(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181591
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】交流-直流電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/12 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
H02M7/12 A
H02M7/12 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094801
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】宮本 恭昌
(72)【発明者】
【氏名】光田 純
【テーマコード(参考)】
5H006
【Fターム(参考)】
5H006AA05
5H006BB01
5H006CA01
5H006CB01
5H006DA02
5H006DB01
5H006DC02
5H006FA02
(57)【要約】
【課題】交流電圧低下時の電流量増加を防止することができる交流-直流電力変換装置を提供する。
【解決手段】回生機能を有し、複数の半導体スイッチングデバイスR+,S+,T+,R-,S-,T-によって交流電源1の交流電力を直流電力に変換する交流-直流電力変換装置において、設定電流以上のときに前記半導体スイッチングデバイスの導通幅を狭めるように設定した電流対導通幅特性を用いて、前記交流電源1の電流を検出し実効値を演算した検出電流実効値に対応する導通幅を求め、該求められた導通幅の120度通流方式のスイッチングパターンを決定する電流-スイッチングパターン演算器21を備え、前記決定されたスイッチングパターンで前記半導体スイッチングデバイスを駆動する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回生機能を有し、複数の半導体スイッチングデバイスによって交流電源の交流電力を直流電力に変換する交流-直流電力変換装置において、
設定電流以上のときに前記半導体スイッチングデバイスの導通幅を狭めるように設定した電流対導通幅特性を用いて、前記交流電源の電流を検出し実効値を演算した検出電流実効値に対応する導通幅を求め、該求められた導通幅の120度通流方式のスイッチングパターンを決定するスイッチングパターン演算部を備え、
前記決定されたスイッチングパターンで前記半導体スイッチングデバイスを駆動することを特徴とする交流-直流電力変換装置。
【請求項2】
回生機能を有し、複数の半導体スイッチングデバイスによって交流電源の交流電力を直流電力に変換する交流-直流電力変換装置において、
前記交流-直流電力変換装置の、直流電圧を検出した電圧と、交流電圧を検出し実効値演算した電圧との差電圧が設定電圧以上のときに前記半導体スイッチングデバイスの導通幅を狭めるように設定した差電圧対導通幅特性を用いて、前記差電圧に対応する導通幅を求め、該求められた導通幅の120度通流方式のスイッチングパターンを決定するスイッチングパターン演算部を備え、
前記決定されたスイッチングパターンで前記半導体スイッチングデバイスを駆動することを特徴とする交流-直流電力変換装置。
【請求項3】
前記スイッチングパターン演算部は、
前記差電圧に対応する推定電流を設定した電流推定パターンと、負荷電力および電源インピーダンス調整係数とに基づいて電流推定値を演算する電流推定演算器と、
前記演算された電流推定値が、設定した通流幅変更開始点電流以上のときに前記半導体スイッチングデバイスの導通幅を狭めるように設定した電流対導通幅特性を用いて、前記電流推定値に対応する導通幅を求め、該求められた導通幅の120度通流方式のスイッチングパターンを決定する電流-スイッチングパターンン演算器と、
を備えていることを特徴とする請求項2に記載の交流-直流電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回生機能を有する交流-直流電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明で取り扱う電力変換装置の回路例を
図1に示す。
図1において2は、半導体スイッチングデバイスR+,S+,T+,R-,S-,T-を三相ブリッジ接続して構成され、図示省略の交流電源(1)の交流電力を直流電力に変換する順電力変換部である。
【0003】
順電力変換部2の直流側には、平滑コンデンサ3および負荷4が並列に接続されている。
【0004】
図1の回路は、力行動作、回生動作がともに可能な回路であり、半導体スイッチングデバイスR+,S+,T+,R-,S-,T-を任意のタイミングでスイッチングすることで交流部と直流部間の電力の調整や、交流部の電流波形、直流部の電圧波形を任意に調整することができる。
【0005】
本回路の半導体スイッチングデバイスR+,S+,T+,R-,S-,T-のスイッチングパターンを決定する方法として120度通流方式というものがある。
図2に120度通流方式のスイッチングパターンを示す。上アームR+,S+,T+は各相電圧が最大となる相の半導体スイッチングデバイスをONし、下アームR-,S-,T-は各相電圧が最小となる相の半導体スイッチングデバイスをONする。
【0006】
尚、従来、電力変換装置のPWM制御方式は、例えば特許文献1に記載のものが提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記120度通流方式は半導体スイッチングデバイスに発生する損失が少ないこと、制御回路が簡易である利点がある一方、電力量の調整ができない、交流部の電流波形、直流部の電圧波形を任意に制御できないという欠点がある。
【0009】
特に波形を任意に制御できないことから、負荷電力一定の条件下での交流電圧低下発生時には、入力電圧低下時の挙動を示す
図3のように、直流部から交流部に過大な電流が流れることとなる。この時の電流増加量が装置を安全に駆動することができないレベルとなる場合、装置を停止させる必要があるため、装置の安定性を下げる要因となっている。
【0010】
本現象は例えば特許文献1のPWM制御方式とすることで回避することが可能であるが、半導体スイッチングデバイスの発生損失が大きくなること、制御回路が複雑となることから容易にPWM制御方式にできないケースがあり、同一スイッチング回数、簡易的な制御回路で実現可能な方法が求められる。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、交流電圧低下時の電流量増加を防止することができる交流-直流電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための請求項1に記載の交流-直流電力変換装置は、
回生機能を有し、複数の半導体スイッチングデバイスによって交流電源の交流電力を直流電力に変換する交流-直流電力変換装置において、
設定電流以上のときに前記半導体スイッチングデバイスの導通幅を狭めるように設定した電流対導通幅特性を用いて、前記交流電源の電流を検出し実効値を演算した検出電流実効値に対応する導通幅を求め、該求められた導通幅の120度通流方式のスイッチングパターンを決定するスイッチングパターン演算部を備え、
前記決定されたスイッチングパターンで前記半導体スイッチングデバイスを駆動することを特徴としている。
【0013】
請求項2に記載の交流-直流電力変換装置は、
回生機能を有し、複数の半導体スイッチングデバイスによって交流電源の交流電力を直流電力に変換する交流-直流電力変換装置において、
前記交流-直流電力変換装置の、直流電圧を検出した電圧と、交流電圧を検出し実効値演算した電圧との差電圧が設定電圧以上のときに前記半導体スイッチングデバイスの導通幅を狭めるように設定した差電圧対導通幅特性を用いて、前記差電圧に対応する導通幅を求め、該求められた導通幅の120度通流方式のスイッチングパターンを決定するスイッチングパターン演算部を備え、
前記決定されたスイッチングパターンで前記半導体スイッチングデバイスを駆動することを特徴としている。
【0014】
請求項3に記載の交流-直流電力変換装置は、請求項2において、
前記スイッチングパターン演算部は、
前記差電圧に対応する推定電流を設定した電流推定パターンと、負荷電力および電源インピーダンス調整係数とに基づいて電流推定値を演算する電流推定演算器と、
前記演算された電流推定値が、設定した通流幅変更開始点電流以上のときに前記半導体スイッチングデバイスの導通幅を狭めるように設定した電流対導通幅特性を用いて、前記電流推定値に対応する導通幅を求め、該求められた導通幅の120度通流方式のスイッチングパターンを決定する電流-スイッチングパターンン演算器と、
を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
(1)請求項1~3に記載の発明によれば、交流電圧低下時の電流量増加を防止し不要な装置停止を防止することができ、安定性が向上する。
(2)請求項1に記載の発明によれば、検出電流に基づいて導通幅を決定しているので、直接的に電流量を調整することができる。
(3)請求項2に記載の発明によれば、非常に簡易的にシステムを組むことができる。
(4)請求項2、3に記載の発明によれば、電流検出を行うことなくスイッチングパターンを決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】従来の120度通流方式のスイッチングパターンの説明図。
【
図3】電力変換装置における入力電圧低下時の電流の挙動を示す説明図。
【
図4】本発明の実施形態例によるスイッチング動作を表し、(a)は通常時のスイッチングパターンの説明図、(b)は交流電圧低下時のスイッチングパターンの説明図。
【
図5】本発明による過大電流抑制効果を表し、(a)は通常のスイッチングパターン時の電流の挙動を示す説明図、(b)は本実施形態例のスイッチングパターン時の電流の挙動を示す説明図。
【
図7】本発明の実施例1で用いる電流対導通幅特性の説明図。
【
図9】本発明の実施例2で用いる電流推定パターンの説明図。
【
図10】本発明の実施例2における電流推定演算器の構成図。
【
図12】本発明の実施例3で用いる差電圧対導通幅特性の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。本実施形態例では、回生機能を有する、例えば
図1の電力変換装置において、電源電圧変動時、特に交流電圧低下時に過大な電流が流れることを抑制し動作を継続可能とすることで、装置としての安定性向上を図った。
【0018】
図4に、本実施形態例によるスイッチング動作を示す。
図4(a)は通常時の120度通流方式のスイッチングパターンであり、
図4(b)は交流電圧低下時の120度通流方式のスイッチングパターンである。
【0019】
交流電圧が正常範囲内である場合は
図4(a)に示す、
図2と同様の120度通流方式のスイッチングを行うが、交流電圧低下時には各半導体スイッチングデバイスの導通幅を
図4(b)のように狭めることで過大な電流が流れることを抑制する(この保護動作時は、交流電源から負荷に供給する電力を抑制する)。
【0020】
すなわち、
図4(b)では、上アームR+のON期間を、最大電圧がT相からR相に切り換わる時刻t1よりも所定時間遅い時刻t1’から、最大電圧がR相からS相に切り換わる時刻t3よりも所定時間早い時刻t2”までの期間としている。
【0021】
また上アームS+のON期間を、最大電圧がR相からS相に切り換わる時刻t3よりも所定時間遅い時刻t3’から、最大電圧がS相からT相に切り換わる時刻t5よりも所定時間早い時刻t4”までの期間としている。
【0022】
また上アームT+のON期間を、最大電圧がS相からT相に切り換わる時刻t5よりも所定時間遅い時刻t5’から、最大電圧がT相からR相に切り換わる時刻よりも所定時間早い時刻(図示省略)までの期間としている。
【0023】
また、下アームS-のON期間を、最小電圧がR相からS相に切り換わる時刻よりも所定時間遅い時刻(図示省略)から、最小電圧がS相からT相に切り換わる時刻t2よりも所定時間早い時刻t1”までの期間としている。
【0024】
また下アームT-のON期間を、最小電圧がS相からT相に切り換わる時刻t2よりも所定時間遅い時刻t2’から、最小電圧がT相からR相に切り換わる時刻t4よりも所定時間早い時刻t3”までの期間としている。
【0025】
また下アームR-のON期間を、最小電圧がT相からR相に切り換わる時刻t4よりも所定時間遅い時刻t4’から、最小電圧がR相からS相に切り換わる時刻t6よりも所定時間早い時刻t5”までの期間としている。
【0026】
したがって、
図4(b)における各半導体スイッチングデバイスの導通幅とは、上アームのスイッチングパターンがONで、且つ下アームの他相のスイッチングパターンがONである期間である(つまり
図4(b)中の斜線の期間は含まない)。
【0027】
このように交流電圧低下時に各半導体スイッチングデバイスの導通幅を狭めることで、電圧低下時の電流挙動を示す
図5(b)のように、過大な電流が流れることは抑制される。尚、
図5(a)は、通常のスイッチングパターンで制御した場合の電流挙動を示し、電圧低下時に過大電流が発生している。
【実施例0028】
図6に実施例1の制御ブロック図を示す。本実施例1では、交流部の電流値を検出し、電流実効値を演算する。この演算結果を元に導通幅を決定し、スイッチングパターンを決定するように構成した。本方式は電流検出を用いるため、直接的に電流量を調整することができるが、電流検出器が必要となるため、電流検出回路を既に有するシステムにおいて有効な手法である。
【0029】
図6において
図1と同一部分は同一符号をもって示している。11は交流電源1の三相交流電流を検出する電流検出器であり、例えば各相に設けた変流器で構成されている。
【0030】
12は、電流検出器11の検出出力から電流検出値を得て出力する電流検出回路である。13は、電流検出回路12からの電流検出値の実効値を演算する電流実効値演算器である。
【0031】
21は、設定電流以上のときに半導体スイッチングデバイスの導通幅を狭めるように設定した入力電流対導通幅特性を用いて、電流実効値演算器13で演算された電流実効値に対応する導通幅を求め、該求められた導通幅の120度通流方式のスイッチングパターン(例えば
図4(b))を決定する電流-スイッチングパターン演算器(スイッチングパターン演算部)である。
【0032】
30は、電流-スイッチングパターン演算器21で決定されたスイッチングパターンで順電力変換部2の各半導体スイッチングデバイスを駆動する半導体スイッチングデバイス駆動回路である。
【0033】
前記電流-スイッチングパターン演算器21で用いる入力電流対導通幅特性の一例を
図7に示す。
図7において、電流検出値(電流実効値)が装置の定格電流以内である期間では、通常の120度の導通幅である。
【0034】
通流幅変更開始点は装置の定格電流以上に設定し、導通幅が0°となる点は装置の最大許容電流値に対して保護用マージンだけ下げた箇所(最大許容電流に到達しない、保護用マージン分だけ小さい電流値)に設定している。
【0035】
このように設定することで、交流電圧低下時の電流増加を抑制すると同時に、装置最大許容電流に達することなく装置を連続運転することができる。
【0036】
尚、
図7の例では、通流幅変更開始点から導通幅0°となるまでの期間において直線的に導通幅を減少させているが、直線的減少に限るものではない。
実施例2の構成では交流部の電流値を検出できないシステムであるため、電流値を推定する必要がある。しかし、電流値を推定するためには、負荷の状況、装置設置場所の電源環境(電源インピーダンス、電圧値)それぞれに影響を受けるため推定が容易ではない。