231218BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231218BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20231218BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20231218BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20231218BHJP
【FI】
C12P19/18
C12P7/22 ZNA
C07H15/203
A61K31/7034
A61P3/10
A61P3/04
A61P25/28
A61P17/10
A61P9/10
A61P9/00
A61P35/00
C12N9/10
C12N15/31
C12N15/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094799
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】小川 順
(72)【発明者】
【氏名】竹内 道樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 誠
(72)【発明者】
【氏名】松浦 圭介
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4C057
4C086
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD02
4B050EE03
4B050FF01
4B050FF03E
4B050FF15E
4B050HH02
4B050LL01
4B050LL05
4B064AC18
4B064BH03
4B064BH07
4B064CA02
4B064CA19
4B064CA21
4B064CB30
4B064CC06
4B064CE02
4B064CE03
4B064CE12
4B064DA01
4C057AA03
4C057BB02
4C057DD01
4C057JJ23
4C086AA01
4C086EA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA02
4C086NA03
4C086ZA16
4C086ZA36
4C086ZA45
4C086ZA70
4C086ZB26
4C086ZC35
(57)【要約】
【課題】新規なレスベラトロールのモノ配糖体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るレスベラトロールのモノ配糖体の製造方法は、レスベラトロール及び糖類を含む系に、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質等を作用させることを含む。この製造方法によれば、式(1)で表されるレスベラトロール4’-O-α-グリコシドを得ることができる。式中、Rは、α位で結合した糖残基を示す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レスベラトロール及び糖類を含む系に下記(a)~(c)のいずれかの酵素タンパク質を作用させることを含む、レスベラトロールのモノ配糖体の製造方法。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)前記(a)のアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、グリコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
(c)前記(a)のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ、グリコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項2】
前記レスベラトロールのモノ配糖体が下記式(1)で表される、請求項1に記載のレスベラトロールのモノ配糖体の製造方法。
【化1】
[式中、Rは、α位で結合した糖残基を示す。]
【請求項3】
前記糖残基がグルコース残基である、請求項2に記載のレスベラトロールのモノ配糖体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レスベラトロールのモノ配糖体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワインに含まれるポリフェノール化合物であるレスベラトロール(3,5,4’-トリヒドロキシスチルベン)は、フレンチパラドックスに関係する生理学的機能を有するものとして研究されてきた。特に、トランスレスベラトロールは、2型糖尿病、肥満、アルツハイマー病、骨粗鬆症、アテローム性動脈硬化症、心血管疾患、癌等の様々な疾患又は症状の治療に有効であるため、健康補助食品の機能性成分として使用されている。しかし、レスベラトロールは水に難溶性である上、高pH条件下、高温条件下、及び光条件下での安定性も低いため、バイオアベイラビリティ及び産業用途は限られていた。
【0003】
レスベラトロールの水溶性を高め、また、各種安定性を改善するためには、レスベラトロールを配糖化することが有効である。レスベラトロールの配糖体の製造方法としては、例えば、レスベラトロール及びマルトースを含む系にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase)を作用させる方法が知られている(非特許文献1及び2参照)。この製造方法によれば、レスベラトロールの配糖体として、3-O-α-グルコシド、3-O-α-マルトシド、4’-O-α-グルコシド、及び4’-O-α-マルトシドを得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Bolton, G.W. et al., Science, 232, 983-985 (1986)
【非特許文献2】Torres, P. et al., Adv. Synth. Catal., 353, 1077-1086 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、配糖体の生理機能は、糖の結合位置によって変化し得る。例えば、レスベラトロール4’-O-α-グルコシドは、レスベラトロール3-O-α-グルコシドよりも高い抗酸化作用を有することが知られている。しかし、従来、レスベラトロールの4’位を選択的にグリコシル化することは困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、新規なレスベラトロールのモノ配糖体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> レスベラトロール及び糖類を含む系に下記(a)~(c)のいずれかの酵素タンパク質を作用させることを含む、レスベラトロールのモノ配糖体の製造方法。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)前記(a)のアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、グリコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
(c)前記(a)のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ、グリコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
【0008】
<2> 前記レスベラトロールのモノ配糖体が下記式(1)で表される、<1>に記載のレスベラトロールのモノ配糖体の製造方法。
【化1】
[式中、Rは、α位で結合した糖残基を示す。]
【0009】
<3> 前記糖残基がグルコース残基である、<2>に記載のレスベラトロールのモノ配糖体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規なレスベラトロールのモノ配糖体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】Hisタグ融合RpGのSDS-PAGE結果を示す図である。レーン1は、プラスミド(pET-21b/His-tag-RpG I)が導入された大腸菌(Rosetta 2 (DE3))から精製したHisタグ融合RpG Iを示し、レーン2は、プラスミド(pET-21b/His-tag-RpG II)が導入された大腸菌(Rosetta 2 (DE3))から精製したHisタグ融合RpG IIを示し、レーンMは、タンパク質ラダーを示す。
図1B】シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase)の反応混合物又は精製したHisタグ融合RpGの反応混合物のHPLCクロマトグラムを示す図である。上段はCGTaseの反応混合物を示し、中段はRpG Iの反応混合物を示し、下段はRpG IIの反応混合物を示す。P1、P2、P3、P4、及びP5はそれぞれ、レスベラトロール、3-O-α-グルコシド、3-O-α-マルトシド、4’-O-α-グルコシド、及び4’-O-α-マルトシドに対応する。
図2A】RpG Iの酵素活性におけるpHの影響を示す図である。黒丸、黒三角、黒四角はそれぞれ、クエン酸ナトリウム緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、及びリン酸カリウム緩衝液(KPB)を示し、白丸、白三角、白四角はそれぞれ、Tris-HCl緩衝液、重炭酸ナトリウム緩衝液、及びリン酸ナトリウム緩衝液を示す。各値は3回の独立した実験の平均値±標準偏差を示す。
図2B】RpG Iの酵素活性のpH安定性を示す図である。黒丸、黒三角、黒四角はそれぞれ、クエン酸ナトリウム緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、及びリン酸カリウム緩衝液(KPB)を示し、白丸、白三角、白四角はそれぞれ、Tris-HCl緩衝液、重炭酸ナトリウム緩衝液、及びリン酸ナトリウム緩衝液を示す。残存活性は、KPB(pH7.0)による処理前の酵素活性に対する割合(%)を意味する。各値は3回の独立した実験の平均値±標準偏差を示す。
図2C】RpG Iの酵素活性における温度の影響を示す図である。各値は3回の実験の平均値±標準偏差を示す。
図2D】RpG Iの酵素活性の温度安定性を示す図である。残存活性は、処理前の4℃での酵素活性に対する割合(%)を意味する。各値は3回の独立した実験の平均値±標準偏差で示す。
図3A】RpG Iによるレスベラトロールのグルコシル化活性におけるLiの影響を示す図である。灰色のバー及び黒色のバーはそれぞれ、4’-O-α-グルコシド及び3-O-α-グルコシドを示す。各値は3回の独立した実験の平均値を示し、エラーバーは4’-O-α-グルコシドの標準偏差を示す。
図3B】RpG Iによるレスベラトロールのグルコシル化活性におけるKの影響を示す図である。灰色のバー及び黒色のバーはそれぞれ、4’-O-α-グルコシド及び3-O-α-グルコシドを示す。各値は3回の独立した実験の平均値を示し、エラーバーは4’-O-α-グルコシドの標準偏差を示す。
図4】RpG Iによるレスベラトロールのグルコシル化の時間変化を示す図である。RpG Iによるレスベラトロールのグリコシル化は、400mMのLiを含む40℃の20mmol/L Tris-HCl緩衝液(pH8.0)中で実施した。黒丸、黒三角、及び黒四角はそれぞれ、4’-O-α-グルコシド、3-O-α-グルコシド、及び4’-O-α-マルトシドの濃度を示す。各値はピセイドの検量線を使用して計算したものであり、3回の独立した実験の平均値±標準偏差を示す。
図5A】標準物質又は精製したHisタグ融合RpGの反応混合物のHPLCクロマトグラムを示す図である。上段はカフェイン酸の標準物質を示し、中段はRpG Iの反応混合物を示し、下段はRpG IIの反応混合物を示す。
図5B】標準物質又は精製したHisタグ融合RpGの反応混合物のHPLCクロマトグラムを示す図である。上段はフェルラ酸の標準物質を示し、中段はRpG Iの反応混合物を示し、下段はRpG IIの反応混合物を示す。
図5C】標準物質又は精製したHisタグ融合RpGの反応混合物のHPLCクロマトグラムを示す図である。上段は6-ジンゲロールの標準物質を示し、中段はRpG Iの反応混合物を示し、下段はRpG IIの反応混合物を示す。
図5D】標準物質又は精製したHisタグ融合RpGの反応混合物のHPLCクロマトグラムを示す図である。上段はダイゼインの標準物質を示し、中段はRpG Iの反応混合物を示し、下段はRpG IIの反応混合物を示す。
図5E】標準物質又は精製したHisタグ融合RpGの反応混合物のHPLCクロマトグラムを示す図である。上段は(S)-エクオールの標準物質を示し、中段はRpG Iの反応混合物を示し、下段はRpG IIの反応混合物を示す。
図5F】標準物質又は精製したHisタグ融合RpGの反応混合物のHPLCクロマトグラムを示す図である。上段はゲニステインの標準物質を示し、中段はRpG Iの反応混合物を示し、下段はRpG IIの反応混合物を示す。
図5G】標準物質又は精製したHisタグ融合RpGの反応混合物のHPLCクロマトグラムを示す図である。上段はナリンゲニンの標準物質を示し、中段はRpG Iの反応混合物を示し、下段はRpG IIの反応混合物を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について説明する。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を含む範囲を示す。
【0013】
本実施形態に係るクルクミノイドのモノ配糖体の製造方法は、クルクミノイド及び糖類を含む系に下記(a)~(c)のいずれかの酵素タンパク質を作用させることを含む。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)上記(a)のアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、グリコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
(c)上記(a)のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ、グリコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
【0014】
上記(a)のタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質である。このタンパク質は、根粒菌(Rhizobium pusense)が産生するα-グルコシダーゼとして公知のタンパク質である(GenBank accession protein ID: SDE36953)。本明細書では、上記(a)のタンパク質をRpG Iとも記載する。
【0015】
上記(b)のタンパク質は、上記(a)のアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、グリコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質である。アミノ酸残基が置換、欠失、又は付加される位置は、グリコシルトランスフェラーゼ活性が維持される限り特に制限されない。また、置換、欠失、又は付加されるアミノ酸残基の数は、グリコシルトランスフェラーゼ活性が維持される限り特に制限されない。置換、欠失、又は付加されるアミノ酸残基の数は、例えば、1~55個であってもよく、1~45個であってもよく、1~35個であってもよく、1~25個であってもよく、1~15個であってもよく、1~5個であってもよい。
【0016】
任意のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換する場合、通常、置換前後でアミノ酸側鎖の性質が保存されていることが好ましい。アミノ酸側鎖の性質によってアミノ酸を分類する場合、例えば、親水性アミノ酸(D、E、K、R、H、S、T、N、Q);疎水性アミノ酸(A、G、V、I、L、F、Y、W、M、C、P);酸性アミノ酸(D、E);塩基性アミノ酸(K、R、H);脂肪族側鎖を有するアミノ酸(A、G、V、I、L);芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(F、Y、W);硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(M、C);等に分類することができる(括弧内のアルファベットはアミノ酸の一文字表記を示す)。
【0017】
上記(c)のタンパク質は、上記(a)のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ、グリコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質である。上記(a)のアミノ酸配列との配列同一性は、92%以上であってもよく、94%以上であってもよく、96%以上であってもよく、98%以上であってもよい。
【0018】
なお、「配列同一性」とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントした場合の配列間の一致性を意味し、例えば、BLASTプログラム(www.ncbi.nlm.nih.gov/Blast/cgi)を使用して算出することができる。
【0019】
上記(a)~(c)の酵素タンパク質は、当該タンパク質を発現可能な形質転換体を用いて、公知の手法により製造することができる。
【0020】
グリコシルドナーである糖類としては、特に制限されないが、α-1,4-グリコシド結合を有するものが好ましく、マルトースがより好ましい。
【0021】
レスベラトロール及び糖類を含む系に上記(a)~(c)のいずれかの酵素タンパク質を作用させる条件は特に制限されない。レスベラトロールのモノ配糖体の収率を向上させる観点から、pHはpH5~11の範囲が好ましく、温度は30~60℃の範囲が好ましい。
【0022】
本実施形態に係るクルクミノイドのモノ配糖体の製造方法によれば、下記式(1)で表されるレスベラトロール4’-O-α-グリコシドを高選択的に製造することができる。
【0023】
【化2】
【0024】
上記式(1)中、Rで示される糖残基は、糖のヘミアセタール性(アノマー性)のヒドロキシ基を除いた残部を意味する。糖残基としては、例えば、グルコースの残基が挙げられる。
【0025】
なお、上記(a)~(c)のいずれかの酵素タンパク質によれば、レスベラトロールに限らず、他のアグリコン(例えば、カフェイン酸、フェルラ酸、6-ジンゲロール、ナリンゲニン等)についても、高い位置選択性で配糖体を製造することができる。
【実施例0026】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
<方法>
[α-グルコシダーゼのクローニング]
Rhizobium pusense JCM 16209T株が有する2種類のα-グルコシダーゼ遺伝子(RpG I遺伝子及びRpG II遺伝子)をGenbankから購入し、RpG I遺伝子(GenBank accession protein ID: SDE36953)については配列番号2、3のプライマーを用いて、RpG II遺伝子(GenBank accession protein ID: SDE53578)については配列番号4、5のプライマーを用いて、それぞれPCR増幅した。これらのプライマーは、Hisタグ融合α-グルコシダーゼを発現するように設計された。
(RpG I遺伝子)
フォワードプライマー:5’-GTTTAACTTTAAGAAGGAGATATACATATGACCGCTTCGGTGACTTC-3’(配列番号2)
リバースプライマー:5’-CGGATCTCAGTGGTGGTGGTGGTGGTGCTCGGCGTAACGGGCGAAGA-3’(配列番号3)
(RpG II遺伝子)
5’-GTTTAACTTTAAGAAGGAGATATACATATGACGTTATCCCATGCCCC-3’(配列番号4)
5’-CGGATCTCAGTGGTGGTGGTGGTGGTGCTCTTCAATGCTCCCGCAAA-3’(配列番号5)
【0028】
PCRは、PrimeSTAR GXL DNAポリメラーゼ(Takara Bio)を使用し、98℃で10秒間、60℃で15秒間、68℃で1.7分間のサイクルを35サイクル行う条件とした。大腸菌用の発現ベクターpET-21bを制限酵素Nde I及びXho Iで処理し、ゲル電気泳動で精製した後、PCR産物と混合し、クローニングキット(In-Fusion HD Cloning Kit;Takara Bio)を使用して融合させた。そして、得られたプラスミド(pET-21b/His-tag-RpG I及びpET-21b/His-tag-RpG II)を大腸菌(Rosetta 2 (DE3);Merck)に形質転換した。
【0029】
[組換えRpGの発現及び精製]
組換え大腸菌を、50μg/mL アンピシリン及び34μg/mL クロラムフェニコールを含有するLB培地(500mL)に播種し、培養液のOD600が0.6に達するまで、37℃、95ストローク/分の条件で約3時間、振盪培養した。遺伝子発現は、イソプロピルチオガラクトシド(IPTG)を終濃度1mmol/Lで添加することによって誘導した。さらに、組換え大腸菌を16℃で1日間、培養した。遺伝子誘導された細胞を遠心分離により回収し、0.85% NaClで2回洗浄し、使用時まで20℃で保存した。
【0030】
凍結細胞(5g、湿重量)を10mLの結合バッファーに懸濁し、超音波破砕した(5分×4回)。なお、結合バッファーとしては、5mmol/L イミダゾールを含有する20mmol/L リン酸カリウム緩衝液(KPB;pH7.0)を使用した。14400×gで1時間、100000×gで90分間遠心分離することにより細胞片を除去し、上清を無細胞抽出物(CFE)として使用した。CFEは、孔径0.45μmのメンブレンフィルター(Millex-HPF HV;Merck)を使用して濾過した。酵素は、HisTrapTM HP(カラム容量5mL;Cytiva)を備えた高速タンパク質液体クロマトグラフィーシステム(AKTAexplorer;Cytiva)を使用してCFEから精製した。カラムを結合バッファーで平衡化し、吸着したRpGを500mmol/L イミダゾールを含有する溶出バッファー(20mmol/L KPB、pH7.0)を使用して溶出した。RpGを含む画分を収集して脱塩し、Vivaspin Turbo 15(Sartorius)を使用して濃縮した。その後、バッファーを20mmol/L KPB(pH7.0)と交換した。最後に、RpGを含有する溶液を等量のグリセロールと混合し、使用時まで-20℃で保存した。最後に、Vivaspin Turbo 15を使用して酵素溶液を20mmol/L KPB(pH7.0)に置き換え、グリコシルアクセプターとして機能する可能性のあるグリセロールを除去した。全ての操作は4℃で実行した。
【0031】
[Hisタグ融合RpGの酵素アッセイ]
0.2mg/mL RpG、メタノールに懸濁した5mmol/L アグリコン、1mol/L マルトース、及び20mmol/L Tris-HCl(pH8.0)からなる混合液(0.5mL)を遮光下、1200ストローク/分で振盪させながら40℃で30分間インキュベートした。50μLの1N HClを添加することにより反応を停止させた。得られた溶液を4℃、20000×gの条件で5分間、遠心分離し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及び液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)を使用して上清を分析した。特に明記しない限り、α-グルコシダーゼ活性は、グルコシドの量を測定することによって評価した。
【0032】
[RpG Iのグリコシル化活性におけるpH及び温度の影響]
精製された組換えRpG Iの至適温度及び至適pHを決定するために、20℃から60℃まで10℃刻みで、種々のpHのバッファー(20mmol/L)を使用して酵素アッセイを実施した。バッファーとしては、クエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5、3.0、及び3.5)、酢酸ナトリウム緩衝液(pH3.5、4.0、4.5、5.0、及び5.5)、KPB(pH6.5、7.0、7.5、及び8.0)、Tris-HCl緩衝液(pH7.5、8.0、8.5、及び9.0)、重炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.5、10.0、10.5、及び11.0)、及びリン酸ナトリウム緩衝液(pH11.5、12.0、及び12.5)を使用した。
【0033】
pH安定性を評価するために、酵素溶液を氷上で30分間、上述した種々のpHのバッファー(50mmol/L)を使用してプレインキュベートした。また、熱安定性を評価するために、酵素溶液を4℃(氷上)、又は20℃から80℃まで10℃刻みで、20mmol/L KPB(pH7.0)を使用してプレインキュベートした。酵素活性は、20mmol/L Tris-HCl緩衝液(pH9.0、至適pHでの実験を除く)中、50℃(至適温度での実験を除く)で30分間アッセイした。
【0034】
[RpG Iのグリコシル化活性における一価陽イオンの影響]
RpG Iのグリコシル化活性における一価陽イオン(10mmol/L)の影響を、20mmol/L Tris-HCl緩衝液(pH8.0)中、40℃で30分間評価した。さらに、Li(5、10、50、100、200、400、600、800、及び1000mmol/L)及びK(5、10、50、100、200、及び400mmol/L)の種々の濃度の影響も評価した。
【0035】
[RpGのグリコシル化活性におけるオリゴ糖の影響]
0.2mg/mL RpG、メタノールに懸濁した5mmol/L レスベラトロール、1mol/L オリゴ糖(マルトース、スクロース、トレハロース、ラクトース、及びセロビオース)、及び20mmol/L Tris-HCl(pH8.0)からなる混合液(0.5mL)を、遮光下、1200ストローク/分で振盪させながら40℃で30分間インキュベートした。50μLの1N HClを添加することにより反応を停止させた。得られた溶液を4℃、20000×gの条件で5分間、遠心分離し、COSMOSILカラム及びSPD-M40Aフォトダイオードアレイ検出器を備えたHPLCを使用して上清を分析した。さらに、アグリコンを含有しない場合のマルトースに対するRpG I及びRpG IIの加水分解活性と、RpG Iに対する400mmol/LのLiの影響とを、ULTRONカラムを備えたHPLCを使用し、放出される遊離グルコースの濃度を推定することによって検討した。
【0036】
[グリコシルアクセプターとしての種々のアグリコンに対するグリコシル化活性の特異性]
0.2mg/mL RpG、メタノールに懸濁した5mmol/L アグリコン、1mol/L マルトース、及び20mmol/L Tris-HCl(pH8.0)からなる混合液(0.5mL)を遮光下、1200ストローク/分で振盪させながら40℃で30分間インキュベートした。50μLの1N HClを添加することにより反応を停止させた。得られた溶液を4℃、20000×gの条件で5分間、遠心分離し、SPD-M40Aフォトダイオードアレイ検出器を備えたHPLC、及びLC-MSを使用して上清を分析した。さらに、カフェイン酸、ナリンゲニン、及びレスベラトロールの各グルコシドを反応混合物から精製し、核磁気共鳴装置(NMR)を使用して構造解析し、グルコース結合位置を特定した。
【0037】
[HPLC分析]
全てのアグリコン及びグリコシドの定量分析は、COSMOSIL 5C18 PAQカラム(4.6×150mm;Nacalai tesque)又はULTRON PS-80Hカラム(8.0×300mm;Shinwa Chemical Industries)を備えたHPLCシステム(Shimadzu)を使用して実施した。COSMOSILカラムを使用した場合、グラジエント溶出には5.7×10-2%(v/v) 酢酸(溶離液A)及びアセトニトリル(溶離液B)を使用した。流量は1.0mL/分とした。グラジエント条件は次のとおりである。0~5分:溶離液B 10%、5~16分:溶離液B 10~80%の直線勾配、16~17分:溶離液B 80~100の直線勾配、17~22分:溶離液B 100%、22~23分:溶離液B 100~10%の直線勾配、23~27分:溶離液B 10%。オートサンプラーのインジェクターニードルは、サンプル注入後の不溶性成分の凝固を防ぐためにメタノールで洗浄した。溶出液のモニターには、SPD-M10A、M20A、又はM40Aフォトダイオードアレイ検出器(Shimadzu)を使用した。ULTRONカラムを使用した場合、移動相はMilli-Q水とし、流量は1.0mL/分とした。溶出液のモニターには、屈折率検出器(RID-10A;Shimadzu)を使用した。
【0038】
[LC-MS分析]
COSMOSIL 5C18 PAQカラム(4.6×150mm;Nacalai tesque)を備えたLC-MSシステム(Shimadzu)を使用し、5.7×10-2%(v/v) 酢酸(溶離液A)及びアセトニトリル(溶離液B)を用いてグラジエント溶出を行った。流量は0.2mL/分とした。グラジエント条件は次のとおりである。0~15分:溶離液B 10%、15~37分:溶離液B 10~100%の直線勾配、37~57分:溶離液B 100%、57~59分:溶離液B 100~10%の直線勾配、59~70分:溶離液B 10%。オートサンプラーのインジェクターニードルは、サンプル注入後にメタノールで洗浄した。溶出液のモニターには、SPD-M20Aフォトダイオードアレイ検出器(Shimadzu)及びLCMS-2020(Shimadzu)を使用した。検出は、ネガティブモードエレクトロスプレーイオン化(ESI)を利用して実施した。MS条件は次のとおりである。インターフェース温度:350℃、脱溶媒和ライン(DL)温度:250℃、ネブライザーガス流量:1.5L/分、ヒートブロック温度:200℃、ドライガス流量:10L/分。
【0039】
[NMR分析のためのグルコシドの精製]
レスベラトロール4’-O-α-グルコシド、CaUK1(カフェイン酸グルコシド)、CaUK2(カフェイン酸グルコシド)、及びNUK2(ナリンゲニングルコシド)は、COSMOSIL 5C18 PAQカラム(20×250mm;Nacalai tesque)を備えたHPLCシステム(Shimadzu)を使用して精製した。アイソクラティック溶出には、5.7×10-2%(v/v) 酢酸(溶離液A)及びアセトニトリル(溶離液B)の混合液を使用した。レスベラトロール4’-O-α-グルコシドの場合には溶離液Bの濃度を20%とし、CaUK1及びCaUK2の場合には溶離液Bの濃度を8%とし、NUK2の場合には溶離液Bの濃度を30%とした。溶出液のモニターには、SPD-M10Aフォトダイオードアレイ検出器(Shimadzu)を使用した。
【0040】
[NMR分析]
精製後の生成物をNMR装置(500MHz、Avance 500;Bruker)で分析し、H-NMR測定及び二量子フィルターH-Hシフト相関二次元NMR測定(DQF-COSY)で確認した。化学シフトは、溶媒シグナルに関連して割り当てた。 溶媒としては、メタノール-dを使用した。サンプルチューブの直径は5mmとした。
【0041】
<結果>
[組換えHisタグ融合RpGの精製及び反応]
Hisタグ融合RpG I及びHisタグ融合RpG IIを発現する組換え大腸菌を培養し、回収して破砕し、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーに供して、Hisタグ融合RpG I及びHisタグ融合RpG IIを精製した。SDS-PAGEの結果から、Hisタグ融合RpG I及びHisタグ融合RpG IIは、いずれも分子量が約60kDaであることが確認された(図1A)。
【0042】
Thermoanaerobacter sp.やBacillus macerans等の微生物に由来するシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase)によれば、レスベラトロール配糖体(3-O-α-グルコシド、3-O-α-マルトシド、4’-O-α-グルコシド、及び4’-O-α-マルトシド)が得られることが知られている(Bolton, G.W. et al., Science, 232, 983-985 (1986); Torres, P. et al., Adv. Synth. Catal., 353, 1077-1086 (2011))。そこで、CGTaseの反応混合物を標準物質として使用して、RpGによって生成されたレスベラトロールグルコシドのグルコース結合位置及び重合度を確認した(図1B)。CGTaseの反応混合物のHPLC分析では、クロマトグラムの10.78分、11.30分、11.90分、12.16分、及び13.83分の位置に連続的にピークが現れ、それぞれ、ピークP5(4’-O-α-マルトシド)、ピークP4(4’-O-α-グルコシド)、ピークP3(3-O-α-マルトシド)、ピークP2(3-O-α-グルコシド)、及びピークP1(レスベラトロール)に対応していた。これらのピークを、RpG I及びRpG IIの反応サンプルで確認されるピークと比較することで、RpG Iがレスベラトロールに対して高いグリコシル化活性を有していることが分かった。RpG Iによって生成された4’-O-α-グルコシド、3-O-α-グルコシド、及び4’-O-α-マルトシドの割合は、それぞれ98.3%、1.6%、及び0.1%であった。一方、RpG IIは非常に低い活性を示し、HPLCクロマトグラムのピーク面積から計算した4’位選択性は65.6%であった。
【0043】
[RpG Iのグリコシル化活性におけるpH及び温度の影響]
グリコシルドナーとしてマルトースを使用したときのレスベラトロールに対するRpG Iのグリコシル化活性におけるpH及び温度の影響を、pH2.5からpH12.5まで、及び20℃から60℃までの範囲で調べた。4’-O-α-グルコシドを生成する最大の活性は、pH8.0(KPBを使用)、かつ50℃のときに観察された(図2A図2C)。グリコシル化活性は40℃まで安定していたが、50℃を超える温度では急速に失われた(図2D)。pH安定性試験では、酵素はpH3.5からpH11.0までの間で最大の活性を維持した(図2B)。位置選択性に関しては、反応温度での違いは観察されず、4’位選択性は98.6%以上に保たれた。しかし、反応pHの低下に従って4’位選択性は低下し、pH3.5(クエン酸ナトリウム緩衝液を使用)で最終的に91.1%となった。逆に、反応pHが上昇すると4’位選択性も高まり、最終的にpH9.5で99.7%に達したが、いくつかの副生成物が検出された。これは、アルカリ性条件下でレスベラトロールが不安定であるためと推測される(Zupancic, S. et al., Eur. J. Pharm. Biopharm., 93, 196-204 (2015))。
【0044】
[RpG Iのグリコシル化活性における一価陽イオンの影響]
糖質加水分解酵素(GH)の配列に基づく分類によれば、細菌のα-グルコシダーゼはGHファミリー13(GH13)に分類される。過去の研究では、Halomonas sp. H11株及びEnsifer adhaerens NBRC 100388T株のα-グルコシダーゼ活性はNH 及びKによって亢進することが知られている(Ojima, T. et al., Appl. Environ. Microbiol., 78, 1836-1845 (2012); Suzuki, T. et al., Biocatal. Agric. Biotechnol., 30, 101837 (2012))。そこで、0.2mg/mL RpG Iの活性に対する種々の一価陽イオン(10mM)の影響も評価した。一価陽イオンの塩としては、CsCl、LiCl、RbCl、NHCl、NaCl、及びKClを使用した。20mmol/L KPB(pH8.0)を至適バッファーとして使用した場合(図2A参照)、活性は全ての陽イオンによって僅かに抑制された(表1)。但し、20mmol/L Tris-HCl緩衝液(pH8.0)を使用した場合、RpG I活性はCs及びLiによって135%に亢進した(表2)。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
さらに、種々の濃度のLi(5、10、50、100、200、400、600、800、及び1000mmol/L)及びK(5、10、50、100、200、及び400mmol/L)による影響を評価した(図3A図3B)。Li塩及びK塩としては、LiCl及びKClを使用した。4’-O-α-グルコシドの量は、400mmol/LのLi濃度まで濃度依存的に増加して最大2.5倍に達し、それよりも高濃度では減少した。対照的に、3-O-α-グルコシドの量は、1mol/LのLi濃度まで濃度依存的に増加した。Kでは活性が僅かに抑制された。4’位選択性は、100mmol/LのLi濃度まで濃度依存的に増加して最大99.1%に達し、それよりも高濃度では最小96.0%まで低下した。
【0048】
なお、Liの効果は、RpG I、RpG II、及びアグリコンの種類によって異なっていた。このことは、GH13に有効な陽イオンは、酵素構造、グリコシルドナー、グリコシルアクセプター、及び反応条件の組み合わせによって異なることを示している。
【0049】
[RpG Iのグリコシル化活性におけるオリゴ糖の影響]
レスベラトロール4’-O-α-グルコシドの濃度を測定することにより、種々のオリゴ糖を使用してRpG Iのグリコシル化活性を評価した(表3)。活性が最も高かったのは、グリコシルドナーとしてマルトースを使用した場合であり、次がスクロースを使用した場合であった。トレハロースを使用した場合の活性は比較的低く、ラクトース及びセロビオースを使用した場合にはレスベラトロール4’-O-α-グルコシドが検出されなかった。マルトース、スクロース、及びトレハロースを使用した場合、4’選択性はそれぞれ98.3%、92.7%、及び94.6%であり、オリゴ糖の種類によってグリコシル化の位置選択性が異なることを示している。
【0050】
【表3】
【0051】
さらに、アグリコンを含有しない場合のマルトースに対するRpG I及びRpG IIの加水分解活性を、ULTRONカラムを備えたHPLCを使用し、放出される遊離グルコースの濃度を測定することによって比較した。その結果、RpG Iの活性は、RpG IIの活性、及びLiを含む場合のRpG Iの活性に比べて、それぞれ約8倍及び約4倍であった(表4)。このことから、Liは、酵素を活性化することに加えて加水分解活性を抑制することにより、RpG Iのグリコシル化活性を増強することが示唆された。
【0052】
【表4】
【0053】
[至適条件下でRpG Iを使用したレスベラトロールグルコシドの酵素的合成]
400mMのLiを含む40℃の20mmol/L Tris-HCl緩衝液中、0.2mg/mLのRpG Iを使用して、5mmol/L レスベラトロールのグリコシル化の時間経過を測定した(図4)。レスベラトロール4’-O-α-グルコシドの最大モル収率は30分の時点で41.6%に達し、生成物の濃度は2.08mmol/Lであった。この時点以降、加水分解反応が支配的になった。対照的に、3-O-α-グルコシド及び4’-O-α-マルトシドは時間依存的に合成され、それに応じて4’-O-α-グルコシドの割合が減少した。
【0054】
[種々のアグリコンに対するRpGの基質特異性]
RpGの基質特異性を評価するため、各ポリフェノール化合物を含む反応混合物を調製し、HPLCで分析して生成物を特定した(図5A図5G)。反応混合物中に各アグリコンと同様の吸収スペクトルを有する未知のピーク(UK)が検出されたことから、RpG Iは、評価した全てアグリコン(レスベラトロール、カフェイン酸、フェルラ酸、6-ジンゲロール、ダイゼイン、(S)-エクオール、ゲニステイン、及びナリンゲニン)に対してグリコシル化活性を有しているようであった。一方、RpG IIは、評価した全てのアグリコンに対して殆ど活性を示さず、位置選択性を正確に評価することはできなかった。
【0055】
[RpG Iの反応混合物のLC-MS分析]
LC-MSでRpG Iの反応混合物を分析し、MSスペクトルを参照してそれらがグルコシドであることを確認した(図示せず)。その結果、CaUK1(カフェイン酸グルコシド)、CaUK2(カフェイン酸グルコシド)、FUK1(フェルラ酸グルコシド)、6GUK2(6-ジンゲロールグルコシド)、DUK1(ダイゼイングルコシド)、DUK2(ダイゼイングルコシド)、EUK2((S)-エクオールグルコシド)、GUK1(ゲニステイングルコシド)、GUK2(ゲニステイングルコシド)、NUK1(ナリンゲニングルコシド)、及びNUK2(ナリンゲニングルコシド)は、単一のグルコース分子が各アグリコンに転移することによって形成されたモノグルコシドであることが分かった。対照的に、6GUK1(6-ジンゲロールグルコシド)及びEUK1((S)-エクオールグルコシド)は、ジグルコシドに対応していた。
【0056】
[α-グルコシド又はβ-グルコシドの標準物質を使用したグルコース結合位置の決定及び推定]
LC-MS分析の結果、6-ジンゲロール及び(S)-エクオールに対するRpG Iの位置選択性が100%であることが分かった。本発明者らは、6-ジンゲロールについて、微生物由来のグリコシルトランスフェラーゼによって5-O-α-グルコシルジンゲロールが生成されることを報告している(Matsumoto, R. et al., J. Mol. Catal. B Enzym., 133, S200-S203 (2016))。そこで、精製した5-O-α-グルコシルジンゲロールを標準物質として使用して、6GUK2のグルコース結合位置を決定した。その結果、6GUK2が5-O-α-グルコシルジンゲロールであり、RpG Iが高い位置選択性でジンゲロールの第2級アルコールをグリコシル化したことが分かった(図5C参照)。
【0057】
アノマー異性体であるα-グルコシド及びβ-グルコシドは、同様の極性を有し、HPLCでの保持時間が近似しているものの、α-グルコシドの方がβ-グルコシドよりも僅かに早く溶出する。そこで、ダイゼイン7-O-β-グルコシド(ダイジン)、ゲニステイン4’-O-β-グルコシド(ソフォリコシド)、及びゲニステイン7-O-β-グルコシド(ゲニスチン)を標準物質として使用して、ダイゼイン及びゲニステインのグルコース結合位置を推定した。その結果、DUK1及びダイジンの保持時間は一致していた。このため、DUK1及びDUK2はそれぞれ、7-O-α-グルコシド及び4’-O-α-グルコシドであると推定された(図5D参照)。また、GUK1及びGUK2の保持時間はそれぞれ、ゲニスチン及びソフォリコシドの保持時間と一致していた。このため、GUK1及びGUK2はそれぞれ、7-O-α-グルコシド及び4’-O-α-グルコシドであると推定された(図5F参照)。
【0058】
[NMRを使用したグルコシドの構造解析]
RpG Iの位置選択性についてさらに知見を得るために、レスベラトロール4’-O-α-グルコシド、CaUK1、CaUK2、及びNUK2を反応混合物から精製し、NMR分析を行った。アグリコン及びグルコシドのH-NMRデータによれば、グリコシル化位置周辺の化学シフト値は低磁場側へシフトする。このシフトを参照することにより、グルコース結合位置を特定した。その結果、レスベラトロール4’-O-α-グルコシドの化学構造を確認した。また、CaUK1、CaUK2、及びNUK2はそれぞれ、カフェイン酸4-O-α-グルコシド、カフェイン酸3-O-α-グルコシド、及びナリンゲニン4’-O-α-グルコシドであると同定された。レスベラトロール4’-O-α-グルコシド、CaUK1、CaUK2、及びNUK2のH-NMRデータを以下に示す。
【0059】
【化3】
【0060】
レスベラトロール4’-O-α-グルコシド
1H NMR dH (CD3OD): 7.46 (2H, d, J=8.7 Hz, H-f, H-i), 7.16 (2H, d, J=8.8 Hz, H-g, H-h), 7.00 (1H, d, J=16,3 Hz, H-d or H-e), 6.88 (1H, d, J=16,3 Hz, H-d or H-e), 6.46 (2H, s, H-a, H-c), 6.17 (1H, s, H-b), 5.50 (1H, d, J=3.7 Hz, H-j), 3.86 (1H, dd, J=9.3, 9.4 Hz, H-n), 3.73 (2H, d, J=14.1 Hz, H-l), 3.65-3.68 (1H, m, H-k), 3.58 (1H, dd, J=9.7, 3.6 Hz, H-o), 3.44 (1H, dd, J=9.3, 9.6 Hz, H-m).
【0061】
【化4】
【0062】
CaUK1:カフェイン酸4-O-α-グルコシド
1H NMR dH (CD3OD): 7.52 (1H, d, J=15.9 Hz, H-e), 7.29 (1H, d, J=8.35 Hz, H-b), 7.10 (1H, s, H-a), 7.02 (1H, d, J=8.0 Hz, H-c), 6.33 (1H, d, J=15.9 Hz, H-d), 5.42 (1H, d, J=3.7 Hz, H-f), 3.88 (1H, dd, J=9.4, 9.6 Hz, H-j), 3.75 (2H, d, J=23.3 Hz, H-h), 3.67-3.70 (1H, m, H-g), 3.60 (1H, dd, J=9.8, 3.8 Hz, H-k), 3.43 (1H, dd, J=9.3, 9.1 Hz, H-i).
【0063】
【化5】
【0064】
CaUK2:カフェイン酸3-O-α-グルコシド
1H NMR dH (CD3OD): 7.56 (1H, d, J=15.9 Hz, H-e), 7.55 (1H, s, H-a), 7.18 (1H, d, J=8.4 Hz, H-c), 6.87 (1H, d, J=8.4 Hz, H-b), 6.32 (1H, d, J=16.0 Hz, H-d), 5.36 (1H, d, J=7.3 Hz, H-f), 3.87 (1H, dd, J=9.4, 9.6 Hz, H-j), 3.78 (2H, d, J=16.5 Hz, H-h), 3.72-3.77 (1H, m. H-g), 3.61 (1H, dd, J=9.5, 5.8 Hz, H-k), 3.42 (1H, dd, J=9.4, 9.2 Hz, H-i).
【0065】
【化6】
【0066】
NUK2:ナリンゲニン4’-O-α-グルコシド
1H NMR dH (CD3OD): 7.44 (2H, d, J=8.7 Hz, H-e, H-h), 7.22 (2H, d, J=8.7 Hz, H-f, H-g), 5.91 (1H, s, H-a), 5.89 (1H, s, H-b), 5.52 (1H, d, J=3.6 Hz, H-i), 5.42 (1H, d, J=12.6, 3.1 Hz, H-f-1), 3.86 (1H, dd, J=9.3, 9.3 Hz, H-m), 3.72 (2H, d, J=15.7 Hz, H-k), 3.64-3.66 (1H, m, H-j), 3.58 (1H, dd, J=9.7, 3.5 Hz, H-n), 3.43 (1H, dd, J=9.3, 9.3 Hz, H-l), 3.13 (1H, d, J=12.7 Hz, H-g-1), 3.09 (1H, d, J=12.7 Hz, H-g-2), 2.75 (1H, d, J=17.1, 3.2 Hz, H-f-2).
【0067】
[ポリフェノール化合物に対するRpG Iの位置選択性]
最後に、レスベラトロールグルコシドを除く各モノグルコシドについて、MSクロマトグラムのピーク面積から位置選択性を算出した(表5、表6)。ダイゼイン、(S)-エクオール及びゲニステインの各モノグリセリドについては位置選択性を確認していないため、表6中には、主要なモノグリセリドの割合を示している。この実験では、Rhizobium pusense JCM 16209T株由来のα-グルコシダーゼ(RpG I)が高い4’位選択性(98.3%)でレスベラトロールをグリコシル化し、レスベラトロール4’-O-α-グルコシドを生成することが明らかとなった。レスベラトロールの4’位は、フェニル基のパラ位に対応する。種々のポリフェノール化合物について検討した結果、レスベラトロールのパラ位選択的なグリコシル化は、多くのポリフェノール化合物に一般化できることが明らかとなった。実際、カフェイン酸及びナリンゲニンは、いずれも高いパラ位選択性でグリコシル化された。
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
【配列表】
2023181589000001.app