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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181598
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】耐火壁
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
E04B1/94 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094811
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 正寿
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA03
2E001GA12
2E001HA01
2E001HA03
2E001HC02
(57)【要約】
【課題】構造が簡単で延焼を防止できる耐火性に優れた木質系の耐火壁材を開発する。
【解決手段】耐火材からなる耐火層を中心層とし、その両面に壁支持部となる木質層を設けた耐火壁材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火材からなる耐火層を中心層とし、その両面に壁支持部となる木質層を設けた耐火壁材。
【請求項2】
耐火材と木質材は、線状材で固定されており、線状材は木質層では埋設されていることを特徴とする請求項1記載の耐火壁材。
【請求項3】
片側の木質層のそれぞれが別の線状材で耐火材と結合されていることを特徴とする請求項2記載の耐火壁材。
【請求項4】
耐火材が、複数枚積層された乾式耐火板材又は無機系充填材の硬化層で形成されていることを特徴とする請求項1記載の耐火壁材。
【請求項5】
請求項1又は2に記載された耐火壁材が、架構に接合された耐火壁構造であって、
木質材のそれぞれが架構を形成する梁部材及び/又は柱部材に接合されていることを特徴とする耐火壁構造。
【請求項6】
梁部材及び/又は柱部材がH型鋼であり、
木質材のそれぞれが当該H型鋼のフランジに線状材で接合されていることを特徴とする請求項5記載の耐火壁構造。
【請求項7】
両側に設けられた木質材は、それぞれが荷重支持部であることを特徴とする請求項6記載の耐火壁構造。
【請求項8】
木質板材と耐火材を耐火材側から線状材を先端が木質板材内にとどまるように挿通して両者を固定して、片側の耐火壁材を2枚形成し、
2枚の片側の耐火壁材の木質系板材同士を接着剤で接合して、中心層に2枚の耐火材とその両側に壁支持部となる木質層が設けられた請求項2に記載された耐火壁材を製造する方法。
【請求項9】
2枚の木質板材の片面に頭を浮かし、かつ、先端が木質板材内にとどまるように線状材を挿通し、
線状材の頭側同士を隙間を置いて木質板材を対向配置し、
該隙間に流動性無機系充填材を充填し、
無機系充填材を硬化させて、
中心層が無機系充填材の硬化層で形成され、その両面に木質材が設けられている請求項4に記載された耐火壁材を製造する方法。
【請求項10】
建物の架構と請求項1に記載された耐火壁材の両側に設けられている木質層のそれぞれとを、木質層の厚さ方向に線状材を挿入して、接合して、耐火壁構造を施工する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火技術に関する。例えば、集合住宅の住戸間などに設ける耐火性の木質系の構造壁に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、なじみがある素材であって、古来より住宅などの建築に利用されてきており、戦後造林された森林資源も充実してきている。建築物への木材利用は、森林サイクルの維持、二酸化炭素対策としても注目されている。壁材への木材利用は、面積が広いことから使用量(CO2固定量)を多くできるうえに、木材のもつ意匠性も発揮できる。
しかし、耐火性が求められる壁(防火区画など)では、可燃性材料である木材は耐火性に難があるので、不燃材である鉄筋コンクリート製の壁の表面に仕上げとして、木材を利用する程度の使用が多い。
近頃、荷重支持部となる分厚い木材の表面側に耐火層を設け、その表面に木材を張って、木材の使用比率を大きくした構造材や壁材も提案されている。
【0003】
可燃性対策に関する従来の提案をいくつか紹介する。
特許文献1(国際公開第2005/019551号)には、水平に配置された土台10(または基礎)に載せられた複数枚の木質壁単体20であって壁面と垂直方向において燃え代耐火厚以上の厚さを有する木質壁単体20と、木質壁単体を土台10に固定する下固定部材100と、木質壁単体同士を連結し、木質壁単体同士の相対的な上下動と壁面と垂直方向への移動とを防止する連結部材100と、木質壁単体同士の連結部における対向面22、23において上下方向全長に亘って設けられ、対向面間を気密に維持する気密手段50と、木質壁単体の上方に配置された横架材60に木質壁単体を固定する上固定部材100’とを備えた木材からなる壁構造が開示されている。この発明は、燃え残るように分厚い木質層を形成する発明である。
特許文献2(特開2019-90270号公報)には、木製の荷重支持層34と、荷重支持層の外側に設けられた耐火性を有する被覆層36とを備えた第1耐火木質板部材30と、木製の荷重支持層42と、荷重支持層の外側に設けられた耐火性を有する被覆層44とを備え、第1耐火木質板部材と間隔をあけて対向配置された第2耐火木質板部材32と、を有する壁構造が開示されている。この壁構造は、荷重支持層の両外面に耐火層を設け、その外側に耐火木質部材を設ける構造である。
特許文献3(特開2007-39915号公報)には、木質材料で構成された木質下地11の両面に取り付けられた2枚の石膏ボードであって、石膏ボードの間にアルミ層が設けられた間仕切り壁が開示されている。
特許文献4(特開2008-238421号公報)には、石膏ボードに木質繊維板を実加工部が形成されるように取り付けた耐火性建築用板材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/019551号
【特許文献2】特開2019-90270号公報
【特許文献3】特開2007-39915号公報
【特許文献4】特開2008-238421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、構造が簡単で延焼を防止できる耐火性に優れた木質系の耐火壁材を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
耐火層を中心層とし、その両側にそれぞれ壁支持部となる木質層を設けた木質系の耐火壁材である。
1.耐火材からなる耐火層を中心層とし、その両面に壁支持部となる木質層を設けた耐火壁材。
2.耐火材と木質材は、線状材で固定されており、線状材は木質層では埋設されていることを特徴とする1.記載の耐火壁材。
3.片側の木質層のそれぞれが別の線状材で耐火材と結合されていることを特徴とする2.記載の耐火壁材。
4.耐火材が、複数枚積層された乾式耐火板材又は無機系充填材の硬化層で形成されていることを特徴とする1.記載の耐火壁材。
5.1.又は2.に記載された耐火壁材が、架構に接合された耐火壁構造であって、
木質材のそれぞれが架構を形成する梁部材及び/又は柱部材に接合されていることを特徴とする耐火壁構造。
6.梁部材及び/又は柱部材がH型鋼であり、
木質材のそれぞれが当該H型鋼のフランジに線状材で接合されていることを特徴とする5.記載の耐火壁構造。
7.両側に設けられた木質材は、それぞれが荷重支持部であることを特徴とする6.記載の耐火壁構造。
8.木質板材と耐火材を耐火材側から線状材を先端が木質板材内にとどまるように挿通して両者を固定して、片側の耐火壁材を2枚形成し、
2枚の片側の耐火壁材の木質系板材同士を接着剤で接合して、中心層に2枚の耐火材とその両側に壁支持部となる木質層が設けられた2.に記載された耐火壁材を製造する方法。
9.2枚の木質板材の片面に頭を浮かし、かつ、先端が木質板材内にとどまるように線状材を挿通し、
線状材の頭側同士を隙間を置いて木質板材を対向配置し、
該隙間に流動性無機系充填材を充填し、
無機系充填材を硬化させて、
中心層が無機系充填材の硬化層で形成され、その両面に木質材が設けられている4.に記載された耐火壁材を製造する方法。
10.建物の架構と1.に記載された耐火壁材の両側に設けられている木質層のそれぞれとを、木質層の厚さ方向に線状材を挿入して、接合して、耐火壁構造を施工する方法。
【発明の効果】
【0007】
1.中心層に耐火材、その両面にそれぞれが壁支持部となる木質層を設けた壁材を形成することにより、構造が簡単で、片面の木質層が被災しても、片側の木質層が柱や梁に支持しているので遮蔽する壁として残存することができる。特に、住戸の境の壁材として、隣室間の延焼防止性に優れた壁材となり、木質系の高層の建物、集合住宅に適している。耐火壁材は、耐火性に優れており、構造壁材、耐力壁材、耐震壁材など建物用の壁材などに使用できる。
2.木質材は壁を支持できる厚さを備えているので燃代層となるが、他面側の十分な厚さを有することになるので、燃え残り部分には炭化層ができ、断熱性を発揮するので、中心の耐火層を保護し、耐火性の向上となる。
3.木質層と耐火材とは線状材で固定されているので、火災にあっても、木質層は耐火材から脱落しないので、耐火材の保護機能を発揮する。また、厚さのある木質材は、固定用の線状材を木質内部に納めることができるので、線状材から火災の熱が内部に伝播することを防止できる。
木質層と耐火材との線状材による結合は、(a)耐火材と片面の木質層を線状材で結合した場合、線状材を介して、他面側に熱を伝えない機能、(b)両側の木質層に挿通する線状材は、両面が分離することを防止する機能を有している。
耐火板を用いた場合、間に接着剤あるいは金属板を介在させて、被災時に耐火板が分離して脱落することを防止して、非火災側の耐火力を維持させることができる。
4.木質層は、梁や柱に支持することができる厚みのある層であって、木板材、集成材、CLT、合板など木質材を用いることができる。これらの木質材で、構造材を形成し、そのまま現しとすることができる。また、表面に化粧材を貼ることもできる。
5.耐火材は、石膏ボードなどの板材、流動性の石膏やモルタルなどの水硬性無機材を中心層部分に充填して硬化させて形成した充填材とすることができる。石膏ボードなどは、基準の耐火用に、一定の厚みに形成されているので、必要な枚数を用いることができる。充填材は、必要な任意の厚さと湾曲などの任意の形状に形成することができる。充填形成した耐火層は、木質層との密着がよく、炭化した木質層の剥離に強く、耐火機能を向上させることができる。また、目地を作る必要がないので、目地部を通した熱の伝播を防止できる。
金属板や難燃処理木材を耐火層に加えることもできる。
6.本発明の壁構造は、両面に設けられた木質層のそれぞれと梁や柱などを接合しているので、一方の木質層が焼失しても、片側の接合だけで十分に壁構造を維持できる。
本発明の耐火壁材は、工場などで製造して、建築現場に搬入することができるので、鉄筋コンクリート壁よりも、軽量であり、施工性に優れている。
7.柱や梁をH型鋼とした場合、両側の木質層とH形鋼のフランジを連結することができ、罹災後に片方の木質層の連結が残り、耐火壁の機能を発揮することができる。
上の梁材のフランジと木質系の耐火壁材の間に、モルタルや石膏などの無機系耐火剤を介在させることにより、間に火災の熱が入り込むことを防止する。下方は床スラブにより防止できる。なお、H型鋼製の梁材には耐火被覆など必要な耐火処理が施される。
8.耐火材と木質層材との組み合わせは、片面ごとに選択することができる。左右の室内の意匠性を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】木質系の耐火壁材の断面例を示す図
図2-1】木質系の耐火壁構造の例を示す図
図2-2】木質系の耐火壁構造の断面例を示す図
図3】木質系の耐火壁材の製造方法を示す図
図4】木質系の耐火壁材の他の製造方法を示す図
図5】木質系の耐火壁材の種類を示す図
図6】火災時の状況を示す図
図7】特許文献2の従来例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、木質系の耐火壁に関する発明である。耐火層を中心層とし、その両側にそれぞれ壁支持部となる木質層を設けた木質系の耐火壁材である。
中心層に耐火材、その両外側にそれぞれ壁支持部となる木質層を設けた壁材を形成することにより、構造が簡単で、片面の木質層が被災しても、反対側の片面の木質層で支持できるので耐火壁構造として機能を十分に果たすことができる。特に、住戸の境の壁材として、隣室間の延焼防止性に優れた壁材となり、木質系の高層の建物、集合住宅に適している。本発明は、耐火性に優れた、耐火壁材、構造壁材、耐力壁材を形成することができ、これらの壁材を用いて建物の耐火壁構造を構築することができる。
【0010】
図1に木質系の耐火壁材の断面の例を示す。
2枚の木質系板材1a、1bの内側に、耐火材2が積層されており、断面を貫通して線状材32で一体化されて耐火壁材100が形成されている。線状材32はボルトとナット、ビス等である。部分拡大図を(b)に示す。木質系板材1a、1bに耐火材2a、2bがビスや釘などからなる線状材31で固定されて左右の耐火壁材100a、100bが形成されており、この左右の耐火壁材100a、100bを接着剤35で接着している。この部分拡大図には図示されていない線状材32を貫通させて、強固に一体化した耐火壁材100が形成されている。
線状材31は、一方の耐火材から木質系板材に向けてビスなどを挿通し、先端は木材の内部にとどめている。線状材32は、耐火壁材に貫通孔を設けて、ボルト・ナットなどで両側の木質系板材を固定している。この場合は、ボルト・ナットは木材の内部に納め、穴は塞ぎ材で栓をする。この線状材31、32の処置は、線状材を通して、火災時に熱が内部に伝導しないようにしている。
【0011】
この例は、石膏ボードなどの乾式の耐火材とCLTなどの木材を組み合わせた例である。
耐火材として、流動性の石膏などを充填、硬化させて形成することもできる。
また、この例では、耐火材2a、2bが剥離しないように耐熱性の接着剤層を設けている。但し、断熱や遮音性を高めるために薄い空間層を設けることもできる。
壁支持部となる木質系板材は、そのまま壁の表面とすることもできるし、更に、仕上げ材を設けることもできる。
【0012】
<木質壁支持部>
壁支持部は、建物の柱梁架構に支持をとって接合する部分であって、両側の木質層それぞれを独立した支持部としている。壁支持部は、架構とボルトなどで結合するので、十分な厚みが必要となり、集成材、CLT、厚物合板、挽板などを用いる。
厚みのある材料が両面にあるので、耐火性を発揮する燃え代層、荷重支持、耐力壁、耐震壁などの機能を持たせることができる。
本発明では、片側の木質層が焼失しても、耐火材が耐火性を発揮して、他面側が残り、他面の木質層と柱や梁を接合しているので、耐火壁機能を発揮し、他面側への延焼は防止される。
木材は、原木ごとにばらつきがあるので、木質層として一定の強度に揃えるには集成材が適している。集成材は、太さと長さも設計できる。本発明において集成材には、CLT(Cross Laminated Timber)、LVL(単板積層材)も含まれる。
集成材からなる木質壁支持部は、建物躯体(例えば、屋根、梁、柱、壁、床等)に支持することが可能な幅と厚みを実現することができ、長い壁材として使用できる。柱や梁として用いる構造材の形状の意匠設計は自由である。
使用する木材は、杉、松、カラマツ、桧、栂、米桧、米松など建築用に用いられている針葉樹、さらに、ケヤキやブナなどの広葉樹も利用することができる。
木材の炭化速度は、一般的に0.6mm/分といわれ、1時間では36mm焼失し、2時間では、少なくとも72mmが焼失することになる。この燃焼速度を利用して耐火性に活用することができる。本発明の耐火壁材は、耐火層が中心層にあるので、一面側の木質層が燃代層となっても火災は耐火層で遮られて、残った片側の壁支持部で荷重を支えることができるので、壁の崩壊を防止できる。仮に、片側の木質層の厚みが72mm未満であっても、十分に2時間耐火を実現できる。
あるいは、石膏ボードなどの耐火材は所定の耐火性能を発揮するが、本発明では、厚さのある木質壁支持部が炭化して耐火性を発揮するので、耐火材は露出せずに高い耐火性能を維持できる。
【0013】
<耐火層>
耐火層は、耐火材で形成される。
耐火材は、不燃材である無機系材料を使用する。石膏、モルタル、コンクリートなどを主成分とする材料を使用することができる。石膏やモルタル、コンクリートは不燃材で断熱性がある材料であり、結晶水などの水分を内包しているので熱に曝露した場合、水分が蒸発して、昇温が抑制されて、木質系の壁支持部の加温を抑えることができる。
これらの材料は乾式材、湿式材を使用することができる。
乾式材は、石膏ボードなどである。
湿式材は、流動性のある石膏やモルタルなどであって、間隔をあけて配置した木質層の間に充填して、硬化させることとなる。
さらに、耐火層としては、金属板、難燃材、難燃処理木材、ケイ酸カルシウム板などを介在させることができる。
耐火層の厚さは乾式では、一般的に市販されている石膏ボードを、1枚、2枚と必要枚数用いるのが簡便である。
湿式では、必要な耐火性能を発揮する任意の厚みに設計することができる。
湿式で耐火層を形成する場合、木質層が水分を吸収して、膨張するリスクがある場合、フィルムや防湿紙などを介在させることができる。
【0014】
<一体化手段>
本発明の木質系耐火壁材は、左右の木質系板材を一体化させる手段を講ずる。
一体化手段は、石膏ボードなどの乾式材を耐火材に使用した場合は、まず、石膏ボードを木質系板材にビスなどで固定して片側の耐火壁材を形成する。さらに、両側の耐火壁材を接着剤で接合する。両側からボルトで貫通させて縫い合わせて固定する。接着剤とボルトを併用するなどの手段がある。両側を直接接触させずに中心に空間を設けて、断熱、遮音性を向上させることもできる。
接着剤は、耐熱性の接着剤が適している。耐熱性接着剤は、火災時にも接着性を維持し、火災側に石膏ボードが剥離して、脱落することが防止され、高い耐火性を維持することができる。
湿式の場合は、木質系板材の内側面にビスの頭を浮かせて打ち込んでスタッドとし、両側の木質系板材から露出したビスの頭を埋め込むように石膏などで充填硬化させると、一体化できる。さらに、貫通ボルトで固定することもできる。
【0015】
本発明の耐火壁材は、工場で製造して、現場で組み付けることができる。木材が主であるので、軽量であり施工作業に優れている。もちろん、現場で木質系板材と耐火材を組み合わせて施工することもできる。
【0016】
<壁構造>
本発明の耐火壁構造は耐火壁材の壁支持部である木質層と柱や梁などの架構部材と接合して、形成する。本発明の耐火壁材を用いることによって、隣室や隣の住戸への延焼防止に優れた壁を構築することができる。火災に対する安全性と隣戸との独立性を確保できるので高品質の木造建物を構築することができる。また、公共施設や学校などの安全性を重視する建物の木造化にも寄与することができる。
また、構造壁、耐震壁、耐力壁など、建物の構造用の壁材にも適用できる。
【0017】
図2-1に木質系の耐火壁の例を示す。柱・梁架構に接合した例を(a)に示し、柱に接合した例を(b)に示す。
(a)は一般的な柱梁架構であって、図示は上下の梁(下側は床のこともある)と左右の柱に接合手段で接合した例を示している。図示は、上部梁52と下部梁51(床スラブ53でも可)と両側の柱54、54とで架構が形成されており、四方の梁柱と耐火壁材100が線状材34で接合されて耐火壁構造200を形成している。この図は柱あるいは梁などの架構から接合できることを説明しており、柱あるいは梁からの接合でも十分である。なお、耐火壁材100は、(b)に示すように耐火材2の両面に木質系板材1a、1bが接合されており、線状材34は、木質系板材1a、1bそれぞれと接合している。
(b)は、耐火壁材100を柱54、54に接合する例を示している。耐火壁材100を構成する両面の木質系板材1a、1bと柱54、54を線状材34、34・・・で接合している。
線状材34は、木質系板材1a、1bの厚さ方向に挿入されており、壁面には表れない。これは、線状材を通して熱が伝わらないようにするためである。接合部に耐火被覆などを施して、更に、耐火処理を施すことができる。
なお、この図では柱や梁に耐火壁材を直接接合しているが、壁材の接合に用いられる通常の治具や介在用具を用いることができる。
【0018】
図2-2に木質系の耐火壁構造の断面例を示す。この例は、H型鋼からなる梁材に図1に開示された耐火壁材100を用いて構築した耐火壁構造200の例である。
耐火壁材100は、下部梁51の上に構築された鉄筋コンクリート製の床スラブ53と上部梁52との間に設置されている。上下の梁を形成するH型鋼の左右のフランジと耐火壁材100を構成する左右の木質系板材1a、1bをビスなどの線状材34で連結している。左右の木質系板材1a、1bが独立してH型鋼からなる梁に独立支持されることになるので、片側が焼失しても、他方の木質系板材が残存し、壁構造として崩壊せずに存続することができる。
また、上部梁52と耐火壁材100の間に隙間を設けて、モルタルなどの無機系充填材71の層を設けている。
この無機系充填材71は、一方の木質系板材が火災で燃え落ちた場合、H型鋼である梁材を熱から守る耐火被覆の機能と無機系充填材71用の隙間は、吸湿して寸法が変化する木質系板材を施工時に組付けし易いようにする調整空間となる。下部梁51は床スラブによって、火災の熱が遮断されている。
梁のフランジと耐火壁材100がビスなどによって結合されることによって、せん断抵抗ができ、耐震性にも寄与する。そして、左右の木質系板材1a、1bが独立してH型鋼からなる梁に独立支持されているので、片側が焼失しても、一方が残存し、火災に強い木製建物を構築することができる。
【0019】
<製造方法>
木質系の耐火壁材の製造は、両側からボルトなどで連結する機械的一体化法、接着剤で張り合わせる一体化法、耐火材を充填する充填一体化法などを採用することができる。
図3に木質系の耐火壁材の製造例を示す。
この製造例は、壁支持部となる木質系板材1a、1bと石膏ボードを用いた耐火材21a、21bとビスである線状材31a、31b、接着剤35、通しボルト、ナットからなる線状材32、塞ぎ材36を用いている。
【0020】
まず、最初に(a)に示すように、木質系板材1aと耐火材21a、線状材31aを準備する。次に(b)として、耐火材21aに線状材31aを打込んで、木質系板材1aに耐火材を張り付けて片方の耐火壁材100aを製造する。同様に、もう一方の耐火壁材100bも製造する。次いで(c)において、左右の耐火壁材100a、100bの耐火材の一方に接着剤35を塗布する。接着剤は、刷毛塗、スプレー、両面テープなどの手段を用いることができる。(d)として、左右の耐火壁材100a、100bを圧着して接着する。さらに、本例では、左右の耐火壁材100a、100bを貫通する貫通孔を設け、ボルトを通して、ナットを嵌めて線状材32を形成して、堅く両者を結合している。貫通孔の開口部には塞ぎ材36で栓をしている。栓は、火災時の熱の伝導を遅らせる効果と化粧効果を奏する。
本例の場合、接着剤35と線状材32を併用しているが、このどちらか一方でも良い。
この製造は、工場で耐火壁材100を製作して、現場で施工することができるので、安定した品質の耐火壁材100を供給できる。
【0021】
図4に木質系の耐火壁材の充填による製造方法を示す。
この方法は、左右の木質系板材1a、1bを耐火材の厚み分の間隔を置いて対向配置し、その間隔に未硬化で流動性の耐火材を流し込んで、固めるものである。耐火材と木質系板材の結合力を高めるために、スタッドのような繋ぎ材を用いることができる。図4に示す方法ではこの繋ぎ材を使用した例を示している。
まず、(a)に示すように、木質系板材1aに繋ぎ材37aを頭が浮くように打込む。繋ぎ材の頭の高さは、耐火材の厚さの半分以上とするのが、結合力を高めるためには適当である。繋ぎ材は、T形、V形、U形などの形状である。例えば、T形としては、ビスを用いることができ、図示のように、繋ぎ材37aの頭を耐火材の厚さの中間になるように取り付ける。
次に(b)として、繋ぎ材37aを取り付けた木質系板材1aと繋ぎ材37bを取り付けた木質系板材1bを、対向配置して、隙間に流動性の耐火材を流し込む。対向配置する間隔は、耐火材の厚み分である。対向配置した状態に姿勢を保つために、両面側にサポート材やコ字状の固定治具、スペーサなどを用いることができる。工場生産用に専用の装置を設けることもできる。スペーサとして耐火材の厚み分飛び出させた繋ぎ材をスペーサ分設けることができる。
(c)として、硬化した充填耐火材22の層ができて耐火壁材101が完成する。
【0022】
木質壁支持部である木質系板材は、繊維飽和点以下に乾燥された状態で使用される。木材の寸法変化は含水率に影響され、変化して、寸法が狂ったり変形することがある。木材は乾燥を維持し、含水率を変化させないようにすることが重要である。
この耐火材充填法では、木質系板材と充填耐火材との間に、遮水層を設けると、木材が吸湿して、寸法が変化することを抑制することができる。
遮水層は、耐火被覆層から木質壁支持部に浸透しないように設けられる。遮水層は、塗料、フィルム、金属薄材(金属箔)などを用いて形成することができる。遮水塗膜としては、油性や水性の木材用防水塗料や水ガラスなどがあり、造膜タイプや非親水性や疎水性の組成が適している。例えば、キシラデコールコンゾラン(商品名)等がある。フィルム材としては、水分遮断シートであるエア・ドライ(登録商標)等、または、防水紙をあげることができる。
【0023】
図5に木質系の耐火壁の種類を例示する。
乾式の耐火板を張り合わせたタイプの木質系の耐火壁材100を(a)に示す。これは、図3に示すように、石膏ボードなどの耐火材2a、2bと木質系板材1a、1bを一体化した耐火壁材100である。必要であれば、左右の耐火材2a、2bを接着剤で接着する。この接着は、左右の耐火材2a、2bが火災時にも離れないように耐熱性の接着剤を使用する。全面接着の外、部分接着でも可能である。あるいは、通しボルト、ナットからなる線状材32で一体化することもできる。左右の耐火壁材100a、100bの一体化は接着、ボルトなどを併用又はいずれかを使用することができる。普及している石膏ボードと標準のCLTなどを張り合わせて、必要な耐火性と強度を実現することができるので、製作も容易である。
また、左右の耐火壁材100a、100bに空間を設けることもでき、空間によって、断熱、遮音、減振などの機能を高めることができる。
【0024】
流動性の石膏やモルタルなどを充填して硬化させて形成する耐火材充填タイプの木質系の耐火壁材101を(b)に示す。これは、図4に示すように、両側の木質系板材1a、1bの間に石膏やモルタルなどを充填して硬化させて形成した充填耐火材22を有する耐火壁材101である。この耐火壁材101は、耐火層が充填して形成されている強固に一体化されている。この耐火壁材101では、曲面形状など任意の形状に設計することができる。また、必要な強度と必要な耐火性を満足する厚さに耐火材層を設定することができるので、必要最小限の厚さの壁材を実現することができる。
【0025】
両側の木質系板材1a、1bと耐火材2を連結ビス33で一体化したビス止めタイプの耐火壁材102を(c)に示す。この耐火壁材102は、木質系板材1aと耐火材2と木質系板材1bを重ねて、片方から連結ビス33を打込んで一体化できるので、製作工程が少なくて済む。耐火材2は石膏ボード1枚あるいは数枚にするなど、任意の耐火板を使用することができる。ビスが貫通しない一方の面はきれいに仕上がる。図示の例では、金属板23を木質系板材1a、1bと耐火材2の間に挟んでいるが、金属板によって、耐火材の脱落が防止されることで、耐火材による耐火性能が向上する。被災側に耐火材を残させることによって、全体として耐火材を薄くすることができることと、ビスの固定度が向上する。
【0026】
<火災時の想定モデル>
図6に火災時の状況を示す。
図6に示す壁構造は図2に示した耐火壁構造200をモデルとしている。
上階床スラブ53-2と当階の床スラブ53の間に耐火壁構造200が設けられている。壁構造は前述のとおりであるので、説明を割愛する。前述してない事項として、上部梁52には耐火被覆73が設けられている。なお、下部梁51の耐火被覆は、当階の壁構造には関係しないので表示を省略してある。
【0027】
火災時を(a)、火災後を(b)に想定している。耐火壁材100a側の部屋を出火側201とし、耐火壁材100b側の部屋を隣室側202とする。
火災によって耐火壁材100aは焼失したとしても、耐火材2によって耐火壁材100bは残存する。耐火壁材100bも、単独で荷重を支持できる。また、上部梁52のフランジの下にはモルタルが残存するので、上部梁が被災せず、耐火壁材100bに延焼することもない。したがって、耐火壁構造200は火災後も耐力壁の機能を維持できる。
【符号の説明】
【0028】
1、1a、1b 木質系板材
2、2a、2b 耐火材
21a、21b 耐火材
22 充填耐火材
23 金属板
31、32、34 線状材
33 連結ビス
35 接着剤
36 塞ぎ材
37a、37b 繋ぎ材
51 下部梁
52 上部梁
53 床スラブ
53-2 上階床スラブ
54 柱
6 H型鋼
61 フランジ
71 無機系充填材
73 耐火被覆

100、101、102 耐火壁材
200 耐火壁構造
201 出火側
202 隣室側
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7