IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公益財団法人鉄道総合技術研究所の特許一覧

<>
  • 特開-レール発生応力の算出方法 図1
  • 特開-レール発生応力の算出方法 図2
  • 特開-レール発生応力の算出方法 図3
  • 特開-レール発生応力の算出方法 図4
  • 特開-レール発生応力の算出方法 図5
  • 特開-レール発生応力の算出方法 図6
  • 特開-レール発生応力の算出方法 図7
  • 特開-レール発生応力の算出方法 図8
  • 特開-レール発生応力の算出方法 図9
  • 特開-レール発生応力の算出方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181644
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】レール発生応力の算出方法
(51)【国際特許分類】
   E01B 35/12 20060101AFI20231218BHJP
   E01B 37/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
E01B35/12
E01B37/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094895
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相澤 宏行
(72)【発明者】
【氏名】細田 充
【テーマコード(参考)】
2D057
【Fターム(参考)】
2D057AB00
2D057CA08
2D057CB00
(57)【要約】
【課題】軌道検測データなどから得られる浮きまくらぎの浮き量とレールの頭頂面の凹凸量とを入力することで、任意の位置のレール発生応力を精度よく算定することができるレール発生応力の算出方法を提供する。
【解決手段】レールに発生する応力を算定するレール発生応力の算出方法である。
そして、レールが敷設された軌道の数値解析モデルに、レールの頭頂面に生じる凹凸の凹凸波長を設定するステップS2と、数値解析モデルを使って、凹凸量毎に、浮きまくらぎの浮き連続数を複数設定して解析を行うステップS3と、解析結果の中から、レール発生応力が最大となる浮き連続数の応力値と浮きまくらぎの浮き量との関係を、凹凸量毎に求めるステップと、複数の凹凸量の応力値と浮き量との関係に基づいて、浮き量及び凹凸量からレール発生応力を導く応力推定手段を求めるステップS5とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールに発生する応力を算定するレール発生応力の算出方法であって、
前記レールが敷設された軌道の数値解析モデルに、前記レールの頭頂面に生じる凹凸の凹凸波長を設定するステップと、
前記数値解析モデルを使って、前記レールの頭頂面の凹凸量毎に、浮きまくらぎの浮き連続数を複数設定して解析を行うステップと、
前記解析を行った結果の中から、前記レール発生応力が最大となる前記浮き連続数の応力値と前記浮きまくらぎの浮き量との関係を、前記凹凸量毎に求めるステップと、
複数の前記凹凸量の前記応力値と前記浮き量との関係に基づいて、前記浮き量及び前記凹凸量から前記レール発生応力を導く応力推定手段を求めるステップと、
前記応力推定手段に、検査対象区間のレールから測定された浮きまくらぎの浮き量とレールの頭頂面の凹凸量とを入力することで、レール発生応力を算定するステップとを備えたことを特徴とするレール発生応力の算出方法。
【請求項2】
前記応力推定手段は、前記浮き量及び前記凹凸量と前記レール発生応力との関係式、又は前記浮き量及び前記凹凸量から前記レール発生応力を導く数表であることを特徴とする請求項1に記載のレール発生応力の算出方法。
【請求項3】
前記解析は、前記検査対象区間の軌道の条件及び走行する車両の条件を設定して行われることを特徴とする請求項1又は2に記載のレール発生応力の算出方法。
【請求項4】
前記レール発生応力は、前記レールの底部に発生するレール底部発生応力であることを特徴とする請求項1又は2に記載のレール発生応力の算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レールに発生する応力を算定するレール発生応力の算出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
腐食に伴うレールの損傷は、従来からレール損傷の発生数の大きな部分を占めている。損傷要因として、レール底部領域の腐食によるレール疲労強度の低下が主な要因として考えられ、これまでレール底部の腐食量に着目した研究や検査が行われてきた(非特許文献1参照)。そのための超音波探傷車や超音波探傷装置等が広く用いられている。
【0003】
一方で、軽微なレール底部の腐食であっても、レール損傷が発生することが報告されている(非特許文献2など参照)。その要因として、トンネルの漏水箇所では、繰り返し列車走行でレール頭頂面が局所的に摩耗し、かつ、浮きまくらぎ状態(まくらぎの底面と道床面との間に隙間が生じた状態)の発生にもつながり、総じてレール曲げ応力が増大する。これまで、そのような箇所を抽出できないために、レール損傷を発生させてしまうことがあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】細田外3名、「腐食・電食環境下におけるレールの余寿命評価」、鉄道総研報告、公益財団法人鉄道総合技術研究所、第27巻 第04号、pp.5-11、2013.4
【非特許文献2】太山外1名、「トンネル内レール折損事象と腐食レールの管理強化」、日本鉄道施設協会誌、Vol.59 No.5、pp.345-348、2021.5.1
【非特許文献3】田中外3名、「偏心矢法を用いたレール凹凸連続測定装置の開発とレール波状摩耗測定への適用」、日本機械学会論文集、2019年 85巻 880号、p.19-00235、2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レール曲げ応力というレール発生応力を得るために、連続的な営業線の任意の位置において、その都度、現地試験を行うことは負担が大きい。他方において、軌道検測データを分析することにより、任意のキロ程におけるレール頭頂面の凹凸やまくらぎ支持状態を把握する手法が提案されている(非特許文献3参照)。
【0006】
そこで、本発明は、軌道検測データなどから得られる浮きまくらぎの浮き量とレールの頭頂面の凹凸量とを入力することで、任意の位置のレール発生応力を精度よく算定することができるレール発生応力の算出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明のレール発生応力の算出方法は、レールに発生する応力を算定するレール発生応力の算出方法であって、前記レールが敷設された軌道の数値解析モデルに、前記レールの頭頂面に生じる凹凸の凹凸波長を設定するステップと、前記数値解析モデルを使って、前記レールの頭頂面の凹凸量毎に、浮きまくらぎの浮き連続数を複数設定して解析を行うステップと、前記解析を行った結果の中から、前記レール発生応力が最大となる前記浮き連続数の応力値と前記浮きまくらぎの浮き量との関係を、前記凹凸量毎に求めるステップと、複数の前記凹凸量の前記応力値と前記浮き量との関係に基づいて、前記浮き量及び前記凹凸量から前記レール発生応力を導く応力推定手段を求めるステップと、前記応力推定手段に、検査対象区間のレールから測定された浮きまくらぎの浮き量とレールの頭頂面の凹凸量とを入力することで、レール発生応力を算定するステップとを備えたことを特徴とする。
【0008】
ここで、前記応力推定手段は、前記浮き量及び前記凹凸量と前記レール発生応力との関係式、又は前記浮き量及び前記凹凸量から前記レール発生応力を導く数表であることが好ましい。
【0009】
また、前記解析は、前記検査対象区間の軌道の条件及び走行する車両の条件を設定して行われることが好ましい。そして、前記レール発生応力は、前記レールの底部に発生するレール底部発生応力とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
このように構成された本発明のレール発生応力の算出方法では、軌道の数値解析モデルにレールの頭頂面に生じる凹凸の凹凸波長を設定し、レールの頭頂面の凹凸量毎に、浮きまくらぎの浮き連続数を複数設定して解析を行う。さらに、解析を行った結果に基づいて、浮き量及び凹凸量からレール発生応力を導く応力推定手段を求める。
【0011】
このため、検査対象区間の軌道検測データなどから得られる浮きまくらぎの浮き量とレールの頭頂面の凹凸量を、応力推定手段に入力することで、任意の位置のレール発生応力を精度よく算定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施の形態のレール発生応力の算出方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
図2】浮きまくらぎを設定したシミュレーションの数値解析モデルの説明図である。
図3】実測値である浮き量及び凹凸量を例示した図である。
図4】数値解析と現地試験の応力時刻歴波形を比較するための図であって、(a)は数値解析結果を例示した図、(b)は現地試験の測定結果を例示した図である。
図5】数値解析結果の現地試験結果に対する相対誤差をまとめた図であって、(a)は車両の走行方向がA方向の場合の図、(b)は車両の走行方向がB方向の場合の図である。
図6】横軸を凹凸振幅とし、縦軸をレール底部発生応力としたグラフに、レール頭頂面の凹凸を正弦波で近似した近似値及び現地測定等で測定された凹凸量を、レール底部発生応力との関係でプロットした図である。
図7】浮きまくらぎ状態における軌道の変形を説明する図であって、(a)はレール底部発生応力が最大にならない場合の模式図、(b)はレール底部発生応力が最大になる場合の模式図である。
図8】ある凹凸量のときの浮き量と浮き連続数に応じて発生するレール底部発生応力を例示した説明図である。
図9】レール頭頂面の凹凸量と浮き量とレール底部発生応力との関係を例示した説明図である。
図10】レール底部発生応力を算出するための数表を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態のレール発生応力の算出方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
【0014】
レールは、腐食に伴って損傷することが知られている。レール損傷の発生数において、損傷が原因となっているものは多数ある。損傷要因としては、上述したように、レール底部領域の腐食によるレールの疲労強度の低下が考えられている。
【0015】
また、軽微なレール底部の腐食であっても、レール損傷が発生することも知られている。その要因として、トンネルの漏水箇所などで、繰り返し列車走行によってレール頭頂面が局所的に摩耗して、浮きまくらぎ状態が発生することが挙げられている。また、レール溶接部においては、溶接金属の硬さや盛り上がりによってレール凹凸が生じ、浮きまくらぎ状態が発生することも想定できる。そこで、そのような箇所を早期に抽出して、レール損傷を防いだり、損傷箇所に対して早期に処置を行えるようになることが望ましい。
【0016】
本実施の形態のレール発生応力の算出方法は、鉄道の営業線などの任意のレール位置(キロ程)におけるレールに発生する応力の算定を可能にする。任意のレール位置のレール発生応力が精度よく得られれば、レールの劣化につながる支配的な要因の解明にもつなげることができる。
【0017】
列車通過時のレールの底部に発生する曲げ応力は、レールの頭頂面の凹凸量、浮きまくらぎの状態、輪重などの車両の条件などから推定することができる。ここで、「輪重」とは、列車の重量から主に決まる、車輪からレールに作用する鉛直荷重をいう。本実施の形態では、軌道検測車で測定された軌道検測データや、頭頂面の凹凸及び浮きまくらぎが無い箇所の現地測定で得られた輪重や、静止輪重などを、車両の条件となる輪重として使用する。輪重は、車両の諸元から設定することもできる。
【0018】
レールの頭頂面に存在する凹凸の深さは、凹凸量(頭頂面凹凸量)とする。また、まくらぎ底面と道床面との間に隙間が生じた状態を「浮きまくらぎ」と呼び、その隙間の量を浮き量(浮きまくらぎ量)とする。
【0019】
近年は、軌道検測技術等が高度化したことによって、凹凸量や浮き量を、各レール位置におけるパラメータとすることができる。レールの凹凸量に関しては、軌道検測から得られる軸箱加速度から推定する手法(例えば、「軸箱加速度を用いたレール頭頂面凹凸評価手法に関する検討」(進外2名、土木学会年次学術講演会、Vol.55、VI-269、1999)など)や、非特許文献3で示した連続的に測定する手法などがある。
【0020】
また、浮きまくらぎを推定するための技術は、特開2020-16094号公報や「軌道変位データに基づく浮きまくらぎ検出手法」(楠田外2名、土木学会論文集、Vol.59、No.66、pp.33-35、2012)などに開示がある。
【0021】
続いて、図2を参照しながら、浮きまくらぎを設定した輪重変動シミュレーションについて説明する。浮きまくらぎを設定した輪重変動シミュレーションとは、図2に示すように、浮きまくらぎを設定した車両走行の数値解析モデルによる数値解析である。
【0022】
この数値解析モデルでは、鉄道の軌道及び車両の各部材を質点とばねで表現し、車両が走行したときの動的な運動を計算することができる。レールには凹凸量(頭頂面凹凸量)を模擬した変位を、まくらぎ下のばねには、浮き量を模擬したばね特性を入力することができる。
【0023】
そこで図3に、軌道の現地測定が行われた箇所の実測値となる浮き量及び凹凸量を示す。この図には、現地測定での測点の番号と、車両の走行方向(A方向、B方向)を示している。この実測値の中では、測点(4)において、浮き量及び凹凸量が最大となっている。
【0024】
そこで、これらの実測値を数値解析モデルに入力し、現地の軌道及び車両の条件をパラメータとして、レールの底部に発生する応力を、レール発生応力(レール底部発生応力)をとして算出した。
【0025】
図4は、数値解析と現地試験の応力時刻歴波形を比較するための図であって、図4(a)は数値解析結果を示し、図4(b)は現地試験の測定結果を示している。ここで、応力時刻歴波形は、軌道の状態が同じであっても、走行する車両の条件(走行方向、走行速度、輪重など)が変わると、異なる結果を示すことになる。
【0026】
現地試験及び数値解析は、ある軌道に対して、車両の条件を変えた複数の試番で行われ、図4はその一例を示している。この図に示した試番では、いずれの測点においても、現地試験結果と数値解析結果とが、よく一致していることがわかる。また、他の試番においても、同様の結果が示された。
【0027】
そこで、図5に、数値解析結果の現地試験結果に対する相対誤差をまとめて示した。図5(a)は車両の走行方向がA方向の場合を示し、図5(b)は車両の走行方向がB方向の場合を示している。
【0028】
この図5は、測点(4)におけるピーク応力の現地試験結果に対する数値解析結果の相対誤差を示している。数値解析モデルの計算結果は、A方向の試番5(図5(a))を除いて相対誤差が20%以内となっている。このため、上述した数値解析モデルは、浮きまくらぎ及びレール凹凸がある軌道のレール発生応力を、精度良く計算できていると考えられる。そこで、以下では、本数値解析モデルを、レール底部発生応力のシミュレーションに使用する。
【0029】
レール底部発生応力のシミュレーションを行うに際しては、上述したように、数値解析モデルのレールの頭頂面に、凹凸量を設定する必要がある。レール凹凸には、様々な分布が存在すると考えられるが、その中でレール底部発生応力に寄与するレール凹凸の特徴について検討する。
【0030】
ここでは例として、トンネル漏水箇所におけるレール凹凸を対象とする。浮き量が0の条件で、正弦波状のレール頭頂面の落ち込みを、その波長を様々に変えて設定して、レール底部発生応力を計算した結果を、図6に示す。
【0031】
詳細には図6は、横軸を凹凸振幅とし、縦軸をレール底部発生応力としたグラフに、レール頭頂面の凹凸量を複数の波長の正弦波によって近似した値(波長0.256m(凡例:〇),波長0.512m(凡例:□),波長0.768m(凡例:△))と、現地測定箇所(凡例:×)及び破断現場(破断例1,破断例2)で測定された凹凸量とを、レール底部発生応力との関係でプロットした図である。
【0032】
レール凹凸の波長は、小さい方(波長0.256m(凡例:〇))がレール底部発生応力が大きくなることは知られており、図6においてもこの傾向は確認できる。一方において、現地測定箇所及び破断現場において得られたレールの凹凸量を数値解析モデルに入力した場合では、算出されたレール底部発生応力は、ほぼ波長0.512m(凡例:□)の正弦波状のレール凹凸を入力した場合の計算結果上にプロットされた。
【0033】
したがって、数値解析モデルのレール凹凸は、トンネル漏水箇所では波長0.5mの正弦波で設定することで、レール底部発生応力に関係するレールの凹凸量を考慮することができるようになると言える。
【0034】
なお、この例ではトンネル漏水箇所におけるレール凹凸を対象としたが、例えばレール溶接部においては、溶接金属の硬さや盛り上がりによってレール凹凸の波長が異なることが予想される。したがって、レール溶接部等その他のレール凹凸についても、現場のレール凹凸と正弦波状のレール凹凸を入力した解析結果とを比較することにより、本計算手法を適用するためのレール凹凸の波長を設定することになる。
【0035】
続いて、レール底部発生応力に寄与する浮きまくらぎの特徴について説明する。浮きまくらぎは、その浮き量と浮きまくらぎの連続数(浮き連続数)がレール底部発生応力に関係する。浮きまくらぎに伴うレール底部発生応力は、浮き部において車両の通過時に軌道が変形して、レールに曲率が発生することで生じる。
【0036】
レールに発生する曲率が最大になる条件は、梁となるレールが支持まくらぎ間で単純支持され、かつ車両走行時にまくらぎ下面がバラスト上面と接触しない状態のときである。すなわち、浮き量が大きくても浮き連続数が大きい場合は、まくらぎ下面がバラスト上面と接触して応力が大きくならないケースなどが想定できる。図7は、浮きまくらぎ状態における軌道の変形を説明する図であって、図7(a)はレール底部発生応力が最大にならない場合の模式図、図7(b)はレール底部発生応力が最大になる場合の模式図である。
【0037】
要するに、レールに発生する曲率が最大になる条件を満たす浮き量と浮き連続数との関係は、輪重(車両からレールに負荷される力)や凹凸量との重畳、走行条件(走行方向、走行速度)などによって変化する。そのため、浮きまくらぎについては、浮き量と浮きまくらぎの連続数の2つをパラメータとすることにする。
【0038】
続いて、浮きまくらぎの状態(浮き量、浮き連続数)と凹凸量とを変数としたパラメトリックスタディについての説明を行う。上述したように、レール凹凸についてはその凹凸量を、浮きまくらぎについては浮き量及び浮き連続数を変数として、数値解析モデルにこれらのレール凹凸及び浮きまくらぎの設定をして、パラメトリックスタディを行った。
【0039】
レール凹凸の波長は、前述の通りトンネル漏水箇所においては0.5mである。図8は、ある凹凸量のときの浮き量と浮き連続数に応じて、発生するレール底部発生応力を説明する関係図である。図8では、凹凸量が4mmの場合を例示した。
【0040】
この図8から分かる通り、ある凹凸量(この図では4mm)と浮き量に対して、レール底部発生応力が最大となる浮き連続数は異なっている。例えば、凹凸量が4mmで浮き量が11mmの場合に、レール底部発生応力が最大となる浮き連続数は5本である(△の凡例の矢印を付したプロットを参照)。
【0041】
ここで、最終的にレール底部発生応力を算出するに際して、浮き量と凹凸量の2変数を入力値にすることを想定する。ところが上述したように、浮きまくらぎについては、浮き量と浮き連続数とが変数になっている。そこで、パラメトリックスタディの結果のうち、ある凹凸量及び浮き量について、レール底部発生応力が最大となる浮き連続数の応力値を、レール底部発生応力の代表値として採用する。
【0042】
様々な凹凸量の浮き量について、レール底部発生応力が最大となる浮き連続数の応力値を抽出した結果を、図9に示す。例えば、図9内の矢印を付したプロット(×印)は、図8内の矢印を付した凹凸量4mmにおいて浮き連続数が5本で浮き量が11mmのプロット(△印)の応力値と同一の値である。要するに図9には、浮き連続数は現れない。
【0043】
この図9に示すように整理された、複数の凹凸量(この図では、凹凸量が1mmから5mmの5ケース)の浮き量とレール底部発生応力との関係から、レール底部発生応力σmを推定するための関係式を求める。
【0044】
要するに、図9に示したデータを使って、浮き量dと凹凸量zとを変数にした重回帰分析を行って、次式の関係式を求める。
σm=az + bd + c
ここで、係数aは16.4、係数bは6.5、係数cは31.4となった。この重回帰式の重相関係数はR2=0.844で、t値及びp値についても、有意性を示す結果が得られた。
【0045】
一方、図10は、レール底部発生応力を算出するための数表を例示した説明図である。レール底部発生応力σmを算定するには、上記関係式に浮き量dと凹凸量zとを入力して計算により求めることもできるが、図10に示すような数表を、予め作成しておくこともできる。
【0046】
要するに、検査対象区間のレールの検測によって浮きまくらぎの浮き量と凹凸量とが得られたときに、図10の数表の行列にそれらの測定値を当てはめて、交差する欄に記載された応力値を読み取るだけで、簡単にレール底部発生応力を算定することができる。
【0047】
次に、本実施の形態のレール発生応力の算出方法について、図1に示したフローチャートを参照しながら順に説明する。
まずステップS1では、図2を使って説明したような数値解析モデルを作成する。
【0048】
数値解析モデルには、ステップS2において、レールの頭頂面に生じる凹凸の凹凸波長を設定することになる。この凹凸波長の設定については、図6を参照しながら上述したように、検査対象区間の軌道から得られた測定値を使った解析を行ってから設定することができる。
【0049】
また、トンネルの漏水箇所やレール溶接部など、検査対象区間の状況が明らかな場合は、状況が類似する他区間で設定した凹凸波長を、そのまま利用することができる。例えば、検査対象区間がトンネル漏水箇所であれば、レール凹凸の凹凸波長を0.5mに設定することができる。
【0050】
ステップS2では、考慮する必要がある凹凸の振幅(凹凸量)の範囲についても設定する。一方、ステップS3では、浮きまくらぎの状態を示す浮き量及び浮きまくらぎの連続数(浮き連続数)について、検査対象区間で考慮すべき範囲を設定する。
【0051】
さらに、ステップS4では、軌道の条件及び車両の条件の設定を行う。軌道の条件には、敷設からの経過年数、レールのサイズ、曲線区間の情報などが該当する。また、車両の条件は、検査対象区間の軌道を走行する列車の車両に関する情報で、列車の重量や輪重などが該当する。
【0052】
そして、設定された凹凸の振幅(凹凸量)の範囲内で、数値解析モデルを使って数値解析を行う。この際、浮きまくらぎについては、浮き量と浮き連続数を、ステップS3で設定した範囲の任意の値にする。
【0053】
ステップS5では、数値解析結果から、浮き量及び凹凸量に対して、上記したような重回帰分析の関係式、図10に示したような数表又は両方を、応力推定手段として作成する。一方、検査対象区間においては、軌道検測車を走行させたり、作業員などが測定したりするなどして、レール位置に紐付けられた浮き量及び凹凸量を取得する。軌道検測車を走行させる際に、輪重を測定することもできる。
【0054】
また、一定速度で軌道検測車を走行させ、測定時刻を測定値に紐付けておくことで、レール位置を示す位置情報に変換することができる。その他にも、GPS(Global Positioning System)に基づく位置情報を、測定値に紐付けることもできる。
【0055】
検査対象区間のレール位置に紐付けられた浮き量及び凹凸量が取得されると、そのレール位置に発生するレール底部発生応力を、上記した関係式又は数表によって算定することができる。
【0056】
このレール底部発生応力の算定は、測定値が得られた軌道の全線にわたって行うこともできるが、演算負荷を軽減するために、凹凸量や浮き量などの各パラメータのいずれか又は両方が閾値を超えたキロ程についてだけ実施することもできる。
【0057】
次に、本実施の形態のレール発生応力の算出方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態のレール発生応力の算出方法では、軌道の数値解析モデルにレールの頭頂面に生じる凹凸の凹凸波長を設定し、レールの頭頂面の凹凸量毎に、浮きまくらぎの浮き連続数を複数設定して解析を行う。
【0058】
さらに、解析を行った結果に基づいて、浮き量及び凹凸量からレール底部発生応力などのレール発生応力を算定することができる上記関係式や数表(図10参照)を、応力推定手段として求める。
【0059】
このため、検査対象区間の軌道検測データなどから得られる浮きまくらぎの浮き量とレールの頭頂面の凹凸量を、関係式や数表などに入力することで、任意の位置のレール発生応力を精度よく算定することができるようになる。
【0060】
すなわち、連続的な営業線の任意の位置において、その都度、現地試験を行うというコストや時間のかかる負担をなくして、レールの劣化につながる支配的な要因の解明に寄与するレール発生応力を、容易に取得することができるようになる。
【0061】
また、レール位置に関連付けられたレール発生応力が算定できれば、レール損傷が発生する可能性があるレール位置を早期に抽出して、レール損傷を防いだり、損傷箇所に対して早期に処置を行えたりするようになる。
【0062】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0063】
例えば前記実施の形態では、レール底部発生応力をレール発生応力として説明したが、これに限定されるものではなく、レールの状態を示す応力であれば、レールの別の部位に発生する応力であってもよい。
【0064】
また、前記実施の形態では、検査対象区間において改めて関係式又は数表を作成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、作成済みの関係式又は数表が適用できるのであれば、検査対象区間において関係式や数表を作成する手間を省略することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10