(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181590
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】マルチエステル型ポリアルキレンオキシド含有単量体、及び、それを用いた重合体
(51)【国際特許分類】
C08G 65/332 20060101AFI20231218BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
C08G65/332
C08F290/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094800
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】竹嶋 久晶
(72)【発明者】
【氏名】細谷 務
(72)【発明者】
【氏名】大野 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】長尾 和俊
【テーマコード(参考)】
4J005
4J127
【Fターム(参考)】
4J005BD00
4J005BD02
4J127AA01
4J127AA04
4J127BB021
4J127BB101
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC151
4J127BD221
4J127BE311
4J127BE31Y
4J127BF181
4J127BF18X
4J127BF361
4J127BF36X
4J127BG101
4J127BG10X
4J127BG10Y
4J127BG121
4J127BG12Y
4J127BG141
4J127BG14X
4J127BG171
4J127BG17Y
4J127CB151
4J127CC231
4J127EA04
4J127EA22
4J127FA00
4J127FA53
(57)【要約】
【課題】
生分解性を有する新規な化合物、及び、その製造方法、更に、再汚染防止能に優れる
その化合物を含む重合体を提供する。
【解決手段】
下記一般式(1)で表される化合物、及び、その重合体である。
(一般式(1)中、
Xは、炭素数1~10の有機基である。
mは、0または1である。nは、1~200の整数である。
R
1は、水素原子、及び/又は、メチル基である。
R
2は、m=0の場合は直接結合、もしくは、炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上であり、m=1の場合は炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上である。
R
3は、炭素数2~6の有機基から選ばれる1種以上である。
R
4は、水素原子、炭素数1~30の有機基から選ばれる1種以上である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。
【化1】
(一般式(1)中、
Xは、炭素数1~10の有機基である。
mは、0または1である。nは、1~200の整数である。
R
1は、水素原子、及び/又は、メチル基である。
R
2は、m=0の場合は直接結合、もしくは、炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上であり、m=1の場合は炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上である。
R
3は、炭素数2~6の有機基から選ばれる1種以上である。
R
4は、水素原子、炭素数1~30の有機基から選ばれる1種以上である。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表される構造単位(A)を有する重合体。
【化2】
(一般式(2)中、
Xは、炭素数1~10の有機基である。
mは、0または1である。nは、1~200の整数である。
R
1は、水素原子、及び/又は、メチル基である。
R
2は、m=0の場合は直接結合、もしくは、炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上であり、m=1の場合は炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上である。
R
3は、炭素数2~6の有機基から選ばれる1種以上である。
R
4は、水素原子、炭素数1~30の有機基から選ばれる1種以上である。
但し、アスタリスクは、一般式(1)で表される構造単位(A)が結合している同種もしくは異種の他の構造単位に含まれる原子を表す。)
【請求項3】
下記一般式(2)で表される構造単位(A)、及び、下記一般式(3)で表される構造単位(B)を有する共重合体。
【化3】
(一般式(2)中、
Xは、炭素数1~10の有機基である。
mは、0または1である。nは、1~200の整数である。
R
1は、水素原子、及び/又は、メチル基である。
R
2は、m=0の場合は直接結合、もしくは、炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上であり、m=1の場合は炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上である。
R
3は、炭素数2~6の有機基から選ばれる1種以上である。
R
4は、水素原子、炭素数1~30の有機基から選ばれる1種以上である。
但し、アスタリスクは、一般式(1)で表される構造単位(A)が結合している同種もしくは異種の他の構造単位に含まれる原子を表す。)
【化4】
(一般式(3)中、
R
5は、水素原子、及び/又は、メチル基である。
R
6は、炭素数1~6の有機基から選ばれる1種以上である。
R
7、R
8は、同一、もしくは異なって、水素原子、炭素数1~6の有機基から選ばれる1種以上である。
但し、アスタリスクは、一般式(3)で表される構造単位(B)が結合している同種もしくは異種の他の構造単位に含まれる原子を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生分解性を有する新規な化合物とそれを含む重合体、及び、その用途に関する。より詳しくは、種々の工業原料として好適なマルチエステル型ポリアルキレンオキシド含有(メタ)アクリレート、洗剤組成物や繊維処理剤、水処理剤、顔料分散剤等の種々の用途に用いることができるマルチエステル型ポリアルキレンオキシド含有(メタ)アクリレート系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアルキレンオキシド鎖を側鎖に有する重合体について、様々な種類の重合体が提案されてきた。ポリアルキレンオキシド鎖を側鎖に有する重合体は、界面活性剤との相溶性に優れるため、液体洗剤向けの洗剤組成物に使用することで、優れた洗浄力を発揮することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1、2には、メチルポリエチレングリコールメタクリレートを側鎖に有する共重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007-511652
【特許文献2】特表2007-511654
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本願発明者らは、側鎖にポリエチレングリコール鎖(親水基)と炭素数10以上の鎖状炭化水素基を側鎖に有する重合体を洗剤用添加剤に用いることを検討してきた。
近年では、洗剤組成物に用いられる洗剤用添加剤には、生分解性が求められる様になってきた。
しかしながら、特許文献1、2に記載の重合体をはじめとする、ポリアルキレンオキシド鎖を側鎖に有する重合体は、生分解性が乏しいことが確認されている。そのため、洗濯後に洗剤組成物を河川等に排出する際、環境負荷が高いという課題があった。
従来の側鎖にポリアルキレングリコールを有する重合体は、生分解性発現の起点となるエステル結合が、ポリマー主鎖に直結しており、その立体障害のため、加水分解酵素がエステル結合に作用することを妨げていた。そのため、エステル結合が加水分解せず、ポリエチレングリコール鎖が、ポリマー鎖から脱離しないために生分解性の発現が困難であった。
そこで、本願発明者らは、主鎖から離れた部分にエステル結合を導入することで、立体障害の影響を抑えることにより、加水分解酵素が作用し易くなる複数のエステル基を有するマルチエステル型ポリアルキレンオキシド含有(メタ)アクリレートを提案するに至った。
【0006】
本開示は欺かる点に鑑みてなされたものであり、生分解性を有する新規な化合物とそれを含む重合体、及び、その用途を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本開示の化合物は、
下記一般式(1)で表される化合物である。
【0008】
【化1】
(一般式(1)中、
Xは、炭素数1~10の有機基である。
mは、0または1である。nは、1~200の整数である。
R
1は、水素原子、及び/又は、メチル基である。
R
2は、m=0の場合は直接結合、もしくは、炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上であり、m=1の場合は炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上である。
R
3は、炭素数2~6の有機基から選ばれる1種以上である。
R
4は、水素原子、炭素数1~30の有機基から選ばれる1種以上である。)
【0009】
すなわち、本開示の重合体は、
下記一般式(2)で表される構造単位(A)を有する重合体である。
【0010】
【化2】
(一般式(2)中、
Xは、炭素数1~10の有機基である。
mは、0または1である。nは、1~200の整数である。
R
1は、水素原子、及び/又は、メチル基である。
R
2は、m=0の場合は直接結合、もしくは、炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上であり、m=1の場合は炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上である。
R
3は、炭素数2~6の有機基から選ばれる1種以上である。
R
4は、水素原子、炭素数1~30の有機基から選ばれる1種以上である。
但し、アスタリスクは、一般式(1)で表される構造単位(A)が結合している同種もしくは異種の他の構造単位に含まれる原子を表す。)
【0011】
更に、本開示の共重合体は、
下記一般式(2)で表される構造単位(A)、及び、下記一般式(3)で表される構造単位(B)を有する共重合体である。
【0012】
【化3】
(一般式(2)中、
Xは、炭素数1~10の有機基である。
mは、0または1である。nは、1~200の整数である。
R
1は、水素原子、及び/又は、メチル基である。
R
2は、m=0の場合は直接結合、もしくは、炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上であり、m=1の場合は炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上である。
R
3は、炭素数2~6の有機基から選ばれる1種以上である。
R
4は、水素原子、炭素数1~30の有機基から選ばれる1種以上である。
但し、アスタリスクは、一般式(1)で表される構造単位(A)が結合している同種もしくは異種の他の構造単位に含まれる原子を表す。)
【0013】
【化4】
(一般式(3)中、
R
5は、水素原子、及び/又は、メチル基である。
R
6は、炭素数1~6の有機基から選ばれる1種以上である。
R
7、R
8は、同一、もしくは異なって、水素原子、炭素数1~6の有機基から選ばれる1種以上である。
但し、アスタリスクは、一般式(1)で表される構造単位(A)が結合している同種もしくは異種の他の構造単位に含まれる原子を表す。)
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、生分解性を有する新規な化合物とそれを含む重合体、及び、その用途を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態を詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0016】
なお、これ以降の説明において特に記載がない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を、それぞれ意味し、範囲を示す「A~B」は、A以上B以下であることを示す。また、本開示において、「(メタ)アクリレ-ト」は、「アクリレ-ト」または「メタクリレ-ト」を意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。
【0017】
〔化合物〕
本開示の化合物は、
下記一般式(1)で表される化合物であれば、特に限定はない。
【0018】
【化5】
(一般式(1)中、
Xは、炭素数1~10の有機基である。
mは、0または1である。nは、1~200の整数である。
R
1は、水素原子、及び/又は、メチル基である。
R
2は、m=0の場合は直接結合、もしくは、炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上であり、m=1の場合は炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上である。
R
3は、炭素数2~6の有機基から選ばれる1種以上である。
R
4は、水素原子、炭素数1~30の有機基から選ばれる1種以上である。)
また、本開示の化合物は、二つ以上のエステル基を有していて、ポリアルキレンオキシド構造を有し、且つ、重合可能な不飽和二重結合を有していれば、マルチエステル型ポリアルキレンオキシド含有単量体と称することもできる。
【0019】
前記一般式(1)中のXは、炭素数1~10の有機基であれば特に限定はない。前記有機基は、飽和または不飽和の鎖状炭化水素であってもよく、直鎖状であっても、分岐状であってもよい。また、芳香族基やヘテロ原子が含まれてもよい。 好ましくは、直鎖状もしくは、分岐状の炭化水素基である。
前記炭素数1~10の有機基が、炭素数1~10の炭化水素基である場合、具体的には、
-CH2-CH2-基、-CH2-CH2-CH2-基、-CH2-CH2-CH2-CH2-基、-CH2-CH(OH)-CH2-基、-CH2-CH(CH2OH)-基等が挙げられる。
これらの中でも、-CH2-CH(OH)-CH2-基、-CH2-CH(CH2OH)-基、-CH2-CH2-基から選ばれる1種以上であると、一般式(1)の化合物を合成する中間体の入手のし易さとその後の合成の容易さ及び生分解のし易さという点で好ましい。
【0020】
前記一般式(1)中のmは、0または1であれば特に限定はない。mが0の時は、直接結合となり、mが1の時は、エステル結合となる。本開示の化合物には、mは、0もしくは、1のみの結合を有してもよいし、両方の結合を有してもよい。m=1であれば、生分解性の起点となるエステル結合をより多く導入できるという観点から好ましい。
【0021】
前記一般式(1)中のnは、1~200の整数であれば特に限定はない。前記nは、より好ましくは1~150であり、更に好ましくは5~100であり、特に好ましくは10~50である。
本開示の前記一般式(1)中のnが前述の範囲であると、ポリアルキレンオキシド鎖により泥等の粒子汚れの分散効果を向上させるという点で好ましい。
【0022】
前記一般式(1)中のR1は、水素原子、及び/又は、メチル基であれば特に限定はない。
【0023】
前記一般式(1)中のR2は、m=0の場合は直接結合、もしくは、炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上であり、m=1の場合は炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上であれば、特に限定はない。
前記R2が、炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上である場合、直鎖状であっても、分岐状であってもよい。また、芳香族基やヘテロ原子が含まれてもよい。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、O-フェニレン基、-CH=CH-基等が挙げられる。
好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、-CH=CH-基であり、より好ましくは、エチレン基、-CH=CH-基である。
前記R2が前述の置換基であると、本開示の化合物を合成する際、原料の入手の容易さ、合成のし易いことから好ましい。
【0024】
前記一般式(1)中のR3は、炭素数2~6の有機基から選ばれる1種以上であれば特に限定はない。
前記R3は、炭素数2~6の有機基であれば特に限定はない。前記R3は、炭素数1~6の炭化水素基であってもよい。好ましくは、炭素数2~4の炭化水素基である。前記R3は同一の炭素数でもよいし、また、異なる炭素数の組み合わせであってもよく、前記R3は炭素数2~6から選ばれる1種以上であってもよい。好ましいR3の炭素数は、前述した通り、炭素数2~4である。また、前記R3は、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基から選ばれる1種以上であれば、本開示の化合物へ水溶性を向上させることができる。また、本開示の化合物を用いて得られた重合体が、泥粒子などの汚れ成分の分散性向上という観点から、前述した置換基であることが好ましい。
【0025】
前記一般式(1)中のR4は、水素原子、炭素数1~30の有機基から選ばれる1種以上であれば特に限定はない。
前記R4が、炭素数1~30の有機基である場合、炭素数1~30の炭化水素基であってもよい。前記炭化水素基としては、特に限定はなく、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の鎖状炭化水素基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等の環状炭化水素基が挙げられる。前記炭化水素基は、分岐を有していてもよく、分岐を有する場合の炭化水素基の炭素数は、主鎖及び分岐鎖の合計の炭素数を意味する。また、炭素原子や水素原子以外の酸素原子やヘテロ原子を有してもよい。
【0026】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2-エチルへキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ステアリル基、イコシル基等が挙げられる。
前記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基等が挙げられる。上記アルキニル基としては、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ドデシニル基、オクタデシニル基、イコシニル基等が挙げられる。
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、メチルフェニル基、1-メトキシ-4-メチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ブチルメチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、ジブチルフェニル基、ビフェニル基、ビフェニルメチル基、ビフェニルエチル基、ナフチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル等が挙げられる。
前記シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。上記シクロアルケニル基としては、例えば、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0027】
前記炭化水素基として、好ましくはアルキル基、アルケニル基であり、より好ましくはアルキル基である。前記炭化水素基の炭素数として好ましくは1~10であり、より好ましくは1~5であり、更に好ましくは1~3、より好ましくは1である。前記炭化水素基の炭素数が、前述の範囲であると、本開示の一般式(1)で表される化合物の水溶性が向上し、本開示の一般式(1)で表される化合物を含む単量体を水媒体中で重合できるため好ましい。
【0028】
また、前記一般式(1)中のR4は、使用用途によって、水素原子であることも好ましい形態の一つである。例えば、親水性を高めたい場合には、水素原子であることが好ましい。
更に、前記R4は、水素原子、炭素数1~30の有機基から選ばれる1種以上であればよく、1種類のみ、あるいは、必要に応じて1種以上が含まれてもよい。
【0029】
〔重合体〕
本開示の化合物を単量体として用いて、重合反応を行い重合体にすることができる。下記一般式(2)で表される構造単位(A)を有する重合体であれば、特に限定はない。
本開示の化合物を単独で重合反応を行って得られる単独重合体(ホモポリマー)であっても、本開示の化合物以外の単量体を1種以上用いて重合反応を行って、共重合体にしてもよい。
本開示の重合体は、単に「重合体」と表すとき、単独重合体(ホモポリマー)、及び/又は、共重合体を表すものとする。
【0030】
【化6】
(一般式(2)中、
Xは、炭素数1~10の有機基である。
mは、0または1である。nは、1~200の整数である。
R
1は、水素原子、及び/又はメチル基であれば特に限定はない。
R
2は、m=0の場合は直接結合、もしくは、炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上であり、m=1の場合は炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上である。
R
3は、炭素数2~6の有機基から選ばれる1種以上である。
R
4は、水素原子、炭素数1~30の有機基から選ばれる1種以上である。
但し、アスタリスクは、一般式(1)で表される構造単位(A)が結合している同種もしくは異種の他の構造単位に含まれる原子を表す。)
前記一般式(2)中のX、m、n、R
1、R
2、R
3、R
4は、前記一般式(1)と同じであり、好ましい形態についても同じである。
【0031】
本開示の化合物を単量体として用いて、それ以外のその他の単量体と重合反応を行い、その他の単量体由来の構造単位を含んだ共重合体であってもよい。
その他の単量体由来の構造単位とは、その他の単量体が重合により共重合した構造であり、例えばその他の単量体がアクリル酸メチルである場合、*-CH2-CH(COOCH3)-*で表すことができる。(但し、アスタリスクは、その他の単量体由来の構造単位が結合している同種もしくは異種の他の構造単位に含まれる原子を表す。)
その他の単量体としては、下記一般式(4)で表すことができる。
【0032】
【化7】
(一般式(4)中、
R
5は、水素原子、及び/又は、メチル基である。
R
6は、炭素数1~6の有機基から選ばれる1種以上である。
R
7、R
8は、同一、もしくは異なって、水素原子、炭素数1~6の有機基から選ばれる1種以上である。)
なお、一般式(4)中のR
5~R
8は、後述する一般式(3)中のR
5~R
8と同じである。
【0033】
また、前記一般式(4)で表すことができるその他の単量体以外の単量体を、その他の単量体(E)と表すことができ、その他の単量体(E)に由来する構造単位を、構造単位(E)と表すことができる。
その他の単量体(E)としては、カルボキシル基含有単量体(カルボキシル基含有不飽和単量体とも言う)]が挙げられる。カルボキシル基含有単量体は、カルボキシル基と炭素-炭素二重結合とを有する単量体である。前記カルボキシル基には、カルボン酸とその塩とが含まれるものとする。カルボン酸の塩としては、特に制限されないが、例えば、カルボン酸の金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等が挙げられる。上記金属塩の金属原子としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;アルミニウム、鉄等が好ましく、また、有機アミン塩の有機アミン基としては、モノエタノールアミン基、ジエタノールアミン基、トリエタノールアミン基等のアルカノールアミン基;モノエチルアミン基、ジエチルアミン基、トリエチルアミン基等のアルキルアミン基;エチレンジアミン基、トリエチレンジアミン基等のポリアミン基等が好ましい。上記カルボン酸の塩としては、リチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩、又は4級アミン塩である。
【0034】
前記カルボキシル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、2-メチレングルタル酸等及びこれらの塩が例示される。中でも、重合性が高く得られる共重合体の再汚染防止能が高いという観点からは、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸又はこれらの塩であることがより好ましく、アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸又はこれらの塩であることが更に好ましく、アクリル酸又はアクリル酸塩であることが特に好ましい。マレイン酸等の酸無水物を形成する化合物の場合には、これらの酸無水物であってもよい。これらのカルボキシル基含有単量体は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0035】
また、その他の単量体(E)としては、スルホン酸基含有単量体が挙げられる。具体的には、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-(メタ)アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(塩)、3-(メタ)アリルオキシ-1-ヒドロキシプロパンスルホン酸(塩)が挙げられる。
【0036】
更に、その他の単量体(E)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、α-ヒドロキシメチルエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸と炭素数1~18のアルコールとのエステル化により得られるアルキル(メタ)アクリレート類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート又はその4級化物等のアミノ基含有アクリレート;(メタ)アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド等のアミド基含有単量体類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;スチレン等の芳香族ビニル系単量体類;マレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド誘導体;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系単量体類;
【0037】
ビニルホスホン酸、(メタ)アリルホスホン酸及びこれらの塩などのホスホン酸(塩)基を有する単量体類;(メタ)アクロレイン等のアルデヒド基含有ビニル系単量体類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール:ビニルピロリドン等のその他官能基含有単量体類;等が挙げられる。これらの他の単量体についても、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0038】
〔共重合体〕
本開示の共重合体は、下記一般式(2)で表される構造単位(A)を含んでいる共重合体であれば特に限定はないが、下記一般式(2)で表される構造単位(A)、及び、下記一般式(3)で表される構造単位(B)を有する共重合体であることが、好ましい形態の一つである。
【0039】
【化8】
(一般式(2)中、
Xは、炭素数1~10の有機基である。
mは、0または1である。nは、1~200の整数である。
R
1は、水素原子、及び/又は、メチル基であれば特に限定はない。R
2は、m=0の場合は直接結合、もしくは、炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上であり、m=1の場合は炭素数1~10の有機基から選ばれる1種以上である。
R
3は、炭素数2~6の有機基から選ばれる1種以上である。
R
4は、水素原子、炭素数1~30の有機基から選ばれる1種以上である。
但し、アスタリスクは、一般式(1)で表される構造単位(A)が結合している同種もしくは異種の他の構造単位に含まれる原子を表す。)
【0040】
【化9】
(一般式(3)中、
R
5は、水素原子、及び/又は、メチル基である。
R
6は、炭素数1~6の有機基から選ばれる1種以上である。
R
7、R
8は、同一、もしくは異なって、水素原子、炭素数1~6の有機基から選ばれる1種以上である。
但し、アスタリスクは、一般式(1)で表される構造単位(A)が結合している同種もしくは異種の他の構造単位に含まれる原子を表す。)
【0041】
前記一般式(3)中のR5は、水素原子、及び/又は、メチル基であれば特に限定はない。必要に応じて、適宜選択すればよい。
【0042】
前記R6は、炭素数1~6の有機基から選ばれる1種以上であれば特に限定はない。前記R6は、炭素数1~6の炭化水素基であってもよい。 前記炭化水素基としては、特に限定はなく、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の鎖状炭化水素基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等の環状炭化水素基が挙げられる。前記炭化水素基は、分岐を有していてもよく、分岐を有する場合の炭化水素基の炭素数は、主鎖及び分岐鎖の合計の炭素数を意味する。また、炭素原子や水素原子以外の酸素原子やヘテロ原子を有してもよい。
前記一般式(3)の構造を与える単量体(前記一般式(4)で表される単量体)の重合性の観点から、R7(R8)N-基と重合体主鎖をエステル結合、エーテル結合、アミド結合で結合することが好ましく、特に、-C(O)O-CH2CH2-基、-C(O)NH-CH2CH2-基であることが好ましい。
【0043】
前記R7、R8は、同一、もしくは異なって、水素原子、炭素数1~6の有機基から選ばれる1種以上であれば特に限定はない。前記R7、R8は、炭素数1~6の炭化水素基であってもよい。 前記炭化水素基としては、特に限定はなく、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の鎖状炭化水素基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等の環状炭化水素基が挙げられる。前記炭化水素基は、分岐を有していてもよく、分岐を有する場合の炭化水素基の炭素数は、主鎖及び分岐鎖の合計の炭素数を意味する。また、炭素原子や水素原子以外の酸素原子やヘテロ原子を有してもよい。好ましくは、直鎖、及び/又は、分岐のアルキル基であることが好ましい。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
前記R7、R8は、好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基から選ばれる1種以上である。
前記R7、R8が前述の置換基であると、重合体の水溶性を向上させることができ、皮脂汚れの成分であるオレイン酸等の脂肪酸との相互作用を向上させることができるという点で好ましい。
【0044】
本開示の共重合体の重量平均分子量Mwは、1,000~500,000であれば特に限定はなく、好ましくは、10,000~100,000である。
本開示の共重合体の重量平均分子量が前述の範囲であると、本開示の共重合体を洗剤用途に用いると、再汚染防止能が向上するため好ましい。
【0045】
本開示の共重合体に含まれる前記一般式(2)で表される構造単位(A)、及び、前記一般式(3)で表される構造単位(B)の総量を100質量%とすると、前記構造単位(A)/前記構造単位(B)の質量比率は、1~99/1~99であれば、特に限定はない。好ましくは30~99/1~70であり、より好ましくは40~95/5~60である。
本開示の共重合体に含まれる前記構造単位(A)、及び、前記構造単位(B)の質量比率が前述の範囲であると、再汚染防止能および生分解性が向上するため好ましい。
【0046】
本開示の共重合体は、その他の単量体(E)由来の構造単位(E)を含んでもよい。前記構造単位(E)の含有割合は、本開示の共重合体を形成する全単量体に由来する構造単位の総量100質量%に対して、0~30質量%であることが好ましい。より好ましくは0~20質量%であり、更に好ましくは0~10質量%である。
【0047】
〔本開示の化合物の製造方法〕
本開示の化合物は、前記一般式(1)で表される化合物の構造となれば、その製造方法については特に限定はないが、以下の合成方法A~Dを具体例として説明する。
合成方法A:(メタ)アクリル酸グリシジルとジカルボン酸誘導体を用いる反応
合成方法B:(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルとジカルボン酸誘導体を用いる反応
合成方法C:(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルとカルボン酸誘導体を用いる反応
合成方法D:不飽和アルコールとジカルボン酸誘導体を用いる反応
【0048】
前記合成方法Aとして、(メタ)アクリル酸グリシジルを用いる反応の合成スキームを以下に示した。
前記合成方法Aは、下記の通り、工程A―1と工程A-2の二つの工程で構成される。
工程A-1は、下記一般式(5)で表される無水コハク酸等のジカルボン酸無水物、及び、下記一般式(6)で表されるメトキシポリエチレングリコール等のアルコキシポリアルキレングリコールを反応させて、ポリアルキレングリコールとカルボキシル基がエステル結合を介して結合した、下記一般式(7)で表されるジカルボン酸誘導体中間体を合成する工程である。
【0049】
【化10】
なお、前記一般式(6)、及び、前記一般式(7)中のR
3、R
4、nは、前記一般式(1)と同じであり、好ましい形態についても同じである。
工程A-2は、前記工程A-1で合成し得られた下記一般式(7)で表されるジカルボン酸誘導体中間体のカルボキシル基に対して、下記一般式(8)で表される(メタ)アクリル酸グリシジルのエポキシ基を開環エステル化させることによる、本開示の化合物を得る工程である。
【0050】
【化11】
なお、前記一般式(7)、及び、前記一般式(9)中のR
3、R
4、nは、前記一般式(1)と同じであり、好ましい形態についても同じである。
【0051】
前記合成方法Bとして、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルを用いる反応の合成スキームを以下に示した。
前記合成方法Bは、下記の通り、工程B―1と工程B-2の二つの工程で構成される。
工程B-1は、下記一般式(5)で表される無水コハク酸等のジカルボン酸無水物、及び、下記一般式(6)で表されるメトキシポリエチレングリコール等のアルコキシポリアルキレングリコールを反応させて、ポリアルキレングリコールとカルボキシル基がエステル結合を介して結合した、下記一般式(7)で表されるジカルボン酸誘導体中間体を合成する工程である。
【0052】
【化12】
なお、前記一般式(6)、及び、前記一般式(7)中のR
3、R
4、nは、前記一般式(1)と同じであり、好ましい形態についても同じである。
【0053】
工程B-2は、前記工程A-1で合成し得られた下記一般式(7)で表されるジカルボン酸誘導体中間体のカルボキシル基に対して、下記一般式(10)で表される(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルをエステル化させることによる、本開示の化合物を得る工程である。
前記エステル化反応は酸触媒を用いた脱水エステル化やジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水縮合剤を用いて行うことができる。エステル結合の分解を防ぐ観点からジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水縮合剤を用いて行うことが好ましい。
【0054】
【化13】
なお、前記一般式(7)、及び、前記一般式(11)中のR
3、R
4、nは、前記一般式(1)と同じであり、好ましい形態についても同じである。
【0055】
前記合成方法Cは、下記一般式(12)で表されるメトキシポリエチレングリコール酢酸等のアルコキシポリアルキレングリコールカルボン酸、及び、下記一般式(10)で表される(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルをエステル化させることにより本開示の化合物を得ることができる。
前記エステル化反応は酸触媒を用いた脱水エステル化やジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水縮合剤を用いて行うことができる。エステル結合の分解を防ぐ観点からジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水縮合剤を用いて行うことが好ましい。
【0056】
【化14】
なお、前記一般式(12)、及び、前記一般式(13)中のR
3、R
4、nは、前記一般式(1)と同じであり、好ましい形態についても同じである。
【0057】
前記合成方法Dは、下記一般式(15)で表される(メタ)アリルアルコールやイソプレニルアルコール等の不飽和アルコール、及び、下記一般式(7)で表されるA-1で示したジカルボン酸中間体をエステル化させることにより本開示の化合物を得ることができる。
前記エステル化反応は酸触媒を用いた脱水エステル化やジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水縮合剤を用いて行うことができる。エステル結合の分解を防ぐ観点からジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水縮合剤を用いて行うことが好ましい。
【0058】
【化15】
なお、前記一般式(7)、及び、前記一般式(16)中のR
3、R
4、nは、前記一般式(1)と同じであり、好ましい形態についても同じである。
【0059】
〔重合方法〕
本開示の重合体の製造方法は、特に制限されないが、公知の重合方法あるいは公知の方法を修飾した方法が使用できる。
【0060】
本開示の化合物を単量体として用いて重合反応を行う場合は、重合開始剤を用いて、本開示の化合物を単独で重合する場合、及び、その他の単量体と共重合を行う場合とがある。
開始剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、過酸化水素;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)塩酸塩、4,4’-アゾビス-4-シアノバレリン酸、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、ジ-t-ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物等が好適である。これらの重合開始剤のうち、過酸化水素、過硫酸塩が好ましく、過硫酸塩が最も好ましい。これらの重合開始剤
は、単独で使用されてあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
重合反応における重合開始剤の使用量は、単量体成分の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、単量体100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、20質量部以下、より好ましくは0.005質量部以上、15質量部以下、更に好ましくは0.01質量部以上、10質量部以下である。
【0061】
本開示の重合体の製造方法は、重合開始剤の他に、連鎖移動剤を使用することが好ましい。この際使用できる連鎖移動剤としては、分子量の調節ができる化合物であれば特に制限されず、公知の連鎖移動剤が使用できる。具体的には、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3-メルカプトプロピオン酸オクチル、2-メルカプトエタンスルホン酸、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ブチルチオグリコレート等の、チオール系連鎖移動剤;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等の、ハロゲン化物;イソプロパノール、グリセリン等の、第2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸、及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)や、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸、及びその塩(亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜二チオン酸ナトリウム、亜二チオン酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム等)等の、低級酸化物及びその塩などが挙げられる。上記連鎖移動剤は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0062】
本開示の重合体の製造方法における連鎖移動剤の使用量は、全単量体成分1モルに対して0.1~10モル%であり、このような割合で用いることで、好ましい分子量の共重合体を製造することが容易になる。連鎖移動剤の使用量は、好ましくは、全単量体成分1モルに対して1~10モル%であり、更に好ましくは、全単量体成分1モルに対して2~5モル%である。
【0063】
本開示の重合体の製造方法は、開始剤などの使用量を低減する等の目的で反応促進剤を加えても良い。反応促進剤としては、重金属イオンが例示される。本開示で重金属イオンとは、比重が4g/cm3以上の金属を意味する。前記金属イオンとしては、例えば、鉄、コバルト、マンガン、クロム、モリブデン、タングステン、銅、銀、金、鉛、白金、イリジウム、オスミウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム等のイオンが好ましい。これらの重金属は1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、鉄がより好ましい。前記重金属イオンのイオン価は特に限定されるものではなく、例えば、重金属として鉄が用いられる場合、開始剤における鉄イオンとしては、Fe2+であっても、Fe3+であってよく、これらが組み合わされていてもよい。
【0064】
前記重金属イオンは、イオンの形態として含まれるものであれば特に限定されないが、重金属化合物を溶解してなる溶液を用いる方法を用いると、取り扱い性に優れるため好適である。その際に用いる重金属化合物は、開始剤に含有することを所望する重金属イオンを含むものであればよく、用いる開始剤に応じて決定することができる。前記重金属イオンとして鉄を用いる場合、モール塩(Fe(NH4)2(SO4)2・6H2O)、硫酸第一鉄・7水和物、塩化第一鉄、塩化第二鉄等の重金属化合物等を用いることが好ましい。
また、重金属イオンとしてマンガンを用いる場合、塩化マンガン等を好適に用いることができる。これらの重金属化合物を用いる場合においては、いずれも水溶性の化合物である
ため、水溶液の形態として用いることができ、取り扱い性に優れることになる。なお、前記重金属化合物を溶解してなる溶液の溶媒としては、水に限定されるものではなく、本開示の重合体の製造において、重合反応を妨げるものでなく、かつ、重金属化合物を溶解するものであればよい。
【0065】
前記重金属イオンの含有量は、また、重合反応完結時における重合反応液の全質量に対して好ましくは0.1~10ppmであることが好ましい。重金属イオンの含有量が0.1ppm以上であれば、重金属イオンによる効果をより十分に発現させることができる。また、重金属イオンの含有量が10ppm以下であれば、得られる重合体の色調を更に向上させることができる。また、重金属イオンの含有量が多いと、生成物である本開示の重合体を洗剤ビルダーとして用いる場合に、洗剤用ビルダーの汚れの原因となるおそれがあるが、重金属イオンの含有量が前述の範囲であれば、このような不具合をより充分に抑制することができる。
なお、前記重合反応完結時とは、重合反応液中において重合反応が実質的に完了し、所望する重合体が得られた時点を意味する。例えば、重合反応液中において重合された重合体がアルカリ成分で中和される場合には、中和した後の重合反応液の全質量を基準に、重金属イオンの含有量を算出する。2種以上の重金属イオンが含まれる場合には、重金属イオンの総量が上述の範囲であればよい。
【0066】
前記開始剤と連鎖移動剤との組み合わせとしては、過硫酸塩と亜硫酸塩とをそれぞれ1種以上用いることが最も好ましい。この場合、過硫酸塩と亜硫酸塩との混合比は、特に制限されないが、過硫酸塩1質量部に対して、亜硫酸塩0.3~8質量部を用いることが好ましい。より好ましくは、過硫酸塩1質量部に対して、亜硫酸塩の下限は、0.5質量部であり、最も好ましくは0.7質量部である。また、亜硫酸塩の上限は、過硫酸塩1質量部に対して、より好ましくは7質量部であり、最も好ましくは6質量部である。ここで、亜硫酸塩が0.3質量部以上であれば、低分子量化する際の開始剤総量をより低く抑えることができ、また、8質量部以下であれば、副反応をより充分に抑制し、それによる不純物をより充分に低減することができる。
【0067】
前記連鎖移動剤、開始剤及び反応促進剤の組み合わせは、特に制限されず、上記各例示の中から適宜選択できる。例えば、連鎖移動剤、開始剤及び反応促進剤の組み合わせとしては、亜硫酸水素ナトリウム(SBS)/過酸化水素(H2O2)、亜硫酸水素ナトリウム(SBS)/過硫酸ナトリウム(NaPS)、亜硫酸水素ナトリウム(SBS)/Fe、亜硫酸水素ナトリウム(SBS)/過酸化水素(H2O2)/Fe、亜硫酸水素ナトリウム(SBS)/過硫酸ナトリウム(NaPS)/Fe、亜硫酸水素ナトリウム(SBS)/過硫酸ナトリウム(NaPS)/過酸化水素(H2O2)、亜硫酸水素ナトリウム(SBS)/酸素/Fe等の形態が好ましい。より好ましくは、亜硫酸水素ナトリウム(SBS)/過硫酸ナトリウム(NaPS)、亜硫酸水素ナトリウム(SBS)/過硫酸ナトリウム(NaPS)/Feであり、最も好ましくは亜硫酸水素ナトリウム(SBS)/過硫酸ナトリウム(NaPS)/Feである。
【0068】
本開示の重合体の製造方法において、重合の際には、前述した重合開始剤に加えて、重合開始剤の分解触媒や還元性化合物を反応系に添加してもよい。重合開始剤の分解触媒としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム等のハロゲン化金属;酸化チタン、二酸化ケイ素等の金属酸化物;塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸等の無機酸の金属塩;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ラク酸、イソラク酸、安息香酸等のカルボン酸、そのエステル及びその金属塩;ピリジン、インドール、イミダゾール、カルバゾール等の複素環アミン及びその誘導体等が挙げられる。これらの分解触媒は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0069】
前記還元性化合物としては、例えば、フェロセン等の有機金属化合物;ナフテン酸鉄、ナフテン酸銅、ナフテン酸ニッケル、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸マンガン等のナフテン酸金属塩;鉄、銅、ニッケル、コバルト、マンガン等の金属イオンを発生できる無機化合物;三フッ化ホウ素エーテル付加物、過マンガン酸カリウム、過塩素酸等の無機化合物;二酸化硫黄、亜硫酸塩、硫酸エステル、重亜硫酸塩、チオ硫酸塩、スルホキシ酸塩、ベンゼンスルフィン酸とその置換体、パラトルエンスルフィン酸等の環状スルフィン酸の同族体等の硫黄含有化合物;オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、メルカプトエタノール、α-メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオプロピオン酸、α-チオプロピオン酸ナトリウムスルホプロピルエステル、α-チオプロピオン酸ナトリウムスルホエチルエステル等のメルカプト化合物;ヒドラジン、β-ヒドロキシエチルヒドラジン、ヒドロキシルアミン等の窒素含有化合物;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、イソバレリアンアルデヒド等のアルデヒド類;アスコルビン酸等が挙げられる。これらの還元性化合物もまた、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。メルカプト化合物等の還元性化合物は、連鎖移動剤として添加してもよい。
【0070】
前記連鎖移動剤、開始剤、及び反応促進剤の総使用量は、本開示の化合物、必要であれば前記一般式(4)で表される単量体、並びに、更に必要であれば、その他の単量体からなる全単量体成分1モルに対して、2~20gであることが好ましい。このような範囲とすることで、本開示の重合体を効率よく生産することができ、また、本開示の重合体の分子量分布を所望のものとすることができる。より好ましくは、2~15gであり、更に好ましくは、3~10gである。
【0071】
前記重合開始剤及び連鎖移動剤の反応容器への添加方法としては、滴下、分割投入等の連続投入方法を適用することができる。また、連鎖移動剤を単独で反応容器へ導入してもよく、単量体成分を構成する各単量体、溶媒等とあらかじめ混同しておいてもよい。
【0072】
前記重合方法において、単量体成分や重合開始剤等の反応容器への添加方法としては、反応容器に単量体成分の全てを仕込み、重合開始剤を反応容器内に添加することによって重合反応を行う方法;反応容器に単量体成分の一部を仕込み、重合開始剤と残りの単量体成分を反応容器内に連続してあるいは段階的に(好ましくは連続して)添加することによって重合反応を行う方法;反応容器に重合溶媒を仕込み、単量体成分と重合開始剤の全量を添加する方法;単量体のうちの一(例えば、本開示の化合物)の一部を反応容器に仕込み、重合開始剤と残りの単量体成分を反応容器内に(好ましくは連続して)添加することによって重合反応を行う方法等が好適である。このような方法の中でも、得られる重合体の分子量分布を狭く(シャープに)することができ、洗剤ビルダーとして用いる場合の分散性を向上することができうることから、重合開始剤と単量体成分を反応容器に逐次滴下する方法で共重合を行うことが好ましい。
【0073】
前記重合方法としては、例えば、溶液重合やバルク重合、懸濁重合、乳化重合等の通常用いられる方法で行うことができ、特に限定されるものではないが、溶液重合が好ましい。この際使用できる溶媒は、上述したように、全溶媒に対して50質量%が水である混合溶媒又は水であることが好ましい。水のみを使用する場合には、脱溶剤工程を省略できる点で好適である。
【0074】
前記重合方法は、回分式でも連続式でも行うことができる。また、重合反応の際、必要に応じて使用される溶媒としては、公知のものを使用でき、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;グリセリン;ポリエチレングリコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n-ヘプタン等の芳香族又は脂肪族炭化水素類;酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類等が好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、単量体成分及び得られる重合体の溶解性の点から、水及び炭素数1~4の低級アルコールからなる群より選択される1種又は2種以上の溶媒を用いることが好ましい。
本開示の重合体の製造方法は、必要に応じて、任意の連鎖移動剤、pH調節剤、緩衝剤などを用いることができる。
【0075】
前記重合反応の際の温度は好ましくは40℃以上であり、より好ましくは50~110℃であり、更に好ましくは60~100℃である。重合時の温度が上記範囲であれば、残存単量体成分が少なくなり、重合体の再汚染防止能が向上する傾向にある。なお、重合時の温度は、重合反応の進行中において、常に一定に保持する必要はなく、例えば、室温から重合を開始し、適当な昇温時間又は昇温速度で設定温度まで昇温し、その後、設定温度を保持するようにしてもよいし、単量体成分や開始剤等の滴下方法に応じて、重合反応の進行中に経時的に重合温度を変動(昇温又は降温)させてもよい。
【0076】
重合時間は特に制限されないが、好ましくは30~420分であり、より好ましくは45~390分であり、更に好ましくは60~360分であり、最も好ましくは90~240分である。なお、本発明において、「重合時間」とは単量体を添加している時間を表す。
【0077】
反応系内の圧力としては、常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下のいずれであってもよいが、得られる重合体の分子量の点では、常圧下、又は、反応系内を密閉し、加圧下で行うことが好ましい。また、加圧装置や減圧装置、耐圧性の反応容器や配管等の設備の点では、常圧(大気圧)下で行うことが好ましい。反応系内の雰囲気としては、空気雰囲気でもよいが、不活性雰囲気とするのが好ましく、例えば、重合開始前に系内を窒素等の不活性ガスで置換することが好ましい。
【0078】
前記重合反応系における重合反応が終了した時点での水溶液中の固形分濃度(すなわち単量体の重合固形分濃度)は、20質量%以上が好ましく、30~70質量%であることがより好ましい。このように重合反応終了時の固形分濃度が35質量%以上と高ければ、高濃度かつ一段で重合を行うことができる。そのため、従来の製造方法では場合によっては必要であった濃縮工程を省略することができるなど、効率よく本開示の重合体を得ることができる。それゆえ、その製造効率を大幅に上昇させたものとすることができ、その結果、本開示の重合体の生産性を大幅に向上し、製造コストの上昇も抑制することが可能となる。
【0079】
〔本開示の重合体の用途〕
本開示の重合体は、各種用途に用いることができ、例えば、洗剤組成物、繊維処理剤、分散剤、凝集剤、スケール防止剤、キレート剤、漂白助剤、pH調整剤、水処理剤、過酸化物安定剤、セメント添加物、セメント混和剤、セメント組成物等種々の用途に好適に用いることができる。
【0080】
<水処理剤>
本開示の重合体は、水処理剤に用いることができる。該水処理剤には、必要に応じて、他の配合剤として、重合リン酸塩、ホスホン酸塩、防食剤、スライムコントロール剤、キレート剤を用いても良い。前記水処理剤は、冷却水循環系、ボイラー水循環系、海水淡水化装置、パルプ蒸解釜、黒液濃縮釜等でのスケール防止に有用である。また、性能、効果に影響しない範囲で、任意の適切な水溶性重合体を含んでもよい。
【0081】
<繊維処理剤>
本開示の重合体は、繊維処理剤に用いることができる。該繊維処理剤は、染色剤、過酸化物及び界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1つと、本開示の重合体を含む。前記繊維処理剤における本開示の重合体の含有量は、繊維処理剤全体に対して、好ましくは1~100質量%であり、より好ましくは5~100質量%である。また、性能、効果に影響しない範囲で、任意の適切な水溶性重合体を含んでいてもよい。以下に、より実施形態に近い、繊維処理剤の配合例を示す。この繊維処理剤は、繊維処理における精錬、染色、漂白、ソーピングの工程で使用することができる。染色剤、過酸化物及び界面活性剤としては繊維処理剤に通常使用されるものが挙げられる。
【0082】
本開示の重合体と、染色剤、過酸化物及び界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1つとの配合比率は、例えば、繊維の白色度、色むら、染色けんろう度の向上のためには、繊維処理剤純分換算で、本発明の重合体 1質量部に対して、染色剤、過酸化物及び界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを0.1~100質量部の割合で配合された組成物を繊維処理剤として用いることが好ましい。前記繊維処理剤を使用できる繊維としては、任意の適切な繊維を採用し得る。例えば、木綿、麻等のセルロース系繊維、ナイロン、ポリエステル等の化学繊維、羊毛、絹糸等の動物性繊維、人絹等の半合成繊維及びこれらの織物及び混紡品が挙げられる。前記繊維処理剤を精錬工程に適用する場合は、本開示の重合体、アルカリ剤及び界面活性剤を配合することが好ましい。漂白工程に適用する場合では、本開示の重合体と、過酸化物と、アルカリ性漂白剤の分解抑制剤としての珪酸ナトリウム等の珪酸系薬剤とを配合することが好ましい。
【0083】
<無機顔料分散剤>
本開示の重合体は、無機顔料分散剤に用いることができる。該無機顔料分散剤には、必要に応じて、他の配合剤として、縮合リン酸及びその塩、ホスホン酸及びその塩、ポリビニルアルコールを用いても良い。前記無機顔料分散剤中における、本開示の重合体の含有量は、無機顔料分散剤全体に対して、好ましくは5~100質量%である。また性能、効果に影響しない範囲で、任意の適切な溶性重合体を含んでいてもよい。前記無機顔料分散剤は、紙コーティングに用いられる重質ないしは軽質炭酸カルシウム、クレーの無機顔料の分散剤として良好な性能を発揮し得る。例えば、無機顔料分散剤を無機顔料に少量添加して水中に分散することにより、低粘度でしかも高流動性を有し、かつ、それらの性能の経日安定性が良好な、高濃度炭酸カルシウムスラリーのような高濃度無機顔料スラリーを製造することができる。前記無機顔料分散剤を無機顔料の分散剤として用いる場合、該無機顔料分散剤の使用量は、無機顔料100質量部に対して、0.05~2.0質量部が好ましい。該無機顔料分散剤の使用量が上記範囲内にあることによって、十分な分散効果を得ることが可能となり、添加量に見合った効果を得ることが可能となり、経済的にも有利となり得る。
【0084】
〔本開示の重合体を含む洗剤組成物〕
本開示の洗剤組成物は、本開示の重合体を必須成分として含む。本開示の洗剤組成物に含まれる本開示の重合体の含有量は特に限定されないが、優れた再汚染防止能を発揮しうるという観点からは、本開示の重合体の含有量は、本開示の洗剤組成物の全量に対して、0.1~15質量%含まれることが好ましい。より好ましくは0.3~10質量%であり、更に好ましくは0.5~5質量%である。
【0085】
洗剤用途で用いられる洗剤組成物には、通常、洗剤に用いられる界面活性剤や添加剤が含まれる。これらの界面活性剤や添加剤の具体的な形態は特に制限されず、洗剤分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。また、前記洗剤組成物は、粉末洗剤組成物であってもよいし、液体洗剤組成物であってもよい。
【0086】
界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群から選択される1種又は2種以上である。2種以上が併用される場合、アニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤との合計量は、界面活性剤の全量に対して50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上であり、特に好ましくは80質量%以上である。
【0087】
アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルケニルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、アルケニル硫酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸又はエステル塩、アルカンスルホン酸塩、飽和脂肪酸塩、不飽和脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルケニルエーテルカルボン酸塩、アミノ酸型界面活性剤、N-アシルアミノ酸型界面活性剤、アルキルリン酸エステル又はその塩、アルケニルリン酸エステル又はその塩等が好適である。これらのアニオン性界面活性剤におけるアルキル基、アルケニル基には、メチル基等のアルキル基が分岐していてもよい。
【0088】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、高級脂肪酸アルカノールアミド又はそのアルキレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグリコキシド、脂肪酸グリセリンモノエステル、アルキルアミンオキサイド等が好適である。これらのノニオン性界面活性剤におけるアルキル基、アルケニル基には、メチル基等のアルキル基が分岐していてもよい。
【0089】
カチオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩等が好適である。また、両性界面活性剤としては、カルボキシル型両性界面活性剤、スルホベタイン型両性界面活性剤等が好適である。これらのカチオン性界面活性剤、両性界面活性剤におけるアルキル基、アルケニル基は、メチル基等のアルキル基が分岐していてもよい。
【0090】
前記界面活性剤の配合割合は、通常、本開示の洗剤組成物の全量に対して10~60質量%であれば特に限定はなく、好ましくは15~50質量%であり、更に好ましくは20~45質量%であり、特に好ましくは25~40質量%である。界面活性剤の配合割合が少なすぎると、十分な洗浄力を発揮できなくなる虞があり、界面活性剤の配合割合が多すぎると、経済性が低下する虞がある。
【0091】
添加剤としては、アルカリビルダー、キレートビルダー、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の汚染物質の再沈着を防止するための再付着防止剤、ベンゾトリアゾールやエチレン-チオ尿素等の汚れ抑制剤、ソイルリリース剤、色移り防止剤、柔軟剤、pH調節のためのアルカリ性物質、香料、可溶化剤、蛍光剤、着色剤、起泡剤、泡安定剤、つや出し剤、殺菌剤、漂白剤、漂白助剤、酵素、染料、溶媒等が好適である。また、粉末洗剤組成物の場合にはゼオライトを配合することが好ましい。
【0092】
本開示の洗剤組成物は、本開示の重合体に加えて、他の洗剤ビルダーを含んでもよい。他の洗剤ビルダーとしては、特に制限されないが、例えば、炭酸塩、炭酸水素塩、珪酸塩などのアルカリビルダーや、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、ボウ硝、ニトリロトリ酢酸塩、エチレンジアミンテトラ酢酸塩、クエン酸塩、(メタ)アクリル酸の共重合体塩、アクリル酸-マレイン酸共重合体、フマル酸塩、ゼオライト等のキレートビルダー、カルボキシメチルセルロース等の多糖類のカルボキシル誘導体等が挙げられる。上記ビルダーに用いられる対塩としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、アンモニウム、アミン等が挙げられる。
【0093】
前記添加剤と他の洗剤用ビルダーの合計の配合割合は、通常、洗浄剤組成物100質量%に対して0.1~50質量%が好ましい。より好ましくは0.2~40質量%であり、更に好ましくは0.3~35質量%であり、特に好ましくは0.4~30質量%であり、最も好ましくは0.5~20質量%である。添加剤/他の洗剤ビルダーの配合割合が0.1質量%未満であると、十分な洗剤性能を発揮できなくなる虞があり、50質量%を超えると経済性が低下する虞がある。
【0094】
なお、前記洗剤組成物の概念には、家庭用洗剤の合成洗剤、繊維工業その他の工業用洗剤、硬質表面洗浄剤のほか、その成分の1つの働きを高めた漂白洗剤等の特定の用途にのみ用いられる洗剤も含まれる。
【0095】
本開示の洗剤組成物が液体洗剤組成物である場合、液体洗剤組成物に含まれる水分量は、通常、液体洗剤組成物の全量に対して0.1~75質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2~70質量%であり、更に好ましくは0.5~65質量%であり、更により好ましくは0.7~60質量%であり、特に好ましくは1~55質量%であり、最も好ましくは1.5~50質量%である。
【0096】
本開示の洗剤組成物が液体洗剤組成物である場合、当該洗剤組成物は、カオリン濁度が200mg/L以下であることが好ましく、より好ましくは150mg/L以下であり、更に好ましくは120mg/L以下であり、特に好ましくは100mg/L以下であり、最も好ましくは50mg/L以下である。
【0097】
また、本発明の重合体を洗剤ビルダーとして液体洗剤組成物に添加する場合としない場合とでのカオリン濁度の変化(差)は、500mg/L以下であることが好ましく、より好ましくは400mg/L以下であり、更に好ましくは300mg/L以下であり、特に好ましくは200mg/L以下であり、最も好ましくは100mg/L以下である。カオリン濁度の値としては、以下の手法により測定される値を採用するものとする。
【0098】
<カオリン濁度の測定方法>
厚さ10mmの50mm角セルに均一に攪拌した試料(液体洗剤)を仕込み、気泡を除いた後、日本電色工業株式会社製NDH2000(商品名、濁度計)を用いて25℃でのTubidity(カオリン濁度:mg/L)を測定する。
【0099】
本開示の洗浄剤組成物に配合することができる酵素としては、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ等が好適である。中でも、アルカリ洗浄液中で活性が高いプロテアーゼ、アルカリリパーゼ及びアルカリセルラーゼが好ましい。
【0100】
前記酵素の添加量は、洗浄剤組成物100質量%に対して5質量%以下であることが好ましい。5質量%を超えると、洗浄力の向上が見られなくなり、経済性が低下するおそれがある。
【0101】
本開示の洗剤組成物は、カルシウムイオンやマグネシウムイオンの濃度が高い硬水(例えば、100mg/L以上)の地域中で使用しても、塩の析出が少なく、優れた洗浄効果を有する。この効果は、洗剤組成物が、LASのようなアニオン界面活性剤を含む場合に特に顕著である。
【実施例0102】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0103】
<製造例1>
温度計、撹拌機を備えたガラス製反応容器にメトキシポリエチレングリコール183.77g(エチレンオキシド25モル品、日本触媒製)を秤量し、80℃に昇温した。その後、攪拌しながら無水コハク酸16.23g(富士フィルム和光純薬製)を3.25gずつ、5回に分けて添加した。6時間反応を継続した後、1H NMR測定により無水コハク酸が全量消費されたことを確認し、末端カルボキシル化メトキシポリエチレングリコール(1)を得た。
【0104】
<製造例2>
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えたガラス製反応容器に末端カルボキシル化メトキシポリエチレングリコール(1)を131.25g、メタクリル酸グリシジル16.02g(富士フイルム和光純薬製)、4-メトキシフェノール0.47g(富士フイルム和光純薬製)、トリエチルアミン7.60g(東京化成工業製)を仕込み、攪拌しながら100℃に昇温した。18時間後、反応液を取り出し、(1)へのメタクリル酸グリシジル付加物(2)を得た。
【0105】
<製造例3>
温度計、窒素導入管、還流冷却器、撹拌機を備えたガラス製反応容器に純水33.92gを仕込み、反応容器内を窒素置換したのち撹拌しながら50℃に昇温した。次いで撹拌下、50℃一定状態の重合反応系中に、(2)を27g、および純水27gからなるモノマー溶液(A);メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル3.00g(東京化成工業製)、酢酸1.09g(富士フイルム和光純薬製)、純水3.00gからなるモノマー溶液(B);3-メルカプトプロピオン酸(東京化成工業製)10%水溶液1.23gからなる連鎖移動剤水溶液;2,2‘-アゾビス[2-(2-イミダゾリン―2-イル)プロパン]二塩酸塩(和光純薬工業製、以下VA-044と称す)10%水溶液3.75gからなる開始剤水溶液の計4種類をそれぞれ別々の滴下ノズルより滴下した。
滴下開始時間に関して、モノマー溶液(A)、モノマー溶液(B)、連鎖移動剤水溶液、開始剤水溶液は同時に滴下を開始し、モノマー溶液と連鎖移動剤水溶液は180分間、開始剤水溶液を240分間滴下した。
全滴下終了後、さらに60分間反応溶液を50℃に保持して熟成し、重合を完結させ、重合体(1)を得た。得られた重合体の固形分は32.0%、重量平均分子量は50800であった。
【0106】
<製造例4>
温度計、窒素導入管、還流冷却器、撹拌機を備えたガラス製反応容器に純水30.66gを仕込み、反応容器内を窒素置換したのち撹拌しながら50℃に昇温した。次いで撹拌下、50℃一定状態の重合反応系中に、(2)を24g、および純水24gからなるモノマー溶液(A);メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル6.00g(東京化成工業製)、酢酸2.18g(富士フイルム和光純薬製)、純水6.00gからなるモノマー溶液(B);3-メルカプトプロピオン酸(東京化成工業製)10%水溶液1.77gからなる連鎖移動剤水溶液;VA-044の10%水溶液5.39gからなる開始剤水溶液の計4種類をそれぞれ別々の滴下ノズルより滴下した。
滴下開始時間に関して、モノマー溶液(A)、モノマー溶液(B)、連鎖移動剤水溶液、開始剤水溶液は同時に滴下を開始し、モノマー溶液と連鎖移動剤水溶液は180分間、開始剤水溶液を240分間滴下した。
全滴下終了後、さらに60分間反応溶液を50℃に保持して熟成し、重合を完結させ、重合体(2)を得た。得られた重合体の固形分は32.9%、重量平均分子量は59700であった。
【0107】
<固形分測定>
得られた重合体水溶液の固形分測定は以下の方法で行った。
重合体水溶液をアルミカップへ約1g秤量し、130℃に加温したオーブンの中に入れて2時間乾燥した。乾燥後のアルミカップを秤量し、乾燥後重量として固形分を算出した。
[数式]
固形分(%)=(乾燥後重量-アルミカップ空重量)/ 重合体水溶液秤量値 ×100
【0108】
<再汚染防止能の測定>
下記の洗浄工程、すすぎ工程、乾燥工程をこの順序で行い、布への再汚染防止能を測定した。
洗浄工程:
被洗物として、下記の綿布2種類を用いた。
綿布(1):再汚染判定布として綿メリヤス(谷頭商店製)5cm×5cmを5枚用意した。
綿布(2):Testfabrics社より入手した綿布を綿布(1)と合わせて30gになるように用意した。
界面活性剤として、3%LAS水溶液と、さらに製造例により得られた共重合体について、0.1質量%水溶液を用意した。
Tergot-o-meter(大栄科学社製、製品名:TM-4)内に、25℃の15°DH硬水(塩化カルシウム及び塩化マグネシウムで調製。Ca/Mg=3(質量比))900mL、上記3%LAS水溶液7.5g、上記重合体(1)~(5)の0.1%水溶液を7.5g、並漉赤土を0.9g、綿布(1)及び(2)を投入した。その後撹拌速度120rpm、25℃で10分間洗浄を行った。
すすぎ工程:
洗浄工程後の被洗物を、1.5分間脱水した後、25℃の15°DH硬水900mLを入れ、120rpm、25℃で3分間すすいだ。この操作(脱水およびすすぎ)を2回繰り返した。
乾燥工程:
すすぎ工程後の被洗物と泥汚染布を1.5分間脱水した後、綿布(1)のみ取り出し、綿布で挟み、アイロンで乾燥した。
上記洗濯処理を行った綿布(1)及び洗濯処理前の綿布(1)について、反射率計(分光式色差計、日本電色工業株式会社製、製品名:SE6000)を用い、反射率(Z値)を測定し、下記式より再汚染防止率を求めた。
再汚染防止率=(洗濯処理を行った後の綿布(1)のZ値)/(洗濯処理前の綿布(1)のZ値)×100
上記洗濯処理後の綿布(1)の再汚染防止率を表1に示した。
この手順を繰り返すことで、繰り返し洗浄における再汚染防止性能を測定することもできる。
【0109】
<生分解性試験>
得られた重合体の生分解性試験をOECD301Fに則り実施した。
培地の作製:
培地原液A~D液を下記方法により調製した。
A液;リン酸二水素カリウム(KH2PO4)0.850g、リン酸水素二カリウム(K2HPO4)2.175g、リン酸水素二ナトリウム・12水和物(Na2HPO4・12H2O)6.7217g、塩化アンモニウム(NH4Cl)0.050gを50mlサンプル瓶に計量し、適量の水に溶解して100mlメスフラスコに移した後、標線まで水を加えた。
B液;塩化カルシウム・2水和物(CaCl2・2H2O)3.640gを適量の水に溶解して100mlメスフラスコに移した後、標線まで水を加えた。
C液;硫酸マグネシウム・7水和物(MgSO4・7H2O)2.250gを適量の水に溶解して100mlメスフラスコに移した後、標線まで水を加えた。
D液;塩化鉄(III)・6水和物(FeCl3・6H2O)0.025gを適量の水に溶解して100mlメスフラスコに移した後、標線まで水を加えた。
上記の培地原液A~Dを25℃に調温し、1LメスフラスコにAをホールピペットで10ml入れ、水およそ800mlで希釈した。その後、B、C、Dをホールピペットで各1mlずつ加え、25℃に調温した水で標線まで希釈した。上記培地を試験に必要な量に合わせて複数個分を作製した。作製した培地を5Lビーカーに移して混合し、撹拌しながら1時間以上バブリングを行った。
汚泥溶液の作製:
生分解性試験に使用する汚泥は南吹田下水処理場から入手した。まず、下記の方法で入手した汚泥の濃度を測定した。入手した汚泥を撹拌しながらバブリングを行い、ホールピペットを用いて5mlとり、ろ紙を用いて吸引ろ過した。このようにして汚泥を採取したろ紙を5枚用意し、乾燥機にて105℃で1時間乾燥させた後、その5枚の平均の重量減少によって汚泥の濃度を算出した。この汚泥を上記で作製した培地によって希釈し、1000ppmの汚泥溶液を作製した。
重合体水溶液の作製:
製造例(1)によって得られた重合体(1)を純水で希釈し、2質量%の重合体水溶液を得た。また標準物質として、安息香酸ナトリウムを純水で希釈し、2質量%の安息香酸ナトリウム水溶液を得た。
BOD試験:
BODの測定には圧力センサー式BOD測定器を用いた。ふらん瓶に上記で調製した培地を144.75gはかりとった後、2%重合体水溶液0.75gを加えた。なお、ブランク測定用には純水を0.75g、標準物質測定用には2%安息香酸ナトリウム水溶液0.75gを加えた。その後溶液のpHを測定し、溶液のpHの値が7.4±0.2となるように、0.1M塩酸水溶液でpHの調整を行った。その後、1000ppm汚泥溶液を4.5ml入れて試験液とした。ふらん瓶に撹拌子を入れた後、CO2吸収剤ホルダーにCO2吸収剤(ヤバシライム)を1.8g入れて、セットしBODセンサーを取り付けた。BODセンサーを取り付けた、ふらん瓶を24℃の恒温槽中で撹拌し、圧力センサーからBODの値を算出した。
分解率の算出:
重合体の理論的酸素要求量(ppm)を算出し、ブランク測定のBOD値とポリアルキレンオキシド含有化合物を用いて測定したBOD値の差から分解率を算出した。試験開始28日後の分解率を生分解率とした。
共重合体の分解率は表1に示した。
[数式]
分解率(%)=(重合体由来の生物化学的酸素消費量)/(重合体の理論酸素要求量)×100
【0110】